【実施例1】
【0016】
1.貴金属吸着剤の製造
(1−1)貴金属吸着剤1A
以下のように特定される微細藻類を用意した。
【0017】
寄託番号:FERM BP-10484
属:シュードコリシスティス(pseudochoricystis)
種:エリプソイディア(ellipsoidea)
株:MBIC11204
上記の微細藻類を、遠心分離により回収した。なお、遠心分離の代わりに、凝集剤を使用して回収してもよい。凝集剤としては、硫酸アルミニウム系凝集剤、カチオン性高分子
凝集剤、両性高分子凝集剤等が挙げられる。
【0018】
回収した微細藻類を乾燥させてから、粒径が100μm程度となるまで、乳鉢で粉砕した。この粉砕した微細藻類を、粉砕物PAとした。
粉砕物PAに対し、以下のようにして、ジチオオキサミドの官能基を導入、固定化(化学修飾)した。
<1段目の反応>
まず、5gの乾燥させた粉砕物PAと、200mLのピリジンとを、500mLの三つ口フラスコに取り、氷浴中で保持した。次に、30mLの塩化チオニルを、窒素ガス雰囲気下で滴下した後、70℃で5時間反応させた。なお、この反応は、原料(粉砕物PA)を塩素化し、中間生成物を生じさせるものである。その後、三つ口フラスコ中の混合物を濾過して液を除去した後、塩素化した中間生成物の固体成分を、蒸留水を用いて洗浄し、対流乾燥器を用いて70℃で1晩乾燥させた。
<2段目の反応>
1段目の反応で得られた中間生成物3gを三つ口フラスコに取り、これに20mLのジメチルホルムアミドを加えて懸濁させた。さらに、0.2gのジチオオキサミドと、1.2gの炭酸ナトリウムを5mLのジメチルホルムアミドに溶解させた液とを加え、70℃で48時間激しく撹拌・混合した。次に、室温まで放冷してから、濾過して固形分を取り出し、最初に希塩酸水溶液で、続いて蒸留水を用いて排出液が中性になるまで洗浄を繰り返した。その後、対流乾燥器を用いて70℃で24時間乾燥させ、最終生成物を得た。この最終生成物を、貴金属吸着剤1Aとする。なお、この2段目の反応は、ジチオオキサミドの官能基を導入するものである。
【0019】
上述した、ジチオオキサミドの官能基を導入、固定化する反応は、
図1のように表すことができる。すなわち、1段目の反応において、原料(藻類、その残渣物、又はそれらの強酸処理物)の水酸基を、塩化チオニル等を用いて塩素化して中間生成物を生じさせ、2段目の反応において、中間生成物とジチオオキサミドとを、例えば、炭酸ナトリウムとN,N−ジメチルホルムアミドの混合溶液のような塩基性雰囲気下で反応させることにより、原料にジチオオキサミドの官能基を導入、固定化する。
(1−2)貴金属吸着剤1B
使用する微細藻類を、以下のように特定されるものとした点以外は、粉砕物PAの場合と同様として、粉砕物PBを製造した。
【0020】
寄託番号:FERM BP-10485
属:シュードコリシスティス(pseudochoricystis)
種:エリプソイディア(ellipsoidea)
株:MBIC11220
次に、粉砕物PBに対し、ジチオオキサミドの官能基を導入、固定化して、貴金属吸着剤1Bとした。なお、ジチオオキサミドの官能基を導入、固定化する方法は、貴金属吸着剤1Aの場合と同様とした。
(1−3)貴金属吸着剤2A
粉砕物PAを、有機溶媒(クロロホルムとメタノールとを2:1の割合で混合したもの)に浸して、微細藻類中のオイル成分を有機溶媒に溶かし込んだ。その後、有機溶媒を蒸発させてオイル成分を回収した。オイルを除いた後に残った微細藻類の残渣物を残渣物QAとした。
【0021】
次に、残渣物QAに対し、ジチオオキサミドの官能基を導入、固定化して、貴金属吸着剤2Aとした。なお、ジチオオキサミドの官能基を導入、固定化する方法は、貴金属吸着剤1Aの場合と同様とした。
(1−4)貴金属吸着剤2B
