(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。また、以下で説明する寸法、物体の形状等は、説明のための例示であって、具体的な形状、数値などは吸着特性測定装置の用途、目的、仕様に応じて適宜変更することができる。以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0014】
図1は、吸着特性測定装置30の構成図である。
図1には、吸着特性測定装置30の構成要素ではないが、試料管10と試料管10の中の試料20とが示される。吸着特性測定装置30は、試料管10を一旦取り付けた後は、試料管10を付け替えることなく、吸着特性の測定の前段階である前処理と吸着特性測定とを連続して行うことができる装置である。
【0015】
吸着特性測定装置30は、本体部32と、配管部60と、これらの動作を制御する制御部90と、配管部60に設けられる圧力トランスデューサ63,72,74が検出する圧力変化に基づいて試料20について吸着質の吸着特性を求める吸着特性出力部88とを備える装置である。
【0016】
試料管10は、一方端に端部開口を有する細長い管で、他方端である底部の内部空間が試料20を収容することができる収容部となっている試料容器である。
図2に、試料20を収容する試料管10の部分の詳細図を示す。試料管10は、端部開口12の部分まで細い管部14で、収容部16の部分が端部開口12、管部14よりも太い形状を有する。試料管10の端部開口12は、配管部60を介して、後述する吸着質供給部82、排出部86と接続される。
【0017】
かかる試料管10としては、耐熱性ガラス製の試料管が用いられる。試料管10の寸法の一例を上げると、全体の長さが200mm、管部14の内径10mm、外径12mm、収容部16の内径15mm、外径17mm、長さ28mm、内容積5mlである。測定の目的によっては、耐熱性と耐低温性の高い石英製の試料管、金属製の試験容器を試料管として用いてもよい。形状も測定の目的に適したものとしてよい。例えば、全長に渡り一様な外径と内径の形状を有するものを用いてもよい。寸法も測定の目的に適したものとしてよい。
【0018】
図1には、試料管10を3本取り付けているが、試料管10の本数は3以外でもよい。また特許第3756919号公報にあるように全ての試料管10の内径を同じとし、そのうち1本の試料管10に試料20を入れずブランクとしその圧力変化から死容積の量を直接測定することも可能である。
【0019】
図2の接続配管64は、配管部60の中のマニホールド62と試料管10を接続するための部分である。接続配管64は、一方端に、試料管10の端部開口12が取り付けられる取付部66を有し、他方端に、マニホールド62に接続する試料管ポート75を有する。取付部66と試料管ポート75の間には試料管用の開閉弁70が直列に接続配置される。圧力トランスデューサ74は、取付部66と開閉弁70との間の配管に接続され、接続配管64の内部圧力を検出する試料管圧力検出部である。
【0020】
試料20を収容した試料管10を取付部66に取り付けるのは、測定者の手作業で行われるので、取付部66の位置の自由度がとれるように、接続配管64は適当な長さを有することが好ましい。
【0021】
試料20は、吸着特性測定の対象物の粉粒体である。この粉粒体の比表面積や細孔分布等を評価するために、粉粒体に対して吸着質がどの程度吸着するかの吸着特性を測定する。試料20は、吸着特性測定の対象物であるので、測定の目的によって様々なものとなる。粉粒体の粒度等も様々であってよく、粉粒体以外の固体であってもよく、固体が有孔であってもよい。吸着質は、配管部60を介して、吸着質供給部82から供給される。以下では、吸着質が窒素ガスを例として説明を続ける。
【0022】
図1に戻り、本体部32は、筐体34と、試料管10を保持する試料管ホルダ40と、試料管ホルダ40を収容する収容器50と、収容器50を昇降させる昇降部52と、収容器50に冷媒タンク55から冷媒53を導入する冷媒導入部54を含んで構成される。
【0023】
