特許第5792306号(P5792306)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5792306蓄積式電子衝撃イオン源を有する飛行時間型質量分析計
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5792306
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】蓄積式電子衝撃イオン源を有する飛行時間型質量分析計
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/14 20060101AFI20150917BHJP
   H01J 49/40 20060101ALI20150917BHJP
   G01N 27/62 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   H01J49/14
   H01J49/40
   G01N27/62 G
【請求項の数】26
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-524974(P2013-524974)
(86)(22)【出願日】2011年8月18日
(65)【公表番号】特表2013-539590(P2013-539590A)
(43)【公表日】2013年10月24日
(86)【国際出願番号】US2011048198
(87)【国際公開番号】WO2012024468
(87)【国際公開日】20120223
【審査請求日】2013年5月10日
(31)【優先権主張番号】61/375,115
(32)【優先日】2010年8月19日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】592071853
【氏名又は名称】レコ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】LECO CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100092967
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 修
(74)【代理人】
【識別番号】100147511
【弁理士】
【氏名又は名称】北来 亘
(72)【発明者】
【氏名】フェレンチコフ,アナトリー・エヌ
(72)【発明者】
【氏名】カシン,ユーリ
【審査官】 遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−526596(JP,A)
【文献】 特開2002−025497(JP,A)
【文献】 R. Grix, U. Gruner, G. Li, H. Stroh, H. Wollnik,An electron impact storage ion source for time-of-flight mass spectrometers,International Journal of Mass Spectrometry and Ion Processes,1989年,93,323-330
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/00−49/48
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛行時間型質量分析計のためのイオン源において、
試料蒸気をイオン化空間(115)の中へ導入する試料注入器(328)と、
連続電子ビーム(104)を前記イオン化空間(115)へ提供して検体イオンの1つ又はそれ以上のパケットを生成させる電子エミッタ(102)と、
前記検体イオンのパケットを前記第1軸に沿って受け入れ、当該検体イオンのパケットを当該第1軸に実質的に直交する第2軸に沿って周期的に加速する直交加速器(140)と、を備えており、
感度及び分解度を高めることを目的に、第1電極及び第2電極(108a、108b)が、検体イオンを前記電子ビーム(104)内に蓄積させるように前記イオン化空間(115)中に離間して配設され、前記第1電極及び前記第2電極(108a、108b)は検体イオンのパケットを前記イオン化空間(115)から第1軸に沿って加速するために周期的抽出パルス電位を受け取っており、
検体イオンのそれぞれのパケットの前記第1軸に沿った前記抽出と検体イオンの各パケットそれぞれの前記第2軸に沿った前記加速の間の時間遅延は、直交加速されたイオンパケットの中央値質量の対電荷比の平方根に概ね比例している、イオン源。
【請求項2】
前記電子エミッタ(102)は、前記電子ビーム(104)を約25eV乃至約70eVのエネルギーへ加速している、請求項1に記載のイオン源。
【請求項3】
前記電子エミッタ(102)は、少なくとも100μAの電流を前記イオン化空間(115)へ提供している、請求項1に記載のイオン源。
【請求項4】
前記試料注入器(328)は、前記イオン源中のガス圧力を約1mTorr乃至約10mTorrに維持するために、キャリアガスを約0.1mL/min乃至約10mL/minの流量で導入している、請求項1に記載のイオン源。
【請求項5】
前記イオン源は、前記イオン化空間(115)を封包していて前記電子ビーム(104)を受け入れるための第1及び第2の対向する電子開口を画定しているイオン化室(310)を更に備えており、前記イオン化室(310)は、検体イオンパケットの抽出用の抽出開口を前記第1軸に沿って画定しており(閉鎖型イオン源)、前記抽出開口は約2mm乃至約4mmの直径を有している、請求項1に記載のイオン源。
【請求項6】
前記イオン源は、前記電子ビーム(104)を受け入れるために前記電子エミッタ(102)に対向して配設されている電子コレクタ(316)を更に備えており、前記電子コレクタ(316)は、前記イオン化空間(115)からの低速電子の抽出を可能にするために前記電子エミッタ(102)に対比して正にバイアスされている、請求項1に記載のイオン源。
【請求項7】
前記イオン源は、前記イオン化空間(115)からの検体イオンパケットを受け入れ、前記検体イオンパケットを前記第1軸に沿って通過させるように配設されている移動イオン光学素子を更に備えており、前記移動イオン光学素子は、前記直交加速器(140)での前記検体イオンパケットの発散を低減する、請求項1に記載のイオン源。
【請求項8】
前記移動イオン光学素子は、少なくとも300Vの加速電圧を有する電極と、イオンビーム(104)集束を画定する開口と、を備えている、請求項7に記載のイオン源。
【請求項9】
前記第2軸に沿って加速された前記検体イオンパケットの飛行時間を分析するための多重パス飛行時間型分析器を更に備えている、請求項1に記載のイオン源。
【請求項10】
前記多重パス飛行時間型分析器は、周期レンズを有する多重反射平面飛行時間型分析器を備えている、請求項9に記載のイオン源。
【請求項11】
前記試料注入器(328)は、ガスクロマトグラフ又は二次元ガスクロマトグラフを備えている、請求項1に記載のイオン源。
