(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
車両用の一般的な運転者支援システム(DAS、Driver Assistance System)は、運転者に対して、他の交通参加者を巻き込む危険状況を警告し、又は当該危険を回避するための動作を起動し、若しくは回避不可能な結末の影響を軽減するための動作を起動することができる。
【0003】
これらのシステムは、通常、自車両の環境内における交通参加者の位置及び速度を出力するセンサを備えた環境知覚サブシステムを備えている(「自車両」とは、他の交通参加者の動作を知覚する運転者支援システムが備えられた車両をいう)。「環境」とは、DASのセンサの入力フィールドによりカバーされる範囲をいう。これらのシステムは、通常、ある種の推論処理や意思決定処理を含む、警報生成及び動作生成のためのサブシステムを備えている。
【0004】
例えば、特許文献1には、車両の現在の軌跡を当該車両についての望ましい軌跡と比較するデバイスが教示されている。これら2つの軌跡の間に不整合がある場合には、ステアリングホイール角を回転し又は動かすことなく、当該ステアリングホイールを介した触覚的伝達(haptic communication)が行われる。伝達は、ステアリングホイール表面の振動波により行われる。また、前輪ブレーキの一つを動作させて、車両の方向を望ましい軌跡に向けて変化させることもできる。
【0005】
更に、特許文献2〜4などのいくつかの文献では、予測される最良の軌跡に運転者を強制するための種々の手法、すなわち、ステアリングホイール及びアクセルペダルへの操作を調整するための種々の手法が提案されている。
【0006】
特許文献5には、車両において運転者をサポートする方法が記載されている。この方法では、運転者支援システムが当該車両の運転者の状態をモニタする。サポートは、実行確認があった場合又は中止指示が無かった場合に、すなわち、運転者と運転者支援システムとの間での、運転者が実行されることを望むサポートの程度に関する対話の後に、行われる。
【0007】
他の例として、特許文献6には、車両によるアクティブ制御が何らかのアクションを実行する場合に、ステアリングを振動させたり運転者に対するステアリングの反力を増大させて当該運転者と通信を行う運転者支援システムが記載されている。このシステムは、運転者に対して当該支援システムの活動についての通知は行うが、運転者が行うべき事柄を指示し又は推奨して当該運転者に推奨される動作の実行を促すことはしない。
【0008】
特許文献7には、軌跡に基づく運転者支援システムが記載されている。このシステムは、運転者に対し危険を通知すべく短時間のブレーキ衝撃を発生させる技術的手段を備える。ただし、このシステムは、ステアリングやアクセルの操作は行わない。
【0009】
特許文献1には、運転者を「望ましい」経路に従わせる技術が記載されている。このシステムは、現在の軌跡と望ましい軌跡との間に不整合が存在する間は、運転者に対し、軌跡を変更すべきであることを通知する。すなわち、この文献には、一種の軌跡監視システムが記載されている。
【0010】
既知のシステムは、一般に、到来する危険についての警告を運転者に伝達し、通常は、ある種の視覚的、聴覚的、又は触覚的な、運転者との間のヒューマン・マシン・インタラクション(HMI、Human Machine Interaction)を用いて、例えば、振動や警告メッセージの点滅等により運転者に危険を通知する。これは、当該車両、若しくは当該車両の環境、又は行動提案が、通知されることを意味する。
【0011】
これにより、例えば「前方に危険が存在します」といった通知メッセージを運転者が理解し認識し且つ解釈して、これを適切な行動に転換しなければならない、という問題を生ずることとなる。これには一定の時間が必要であり、運転者によっては、アドバイスされた行動の実行に不要な遅れを生じさせることとなる。
【0012】
車両の振る舞いに物理的に作用して直接的な影響を与えるシステムは、ほとんどの場合、緩和システム(mitigation system)である。これらは、他の交通参加者との衝突が物理的予測からは不可避であって、その衝突の影響軽減のために物理的動作が必要である、という前提に基づいている。しかしながら、これらのシステムは、想定される衝突前の極めて短い時間期間においてのみ動作する。車両と運転者との間の通信は行われず、単に予めプログラムされた過激な操縦の全体が実行されて、衝突が回避又は緩和される。実行中においては、運転者が介入する術はない。我々は、物理的に不可避な衝突の前の充分に長い時間期間においていち早く動作するシステムを考案することが重要であると考える。我々の提案は、そのような緩和システムと組み合わせることができるが、運転者のための「反応(reaction)」時間を伸ばして、車両を危険状態に近づけないための支援を提供する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、独立請求項に従う方法、システム、及び車両を提供することにより、上述した問題に解決を与える。本発明の更なる態様は、従属請求項において詳述される。
