特許第5792609号(P5792609)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日東電工株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社豊田中央研究所の特許一覧

特許5792609プロトン伝導性の高分子電解質およびその製造方法、電解質膜およびその製造方法、ならびにそれを用いた膜・電極接合体および燃料電池
<>
  • 特許5792609-プロトン伝導性の高分子電解質およびその製造方法、電解質膜およびその製造方法、ならびにそれを用いた膜・電極接合体および燃料電池 図000011
  • 特許5792609-プロトン伝導性の高分子電解質およびその製造方法、電解質膜およびその製造方法、ならびにそれを用いた膜・電極接合体および燃料電池 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5792609
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】プロトン伝導性の高分子電解質およびその製造方法、電解質膜およびその製造方法、ならびにそれを用いた膜・電極接合体および燃料電池
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/30 20060101AFI20150928BHJP
   H01M 8/02 20060101ALI20150928BHJP
   H01M 8/10 20060101ALI20150928BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20150928BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   C08G75/30
   H01M8/02 P
   H01M8/10
   H01B13/00 Z
   H01B1/06 A
【請求項の数】8
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2011-278208(P2011-278208)
(22)【出願日】2011年12月20日
(65)【公開番号】特開2013-129694(P2013-129694A)
(43)【公開日】2013年7月4日
【審査請求日】2014年7月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100115152
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 茂
(72)【発明者】
【氏名】杉谷 徹
(72)【発明者】
【氏名】西井 弘行
(72)【発明者】
【氏名】松田 康壮
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 直樹
(72)【発明者】
【氏名】津坂 恭子
(72)【発明者】
【氏名】北野 直紀
【審査官】 柳本 航佑
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/114406(WO,A1)
【文献】 特開2009−259793(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 75/00−75/32
C08G 79/00−79/14
H01B 1/06
H01B 13/00
H01M 8/02
H01M 8/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン伝導性の高分子電解質の製造方法であって、
(i)第1の鎖状部分と前記第1の鎖状部分の両端のそれぞれに結合した2つの官能基(A)とを有する少なくとも1種の第1のモノマーと、第2の鎖状部分と前記第2の鎖状部分の両端のそれぞれに結合した2つの官能基(B)とを有する少なくとも1種の第2のモノマーとを反応させることによって、前記官能基(A)を両端に備えるオリゴマーを合成する工程と、
(ii)3つ以上の官能基(C)を有する少なくとも1種の化合物と前記オリゴマーとを反応させる工程とを含み、
前記官能基(B)および前記官能基(C)は、それぞれ、前記官能基(A)と反応することによって、−SO2NHSO2−、−SO2NHCO−、および−CONHCO−からなる群より選ばれる少なくとも1つの酸性基またはその前駆体を生成する官能基である、高分子電解質の製造方法。
【請求項2】
前記(i)の工程で合成されるオリゴマーの末端基の60モル%以上が前記官能基(A)である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記官能基(A)が、以下の式(F1)で表される少なくとも1種の官能基、または、以下の式(F2)で表される少なくとも1種の官能基であり、
前記官能基(B)および前記官能基(C)が、それぞれ独立に、以下の式(F3)で表される少なくとも1種の官能基、または、以下の式(F4)で表される少なくとも1種の官能基である、請求項1または2に記載の製造方法。
(F1)−SO2NZ12
[ただし、Z1およびZ2は、それぞれ独立に、水素原子、金属原子、またはSi(CH33を示す。]
(F2)−CONZ12
[ただし、Z1およびZ2は、それぞれ独立に、水素原子、金属原子、またはSi(CH33を示す。]
(F3)−SO2
[ただし、Xは、F、Cl、Br、またはIを示す。]
(F4)−COX
[ただし、Xは、F、Cl、Br、またはIを示す。]
【請求項4】
燃料電池用の電解質膜の製造方法であって、
(I)第1の鎖状部分と前記第1の鎖状部分の両端のそれぞれに結合した2つの官能基(A)とを有する少なくとも1種の第1のモノマーと、第2の鎖状部分と前記第2の鎖状部分の両端のそれぞれに結合した2つの官能基(B)とを有する少なくとも1種の第2のモノマーとを反応させることによって、前記官能基(A)を両端に備えるオリゴマーを合成する工程と、
(II)3つ以上の官能基(C)を有する少なくとも1種の化合物と前記オリゴマーとを多孔質膜中で反応させる工程と、を含み、
前記官能基(B)および前記官能基(C)は、それぞれ、前記官能基(A)と反応することによって、−SO2NHSO2−、−SO2NHCO−、および−CONHCO−からなる群より選ばれる少なくとも1つの酸性基またはその前駆体を生成する官能基である、電解質膜の製造方法。
【請求項5】
前記(I)の工程で合成されるオリゴマーの末端基の60モル%以上が前記官能基(A)である、請求項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記官能基(A)が、以下の式(F1)で表される少なくとも1種の官能基、または、以下の式(F2)で表される少なくとも1種の官能基であり、
前記官能基(B)および前記官能基(C)が、それぞれ独立に、以下の式(F3)で表される少なくとも1種の官能基、または、以下の式(F4)で表される少なくとも1種の官能基である、請求項またはに記載の製造方法。
(F1)−SO2NZ12
[ただし、Z1およびZ2は、それぞれ独立に、水素原子、金属原子、またはSi(CH33を示す。]
(F2)−CONZ12
[ただし、Z1およびZ2は、それぞれ独立に、水素原子、金属原子、またはSi(CH33を示す。]
(F3)−SO2
[ただし、Xは、F、Cl、Br、またはIを示す。]
(F4)−COX
[ただし、Xは、F、Cl、Br、またはIを示す。]
【請求項7】
前記(II)の工程は、
(II−a)前記少なくとも1種の化合物と前記オリゴマーとを含む有機溶液を前記多孔質膜中に浸透させる工程と、
(II−b)前記多孔質膜中において、前記少なくとも1種の化合物と前記オリゴマーとを反応させる工程とを含む、請求項のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記少なくとも1種の化合物が、前記官能基(C)として−SO2Clおよび/または−COClを含み、
前記(II−a)の工程において、前記有機溶液が、前記少なくとも1種の化合物と前記オリゴマーとの反応を促進させる塩基性化合物を含み、
前記(II−b)の工程において、前記多孔質膜中の前記有機溶液に前記塩基性化合物をさらに添加する、請求項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトン伝導性の高分子電解質およびその製造方法、電解質膜およびその製造方法、ならびにそれを用いた膜・電極接合体および燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代のエネルギー源として燃料電池が脚光を浴びている。中でも、電解質膜にプロトン伝導性膜を使用した固体高分子形燃料電池は、エネルギー密度が高いことから、家庭用コージェネ電源、携帯機器用電源、電気自動車の電源、および簡易補助電源等の広い分野での使用が期待されている。固体高分子形燃料電池において、電解質膜は、プロトンを伝導するための電解質として機能するとともに、燃料である水素などを直接混合させない隔膜としても機能する。この様な電解質膜には、高いイオン交換容量、電気的化学的に高い安定性、低い電気抵抗、高い力学的強度、燃料ガス(水素ガスや酸素ガスなど)に対するバリア性が要求される。
