(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1において、前記空燃比センサの出力信号と目標空燃比との偏差に基づいて、前記燃料噴射弁の燃料噴射量を補正するための空燃比フィードバック制御を実施する制御手段を更に備え、
前記補正手段は、前記空燃比センサが活性しているときは、前記空燃比フィードバック制御による補正値の絶対値の大きさに基づいて、前記制御パラメータを補正する内燃機関の制御システム。
請求項1又は2において、前記補正手段は、前記検出手段により検出される通路断面積の大きさに加え、前記レギュレータより上流における圧縮天然ガスの圧力の大きさに基づいて、前記制御パラメータを補正する内燃機関の制御システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
CNGの性状が変化するのは、主として、燃料タンクにCNGが補給(充填)されたときである。たとえば、燃料タンク内に貯留されているCNGと性状の異なるCNGが補給されたときに、CNGの性状が変化する。
【0005】
ところで、上記した従来の技術によると、CNGの補給後において、内燃機関が始動されてから筒内圧センサの出力信号に基づく燃料性状の特定が終了するまでは、燃料噴射量がCNGの性状に不適当な量になる可能性がある。
【0006】
本発明は、上記したような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、圧縮天然ガス(CNG)を燃料とする内燃機関の制御システムにおいて、CNGの性状が変化した場合に、内燃機関の適正な運転を補償するために有効な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記した課題を解決するために、燃料タンクから燃料噴射弁に至る燃料供給路に配置されたレギュレータの開度(すなわち、レギュレータにより調整された通路断面積の大きさ)が圧縮天然ガスに含まれる不活性ガスの濃度に相関する点に着目した。
【0008】
上記した着目点は、レギュレータの開度に応じて、混合気の燃焼状態に係わる制御パラメータを補正するシステムとして活かすことができる。その場合、本発明は、以下のような内燃機関の制御システムとして捉えることができる。
【0009】
すなわち、本発明の内燃機関の制御システムは、
圧縮天然ガスを貯蔵する燃料タンクと、
吸気通路又は気筒内へ圧縮天然ガスを噴射する燃料噴射弁と、
前記燃料タンクから前記燃料噴射弁へ圧縮天然ガスを導くための燃料供給通路の途中に配置され、前記燃料噴射弁へ供給される圧縮天然ガスの圧力が予め設定された圧力と等しくなるように、前記燃料供給通路の通路断面積を調整するレギュレータと、
前記燃料噴射弁による燃料噴射が実施されているときに、前記レギュレータにより調整された通路断面積の大きさを検出する検出手段と、
排気通路に設けられ、気筒内で燃焼された混合気の空燃比に相関する信号を出力する空
燃比センサと、
前記空燃比センサが活性していないときに、前記検出手段により検出される通路断面積の大きさに基づいて、混合気の燃焼状態に係わる制御パラメータを補正する補正手段と、を備える。
【0010】
圧縮天然ガス(CNG)の性状は、必ずしも一様ではなく、CNGの補給場所(充填場所)毎に異なる場合がある。燃料タンクにCNGが補給(充填)されると、燃料タンク内に残っているCNG(以下、「残留CNG」と称する)と充填されたCNG(以下、「充填CNG」と称する)が混合する。充填CNGと残留CNGの性状が相異する場合は、充填燃料の充填後に燃料タンクから内燃機関へ供給されるCNG(充填CNGと残留CNGが混合したCNG(以下、「混合CNG」と称する))の性状は、残留CNGの性状と相異する。
【0011】
CNGの性状変化が内燃機関の運転状態に及ぼす影響としては、理論空燃比や燃焼速度等の変化が挙げられる。すなわち、気体燃料に含まれる不活性ガスの濃度(たとえば、二酸化炭素(CO
2)や窒素(N
2))が変化すると、混合気中のCNGと酸素が過不足なく反応する空燃比(理論空燃比)が変化するとともに、混合気の燃焼速度が変化する。たとえば、CNGの不活性ガス濃度が高いときは低いときに比べ、理論空燃比が低くなるとともに、混合気の燃焼速度が遅くなる。したがって、CNGの不活性ガス濃度が変化した場合は、変化後の不活性ガス濃度に応じて、混合気の燃焼状態に係わる制御パラメータを調整する必要がある。
【0012】
CNGの不活性ガス濃度の変化は、空燃比フィードバック制御に用いられる補正値に反映される。詳細には、CNGの不活性ガス濃度が変化すると、理論空燃比の変化に伴って排気の酸素濃度が変化する。空燃比センサ(或いは酸素濃度センサ)の出力信号と目標空燃比との偏差に基づいて燃料噴射量がフィードバック制御(空燃比フィードバック制御)される内燃機関において、CNGの補給によってCNGの不活性ガス濃度が変化すると、空燃比センサの出力信号が変化するため、それに応じて空燃比フィードバック制御による補正値も変化することになる。
【0013】
たとえば、残留CNGに比して不活性ガス濃度の高い充填CNGが補給されると、混合CNGの不活性ガス濃度が残留CNGの不活性ガス濃度より高くなる。その場合、混合CNGの理論空燃比は、残留CNGの理論空燃比より低くなる。その結果、空燃比センサの出力信号に基づいて特定される空燃比は、目標空燃比よりリーン側にずれることになる。よって、空燃比フィードバック制御による補正値は、燃料噴射量を増量させる値(正値)になるとともに、その絶対値の大きさはCNGの性状が一定であるときに該補正値の絶対値が取り得る最大値より大きくなる。
【0014】
残留CNGに比して不活性ガス濃度の低い充填CNGが補給されると、混合CNGの不活性ガス濃度が残留CNGの不活性ガス濃度より低くなる。その場合、混合CNGの理論空燃比は、残留CNGの理論空燃比より高くなる。その結果、空燃比センサの出力信号に基づいて特定される空燃比は、目標空燃比よりリッチ側にずれることになる。よって、空燃比フィードバック制御による補正値は、燃料噴射量を減量させる値(負値)になるとともに、その絶対値の大きさはCNGの性状が一定であるときに該補正値の絶対値が取り得る最大値より大きくなる。
【0015】
したがって、空燃比フィードバック制御による補正値の絶対値が閾値以上になると、CNGの性状が変化したと判定することができる。なお、ここでいう「閾値」は、たとえば、CNGの性状が一定となる条件下において、空燃比フィードバック制御による補正値の絶対値が取り得る最大値にマージンを加算した値である。
【0016】
CNGの性状が変化したと判定された場合に、混合気の燃焼に係わる制御パラメータの値が補正されると、CNGの性状変化によって混合気の燃焼状態が変化することを抑制することができる。
【0017】
