特許第5792685号(P5792685)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5792685
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】液圧ブレーキシステム
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/17 20060101AFI20150928BHJP
   B60T 8/36 20060101ALI20150928BHJP
   B60T 13/68 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   B60T8/17 A
   B60T8/36
   B60T13/68
【請求項の数】5
【全頁数】41
(21)【出願番号】特願2012-140603(P2012-140603)
(22)【出願日】2012年6月22日
(65)【公開番号】特開2014-4880(P2014-4880A)
(43)【公開日】2014年1月16日
【審査請求日】2014年4月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】特許業務法人中部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡野 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】神谷 雄介
(72)【発明者】
【氏名】竹内 清人
【審査官】 本庄 亮太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−061816(JP,A)
【文献】 特開2010−270798(JP,A)
【文献】 特開2002−225690(JP,A)
【文献】 特開平10−278764(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/17
B60T 8/174
B60T 8/36
B60T 13/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を制動するための液圧ブレーキシステムであって、
高圧の作動液を供給する高圧源装置と、
その高圧源装置から供給される作動液の圧力を調整圧に調整する電磁式の増圧リニア弁および減圧リニア弁と、
車輪に設けられ、前記調整圧若しくは前記調整圧に応じた圧力の作動液を受け入れて、その受け入れた作動液の圧力に応じた大きさのブレーキ力を発生させるブレーキ装置と、
ブレーキ力を指標するブレーキ力指標を検出するブレーキ力指標検出器と、
前記増圧リニア弁および減圧リニア弁に供給する励磁電流を制御することで前記ブレーキ装置が発生させるブレーキ力を制御する制御装置と
を備え、
その制御装置が、
(a) 前記ブレーキ力指標検出器によって検出された実際のブレーキ力指標の、制御におけるブレーキ力指標の目標である目標ブレーキ力指標に対する偏差に基づいて、その偏差をなくすべく前記増圧リニア弁および前記減圧リニア弁の各々に供給される励磁電流の成分であるフィードバック成分を決定し、そのフィードバック成分を含む励磁電流を、前記増圧リニア弁および前記減圧リニア弁の各々に供給するフィードバック制御と、(b)前記目標ブレーキ力指標に基づいて、前記増圧リニア弁および前記減圧リニア弁の各々を開弁状態と閉弁状態との境目となる弁開閉均衡状態とするべくそれら増圧リニア弁および減圧リニア弁の各々に供給される励磁電流の成分であるフィードフォワード成分を決定し、そのフィードフォワード成分からなる励磁電流を、前記増圧リニア弁および前記減圧リニア弁の各々に供給するフィードフォワード制御とを選択的に実行可能に構成され、かつ、
前記フィードフォワード制御を実行する際、前記増圧リニア弁と前記減圧リニア弁との少なくとも一方に供給される励磁電流を、予め設定されているところの弁開閉均衡状態におけるブレーキ力指標と励磁電流との関係に従って前記フィードフォワード成分を決定した場合の励磁電流より、ブレーキ力が大きくなる側にシフトさせた値に決定するように構成され、さらに、
前記フィードフォワード制御において、ブレーキ力が設定程度を超えて大きいか否かを判断し、大きいと判断された場合に、前記増圧リニア弁と前記減圧リニア弁との前記少なくとも一方に供給される励磁電流を、ブレーキ力が小さくなる側にシフトさせた値に変更するように構成された液圧ブレーキシステム。
【請求項2】
前記制御装置が、
通常時に、前記フィードバック制御を実行し、前記ブレーキ力指標検出器が失陥した場合に、前記フィードフォワード制御を実行するように構成された請求項1に記載の液圧ブレーキシステム。
【請求項3】
前記制御装置が、
前記フィードフォワード制御において、前記増圧リニア弁と前記減圧リニア弁との前記少なくとも一方に供給される励磁電流をブレーキ力が小さくなる側にシフトさせた値に変更する際、ブレーキ力が大きくなる側にシフトさせた電流量より小さい電流量だけシフトさせた値に変更するように構成された請求項1または請求項2に記載の液圧ブレーキシステム。
【請求項4】
前記制御装置が、
前記フィードフォワード制御において、ブレーキ力が設定程度を超えて大きいか否かを、前記高圧源装置から供給される作動液の圧力の変化に基づいて判断するように構成された請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【請求項5】
前記制御装置が、
i)前記フィードバック制御において、実際の前記弁開閉均衡状態におけるブレーキ力指標と励磁電流との関係の前記予め設定されている関係からのズレを検出するように構成されるとともに、前記フィードフォワード制御を実行する際、前記増圧リニア弁と前記減圧リニア弁との前記少なくとも一方に供給される励磁電流を、前記検出したズレが発生するときの前記弁開閉均衡状態におけるブレーキ力指標と励磁電流との関係に従って前記フィードフォワード成分を決定した場合の励磁電流となるように決定するように構成されたことと、
ii)前記予め設定されている弁開閉均衡状態におけるブレーキ力指標と励磁電流との関係が、予め設定された規格幅内のものとされている場合において、前記フィードフォワード制御を実行する際、前記増圧リニア弁と前記減圧リニア弁との前記少なくとも一方に供給される励磁電流を、(a)前記規格幅内においてブレーキ力が小さい側の限度となる関係、若しくは、(b)前記規格幅内におけるブレーキ力が小さい側の限度と大きい側の限度とのちょうど中間よりも小さい側の限度に偏った関係に従って前記フィードフォワード成分を決定した場合の励磁電流となるように決定するように構成されたことと
の一方を特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両を制動するための液圧ブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
液圧ブレーキシステムの中には、下記特許文献に記載されているように、電磁式の増圧リニア弁,減圧リニア弁によって高圧源から供給される作動液の圧力を調整し、その調整された圧力の作動液を、車輪に設けられたブレーキ装置に供給することで、ブレーキ装置が、その作動液の圧力に応じたブレーキ力を発生させるように構成されたシステムが存在する。このようなシステム、つまり、増圧リニア弁,減圧リニア弁によって調整された圧力に依存した大きさのブレーキ力を発生させるシステム(以下、「リニア弁調整型システム」という場合がある)においては、増圧リニア弁,減圧リニア弁の各々に供給される励磁電流を制御することによって、ブレーキ力が制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−156998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記リニア弁調整型システムにおいて、増圧リニア弁,減圧リニア弁の励磁電流の制御の手法についての改良を行うことにより、より良好なブレーキ力の制御を行うことができ、その結果、リニア弁調整型システムの実用性を向上させることが可能となる。本発明は、そのような実情の下、実用性の高い液圧ブレーキシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の液圧ブレーキシステムは、高圧源装置から供給される作動液の圧力を電磁式の増圧リニア弁,減圧リニア弁によって調整し、車輪に設けられたブレーキ装置が、その調整された圧力に依存した大きさのブレーキ力を発生させるように構成されており、増圧リニア弁,減圧リニア弁へ供給する励磁電流の制御として、実際のブレーキ力指標の目標ブレーキ力指標に対する偏差に基づくフィードバック制御と、増圧リニア弁,減圧リニア弁を弁開閉均衡状態とすることによって行われる目標ブレーキ力指標に基づくフィードフォワード制御とを、選択的に実行可能とされ、かつ、フィードフォワード制御において、予め設定されているところの弁開閉均衡状態におけるブレーキ力指標と励磁電流との関係に従った励磁電流より大きな励磁電流を、増圧リニア弁,減圧リニア弁に供給するように構成され、さらに、フィードフォワード制御において、ブレーキ力が設定程度を超えて大きいと判断された場合に、増圧リニア弁と減圧リニア弁との少なくとも一方に供給される励磁電流を、ブレーキ力が小さくなる側にシフトさせた値に変更するように構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の液圧ブレーキシステムによれば、上記フィードバック制御に加え、実際のブレーキ力指標に依拠せずに行われる上記フィードフォワード制御をも実行が可能であり、また、そのフィードフォワード制御においても、充分なブレーキ力が担保される。そして、そのフィードフォワード制御においては、ブレーキ力が大きくなり過ぎた場合に、ブレーキ力が小さくなる側にフィードフォワード成分が戻されるため、適切なブレーキ力が発生させられることになる。それらのことにより、本発明の液圧ブレーキシステムは、実用性の高いシステムとなる。
【発明の態様】
【0007】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から何某かの構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。そして、請求可能発明のうちのいくつかのものが請求項に記載された発明に相当する。
【0008】
なお、以下の各項において、(1)項と(9)項とを合わせたものが請求項1に、(3)項が請求項2に、(10)項が請求項3に、(11)項が請求項4に、(4)項と(5)項と(6)項とを選択的に合わせたものが請求項5に、それぞれ相当する。
【0009】
≪基本的態様≫
(1)車両を制動するための液圧ブレーキシステムであって、
高圧の作動液を供給する高圧源装置と、
その高圧源装置から供給される作動液の圧力を調整圧に調整する電磁式の増圧リニア弁および減圧リニア弁と、
車輪に設けられ、前記調整圧若しくは前記調整圧に応じた圧力の作動液を受け入れて、その受け入れた作動液の圧力に応じた大きさのブレーキ力を発生させるブレーキ装置と、
ブレーキ力を指標するブレーキ力指標を検出するブレーキ力指標検出器と、
前記増圧リニア弁および減圧リニア弁に供給する励磁電流を制御することで前記ブレーキ装置が発生させるブレーキ力を制御する制御装置と
を備え、
その制御装置が、
(a) 前記ブレーキ力指標検出器によって検出された実際のブレーキ力指標の、制御におけるブレーキ力指標の目標である目標ブレーキ力指標に対する偏差に基づいて、その偏差をなくすべく前記増圧リニア弁および前記減圧リニア弁の各々に供給される励磁電流の成分であるフィードバック成分を決定し、そのフィードバック成分を含む励磁電流を、前記増圧リニア弁および前記減圧リニア弁の各々に供給するフィードバック制御と、(b)前記目標ブレーキ力指標に基づいて、前記増圧リニア弁および前記減圧リニア弁の各々を開弁状態と閉弁状態との境目となる弁開閉均衡状態とするべくそれら増圧リニア弁および減圧リニア弁の各々に供給される励磁電流の成分であるフィードフォワード成分を決定し、そのフィードフォワード成分からなる励磁電流を、前記増圧リニア弁および前記減圧リニア弁の各々に供給するフィードフォワード制御とを選択的に実行可能に構成され、かつ、
前記フィードフォワード制御を実行する際、前記増圧リニア弁と前記減圧リニア弁との少なくとも一方に供給される励磁電流を、予め設定されているところの弁開閉均衡状態におけるブレーキ力指標と励磁電流との関係に従って前記フィードフォワード成分を決定した場合の励磁電流より、ブレーキ力が大きくなる側にシフトさせた値に決定するように構成された液圧ブレーキシステム。
【0010】
本態様のシステムは、端的に言えば、上記ブレーキ装置が、上記電磁式の増圧リニア弁と減圧リニア弁とによって調整された作動液の圧力に依存した大きさのブレーキ力を発生させるシステムである。本態様のシステムは、例えば、高圧源である高圧源装置と低圧源との間に、増圧リニア弁と減圧リニア弁とを直列に配置し、それら2つのリニア弁の間の作動液の圧力が、それら2つのリニア弁によって調整されるように構成することができる。本態様のシステムは、増圧リニア弁と減圧リニア弁とによって調整された圧力(以下、「調整圧」と言う場合がある)の作動液が、直接的にブレーキ装置に供給されるような構成のものであってもよく、また、後に説明するように、調整圧とされた作動液が、調圧器若しくはマスタシリンダ装置に供給され、その調整圧に応じた圧力の作動液が、それら調圧器若しくはマスタシリンダ装置からブレーキ装置に供給されるような構成ものものであってもよい。さらに、調整圧とされた作動液が調圧器に供給され、その調整圧に応じた圧力の作動液が、その調圧器からマスタシリンダ装置に供給され、その作動液の圧力に応じた圧力に加圧されたの作動液が、マスタシリンダ装置からブレーキ装置に供給されるような構成のものであってもよい。
【0011】
本態様における「ブレーキ力指標」は、ブレーキ装置が発生させるブレーキ力、詳しくは、そのブレーキ力の大きさを直接的若しくは間接的に表わすものと考えることができる。本態様では、ブレーキ装置が発生させるブレーキ力そのものをブレーキ力指標として採用してもよく、ブレーキ装置に供給される作動液の圧力を採用してもよい。具体的には、上記調整圧の作動液が直接ブレーキ装置に導入されるようなシステムの場合、調整圧そのものであってもよい。また、マスタシリンダ装置を有してそのマスタシリンダ装置から供給される作動液がブレーキ装置に供給されるようなシステムの場合、そのマスタシリンダ装置から供給される作動液の圧力(以下、「マスタ圧」と言う場合がある)を、ブレーキ力指標として採用することができる。また、当該システムが、上記高圧源装置から供給された作動液を調圧して供給する調圧器を有して、ブレーキ装置がその調圧器から供給される作動液の圧力に応じた大きさのブレーキ力を発生させるようなシステムの場合は、その調圧器から供給される作動液の圧力(以下、「調圧器供給圧」と言う場合がある)を、ブレーキ力指標として採用することも可能である。さらに、調圧器が、自身から供給される作動液の圧力を、自身に導入されるパイロット圧に応じて調圧するように構成された調圧器を有している場合には、そのパイロット圧を、ブレーキ力指標として採用することも可能である。ちなみに、そのパイロット圧として上記調整圧が導入される場合には、その調整圧が、ブレーキ力指標となる。なお、ブレーキ力指標として、上記調整圧,マスタ圧,調圧器供給圧,パイロット圧等の作動液の圧力を採用する場合、上記「ブレーキ力指標検出器」として、それらの圧力を検出する液圧センサを採用すればよい。
【0012】