筐体34は、本体部32の外形を形作る箱状の部材である。筐体34の上部に配管部60が搭載され、適当な配置関係で筐体34に制御部90と吸着特性出力部88が取り付けられて、吸着特性測定装置30となる。このように、筐体34は、吸着特性測定装置30を構成する各要素を一体化するための箱状部材である。
【0024】
試料管ホルダ40は、従来技術における前処理部あるいは脱ガス部に相当するもので、保持部44を有するホルダ本体42と、ホルダ本体42に設けられる加熱手段46と、加熱手段46の外周部に当てがわれる当て板48を含んで構成される。試料管ホルダ40は、ホルダ本体42に加熱手段46を取り付けることによって、試料管10を加熱する処理を行うことができる。また、ホルダ本体42において保持部44が複数あり、かつ各保持部44が独立した温度環境を保てる場合には、試料管10が保持されたホルダ本体42ごとに個別の加熱手段46を取り付けることによって、試料管10ごとに前処理温度が異なる処理を行うことができる。
【0025】
図3に試料管ホルダ40の詳細図を示す。
図3(a)は、上面図、
図3(b)は、側面図である。なお、
図3には、保持部44に試料管10が挿入され、ホルダ本体42の周囲に加熱手段46を配置した様子を示す。
【0026】
ホルダ本体42は、試料管10を保持するための保持部44が適当に配置された筒状の金属製部材である。ホルダ本体42の上面に取り付けられる腕部43は、ホルダ本体42を筐体34に対し固定位置とするための取付固定部材である。腕部43によって、筐体34に対するホルダ本体42の上面の高さ位置が定められるので、腕部43の長さは、筐体34の上部に搭載される配管部60から下方に延びる接続配管64の先端部に設けられる取付部66の高さ位置と、試料管10の全長と、試料管10の端部開口12が取付部66に挿入される取付長さと、保持部44の深さと、試料管10を取付部66に取り付ける作業性等を考慮して設定される。保持部44は、試料管10が取付部66に取り付けられたときに、試料管10の収容部16が保持部44内に保持される穴である。保持部44に保持された試料管10は、加熱手段46によって少なくともその収容部16が加熱される。保持部44は、試料を均一に加熱保温できればよく有底穴あるいは貫通穴でもよい。また、保持部44の内径は、上部から下部に渡り同じであっても異なっていてもよい。例えば、保持部44の内径は下部に至るにしたがって小さくなっていてもよい。ホルダ本体42は、形状の異なる試料管10に対応するように内径が異なる保持部44を有することが好ましい。形状とは、外面的に認識できる物のかたちや状態のことであり、ここでは、外径を含む。
【0027】
保持部44は、ホルダ本体42に設けられる穴で、試料管10がここに挿入されて、試料管10の収容部が保持される。保持部44は、互いに適当な間隔を空けて3つ設けられる。それぞれの保持部44には、1つの試料管10が保持されるので、この場合、3つの試料管10を同時に保持できる。保持部44の数は3以外でもよい。また、保持部44の数が3であっても実際に保持される試料管10の数は3でなくてもよく、1でも2でもよい。また、ホルダ本体42に複数の保持部44が設けられる場合には、各保持部44が独立した温度環境を保てる状態にすることもできる。この場合、ホルダ本体42は、保持部44ごとに断熱された状態にしてもよく、腕部43を複数有する分離された状態としてもよい。
【0028】
保持部44の深さは、試料管10において試料20が収容される収容部16の長さよりも十分長く設定される。保持部44の内径は、接続配管64の取付部66に試料管10を取り付ける作業性を考慮して、試料管10の収容部16の外径よりも適当に大きめに設定される。試料管10は、端部開口12が接続配管64の取付部66に取り付けられてその位置が定められるので、保持部44は試料管10の位置決めをするために保持するのではなく、試料管10を加熱するため試料管ホルダ40に保持するためのものである。
【0029】