【0003】
燃料電池用の電解質膜として、酸性基(特にスルホン酸基)を有し、高いプロトン伝導性を持つ高分子膜が注目されている。その中でも、デュポン社によって開発されたパーフルオロスルホン酸膜(ナフィオン(登録商標))等が一般に用いられている。しかしながら、「ナフィオン」を始めとする従来のフッ素系高分子イオン交換膜は、化学的な安定性には優れるものの酸性基の量を表すイオン交換容量が低く、また保水性が不充分であった。
【0004】
これら従来の電解質膜を固体高分子形燃料電池に用いた場合、始動前の電解質膜は、乾燥した状態にある。一方、燃料電池が作動すると、反応ガスに含まれる加湿水や、電池反応によって生成する水によって膜が膨潤する。従って、固体高分子形燃料電池の始動と停止とを繰り返すと、電解質膜が膨潤と収縮とを繰り返す。その結果、電解質膜が裂けたり、あるいは、電解質膜から電極が剥離したりして、性能の低下をもたらす場合がある。この問題の対策として高分子中に酸性基を多く導入すると、保水によって膜の強度が極端に低下し、膜が容易に破損したり、膜が水に溶解しやすくなる傾向がある。
【0005】
このような問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。例えば、特許文献1(特開2003−272664号公報)には、以下の工程を有する架橋含浸フィルムの製造方法が開示されている(請求項3および4)。
(1)−SO2F基およびSO2NHR基(Rは、H、非置換炭化水素基または置換炭化水素基)を有するパーフルオロ共重合体と、液状のフルオロオリゴエーテルとを所定の比率で含む混合物を、ポリテトラフルオロエチレン多孔質フィルムに塗布し、
(2)多孔質フィルムを、加圧下、160〜340℃に加熱することにより、含浸フィルムとし、
(3)含浸フィルムをルイス塩基で処理した後に、加水分解および酸処理する。
【0006】
また、特許文献1には、以下の事項が記載されている。
(a)原料混合物は、フルオロオリゴエーテルの可塑化効果によって、優れた溶融成形加工性を示す点(段落[0059])、
(b)加圧下で加熱することによって、多孔質フィルムの空隙にパーフルオロ共重合体を含む組成物が充填されると同時に、分離したフルオロオリゴエーテルが多孔質フィルムの外側に排出される点(段落[0062])、および、
(c)ルイス塩基で処理することによって、スルホンアミド基の一部がスルホンイミド架橋構造になる点(段落[0063])。
【0007】
特許文献1に開示されているように、多孔質膜にパーフルオロ共重合体を充填して架橋させることによって得られる複合電解質膜は、電解質のみからなる膜に比べて、機械的強度が高い。しかしながら、この方法では、当量重量(EW)を600g/eq程度までしか下げられず、高い電気伝導度は得られない。
【0008】
また、特許文献2(特開2005−174800号公報)および特許文献3(国際公開WO2007/114406(A1)パンフレット)には、所定の強酸基(ビススルホンイミド基(−SO2NHSO2−)、スルホンカルボンイミド基(−SO2NHCO−)、またはビスカルボンイミド基(−CONHCO−))を含む固体高分子電解質が開示されている。この電解質は、2つ以上の反応性官能基Aおよび/またはBを備える第1のモノマーと、3つ以上の反応性官能基Aおよび/またはBを備える第2のモノマーとを反応させることによって形成される。反応性官能基Aと反応性官能基Bとは、それらが互いに反応することによって上記強酸基を生成可能な官能基である。このような方法によって、高い電気伝導度を有する高分子電解質が得られることが、特許文献2および3に記載されている。
【0009】
また、特許文献2は、上記第1のモノマーおよび第2のモノマーを含む溶液を多孔質膜に含浸させた後に、それらを反応させることによって得られる電解質を開示している(請求項5)。同様に、特許文献3は、多孔質膜の細孔内に電解質が充填された複合電解質膜の製造方法を開示している(請求項14)。多孔質膜の細孔内に充填された電解質は、多孔質膜中に充填した上記第1のモノマーと第2のモノマーとを反応させてイミドネットワークポリマを形成した後、そのイミドネットワークポリマをプロトン化することによって形成されている。
【0010】
特許文献2および3に開示されている方法によれば、多量の強酸基を分子鎖中に備え、かつ、強酸基を介して分子鎖が架橋された高分子電解質が得られる。この高分子電解質は、従来の電解質に比べて格段に高い伝導度を持つ。また、この高分子電解質は、化学架橋と、分子鎖が物理的に絡み合うことによって形成される物理架橋とを併せ持つ構造を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−272664号公報
【特許文献2】特開2005−174800号公報
【特許文献3】国際公開WO2007/114406(A1)パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献2および3に開示された方法では、ゲル化点を超えて無限網目が形成されるために、合成された電解質を溶媒に溶解または分散させることが困難となる場合があった。この問題に対応するために、モノマー溶液ごとにゲル化反応させるバッチ方式で電解質を作製することも考えられるが、その場合には、反応の制御が難しく、膜の量産が困難となる場合があった。さらに、特許文献2および3に開示されている方法では、架橋反応に数日を要する場合があり、より量産性が高い方法が求められていた。また、特許文献2および3に開示された方法では、多孔質膜中で複数種のモノマーを反応させることによって分子鎖の形成と分子鎖の架橋とを同時に行うため、分子構造の制御が難しい場合があった。
【0013】
このような状況において、本発明の目的の1つは、高い電気伝導度を有し製造が容易な固体高分子電解質、およびそれを用いた電解質膜、ならびにそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明は、プロトン伝導性の高分子電解質の製造方法を提供する。この製造方法は、(i)第1の鎖状部分と前記第1の鎖状部分の両端のそれぞれに結合した2つの官能基(A)とを有する少なくとも1種の第1のモノマーと、第2の鎖状部分と前記第2の鎖状部分の両端のそれぞれに結合した2つの官能基(B)とを有する少なくとも1種の第2のモノマーとを反応させることによって、前記官能基(A)を両端に備えるオリゴマーを合成する工程と、(ii)3つ以上の官能基(C)を有する少なくとも1種の化合物と前記オリゴマーとを反応させる工程とを含み、前記官能基(B)および前記官能基(C)は、それぞれ、前記官能基(A)と反応することによって、−SO2NHSO2−、−SO2NHCO−、および−CONHCO−からなる群より選ばれる少なくとも1つの酸性基またはその前駆体を生成する官能基である。
【0015】
また、本発明の高分子電解質は、複数の鎖状部分と、前記複数の鎖状部分を架橋する架橋部分とを含む、プロトン伝導性の高分子電解質であって、前記複数の鎖状部分のそれぞれが、−SO2NHSO2−、−SO2NHCO−、および−CONHCO−からなる群より選ばれる少なくとも1つの酸性基を含み、前記架橋部分と前記鎖状部分との結合部分が、−SO2NHSO2−、−SO2NHCO−、および−CONHCO−からなる群より選ばれる少なくとも1つの酸性基を含む。
【0016】
また、燃料電池用の電解質膜を製造するための本発明の方法は、(I)第1の鎖状部分と前記第1の鎖状部分の両端のそれぞれに結合した2つの官能基(A)とを有する少なくとも1種の第1のモノマーと、第2の鎖状部分と前記第2の鎖状部分の両端のそれぞれに結合した2つの官能基(B)とを有する少なくとも1種の第2のモノマーとを反応させることによって、前記官能基(A)を両端に備えるオリゴマーを合成する工程と、(II)3つ以上の官能基(C)を有する少なくとも1種の化合物と前記オリゴマーとを多孔質膜中で反応させる工程と、を含み、前記官能基(B)および前記官能基(C)は、それぞれ、前記官能基(A)と反応することによって、−SO2NHSO2−、−SO2NHCO−、および−CONHCO−からなる群より選ばれる少なくとも1つの酸性基またはその前駆体を生成する官能基である。
【0017】
