特許第5792442号(P5792442)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5792442細胞特異的ペプチドを含有する繊維構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5792442
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】細胞特異的ペプチドを含有する繊維構造体
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/435 20120101AFI20150928BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20150928BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20150928BHJP
   D01F 6/92 20060101ALI20150928BHJP
   D01D 5/04 20060101ALI20150928BHJP
   A61L 27/00 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   D04H1/435
   D04H1/728
   C12N5/00 202A
   D01F6/92 301Z
   D01D5/04ZNA
   A61L27/00 Q
   A61L27/00 S
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2010-195675(P2010-195675)
(22)【出願日】2010年9月1日
(65)【公開番号】特開2012-52264(P2012-52264A)
(43)【公開日】2012年3月15日
【審査請求日】2013年8月12日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】本多 勧
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 真
(72)【発明者】
【氏名】兼子 博章
(72)【発明者】
【氏名】本多 裕之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 竜司
(72)【発明者】
【氏名】蟹江 慧
(72)【発明者】
【氏名】上田 裕一
(72)【発明者】
【氏名】成田 裕司
(72)【発明者】
【氏名】桑原 史明
【審査官】 中村 勇介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/054316(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/023818(WO,A1)
【文献】 特表2003−502019(JP,A)
【文献】 特開2005−170810(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00−18/04
D01F 1/00− 6/96
D01F 9/00− 9/04
A61L15/00−33/18
C07K 1/00−19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステル100重量部に対して、下記の群より選択されるアミノ酸配列を有する化学修飾されていないペプチドの少なくとも一つを0.1〜20重量部含有し、平均繊維径が0.05〜50μmであることを特徴とする繊維構造体。
HHH、VVV、TTT、TGA、NNN、KKK、AAA、RRR、YYY、TTT、GAT、GGG、PGH、GQA、QGD、GIG、EKG、KGK、QGF、GMK、GLS、CAG、CNG、KGT、PLG、NRG、CSG、LGL、AVG、GHP、GLI、GVG、GPS、SPG、GPP、GIS、GYL、GEK、QGE、CNY、FPG、GAP、APG、GEC、LPG、GPR、PCG、GDV、IGG、CDG、AVA、FLM、GFD、GTP、GPY、VSG、DGR、GIT、GFL、ASG、GCP、NQG、SGL、GGA、PDG、QAL、GLK、GSP、GEP、GNS、AKG、DGY、TGP、VGP、SLW、AAG、AGA、ARG、GRD、EGF、GSC、PGQ、HSQ、EAP、RGP、PGD、CNI、GFG、GPT、GDQ、KGE、PFI、QGP、SYW、LPGFPGLK(配列番号1)、LPGFPGTP(配列番号2)、GPPGLSGPP(配列番号3)、FPGPPGPP(配列番号4)、LPGLPGPP(配列番号5)、FPGLPGPP(配列番号6)、GPPGPPGPP(配列番号7)、LPGPPGPP(配列番号8)、FPGSPGFPG(配列番号9)、GSPGPPGSPG(配列番号10)、およびIGLSGEKG(配列番号11)。
【請求項2】
ペプチドが下記の群より選択されるアミノ酸配列を有し、内皮細胞特異性を示すことを