【0015】
一の態様では、本発明は、運転者支援方法を提供する。本方法は、車両状態及び環境を知覚するステップと、知覚出力信号に基づき、前記車両の危険状態が将来において予測されるか否かを判断するステップと、予測される場合に、当該危険状態の発生を回避するのに必要な少なくとも一つの車両アクチュエータの作動の総量と持続時間とを決定するステップであって、前記作動は、前記車両の運転者により知覚され得る性質を持つものであるステップと、制御モジュールにより前記作動を部分的に実行する、すなわち、前記決定された総量と持続時間の、当該量の一部及び又は当該持続時間の一部について前記作動を実行するステップと、を有する。
【0016】
前記危険状態は、前記知覚出力信号における複数の運動変更パラメータの予測及び又は評価に基づき、例えば、前記知覚信号から導出される前記車両状態及び又は環境において知覚された特徴との関連において、望ましくは当該知覚された特徴の種類との関連において、危険であることが判断されるものとすることができる。
【0017】
前記少なくとも一つの車両アクチュエータの前記作動は、制御ユニットにより実行された運動コマンドに従う所定の時間だけ前記少なくとも一つの車両アクチュエータを作動させることにより実行されるものとすることができる。
【0018】
前記作動は、前記特徴の前記車両への影響についての危険性及び又は有用性の解析に基づいて実行されるものとすることができる。
【0019】
前記運動変更コマンドは、運転者への少なくとも視覚的、聴覚的、又は触覚的な通信/フィードバック/情報伝達を行うことなく、又はこれらに加えて実行されるものとすることができる。
【0020】
前記少なくとも一つの車両アクチュエータは、作動されたときに、前記車両の操舵、減速、及び加速動作の、少なくとも一つを実行するものとすることができる。
【0021】
前記運動変更コマンドの前記実行は、例えば操舵、ブレーキング、及び又は加速動作といった前記車両運転者からのコマンドを受信したときに、とりわけそれが前記少なくとも一つの前記自動車アクチュエータにより実行された前記作動に対応したものでない場合に、停止されるものとすることができる。
【0022】
他の態様では、運転者支援システムが提供される。本システムは、車両状態と環境とを知覚して知覚信号を出力する知覚モジュールと、前記知覚出力信号を処理し、知覚出力信号に基づき前記車両の危険状態が将来において予測されるか否かを判断する解釈モジュールと、危険状態が予測されたときに、当該危険状態の発生を回避するのに必要な少なくとも一つの自動車アクチュエータの作動の総量と持続時間とを決定する評価モジュールであって、前記作動は、前記車両の運転者により知覚され得る性質を持つものであるモジュールと、制御ユニットにより前記作動を部分的に実行させる、すなわち、前記総量と持続時間の、当該量の一部及び又は前記決定された持続時間の一部について前記作動を実行させる、制御モジュールと、を有する。
【0023】
前記知覚モジュールは、カメラ、レーザスキャナ、レーダセンサ、加速/減速センサ、距離センサ、速度センサの少なくとも一つを備えるものとすることができる。
【0024】
さらに他の態様では、本発明は、上述した方法を実行するように適合された上述のシステムを備える乗り物を提供する。
【0025】
以下、図面を参照しつつ本発明について説明する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、運転者との単なる通信以上の意味を持たせた車両の作動(アクチュエーション、actuation)を用いて、上述した問題の解消を図る。車両の全ての動きは、物理的な効果を持つが、伝達行動としての解釈も有している。これらは結果的に、当該車両のアクチュエータの、伝達機能を奏する物理的な車両の動き(以下では、「カージェスチャ」(CarGesture)と称する)であり、当該車両の運転者によって解釈されることとなる。
【0028】
「カー(car)」という用語を用いているが、「カージェスチャ」は、運転者により運転される乗り物(例えば、ボート、バイク、トラック、建設用車両等)に一般的に適用することができる。
【0029】
