(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
反応容器内に、被覆処理基材を保持し、その容器内に、抗菌性金属を含む有機化合物のガスを導入するとともに、該基材を負電位として高周波電力と高電圧パルスとを重畳印加して、上記有機化合物のガスのプラズマを発生させることにより、アモルファス状の炭素・水素固形物の微粒子を気相析出させると同時に、上記抗菌性金属の超微粒子を共析させ、これらを該基材の表面に付着させて、抗菌性金属微粒子含有DLC膜を形成し、次いで該抗菌性金属超微粒子含有DLC膜の表面を、研磨機、研磨紙もしくはプラズマCVD装置を用いてArガスイオンによるイオンボンバードメント処理してミクロ的に削ることにより、このDLC膜中に含まれている抗菌性金属超微粒子の外気への接触割合を多くする処理を行うことを特徴とする抗菌性DLC膜被覆部材の製造方法。
抗菌性金属の超微粒子を含む前記DLC膜は、C:85〜60at%およびH:15〜40at%の組成からなるアモルファス状の炭素・水素固形物の気相析出蒸着膜であって、この膜中には銀、銅、金、白金、亜鉛、錫のうちから選ばれる抗菌性金属が1×10−9m以下の超微粒子の状態で、1〜30at%の割合で共析して分散含有しており、かつ、0.5〜20μmの膜厚となるように成膜されたものであることを特徴とする請求項1に記載の抗菌性DLC膜被覆部材の製造方法。
前記基材は、金属材料または電気伝導性を有する非金属製材料もしくはこれらの材料表面にさらに、セラミック焼結体、溶射皮膜、電気めっき皮膜、PVD皮膜、CVD皮膜、陽極酸化皮膜および再溶融処理皮膜のうちから選ばれるいずれか1種以上のアンダーコート層を有する材料からなることを特徴とする請求項1または2に記載の抗菌性DLC膜被覆部材の製造方法。
前記基材の表面に、電気めっき法、CVD法およびPVD法から選ばれるいずれか1種以上の方法によって、膜厚0.5〜5μmのニッケル、銅、亜鉛および錫から選ばれるいずれか1種以上の金属皮膜を形成し、その金属皮膜面に膜厚:0.5〜20μmの抗菌性金属の超微粒子を含む前記DLC膜を形成し、その後、該DLC膜を剥離して粘着性を有するテープに貼り付けることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載の抗菌性DLC膜被覆部材の製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、炭化水素系ガスを成膜用材料として、炭素・水素固形物の気相析出蒸着膜が実用化され、多くの産業分野において利用されている。この炭素と水素を主成分とする硬質の膜とは、アモルファスながらダイヤモンド構造(PS3構造)とグラファイト構造(SP2構造)とが混在したものであって、ダイヤモンドライクカーボン、所謂、DLC膜と呼ばれている。
【0003】
このDLC膜は、硬質で優れた耐摩耗性を有することから、当初は切削工具類や摺動部材、回転部材の表面に施工されていたが、最近では、その他の産業分野における表面皮膜としても採用されている。
【0004】
また、このDLC膜は、無気孔の状態に成膜されたものだと、酸やアルカリあるいはハロゲン化合物などに対して卓越した耐食性を発揮することから、半導体加工装置用部材の表面皮膜として有用であり、この分野において、耐食性の向上、あるいは酸や純水による洗浄時において良好な汚染物質除去作用を示す皮膜として利用されている(特許文献1〜7)。
【0005】
さらに、このDLC膜としては、CとHからなる構造のものに、Fを結合させたCF
2基やCF
3基を付与することによって、皮膜に一段と高い潤滑性と親水性とを付与する技術(特許文献8〜15)も開示されている。これらの技術は、磁気ディスクや医療用器材の分野で利用されている。その他、DLC膜の優れた滑り特性は、樹脂形成用金型の表面処理技術として開発されている(特許文献16、17)。
【0006】
一方、DLC膜を形成するための方法やその装置に関する研究も盛んに行われている。最近では、イオン化蒸着法やアークイオンプレーディング法、高周波・高電圧パルス重畳型成膜法、プラズマブースター法、プラズマCVD法などのDLC膜形成方法とそのための装置などが開発されている。これらの方法によって形成されるDLC膜は、硬質で耐摩耗性に優れたアモルファス状の皮膜になる点では共通している。しかし、複雑な形状を有する被処理体に対して均一に成膜できるか否かについては差があり、課題が残っていた。ただし、前記高周波・高電圧パルス重畳型のプラズマCVD方法は、膜厚の均等な被覆形成性能を有し、初期残留応力の小さいDLC膜の形成が可能である。
【0007】