ところで、空燃比フィードバック制御は、空燃比センサが活性していることを条件に実施される。そのため、CNGの補給後において内燃機関が初めて運転されるときに、空燃比センサが活性していなければ、CNGの性状変化を速やかに検出することが困難となる。
【0018】
これに対し、本願発明者が鋭意の実験及び検証を行った結果、燃料噴射弁による燃料噴射が実施されているときにレギュレータにより調整された通路断面積の大きさ(言い換えれば、レギュレータの開度)は、CNGの不活性ガス濃度に相関するという知見を得た。詳細には、燃料噴射弁による燃料噴射が実施されているときは、レギュレータにより調整される通路断面積の大きさは略一定の大きさで安定するとともに、その大きさはCNGの不活性ガス濃度が低いときに比して高いときの方が大きくなる。
【0019】
これは、CNGの不活性ガス濃度が高いときは低いときに比べ、CNGの密度が高くなるためと考えられる。つまり、レギュレータの開度が一定である場合は、CNGの密度が高くなるほど、該レギュレータを通過するCNGの体積流量が小さくなる。そのため、燃料噴射弁に供給されるCNGの圧力が一定である場合は、CNGの密度が高くなるほど(CNGの不活性ガス濃度が高くなるほど)、レギュレータの開度(レギュレータにより調整された通路断面積の大きさ)が大きくなる。
【0020】
したがって、燃料噴射弁による燃料噴射が実施されているときのレギュレータの開度に基づいて混合気の燃焼状態に係わる制御パラメータが補正されると、CNGの性状変化によって混合気の燃焼状態が変化することを抑制することができる。特に、CNGの補給後において内燃機関が初めて運転されるときに空燃比センサが活性していなくても、CNGの性状変化に伴う混合気の燃焼状態の変化を抑制することができる。その結果、CNGの性状が変化した場合に、混合気の燃焼状態に係わる制御パラメータを速やかにCNGの性状に適した値にすることができる。
【0021】
本発明の内燃機関の制御システムにおいて、補正手段は、空燃比センサが活性しているときは、上記したように、空燃比フィードバック制御による補正値の絶対値の大きさに基づいて、制御パラメータを補正するようにしてもよい。このような構成によれば、CNGの補給後において内燃機関が初めて運転されるときに、空燃比センサの活性状態にかかわらず、制御パラメータをCNGの性状に適した値にすることができる。なお、補正手段は、空燃比センサが活性しているときであっても、レギュレータの開度に基づいて、混合気の燃焼状態に係わる制御パラメータを補正してもよい。
【0022】
また、本発明の内燃機関の制御システムにおいて、補正手段は、検出手段により検出される通路断面積の大きさに加え、レギュレータより上流におけるCNGの圧力の大きさに基づいて、前記制御パラメータを補正してもよい。なお、ここでいう「レギュレータより上流におけるCNGの圧力」は、圧力そのものであってもよく、圧力に相関する物理量(たとえば、温度など)であってもよい。
【0023】
CNGの密度が一定である場合は、レギュレータより上流におけるCNGの圧力が高くなるほど、該レギュレータを通過するCNGの体積流量が大きくなる。そのため、燃料噴射弁に供給されるCNGの圧力が一定である場合は、レギュレータより上流におけるCNGの圧力が高くなるほど、レギュレータの開度(レギュレータにより調整された通路断面
積の大きさ)が小さくなる。
【0024】
したがって、検出手段により検出される通路断面積の大きさに加え、レギュレータより上流におけるCNGの圧力も考慮して制御パラメータが補正されると、補正後の制御パラメータは、CNGの性状により一層適した値になる。その結果、CNGの性状が変化した場合に、混合気の燃焼状態の変化をより確実に抑制することが可能になる。
【0025】
ここで、混合気の燃焼状態に係わる制御パラメータとしては、燃料噴射量、点火タイミング、吸気弁の開弁特性、排気バルブの開弁特性、或いはEGR(Exhaust Gas Recirculation)弁の開度などを用いることができる。
【0026】
たとえば、CNGの不活性ガス濃度が高いときは低いときに比べ、CNGの理論空燃比が低くなる。そこで、補正手段は、検出手段により検出される通路断面積が大きいときは小さいときに比べ、燃料噴射量が多くなるような補正を行ってもよい。その場合、CNGの性状変化によって混合気の空燃比が目標空燃比から乖離することを抑制することができる。
【0027】
CNGの不活性ガス濃度が高いときは低いときに比べ、混合気の燃焼速度が遅くなる。そこで、補正手段は、検出手段により検出される通路断面積が大きいときは小さいときに比べ、点火タイミングが早くなるような補正を行ってもよい。その場合、混合気の燃焼終了時期が過剰に遅くなることを抑制することができる。
【0028】
CNGの不活性ガス濃度の変化に伴う混合気の燃焼速度の変化を補償するために、補正手段は、検出手段により検出される通路断面積が大きいときは小さいときに比べ、気筒内に残留する既燃ガス(内部EGRガス)の量が少なくなるように、吸気バルブおよびまたは排気バルブの開閉タイミングを補正してもよい。また、補正手段は、検出手段により検出される通路断面積が大きいときは小さいときに比べ、気筒内へ導入されるEGRガス量が少なくなるように、EGR弁の開度を補正してもよい。このように内部EGRガス量やEGRガス量が調整されると、混合気の燃焼速度や燃焼温度の過剰な低下を抑制することができる。
【0029】
CNGの不活性ガス濃度の変化に伴う混合気の燃焼速度の変化を補償するために、補正手段は、検出手段により検出される通路断面積が大きいときは小さいときに比べ、吸気の流速が速くなるように吸気バルブの開弁特性を変更してもよい。その場合、混合気が燃焼する際の火炎伝播速度が速められるため、混合気の燃焼速度の過剰な低下を抑制することができる。
【0030】
次に、前述した着目点は、レギュレータの開度に応じて、CNGの不活性ガス濃度を検出する装置に活かすこともできる。その場合、本発明は、以下のような圧縮天然ガスの不活性ガス濃度検出装置として捉えることができる。
【0031】
すなわち、本発明の圧縮天然ガスの不活性ガス濃度検出装置は、
圧縮天然ガスを貯蔵する燃料タンクと、
吸気通路又は気筒内へ圧縮天然ガスを噴射する燃料噴射弁と、
前記燃料タンクから前記燃料噴射弁へ圧縮天然ガスを導く燃料供給通路の途中に配置され、前記燃料噴射弁へ供給される圧縮天然ガスの圧力が設定圧と等しくなるように、前記燃料供給通路の通路断面積を調整するレギュレータと、
前記燃料噴射弁による燃料噴射が実施されているときに、前記レギュレータにより調整された通路断面積を検出する検出手段と、
排気通路に設けられ、気筒内で燃焼された混合気の空燃比に相関する信号を出力する空
燃比センサと、
前記空燃比センサが活性していないときに、前記検出手段により検出される通路断面積の大きさに基づいて、圧縮天然ガスに含まれる不活性ガスの濃度を演算する演算手段と、を備える。
【0032】