粉砕物PBを、有機溶媒(クロロホルムとメタノールとを2:1の割合で混合したもの)に浸して、微細藻類中のオイル成分を有機溶媒に溶かし込んだ。その後、有機溶媒を蒸発させてオイル成分を回収した。オイルを除いた後に残った微細藻類の残渣物を残渣物QBとした。
【0022】
次に、残渣物QBに対し、ジチオオキサミドの官能基を導入、固定化して、貴金属吸着剤2Bとした。なお、ジチオオキサミドの官能基を導入、固定化する方法は、貴金属吸着剤1Aの場合と同様とした。
(1−5)貴金属吸着剤3A
残渣物QAを、100℃の濃硫酸に24時間浸漬した。このとき、残渣物QAにおいて、一対の水酸基の縮合反応により、架橋が生じると考えられる。その後、炭酸水素ナトリウム(重曹)で中和して、濾過、乾燥した。この工程により得られた物質を濃硫酸処理物RAとした。
【0023】
次に、濃硫酸処理物RAに対し、ジチオオキサミドの官能基を導入、固定化して、貴金属吸着剤3Aとした。なお、ジチオオキサミドの官能基を導入、固定化する方法は、貴金属吸着剤1Aの場合と同様とした。
(1−6)貴金属吸着剤3B
残渣物QBを、100℃の濃硫酸に24時間浸漬した。このとき、残渣物QBにおいて、一対の水酸基の縮合反応により、架橋が生じると考えられる。その後、炭酸水素ナトリウム(重曹)で中和して、濾過、乾燥した。この工程により得られた物質を濃硫酸処理物RBとした。
【0024】
次に、濃硫酸処理物RBに対し、ジチオオキサミドの官能基を導入、固定化して、貴金属吸着剤3Bとした。なお、ジチオオキサミドの官能基を導入、固定化する方法は、貴金属吸着剤1Aの場合と同様とした。
【0025】
なお、貴金属吸着剤1A〜3Bの内容を表1にまとめて示す。また、表1には、後述する実施例2で製造する貴金属吸着剤4A〜5Bの内容も示す。
【0026】
【表1】
【0027】
なお、表1の「藻の種類」の欄におけるAとは、貴金属吸着剤1Aの製造に用いた藻であり、Bとは、貴金属吸着剤1Bの製造に用いた藻である。
2.貴金属吸着剤の評価
(2−1)吸着百分率の測定
乾燥重量で10mgの貴金属吸着剤と、0.2mmol/Lの濃度で金属イオンを含む塩酸10mlとを栓付きフラスコに取り、30℃に保たれた空気恒温槽中で24時間振り混ぜて、金属イオンを貴金属吸着剤に吸着させた。吸着前後における塩酸中の金属イオンの濃度を島津製ICPS−8100型ICP原子発光分析装置により測定し、以下の(式1)により、貴金属吸着剤に吸着された金属イオンの吸着百分率を求めた。
(式1) X=((Ci−C)/Ci)X100
(X:吸着百分率、Ci:吸着前における塩酸中の金属イオン濃度、C:吸着後における塩酸中の金属イオン濃度)
貴金属吸着剤としては、貴金属吸着剤1A、1B、2A、2B、3A、3B、残渣物QA、QBを用いた。吸着百分率の測定は、それぞれの貴金属吸着剤について、個別に行った。貴金属吸着剤の平均粒子径は、75〜150μmとした。
【0028】
また、金属イオンとしては、白金イオン、パラジウムイオン、銅イオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン、鉄イオンを用いた。吸着百分率の測定は、それぞれの金属イオンについて、個別に行った。なお、各金属イオンは、それぞれ、特級試薬の塩化白金(IV)酸、塩化パラジウム(II)、銅(II)の塩酸塩、亜鉛(II)の塩酸塩、ニッケル(II) の塩酸塩、および鉄(III)の塩酸塩を塩酸に溶解させて生じたものである。また、吸着百分率の測定は、複数の塩酸濃度において、それぞれ行った。
【0029】
貴金属吸着剤2Aを用いた場合の測定結果を
図2に示し、貴金属吸着剤3Aを用いた場合の測定結果を
図3に示し、残渣物QAを用いた場合の測定結果を
図4に示す。
図2及び