特徴とする請求項1に記載の繊維構造体。
HHH、VVV、TTT、TGA、NNN、KKK、AAA、PGH、GQA、QGD、GIG、EKG、KGK、QGF、GMK、GLS、
CAG、CNG、KGT、PLG、NRG、CSG、LGL、AVG、GHP、GLI、GVG、GPS、SPG、GPP、GIS、GYL、
GEK、QGE、CNY、FPG、GAP、APG、GEC、LPG、GPR、PCG、GDV、IGG、CDG、AVA、FLM、GFD、
GTP、GPY、VSG、DGR、GIT、GFL、ASG、GCP、NQG、SGL、GGA、PDG、QAL、GLK、GSP、GEP、
GNS、LPGFPGLK(配列番号1)、LPGFPGTP(配列番号2)、GPPGLSGPP(配列番号3)、FP
GPPGPP(配列番号4)、LPGLPGPP(配列番号5)、FPGLPGPP(配列番号6)、GPPGPPGPP
(配列番号7)、LPGPPGPP(配列番号8)、FPGSPGFPG(配列番号9)、GSPGPPGSPG(配
列番号10)、およびIGLSGEKG(配列番号11)。
【請求項3】
ペプチドが下記の群より選択されるアミノ酸配列を有し、内皮細胞特異性を示すことを
特徴とする請求項1に記載の繊維構造体。
HHH、VVV、TTT、TGA、KKK、AAA、PGH、GQA、QGD、GIG、EKG、KGK、QGF、GMK、GLS、CAG、
CNG、KGT、PLG、NRG、CSG、LGL、AVG、GHP、GLI、GVG、GPS、SPG、GPP、GIS、GYL、GEK、
QGE、CNY、FPG、GAP、APG、GEC、LPG、GPR、PCG、GDV、IGG、CDG、AVA、FLM、GFD、GTP、
GPY、VSG、DGR、GIT、GFL、ASG、GCP、NQG、SGL、GGA、PDG、QAL、GLK、GSP、GEP、GNS、
LPGFPGLK(配列番号1)、LPGFPGTP(配列番号2)、GPPGLSGPP(配列番号3)、FPGPPGP
P(配列番号4)、LPGLPGPP(配列番号5)、FPGLPGPP(配列番号6)、GPPGPPGPP(配列
番号7)、LPGPPGPP(配列番号8)、FPGSPGFPG(配列番号9)、GSPGPPGSPG(配列番号
10)、およびIGLSGEKG(配列番号11)。
【請求項4】
ペプチドが下記の群より選択されるアミノ酸配列を有し、平滑筋細胞特異性を示すこと
を特徴とする請求項1に記載の繊維構造体。
RRR、YYY、TTT、GAT、AKG、DGY、TGP、VGP、SLW、AAG、AGA、ARG、GRD、EGF、GSC、PGQ、
HSQ、EAP、RGP、PGD、CNI、GFG、GPT、GDQ、KGE、PFI、QGP、およびSYW。
【請求項5】
該脂肪族ポリエステルがポリ乳酸、ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体、ポリグリコ
ール酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸−ポリカプロラクトン共重合体、ポリ乳
酸−ポリカプロラクトン共重合体からなる群から選択される少なくとも一つである請求項
1〜4のいずれかに記載の繊維構造体。
【請求項6】
シート形状である請求項1〜5のいずれかに記載の繊維構造体。
【請求項7】
チューブ形状である請求項1〜5のいずれかに記載の繊維構造体。
【請求項8】
エレクトロスピニング法にて作製された請求項1〜7のいずれかに記載の繊維構造体。
【請求項9】
請求項6に記載の繊維構造体からなる細胞培養基材。
【請求項10】
請求項7に記載の繊維構造体からなる人工血管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞特異的ペプチドを0.1〜20重量部含有し、平均繊維径が0.05〜50μmである脂肪族ポリエステルの繊維構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療分野においては、細胞を培養する際に基材として多孔体が用いられることがある。多孔体としては凍結乾燥による発泡体や繊維構造体が知られている。これら多孔体は細胞との親和性や生体内分解性、安全性などが必要とされる。
【0003】
ポリ乳酸に代表される脂肪族ポリエステルは、これら生体内分解性や安全性が知られている材料の中でも比較的安価に入手可能である。特に、L−乳酸成分を主とするポリ乳酸は、最近大量に製造されている。
【0004】
生体内分解性、安全性が知られているポリ乳酸の多孔体を、例えば細胞培養基材に用いることが検討されている(例えば、非特許文献1参照。)。
しかしながら、これらの方法では細胞が接着できる面積が不十分であり、より表面積の大きい多孔体が望まれていたことから、その一つとして繊維径の小さい繊維構造体が検討されてきた。
【0005】