【請求項12】
飛行時間型質量分光分析の方法において、
試料蒸気をイオン化空間(115)の中へ導入する段階と、
前記試料蒸気を、前記イオン化空間(115)の中へ送達される連続電子ビーム(104)でイオン化して検体イオンを生成する段階と、
前記検体イオンパケットを前記第1軸に実質的に直交する第2軸に沿って直交パルス加速する段階と、を備えており、
感度及び前記検体の分解度を高めることを目的に、前記イオン化空間(115)の静電界は前記電子ビーム(104)内にイオンを蓄積するよう配設され、
電気パルスの電界が、蓄積された検体イオンのパケットを前記イオン化空間(115)から第1軸に沿ってパルス抽出するために印加され、
前記イオンパケットの抽出は、当該イオンパケットの前記直交加速と、両者の間に時間遅延を持たせて同期化され、
前記時間遅延は、こうして直交加速される検体イオンパケットの中央値質量の対電荷比の平方根に比例する、方法。
【請求項13】
前記電子ビーム(104)を約25eV乃至約70eVのエネルギーへ加速する段階を更に備えている、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
少なくとも100μAの電流の前記電子ビーム(104)を前記イオン化空間(115)へ送達する段階を更に備えている、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記イオン源中のガス圧力を約0.1mTorr乃至約10mTorrに維持するために、前記キャリアガスを前記イオン化空間(115)の中へ約0.1mL/min乃至約10mL/minの流量で導入する段階を更に備えている、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記抽出パルスの振幅を、前記直交加速器(140)内でイオンパケットの飛行時間集束がもたらされるように調節する段階を更に備えている、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
検体イオンパケットの前記第1軸に沿った抽出とそれらの直交加速前の間に、前記検体イオンパケットを空間的に集束させる段階を更に備えている、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
直交加速の段階に先立って、前記検体イオンパケットに、少なくとも300Vの加速電圧を有する電極によって画定されている開口を通過させる段階を更に備えている、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
単回反射式又は多重パス式の何れかの飛行時間型質量分析器の静電界内で前記直交加速されたイオンパケットを質量分析する段階を更に備えている、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記分析のダイナミックレンジを高めることか又は前記分析の感度とより高い試料装填量での電子ビーム(104)の飽和との間で最良の妥協点に到達することの何れかのために、前記電子ビーム(104)内蓄積時間を調節する段階を更に備えている、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記試料蒸気を前記イオン化空間(115)の中へ導入する前に当該試料蒸気をクロマトグラフィー分離する段階を更に備えている、請求項12に記載の方法。
【請求項22】
前記試料蒸気を閉鎖型イオン源中にイオン化する段階を更に備えている、請求項12に記載の方法。
【請求項23】
前記試料蒸気を開放型イオン源中にイオン化する段階を更に備えている、請求項12に記載の方法。
【請求項24】
検体イオンを蓄積する段階は、蓄積される検体イオンを電子ビーム(104)の方向に実質的に閉じ込める静電四重極界を形成する段階を備えている、請求項12に記載の方法。
【請求項25】
前記電子ビーム(104)付近の前記静電四重極界の強さは1V/mm未満である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
検体イオンを蓄積するための期間と前記試料蒸気の流束の積は、イオン蓄積の抑制を回避するには1pg未満である、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄積式電子衝撃イオン源を有する飛行時間型質量分析計に関する。
【背景技術】
【0002】
[0001]電子衝撃(EI)イオン化は、環境分析及び技術的制御のための質量分析に広く採用されている。関心対象の試料は、食物、土壌、又は水の様な分析媒体から抽出される。抽出物は、豊富な化学物質のマトリクス内に関心対象である検体を含有している。抽出物は、一次元又は二次元のガスクロマトグラフィー(GC又はGC×GC)内で時間的に分離される。典型的にはヘリウムであるGCキャリアガスは、試料をEI源の中へ、電子ビームによるイオン化のために送達する。電子エネルギーは、標準フラグメントスペクトルを取得するために70eVに保たれるのが一般的である。スペクトルは、質量分析計を使用して収集され、次いで関心対象である検体の同定に向けて標準EIスペクトルのライブラリとの比較に供される。
【0003】
[0002]多くの用途は、高い感度レベル(例えば、少なくとも1pg未満、好適には1fgレベル)の分析で且つ低レベル検体と豊富な化学物質のマトリクスの間に高ダイナミックレンジ(例えば、少なくとも1E+5、望ましくは1E+8)濃度を有する分析を要求する。一般に、高信頼度化合物同定及び信号対化学物質ノイズ比改善のために、高分解能のデータが求められる。
【0004】
[0003]多くのGC−質量分析計システムは、四重極分析器を用いている。EIスペクトルは多様なピークを含んでいるため、一般的には広い質量範囲に亘って走査質量分析器を使用することが必要であり、それが四重極質量分析器での不可避のイオン損失につながり、スペクトル捕捉のスピードを落とし、個々の質量の痕跡の形状に歪みを引き起こし、フラグメント強度比を歪める。GC分離、特にGC×GC分離は、短いクロマトグラフィーピーク(例えば、GC×GCの場合で50ms未満)をもたらすので、パノラマ(全質量範囲)スペクトルを迅速に捕捉できるようGC又はGC×GCと連結して飛行時間型質量分析計(TOF MS)が使用されるのが一般的である。
【発明の概要】
【0005】
[0004]概して、電子衝撃イオン源を直交加速と共に採用している多重反射飛行時間型質量分析計が記載されている。好都合にも、開示されている質量分析計は、その様なシステムの分解度と感度とダイナミックレンジの組合せを、蓄積された検体イオンのパケットをイオン化空間から第1軸に沿って抽出し、検体イオンパケットを第1軸に実質的に直交する第2軸に沿って直交加速し、イオンパケットの抽出とイオンパケットの直交加速を両者の間にそれぞれの抽出検体イオンパケットの質量範囲に比例する時間遅延を持たせて同期化することによって、改善する。
【0006】
[0005]本開示の1つ又はそれ以上の実施形の詳細は、添付図面に示され、以下の説明の中で述べられている。他の態様、特徴、及び利点は、説明及び図面並びに特許請求の範囲から明らかとなろう。