上記「目標ブレーキ力指標」は、ブレーキ力を制御するための目標であり、ブレーキ装置が発生させるべきブレーキ力である目標ブレーキ力に対応する値のブレーキ力指標となる。具体的には、ブレーキ力指標として、上記調整圧,マスタ圧,調圧器供給圧,パイロット圧等の作動液の圧力を採用する場合、それぞれ、目標調整圧,目標マスタ圧,目標調圧器供給圧,目標パイロット圧等となる。目標ブレーキ力指標は、ブレーキ操作の程度に基づいて決定することが可能である。詳しく言えば、当該システムが、運転者によってブレーキ操作がなされるブレーキペダル等のブレーキ操作部材を備える場合、そのブレーキ操作部材の操作量であるブレーキ操作量,そのブレーキ操作部材に加えられる運転者の操作力であるブレーキ操作力等に基づいて決定することが可能である。なお、当該液圧ブレーキシステムが、ハイブリッド車両等の回生ブレーキシステムを搭載する車両である場合には、その回生ブレーキシステムが発生させるブレーキ力である回生ブレーキ力を考慮して、目標ブレーキ力指標を決定してもよい。
【0013】
本態様のシステムでは、増圧リニア弁,減圧リニア弁に供給される励磁電流の制御に関して、上記フィードバック制御と、上記フィードフォワード制御との両方を、選択的に実行可能とされている。平たく言えば、フィードバック制御は、目標ブレーキ力指標と実際のブレーキ力指標との両者に基づく制御であり、フィードフォワード制御は、実際のブレーキ力指標に基づかず目標ブレーキ力指標に基づく制御である。本システムは、2つの制御を実行可能とされていることから、車両の状態,車両の走行している状況等に応じて、適切な制御を選択して実行することができる。後に説明するように、例えば、上記ブレーキ力指標検出器の失陥等によって、実際のブレーキ力指標に基づく制御が実行できないときに、上記フィードフォワード制御を行うといった制御の選択が可能となるのである。なお、フィードバック制御において採用されるブレーキ力指標と、フィードフォワード制御において採用されるブレーキ指標は、互いに異なるものであってもよい。具体的に言えば、調圧器を備えたシステムの場合、フィードバック制御において上記調圧器供給圧に基づく制御を行い、フィードフォワード制御において上記パイロット圧(調整圧)に基づく制御を行うといったことも可能である。
【0014】
後に詳しく説明するが、一般的な増圧リニア弁,減圧リニア弁は、ばね等の弾性付勢機構による弾性付勢力,差圧作用力,電磁作用力によって、開弁のし易さである開弁度(閉弁のし易さである閉弁度),開弁圧(閉弁圧)が決まる。そして、それらの力がちょうどバランスした状態で、開弁状態と閉弁状態との境、つまり、上記弁開閉均衡状態となる。この状態とするための励磁電流の成分が、上記フィードフォワード成分である。なお、以下、弁開閉均衡状態にある増圧リニア弁の下流側の圧力,減圧リニア弁の上流側の圧力を、つまり、弁開閉均衡状態における調整圧を、開弁状態と閉弁状態とが均衡している圧力という意味で、「開閉均衡圧」と呼ぶ場合があることとする。
【0015】
より具体的に言えば、上記弾性付勢力は、増圧リニア弁,減圧リニア弁に固有の力であり、上記差圧作用力は、増圧リニア弁の場合は、高圧源装置から供給される作動液の圧力(以下、「高圧源圧」と言う場合がある)と調整圧とに依存して決まり、ブレーキ力指標と調整圧とは対応する関係にあることから、高圧源圧とブレーキ力指標とによって決まると考えることができる。一方、減圧リニア弁の場合は、低圧源の圧力(以下、「低圧源圧」と言う場合がある)と調整圧とに依存して決まるため、低圧源圧とブレーキ力指標とによって決まると考えることができる。先に説明したように、弾性付勢力,差圧作用力,電磁作用力がバランスした状態において弁開閉均衡状態となり、また、電磁作用力は励磁電流に依存することから、弁開閉均衡状態において、ブレーキ力指標と励磁電流とは、相互に関係している。この弁開閉均衡状態におけるブレーキ力指標と励磁電流との関係(以下、「相互関係」と言う場合がある)に従うことで、増圧リニア弁,減圧リニア弁の各々に供給すべきフィードフォワード成分を決定することができるのである。ちなみに、弁開閉均衡状態における上記相互関係は、増圧リニア弁,減圧リニア弁の上記弾性付勢力等に基づいて、予め設定しておくことが可能である。
【0016】
一般的なフィードフォワード制御では、例えば、目標ブレーキ力指標に基づいて差圧作用力を決定することができる。具体的には、目標ブレーキ力指標に対応する調整圧が開閉均衡圧となる状態おける差圧作用力を決定し、その決定した差圧作用力に基づいて、励磁電流を決定することができるのである。つまり、フィードフォワード成分は、目標ブレーキ力指標に基づき、弁開閉均衡状態における上記相互関係に従って決定することができるのである。フィードバック制御は、上記フィードバック成分に依拠した制御であるため、ブレーキ力の目標ブレーキ力への追従性が良好であり、比較的精度良くブレーキ力の制御ができるが、フィードフォワード制御は、フィードバック成分に依拠した制御ではないため、ブレーキ力の精度の点では、フィードバック制御に劣るものとなる。特に、増圧リニア弁,減圧リニア弁の経時的若しくは経年的な特性の変化等によって、上述した弁開閉均衡状態における相互関係も変化し、車両製造時,車両出荷時等において予め設定されている関係に従って、フィードフォワード成分を決定する場合、ブレーキ力の精度は、相当に低下することも予測される。つまり、ブレーキ装置によって発生させられるブレーキ力が、発生させるべきブレーキ力から相当にズレる可能性があるのであり、その結果、ブレーキ力不足となる可能性があるのである。
【0017】
本態様のシステムにおけるフィードフォワード制御は、上記ブレーキ力不足の可能性を考慮して、増圧リニア弁,減圧リニア弁の少なくともいずれかに供給される励磁電流を、予め設定されている上記弁開閉均衡状態における相互関係に従ってフィードフォワード成分が決定された場合の励磁電流ではなく、その励磁電流によって発生させられるブレーキ力よりも大きなブレーキ力が発生させられるような励磁電流に決定するように構成されている。そのことにより、本態様のシステムでは、フィードフォワード制御下においても、充分なるブレーキ力が担保されることになる。なお、励磁電流の増加によって上記開閉均衡圧が高くなるか低くなるかは、増圧リニア弁,減圧リニア弁の構造によって決まり、高くなるリニア弁もあり、低くなるリニア弁もある。したがって、ブレーキ力が大きくなる側への励磁電流のシフトは、増圧リニア弁,減圧リニア弁の構造に依存しており、励磁電流を増加させる場合もあり、減少させる場合もある。
【0018】
本態様のシステムにおいて、増圧リニア弁,減圧リニア弁の各々について、フィードバック制御,フィードフォワード制御は、必ずしも、ブレーキ力が増加する過程(以下、「ブレーキ力増加過程」という場合がある),ブレーキ力が維持される過程(以下、「ブレーキ力維持過程」と言う場合がある),ブレーキ力が減少する過程(以下、「ブレーキ力減少過程」と言う場合がある)のすべてについて行われることを要しない。つまり、ブレーキ操作におけるそれらのいずれかの過程において、増圧リニア弁,減圧リニア弁の少なくとも一方について、そのいずれかの過程と異なる過程と同様のフィードバック制御,フィードフォワード制御が行われなくてもよく、また、フィードバック制御,フィードフォワード制御自体が行われなくてもよいのである。具体的に言えば、例えば、ブレーキ力減少過程において、増圧リニア弁に対して、増圧リニア弁が常に閉弁状態となるような励磁電流を供給する若しくは常に閉弁状態となるように励磁電流を供給しないようにしてもよく、ブレーキ力増加過程において、減圧リニア弁に対して、減圧リニア弁が常に閉弁状態となるような励磁電流を供給する若しくは常に閉弁状態となるように励磁電流を供給しないようにしてもよいのである。また、例えば、ブレーキ力維持過程において、増圧リニア弁,減圧リニア弁の少なくとも一方に対して、ブレーキ力増加過程若しくはブレーキ力減少過程における励磁電流よりもあるマージン分だけ大きい若しくは小さい励磁電流を供給するようにしてもよいのである。
【0019】
≪制御のバリエーション≫
以下のいくつかの項は、フィードフォワード制御,フィードバック制御のバリエーションに関する項である。
【0020】
(2)前記制御装置が、
前記フィードバック制御において、前記ブレーキ力指標検出器によって検出された実際のブレーキ力指標に基づいて、前記予め設定されているところの弁開閉均衡状態におけるブレーキ力指標と励磁電流との関係に従った励磁電流を、前記フィードフォワード成分として決定し、そのフィードフォワード成分と前記フィードバック成分とをあわせた励磁電流を、前記増圧リニア弁および前記減圧リニア弁の各々に供給するように構成された(1)項に記載の液圧ブレーキシステム。
【0021】
本態様のシステムでは、フィードバック制御において、増圧リニア弁,減圧リニア弁の各々に、フィードフォワード成分に上述のフィードバック成分を加えた励磁電流が供給される。つまり、フィードバック制御の手法と、フィードフォワード制御の手法との両方に従って、励磁電流が決定され、その決定された励磁電流が供給される。したがって、本態様におけるフィードバック制御によれば、相当に良好なブレーキ力の制御が可能となる。
【0022】
なお、本態様におけるフィードバック制御で決定されるフィードフォワード成分は、フィードフォワード制御で決定されるフィードフォワード成分と異なり、ブレーキ力指標検出器によって検出された実際のブレーキ力指標に基づいて、上述したところの、予め設定されている上記弁開閉均衡状態における相互関係に従って決定される。具体的には、例えば、フィードフォワード制御における場合と同様の手法によって、実際のブレーキ力指標に対応する調整圧が開閉均衡圧となる状態おける差圧作用力を決定し、その決定した差圧作用力に基づいて、フィードフォワード成分を決定することができる。
【0023】
(3)前記制御装置が、
通常時に、前記フィードバック制御を実行し、前記ブレーキ力指標検出器が失陥した場合に、前記フィードフォワード制御を実行するように構成された(1)項または(2)項に記載の液圧ブレーキシステム。
【0024】
先に説明したように、ブレーキ力指標検出器が失陥した場合には、実際のブレーキ力指標を検出することができず、ブレーキ力を比較的精度良く制御可能なフィードバック制御が実行し得ない。本態様によれば、ブレーキ力指標検出器が失陥した場合であっても、上記フィードフォワード制御の実行によってブレーキ力を発生させることができるため、フェールセーフの観点において優れたシステムが構築されることになる。
【0025】
≪フィードフォワード成分のシフトに関する限定≫
以下のいくつかの項は、フィードフォワード制御におけるフィードフォワード成分の上記シフトに関する限定を加えた態様を記載した項である。
【0026】
(4)前記制御装置が、
前記フィードバック制御において、実際の前記弁開閉均衡状態におけるブレーキ力指標と励磁電流との関係の前記予め設定されている関係からのズレを検出するように構成され、
前記フィードフォワード制御を実行する際、前記増圧リニア弁と前記減圧リニア弁との前記少なくとも一方に供給される励磁電流を、前記検出したズレが発生するときの前記弁開閉均衡状態におけるブレーキ力指標と励磁電流との関係に従って前記フィードフォワード成分を決定した場合の励磁電流となるように決定するように構成された(1)項ないし(3)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【0027】
本態様によれば、フィードバック制御において実際に取得された上記相互関係のズレに基づいてフィードフォワード制御が実行されることから、フィードフォワード制御において、比較的精度良くブレーキ力を制御することが可能となる。なお、定期的若しくは逐次ズレが検出されるような場合には、検出されたズレの中において、最も大きなズレを特定し、その特定されたズレが発生する場合の上記相互関係に従ってフィードフォワード成分を決定するようにしてもよい。
【0028】
(5)前記予め設定されている弁開閉均衡状態におけるブレーキ力指標と励磁電流との関係が、予め設定された規格幅内のものとされており、
前記制御装置が、
前記フィードフォワード制御を実行する際、前記増圧リニア弁と前記減圧リニア弁との前記少なくとも一方に供給される励磁電流を、前記規格幅内においてブレーキ力が小さい側の限度となる関係に従って前記フィードフォワード成分を決定した場合の励磁電流となるように決定するように構成された(1)項ないし(3)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【0029】
一般的に、増圧リニア弁,減圧リニア弁の特性のバラつきに対しては、製造上不可避な品質のバラつき等を考慮して、ある程度の許容範囲が設けられる。この許容範囲の存在によって、増圧リニア弁,減圧リニア弁についての、上記予め設定されている弁開閉均衡状態における相互関係は、個々に異なるものの、ある幅内に収まることになる。この幅が、上記「規格幅」である。そして、その規格幅内の関係において、ある励磁電流を供給した場合に、上記開閉均衡圧が最も低くなる関係、つまり、最もブレーキ力が小さくなる関係が、上記「ブレーキ力が小さい側の限度となる関係」である。端的に言えば、本態様では、フィードフォワード制御において、その関係に従ってフィードフォワード成分が目標ブレーキ力指標に基づいて決定された場合の励磁電流、すなわち、上記増圧リニア弁,減圧リニア弁の特性の許容範囲において最も大きなブレーキ力を発生させることが可能な励磁電流が、増圧リニア弁,減圧リニア弁に供給されることになる。したがって、本態様によれば、フィードフォワード制御において、充分なブレーキ力が担保されることになる。
【0030】
(6)前記予め設定されている弁開閉均衡状態におけるブレーキ力指標と励磁電流との関係が、予め設定された規格幅内のものとされており、
前記制御装置が、
前記フィードフォワード制御を実行する際、前記増圧リニア弁と前記減圧リニア弁との前記少なくとも一方に供給される励磁電流を、前記規格幅内におけるブレーキ力が小さい側の限度と大きい側の限度とのちょうど中間よりも小さい側の限度に偏った関係に従って前記フィードフォワード成分を決定した場合の励磁電流となるように決定するように構成された(1)項ないし(3)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【0031】
本態様では、簡単に言えば、目標ブレーキ力指標に基づき、フィードフォワード成分が上記規格幅の中心よりもブレーキ力が小さい側の限度寄りの関係に従って決定された場合の励磁電流が決定され、その結果、フィードフォワード制御において、比較的大きなブレーキ力を発生させることが可能な励磁電流が、増圧リニア弁,減圧リニア弁に供給されることになる。したがって、本態様によれば、ある程度充分なブレーキ力が担保されることになる。
【0032】
(7)前記制御装置が、
前記フィードフォワード制御を実行する際、前記増圧リニア弁と前記減圧リニア弁との少なくとも一方に供給される励磁電流を、前記予め設定されているところの弁開閉均衡状態におけるブレーキ力指標と励磁電流との関係に従って前記フィードフォワード成分を決定した場合の励磁電流より、一定電流量だけブレーキ力が大きくなる側にシフトした値に決定するように構成された液圧ブレーキシステム(1)項ないし(6)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【0033】
本態様では、例えば、増圧リニア弁,減圧リニア弁に供給される励磁電流が、目標ブレーキ力指標の値の如何に拘わらず、一定電流量だけ、上記予め設定されている相互関係に従ってフィードフォワード成分が決定された場合の励磁電流からシフトさせられる。従って、本態様によれば、比較的簡単な手法で、フィードフォワード制御におけるブレーキ力を担保することが可能となる。
【0034】
(8)前記増圧リニア弁および前記減圧リニア弁が、
(A)弁座と、(B)その弁座に着座することによって閉弁状態が実現され、その弁座から離座することによって開弁状態が実現される弁子と、(C)弾性付勢力によって、その弁子を前記弁座に着座させる方向と前記弁座から離座させる方向との一方に付勢する弾性付勢機構と、(D)励磁電流が供給されることによって、電磁作用力を発生させ、前記弁子を前記弁座に着座させる方向と前記弁座から離座させる方向との他方に付勢する電磁コイルとを有し、前記弾性反力と、前記電磁力と、前記調整圧に依拠して前記弁子に作用する差圧作用力とのバランスによって、弁開閉均衡状態が実現されるように構成されており、