繊維径の小さい繊維構造体を製造する方法として、静電紡糸法が知られている(例えば、特許文献1および2参照)。静電紡糸法は、液体、例えば繊維形成物質を含有する溶液等を電場内に導入し、これにより液体を電極に向かって曳かせ、繊維状物質を形成させる工程を包含する。普通、繊維形成物質は溶液から曳き出される間に硬化させる。硬化は、例えば冷却(例えば、紡糸液体が室温で固体である場合)、化学的硬化(例えば、硬化用蒸気による処理)、または溶媒の蒸発により行われる。また、得られる繊維状物質は、適宜配置した受容体上に捕集され、必要ならばそこから剥離することもできる。また、静電紡糸法は不織布状の繊維状物質を直接得ることができるため、一旦繊維を製糸した後、さらに繊維構造体を形成する必要がなく、操作が簡便である。
【0006】
静電紡糸法によって得られる繊維構造体を細胞を培養する基材に用いることも知られている。例えばポリ乳酸よりなる繊維構造体を静電紡糸法により形成し、この上で平滑筋細胞を培養することによる血管の再生が検討されている(例えば、非特許文献2参照)。
しかしながら、これまで要求を満たすほどの細胞接着効果をもつものは得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63−145465号公報
【特許文献2】特開2002−249966号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】大野典也、相澤益男監訳代表「再生医学」株式会社エヌ・ティー・エス、2002年1月31日、262頁
【非特許文献2】Joel D.Stitzel, Kristin J.Pawlowski, Gary E.Wnek, David G.Simpson, Gary L.Bowlin著、Journal of Biomaterials Applications 2001,16,22-33
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、再生医療分野で用いられる、細胞特異性をもつ細胞培養基材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、脂肪族ポリエステルと細胞特異的ペプチドからなる基材が、細胞培養基材に有用であることに着目してなされたものである。
【0011】
すなわち、本発明は、脂肪族ポリエステル100重量部に対して、下記の群より選択されるアミノ酸配列を有するペプチドの少なくとも一つを0.1〜20重量部含有し、平均繊維径が0.05〜50μmであることを特徴とする繊維構造体である。
HHH、VVV、TTT、TGA、NNN、KKK、AAA、RRR、YYY、TTT、GAT、GGG、PGH、GQA、QGD、GIG、EKG、KGK、QGF、GMK、GLS、CAG、CNG、KGT、PLG、NRG、CSG、LGL、AVG、GHP、GLI、GVG、GPS、SPG、GPP、GIS、GYL、GEK、QGE、CNY、FPG、GAP、APG、GEC、LPG、GPR、PCG、GDV、IGG、CDG、AVA、FLM、GFD、GTP、GPY、VSG、DGR、GIT、GFL、ASG、GCP、NQG、SGL、GGA、PDG、QAL、GLK、GSP、GEP、GNS、AKG、DGY、TGP、VGP、SLW、AAG、AGA、ARG、GRD、EGF、GSC、PGQ、HSQ、EAP、RGP、PGD、CNI、GFG、GPT、GDQ、KGE、PFI、QGP、SYW、LPGFPGLK(配列番号1)、LPGFPGTP(配列番号2)、GPPGLSGPP(配列番号3)、FPGPPGPP(配列番号4)、LPGLPGPP(配列番号5)、FPGLPGPP(配列番号6)、GPPGPPGPP(配列番号7)、LPGPPGPP(配列番号8)、FPGSPGFPG(配列番号9)、GSPGPPGSPG(配列番号10)およびIGLSGEKG(配列番号11)。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、再生医療分野で用いられる、細胞特異性をもつ細胞培養基材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1で得られた繊維構造体の内皮細胞(HAEC)、平滑筋細胞(SMC)に対する接着性の蛍光標識法による評価結果を示す。図中の「CAG」は、CAG含有PCLを意味する(以下同じ)。
図2】実施例1で得られた繊維構造体の内皮細胞および平滑筋細胞に対する接着性のSEMによる観察結果を示す。
図3】実施例1で得られた繊維構造体の内皮細胞および平滑筋細胞に対する接着性の高倍率SEMによる観察結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、脂肪族ポリエステル100重量部に対して、細胞特異的ペプチドを0.1〜20重量部含有した繊維構造体である。脂肪族ポリエステル100重量部に対する細胞特異的ペプチドの含有量は、好ましくは0.1〜15重量部、さらに好ましくは0.1〜10重量部である。20重量部以上だと繊維の安定性に欠ける場合がある。
【0015】