試料管10の収容部16の外径と、保持部44の内径との間の隙間量は、大きいほど試料管10の取付時の作業性がよいが、試料管10の加熱時の伝熱性が低くなる。逆に隙間量が小さいと試料管10の伝熱性がよいが、試料管10の取付時の作業性が低下する。したがって、適当な隙間量が好ましい。例えば、適当な隙間量を1mmとすれば、収容部16の外径を17mmとして、保持部44の内径を19mmとすることができる。
【0030】
ホルダ本体42の材質は、熱伝導性が高く、加熱温度及び所定の冷媒温度に耐えうる金属が用いられる。金属としては、アルミニウム、ステンレス鋼、真鍮等を用いることができる。例えば、加熱温度が400℃の場合はアルミニウム、500℃の場合はステンレス鋼もしくは真鍮と、目的に応じて適宜使い分けることができる。ホルダ本体42の寸法の一例をあげると、外径50mm、高さ30mmとすることができる。これ以外の大きさであってもよい。
【0031】
加熱手段46は、ステンレスで被覆された外径1mmの細線がホルダ本体42の外周にらせん状に巻きつけられ、電流を流すことで発熱する抵抗線ヒータである。加熱手段46の両端子は、制御部90によって動作が制御される加熱電源に接続される。加熱手段46は、試料管ホルダ40に保持された試料管10に収容される試料20を加熱させるためのヒータである。細い抵抗線でらせん状に巻くことができるヒータは、シーズヒータと呼ばれるが、シーズヒータ以外のヒータを加熱手段46としてもよい。例えば、筒状のカートリッジヒータを用いることができる。カートリッジヒータの場合は、試料管ホルダ40に適当な穴を設け、そこに挿入して用いることができる。試料管10に収容された試料20を加熱することができればこれら以外のヒータでもよい。なお、加熱手段46の温度モニタ及び制御のための図示されない温度センサがホルダ本体42に設置される。この制御は後述する制御部90によって行われる。
【0032】
当て板48は、加熱手段46がホルダ本体42から外れないようにし、また、加熱手段46であるヒータが露出しないようにするカバーである。当て板48は、適当な耐熱性と耐低温性を有する材料を用い、加熱手段46が巻き付けられたホルダ本体42の全体を包み込むように、底部を有する円筒形状で構成される。また、当て板48の底部とホルダ本体42の底部は適当な止め具を用いて一体化される。
【0033】
上記では、保持部44の内径と試料管10の外径との間の隙間量が適切に設定されるものとしたが、ホルダ本体42に予め設けられた保持部44の内径に必ずしも適合しない試料管10を用いたい場合が生じる。
図4は、そのような場合に適した構成を示す図である。
【0034】
図4(a)は、ホルダ本体42に設けられた複数の保持部44の内径がいずれも同じD1であるときの場合である。
図4(a)において、右側の保持部44に挿入された試料管10の収容部16の外径d1は、D1に挿入したときに適切な隙間量となるものである。例えば、D1が19mm、試料管10の収容部16の外径d1が17mmで、この間の隙間量が1mmと適切である。この場合には、保持部44にそのまま試料管10を保持させる。
図4(a)において、左側の保持部44に挿入しようとする試料管10の収容部16の外径d2は、D1に挿入したときに不適切な隙間量となるものである。例えば、試料管10の外径d2が7mmで、このままD1が19mmの保持部44に挿入すると、この間の隙間量が12mmとなって不適切となる。この場合には、保持部44に、外径17mm、内径9mmのスリーブ45を取り付ける。このようにすることで、スリーブ45の内径9mmと試料管10の外径7mmの間の隙間量が1mmと適切なものとなる。このように、外径を保持部44の内径D1に合わせ、内径が互いに異なるスリーブ45を複数種類用意することで、形状の異なる複数の試料管10に対応することができる。
【0035】
図4(b)は、ホルダ本体42に設ける複数の保持部44の内径を互いに異ならせておく構成を示す図である。
図4(b)において、右側の保持部44の内径D1は、19mmで、外径d1が17mmの試料管10に適合できる。左側の保持部44の内径D2は9mmに設定されているので、外径d2が7mmの試料管10に適合できる。このように、互いに内径の異なる複数の保持部44を有することで、形状の異なる試料管10に対応することができる。
【0036】