【0007】
[0021]様々な図面中の同様の符号は同様の要素を表す。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】[0006]或る例示としての飛行時間型(TOF)質量分析計システムの概略図である。
図2】[0007]TOF質量分析計システムを運転するための例示としての動作配列の概略図である。
図3】[0008]或る例示としての閉鎖型蓄積式イオン源の概略図である。
図4】[0009]電子ビーム及び電位プロファイルの模式図であり、電子ビーム内のイオン蓄積及びそれに続くパルスイオン抽出を示している。
図5】[0010]或る例示としての電子衝撃イオン化−飛行時間型質量分析計(EI−TOF MS)システムの概略図である。
図6】[0011]図5に示されているシステムの蓄積式電子衝撃イオン源組立体のX−Y平面に沿った概略図である。
図7】[0012]図5に示されているシステムの蓄積式電子衝撃イオン源組立体のX−Z平面に沿った概略図である。
図8A】[0013]EI−TOF MSシステムを運転するための例示としての動作配列を提供している。
図8B】[0013]図8Aから続く、EI−TOF MSシステムを運転するための例示としての動作配列を提供している。
図9A】[0014]EI−TOF MSシステム運転中の例示としての質量スパンプロフファイルのグラフ図を提供している。
図9B】[0014]EI−TOF MSシステム運転中の例示としての質量スパンプロフファイルのグラフ図を提供している。
図10A】[0015]ガスクロマトグラフィー(GC)ヘのヘキサクロロベンゼンCCl(HCB)1pの注入についてのEI−TOF MSシステム内イオン信号強度対蓄積式イオン源中イオン蓄積時間のグラフ図を提供している。
図10B】[0016]図10Aに示されているグラフの時間差によるグラフ図であって、イオン蓄積の効率を時間的に示すグラフ図を提供している。
図11A】[0017]EI−TOF MSシステムへのHCB1pg注入から得られるHCBの同位体の実験による痕跡のグラフ図を提供している。
図11B】[0018]蓄積式イオン源でのイオン蓄積採用時のEI−TOF MSシステムへのHCB1pg注入で得られるマススペクトルの一区間のグラフ図を提供している。
図12A】[0019]EI−TOF MSシステム内の蓄積式イオン源の様々な運転モードでのダイナミックレンジプロットのグラフ図を提供している。
図12B】[0020]イオン蓄積中の飽和のグラフ図を提供している。HCB1pg当たりイオン貯蔵1μs当たりのイオン数が、カラムへ装填されたHCB試料の量に対してプロットされている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[0022]図1は、直交加速を電子衝撃(EI)イオン化源内のイオン蓄積と組み合わせて採用している例示としての飛行時間型(TOF)質量分析計システム10の概略図を提供している。TOF質量分析計システム10は、イオンミラー160及び検出器180と連通している蓄積式電子衝撃イオン源組立体50を含んでいる。蓄積式電子衝撃イオン源組立体50は、移動イオン光学素子120及び直交加速器140と連通している蓄積式イオン源100を含んでいる。蓄積式イオン源100は、第1のX軸と、X軸に直交する第2のY軸と、を画定している。幾つかの実施形では、蓄積式イオン源100は、第1パルス生成器110aと第2パルス生成器110bへ各々接続されている第1電極108aと第2電極108bの間に画定されているイオン化空間115の中へ連続電子ビーム104を送達する電子エミッタ102(例えばサーモエミッタ)を含んでいる。幾つかの実施形では、電子エミッタ102は、電子ビーム104を約25eV乃至約70eVへ加速し、及び/又は、少なくとも100μAの電流をイオン化空間115の中へ送達する。蓄積式イオン源100は、パルス生成器110a、110bからの抽出パルスと抽出パルスの間に(例えばイオン化空間115中の)電子ビーム104内にイオンを蓄積するように構成することができる。
【0010】
[0023]直交加速器140は、第3パルス生成器144a及び第4パルス生成器144bと各々に電気連通している第3電極142a及び第4電極142bを含むものである。第1パルス生成器110a及び第2パルス生成器110bからのパルスは、第3生成器144a及び第4生成器144bからの直交加速パルスと、所望質量範囲のイオンパケット150を直交加速器140による直交加速に向けて入射させるように同期化されている。直交加速されたイオンパケット150は、受け取ったイオンの進行方向を静電界を使用して逆転させるリフレクトロン160(イオンミラーとしても知られている)に受け取られる。リフレクトロン160は、実質的に同じ質量対電荷比で但し異なった運動エネルギーのイオンが、リフレクトロン/イオンミラー160と連通している検出器180に、同時に到達することを保証することによって、質量分解度を改善する。
【0011】
[0024]図2は、TOF質量分析計システム10を運転するための例示としての動作配列200を提供している。動作は、分析される試料(即ち検体)の蒸気を、第1電極108aと第2電極108bの間に画定されているイオン化空間115の中へ導入する段階202と、連続電子ビーム104をイオン化空間115の中へ送達する段階204(例えば加速する段階)と、を含んでいる。例えば、電子エミッタ102(例えばサーモエミッタ)が約25eV乃至約70eVのエネルギーの連続電子ビーム104を、第1電極108aと第2電極108bの間のイオン化空間115の中へ送達し、イオン化空間115中に検体のイオンを連続的に発生させるようにしてもよい。感度を高めることを目的に、蓄積式イオン源100は、イオンを電子ビーム104内に蓄積させるように配設することができる。幾つかの例では、動作は、第1電極108a及び第2電極108bを、電子ビーム104内のイオン蓄積を支援する電位で充電する段階を含んでいる。更に、蓄積式イオン源100のパラメータである、例えば電子電流及びエネルギー、ヘリウム流れの速度、及び/又は蓄積式イオン源100によって(例えば第2電極108bに)画定されている抽出開口108bの直径などは、蓄積式イオン源100内でのイオン蓄積及びイオンの衝突減衰が改善されるように最適化することができる。
【0012】
[0025]動作は、抽出パルスを第1電極108a及び第2電極108bへ周期的に印加し、蓄積されたイオンをY軸に沿って抽出して、例えば約0.5μs乃至約2μs推定パケット持続時間を有する短いイオンパケット130を形成させる段階206を含んでいる。動作は、更に、移動イオン光学素子120内のイオンパケット130の軌道を、直交加速器140内のイオンパケット130の発散が低減されるように整形する段階208を含んでいる。動作は、抽出パルスから或る時間遅延後に直交加速パルスを(例えば第3生成器144a及び第4生成器144bから)第3電極142a及び第4電極142bへ印加する段階210と、イオンパケット130をX軸に沿って直交加速する段階212と、を更に含んでいる。検体イオンのそれぞれのパケット130のY軸に沿った抽出加速と検体イオンの各パケット150それぞれのX軸に沿った加速との間の時間遅延は、検体イオンの各パケット130の比例質量範囲を提供する。直交加速パルスは、所望の質量範囲のイオンパケット130を直交加速器140から飛行時間型(TOF)分析器160又はイオンミラーへ移動させるのに十分なものとすることができる。更に、動作は、直交加速されたイオンパケット150を、反射のためにTOF分析器160の中へ受け入れる段階214と、反射されたイオンパケット150を検出器180の中へ受け入れる段階216を含んでいる。