また、本発明の高分子電解質膜は、多孔質膜と、前記多孔質膜内に配置された高分子電解質とを含む電解質膜であって、前記高分子電解質が、複数の鎖状部分と、前記複数の鎖状部分を架橋する架橋部分とを含む、プロトン伝導性の高分子電解質であり、前記複数の鎖状部分のそれぞれが、−SO2NHSO2−、−SO2NHCO−、および−CONHCO−からなる群より選ばれる少なくとも1つの酸性基を含み、前記架橋部分と前記鎖状部分との結合部分が、−SO2NHSO2−、−SO2NHCO−、および−CONHCO−からなる群より選ばれる少なくとも1つの酸性基を含む。
【0018】
また、本発明の膜・電極接合体は、プロトン伝導性の電解質膜を含む、燃料電池用の膜・電極接合体であって、前記電解質膜が本発明の電解質膜である。また、本発明の燃料電池は、プロトン伝導性の電解質膜を含む燃料電池であって、前記電解質膜が本発明の電解質膜である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、構造が制御された高分子電解質が得られる。この電解質は、分子鎖内および架橋点に強酸性基を有するため、架橋間鎖長および架橋密度の増加に伴い、電気伝導度も増加する。このため、本発明の高分子電解質は、高い架橋密度と高い電気伝導度とを同時に達成できる。また、本発明によれば、構造が制御された高分子電解質を含む電解質膜が得られる。また、本発明によれば、特定の条件を選択することによって、短時間で電解質膜を製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例1で合成されたオリゴマーの、19F NMRスペクトルを示す図である。
図2】実施例2で合成されたオリゴマーの、19F NMRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態について、以下に説明する。なお、以下の説明では、本発明の実施形態について例を挙げて説明するが、本発明は以下で説明する例に限定されない。以下の説明では、具体的な数値や材料を例示する場合があるが、本発明の効果が得られる限り、他の数値や材料を適用してもよい。また、以下で説明する化合物は、特に記載がない限り、単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0022】
(プロトン伝導性の高分子電解質の製造方法)
プロトン伝導性の高分子電解質を製造するための本発明の方法は、以下の工程(i)および(ii)を含む。
【0023】
工程(i)では、第1の鎖状部分と第1の鎖状部分の両端のそれぞれに結合した2つの官能基(A)とを有する少なくとも1種の第1のモノマーと、第2の鎖状部分と第2の鎖状部分の両端のそれぞれに結合した2つの官能基(B)とを有する少なくとも1種の第2のモノマーとを反応させることによって、官能基(A)を両端に備えるオリゴマーを合成する。より具体的には、工程(i)において、第1のモノマーの官能基(A)と第2のモノマーの官能基(B)とを反応させることによって、官能基(A)を両端に備えるオリゴマーを合成する。
【0024】
工程(i)では、官能基(A)と官能基(B)とが反応することによって、両端が官能基(A)であるオリゴマー、両端が官能基(B)であるオリゴマー、および一端が官能基(A)で他端が官能基(B)であるオリゴマーが生成する可能性があるが、両端が官能基(A)であるオリゴマーが少なくとも合成される。以下では、工程(i)で合成される、両端が官能基(A)であるオリゴマーを、「オリゴマー(O)」という場合がある。
【0025】
官能基(B)は、官能基(A)と反応することによって、−SO2NHSO2−、−SO2NHCO−、および−CONHCO−からなる群より選ばれる少なくとも1つの酸性基またはその前駆体を生成する官能基である。以下では、−SO2NHSO2−、−SO2NHCO−、および−CONHCO−を、総称して、「イミド基類(G)」という場合がある。換言すれば、官能基(A)および官能基(B)は、それらが反応することによってイミド基類(G)またはその前駆体を生成する官能基である。
【0026】
典型的には、第1のモノマーに含まれる官能基(A)は2つのみであり、第2のモノマーに含まれる官能基(B)は2つのみである。なお、官能基(A)は、工程(i)の反応条件において、官能基(A)同士で反応しないか、または、官能基(A)同士で実質的に反応しないことが好ましい。同様に、官能基(B)は、工程(i)の反応条件において、官能基(B)同士で反応しないか、または、官能基(B)同士で実質的に反応しないことが好ましい。また、通常、第1のモノマーは、工程(i)の反応条件において官能基(B)と反応する官能基を官能基(A)以外に含まず、工程(i)の反応条件において官能基(A)と反応する官能基を含まず、官能基(A)を2つだけ含む。また、通常、第2のモノマーは、工程(i)の反応条件において官能基(A)と反応する官能基を官能基(B)以外に含まず、工程(i)の反応条件において官能基(B)と反応する官能基を含まず、官能基(B)を2つだけ含む。
【0027】
典型的には、第1のモノマーは、第1の鎖状部分と2つの官能基(A)のみによって構成され、第2のモノマーは、第2の鎖状部分と2つの官能基(B)のみによって構成される。しかし、第1のモノマーの第1の鎖状部分、および、第2のモノマーの第2の鎖状部分は、官能基(A)および(B)と反応しない側鎖(たとえば官能基)をペンダント状に有していてもよい。そのようなモノマーを用いる場合には、オリゴマー(O)の鎖中に、官能基(A)および(B)と反応しない側鎖(たとえば官能基)がペンダント状に配置される。一方、第1および第2の鎖状部分が直鎖状である第1および第2のモノマーを用いることによって、直鎖状のオリゴマー(O)が得られる。
【0028】
第1および第2のモノマーは、分子内にC−H結合とC−F結合のいずれか一方を備えているものでもよく、あるいは、双方を備えているものでもよい。分子内にC−F結合を含み、かつ、C−H結合を含まないモノマーを用いることによって、高分子鎖がパーフルオロ骨格からなり、耐熱性および耐酸化性に優れたプレポリマおよび固体高分子電解質が得られる。そのため、そのようなモノマーは、オリゴマー(O)の原料として特に好適である。
【0029】
官能基(A)および官能基(B)は、これらを直接反応させることによってイミド基類(G)を形成するものであってもよいし、これらの反応によってイミド基類(G)の前駆体を形成するものであってもよい。イミド基類(G)の前駆体は、イミド基類(G)中のNHの水素原子が他の原子または原子団になっているものである。この前駆体は、公知の適当な処理によってイミド基類(G)に変換することが可能である。たとえば、イミド基類(G)中のNHの水素原子がtert−ブトキシカルボニル基である場合には、トリフルオロ酢酸や、4mol/Lの塩酸−酢酸エチル溶液などの強酸で処理することによって、NHに変換することが可能である。
【0030】
官能基(A)と官能基(B)との組み合わせには、種々の組み合わせがある。好ましい組み合わせの一例では、官能基(A)が、以下の式(F1)で表される少なくとも1種の官能基、または、以下の式(F2)で表される少なくとも1種の官能基であり、官能基(B)が、以下の式(F3)で表される少なくとも1種の官能基、または、以下の式(F4)で表される少なくとも1種の官能基である。
(F1)−SO2NZ12
[ただし、Z1およびZ2は、それぞれ独立に、水素原子、金属原子、またはSi(CH33を示す。]
(F2)−CONZ12
[ただし、Z1およびZ2は、それぞれ独立に、水素原子、金属原子、またはSi(CH33を示す。]
(F3)−SO2
[ただし、Xは、F、Cl、Br、またはIを示す。]
(F4)−COX
[ただし、Xは、F、Cl、Br、またはIを示す。]
【0031】
上記(F1)および(F2)で表される官能基において、Z1およびZ2に用いることができる金属原子の例には、KやNaなどのアルカリ金属原子や、Cuなどの遷移金属原子が含まれる。
【0032】
上記(F1)または(F2)で表される官能基と、上記(F3)または(F4)で表される官能基との組み合わせは、官能基変換を加えることなく直接反応させることが容易である場合が多いので、官能基(A)および官能基(B)の組み合わせとして特に好適である。また、これらの官能基は、未反応のまま残った場合であっても、適当な処理を施すことによって、スルホン酸基またはカルボン酸基に変換できるので、高い電気伝導度を有するプレポリマおよび固体高分子電解質が得られる。
【0033】
また、上記(F1)または(F2)で表される官能基の中でも、(Z1、Z2)の組み合わせが、(H、H)、(H、M)、(Si(CH33、M)、または、(H、Si(CH33)であるものは、高い反応性を有しているため、官能基(A)として好適である。また、上記(F3)または(F4)で表される官能基の中でも、XがF、Cl、BrまたはIからなるものは、高い反応性を有しているため、官能基(B)として好適である。