このように構成された圧縮天然ガスの不活性ガス濃度検出装置によれば、CNGが補給された後において内燃機関が初めて運転されるときに空燃比センサが活性していなくとも、CNGの不活性ガス濃度を検出することができる。なお、不活性ガス濃度検出装置により検出されるCNGの不活性ガス濃度は、内燃機関の適正な運転を補償するために利用することができる。たとえば、燃料噴射量、点火タイミング、吸気バルブの開弁特性、排気バルブの開弁特性、或いはEGR弁の開度を決定する際に、当該装置により検出された不活性ガス濃度を考慮することにより、CNGの性状が変化した場合であっても内燃機関を適正に運転させることが可能になる。
【0033】
なお、前述したように、検出手段により検出される通路断面積の大きさは、CNGの不活性ガス濃度に加え、レギュレータより上流におけるCNGの圧力の大きさにも影響される場合がある。そのため、演算手段は、検出手段により検出される通路断面積の大きさに加え、レギュレータより上流の燃料供給通路におけるCNGの圧力の大きさに基づいて、圧縮天然ガスの不活性ガス濃度を演算してもよい。その場合、CNGの不活性ガス濃度をより正確に検出することが可能になる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、圧縮天然ガス(CNG)を燃料とする内燃機関の制御システムにおいて、CNGの性状が変化した場合に、内燃機関の適正な運転を補償するために有効な技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の具体的な実施形態について図面に基づいて説明する。本実施形態に記載される構成部品の寸法、材質、形状、相対配置等は、特に記載がない限り発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0037】
<実施例1>
先ず、本発明の第1の実施例について
図1乃至
図8に基づいて説明する。
図1は、本発明を適用する車輌の概略構成を示す図である。
図1に示す車両は、CNGを使用する内燃機関が搭載された車両である。
【0038】
図1において、車両100には、内燃機関1と燃料タンク2が搭載されている。内燃機関1は、複数の気筒3と、各気筒3内に燃料を噴射する燃料噴射弁4と、を備えている。また、内燃機関1には、吸気通路5と排気通路6が接続されている。
【0039】
吸気通路5は、大気中から取り込まれた新気(空気)を内燃機関1の気筒3へ導くための通路である。吸気通路5の途中には、該吸気通路5の通路断面積を変更するための吸気絞り弁7と、新気(空気)の温度(外気温度)を測定する吸気温度センサ8が取り付けられている。
【0040】
排気通路6は、気筒3から排出される既燃ガス(排気)を排気浄化用触媒や消音器などの経由後に大気中へ排出するための通路である。排気通路6の途中には、空燃比に相関する電気信号を出力するA/Fセンサ9が取り付けられている。
【0041】
燃料タンク2は、圧縮天然ガス(CNG)を貯蔵するタンクである。燃料タンク2には、該燃料タンク2内の圧力を測定するための圧力センサ10が取り付けられている。また、燃料タンク2は、燃料供給管11を介して内燃機関1の燃料噴射弁4と連通している。燃料供給管11は、燃料タンク2内のCNGを燃料噴射弁4へ導くための通路である。燃料タンク2は、車両100の車体に取り付けられた充填口12とインレットパイプ13を介して接続されている。充填口12は、ガスステーションなどに配置された充填ノズルが差し込まれたときに開口し、充填ノズルから供給されるCNGをインレットパイプ13へ導入する。
【0042】
前記燃料供給管11の途中には、遮断弁14とレギュレータ15が配置されている。遮断弁14は、内燃機関1の運転停止中(たとえば、イグニッションスイッチがオフの期間)は閉弁されるとともに、内燃機関1の運転中(たとえば、イグニッションスイッチがオンの期間)は開弁される弁装置である。遮断弁14としては、たとえば、駆動電力が印加されたときに開弁し、駆動電力が印加されないときは閉弁する電磁式の弁装置を用いることができる。レギュレータ15は、燃料タンク2から供給されるCNGの圧力を予め設定された圧力(設定圧)に減圧するものである。言い換えると、レギュレータ15は、該レギュレータ15より下流の燃料供給管11における燃料圧力、言い換えれば燃料噴射弁4に印加される燃料圧力(以下、「燃料噴射圧力」と称する)が設定圧と等しくなるように、燃料供給管11の通路断面積を調整する弁装置である。レギュレータ15としては、たとえば、ダイヤフラムとスプリングを組み合わせた機械式の弁装置を用いることができる。
【0043】
このように構成された車両100には、ECU16が搭載されている。ECU16は、CPU、ROM、RAM、バックアップRAMなどから構成される電子制御ユニットである。ECU16には、吸気温度センサ8、A/Fセンサ9、圧力センサ10などの各種センサが電気的に接続されている。また、ECU16には、燃料噴射弁4や吸気絞り弁7などの各種機器が電気的に接続されている。ECU16は、前記各種センサから入力される信号に基づいて、前記各種機器を制御する。
【0044】
たとえば、ECU16は、内燃機関1の負荷や回転速度に応じて燃料噴射量を演算し、算出された燃料噴射量に従って燃料噴射弁4を制御する。詳細には、ECU16は、以下の式(1)に従って燃料噴射量(燃料噴射弁4の開弁時間)etauを演算する。
etau=etp*ekaf*k・・・(1)
【0045】
前記式(1)において、etpは、吸入空気量や機関回転数等を引数とするマップから導き出される基本噴射量である。ここでいうマップは、予め実験などを利用した適合処理によって求められ、ECU16のROMに記憶されている。
【0046】
前記ekafは、目標空燃比と実際の空燃比(A/Fセンサ9により検出される空燃比)との乖離を解消するための補正係数(空燃比フィードバック補正係数)である。ekafは、たとえば、以下の式(2)に従って演算される。
ekaf=(efaf+efgaf+100)/100・・・(2)
【0047】
前記式(2)において、efafは、目標空燃比と実際の空燃比との差に基づいて決定される補正値(空燃比フィードバック補正値)である。efgafは、目標空燃比と実際の空燃比との恒常的な乖離(燃料噴射弁4の噴射特性の経時変化などに起因した乖離)を補償するための空燃比学習値である。
【0048】
なお、前記式(1)におけるkは、冷却水温度やアクセル開度に応じて決定される増量補正係数である。
【0049】
前記式(1)、(2)に従って燃料噴射量(燃料噴射時間)が決定されると、気筒3内で燃焼される混合気の空燃比を目標空燃比に一致させることができる。その結果、内燃機関1の出力を運転者の要求出力に一致させたり、或いは排気の性状を排気浄化装置の浄化能力に適した性状にしたりすることができる。
【0050】
