(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電子制御エンジンと、電子制御エンジンによって駆動される一以上の可変容量型油圧ポンプと、可変容量型油圧ポンプからの圧油によって駆動される複数の油圧アクチュエータと、可変容量型油圧ポンプからの圧油を油圧アクチュエータに分配する複数の方向切換弁とを搭載した作業機械において、
上記可変容量型油圧ポンプの斜板角度を制御可能とするポンプ容量制御手段と、ポンプ容量制御手段を駆動するパイロット圧を調圧可能なパイロット圧制御手段を設けると共に、
上記エンジンの制御目標回転数を設定する目標回転数設定手段と、エンジンの実回転数を検出するエンジン回転数検出手段とを有し、目標回転数設定手段による制御目標回転数とエンジン回転数検出手段による実回転数との回転偏差を算出して、回転数偏差が大きくなれば、その偏差量に応じて上記ポンプ容量制御手段を駆動し、可変容量型油圧ポンプの吐出流量を減少させてスピードセンシング制御を実施するメインコントローラと、
上記可変容量型油圧ポンプの吐出圧力を検出するポンプ圧力検出手段と、操作レバーの操作量を直接的に検出可能な構成の操作量検出手段とを備え、
上記メインコントローラは、操作量検出手段で検出した操作レバーの操作量に基づきアクチュエータの要求流量を演算するとともに、検出したポンプ吐出圧力とアクチュエータ要求流量とによりポンプ吸収トルクを演算し、
演算したポンプ吸収トルクの予測値が基準トルクを超える場合には、ポンプ容量制御手段を減量側に制御するフィードフォワード制御を実施し、
上記基準トルクは、スピードセンシング制御の目標トルク以上、かつ電子制御エンジンの最大トルク以下にすることを特徴とする油圧ポンプ制御装置。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】この発明の実施形態における油圧制御装置の全体構成を示したブロック図である。
【
図2】この発明の実施形態における油圧制御装置のフィードフォワード制御のフローを示したフローチャートである。
【
図3】この発明の実施形態における油圧制御装置のブームの操作レバーの操作量とアクチュエータの要求流量との関係を示すグラフである。
【
図4】この発明の実施形態における油圧制御装置のアームの操作レバーの操作量とアクチュエータの要求流量との関係を示すグラフである。
【
図5】この発明の実施形態における油圧制御装置のフィードフォワード制御を実施した場合でのエンジン回転数とエンジン出力トルクとの関係を示すグラフである。
【
図6】この発明の実施形態における油圧制御装置の油圧負荷投入時のエンジン回転数とポンプ吸収トルクとの関係を示すグラフである。
【
図7】エンジン回転数及びポンプ吸収トルクについて従来技術の場合とフィードフォワード制御を実施した場合とを比較したグラフである。
【
図8】この発明の実施形態における油圧制御装置のフィードフォワード制御を開始する基準トルクとスピードセンシング制御の目標トルクとを説明するグラフである。
【
図9】従来技術におけるポンプ吸収トルクの時間変化率が小さい場合での油圧負荷投入時のエンジン回転数及びポンプ吸収トルクの関係を示すグラフである。
【
図10】従来技術におけるポンプ吸収トルクの時間変化率が大きい場合での油圧負荷投入時のエンジン回転数及びポンプ吸収トルクの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態における作業機械の油圧ポンプ制御装置10は、
図1に示すように、基本的構造として、電子制御エンジン11と、電子制御エンジン11によって駆動されるひとつ以上の可変容量型油圧ポンプ14と、可変容量型油圧ポンプ14からの圧油によって駆動される複数の油圧アクチュエータ15と、可変容量型油圧ポンプ14からの圧油を油圧アクチュエータ15に分配する複数の方向切換弁であるコントロールバルブ16とを搭載している。
【0015】
また、油圧ポンプ制御装置10は、
図1に示すように、上記可変容量型油圧ポンプ14の斜板角度を制御可能とするポンプ容量制御手段であるレギュレータ20と、レギュレータ20を駆動するパイロット圧を調圧可能なパイロット圧制御手段である電磁比例弁21を設けている。
【0016】