本発明で用いられる繊維構造体の平均繊維径は0.05〜50μmであることが好ましい。平均繊維径が0.05μmより小さいと、該繊維構造体の強度が保てないため好ましくない。また、平均繊維径が50μmより大きいと繊維の比表面積が小さく、生着する細胞数が少ないため好ましくない。なお、繊維径とは繊維断面の直径を表す。繊維断面の形状は円形に限らず、楕円形や異形になることもありうる。この場合の繊維径とは、該楕円形の長軸方向の長さと短軸方向の長さの平均をその繊維径として算出する。また、繊維断面が円形でも楕円形でもないときには円または楕円に近似して繊維径を算出する。
【0016】
本発明で用いられる脂肪族ポリエステルとしては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネートおよびこれらの共重合体が挙げられる。これらのうち、脂肪族ポリステルとしては、ポリ乳酸、ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸−ポリカプロラクトン共重合体、ポリ乳酸−ポリカプロラクトン共重合体が好ましい。
【0017】
本発明の繊維構造体においては、その目的を損なわない範囲で、他のポリマーや他の化合物を併用してもよい。例えば、ポリマー共重合、ポリマーブレンド、化合物混合である。
【0018】
本発明で用いられる脂肪族ポリエステルは高純度であることが好ましく、とりわけ脂肪族ポリエステル中に含まれる添加剤や可塑剤、残存触媒、残存モノマー、成型加工や後加工に用いた残留溶媒などの残留物は少ないほうが好ましい。特に医療に用いる場合は、安全性の基準値未満に抑える必要がある。
【0019】
本発明において、「細胞特異性」とは、基本的には特定の細胞に対する特異的な接着性(すなわち高接着性または低接着性)をいうが、特定の細胞に対する特異的な増殖性(すなわち高増殖性または低増殖性)を加味して「細胞特異性」を判断することが好ましい。したがって、「細胞特異性」を示すペプチドの中で好ましいものは、特定の細胞に対して高い接着性および増殖性を示すか、特定の細胞に対して低い接着性および増殖性を示す。なお、細胞特異性を示すペプチドのことを本明細書では「細胞特異的ペプチド」と呼称する。
【0020】
本発明における細胞特異的ペプチドは、具体的には、HHH、VVV、TTT、TGA、NNN、KKK、AAA、RRR、YYY、TTT、GAT、GGG、PGH、GQA、QGD、GIG、EKG、KGK、QGF、GMK、GLS、CAG、CNG、KGT、PLG、NRG、CSG、LGL、AVG、GHP、GLI、GVG、GPS、SPG、GPP、GIS、GYL、GEK、QGE、CNY、FPG、GAP、APG、GEC、LPG、GPR、PCG、GDV、IGG、CDG、AVA、FLM、GFD、GTP、GPY、VSG、DGR、GIT、GFL、ASG、GCP、NQG、SGL、GGA、PDG、QAL、GLK、GSP、GEP、GNS、AKG、DGY、TGP、VGP、SLW、AAG、AGA、ARG、GRD、EGF、GSC、PGQ、HSQ、EAP、RGP、PGD、CNI、GFG、GPT、GDQ、KGE、PFI、QGP、SYW、LPGFPGLK(配列番号1)、LPGFPGTP(配列番号2)、GPPGLSGPP(配列番号3)、FPGPPGPP(配列番号4)、LPGLPGPP(配列番号5)、FPGLPGPP(配列番号6)、GPPGPPGPP(配列番号7)、LPGPPGPP(配列番号8)、FPGSPGFPG(配列番号9)、GSPGPPGSPG(配列番号10)、およびIGLSGEKG(配列番号11)からなる群より選択されるいずれかのアミノ酸配列を有するペプチドである。
【0021】
HHH、VVV、TTT、TGA、KKK、AAA、PGH、GQA、QGD、GIG、EKG、KGK、QGF、GMK、GLS、CAG、CNG、KGT、PLG、NRG、CSG、LGL、AVG、GHP、GLI、GVG、GPS、SPG、GPP、GIS、GYL、GEK、QGE、CNY、FPG、GAP、APG、GEC、LPG、GPR、PCG、GDV、IGG、CDG、AVA、FLM、GFD、GTP、GPY、VSG、DGR、GIT、GFL、ASG、GCP、NQG、SGL、GGA、PDG、QAL、GLK、GSP、GEP、GNS、LPGFPGLK(配列番号1)、LPGFPGTP(配列番号2)、GPPGLSGPP(配列番号3)、FPGPPGPP(配列番号4)、LPGLPGPP(配列番号5)、FPGLPGPP(配列番号6)、GPPGPPGPP(配列番号7)、LPGPPGPP(配列番号8)、FPGSPGFPG(配列番号9)、GSPGPPGSPG(配列番号10)、およびIGLSGEKG(配列番号11)(以下、これらをまとめて「グループ1のペプチド」ともいう。)、ならびにNNNは内皮細胞特異的ペプチドであり、RRR、YYY、TTT、GAT、AKG、DGY、TGP、VGP、SLW、AAG、AGA、ARG、GRD、EGF、GSC、PGQ、HSQ、EAP、RGP、PGD、CNI、GFG、GPT、GDQ、KGE、PFI、QGP、およびSYW(以下、これらをまとめて「グループ2のペプチド」ともいう。)は平滑筋細胞特異的ペプチドであり、GGGは線維芽細胞特異的ペプチドである。
【0022】