発明者らは、高周波・高電圧パルス重畳型プラズマCVD法(以下、「プラズマCVD法」と略記する)の適用により、従来型DLC皮膜の膜質や硬度、摩擦係数などの機械的特性の改良、適用範囲の拡大により、汎用的な工学分野への展開を進めてきた。その結果、上記プラズマCVD法の適用によって形成されたDLC膜は、残留応力が小さく、硬さこそ他の方法で得られるDLC膜に比較して低いものの、複雑形状の部材に対しても、均一なDLC膜を形成できる上で有効である。例えば、この技術は、半導体加工装置用部材への耐食、耐プラズマ・エロージョン性(特許文献18〜20)や溶射皮膜の開口気孔への充填(特許文献21、22)、ポンプインペラー、圧縮機翼などの防食、防汚対策(特許文献23〜26)などの付与を目的とした技術に応用できることを提案してきた。
【0008】
一方、DLC膜の適用分野として、医療用被覆材がある。例えば、特許文献27には、医療用材料において、皮膚に接する面側に抗菌性(細菌の発育・繁殖を防ぐ性質)を有する金属からなる抗菌性膜が開発され、その抗菌性膜の外側に抗菌膜が部分的に露出する状態で、0.5〜5μm以下のDLC膜を形成する方法が提案されている。また特許文献28では、銀、銅、亜鉛などの抗菌性金属を担持したゼオライトとシリコンゴムからなる医療用被覆材を用いる技術が開示されている。
【0009】
さらに、特許文献29、30には、多孔質ポリオレフィンおよび熱可塑性ポリウレタンエラストマーからなる膜状被覆材の一方の表面に、親水性ポリマーを化学的に結合させ、該ポリマーに抗菌性金属を蒸着する方法が開示され、特許文献31には、可撓性高分子フィルム基材の表面に、銀、銅などの抗菌性金属薄膜を真空蒸着法によって形成した抗菌フィルムについての開示がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
DLC膜を医療用被覆材として適用する特許文献27に記載されているように、DLC膜の利用は、皮膚に接する側の面に、銀、銅などの抗菌性の金属膜が形成され、その外側にDLC膜が配設されている。また、特許文献28〜31に開示されているように、銀、銅などの抗菌性金属は、ゼオライト、シリコンゴム、多孔質ポリオレフィン、熱可塑ポリウレタンなどの有機質系の材料に含浸させたり、PVD法で薄膜状態で形成する方法であり、いずれの特許文献においても、これらDLC膜自体に抗菌性金属を付与(担持)させる技術ではない。
【0012】
特に、これらの文献のいずれにもDLC膜自体に抗菌性金属を保持させる技術の開示はなく、その効果についての評価も不明であった。しかも、これらの抗菌性金属、特に抗菌性金属を含むDLC膜については、医療用被覆材としての利用に限定されており、この技術を厨房用設備、例えば、食器棚、冷蔵庫、食品格納庫をはじめ、細菌による汚染やその増殖による汚染の拡大が懸念される貯水槽、風呂などの分野に適用した例は見当らない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、従来技術が抱えている前掲の課題を解決するため、以下のような手段を講ずる。
(1)本発明では、基材の表面にプラズマCVD法などによって、炭化水素系のガスを用いて、炭素と水素を主成分とするアモルファス状炭素・水素固形物の気相蒸着膜であるDLC膜を形成する際に、抗菌性を有する銀、銅などの微粒子を共析させて当該LC膜自体に抗菌性を保有させる。
(2)銀、銅などの前記抗菌性の金属微粒子を含むDLC膜の表面を機械的に研磨するか、あるいは、前記プラズマCVD装置を用いて、Arガス雰囲気中でArイオンによるボンバードメント処理(ArガスイオンをDLC膜の表面へ叩き付けてDLC膜の一部を削り込む)によって、抗菌性の金属微粒子が外気に直接触れる割合を大きくする。
(3)以上の操作を有効に利用するマトリックスとしてのDLC膜は、化学成分、炭素95〜60原子%、残余を水素とし、硬さHV:700〜2800、膜厚:1〜30μm、成膜時の残留応力:1GPa以下の緻密な膜とする。
(4)前記、物性値を有するDLC膜は、厚さ0.5〜30μmの範囲で成膜できるので、薄膜(例えば0.5〜3.0μm)は、主として医療用被覆材、それ以上の厚膜は、各種の厨房用や医療用機器部材などの高度な衛生環境が望まれる設備部材などへの抗菌性皮膜として利用することができる。
(5)また抗菌性金属としては、銀、銅に限定されず、金、白金、亜鉛、錫など、現在、抗菌作用が認められている金属のすべての利用が可能である。