【0034】
第1のモノマーは、1種類のモノマーのみで構成されてもよいし、複数種のモノマーで構成されてもよい。また、第2のモノマーは、1種類のモノマーのみで構成されてもよいし、複数種のモノマーで構成されてもよい。たとえば、第2のモノマーの官能基(B)は、−SO2Xのみであってもよいし、−SO2Xと−COXとの組み合わせであってもよい。
【0035】
通常、第1のモノマーの第1の鎖状部分、および、第2のモノマーの第2の鎖状部分は、それぞれ、フッ素で置換されていてもよい炭化水素鎖で構成される。中でも、−(CF2m−(ただし、mは自然数)で表される鎖状部分が好ましい。第1の鎖状部分および第2の鎖状部分のそれぞれを構成する炭素原子の数は、1〜20の範囲にあってもよく、たとえば3〜8の範囲にあってもよい。
【0036】
第1および第2のモノマーとしては、種々のモノマーがある。中でも、次に示すモノマー(1)および(2)は第1のモノマーとして好適であり、モノマー(3)および(4)は第2のモノマーとして好適である。これらのモノマーを用いて形成される直鎖状オリゴマーは、分子鎖がパーフルオロ骨格であるため、耐熱性および耐酸化性に優れた固体高分子電解質が得られる。そのため、これらのモノマーは、原料モノマーとして好適である。
(1)Z12NO2S−(CF2m−SO2NZ12
[式(1)において、Z1およびZ2は、それぞれ独立に、水素原子、金属原子、またはSi(CH33を示す。mは1〜20の自然数を示す。]
(2)Z12NOC−(CF2m−CONZ12
[式(2)において、Z1およびZ2は、それぞれ独立に、水素原子、金属原子、またはSi(CH33を示す。mは1〜20の自然数を示す。]
(3)XO2S−(CF2m−SO2
[式(3)において、Xは、F、Cl、Br、またはIを示す。mは1〜20の自然数を示す。]
(4)XOC−(CF2m−COX
[式(4)において、Xは、F、Cl、Br、またはIを示す。mは1〜20の自然数を示す。]
【0037】
モノマー(1)〜(4)の式において、mは3〜8の範囲にあってもよい。なお、モノマー(1)〜(4)からなる群より選ばれるモノマーが2種類以上用いられる場合、その鎖長(式中のm)は同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、式(1)〜(4)のモノマーの官能基の好ましい例には、式(F1)〜(F4)で述べた好ましい例が含まれる。
【0038】
オリゴマー(O)の重合度に特に限定はない。高分子電解質に求められる条件に応じて、オリゴマー(O)の平均重合度が好ましい範囲となるように反応条件(たとえば、反応時間、反応温度、反応促進剤の量など)を選択できる。オリゴマー(O)は、たとえば、3量体〜15量体の範囲にあってもよい。オリゴマー(O)の重合度が増えるほど、オリゴマー(O)の鎖状部分に含まれるイミド基類(G)の数が増加する。オリゴマー(O)の鎖状部分は、第1のモノマーの第1の鎖状部分、第2のモノマーの第2の鎖状部分、およびイミド基類(G)で構成される。本発明の方法では、予め合成したオリゴマー(O)を架橋するため、オリゴマー(O)の鎖長の平均および分布、および、オリゴマー(O)に含まれるイミド基類(G)の数の平均および分布を制御しやすい。
【0039】
工程(i)で合成されるオリゴマーの末端基(第1の鎖状部分と第2の鎖状部分とイミド基類(G)またはその前駆体とによって構成される鎖状部分の両端にある基)の60モル%以上が官能基(A)であることが好ましい。この割合が高いほど、官能基(A)を両端に備えるオリゴマー(O)の割合が多くなる。工程(i)で合成されるオリゴマーの末端基に占める官能基(A)の割合は、70モル%以上や、80モル%以上や、90モル%以上や、95モル%以上であってもよい。この割合を高めることによって、架橋密度が高くなり、充分なネットワーク構造を形成できる。
【0040】
工程(i)で合成されるオリゴマーの末端基に占める官能基(A)の割合は、反応条件を変えることによって調整できる。たとえば、第1のモノマーと第2のモノマーとの合計に占める第1のモノマーのモル比を増やすことによって、オリゴマーの末端基に占める官能基(A)の割合を高めることができる。具体的には、第2のモノマーに対し、1.1〜2.5倍モル量の第1のモノマーを用いることが好ましく、1.25〜2倍モル量の第1のモノマーを用いることがより好ましい。
【0041】
工程(i)における反応は、第1のモノマーおよび第2のモノマーを、所定の溶媒中に溶解または分散させた状態で反応させることによって行うことができる。当該溶媒は、所定の条件下において原料モノマーを溶解または分散可能なものであればよい。すなわち、溶媒は、極性溶媒であってもよいし、無極性溶媒であってもよい。溶媒が極性溶媒である場合には、溶媒は、プロトン性極性溶媒であってもよいし、非プロトン性極性溶媒であってもよい。溶媒の例には、工程(ii)の反応で用いることができる溶媒の例として後述する溶媒が含まれる。
【0042】
それらの溶媒の中でも、極性溶媒が好ましく、非プロトン性極性溶媒がより好ましい。別の観点では、溶媒としては、有機溶媒が好ましく、非プロトン性の極性有機溶媒がより好ましい。溶媒中の原料モノマーの濃度は特に限定されるものではなく、原料モノマーの種類に応じて適切な濃度を選択すればよい。
【0043】
原料モノマーを反応させる際には、官能基(A)と官能基(B)との反応速度を大きくする物質(すなわち、触媒作用を有する物質:反応促進剤)を溶媒に加えることが好ましい。そのような物質(試薬)の例には塩基性化合物が含まれ、具体的には、工程(ii)の反応を促進させる塩基性化合物の例として後述する塩基性化合物が含まれる。別の観点では、触媒作用を有する物質として、ルイス塩基を用いることができる。触媒作用を有する物質の量は、反応条件等に応じて適切な量を選択すればよい。適切な量を選択することによって、原料モノマーを含む反応液の粘度を調節できる。
【0044】
工程(i)における反応温度は、オリゴマー(O)を効率よく合成可能な温度であればよい。反応温度は、具体的には、25〜120℃の範囲にあることが好ましく、40〜100℃の範囲にあることがより好ましい。反応時間は、反応温度に応じて適切な時間を選択すればよい。通常、反応時間は、1分〜240時間の範囲にある。
【0045】
工程(i)の反応は、原料モノマーの変質(加水分解等)を防ぐために、アルゴンガスや窒素ガスなどの不活性雰囲気下で行うことが好ましい(以下の工程(ii)においても同様である)。また、反応温度、反応時間、および反応時の圧力は、特に限定されるものではなく、原料の種類、混合液の濃度、触媒作用を有する物質の種類および量等に応じて適切な値を選択すればよい。また、反応中に、反応液に対して、撹拌したり、せん断したり、振動を加えたりすることが好ましい。
【0046】
工程(i)の次に工程(ii)が行われる。工程(ii)では、3つ以上の官能基(C)を有する少なくとも1種の化合物とオリゴマー(O)とを反応させる。具体的には、少なくとも1種の化合物の官能基(C)と、オリゴマー(O)の官能基(A)とを反応させる。この反応によって、オリゴマー(O)同士が架橋される。官能基(C)は、官能基(A)と反応することによって、−SO2NHSO2−、−SO2NHCO−、および−CONHCO−からなる群より選ばれる少なくとも1つの酸性基またはその前駆体を生成する官能基である。換言すれば、官能基(A)および官能基(C)は、それらが反応することによってイミド基類(G)またはその前駆体を生成する官能基である。
【0047】
以下では、3つ以上の官能基(C)を有する少なくとも1種の化合物を、「架橋モノマー(M)」という場合がある。また、この明細書では、架橋モノマー(M)のうち、複数の官能基(C)を結ぶ骨格を「架橋部分」と呼ぶ場合がある。
【0048】
通常、官能基(C)は、工程(ii)の反応条件において、官能基(C)同士で反応しないか、または、官能基(C)同士で実質的に反応しない官能基である。また、通常、架橋モノマー(M)は、工程(ii)の反応条件において官能基(A)と反応する官能基を官能基(C)以外に含まず、また、工程(ii)の反応条件において官能基(C)と反応する官能基を含まない。
【0049】
官能基(C)の例には、官能基(B)について例示した官能基が含まれる。官能基(B)と官能基(C)とは同一であってもよいし、異なってもよい。また、官能基(C)を結ぶ架橋部分に特に限定はないが、一例では、芳香族炭化水素(たとえばベンゼン)や、炭化水素鎖、およびそれらの水素原子の一部または全部がフッ素原子に置換されたもので構成される。
【0050】
