特許第5792667号(P5792667)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5792667
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】センサ診断装置及びセンサ診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01D 18/00 20060101AFI20150928BHJP
   G01D 21/00 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   G01D18/00
   G01D21/00 Q
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-61660(P2012-61660)
(22)【出願日】2012年3月19日
(65)【公開番号】特開2013-195188(P2013-195188A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2014年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】特許業務法人開知国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077816
【弁理士】
【氏名又は名称】春日 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100156524
【弁理士】
【氏名又は名称】猪野木 雄一
(72)【発明者】
【氏名】金田 昌基
(72)【発明者】
【氏名】有田 節男
(72)【発明者】
【氏名】多田 伸雄
(72)【発明者】
【氏名】大城戸 忍
【審査官】 榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−075373(JP,A)
【文献】 特開2006−250541(JP,A)
【文献】 特開2003−207373(JP,A)
【文献】 特開2009−003758(JP,A)
【文献】 特開2003−271231(JP,A)
【文献】 特開2003−044123(JP,A)
【文献】 特開平04−151515(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 21/00
G01D 18/00
G21C 17/00
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラント運転中に、前記プラントのプロセス値を計測するセンサのドリフト量を推定して、前記センサを診断するセンサ診断装置であって、
他プラントにおける前記センサと同じ計測対象または同じ型式の他のセンサの校正データである暫定校正データを格納した暫定校正データベースと、
前記センサの校正作業で得た新規校正データを格納した新規校正データベースと、
前記暫定校正データベース及び前記新規校正データベースから正規分布検定に必要な数の校正データを抽出するデータ抽出手段と、
前記データ抽出手段で抽出した校正データが正規分布に従うか否かを検定する正規分布検定手段と、
前記センサのドリフト分布のデータを格納したドリフト分布データベースと、
前記正規分布検定手段で前記校正データが正規分布に従うと判定された場合に、前記抽出した校正データに基づいて前記センサのドリフト分布を計算し、前記ドリフト分布データベースにおける前記センサのドリフト分布のデータを更新するドリフト分布更新手段と、
前記センサが計測した前記プラントのプロセス値を入力するプロセス値入力手段と、
前記プロセス値入力手段から入力したプロセス値を用いて前記センサの推定ドリフト量を計算するドリフト推定手段と、
前記推定ドリフト量と前記ドリフト分布データベースの更新された前記センサのドリフト分布のデータとを比較して、前記センサのドリフトを診断し、診断結果を出力するドリフト診断手段とを備えた
ことを特徴とするセンサ診断装置。
【請求項2】
請求個1に記載のセンサ診断装置において、
前記データ抽出手段は、前記正規分布検定手段で前記校正データが、正規分布に従わないと判定された場合に、前記暫定校正データベース及び前記新規校正データベースから、再度新たな校正データを抽出する
ことを特徴とするセンサ診断装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のセンサ診断装置において、
前記プラントのプロセス値は、温度または圧力または差圧または水位または流量である
ことを特徴とするセンサ診断装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のセンサ診断装置において、