「カージェスチャ」は、他の交通参加者及び又は当該車両の運転者により(視覚的、聴覚的、及び又は触覚的に)検知可能な、当該車両のアクチュエータ(例えば、ステアリングホイール、アクセル、ブレーキ...)の作動(アクチュエーション)であり、結果として、作動が行われた車両から他の交通参加者の少なくとも一部又は一つに対して情報を伝達する。特に、この意味において作動(アクチュエーション)は、車両の物理的動作パラメータ(例えば、速度、位置オフセット、運転力学、加速、減速)の変更をもたらす。
【0030】
図1は、本発明に従う方法を実行するための運転者支援システム10の一例を示す図である。以下、
図2も参照しつつ、
図1について説明する。運転者支援システム10は、評価モジュール50による運転状況の評価に用いられる処理モジュール11を備える。処理モジュール11は、例えば、車両の環境、車両の状態、及び又は運転者の行動を検知するセンシングモジュール30からの出力に基づいて動作する(
図2に模式的に示されている)。評価モジュール50は、処理モジュール11の一部であるか、又は処理モジュール11に組み込まれるものとすることができる。この目的のため、運転者支援システム10は、運転状況(driving situation)(すなわち、自車両の環境、状態、及び運転者行動)を検知する種々の検知手段/センサ12に接続されている。これらは、当該車両の外部/環境を検出/知覚する外部検知手段(例えば、距離センサ、カメラ14、レーダ、及び又はレーザスキャナなどの視覚センサ)とすることができる。また、検知手段/センサ12は、例えば、車速、加速度、及び又は減速度を検知してこれらに関する情報を運転支援システム10に伝達する速度センサ13などの、内部センサを含むことができる。また、内部センサは、運転者を観察するための内部カメラ(不図示)を含むこともできる。
【0031】
センサ12、13、14により与えられるデータは、処理モジュール11により処理され、メモリユニット15へアクセスしつつ解析される。メモリユニット15には、或る運転状況(複数)を表すパラメータが記憶されているものとすることができる。例えば、特に駐車を行う状況において必要とされる、当該車両周辺の障害物との最小距離が記憶されている。
【0032】
各運転者のプロファイルも、メモリユニット15により与えられるものとすることができる。検出された特徴から結論される或る運転状況に対し、どのように対処するかについての選択肢も、メモリユニット15に記憶させておくことができる。また、運転者支援システム10は、例えば電動パワーステアリング(EPS、Electronic Power Steering)などの、パワーステアリング制御装置16を備える。パワーステアリング装置16により、予め定められ又は運転者支援システム10により決定された適切なステアリング角が、動力を用いて設定されるものとすることができる。運転者は、ステアリングホイール17を操作することにより、動力の助けを借りてこのステアリング角を修正するものとすることができる。
【0033】
さらに、運転者支援システム10は、ブレーキコントローラ18にも接続されている。運転者が行ったブレーキペダル19への操作が検出されるものとすることができる。ただし、ブレーキコントローラ18に接続されている車両ブレーキ(明瞭化のため
図1には不図示)を、運転者支援システム及びブレーキコントローラ18により自動的に操作するものとすることもできる。もちろん、運転者支援システム10は、例えばアクセルペダル(gas pedal)、照明、警笛などを駆動するための、他のコントローラを備えることもできる。
【0034】
センサ12、13、14により与えられたデータの解析を行なった後に、介入を要する運転状況であると運転者支援システムが判断した場合、上述の「カージェスチャ」が実行される。付加的に、運転者支援システム10は、スピーカ20及び又はディスプレイユニット21に接続されて、例えば音響的及び又は視覚的な情報を運転者に伝えるものとすることができる。
【0035】
人間である運転者が車両のコントロールを利用して環境と通信する場合の一例は、待機中と思われる歩行者に対し道路を横断させようとしていること伝えるべく、横断歩道にゆっくりと接近する場合である。これにより、後続の車両に対しても、歩行者が横断するかもしれないことを伝えると共に、当然ながら前方車両である当該車両がブレーキをかけて減速していることを伝える。
【0036】