(6)抗菌性金属の微粒子を含むDLC膜を形成する際の基材の表面には、予めニッケル、銅および亜鉛などの金属イオン注入層や金属めっき膜、CVD膜、PVD膜を設けると共に、その上に前記DLC膜を形成した上でそのDLC膜を剥離して粘着性テープの上に貼着することによって、該抗菌性DLC膜をより薄膜化するとともに、DLC膜自体を基材面から剥離しやすくする。
(7)前記基材の表面に、電気めっき法、CVD法およびPVD法から選ばれるいずれか1種以上の方法によって、膜厚0.5〜5μmのニッケル、銅、亜鉛および錫から選ばれるいずれか1種以上の金属皮膜を形成し、その金属皮膜面に膜厚:0.5〜20μmの抗菌性金属の超微粒子を含む前記DLC膜を形成し、その後、該DLC膜を剥離して粘着性を有するテープに貼り付ける。
【0015】
即ち、本発
明は、反応容器内に、被覆処理基材を保持し、その容器内に、抗菌性金属を含む有機化合物のガスを導入するとともに、該基材を負電位として高周波電力と高電圧パルスとを重畳印加して、上記有機化合物のガスのプラズマを発生させることにより、アモルファス状の炭素・水素固形物の微粒子を気相析出させると同時に、上記抗菌性金属の超微粒子を共析させ、これらを該基材の表面に付着させて、抗菌性金属微粒子含有DLC膜を形成
し、次いで該抗菌性金属超微粒子含有DLC膜の表面を、研磨機、研磨紙もしくはプラズマCVD装置を用いてArガスイオンによるイオンボンバードメント処理してミクロ的に削ることにより、このDLC膜中に含まれている抗菌性金属超微粒子の外気への接触割合を多くする処理を行うことを特徴とする抗菌性DLC膜被覆部材の製造方法である。
【0016】
なお、前記のように構成された本発明においては、
(1)前記DLC膜は、C:85〜60at%およびH:15〜40at%の組成からなるアモルファス状炭素・水素固形物の気相蒸着膜であって、この膜中には抗菌作用を有する金属として銀、銅、金、白金、亜鉛および錫から選ばれる1種以上の金属微粒子を1〜30at%分散含有しており、かつ0.5〜20μmの膜厚を有すること、
(
2)前記DLC膜は、プラズマCVD法によって形成されて、残留応力:1GPa以下、硬さHV:800〜2800の物性を有する可撓性の膜であること、
(
3)前記基材は、金属材料もしくは電気伝導性の非金属材料もしくはこれらの材料の表面にさらに、溶射皮膜、めっき皮膜、PVD法、CVD法、陽極酸化皮膜のうちから選ばれるいずれか1種以上の電気伝導性のアンダーコートを形成した材料によって構成されていること、
(
4)抗菌性金属の超微粒子を含む前記DLC膜は、C:85〜60at%およびH:15〜40at%の組成からなるアモルファス状の炭素・水素固形物の気相析出蒸着膜であって、この膜中には銀、銅、金、白金、亜鉛、錫のうちから選ばれる抗菌性金属が1×10
−9m以下の超微粒子の状態で、1〜30at%の割合で共析して分散含有しており、かつ、0.5〜20μmの膜厚となるように成膜されたものであること、
(
5)前記基材は、金属材料または電気伝導性を有する非金属製材料もしくはこれらの材料表面にさらに、セラミック焼結体、溶射皮膜、電気めっき皮膜、PVD皮膜、CVD皮膜、陽極酸化皮膜および再溶融処理皮膜のうちから選ばれるいずれか1種以上のアンダーコート層を形成した材料からなるものであること、
(
6)前記基材の表面に、DLC膜の主成分を構成する炭素との化学的結合力の小さいニッケル、銅、亜鉛および錫から選ばれるいずれか1種以上の金属イオンを1×10
5〜1×10
10イオン/cm
2の割合で注入処理し、そのイオン注入面に膜厚0.5〜20μmの抗菌性金属の超微粒子を含む前記DLC膜を形成し、その後、該DLC膜を剥離して粘着性を有するテープに貼り付けること、
(
7)また、前記金属イオンの注入処理に代えて、前記基材の表面に、電気めっき法、CVD法およびPVD法から選ばれるいずれか1種以上の方法によって得られる膜厚0.5〜5μmのニッケル、銅、亜鉛および錫から選ばれるいずれか1種以上の金属皮膜を形成し、その金属皮膜面に膜厚:0.5〜20μmの抗菌性金属の超微粒子を含む前記DLC膜を形成し、その後、該DLC膜を剥離して粘着性を有するテープに貼り付けると、成膜時の僅かな残留応力(0.5GPa以下)であっても、厚く成長することなく自然に剥離する現象が発生する。そこで、本発明では、この現象を利用することによって、基材として粘着性の布状テープにこの膜を貼着することで、前記金属イオン注入処理法の場合とともに、該テープに裏打ちされたテープ状の抗菌性金属超微粒子を含むDLC薄膜を製造すること、
が、より好ましい解決手段となることが予想される。
【発明の効果】
【0017】
前記のような構成を有する本発明については、次のような効果が期待できる。即ち、本発明によれば、
