特許第5792215号(P5792215)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5792215
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】ホットワイヤ式処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20150917BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20150917BHJP
   C23C 16/44 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   H01L21/205
   H01L21/31 B
   C23C16/44 A
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-47127(P2013-47127)
(22)【出願日】2013年3月8日
(65)【公開番号】特開2014-175489(P2014-175489A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2015年3月5日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】熊野 勝文
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀治
(72)【発明者】
【氏名】江刺 正喜
【審査官】 正山 旭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−150498(JP,A)
【文献】 特開2005−179743(JP,A)
【文献】 特開平09−183697(JP,A)
【文献】 特表2012−529165(JP,A)
【文献】 特開2004−149857(JP,A)
【文献】 特開2003−297818(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
C23C 16/44
H01L 21/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に処理対象が載置される載置台が設けられ、真空状態に維持されるメインチャンバと、
内部空間が円柱形状を形成する円筒構造であり、該内部空間の一端から流入した反応ガスを接触させて少なくとも活性種を生成するホットワイヤが該内部空間に設けられ、前記円筒構造の内径と前記メインチャンバの開口径とを同一にして該内部空間の他端が前記メインチャンバの内部空間に直結し、前記活性種を粘性流として前記メインチャンバ側に一方向的かつ直線的に輸送するサブチャンバと、
前記サブチャンバの一端から前記反応ガスを流入する反応ガス供給部と、
を備えたことを特徴とするホットワイヤ式処理装置。
【請求項2】
前記ホットワイヤは、前記サブチャンバの内部空間の円柱軸方向を軸とするスパイラル構造であることを特徴とする請求項1に記載のホットワイヤ式処理装置。
【請求項3】
前記サブチャンバは、側壁を冷却する冷却部を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載のホットワイヤ式処理装置。
【請求項4】
前記サブチャンバの内壁は、非金属材料で形成されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のホットワイヤ式処理装置。
【請求項5】
前記メインチャンバ及び前記サブチャンバの圧力は、10〜3000Paに維持されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のホットワイヤ式処理装置。
【請求項6】
前記ホットワイヤと前記処理対象との距離は、100〜500mmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載のホットワイヤ式処理装置。
【請求項7】
前記メインチャンバ内に原料ガスを供給する原料ガス供給部をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載のホットワイヤ式処理装置。
【請求項8】
