特許第5792241号(P5792241)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 中国電力株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5792241-架線の被覆剥取器具 図000002
  • 特許5792241-架線の被覆剥取器具 図000003
  • 特許5792241-架線の被覆剥取器具 図000004
  • 特許5792241-架線の被覆剥取器具 図000005
  • 特許5792241-架線の被覆剥取器具 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5792241
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】架線の被覆剥取器具
(51)【国際特許分類】
   H02G 1/12 20060101AFI20150917BHJP
   H02G 1/02 20060101ALI20150917BHJP
   B26B 27/00 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   H02G1/12 012
   H02G1/02
   B26B27/00 G
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-176204(P2013-176204)
(22)【出願日】2013年8月28日
(65)【公開番号】特開2015-46988(P2015-46988A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2014年10月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000545
【氏名又は名称】特許業務法人大貫小竹国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石津 達也
(72)【発明者】
【氏名】脇本 將嗣
【審査官】 久保 正典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−022182(JP,A)
【文献】 特開平09−046843(JP,A)
【文献】 特開2008−119323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 1/12
B26B 27/00
H02G 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯線の周囲を絶縁性の被覆で覆われて成る架線の前記被覆を剥ぎ取るための架線の被覆剥取器具において、
前記架線の側面に当接可能な溝部が形成された保持部と、前記保持部に遠近する刃体ホルダーと、前記刃体ホルダーが前記保持部に最も近接したときに前記保持部の溝部に当接した前記架線の被覆のみに食い込むように前記刃体ホルダーに取り付けられた刃体と、一方の端部に前記刃体ホルダーが取り付けられると共に他方の端部に間接活線工具を係合させるための係合部が形成されて、前記刃体ホルダーを前記保持部に遠近する方向に可動させる軸部と、前記保持部に対し前記溝部と対峙する側に配されると共に前記軸部が挿通可能な螺子切りされた挿通孔を有する台部とを備え、
前記軸部は、前記刃体が前記架線の被覆に当接したときに前記刃体を前記架線の被覆に食い込ませるための押力を与えるための第1のねじ部と、前記刃体ホルダーが前記保持部から所要の寸法で離れた状態を保持するための第2のねじ部と、前記第1のねじ部と前記第2のねじ部との間のねじ無し部とが形成され、
前記軸部の前記刃体ホルダーと前記台部との間となる部位に、前記刃体ホルダーを前記保持部側に押圧するための弾性機構が装着されていることを特徴とする架線の被覆剥取器具。
【請求項2】
前記弾性機構は、前記軸部に外装されたコイルバネであることを特徴とする請求項1に記載の架線の被覆剥取器具。
【請求項3】
前記保持部と前記台部とは支持部により連接され、前記刃体ホルダーは前記支持部に沿って変位すると共に、前把持機能を有する間接活線工具で把持するためのアームが記保持部の前記溝部を有する側とは反対側から前記支持部と交差する方向に延びていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の架線の被覆剥取器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、芯線の周囲を絶縁性の被覆で覆われて成る架線が活線状態でも、前記架線の被覆を簡易な作業で剥ぎ取ることが可能な器具の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