前記制御装置が、
前記フィードフォワード制御において、前記増圧リニア弁と前記減圧リニア弁との前記少なくとも一方に供給される励磁電流を、前記弾性付勢力を予め設定されている値とは異なる値に変更したときの弁開閉均衡状態におけるブレーキ力指標と励磁電流との関係に従って前記フィードフォワード成分を決定した場合の励磁電流に決定するように構成された(1)項ないし(7)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【0035】
上記構成を有する増圧リニア弁,減圧リニア弁では、先に説明したように、弾性付勢力と差圧作用力と電磁作用力とのバランスによって、弁開閉均衡状態が実現される。したがって、それらの各々の力が変化することによって、上記弁開閉均衡状態におけるブレーキ力指標と励磁電流との相互関係は変化する。そして、その相互関係の経時的,経年的変化は、増圧リニア弁,減圧リニア弁に固有であるところの弾性付勢力の変化に大きく依存する。したがって、その弾性付勢力について予め設定されている値を変更した関係に従ってフィードフォワード成分が決定された場合の励磁電流が増圧リニア弁,減圧リニア弁に供給されることで、ブレーキ力を担保するための励磁電流を合理的に決定することが可能となる。
【0036】
≪ブレーキ力が大きくなりすぎた場合の制御≫
上述のようにフィードフォワード成分を決定して行うフィードフォワード制御によっては、ブレーキ力が大きくなり過ぎることも考えられる。以下のいくつかの項の態様は、ブレーキ力が大きくなり過ぎた場合の処置に関する限定を加えた態様である。
【0037】
(9)前記制御装置が、
前記フィードフォワード制御において、ブレーキ力が設定程度を超えて大きいか否かを判断し、大きいと判断された場合に、前記増圧リニア弁と前記減圧リニア弁との前記少なくとも一方に供給される励磁電流を、ブレーキ力が小さくなる側にシフトさせた値に変更するように構成された(1)項ないし(8)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【0038】
本態様では、ブレーキ力が大きくなり過ぎた場合に、ブレーキ力が小さくなる側にフィードフォワード成分が戻される。つまり、逆の側にシフトさせられる。簡単に言えば、例えば、励磁電流が、予め設定されている上記相互関係に従って決定されるフィードフォワード成分の側に変更されることになる。それによって、フィードフォワード制御において、適切なブレーキ力が発生させられることになる。
【0039】
(10)前記制御装置が、
前記フィードフォワード制御において、前記増圧リニア弁と前記減圧リニア弁との前記少なくとも一方に供給される励磁電流をブレーキ力が小さくなる側にシフトさせた値に変更する際、ブレーキ力が大きくなる側にシフトさせた電流量より小さい電流量だけシフトさせた値に変更するように構成された(9)項に記載の液圧ブレーキシステム。
【0040】
本態様では、簡単に言えば、少ない電流量だけ戻す、つまり、逆にシフトさせるようにして、励磁電流が決定される。上記設定程度を超えなくなるまで、複数回戻すような構成とすれば、フィードフォワード成分は、徐々に、適正なブレーキ力を発生させる値に近づいていくことになる。
【0041】
(11)前記制御装置が、
前記フィードフォワード制御において、ブレーキ力が設定程度を超えて大きいか否かを、前記高圧源装置から供給される作動液の圧力の変化に基づいて判断するように構成された(9)項または(10)項に記載の液圧ブレーキシステム。
【0042】
後に説明するように、高圧源装置から供給される作動液を、それの圧力を増圧リニア弁,減圧リニア弁で調整して、ブレーキ装置若しくはマスタシリンダ装置に供給するように構成されたシステムや、高圧源装置から供給される作動液を、増圧リニア弁,減圧リニア弁で調整した圧力である調整圧に応じた圧力に調圧する調圧器を備え、その調圧器からの作動液を、ブレーキ装置若しくはマスタシリンダ装置に供給するように構成されたシステムでは、例えば、ブレーキ力増加過程において、ブレーキ力の増加につれて高圧源装置から供給される作動液の圧力である高圧源圧が低下する。また、後に説明するように、ブレーキ力減少過程においては、増圧リニア弁が弁開閉均衡状態にあるときに、減圧リニア弁によって調整圧を降下させれば、その降下によって、高圧源装置からの作動液が増圧リニア弁を通過する。その通過により、高圧源圧が低下する。本態様は、フィードフォワード制御において、そのような事象を利用し、高圧源圧の変化に基づいて、ブレーキ力が設定程度を超えて大きいか否か、すなわち、適切な励磁電流が増圧リニア弁,減圧リニア弁に供給されているか否かを判断するように構成されている。本態様によれば、例えば、システムに備わっている高圧源圧センサを利用することによって、ブレーキ力が設定程度を超えているか否かを、簡便に判断することが可能である。
【0043】
≪液圧ブレーキシステムのハード構成に関するバリエーション≫
以下のいくつかの項の態様は、システムのハード構成に種々の限定を加えた態様である。
【0044】
(12)当該液圧ブレーキシステムが、
パイロット室を有し、前記高圧源装置から供給される作動液を、そのパイロット室の作動液の圧力に応じた圧力に調整して供給する調圧器を備え、
前記増圧リニア弁が、前記高圧源装置と前記パイロット室との間に配設されて、前記パイロット室の作動液の圧力を増圧するとともに、前記減圧リニア弁が、前記パイロット室と低圧源との間に配設されて、前記パイロット室の作動液の圧力を減圧することで、そのパイロット室の作動液の圧力を前記調整圧に調整するように構成され、
前記ブレーキ装置が、前記調圧器から供給される作動液若しくはその作動液の圧力に応じた圧力の作動液を受け入れて、その受け入れた作動液の圧力に応じた大きさのブレーキ力を発生させるように構成された(1)項ないし(11)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【0045】
上記調圧器は、いわゆるレギュレータと呼ぶことのできるものであり、本態様のシステムには、その調圧器からの作動液が直接的にブレーキ装置に供給される態様のシステムと、その調圧器からの作動液がマスタシリンダ装置に供給され、そしてその作動液の圧力に応じた圧力の作動液が、マスタシリンダ装置からブレーキ装置に供給される態様のシステムとが含まれる。本態様のシステムでは、増圧リニア弁と減圧リニア弁とによって調整圧に調整された作動液がブレーキ装置に直接的に供給されずに、その作動液は上記調圧器のパイロット室に供給される。したがって、本態様のシステムによれば、増圧リニア弁,減圧リニア弁を通過する作動液の量が比較的少なくて済むため、それら増圧リニア弁,減圧リニア弁の体格を小さくでき、比較的低コストの液圧ブレーキシステムが構築可能である。
【0046】
(13)当該液圧ブレーキシステムが、
前記ブレーキ操作部材が連結され、前記調圧器からの作動液を受け入れ、前記ブレーキ操作部材に加えられる運転者のブレーキ操作力に依存せずに前記受け入れた作動液の圧力に依存してその圧力に応じた圧力に加圧した作動液を前記ブレーキ装置に供給するマスタシリンダ装置を有し、
そのマスタシリンダ装置から前記ブレーキ装置に供給される作動液の圧力に応じた大きさのブレーキ力を、前記ブレーキ装置が発生させるように構成された(12)項に記載の液圧ブレーキシステム。
【0047】
本態様の液圧ブレーキシステムでは、調圧器からの作動液が、直接ブレーキ装置に供給されるのではなく、マスタシリンダ装置に供給され、マスタシリンダ装置において、その作動液の圧力に依存して加圧された作動液がブレーキ装置に供給される。マスタシリンダ装置には、一般的に、ブレーキ操作が入力される。したがって、マスタシリンダ装置の構造に工夫を凝らすことによって、当該システムに何らかの失陥が生じたときにおいて、ブレーキ操作部材に加えられるブレーキ操作力に依存して、ブレーキ装置に供給する作動液を加圧するように構成したり、また、任意に、調圧器から供給された作動液の圧力とブレーキ操作力との両者に依存して、ブレーキ装置に供給する作動液を加圧するように構成したりすることも可能である。そのような構成のマスタシリンダ装置とすれば、本態様のシステムの実用性はさらに高くなる。なお、本態様におけるマスタシリンダ装置は、ブレーキ操作力に依存せずに調圧器から供給される作動液の圧力に依存して作動液を加圧し、その加圧された作動液がブレーキ装置に供給可能に構成されている。したがって、本態様のシステムは、ブレーキ操作に依存しない大きさのブレーキ力を発生させることができるため、回生ブレーキシステムが併用される車両に対して、好適なシステムである。
【0048】
(14)当該液圧ブレーキシステムが、
前記ブレーキ操作部材が連結され、前記増圧リニア弁および前記減圧リニア弁によって前記調整圧に調整された作動液を受け入れ、前記ブレーキ操作部材に加えられる運転者のブレーキ操作力に依存せずに前記受け入れた作動液の圧力に依存してその圧力に応じた圧力に加圧した作動液を前記ブレーキ装置に供給するマスタシリンダ装置を有し、
そのマスタシリンダ装置から前記ブレーキ装置に供給される作動液の圧力に応じた大きさのブレーキ力を、前記ブレーキ装置が発生させるように構成された(1)項ないし(11)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【0049】
本態様の液圧ブレーキシステムでは、先の態様のシステムとは異なり、調圧器を備えておらず、増圧リニア弁,減圧リニア弁によって調整圧に調整された作動液の圧力が、マスタシリンダ装置に入力される。先の態様と同様に、マスタシリンダ装置は、ブレーキ操作力に依存して、ブレーキ装置に供給する作動液を加圧するように構成したり、また、任意に、調整圧とされて供給された作動液の圧力とブレーキ操作力との両者に依存して、ブレーキ装置に供給する作動液を加圧するように構成したりすることも可能である。また、本態様のシステムは、先の態様のシステムと同様、ブレーキ操作に依存しない大きさのブレーキ力を発生させることができるため、回生ブレーキシステムが併用される車両に対して、好適なシステムである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】請求可能発明の実施例である液圧ブレーキシステムのハード構成を示す図である。
図2】液圧ブレーキシステムが有する電磁式の増圧リニア弁,減圧リニア弁の構造を模式的に示す図である。
図3図1の液圧ブレーキシステムが備えるブレーキ電子制御ユニット(ECU)によって実行されるブレーキ制御プログラムを示すフローチャートである。
図4】ブレーキ制御プログラムの一部を構成する高圧源制御ルーチンを示すフローチャートである。
図5】ブレーキ制御プログラムの一部を構成する通常時ブレーキ力制御ルーチンを示すフローチャートである。
図6】通常時ブレーキ力制御ルーチンの一部を構成する増圧弁フィードバック制御サブルーチンを示すフローチャートである。
図7】通常時ブレーキ力制御ルーチンの一部を構成する減圧弁フィードバック制御サブルーチンを示すフローチャートである。
図8】増圧リニア弁,減圧リニア弁の弁開閉均衡状態におけるフィードバック成分とサーボ圧との関係を示すグラフである。
図9】増圧リニア弁,減圧リニア弁の弁開閉均衡状態におけるフィードフォワード成分とサーボ圧との関係のズレについての学習を説明するためのグラフである。
図10】フィードフォワード制御において増圧リニア弁,減圧リニア弁に供給される励磁電流が設定程度を超えて大きくなったことについての判断を説明するためのグラフである。
図11】ブレーキ制御プログラムの一部を構成するサーボ圧センサ失陥時ブレーキ力制御ルーチンを示すフローチャートである。
図12】サーボ圧センサ失陥時ブレーキ力制御ルーチンの一部を構成する初期シフト量決定サブルーチンを示すフローチャートである。
図13】サーボ圧センサ失陥時ブレーキ力制御ルーチンの一部を構成する第1シフト量変更サブルーチンを示すフローチャートである。
図14】サーボ圧センサ失陥時ブレーキ力制御ルーチンの一部を構成する第2シフト量変更サブルーチンを示すフローチャートである。
図15】サーボ圧センサ失陥時ブレーキ力制御ルーチンの一部を構成する第3シフト量変更サブルーチンを示すフローチャートである。
図16】サーボ圧センサ失陥時ブレーキ力制御ルーチンの一部を構成する増圧弁フィードフォワード制御サブルーチンを示すフローチャートである。
図17】サーボ圧センサ失陥時ブレーキ力制御ルーチンの一部を構成する減圧弁フィードフォワード制御サブルーチンを示すフローチャートである。
図18】ブレーキ電子制御ユニット(ECU)の機能を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、請求可能発明の代表的な実施形態を、実施例として、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明は、下記実施例の他、下記変形例,前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。また、〔発明の態様〕の各項の説明に記載されている技術的事項を利用して、下記実施例の変形例を構成することも可能である。
【実施例】
【0052】
≪液圧ブレーキシステムのハード構成≫
(a)全体構成
請求可能発明の実施例である液圧ブレーキシステムは、ブレーキオイルを作動液としてハイブリッド車両に搭載される液圧ブレーキシステムである。本液圧ブレーキシステムは、図1に示すように、大まかには、(A) 4つの車輪10に設けられ、それぞれがブレーキ力を発生させる4つのブレーキ装置12と、(B) ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル14の操作が入力されるとともに、加圧された作動液を各ブレーキ装置12に供給するマスタシリンダ装置16と、(C) マスタシリンダ装置16と4つのブレーキ装置12の間に配置されたアンチロックユニット18と、(D) 大気圧の作動液を低圧源であるリザーバ20から汲み上げて加圧することにより、高圧の作動液を供給する高圧源装置22と、(E) 高圧源装置22から供給される作動液を調圧してマスタシリンダ装置16に供給する調圧器であるレギュレータ24と、(F) レギュレータ24から供給される作動液の圧力を調整するための電磁式増圧リニア弁26および電磁式減圧リニア弁28(以下、それぞれ、単に、「増圧リニア弁26」および「減圧リニア弁28」と略す場合がある)と、(G) それらの装置,機器,弁を制御することで当該液圧ブレーキシステムの制御を司る制御装置としてのブレーキ電子制御ユニット30とを含んで構成されている。ちなみに、アンチロックユニット18(以下、「ABSユニット18」と呼ぶ場合がある)は、図では、[ABS]という符号が付されている。また、増圧リニア弁26,減圧リニア弁28は、図では、それぞれ、それらの記号標記である[SLA],[SLR]という符号が付されている。さらに、ブレーキ電子制御ユニット30は、以下、「ブレーキECU30」と呼ぶ場合があり、図では、[ECU]という符号で表わされている。なお、4つの車輪10は、左右前後を表わす必要がある場合に、右前輪10FR,左前輪10FL,右後輪10RR,左後輪10RLと表わすこととする。また、4つのブレーキ装置12等の構成要素も、左右前後を区別する必要がある場合に、車輪10と同様の符号を付して、12FR,12FL,12RR,12RL等と表わすこととする。
【0053】
(b)ブレーキ装置およびABSユニット
各車輪10に対応して設けられたブレーキ装置12は、車輪10とともに回転するディスクロータ,キャリアに保持されたキャリパ,キャリパに保持されたホイールシリンダ,キャリパに保持されてそのホイールシリンダによって動かされることでディスクロータを挟み付けるブレーキパッド等を含んで構成されたディスクブレーキ装置である。また、ABSユニット18は、各車輪に対応して設けられて対をなす増圧用開閉弁および減圧用開閉弁,ポンプ装置等を含んで構成されたユニットであり、スリップ現象等によって車輪10がロックした場合に作動させられて、車輪のロックが持続することを防止するための装置である。なお、ブレーキ装置12,ABSユニット18は、一般的な装置,ユニットであり、請求可能発明の特徴とは関連が小さいため、それらの構造についての詳しい説明は省略する。