前記ドリフト診断手段の診断結果を表示する診断結果表示装置を更に備えた
ことを特徴とするセンサ診断装置。
【請求項5】
プラント運転中に、前記プラントのプロセス値を計測するセンサのドリフト量を推定して、前記センサの推定ドリフト量を評価するセンサ診断方法であって、
暫定校正データベースに格納された他プラントにおける前記センサと同じ計測対象または同じ型式の他のセンサの校正データである暫定校正データを用いて、前記センサの初期状態としてのドリフト分布データを作成し、ドリフト分布データベースに格納するステップと、
前記センサの校正作業で得た新規校正データを新規校正データベースに格納するステップと、
前記暫定校正データの一部と前記新規校正データとを用いて、正規分布検定手段が正規分布の検定を行うステップと、
前記正規分布検定手段で暫定校正データの一部と前記新規校正データとが正規分布に従うと判定された場合に、ドリフト分布更新手段において、これらの校正データに基づいて前記センサのドリフト分布を計算し、前記ドリフト分布データベースに格納されていた初期状態としてのドリフト分布データを更新するステップと、
前記センサが計測した前記プラントのプロセス値を用いて前記プラント運転中における前記センサの推定ドリフト量を、ドリフト量推定手段によって計算するステップと、
前記更新された前記センサのドリフト分布データを用いて、ドリフト診断手段によって前記センサの推定ドリフト量を評価し出力するステップとを備えた
ことを特徴とするセンサ診断方法。
【請求項6】
請求個5に記載のセンサ診断方法において、
前記正規分布検定手段で暫定校正データの一部と前記新規校正データとが正規分布に従わないと判定された場合には、前記新規校正データの一部を減らして新たな校正データを形成して、再度、正規分布検定手段が正規分布の検定を行うステップを更に備えた
ことを特徴とするセンサ診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ診断装置及びセンサ診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントにおける機器の状態監視は、機器に取り付けられた温度計や圧力計等のセンサ(検出器)によって行われる。このため、このため、センサにドリフトが発生して、計測値が正しい値からずれていれば、機器の状態を正確に診断することができない。センサによって計測した機器のプロセス値に何らかの異常が認められた場合に、機器を保守すべきか、センサを保守すべきかを判断するためには、機器の異常とセンサドリフトとを区別する必要がある。また、何らかの異常を検知した場合、センサのドリフトが原因であっても、それを区別できなければ、原子力プラントの停止に至る可能性もある。したがって、機器の異常とセンサドリフトとの区別は重要な課題となっている。
【0003】
プラント運転中に、センサドリフトを診断する一の方法として、定期検査時に得られたセンサの校正データベースを用いてドリフト分布を設定し、このドリフト分布を用いることで、センサドリフトと機器の異常とを区別するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、プラント運転中に、センサドリフトを診断する他の方法として、被検出対象に設けられた互いに相関のある複数の検出器から供給された検出器信号を受け取る工程と、前記被検出対象に応じて用意された、真値を推定するための推定モデルを用い、前記検出器信号の実測値に基づいて真値を推定する工程と、検出器のフルスパンに渡ってドリフト量を推定する工程と、推定された真値、前記実測値、前記ドリフト特性およびドリフト量推定結果を出力する工程と、を含むことを特徴とする検出器校正支援方法がある(例えば、特許文献2参照)。この方法では、定期検査時の校正試験で得られたセンサのドリフト量と平均値や標準偏差などの統計量とを記録したデータベースに基づいて、プラント運転中のセンサのドリフト量を推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−75373号公報
【特許文献2】特開2003−207373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1及び2に記載の方法においては、いずれも、定期検査時に得られたセンサの校正データベースを用いて、プラント運転中のセンサドリフトを評価している。このため、例えば、センサの校正データベースが存在しない新設の原子力プラントの場合、評価に必要とする校正データ量が蓄積されるまでの期間は、プラント運転中のセンサドリフト評価は、実行できない虞がある。
【0007】