ところで、燃料タンク2内に充填されるCNGの性状は、必ずしも一様ではなく、CNGの補給場所(充填場所)毎に異なる場合がある。また、混合気中のCNGと酸素が過不足なく反応する際の空燃比(理論空燃比)は、CNGの性状によって異なる。特に、CNGに含まれる不活性ガス(二酸化炭素(CO
2)及び窒素(N
2))の濃度が異なると、理論空燃比も相異する。
【0051】
ここで、CNGに含まれる不活性ガスの濃度と理論空燃比との相関を
図2に示す。
図2中の横軸はCNGに含まれる不活性ガスの濃度を示し、縦軸は理論空燃比を示す。
図2に示すように、CNGの理論空燃比は、該CNGの不活性ガス濃度が高くなるほど低くなる。つまり、CNGの理論空燃比は、該CNGの不活性ガス濃度に反比例する。
【0052】
そのため、燃料タンク2内に残留しているCNG(残留CNG)と性状の異なるCNG(充填CNG)が充填された場合に、充填後の燃料噴射量や吸入空気量などが残留CNGの理論空燃比に従って制御されると、実際の空燃比が所望の目標空燃比と相異する可能性がある。
【0053】
たとえば、残留CNGより不活性ガス濃度の高い充填CNGが充填されたときは、充填後のCNG(混合CNG)の理論空燃比は、残留CNGの理論空燃比より低くなる。そのため、充填CNGの充填後における燃料噴射量や吸入空気量が残留CNGの理論空燃比に従って制御されると、実際の空燃比が目標空燃比より高く(リーン)なり、排気エミッションの増加や機関出力の低下などを招く可能性がある。
【0054】
残留CNGより不活性ガス濃度の低い充填CNGが充填されたときは、混合CNGの理論空燃比は、残留CNGの理論空燃比より高くなる。そのため、充填CNGの充填後における燃料噴射量や吸入空気量が残留CNGの理論空燃比に従って制御されると、実際の空燃比が目標空燃比より低く(リッチ)なる。その結果、排気エミッションの増加、機関出力の増加、失火などを招く可能性がある。
【0055】
したがって、CNGの性状(不活性ガス濃度)が変化した場合は、理論空燃比の変化を補償するために、混合気の燃焼状態に係わる制御パラメータを補正する必要がある。
【0056】
以下では、CNGの性状が変化した場合に、混合気の燃焼状態に係わる制御パラメータとして、燃料噴射量を補正する例について述べる。
【0057】
本実施例では、ECU16は、前記式(1)の代わりに以下の式(3)を利用して、燃料噴射量(燃料噴射時間)etauを演算するようにした。
etau=etp*ekaf*ekin*k・・・(3)
【0058】
前記式(3)において、etp、ekaf、及びkは、前述した式(1)と同様である。前記式(3)において、ekinは、CNGの性状変化(不活性ガス濃度の変化)に伴う理論空燃比の変化を補償するための補正係数(不活性ガス濃度学習補正係数)である。
【0059】
前記不活性ガス濃度学習補正数ekinは、以下の式(4)に基づいて演算される。
ekin=(eknco2+100)/100・・・(4)
【0060】
前記式(4)において、eknco2は、CNGの不活性ガス濃度に起因した目標空燃比と実際の空燃比の恒常的な乖離を補償するための学習値(不活性ガス濃度学習値)である。以下、本実施例における不活性ガス濃度学習値eknco2の決定方法について述べる。
【0061】
CNGの性状変化は、燃料タンク2内にCNGが補給されたときに発生する。たとえば、残留CNGより不活性ガス濃度の高い充填CNGが補給されると、混合CNGの不活性ガス濃度が残留CNGの不活性ガス濃度より高くなる。また、残留CNGより不活性ガス濃度の低い充填CNGが補給されると、混合CNGの不活性ガス濃度が残留CNGの不活性ガス濃度より低くなる。
【0062】
充填CNGの補給により混合CNGの性状が変化すると、充填CNGの補給後において空燃比フィードバック制御が開始されたときに、空燃比フィードバック補正値efafが変化する。
【0063】
たとえば、残留CNGより不活性ガス濃度の高い充填CNGが補給された場合は、混合CNGの理論空燃比は、残留CNGの理論空燃比より低くなる。そのため、A/Fセンサ9により検出される空燃比は、目標空燃比よりリーン側にずれる。その場合、空燃比フィードバック補正値efafは、燃料噴射量を増量させる値(正値)になるとともに、その絶対値の大きさはCNGの性状が一定であるときに該補正値の絶対値が取り得る最大値より大きくなる。
【0064】
また、残留CNGに比して不活性ガス濃度の低い充填CNGが補給された場合は、混合CNGの理論空燃比は、残留CNGの理論空燃比より高くなる。そのため、A/Fセンサ9により検出される空燃比は、目標空燃比よりリッチ側にずれる。その場合、空燃比フィードバック補正値efafは、燃料噴射量を減量させる値(負値)になるとともに、その絶対値の大きさはCNGの性状が一定であるときに該補正値の絶対値が取り得る最大値よ
り大きくなる。
【0065】
したがって、充填CNGの補給後において空燃比フィードバック制御が開始されたときに、空燃比フィードバック補正値efafの絶対値が閾値以上になると、CNGの性状が変化したとみなすことができる。なお、ここでいう「閾値」は、たとえば、CNGの性状が一定となる条件下において、空燃比フィードバック補正値efafの絶対値が取り得る最大値にマージンを加算した値である。
【0066】
そこで、ECU16は、内燃機関1の始動後において空燃比フィードバック制御が開始されたときに、空燃比フィードバック補正値efafの絶対値が閾値以上であれば、不活性ガス濃度学習値eknco2を更新する。詳細には、ECU16は、不活性ガス濃度学習値eknco2に所定値aを加算する。所定値aは、空燃比フィードバック補正値efafが正値である場合は正の値に設定され、空燃比フィードバック補正値efafが負値である場合は負の値に設定される。なお、所定値aの絶対値の大きさは、空燃比フィードバック補正値efafの絶対値の大きさ(若しくは、空燃比フィードバック補正値efafの絶対値と前記閾値との差)に応じて決定される可変値であってもよく、又は予め実験などを利用した適合処理によって決定される固定値であってもよい。
【0067】
ECU16は、不活性ガス濃度学習値eknco2を更新した場合に、空燃比フィードバック補正値efafから不活性ガス濃度学習値eknco2の更新分(所定値a)を差し引くものとする。これは、CNGの性状変化に伴う補正分は、不活性ガス濃度学習値eknco2と空燃比フィードバック補正値efafの双方に含まれるためである。
【0068】
なお、不活性ガス濃度学習値eknco2の学習処理は、空燃比学習値efgafの学習処理より優先して実行されるものとする。これは、充填CNGの補給後において、不活性ガス濃度学習値eknco2の学習処理より先に空燃比学習値efgafの学習処理が実施されると、CNGの性状が変化している場合であっても空燃比フィードバック補正値efafの絶対値が閾値未満になってしまうからである。
【0069】