【0054】
(c)マスタシリンダ装置
マスタシリンダ装置16は、ストロークシミュレータ一体型のマスタシリンダ装置であり、概して言えば、ハウジング40の内部に、2つの加圧ピストンである第1加圧ピストン42,第2加圧ピストン44、入力ピストン46が配設されるとともに、ストロークシミュレータ機構48が組み込まれている。なお、マスタシリンダ装置16に関する以下の説明において、便宜的に、図における左方を前方,右方を後方と呼び、同様に、後に説明するピストン等の移動方向について、左方に動くことを前進,右方に動くことを後退と呼ぶこととする。
【0055】
ハウジング40は、第1加圧ピストン42,第2加圧ピストン44、入力ピストン46が配設される空間を有し、その空間は、前方側の端部が閉塞されるとともに、環状をなす区画部50によって前方室52と後方室54とに区画されている。第2加圧ピストン44は、前方に開口する有底円筒状をなしており、前方室52内において前方側に配設される。一方、第1加圧ピストン42は、有底円筒状をなすとともに後端に鍔56が形成された本体部58と、本体部58から後方に延びる突出部60とを有しており、本体部58が、前方室52内において第2加圧ピストン44の後方に配設されている。区画部50は、環状をなしていることから中央に開口62が形成されたものとされており、突出部60は、その開口62を貫通して後方室54に延び出している。入力ピストン46は、後方室54に、詳しく言えば、それの一部分が後方から後方室54の内部に臨み入るようにして、配設され、後端部に、リンクロッド64を介して、ブレーキペダル14が連結されている。
【0056】
第1加圧ピストン42と第2加圧ピストン44との間には、詳しく言えば、第1加圧ピストン42の本体部58の前方には、2つの後輪10RR,10RLに対応する2つのブレーキ装置12RR,12RLに供給される作動液を第1加圧ピストン42の前進によって加圧するための第1加圧室R1が、第2加圧ピストン44の前方側には、2つの前輪10FR,10FLに対応する2つのブレーキ装置12FR,12FLに供給される作動液を第2加圧ピストン44の前進によって加圧するための第2加圧室R2が、それぞれ形成されている。一方、第1加圧ピストン42と入力ピストン46との間には、ピストン間室R3が形成されている。詳しく言えば、区画部50に形成された開口62から後方に延び出す突出部60の後端と、入力ピストン46との前端とが向かい合うようにして、つまり、開口62を利用して第1加圧ピストン42と入力ピストン46とが向かい合うようにして、ピストン間室R3が形成されているのである。さらに、ハウジング40の前方室52内には、突出部60の外周において、区画部50の後端面と、第1加圧ピストン42の本体部58の後端面、つまり、鍔56の後端面とによって区画されるようにして、レギュレータ24から供給される作動液が導入される環状の入力室R4が、本体部58の外周における鍔56の前方に、その鍔56を挟んで入力室R4と対向する環状の対向室R5が、それぞれ形成されている。
【0057】
第1加圧室R1,第2加圧室R2は、それぞれ、第1加圧ピストン42,第2加圧ピストン44が移動範囲における後端に位置する際に、低圧ポートP1,P2を介してリザーバ20と連通可能とされており、また、それぞれ、出力ポートP3,P4を介するとともにABSユニット18を介して、ブレーキ装置12と連通させられている。ちなみに、第1加圧室R1は、後に説明するレギュレータ24をも介してブレーキ装置12RR,12RLと連通させられている。なお、入力室R4は、入力ポートP5を介して、後に説明するレギュレータ24の調圧ポートと連通させられている。
【0058】
ピストン間室R3は、連結ポートP6と、対向室R5は、連通ポートP7と、それぞれ連通しており、それら連通ポートP6と連通ポートP7は、外部連通路である室間連通路70によって繋げられている。この外部連通路64の途中には、常閉型の電磁式開閉弁72、つまり、非励磁状態で閉弁状態となり、励磁状態で開弁状態となる開閉弁72が設けられており、開閉弁72が開弁状態とされた場合に、ピストン間室R3と対向室R5は連通させられる。それらピストン間室R3と対向室R5とが連通する状態では、それらによって、1つの液室、すなわち、反力室R6と呼ぶことのできる液室が形成されていると考えることができる。なお、電磁式開閉弁72は、ピストン間室R3と対向室R5との連通,非連通を切換える機能を有することから、以下、「室間連通切換弁72」と呼ぶこととする。
【0059】
また、マスタシリンダ装置16には、さらに2つの低圧ポートP8,P9が設けられており、それらは、内部通路にて連通している。一方の低圧ポートP8はリザーバ20に繋げられており、他方の低圧ポートP9は、外部連通路である低圧開放路74を介して、室間連通切換弁72と対向室R5との間において室間連通路70に繋げられている。低圧開放路74には、常開型の電磁式開閉弁76、つまり、非励磁状態で開弁状態となり、励磁状態で閉弁状態となる開閉弁76が設けられている。この開閉弁76は、対向室R5を低圧(本システムでは大気圧である)に開放する機能を有することから、以下、「低圧開放弁76」と呼ぶこととする
【0060】
ハウジング40には、第1加圧ピストン42,第2加圧ピストン44、入力ピストン46が配設されている空間とは別の空間を有しており、ストロークシミュレータ機構48は、その空間と、その空間内に配設された反力ピストン80と、反力ピストン80を付勢する2つの反力スプリング82,84(いずれも圧縮コイルスプリングである)とを含んで構成されている。反力ピストン80の後方側には、バッファ室R7が形成されている(図では、殆ど潰れた空間として表わされている)。ブレーキペダル14の操作によって入力ピストン46が前進する際、バッファ室R7には、内部通路を介して、対向室R5の作動液、すなわち、反力室R6の作動液が導入され、その導入される作動液の量、すなわち、入力ピストン46の前進量に応じた反力スプリング82,84の弾性反力が反力室R6に作用することで、ブレーキペダル14に操作反力が付与される。つまり、このストロークシミュレータ機構48は、入力ピストン46の前進に対するその前進の量に応じた大きさの反力を入力ピストン46に付与する反力付与機構として機能しているのである。ちなみに、2つの反力スプリング82,84は直列的に配置されるとともに、反力スプリング84は、反力スプリング82に比較して、相当にばね定数が小さくされており、ブレーキペダル14の操作の進行の途中において反力スプリング84の変形が禁止されることで、ストロークシミュレータ機構48は、その途中から増加勾配が大きくなるような反力特性を実現するものとされている。なお、本システムでは、室間連通路70に、反力室R6の作動液の圧力(反力圧)を検出するための反力圧センサ86が設けられている(図では、反力圧の記号標記である[PRCT]という符号が付されている)。
【0061】
通常の状態では、上記室間連通切換弁72は、開弁状態、上記低圧開放弁76は、閉弁状態にあり、ピストン間室R3と対向室R5とによって、上記反力室R6が形成されている。本マスタシリンダ装置16では、第1加圧ピストン42を前方に移動させるべくピストン間室R3の作動液の圧力が作用する第1加圧ピストン42の受圧面積(対ピストン間室受圧面積)、すなわち、第1加圧ピストン42の突出部58の後端の面積と、第1加圧ピストン42を後方に移動させるべく対向室R5の作動液の圧力が作用する第1加圧ピストン42の受圧面積(対対向室受圧面積)、すなわち、第1加圧ピストンの鍔56の前端面の面積とが、等しくされている。したがって、ブレーキペダル14を操作して入力ピストン46を前進させても、操作力、すなわち、反力室R6の圧力によっては、第1加圧ピストン42,第2加圧ピストン44は前進せず、マスタシリンダ装置16によって加圧された作動液がブレーキ装置12に供給されることはない。その一方で、入力室R4に高圧源装置22からの作動液の圧力が導入されると、その作動液の圧力に依存して第1加圧ピストン42,第2加圧ピストン44は前進し、入力室R4の作動液の圧力に応じた圧力に加圧された作動液が、ブレーキ装置12に供給される。つまり、本マスタシリンダ装置16によれば、通常状態において、ブレーキペダル14に加えられた操作力に依存せずに高圧源装置22からマスタシリンダ装置16に供給される作動液の圧力に依存した大きさのブレーキ力をブレーキ装置12が発生させる高圧源圧依存制動力発生状態が実現されるのである。
【0062】
本システムが搭載されている車両は、上述したようにハイブリッド車両であり、当該車両においては、回生ブレーキ力が利用できる。そのため、ブレーキ操作に基づいて決定されるブレーキ力から回生ブレーキ力を減じた分のブレーキ力を、ブレーキ装置12によって発生させればよい。本システムは、上記高圧源圧依存制動力発生状態が実現されることから、ブレーキ操作力に依存しないブレーキ力をブレーキ装置12が発生させることができる。そのような作用から、本システムは、ハイブリッド車両に好適な液圧ブレーキシステムなのである。
【0063】
一方、電気的失陥時等には、上記室間連通切換弁72は、閉弁状態、上記低圧開放弁76は、開弁状態にあり、ピストン間室R3は密閉されるとともに対向室R5は低圧(本システムでは大気圧である)に開放される。その状態では、ブレーキペダル14に加えられた操作力は、ピストン間室R3の作動液を介して第1加圧ピストン42に伝達され、第1加圧ピストン42,第2加圧ピストン44は前進する。つまり、ブレーキペダル14に加えられた操作力に依存した大きさのブレーキ力をブレーキ装置12が発生させる操作力依存制動力発生状態が実現されるのである。なお、上記室間連通切換弁72を閉弁状態と、上記低圧開放弁76を開弁状態とし、入力室R4に高圧源装置22からの作動液を導入すれば、第1加圧ピストン42,第2加圧ピストン44は、高圧源装置22からマスタシリンダ装置16に供給される作動液の圧力と操作力との両方によって前進させられ、それら両方に依存した大きさのブレーキ力、つまり、高圧源装置22からマスタシリンダ装置16に供給される作動液の圧力に依存した大きさのブレーキ力と操作力に依存した大きさのブレーキ力とが足し合わされたブレーキ力をブレーキ装置12が発生させる操作力・高圧源圧依存制動力発生状態が実現されることになる。
【0064】
(d)高圧源装置
高圧源装置22は、リザーバ20から作動液を汲み上げて加圧するポンプ90と、そのポンプ90を駆動するモータ92と、ポンプ90によって加圧された作動液を蓄えるアキュムレータ94(図では[ACC]という符号が付されている)とを含んで構成されている。なお、高圧源装置22には、アキュムレータ94内の作動液の圧力、すなわち、供給する作動液の圧力(高圧源圧)を検出するための高圧源圧センサ96が設けられている(図では、高圧源圧の記号標記である[PACC]という符号が付されている)。
【0065】
(e)レギュレータ
調圧器としてのレギュレータ24は、2重構造をなして内部に空間が形成されたハウジング100と、その空間内にハウジング100の軸線方向(左右方向)において図の左方から順に並んで配置された第1ピストン102,第2ピストン104,弁座環106,弁ロッド108を含んで構成されている。第1ピストン102,第2ピストン104は、それぞれ可動体として機能し、ハウジング100の軸線方向に移動可能とされている。第2ピストン104は、凹所が形成されたピストン本体110と、その凹所に嵌め込まれたプランジャ112とによって構成されている。弁座環106は、鍔部を有するとともに両端が開口する筒状をなしており、2つのスプリング114,116によって、第2ピストン104とハウジング100とに浮動支持されている。弁ロッド108は、左端が弁子として機能し、弁座として機能する弁座環106の右端部にその弁ロッド108の左端が着座可能に配設され、スプリング118によって左方に向かって付勢されている。つまり、弁座環106,弁ロッド106,スプリング118を含んで、後に説明する弁機構120が構成されているのであり、その弁機構120は、ハウジング100の軸線方向において可動体である第2ピストン104と並んで配設されているのである。なお、第2ピストン104のプランジャ112の先端(右端)は、弁座環106内において弁ロッド108の左端に当接可能とされている。
【0066】
ハウジング100の上記空間内には、複数の液室が区画形成されている。具体的には、第1ピストン102の左側には、第1パイロット室R8が、第1ピストン102と第2ピストン104との間には、第2パイロット室R9が、第2ピストン104のプランジャ112の外周における概してピストン本体110と弁座環106の鍔部との間には、調圧されて当該レギュレータ24からマスタシリンダ装置16へ供給される作動液が収容される調圧室R10が、弁ロッド108の外周には、高圧源装置22から供給される作動液を受け入れる高圧室R11が、それぞれ形成されている。大まかに言えば、調圧室R10は、第2ピストン104の上記弁機構120の側に形成され、高圧室R11と調圧室R10とは、それらで弁機構120を挟むようにして形成されているのである。
【0067】
ハウジング100には、各種のポートが設けられており、上記複数の液室は、それらのポートを介して当該システムの各装置等と連通させられている。具体的には、高圧室R11は、高圧ポートP10を介して、高圧源装置22からの作動液が供給される。調圧室R10は、調圧ポートP11を介して、マスタシリンダ装置16の入力ポートP5と連通させられている。第2ピストン104の内部には、プランジャ112を軸線方向に貫通する液通路と、その液通路に連通するとともにピストン本体110を径方向に貫通する液通路とからなる低圧通路130が設けられており、2つの低圧ポートP12,P13の各々は、その低圧通路130を介して互いに連通している。一方の低圧ポートP12は、上記低圧開放路74に繋げられており、低圧通路130は、マスタシリンダ装置16を介して、リザーバ20に連通している。すなわち、低圧通路130は、低圧源に連通する低圧源連通路として機能しているのである。ちなみに、他方の低圧ポートP13は、リリーフ弁132を介して、上記高圧ポートP8とは別の高圧ポートP14と繋げられており、高圧室R11の圧力が高すぎる状態となった場合に、高圧室R11の圧力がリザーバ20に開放される。
【0068】
第1パイロット室R8は、第1パイロットポートP15,P16を介して、それぞれ、マスタシリンダ装置16の出力ポートP3,後輪側のブレーキ装置12RR,12RLに連通させられている。つまり、第1パイロット室R8は、マスタシリンダ装置16からブレーキ装置12RR,12RLに供給される作動液の通路の一部とされている。第2パイロット室R9は、2つの第2パイロットポートP17,P18と繋がっており、一方の第2パイロットポートP17は、上記増圧リニア弁26を介して、高圧ポートP14に、他方の第2パイロットポートP18は、上記減圧リニア弁28を介して、上記低圧開放路74に繋げられている。つまり、第2パイロット室R9は、増圧リニア弁26を介して高圧源装置22に、減圧リニア弁28を介してリザーバ20に、それぞれ繋げられており、後に詳しく説明するように、第2パイロット室R9の作動液の圧力は、それら増圧リニア弁26,減圧リニア弁28によって調整された圧力(以下、「調整圧」と言う場合がある)に調整される。
【0069】
