特許第5792684号(P5792684)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5792684
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】ヨーダンパ装置
(51)【国際特許分類】
   B61F 5/24 20060101AFI20150928BHJP
   F16F 9/54 20060101ALI20150928BHJP
   F16F 15/023 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   B61F5/24 B
   F16F9/54
   F16F15/023 A
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-139844(P2012-139844)
(22)【出願日】2012年6月21日
(65)【公開番号】特開2014-4854(P2014-4854A)
(43)【公開日】2014年1月16日
【審査請求日】2014年9月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(74)【代理人】
【識別番号】100123696
【弁理士】
【氏名又は名称】稲田 弘明
(72)【発明者】
【氏名】宮本 岳史
(72)【発明者】
【氏名】富岡 隆弘
【審査官】 志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−241258(JP,A)
【文献】 特開平07−149235(JP,A)
【文献】 特開昭61−211159(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61F 5/24
F16F 9/54
F16F 15/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の車体と台車枠との間に設けられるヨーダンパ装置であって、
前記車体に対して所定の並進移動方向に沿って相対移動可能に支持されたヨーダンパ受梁と、
前記台車枠と前記ヨーダンパ受梁との間に設けられ、前記台車枠の前記ヨーダンパ受梁に対するヨー運動に応じた減衰力を発生するとともに前記減衰力の発生方向が前記ヨーダンパ受梁の前記移動方向にほぼ沿って配置されたダンパと
を備え
前記ヨーダンパ受梁は前記車体に対して枕木方向に沿って直進案内されるとともに、
前記ダンパは前記台車枠の前後端部に配置されること
を特徴とするヨーダンパ装置。
【請求項2】
前記ヨーダンパ受梁を車体に対する中立位置に復元させるリターンスプリングを有すること
を特徴とする請求項1に記載のヨーダンパ装置。
【請求項3】
鉄道車両の車体と台車枠との間に設けられるヨーダンパ装置であって、
前記車体に対して所定の並進移動方向に沿って相対移動可能に支持されたヨーダンパ受梁と、
前記台車枠と前記ヨーダンパ受梁との間に設けられ、前記台車枠の前記ヨーダンパ受梁に対するヨー運動に応じた減衰力を発生するとともに前記減衰力の発生方向が前記ヨーダンパ受梁の前記移動方向にほぼ沿って配置されたダンパと
を備え、
前記ヨーダンパ受梁を車体に対する中立位置に復元させるリターンスプリングを有すること
を特徴とする記載のヨーダンパ装置。
【請求項4】
前記ダンパは、前記台車枠の前記ヨーダンパ受梁に対するヨー運動の旋回中心を挟んで少なくとも一対が設けられること
を特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のヨーダンパ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の台車の車体に対するヨー方向の挙動に対して減衰力を発生するヨーダンパ装置に関し、特に台車のヨー方向以外の挙動に対する減衰力発生を抑制したものに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に鉄道車両は、車体の前後に一対の台車を、ボギー角(車体に対する台車枠の相対ヨー角)付与可能に取り付けて構成される。
こうした鉄道車両において、蛇行動等の抑制を目的として、台車枠と車体との間に、台車枠の車体に対するヨー方向の挙動に対して減衰力を発生するヨーダンパ装置を設けることが知られている。
例えば、特許文献1には、車体と台車枠との間に、両端部に防振装置を有するオイルダンパを設けて構成されるヨーダンパ装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−139100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ヨーダンパ装置は、台車枠のヨー運動の減衰には有効であるが、ダンパの軸線方向に沿った台車枠の車体に対する並進運動やピッチ運動、ロール運動に対しても減衰力を発生し、この減衰力が車体に対して加振力として作用し、車体振動が悪化するという弊害があった。
例えば、車両の走行時に台車枠は車体に対して所定の範囲で枕木方向に相対運動しているが、ヨーダンパ装置のダンパ軸線が枕木方向に沿って配置されている場合、このような台車左右動に対して減衰力が発生し、車体に対してロール振動の加振力として作用してしまう。
