(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された技術では、あらかじめ測定された機械系に起因する誤差により発生し得る工具先端点の誤差を補正することができる。しかしワークを変えることで機械系に影響を受け新たに発生する誤差、またワークの形状変化により発生する誤差を考慮することはできない。
そこで、本発明は、ワークを覆うワーク近傍領域内の格子点の測定可能点の補正量を設定することによって、それらの補正量から工具先端点の並進補正量を求め指令直線軸位置に加算する。このことにより、本発明は、工具先端点位置を誤差のない位置に移動を行い、高精度な加工を実現する5軸加工機を制御する数値制御装置を提供することを目的とする。つまり、5軸加工機においてワーク交換後においても指令通りの工具先端位置での加工を行うことのできる数値制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、テーブルに取付られたワーク(加工物)に対して直線軸3軸と回転軸2軸によって加工する5軸加工機を制御する数値制御装置において、ワークにより変位する誤差量をワーク内に規定した座標の位置に対応した並進補正量として設定することで、工具先端点位置がワーク上で誤差の無い位置になるように直線軸3軸を駆動させる数値制御装置である。
【0006】
本願の請求項1に係る発明は、テーブルに取付られたワーク(加工物)に対して直線軸3軸と回転軸2軸によって加工する5軸加工機を制御する数値制御装置において、テーブル上に固定した3次元座標系においてワークを覆うワーク近傍領域内で所定間隔の格子点により分割したワーク格子状領域を設定するワーク格子状領域設定手段と、
前記テーブルを回転する前記回転軸2軸の回転位置により該ワーク格子状領域を
回転軸ワーク格子領域として設定する回転軸ワーク格子状領域設定手段と、該回転軸ワーク格子状領域における格子点に対し
前記ワークを前記テーブルに載置する前後で生じる前記格子点のワークに起因する並進誤差の補正量を設定するワーク起因並進補正量設定手段と、該補正量よりワーク上の工具先端点位置の補正量を計算するワーク起因並進補正量計算手段と、該ワーク起因並進補正量を指令直線3軸の位置に加算し誤差補正を行う機能を有することを特徴とする数値制御装置である。
【0007】
請求項2に係る発明は、前記5軸加工機は前記回転軸2軸によってテーブルを回転するテーブル回転形5軸加工機である請求項1に記載の数値制御装置である。
請求項3に係る発明は、
直線軸3軸と回転軸2軸を備え、前記回転軸2軸の1軸によって工具ヘッド、他の1軸によってテーブルを回転し、該テーブルに取付られたワーク(加工物)を加工する混合形5軸加工機を制御する数値制御装置において、テーブル上に固定した3次元座標系においてワークを覆うワーク近傍領域内で所定間隔の格子点により分割したワーク格子状領域を設定するワーク格子状領域設定手段と、前記テーブルを回転する前記回転軸の1軸の回転位置により該ワーク格子状領域を回転軸ワーク格子領域として設定する回転軸ワーク格子状領域設定手段と、該回転軸ワーク格子状領域における格子点に対し前記ワークを前記テーブルに載置する前後で生じる前記格子点のワークに起因する並進誤差の補正量を設定するワーク起因並進補正量設定手段と、該補正量よりワーク上の工具先端点位置の補正量を計算するワーク起因並進補正量計算手段と、該ワーク起因並進補正量を指令直線3軸の位置に加算し誤差補正を行う機能を有することを特徴とする数値制御装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、機械に起因する誤差に加えて、ワークによる誤差も考慮するため、ワーク形状の品質向上が期待できる加工が可能なワークによる変位誤差を補正する機能を備えた数値制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の数値制御装置が制御する5軸加工機のテーブル回転形の実施例である。
【
図2】誤差が無いときの工具とテーブルの関係、機械起因誤差を含んだ工具とテーブルの関係、およびテーブルにワークが設置されたことで発生するワーク起因並進誤差を含んだワークとテーブルの関係図を示す。
【
図3】ワーク上面を取り囲む範囲において、測定基準球が設置可能な箇所で格子状に分割することを示す図である。
【