上記では、保持部44は、ホルダ本体42の上面に対し垂直方向の穴としているが、保持部44は試料管10が保持されればよいため、試料管10の挿入方向はホルダ本体42の上面部に対して垂直方向でなくてもよい。
【0037】
再び
図1に戻り、収容器50は、冷媒53を満たすための冷媒容器であるが、冷媒53と共に試料管ホルダ40を収容することができる内容積を有する容器である。冷媒53の種類は、吸着質によって選定されるが、吸着質が窒素ガスのときは、冷媒53を液体窒素とすることが一般的である。以下では、冷媒53を液体窒素として説明を続ける。
【0038】
収容器50は、上部が下部より狭くなる開口を有する先細りの容器である。このように開口に向かって先細りの形状を用いることで、冷媒53が収容器50の外へ揮発して放出されるのを抑制できる。開口の内径は、試料管ホルダ40と冷媒導入部54の先端部とが出入可能な大きさに設定される。かかる収容器50としては、デュワー瓶を用いることができる。冷媒53の温度に耐える耐低温性と、熱伝導と熱放射を防ぐ断熱性を有するものであれば、デュワー瓶以外の容器を用いてもよい。
【0039】
また、次に述べる昇降部52の機能により、収容器50は、加熱手段46が加熱を行っているときには、試料管ホルダ40を収容する位置にあるように設定される。このように、収容器50は、高温の試料管ホルダ40に人が誤って触れないための保護機能も有する。
【0040】
昇降部52は、試料管ホルダ40に対して相対的に収容器50を昇降させる昇降機である。昇降部52は、本体部32において筐体34の上下方向に沿って配置され、制御部90の制御の下で、上下に昇降する収容器保持台51を備える。
図1では、収容器50の様子を示すために、収容器保持台51は輪郭線のみが示されている。
【0041】
試料管ホルダ40は筐体34に対して固定位置を取るので、昇降部52は、試料管10の着脱のために適した着脱位置と、試料管ホルダ40を収容器50の内部に収容する収容位置との間で、収容器保持台51および収容器50を昇降させる。昇降部52の動作は、制御部90の制御の下で行われる。
図1では、昇降部52によって、収容器50が収容位置に上昇した状態が示されている。この収容位置は、試料管10を取り付けた状態の試料管ホルダ40が試料管10を保持する部分を収容器50内の冷媒53に浸漬させる位置である。
図1の破線の状態が、昇降部52によって、収容器50が着脱位置に降下した状態である。
【0042】
このように、昇降部52は、収容器50を下降させて着脱位置として、試料管10を接続配管64の取付部66に取り付け、取り付けた状態の試料管10を試料管ホルダ40に保持させる。また、収容器50を上昇させて収容位置として、収容器50の中に試料管ホルダ40を収容して加熱手段46を作動させ、また、加熱手段46の作動を停止した後は、冷媒タンク55から冷媒導入部54を介して冷媒53を収容器50に注ぎ、収容器50の中に収容された試料管ホルダ40の周りを冷媒53で満たす。
【0043】
冷媒導入部54は、収容器50に所定の冷媒を導入するための管である。冷媒導入部54の先端部は、収容器50の開口の中に向かうように配置される冷媒導入口であり、他方端は、冷媒53が充填される冷媒タンク55に接続される。一方端と他方端との間に設けられる冷媒用の開閉弁56の開閉動作は、制御部90の制御の下で行われる。冷媒導入部54は、試料管ホルダ40が収容された収容器50に所定の冷媒53を導入することが好ましい。ただし、場合によっては、冷媒導入部54は、収容器50が昇降部52によって昇降する任意の位置において冷媒導入を行うこともできる。
【0044】
飽和蒸気圧管73は、一方端に端部開口を有する細長い管で、他方端が底部を有する容器である。飽和蒸気圧管73は過剰の吸着質が収容され、飽和蒸気圧管73を冷媒53に浸漬したときの吸着質の飽和蒸気圧を実測するために用いられる。ここでは吸着質は窒素である。
図1では、飽和蒸気圧管73は試料管10より離れたところに配置されるが、実際は3本の試料管10に囲まれた中央部に置かれることが好適である。飽和蒸気圧管73の端部開口は配管部60を介して試料管10と、後述する吸着質供給部82、排出部86と接続される。飽和蒸気圧管73は、内径2mmでその材質はステンレスとすることができる。