前記反応ガスは、水素であり、前記活性種は、原子状水素であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載のホットワイヤ式処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ホットワイヤで生成した活性種の失活を抑え、かつ、ホットワイヤからの輻射熱による基板などの処理対象の温度上昇を抑え、ホットワイヤによって生成される活性種を用いた均一な成膜処理や、還元、エッチングなどの表面処理を高効率かつ精度よく行うことができるホットワイヤ式処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種半導体デバイスや液晶ディスプレイなどを製造する際の成膜法としては、例えば化学気相成長法(CVD法)が広く知られている。このCVD法としては、熱CVD法、プラズマCVD法などが知られている。また、近年、通電加熱したタングステンなどの素線(ホットワイヤ)を触媒体として、この触媒体の触媒作用により反応室内に供給される原料ガスを分解することによって基板上に薄膜を堆積させるホットワイヤCVD法(触媒CVD法、Cat−CVD法とも呼ばれる)が実用化されている。
【0003】
このホットワイヤCVD法は、熱CVD法に比べて低温で成膜することができる。また、ホットワイヤCVD法は、プラズマCVD法に比べて、プラズマの発生による基板へのダメージが少ないという利点がある。一方、ホットワイヤによって生成された原子状水素などの活性種は、反応性が高いため、シリコン化合物の成膜、金属酸化膜の還元、フォトレジストの除去などにも利用することができる。
【0004】
ここで、特許文献1には、成膜室と、加熱触媒体を有して活性化した窒素ラジカルを生成する容器とがバルブを介して接続されたものが記載されている。この特許文献1では、原料ガス供給部から供給される原料ガスと、反応ガス供給部から窒素ガスが容器内に供給され容器内で活性化した窒素ラジカルとを成膜室に交互に供給して、基板上に窒化層を堆積して薄膜を形成するものが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、通電により発熱する触媒体(ホットワイヤ)の作用を利用して原料ガスを分解することによって基板上に薄膜を堆積させる触媒体化学気相成長装置が記載されている。この装置は、処理室内の基板とシャワープレートとが対向する空間を筒状周壁で囲繞し、この筒状周壁の内側である成膜領域内の圧力がその他の領域よりも高くする真空排気を行うようにしている。これによって、成膜領域外の圧力が低圧となって温度上昇が抑えられ、吸着ガス分子による放出ガスの発生が減少し、この放出ガスの成膜領域への混入が抑えられるため、所望膜質の成膜を行うことができる。また、成膜領域外での原料ガス、堆積種、反応種の量が少なくなり、この領域でのこれらの付着量が少なくなり、これによるパーティクル発生を抑制するとともに、このパーティクルの成膜領域への侵入を抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−198885号公報
【特許文献2】特開2007−284717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、活性化した窒素ラジカルを生成する容器を備える特許文献1のものでは、生成された窒素ラジカルが容器からバルブを介して成膜室に輸送されるまでに失活する確率が大きく、成膜室に流入する窒素ラジカル密度が低下してしまう。そもそも、窒素ラジカルなどの活性種は溜めておくことが困難である。しかも、特許文献1では、さらにバルブが介在するため、生成された窒素ラジカルはこのバルブで失活する確率が高くなり、高い密度の窒素ラジカルが保存された状態で成膜室に到達させることは困難である。また特許文献1では、成膜室から離隔した容器を設けることになるため、装置全体の小型化を阻害する。
【0008】
また、特許文献2のものは、ホットワイヤと基板との距離が近いため、ホットワイヤから基板への輻射熱を回避することができず、基板温度が上昇して精度の高い成膜ができず、また基板温度制御が困難になるという問題がある。特に、MEMSデバイスなどでは片持ち梁構造を有しており、この片持ち梁構造では熱の逃げ場が狭く、片持ち梁構造部分が他の部分に比べて勢い高温になってしまう。この結果、均一な成膜や均一なエッチングなどの表面処理が困難になる。
【0009】
この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、ホットワイヤで生成した活性種の失活を抑え、かつ、ホットワイヤからの輻射熱による基板などの処理対象の温度上昇を抑え、ホットワイヤによって生成される活性種を用いた均一な成膜処理や、還元、エッチングなどの表面処理を高効率かつ精度よく行うことができるホットワイヤ式処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この発明にかかるホットワイヤ式処理装置は、内部に処理対象が載置される載置台が設けられ、真空状態に維持されるメインチャンバと、内部空間が円柱形状をなし、該内部空間の一端から流入した反応ガスを接触させて少なくとも活性種を生成するホットワイヤが該内部空間に設けられ、該内部空間の他端が前記メインチャンバの内部空間に直結し、前記活性種を粘性流として前記メインチャンバ側に一方向的かつ直線的に輸送するサブチャンバと、前記サブチャンバの一端から前記反応ガスを流入する反応ガス供給部と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、この発明にかかるホットワイヤ式処理装置は、上記の発明において、前記ホットワイヤは、前記サブチャンバの内部空間の円柱軸方向を軸とするスパイラル構造であることを特徴とする。