図4】ワーク底面近傍を取り囲む範囲において測定基準球が設置可能な箇所で格子状に分割し、ワーク上面の格子点と線上に結び3次元座標系で構成されたワーク格子状領域を示す図である。
【
図6】テーブルを制御する回転軸位置の変化に伴いワーク格子状領域も回転した状態を示す図である。
【
図7】ワーク格子状領域の格子番号が設定されることを説明する図である。
【
図8】ワーク取り付け前のワーク格子状領域の格子点P12における基準球に対し計測用ブローブで測定し算出した基準球中心の位置データM0
12 を示す図である。
【
図9】格子点P6における位置データM0
6を示す図である。
【
図10】ワーク取り付け後のワーク格子状領域の格子点P12における基準球に対し計測用ブローブで測定し算出した基準球中心の位置データMw
12 を示す図である。
【
図11】格子点P6における位置データMw
6を示す図である。
【
図12】測定されたワーク起因並進補正量ΔCwのデータが、補正量テーブルとして数値制御装置に内蔵される不揮発性メモリ等に格納されることを説明する図である。
【
図13】格子点P14〜P24から成るワーク格子状領域内に工具先端点が位置していることを示す図である。
【
図14】本発明の誤差補正部を備えた数値制御装置を説明する図である。
【
図15】本発明の実施形態1で実行される補正のアルゴリズムを示すフローチャートである。
【
図16】本発明の数値制御装置が制御する5軸加工機の混合形の実施形態である。
【
図17】誤差が無いときの工具とテーブルの関係、機械起因並進誤差を含んだ工具とテーブルの関係、およびテーブルにワークが設置されたことで発生するワーク起因並進誤差を含んだワークとテーブルの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明である5軸加工機を制御する数値制御装置の実施形態について図面とともに説明する。
【0011】
(実施形態1)
<1>対象機械と誤差補正ベクトル
図1は本発明の数値制御装置が制御する5軸加工機のテーブル回転形の実施形態である。
図1に示す機械構成では、C軸回転で回転しB軸回転で傾斜するテーブル30がY軸上に載りY軸はX軸上に載って直線移動し、工具ヘッド20はZ軸で上下直線移動する。テーブル30上にワーク40が載っている。
【0012】
テーブル回転形5軸加工機における機械に起因する並進誤差、ワークに起因する並進誤差およびそれらの補正について説明する。ここで、機械に起因する並進誤差は機械起因並進誤差、ワークに起因する並進誤差はワーク起因並進誤差とする。
【0013】
図2は、誤差が無いときの工具21とテーブル30の関係、機械起因並進誤差を含んだ工具21とテーブル30の関係、およびテーブル30にワーク40が設置されたことで発生するワーク起因並進誤差を含んだワーク40とテーブル30の関係図を示す。ここでは、テーブル座標系をテーブル回転中心を原点とする(Xa,Ya,Za)座標で表すと、機械から発生する誤差である機械起因並進誤差によってテーブル座標系が(Xa’,Ya’,Za’)座標となり、さらにテーブル上にワークが載ったことで発生する誤差であるワーク起因並進誤差によってテーブル座標系が(Xa’’,Ya’’,Za’’)になることを示している。
【0014】
ここで機械起因並進誤差とは直線軸および回転軸の位置つまり機械的な位置関係で発生する並進方向の誤差である。
図2における機械起因並進誤差である(ΔXm,ΔYm,ΔZm)は、(Xa,Ya,Za)座標と(Xa’,Ya’,Za’)座標との間のX軸方向/Y軸方向/Z軸方向の並進誤差を示す。これらの誤差はわずかの量であるが、理解を助けるために誇張して描いている。機械起因並進誤差に対する誤差補正は、特許文献1などに記載された従来技術であるので詳述しない。
【0015】
ワーク起因並進誤差とはテーブル30にワーク40が設置されたことで発生するワーク40に起因した並進方向の誤差である。ワーク40と工具先端点の接触する点において、本来の位置からの誤差量となる
図2におけるワーク起因並進誤差(ΔXw,ΔYw,ΔZw)は、(Xa’,Ya’,Za’)座標と(Xa’’,Ya’’,Za’’)座標との間のX軸方向/Y軸方向/Z軸方向の並進誤差を示す。これも誤差はわずかの量であるが、理解を助けるために誇張して描いている。
【0016】
指令直線軸位置Pml(Pmx,Pmy,Pmz)および、指令回転軸位置Pmr(Pmb,Pmc)に基づく機械起因並進誤差の補正量をΔCm(ΔXm,ΔYm,ΔZm)、ワーク起因並進誤差の補正量をΔCw(ΔXw,ΔYw,ΔZw)とする。テーブル30およびワーク40側の誤差量は、それを追いかけるように補正するので補正量でもある。機械起因並進誤差に対し並進補正後の工具先端点ベクトルをTm