また、充填CNGの不活性ガス濃度と残留CNGの不活性ガス濃度との差が小さい場合、又は残留CNGの量に対して充填CNGの量が少ない場合は、混合CNGと残留CNGとの性状の差が小さくなる可能性がある。また、空燃比学習値efgafの値は、負荷の大きさなどによって区分けされた複数の運転領域のそれぞれに設定される。そのため、運転領域によってはCNGの性状変化が空燃比フィードバック補正値efafの大きさに表れにくい場合もある。
【0070】
これに対し、ECU16は、空燃比フィードバック補正値efafの絶対値が閾値を超えない場合であっても、全運転領域における空燃比学習値efgafの平均値efgafaveの絶対値が閾値を超える場合は、CNGの性状が変化したとみなして不活性ガス濃度学習値eknco2を更新するようにしてもよい。具体的には、ECU16は、前記平均値efgafaveの絶対値が閾値以上であるときに、不活性ガス濃度学習値eknco2に所定値bを加算すればよい。所定値bは、前記平均値efgafaveが正値である場合は正の値に設定され、前記平均値efgafaveが負値である場合は負の値に設定される。所定値bの絶対値の大きさは、前記平均値efgafaveの絶対値の大きさに応じて決定される可変値であってもよく、又は予め実験などを利用した適合処理によって決定される固定値であってもよい。ただし、所定値bの絶対値の大きさは、前記所定値aの絶対値より小さい値に設定されるものとする。
【0071】
また、前記平均値efgafaveと比較される閾値は、CNGの性状が一定である場合に前記平均値efgafaveの絶対値が取り得る最大値にマージンを加算した値であ
る。以下では、空燃比フィードバック補正値efafの絶対値と比較される閾値を第1閾値と称し、空燃比学習値efgafの平均値の絶対値と比較される閾値を第2閾値と称するものとする。
【0072】
前記平均値efgafaveの絶対値が第2閾値以上であることを条件として、不活性ガス濃度学習値eknco2が更新された場合は、ECU16は、空燃比学習値efgafから不活性ガス濃度学習値eknco2の更新分(所定値b)を減算するものとする。その際、ECU16は、全運転領域の空燃比学習値efgafから不活性ガス濃度学習値eknco2の更新分を減算する。
【0073】
以上述べた方法により不活性ガス濃度学習値eknco2が決定(更新)されると、前記式(3)に従って演算される燃料噴射量(燃料噴射時間)etauは、CNGの性状変化に伴う理論空燃比の変化やウェッペ指数の変化を補償可能な値になる。その結果、CNGの性状が変化した場合に、混合気の空燃比を速やかに目標空燃比に収束させることができるとともに、混合気が燃焼した際に発生する熱エネルギの量を所望の量に一致させることができる。
【0074】
ところで、CNGの補給後に初めて内燃機関1が始動されるときにA/Fセンサ9が活性していなければ、空燃比フィードバック制御を直ちに開始することはできない。そのため、CNGの補給後において内燃機関1が初めて運転されるときにA/Fセンサ9が活性していなければ、CNGの性状変化を速やかに燃料噴射量に反映させることが困難となる。
【0075】
これに対し、ECU16は、CNGの補給後に初めて内燃機関1が始動されるときにA/Fセンサ9が活性していなければ、レギュレータ15の開度に基づいて燃料噴射量の補正を行うようにした。
【0076】
ここで、レギュレータ15の概略構成について、
図3に基づいて説明する。
図3は、レギュレータ15の概略構成を示す断面図である。レギュレータ15のハウジング150には、1次室151と2次室152が形成される。1次室151と2次室152は、連通路153により相互に連通している。
【0077】
前記1次室151は、該1次室151へCNGを取り入れるためのインレット154と通路155を介して連通している。インレット154は、レギュレータ15より上流の燃料供給管11(燃料タンク2からレギュレータ15に至る燃料供給管11)と接続される。
【0078】
前記2次室152は、該2次室152からCNGを排出するためのアウトレット156と通路157を介して連通している。アウトレット156は、レギュレータ15より下流の燃料供給管11(レギュレータ15から燃料噴射弁4に至る燃料供給管11)と接続される。
【0079】
なお、以下では、
図1に示すように、燃料タンク2からレギュレータ15に至る燃料供給管11を「上流側燃料供給管11a」と称し、レギュレータ15から燃料噴射弁4に至る燃料供給管11を「下流側燃料供給管11b」と称する。
【0080】
前記連通路153には、ポペット型のバルブ160のバルブステム160bが収容されている。バルブステム160bの先端側は1次室151に突出し、その端部には円錐状のバルブボディ160aが取り付けられている。なお、バルブステム160bの外径は連通路153の内径よりも小さく形成され、バルブステム160bの外周面と連通路153の
内周面との間の環状の隙間をCNGが流通可能になっている。また、1次室151における連通路153の開口端にはバルブシート158が取り付けられ、バルブボディ160aがバルブシート158に着座したときに連通路153の開口端が閉じられるようになっている。
【0081】
前記バルブステム160bの基端側は2次室152に延出し、その端部はホルダ161の先端に連結されている。ホルダ161の外周面とハウジング150の内周面との間には、環状のダイヤフラム162が架設されている。ここで、2次室152は、前記ダイヤフラム162により2つの部屋152a,152bに区画される。以下では、2つの部屋152a,152bのうち、前記アウトレット156と連通する部屋152aを減圧室152aと称し、もう一方の部屋152bを大気室152bと称する。
【0082】
前記ホルダ161の基端には、スプリングリテーナ163が取り付けられている。スプリングリテーナ163と対向する部分には、ハウジング150に螺合されたアジャストボルト165が配置される。スプリングリテーナ163とアジャストボルト165との間には、コイルスプリング164が配置されている。コイルスプリング164は、スプリングリテーナ163及びホルダ161を介して、ダイヤフラム162及びバルブ160を2次室152側から1次室151側へ付勢するものである。コイルスプリング164からスプリングリテーナ163に作用する付勢力は、アジャストボルト165により調整されるようになっている。
【0083】
このように構成されたレギュレータ15によれば、減圧室152aの圧力がコイルスプリング164の付勢力(設定圧)より小さいときは、スプリングリテーナ163及びホルダ161がコイルスプリング164の付勢力を受けて2次室152側から1次室151側へ変位する。その場合、ダイヤフラム162及びバルブ160も、2次室152側から1次室151側へ変位する。その結果、バルブボディ160aがバルブシート158から離間(バルブ160が開弁)し、1次室151と減圧室152aが連通路153を介して導通する。