運転者支援システム10は、その状況(例えば、当該車両の動きに影響のある、又は影響を及ぼすと思われる、その環境内で検出された特徴、運転者の行動、及び又は車両機能を示すパラメータ)を解釈して、とりわけ検出手段12、13、14から得られた情報を処理することにより、及び評価モジュール50におけるこれら処理された情報についての評価により、危険(risk)及び又は有用性(有益性、utility)を評価する。そして、運転者支援システム10は、「カージェスチャ」を自動的に実行して(すなわち、当該車両又は車両アクチュエータ16、18を特定の態様で動作させて)、運転者及び又は他の交通参加者と通信を行い、全体としての安全性と快適さとを改善する。
【0037】
作動(アクチュエーション)又はジェスチャは、したがって、通信動作(伝達動作、communicative act)である。このような作動(アクチュエーション)やジェスチャは、運転者に対し(及び又は、潜在的な他の交通参加者に対しても)、特定の行動が現在又は将来の場面において有益であり得ることを表現する。しかしながら、意図するのは表現することのみであり、運転者支援システム10により実行する必要があると判断されたそれぞれのアクションが当該車両により完全には実行されなくてもよい。例えばその状況に完全に対処して解決を図るために実行することが必要なアクチュエーション動作(actuation action)は、部分的にのみ実行される。運転者支援システム10が対処すべき場面は、当該車両が危険状態にあるとき、又は環境において危険な状態が発生しているときである。センシングモジュール30からの知覚出力信号に基づき、当該車両の危険状態が将来において予想されるか否かが判断される。この判断は、例えば環境内の動きに関するパラメータ、当該車両のパラメータ(速度、ヨー角、加速度、減速度、温度、...)、又は当該車両のコンポーネント(車輪、ライト、...)に関するパラメータなどの、パラメータを観測することにより容易となる。危険状態があると判断されると、その危険状態の発生を回避するのに必要な少なくとも一つの車両アクチュエータの作動の総量及び持続時間が、運転者支援システム10により算出される。危険状態とは、通常、例えば当該車両の車速、軌跡(すなわち走行経路)などについて、当該車両に影響を及ぼす状態である。
【0038】
作動動作(アクチュエーション動作)により与えられる表示(表現、indication)に基づいて、運転者は、そのアクチュエーション動作により提示された所期の操縦の実行を能動的に行うことを許容し継続するか、又は、当該所期の操縦を単に行わず当該操縦の実行に同意しないことを決定することができる。
【0039】
運転者支援システム10は、当該車両又は車両アクチュエータを直接作動させることにより、運転者が当該車両を或る特定の態様で制御すべきことを提案して、望ましくは1回だけ、運転者に対し企図する操縦を伝える。アクチュエーション動作の後の短期間、すなわち所定時間の間は、運転者によるアクション全体の実行(例えば、物体「回避」動作の実行)や運転者による継続的な監視は行われず、当該車両は、運転者支援システム10により有利であると判断される態様で作動され又は制御される。特に、ステアリングホイール振動や単発ブレーキ制御作動などの付加的なメカニズムは必要とされない。
【0040】
運転者支援システム10は、運転者と通信するため、標準的な電動パワーステアリング(EPS、Electric Power Steering)を微小な角度パターンで用いることができる。これは、ステアリングホイールを横方向に所定の角度だけ作動させることにより、操舵に影響を与えることを意味する。これによって所期の操舵方向が示されるので、これは、運転者にとり非常に自然な感覚を与えるように設計されたインタラクションパターンとなる。具体的には、本発明では、一つは正方向に、他の一つはこれと対称的に負方向となるように連続した2つの台形形状を提案する。このジェスチャの完了時には、ステアリングホイール角度は元に戻った状態となる。この台形の振幅(magnitude)は、ほんの数度程度である。
【0041】
運転者支援システム10を、疑似運転教習教師として動作するよう適合させ、ステアリングホイールを穏やかにかつ短期間だけ引っ張ったり、アクセルペダルやブレーキペダルを短期間だけ作動させるようにすることができる。
【0042】
例えばステアリングホイールを介して運転者に伝達される振動などの触覚的情報は、人間である運転者の脳によって企図された操縦にマップされなければならない。振動を通信手段として用いる場合とは異なり、運転者はそのアクチュエーション動作により何が伝えられ何が達成されるべきであるのかの解釈を、前もって知得する。この解釈は、当初は付加的な心的努力を伴って運転者が習得する必要がある。例えば、ステアリングが動いていないのに車両の方向が変化することも、運転者に対しては非常に不自然な感覚を与える。上述の「カージェスチャ」は、音声メッセージや可視メッセージによるインタラクションのような付加的なヒューマン−マシン・インタフェース(HMI、Human-Machine Interface)を用いることなく、何をすべきかを正しい様相でいち早く示すものであるので、従来技術から見れば非常に直感的である。