グループ1のペプチドは内皮細胞の接着および増殖に有効であり、内皮細胞を捕捉・増殖させることが望まれる用途に有用である。一方、NNNは内皮細胞の非接着(接着させないこと)および非増殖(増殖させないこと)に有効であり、内皮細胞を排除することが望まれる用途に有用である。また、グループ2のペプチドは平滑筋細胞の接着および増殖に有効であり、平滑筋細胞を捕捉・増殖させることが望まれる用途に有用である。GGGについては線維芽細胞の非接着(接着させないこと)および非増殖(増殖させないこと)に有効であり、線維芽細胞を排除することが望まれる用途に有用である。
【0023】
グループ1のペプチドの中で、PGH、GQA、QGD、GIG、EKG、KGK、QGF、GMK、GLS、CAG、CNG、KGT、PLG、NRG、CSG、およびLGLは内皮細胞に対する特異性が特に高い。そこで、好ましい一態様では、PGH、GQA、QGD、GIG、EKG、KGK、QGF、GMK、GLS、CAG、CNG、KGT、PLG、NRG、CSG、およびLGLからなる群より選択されるいずれかのアミノ酸配列を有する、内皮細胞特異的ペプチドが用いられる。同様に、グループ2のペプチドの中でAKG、DGY、およびTGPは平滑筋細胞に対する特異性が特に高い。そこで、好ましい一態様ではAKG、DGY、およびTGPからなる群より選択されるいずれかのアミノ酸配列を有する、平滑筋細胞特異的ペプチドが用いられる。
【0024】
本発明に用いられる細胞特異的ペプチドは、動物組織から抽出したものでも人工的に合成して製造したものでもよい。
本発明に用いられる細胞特異的ペプチドは、公知のペプチド合成法(例えば固相合成法、液相合成法)によって調製することができる。なお、自動ペプチド合成機を利用すれば容易かつ迅速に目的のペプチドを合成することができる。
【0025】
遺伝子工学的手法を用いて細胞特異的ペプチドを調製してもよい。すなわち、細胞特異的ペプチドをコードする核酸を適当な宿主細胞に導入し、形質転換体内で発現されたペプチドを回収することにより目的のペプチドを調製してもよい。回収されたペプチドは必要に応じて精製される。
【0031】
さらに、二種類以上のペプチドを併用してもよい。併用する場合、細胞特異性に関して同種のペプチドを組み合わせても、異種のペプチドを組み合わせてもよい。前者の一例はグループ1に含まれるペプチドの中から2以上を選択して併用する場合であり、後者の一例はグループ1に含まれるペプチド(1または2以上)とグループ2に含まれるペプチド(1または2以上)を併用する場合である。異種のペプチドを組み合わせる場合には、原則として、細胞特異性毎にペプチド含有領域を設定する。すなわち、細胞特異性が異なるペプチドが混在することがないようにする。このようにすることで、例えば、ある領域では内皮細胞を捕捉・増殖させると同時に他の領域では平滑筋細胞を捕捉・増殖させる、というような二種以上の細胞の制御が可能になる。
【0032】
本発明で用いられる繊維構造体とは、単数または複数の繊維が積層され、織り、編まれもしくはその他の手法により形成された3次元の構造体をいう。具体的な繊維構造体の形態としては、例えばシート、織布、編布、チューブ、メッシュが好ましく挙げられる。より好ましい形態はシートおよびチューブである。
【0033】
本発明で用いられる繊維構造体は長繊維よりなる。長繊維とは具体的には紡糸から繊維構造体への加工にいたるプロセスの中で、繊維を切断する工程を加えずに形成される繊維をいい、エレクトロスピニング法、スパンボンド法、メルトブロー法などで形成することができるが、エレクトロスピニング法が好ましく用いられる。エレクトロスピニング法は、静電紡糸法、エレクトロスプレー法ともいわれる。
【0034】
エレクトロスピニング法は、ポリマーを溶媒に溶解させた溶液に高電圧を印加することで、電極上に繊維構造体を得る方法である。工程としては、高分子を溶媒に溶解させて溶液を製造する工程と、該溶液に高電圧を印加する工程と、該溶液を噴出させる工程と、例えば噴出させた溶液から溶媒を蒸発させて繊維構造体を形成させる工程と、任意に実施しうる工程として形成された繊維構造体の電荷を消失させる工程と、電荷消失によって繊維構造体を累積させる工程を含む。
【0035】
本発明で用いられる繊維構造体の全体の厚みに関しては特に制限はないが、好ましくは25μm〜200μm、さらに好ましくは50〜100μmである。
エレクトロスピニング法における、脂肪族ポリエステルを溶媒に溶解させて溶液を製造する段階について説明する。本発明の製造方法における溶液中の溶媒に対する脂肪族ポリエステルの濃度は1〜30重量%であることが好ましい。脂肪族ポリエステルの濃度が1重量%より小さいと、濃度が低すぎるため繊維構造体を形成することが困難となり、好ましくない。また、30重量%より大きいと、得られる繊維構造体の繊維径が大きくなり、好ましくない。より好ましい溶液中の溶媒に対する脂肪族ポリエステルの濃度は2〜20重量%である。
【0036】