【0045】
検定用ガス供給部78は、試料管10の死容積を予め検定するためのガスを供給するガス源である。ここでは、検定用ガスはヘリュームガスであるので、検定用ガス供給部78はヘリュームガスボンベである。
【0046】
吸着質供給部82は、試料20に対する吸着特性を測定する対象物である吸着質を供給するガス源である。ここでは、吸着質は窒素ガスであるので、吸着質供給部82は窒素ガスボンベである。
図1では、吸着質供給部82が1つ示されているが、対象吸着質の種類が複数ある場合には、複数の吸着質供給部が設けられる。
【0047】
排出部86は、試料管10とマニホールド62の内部を減圧するための排気装置である。排出部86の動作は制御部90の制御の下で行われる。排出部86を作動させることで、例えば、試料管10の中の試料20が加熱されて初期吸着質が除去されたときに、これらを外部に排出することができる。排出部86としてはロータリポンプを用いることができる。吸着特性測定の目的によっては、ターボ分子ポンプを用い、ロータリポンプを補助ポンプとして用いるものとしてよい。
【0048】
配管部60は、マニホールド62を介して、試料管10、飽和蒸気圧管73、検定用ガス供給部78、吸着質供給部82、排出部86をそれぞれ互いに接続して連結するために設けられる複数の配管である。配管部60には、制御部90の下で作動する複数の開閉弁70,71,76,80,84が設けられる。
【0049】
配管部60のうち、試料管10とマニホールド62との間に設けられる接続配管64は、
図2に関連して説明した。すなわち、接続配管64は、試料管10の端部開口12が取り付けられる取付部66を一方端に有し、他方端には、マニホールド62に接続する試料管ポート75を有する。取付部66と試料管ポート75の間には試料管用の開閉弁70が直列に接続配置される。取付部66と開閉弁70との間の配管に試料管用の圧力トランスデューサ74が接続される。
【0050】
また、飽和蒸気圧管73とマニホールド62との間には飽和蒸気圧管用の開閉弁71が直列に接続配置される。また、飽和蒸気圧管73と飽和蒸気圧管用の開閉弁71との間の配管に飽和蒸気圧管用の圧力トランスデューサ72が接続される。
【0051】
検定用ガス供給部78とマニホールド62との間の配管には、制御部90の制御の下で作動する検定用ガス供給部用の開閉弁76が設けられる。
【0052】
配管部60のうち、吸着質供給部82とマニホールド62との間の配管には、制御部90の制御の下で作動する吸着質用の開閉弁80が設けられる。吸着質供給部82が複数ある場合には、それぞれの吸着質供給部82に対応して吸着質用の開閉弁80が設けられる。同様に、排出部86とマニホールド62との間の配管には、制御部90の制御の下で作動する排出部用の開閉弁84が設けられる。
【0053】
マニホールド62は、開閉弁70,71,76,80,84のそれぞれの一方端を互いに接続した箱形状の容器である。箱形状の容器に代えて、開閉弁70,71,76,80,84のそれぞれの一方端を互いに接続した屈曲管路でマニホールド62を構成してもよい。マニホールド62に接続される圧力トランスデューサ63は、マニホールド62の内部圧力を検出するためのものである。検出された圧力は、吸着特性出力部88に伝送される。マニホールド62を含む配管部60は、温度調整された槽に収容され、所定の温度に維持されることが好ましい。
【0054】
吸着特性出力部88は、マニホールド用の圧力トランスデューサ63が検出するマニホールド62の内部圧力の変化、試料管用の圧力トランスデューサ74が検出する試料管10の内部圧力の変化等に基づいて、試料管10に収容される試料20の吸着量等を算出し吸着出力特性として出力するコンピュータである。出力される吸着特性としては、吸着量、試料20が粉粒体であるときの試料20の比表面積、細孔分布等である。吸着特性の算出には、マニホールド62の内部圧力の変化と試料管10の内部圧力の変化とに基づいて吸着量等を算出するプログラムが用いられる。なお、吸着特性出力部88の機能を制御部90の機能の一部とし、制御部90と同じコンピュータで構成してもよい。