高分子電解質の分子量に特に限定はない。高分子電解質に求められる特性に応じて、高分子電解質の分子量が好ましい範囲となるように反応条件(たとえば、反応時間、反応温度、反応促進剤の量など)を選択できる。
【0051】
本発明の高分子電解質(ネットワークポリマー)は、オリゴマー(O)と、架橋モノマー(M)とを反応させることによって合成される。官能基(A)と官能基(C)との反応性は、本発明の高分子電解質の生産性に大きな影響を与える。特許文献3に示されている実施例では、ネットワークポリマーを形成するための重合反応が極めて遅く、24時間以上かかっている。このため、大量生産および低コスト化の大きな問題となる。そこで鋭意検討した結果、本発明者らは、官能基(C)として−SO2Clまたは−COClを用いた場合には、架橋反応が極めて速く、極めて短い時間でネットワークポリマーが得られることを見出した。
【0052】
そのため、架橋モノマー(M)の官能基(C)は、−SO2Clおよび/または−COClであることが好ましい。そのような架橋モノマー(M)としては、種々のモノマーがある。中でも、以下に示すモノマー(5)〜(8)および(9)〜(12)は、架橋モノマー(M)として好適である。架橋モノマー(M)として鎖状部分がフッ化炭素鎖であるものを用いることによって、高分子電解質の鎖状部分がパーフルオロ骨格となり、耐熱性および耐酸化性に優れた固体高分子電解質が得られる。なお、本願明細書における「架橋部分」は、モノマー(5)および(9)ではベンゼン環であり、モノマー(6)〜(8)および(10)〜(12)では−CF−および/または−CF2−で構成されるパーフルオロ鎖である。
【0053】
【化1】
【0054】
[モノマー(5)において、Y1、Y2、およびY3は、SO2ClまたはCOClを示す。Y1=Y2=Y3である。Z3は、水素原子またはフッ素原子を示す。]
【0055】
【化2】
【0056】
[モノマー(6)において、Aは0〜20の整数を示す。P1、P2、P3、およびP4は、SO2ClまたはCOClを示す。P1=P2=P3=P4である。]
【0057】
[モノマー(7)および(8)において、Aは0〜20の整数を示し、Bは1〜20の自然数を示し、Cは1〜20の自然数を示す。P1、P2、およびP3は、SO2ClまたはCOClを示す。P1=P2=P3である。]
【0058】
【化3】
【0059】
[モノマー(9)において、Y1、Y2、およびY3は、SO2ClまたはCOClを示す。Y1、Y2、およびY3は、Y1=Y2=Y3以外の組み合わせである。Z3は、水素原子またはフッ素原子を示す。]
【0060】
モノマー(9)の式において、「Y1=Y2=Y3以外の組み合わせ」の例には、Y1=Y2≠Y3である場合、Y1≠Y2=Y3である場合、および、Y2≠Y3=Y1である場合が含まれる。
【0061】
【化4】
【0062】
[モノマー(10)において、Aは0〜20の整数を示す。P1、P2、P3、およびP4は、SO2ClまたはCOClを示す。P1、P2、P3、およびP4は、P1=P2=P3=P4以外の組み合わせである。]
【0063】
[モノマー(11)および(12)において、Aは0〜20の整数を示し、Bは1〜20の自然数を示し、Cは1〜20の自然数を示す。P1、P2、およびP3は、SO2ClまたはCOClを示す。P1、P2、およびP3は、P1=P2=P3以外の組み合わせである。]
【0064】
モノマー(10)の式において、「P1=P2=P3=P4以外の組み合わせ」の例には、P1=P2=P3≠P4である場合、P1=P2=P4≠P3である場合、P1=P3=P4≠P2である場合、P1≠P2=P3=P4である場合、P1=P2≠P3=P4である場合、P1=P3≠P2=P4である場合、P1=P4≠P2=P3である場合が含まれる。また、モノマー(11)および(12)の式において、「P1=P2=P3以外の組み合わせ」の例には、P1=P2≠P3である場合、P1≠P2=P3である場合、および、P2≠P3=P1である場合が含まれる。
【0065】
工程(ii)では、官能基(A)と官能基(C)とが反応することによって、ネットワークポリマーが合成される。この反応では、官能基(A)と官能基(C)とが同じモル量となるように、架橋モノマー(M)とオリゴマー(O)とを反応させればよい。しかし、架橋反応によって生成するイミド基類(またはその前駆体)の量や、反応性を調整するために、官能基(C)が、オリゴマー(O)の官能基(A)の0.2〜3倍モル量の範囲(たとえば0.8〜1.2倍モル量の範囲)となるように、架橋モノマー(M)およびオリゴマー(O)の量を調整してもよい。
【0066】
工程(ii)における反応は、架橋モノマー(M)およびオリゴマー(O)を、所定の溶媒中に溶解または分散させた状態で反応させることによって行うことができる。当該溶媒は、所定の条件下において原料モノマーを溶解または分散可能なものであればよい。すなわち、溶媒は、極性溶媒であってもよいし、無極性溶媒であってもよい。溶媒が極性溶媒である場合には、溶媒は、プロトン性極性溶媒であってもよいし、非プロトン性極性溶媒であってもよい。溶媒の例には、以下のものが含まれる。
(1)n−ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、四塩化炭素などの無極性溶媒、
(2)水、エタノール、プロパノール、酢酸などのプロトン性極性溶媒、
(3)アセトニトリル(MeCN)、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソプロピルケトン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジクロロメタン、HCFC−225などの非プロトン性極性溶媒。
【0067】
これらの中でも、極性溶媒が好ましく、非プロトン性極性溶媒がより好ましい。別の観点では、溶媒としては、有機溶媒が好ましく、非プロトン性の極性有機溶媒がより好ましい。溶媒中の架橋モノマー(M)およびオリゴマー(O)の濃度は特に限定されるものではなく、それらの種類に応じて適切な濃度を選択すればよい。
【0068】
架橋モノマー(M)とオリゴマー(O)とを反応させる際には、官能基(A)と官能基(C)との反応速度を大きくする物質(すなわち、触媒作用を有する物質)を溶媒に加えることが好ましい。そのような物質(試薬)の例には塩基性化合物が含まれ、具体的には、トリエチルアミン(TEA)、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)、トリメチルアミン(TMA)、トリプロピルアミン(TPA)、トリブチルアミン(TBA)、ジアザバイシクロウンデセン(DBU)、カリウムt−ブトキシド、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン(DMAP)等の塩基性化合物が含まれる。別の観点では、触媒作用を有する物質として、ルイス塩基を用いることができる。触媒作用を有する物質の量は、反応条件等に応じて適切な量を選択すればよい。適切な量を選択することによって、原料モノマーを含む反応液の粘度を調節できる。
【0069】
官能基(C)として−SO2Clおよび/または−COClを用いる場合、架橋モノマー(M)の溶解性が低いために、工程(ii)の反応液における架橋モノマー(M)の濃度を好ましい濃度とすることができない場合がある。そのような場合には、上述した塩基性化合物(官能基(A)と官能基(C)との反応を促進させる塩基性化合物)を溶媒に加えることによって、架橋モノマー(M)の溶解性を高めることが好ましい。
【0070】
工程(ii)における反応温度は、使用する溶媒や試薬の沸点未満であって、架橋モノマー(M)の官能基(C)とオリゴマー(O)の官能基(A)とを効率よく反応させることができる温度であればよい。反応温度は、具体的には、25〜100℃の範囲にあることが好ましく、50〜90℃の範囲にあることがより好ましい。反応時間は、反応温度に応じて適切な時間を選択すればよい。工程(ii)における反応は比較的速く進行するため、反応時間は、通常、20時間以下(たとえば10時間以下や5時間以下や1時間以下)である。一例の反応時間は、1秒〜20時間の範囲にあるが、1秒未満であってもよい。
【0071】
(高分子電解質)
本発明の高分子電解質は、電解質を製造するための本発明の方法によって製造される。そのため、上記方法で説明した事項は、本発明の高分子電解質に適用できる。本発明の高分子電解質は、あらかじめ合成されたオリゴマー(O)を架橋することによって形成される。そのため、鎖状部分の形成と鎖状部分の架橋とを同時に行う従来の方法と比べて、構造の制御が容易である。
【0072】