【0012】
また、この発明にかかるホットワイヤ式処理装置は、上記の発明において、前記サブチャンバは、側壁を冷却する冷却部を備えたことを特徴とする。
【0013】
また、この発明にかかるホットワイヤ式処理装置は、上記の発明において、前記サブチャンバの内壁は、非金属材料で形成されたことを特徴とする。
【0014】
また、この発明にかかるホットワイヤ式処理装置は、上記の発明において、前記メインチャンバ及び前記サブチャンバの圧力は、10〜3000Paに維持されることを特徴とする。
【0015】
また、この発明にかかるホットワイヤ式処理装置は、上記の発明において、前記ホットワイヤと前記処理対象との距離は、100〜500mmであることを特徴とする。
【0016】
また、この発明にかかるホットワイヤ式処理装置は、上記の発明において、前記メインチャンバ内に原料ガスを供給する原料ガス供給部をさらに備えたことを特徴とする。
【0017】
また、この発明にかかるホットワイヤ式処理装置は、上記の発明において、前記反応ガスは、水素であり、前記活性種は、原子状水素であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、サブチャンバは、内部空間が円柱形状をなし、該内部空間の一端から流入した反応ガスを接触させて少なくとも活性種を生成するホットワイヤが該内部空間に設けられ、該内部空間の他端が前記メインチャンバの内部空間に直結し、前記活性種を粘性流として前記メインチャンバ側に一方向的かつ直線的に輸送するようにしている。ホットワイヤで生成した活性種は粘性流として輸送されるため失活が抑えられ、かつ、円柱形状の内部空間を形成されるため基板などの処理対象から離隔し、ホットワイヤから輻射熱による処理対象の温度上昇を抑える。この結果、ホットワイヤによって生成される活性種を用いた均一な成膜処理や、還元、エッチングなどの表面処理を高効率かつ精度よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、この発明の実施の形態であるホットワイヤ式処理装置の全体構成を示す模式図である。
図2図2は、サブチャンバの詳細構成を示す模式図である。
図3図3は、図2に示したサブチャンバのA−A線断面図である。
図4図4は、サブチャンバによって輸送される原子状水素密度の圧力依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照してこの発明を実施するための形態について説明する。
【0021】
(ホットワイヤ式処理装置の全体構造)
図1は、この発明の実施の形態であるホットワイヤ式処理装置1の全体構造を示す模式図である。このホットワイヤ式処理装置1は、処理対象である基板21の表面に、活性化した原子状水素のアシストによりZnSeを成膜する装置である。図1に示すように、ホットワイヤ式処理装置1は、メインチャンバ2、サブチャンバ3、原料ガス供給部4、反応ガス供給部5を有する。
【0022】
メインチャンバ2は、内部に、SiやGaAsなどの基板21が載置される載置台20が設けられ、真空状態に維持される。この真空状態は、10〜3000Paである。また、メインチャンバ2内には、原料ガス供給部4から、原料ガスであるジエチル亜鉛(DEZ)及びジエチルセレン(DESe)が供給される。メインチャンバ2内の真空状態の形成は、可変バルブV23を有した管路19を介したロータリーポンプ41の排気によってなされる。載置台20にはヒータが内蔵され、図示しない温度センサの値をフィードバックしつつ、電源22からヒータへの電源供給によって載置台20は温度制御される。たとえば、載置台20は、約300℃に温度制御される。
【0023】