【0013】
[0026]Y方向のイオンパケット130の典型的なエネルギーは、加速器140内でほぼ平行なイオン軌道131を形成させるためには、また検出器180に向かうイオンパケット150の軌道の傾きを案配するためには、20eV乃至100eVである。移動イオン光学素子120のY方向の典型的な長さは10mmから100mm程度である。直交加速器140のY方向の典型的な長さは、10mmから100mmである。イオン化領域115から直交加速器140の中央までの飛行経路内で飛行時間型分離が起こる―より小さいイオンはより重いイオンより速く加速器140に到達する。114a及び114bの加速パルス時に加速器140に捕えられるイオン質量範囲を拡大するには、約10mm程度の短いイオン光学素子120と50mmより上の長い加速器140を使用するべきであり、そうすれば50amuから1000amuの標準GC−MS質量範囲を網羅することが可能となろう。反対に、飛行時間型分析器でより高い分解度を実現するには、ほぼ平行なイオンビームを形成しなくてはならず、これにはより長いイオン光学素子を随意的なイオンビーム較正と共に使用することが必要になる。イオン光学素子の期待される長さは50mm乃至100mmであり、これだと入射させる質量範囲の縮小をもたらすはずである。所望質量範囲を選定するには、パルス生成器110a/110bの抽出パルスと生成器144a/144bの加速パルスの間の遅延を調節すればよい。典型的な遅延は、10マイクロ秒程度である。
【0014】
[0027]1つの特定の実施形では、イオン源100は、LECO Corp社によるPegasus製品ラインで採用されている「開放」型である。当該イオン源は、汚染物質に対するその堅牢性が知られている。Pegasus製品の直接的な軸方向抽出と比べると、ここで提案されている遅延直交抽出の方法は、イオン化領域に形成されるプラズマの分解のための時間遅延を提供する。更に、段階208は、直交加速器140内のイオンの低発散イオン軌道を提供する。こうして形成されたイオンパケット130は、直接パルス抽出に比べ、直交加速時におけるより短いイオンパケット150の形成を可能にするはずである。
【0015】
[0028]図3は「閉鎖」型の蓄積式イオン源300の概略図を提供している。蓄積式イオン源300は、イオン化領域315を有するイオン化室310と、連続電子ビーム314をイオン化領域315の中へ(例えばイオン化室310によって画定されている各開口を通して)送達する電子エミッタ312と、を含んでいる。幾つかの例では、電子コレクタ316が、電子ビーム314を(例えばイオン化室310によって画定されている各開口を通して)受け取る。幾つかの実施形では、イオン化室310は、内径ID(例えば13mm)と長さL(例えば10mm)を有する円筒形である。イオン化室310は、ビーム出口開口313とは反対側に(例えば約0.5mm乃至約3mmの直径Dを有するビーム入口開口311を画定している。ビーム入口開口311は、電子エミッタ312から試料採取の電子ビーム314を通過させて受け入れ、ビーム出口開口313は電子ビーム314をイオン化室310から出てゆかせ電子コレクタ316に受け取らせる。
【0016】
[0029]イオン化室310は、第1のX軸と、X軸に直交する第2のY軸と、を画定している。パワー源322は、電子エミッタ312と電気連通していて、電子ビーム314を発生させるように電子エミッタ312にエネルギー供給する。イオン源300は、更に、イオン化領域315の互いに反対側に配置されている第1電極318a(リペラ)と第2電極318b(エクストラクタ)を含んでいる。幾つかの実施形では、イオン化室310は、(例えば約1mm乃至約10mmの直径Dを有する)抽出開口317を画定しており、第2電極318bは、イオン化領域315からのイオンの抽出のために(例えば約2mm乃至約4mmの直径Dを有する)出口開口319を画定している。抽出開口319は、イオン化室310中の約1mTorr乃至10mTorrのガス圧力を維持する寸法とすることができる。この場合、イオンビーム貯蔵には、貯蔵イオンのガス冷却とイオン雲の空間的圧縮が付随することになろう。
【0017】
[0030]第1電極318a及び第2電極318bと各々に電気連通している第1パルス生成器320a及び第2パルス生成器320bは、貯蔵段階中の貯蔵電圧U及びUの第1セットと抽出段階中の抽出電圧V及びVの第2セットの間で切り替わる。電圧U及びUは、蓄積された検体イオンを半径方向に実質的に閉じ込める静電四重極界を形成するのに使用されることになる。静電四重極界は、1v/mm未満の電子ビームに近い強さを有するものとなろう。電子ビームを集束させるために第1磁石326aと第2磁石326bがイオン化領域315の互いに反対側に配設されている。示されている例では、第1磁石326aは、電子エミッタ312に近接に配置され、第2磁石326bは電子コレクタ316に近接に配置されている。移動ライン328(試料注入器とも称する)が、試料(即ち検体)をガスクロマトグラフ(図示せず)からヘリウム(又は、例えば、窒素、水素、又は何か他の希ガス)の様なキャリアガス流れに乗せてイオン化空間315の中へ送達するために使用されていてもよい。移動ライン328は、約2mm乃至約4mmの出口開口319直径での約1mTorr乃至約10mTorrのガス圧力を持続するには、キャリアガスを約0.1mL/min乃至約10mL/minの流量で導入することになろう。
【0018】
[0031]幾つかの実施形では、蓄積式電子衝撃イオン源組立体300の蓄積運転モードと静電運転モードの両方について、ビーム入口開口311は約1mmの直径Dを有し、抽出開口317は約2mm乃至約4mmの直径Dを有し、及び/又は、感度最大化につき約1mL/minのガス流れを許容している。電子ビーム314の30eVの電子エネルギーは、70eVの電子ビームエネルギーに比べ、ヘリウムのイオン化を少なくとも3桁抑制し、検体信号を2倍又は3倍引き上げる。当該効果は、有機物質の殆ど(例えばPI=7−10eV)と比べ遥かに高いヘリウムのイオン化電位(PI=23eV)のせいである。電子エネルギーの縮小は、蓄積式イオン源300の運転パラメータに影響を及ぼすことなくヘリウムの流量範囲を拡大する(また、例えば、ヘリウムイオンの空間電荷に関係するであろう)。
【0019】