別の観点では、本発明の高分子電解質は、複数の鎖状部分と、当該複数の鎖状部分を架橋する架橋部分とを含む、プロトン伝導性の高分子電解質である。当該鎖状部分は、オリゴマー(O)の鎖状部分である。すなわち、複数の鎖状部分のそれぞれは、−SO2NHSO2−、−SO2NHCO−、および−CONHCO−からなる群より選ばれる少なくとも1つの酸性基を含む。そして、架橋部分と鎖状部分との結合部分が、−SO2NHSO2−、−SO2NHCO−、および−CONHCO−からなる群より選ばれる少なくとも1つの酸性基を含む。この高分子電解質は、電解質を製造するための本発明の方法によって製造できる。
【0073】
(電解質膜)
本発明の電解質膜は、プロトン伝導性の電解質膜であって、燃料電池に用いられる電解質膜である。この電解質膜は、電解質膜を製造するための本発明の方法で製造される。別の観点では、本発明の電解質膜は、多孔質膜と、多孔質膜内に配置された本発明の高分子電解質とを含む電解質膜である。高分子電解質は、多孔質膜の空隙や表層などに配置され、多孔質膜内でネットワークを形成している。
【0074】
多孔質膜の材料は、特に限定されるものではなく、目的に応じて種々の材料を用いることができる。多孔質膜の材料の例には、以下のものが含まれる。
(1)ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド(PI)などの炭化水素系ポリマー、
(2)ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系ポリマー、
(3)多孔質シリカ、多孔質セラミックスなどの無機材料。
【0075】
多孔質膜の膜厚、気孔率、および孔径等は、特に限定されるものではなく、目的に応じて適切な値を選択すればよい。多孔質膜が薄くなりすぎると、多孔質膜の強度が不足し、膨潤・収縮に伴う電解質の寸法変化の抑制が不充分となる場合がある。また、多孔質膜が薄くなるほど、ハンドリングが困難となる場合がある。従って、多孔質膜の膜厚は、5μm以上であることが好ましい。多孔質膜の膜厚は、より好ましくは10μm以上である。一方、多孔質膜が厚くなりすぎると、電解質膜の抵抗が大きくなり、充分な性能が得られない場合がある。従って、多孔質膜の膜厚は、500μm以下であることが好ましい。多孔質膜の膜厚は、より好ましくは100μm以下である。
【0076】
多孔質膜の気孔率が低すぎると、膜全体に占める電解質の割合が低下し、抵抗が大きくなる場合がある。従って、多孔質膜の気孔率は、30%以上であることが好ましい。多孔質膜の気孔率は、より好ましくは50%以上であり、更に好ましくは70%以上である。一方、多孔質膜の気孔率が大きくなりすぎると、多孔質膜の強度が不足し、電解質膜の寸法安定性が低下する場合がある。従って、多孔質膜の気孔率は、95%以下であることが好ましい。多孔質膜の気孔率は、より好ましくは90%以下である。
【0077】
多孔質膜の孔径が小さくなりすぎると、電解質の充填が困難となる場合がある。従って、多孔質膜の平均孔径は、0.1μm以上であることが好ましい。多孔質膜の平均孔径は、より好ましくは0.5μm以上である。一方、多孔質膜の孔径が大きくなりすぎると、充填した電解質が気孔から脱落しやすくなる場合がある。従って、多孔質膜の平均孔径は、5μm以下であることが好ましい。多孔質膜の平均孔径は、より好ましくは3μm以下である。なお、実施例および比較例で用いた多孔質膜の平均孔径は、バブルポイント法(JIS K 3832)の測定原理を応用した測定装置(米国のPorous Materials, Inc.社製のパームポロメーター(Perm-Porometer))によって測定したミーンフローポアサイズを平均孔径とした。
【0078】
必要に応じて、多孔質膜に表面処理を施してもよい。例えば、溶媒として極性溶媒を用いる場合において、多孔質膜が極性溶媒との馴染みが悪い場合には、多孔質膜を親液化処理することが好ましい。親液化処理の方法としては、例えば、紫外線処理、プラズマ処理、コロナ処理、およびスパッタ処理などの、樹脂に対する一般的な表面改質方法を適用できる。
【0079】
(電解質膜の製造方法)
本発明の高分子電解質は架橋構造を有しており、融解や溶媒への溶解が極めて困難である。そのため、原料を含む溶液を多孔質膜に含浸した後に、多孔質膜内で原料を反応させることによって、多孔質膜内に電解質が配置された電解質膜を製造する。電解質膜の製造方法は、以下の工程(I)および(II)を含む。
【0080】
工程(I)では、第1の鎖状部分と第1の鎖状部分の両端のそれぞれに結合した2つの官能基(A)とを有する少なくとも1種の第1のモノマーと、第2の鎖状部分と第2の鎖状部分の両端のそれぞれに結合した2つの官能基(B)とを有する少なくとも1種の第2のモノマーとを反応させることによって、官能基(A)を両端に備えるオリゴマー(O)を合成する。この工程は、上述した工程(i)と同じであるため、重複する説明を省略する。
【0081】
次に、工程(II)では、3つ以上の官能基(C)を有する少なくとも1種の化合物(架橋モノマー(M))とオリゴマー(O)とを多孔質膜中で反応させる。多孔質膜については上述したため、重複する説明を省略する。また、反応を多孔質膜中で行うことを除き、工程(II)は工程(ii)と基本的に同様であるため、重複する説明を省略する。すなわち、特に説明がない限り、工程(II)は、工程(ii)と同じ材料および同じ条件で実施できる。また、工程(II)について説明した事項は、工程(ii)に適用することが可能である。
【0082】
通常、工程(II)は、上記少なくとも1種の化合物(架橋モノマー(M))とオリゴマー(O)とを含む液状体(たとえば有機溶液)を多孔質膜中に浸透させる工程(II−a)と、その多孔質膜中において、少なくとも1種の化合物(架橋モノマー(M))とオリゴマー(O)とを反応させる工程(II−b)とを含む。工程(II−a)において、架橋モノマー(M)とオリゴマー(O)とを含む液状体は、多孔質膜中に浸透させることができる状態であればよい。
【0083】
本発明の方法において、オリゴマー(O)、架橋モノマー(M)、および塩基性化合物(反応促進剤)を溶媒中で一度に混合すると、それらがすぐに反応してゲル状の高分子電解質が合成されてしまい、それらの材料を含む溶液を多孔質膜に含浸することが困難になる場合がある。さらに、短時間で電解質膜を製造するには、官能基(C)が−SO2Clおよび/または−COClである多官能架橋モノマーを用いることが好ましいが、そのような架橋モノマー(M)は有機溶媒に難溶性である。そのため、原料の溶液中における架橋モノマー(M)の濃度を高めることができず、その結果、多孔質膜中に充填される電解質の量が少なくなってしまう。
【0084】
そこで鋭意検討した結果、本願発明者等は、反応を促進させる目的で加える塩基性化合物を、反応が急激に進行しない程度に有機溶媒に加えることによって上記問題を解決できることを見出した。すなわち、適切な量の塩基性化合物を有機溶媒に添加することによって、有機溶媒に難溶性である架橋モノマー(M)の溶解性が向上し、高濃度の反応溶液を調製できる。一方、初期に加える塩基性化合物の量を適切な範囲とすることによって、多孔質に浸透させる前に反応溶液がゲル化することを防止できる。さらに、反応溶液を多孔質膜に浸透させた後に、当該反応溶液にさらに塩基性化合物(反応促進剤)を加えることによって、反応(ゲル化)を速やかに進行させ、高分子電解質膜を短時間で製造できる。
【0085】
すなわち、電解質膜の製造方法では、上記少なくとも1種の化合物(架橋モノマー(M))が官能基(C)として−SO2Clおよび/または−COClを含み、工程(II−a)において、有機溶液(反応溶液)が、少なくとも1種の化合物(架橋モノマー(M))とオリゴマー(O)との反応を促進させる塩基性化合物を含んでもよい。この場合、工程(II−b)において、多孔質膜中の有機溶液(反応溶液)に塩基性化合物をさらに添加することが好ましい。官能基(C)としてSO2Clおよび/または−COClを含む架橋モノマー(M)の溶解性を高める点で特に好ましい塩基性化合物としては、トリエチルアミンなどのアミン類が挙げられる。
【0086】
工程(II−a)において反応溶液に加えられる塩基性化合物の量は、架橋反応が急激に進行せず、且つ、必要な量の架橋モノマー(M)が有機溶媒に溶解する量であればよい。一例では、工程(II−a)において反応溶液に加えられる塩基性化合物の量は、少なくとも、反応溶液を多孔質膜に浸透させることに必要な時間(たとえば1時間)は、反応溶液が液体状態(たとえばゲル化していない状態)に保たれる量である。また、別の一例では、工程(II−a)において反応溶液に加えられる塩基性化合物の量は、架橋反応が急激に進行する所定量より少ない量である。
【0087】
通常、工程(II−a)において反応溶液に加えられる塩基性化合物の量は、架橋モノマー(M)の官能基(C)の量に対し、0.5倍モル〜5倍モルの範囲にあることが好ましく、1.1倍モル〜3.3倍モルの範囲にあることがより好ましい。