第2ピストン104には、調圧室R10の作動液の圧力、すなわち、当該レギュレータ24から供給される作動液の圧力(いわゆる「調圧器供給圧」であり、以下、「サーボ圧」と言う場合がある)と、第2パイロット室R9の圧力である第2パイロット圧との差圧に依拠する差圧作用力が作用し、その差圧作用力によって、第2ピストン104は、ハウジング100内を軸線方向に移動させられる。実際には、スプリング114,116の弾性反力等を考慮する必要があるが、簡単に言えば、第2ピストン104は、第2パイロット圧に依拠する作用力がサーボ圧に依拠する作用力に優る場合に、図における右方に、つまり、弁機構120に向かって移動させられ、逆に、サーボ圧に依拠する作用力が第2パイロット圧に依拠する作用力に優る場合に、図における左方に、つまり、弁機構120から離れる方向に移動させられる。右方に移動させられた場合、第2ピストン104が、プランジャ112の先端において、弁機構120と係合して、弁ロッド108の先端が弁座環106から離座することで、その弁機構120により、調圧室R10と高圧室R11とが連通する。その場合、プランジャ112の先端に設けられた上記低圧通路130の開口は、弁ロッド108の先端によって塞がれており、調圧室R10と低圧通路130との連通は遮断される。逆に、左方に移動させられた場合、プランジャ112の先端における第2ピストン104の弁機構120との係合が解除されることで、調圧室R10と高圧室R11との連通が遮断される。その場合、低圧通路130の開口が弁ロッド108の先端によっては塞がれずに、調圧室R10と低圧通路130とが連通する。このようなレギュレータ24の動作により、調圧室R10内の作動液の圧力は、第2パイロット圧に応じた圧力、つまり、増圧リニア弁26,減圧リニア弁28によって調整された上記調整圧に応じた圧力に調整される。なお、本システムでは、サーボ圧を検出するためのサーボ圧センサ134が設けられている(図では、サーボ圧の記号標記である[PSRV]という符号が付されている)。
【0070】
以上のような作用から、レギュレータ24は、高圧源装置22が、サーボ圧と第2パイロット圧との両者の圧力源として機能するタイプの調圧器であり、「高圧源圧依存型調圧器」と呼ぶことができる。そして、その調圧器が配備されている本液圧ブレーキシステムは、「高圧源圧依存型調圧器配備システム」と呼ぶことができるのである。
【0071】
通常の状態では、調圧器であるレギュレータ24からマスタシリンダ装置16に導入されるサーボ圧は、上述のように、上記調整圧に応じた圧力に調整される。先の説明から解るように、通常の状態では、マスタシリンダ装置16からブレーキ装置12に供給される作動液の圧力(以下、「マスタ圧」と言う場合がある)は、サーボ圧に応じた圧力となることから、マスタ圧は調整圧に応じた圧力となる。したがって、本システムでは、通常の状態において、調整圧に依存した大きさのブレーキ力がブレーキ装置12によって発生させられることとなる。その意味において、本システムは、増圧リニア弁26,減圧リニア弁28によって調整された圧力に依存した大きさのブレーキ力を発生させる「リニア弁調整型システム」と呼ぶことができるのである。ちなみに、通常の状態では、第1パイロット室R8の圧力である第1パイロット圧はマスタ圧となるが、マスタシリンダ装置16の構造に依拠するサーボ圧とマスタ圧との比、および、レギュレータ24の構造に依拠する調整圧とサーボ圧との比は、調整圧となる第2パイロット圧とマスタ圧となる第1パイロット圧との差圧に依拠して第1ピストン102に作用する差圧作用力によっては第1ピストン102がハウジング100内おいて右方に移動しないように設定されている。
【0072】
例えば、増圧リニア弁26の失陥等により、第2パイロット室R9に調整圧の作動液を供給できない場合には、第1パイロット室R8に導入されたマスタ圧と、サーボ圧との差圧によって作用する差圧作用力によって、第1ピストン102と第2ピストン104とが、それらが当接した状態のまま、つまり、それらが一体となって、ハウジング100内を軸線方向に移動する。そして、通常の状態と同様に、弁機構120による高圧室R11と調圧室R10との連通とその連通の遮断、および、低圧通路130と調圧室R10との連通とその連通の遮断が切り換えられ、マスタ圧に応じた圧力となるサーボ圧の作動液が、レギュレータ24からマスタシリンダ装置16に供給される。つまり、本システムでは、第2パイロット室R9に調整圧の作動液を供給できない状況に陥った場合であっても、高圧源装置22が正常に機能しているとき、若しくは、正常に機能していなくてもアキュムレータ94にある程度の圧力が残っているときには、上記高圧源圧依存制動力発生状態の実現、つまり、高圧源装置22からマスタシリンダ装置16に供給される作動液の圧力に依存した大きさのブレーキ力をブレーキ装置12が発生させる状態の実現が可能とされているのである。
【0073】
なお、本システムでは、レギュレータ24の第1パイロット室R8には、マスタ圧が導入されるように構成されているが、その構成に代え、例えば、反力室R6若しくはピストン間室R3の作動液の圧力が導入されるように構成することもできる。そのような構成であっても、第2パイロット室R9に調整圧の作動液を供給できない状況に陥った場合に、上記高圧源圧依存制動力発生状態の実現、詳しく言えば、ブレーキペダル14に加えられた運転者の操作力に応じた大きさのブレーキ力を高圧源装置22から供給される作動液の圧力に依存してブレーキ装置12が発生させる状態の実現が可能とされているのである。
【0074】
(f)増圧リニア弁および減圧リニア弁
増圧リニア弁26,減圧リニア弁28は、一般的な電磁式リニア弁であり、図2に模式的に示す構造のものとされている。増圧リニア弁26は、高圧源装置22とレギュレータ24の第2パイロット室R9との間に配設された常閉型の電磁式リニア弁である。この増圧リニア弁26は、図2(a)に示すように、先端140が弁子として機能するプランジャ142と、そのプランジャ142の先端140が着座する弁座144を有している。そして、その弁座144を挟んで、レギュレータ24の第2パイロット室R9と連通してそれの圧力である第2パイロット圧PPLTに相当する調整圧PAJTの作動液が収容される調整圧室R12が、プランジャの側に、高圧源装置22と連通して高圧源圧PACCの作動液が受け入れられる高圧室R13が、プランジャ142とは反対側に、それそれ形成されている。プランジャ142には、それら高圧源圧PACCと調整圧PAJTとの差圧による差圧作用力FΔPAが、当該プランジャ142を弁座144から離座させる方向に作用しており、その一方で、プランジャ142は、その差圧作用力FΔPAを上回るスプリング146の付勢力、つまり、スプリング146を含んで構成される弾性付勢機構が発生させる弾性付勢力FKAによって、当該プランジャ142を弁座144に着座させる方向に付勢されている。また、プランジャ142には、電磁コイル148の励磁によって、そのコイル148に通電される励磁電流iAに応じた大きさの電磁作用力FEAが、差圧作用力FΔPAと同じ方向、つまり、弾性付勢力FKAとは反対の方向に作用する。大まかに言えば、本増圧リニア弁26では、それらの力の釣り合いを考慮しつつ、任意の調整圧PAJTが得られるような励磁電流がiAが決定され、コイル148に通電される。励磁電流iAの決定については、後に詳しく説明する。ちなみに、本増圧リニア弁26では、励磁電流iAが大きくなるほど、調整圧PAJTが高くなる。言い換えれば、開弁度(例えば、閉弁状態から開弁状態への移行のし易さ)が高くなり、弾性付勢力FKA,差圧作用力FΔPA,電磁作用力FEAがバランスした状態、つまり、開弁状態と閉弁状態との境目となる弁開閉均衡状態における開弁圧、すなわち、開閉均衡圧が高くなるのである。
【0075】
一方、減圧リニア弁28は、レギュレータ24の第2パイロット室R9と低圧源であるリザーバ22との間に配設された常開型の電磁式リニア弁である。この減圧リニア弁28は、図2(b)に示すように、先端140が弁子として機能するプランジャ142と、そのプランジャ142の先端140が着座する弁座144を有し、その弁座144を挟んで、リザーバ20と連通して大気圧PRSVとなる低圧室R14が、プランジャ142の側に、レギュレータ24の第2パイロット室R9と連通して第2パイロット圧PPLTに相当する調整圧PAJTの作動液が収容される調整圧室R12が、プランジャとは反対側に、それぞれ形成されている。プランジャ142には、それら調整圧PAJTと大気圧PRSVとの差圧による差圧作用力FΔPRが、当該プランジャ142を弁座144から離座させる方向に作用しており、それに加え、プランジャ142は、スプリング146の付勢力、つまり、スプリング146を含んで構成される弾性付勢機構が発生させる弾性付勢力FKRによって、差圧作用力FΔPRと同じ方向に付勢されている。その一方で、プランジャには、電磁コイル148の励磁によって、そのコイル148に通電される励磁電流iRに応じた大きさの電磁作用力FERが、差圧作用力FΔPRおよび弾性付勢力FKRとは反対方向に作用する。本減圧リニア弁28では、大まかに言えば、それらの力の釣り合いを考慮しつつ、任意の調整圧PAJTが得られるような励磁電流がiRが決定され、コイル148に通電される。励磁電流iRの決定については、増圧リニア弁26の場合と同様に、後に詳しく説明する。ちなみに、本減圧リニア弁28では、励磁電流iRが大きくなるほど、調整圧PAJTが高くなる。言い換えれば、開弁度(例えば、閉弁状態から開弁状態への移行のし易さ)が低くなり、上記弁開閉均衡状態における開弁圧、すなわち、開閉均衡圧が高くなるのである。
【0076】
以上のような増圧リニア弁26,減圧リニア弁28の機能によれば、本システムでは、それら増圧リニア弁26,減圧リニア弁28を含んで、作動液を調整圧PAJTに調整するための圧力調整弁装置が構成されていると考えることができる。そしてその圧力調整弁装置は、レギュレータ24の第2パイロット圧PPLTを調整圧PAJTとして調整するものとされているのである。
【0077】
(g)制御系
本システムの制御、つまり、ブレーキ制御は、ブレーキECU30によって行われる。ブレーキECU30は、大まかには、高圧源装置22(詳しくは、それが有するモータ92)の制御を行い、また、増圧リニア弁26および減圧リニア弁28制御を行う。ブレーキECU30は、中心的な要素であるコンピュータと、高圧源装置22のモータ92,増圧リニア弁26,減圧リニア弁28等をそれぞれ駆動させるための駆動回路(ドライバ)とを含んで構成されている。
【0078】
ブレーキECU30には、反力室R6若しくは対向室R5内の圧力PRCT(以下、「反力圧PRCT」と呼ぶことがある)、高圧源装置22からレギュレータ24に供給される作動液の圧力である高圧源圧PACC(いわゆる「アキュムレータ圧」である)、レギュレータ24からマスタシリンダ装置に送られる作動液の圧力である調圧器供給圧としてのサーボ圧PSRVを、制御に必要な情報として取得するため、反力圧センサ86,高圧源圧センサ96,サーボ圧センサ134が接続されている。ちなみに、レギュレータ24から供給される作動液の圧力である調圧器供給圧としてのサーボ圧PSRVは、ブレーキ装置12が発生させるブレーキ力を指標するブレーキ力指標の一種であるため、サーボ圧センサ134は、ブレーキ力指標検出器として機能する。また、本システムには、ブレーキ操作量δPDL,ブレーキ操作力FPDLを、ブレーキ操作部材であるブレーキペダル14の操作情報として取得するために、ブレーキ操作量センサ150,ブレーキ操作力センサ152が設けられており(図では、それぞれ、ブレーキ操作量,ブレーキ操作力の記号標記である[δPDL],[FPDL]という符号が付されている)、それらのセンサ150,152も、ブレーキECU30に接続されている。本システムにおける制御は、それらセンサの検出値に基づいて行われる。
【0079】
≪液圧ブレーキシステムにおける制御,処理≫
以下に、本システムにおけるブレーキ制御について、その制御を行うためのプログラムを説明しつつ、そのプログラムの流れにそって説明する。そのプログラムに沿った制御では、高圧源装置22の制御、すなわち、高圧源圧PACCの制御である高圧源制御と、増圧リニア弁26,減圧リニア弁28の各々に供給される励磁電流IA,IRを制御することで、ブレーキ装置12が発生させるブレーキ力を制御するブレーキ力制御とを行うが、このブレーキ力制御に関し、通常時には、フィードバック制御が行われ、サーボ圧センサ134が失陥した場合には、フィードフォワード制御が行われる。このことを念頭に置きつつ、本ブレーキ制御の理解を容易にするため、ブレーキ制御のメインフロー,高圧源制御,通常時のブレーキ力制御,フィードフォワード制御の内容、サーボ圧センサ失陥時のブレーキ力制御を順に説明し、その後に、本ブレーキ制御に関するブレーキECU30、つまり、制御装置の機能構成について説明する。
【0080】
(a)ブレーキ制御のメインフロー
ブレーキ制御は、ブレーキ装置12が適切なブレーキ力を発生させるために行われる制御であり、ブレーキECU30が、図3にフローチャートを示すブレーキ制御プログラムを、短い時間ピッチ(例えば、数msec〜数十msec)で繰り返し実行することによって、行われる。
【0081】
このプログラムに従う制御処理では、まず、ステップ1(以下、「S1」と言う場合があり、他のステップも同様である)において、高圧源圧センサ96の検出により、高圧源圧PACCが取得される。次いで、S2において、後に詳しく説明する高圧源装置22の制御、つまり、高圧源制御が行われる。この高圧源制御は、高圧源装置22から供給される作動液の圧力である高圧源圧PACCの制御である。
【0082】
高圧源制御に続くS3において、ブレーキ操作の程度が、ブレーキ操作量センサ150,ブレーキ操作力センサ152のそれぞれの検出によって取得されたブレーキ操作量δPDL,ブレーキ操作力FPDLに基づいて、公知の手法に従って認定される。次に、S4において、認定されたブレーキ操作の程度に基づいて、目標ブレーキ力G*が決定される。目標ブレーキ力G*は、本液圧ブレーキシステムに要求されているブレーキ力、すなわち、4つのブレーキ装置12が発生させるべきブレーキ力であり、具体的には、認定されたブレーキ操作の程度に基づいて、車両全体に必要とされるブレーキ力である対車両全体必要ブレーキ力が算出され、その対車両全体必要ブレーキ力から、現時点で発生させられる回生ブレーキ力を減じることによって、上記目標ブレーキ力G*が決定される。次いで、S5において、決定された目標ブレーキ力G*に基づいて、目標ブレーキ力指標、つまり、制御におけるブレーキ力指標の目標として、サーボ圧PSRVの制御における目標である目標サーボ圧P*SRVが決定される。具体的には、各ブレーキ装置12が有するホイールシリンダのピストンの受圧面積,マスタシリンダ装置16の入力室R4に対する第1加圧ピストン42の受圧面積,第1加圧室R1および第2加圧室R2に対する第1加圧ピストン42および第2加圧ピストン44の各々の受圧面積の比に基づいて、目標ブレーキ力G*から、目標サーボ圧P*SRVが算出されるのである。
【0083】
目標サーボ圧P*SRVが決定された後、S6において、サーボ圧センサ96が失陥しているか否かが判断される。サーボ圧センサが失陥していないと判断された場合は、S7において、通常時ブレーキ力制御が、サーボ圧センサが失陥している判断された場合は、S8において、サーボ圧センサ失陥時ブレーキ力制御が、それぞれ行われる。
【0084】
(b)高圧源制御
S2の高圧源制御は、高圧源圧PACCを調整するための制御であり、図4にフローチャートを示す高圧源制御ルーチンの実行によって行われる。このルーチンに従う処理では、まず、S11において、高圧源圧PACCが、設定上限圧PACC-Uを超えているか否かが判断される。高圧源圧PACCが設定上限圧PACC-Uを超えていると判断された場合には、S12において、ポンプ90の駆動を停止する旨の指令が発せられる。具体的には、モータ92の作動を停止する旨の信号が、駆動回路に送られる。それに対して、高圧源圧PACCが設定上限圧PACCUを超えていないと判断された場合には、S13において、高圧源圧PACCが、設定下限圧PACC-Lを下回っているか否かが判断される。高圧源圧PACCが、設定下限圧PACC-Lを下回っていると判断された場合には、S14において、ポンプ90を駆動する旨の指令が発せられる。具体的には、モータ92を作動させる旨の信号がモータドライバに送られる。それに対して、高圧源圧PACCが、設定下限圧PACC-Lを下回っていないと判断された場合、すなわち、高圧源圧PACCが設定下限圧PACC-L以上かつ設定上限圧PACC-U以下である場合には、S15において、ポンプ90の現在の状態を維持する旨の指令が、つまり、ポンプ90が駆動させられている場合にはその駆動を継続する指令が、ポンプ90の停止させられている場合にはその停止を維持する旨の指令が発せられる。具体的には、モータ92が作動している場合には、作動させる旨の信号が、モータ90の作動が停止している場合には、停止する旨の信号が、駆動回路に送られる。このような通常高圧源制御が行われることにより、高圧源圧PACCは、通常、設定上限圧PACC-Uと設定下限圧PACC-Lとで画定される設定圧力範囲に維持されることになる。