【0084】
なお、ホルダ161の外径は、減圧室152aにおける連通路153の開口端の内径より大きく形成される。そのため、ダイヤフラム162及びバルブが2次室152側から1次室151側へ変位する場合において、これらダイヤフラム162及びバルブ160が到達し得る位置は、ホルダ161の先端が前記開口端周縁のハウジング150に当接する位置に制限される。よって、
図3に示すように、ホルダ161の先端が前記開口端周縁のハウジング150に当接したときに、バルブ160の開度(連通路153の開口面積(通路断面積))が最大となる。
【0085】
バルブ160が開弁しているときは、上流側燃料供給管11aからインレット154へ流入したCNGが通路155、1次室151及び連通路153を順次経由して減圧室152aに流入する。減圧室152aに流入したCNGは、通路157、アウトレット156、及び下流側燃料供給管11bを介して燃料噴射弁4に供給される。
【0086】
1次室151から減圧室152aへCNGが供給され続けると、減圧室152a及び下流側燃料供給管11bの圧力が上昇する。減圧室152a及び下流側燃料供給管11bの圧力がコイルスプリング164の付勢力(設定圧)より大きくなると、ダイヤフラム162が1次室151側から2次室152側へ変位(減圧室152a側から大気室152b側へ変位)する。ダイヤフラム162が1次室151側から2次室152側へ変位すると、バルブ160も1次室151側から2次室152側へ変位するため、バルブ160の開度(連通路153の開口面積)が減少する。そして、バルブボディ160aがバルブシート158に着座(バルブ160が閉弁)すると、
図4に示すように、バルブ160が全閉(
連通路153の開口面積(通路断面積)が零)になる。その場合、1次室151から減圧室152aへのCNGの流れが遮断される。
【0087】
ここで、内燃機関1の始動前後におけるバルブ160の動作を
図5に示す。
図5中の横軸は時間を示し、縦軸はバルブ160の開度を示す。内燃機関1の運転停止中は、前記遮断弁14が閉じられるとともに、下流側燃料供給管11b及び減圧室152aに残留しているCNGが燃料噴射弁4から徐々に漏出するため、減圧室152aの圧力がコイルスプリング164の付勢力(設定圧)より低くなる。その結果、内燃機関1の運転停止中は、バルブ160の開度が最大(全開)となる。
【0088】
イグニッションスイッチがオンにされると(
図5中のt0)、前記遮断弁14が開弁されるため、燃料タンク2に貯蔵されていたCNGが上流側燃料供給管11aを介してレギュレータ15のインレット154へ流入する。インレット154へ流入したCNGは、通路155、1次室151、及び連通路153を順次経て減圧室152aに流入する。その結果、減圧室152aの圧力が上昇し、それに伴ってバルブ160の開度が減少する。そして、減圧室152aの圧力が設定圧(コイルスプリング164の付勢力)以上に達すると(
図5中のt1)、バルブ160の開度が零(全閉)になる。
【0089】
その後、スタータスイッチがオンにされ、次いで燃料噴射弁4からの燃料噴射が開始されると(
図5中のt2)、バルブ160の開度が略一定の中間開度(
図5中のθ)に安定する。その際、レギュレータ15のバルブ160は、燃料噴射弁4からの燃料噴射によって減圧室152aの圧力が設定圧未満に低下したときに開弁し、1次室151から減圧室152aへのCNGの供給によって減圧室152aの圧力が設定圧以上に上昇したとき閉弁するという動作を繰り返すのであるが、ダイヤフラム162及びバルブ160の変位速度が燃料噴射周期に追従しきれないため、バルブ160の開度が略一定の中間開度θで安定することになる。
【0090】
前記した一定の中間開度θは、CNGに含まれる不活性ガスの濃度に応じて変化する。ここで、減圧室152a及び下流側燃料供給管11bの圧力が一定であるときのバルブ160の中間開度θとCNGに含まれる不活性ガスの濃度との相関を
図6に示す。
図6中の横軸は、CNGに含まれる不活性ガスの濃度を示し、縦軸はバルブ160の中間開度θを示す。
【0091】
図6に示すように、減圧室152a及び下流側燃料供給管11bの圧力が一定であるときの中間開度θは、CNGの不活性ガス濃度が高くなるほど大きくなる。つまり、バルブ160の開度は、CNGの不活性ガス濃度に比例する。その結果、前記した一定の中間開度θは、CNGの不活性ガス濃度が高くなるほど大きくなる。
【0092】
したがって、前記中間開度θとCNGの不活性ガス濃度との相関を利用して燃料噴射量が補正されれば、CNGの補給後において内燃機関1が初めて運転されるときに、A/Fセンサ9が活性していなくても、燃料噴射量をCNGの性状に適した量にすることができる。
【0093】
ここで、レギュレータ15のバルブ160の開度を検出する方法としては、バルブ160のリフト量(バルブ160が全閉位置から変位した量)を検出する方法が考えられる。そこで、本実施例のレギュレータ15は、バルブ160のリフト量を検出するためのリフトセンサ17を備えている。リフトセンサ17は、
図3,4に示すように、スプリングリテーナ163におけるアジャストボルト165と対向する面に取り付けられた板状のターゲット171と、アジャストボルト165におけるスプリングリテーナ163と対向する部位に取り付けられたギャップセンサ170と、を備えている。
【0094】
前記リフトセンサ17によれば、ターゲット171がバルブ160と一体的に変位し、ギャップセンサ170がターゲット171と該ギャップセンサ170の相対距離に相関した電気信号を出力する。よって、バルブ160が全閉状態にあるときのギャップセンサ170の出力信号値を予め記憶しておき、その出力信号値と現時点におけるギャップセンサ170の出力信号値との偏差を算出することにより、バルブ160のリフト量(開度)を特定することができる。
【0095】
したがって、ECU16は、燃料噴射弁4による燃料噴射が実施されているときのリフトセンサ17の出力信号(中間開度θ)をパラメータとして燃料噴射量を補正すればよい。具体的には、ECU16は、中間開度θから補正係数(以下、「リフト補正係数」と称する)を演算し、内燃機関1の運転状態(機関回転数、吸入空気量、アクセル開度、冷却水温度など)に応じて定まる燃料噴射量(燃料噴射時間)etauに前記リフト補正係数を乗算すればよい。その際、リフト補正係数は、1以上の整数であって、リフトセンサ17の出力信号(中間開度θ)が大きくなるほど大きな値に設定されればよい。リフト補正係数と中間開度θとの関係は、予め実験的に求めておくとともに、ECU16のROMなどにマップとして記憶されていてもよい。
【0096】
なお、前記中間開度θは、CNGの不活性ガス濃度に加え、レギュレータ15より上流におけるCNGの圧力(以下、「上流側圧力」と称する)によっても変化する。たとえば、CNGの不活性ガス濃度が一定である場合は、上流側圧力が高くなるほど、該レギュレータを通過するCNGの体積流量が大きくなる。そのため、CNGの不活性ガス濃度及び減圧室152aの圧力が一定である場合は、