o−tcp(Tm
o−tcpx,Tm
o−tcpy,Tm
o−tcpz)、ワーク起因並進誤差に対し並進補正後の工具先端点ベクトルをTw
o−tcp(Tw
o−tcpx,Tw
o−tcpy,Tw
o−tcpz)とすると、ΔCw(ΔXw,ΔYw,ΔZw)は数1式で表せる。
【0018】
こうして求められたワーク起因並進補正量ΔCw(ΔXw,ΔYw,ΔZw)を、機械起因並進補正量が加味された修正直線軸位置Pml’(Pmx’、Pmy’、Pmz’)に加算し修正直線軸位置Pml’’(Pmx’’、Pmy’’、Pmz’’)を求める。各直線軸X、Y、Z軸はこの修正直線軸位置Pml’’(Pmx’’、Pmy’’、Pmz’’)へ、回転軸B、C軸は指令位置へ駆動する。このことによって、テーブルから見た工具先端点位置を既に補正済の機械に起因する誤差に加えてワークに起因する誤差がない位置に移動することができる。
【0019】
<2>ワーク(加工物)に起因する誤差
ワーク(加工物)40に起因する誤差(ワークによる変位誤差)とは、重量、大きさの異なるワーク40に取り換えることで、テーブル30の面が傾いて加工領域に発生する誤差である。また回転軸の位置決めによりテーブル30が傾くことで、ワーク40がテーブル30の回転中心軸に影響を与え発生する誤差である。
【0020】
<3>ワーク格子状領域の定義方法
図3は、ワーク上面を取り囲む範囲において、測定基準球が設置可能な箇所で格子状に分割した点である。基準球の中心位置が格子点となる。
図4は、ワーク底面近傍を取り囲む範囲において測定基準球が設置可能な箇所で格子状に分割し、ワーク上面の格子点と線上に結び3次元座標系で構成されたワーク格子状領域である。ワーク形状は
図3で示すような円柱以外の直方体、角錐台、球形などにも適用可能である。また、測定基準球の設定箇所により格子点数は増減される。
【0021】
図5は、
図4のワーク格子状領域を示している。ワーク側面において格子状に分割し、境界線が交わる点が格子点P1〜P12である。なお、格子間隔は一定間隔でなくてもよい。これがワーク格子状領域設定手段である。
【0022】
図6は、テーブルを制御する回転軸位置の変化に伴いワーク格子状領域も回転した場合である。ワークを構成する直線3軸を座標系とするワーク格子状領域基準座標系で考える。回転軸の角度により、ワーク格子状領域を
図5と同様に分割する。つまり、格子点番号は回転軸2軸とワーク格子領域基準座標系として考えた直線軸3軸により構成される。回転軸2軸と直線軸3軸の5次元(X,Y,Z,B,C)の補正空間となる。
【0023】
図5の格子点P1〜P12、
図6の格子点P13〜P24は回転軸の角度における一例であるが、その他の角度においても
図7のようにワーク格子状領域の格子点番号が設定される。これが回転軸ワーク格子状領域設定手段である。
【0024】
<4>ワーク起因並進誤差の測定例および補正量テーブル設定
図8は、ワーク取り付け前のワーク格子状領域の格子点P12における基準球に対し計測用ブローブで測定し算出した基準球中心の位置データM0
12 を示す。
図9は、
図8と同様に格子点P6における位置データM0
6を示す。
【0025】
図10は、ワーク取り付け後のワーク格子状領域の格子点P12における基準球に対し計測用ブローブで測定し算出した基準球中心の位置データMw
12 を示す。
図11は、
図10と同様に格子点P6における位置データMw
6を示す。
【0026】
数1式と、
図8のM0
12 、
図10のMw
12 より格子点P12におけるワーク起因並進補正量は数2式となる。
【0028】
同様に、
図9のM0
6、
図11のMw
6より格子点P6におけるワーク起因並進補正量は数3式となる。
【0030】
測定されたワーク起因並進補正量ΔCwのデータは、
図12のように補正量テーブルとして数値制御装置に内蔵される不揮発性メモリ等に格納される。格子点番号は、測定用の基準球中心で
図5のP1〜P12、
図6のP13〜P24を示す。そして格子点番号Pnにおける回転軸座標値(B(n),C(n))、ワーク格子状領域基準座標系で考えた直線軸座標値(X(n),Y(n),Z(n))、および測定で算出されたワーク起因並進補正量ΔCw(ΔXw(n),ΔYw(n),ΔZw(n))を設定する。これがワーク起因並進補正量設定手段である。