【0085】
(c)通常時ブレーキ力制御
S7の通常時ブレーキ力制御は、図5にフローチャートを示す通常時ブレーキ力制御ルーチンが実行されることによって行われる。このルーチンに従う処理では、まず、S21において、サーボ圧センサ134の検出によって実際のブレーキ力指標としての実際のサーボ圧PSRVが取得され、続くS22において、既に決定されている目標サーボ圧P*SRVから、取得されたサーボ圧PSRVを減じることにより、サーボ圧偏差ΔPSRV(=P*SRV−PSRV)が算出される。そして、S23において、取得されているサーボ圧PSRVと、レギュレータ24の構造によって定まる増圧比(パイロット圧に対するサーボ圧の比)とに基づいて、第2パイロット室R9の作動液の圧力である第2パイロット圧PPLT2が認定される。それらの決定,算出,認定の後、S24,S25において、増圧リニア弁26,減圧リニア弁28の各々への励磁電流IA,IRの供給によってそれらの各々を制御する増圧弁フィードバック制御,減圧弁フィードバック制御が実行される。ちなみに、それら増圧弁フィードバック制御,減圧弁フィードバック制御によって、フィードバック制御が構成されている。
【0086】
c-1)増圧弁フィードバック制御
S24の増圧弁フィードバック制御は、簡単に言えば、励磁電流IAを、フィードフォワード制御の手法に基づいて決定される電流成分であるフィードフォワード成分IA-FFに、フィードバック制御の手法に基づいて決定される電流成分であるフィードバック成分IA-FBを加えることによって決定して、その決定された励磁電流IAを、増圧リニア弁26に供給するための制御である。この増圧弁フィードバック制御は、図6にフローチャートを示す増圧弁フィードバック制御サブルーチンが実行されることによって行われる。
【0087】
増圧弁フィードバック制御サブルーチンに従う処理では、まず、S31において、増圧リニア弁26の構造に依拠して定まる上記弁開閉均衡状態におけるサーボ圧PSRVと励磁電流IAとの相互関係に従ってフィードフォワード成分IA-FFが決定される。つまり、フィードフォワード成分IA-FFは、増圧リニア弁26を開弁状態と閉弁状態との境目である上記弁開閉均衡状態とするための成分と考えることができる。サーボ圧PSRVと第2パイロット圧PPLT2(上記調整圧PAJTに相当する)とは、上述の増圧比に従った関係にあるため、実際には、第2パイロット圧PPLT2と高圧源圧PACCと励磁電流IAとの相互関係に従って決定される。図2(a)を参照すれば解るように、具体的には、弁開閉均衡状態における差圧作用力FΔP-A,弾性付勢力FK-A,電磁作用力FE-Aの釣り合いは以下のような式で表わされる。
E-A=FK-A−FΔP-A
ちなみに、弁開閉均衡状態における励磁電流をIA-FFとすれば、
E-A=αA・IA-FF
FΔP-A=βA・(PACC−PPLT2) αA,βA:係数
であるから、上記式は、
A-FF={FK-A−βA・(PACC−PPLT2)}/αA
となる(FK-Aは定数と考えることができる)。S31では、この式に従う励磁電流IA-FFを、フィードフォワード成分IA-FFとして決定する。ちなみに、増圧弁フィードバック制御でのフィードフォワード成分IA-FFの決定においては、高圧源圧PACCは、高圧源圧センサ96の検出によって既に取得されている実際の圧力が、第2パイロット圧PPLT2は、サーボ圧センサ134の検出により取得されている実際のサーボ圧PSRVに依拠して認定された圧力がそれぞれ用いられる。また、弾性付勢力FK-Aは、車両製造時において、増圧リニア弁26個々について、実測に基づき予め設定されており、したがって、上記相互関係は、予め設定された関係となる。
【0088】
続くS32において、サーボ圧偏差ΔPSRVに基づいて、フィードバック成分IA-FBが決定される。このフィードバック電流成分IA-FBは、サーボ圧PSRVを目標サーボ圧P*SRVに近づけるための電流成分、すなわち、サーボ圧偏差ΔPSRVをなくすための成分と考えることができる。具体的には、次式に従って、フィードバック成分IA-FBが決定される。
A-FB=γA・ΔPSRV=γA・(P*SRV−PSRV) γA:制御ゲイン
ちなみに、増圧弁フィードバック制御でのフィードバック成分IA-FBの決定においては、サーボ圧センサ134の検出により取得されている実際のサーボ圧PSRVに依拠して算出されたサーボ圧偏差ΔPSRVが用いられる。
【0089】
次のS33において、実際に供給される励磁電流IAの基礎となる基礎励磁電流IA0が、次式に基づいて決定される。
A0=IA-FF+IA-FB
そして、S34,S35において、目標サーボ圧P*SRVの変化に基づいて、ブレーキ力が増加する過程であるブレーキ力増加過程,ブレーキ力が減少する過程であるブレーキ力減少過程あるいはブレーキ力が維持される過程であるブレーキ力維持過程(目標ブレーキ力が変化しない過程を意味する)のいずれにあるかが判断される。ブレーキ力増圧過程若しくはブレーキ力維持過程にあると判断された場合には、S36において、供給する励磁電流IAが、上記基礎励磁電流IA0に決定される。一方、ブレーキ力減少過程にあると判断された場合には、S37において、増圧リニア弁26の電力消費に鑑み、励磁電流IAが、基礎励磁電流IA0ではなく、0に決定される。そして、S38において、決定された励磁電流IAについての指令が発せられる。具体的には、駆動回路に励磁電流IAに関する信号が送られる。ちなみに、ブレーキ力増加過程,ブレーキ力維持過程,ブレーキ力減少過程のことを、フローチャートにおいては、サーボ圧PSRVの変化に依拠して、それぞれ、増圧中,維持中,減圧中と表わしている。
【0090】
なお、上記増圧弁フィードバック制御では、ブレーキ力増加過程とブレーキ力維持過程とにおいて、基礎励磁電流IA0が増圧リニア弁26に供給されている。そのことに鑑みて厳密に言えば、ブレーキ力増加過程,ブレーキ力維持過程のみ、フィードバック制御が行われていると考えることができる。
【0091】
c-2)減圧弁フィードバック制御
S25の減圧弁フィードバック制御は、簡単に言えば、増圧リニア弁26と同様に、励磁電流IRを、フィードフォワード成分IR-FFにフィードバック成分IR-FBを加えることによって決定して、減圧リニア弁28に供給するための制御である。この減圧弁フィードバック制御は、図7にフローチャートを示す減圧弁フィードバック制御サブルーチンが実行されることによって行われる。
【0092】
減圧弁フィードバック制御サブルーチンに従う処理では、増圧リニア弁26に対する処理と同様、まず、S41において、減圧リニア弁28の構造に依拠して定まる上記弁開閉均衡状態におけるサーボ圧PSRVと励磁電流IRとの相互関係に従ってフィードフォワード成分IR-FFが決定される。つまり、フィードフォワード成分IR-FFは、減圧リニア弁28を開弁状態と閉弁状態との境目である上記弁開閉均衡状態とするための成分と考えることができる。サーボ圧PSRVと第2パイロット圧PPLT2とは上述の増圧比に従った関係にあるため、実際には、第2パイロット圧PPLT2と大気圧PRSVと励磁電流IRとの相互関係に従って決定される。図2(b)を参照すれば解るように、具体的には、弁開閉均衡状態における差圧作用力FΔP-R,弾性付勢力FK-R,電磁作用力FE-Rの釣り合いは以下のような式で表わされる。
E-R=FK-R+FΔP-R
ちなみに、弁開閉均衡状態における励磁電流をIR-FFとすれば、
E-R=αR・IR-FF
FΔP-R=βR・(PPLT2−PRSV) αR,βR:係数
であるから、上記式は、
R-FF={FK-R+βR・(PPLT2−PRSV)}/αR
となる(FK-Rは定数と考えることができる)。S41では、この式に従う励磁電流IR-FFを、フィードフォワード成分IR-FFとして決定する。ちなみに、減圧弁フィードバック制御でのフィードフォワード成分IR-FFの決定においては、大気圧PRSVは、概ね1気圧が、第2パイロット圧PPLT2は、サーボ圧センサ134の検出により取得されている実際のサーボ圧PSRVに依拠して認定された圧力がそれぞれ用いられる。また、弾性付勢力FK-Rは、車両製造時において、減圧リニア弁28個々について、実測に基づき予め設定されており、したがって、上記相互関係は、予め設定された関係となる。
【0093】
続くS42において、サーボ圧偏差ΔPSRVに基づいて、フィードバック成分IR-FBが決定される。このフィードバック成分IR-FBは、サーボ圧PSRVを目標サーボ圧P*SRVに近づけるための電流成分、すなわち、サーボ圧偏差ΔPSRVをなくすための成分と考えることができる。具体的には、次式に従って、フィードバック成分IR-FBが決定される。
R-FB=γR・ΔPSRV=γR・(P*SRV−PSRV) γR:制御ゲイン
ちなみに、減圧弁フィードバック制御でのフィードバック成分IR-FBの決定においては、サーボ圧センサ134の検出により取得されている実際のサーボ圧PSRVに依拠して算出されたサーボ圧偏差ΔPSRVが用いられる。
【0094】
次のS43において、実際に供給される励磁電流IRの基礎となる基礎励磁電流IR0が、次式に基づいて決定される。
R0=IR-FF+IR-FB
ちなみに、減圧リニア弁28の場合、このフィードバック電流成分IR-FBは、ブレーキ力減少過程においては実際のサーボ圧PSRVが目標サーボ圧P*SRVよりも高く、サーボ圧偏差ΔPSRVが負になることで負の値となるため、結果的には、フィードフォワード成分IRFFを減じる成分となる。そして、S44,S45において、目標サーボ圧P*SRVの変化に基づいて、ブレーキ力増加過程,ブレーキ力減少過程あるいはブレーキ力維持過程のいずれにあるかが判断される。ブレーキ力減少過程若しくはブレーキ力維持過程にあると判断された場合には、S46において、供給する励磁電流IRが、上記基礎励磁電流IR0に決定される。一方、ブレーキ力増加過程にあると判断された場合には、S47において、減圧リニア弁28を充分な閉弁状態とすべく、励磁電流IRが、基礎励磁電流IR0にマージン電流IMAGを足し合わせた電流として決定される。そして、S48において、決定された励磁電流IRについての指令が発せられる。具体的には、駆動回路に励磁電流IRに関する信号が送られる。
【0095】
なお、上記減圧弁フィードバック制御では、ブレーキ力減少過程とブレーキ力維持過程とにおいて、基礎励磁電流IR0が増圧リニア弁26に供給されている。そのことに鑑みて厳密に言えば、ブレーキ力減少過程,ブレーキ力維持過程のみ、フィードバック制御が行われていると考えることができる。
【0096】
(d)フィードフォワード制御の内容
本システムでは、サーボ圧センサ134の失陥時には、S7の通常時ブレーキ力に代えて、S8のサーボ圧センサ失陥時ブレーキ力制御が行われる。この制御では、先に説明したフィードバック制御に代えて、フィードフォワード制御が実行される。以下に、そのフィードバック制御について詳しく説明する。
【0097】
d-1)フィードフォワード制御の概要
先に説明したフィードバック制御では、増圧リニア弁26,減圧リニア弁28に供給する励磁電流IA,IRを決定するにあたって、ブレーキ力指標としてサーボ圧PSRVを採用し、そのサーボ圧PSRVの目標サーボ圧P*SRVに対する偏差であるサーボ圧偏差ΔPSRVに基づくフィードバック成分IA-FB,IR-FBを決定している。ところが、サーボ圧センサ134の失陥時には、実際のサーボ圧PSRVは取得することができないため、フィードバック成分IA-FB,IR-FBを決定することができない。そこで、フィードフォワード制御では、簡単に言えば、それらフィードバック成分IA-FB,IR-FBを含まない励磁電流IA,IR、言い換えれば、上述のフィードフォワード成分IA-FF,IR--FFからなる励磁電流IA,IRを、目標サーボ圧P*SRVに基づいて決定し、その決定した励磁電流IA,IRを供給するようにしている。つまり、端的に言えば、フィードフォワード制御は、増圧リニア弁26,減圧リニア弁28の各々を弁開閉均衡状態に保ちつつ、サーボ圧PSRVを目標サーボ圧P*SRVに維持する制御と考えることができるのである。
【0098】
d-2)ブレーキ力の担保
先に説明したように、弁開閉均衡状態は、電磁作用力FE-A,FE-R,差圧作用力FΔP-A,FΔP-R,弾性付勢力FK-A,FK-Rのバランスによって決まる状態である。例えば、経時的若しくは経年的な増圧リニア弁26,減圧リニア弁28の特性変化等によって、弁開閉均衡状態における励磁電流IA,IRとサーボ圧PSRVとの相互関係も変化し、上記フィードバック制御におけるフィードフォワード成分IA-FF,IR-FFを決定するための式に従って、励磁電流IA,IRを決定しても、目標とするブレーキ力が得られない可能性がある。特に、弾性付勢力FK-A,FK-Rの変化による影響が大きく、弾性付勢力FK-A,FK-Rが大きくなった場合には、フィードフォワード制御において、予め設定されている上記式に従って決定した励磁電流IA,IRを増圧リニア弁26,減圧リニア弁28に供給したとしても、ブレーキ力が不足してしまうことになる。本システムでは、そのことに鑑み、フィードフォワード制御では、予め設定されている弁開閉状態における相互関係に従ってフィードフォワード成分IA-FF,IR-FFを決定し、その決定されたフィードフォワード成分IA-FF,IR-FFに、某かの補正を加え、あたかも、変化した弾性付勢力FK-A,FK-Rに基づいてフィードフォワード成分IA-FF,IR-FFを決定したのと同等の励磁電流IA,IRが供給されるような処理が行われる。
【0099】
詳しく説明すれば、増圧リニア弁26の弁開閉均衡状態におけるフィードフォワード成分IA-FFと第2パイロット圧PPLT2との関係は、上記式を変形すると、
PLT2=(αA/βA)・IA-FF−FK-A/βA+PACC
となり、サーボ圧PSRVと第2パイロット圧PPLT2とは、
SRV/PPLT2=ε ε:レギュレータ24の増圧比
という関係にあることから、増圧リニア弁26の弁開閉均衡状態におけるサーボ圧PSRVとフィードフォワード成分IA-FFとの相互関係は、以下の式で表わすことができる。
SRV=ε・{(αA/βA)・IA-FF−FK-A/βA+PACC
同様に、減圧リニア弁28のフィードフォワード成分IR-FFと第2パイロット圧PPLT2との関係は、上記式を変形すると、
PLT2=(αR/βR)・IR-FF−FK-R/βR+PRSV
となり、上記サーボ圧PSRVと第2パイロット圧PPLT2との関係を考慮すれば、減圧リニア弁26の弁開閉均衡状態におけるサーボ圧PSRVとフィードフォワード成分IR-FFとの相互関係は、以下の式で表わすことができる。
SRV=ε・{(αR/βR)・IR-FF−FK-R/βR+PRSV
高圧源圧PACC,大気圧PRSVはある範囲に収まるため、それらを一定であるとみなせば、増圧リニア弁26,減圧リニア弁28の弁開閉均衡状態におけるサーボ圧PSRVとフィードフォワード成分IA-FF,IR-FFとの関係は、簡単に、次式で表わすことができる。
SRV=aA・IA-FF+bAA,bA:係数
SRV=aR・IR-FF+bRR,bR:係数
【0100】
