【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明者らは、特許文献1に示すNi基超合金の試験材に多くの熱処理条件を適用した調査を実施した。その結果、結晶粒界に析出する炭化物の析出量および形態を制御することで高温延性やクリープ強度を低下させること無く、室温、高温の機械的特性を大幅に向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
この発明は、以下に示す手段により上記目的を達成するものである。
【0008】
すなわち、本発明のNi基超合金材のうち、第1の本発明は、質量%で、C:0.005〜0.15%、Cr:8〜22%、Co:5〜30%、Mo:1〜9%未満、W:5〜20%、Al:0.1〜2.0%、Ti:0.3〜2.5%、B:0.015%以下、Mg:0.01%以下を含有し、残部がNi及び不可避的不純物からなるNi基超合金材の最終時効後の組織において、以下の式(1)で定義する結晶粒界、および結晶粒内に析出している炭化物の表面断面における面積率の比率が、0.6〜3.0であることを特徴とする。
炭化物面積率比率=結晶粒界の炭化物の面積率/結晶粒内の炭化物の面積率・・(1)
【0009】
第2の本発明のNi基超合金材は、前記第1の本発明において、質量%で、さらに、Zr:0.2%以下、Hf:0.8%以下の1種または2種を含有することを特徴とする。
【0010】
第3の本発明のNi基超合金材は、前記第1または第2の本発明において、さらに、質量%で、Nb含有量+1/2Ta含有量≦1.5%の条件で、NbとTaの1種または2種とを含有することを特徴とする。
【0011】
第4の本発明のタービンロータは、前記第1〜第3の本発明のいずれかのNi基超合金材からなることを特徴とする。
【0016】
次に本発明において使用する合金の化学成分組成を限定したのは、次の理由による。
なお、以下の含有量はいずれも質量%で示している。
【0017】
C:0.005〜0.15%
Cは、Ti、Nb、TaとMCタイプの炭化物を形成し、またCr、MoとはM
6C、M
7C
3、およびM
23C
6タイプの炭化物を形成し、合金の結晶粒の粗大化を抑制するとともに、高温強度の向上にも寄与する。更に、Cは結晶粒界に適量の炭化物(MCやM
23C
6)を析出させることで結晶粒界を強化するために、本発明では必須の元素である。Cが0.005%以上含まれないと上記の効果が得られず、0.15%を越えると粒内の析出強化に必要なTi量が減少するだけでなく、時効処理時に結晶粒界へ析出する炭化物が多くなりすぎて結晶粒界が脆弱化し、室温の延性が低下する。従って、Cの添加量は0.005〜0.15%の範囲に限定する。なお、同様の理由で、下限を0.01%、上限を0.08%とするのが望ましい。
【0018】
Cr:8〜22%
Crは合金の耐酸化性、耐食性、強度を高めるに不可欠な元素である。また、Cと結びついて炭化物を結晶粒界へ析出させ、高温強度を高める。それらの効果を発揮させるためには、最低8%以上の含有量が必要である。しかしながら、多すぎる含有量は母相の安定性を阻害し、σ相やα−Crなどの有害なTCP相の生成を助長することになり、延性や靭性に悪影響を及ぼす。従って、Crの含有量は8〜22%の範囲に限定する。なお、同様の理由で下限を10%、上限を15%とするのが望ましく、上限を13%とするのが一層望ましい。
【0019】
Co:5〜30%
Coは熱膨張係数を低下させる効果のあるWを添加したNi基超合金の偏析性を改善するために重要な成分である。つまり、CoはNiとの密度差が大きく、ストリーク状偏析の発生原因となるWの分配係数を1に近づけ、偏析性を大きく改善させることができる。また、CoはAl、Ti、Nbといった析出強化元素の分配係数も1に近づけることができる。Coを5%以上含まないと上記の効果が十分得られず、30%を超えると鍛造性を悪化させるだけでなく、μ相(Laves相)と呼ばれるTCP相を生成しやすくなるため、高温での母相の組織を却って不安定にするとともに高温組織安定性を悪化させる。したがってCoの含有量は5〜30%の範囲に限定する。なお、同様の理由で、下限を10%、上限を20%とすることが望ましい。