電子制御エンジン11は、エンジンEとエンジンEの燃料噴射を制御するECU12(エンジンコントロールユニット)を有する。エンジンEは、例えば、ディーゼルエンジンで構成される内燃機関であり、可変容量ポンプに出力軸23を介して動力を伝達することで、その可変容量型油圧ポンプ14から圧油を吐出させる。
【0017】
ECU12は、エンジンEの回転数などに応じて燃料噴射量及びタイミングを制御する装置である。すなわち、ECU12は、燃料噴射量やタイミングを電子制御するプログラムが内蔵されたCPUや燃料噴射制御のマップなどを記憶するROM、その他の電子部品を備えている。
【0018】
エンジンEには実回転数を検出するエンジン回転数検出手段13が配設されており、このエンジン回転数検出手段13で検出したエンジンEの実回転数に基づいて、目標回転数でエンジンEが回転できるようにECU12に指令を出している。
【0019】
また、ECU12には、目標回転数設定手段であるアクセルセンサ22を電気的に接続しており、アクセルレバーやアクセルペダル等の操作位置をアクセルセンサ22で検出して、エンジンEへの燃料噴射量や噴射タイミングを制御可能としている。
【0020】
可変容量型油圧ポンプ14は、ポンプ容量制御手段としてのレギュレータ20の作動によりそのポンプの斜板角度を変更することでポンプ吐出流量を制御可能としている。また、レギュレータ20の作動は、パイロット圧制御手段としての電磁比例減圧弁21による制御圧力により変更可能としている。電磁比例弁21は、下記のメインコントローラ24からの制御電流により駆動可能としている。
【0021】
油圧アクチュエータ15は、可変容量ポンプから吐出された圧油がコントロールバルブ16を介して分配して供給されることにより駆動可能としている。油圧アクチュエータ15としては、例えば、ブームシリンダ、アームシリンダ、バケットシリンダである。また、可変容量型油圧ポンプ14から吐出された圧油により、油圧モータを駆動可能としている。
【0022】
圧力センサ17は、可変容量ポンプから吐出する圧油の圧力を検出するようにしている。検出した圧力センサ17の情報は下記のメインコントローラ24に送信される。
【0023】
操作レバー18は、油圧作業機のオペレータシート近傍に配設され、その操作量に応じて、可変容量型油圧ポンプ14における斜板角度を変更することにより、可変容量型油圧ポンプ14からの作動油の吐出方向及び吐出量を調節するように構成されている。また、操作レバー18の操作量を検出するレバー操作量検出手段19(圧力センサまたはポテンショメータ)を有する。
【0024】
さらに、本実施形態における油圧ポンプ制御装置10はメインコントローラ24を有する。メインコントローラ24は、アクセルセンサ22で設定したエンジンEの制御目標回転数と、エンジン回転数検出手段13で検出したエンジンEの実回転数との情報を受け取り、その回転偏差を算出するようにしている。
【0025】
そして、メインコントローラ24は、エンジンEの実回転数と制御目標回転数の回転数偏差が大きくなれば、その偏差量に応じて上記ポンプ容量制御手段を駆動し、可変容量ポンプの吐出流量を減少させて、馬力制限制御であるスピードセンシング制御を実施するようにしている。
【0026】
メインコントローラ24は、油圧作業機のエンジンEやレギュレータ20などの電子制御を行う部材であり、油圧回路を電子制御するプログラムが内蔵されたCPUや今回の可変容量型油圧ポンプ14の吐出に関するマップなどを記憶するROM、その他の電子部品を備えている。
【0027】
従来のスピードセンシング制御では、作業中にポンプ吸収トルク(油圧負荷)がエンジンEの出力トルクを超える場合は、ポンプは吐出流量を減じて、過負荷によるエンジンストールを防止していた。
【0028】
しかし、投入された油圧負荷の増加率が高い(上昇速度が速い)場合に、ポンプの吐出量の減少が間に合わず、ポンプ吸収トルク(油圧負荷)がエンジン出力トルクを大きく上回り、スピードセンシング制御での目標トルクに収束する際にエンジン回転の大幅なダウンが生じて、オペレータに違和感を与えていた。
【0029】
また、エンジン回転が大幅に低下した後にポンプ斜板の制御が追いつき、回転数が上昇してスピードセンシング制御での目標回転数に復帰する際には、エンジンEでの燃料噴射量が過多となり、無駄な燃料消費が発生していた。