基材表面に形成するDLC膜の表面に、銀、銅などの抗菌性を有する金属の微粒子を共析させて分散させた皮膜は、無臭で耐水性、耐食性、耐菌性である他、雑巾で拭いたり、消毒液、消臭液を含んだ布で清拭しても、抗菌性金属が、脱落することがなく、また、マトリックスとなるDLC膜自体も安定性に優れているため、長期間にわたって、優れた抗菌作用を発揮する。
(2)DLC膜中に含まれている抗菌性金属の微粒子は、すべて、1×10
−9m以下のナノメータサイズの微粒子であるため、各種の細菌類との接触面積が大きく、その抗菌作用の効果を飛躍的に向上させる。
(3)銀、銅などの前記抗菌性金属の微粒子を大量に共析・分散させることが可能なDLC膜の物性値を特定することに成功した。即ち、DLC膜の主成分を物理化学的に安定な炭素と水素とし、さらに炭素95〜60at%、残余を水素とすることによって、成膜直後の残留応力値を1GPa以下に制御し、このことによって、医療用被覆材などの薄膜(0.5〜3μm)から各種の医療用および厨房用品をはじめ介護用晶などの部材への被覆に適した厚膜にすることができる他、さらに、DLC膜の表面を機械的に研磨することが容易な皮膜硬さ(HV:700〜2800)のものを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
初めに、本発明において重要な役割を担うDLC膜、即ち、アモルファス状炭素・水素固形物からなる気相析出蒸着膜、および抗菌性を示す銀、銅、金、白金、亜鉛、錫などの超微粒子を含むDLC膜を形成するための気相析出蒸着膜装置について説明する。
【0020】
図1は、本発明において重要な役割を担うアモルファス状の炭素と水素とからなる微小粒子の堆積層からなる気相析出蒸着膜、いわゆるDLC膜を形成するための気相析出蒸着膜形成装置(即ち、プラズマCVD装置)を示ものである。このプラズマCVD装置は、接地された反応容器1と、この反応容器1内の所定に位置に配設される被処理基材2に接続される導体3と、この反応容器1内に成膜用の炭化水素ガスを導入する装置(図示せず)や反応容器1を真空引きする真空装置(図示せず)等を介して、高電圧パルスを印加するための高電圧パルス発生電源4等を備えてなるものである。そして、この装置には、また、被処理基材2の周囲に炭化水素系ガスプラズマを発生させるためのプラズマ発生用電源5が配設されている他、前記導体3および被処理基材2に高電圧パルスおよび高周波電圧の両方を同時に印加するために、高電圧パルス発生電源4およびプラズマ発生用電源5との間に重畳装置6が配設されている。なお、ガス導入装置および真空装置はそれぞれバルブ7aと7bを介して反応容器1に接続され、導体3は高電圧導入部9を介して重畳装置6に接続されている。
【0021】
上記装置を用い、電気導伝性の被処理基材2の表面に、DLCの微粒子を吸着させてこれらの堆積層を形成するには、被処理基材2を反応容器1内の所定の位置に設置し、真空装置を稼動させて該反応容器1中の空気を排出して脱気したあと、ガス導入装置によって有機系ガスを該反応容器1内に導入する。次いで、プラズマ発生用電源5からの高周波電源を被処理基材2に印加する。そうすると、反応容器1は、アース線8によって電気的に中性状態にあるため、被処理基材2は相対的に負の電位を有することになる。このため、印加によって発生する有機系ガスのプラズマ(低温プラズマに属し温度200℃以下)中のプラズマイオンは負に帯電した被処理基材2のまわりに発生することになる。
【0022】
この状態において、高電圧パルス発生電源4からの高電圧パルス(負の高電圧パルス)を被処理基材2に印加すると、有機系(炭化水素系)ガスプラズマ中のプラズマイオンの性質をもつDLCの微粒子が、該被処理基材2の表面に誘引吸着されることとなって付着堆積し、時間の経過にともなって膜状に成長して膜を形成する。即ち、反応容器1内では、最終的には炭素と水素とからなるDLCの微粒子が、被処理基材2のまわりに気相析出し、次第に基材表面に堆積してDLC膜を形成するものと考えられる。
【0023】
発明者らは、前記プラズマCVD装置(方法)によって、基材上にアモルファス状の炭素・水素微粒子が堆積した状態の気相析出蒸着膜、即ち、DLC膜が形成されるプロセスは、以下の(a)〜(c)を経て形成されるものと考えている。
(a)導入された炭素水素系ガスのイオン化(ラジカルと呼ばれる活性な中性粒子も存在する)が起こり、
(b)炭化水素系ガスから変化したイオンおよびラジカルは、負の電圧が印加された被処理体の面に衝撃的に衝突し、
(c)衝突時のエネルギーによって、結合エネルギーの小さいC−H間が切断され、その後、活性化されたCとHが重合反応を繰り返して高分子化し、炭素と水素を主成分とするアモルファス状の炭素・水素固形物を、基材の表面に気相析出する。
