(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5792353
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】クランプ装置
(51)【国際特許分類】
F16B 2/12 20060101AFI20150917BHJP
A61M 5/14 20060101ALI20150917BHJP
A61J 1/16 20060101ALI20150917BHJP
F16B 31/02 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
F16B2/12 B
A61M5/14
A61J1/00 390L
F16B31/02 H
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-119281(P2014-119281)
(22)【出願日】2014年6月10日
【審査請求日】2014年6月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】592222525
【氏名又は名称】株式会社トライテック
(74)【代理人】
【識別番号】100098936
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100098888
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 明子
(72)【発明者】
【氏名】古屋 明彦
【審査官】
保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2008/139951(WO,A1)
【文献】
特開2013−257004(JP,A)
【文献】
特開2010−046281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61J1/00−1/16
3/00−19/06
A61M3/00−9/00
31/00
39/00−39/28
B67B7/92
F16B2/00−2/26
23/00−43/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定側クランプ部と可動側クランプ部とでなる一対のクランプ部と、手動式の回転操作部と、一端側が前記可動側クランプ部に連結され、螺進する回転軸と、前記回転軸の他端側と前記回転操作部との間に介装された安全装置付きトルクリミッタ機構とを備えたクランプ装置において、
安全装置付きトルクリミッタ機構は、
前記回転操作部と前記回転軸のそれぞれの対向側に複数設けられ、前記回転操作部側で、傾斜圧接面が回転方向側を向いた傾斜凸部と、垂直圧接面が同方向側を向き、前記傾斜圧接面より回転方向後方に位置する垂直凸部とである圧接部と、前記可動側クランプ部側で、傾斜圧接面が回転方向反対側を向いた傾斜凸部と、垂直圧接面が同方向側を向き、前記傾斜圧接面より回転方向後方に位置する垂直凸部とである圧接部と、前記回転操作部側の圧接部を前記可動クランプ側の圧接部に対して前記回転軸の軸方向から弾性的に付勢する弾性付勢手段とで構成され、初期状態では前記傾斜圧接面どうしが接触したときに、前記垂直圧接面どうしは離間して接触しないように設定されており、
前記弾性付勢手段から付勢力を受けると、前記傾斜圧接面どうしが圧接してトルクリミッタが作動可能な状態でクランプ機能が働き、前記傾斜圧接面の両方がまたは一方が磨滅したときには、前記垂直圧接面どうしが圧接してクランプ機能は安全維持されることを特徴とするクランプ装置。
【請求項2】
請求項1に記載したクランプ装置において、
回転操作部と回転軸のそれぞれの対向側には取付部が設けられており、各取付部に複数の傾斜凸部と複数の垂直凸部がそれぞれ円を描くように同軸状に配列されていることを特徴とするクランプ装置。
【請求項3】
請求項2に記載したクランプ装置において、
取付部と凸部は一体の樹脂成形品で構成されており、回転操作部側は可動側クランプ側より軟質になっていることを特徴とするクランプ装置。
【請求項4】
請求項3に記載したクランプ装置において、
弾性付勢手段は傘の骨組状に広がったバネ片によって構成されており、前記バネ片が回転操作部側の取付部を圧接に関わらない背面側から付勢していることを特徴とするクランプ装置。
【請求項5】
請求項2から4のいずれかに記載したクランプ装置において、
傾斜凸部の円状列が垂直凸部の円状列より外側に配置していることを特徴とするクランプ装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載したクランプ装置において、