弁開閉均衡状態におけるサーボ圧PSRVとフィードフォワード成分IA-FF,IR-FFとの関係を示す上記2つの式を、励磁電流−フィードフォワード成分特性線として、グラフに表せば図8(a)のようになる。この図から解るように、弁開閉均衡状態において、フィードフォワード成分IA-FFR-FFが大きくなるにつれて、サーボ圧PSRV、つまり、開閉均衡圧は高くなる。そして、上記bA,bRの値が小さくなるにつれて、つまり、弾性付勢力FK-A,FK-Rが大きくなるにつれて、特性線は、下側にシフトする。すなわち、ブレーキ力が小さくなる側にシフトするのである。
【0101】
上記のような特性変化を考慮し、本システムにおけるフィードフォワード制御では、車両製造時点において予め設定されている値を有する弾性付勢力FK-A,FK-Rに基づく特性線(図8(a)におけるSL0)に従うのではなく、その特性線をブレーキ力が小さくなる側にシフトさせた特性線(図8(a)におけるSL’)従って、フィードフォワード成分IA-FF,IR-FFを決定するようにしている。概念的に言えば、予め設定されている弾性付勢力FK-A,FK-Rに代えて、それらよりも大きな弾性付勢力F’K-A,F’K-R(以下、「補正弾性付勢力F’K-A,F’K-Rを採用してフィードフォワード成分IA-FF,IR-FFを決定するのと同等の処理を行っているのである。具体的には、励磁電流IA,IRをシフトさせる一定の電流量(以下、「シフト量」と言う場合がある)ΔIA,ΔIRを、次式、
ΔIA=(F’K-A−FK-A)/αA
ΔIR=(F’K-R−FK-R)/αR
に従って決定し、その決定したシフト量ΔIA,ΔIRを、予め設定されている弁開閉均衡状態におけるサーボ圧PSRVと励磁電流IA,IRとの相互関係に従って決定された励磁電流IA,IR(厳密に言えば、上記基礎励磁電流IA0,IR0である)に加えることで、励磁電流IA,IRが決定される。このようにして励磁電流IA,IRを決定することにより、図8(a)に示すようように、同じサーボ圧PSRVにすべく増圧リニア弁26,減圧リニア弁28に供給される励磁電流IA,IRは、予め設定されている相互関係に従って決定される励磁電流IA,IRより、シフト量ΔIA,ΔIRだけ大きい値に決定されるのである。つまり、増圧リニア弁26,減圧リニア弁28ともに、励磁電流IA,IRが大きくなるにつれて、開閉均衡圧が高くなることから、励磁電流IA,IRは、ブレーキ力が大きくなる側にシフト量ΔIA,ΔIRだけシフトさせた値に決定されることになり、フィードフォワード制御においても、ブレーキ力不足とならないようにブレーキ力が担保されることになるのである。
【0102】
d-3)フィードフォワード成分のシフト量
上記のようにフィードフォワード制御において、励磁電流IA,IRをシフトさせるのであるが、そのシフト量ΔIA,ΔIRについては、設定に従って3種類の中から選択可能とされている。詳しく言えば、設定されている若しくは設定される3種類の弾性付勢力FK-A,FK-Rのいずれかを採用してフィードフォワード成分IA-FF,IR-FFを決定する場合の励磁電流IA,IRを実現させるべく、シフト量ΔIA,ΔIRが決定される。
【0103】
上述したように、弾性付勢力FK-A,FK-Rは、増圧リニア弁26,減圧リニア弁28個々に固有の値となり、その値は、車両製造時点で実測に基づいて設定されている。しかしながら、その値は、規格最大値FK-A-MAX,FK-R-MAX,規格最小値FK-A-MIN,FK-R-MINで画定されるある規格幅の中に収まるものとなっている。ちなみに、規格最大値FK-A-MAX,FK-R-MAXは、ブレーキ力が小さくなる側の限度であり、規格最小値FK-A-MIN,FK-R-MINブレーキ力が大きくなる側の限度である。それら規格最大値FK-A-MAX,FK-R-MAX,規格最小値FK-A-MIN,FK-R-MINとなる場合の特性線を、図8(b)に示す。図から解るように、規格最大値FK-A-MAX,FK-R-MAXとなる場合の特性線SLMINは(以下、「最小ブレーキ力特性線SLMIN」と言う場合がある)、弁開閉均衡状態におけるサーボ圧PSRVとフィードフォワード成分IA-FF,IR-FFとの関係において、ブレーキ力が小さい側の限度となり、規格最小値FK-A-MIN,FK-R-MINとなる場合の特性線SLMAX以下、「最大ブレーキ力特性線SLMAX」と言う場合がある)は、弁開閉均衡状態におけるサーボ圧PSRVとフィードフォワード成分IA-FF,IR-FFとの関係において、ブレーキ力が大きい側の限度となる。すなわち、弁開閉均衡状態におけるサーボ圧PSRVとフィードフォワード成分IA-FF,IR-FFとの関係も、予め設定された規格幅とされるのである。
【0104】
上記3種類のシフト量ΔIA,ΔIRのうちの1つは、上記最小ブレーキ力特性線SLMINに従ってフィードフォワード成分IA-FF,IR-FFが決定された場合の励磁電流IA,IRを実現させるためのシフト量ΔIA,ΔIRであり、そのシフト量ΔIA,ΔIRは、補正弾性付勢力F’K-A,F’K-Rとして規格最大値FK-A-MAX,FK-R-MAXを採用して、次式に従って決定される。
ΔIA=(FK-A-MAX−FK-A)/αA
ΔIR=(FK-R-MAX−FK-R)/αR
励磁電流IA,IRは、このように決定されたシフト量ΔIA,ΔIRだけシフトさせられ、その励磁電流IA,IRが増圧リニア弁26,減圧リニア弁28に供給されるフィードフォワード制御では、充分なブレーキ力が担保されることになる。
【0105】
上記3種類のシフト量ΔIA,ΔIRのうちのもう1つは、図8(b)に示す小ブレーキ力寄り特性線SLSMLに従ってフィードフォワード成分IA-FF,IR-FFが決定された場合の励磁電流IA,IRを実現させるためのシフト量ΔIA,ΔIRである。この小ブレーキ力寄り特性線SLSMLは、上記最小ブレーキ力特性線SLMINと上記最大ブレーキ力特性線SLMAXとのちょうど中間の中間ブレーキ力特性線SLMIDよりも、最小ブレーキ力特性線SLMIN側に偏った特性線である。そのシフト量ΔIA,ΔIRは、補正弾性付勢力F’K-A,F’K-Rとして特定大側値FK-A-LRG,FK-R-LRGを採用して、シフト量ΔIA,ΔIR決定される。ちなみに、特定大側値FK-A-LRG,FK-R-LRGは、規格最大値FK-A-MAX,FK-R-MAXと規格最小値FK-A-MIN,FK-R-MINとのちょうど中間となる規格中間値FK-A-MID,FK-R-MIDと、規格最大値FK-A-MAX,FK-R-MAXとの間の値とされている。具体的には、シフト量ΔIA,ΔIRは、次式に従って決定される。
ΔIA=(FK-A-LRG−FK-A)/αA
ΔIR=(FK-R-LRG−FK-R)/αR
励磁電流IA,IRは、このように決定されたシフト量ΔIA,ΔIRだけシフトさせられ、そのシフトさせられた励磁電流IA,IRが増圧リニア弁26,減圧リニア弁28に供給されるフィードフォワード制御では、ある程度ブレーキ力が担保されることになる。なお、特定大側値FK-A-LRG,FK-R-LRGが予め設定されている弾性付勢力FK-A,FK-Rよりも小さい場合には、シフト量ΔIA,ΔIRは、0とされる。
【0106】
上記3種類のシフト量ΔIA,ΔIRのうちの残る1つは、通常時ブレーキ力制御、つまり、フィードバック制御において、学習によって取得された弁開閉均衡状態におけるサーボ圧PSRVとフィードフォワード成分IA-FF,IR-FFとの関係に従ってフィードフォワード成分IA-FF,IR-FFが決定された場合の励磁電流IA,IRを実現させるためのシフト量ΔIA,ΔIRである。そのシフト量ΔIA,ΔIRの決定に際し、学習によって取得された弾性付勢力FK-A,FK-Rの値を補正弾性付勢力F’K-A,F’K-Rとして採用する。弾性付勢力FK-A,FK-Rの学習、つまり、弁開閉均衡状態におけるサーボ圧PSRVとフィードフォワード成分IA-FF,IR-FFとの相互関係の学習については、以下に詳しく説明する。
【0107】
d-4)弁開閉均衡状態におけるサーボ圧とフィードフォワード成分との相互関係の学習
フィードバック制御の最中に行われる学習、つまり、弁開閉均衡状態におけるサーボ圧PSRVとフィードフォワード成分IA-FF,IR-FFとの相互関係の学習は、フィードフォワード制御におけるブレーキ力不足を回避するために行われる。そのため、弁開閉均衡状態における相互関係の、予め設定されている関係からの、ブレーキ力が小さくなる側、つまり、サーボ圧PSRVが低くなる側へのズレを認知することによって行われる。言い換えれば、弾性付勢力FK-A,FK-Rが予め設定された値よりどの程度大きくなっているかを認知することによって行われる。
【0108】
増圧リニア弁26についての学習は、ブレーキ力増加過程が開始されたときに行われる。上述したフィードバック制御における基礎励磁電流IA0の算出式は、
A0=IR-FF+IRFB
={FK-A−βA・(PACC−PPLT2)}/αA+γA・(P*SRV−PSRV
のように表すことができる。この算出式および図9(a)を参照して説明すれば、ブレーキ力増加過程が開始された時点では、第2パイロット圧PPLT2は、大気圧PRSVとなっており、あるフィードフォワード成分IA-FFが決定される。その一方で、その時点では、目標サーボ圧P*SRVは、実際のサーボ圧PSRVと等しい。弁開閉均衡状態における相互関係が、予め設定されている関係からズレていない場合、つまり、実際の弾性付勢力FK-Aが予め設定されている値である場合には、図9(a)において破線で示すように、この時点から目標サーボ圧P*SRVが上昇すれば、直ちに、実際のサーボ圧PSRVも上昇する。それに伴って、その時点から、直ちに、フィードフォワード成分IA-FFも増加し、フィードバック成分IA-FBは、比較的小さい値だけ増加する。しかしながら、弾性付勢力FK-Aが予め設定されている値よりも大きい場合には、図9(a)において実線で示すように、ある程度目標サーボ圧P*SRVが上昇するまでは、実際のサーボ圧PSRVが上昇しない。つまり、フィードバック成分IA-FBは、比較的急な勾配で増加し、ある程度増加したときに、フィードフォワード成分IA-FFも増加し始めることになる。この実際のサーボ圧PSRVの上昇を開始する時点におけるフィードバック成分IA-FBの値が、弾性付勢力FK-Aが予め設定されている値よりも大きいことによるフィードフォワード成分IA-FFの不足分、つまり、その実際のサーボ圧PSRVにおける不足電流ΔIASである。この不足電流ΔIASに基づいて、実際の弾性付勢力FK-Aが算出される。このような学習は、ブレーキ力増加過程が開始されるごとに行われ、本システムでは、学習によって得られた実際の弾性付勢力FK-Aのうち、最も大きな値のもの、つまり、弁開閉均衡状態における上記相互関係が最もズレた場合の値のものが、学習値FK-A-STとして記憶される。この学習値FK-A-STを採用することで、増圧リニア弁26に供給される励磁電流IAは、下記式で表わされるシフト量ΔIA
ΔIA=(FK-A-ST−FK-A)/αA
だけ、上記設定された相互関係に従った励磁電流IAより大きくされるのである。
【0109】
減圧リニア弁28についての学習は、ブレーキ力維持過程において行われる。上述したフィードバック制御における基礎励磁電流IR0の算出式は、
R0=IR-FF+IR-FB
={FK-R+βR・(PPLT2−PRSV)}/αR+γR・(P*SRV−PSRV
のように表わすことができる。この算出式および図9(b)を参照して説明すれば、ブレーキ力維持過程においては、弾性付勢力FK-Rが予め設定されている値であるときには、図9(b)において破線で示すように、実際のサーボ圧PSRVは目標サーボ圧P*SRVと等しくなり、基礎励磁電流IR0にはフィードフォワード成分IR-FFしか含まれなくなる。しかしながら、弾性付勢力FK-Rが予め設定されている値より大きい場合には、図9(b)において実線で示すように、フィードフォワード成分IR-FFだけでは、実際のサーボ圧PSRVを目標サーボ圧P*SRVに維持することができず、実際のサーボ圧PSRVは目標サーボ圧P*SRVには達しない。その結果、ブレーキ力維持過程であるにも関わらず、基礎励磁電流IR0にはフィードバック成分IR-FBが含まれることになる。このときのフィードバック成分IR-FBの値が、弾性付勢力FK-Rが予め設定されている値よりも大きいことによるフィードフォワード成分IR-FFの不足分、つまり、その実際のサーボ圧PSRVにおける不足電流ΔIRSである。この不足電流ΔIRSに基づいて、実際の弾性付勢力K-Rが算出される。このような学習は、ブレーキ力維持過程が到来するごとに行われ、本システムでは、学習によって得られた実際の弾性付勢力FK-Rのうち、最も大きな値のものが、つまり、弁開閉均衡状態における上記相互関係が最もズレた場合の値のものが、学習値FK-R-STとして記憶される。この学習値FK-R-STを採用することで、減圧リニア弁28に供給される励磁電流IRは、下記式で表わされるシフト量ΔIR
ΔIR=(K-R-ST−FK-R)/αR
だけ、上記設定された相互関係に従った励磁電流IRより大きくされるのである。
【0110】
上記のようにして決定されたシフト量ΔIA,ΔIRだけシフトさせられた励磁電流IA,IRが増圧リニア弁26,減圧リニア弁28に供給されるフィードフォワード制御では、そのシフト量ΔIA,ΔIRが学習に基づくものである故、比較的適正なブレーキ力が担保されることになる。言い換えれば、比較的精度よくブレーキ力を制御することが可能である。なお、実際の弾性付勢力FK-A,FK-Rについての上記学習値FK-A-ST,FK-R-STが、予め設定されている弾性付勢力FK-A,FK-R以下である場合には、シフト量ΔIA,ΔIRは、0とされる。上記学習は、所定の学習プログラムが、本ブレーキ制御プログラムと並行して実行されることによって行われるが、本システムの説明では、そのプログラムについてのフローチャートの説明を省略する。
【0111】
d-5)ブレーキ力が大きくなり過ぎた場合の処置
先に説明したように、フィードフォワード制御では、ブレーキ力の不足とならないように、励磁電流IA,IRが、設定された弁開閉状態における相互関係によって決定されたフィードフォワード成分IA-FF,IR-FFにからなる励磁電流IA,IRよりも、上記シフト量ΔIA,ΔIRだけ大きくされる。大きくされた励磁電流IA,IRを供給した場合、実際のサーボ圧PSRVが高くなり過ぎ、ブレーキ力が大きくなり過ぎることも予測される。そのため、本システムでは、フィードフォワード制御において、ブレーキ力が設定程度を超えて大きくなっているか否かを判断し、大きくなり過ぎている場合に、ブレーキ力を小さくするような処置を講じるようにされている。
【0112】
フィードフォワード制御は、サーボ圧センサ134が失陥しているときに行われる制御であるから、フィードフォワード制御が行われているときには、実際のサーボ圧PSRVは検出できない。そこで、ブレーキ力が設定程度を超えて大きくなっているか否かの判断は、高圧源センサ96の検出による高圧源圧PACCの変化、詳しくは、高圧源圧PACCの低下に基づいて行われる。増圧リニア弁26についての判断は、ブレーキ力増加過程においてフィードバック制御からフィードフォワード制御へ切り換ったとき、および、フィードフォワード制御におけるブレーキ力増加過程の開始時に行われる。一方、減圧リニア弁28についての判断は、フィードフォワード制御が行われている場合において、ブレーキ力維持過程からブレーキ力減少過程に移行したときに行われる。
【0113】
まず、図10(a)を参照しつつ、ブレーキ力増加過程においてフィードバック制御からフィードフォワード制御に切換ったときの増圧リニア弁26についての判断を説明する。フィードフォワード制御において増圧リニア弁26に供給される励磁電流IAが適切な場合には、図10(a)の破線で示すように、サーボ圧PSRVは、概ね、フィードバック制御におけるサーボ圧PSRVの変化の延長上になると考えられる。この場合、高圧源装置22からレギュレータ24を介してマスタシリンダ装置16に供給される作動液は、フィードバック制御における場合と概ね同じ供給速度(単位時間あたりの供給量を意味する)で供給され、それに伴い、高圧源圧PACCは、フィードバック制御における場合と概ね同じ勾配に沿って低下する。ところが、励磁電流IAが大き過ぎる場合には、図10(a)において実線で示すように、切換り時点で、サーボ圧PSRVは、急激に高くなると考えられる。その場合は、マスタシリンダ装置16に供給される作動液も急激に増加し、高圧源圧PACCも急激に低下する。この高圧源圧PACCの急激な低下をもって、ブレーキ力が大き過ぎると判断される。具体的には、切換り時点の高圧源圧PACCである切換時高圧源圧PACC-Cと、切換り後短い設定時間t1経過した時点の高圧源圧PACCと差である高圧源圧差δPACC-1が、設定閾差δPACC-TH1を超えた場合に、ブレーキ力が設定程度を超えて大きい、つまり、励磁電流IAが大き過ぎると判断される。