活線状態の架線の被覆を遠隔操作により安全に剥ぎとるための電線被膜剥取用工具は、例えば特許文献1等に示されるように既に公知になっている。この特許文献1に記載の電線被覆剥取用工具について概説すると、本体と、軸部と、アームとを備えたもので、本体は、保持部と、基台部と、保持部と基台部とを繋ぐ支持部とで構成されて略コ字状を成している。このうち、保持部は、基台部側において被覆電線に引き掛け可能な凹溝を有し、また、軸部は、その全範囲がねじ部となっているもので、基台部を貫通するねじ孔に挿通して、支持部に平行して保持部に遠近するように移動可能なもので、軸方向の一方端で保持部と基台部の間となる部位に刃体ホルダーを有すると共に軸方向の他方端に係合用リングを有したものとなっており、刃体ホルダーには刃体が取り付けられ、刃体は凹溝に向けて突出し、架線の被膜に食い込む位置に配置されている。
【0003】
そして、このような特許文献1に示される電線被膜剥取用工具の構成により、保持部の凹溝が架線に引き掛けられた状態の電線被膜剥取用工具に対し、その係合用リングに間接活線工具の例えばバインド打ち器のフックを係合させ、係合用リングを複数回にわたって回転させることで、刃体ホルダーを本体の保持部に接近させて、保持部の凹溝と刃体ホルダーとで架線を挟んで締め付けつつ刃体ホルダーの刃体を架線の被膜に食い込ませた後、電線被膜剥取用工具を回転させることで、架線の中間部分の被膜を剥ぎ取ることが可能となる。
【0004】
もっとも、このような電線被膜剥取用工具による架線の締め付け作業では、作業員がバインド打ち器のフックで係合用リングを回転させて架線を締め付ける回数が多く、しかも架線の皮剥ぎは専ら高圧線3線に実施するので、作業員の腕等への疲労が大きくなり、また、架線からの被覆の剥ぎ取り作業の長時間化も招くとの不具合があった。
【0005】
このため、本願出願人は、特許文献2に示されるように、電線の特に中間部位の被覆を剥ぎ取るときに、電線の締め付け作業を簡易に行なうことで、作業者の疲労度の軽減及び作業時間の短縮化を図った電線被覆剥離工具の発明について、特許出願をしている。
【0006】
この特許文献2に示される電線被覆剥離工具では、主軸に螺子切りされていない部位を形成すると共に、保持部と刃体ホルダーとを互いに接近する方向に付勢する付勢手段たる磁石を、例えば保持部と刃体ホルダーとの双方に有するものとしている。
【0007】
よって、この特許文献1に記載の電線被覆剥離工具によれば、主軸をその軸線方向において保持部側に向って上方に僅かに持ち上げることにより、主軸の先端の刃体ホルダーは保持部の磁石と刃体ホルダーの磁石とが互いに引き合う磁力作用によって外力を更に及ばさずとも保持部に引き寄せられ、被覆電線は、保持部の凹溝と刃体ホルダーの凹溝とで挟持されて保持された状態となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−261432号号公報
【特許文献2】特開2010−22182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
もっとも、特許文献2に示される電線被覆剥離工具では、保持部と刃体ホルダーとを接近させるための付勢手段として永久磁石の磁力を用いるので、永久磁石の磁力により保持部と刃体ホルダーとが接着するのを防止するために、保持部と刃体ホルダーとの間隔を所要の寸法未満としないように調整したり、保持部と刃体ホルダーとで誤って同じ正極同士又は負極同士となって磁力保持部と刃体ホルダーとが反対に離隔する方向に磁力が働かないように、保持部に設ける磁石の極と刃体ホルダーに設ける磁石の極とを確認したりする必要が考えられる。
【0010】
そこで、本発明は、保持部が引き掛けられた架線から外皮たる被覆を剥ぎ取るために、軸部を回転させて刃体を有する刃体ホルダーを本体の保持部に接近させるときに、軸部の回転数を弾性機構の利用により減少させることができる架線の被覆剥取器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係る架線の被覆剥取器具は、芯線の周囲を絶縁性の被覆で覆われて成る架線の前記被覆を剥ぎ取るための架線の被覆剥取器具において、前記架線の側面に当接可能な溝部が形成された保持部と、前記保持部に遠近する刃体ホルダーと、前記刃体ホルダーが前記保持部に最も近接したときに前記保持部の溝部に当接した前記架線の被覆のみに食い込むように前記刃体ホルダーに取り付けられた刃体と、一方の端部に前記刃体ホルダーが取り付けられると共に他方の端部に間接活線工具を係合させるための係合部が形成されて、前記刃体ホルダーを前記保持部に遠近する方向に可動させる軸部と、前記保持部に対し前記溝部と対峙する側に配されると共に前記軸部が挿通可能な螺子切りされた挿通孔を有する台部とを備え、前記軸部は、前記刃体が前記架線の被覆に当接したときに前記刃体を前記架線の被覆に食い込ませるための押力を与えるための第1のねじ部と、前記刃体ホルダーが前記保持部から所要の寸法で離れた状態を保持するための第2のねじ部と、前記第1のねじ部と前記第2のねじ部との間のねじ無し部とが形成され、前記軸部の前記刃体ホルダーと前記台部との間となる部位に、前記刃体ホルダーを前記保持部側に押圧するための弾性機構が装着されていることを特徴としている(請求項1)。