また、ダンパ軸線が前後方向に沿って配置されている場合、台車のピッチ運動に対して減衰力が発生し、車体下部に前後方向の加振力として作用することによって、車体曲げ振動が悪化してしまう。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、台車のヨー方向以外の挙動に対する減衰力発生を抑制したヨーダンパ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するため、本発明のヨーダンパ装置は、鉄道車両の車体と台車枠との間に設けられるヨーダンパ装置であって、前記車体に対して所定の並進移動方向に沿って相対移動可能に支持されたヨーダンパ受梁と、前記台車枠と前記ヨーダンパ受梁との間に設けられ、前記台車枠の前記ヨーダンパ受梁に対するヨー運動に応じた減衰力を発生するとともに前記減衰力の発生方向が前記ヨーダンパ受梁の前記移動方向にほぼ沿って配置されたダンパとを備えることを特徴とする。
これによれば、台車枠がダンパの減衰力発生方向に沿った方向に車体に対して並進移動する場合には、ヨーダンパ受梁が車体に対して台車枠とともに相対移動することによって、ダンパ(ヨーダンパ)による減衰力発生を抑制することができる。
一方、台車枠が車体に対してヨー方向に回動した場合には、ヨーダンパ受梁と台車枠とがヨー方向に相対回動することによって、ダンパが伸縮し、台車枠のヨー運動を減衰させる方向の減衰力を発生することができる
【0006】
さらに、本発明、前記ヨーダンパ受梁は前記車体に対して枕木方向に沿って直進案内されるとともに、前記ダンパは前記台車枠の前後端部に配置される構成と、前記ヨーダンパ受梁を車体に対する中立位置に復元させるリターンスプリングを有する構成との少なくとも一方を特徴とする。
前者の特徴によれば、ダンパを枕木方向に沿って台車枠の前後端部に配置する場合に、ヨーダンパ受梁も枕木方向に沿って直進案内される構成とすることによって、ダンパが目的の運動方向(ヨー運動の方向)以外に減衰力を発生することを抑制し、車体のロール振動、左右振動等に影響を及ぼすことを防止できる。
後者の特徴によれば、ヨーダンパ受梁を通常時には中立位置に復元させておくことによって、ヨーダンパ受梁の偏りを防止し、上述した効果を確実に得ることができる。
【0007】
本発明において、前記ダンパは、前記台車枠の前記ヨーダンパ受梁に対するヨー運動の旋回中心を挟んで少なくとも一対が設けられる構成とすることができる。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明によれば、台車のヨー方向以外の挙動に対する減衰力発生を抑制したヨーダンパ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明を適用したヨーダンパ装置の実施形態を有する鉄道車両を枕木方向から見た状態を示す模式図である。
図2実施形態のヨーダンパ装置を車両上方から見た状態を示す模式的平面図である。
図3】本発明を適用したヨーダンパ装置の参考例を有する鉄道車両を枕木方向から見た状態を示す模式図である。
図4参考例のヨーダンパ装置を車両上方から見た状態を示す模式的平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態及び参考例に係るヨーダンパ装置について説明する。
実施形態
先ず、実施形態のヨーダンパ装置について説明する。
実施形態のヨーダンパ装置は、例えば、車体の下部に前後一対の2軸ボギー台車を有する鉄道車両に設けられる。
【0012】
鉄道車両1は、車体10、台車20、ヨーダンパ装置30等を有して構成されている。
車体10は、台枠の上部に側構、妻構を立設し、上部に屋根構を設けて実質的に六面体状に形成されている。
【0013】
台車20は、車体10の下部に前後方向に離間して1対が配置された2軸のボギー台車である。
台車20は、台車枠21、輪軸22、軸箱23、軸ばね24、まくらばね25等を有して構成されている。
台車枠21は、台車20の本体部を構成する構造部材であって、左右に設けられ前後に伸びた側梁を、枕木方向に伸びた横梁で連結して構成されている。
台車枠21は、車体10の下部に、図示しない牽引装置等を介して取り付けられ、ボギー角(車体10に対する相対ヨー角)付与方向に回動可能となっている。
また、図示しない車体中心ピンと台車枠21との間には、台車枠21の左右動に応じた減衰力を発生する図示しない左右動ダンパ装置が設けられている。
【0014】
輪軸22は、左右一対の車輪を車軸で連結して構成されている。
軸箱23は、輪軸22の両端部を回転可能に支持するものであり、軸受及び潤滑装置等を有して構成されている。
軸箱23は、図示しない軸箱支持装置を介して、台車枠21に対して上下方向等に相対変位可能に取り付けられている。
軸ばね24は、軸箱23と台車枠21との間に設けられた1次ばねである。
まくらばね25は、台車枠21の左右の側梁の上部と車体10の下面との間にそれぞれ設けられた2次ばねであって、例えば空気ばねを有して構成されている。
【0015】
ヨーダンパ装置30は、ヨーダンパ受梁31、リニアガイド32、オイルダンパ33、リターンスプリング34等を有して構成されている。
ヨーダンパ受梁31は、車体10の下部に取付けられ水平方向にほぼ沿って配置されたパネル状の部材である。
ヨーダンパ受梁31は、車体10に対して、枕木方向に沿って並進移動可能に支持されるとともに、他の方向への相対移動は規制されている。
リニアガイド32は、ヨーダンパ受梁31を車体10に対して枕木方向に直進案内するものであって、ヨーダンパ受梁31に固定されるとともに、車体10に固定されたレールに沿って走行するものである
【0016】
オイルダンパ33は、台車枠21の側梁の前後方向における端部と、ヨーダンパ受梁31の前後方向における端部から突き出して形成された突出部との間を連結するように配置され、これらの間の枕木方向の相対変位に応じて相対移動するシリンダ及びピストンロッドを備えている。