【0043】
もちろん、本発明に従って運転者に伝達されるフィードバックや情報も、例えばステアリングホイールの回転運動などの当該運転者が知覚する触覚的なコンポーネントを含む。ただし、これらの触覚印象は、運転者にとって既知であり、更なる解釈を必要としない。
【0044】
一般に、「カージェスチャ」は、運転者により処理される必要のある情報の量を低減し、したがって、情報の処理に要する時間を低減する。これにより、自車両のみならず、他の交通参加者も含めた全体としての安全性が高まる。
【0045】
ジェスチャ(すなわち、その全体が実行されれば“運転者支援システム10により特定された状況”への対処を行うこととなる“車両の動きを変更するための運動変更コマンド”の部分的実行)のみを用いて、例えば動きを変更することは、操縦全体を実行するよりも安全である。わずかな動きによる物理的な衝撃は非常に小さなものだからである。
【0046】
部分的に実行された運動変更コマンドは、一般に、短時間にわたり(例えば0.1〜3秒)、当該車両が走行する特定の距離にわたり(例えば1〜20m)、又は現在位置から特定のオフセット分だけ(例えば5〜10cm)(例えば左方、前方、後方、及び又は右方)実行される車両のアクチュエーション又は制御である。ただし、運転者は、潜在リスクを付加してしまうかもしれない操縦全体の実行を決断することもできる。上記の時間、距離、及び又はオフセットは、現在の速度、現在実行されている操縦、又は運転者が実行している運転操作との関係において設定されるものとすることもできる。したがって、例えば、これらのパラメータは、最低速度制限(例えば、5〜30km/hの範囲)のあるエリアでは、市街地での走行(例えば、30〜100km/hの範囲)や、高速自動車道路における高速走行(例えば、100km/hを超える速度)に比べて、異なる値を持つものとすることができる。また、車両が既に転回/加速/減速の動作を実行している場合には、作動(アクチュエーション)は異なる態様で実行されるものとすることができる。
【0047】
詳細には、
図2を更に参照すると(
図2には、車両及び又は車両アクチュエータの何をどのように作動させるかを制御する運転者支援システム10の制御ユニット23が示されている)、センシングモジュール30が、検知手段12、13、14を用いて、世界(すなわち自車両の環境)、運転者、及び又は自車両の状態を知覚する。
【0048】
状況(場面)は、これに続く解釈モジュール40により解釈される。解釈モジュール40は、処理モジュール11を用いて実現することができる。解釈モジュール40は、その後ろに評価モジュール50が接続されている。評価モジュール50は、種々の運動変更コマンド又は運転オプションの危険性及び又は有用性を評価してベストワンを選択する。すなわち、センシングモジュール30により検知された状況に基づいて、いくつかの適用可能な運動変更コマンド又は運転オプションが選択され、その中の一つのみが最終的に実行される。
【0049】
この場合の運転オプションとは、単なる軌跡の外挿に基づくものではなく意思決定に基づいた、種々の運転行動である。これらは、現在の状況についての予測に基づいて、本システムにより動的に決定される。複数のオプションがある場合には、曖昧性除去のため、環境による快適性や理解性などの付加的な基準が用いられる。
【0050】
上記選択を行う際の一つの方法は、上記決定された種々のコマンドや運転オプションをランク付けすることである。評価モジュール50は、これらのコマンドや運転オプションが、車両の動きに影響を与える状況への対処(例えば、或る特徴の発生への対処)に適しているかどうかを評価する。例えば、適切なオプションにスコアを割り当てるため、適合性関数を用いたりスコア付け関数を組み込むものとすることができる。そして、最も有意なスコア、例えば最も低いか又は最も高いスコアを持つオプションが、実行すべき運動変更コマンドとして選択される。
【0051】
最後に、制御モジュール60が、対応する車両アクチュエーション、すなわち「カージェスチャ」を実行して、最良のオプションが何であるかを運転者に表示する。このアクチュエーションは、時間的にも動作の自由度の点でも制限されたものである。
【0052】