ここで、架線は例えば活線状態の架線である。また、刃体は、例えば、架線に対しその軸方向に沿って当接する第1の刃体と、架線に対しその径方向に沿って当接する第2の刃体とで構成されている。係合部は、例えば係合用リングであり、このように係合部が係合用リングの場合には、係合する間接活線工具としてはバインド打ち器が用いられる。
【0012】
これにより、第2のねじ部が台部の挿通孔内に位置する状態では、第2のねじ部と台部の挿通孔のねじ溝とが螺合して動かない状態にあるため、刃体ホルダーを保持部側に押圧するための弾性機構が軸部に装着されていても、軸部の刃体ホルダーが取り付けられた端部は保持部側に変位しないので、刃体ホルダーは、保持部との側方への開口幅を架線の径方向寸法よりも大きな寸法で固定されることが可能である。また、ねじ無し部の台部の挿通孔に位置する状態では、軸部に装着された弾性機構が有する刃体ホルダーを保持部側に押圧する力により、刃体ホルダーは、軸部を回転させなくても保持部に接近していく。更に、第1のねじ部が台部の挿通孔内に位置する状態では、第1のねじ部と台部の挿通孔のねじ溝とが螺合して動かない状態になるため、刃体ホルダーが保持部側に移動しても、第1のねじ部の始まり部分が台部の挿通孔内に位置した時に、刃体が架線の被覆に当接した状態で刃体ホルダーは止まるので、刃体が架線の芯材まで食い込むことはない。そして、第1のねじ部の始まり部分が台部の挿通孔内に位置した状態で、軸部を所要の回転数ほど回転させることにより、刃体ホルダーは相対的に強い力で保持部側に変位するので、刃体ホルダーの押圧力を利用して刃体を架線の被覆に当接した状態から被覆のみに食い込ませることが可能である。
【0013】
この発明に係る架線の被覆剥取器具では、前記弾性機構は、前記軸部に外装されたコイルバネであることを特徴としている(請求項2)。このように、弾性機構としてコイルバネを用いることにより、弾性機構を複雑な構造とする必要がなく、また、保持部、台部については、既存の被覆剥取器具のままとすることができる。
【0014】
また、この発明に係る架線の被覆剥取器具では、前記保持部と前記台部とは支持部により連接され、前記刃体ホルダーは前記支持部に沿って変位すると共に、前把持機能を有する間接活線工具で把持するためのアームが記保持部の前記溝部を有する側とは反対側から前記支持部と交差する方向に延びていることを特徴としている(請求項3)。把持機能を有する間接活線工具は、例えば絶縁ヤットコである。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、この発明によれば、軸部をわずかに回転させて、ねじ無し部が台部の挿通孔に位置する状態とすることで、その後は、軸部に装着された弾性機構が有する刃体ホルダーを保持部側に押圧する力により、軸部を回転させなくても、刃体ホルダーは保持部に接近していくため、保持部と刃体ホルダーとで架線を挟むために軸部を回転させる回転数を少なくすることが可能となるので、作業者の疲労度を軽減させ、保持部と刃体ホルダーとで架線を挟むだめの作業時間を短縮することができる。
【0016】
そして、第1のねじ部が台部の挿通孔内に位置する状態では、第1のねじ部と台部の挿通孔のねじ溝とが螺合して動かない状態になるため、刃体ホルダーが保持部側に移動しても、第1のねじ部の始まり部分が台部の挿通孔内に位置した時に、刃体が架線の被覆に当接した状態で刃体ホルダーは止まるので、刃体が架線の芯材まで食い込むのを防止することが可能である。
【0017】
更に、第1のねじ部の始まり部分が台部の挿通孔内に位置した状態で、軸部を所要の回転数ほど回転させた場合には、刃体ホルダーは相対的に強い力で保持部側に変位するため、刃体ホルダーの押圧力を利用して刃体を架線の被覆に当接した状態から被覆のみに食い込ませることが可能であるので、刃体を架線の被覆に食い込ませる作業を簡易に行うことができる。
【0018】