溶媒は一種を単独で用いてもよく、複数の溶媒を組み合わせてもよい。前記溶媒としては、脂肪族ポリエステルと細胞特異的ペプチドを溶解可能で、かつ紡糸する段階で蒸発し、繊維を形成可能なものであれば特に限定されず、例えば、アセトン、クロロホルム、エタノール、2−プロパノール、メタノール、トルエン、テトラヒドロフラン、水、ベンゼン、ベンジルアルコール、1,4−ジオキサン、1−プロパノール、ジクロロメタン、四塩化炭素、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、フェノール、ピリジン、トリクロロエタン、酢酸、蟻酸、ヘキサフルオロ−2−プロパノール、ヘキサフルオロアセトン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、N−メチル−2−ピロリジノン、N−メチルモルホリン−N−オキシド、1,3−ジオキソラン、メチルエチルケトン、上記溶媒の混合溶媒が挙げられる。これらのうち、取扱い性や物性などから、ヘキサフルオロ−2−プロパノール、ジクロロメタン、エタノールを用いることが好ましい。
【0037】
次に、溶液に高電圧を印加する段階と、溶液を噴出させる段階と、噴出された溶液から溶媒を蒸発させて繊維構造体を形成する段階について説明する。
本発明で用いられる繊維構造体の製造方法においては、脂肪族ポリエステルと細胞特異的ペプチドを溶解した溶液を噴出させ、繊維構造体を形成するために、溶液に高電圧を印加する必要がある。電圧を印加する方法については、脂肪族ポリエステルと細胞特異的ペプチドを溶解した溶液を噴出させ、繊維構造体が形成されるものであれば特に限定されないが、例えば溶液に電極を挿入して電圧を印加する方法や、溶液噴出ノズルに対して電圧を印加する方法がある。
【0038】
また、溶液に印加する電極とは別に補助電極を設けてもよい。ここで、印加電圧の値は、前記繊維構造体が形成されれば特に限定されないが、通常は5〜50kVの範囲である。印加電圧が5kVより小さい場合は、溶液が噴出せずに繊維構造体が形成されないため好ましくなく、印加電圧が50kVより大きい場合は、電極からアース電極に向かって放電が起きるために好ましくない。より好ましくは5〜30kVの範囲である。所望の電位は従来公知の任意の適切な方法で作ればよい。
【0039】
その後、脂肪族ポリエステルと細胞特異的ペプチドを溶解した溶液を噴出させた直後に脂肪族ポリエステルと細胞特異的ペプチドを溶解させた溶媒が揮発して繊維構造体が形成される。通常の紡糸は大気下、室温で行われるが、揮発が不十分である場合には陰圧下で行うことや、高温の雰囲気下で行うことも可能である。また、紡糸する温度は溶媒の蒸発挙動や紡糸液の粘度に依存するが、通常は0〜50℃の範囲である。
【0040】
次に、形成された繊維構造体の電荷を消失させる段階について説明する。前記繊維構造体の電荷を消失させる方法は、前記繊維成型体の電荷を消失させる方法であれば特に限定されないが、好ましい方法として、イオナイザーにより電荷を消失させる方法が挙げられる。イオナイザーとは、内蔵のイオン発生装置によりイオンを発生させ、これを帯電物に放出させることにより帯電物の電荷を消失させる装置である。かかるイオナイザーを構成する好ましいイオン発生装置としては、内蔵の放電針に高電圧を印加することによりイオンを発生させる装置が挙げられる。
【0041】
次に、前記電荷消失によって繊維構造体を累積させる段階について説明する。前記電荷消失によって繊維構造体を累積させる方法は、前記繊維構造体が累積する方法であれば特に限定されないが、通常の方法として、電荷消失により繊維構造体の静電力を失わせ、自重により落下、累積させる方法が挙げられる。また必要に応じて、静電力を消失させた繊維構造体を吸引してメッシュ上に累積させる方法、装置内の空気を対流させてメッシュ上に累積させる方法を行ってもよい。
【0042】
繊維表面が平滑な繊維は、紡糸する際の雰囲気を低湿度に設定することで作製できる。かかる紡糸時の相対湿度としては、好ましくは25%以下、さらに好ましくは20%以下である。
【0043】
本発明では、繊維構造体の表面にさらに綿状の繊維構造物を積層することや、綿状構造物を繊維構造体ではさんでサンドイッチ構造にするなどの加工も、本発明の目的を損ねない範囲で任意に実施しうる。
【0044】
本発明で用いられる繊維構造体は、その表面の親水性や疎水性、電気特性や帯電性を改質するために、界面活性剤などの化学薬品による表面処理を行ってもよい。医療応用においては、さらに抗血栓性を付与するためのコーティング処理、抗体や生理活性物質で表面をコーティングすることも任意に実施できる。このときのコーティング方法や処理条件、その処理に用いる化学薬品は、繊維の構造を極端に破壊せず、本発明の目的を損なわない範囲で任意に選択できる。
【0045】
本発明で用いられる繊維構造体の繊維内部にも任意に薬剤を含ませることができる。エレクトロスピニング法で成形する場合は、揮発性溶媒に可溶であり、溶解によりその生理活性を損なわないものであれば、使用する薬剤に特に制限はない。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明の実施の形態を説明するが、これらは本発明の範囲を制限するものではない。