換言すれば、運転者支援システム10は、その状況における最良オプションを選択するが、当該選択したオプションを完全に実行するのではなく、そのオプションを示すジェスチャを実行するだけである。このジェスチャは、常に、短時間(すなわち、対応する操縦の全体を実行する時間よりも短く、通常は2秒より短い)であり、自己終端(self-terminating)し、かつ当該ジェスチャによって付加的な危険が誘発されない態様で実行される。このことは、状況の解釈と評価により保証される。この状況の解釈及び評価には、「カージェスチャ」及び人間である運転者についての、想定される動きに関する結果の予測が含まれる。
【0053】
実行中は、運転者は、その車両アクチュエーションをいつでも無効にすることができる。この無効化は、表現された動作に沿っていない動作、例えばステアリングホイール、ブレーキペダル、又はアクセルペダルへの操作により行うものとすることができる。無効化は、運転者による制御の下で正しい軌跡を実行することにより、運転者支援システム10の提案の受容を意味するものとすることもできるし、元の軌跡を再継続することにより上記提案に対する拒否を意味するものとすることもできる。
【0054】
「カージェスチャ」が短かくても、通常は人間の反応時間はより短い(約600ms)ので、人間である運転者は、提案された「カージェスチャ」をその時間制限の中で無効化することができる。運転者は、何もしなければ、車両アクチュエーションの結果として生ずる当該車両への僅かな物理的効果/影響(例えば、10cmシフト)を許容することになる。運転者は、承諾する場合には、そのアクチュエーション動作により提示された事柄を能動的に継続して、当該車両及びその環境に対しより大きな物理的効果を発生させることができる。従って運転者は、走行する車両の場合には、提案された動作に同意しないときには充分に迅速に(約500〜600msで反応して)、その「カージェスチャ」を打ち消すことができる。あるいは、運転者が何もしない場合には、その「カージェスチャ」が当該車両に対して持つ効果は許容され、例えば、その「カージェスチャ」が行われる前の当該車両の走行軌跡からの、極小のオフセットが発生することとなる。あるいは、運転者は、その「カージェスチャ」を許容し、例えばステアリングホイールの一の方向への動きによって提案され及び又は提示された当該方向へ当該ステアリングホイールを更に回転させることにより、当該提案された動作に能動的に従う。
【0055】
以下に、本運転者支援システムがどのように動作するかを示すいくつかの例について説明する。
【0056】
例1:
自動車が、中心市街場面を走行している。本運転者支援システムは、状況解釈の予測処理部分を用いて予測を行い、自車両走行レーンの右側に存在する潜在的な危険状況を評価する。当該自動車を左方向へ10cmシフトさせるステアリング角度パターンを用いてステアリング運動を作動させ、その後は更なる制御は何も行わない。運転者は、このステアリング運動と横方向の加速度を感じ取り、自分の自動車が軌跡を僅かに変化させたことをみて取る。運転者は、当該車両の左方向への操舵を継続してこの提案を受け入れ、10cmよりも大きなシフトを含む回避操縦の全体を実行することができる。これには、本システムが決して行わないような、運転者による対向レーンへの移動のリスクの許容を含む場合もある。運転者は、その操縦に従いたくないときは、その10cmシフトした新しい軌跡を単に継続するか、又は、自分が選択していた元の軌跡上を走行するように自分で操舵することにより、このジェスチャを中断させる。このアクチュエーションだけでは、危険を回避するには充分ではない。
図3には、これが例示されている。
図3では、「カージェスチャ」が実線矢印で描かれており、運転者により(おそらくは)行われる操作が波線矢印で示されている。
【0057】
「カージェスチャ」の他の例を、
図4に示す。ここでは、自動車Bが、レーンに向かって走行を開始するかもしれず、危険となる可能性がある。このため、「カージェスチャ」は、若干距離を開けるように提案を行う(実線)。この評価は、車両方位と結果予測に基づいている。自動車Aは、危険を示すものではないので、この種の反応のトリガとはならない。
【0058】
黒の細線は、運転者の視界、及び又は、環境の知覚や潜在リスクの特定に用いられるセンサなど(例えば、カメラ、レーザセンサなど)の知覚手段の視界を例示している。本発明の予測ステップ(複数)は、知覚された環境に基づいている。これらの予測ステップは、物体の運動、軌跡、及び又は加速度などのパラメータに基づいて、その物体が当該車両に影響を与える可能性がどの程度あるかを示す。また、これらは、その物体について予測される当該車両に対する影響の程度を表すものとすることができ、当該表された程度に基づいて「カージェスチャ」が実行されるものとすることができる。