その一方で、この発明によれば、軸部を回転させて、第2のねじ部を台部の挿通孔内に位置させることで、第2のねじ部と台部の挿通孔のねじ溝とが螺合して動かない状態となるため、弾性機構が軸部に装着されていても、軸部の刃体ホルダーが取り付けられた端部は保持部側に変位しないようにすることができるので、刃体ホルダーについて、保持部との側方への開口幅を架線の径方向寸法よりも大きな寸法で固定することが可能である。よって、保持部を架線に引き掛ける作業を簡易に行うことができる。
【0019】
特に請求項2に記載の発明によれば、弾性機構としてコイルバネを用いることにより、弾性機構を複雑な構造とする必要がなく、保持部、台部を既存の被覆剥取器具のままとすることができるので、被覆剥取器具の製造コストの上昇を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、この発明に係る架線の被覆剥取器具の構成を示した説明図であり、図1(a)は、前記架線の被覆剥取器具の側面図、図1(b)は、前記架線の被覆剥取器具の正面図、図1(c)は、前記架線の被覆剥取器具を構成する軸部の構成を示すものでバネを外した状態の説明図である。
図2図2は、前記架線の被覆剥取器具について、本体に対し刃体ホルダー最も開いた状態を示す説明図である。
図3図3は、前記架線の被覆剥取器具について、アームを絶縁ヤットコで挟んで、本体の保持部を架線に引き掛けた状態を示す説明図である。
図4図4は、前記架線の被覆剥取器具について、本体の保持部と刃体ホルダーとで架線を挟んで保持し、絶縁ヤットコはアームから外した状態を示す説明図である。
図5図5は、前記架線の被覆剥取器具の軸部を回転させ、或いは前記架線の被覆剥取器具の刃体ホルダーを架線を回転中心として回転させるために、係合用リングにバインド打ち器のフックを係合させた状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
図1から図5において、この発明に係る被覆剥取器具1の一例が示されている。この被覆剥取器具1は、図4に示される芯線101の周囲を絶縁性の被覆102で覆われて成る架線100が活線状態でも、遠隔操作により、架線100、特に架線100の中間部分において、被覆102のみを安全に剥ぎ取ることを可能としたものである。すなわち、この被覆剥取器具1は、間接活線作業に好適な器具である。
【0023】
被覆剥取器具1は、特に図1及び図2に示されるように、本体2と、刃体ホルダー3と、刃体4、5と、軸部6とで基本的に構成されている。
【0024】
本体2は、その全体形状が側方(架線100の軸方向)から見て略コ字形状を成すもので、保持部21と、この保持部21に対峙した位置にある台部22と、略直線状に延びて保持部21と台部22とを連接する支持部23とを備えている。
【0025】
保持部21は、台部22と対峙する側に凹溝24が形成されている。この凹溝24は架線100の円周状の側面の上方にガタツキなく当接して、保持部21を架線100に引き掛けることができるように、その内側面が架線100の軸方向から見て略円弧状となっている。台部22は、図1(a)に示されるように、支持部23の延出方向と平行に延びる貫通孔25が形成されており、貫通孔25の内周面はその全範囲にわたってねじ切りされている。支持部23は、刃体ホルダー3が保持部21に遠近するように変位するときに刃体ホルダー3を支持するもので、支持部23の凹溝24とは反対側(支持部23の背側)に下記するガイド部材35の側面が当接しながら刃体ホルダー3が変位するようになっている。
【0026】
刃体ホルダー3は、保持部21と台部22との間に配されるもので、2つの板状部31、31の間に保持部21の凹溝24側に延びる刃体4、5が設置されている。刃体4は、図1(b)に示されるように、凹溝24に当接した状態の架線100に対し軸方向に沿って刃先が当たるように配置され、刃体5は、図1(a)に示されるように、凹溝24に当接した状態の架線100に対し径方向に沿って刃先が当たるように2つ配置されており、刃体4と2つの刃体5、5とでコ字状の配置となっている。そして、刃体4の保持部21側への延出幅は、図1(a)、図1(b)及び図2に示されるように、双方の刃体5の保持部21側への延出幅よりも大きくなっているもので、これにより、刃体4は、刃体5よりも先に凹溝24に当接した状態の架線100に先に当たることができる。
【0027】
また、刃体ホルダー3は、この実施例では、図1(a)、図1(b)及び図2に示されるように、刃体4、5よりも側方(架線100の軸方向)外側に、肉厚の薄い直方体状のブロック体32、32が配置されている。各ブロック体32は、ボルト33に外装されたコイルバネ34により、刃体4、5側に付勢されている。このブロック体32は、架線100の被覆102を軸方向に沿って連続的に剥ぎ取るときに、架線100の被覆102が剥ぎ取られて芯線101が剥き出しとなった部位と、被覆102で覆われたままの架線100とで被覆102の厚みにより段差が生ずるが、この段差があっても被覆102に刃体4、5を真っ直ぐに食い込ませられるように、架線100の芯線101に当接するものである。