【0031】
<5>工具先端点位置のワーク起因並進補正量の算出
図13は、格子点P14〜P24から成るワーク格子状領域内に工具先端点が位置していることを示す。工具先端点位置Pm−tcp(Pm−tcp−x,Pm−tcp−y,Pm−tcp−z)は、指令直線軸位置Pml(Pmx,Pmy,Pmz)と工具長補正ベクトルT(Tx,Ty,Tz)より数4式で示される位置である。
【0032】
工具先端点位置Pm−tcpに基づくワーク起因並進補正量ΔCw−tcp(ΔXw−tcp、ΔYw−tcp、ΔZw−tcp)は、補正量テーブルにおける近辺の格子点(P14〜P24)のワーク起因並進補正量ΔCwより内挿法で補間し算出する。内挿法は一般的な方法なので詳述しない。また測定できないワーク設置面/上面およびワーク内部のワーク起因並進補正量は、ワーク側面の測定点および近辺の測定点の誤差データより内挿法で補間する。これがワーク起因並進補正量計算手段である。
【0034】
<6>ブロック図
次に、
図14を用いて本発明の誤差補正部を備えた数値制御装置を説明する。数値制御装置1は一般に、指令解析部2でプログラム指令を解析して補間用データを作成し、補間部3で補間用データにもとづいて補間を行って各軸の移動すべき位置を求め、各軸用の加減速部4x,4y,4z,4b(a),4cによって各軸の加減速を行った後の各軸位置を求め、補正部5で機械に起因する並進誤差をピッチ誤差補正や真直度誤差補正などの従来技術の補正を行い(特許文献1を参照)、その結果の位置によって各軸のサーボ6x,6y,6z,6b(a),6cを駆動する。
【0035】
ここで、本発明によって、ワーク起因並進誤差補正部7でワーク格子状領域設定手段、回転軸ワーク格子状領域設定手段により誤差補正用の格子点を構成し、測定により算出されたワーク起因並進補正量設定手段により補正データを設定する。補正部5において工具先端点位置を取得し、対応した格子点のワーク起因並進補正量を取得する。ワーク起因並進誤差補正部7のワーク起因並進補正量計算手段により、工具先端点位置および対応した格子点のワーク起因並進補正量を用いて工具先端点位置の補正量ΔCw−tcpに変換する。これを新たな補正量として従来技術の補正量に加算して補正を行う。
【0036】
<7>アルゴリズムを示すフローチャート
図15は本発明の実施例1で実行される補正のアルゴリズムを示すフローチャートである。以下、各ステップに従って説明する。
[ステップS1]指令軸位置の機械座標Pm(Pmx,Pmy,Pmz,Pmb,Pmc)を得る。
[ステップS2]指令位置Pmでの工具先端点に対応する回転軸ワーク格子状領域内の格子点のワーク起因並進補正量ΔCw(ΔXw,ΔYw,ΔZw)を取得する。
[ステップS3]指令位置Pmでの工具先端点のワーク起因並進補正量ΔCw−tcpを算出する。
[ステップS4]指令直線軸位置Pml(Pmx、Pmy、Pmz)にΔCw−tcpを加算、直線軸の移動すべき機械座標値とする。
【0037】
(実施形態2)
<1>対象機械と誤差補正ベクトル
図16は本発明の数値制御装置が制御する5軸加工機の混合形の実施例である。
図16に示される機械構成では、B軸回転で傾斜する工具ヘッド1がY軸とZ軸に直線移動し、C軸回転で回転するテーブル2はX軸で直線移動する。テーブル2上にワーク3が載っている。
混合形5軸加工機における機械に起因する誤差、ワークに起因する並進誤差およびそれらの補正について説明する。
図17は、誤差が無いときの工具とテーブルの関係、機械起因並進誤差を含んだ工具とテーブルの関係、およびテーブルにワークが設置されたことで発生するワーク起因並進誤差を含んだワークとテーブルの関係図を示す。以降、「<1>対象機械と誤差補正ベクトル」の内容は実施形態1と同様のため省略する。
<2>ワーク(工作物)に起因する誤差
実施形態1と同様のため省略する。
<3>ワーク格子点定義方法
実施形態1では回転軸2軸であったのに対し実施形態2ではワークを回転させる回転軸は1軸なので、
図7の表は回転軸1軸(C軸)のみに関する表でよい。つまり、直線軸(X,Y,Z)と回転軸1軸(C)の4次元の表として考える。それ以外は実施形態1と同様のため省略する。
<4>ワーク起因並進誤差の測定例および補正量テーブル設定
<5>工具先端点位置のワーク起因並進補正量の算出
<6>ブロック図
<7>アルゴリズムを示すフローチャート
実施形態1と同様のため省略する。