【0059】
「カージェスチャ」は、特定の持続時間を持つ、特定の状況に対する特定のアクションである。その状況が変化しない限り、運転者の決定は記憶され、好ましくは新たな「カージェスチャ」は起動されない。すなわち、特に運動変更の全体を実行するための(予想される)持続時間が運転者支援システム10により算出されることが必要であるが、好ましくは運転者の決定も記憶される。
【0060】
より一般的には、「カージェスチャ」(複数)は、通常、車両の僅かなシフト(複数)(例えば、現在位置から約10cmのシフト)を生じさせ、次のような特性を持つ:これらは、運転者にとっては顕著であるが、環境に対して誘発するリスクは小さい。このような僅かなシフトは、他の交通参加者にはほとんど知覚されない、すなわち、この種のジェスチャは内側方向に向けて与えられる。この種の「カージェスチャ」は、他の交通参加者をイライラさせて対向レーンへの移動などの慌てた行動をおこさせない。右方向への僅かな操舵、ブレーキング又は加速、及び又はこれらの組み合わせといった他のジェスチャも、車両アクチュエーションの候補となり得る。
【0061】
例2:
他の例は、横断歩道前での予測停止である。本システムは、横断歩道の手前で僅かに減速し、停止することが適切な選択肢であることを運転者に示す。この場合、この情報伝達は、運転者及び横断歩道で待機している歩行者に向けて行われる。ここで、運転者は、無効化動作を実行することにより任意のタイミングで運転者支援システムによるアクションを他に置き換えることができるが、この無効化動作は、より高い閾値を持つものである必要がある。歩行者は、その「カージェスチャ」が示すようにその自動車が停止しようとしているものと理解する可能性があるためである。このカージェスチャは、非常に厳格な場合にのみ無効化されるものとする必要がある。
【0062】
したがって、運転者支援システム10は、特定の状況(複数)をこれらの状況に応じた閾値と共にメモリ15に記憶する。これにより、解釈モジュール40は、センシングモジュールの知覚出力信号を用い、状況を特定してこれに対応する閾値を引き出すことができる。解釈モジュール40は、知覚出力又は知覚したパラメータを、記憶されている状況とマッチングさせることができる。例えば、上記概説したシナリオでは、一致する(マッチする)状況に関連付けられた閾値は高く、したがって、提案された運動コマンドの無効化がより困難なものとなる。ただし、この閾値は、知覚出力から導出されるパラメータから動的に算出されるものとすることもできる。
【0063】
この点では、決定には尺度が必要であり、閾値は或る種の尺度評価である。閾値は、検出された運転特性と検出された運転者の心的状態、並びに、車両状態及び他の運動パラメータを含む状況全体の評価に依存したものとなり得る。
【0064】
例3:
他の例は、現在の自車両の走行レーンへの他の自動車の割り込みを許容して当該他の自動車により発生する渋滞の解消を行うための、予測的減速である。
【0065】
例4:
他の例は、他の自動車が交差点を空けておくことができるようにして当該他の自動車により発生する渋滞を解消するための、減速である。
【0066】
「カージェスチャ」を決定して実行する本支援システムは、他の支援システム、例えば衝突回避システムと結合させることができる。「カージェスチャ」は、予測や伝達が可能な時間スケールで動作し、物理的な衝突回避システムは、その下で「安全網(safety net)」を広げるものとなる。例えば、「カージェスチャ」は運転者に運転動作を提案し、一方、他の支援システムは、最終的に事故を回避するために用いられるものとすることができる。
これらのカージェスチャは、運転者と環境に対して向けられる。
【0067】
さらに、本発明は、ロボット工学などの他の領域にも適用することができ、人間であるオペレータを支援するよう設計されたシステムを一般に備える陸上用、海洋用、及び又は航空用の乗り物にも適用することができる。ここに開示した方法及びシステムは、一般に、技術的システム(例えば電気的システム)が、当該システムに与えられる、観測された移動経路に生ずる特徴、及び又は物体の特性(例えば、サイズ、距離、他の物体までの相対的/絶対的な位置、空間配置、相対的な動き、速度、及び又は方向、及びその他の関連する物体特徴又は特徴パターン)を自律的に扱わなければならないときには、いつでも用いることができる。
【0068】