特許文献1には、新設の原子力プラントの場合、既設の他の原子力プラントに設けられた同じセンサの校正データを利用する旨の記載がある。しかし、このようなセンサは、使用環境が異なるため、センサのドリフト発生の傾向が異なる可能性がある。このため、他原子力プラントのセンサの校正データを暫定的に用いたとしても、対象センサの校正データが得られれば、校正データベースを更新することが望ましい。このような校正データベースの更新方法については、特許文献1及び特許文献2には、記載されていない。
【0008】
本発明は、上述の事柄に基づいてなされたもので、その目的は、新設プラント等におけるセンサの校正データが存在しないか十分でない場合において、暫定的な校正データを用いてドリフト分布を評価し、新たに得た校正データを用いてドリフト分布を更新することで、センサドリフトとセンサドリフト以外の機器異常とを区別可能なセンサ診断装置およびセンサ診断方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。本願は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、プラント運転中に、前記プラントのプロセス値を計測するセンサのドリフト量を推定して、前記センサを診断するセンサ診断装置であって、他プラントにおける前記センサと同じ計測対象または同じ型式の他のセンサの校正データである暫定校正データを格納した暫定校正データベースと、前記センサの校正作業で得た新規校正データを格納した新規校正データベースと、前記暫定校正データベース及び前記新規校正データベースから正規分布検定に必要な数の校正データを抽出するデータ抽出手段と、前記データ抽出手段で抽出した校正データが正規分布に従うか否かを検定する正規分布検定手段と、前記センサのドリフト分布のデータを格納したドリフト分布データベースと、前記正規分布検定手段で前記校正データが正規分布に従うと判定された場合に、前記抽出した校正データに基づいて前記センサのドリフト分布を計算し、前記ドリフト分布データベースにおける前記センサのドリフト分布のデータを更新するドリフト分布更新手段と、前記センサが計測した前記プラントのプロセス値を入力するプロセス値入力手段と、前記プロセス値入力手段から入力したプロセス値を用いて前記センサの推定ドリフト量を計算するドリフト推定手段と、前記推定ドリフト量と前記ドリフト分布データベースの更新された前記センサのドリフト分布のデータとを比較して、前記センサのドリフトを診断し、診断結果を出力するドリフト診断手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、新設プラント等におけるセンサの校正データが存在しないか十分でない場合においても、センサドリフトとセンサドリフト以外の機器異常とを区別可能なセンサ診断を実施できる。また、校正データが蓄積されればドリフト分布を更新してセンサ診断を実施できる。この結果、プラントに設けられた機器の異常判定の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のセンサ診断装置の第1の実施の形態を示す機器の構成図である。
図2図1に示す暫定校正データベース又は新規校正データベースに格納された校正データの一例を示す表図である。
図3図1に示すドリフト分布データベースに格納されたセンサのドリフト分布データの一例を示す表図である。
図4図1に示すデータ入力装置におけるセンサのプロセス値の一例を示す表図である。
図5図1に示すドリフト量推定手段におけるセンサの推定ドリフト量の一例を示す表図である。
図6図1に示すセンサ状態診断手段におけるセンサのドリフト分布の上限値と下限値の一例を示す表図である。
図7図1に示す診断結果表示装置における表示画面の一例を示す画面図である。
図8】本発明のセンサ診断装置の第1の実施の形態におけるドリフト分布の更新処理の内容を示すフローチャート図である。
図9】本発明のセンサ診断装置の第1の実施の形態におけるセンサ診断処理の内容を示すフローチャート図である。
図10】本発明のセンサ診断装置の第2の実施の形態におけるドリフト分布の更新処理の内容を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明のセンサ診断装置及びセンサ診断方法の実施の形態を図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は本発明のセンサ診断装置の第1の実施の形態を示す機器の構成図である。
図1において、センサ診断装置は、暫定校正データベース1と、新規校正データベース2と、データ抽出手段3と、正規分布検定手段4と、ドリフト分布更新手段5と、ドリフト分布データベース6と、センサ7と、データ入力装置8と、ドリフト量推定手段9と、センサ状態診断手段10と、診断結果表示装置11とを備えている。ここで、データ抽出手段3と、正規分布検定手段4と、ドリフト分布更新手段5と、ドリフト量推定手段9と、センサ状態診断手段10とは、例えば、計算機等の演算手段によって実行されるものである。また、暫定校正データベース1と、新規校正データベース2と、ドリフト分布データベース6と、データ入力装置8とは、計算機と別個に設けても良いが、計算機内に含めた構成であっても良い。