オイルダンパ33の両端部は、防振ゴム等を介して台車枠21及びヨーダンパ受梁31にそれぞれ連結されている。
車体10のロール運動に伴うオイルダンパ33の伸縮を抑制するため、ヨーダンパ受梁31とオイルダンパ33との連結箇所は、台車枠21とオイルダンパ33との連結箇所に対して、枕木方向における車体10の中央に近い位置に配置されている。
オイルダンパ33は、シリンダとピストンロッドとの相対運動に応じた減衰力を発生する。
【0017】
リターンスプリング34は、リニアガイド32と車体10との間に設けられ、ヨーダンパ受梁31を、その移動可能範囲における中立位置に復元させる付勢力を発生するばね要素を備えている。
なお、上述したリニアガイド32、オイルダンパ33、リターンスプリング34は、台車枠21の車体10に対するヨー方向の回動中心軸に対して軸対称となるように、台車20の前後にそれぞれ設けられている。
車両が図2における左側へ進行する場合を例にとると、前側のオイルダンパ33は、右側で台車枠21に連結され、左側でヨーダンパ受梁31に連結されている。また、後側のオイルダンパ33は、左側で台車枠21に連結され、右側でヨーダンパ受梁31に連結されている。
【0018】
以上説明した実施形態によれば、台車枠21が車体10に対して枕木方向に相対運動(左右動)した場合のように、前後のオイルダンパ33に同相の入力があった場合には、ヨーダンパ受梁31が車体10に対して枕木方向に相対移動することによって、オイルダンパ33の伸縮が抑制されるため、オイルダンパ33による減衰力の発生は抑制される。(ヨーダンパ受梁31を動かす程度の力は発生するが、これは比較的小さいものである。)
このため、ダンパ発生力が車体10に左右振動の加振力として入力され、車体振動に影響を及ぼすことを防止できる。
また、台車枠21が車体に対してヨー方向に回動した場合のように、前後のオイルダンパ33に逆相の入力があった場合には、各オイルダンパ33が発生する減衰力はヨーダンパ受梁31及びリニアガイド32を介して車体10に伝達され、台車枠21のヨー運動を減衰させることができる。
【0019】
参考例
次に、本発明を適用したヨーダンパ装置の参考例について説明する。
参考例において、上述した実施形態と実質的に共通する箇所については同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
図3は、参考例のヨーダンパ装置を有する鉄道車両を枕木方向から見た状態を示す模式図である。
図4は、参考例のヨーダンパ装置を車両上方から見た状態を示す模式的平面図である。
【0020】
参考例においては、実施形態のヨーダンパ装置30に代えて、以下説明するヨーダンパ装置130を備えている。
ヨーダンパ装置130は、ヨーダンパ受梁131、リニアガイド132、オイルダンパ133、リターンスプリング134等を備えて構成されている。
ヨーダンパ受梁131は、台車中心に対して前後方向における一方側に配置され、車体10に対して前後方向に沿って並進移動可能に支持されるとともに、他の方向への相対移動は規制されている。
リニアガイド132は、ヨーダンパ受梁131を車体10に対して前後方向に直進案内するものである。
【0021】
オイルダンパ133は、台車枠21の側梁の中央部から枕木方向外側に突き出した突出部と、ヨーダンパ受梁131における台車枠21の側梁端部側の端部から枕木方向外側に突き出した突出部との間を連結するように配置され、これらの間の前後方向の相対変位に応じて相対移動し、減衰力を発生させるシリンダ及びピストンロッドを備えている。
リターンスプリング134は、ヨーダンパ受梁131をリニアガイド132による案内範囲の中立位置に復元させるものである。
なお、上述したリニアガイド132及びオイルダンパ133は、台車20の左右中心に対して対称となるように、左右にそれぞれ設けられている。
【0022】
以上説明した参考例によれば、台車枠21が車体10に対して前後方向に相対運動(左右動)したり、ピッチング方向に運動した場合のように、左右のオイルダンパ133に同相の入力があった場合には、ヨーダンパ受梁131が車体10に対して前後方向に相対移動することによって、オイルダンパ133の伸縮が抑制されるため、オイルダンパ133による減衰力の発生は抑制される。
このため、ダンパ発生力が車体10に曲げ振動や前後振動の加振力として入力され、車体振動に影響を及ぼすことを防止できる。
また、台車枠21が車体に対してヨー方向に回動した場合のように、左右のオイルダンパ133に逆相の入力があった場合には、各オイルダンパ133が発生する減衰力はヨーダンパ受梁31及びリニアガイド32を介して車体10に伝達され、台車枠21のヨー運動を減衰させることができる。
【0023】
(他の実施形態)
なお、本発明は上述した実施形態のみに限定されるものではなく、種々の応用や変形が考えられる。
例えば、ヨーダンパ装置を構成する各構成要素の構造、形状、配置等は、上述した各実施形態に限定されず、適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0024】
1 鉄道車両 10 車体
20 台車 21 台車枠
22 輪軸 23 軸箱
24 軸ばね 25 まくらばね
30 ヨーダンパ装置 31 ヨーダンパ受梁
32 リニアガイド 33 オイルダンパ
34 リターンスプリング
130 ヨーダンパ装置 131 ヨーダンパ受梁
132 リニアガイド 133 オイルダンパ
134 リターンスプリング
図1
図2
図3
図4