【0020】
Mo:1〜9%未満
Moは主に母相に固溶して母相自体を強化する固溶強化元素として有効であるとともに、γ’相に固溶してγ’相のAlサイトに置換することによりγ’相の安定性を高めるので、高温での強度を高めるとともに組織の安定性を高めるのに有効である。また、線膨張係数を下げる効果も有している。Mo含有量が1%未満では上記効果が不十分であり、9%以上になるとμ相(Laves相)と呼ばれるTCP相を生成しやすくなるため、高温での母相の組織を不安定にするとともに高温組織安定性を悪化させる。したがって、Moの含有量は1%〜9%未満の範囲に限定する。なお、同様の理由で下限を3.0%、上限を7.0%とするのが望ましい。
【0021】
W:5〜20%
WもMoと同様に母相に固溶して母相自体を強化する固溶強化元素として有効であるとともに、γ’相に固溶してγ’相のAlサイトに置換することによりγ’相の安定性を高めるので高温での強度を高めるとともに組織の安定性を高めるのに有効である。また、線膨張係数を下げる効果も有しており、適切な含有量であれば、TCP相が析出しないので組織安定性を損なうことはない。ただし、多すぎる含有ではα−Wが析出し組織安定性を低下させるのみならず、熱間加工性も著しく劣化させる。従って、Wの含有量は5〜20%の範囲に限定する。同様の理由で下限を7.0%、上限を15.0%とするのが望ましい。
【0022】
Al:0.1〜2.0%
AlはNiと結合してγ’相を析出し、合金の強化に寄与する。Alが0.1%未満では十分な析出強化を得ることが出来ないが、多すぎる含有はγ’相の結晶粒界への粗大凝集により、濃化領域と無析出帯とができ、高温特性の低下、切り欠き感受性の劣化を招き、機械的特性が大幅に低下する。また、過剰に含有すると熱間加工性が低下し、鍛造が困難になる。従って、Alの含有量は0.1〜2.0%の範囲に限定する。なお、同様の理由で下限を0.5%、上限を1.5%とするのが望ましい。
【0023】
Ti:0.3〜2.5%
Tiは主にMC炭化物を形成して合金の結晶粒の粗大化を抑制するとともに、Alと同様、Niと結合してγ’相を析出し、合金の強化に寄与する。この作用を十分に得るためには、0.3%以上の含有が必要である。しかしながら、多すぎる含有は、高温におけるγ’相の安定性を低下させると共にη相が析出するため強度と延性、靭性、及び長時間組織安定性の低下を招く。従って、Tiの含有量は0.3〜2.5%の範囲に限定する。なお、同様の理由で下限を0.5%、上限を2.0%とするのが望ましい。
【0024】
Nb+1/2Ta≦1.5%
Nb及びTaはAl、及びTiと同様に析出強化元素であり、γ”相を析出し合金の強化に寄与するので所望により含有させる。しかしながら、多量の含有はLaves相やσ相等の金属間化合物が析出しやすくなり、組織安定性を著しく損なう。したがって、所望により含有させるNb及びTaの含有量は、Nb含有量+1/2Ta含有量の値で1.5%以下とする。なお、上記作用を十分に得るため、Nb含有量+1/2Ta含有量は、0.1%以上とするのが望ましく、さらには0.2%以上とするのが一層望ましい。
【0025】
B:0.015%以下
Bは結晶粒界に偏析して高温特性に寄与するので所望により含有させる。ただし、多過ぎる含有は硼化物を形成し易くなり、逆に粒界脆化を招くとともに,溶接性を低下させる。したがって、所望により含有させるBの含有量は0.015%以下とする。なお、上記作用を十分に得るためには、0.0005%以上含有するのが望ましく、また上記と同様の理由により、さらに上限を0.01%とするのが望ましい。
【0026】
Zr:0.2%以下
ZrはBと同様に結晶粒界に偏析して高温特性に寄与するので所望により含有させる。ただし、多過ぎる含有は合金の熱間加工性および溶接性を低下させる。したがって、所望により含有させるZrの含有量は0.2%以下とする。なお、上記作用を十分に得るためには、0.001%以上含有するのが望ましく、さらに0.02%以上含有するのが一層望ましい。また上記と同様の理由により、さらに上限を0.08%とするのが望ましい。