【0055】
制御部90は、これら各要素の動作を統合して制御する装置である。特に、本体部32における加熱手段46、昇降部52、冷媒用の開閉弁56、配管部60における試料管用の開閉弁70、飽和蒸気圧管用の開閉弁71、検定用ガス供給部用の開閉弁76、吸着質用の開閉弁80、排出部用の開閉弁84の動作を制御し、前処理と吸着特性測定処理を一貫して行う制御を実行する。かかる制御部90は、コンピュータで構成できる。
【0056】
制御部90は、昇降部52の昇降動作を制御する昇降処理手順92、加熱手段46と排出部86と開閉弁84の動作を制御する初期吸着質除去処理手順94、冷媒53を導入する冷媒導入処理手順96、吸着特性測定処理手順98を実行する機能を有する。なお、吸着特性測定処理手順98の実行によって取得される試料管用の圧力トランスデューサ74が検出する圧力等は吸着特性出力部88に伝送されて処理される。かかる機能は、ソフトウエアで実現でき、具体的には、前処理測定一貫処理プログラムを実行することで実現できる。
【0057】
上記構成の作用、特に制御部90の各機能について、
図5から
図11を用いて詳細に説明する。
図5は、吸着特性測定方法の手順を示すフローチャートである。
図6は、吸着特性測定における各要素の動作を示すタイムチャートである。
図6の横軸は時間、縦軸には、上段側から下段側に向かって、試料管取付取外し、昇降部52、加熱手段46、開閉弁70、開閉弁84、開閉弁56、開閉弁80、吸着特性測定が順にとられている。
図7から
図11は、本体部32の部分を抜き出して、各手順の内容を示す図である。
【0058】
図5は、吸着特性測定方法の手順を示すフローチャートである。破線の枠で示すS10とS30は、測定者の手作業で行われるが、それ以外の手順は、制御部90によって実行される。制御部90によって実行される各手順は、前処理測定一貫処理プログラムの各処理手順に対応する。
【0059】
最初に、試料管10へ試料20を収容する。そして、試料20が収容された試料管10の端部開口12を、接続配管64の取付部66に取り付ける(S10)。この工程は、測定者の手作業で行われる。取付部66への取り付けは、試料管10の端部開口12を取付部66へ挿入し、リング状の固定ネジで締め付けることで行われる。
【0060】
図6では、最上段の試料管取付、取外しにおいて、時間t
0で試料管10が取付状態になったことが示されている。
図7は、試料管10の取付前を示す図で、
図8は、試料管10の取付後を示す図である。ここでは、昇降部52は試料管ホルダ40に対して下方の位置にあり、取付部66に試料管10を取り付けする作業がしやすい。この位置が、収容器50の着脱位置である。また、
図3に関連して説明したように、試料管10の取り付けを容易にするため、試料管ホルダ40の保持部44には、試料管10に対して1mm程度の隙間量が設定されている。
【0061】
時間t
0において試料管10が取り付けられ、試料管ホルダ40に保持されると、適当な時間をおいて、以後は、制御部90が前処理測定一貫処理プログラムを実行して、自動的に処理が進行する。
【0062】
再び
図5に戻り、収容器50が上昇する(S12)。この工程は、制御部90の昇降処理手順92を実行することで行われる。昇降部52は、試料管ホルダ40がその内部に収容される位置まで収容器50を上昇させる。この位置が、収容器50の収容位置である。
図9は、昇降部52によって収容器50が上昇して収容位置となったことを示す図である。
図6では、時間t
0から適当な時間の後、時間t
1において、昇降部52が収容器50を収容位置まで上昇させたことが示される。前処理測定一貫処理プログラムは時間t
0の前に立ち上げておいてもよく、時間t
0から時間t
1の間に立ち上げてもよい。S12は、測定者が制御部90の制御開始ボタン等を押すことで開始する。
【0063】
次に、試料管10に収容されている試料20の初期吸着質の除去が行われる。この処理は、制御部90の初期吸着質除去処理手順94を実行することで行われる。この工程は、