[0032]電子ビーム314内の効率的なイオン蓄積を可能にするために、イオン化領域315の電界構造は、蓄積段階中の連続イオン抽出を回避するように設定されてもよい。第1電極318a及び第2電極318bの電位U及びUは、電界の強さが1V/mm未満に保たれるように、イオン化室310の電位の数ボルト以内に設定されることになろう。更に、電位U及びUは、X軸に沿った電子ビーム314の圧縮が可能になるように微かに引き付ける状態に維持されていてもよい。
【0020】
[0033]電子ビーム314は、電子ビーム314の十分な空間電荷を提供するように少なくとも100μAの電流を有するものとすることができる。比較的高い信号とヘリウム流束のより緩い許容差のために、電子ビーム314は、ヘリウムのイオン化が(例えば少なくとも3桁)抑制されるように約30eVのエネルギーを有するものとすることができる。幾つかの例では、電子コレクタ316には、試料及びヘリウムイオン化中に形成される低速電子を除去するために、電子エミッタ312に比べ微かな正電圧バイアスを有している。
【0021】
[0034]幾つかの実施形では、イオン化領域315での蓄積時間Tと試料流束Fの積は、1pg未満(T*F<1pg)であり、場合によっては0.1pg未満(T*F<0.1pg)である。例えば、約0.5ms乃至約1msの蓄積時間Tの場合、分析される流束Fは約1fg/sec乃至約100pg/secの範囲に対応する。より高い装填量又はより高い蓄積時間では、蓄積されるイオンビームがイオン化領域315に溢れ、電子ビーム314内のイオン蓄積は消失するか又は鎮まり、その結果、機器感度が低下する。試料を比較的少ない装填量で分析するか又は標的分析される夾雑物と試料マトリクスの間に有効な時間的分離を提供することによって、比較的高い機器感度を実現させることができる。二次元ガスマトグラフィー(GC×GC)は、検体のマトリクスからの十分な時間的分離を提供することができる。
【0022】
[0035]図4を参照すると、幾つかの実施形では、イオン源300は、直径dを有する電子ビーム314中にイオン蓄積区域324を形成している。電子ビーム314は、D=I/πενd〜1Vと推定され得る電位井戸を形成している。電子電流I=100uA、電子の速さν=4E+6m/s、及びビーム径d=1E−3mの場合、電位井戸は1Vと推定できよう。
【0023】
[0036]幾つかの実施形では、イオン蓄積段階中に、第1電極318a(リペラ)と第2電極318b(エクストラクタ)は、イオン化室310に対して弱い引き付け電位(例えば数V)を有している。これは、イオン化領域315の近傍に、電界の強さが1V/mm未満の比較的弱い四重極界を作り出す。四重極界は、Y軸に沿って発散し、X軸に沿って収束する。Y方向に発散する電界は、Y軸に沿った電位井戸402の深さへ及ぼす影響は低く、また一方で、X方向に収束する電界はX軸に沿ったイオンの閉じ込めを援助する。
【0024】
[0037]幾つかの実施形では、イオン排出又は抽出段階中、第1電極318a(リペラ)は正パルス電位を受け取り、第2電極318b(エクストラクタ)は引き付ける負パルス電位を受け取る。蓄積されたイオンを放出する場合、必要とされる抽出電界の強さは、電位井戸404を傾かせるには1V/mm又は5V/mmより大きい。幾つかの例では、抽出電界の強さは、抽出されるイオンパケット150のエネルギーの広がりが小さくなるように約20V/mm未満である。
【0025】
[0038]イオン蓄積のプロセスは、ヘリウムイオン406までは広がらない。HeイオンとHe原子の間の共鳴電荷交換に加えHe原子に付着した自由低速電子の共鳴交換も生じる。電荷交換反応は、電界よりもむしろ電荷の動きを制御する。ヘリウム原子側の電荷は電位井戸402を去ってゆくが、それは、電荷の動きが、電界によって統制されているというよりむしろ共鳴電荷交換反応406とガス熱エネルギーによって統制されているからである。その効果は、ヘリウムガス密度の一定の範囲内ではより起こり易く、そこでは定速電子トンネル反応が定速イオン形成を上回っている。
【0026】
[0039]図5は、例示としての電子衝撃イオン化−飛行時間型質量分析計(EI−TOF MS)システム500の概略図を提供しており、当該システムは、蓄積式電子衝撃イオン源組立体50(例えば、移動イオン光学素子120及び直交加速器140を有する蓄積式イオン源100、300)と、平面多重反射TOF(M−TOF)分析器560と、検出器580と、を含んでいる。平面M−TOF分析器560は、無電界空間564によって分離されている2つの平面格子無しイオンミラー562と、無電界空間564内の周期レンズ566のセットを含んでいる。
【0027】
[0040]蓄積式イオン源100、300は、分析器560のイオン飛行時間に一致する約500μs乃至約1000μsの期間を有する抽出パルスと抽出パルスの間にイオンを蓄積する。抽出パルスは、イオンパケット150の抽出をY軸に沿って生じさせ、直交加速器140はイオンパケット150をX軸に沿って直交加速する。蓄積式イオン源100、300、及び光学素子120は、M−TOF分析器560に対して微かに傾けられている。イオンパケット150は、M−TOF分析器560のミラー562の間で反射され、周期レンズ566によってジグザグ状の主軌道に沿って閉じ込められたままZ方向にゆっくりと押し流されてゆく。
【0028】
[0041]図6は、蓄積式電子衝撃イオン源組立体50のX−Y平面に沿った概略図を提供している。図7は、蓄積式電子衝撃イオン源組立体50のX−Z平面に沿った概略図を提供している。示されている例では、蓄積式電子衝撃イオン源組立体50は、第1パルス生成器110aと第2パルス生成器110bへそれぞれ接続されている第1電極108aと第2電極108bの間のイオン化空間115の中へ連続電子ビーム104を送達する電子エミッタ102を有する蓄積式イオン源100を含んでいる。蓄積式イオン源100は、蓄積式イオン源100から抽出され直交加速器140へ送達されるイオンパケット150の空間的発散を低減する静電イオン光学素子120と連通している。直交加速器140は、第3パルス生成器144a及び第4パルス生成器144bと各々に電気連通している第3電極142a及び第4電極142bを含んでいる。この事例では、第3電極142aは、第3パルス生成器144aからの正パルスを受け取っている押出板であり、第4電極142baは、第4パルス生成器144bから負パルスを受け取っている網目カバー付きの牽引板である。幾つかの例では、直交加速器140は、静電加速段146と、Z偏向器148zと、Y偏向器148yと、を含んでいる。
【0029】
[0042]図6及び7に示されている例では、直交加速器140は、イオン光学素子120の軸に直交に向きを定められている。しかしながら、蓄積式電子衝撃イオン源組立体50全体は、イオンパケット150をMR−TOF分析器560(図5)のジグザグ状の軌道に沿って操舵するために、EI−TOF MSシステム500のX軸、Y軸、及びZ軸に関して或る角度を成して向きを定められており、蓄積式電子衝撃イオン源組立体50の傾けと1つ又はそれ以上の偏向器148y、148zでのイオンパケット150の操舵から派生する時間歪みの相殺を図っている。
【0030】