【0024】
上記装置では、高電圧パルス発生電源4の出力電圧を下記(a)〜(d)のように変化させることによって、被処理基材2に対して金属(Ti)等のイオン注入も可能である。特に基材やアンダーコートの表面に、Si、C、Taなどのイオンを注入しておくと、DLC膜の密着性が向上するので好適である。
(a)イオン注入を重点的に行なう場合:10〜40kV
(b)イオン注入と成膜形成の両方を行なう場合:5〜20kV
(c)皮膜形成のみを行なう場合:数百V〜数kV(金属Tiの微粒子を共析させる条件)
(d)スパッタリングなどで重点的に行なう場合:数百V〜数kV(DLC膜の表面をArイオンや研削する条件)
【0025】
なお、前記高電圧パルス発生電源4では、パルス幅:lμsec〜10μsecで、1〜複数回のパルスを繰り返し発生させることができる。また、プラズマ発生用電源5の高周波電力の出力周波数は、数十kHzから数十GHzの範囲で変化させることができる。
【0026】
この装置の反応容器1内に導入するDLC膜形成用の有機系ガスとしては、炭素と水素からなる炭化水素系ガスが好適である。例えば、次のようなものが用いることができる。
(イ)常温(18℃)で気相状態のもの;
CH
4、CH
2CH
2、C
2H
2、CH
3CH
2CH
3、CH
3CH
2CH
2CH
3
(ロ)常温で液相状状態のもの;
C
6H
5CH
3、C
6H
5CH
2CH、C
6H
4(CH
3)
2、CH
3(CH
2)
4CH
3
【0027】
なお、常温で気相状態の有機混合ガスはそのまま反応容器1内に導入できるが、液相状態のものについては、加熱しガス化させて上記反応容器1内に供給することによってDLC膜の形成が可能である。また、DLC膜を構成する炭素と水素の割合は、前記炭素水素系ガス成分の炭素と水素の割合を勘案することによって制御することができる。このため、成膜用の炭化水素ガスは、一種類だけでなく、必要に応じて2種類以上の混合ガスを使用することもできる。
【0028】
(1)DLC膜の残留応力
気相状態の炭化水素ガスから析出するDLC微粒子の堆積層であるDLC膜の場合は、必然的に残留応力が発生する。こうした残留応力を内臓するDLC膜は、膜厚が大きくなればなるほどその残留応力も大きくなる。そして、最終的には、その残留応力が膜の密着強さよりも大きくなると、DLC膜が剥離するに至る。現在、DLC膜の被覆形成法として多くの種類の装置やプロセスが開発されているが、その適用条件の一つとして、DLC膜の残留応力によって決定され限界膜厚がある。この点、本発明では、多くの水素(15〜40at%)を含有させることで、DLC膜がたとえ10μmを超えるような膜であったとしても、加熱処理を施すと、DLC膜と基材との熱膨張係数の差によって、膜に大きな熱応力が発生することになるので、この対策についての配慮が必要である。
【0029】
そこで、本発明では、まず、基礎となるDLC膜(マトリックス)本体の初期残留応力(成膜時の残留応力)の許容値を、次に示すような方法によって求めた。DLC膜の残留応力の評価は、
図2に示すように、試験片の一端を固定した短冊形の薄い石英基板21(寸法:幅5mm×長さ500mm×厚さ0.5mm)の一方の面にDLC膜22を形成し、成膜の前後の石英基板21の変位量(δ)を測定することによって、膜の残留応力を求めるが、具体的には、下記Stoneyの式によって残留応力(σ)を計算した。
【0030】
E:基板のヤング率=76.2GPa
v:基板のポアソン比=0.14
b:基板の厚さ=0.5mm
l:DLC膜が形成された基板の長さ
δ:変位量
d:DLCの膜厚
【0031】
表1は各種成膜プロセスによって形成されたDLC膜(水素15at%、炭素87at%)について、上記の方法によって初期残留応力値および熱処理後残留応力値を求めたものである。これらの結果から明らかなようにアークイオンプレーティング法、イオン化蒸着法などの方法で形成されたDLC膜の初期残留応力は13〜20GPaである。これに対し、本発明に係るプラズマCVD法で形成されたDLC膜の初期残留応力は0.3〜0.98GPaの範囲にある。つまり、本発明(プラズマCVD法に従う)に適合するDLC膜の初期残留応力は、1GPa以下の非常に小さい膜でなければならないことがわかる。
従って、水素を多量に含むプラズマCVD法によるDLC膜であれば、厚膜であっても、また、その後に熱処理するような場合でも、これらにも十分に順応することが可能であることがわかる。
【0032】