【0014】
暫定校正データベース1には、診断対象センサのドリフト分布を暫定的に作成するための校正データが格納されている。例えば、新設プラント(イ)の給水流量センサAを診断対象センサとするとき、新設時には校正データが存在しないので、既設プラント(ロ)の給水流量センサAの校正データを格納する。また、既設プラント(ロ)の給水流量センサAと冗長化された既設プラント(ロ)の給水流量センサBとは同等と考えられるので、既設プラント(ロ)の給水流量センサBの校正データも暫定校正データベース1に格納してもよい。なお、暫定校正データベース1に格納する校正データは、あらかじめドリフト量が正規分布に従うことを確認しておく。
【0015】
新規校正データベース2には、診断対象センサの校正データが存在する場合にその校正データが格納されている。例えば、新設プラント(イ)の給水流量センサAを診断対象センサとするとき、校正作業によって新設プラント(イ)の給水流量センサAの校正データが得られた場合にその校正データを格納する。また、新設プラント(イ)の給水流量センサAと冗長化された新設プラント(イ)の給水流量センサBは同等と考えられるので、新設プラント(イ)の給水流量センサBの校正データも新規校正データベース2に格納してもよい。
【0016】
図2図1に示す暫定校正データベース又は新規校正データベースに格納された校正データの一例を示す表図である。図2において、給水流量センサAの校正データには、校正作業時に加えた基準値と校正前の出力値とが記載されていて、基準値と校正前の出力値との差がドリフト量として記載されている。このドリフト量を記録した後に、必要に応じてセンサの校正作業が行われる。また、校正データは、各センサについて校正作業毎に得られ、その校正日と、前回校正日からの期間である校正間隔とが記載されている。
【0017】
図1に戻り、データ抽出手段3は、暫定校正データベース1と新規校正データベース2とから校正データを抽出する。センサのドリフト分布が正規分布であるが否かを確認するためには、目安として30点の校正データを必要とする。本実施の形態において、データ抽出手段3は、暫定校正データと新規校正データとの中から、校正日の新しいものから順に30点を抽出している。
【0018】
正規分布検定手段4は、データ抽出手段3で抽出した校正データについて、センサのドリフト量が正規分布に従っているかどうかを検定する。正規分布の検定は、カイニ乗検定など一般的によく知られた方法を用いる。この検定手段により、データ抽出手段3で抽出した校正データが正規分布でない場合には、データ抽出手段3に戻り、新たに、次の校正データを抽出する。具体的には、例えば、暫定校正データと新規校正データとの中から、校正日の2番目に新しいものから順に30点を抽出する。その後、再度、この校正データについて、センサのドリフト量が正規分布に従っているかどうかを検定する。
【0019】
ドリフト分布更新手段5は、正規分布検定手段4で正規分布に従うと判定された校正データを用いてドリフト分布を計算し、ドリフト分布データベース6のデータを更新する。
【0020】
ドリフト分布データベース6には、各センサのドリフト分布のデータが格納されている。図3図1に示すドリフト分布データベースに格納されたセンサのドリフト分布データの一例を示す表図である。図3において、給水流量センサAのドリフト分布は、基準値ごとの平均と標準偏差とによって与えられている。
【0021】
図1に戻り、センサ7は、プラントのプロセス値である温度、圧力、差圧、水位、流量などを計測するセンサ(検出器)である。
【0022】
データ入力装置8は、センサ7で計測したプラントのプロセス値をディジタル信号に変換し、ドリフト量推定手段9へ入力するものである。図4図1に示すデータ入力装置におけるセンサのプロセス値の一例を示す表図である。図4において、各計測日時における各センサ(給水流量センサA、給水流量センサB、主蒸気流量センサ、復水流量センサ)のプロセス値が示されている。
【0023】
ドリフト量推定手段9は、データ入力装置8で入力したセンサ7のプロセス値を用いて、センサ7のドリフト量を推定する。ドリフト量の推定方法は、ニューラルネットを使う方法など周知の方法を用いるので詳細な説明は省略する。ドリフト量の推定方法の概略は、まず、データ入力装置8からプラント起動後1カ月間などセンサ7のドリフトが発生していない時期のプロセス値を入力し、正常データとして学習する。次に、計測したプロセス値を正常データと比較することで、センサのドリフト量を推定する。図5は、図1に示すドリフト量推定手段におけるセンサの推定ドリフト量の一例を示す表図である。図5においては、給水流量センサAの各計測日時における推定ドリフト量が示されている。