【0047】
1.平均繊維径:
得られた繊維構造体の表面を走査型電子顕微鏡(キーエンス株式会社:商品名「VE8800」)により、倍率2000倍で撮影して得た写真から無作為に20箇所を選んで繊維の径を測定し、すべての繊維径の平均値を求めて平均繊維径とした。n=20である。
【0048】
2.平均厚:
高精度デジタル測長機(株式会社ミツトヨ:商品名「ライトマチックVL−50」)を用いて測長力0.01Nによりn=10にて繊維構造体の膜厚を測定した平均値を算出した。
なお、本測定においては測定機器が使用可能な最小の測定力で測定を行った。
【0049】
3.平均見掛け密度:
繊維構造体の質量を測定し、上記方法により求めた面積、平均厚をもとに平均見掛け密度を算出した。
【0050】
4.細胞培養評価:
ペプチドアレイスクリーニングによって選出された細胞特異的接着ペプチドの効果をε−ポリカプロラクトン紡糸繊維構造体上においても確認するため、calceinAM等の生細胞染色試薬にて蛍光標識した内皮細胞(HAEC)、平滑筋細胞(SMC)を該繊維構造体上に播種し、1時間、1日、または3日の期間細胞を培養液中で培養したのち、洗浄を経て繊維構造体上に接着した細胞数を蛍光強度として定量し、コントロールシート(ペプチドなし)とペプチド入り繊維構造体との各細胞に対する細胞接着量を比べた。その後、各細胞に対する細胞接着量をコントロールを用いて規格化したのち、2種類の細胞の接着量を相対的な特異性として評価した。また、細胞接着による細胞形態の変化(フィロポディア等の形成)を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。
【0051】
[実施例1]
内皮細胞特異的ペプチドとしてCAG(インビトロジェン(株)製 98.14%)0.08重量部とポリ−ε−カプロラクトン(平均分子量約70000〜100000、和光純薬社製)8重量部をヘキサフルオロ−2−プロパノール(和光純薬社製)92重量部で溶解し、均一な溶液を調製した。相対湿度25%以下でエレクトロスピニング法により紡糸を行い、シート状の繊維構造体を得た。噴出ノズルの内径は0.94mm、電圧は14kV、フィード量は1.5ml/h、噴出ノズルから平板までの距離は20cmであった。上記平板は、紡糸時は陰極として用いた。60分間紡糸した後、50℃で10分間熱処理を実施した。得られた繊維構造体の平均繊維径は1.2μm、厚さは129μm、平均見掛け密度は195kg/mであった。
【0052】
[実施例2]
内皮細胞特異的ペプチドとしてCNG(インビトロジェン(株)製 98.67%)0.08重量部とポリ−ε−カプロラクトン(平均分子量約70000〜100000、和光純薬社製)8重量部をヘキサフルオロ−2−プロパノール(和光純薬社製)92重量部で溶解し、均一な溶液を調製した。相対湿度25%以下でエレクトロスピニング法により紡糸を行い、シート状の繊維構造体を得た。噴出ノズルの内径は0.94mm、電圧は14kV、フィード量は1.5ml/h、噴出ノズルから平板までの距離は20cmであった。上記平板は、紡糸時は陰極として用いた。60分間紡糸した後、50℃で10分間熱処理を実施した。得られた繊維構造体の平均繊維径は1.1μm、厚さは107μm、平均見掛け密度は189kg/mであった。
【0053】
[比較例1]
ポリ−ε−カプロラクトン(平均分子量約70000〜100000、和光純薬社製)6重量部をヘキサフルオロ−2−プロパノール(和光純薬社製)94重量部で溶解し、均一な溶液を調製した。湿度25%以下でエレクトロスピニング法により紡糸を行い、シート状の繊維構造体を得た。噴出ノズルの内径は0.94mm、電圧は14kV、フィード量は2ml/h、噴出ノズルから平板までの距離は25cmであった。上記平板は、紡糸時は陰極として用いた。60分紡糸した後、50℃で10分間熱処理を実施した。得られた繊維構造体の平均繊維径は1.4μm、厚さは133μm、平均見掛け密度は210kg/mであった。
【0054】
[実施例3]
<細胞培養評価>
実施例1〜2および比較例1で得られた繊維構造体を2種類の細胞接着性の違いで評価した。評価した細胞は、ヒト大動脈血管内皮細胞(Cell Applications, Inc., San Diego, USA)、ヒト臍帯動脈平滑筋細胞(Cell Applications, Inc.)を使用し、それぞれHuMedia-EG2 (Kurabo Industries Ltd., Osaka, Japan)、smooth muscle growth medium(Cell applications)の血清添加培地で培養した。繊維構造体への接着性評価では、各種の無血清培地を用いて比較した。各細胞をカルセイン(Life Technologies Corporation)にて30分間蛍光標識し、無血清培地にて細胞懸濁液(1.5×10Cells/ml)を作り、細胞シートの上に20ml播種した。