図7に示すように、上流側圧力が高くなるほど、前記中間開度θが小さくなる。
【0097】
したがって、ECU16は、前記中間開度θとCNGの不活性ガス濃度との相関に加え、前記中間開度θと上流側圧力との相関を利用して、燃料噴射量を補正することが望ましい。具体的には、ECU16は、上流側圧力から補正係数(以下、「圧力補正係数」と称する)を演算し、該圧力補正係数と前記リフト補正係数を燃料噴射量(燃料噴射時間)etauに乗算すればよい。ここで、圧力補正係数は、1以上の整数であって、上流側圧力が高くなるほど大きな値に設定されればよい。圧力補正係数と上流側圧力との関係は、予め実験的に求めておくとともに、ECU16のROMなどにマップとして記憶されていてもよい。
【0098】
なお、前記上流側圧力としては、前記圧力センサ10の出力信号を用いてもよい。また、前記上流側圧力は上流側燃料供給管11aの温度や燃料タンク2の温度に相関するため、吸気温度センサ8の出力信号を上流側圧力の相関値として用いてもよい。
【0099】
以上述べたように、前記中間開度θ及び前記上流側圧力に基づいて燃料噴射量(燃料噴射時間)etauが補正されると、補正後の燃料噴射量(燃料噴射時間)etauは、CNGの性状変化に伴う理論空燃比の変化を補償可能な量となる。その結果、CNGの補給後において内燃機関1が初めて運転されるときに、A/Fセンサ9が活性していなくても、混合気の空燃比を目標空燃比と同等若しくは近似させることができる。
【0100】
以下、本実施例における燃料噴射量(燃料噴射時間)etauの決定手順について
図8に沿って説明する。
図8は、燃料噴射量演算ルーチンを示すフローチャートである。燃料噴射量演算ルーチンは、予めECU16のROMに記憶されており、内燃機関1の始動時(イグニッションスイッチがオンにされたとき)にECU16によって実行される。
【0101】
燃料噴射量演算ルーチンでは、ECU16は、先ずS101において、イグニッション
スイッチがオン(IG=ON)にされたか否かを判別する。S101において否定判定された場合(IG=OFF)は、ECU16は、本ルーチンの実行を終了する。S101において肯定判定された場合(IG=ON)は、ECU16は、S102へ進む。
【0102】
S102では、ECU16は、燃料噴射弁4による燃料噴射が開始されているか否かを判別する。S102において否定判定された場合は、ECU16は、前記S101へ戻る。一方、S102において肯定判定された場合は、ECU16は、S103へ進む。
【0103】
S103では、ECU16は、空燃比フィードバック制御の実行条件が成立しているか否かを判別する。空燃比フィードバック制御の実行条件は、A/Fセンサ9が活性していることである。A/Fセンサ9の活性は、A/Fセンサ9の温度が活性温度以上であること、冷却水温度が所定温度(A/Fセンサ9の温度が活性温度以上になるときの冷却水温度)以上であること、或いはA/Fセンサ9より下流の排気温度が所定温度(A/Fセンサ9の温度が活性温度以上になるときの排気温度)以上であること等を条件として判定される。
【0104】
前記S103において肯定判定された場合は、ECU16は、S104へ進む。S104では、ECU16は、空燃比フィードバック制御を実行する。具体的には、ECU16は、別途設定されるサブルーチンに従って空燃比フィードバック制御を実行する。前記サブルーチンでは、ECU16は、先ず、A/Fセンサ9により検出される空燃比と目標空燃比との差に基づいて空燃比フィードバック補正値efafを演算する。次いで、ECU16は、空燃比フィードバック補正値efafを前記式(2)に代入することにより、空燃比フィードバック補正係数ekafを演算する。さらに、ECU16は、空燃比フィードバック補正係数ekafを前記式(3)に代入することにより燃料噴射量(燃料噴射時間)etauを演算する。なお、前記サブルーチンは、空燃比フィードバック制御実行条件が成立する限り、ECU16によって繰り返し実行される。また、ECU16は、空燃比フィードバック補正値efafの絶対値(|efaf|)の大きさ、又は内燃機関1の全運転領域における空燃比学習値efgafの平均値efgafaveの大きさに基づいて、不活性ガス濃度学習値eknco2の学習処理を実行する。
【0105】
このように空燃比フィードバック制御及び不活性ガス濃度学習値eknco2の学習処理が実施されると、CNGの性状が変化した場合(CNGの不活性ガス濃度が変化した場合)に、燃料噴射量(燃料噴射時間)etauは、変化後の性状に適した燃料噴射量(燃料噴射時間)になる。つまり、燃料噴射量(燃料噴射時間)etauは、混合気の空燃比が目標空燃比に一致する燃料噴射量(燃料噴射時間)になる。その結果、CNGの性状変化によって、混合気の空燃比が目標空燃比から乖離する事態を回避することができる。
【0106】
ECU16は、S104の処理を実行した後にS105へ進み、イグニッションスイッチがオフにされたか否かを判別する。S105において肯定判定された場合は、ECU16は、本ルーチンの実行を終了する。一方、S105において否定判定された場合は、ECU16は、S103へ戻る。
【0107】
また、前記S103において否定判定された場合は、ECU16は、S106へ進む。S106では、ECU16は、リフトセンサ17の出力信号(中間開度)θと圧力センサ10の出力信号(上流側圧力)Puを読み込む。なお、ECU16がS106の処理を実行することにより、本発明に係わる「検出手段」が実現される。
【0108】
S107では、ECU16は、前記S106で読み込まれた中間開度θと上流側圧力Puからリフト補正係数f(θ)と圧力補正係数g(Pu)を演算する。
【0109】
S108では、ECU16は、内燃機関1の運転状態に応じて定まる燃料噴射量(燃料噴射時間)etauに前記S107で算出されたリフト補正係数f(θ)と圧力補正係数g(Pu)を乗算することにより、燃料噴射量(燃料噴射時間)etauを補正する。ECU16がS108の処理を実行することにより、本発明に係わる「補正手段」が実現される。
【0110】
ECU16は、前記S108の処理を実行し終えると、前記S103以降の処理を再度実行する。
【0111】
以上述べたようにECU16が
図8の燃料噴射量演算ルーチンを実行すると、CNGの性状が変化した場合(CNGの不活性ガス濃度が変化した場合)に、燃料噴射量(燃料噴射時間)etauは、変化後の性状に適した燃料噴射量(燃料噴射時間)になる。つまり、燃料噴射量(燃料噴射時間)etauは、混合気の空燃比が目標空燃比に一致する燃料噴射量(燃料噴射時間)になる。その結果、CNGの性状変化によって、混合気の空燃比が目標空燃比から乖離する事態を回避することができる。さらに、CNGの補給後において内燃機関1が初めて運転されるときにA/Fセンサ9が活性していなくとも、燃料噴射量(燃料噴射時間)etauをCNGの性状に適した量にすることができる。よって、内燃機関1の始動時からA/Fセンサ9が活性するまでの期間において、混合気の空燃比が目標空燃比から乖離する事態も回避することができる。