【0024】
図1に戻り、センサ状態診断手段10は、ドリフト分布データベース6に格納された対象センサのドリフト分布の平均と標準偏差とからドリフト分布の上限値と下限値を計算し、この算出したドリフト分布の上限値と下限値と、ドリフト量推定手段9で得た推定ドリフト量とを比較することで、センサの状態を診断する。具体的には、推定ドリフト量がドリフト分布の上限値と下限値の間にあれば、通常発生するドリフトであり正常と判定する。逆に、推定ドリフト量がドリフト分布の上限値と下限値の間になければ、異常なドリフト又は機器故障などの異常と判定する。
【0025】
また、センサ状態診断手段10は、その診断結果を診断結果表示装置11へ出力する。図6図1に示すセンサ状態診断手段におけるセンサのドリフト分布の上限値と下限値の一例を示す表図である。図6においては、給水流量センサAの各計測日時におけるドリフト分布の上限値と下限値とが示されている。
【0026】
ドリフト分布の上限値と下限値は、例えば次の手順で計算する。
校正間隔t0におけるドリフト量の平均μ0、標準偏差σ0とすると、正規分布の再現性から、校正後の任意の時刻t1における平均μ、標準偏差σは、次の式(1)及び式(2)に従って算出される。
μ=μ0×t1/t0・・・・(1)
σ=σ0×(t/t0)^0.5・・・・(2)
ドリフト分布を95%信頼区間とすれば、ドリフト分布の上限値はμ+2σ、下限値はμ−2σで得ることができる。これらを基準値ごとに計算し、センサ出力値におけるドリフト分布の上限値と下限値は、内挿して得ることができる。
【0027】
診断結果表示装置11は、センサ状態診断手段10で得られたセンサ状態診断の結果を表示するものであって、例えば、プラントにおける運転監視ディスプレイ等において、診断結果を表示する。図7図1に示す診断結果表示装置における出力画面の一例を示す画面図である。図7においては、給水流量センサAの推定ドリフト量とドリフト分布上限値とドリフト分布下限値との時系列の変動を表示していて、推定ドリフト量がドリフト分布の上限値と下限値の間にあるので、給水流量センサAの診断結果を正常と表示している。
【0028】
次に、センサ診断装置のドリフト分布の更新処理について図8を用いて説明する。図8は本発明のセンサ診断装置の第1の実施の形態におけるドリフト分布の更新処理の内容を示すフローチャート図である。ここでは、例として給水流量センサAの場合について説明する。
【0029】
まず、データ抽出手段3が、校正データを入力する(ステップS101)。具体的には、データ抽出手段3が、暫定校正データベース1と新規校正データベース2とから校正データを抽出し、正規分布検定手段4に校正データを入力する。例えば、給水流量センサAの暫定校正データと新規校正データとの内、校正日の新しいものから順に30点を入力する。すなわち、新規校正データベース2から優先して校正データが入力される。
【0030】
正規分布検定手段4が、入力した校正データの正規分布検定を行う(ステップS102)。正規分布の検定は、カイニ乗検定など一般的によく知られた方法を用いる。
【0031】
正規分布検定手段4が、(ステップS102)で行った検定の結果について正規分布であるか否かを判定する(ステップS103)。検定の結果が正規分布である場合は、(ステップS104)に進み、正規分布でなかった場合は、(ステップS101)へ戻る。
【0032】
ここで、(ステップS101)に戻った場合、データ抽出手段3は、新しい校正データを順に除いて、古い校正データを含む30点の校正データを抽出し、正規分布検定手段4に校正データを入力する。その後、(ステップS102)と(ステップS103)とを行い、(ステップS103)で検定の結果が正規分布となるまで、これらの処理を繰り返す。換言すると、正規分布が得られるまで、給水流量センサAの校正データの抽出が繰り返され、その方法としては、新しい校正データを順に除いて、除いた校正データに代えて古い校正データを含む30点の校正データの抽出が実行される。
【0033】
ドリフト分布更新手段5が、(ステップS103)で正規分布が確認された給水流量センサAの校正データを用いて平均と標準偏差とを計算する(ステップS104)。
【0034】
ドリフト分布更新手段5が、ドリフト分布データベース6のデータを更新する(ステップS105)。(ステップS101)から(ステップS105)までの手順は、例えば、定期検査等で、給水流量センサAの校正データが蓄積されるたびに実行される。
【0035】
したがって、例えば、新設のプラントの場合には、暫定校正データベース1からの暫定校正データによって、ドリフト分布データベース6に給水流量センサAの初期状態のドリフト分布データが格納される。そして、初回定期検査において、給水流量センサAの校正作業が行われると、その校正データが新規校正データベース2に格納される。