医療装置をスタンドのポールに取り付けるのに利用することを特徴とするクランプ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランプ装置に係り、特にトルクリミッタ機構を備えたクランプ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療装置、例えば、点滴に用いる輸液ポンプは、スタンドのポールに固定した置き台に本体を載置した状態で使用する。そのため、置き台が落下したりしないよう、置き台をポールにしっかりと固定する必要がある。
特許文献1に示すように、置き台には、固定側クランプ部と可動側クランプ部とでなる一対のクランプ部を有するクランプ装置が取り付けられており、この可動側クランプ部が固定側クランプ部に対して近接し、ポールを両クランプ部で抱持した状態でクランプすることで固定する仕組みになっているが、特に医療用ではしっかりと固定しようとする意識が働くのか、過剰に固く締付けて固定しがちである。
【0003】
これを放置すると、可動側クランプ部に連結した軸が曲がったり、その軸に形成されたネジ部分が潰れてクランプしたままとなったりするなど、クランプ機能に悪影響が出てくる。
そのため、従来は、ノブ等の手動操作部と、可動側クランプ部との間にトルクリミッタ機構を介装させ、可動側クランプ部に伝達されるトルクを制限して、締付けが固くなり過ぎないように調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006―218172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
トルクリミッタ機構を介装させた場合、可動側クランプ部側の圧接面とノブ等の回転操作部側の圧接面とが摩擦摺動することで、回転操作部側のトルクが伝達される仕組みになっていくが、長期にわたって使用し続けると、圧接面が摩耗により磨滅していくので、摩擦摺動できず、結果として、締付けが不十分となってクランプ機能が損なわれる。従って、置き台が落下する危険性が出てくる。このような落下は、締付け固定の作業時とは限らず、固定完了してその場を離れた後に起こる場合もあるが、医療装置では、そのような落下は患者の命に係わる医療事故に繋がりかねず、到底看過できるものではない。
【0006】
本発明は上記従来の問題に着目して為されたものであり、トルクリミッタ機構に安全装置を設け、長期に渡って使用し続けても、クランプ機能が安全に維持されるクランプ装置を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、請求項1の発明は、固定側クランプ部と可動側クランプ部とでなる一対のクランプ部と、手動式の回転操作部と、一端側が前記可動側クランプ部に連結され、螺進する回転軸と、前記
回転軸の他端側と前記回転操作部との間に介装された安全装置付きトルクリミッタ機構とを備えたクランプ装置において、安全装置付きトルクリミッタ機構は、前記回転操作部と前記回転軸のそれぞれの対向側に複数設けられ、前記回転操作部側で、傾斜圧接面が回転方向側を向いた傾斜凸部と、垂直圧接面が同方向側を向き、前記傾斜圧接面より回転方向後方に位置する垂直凸部とである圧接部と、前記可動側クランプ
部側で、傾斜圧接面が回転方向反対側を向いた傾斜凸部と、垂直圧接面が同方向側を向き、前記傾斜圧接面より回転方向後方に位置する垂直凸部とである圧接部と、前記回転操作部側の圧接部を前記可動クランプ側の圧接部に対して前記回転軸の軸方向から弾性的に付勢する弾性付勢手段とで構成され、初期状態では前記傾斜圧接面どうしが接触したときに、前記垂直圧接面どうしは離間して接触しないように設定されており、前記
弾性付勢手段から付勢力を受けると、前記傾斜圧接面どうしが圧接してトルクリミッタが作動可能な状態でクランプ機能が働き、前記傾斜圧接面の両方がまたは一方が磨滅したときには、前記垂直圧接面どうしが圧接してクランプ機能は安全維持されることを特徴とするクランプ装置である。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載したクランプ装置において、回転操作部と回転軸のそれぞれの対向側には取付部が設けられており、各取付部に複数の傾斜凸部と複数の垂直凸部がそれぞれ円を描くように同軸状に配列されていることを特徴とするクランプ装置である。
【0009】
請求項3の発明は、請求項2に記載したクランプ装置において、取付部と凸部は一体の樹脂成形品で構成されており、回転操作部側は可動側クランプ側より軟質になっていることを特徴とするクランプ装置である。
【0010】
請求項4の発明は、請求項3に記載したクランプ装置において、弾性付勢手段は傘の骨組状に広がったバネ片によって構成されており、前記バネ片が回転操作部側の取付部を圧接に関わらない背面側から付勢していることを特徴とするクランプ装置である。
【0011】
請求項5の発明は、請求項2から4のいずれかに記載したクランプ装置において、傾斜凸部の円状列が垂直凸部の円状列より外側に配置していることを特徴とするクランプ装置である。
【0012】