図3から明らかなように、貴金属吸着剤2A、貴金属吸着剤3Aは、白金とパラジウムを選択的に吸着し、亜鉛、銅、ニッケル、鉄はほとんど吸着しなかった。特に、貴金属吸着剤2Aは、白金とパラジウムとを一層顕著に吸着した。よって、これらの貴金属吸着剤を用いれば、パラジウムと白金とを、鉄や亜鉛等の卑金属から分離・回収することができる。また、貴金属吸着剤1A、1B、2B、3Bを用いた場合も、おおむね同様の結果が得られた。一方、残渣物QA、QBを用いた場合は、白金とパラジウムの吸着量は少なかった。
(2−2)吸着速度の測定
平均粒径が75μm以下である貴金属吸着剤2Aの50mgと、パラジウムイオン又は白金イオンを含む塩酸水溶液50mlとを、30℃の下で、150rpmの振り混ぜ速度で所定時間振り混ぜ、金属イオンの貴金属吸着剤2Aへの吸着量を測定した。
【0030】
塩酸水溶液における塩酸の濃度は、0.1mol/dm
3とした。吸着量の測定は、複数種類の振り混ぜ時間において、それぞれ行った。また、測定は、塩酸水溶液にパラジウムイオンを含む場合と、白金イオンを含む場合とで、それぞれ個別に行った。また、測定は、塩酸水溶液における貴金属イオン(パラジウムイオン、白金イオン)の初期濃度が1mMの場合、2.1mMの場合、及び3.2mMの場合のそれぞれにおいて行った。
【0031】
塩酸水溶液にパラジウムイオンを含む場合の測定結果を
図5に示す。また、塩酸水溶液に白金イオンを含む場合の測定結果を
図6に示す。
図5及び
図6の横軸は振り混ぜ時間であり、縦軸は貴金属イオン(パラジウムイオン又は白金イオン)の吸着量である。
図5、
図6のいずれにおいても、短時間の振り混ぜ時間で、貴金属は貴金属吸着剤2Aに吸着していた。
(2−3)吸着等温線の測定
平均粒径が75〜150μmである貴金属吸着剤2Aの50mgと、パラジウムイオン又は白金イオンを含む塩酸水溶液10mlとを、所定温度の下で、96時間振り混ぜ、金属イオンの貴金属吸着剤2Aへの吸着量を測定した。
【0032】
塩酸水溶液における塩酸の濃度は、0.1mol/dm
3とした。吸着量の測定は、振り混ぜるときの温度が298Kの場合、303Kの場合、313Kの場合、及び323Kの場合のそれぞれにおいて行った。また、貴金属イオン(パラジウムイオン、白金イオン)の初期濃度を様々に設定し、それぞれの場合において測定を行った。
【0033】
塩酸水溶液にパラジウムイオンを含む場合の測定結果を
図7に示す。また、塩酸水溶液に白金イオンを含む場合の測定結果を
図8に示す。
図7及び
図8の横軸は、吸着後における水溶液中の貴金属(パラジウムイオン、白金イオン)の濃度であり、縦軸は貴金属の吸着量である。
【0034】
図7及び
図8のいずれの場合でも、貴金属イオン濃度が低いときは、貴金属イオン濃度の増加とともに吸着量も急激に増加したが、貴金属イオン濃度が高くなると吸着量はある一定値に漸近するというLangmuir型の吸着傾向を示した。この一定値の値より、それぞれの温度におけるパラジウムイオン、及び白金イオンの飽和吸着量を求めた。それらの値を表2に示す。これらの値は他の吸着剤と比較しても大きな値である。
【0035】
【表2】
【0036】
(2−4)カラムを用いた銅、白金、パラジウムの分離
粒径が75〜150μmである貴金属吸着剤2Aをカラムに充填し、このカラムに、パラジウム(II)、白金(IV)、及び銅(II)を含む塩酸水溶液を、4.2ml/Lの流量で通液した。塩酸水溶液におけるパラジウム(II)、白金(IV)、及び銅(II)の濃度は、それぞれ、11mg/L、11mg/L、108mg/Lである。また、塩酸水溶液における塩酸濃度は0.1mol/Lである。
【0037】
カラムから流出した塩酸水溶液における各金属の濃度を測定した。そして、その濃度に基づき、各金属の相対濃度(カラムの出口における濃度を、カラムの入口における濃度で除した値)を算出した。
図9に、ベッド体積(横軸)と、各金属の相対濃度(縦軸)との関係を示す。ここで、ベッド体積とは、カラムに通液した水溶液の総体積を、カラムに充填した貴金属吸着剤の体積で除した値である。