図5において、試料管加熱(S14)、開閉弁70,84の開弁(S16)、初期吸着質排出(S18)の3つの手順で示される。
【0064】
S14では、制御部90の制御により加熱手段46が作動され、制御部90からの指令によって所定の加熱温度に加熱される。場合によっては、ホルダ本体42に温度検出部を設け、加熱手段46による加熱が所定の加熱温度に保たれるよう制御することもできる。加熱温度は測定する試料20によって変化するが一般的に室温から550℃の間で行われる。
図6では、時間t
2において、加熱手段46がONされて作動することが示される。時間t
1から時間t
2までの時間は、収容器50が昇降する時間と、収容器50が収容位置に到達したことを検出して加熱手段46をONするまでの時間である。収容器50が収容位置に到達したことは、昇降部52に設けられる位置検出センサによって検出される。
図10は、加熱手段46が作動されることを示す図である。
【0065】
加熱手段46が作動すると、ホルダ本体42の温度が上昇し、試料管10および試料20が加熱される。試料管10は、例えば、約400℃に加熱されるが、ホルダ本体42は収容器50の内部に収容されているので、測定者が誤って熱いホルダ本体42に接触することはない。
【0066】
S16では、試料管用の開閉弁70が閉状態から開状態とされ、排出部用の開閉弁84が閉状態から開状態とされる。これと並行して、排出部86の作動が開始する。これによって、試料管10の内部は、マニホールド62を介して排出部86と連通状態になる。
図6では、時間t
3において、開閉弁70がOFFからONとなり、開閉弁84もOFFからONとなることが示される。開閉弁70,84がONする順序は同時でもよく、いずれかを先にONするものとしてもよい。S14からS16へは、適当な時間をおいて制御部90が自動的に遷移させる。
【0067】
S18では、排出部86が作動し、開閉弁70,84が共にONしている期間に、試料20の初期吸着質が加熱によって除去され、除去された初期吸着質が排出部86を経て、外部に排出される。初期吸着質が十分に除去されるのに必要な時間が経過すれば、開閉弁70,84が開状態から閉状態に戻される。
図6では、時間t
4において開閉弁70,84が共にOFF状態に戻るが、時間t
3から時間t
4の間が、初期吸着質の除去期間である。初期吸着質の除去期間は、試料20の履歴等に応じて予め制御部90に入力される。初期吸着質の除去期間の一例を上げると、約4〜5時間である。
【0068】
初期吸着質の除去期間が終了すると、加熱手段46の作動が停止される。
図6では、時間t
4から適当な時間を経た時間t
5において、加熱手段46がOFFされることが示されている。
【0069】
再び
図5に戻り、次に冷媒導入が行われる(S20)。この工程は、制御部90の冷媒導入処理手順96を実行することで行われる。冷媒導入は、冷媒用の開閉弁56を閉状態から開状態とすることで行われる。加熱手段46がOFFすることでホルダ本体42の温度は低下を始めるが、冷媒導入はホルダ本体42及び試料管10の耐熱性を考慮して、ホルダ本体42及び試料管10の温度が高い状態でも、適当な時期に始めることができる。ただし、試料管10の放熱を待ち、冷媒導入を行うことが好ましい。
図6では、加熱手段46がOFFする時間t
5に、開閉弁56がOFFからONとされる。この例では、加熱手段46のOFFと同時に、冷媒53が収容器50の内部に注入される。
図11には、冷媒導入部54の先端部から冷媒53が収容器50の内部に注入される様子が示される。
【0070】
冷媒導入は、冷媒53が収容器50の内部に配置されているホルダ本体42の周りを十分に満たすだけ注入されると終了する。冷媒53が収容器50の中に十分に注入されたことは、時間管理で行われる。収容器50に液面センサが設けられる場合は、液面センサの検出値に基づいて、冷媒53の注入量が適切か否かを判断することもできる。冷媒53が収容器50の内部に十分に注入されたと判断されると、冷媒用の開閉弁56が開状態から閉状態に戻される。
図6では、時間t
6において、開閉弁56がONからOFFとされる。この場合、時間t
5から時間t