[0043]図8A及び図8Bは、EI−TOF MSシステム500を運転するための例示としての動作配列800を提供している。動作は、分析される試料(即ち検体)の蒸気を第1電極108と第2電極108bの間のイオン化空間115の中へ導入する段階802と、連続電子ビーム104をイオン化空間115の中へ送達して試料を照射し試料イオン(例えば検体のイオン)を発生させる段階804と、を含んでいる。感度を高めることを目的に、動作は、イオン化空間115で電子ビーム104内にイオンを蓄積する段階806を含んでいる。イオン蓄積は、例えば、磁界を(例えば第1磁石326a及び第2磁石326bによって)形成して実質的に電子ビーム104を半径方向に閉じ込めることによって増進することができるであろう。幾つかの例では、動作は、第1電極108a及び第2電極108bを、電子ビーム104内のイオン蓄積を支援する電位で充電する段階を含んでいる。電子ビーム104付近の静電四重極界の強さは1V/mm未満となろう。検体イオンのパケット130は、20V/mm未満の強さを有するパルス電界を電子ビーム104に印加することによって形成することができる。動作は、抽出パルスを第1電極108a及び第2電極108bへ周期的に印加して、蓄積されたイオンを第1軸に沿って抽出する段階808と、移動イオン光学素子120内のイオンパケット130の軌道を、直交加速器140内のイオンパケット130の発散が低減されるように整形する段階810と、を含んでいる。動作は、抽出パルスから或る時間遅延後に直交加速パルスを(例えば第3生成器144a及び第4生成器144bから)第3電極142a及び第4電極142bへ印加する段階812と、イオンパケット150を第1軸に直交する第2軸に沿って直交加速する段階814と、を更に含んでいる。時間遅延は、直交加速に向けて特定の質量対電荷比(m/z)のイオンパケット130が獲得されるように調節することができる。
【0031】
[0044]動作は、直交加速されたイオンパケット150を第2軸(X軸)に沿って静電加速器146の中へ受け入れる段階816と、イオンパケット150を(例えばY軸に沿った方向に)操舵して、傾けと操舵の時間ひずみを相殺させる段階818と、を更に含んでいる。動作は、更に、直交加速されたイオンパケット150を、MR−TOF分析器560の中へ、イオンパケット150がMR−TOF分析器560内でジグザグ状の軌道に沿って操舵されるようにMR−TOF560のX軸、Y軸、Z軸の少なくとも1つに関して或る角度で受け入れる段階820を含んでいる。動作は、反射されたイオンパケット150を検出器180の中へ受け入れる段階822を含んでいる。
【0032】
[0045]EI−TOF MSシステム500は、少なくとも限定された質量範囲について高い分解度を有するMR−TOF560の1デューティサイクルで運転されることになる。更に、蓄積式イオン源100内のイオン蓄積はEI−TOF MSシステム500の静電モード時に比べデューティサイクルを改善する。静電運転モードでは、第1パルス生成器110aと第2パルス生成器110bはスイッチを切られ、第1電極108a及び第2電極108bへは弱い抽出電位が印加される。次いで、連続イオンビーム104がイオン光学素子120を通過し、第3電極142aと第4電極142bの間の加速ギャップ143(図7)に進入する。幾つかの例では、加速ギャップ143の長さLは6mm未満であり、このときイオンエネルギーは約80eVである。その様な事例では、中央値質量(例えばm/z=300)のイオンは、直交加速器140を1μs未満で通過する。よって、700μsの期間から1μsしか直交抽出には利用できず、即ち連続モードのMR−TOF560のデューティサイクルは0.15%未満となる。蓄積モードでは、抽出されるイオンパケット150は、直交加速器140の長さLより短く、狭い質量範囲のイオンは、ほぼ1デューティサイクルで直交加速される。感度の期待利得は、EI−TOF MSシステム500の静電運転モードに比べ、500と推定される。
【0033】
[0046]実験試験
[0047]EI−TOF MSシステム500でのイオン蓄積の効果を実験により試験するために、閉鎖型の蓄積式イオン源300を、13mmの内径IDと10mmの長さLを有するイオン化室310と共に使用した。実験にあたり、熱電子エミッタ102は、3mAの安定放出電流を提供する。イオン化室310は、イオン化室310によって画定されているビーム入口開口311を通して100uAの電流の電子ビームを試料採取する。入口開口311は、約1mmの直径Dを有している。200ガウスの均一磁界は、イオン化領域315に電子ビーム104を閉じ込める。イオン化室310の抽出開口317は、約4mmの直径Dを有しており、第2電極318b(例えば真空シールされた抽出電極)は、約2mmの直径Dを有する出口開口319を画定している。イオン化領域315は、Agilent6890Nガスクロマトグラフ(95051−7201カルフォルニア州サンタクララ、スティーヴンズクリークブールバード5301のAgilent Technologies,Inc.社から入手)から移動ライン328経由で0.1乃至10mL/minのヘリウムガス流れ内に乗せられた試料を受け入れる。実験の殆どは、GCマイクロカラムにとって典型的な1mL/minのヘリウム流れに対応している。
【0034】
[0048]実験にあたり、イオン化室310は、大地に対して+80Vで浮動し、電子エネルギーは、約20eV乃至約100eVの範囲で選択される。蓄積段階中、第1電極318aは、約70V乃至約78V(例えばイオン化室310の電位より約2−10V低い)のリペラ電位を受け取り、第2電極318bは、イオン化室310への低電界浸透を勘案して、0V乃至約70Vのエクストラクタ電位を受け取る。排出段階では、第1電極318aは、約80V乃至約90Vのリペラ電位を受け取り、第2電極318bは、0V乃至約−200V(負)のエクストラクタ電位を受け取る。電圧は、蓄積モード中のイオン信号が最大になるように選択される。
【0035】
[0049]実験にあたり、イオン光学素子120内では、静電レンズ(図示せず)は、通過するイオンパケット130の角発散を制限する1mm×2mmのスリットを画定する−300Vの加速中空電極を含んでいる。スリットは、最初は平行なイオンビームのイオン軌道集束面に整合するように配設されている。加速電極は、操舵要素―どれも少なくとも−300Vまで浮動―を有する一対の望遠レンズに隣接して配置されている。望遠レンズに隣接して配置されている減速レンズが、約2mm未満の直径を有し80eVのイオンエネルギーでの最大発散約4度未満の実質的に平行なイオンビームを形成させる。
【0036】
[0050]80eVのイオンビームは、直交方向に試料採取されるイオンパケット150の有効長さを6mmとする直交加速器140に進入する。蓄積式イオン源300とレンズシステム120と直交加速器140はどれも、実験ではMR−TOF分析器560のY軸に関して約4.5度の角度で一体に傾けられている。ビームは、直交加速器140を過ぎてXZ平面へ戻り操舵される。イオン源の抽出パルスと直交加速パルスの間の遅延は、所望の質量範囲のイオンを入射させるように変えられ、入射質量範囲はMR−TOF分析器560でチェックされる。