【0036】
データ抽出手段3は、新規校正データベース2から優先して校正データを正規分布検定手段4に入力するので、初回定期検査の校正データを含む更新された校正データが、入力される。この更新された校正データが正規分布である場合には、この更新された校正データを用いて、ドリフト分布更新手段5が平均と標準偏差とを計算し、ドリフト分布データベース6のデータを更新する。
【0037】
次に、センサ診断装置のセンサ診断処理について図9を用いて説明する。図9は本発明のセンサ診断装置の第1の実施の形態におけるセンサ診断処理の内容を示すフローチャート図である。ここでは、例として給水流量センサAの場合について説明する。
【0038】
まず、データ入力装置8が、給水流量センサAで計測したプラントのプロセス値をドリフト量推定手段9へ入力する(ステップS201)。プラント運転時においては、プラントに設けられた給水流量センサAでの計測信号が、データ入力装置8へ入力され、ディジタル変換したプロセス値(給水流量計測信号)がドリフト量推定手段9へ入力される。
【0039】
ドリフト量推定手段9が、給水流量センサAか計測したプロセス値を用いて、給水流量センサAのドリフト量を推定する(ステップS202)。給水流量センサAのドリフト量は、図5に示すように、各計測日時におけるものが推定されている。
【0040】
センサ状態診断手段10が、ドリフト分布データベース6に格納された給水流量センサAのドリフト分布の平均と標準偏差とからドリフト分布の上限値と下限値とを計算する(ステップS203)。
【0041】
センサ状態診断手段10が、給水流量センサAの状態を診断するために、(ステップS202)で推定した推定ドリフト量と(ステップS203)で計算したドリフト分布の上限値と下限値とを比較する(ステップS204)。
【0042】
(ステップS204)の比較により、センサ状態診断手段10は、推定ドリフト量がドリフト分布の上限値未満か否かを判断する(ステップS205)。推定ドリフト量がドリフト分布の上限値未満であれば、(ステップS206)へ進み、それ以外であれば、(ステップS208)へ進む。
【0043】
センサ状態診断手段10は、推定ドリフト量がドリフト分布の下限値超過か否かを判断する(ステップS205)。推定ドリフト量がドリフト分布の下限値超過であれば、(ステップS207)へ進み、それ以外であれば、(ステップS208)へ進む。
【0044】
センサ状態診断手段10は、推定ドリフト量がドリフト分布の上限値と下限値の間にあるので、通常発生するドリフトであると判断し、給水流量センサAは正常である判定する(ステップS207)。
【0045】
センサ状態診断手段10は、推定ドリフト量がドリフト分布の上限値と下限値の間にないので、給水流量センサAの異常なドリフト又は機器故障などの異常である判定する(ステップS208)。
【0046】
センサ状態診断手段10は、センサ状態診断の結果を診断結果表示装置11に出力する(ステップS209)。給水流量センサAのセンサ状態診断の結果を図7に示す。推定ドリフト量がドリフト分布の上限値と下限値の間にあるので、給水流量センサAの診断結果を正常と表示している。(ステップS201)から(ステップS209)までの手順は、例えば、プラント運転中に、給水流量センサAがプロセス値を入力するたびに実行される。
【0047】
上述した本発明のセンサ診断装置及びセンサ診断方法の第1の実施の形態によれば、新設プラント等におけるセンサ7の校正データが存在しないか十分でない場合においても、センサドリフトとセンサドリフト以外の機器異常とを区別可能なセンサ診断を実施できる。また、センサ7の校正データが蓄積されればドリフト分布を更新してセンサ診断を実施できる。この結果、プラントに設けられた機器の異常判定の精度を向上させることができる。
【0048】
また、上述した本発明のセンサ診断装置及びセンサ診断方法の第1の実施の形態によれば、センサ7の校正データが存在しないか十分でない場合において、暫定的な校正データを用いてドリフト分布を評価し、新たに得た校正データを用いてドリフト分布を更新することで、ドリフトとドリフト以外の機器異常とを区別可能なセンサ診断を実施できる。
【実施例2】
【0049】
以下、本発明のセンサ診断装置及びセンサ診断方法の第2の実施の形態を図面を用いて説明する。図10は本発明のセンサ診断装置の第2の実施の形態におけるドリフト分布の更新処理の内容を示すフローチャート図である。
【0050】
本発明のセンサ診断装置及びセンサ診断方法の第2の実施の形態において、センサ診断装置の構成は、第1の実施の形態と同じであるが、センサ診断装置におけるドリフト分布の更新処理の内容が異なる。