【0027】
Hf:0.8%以下
HfはB、Zrと同様に結晶粒界に偏析して高温特性に寄与するので所望により含有させる。ただし、多過ぎる含有は合金の熱間加工性が低下させる。したがって、所望により含有させるHfの含有量は0.8%以下とする。なお、上記作用を十分に得るためには、0.05%以上含有するのが望ましく、さらに0.1%以上含有するのが一層望ましい。また上記と同様の理由により、さらに上限を0.5%とするのが望ましい。
【0028】
Mg:0.01%以下
Mgは主にSと結合して硫化物を形成し、熱間加工性を高める効果があるので所望により含有させる。ただし、多すぎる含有は逆に粒界脆化を招き、熱間加工性および溶接性を著しく低下させる。従って、Mgの含有量は0.01%以下の範囲に限定する。なお、上記作用を十分に得るため、Mg含有量を0.0005%以上とするのが望ましい。
【0029】
Si:0.3%以下
Siは脱酸材として合金溶解時に所望により添加される。しかしながら、多すぎる添加は合金の延性を低下させると共に、偏析性および溶接性を悪化させる。従って、Siの含有量は0.3%以下に限定するのが望ましい。なお、同様の理由により、0.1%未満とするのが一層望ましく、0.05%未満とするのが一層望ましい。
【0030】
炭化物面積率比率:0.6〜3.0
ここで、炭化物面積率比率について、その限定理由を説明する。
Ni基超合金では、時効処理により、粒内にγ’相が析出し、強度が向上するが、粒内の強度が増加した場合には、粒内と比較して相対的に結晶粒界の強度が低くなってしまうため、結晶粒界で破断が生じ、延性が低下する。そのため、多くのNi基超合金では結晶粒界に炭化物を析出させて、結晶粒界を強化し、粒内強度と粒界強度をバランスさせて強度と延性を向上させる。しかしながら、室温における延性、靭性と高温における延性、クリープ強度では、機械的特性を向上させるために必要となる粒界炭化物の析出量は異なっている。つまり、高温延性、クリープ強度には、炭化物の析出量は多い方が有効だが、炭化物が多すぎると室温延性、靭性は大きく低下する。本発明によれば、粒内、および結晶粒界に析出する炭化物の析出量の比率を制御することによって、特許文献1で示されるNi基超合金の室温、高温での強度・延性の何れも低下させることなく、室温の延性、靭性を向上させることが可能となる。なお、炭化物の面積率比率は、ある平面における粒内と結晶粒界の炭化物のそれぞれの面積率から以下の式で算出することができる。
炭化物面積率比率=結晶粒界の炭化物の面積率/粒内の炭化物の面積率・・(1)
【0031】
炭化物面積率比率が0.6未満では、粒内強度と比較して粒界強度が低くなるため、700℃付近の温度域では、結晶粒界から破断が生じ、延性、クリープ破断強度が著しく低下する。一方、炭化物面積率比率が3.0より大きい場合には、結晶粒界に析出する炭化物の析出が過剰になり、結晶粒界の炭化物が凝集し、粗大化することでフイルム状の形態になる。炭化物が結晶粒界にフイルム状に析出すると、逆に結晶粒界が脆弱になるため、室温での延性、および靭性が大幅に低下する。したがって、炭化物面積率比率は0.6〜3.0に限定する。
【0032】
次に、本発明
のNi基超合金材を製造する際に用いられる熱処理条件の例とその理由について説明する。
【0033】
溶体化処理:1050〜1120℃、1〜20時間