【0037】
[0051]MR−TOF分析器560は、実験では平面状であり、それぞれが5つの細長いフレームからなる2つの平行な平面イオンミラーを含んでいる。電極への電圧は、初期イオンエネルギー、空間的広がり、及び角度的広がりに関して、高次等時イオン集束に達するように調節されている。ミラーキャップ間距離は約600mmである。周期レンズ566のセットはジグザグ状の主軌道に沿ったイオンの閉じ込めを強化する。イオンはレンズを順Z方向と逆Z方向に通る。イオン経路の全有効長は、実験では約20mである。4kVの加速電圧は、MR−TOF分析器560の浮動電界無しの領域564によって画定される。1000amuの最重質イオンについての飛行時間は700μsとなろう。
【0038】
[0052]連続運転モードでは、EI−TOF MSシステム500のデューティサイクルは、比較的重い質量対電荷比(例えば、m/e=1000)については約0.25%とされ、イオン質量対電荷比が小さくなれば平方根に比例して下がる。EI−TOF MSシステム500は、比較的重いイオンについて、45,000−50,000の分解度を有している。
【0039】
[0053]図9A及び図9Bは、それぞれ、EI−TOF MSシステム500の運転中の例示としての質量スパンプロファイルのグラフ図を提供している。蓄積式イオン源300をパルスイオン抽出を有する蓄積モードで運転し、図9Aに質量対電荷比m/e=69,219と502を有するイオンについての直交加速器140内のイオンパケット150の時間プロファイルを示した。蓄積式イオン源300を過ぎたイオンパケット150についての半値全幅(FMHM)は、質量69では0.5μsであり、質量対電荷比m/eの平方根に比例して増加している。当該幅は、蓄積式イオン源300からの抽出されたイオンパケット150の初期持続時間によるというよりむしろ直交加速器140中に費やされた時間によって制限される。結果として、直交加速の時点に所望m/eのイオンパケット150全体を直交加速器140内に捕えることができ、直交加速器140のデューティサイクルは1に近くなる。蓄積式イオン源300内にイオンを蓄積することによって、EI−TOF MSシステム500の(パルスモードの)感度は、EI−TOF MSシステム500の静電(連続)運転モードに比べ、数百倍改善されることであろう。蓄積式イオン源300と直交加速器140の間の飛行時間効果のせいで、直交加速器140中にイオンパケット150を集束させるための時間が分析される質量範囲を必然的に縮めることになる。
【0040】
[0054]図9Bは、21μsの時間遅延についての質量範囲のグラフ図を、縦軸に対数目盛を用いて提供している。有効質量範囲は、280amuの中央値質量で〜15amuである。典型的なGC−TOF分析では、時間遅延はGC保持時間と共に予め設定されなくてはならない。とはいえGC分離は一般に時間を追った再現性を有し、殆どの広く普及しているGC−MS分析は、主として、既知の超痕跡の検出を取り扱っている。
【0041】
[0055]図10Aは、GCカラムヘのヘキサクロロベンゼンCCl(HCB)1pgの注入についてのEI−TOF MSシステム500内イオン信号強度対蓄積式イオン源300中イオン蓄積時間のグラフ図を提供している。示されている様に、イオン信号の強度は、イオン蓄積の持続時間に従って伸びている。信号は、GCカラムへ装填されたヘキサクロロベンゼンCCl(HCB)1pg当たりのMR−TOF分析器560での分子イオン数(282−290amu範囲)として測定されている。グラフは、蓄積イオン数が1msまでは蓄積時間に伴って増加し、そして1msを超えた時点で飽和することを示している。
【0042】
[0056]図10Bは、図10Aに示されているグラフの時間差によるグラフ図であって、イオン蓄積の効率を時間的に示すグラフ図を提供している。最大効率は200−400μsに観測され、GCカラム装填HCB1pgにつきマイクロ秒当たり6イオンに達している。
【0043】
[0057]図11Aは、EI−TOF MSシステム500への(例えばイオン化領域315への)HCB1pg注入から得られるHCBの同位体の実験による痕跡のグラフ図を提供している。個々のイオンクロマトグラムの時間的痕跡が、282.81+/−0.005amu及び290.90+/−0.005amuのイオンについて示されている。痕跡はHCBの同位体が少ないこと提示しており、即ち、分子同位体クラスター存在比が、282.8amuの同位体は30%、同位体290.8amuは0.2%である。有効装填量2fgでの290.8amu同位体のGCによる痕跡は、信号対ノイズ比S/Nが50を超える素晴らしく滑らかな形状を示している。パルス運転モードでのEI−TOF MSシステム500は、GCカラム装填HCB1pg当たり100,000分子イオンの感度に達し得る。
【0044】
[0058]図11Bは、蓄積式イオン源300でのイオン蓄積採用時のEI−TOF MSシステム500への(例えばイオン化領域315への)HCB1pg注入で得られる質量スペクトルの一区間のグラフ図を提供している。提示されているスペクトルの分解能は35,000である。280amu質量範囲での分解度は検出器の周波数帯域幅により若干制限されるが、分解度はなお35,000−40,000を超えており、GCカラムブリーディングの281.05amu及び282.05amuのピークによって提示されているように検体ピークの背景化学物質ピークからの分離を可能にしている。高分解度分析は、超痕跡を検出する能力を実質的に改善する。背景化学物質が低分解度質量分析計の質量スペクトルピークの中へ含まれると、基本強度の統計ばらつきを有する集約的ベースラインがもたらされる。結果として、化学物質ノイズ集中は、主として、機器の絶対感度というよりむしろ検出限界に影響を及ぼす。限界は、試料マトリクスの化学物質の多様性及び複合性に強く依存する。透過率100%を有する機器の最大可能感度と1E−4に等しいEIイオン化最大効率を前提をすると、281amuの0.1fg/secの流れは、6E+3イオン/secを発生させる。20スペクトル/secの最低所要捕捉速度では、281amuイオンの強度はスペクトル当たり300イオンに相当するであろう。信号の2シグマ統計ばらつきは、30イオン/スペクトルと推定され、それは0.01fg/secの流れに相当する。よって、S/N>10を有する最小信号は0.1fg/secに相当することになる。
【0045】
[0059]実際の分析では、現実のマトリクスの背景化学物質は何桁も高い可能性があり、すると検出限界はピコグラムレベルへ移行する。幾つかの例では、たった1つのイオンノイズに加え100イオンという検出限界は0.1−1fgに相当し、検出限界は、検体化合物が背景化学物質から質量分解されるのでマトリクス濃度からの独立性の高いものとなる。
【0046】