【0038】
図9に示すように、過剰濃度の銅(II)は、通液開始後、直ちにカラムを通過するのに対し、希薄濃度のパラジウム(II)と白金(IV)は、十分な時間の経過後にカラムからの流出(破過)が始まった。パラジウム(II)と白金(IV)の破過が始まる時間も十分に離れており、本カラムを用いれば、パラジウム(II)と白金(IV)との相互分離も可能である。
【0039】
ベッド体積が1000に達した後、濃度0.5mol/dm
3のチオ尿素と、濃度0.5mol/dm
3の塩酸との混合水溶液をカラムに通液して溶離を行った。溶離の際、カラムから流出した混合水溶液における各金属の濃度を測定した。
【0040】
溶離の際における、流出した混合水溶液中での各金属の相対濃度(出口濃度/入り口濃度)と、混合水溶液のベッド体積との関係を
図10に示す。吸着されていたパラジウム(II)と白金(IV)とは、全て溶離されて流出した。また、溶離の際に銅(II)は検出されなかった。
【0041】
以上のように、貴金属吸着剤2Aを充てんしたカラムを用いることにより、過剰濃度の銅(II)から、微量濃度のパラジウム(II)と白金(IV)を効果的に分離できた。
3.貴金属吸着剤の分析
貴金属吸着剤2Aと、残渣物QAについて、FTIR測定を行った。その測定結果を
図11に示す。
【0042】
図11における上のスペクトルは残渣物QAのものであり、下のスペクトルは貴金属吸着剤2Aのものである。下のスペクトルにおいて2364cm
-1に見られる新たな吸収はν
N-Hのものであり、770cm
-1に見られる新たな吸収はC=SまたはC−N結合の伸縮振動に起因するものである。617cm
-1に見られる新たな吸収はC−S結合の伸縮振動に起因するものである。このようなスペクトルにより、金属吸着剤2Aには、ジチオオキサミドの官能基が固定化されていることが確認できる。
【0043】
また表3に、残渣物QAと貴金属吸着剤2Aとの元素分析の結果を示す。
【0044】
【表3】
【0045】
残渣物QAと比較して、貴金属吸着剤2Aでは窒素と硫黄の含有量の増加が見られることからも、貴金属吸着剤2Aではジチオオキサミドの官能基が導入、固定化されていることが分かる。
【0046】
また、
図12に、貴金属吸着剤2Aの走査型電子顕微鏡写真を示す。
図12(a)は倍率200倍の写真であり、
図12(b)は倍率1000倍の写真である。
【実施例2】
【0047】
1.貴金属吸着剤の製造
(1−1)貴金属吸着剤4A
前記実施例1と同様にして得た粉砕物PAに対し、以下のようにして、ポリエチレンイミンの官能基を導入、固定化した。
<1段目の反応>
まず、5gの乾燥させた粉砕物PAと、200mLのピリジンとを、500mLの三つ口フラスコに取り、氷浴中で保持した。次に、30mLの塩化チオニルを、窒素ガス雰囲気下で滴下した後、70℃で5時間反応させた。なお、この反応は、原料(粉砕物PA)を塩素化し、中間生成物を生じさせるものである。その後、三つ口フラスコ中の混合物を濾過して液を除去した後、塩素化した中間生成物の固体成分を、蒸留水を用いて洗浄し、対流乾燥器を用いて70℃で1晩乾燥させた。
<2段目の反応>
1段目の反応で得られた中間生成物3gを三つ口フラスコに取り、これに20mLのジメチルホルムアミドを加えて懸濁させた。さらに、0.35gのポリエチレンイミンを5mLのジメチルホルムアミドに溶解させた液を加え、50℃で48時間激しく撹拌・混合した。次に、室温まで放冷してから、濾過して固形分を取り出し、蒸留水を用いて排出液が中性になるまで洗浄を繰り返した。その後、対流乾燥器を用いて70℃で24時間乾燥させ、最終生成物を得た。この最終生成物を、貴金属吸着剤4Aとする。なお、この2段目の反応は、ポリエチレンイミンの官能基を導入するものである。
【0048】
上述した、ポリエチレンイミンの官能基を導入、固定化する反応は、