請求項6の発明は、請求項1から5のいずれかに記載したクランプ装置において、医療装置をスタンドのポールに取り付けるのに利用することを特徴とするクランプ装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のクランプ装置によれば、トルクリミッタ機構に安全装置を設け、長期に渡って使用し続けても、クランプ機能が安全に維持される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明のクランプ装置の使用状態を示す斜視図である。
【
図2】
図1のクランプ装置のクランプ動作の説明図である。
【
図3】
図1のクランプ装置の部分拡大斜視図である。
【
図9】
図3の二つの構成部品の嵌込み状態を示す底面図である。
【
図10】
図2のクランプ動作における、一体回転時のトルクリミッタ機構の状態説明図である。
【
図11】
図10とは別の、空転時のトルクリミッタ機構の状態説明図である。
【
図12】
図10に対応する、摩耗進行後の安全装置の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態に係るクランプ装置1を図面によって説明する。
図1に示すように、クランプ装置1には置き台101が一体に取り付けられており、スタンド103のポール105に、このクランプ装置1を固定することで、この置き台101が一定の高さで支持されるようになっている。置き台101には、輸液ポンプ107が載置されている。
【0016】
このクランプ装置1について、以下詳細に説明する。
符号3はクランプ基部を示す。このクランプ基部3は3つの矩形側面部が連設されており、上方からは略コの字型に見える。この3つの側面部のうち対向する一対の側面部の一方が固定側クランプ部5となっており、対向面側には上下方向に延びる凹部7が形成されている。
他方が軸支持部9となっており、その軸支持部9を貫通して雌ネジ穴11が形成されている。
【0017】
符号13は雄ネジ軸(シャフト)を示し、この雄ネジ軸13の軸方向先端側には可動側クランプ部15が連結されている。この可動側クランプ部15は、一対の凹状片17、17が上下に間隔を開けて配されている。この一対の凹状片17、17と上記した固定側クランプ部5の凹部7は凹面側が対向しており、互いに近接するとポール105を安定的に抱持できるようになっている。
雄ネジ軸13の軸方向他端側にはノブ19が連結されている。
雄ネジ軸13は軸支持部9の雌ネジ穴11にネジ部分が螺合した状態で挿通されており、可動側クランプ部15が固定側クランプ部5と対向するよう、クランプ基部3側に配置されている。
従って、
図2に示すように、締め付ける場合には、ノブ19を回すと、空回りしないときには、雄ネジ軸13が軸方向に螺進し、可動側クランプ部15が固定側クランプ部5に対して近接移動し、仮想線で示す状態から実線で示す状態に変わっていく。
【0018】
図3に示すように、雄ネジ軸13の軸方向他端側は貫通孔の有る軸固定部21に差し込まれている。軸固定部21の側部にはネジ孔が形成されており、そこに挿通された押ネジ23が螺進して差し込まれた雄ネジ軸13を押圧しており、雄ネジ軸13は軸固定部21に対して抜け止め固定されている。
次に、ノブ19の構成を詳細に説明する。
符号25はケースを示し、回転操作部となっている。
図4に示すように、このケース25は有天の略円筒状を為しており、その外側面には複数の滑り止め凹部27が形成されると共に、天部の中心には内側に向かって凹んだ凹部29が形成されており、その天中心部には支持孔31が形成されている。凹部29の周囲には複数の連通孔33が形成されている。
図4のカッコ内は、ケース25を内側面から示したものであるが、この図に見えるように、軸方向に平行に凹凸列35が形成されている。開口端側には、その凹凸列の凸列が無く、滑らかな環状の内面37となっている。また、開口端では、凹凸列35の凸列に対応した位置に抜け止め爪部39が複数形成されている。
【0019】
符号41は介装部材を示す。この介装部材41も有天の略円筒状を為しているが、上記したケース25よりは短筒状になっている。この側部も凹列と凸列が交互に並んだ凹凸状になっており、外側面側の凹凸列43に対し、内側面側の凸凹列45(
図9)が対向している。この列は軸方向に平行に延びている。また、天部には中心に四角形の支持孔47が形成され、その周囲には複数の連通孔49が形成されている。
符号51はバネ部材を示し、このバネ部材51は支持軸53とその一端から傘の骨組状に拡がって延びた複数のバネ片55とで構成されている。
【0020】
符号57は円盤状の取付部を示し、この取付部57の外側面には凹凸列59が形成されている。また、取付部57の中心部には円状の段差部61が設けられており、
図4で見ると、その段差部61は上面側が凸面で下面側が凹面になっている。この段差部61の中心付近は二つの連通孔63が形成されている。この取付部57のうち下面側は圧接用の対向面になっており、
図4のカッコ内に示しているように、二種類の凸部65、71が一対で複数形成されている。
【0021】