なお、表1に示すとおり、DLC膜の最大形成厚みは、水素含有量15at%のDLC膜を形成した場合、プラズマCVD法では、成膜時間は長くなるものの、厚さ50μm程度の膜厚のものを得ることができたが、他の成膜方法では3μm厚さ以上の膜の形成は困難であった。さらに、表1に示す各DLC膜の表面硬さを測定したところ、プラズマCVD方法により形成したDLC膜は、マイクロビッカーズ硬さ(HV)で1000程度と低いのに対し、他の方法で形成されたDLC膜の硬さは、測定していないが、約HV=3000程度以上であり、硬いのが普通である。これらの結果から判ることは、プラズマCVD法に比べ、イオンプレーティング法やイオン化蒸着に従うDLC膜の場合、DLC膜の硬さは大きく、DLC膜の成膜時における初期残留応力値もまた大きくなると考えられる。
【0034】
なお、DLC膜の初期残留応力測定後の試験片を拡大鏡で観察したところ、アークイオンプレーティング法およびイオン蒸着法で形成された膜には、微細な剥離が多数発生しており、曲げ応力や耐熱性に乏しい傾向も確認された。一方、DLC膜の残留応力は、1GPa程度以下にとどまっており、厚膜に適した皮膜であることが確認された。
【0035】
(2)抗菌性金属の超微粒子を含むDLC膜の形成方法
金属の超微粒子を含むDLC膜は、前記炭化水素系の化合物に抗菌性の金属元素を結合させた有機金属化合物を用いることによって形成できる。この有機金属化合物の大部分は、常温で液相状態を示すものが多い。したがって、液相状態の有機金属化合物を加熱してガス状とした後、反応容器1に導入して電圧を印加すると、
図3に示すように基材31の表面に形成されるDLC膜32中には抗菌性金属の超微粒子33が共析する。
【0036】
DLC膜中に共析する前記抗菌性金属粒子の大きさは、プラズマ環境中において、金属イオンとして存在し、これが、DLC膜中に金属の微結晶として存在するとすれば、抗菌性金属粒子の直径は、銀:2.88×10
−10m、銅:2.56×10
−10m、金:2.88×10
−10m、白金:2.78×10
−10m、亜鉛:2.66×10
−10m、錫:2.82×10
−10mとなる。
即ち、本発明に係るプラズマCVD法で形成されるDLC膜中に共析する抗菌性金属の大きさはすべて、1×10
−9m以下の超微粒子であるため、光学顕微鏡はもとより、電気顕微鏡でも個々の粒子を判別することは困難である。このような超微粒子の高濃度共析部では、その総面積は非常に大きくなり、高
い抗菌活性効率が期待されることになる。
【0037】
このような目的に使用される有機金属化合物としては、(C
2H
5O)
4M、(CH
3O)
4M、〔(CH
3)
4M〕
2O、などが好適であり、また、(C
11H
19O
2)(CH
12O
2)基にMを付加した化合物も利用できるので、有機金属化合物の種類を制限するものではない、(但し、前記有機化合物の組成式におけるMは、抗菌性金属を示す。)
【0038】
このようにして得られるDLC膜中の抗菌性の金属超微粒子の共析量は、3〜30at%の範囲が好適である。その理由は、共折畳が30at%以上では、品質管理が困難なうえ、これ以上濃度を上げても効果の向上が得られないためであり、一方、3at%未満では、金属微粒子はDLC膜の全体にわたって、均等に分布させることも可能であるが、本願発明の使用目的からみれば、皮膜の表層部近傍に多くの金属粒子を高濃度で共析させることによって、優れた抗菌性を発揮させることができる。
【0039】
また、抗菌性金属の超微粒子を共析したDLC膜の形成に際し、成膜の初期は、炭素と水素のみからなるDLC膜をアンダーコート的に被覆した後、引き続き、その上に抗菌性金属の超微粒子を含むDLC膜を形成することも可能である。このような構造を有するDLC膜では、共析する金属微粒子が基材との密着性を阻害するおそれをなくすことができる。
【0040】
(3)耐菌性金属の微粒子と共析したDLC膜の活性化処理法
前記操作で、DLC膜中に共析させた、銀または/および銅の微粒子の抗菌作用を高めるため、本発明は、該DLC膜の表面をダイヤモンド砥石やダイヤモンド粒子を研削材とする研磨紙などを用いて、DLC膜の一部を除去し、銀または/および銅の微粒子が外気への接触を高くす
る。
【0041】
また、前記のような機械的研磨工程に変えて、
図1に示したプラズマCVD装置を用いて、Arなどの不活性ガス雰囲気中でArイオンなどによるイオンボンバード処理(Arガスイオンを被処理体としての抗菌性金属の微粒子を含むDLC膜の表面に対して、衝突させ、そのエネルギーを利用してDLC膜の表面を削るもので、抗菌性金属の微粒子も多少脱落することがあったとしても、非常に高い抗菌作用が期待できる。)することによって、抗菌性金属粒子を外気に広く接する状態にする方法を採用してもよい。なお、以上のような方法によって処理したDLC膜は水洗いしたり、布で清拭したとしても、抗菌性金属粒子が除去されたり、脱落することが非常に少なく、優れた抗菌作用を長時間にわたって発揮する。