炭化物の析出は溶体化処理前の鍛造工程における加熱、冷却過程で生じる。鍛造後の冷却速度が十分遅い場合には、母相中に固溶していた炭素原子は炭化物として析出し、その殆どが消費される。その後に実施する溶体化処理は、通常、加工組織を再結晶させるとともに、凝固時に生成した1次炭化物を除く他の殆どの析出相を一旦母相に固溶させ、その後の時効処理で均一な組織を得るために実施する。ここで、鍛造工程中に析出した炭化物も母相に再固溶し、その後の時効によって再結晶した結晶粒界に炭化物として再析出する。本発明の組成においては、溶体化処理温度が1050℃未満だと鍛造工程にて析出した炭化物は十分に固溶せず、時効後の結晶粒界に析出する炭化物の析出量が少なくなり、炭化物面積率比率が0.6未満になる。一方、1120℃より高い温度では、鍛造工程中に析出した炭化物が過剰に固溶するため、その後の時効において、結晶粒界に析出する炭化物の析出量が多くなり、炭化物面積率比率が3.0よりも大きくなる。したがって、溶体化処理温度は1050〜1120℃であることが望ましい。また、溶体化処理で十分な効果を得るためには1時間以上保持する必要がある。しかし、20時間以上の保持は逆に炭化物の析出量を増加させるため、保持時間は1〜20時間の範囲とすることが望ましい。なお、大型の鍛鋼品では、外表部と中心部で均熱に要する時間が異なるため、保持時間は材料の大きさに合わせて1〜20時間の範囲で設定することができる。
【0034】
1段目の時効:770〜830℃、1〜50時間
2段目の時効:700〜780℃、1〜50時間(1段目の時効温度より低い温度)
時効処理における加熱温度と加熱時間は、γ’相の析出の他に、最終時効後の結晶粒界にM
23C
6が点在して、その間にMCを存在させることにより、長時間組織安定性を向上させることが可能な条件とした。なお、MCの析出量としては、ある一断面を見た例として、結晶粒径100μmの結晶粒界にMCが数100〜1000個程度析出していることが望ましい。MCの析出量が少ないと、M
23C
6の間にMCが存在しなくなり、長時間の使用によって、M
23C
6の凝集・粗大化が促進され、室温の延性、および靭性が低下する。
【0035】
1段目の時効温度である770〜830℃の範囲では、粒内にはγ’相、結晶粒界には主にMC炭化物が析出し、粒内および結晶粒界が強化される。770℃未満では、結晶粒界に析出する主な炭化物はM
23C
6となるため、長時間の使用によってM
23C
6の凝集・粗大化が促進され、室温の延性、靭性が低下する。一方、時効温度が830℃よりも高くなるとγ’相の粗大化が加速されるとともに、MCが粗大化し、強度及び室温の延性が低下する。また、MCが粗大化して母相中のCが過剰に消費された場合には、2段目の時効処理にて析出するM
23C
6の析出量が減少し、炭化物面積率比率が大幅に低下する。したがって、1段目の時効温度は770〜830℃にすることが望ましい。また、1段目の時効処理で十分な効果を得るためには1時間以上保持する必要があるが、50時間以上の保持を行うと、逆にγ’相が粗大化して強度が低下するので、保持時間は1〜50時間とすることが望ましい。
【0036】
2段目の時効処理では、1段目の時効処理にて結晶粒界に析出したMCに加えてM
23C
6が析出し、結晶粒界の炭化物の析出量が増加する。さらに、MCは粗大化速度がきわめて遅く、結晶粒界に析出したM
23C
6が点在して、その間にMCが存在した炭化物の形態をとることで、M
23C
6の凝集、粗大化をMCが抑制し、長時間組織安定性が大幅に向上する。700℃未満では、γ’相、M
23C
6の析出が十分ではなく、780℃よりも高くなると結晶粒界にMCが析出して、炭化物面積率比率が低下するため、所望の粒界炭化物の形態が得られなくなる。したがって、2段目の時効温度は700〜780℃とした。また、2段目の時効処理で十分な効果を得るためには1時間以上保持する必要があるが、50時間以上の保持を行っても、時効の効果に変わりが見られないので、保持時間は1〜50時間とした。なお、2段目の時効温度を1段目の時効温度より高くすると、γ’相が粗大化するため、強度が低下する。したがって、2段目の時効は1段目の時効より低い温度で実施することが望ましい。
【0037】
1段目から2段目の時効までは連続的に冷却を行うことができる。ただし、冷却過程においては冷却中に粗大な炭化物が結晶粒界に析出するのを避ける必要がある。冷却速度が10℃/時間未満になると、冷却中に粗大な炭化物が析出して炭化物析出比率が低下するため、高温の延性が低下する。したがって、1段目から2段目の時効までの冷却速度を10℃/h以上とした。