凸部65、71のうち、一方は傾斜凸部65になっている。この傾斜凸部65は正方体を斜めに二分割したような形状になっており、その傾斜面67が圧接面となっている。この傾斜圧接面67が側面を成すように取り付けられており、その上方頂部が傾斜端部69となっている。複数の傾斜凸部65は、取付部57の対向面上に同軸状に一つの円を描くように所定の間隔をあけて並べられており、傾斜圧接面67は同じ方向を向いている。
他方は、垂直凸部71になっている。この垂直凸部71は稍扁平な直方体の形状になっており、その板面の一方が圧接面73となっている。この圧接面73が垂直側面を成すように取り付けられており、その板厚面が垂直端部75となっている。複数の垂直凸部71も、取付部57の対向面上に同軸状に一つの円を描くように並べられており、垂直圧接面73は傾斜圧接面67と同じ方向を向いている。
【0022】
傾斜凸部65の円状列は、垂直凸部71の円状列よりも外側に配置しており、一つの傾斜凸部65の内方側面に垂直凸部71の外方側面が僅かな隙間をあけて相対している。
この傾斜凸部65の傾斜端部69は、垂直凸部71の垂直端部75を超えて突出している。また、垂直凸部71の垂直圧接面73は、傾斜凸部65の傾斜圧接面67より、
図6の矢印に示す回転方向の後行位置にある。
【0023】
符号77は円盤状の取付部を示し、この取付部77の外側面79は滑らかな同径面となっている。また、取付部77の中心付近には二つの連通孔81が形成されている。この取付部77のうち、
図4で見ると上面側に当たる対向面にも、二種類の凸部83、89が一体に複数形成されている。
この凸部83、89のうち、一方は傾斜凸部83であり、上記した傾斜凸部65と略同じ形状になって、傾斜圧接面85、傾斜端部87が形成されている。他方は垂直凸部89であり、これも上記した垂直凸部71と略同じ形状になって、垂直圧接面91、垂直端部93が形成されている。
この凸部83、89の配列の仕方も、凸部65、71と同じように円状列になっている。但し、傾斜凸部83の傾斜端部87は、垂直凸部89の垂直端部93を超えて突出している。また、垂直凸部89の垂直圧接面91は、傾斜凸部83の傾斜圧接面85より、
図7の矢印に示す回転方向の先行位置にある。但し、先行の度合いは小さくなっている。
【0024】
図8はノブ19の組み立て状態を示すものである。
ノブ19は、
図4に示す方向に各部品が揃えられて組立てられており、先ず、ケース25の天側に介装部材41が内嵌されている。ケース25には、凹部29が設けられているので、介装部材41はその凹部29に天部が当たった状態になっている。
ケース25の内側面の凹凸列35に介装部材41の外側面の凹凸列43が凹凸相対し嵌合されており、軸方向にも周方向にも略移動不能に固定されている。この状態では支持孔47がケース25の支持孔31と軸方向に連なっている。
次に、支持孔47、31にバネ部材51の支持軸53が周方向移動不能に通され、さらに、ケース25側の取付部57が内嵌される。この取付部57の外側面の凹凸列59が介装部材41の内側面の凹凸列45に凹凸相対し遊嵌されている。従って、軸方向には僅かな間隔ではあるが、積極的に移動可能となっている。バネ部材51のバネ片55が取付部57の圧接に関わらない背面側、すなわち上面側に当っているので、取付部57が介装部材41の底面側に移動する場合にはバネ力に抗することになる。この状態を、取付部57の対向面を示したものが、
図9となっている。
【0025】
クランプ側の取付部77は、ケース25の滑らかな環状の内面37の部分に僅かな余裕を残して内嵌されている。ケース25の端部に形成された抜け止め爪部39を弾性変形させた上で内嵌されており、抜け止めされている。
従って、この取付部77は、ケース25に対して軸周りに相対回転可能になっている。
また、ケース25側の取付部57はバネ部材51によって可動側クランプ側の取付部77に対して弾性的に付勢されているので、初期状態では、取付部57の傾斜圧接面67と取付部77の傾斜圧接面85とが全面的に圧接している。
【0026】
次に、トルクリミッタ機構の動作について説明する。
ノブ19はこのように構成されており、
図10に示すように、可動側クランプ部15を締めようとケース25を手で掴んで回すと、
図10(B)に詳細に示すように、ケース25側の取付部57の傾斜圧接面67が可動側クランプ15側の取付部77の傾斜圧接面85に対して付勢力を受けて圧接しているので、傾斜圧接面85が摩擦摺動し、取付部77が取付部57と一体に回転する。従って、雄ネジ軸13が締まる方向に螺進し、
図2に示すように、仮想線から実線に示す方向に移動していく。このときは、垂直圧接面73と垂直圧接面
91は離間している。
【0027】
一方、可動側クランプ部15が固定側クランプ部5に十分に近接してポール105をクランプした後に、さらに回そうとすると、そのトルクは所定レベルよりも大きくなり、
図11に示すように、トルクリミッタが作動する。すなわち、