取得された情報(観測値)を処理するため、本発明は、処理モジュール11、40を用いた分析手段を用い及び備え、及び又はニューラルネットワークを適用する。ニューラルネットワークは、一般に、観測値から情報を推測するのに用いることができる。ニューラルネットワークは、解決すべき問題についての演繹的な知識を全く又はほとんど用いることなく機能し、且つ耐障害性の高い振る舞いを示す。例えば特徴同定、制御(車両制御、プロセス制御)、意思決定、人工視覚、及び又はパターン認識(顔認識、物体認識、ジェスチャ認識、音声認識、文字及びテキスト認識)などに関連する問題が扱われる。ニューラルネットワークは、ニューロンの集合と、シナプスの集合で構成される。シナプスは、ニューロンに結合し、重みと称されるパラメータに情報を保存する。これらの情報は、ニューラルネットワークが行う変換(transformation)や、学習プロセスに用いられる。
【0069】
通常、観測を行うため、入力信号又は入力パターンが、検出手段12、13、14から入力され、組み込まれたニューラルネットワーク、及び又は、ハードウェアユニット、及びソフトウェアコンポーネントを用いて処理される。出力信号又は出力パターンが取得され、これらの出力は更なる処理(例えば視覚化処理)のための他のシステムへの入力となり得る。
【0070】
入力信号は、運動に影響を与える検出された特徴物についての情報を含むことができる。この入力信号は、一つ又は複数のセンサ(例えば、上述した視覚的又は聴覚的な検出手段12、13、14)により与えられるものとすることができるが、ソフトウェアインタフェース及び又はハードウェアインタフェースにより与えられるものとすることもできる。出力パターンも、ソフトウェアインタフェース及び又はハードウェアインタフェースを介して出力されるものとすることもできるし、車両の動きや振る舞いに影響を与えるための他の処理モジュール11や作用装置(actor)(例えば、パワーステアリング制御16やブレーキ制御装置18)に、送信されるものとすることもできる。
【0071】
本発明に求められる、評価、処理、保守、調整、及び実行(例えば、運動変更コマンドや作動(アクチュエーション)コマンドの実行)に必要な計算及び変換は、処理モジュール11により実行されるものとすることができる。処理モジュール11は、例えば一つ又は複数のプロセッサ(CPU)、信号処理ユニット、又は、その他の処理や計算を行うハードウェア及び又はソフトウェアであり、これらは、並列処理を行うように適合されるものとすることもできる。処理及び計算は、標準的な既製(オフザシェルフ、off the shelf、OTS)のハードウェアコンポーネント、又は専用に設計されたハードウェアコンポーネントにより実行されるものとすることができる。プロセッサのCPUは、計算を実行するものであり、メインメモリ(RAM、ROM)、制御ユニット、及び演算論理ユニット(ALU)を含むことができる。当該プロセッサは、専用のグラフィックプロセッサと通信するものとすることができる。このグラフィックプロセッサは、必要な計算のための専用メモリと処理能力を提供するものとすることができる。
【0072】
通常は、データメモリも備えられる。データメモリは、取得された情報及び又はデータや、処理・決定・結果出力に必要とされる情報及び又はデータを保存するのに用いられる。保存された情報は、本発明に必要な他の処理手段、ユニット、又はモジュールにより使用されるものとすることができる。当該メモリは、また、イベントに関連する観測値や、当該観測値から推論された知識であって将来のイベントに対する動作や反応に影響を与える知識の保存や記憶を可能とする。
【0073】
本メモリは、ハードディスク(SSD、HDD)、RAM及び又はROMなどのデバイスにより提供されるものとすることができ、フロッピーディスク、CD−ROM、テープ、USBドライブ、スマートカード、ペンドライブ等の他の(持ち運び可能な)記憶媒体により補われるものとすることができる。したがって、本発明に従う方法をコード化したプログラムや、本発明のシステム及び又は方法の実施において取得され、処理され、学習され、又は必要とされるデータを、それぞれの記憶媒体に保存しておくことができる。
【0074】
特に、本発明に記載された方法は、(例えば持ち運び可能な)物理的な記憶媒体に保存されたソフトウェアプログラム製品として提供されるものとすることができる。当該記憶媒体は、処理システムや処理デバイスに本発明に係る方法を実行するよう指示すべく、当該プログラム製品を当該システムやデバイスに転送するのに使用される。さらに、本方法は、処理デバイスに直接的に組み込むこともできるし、処理デバイスとの組み合わせとして実施することもできる。
【0075】
上述の事項は、本発明のこれら実施形態にのみ関連するものではなく、特許請求の範囲に示された本発明の範囲から逸脱することなく、これらの実施形態に対し多くの変更や改変を行い得るものと理解されたい。