1時間のインキュベーションの後、PBSにて3回洗浄し、FLA−7000(富士フィルム)にて473nm/520nmにて測定し、蛍光強度を数値化した(n=3)。比較例1で得られた繊維構造体(コントロール)に比べ、実施例1および2で得られた繊維構造体(ペプチド入り)が内皮細胞特異的な接着であった。CAGペプチドは、ペプチドアレイスクリーニング結果においては、ペプチドアレイ(セルロース繊維構造体)上でRGDペプチドの約2倍の内皮細胞への特異性を示している。このため、本結果のような「内皮細胞への特異性」はRGD配列では得られない。また、実施例1および比較例1で得られた繊維構造体を使用して同様の条件にて播種した細胞を、S−800電子顕微鏡(日立製作所)にて観察した。試料作成方法は、1時間のインキュベーションを行った後PBSで3回洗浄し、2%グルタルアルデヒド(和光純薬)にて固定した。さらに、1%四酸化オスミウムにて処理を行い、VFD−20(日立製作所)を用いて凍結乾燥を行った。凍結乾燥後の試料をオスミウムコーター(Nihon Lazor Denshi)にて金属コートし、SEM観察用試料とした。その結果、実施例1で得られた繊維構造体(CAGペプチド含有)は、内皮細胞は接着するが、SMCは接着しないことが分かった(図2参照)。さらに、高倍率での観察ではSMCは実施例1で得られた繊維構造体(CAGペプチド含有)上では伸展していない細胞も見られた(図3参照)。
【0055】
さらに、実施例2で得られた繊維構造体(CNGペプチド含有)のin vitro接着性試験を行ったところ、やはり有意に比較例1で得られた繊維構造体(コントロール)よりも内皮細胞に特異性を示していることが示され、ペプチドアレイスクリーニングで得られた細胞特異的ペプチドの効果と同様の結果が得られた。
【0056】
[実施例4]
CAG(インビトロジェン(株)製 98.14%)0.08重量部とポリ−ε−カプロラクトン(平均分子量約70000〜100000、和光純薬社製)8重量部をヘキサフルオロ−2−プロパノール(和光純薬社製)92重量部で溶解し、均一な溶液を調製した。相対湿度25%以下でエレクトロスピニング法により紡糸を行い、チューブ状の繊維構造体を得た。噴出ノズルの内径は0.32mm、電圧は14kV、フィード量は0.5ml/h、噴出ノズルからΦ=0.7mmのステンレス棒を取り付けたマンドルコレクタまでの距離は15cm、マンドルコレクタの回転数は500rpmであった。上記コレクタは、紡糸時は陰極として用いた。9分紡糸した後、50℃で10分間熱処理を実施した。得られた繊維構造体の平均繊維径は1.6μm、チューブの厚さは211μmであった。
【0057】
[比較例2]
ポリ−ε−カプロラクトン(平均分子量約70000〜100000、和光純薬社製)6重量部をヘキサフルオロ−2−プロパノール(和光純薬社製)96重量部で溶解し、均一な溶液を調製した。相対湿度25%以下でエレクトロスピニング法により紡糸を行い、チューブ状の繊維構造体を得た。噴出ノズルの内径は0.32mm、電圧は14kV、フィード量は0.5ml/h、噴出ノズルからΦ=0.7mmのステンレス棒を取り付けたマンドルコレクタまでの距離は15cm、マンドルコレクタの回転数は500rpmであった。上記コレクタは、紡糸時は陰極として用いた。9分間紡糸した後、50℃で10分間熱処理を実施した。得られた繊維構造体の平均繊維径は1.7μm、チューブの厚さは201μmであった。
【0058】
[実施例5]
実施例4と比較例2で得られたチューブ状繊維構造体(グラフト)を用いて、ラット頸動脈置換術を施行した。10−0ナイロン縫合糸を使用して頸動脈−グラフト端々吻合を行い、1、2、および6週間後にグラフトを摘出して評価した。評価方法は、内皮化の指標としてvon Willebrand Factor(Dako. Glostrup. Denmark)の蛍光免疫染色を行い、その内皮化率を算出した。また、被覆された内皮細胞の機能をeNOS(Sigma-Aldrich. Inc., Saint Louis. USA)の発現で評価した(Western Blotting法)。結果は、移植の1週後において、実施例4のチューブ状繊維構造体では速やかな内皮化が観察されたが、比較例2のチューブ状繊維構造体では内皮化が不十分であった。また、1、2、および6週における内皮化率を実施例4および比較例2で得られたチューブ状繊維構造体を用いて比較したところ、それぞれ1週後で0.64対0.42、2週後で0.98対0.73、6週後で0.97対0.77であり、いずれも実施例4で得られたチューブ状繊維構造体を用いた場合の内皮化率が有意に高値であった。内皮細胞はeNOSを発現しており、実施例4のチューブ状繊維構造体を用いた場合の発現強度が高いことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の繊維構造体は、例えば細胞培養基材や人工血管に用いることができる。
図1
図2
図3
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]