【0042】
なお、前記DLC膜表面の機械的な研削・研磨加工およびArイオンによるボンバード処理は、本発明に係るDLC膜の使用初期のみに限定されるものでなく、一定期間使用した後のDLC膜に対しても、適用できる処理できる。
【0043】
(4)DLC膜を形成するための基材
前記低残留応力のDLC膜を形成するための基材としては、炭素鋼、高・低合金鋼、ステンレス鋼などの鉄鋼材料、Al及びその合金、Ti及びその合金などの非鉄金属材料をはじめ、グラファイト、焼結炭素などの非金属材料が好適である。その他、プラスチック系高分子材料、セラミックス材料などの電気伝導率の低い材料に対しては、その表面に電気めっき法、化学めっき法(無電解めっき法)、溶射法、PVD法、CVD法などによって、金属皮膜やサーメット皮膜などの電気伝導性の皮膜、即ち、アンダーコートを施してなる材料を基材として、その上にDLC膜を施工することが好ましい。
【0044】
(実施例1)
この実施例では、ステンレス鋼基材の表面に形成したDLC膜(アモルファス状炭素・水素固形物層)の水素含有量と基材の曲げ変形に対する密着性を調査した。
(1)供試基材および試験片
供試基材として、SUS304鋼(寸法:幅15mm×長さ70mm×厚さ1.0mm)を用い、その全面をパフ研磨によって鏡面状態(Ra:1μm以下)に仕上げた。
(2)DLC膜の形成方法
前記試験片の全面にわたって、DLC膜を1.5μmの厚さに形成した。また、DLC膜中の水素含有量を5at%〜50at%(残部は炭素)の範囲に制御したものを用いたが、本発明に係る抗菌性金属として、銀の微粒子を5at%含有するDLC膜を1.5μmの厚さに形成し、銀の微粒子を含まないDLC膜を比較例として、両者を同一条件で、曲げ変形試験に供した。
(3)試験方法およびその条件
DLC膜を形成した試験片の中央部を支点として、90°の曲げ変形を与え、曲げ部のDLC膜の外観状況を20倍の拡大鏡で観察し、DLC膜の割れ、剥離の有無などを調査した。
(4)試験結果
試験結果を表2に要約して示した。この表に示す結果から明らかなように、DLC膜の水素含有量が少なく、炭素含有量の多い試験片(No.l〜4)では、皮膜の硬さが大きく(HV:3000以上)また成膜時の残留応力値も高くなっていることもあって、90°曲げ試験後の皮膜は剥離したり、基材から局部的に浮き上がる現象が認められた。
これに対して、水素含有量を13〜50at%以上(No.5〜16)含むDLC膜では、曲げ変形成によって、剥離せず、良好な密着性を発揮した。
なお、上記の曲げ変形に対するDLC膜の密着性は、銀の微粒子の含有の有無に関係することがないことから、抗菌性の金属微粒子を共析したDLC膜の曲げ変形抵抗は、従来の銀微粒子を含まないDLC膜と同等の性能を有することが確認できた。
【0046】
(実施例2)
この実施例では、銀の微粒子を含むDLC膜の湿度の高い環境中における耐食性について調査した。
(1)供試基材とDLC膜
a.供試基材として、湿潤な環境で赤さびを発生しやすい、SS400鋼(寸法:幅30mm×長さ50mm×厚さ3.2mm)を用いた。
b.DLC膜は、基材の全面にわたって、それぞれ膜厚0.5μm、1.0μm、3.0μm、8.0μm、15.0μm、20.0μmのDLC膜を形成した。
c.銀の微粒子含有量は、それぞれの皮膜に対して、5at%の割合で共析させた。
(2)供試腐食環境
前記DLC膜を形成した試験片を湿度95%(30℃)の雰囲気中に800時間放置し、DLC膜の外観変化を調査した。なお、比較例として無処理のSS400鋼および銀微粒子を含まないDLC膜を同じ条件で腐食試験を行った。
(3)試験結果
試験結果を表3に要約して示した。この表に示す結果から明らかなように、無処理のSS400鋼試験片では、95%湿度の雰囲気中で赤さびを発生したが、0.5μm程度のDLC膜が被覆されていると赤さびの発生はなく、通常の温度と湿度の雰囲気中で、本発明に係る抗菌作用を有する金属微粒子を含むDLC膜を使用しても、基材の赤さび発生による膜の剥離現象は起らないことがうかがえる。
【0048】
(実施例3)
この実施例では、金属、ガラス質およびプラスチックなどの基材に対する抗菌性金属の微粒子を含むDLC膜の密着性を調査した。
(1)供試基材とその表面処理の種類
a.供試基材の種類とその寸法
・金属質基材:SS400鋼、SUS304鋼(寸法:幅15mm×長さ60mm×厚さ1.8mm)