【0088】
このように調製した原料溶液を多孔質膜に含浸させる。このとき、原料溶液の充填率を上げるために、多孔質膜内を脱気することが好ましい。たとえば、多孔質膜に対してぬれ性の高い溶媒に多孔質膜を浸漬し、多孔質膜中の気泡を除去してもよい。また、反応容器内を減圧して脱気を促進させる方法や超音波を照射する方法を、単独でまたは組み合わせて脱気を行ってもよい。
【0089】
次に、多孔質膜に浸透した原料溶液に、塩基性化合物(反応促進剤)を更に追加して高分子電解質を合成する。このときに追加する塩基性化合物の量は、任意の時間で架橋(ゲル化)が行われる量であればよいが、短時間にネットワークポリマーが形成される量であることが好ましい。通常、工程(II−b)で加える塩基性化合物の量は、工程(II−a)で既に加えた塩基性化合物の量の、0.01倍〜1倍の範囲にあることが好ましく、0.05倍〜0.4倍の範囲にあることがより好ましい。
【0090】
本発明の製造方法の好ましい一例は、以下の条件を満たす。
(a)第1のモノマーが、上述したモノマー(1)および(2)からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
(b)第2のモノマーが、上述したモノマー(3)および(4)からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
(c)第3のモノマーが、上述したモノマー(5)〜(12)からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、たとえばモノマー(5)または(9)である。
(d)工程(II)で用いられる溶媒が、非プロトン性の極性有機溶媒(たとえば、アセトンやアセトニトリル)である。
(e)塩基性化合物(反応促進剤)がアミン類(たとえばトリエチルアミンやジイソプロピルエチルアミン)である。
【0091】
そして、この一例の特に好ましい例では、工程(II−a)で加えられる塩基性化合物(反応促進剤)の量がモノマー(5)または(9)の官能基(c)の量の0.5倍モル〜5倍モルの範囲(たとえば1.1倍モル〜3.3倍モルの範囲)にあり、工程(II−b)で加えられる塩基性化合物(反応促進剤)の量が工程(II−a)で既に加えた塩基性化合物(反応促進剤)の量の、0.01倍〜1倍の範囲(たとえば0.05倍〜0.4倍の範囲)にある。
【0092】
(膜・電極接合体および燃料電池)
本発明の膜・電極接合体は、燃料電池に用いられる膜・電極接合体であって、プロトン伝導性の電解質膜を含み、その電解質膜が本発明の電解質膜である。電解質膜以外の部分に特に限定はなく、たとえば公知の構成を適用できる。
【0093】
本発明の燃料電池は、プロトン伝導性の電解質膜を含む燃料電池であって、その電解質膜が本発明の電解質膜である。本発明の電解質膜は、膜・電極接合体で用いられる。電解質膜以外の部分に特に限定はなく、たとえば、公知の固体高分子形燃料電池の構成を適用できる。
【実施例】
【0094】
以下では、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されない。なお、以下の実施例および比較例で用いられる、C3F、C3A、BTSC、およびBTSAは、公知の方法で合成できる。具体的には、以下の方法で合成できる。
【0095】
(1)パーフルオロ脂肪族ジスルホニルフロライドの合成
パーフルオロ脂肪族ジスルホニルフロライド(FSO2−Rf−SO2F)は、米国特許第2,732,398号明細書に記載されているように、対応する脂肪族ジスルホニルフロライドの電解フッ素化によって得ることができる。例えば、1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ジスルホニルフロライド(C3F)は、プロパン−1,3−ジスルホニルフロライドの電解フッ素化によって得ることができる。
【0096】
(2)パーフルオロ脂肪族ジスルホンアミドの合成
パーフルオロ脂肪族ジスルホンアミド(H2NO2S−Rf−SO2NH2)は、相当するパーフルオロ脂肪族ジスルホニルフロライド(FSO2−Rf−SO2F)を液体アンモニアと反応させることによって得ることができる。例えば、1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ジスルホンアミド(C3A)は、1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ジスルホニルフロライド(C3F)を液体アンモニアと反応させることによって得ることができる。
【0097】
具体的には、以下の方法でC3Aを得た。まず、アルゴン置換して冷却した9.6Lの液体アンモニア中に、1200gのC3Fを1時間かけて滴下した。この液体を一晩かけて昇温した後、アルゴンガスでバブリングすることによってアンモニアを除去した。その後、反応生成物の抽出、脱水、および精製を行い、C3Aである白色結晶(530g)を得た。
【0098】
(3)1,3,5−ベンゼントリスルホニルクロライド(BTSC)の合成
BTSCは、以下の方法によって合成した。まず、フラスコに濃硫酸(650g)を入れて撹拌し、ベンゼンスルホン酸ナトリウム一水和物(500g)、硫酸ナトリウム(371g)を加え、得られた混合液を340度まで加熱した。この混合液を3バッチ分調製し、それらを1つに混合した。得られた混合液を、水で洗浄し、攪拌しながら水酸化ナトリウムを加え、pHを12以上とした後、過剰の水酸化ナトリウムおよび塩をろ過で除去した。次に、ろ過後の液体を撹拌後、濃硫酸を加えてpHを6〜7とした後、活性炭を加え、70℃に加熱した。加熱した液体をろ過した後、ろ液中の反応生成物を再結晶させた。そして、ろ液を濃縮して再結晶を繰り返した。再結晶で得られた結晶を乾燥して、1,3,5−ベンゼントリスルホン酸ナトリウムの白色結晶(1.12kg)を得た。
【0099】
アルゴンガス雰囲気下で、上記1,3,5−ベンゼントリスルホン酸ナトリウム(1100g)をフラスコに入れ、これに塩化チオニル(5L)およびジメチルホルムアミド(660mL)を滴下して加えた。そして、反応液を70℃で18時間加熱還流した。その後、反応液を氷水に注いで反応を停止させ、しばらく撹拌した。析出した結晶を濾別し、減圧乾燥した。得られた結晶に酢酸エチルを加えて加熱した後、ろ過を行った。得られたろ液中の反応生成物の再結晶を繰り返し、BTSCの白色結晶(620g)を得た。
【0100】
(4)1,3,5−ベンゼントリスルホンアミド(BTSA)の合成
BTSAは、以下の方法によって合成した。まず、アルゴン気流下で、液体アンモニア150mlと、BTSC7.48g(20mmol)のテトラヒドロフラン溶液(80mL)とを反応させた後、揮発分を除去し、1N塩酸を加えた。得られた液体から固体を濾別することによって、5.2gのBTSA(白色粉末)を得た。
【0101】
(実施例1)
実施例1では、本発明の電解質膜(プロトン伝導性膜)を作製した。
【0102】
1−1.直鎖状オリゴマー1の合成
2雰囲気下において、1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ジスルホンアミド(C3A):46.5g(0.150mol)と、1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ジスルホニルフロライド(C3F):31.6g(0.100mol)と、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA):64.6g(0.500mol)とを含むアセトニトリル(MeCN)溶液を撹拌しながら、80℃で48時間反応させ、褐色溶液を得た。この反応を以下に示す。
【0103】
【化5】
【0104】
上記反応で得られた褐色溶液の溶媒をエバポレーターによって除去した後、4N水酸化ナトリウム水溶液を250mL加え、その後、アセトニトリルによって有機層を抽出した。抽出した有機層をエバポレーターで濃縮させた後、2N塩酸水溶液を250mL加えてそのまま30分撹拌した。次に、有機層をジエチルエーテルで洗浄した後、真空乾燥によって溶媒を完全に除去し、薄い肌色の固形物を61.8g得た。得られた固形物について、19F NMRスペクトルを測定した。測定結果を図1に示す。
【0105】
図1のスペクトルにおいて、ピーク(3d+2d)と1cとの積分比から、図1の式における平均繰り返し単位数mは、m≒4.0となった。このことから、上記反応によって得られた直鎖状オリゴマー(以下では、「直鎖状オリゴマー1」という場合がある)は、平均6.0量体であると算出された。また、直鎖状オリゴマー1の末端基のうち、93.5mol%が−SO2NH2であり、6.5mol%が−SO3Hであった。
【0106】