6の間が冷媒導入期間である。また、冷媒導入は吸着特性測定中に行ってもよく、従来は収容器50の冷媒保持時間に依存していたものが、冷媒タンク55の容量により長時間の測定が可能となる。
【0071】
次に吸着特性測定が行われる。この工程は、制御部90の吸着特性測定処理手順98を実行することで行われる。この工程は、
図5において、開閉弁80の開閉(S22)、対象吸着質供給(S24)、吸着特性測定(S26)の3つの手順で示される。また一般的に吸着特性評価の前に、液体窒素温度で吸着しないとされるヘリュームガスを用いて試料管10の死容積をあらかじめ検定する手順が入る事がある。試料管部死容積は吸着量計算に必要であり、事前測定、吸着特性評価前、吸着特性評価後のいずれかにて測定してよい。
【0072】
S22では、試料管用の開閉弁70を閉状態のまま吸着質用の開閉弁80を開状態として対象吸着質をマニホールド62に導入する。導入量は、マニホールド用の圧力トランスデューサ63により計算する。導入が終了すると開閉弁80を閉状態とする。
図6では、冷媒導入期間が終了した時間t
6から時間t
7の期間において開閉弁80がON状態となり、対象吸着質の導入が行われることが示される。
図6では冷媒導入期間の終了を待って開閉弁80がONされるが、場合によっては、冷媒導入期間の終了を待たずに開閉弁80をONし、冷媒導入に並行してマニホールド62への対象吸着質の供給を行ってもよい。
【0073】
S24においては、試料管用の開閉弁70を開状態とし、マニホールド62に導入されていた対象吸着質を試料管10に導入し試料20に対して対象吸着質を吸着させる。
図6では、時間t
7から適当な時間を経た時間である時間t
8から時間t
9の間の期間が試料20に対して対象吸着質を供給し吸着させる期間である。
【0074】
S26の吸着特性測定は、試料管用の圧力トランスデューサ74の圧力検出値が変化しなくなったことを確認後、試料管用の圧力トランスデューサ74により対象吸着質の残量を算出し、導入量と残量から吸着質量を計算する。また、上記圧力検出値が変化しなくなった時である吸着平衡時に、事前に過剰の窒素ガスを導入し液化した液体窒素を収容する飽和蒸気圧管73を、試料20を収容した試料管10が浸漬されているのと同じ冷媒53に浸漬させ、飽和蒸気圧管用の圧力トランスデューサ72により飽和蒸気圧を測定してもよい。飽和蒸気圧は液体窒素の温度により変化し、飽和蒸気圧を実測することにより、より正確な吸着等温線を測定し、正確な比表面積並びに細孔分布を計算することが可能である。
【0075】
また、対象吸着質をマニホールド62へ供給し、マニホールド62に供給された対象吸着質を試料管10に収容された試料20へ供給するために開閉弁80及び開閉弁70の開閉を複数回行い、測定する圧力を上昇させ複数の吸着測定点を測定する。
図6では、時間t
6から時間t
10までの期間が、開閉弁80及び開閉弁70の開閉を複数回行い圧力トランスデューサ検出値の取得が行われ測定処理を終了するまでの期間である。場合によっては、開閉弁84を開状態とし、マニホールド62の圧力を下げ、圧力を下げた脱着測定点を測定することも可能である。
【0076】
再び
図5に戻り、吸着特性測定処理が終了すると、収容器50が初期の着脱位置に下降する処理が行われ(S28)、ついで、測定済みの試料管10の取外しが行われる(S30)。
図6では、時間t
11において昇降部52が作動して収容器50を着脱位置に下降させることが示され、その後、測定者の手作業で試料管10の取外しが時間t
12で行われることが示される。
【0077】
以上のように、上記構成の吸着特性測定装置30によれば、試料管10を保持し加熱手段46を有する試料管ホルダ40と、試料管ホルダ40が収容された収容器50に冷媒53を導入する冷媒導入部54とを備えるため、測定者は取付部66へ試料管10を取り付けた後は、制御部90による前処理測定一貫処理プログラムの実行によって、前処理から吸着特性測定までを一貫して行うことができる。また、試料管10を着脱しないことにより吸着特性測定前に試料管10に接続される接続配管64を再度、真空排気する必要が無く、測定時間が短縮できる。