図11(B)に詳細に示すように、弾性的付勢力に抗して、傾斜圧接面67が傾斜圧接面85に対して摺動して相対的に後退していき、一体回転するために必要な摩擦摺動面積が確保できずに、仮想線に示すように、傾斜圧接面67の傾斜端部69が傾斜圧接面85の傾斜端部87を容易に乗り越えていくようになり、ケース25側の取付部57だけが回転する、すなわち空回り状態となる。従って、可動側クランプ部15が過剰に固く締付けするのが防止されている。
【0028】
しかしながら、長期間わたって使用していると、
図12(B)に示すように、傾斜圧接面67、85どうし、特に相対的に硬質な側の傾斜圧接面85側が先行しながら徐々に摩耗し、それぞれの傾斜端部69、87側から磨滅を開始し、傾斜度合が小さくなっていく。
このようになると、トルクが所定レベル以下でも、磨滅した傾斜圧接面67aの端部69が磨滅した傾斜圧接面85aの端部87を容易に乗り越えていけるようになる。従って、傾斜圧接面67aと傾斜圧接面85aだけの関係を考えれば、トルクリミッタが作動し易い状態となる。
【0029】
しかしながら、傾斜圧接面67a、85aの傾斜度合が大きくなるにつれて、トルクリミッタが作動する直前の垂直圧接面73と垂直圧接面91との距離が小さくなっていき、摩耗が更に進行すると、傾斜圧接面67a、85aによる常時トルクリミッタ作動状態に陥る前に、傾斜圧接面67、85どうしが圧接状態となる。
垂直圧接面73、91は軸方向に対して傾斜していないので、大きいトルクが掛かってもこの圧接状態は解除されない。
従って、可動側クランプ部15を締めようとケース25を手で掴んで回すと、
図12(A)に示すように、垂直圧接面91が摩擦摺動し、取付部77が取付部57と一体に回転する。従って、雄ネジ軸13が締まる方向に螺進し、
図2に示すように、仮想線から実線に示す方向に移動していく。
【0030】
上記した状態になると、常時連れ回り状態となるので、トルクリミッタ機能は喪失するが、雄ネジ軸13を動かすことはできるので、クランプ機能だけは生き残ることになる。クランプ装置1では、このクランプ機能を生き残らせる安全装置が備えられているので、輸液ポンプのような医療用装置に安全に利用できる。
【0031】
以上、本発明の実施の形態について詳述してきたが、具体的構成は、この実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計の変更などがあっても発明に含まれる。
例えば、一対一対応となる傾斜圧接面と垂直圧接面との位置関係は、トルクリミッタ機構を生かせる限界から決定されるものであり、その決定にはトルクの大きさや部品の強度等が影響されることから、具体的なクランプ装置に応じてその都度最適なものが決定されることになる。
また、本発明のクランプ装置は上記した輸液ポンプを載置する置き台を取り付けるものに限定されず、輸液ポンプ以外の装置、物品をポールの途中部分に支持する場合に用いてもよいのは勿論である。また、ポールはスタンドに備えられるものだけでなく、例えば上端部が天井に支持され、下端部が床に支持されるタイプのものなどであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
クランプ装置の製造業等に利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0033】
1…クランプ装置 3…クランプ基部 5…固定側クランプ部
7…凹部 9…軸支持部 11…雌ネジ穴
13…雄ネジ軸(シャフト) 15…可動側クランプ部
17…凹状片 19…ノブ 21…軸固定部 23…押ネジ
25…ケース 27…滑り止め凹部 29…凹部
31…支持孔 33…連通孔 35…凹凸列 37…内面
39…抜け止め爪部 41…介装部材 43、45…凹凸列
47…支持孔 49…連通孔 51…バネ部材 53…支持軸
55…バネ片 57…取付部 59…凹凸列 61…段差部
63…連通孔 65…傾斜凸部 67…傾斜圧接面
69…傾斜端部 71…垂直凸部 73…垂直圧接面
75…垂直端部 77…取付部 79…外側面 81…連通孔
83…傾斜凸部 85…傾斜圧接面 87…傾斜端部
89…垂直凸部 91…垂直圧接面 93…垂直端部
101…置き台 103…スタンド 105…ポール
107…輸液ポンプ
【要約】
【課題】輸液ポンプ等を載せる置き台をスタンドに固定するときにクランプ装置を利用するが、トルクリミッタ機構が備えられていると、トルクリミッタが作用しなくなったときに空回りになってしまい、落下の危険性が出てくる。
【解決手段】回転操作部側の取付部57の対向面には、傾斜凸部65と垂直凸部71が設けられており、雄ネジ軸13側の取付部77の対向面には、傾斜凸部83と垂直凸部89が設けられており、初期状態では、傾斜凸部65、83の傾斜圧接面67、85どうしが圧接してトルクリミッタが作動可能な状態でクランプ動作するが、摩耗によりその圧接面が磨滅すると、垂直凸部71、89の垂直圧接面73、91どうしが圧接するので、クランプ機能は残るが、トルクリミッタは作動しない。従って、長期に渡って使用し続けても、クランプ機能が安全に維持される。
【選択図】
図12