図13のように表すことができる。すなわち、1段目の反応において、原料(藻類、その残渣物、又はそれらの強酸処理物)の水酸基を、塩化チオニル等を用いて塩素化して中間生成物を生じさせ、2段目の反応において、中間生成物とポリエチレンイミンとを、例えば、炭酸ナトリウムとN,N−ジメチルホルムアミドの混合溶液のような塩基性雰囲気下で反応させることにより、原料にポリエチレンイミンの官能基を導入、固定化する。
【0049】
貴金属吸着剤4Aの製造に使用したポリエチレンイミンは、
図14に示す化学構造を有し、平均分子量が約75000の高分子であり、MP Biomedicals LLCより購入できる。このポリエチレンイミンは、
図14に示すように、様々なアミノ基を有するが、その含有量は次のとおりである。
【0050】
1級アミノ基:25%
2級アミノ基:50%
3級アミノ基:25%
(1−2)貴金属吸着剤4B
前記実施例1と同様にして得た粉砕物PBに対し、ポリエチレンイミンの官能基を導入、固定化して、貴金属吸着剤4Bとした。なお、ポリエチレンイミンの官能基を導入、固定化する方法は、貴金属吸着剤4Aの場合と同様とした。
(1−3)貴金属吸着剤5A
前記実施例1と同様にして得た残渣物QAに対し、ポリエチレンイミンの官能基を導入、固定化して、貴金属吸着剤5Aとした。なお、ポリエチレンイミンの官能基を導入、固定化する方法は、貴金属吸着剤4Aの場合と同様とした。
(1−4)貴金属吸着剤5B
前記実施例1と同様にして得た残渣物QBに対し、ポリエチレンイミンの官能基を導入、固定化して、貴金属吸着剤5Bとした。なお、ポリエチレンイミンの官能基を導入、固定化する方法は、貴金属吸着剤4Aの場合と同様とした。
【0051】
2.貴金属吸着剤の評価
(2−1)吸着百分率の測定
乾燥重量で10mgの貴金属吸着剤と、所定濃度で金属イオンを含む塩酸10mlとを栓付きフラスコに取り、30℃に保たれた空気恒温槽中で24時間振り混ぜて、金属イオンを貴金属吸着剤に吸着させた。吸着前後における塩酸中の金属イオンの濃度を島津製ICPS−8100型ICP原子発光分析装置により測定し、以下の(式1)により、貴金属吸着剤に吸着された金属イオンの吸着百分率を求めた。
(式1) X=((Ci−C)/Ci)X100
(X:吸着百分率、Ci:吸着前における塩酸中の金属イオン濃度、C:吸着後における塩酸中の金属イオン濃度)
貴金属吸着剤としては、貴金属吸着剤4A、4B、5A、5Bを用いた。吸着百分率の測定は、それぞれの貴金属吸着剤について、個別に行った。貴金属吸着剤の平均粒子径は、75〜150μmとした。
【0052】
また、金属イオンとしては、白金イオン、パラジウムイオン、銅イオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン、鉄イオンを用いた。吸着百分率の測定は、それぞれの金属イオンについて、個別に行った。なお、各金属イオンは、それぞれ、特級試薬の塩化白金(IV)酸、塩化パラジウム(II)、銅(II)の塩酸塩、亜鉛(II)の塩酸塩、ニッケル(II) の塩酸塩、および鉄(III)の塩酸塩を塩酸に溶解させて生じたものである。塩酸中の金属イオンの初期濃度は、パラジウム(II)と白金(IV)の場合は0.2mmol/dm
3であり、他の金属イオンの場合は1.0mmol/dm
3である。
また、吸着百分率の測定は、複数の塩酸濃度において、それぞれ行った。
【0053】
貴金属吸着剤5Aを用いた場合の測定結果を
図15に示す。
図15から明らかなように、貴金属吸着剤5Aは、白金とパラジウムを選択的に吸着し、亜鉛、銅、ニッケル、鉄はほとんど吸着しなかった。特に、塩酸濃度が0.1mmol/dm
3程度の低濃度領域では、白金とパラジウムを一層顕著に吸着した。よって、この貴金属吸着剤を用いれば、パラジウムと白金とを、鉄や亜鉛等の卑金属から分離・回収することができる。また、貴金属吸着剤4A、4B、5Bを用いた場合も、おおむね同様の結果が得られた。