【0051】
本実施の形態におけるドリフト分布の更新処理の内容において、第1の実施の形態と異なる点について説明する。図1のデータ抽出手段3は、次の手順で校正データの抽出を行う。
(1)暫定校正データベース1と新規校正データベース2とから全ての校正データをデータ抽出手段3に入力する。
(2)データ抽出手段3は、全ての校正データから、センサのドリフト分布が正規分布であるが否かを確認するのに必要なデータ数の校正データの組み合わせを設定する。例えば、校正データが全部で40点ある場合、このうち30点の校正データを抽出する組合せのパターンをすべて設定する。なお、30点は正規分布であることを確認するために必要なデータ数の目安であり、30点に限定するものではない。
(3)設定したパターン毎の組み合わせ校正データを正規分布検定手段4に送る。
【0052】
正規分布検定手段4は、データ抽出手段3で抽出した校正データについて、センサのドリフト量が正規分布に従っているかどうかを検定する。正規分布の検定には、カイニ乗値を計算して、カイニ乗値が一定値以下であれば正規分布と判定するカイニ乗検定を用いる。
【0053】
次に、本実施の形態におけるセンサ診断装置のドリフト分布の更新処理について図10を用いて説明する。図10は本発明のセンサ診断装置の第2の実施の形態におけるドリフト分布の更新処理の内容を示すフローチャート図である。ここでは、例として給水流量センサAの場合について説明する。
【0054】
まず、データ抽出手段3が、校正データを入力する(ステップS301)。具体的には、暫定校正データベース1と新規校正データベース2とから全ての校正データをデータ抽出手段3に入力する。例えば、給水流量センサAの暫定校正データと新規校正データとが全部で40点ある場合、全ての校正データが入力される。
【0055】
データ抽出手段3が、校正データの組合せを設定する(ステップS302)。例えば、正規分布であることを確認するために必要なデータ数が30点の場合、給水流量センサAの40点の校正データから30点の校正データを抽出する組合せのパターンをすべて設定する。
【0056】
正規分布検定手段4が、(ステップS302)で設定された校正データの組合せの1つについて、カイニ乗値を計算する(ステップS303)。
【0057】
正規分布検定手段4は、カイニ乗値が一定値未満か否かを判断する(ステップS304)。カイニ乗値が一定値未満であれば、(ステップS305)へ進み、それ以外であれば、(ステップS302)へ戻る。
【0058】
ここで、(ステップS301)に戻った場合、データ抽出手段3は、(ステップS302)で設定された校正データの組合せの他の1つを抽出し、正規分布検定手段4に送る。その後、(ステップS303)と(ステップS304)とを行い、(ステップS304)でカイニ乗値が一定値未満となるまで、これらの処理を繰り返す。
【0059】
正規分布検定手段4は、(ステップS304)でカイニ乗値が一定値未満となった、校正データの組合せを組合せ候補として登録する(ステップS305)。
【0060】
正規分布検定手段4は、データ抽出手段3が設定した校正データの全組合せについて、カイニ乗値の計算を実施したか否かを判定する(ステップS306)。カイニ乗値の計算が全組合せについて実施されていれば、(ステップS307)へ進み、それ以外であれば、(ステップS302)へ戻る。
【0061】
正規分布検定手段4は、(ステップS305)で登録された組合せ候補の内、カイニ乗値が最小の組合せ候補を、ドリフト分布更新手段5に用いる校正データに決定する(ステップS307)。
【0062】
ドリフト分布更新手段5が、(ステップS307)でカイニ乗値が最小で正規分布が確認された給水流量センサAの校正データの組合せを用いて平均と標準偏差とを計算する(ステップS308)。
【0063】
ドリフト分布更新手段5が、ドリフト分布データベース6を更新する(ステップS309)。(ステップS301)から(ステップS309)までの手順は、例えば、定期検査等で、給水流量センサAの校正データが蓄積されるたびに実行される。
【0064】
上述した本発明のセンサ診断装置及びセンサ診断方法の第1の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な効果を得ることができる。
【0065】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 暫定校正データベース
2 新規校正データベース
3 データ抽出手段
4 正規分布検定手段
5 ドリフト分布更新手段
6 ドリフト分布データベース
7 センサ
8 データ入力装置
9 ドリフト量推定手段
10 センサ状態診断手段
11 診断結果表示装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10