[0060]図12Aは、EI−TOF MSシステム500内の蓄積式イオン源300の様々な運転モードでのダイナミックレンジプロットのグラフ図を提供している。検出器580上のイオンの数が、蓄積式イオン源300への注入に向けてGCカラムへ注入されたHCB試料の量に対してプロットされている。採用モードは、イオン源300からの連続イオンビームの静電抽出と、蓄積時間10us、100us、及び600usを用いたイオン源300のイオン蓄積レジームと、を含んでいる。EI−TOF MSシステム500のダイナミックレンジの提示にあたり、HCBの分子同位体クラスターの信号がGCカラムへの試料注入量に対してプロットされている。イオン源の静電運転モード(即ち、蓄積式イオン源300からのイオンの連続抽出を用いる)では、信号は、1pgから1000pgまでの試料注入量に比例しており、感度は300イオン/pgである。より高い注入量(例えば1000pg超)では、信号は飽和の兆候を呈している。よって、ダイナミックレンジは4桁である。
【0047】
[0061]蓄積モードでは、信号はイオン蓄積時間に依存するようである。10μsの蓄積時間については、信号は大凡5−10倍大きく、100μsの蓄積時間では、信号は大凡50−100倍大きく、600μsの蓄積時間では、信号は300倍大きい―全て静電運転モードに対比。しかしながら、最大観測信号は、GCピークにつき1E+6イオンのレベルで飽和し始めている。飽和は蓄積式イオン源300それ自体により課されるものである。蓄積式イオン源300後のイオンビームの焦点外れの較正が、全ての運転モードについて比例的な信号変化を促し、MR−TOF分析器560及び検出器580の飽和効果を排除する。場合によっては、電子放出電流を下げることで、信号飽和はより高い試料装填量の領域へ移行する。
【0048】
[0062]図12Bは、イオン蓄積時の飽和のグラフ図を提供している。HCB1pg当たりイオン貯蔵1μs当たりのイオン数が、カラムへ装填されたHCB試料の量に対してプロットされている。グラフは、装填1pg当たりイオン貯蔵1μs当たりのイオン数はより高い試料装填量で飽和することを示している。飽和は、10μs蓄積については1000pgで、100μsの蓄積時間については100pgで、600μsの蓄積時間については10−100pgに起こっている。
【0049】
[0063]比較的低い試料装填量では、蓄積モードは、EI−TOF MSシステム500の感度を100,000イオン/pgのレベルまで最大300倍改善する。蓄積式イオン源300は、フェムトグラムレベル及びサブフェムトグラムレベルの超痕跡の検出に採用することができるであろう。
【0050】
[0064]入射質量範囲が縮めば、蓄積モードでの超高感度分析に好都合となろう。代わりに、全質量範囲の入射は、強い背景成分による検出器飽和を引き起こす可能性がある。比較的狭い質量範囲の入射は、複雑さを増大させるかもしれないが、いわゆる標的分析で既知の夾雑物の分析についてGC保持時間当たりの分析質量範囲を事前設定する場合はGC−MS分析にとって受容可能であろう。
【0051】
[0065]質量スパンは、蓄積式イオン源300の第1電極318a及び第2電極318b側の(単数又は複数の)抽出パルスと直交加速器140の第3電極142a及び第4電極142b側の(単数又は複数の)直交加速パルスの間の遅延を改変することによって大きくすることができる。抽出パルスと直交加速パルスの間の遅延は、質量範囲拡大に比例して信号損失を引き起こすが、感度は静電運転モードに比べ遥かに高いままである。例えば、150amuウインドーについて、利得は約30のままである。
【0052】
[0066]比較的低い試料濃度では、感度は蓄積時間に略比例しており、それをビーム減衰較正や分析のダイナミックレンジ増大のために使用できるであろう。
[0067]比較的高い濃度では、信号の飽和及び感度の低下が起こる可能性がある。飽和は、比較的少ない試料装填量で蓄積時間が長くなっても起こる。更に、飽和は、総試料量が誘因となることもある。よって、共溶出化学物質マトリクスの強いGCピークの存在下での小痕跡の分析は感度格差をもたらす。例えば、飽和は、10−30pg/secより上の試料装填量について起こり得る。約1マイクログラム総装填量を有するマトリクスについては、個々のマトリクス化合物は数ナノグラムのレベルであろうと予想される。よって、試料マトリクスのピークとの時間重複は、蓄積モードでの機器感度の10−30倍の抑制を引き起こすことがある。
【0053】
[0068]幾つかの実施形では、化学物質マトリクスによる信号抑制を回避する方法は、二次元GC−GCクロマトグラフィー内で試料を分離して超痕跡をマトリクスから一時的に分離させる段階を含んでいる。他の実施形では、化学物質マトリクスによる信号抑制を回避する方法は、蓄積式イオン源300に10-50μs毎にパルスを印加する段階を含んでいる。MR−TOF分析器560を使用している例では、方法は、直交加速器140による直交加速パルスを蓄積式イオン源300の抽出パルスと同期化する段階を含んでいる。MR−TOF分析器560での質量ピーク重複を回避するのに、方法は、飛行時間型分析の早い段階で狭い質量範囲を分離する段階を含んでいてもよい。例えば、方法は、狭い質量範囲を例えばZ偏向器148Z内のパルス偏向によって選択する段階、及びビーム左右掃引の原理を採用する段階を、含んでいてもよい。
【0054】
[0069]数多くの実施形を説明してきた。とはいえ、本開示の精神及び範囲から逸脱することなく様々な変更がなされる余地のあることが理解されるであろう。従って、他の実施形は付随の特許請求の範囲による範囲の内にある。
【符号の説明】
【0055】
10 飛行時間型(TOF)質量分析計システム
50 蓄積式電子衝撃イオン源組立体
100 蓄積式イオン源
102 電子エミッタ
104 電子ビーム
108a 第1電極
108b 第2電極
110a 第1パルス生成器
110b 第2パルス生成器
115 イオン化空間
120 移動イオン光学素子
130 イオンパケット
131 イオン軌道
140 直交加速器
142a 第3電極
142b 第4電極
143 加速ギャップ
144a 第3パルス生成器
144b 第4パルス生成器
146 静電加速段
148y y偏向器
148z z偏向器
150 イオンパケット
160 イオンミラー、リフレクトロン
180 検出器
300 閉鎖型蓄積式イオン源
310 イオン化室
311 ビーム入口開口
312 電子エミッタ
313 ビーム出口開口
314 電子ビーム
315 イオン化領域
316 電子コレクタ
317 抽出開口
318a 第1電極(リペラ)
318b 第2電極(エクストラクタ)
319 出口開口
320a 第1パルス生成器
320b 第2パルス生成器
322 パワー源
324 イオン蓄積区域
326a 第1磁石
326b 第2磁石
328 移動ライン(試料注入器)
500 電子衝撃イオン化飛行時間型質量分析計(EI−TOF MS)
560 平面多重反射TOF(M−TOF)
562 イオンミラー
564 無電界空間
566 周期レンズ
580 検出器
ID イオン化室の内径
イオン化室の長さ
加速ギャップの長さ
入口開口の直径
抽出開口の直径
出口開口の直径
d イオン蓄積区域の直径
、U 貯蔵電圧
、V 抽出電圧
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図12A
図12B