(2−2)吸着速度の測定
貴金属吸着剤5Aの50mgと、パラジウムイオン又は白金イオンを含む塩酸水溶液50mlとを、30℃の下で、150rpmの振り混ぜ速度で所定時間振り混ぜ、金属イオンの貴金属吸着剤5Aへの吸着量を測定した。
【0054】
塩酸水溶液における塩酸の濃度は、0.1mol/dm
3とした。吸着量の測定は、複数種類の振り混ぜ時間において、それぞれ行った。また、塩酸水溶液におけるパラジウムイオンの初期濃度、及び塩酸水溶液における白金イオンの初期濃度は、それぞれ、2mmol/dm
3とした。
【0055】
測定結果を
図16に示す。
図16の横軸は振り混ぜ時間であり、縦軸は貴金属イオン(パラジウムイオン又は白金イオン)の吸着量である。パラジウムイオン及び白金イオンのいずれについても、短時間の振り混ぜ時間で貴金属吸着剤5Aに吸着していた。
(2−3)吸着等温線の測定
貴金属吸着剤5Aの10mgと、パラジウムイオン又は白金イオンを含む塩酸水溶液10mlとを、30℃の下で、48時間振り混ぜ、金属イオンの貴金属吸着剤5Aへの吸着量を測定した。
【0056】
塩酸水溶液における塩酸の濃度は、0.1mol/dm
3とした。また、貴金属イオン(パラジウムイオン、白金イオン)の初期濃度を様々に設定し、それぞれの場合において測定を行った。
【0057】
測定結果を
図17に示す。
図17の横軸は、吸着後における水溶液中の貴金属(パラジウムイオン、白金イオン)の濃度であり、縦軸は貴金属の吸着量である。
パラジウムイオン及び白金イオンのいずれについても、貴金属イオン濃度が低いときは、貴金属イオン濃度の増加とともに吸着量も急激に増加したが、貴金属イオン濃度が高くなると吸着量はある一定値に漸近するというLangmuir型の吸着傾向を示した。
【0058】
3.貴金属吸着剤の分析
貴金属吸着剤5Aと、残渣物QAについて、FTIR測定を行った。その測定結果を
図18に示す。
図18における上のスペクトルは残渣物QAのものであり、下のスペクトルは貴金属吸着剤5Aのものである。下のスペクトルにおいて2364cm
-1に見られる新たな吸収はν
N-Hのものであり、1105cm
-1に見られる吸収は脂肪族アミンのν
C-Nに起因するものである。775cm
-1に見られる吸収は1級アミノ基の存在を示すものである。このようなスペクトルにより、貴金属吸着剤5Aには、ポリエチレンイミンの官能基が固定化されていることが確認できる。
【0059】
また表4に、残渣物QAと貴金属吸着剤5Aとの元素分析の結果を示す。
【0060】
【表4】
【0061】
残渣物QAと比較して、貴金属吸着剤5Aでは、窒素の含有量の増加が見られることからも、貴金属吸着剤5Aではポリエチレンイミンの官能基が導入、固定化されていることが分かる。
【0062】
また、
図19に、貴金属吸着剤5Aの走査型電子顕微鏡写真を示す。
図19(a)は倍率200倍の写真であり、
図19(b)は倍率750倍の写真である。
尚、本発明は前記実施例になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
【0063】
例えば、貴金属を含む溶液は、塩酸水溶液ではなく、他の酸(例えば、硫酸等)により酸性となった水溶液であってもよい。
また、藻類、藻類の残渣物、又はそれらの強酸処理物の化学修飾に用いる官能基は、ジチオオキサミドやポリエチレンイミン以外の、N原子及び/又はS原子を含む官能基(例えば、アミノ基、チオール基等)から、適宜選択してもよい。
【0064】
また、前記実施例2で使用したポリエチレンイミンの代わりに、他のポリエチレンイミン(分子量が異なるもの、あるいは、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基の比率が異なるもの)を用いてもよい。