サブチャンバ3は、内部空間が円柱形状を形成する円筒構造である。この円柱形状の内部空間の一端(図上上側)から、反応ガスである水素が反応ガス供給部5から供給される。円柱形状の内部空間の他端(図上下側)は、メインチャンバ2の内部空間に直結している。また、サブチャンバ3内には、タングステンによって形成されたホットワイヤ31が設けられる。ホットワイヤ31は、電源32の通電により1000〜2500℃ぐらいに加熱され、流入した水素を活性種である原子状水素に分解する。分解生成された原子状水素は、不対電子を有しており活性化されている。この活性化された原子状水素は、10〜3000Paの圧力範囲ではサブチャンバ3の内部空間広がりに比べて平均自由行程が短く、粘性流としてメインチャンバ2側に一方向的かつ直線的に輸送される。また、サブチャンバ3の側壁は、二重管構造の冷却部33を構成し、外側側壁と内側側壁との間に冷媒L(図2参照)が流れ、この冷媒Lによって側壁を冷却して内部空間を冷却する。この冷媒Lは、冷却器34によって冷却されるとともに循環される。さらに、サブチャンバ3は、非金属材料で形成され、例えば、ガラスで形成される。原子状水素は、金属に衝突すると失活して水素分子になりやすいが、非金属である場合には失活しにくいからである。
【0024】
原料ガス供給部4は、バルブV3、V4、V5、V6、V21が開状態、バルブV11、V13、V14、V15が閉状態、調整バルブV7が圧力調整状態で、キャリアガスとして窒素ガスを、マスフローコントローラ12を介して液状DEZが満たされた容器14に流入する。容器14では、バブリングによって原料ガスであるジエチル亜鉛ガスが生成される。ジエチル亜鉛ガスは、管路17を介して、メインチャンバ2内に供給される。
【0025】
また、原料ガス供給部4は、バルブV3、V4、V8、V9、V22が開状態、バルブV11、V13、V16、V17が閉状態、調整バルブV10が圧力調整状態で、キャリアガスとして窒素ガスを、マスフローコントローラ13を介して、液状DESeが満たされた容器15に流入する。容器15では、バブリングによって原料ガスであるジエチルセレンガスが生成される。ジエチルセレンガスは、管路18を介して、メインチャンバ2内に供給される。
【0026】
反応ガス供給部5は、バルブV1、V2が開状態、バルブV11、V12が閉状態で、反応ガスである水素がマスフローコントローラ10及び管路16を介してサブチャンバ3内に供給される。
【0027】
なお、バルブV3、V4、V11、V12、V13、V14、V15、V16、V17V21、V22が開状態、バルブV1、V5、V6、V8、V9が閉状態、調整バルブV7、V10が閉状態で、パージガスとしての窒素ガスがマスフローコントローラ11などを介してメインチャンバ2及びサブチャンバ3側に流れる。
【0028】
(成膜処理)
まず、基板21を載置台20に載置する。その後、ロータリーポンプ41を起動してメインチャンバ2及びサブチャンバ3内を排気するとともにパージガスを流して真空状態にする。その後、載置台20を約300℃にして基板21の温度も約300℃にする。また、ホットワイヤ31を約1800℃にする。その後、反応ガス供給部5から反応ガスとしての水素を流量30〜50sccmでサブチャンバ3に流入し、サブチャンバ3で生成した原子状水素を粘性流としてメインチャンバ2に輸送する。一方、原料ガス供給部4から原料ガスとしてのジエチレン亜鉛ガス及びジエチレンセレンガスをメインチャンバ2内に供給する。ジエチレン亜鉛ガス生成のキャリアガス流量は1〜5sccmであり、ジエチレンセレンガス生成のキャリアガス流量は5〜10sccmである。
【0029】
メインチャンバ2内では、サブチャンバ3から輸送された原子状水素と、ジエチル亜鉛及びジエチルセレンとの衝突によって分解が促進され、それぞれ反応前駆体を生成する。これらの反応前駆体は、化学活性が高く、基板21上で疑似平衡を形成し、約300℃という低い温度の基板21上でZnSeが成膜される。成膜が終了すると、パージガスを流し、基板21を取り出す。
【0030】
(サブチャンバの詳細)
図2は、サブチャンバ3の詳細構成を示す模式図である。図2に示すように、ホットワイヤ31は、サブチャンバ3の内部空間3Eの円柱軸方向を軸とするスパイラル構造である。なお、ホットワイヤ31は、タングステンであるが、電極としての銅ロッド31aに接続されている。ホットワイヤ31は、線径0.5mm、長さ220mmである。スパイラル構造であることから、コンパクトであるにもかかわらず、ワイヤ全体の表面積を大きくでき、しかも、メインチャンバ2内の基板21への輻射面積を小さくすることができる。すなわち、ホットワイヤ31の巻き数をnとすると、従来の平面配置に比べ、約1/nの輻射面積とすることができる。図3は、図2に示したサブチャンバ3のA−A線断面図である。図3に示すように、メインチャンバ2側の1巻き分がメインチャンバ2側への輻射面積となる。これにより、ホットワイヤ31から基板21への輻射熱R1を小さくすることができる。
【0031】