【0030】
図9及び
図10は、上記従来技術の問題を説明する説明図であり、
図9は、ポンプ吸収トルクの時間変化率が小さい場合での油圧負荷投入時のエンジン回転数またはポンプ吸収トルクの関係を示すグラフである。また、
図10は、ポンプ吸収トルクの時間変化率が大きい場合での油圧負荷投入時のエンジン回転数またはポンプ吸収トルクの関係を示すグラフである。
【0031】
図9に示すように、低負荷作業時から高負荷作業時に移行したときの、投入された油圧負荷(ポンプ吸収トルク)の時間変化率が小さい場合には、スピードセンシング制御によるポンプ吐出容量の減量が間に合うため、エンジン回転数の落ち込みは少ない。
【0032】
ところが、
図10に示すように、低負荷作業時から高負荷作業時に移行したときの、投入された油圧負荷(ポンプ吸収トルク)の時間変化率が大きい場合には、エンジン回転数が落ち込んだ後にスピードセンシング制御によるポンプ吐出容量の減量が開始されるため、制御が間に合わない問題が生じていた。
【0033】
そこで、本実施形態における油圧ポンプ制御装置10では、メインコントローラ24で演算したポンプ吸収トルクの予測値が目標とするトルク以上になった場合には、メインコントローラ24からの指令により、ポンプ容量制御手段を減量側に制御する。
【0034】
すなわち、操作レバー18の操作量を検出してアクチュエータの要求流量を算出するとともに、可変容量型油圧ポンプ14の吐出圧力を検出し、その検出したポンプ吐出圧力とアクチュエータの要求流量値より、可変容量型油圧ポンプ14のポンプ吸収トルクを算出する。
【0035】
そして、算出(予測)したポンプ吸収トルクが基準トルクを超える場合には、過負荷によるエンジンEの回転低下が始まる前に、メインコントローラ24がレギュレータ20を減量側に制御しておく、いわゆるフィードフォワード制御を行う。以上により、過負荷投入時における急速なエンジンEの回転ダウンを防止することができる。
【0036】
以下、本願発明であるフィードフォワード制御のフローの詳細について説明する。
【0037】
図2のS101工程に示すように、フィードフォワード制御では、まず、操作レバー18の操作量をセンサにより検出する。ここで、操作レバー18の操作量は、
図3及び
図4に示すような特性を示している。
【0038】
図3は、ブームの操作レバー18の操作量とアクチュエータの要求流量との関係を示すグラフである。
図3に示すように、ブームレバーの操作量(=センサ出力)に応じてアクチュエータの要求流量を増やす傾向にある。
【0039】
図4は、アームの操作レバー18の操作量とアクチュエータの要求流量との関係を示すグラフである。
図4に示すように、アームレバーの操作量(=センサ出力)に応じてアクチュエータの要求流量を増やす傾向にある。
【0040】
図2のS102工程に示すように、上記のような特性を有する操作レバー18で、レバーの操作量に基づいてアクチュエータの要求流量を算出する。すなわち、レバーの操作量をレバー操作量検出手段19で検出し、
図3及び
図4に示す特性を利用して、メインコントローラ24でアクチュエータの要求流量を算出する。
【0041】
また、
図2のS103工程に示すように、現在吐出しているポンプ吐出圧力を圧力センサ17で検出する。その情報はメインコントローラ24に送信される。
【0042】
さらに、
図2のS104工程に示すように、メインコントローラ24は、検出したポンプ吐出圧力とアクチュエータの要求流量値より、可変容量型油圧ポンプ14のポンプ吸収トルクを算出する。すなわち、メインコントローラ24が、ポンプ吐出圧力とアクチュエータの要求流量値に基づいて可変容量型油圧ポンプ14のポンプ吸収トルクを算出する。
【0043】
ポンプ吸収トルク予測値Tは以下の式を用いて算出することができる。
【数1】
ここで、aは、定数、
Tは、ポンプ吸収トルク予測値(Nm)、
Pは、ポンプ吐出圧力(MPa)、
N:エンジン回転数(min
-1)、
Qは、ポンプ吐出流量(=アクチュエータ要求流量)(L/min)
である。
【0044】
そして、
図2のS105工程に示すように、コントローラは、上記算出したポンプ吸収トルクが閾値(基準トルク)以上であるか否かを判断する。そして、