【0112】
<実施例2>
次に、本発明の第2の実施例について
図9乃至
図14に基づいて説明する。ここでは、前述した第1の実施例と異なる構成について説明し、同様の構成については説明を省略する。
【0113】
前述した第1の実施例では、CNGの性状に応じて燃料噴射量(燃料噴射時間)を補正する例について述べたが、本実施例では、CNGの性状に応じて点火タイミングを補正する例について述べる。
【0114】
CNGの不活性ガス濃度が高いときは低いときに比べ、混合気の燃焼速度が遅くなる。混合気の燃焼速度が遅くなると、内燃機関1の出力が低下したり、排気の温度が不要に高くなったりする可能性がある。
【0115】
そこで、本実施例では、ECU16は、CNGの性状が変化した場合に、CNGの不活性ガス濃度に応じて点火タイミングを補正するようにした。たとえば、ECU16は、CNGの不活性ガス濃度が高いときは低いときに比べ、点火タイミングが早く(進角)されるような補正を行う。
【0116】
なお、CNGの不活性ガス濃度は、前述した不活性ガス濃度学習値eknco2の大きさ、或いはリフト補正係数f(θ)の大きさに比例する。たとえば、不活性ガス濃度学習値eknco2は、
図9に示すように、CNGの不活性ガス濃度が高くなるほど大きくなる。また、リフト補正係数f(θ)の大きさは、
図10に示すように、CNGの不活性ガス濃度が高くなるほど大きくなる。したがって、ECU16は、A/Fセンサ9が活性しているときは、
図11に示すように、不活性ガス濃度学習値eknco2が大きくなるほど、点火タイミングが早くなるように補正を行えばよい。また、ECU16は、A/Fセンサ9が活性していないときは、
図12に示すように、リフト補正係数f(θ)が大きくなるほど、点火タイミングが早くなるように補正を行えばよい。
【0117】
このように点火タイミングの補正が実施されると、CNGの性状が変化した場合であっても、混合気の燃焼終了時期を所望の時期にすることができる。その結果、内燃機関1の
出力が低下したり、又は排気の温度が不要に高くなったりする事態を回避することができる。
【0118】
なお、ECU16は、EGRシステムを備えた内燃機関においては、点火タイミングの代わりにEGRガス量を補正してもよい。たとえば、ECU16は、A/Fセンサ9が活性しているときは、
図13に示すように、不活性ガス濃度学習値eknco2が大きくなるほど、EGRガス量が少なくなるようにEGR弁の開度を補正してもよい。また、ECU16は、A/Fセンサ9が活性していないときは、
図14に示すように、リフト補正係数f(θ)が大きくなるほど、EGRガス量が少なくなるようにEGR弁の開度を補正してもよい。
【0119】
吸気バルブと排気バルブの少なくとも一方の開閉タイミングを変更可能な可変動弁機構を備えた内燃機関においては、ECU16は、不活性ガス濃度学習値eknco2の大きさ、或いはリフト補正係数f(θ)の大きさに応じて、吸気バルブおよびまたは排気弁の開閉タイミングを補正してもよい。たとえば、ECU16は、A/Fセンサ9が活性しているときは、不活性ガス濃度学習値eknco2が大きくなるほど、気筒3内に残留する既燃ガス(内部EGRガス)が少なくなるように可変動弁機構を制御してもよい。また、ECU16は、A/Fセンサ9が活性していないときは、リフト補正係数f(θ)が大きくなるほど、気筒3内に残留する既燃ガス(内部EGRガス)が少なくなるように可変動弁機構を制御してもよい。
【0120】
上記した種々の方法により、気筒3内のEGRガス量が補正されると、CNGの不活性ガス濃度が変化した場合であっても、混合気に含まれる不活性ガスの濃度の変化を抑制することができる。その結果、CNGの不活性ガス濃度が変化した場合に、混合気の燃焼速度が変化することを抑制することができる。
【0121】
次に、可変動弁機構を備えた内燃機関においては、ECU16は、点火タイミングやEGRガス量を補正する代わりに、吸気が気筒3内へ流入する際の速度を変更するように可変動弁機構を制御してもよい。たとえば、ECU16は、A/Fセンサ9が活性しているときは、不活性ガス濃度学習値eknco2が大きくなるほど、吸気の流速が速くなるように可変動弁機構を制御してもよい。また、ECU16は、A/Fセンサ9が活性していないときは、リフト補正係数f(θ)が大きくなるほど、吸気の流速が速くなるように可変動弁機構を制御してもよい。
【0122】
CNGの不活性ガス濃度が高いときに吸気の流速が速められると、混合気が燃焼する際の火炎伝播速度を速めることができる。その結果、CNGの不活性ガス濃度が高くなった場合に、混合気の燃焼速度の低下を抑制することができる。
【0123】
なお、前述した第1の実施例で述べたように、中間開度θはCNGの不活性ガス濃度に加え、上流側圧力Puにも影響される。よって、ECU16は、A/Fセンサ9が活性していないときに、中間開度θに基づくリフト補正係数f(θ)と上流側圧力Puに基づく圧力補正係数g(Pu)との乗算値(=f(θ)*g(Pu))をパラメータとして、点火タイミング、EGR弁の開度、吸排気バルブの開閉タイミングを補正してもよい。
【0124】
以上述べた第1及び第2の実施例では、CNGが気筒内に噴射される内燃機関に本発明を適用する例について述べたが、CNGが吸気通路(吸気ポート)に噴射される内燃機関に本発明を適用してもよいことは勿論である。また、第1及び第2の実施例では、CNGを燃料とする内燃機関に本発明を適用する例について述べたが、CNGと液体燃料(ガソリンやアルコール燃料など)を選択的に使用する内燃機関に本発明を適用することも可能である。
【0125】
また、前述した第1及び第2の実施例では、A/Fセンサ9が活性していないときに、レギュレータ15のバルブ160の中間開度θに応じて、混合気の燃焼状態に係わる制御パラメータ(燃料噴射量、点火タイミング、EGR弁の開度、吸排気バルブの開閉タイミングなど)を補正するシステムについて述べたが、中間開度θからCNGの不活性ガス濃度を特定する装置を構成することもできる。すなわち、ECU16は、前述した
図6に示したような中間開度θと不活性ガス濃度との相関を利用して、CNGの不活性ガス濃度を演算してもよい。その際、ECU16は、上流側圧力Puと中間開度θとの関係(たとえば、前述の
図7に示したような関係)も考慮してCNGの不活性ガス濃度を演算することが望ましい。具体的には、ECU16は、上流側圧力Puに応じてリフトセンサ17の出力信号を補正し、補正後の値と
図6に示したような関係とから不活性ガス濃度を演算してもよい。