【0028】
更に、刃体ホルダー3は、各板状部31について支持部23よりも側方側に突出した突出部31aを有し、この突出部31a、31a間に円柱状のガイド部材35が架設されている。このガイド部材35は、回転自在であっても良い。これにより、刃体ホルダー3が保持部21に遠近するように変位するときに、ガイド部材35が支持部23の凹溝24とは反対側の外面に当接し続けるので、刃体ホルダー3のガタツキを防止することができる。
【0029】
軸部6は、刃体ホルダー3を保持部21に遠近する方向に可動させるためのもので、直線状の略円柱状をなし、図1(c)に示されるように、その長手方向の一方端はその本体部分よりも径方向外側に突出して成る頭部61が刃体ホルダー3に回転自在に取り付けられ、その長手方向の他方端は貫通孔62aを有する係合用リング62が形成されている。
【0030】
そして、図示しないが、刃体ホルダー3の刃体4、5側とは反対側に開口するもので、軸部6の本体部分の外径寸法よりも若干大きく頭部61の外径寸法よりも小さな内径寸法を有する小径孔部と、この小径孔部よりも奥側に位置し、頭部61の外径寸法よりも若干大きな大径孔部とで成る孔部に対し、軸部6の頭部61が大径孔部内に収容された状態となっている。これにより、頭部61が回転しても刃体ホルダー3は回転しない一方で、軸部6が保持部21側に変位(前進)すると、頭部61が刃体ホルダー3の大径孔部の奥面を押して刃体ホルダー3を押し上げ、軸部6が保持部21とは反対側に変位(後退)すると、頭部61が大径孔部と小径孔部との段差部に引き掛かって、刃体ホルダー3を保持部21とは反対側に従動させることができる。
【0031】
係合用リング62は、図5に示されるように、間接活線工具のバインド打ち器300のフック301を貫通孔62aに差し込んで係合させることができるもので、これにより、バインド打ち器300で軸部6を押し上げたり、引き下げたり、或いは、軸部6を時計回りや反時計回りに回転させたりすることが可能となる。なお、バインド打ち器300は公知のものであるのでその説明は省略する。
【0032】
軸部6の台部22と係合用リング62との間に環状部材60が設けられており、この環状部材60は、刃体4、5が架線100の芯線101にまで食い込むのを防止するためのストッパーとなっている。すなわち、軸部6が保持部21側に変位するときに、環状部材60が台部22に当接して、軸部6がそれ以上保持部21側に変位しないようにすることで、刃体ホルダー3が不必要に保持部21側に変位することが防止されて、刃体4、5が架線100の芯線101にまで食い込まないようになっている。
【0033】
そして、保持部21の凹溝24を有する側とは反対側となる外面からアーム7が突出している。アーム7は、直線状に延びる棒体形状をしていると共に、この実施例では、先端にバインド打ち器300のフック301等を引き掛けることが可能なリング部71を有している。これにより、図3に示されるように、アーム7を間接活線工具の絶縁ヤットコ200の把持部201、202で挟んで、被覆剥取器具1を持ち上げたり、降ろしたりすることができる。なお、絶縁ヤットコ200は公知のものであるのでその説明は省略する。
【0034】
ところで、この発明に係る被覆剥取器具1では、図1(c)に示されるように、軸部6の本体部分は、その全部がねじ部となっておらず、頭部61側(軸部6の上部側)のねじ部65と、環状部材60よりも上側部位に位置するねじ部64と、その間に位置するねじ無し部66とに少なくとも分かれている。尚、図1(c)等では、環状部材60と係合用リング62との間の軸下部63も、環状部材60の位置を調整することができるようにするため等から、ねじ部64と連なったねじ部となっているが、環状部材60が固定されている場合等には、軸下部63は図示しないがねじ無し部としても良い。
【0035】
ねじ部64は、刃体4の刃先が架線100の被覆102に少なくとも当接した状態から、刃体4、5の刃先を架線100の被覆102に食い込ませられるように、軸部6を回転させて保持部21側に前進させて、刃体ホルダー3を保持部21側に変位させ締め付けるためのもので、そのねじ山の数は少なくとも1山以上となっている。
【0036】
ねじ部65は、保持部21と刃体ホルダー3との間の開口幅が架線100を円滑に装着することができる寸法を保持したままで、刃体ホルダー3の位置を固定するためのもので、下記するコイルバネ8が縮んだ状態で1山以上回せるように、ねじ山の数が少なくとも1山以上となっている。
【0037】
ねじ無し部66は、ねじ山を有しない円柱状の部位であり、その外径寸法は、台部22の貫通孔の内径寸法よりも若干小さくなっている。