また、ホットワイヤ31と基板21との距離を100〜500mmとしており、従来の50mm程度の距離に比して大きくすることができる。例えば、図2に示すように、ホットワイヤ31と基板21との距離Dを300mmとしている。これにより、ホットワイヤ31から基板21への輻射熱R1を小さくすることができる。
【0032】
このホットワイヤ31から基板21への輻射熱R1の低減は、基板温度に影響を与えないため、成膜精度を上げることができる。特に、片持ち梁構造などを有するデバイスでは、輻射熱R1の影響によって、片持ち梁構造部分の温度上昇が大きくなり、他の部分との熱拡散に差が出るが、この実施の形態では、デバイス上でそのような温度差が生じないため、成膜精度を高くすることができる。
【0033】
さらに、ホットワイヤ31は、基板21から遠くなるとともに、メインチャンバ2の内部空間2Eからも離隔している。そして、サブチャンバ3内の圧力は、10〜3000Paで粘性流領域であり、原子状水素は、図2に示すように、粘性流A1として原子間の衝突のみで気体の集団(塊)としてメインチャンバ2側に一方向的かつ直線的に輸送される。すなわち、上述したホットワイヤ31とメインチャンバ2との離隔及び原子状水素の流れによって、メインチャンバ2内の反応種などのサブチャンバ3側への逆拡散A2を抑制することができる。これによって、ホットワイヤ31と逆拡散した反応種などとの化合物合成などによるホットワイヤ31の分解機能低下を抑止し、安定した原子状水素の生成を行うことができる。また、ホットワイヤ31と反応種などとの酸化蒸発によって基板21上への再付着を防止でき、純度の高い成膜を行うことができる。
【0034】
また、ホットワイヤ31と基板21との距離を大きくすることができるとともに、サブチャンバ3は冷却部33によって側壁3aが冷却されているため、輸送される原子状水素の温度は、ほぼ基板21の温度程度となって基板温度に影響を与えない。
【0035】
さらに、この粘性流A1に加えて、上述したように、サブチャンバ3は非金属材料で形成されているため、側壁3aでの原子状水素の失活が少なくなり、生成した原子状水素を保存した状態で高効率でメインチャンバ2側に輸送することができる。なお、原子状水素の高効率の輸送に加えて、上述した表面積の大きいホットワイヤ31によって原子状水素を高効率で生成することができるため、水素の消費を抑えることができる。
【0036】
図4は、サブチャンバ3によって輸送される原子状水素密度の圧力依存性を示す図である。なお、図4において○印は従来の装置による結果であり、●印は本実施の形態による結果である。また、図4では、水素流量を一定としている。図4に示すように、従来の装置では、原子状水素密度は圧力の上昇に伴って原子状水素のチャンバ壁面への入射頻度が高くなって、保存される原子状水素の密度が減少していた。本実施の形態では、サブチャンバ3内によって原子状水素を生成し、失活をなくしてメインチャンバ2内に輸送しているため、従来に比して大きな原子状水素の密度を得ることができた。具体的には、圧力2.7kPaで1013cm−3という、従来に比して高い密度を得ている。
【0037】
また、粘性流の流速は大きい方が好ましい。粘性流の流速が大きい場合は、サブチャンバ3での失活をさらになくして原子状水素を輸送することができ、メインチャンバ2からの逆拡散を防止することができるからである。
【0038】
なお、サブチャンバ3内で生成される原子状水素は、流入される水素の数%程度である。
【0039】
(金属酸化膜の還元及びフォトレジストの除去などの表面処理への応用)
上述した実施の形態では、成膜処理について説明したが、原料ガスを供給せず、反応ガスのみを供給することによって、活性種による金属酸化膜の還元やフォトレジストの除去などの表面処理を行うことができる。
【0040】
なお、上述した実施の形態では、反応ガスとして水素を例に挙げたが、これに限らず、NHやN、あるいはZn、Se、S、Oなどを含む化合物材料を反応ガスとしてもよい。また、ホットワイヤ31との酸化を抑えるため、反応ガスに酸素が含まれないことが望ましい。
【0041】
また、ホットワイヤ31は、タングステンであったが、これに限らず、イリジウムなどの他の素線であってもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 ホットワイヤ式処理装置
2 メインチャンバ
2E,3E 内部空間
3 サブチャンバ
4 原料ガス供給部
5 反応ガス供給部
12,13 マスフローコントローラ
14,15 容器
16,17,18,19 管路
20 載置台
21 基板
22,32 電源
31 ホットワイヤ
31a 銅ロッド
33 冷却部
34 冷却器
41 ロータリーポンプ
A1 粘性流
A2 逆拡散
V1〜V6,V8,V9,V11〜V17,V21,V22 バルブ
V7,V10 調整バルブ
V23 可変バルブ
図1
図2
図3
図4