1−2.電解質膜の作製
2雰囲気下において、直鎖状オリゴマー1:9.12g(5.10mmol)と、1,3,5−ベンゼントリスルホニルクロライド(BTSC):1.19g(3.18mmol)とに、アセトン18.2mL加えて撹拌した。この液体では、BTSCはほとんど溶解しなかった。この液体に、トリエチルアミン(Et3N):2.55g(25.2mmol)を少しずつ滴下していくと、未溶解であったBTSCが溶解し、原料モノマー溶液を得た。この原料モノマー溶液に多孔質膜を浸漬した後、減圧および超音波照射によって脱気を行い、多孔質膜内の空隙に原料モノマー溶液を含浸させた。多孔質膜には、超高分子量ポリエチレン製の多孔質膜(帝人ソルフィル株式会社製、空孔率82%、平均孔径0.8μm、膜厚20μm)を用いた。次に、多孔質膜が浸漬されている原料モノマー溶液に、トリエチルアミン(TEA):0.637g(6.29mmol)を加えると、10秒後にゲル化した。多孔質膜が浸漬されている反応溶液を70℃で50分間保持することによって反応を進行させた。この反応を以下に示す。
【0107】
【化6】
【0108】
上記反応式の反応生成物では、オリゴマーの鎖状部分に由来する鎖状部分がイミド基類(G)を含み、さらに、当該鎖状部分と架橋部分(BTSCのベンゼン環)との結合部分がイミド基類(G)を含む。
【0109】
上記反応によって得られた膜を、10wt%水酸化ナトリウム水溶液、10vol%硫酸水溶液、および超純水で洗浄した後、乾燥し、実施例1の電解質膜(プロトン伝導性膜1)を得た。
【0110】
(実施例2)
実施例2では、本発明の電解質膜(プロトン伝導性膜)を作製した。
【0111】
2−1.直鎖状オリゴマー2の合成
2雰囲気下において、1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ジスルホンアミド(C3A):27.1g(87.5mmol)と、1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ジスルホニルフロライド(C3F):22.1g(70.0mmol)と、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA):45.2g(350mmol)とを含むアセトニトリル(MeCN)溶液を撹拌しながら、80℃で96時間反応させ、褐色溶液を得た。この反応の反応式は、実施例1の直鎖状オリゴマー1の合成反応で示した反応式と同じである。
【0112】
上記反応で得られた褐色溶液の溶媒をエバポレーターによって除去した後、4N水酸化ナトリウム水溶液を250mL加え、その後、アセトニトリルによって有機層を抽出した。抽出した有機層をエバポレーターで濃縮させた後、2N塩酸水溶液を250mL加えてそのまま30分撹拌した。次に、有機層をジエチルエーテルで洗浄した後、真空乾燥によって溶媒を完全に除去し、褐色の固形物を43.3g得た。得られた固形物について、19F NMRスペクトルを測定した。測定結果を図2に示す。
【0113】
図2のスペクトルにおいて、ピーク(3d+2d)と1cとの積分比から、図2の式における平均繰り返し単位数mは、m≒6.2となった。このことから、上記反応によって得られた直鎖状オリゴマー(以下では、「直鎖状オリゴマー2」という場合がある)は、平均8.2量体であると算出された。また、直鎖状オリゴマー2の末端基のうち、86.8mol%が−SO2NH2であり、13.2mol%が−SO3Hであった。
【0114】
2−2.電解質膜の作製
2雰囲気下において、直鎖状オリゴマー2:10.3g(4.00mmol)と、1,3,5−ベンゼントリスルホニルクロライド(BTSC):0.895g(2.39mmol)とに、アセトニトリル(MeCN)を9.73mL加えて撹拌した。この液体では、BTSCはほとんど溶解しなかった。この液体に、トリエチルアミン(TEA):1.12g(9.48mmol)を少しずつ滴下していくと、未溶解であったBTSCが溶解し、原料モノマー溶液を得た。この原料モノマー溶液に多孔質膜を浸漬した後、減圧および超音波照射によって脱気を行い、多孔質膜内の空隙に原料モノマー溶液を含浸させた。多孔質膜には、超高分子量ポリエチレン製の多孔質膜(帝人ソルフィル株式会社製、空孔率82%、平均孔径0.8μm、膜厚20μm)を用いた。次に、多孔質膜が浸漬されている原料モノマー溶液に、トリエチルアミン(TEA):0.640g(6.32mmol)加えると、5秒後にゲル化した。多孔質膜が浸漬されている反応溶液を70℃で50分保持することによって反応を進行させた。この反応を以下に示す。
【0115】
【化7】
【0116】
上記反応によって得られた膜を、10wt%水酸化ナトリウム水溶液、10vol%硫酸水溶液、および超純水で洗浄した後、乾燥させ、実施例2の電解質膜(プロトン伝導性膜2)を得た。
【0117】
(比較例1)
比較例1では、第1および第2のモノマーと架橋モノマー(M)とを、多孔質膜中で一度に反応させた。
【0118】
具体的には、まず、N2雰囲気下において、1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ジスルホンアミド(C3A):13.0g(42.0mmol)と、1,3,5−ベンゼントリスルホンアミド(BTSA):4.41g(14.0mmol)と、アセトニトリル(MeCN):45.6mLと、トリエチルアミン(TEA):28.1g(277mmol)との混合溶液を調製した。そして、この溶液に、多孔質膜を浸漬した後、減圧および超音波照射によって脱気を行い、多孔質膜内の空隙にこの溶液を含浸させた。多孔質膜には、超高分子量ポリエチレン製の多孔質膜(帝人ソルフィル株式会社製、空孔率82%、平均孔径0.8μm、膜厚20μm)を用いた。次に、多孔質膜が浸漬されている溶液に、1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ジスルホニルフロライド(C3F):19.9g(63.0mmol)を加え、30分間浸透させて多孔質膜内に均一に含浸させた。多孔質膜が浸漬されている反応溶液を50℃で264時間保持することによって、反応を進行させた(72時間でゲル化開始)。その後、更に90℃で72時間反応させた。この反応を以下に示す。
【0119】
【化8】
【0120】
上記反応によって得られた膜を、10wt%水酸化ナトリウム水溶液、10vol%硫酸水溶液、および超純水で洗浄した後、乾燥させ、比較例1の電解質膜(プロトン伝導性膜3)を得た。
【0121】
(特性の評価方法)
(a)イオン交換容量(IEC)
実施例および比較例の電解質膜(面積:約12cm2)を、3モル/Lの塩化ナトリウム水溶液に浸漬し、ウォーターバス中で60℃、12時間以上反応させた。この電解質膜を室温まで冷却した後、イオン交換水で充分に洗浄した。得られた電解質膜について、電位差自動滴定装置(AT−510;京都電子工業株式会社製)を使用して、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液で滴定し、イオン交換容量を算出した。
【0122】
(b)プロトン伝導度(σ)
10mm幅に裁断した電解質膜を超純水に一晩浸漬した後、25℃の超純水中において、LCRメータ(HIOKI製Chemical Impedance meter 3532−80)を用いて、4端子法によって交流インピーダンスを測定した。測定周波数範囲は10kHz〜1MHzとした。得られたインピーダンスの実数部分を横軸にし、虚数部分を縦軸にしてプロットを行い、極小値の実数部分の値を膜抵抗R(Ω)とした。膜の厚さをt[cm]、サンプルの幅をh[cm]、電極の取り付け距離をL[cm]として、プロトン伝導度σ[S/cm]を次式から求めた。
σ=L/(R×t×h)
【0123】
(評価結果)
作製した高分子電解質膜の評価結果を下に示す。
【0124】
【表1】
【0125】
実施例1および2のプロトン伝導性膜1および2は、鎖状部分と架橋部分とを同時に形成することによって得られた比較例1のプロトン伝導性膜3に対して、同等かそれ以上のプロトン伝導性を示した。また、ゲル化時間および反応時間は、実施例1および実施例2の方が圧倒的に短かった。このように、本発明によって、電解質膜の大量生産および低コスト化が可能となる。また、鎖状部分と架橋部分とを同時に形成する比較例3の方法では、分子構造の制御が困難であるが、本発明の方法では、鎖状部分を形成する反応と架橋反応とを分けることによって、架橋間分子鎖長を制御でき、分子構造の制御が容易である。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明は、プロトン伝導性の高分子電解質および電解質膜、ならびに、それらを用いた膜・電極接合体および燃料電池に利用できる。
図1
図2