・非金属基材:石英、ソーダガラス、ポリカーボネート(寸法は金属基材と同寸法)
b.表面処理の種類
・金属質基材:電気めっき法によるCrめっき、Niめっき(厚さ3μm)
:イオン注入法によるCr、Niイオン注入(1×10
12イオン/cm
2)
・非金属基材:PVD法によるCr薄膜(厚さ0.8μm)
(2)DLC膜と共析金属の種類
・DLC膜の組成:炭素含有量80at%、残余水素(20at%)、10μm厚さを目標
・共析金属の種類:Ag、Cu、Zn、Sn それぞれDLC膜中に8at%共析
(3)密着性試験方法
金属系及びプラスチック系の基材上に形成したDLC膜の密着性は、試験片の中央部を起点として90°に曲げた後、その部分を拡大鏡(×8)により観察し、膜の剥離の有無を評価した。一方、石英、ソーダガラス基上のDLC膜については、ISO2052規定のスクラッチ試験方法を適用し、スクラッチ疵からの膜の剥離の有無及びその程度から密着性の良否を判定した。
(4)試験結果
試験結果を表4に要約して示した。この表に示す結果から明らかなように、金属基材上に電気めっき法によってCrめっき膜を施工した試験片(Nol、2、6、7)のDLC膜は、いずれも良好な密着性を示し、20μmの膜厚を形成しても全く剥離することはなかった。このようなDLC膜の密着性は、金属基材にCrイオンを注入した試験片(No.4、9)をはじめ、石英、ソーダガラス、ポリカーボネート上にPVD法によってCrの薄膜を形成したものについても(No.ll、12、13)認められCr系のアンダーコートを施工すればDLC膜の密着性が向上する傾向が確認された。
【0049】
一方、金属基であっても、電気めっき法で、Niめっき膜(No.3、5、8、10)を施工した試験片上のDLC膜では膜厚が5μm以上になると、DLC膜が剥離する傾向が認められ、5μm以上のDLC膜の形成は困難であった。このような傾向は、基材表面にNiイオンを注入した試験片(No.5、10)においても認められた。
なお、以上のようなDLC膜の密着性挙動は、DLC膜中に共析した抗菌金属のAg、Cu、Zn、Snすべてに共通する現象であり、共析金属の種類の影響を受けないことも明らかになった。
【0050】
上記のDLC膜の密着性の挙動、特に金属基材の表面に、Niめっき膜(No.5、8)を施工したり、またNiイオンの注入処理(No.5、10)後に形成したDLC膜の剥離現象を詳しく観察すると次のようなことが判明した。
(1)DLC膜の剥離は、試験片の全面積にわたって発生しており、局部的な剥離ではない。
(2)剥離したDLC膜の形状は、試験片の形状、すなわち、DLC膜の形状と、その表面積を転写した状態で剥離している。
(3)したがって、短冊状の試験片を用いれば、その形状を有する抗菌性金属の微粒子を含むDLC膜の薄膜を製造することができ、抗菌性を有する医療用被覆材として利用することができる。
(4)しかも、DLC膜の厚さは、プラズマCVD法で形成する際、5μm程度に成長すると、自然に剥離するので、薄膜状のDLC膜を製造する方法として好適である。このような意味で、表における試験片No.3、5、8、10の密着性評価記号が、×印もしくは△印でありながら備考欄では(A)として、本願発明に適用可能である旨の記載を行っている。
(5)なお、DLC膜の密着性が良好な基材では、形成されたDLC膜を均等に剥離することができないため、このような抗菌性DLC膜は、医療用機器や厨房用機器などの部材の被覆用として利用することができる。
【0052】
(実施例4)
この実施例では、実施例3の抗菌性金属の微粒子を含むDLC膜の密着性試験結果の知見によって、金属質基材の表面に、亜鉛、錫などの電気めっき膜を施工したもの、および亜鉛、錫イオンを注入した金属基材の表面に対するDLC膜の密着性を実施例3と同条件で調査した。
基材として、実施例3で用いたSUS304鋼、また電気めっき法で形成した亜鉛、錫めっき膜は、それぞれ、2μmの厚さとし、イオン注入濃度は、亜鉛、錫とも1×10
12イオン/cm
2とした。
前記基材の表面に形成したDLC膜の炭素含有量と水素含有量ならびに、DLC膜中に共析した抗菌金属の種類とその共析量は、実施例3の条件と同様である。
以上の条件でDLC膜の密着性を調査した結果、基材表面に、予め亜鉛、錫などの金属膜を施工したり、また、それらの金属イオン注入処理をした面に対しては、DLC膜に密着性は弱く、5μm以上の膜厚に成長すると、DLC膜全体が基材面から剥離しやすくなった。この実験結果から、亜鉛、錫の存在も実施例3における銅、ニッケル膜の表面に対するDLC膜の密着性挙動と同じ特性を有することが判明し、抗菌性を有する薄膜のDLC膜の製造に利用できることが確認された。