【0038】
そして、この発明に係る被覆剥取器具1では、特に図1(a)及び図1(b)に示されるように、軸部6の刃体ホルダー3と台部22との間となる部位に弾性機構としてコイルバネ8が外装されている。このコイルバネ8は、その下端部位が台部22の上面(係合用リング62とは反対側面)に当接していると共に、その上端部位が刃体ホルダー3の下面(保持部21とは反対側面)に当接し、その内径寸法は、ねじ部64、ねじ部65のねじ山部位における最大外径寸法よりも大きくなっている。そして、コイルバネ8は、刃体ホルダー3を保持部21側に押圧している。
【0039】
このような構成から成る被覆剥取器具1における、保持部21を架線100に引き掛け、保持部21と刃体ホルダー3とで架線100を挟んだ状態とし、刃体ホルダー3の刃体4、5を架線100の被覆102に食い込ませた後、被覆102を架線100から剥ぎ取る工程について、以下に説明する。
【0040】
まず、作業員の手元等において、係合用リング62を例えば1回転等の少ない回転数で回転させて、軸部6のねじ部65が台部22の貫通孔25内に位置するようにする。これにより、軸部6は、ねじ部65にて台部22の貫通孔25と螺合した状態となるので、図2に示されるように、保持部21と刃体ホルダー3との間の開口幅が架線100を円滑に装着することができる寸法を保持した状態で、刃体ホルダー3の位置が固定される。このとき、コイルバネ8は最も縮んだ状態にあり、且つその縮んだ状態が保持されている。
【0041】
次に、図3に示されるように、上記した状態の被覆剥取器具1に対し、絶縁ヤットコ200の把持部201、202でアーム7を把持して、被覆剥取器具1を架線100より上方まで持ち上げた後、保持部21の凹溝24が架線100の円周状の側面の上側を覆うように被覆剥取器具1を降ろすことで、その図3に示されるように、保持部21が架線100に引き掛けられた状態となる。
【0042】
そして、図5に示されるように、係合用リング62の貫通孔62aにバインド打ち器300のフック301を差し込んで係合させ、バインド打ち器300を先程とは逆の方向に例えば1回転等の少ない回転数で回転させる。これにより、軸部6は、ねじ部65が台部22の貫通孔25から外れて、ねじ無し部66が台部22の貫通孔25内に位置するようになるので、軸部6は、刃体ホルダー3との螺合状態が解除され、コイルバネ8が最も縮んだ状態から解放される。しかるに、刃体ホルダー3は、図4に示されるように、軸部6を回転させなくても、コイルバネ8の押圧により、保持部21側に変位し、少なくとも刃体4の刃先が架線100の被覆102に当たった状態となる。
【0043】
このとき、軸部6のねじ無し部66の全てが台部22の貫通孔25を通過して軸部6のねじ部64の始まり部分が台部22の貫通孔25下部に位置することで、軸部6の保持部21側へのそれ以上の移動が規制されるので、刃体4、5の刃先が架線100の被覆102へ食い込むことはない。
【0044】
更に、軸部6のねじ部64の始まり部分が台部22の貫通孔25下部に位置した状態で、バインド打ち器300を所要の方向に例えば1回転等の少ない回転数で回転させることによりねじ部64が貫通孔25内に入りこみ、軸部6が相対的に強い力で保持部21側に変位するので、刃体ホルダー3が架線100を締め付け、刃体4、5を被覆102の硬さや弾性に抗して被覆102に食い込ませることができる。
【0045】
最後に、バインド打ち器300について、架線100を回転中心としてを図5の矢印方向に回転させることにより、刃体4と刃体5により被覆102はその全周において架線100の芯線101から剥ぎ取られる。
【0046】
以上のように、この発明に係る被覆剥取器具1によれば、活線状態の架線100に対し1回転等の少ない回転数で軸部6と台部22との螺合状態を解除してコイルバネ8を収縮状態から解放すると共に刃体ホルダー3を固定状態から解放し、その後は、軸部6を回転させなくても、コイルバネ8の押圧力により、刃体ホルダー3を保持部21側に変位させることができるので、作業員の疲労度の軽減を図ることが可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 被覆剥取器具
2 本体
21 保持部
22 台部
24 凹溝
25 貫通孔
3 刃体ホルダー
34 コイルバネ
4 刃体
5 刃体
6 軸部
60 環状部材
62 係合用リング(係合部)
62a 貫通孔
63 軸下部
64 ねじ部(第1のねじ部)
65 ねじ部(第2のねじ部)
66 ねじ無し部
8 コイルバネ(弾性機構)
100 架線
101 芯線
102 被覆
200 絶縁ヤットコ
201 把持部
202 把持部
300 バインド打ち器
301 フック
図1
図2
図3
図4
図5