図2のS106工程に示すように、ポンプ吸収トルクが閾値以上である場合には、電磁比例弁21によりレギュレータ20を駆動し、ポンプの斜板を減量側に制御する。なお、基準トルクは、機種によって決定されるが、本実施形態では、スピードセンシング目標トルクは200Nmである。また、エンジン最大出力トルクは240Nmである。
【0045】
図5は、本願発明に係るフィードフォワード制御を実施した場合でのエンジン回転数とエンジン出力トルクとの関係を示すグラフである。
【0046】
まず、油圧作業機での掘削作業中に、バケットの爪が固い岩盤に当たるなどして油圧アクチュエータ15の圧力が上昇した場合には、
図5のA線に示すように、作業中にポンプ吸収トルク(油圧負荷)が大きくなり、エンジンEの回転数が減少する。
【0047】
更に、
図5のB線に示すように、ポンプ吸収トルクが大きくなると、エンジン回転がエンジン制御目標回転数(=エンジン制御目標トルク)よりも小さくなる。
【0048】
この後、
図5のC線に示すように、エンジン回転数検出手段13で検出するエンジンEの回転数が制御目標回転数以下になった場合、すなわち、制御目標トルクを超えた場合には、本願発明に係るフィードフォワード制御を実施してポンプ吐出流量を減じてエンジンストールを防止する。
【0049】
そして、エンジンEに加わる油圧負荷が制御目標トルク以上で存在し続ける間は、
図5のD点に示すように、エンジン出力トルク(エンジン回転数)は制御目標トルク(制御目標回転数)となっている。
【0050】
図6は油圧負荷投入時のエンジン回転数とポンプ吸収トルクの関係を示すグラフである。この
図6に示すように、低負荷時のエンジン回転数から高負荷作業時のエンジン回転数に移行する時には、可変容量型油圧ポンプ14のポンプ吸収トルクの上昇を予測して、エンジン回転数が落ちる前からポンプの吐出量制限を行うフィードフォワード制御を実施することで、ポンプの吐出容量減少の遅れを短くして、エンジンEの大幅な回転ダウンを防止することができる。
【0051】
図6に示すグラフにおいて、ポンプの吐出容量をアクチュエータ要求流量より予測した場合に、フィードフォワード制御を開始するトルクの閾値例を220Nmとしている。また、スピードセンシング制御を開始する目標回転数を2000min
−1としている。
【0052】
図7は、従来技術の場合とフィードフォワード制御を実施した場合でのエンジン回転数及びポンプ吸収トルクを比較したグラフである。
図7に示すように、従来技術とフィードフォワード制御を実施した場合のエンジン回転数(本実施形態)とフィードフォワード制御のない場合のエンジン回転数とを比較すると、低負荷から高負荷に移行した場合でのエンジン回転数の落ち込みが少なくなる。
【0053】
図8は、フィードフォワード制御を開始するポンプ吸収トルクの閾値(基準トルク)の設定範囲の例を示す説明図である。本実施形態では、
図8に示すように、フィードフォワード制御を開始する基準トルクをスピードセンシング制御の目標トルクとエンジンEの最大トルクとの間で設定している。
【0054】
図8に示すように、フィードフォワード制御を開始する基準トルクはスピードセンシング制御の目標トルク以上である。このとき、スピードセンシング目標トルクは200Nmである。このように、低負荷作業においてはフィードフォワード制御が作動せず、エンジンEの出力を有効に使うことができる。
【0055】
これに対し、フィードフォワード制御を開始する基準トルクが低い場合は、低負荷作業においてもフィードフォワード制御が作動しポンプの吐出流量が減少するため、エンジンの出力を有効に使えず、作業性能が悪化する。
【0056】
また、フィードフォワード制御を開始する基準トルクはエンジンEの最大トルク以下である。このとき、エンジン最大出力トルクは240Nmである。このように、フィードフォワード制御を開始する基準トルクをエンジンの最大出力トルク以下に設定することでフィードフォワード制御の遅れを防止し、エンジンEの大幅な回転ダウンを防止することができる。これに対し、フィードフォワード制御を開始する基準トルクがエンジン最大出力トルクよりも高い場合は、フィードフォワード制御が遅れてエンジン回転ダウンが大きくなると共にエンジンストールが発生する。