【0114】
次に、図10(b)を参照しつつ、フィードフォワード制御におけるブレーキ力増加過程の開始時の増圧リニア弁26についての判断を説明する。ブレーキ力増加過程の開始によって、目標サーボ圧P*SRVが上昇し、励磁電流IAが適切な場合には、実際のサーボ圧PSRVは、図10(b)において破線で示すように、目標サーボ圧P*SRVの上昇に沿って上昇する。この上昇に応じて、高圧源圧PACCは、開始時高圧源圧PACC-Iから破線のように低下する。それに対し、励磁電流IAが大き過ぎる場合には、図10(a)において実線で示すように、より急勾配で上昇し、高圧源装置22からレギュレータ24を介したマスタシリンダ装置16への作動液の供給速度は高くなることから、その上昇に応じて、高圧源圧PACCは、より急勾配で低下する。目標サーボ圧P*SRVが設定判断圧P*SRV-Jとなったときの高圧源圧PACCの開始時高圧源圧PACC-Iとの差である高圧源圧差δPACC-2が、励磁電流IAが適切な場合の高圧源圧差である基準高圧源圧差δPACC-20よりマージン差δPACC-Mを設けて設定された設定閾差δPACC-TH2より大きく低下した場合に、ブレーキ力が設定程度を超えて大きい、つまり、励磁電流IAが大き過ぎると判断される。
【0115】
さらに次に、図10(c)を参照しつつ、フィードフォワード制御が行われている場合において、ブレーキ力維持過程からブレーキ力減少過程に移行したときに行われる減圧リニア弁28についての判断を説明する。後に詳しく説明するが、フィードフォワード制御では、ブレーキ力維持過程からブレーキ力減少過程に移行する際、増圧リニア弁26に供給される励磁電流IAは、直ちに0とされず、実際にブレーキ力が減少すると判断されたときに、0とされる。したがって、ブレーキ力減少過程が開始された時点では、増圧リニア弁26は、弁開閉均衡状態にある。減圧リニア弁28に供給される励磁電流IRが適切な場合には、図10(c)における破線で示すように、目標サーボ圧P*SRVの低下に対して殆ど遅れることなく、実際のサーボ圧PSRVは低下を始める。この実際のサーボ圧PSRVの低下が開始されるときには、レギュレータ24の第2パイロット圧PPLT2の低下するが、増圧リニア弁26が弁開閉均衡状態にあるため、高圧源装置22から供給されている作動液は、第2パイロット室R9に流入することになる。この流入によって、高圧源圧PACCは低下する。減圧リニア弁28についての判断は、この高圧源圧PACCの低下をトリガとして行い、また、この低下をトリガとして、増圧リニア弁26へ供給される励磁電流IAが0とされる。
【0116】
減圧リニア弁28に供給される励磁電流IRが大き過ぎる場合には、図10(c)において実線で示すように、目標サーボ圧P*SRVが低下し始めても、直ちには、減圧リニア弁28は弁開閉均衡状態とならず、サーボ圧PSRVは、遅れて低下する。つまり、上述の高圧源圧PACCの低下も遅れて発生する。このことを利用し、ブレーキ力維持過程からブレーキ力減少過程へ移行した時点での目標サーボ圧P*SRVである移行時目標サーボ圧P*SRV-Tと、高圧源圧PACCが低下した時点での目標サーボ圧P*SRVとの差である目標サーボ圧差δP*SRVが、設定閾差δP*SRV-THを超えた場合に、ブレーキ力が設定程度を超えて大きい、つまり、励磁電流IRが大き過ぎると判断される。
【0117】
上記のようにして、ブレーキ力が設定程度を超えて大きいと判断された場合、つまり、増圧リニア弁26,減圧リニア弁28へ供給される励磁電流IA,IRが大き過ぎると判断された場合、その励磁電流IA,IRは減少させられる。詳しく言えば、シフト量ΔIA,ΔIRは、減少のために設定されている設定減少量ΔIA-DEC,ΔIR-DECだけ減少させられる。つまり、励磁電流IA,IRは、ブレーキ力が小さくなる側にシフトさせられるのである。ちなみに、設定減少量ΔIA-DEC,ΔIR-DECは、ブレーキ力が小さくなる側へのシフト量であり、多くの場合に励磁電流IA,IRを増加させるための上記シフト量ΔIA,ΔIRよりも相当に小さくなるように設定されており、多くの場合、ブレーキ力が設定程度を超えて大きいと判断された都度、励磁電流IA,IRが設定減少量ΔIA-DEC,ΔIR-DECずつ減少させられ、ブレーキ力は、段階的に適正な大きさに近づいていく。なお、シフト量ΔIA,ΔIRが0とされていた場合、つまり、励磁電流IA,IRをブレーキ力が大きくなる側にシフトさせていない場合でも、ブレーキ力が設定程度を超えて大きいと判断されたときには、シフト量ΔIA,ΔIRは設定減少量ΔIA-DEC,ΔIR-DECだけ減少させられるようにされている。したがって、その場合であっても、その減少により、適切な大きさのブレーキ力が発生させられることになる。
【0118】
(e)サーボ圧センサ失陥時ブレーキ力制御
上述のフィードフォワード制御が行われるS8のサーボ圧センサ失陥時ブレーキ力制御は、図11にフローチャートを示すサーボ圧センサ失陥時ブレーキ制御ルーチンが実行されることによって行われる。このルーチンに従う処理では、まず、S51において、今回の本ルーチンの実行が、S7の通常時ブレーキ力制御から切換った最初の実行であるか否かが判断される。最初の実行である場合には、S52において、上述した励磁電流励磁電流IA,IRについてのシフト量ΔIA,ΔIRが決定される。一方で、最初の実行ではない場合には、S52の決定は、スキップされる。S53〜S55では、上述したブレーキ力が設定程度を超えて大きいことを判断し、大きい場合にシフト量ΔIA,ΔIRを小さくする側に変更するための第1〜第3シフト量変更処理が行われる。それらの処理の後、S56において、第2パイロット圧PPLT2が認定される。この認定は、先の通常時ブレーキ力制御における認定が実際のサーボ圧PSRVに基づくのと異なり、目標サーボ圧P*SRVに基づいて行われる。具体的には、サーボ圧PSRVが目標サーボ圧P*SRVになっているとみなし、目標サーボ圧P*SRVと上述したレギュレータ24の増圧比εとに基づいて、第2パイロット圧PPLT2が認定される。その認定の後、上記フィードフォワード制御を構成する増圧弁フィードフォワード制御,減圧弁フィードフォワード制御が、それぞれ、S57,S58において行われる。以下に、それぞれの制御,処理について詳しく説明する。
【0119】
e-1)制御の切換り初期におけるシフト量の決定
制御の切換り初期において行われるS52のシフト量決定のための処理は、図12にフローチャートを示す初期シフト量決定サブルーチンが実行されることによって行われる。このサブルーチンに従う処理では、まず、S61,S62において、シフト量選択パラメータSLTの値が判断される。このパラメータには、“1”,“2”,“3”のいずれかの値が、車両の種類,状態等に応じて予め設定されており、その値に応じて、本サブルーチンにおいて上記3種類のシフト量ΔIA,ΔIRのうちのいずれかが決定される。具体的に言えば、パラメータが“1”に設定されている場合には、上記最小ブレーキ力特性線SLMINに従ってフィードフォワード成分IA-FF,IR-FFが決定された場合の励磁電流IA,IRを実現させるためのシフト量ΔIA,ΔIRとすべく、S63において、上述したように、補正弾性付勢力F’K-A,F’K-Rが、それぞれ、規格最大値FK-A-MAX,FK-R-MAXとされる。パラメータが“2”に設定されている場合には、上記小ブレーキ力寄り特性線SLSMLに従ってフィードフォワード成分IA-FF,IR-FFが決定された場合の励磁電流IA,IRを実現させるためのシフト量ΔIA,ΔIRとすべく、S64において、上述したように、補正弾性付勢力F’K-A,F’K-Rが、それぞれ、特定大側値FK-A-LRG,FK-R-LRGとされる。パラメータが“3”に設定されている場合には、上記学習によって取得された弁開閉均衡状態におけるサーボ圧PSRVとフィードフォワード成分IA-FF,IR-FFとの関係に従ってフィードフォワード成分IA-FF,IR-FFが決定された場合の励磁電流IA,IRを実現させるためのシフト量ΔIA,ΔIRとすべく、S65において、上述したように、補正弾性付勢力F’K-A,F’K-Rが、それぞれ、学習値FK-A-ST,FK-R-STとされる。
【0120】
補正弾性付勢力F’K-A,F’K-Rが決定された後、S66において、増圧リニア弁26についての補正弾性付勢力F’K-Aがフィードバック制御で用いられているところの予め設定されている弾性付勢力FK-Aを超えているか否かが判断される。そして、弾性付勢力FK-Aを超えている場合には、S67において、増圧リニア弁26についてのシフト量ΔIAが、補正弾性付勢力F’K-Aに基づき、上記式に従って決定され、一方、弾性付勢力FK-A以下である場合には、S68において、シフト量ΔIAが0とされる。次に、S69において、減圧リニア弁28についての補正弾性付勢力F’K-Rがフィードバック制御で用いられているところの予め設定されている弾性付勢力FK-Rを超えているか否かが判断される。そして、弾性付勢力FK-Rを超えている場合には、S70において、減圧リニア弁28についてのシフト量ΔIRが、補正弾性付勢力F’K-Rに基づき、上記式に従って決定され、一方、弾性付勢力FK-R以下である場合には、S71において、シフト量ΔIRが0とされる。
【0121】
e-2)シフト量変更処理
S53の第1シフト量変更処理は、通常時ブレーキ力制御からサーボ圧センサ失陥時ブレーキ力制御に切換った際、ブレーキ力が設定程度を超えて大きくなっているか否かを判断し、大きくなっていると判断された場合に、増圧リニア弁26についてのシフト量ΔIAを減少させるための処理である。この処理は、図13にフローチャートを示す第1シフト量変更サブルーチンが実行されることによって行われる。このサブルーチンに従う処理では、まず、S81において、判断のための条件が充足されているか否かが判定される。その条件は、ブレーキ力増加過程において制御が切換ったこと、現時点でもブレーキ増加過程にあること、かつ、制御の切換り後設定時間t1が経過したことである。判断のための条件が充足されていると判定された場合、S82において、上述したように、高圧源圧差δPACC-1が設定閾差δPACC-TH1を超えているか否かが判断され、超えている場合に、S83において、増圧リニア弁26についてのシフト量ΔIAが、設定減少量ΔIA-DECだけ減少させられる。
【0122】
S54の第2シフト量変更処理は、ブレー力増加過程が開始した際、ブレーキ力が設定程度を超えて大きくなっているか否かを判断し、大きくなっていると判断された場合に、増圧リニア弁26についてのシフト量ΔIAを減少させるための処理である。この処理は、図14にフローチャートを示す第2シフト量変更サブルーチンが実行されることによって行われる。このサブルーチンに従う処理では、まず、S91において、判断のための条件が充足されているか否かが判定される。その条件は、ブレーキ力増加過程が開始され現時点でもその過程にあること、かつ、目標サーボ圧P*SRVが設定判断圧P*SRV-Jとなったことである。判断のための条件が充足されていると判定された場合、S92において、上述したように、高圧源圧差δPACC-2が設定閾差δPACC-TH2を超えているか否かが判断され、超えている場合に、S93において、増圧リニア弁26についてのシフト量ΔIAが、設定減少量ΔIA-DECだけ減少させられる。
【0123】
S55の第3シフト量変更処理は、ブレー力維持過程からブレーキ力減少過程に移行した際、ブレーキ力が設定程度を超えて大きくなっているか否かを判断し、大きくなっていると判断された場合に、減圧リニア弁28についてのシフト量ΔIRを減少させるための処理である。この処理は、図15にフローチャートを示す第3シフト量変更サブルーチンが実行されることによって行われる。このサブルーチンに従う処理では、まず、S101において、判断のための条件が充足されているか否かが判定される。その条件は、ブレーキ力維持過程からブレーキ力減少過程に移行し、現時点でもブレーキ力減少過程にあること、かつ、高圧源圧PACCが低下したことである。判断のための条件が充足されていると判定された場合、S102において、上述したように、目標サーボ圧差δP*SRVが設定閾差δP*SRVTHを超えているか否かが判断され、超えている場合に、S103において、減圧リニア弁28についてのシフト量ΔIRが、設定減少量ΔIR-DECだけ減少させられる。
【0124】
e-3)増圧弁フィードフォワード制御
S57の増圧弁フィードフォワード制御は、簡単に言えば、フィードフォワード制御の手法に基づいてフィードフォワード成分IA-FFを決定し、この決定されたフィードフォワード成分IA-FFからなる励磁電流IAを、増圧リニア弁26に供給するための制御である。この制御は、図16にフローチャートを示す増圧弁フィードフォワード制御サブルーチンが実行されることによって行われる。
【0125】
増圧弁フィードフォワード制御サブルーチンに従う処理では、まず、S111において、フィードバック制御における場合と同様の式よって、つまり、増圧リニア弁26について予め設定されているところの弁開閉均衡状態におけるサーボ圧PSRVと励磁電流IAとの相互関係に従って、フィードフォワード成分IA-FFが決定される。具体的には、目標サーボ圧P*SRVに依拠して認定された第2パイロット圧PPLT2と高圧源圧PACCとに基づいて決定される。続くS112において、実際に供給される励磁電流IAの基礎となる基礎励磁電流IA0が、次式に基づいて決定される。
A0A-FF+ΔIA
つまり、決定されたフィードフォワード成分IA-FFに上記シフト量ΔIAを加えることによって、基礎励磁電流IA0が決定されるのである。
【0126】
基礎励磁電流IA0の決定の後、S113,S114において、フィードバック制御の場合と同様に、ブレーキ力増加過程,ブレーキ力維持過程,ブレーキ力減少過程のいずれであるかが判断される。ブレーキ力増加過程,ブレーキ力維持過程にあると判断された場合には、S115において、フィードバック制御の場合と同様に、供給する励磁電流IAが上記基礎励磁電流IA0に決定される。一方、ブレーキ力減少過程にあると判断された場合は、フィードバック制御の場合と異なり、S116における高圧源圧PACCの低下の判断の結果、高圧源圧PACCが実際に低下したと判断された時点から、S117において、励磁電流IAが0に決定される。これは、先に説明したように、第3シフト量変更処理の実行を担保するための処理である。励磁電流励IAの決定後、S118において、その励磁電流IAについての指令が発せられる。
【0127】
なお、上記増圧弁フィードフォワード制御も、増圧弁フィードバック制御と同様、ブレーキ力増加過程とブレーキ力維持過程とにおいて、基礎励磁電流IA0が増圧リニア弁26に供給されている。そのことに鑑みて厳密に言えば、ブレーキ力増加過程,ブレーキ力維持過程のみ、フィードフォワード制御が行われていると考えることができる。
【0128】
e-4)減圧弁フィードフォワード制御
S58の減圧弁フィードフォワード制御は、簡単に言えば、フィードフォワード制御の手法に基づいてフィードフォワード成分IR-FFを決定し、この決定されたフィードフォワード成分IR-FFからなる励磁電流IRを、減圧リニア弁28に供給するための制御である。この制御は、図17にフローチャートを示す減圧弁フィードフォワード制御サブルーチンが実行されることによって行われる。
【0129】
減圧弁フィードフォワード制御サブルーチンに従う処理では、まず、S121において、フィードバック制御における場合と同様の式よって、つまり、減圧リニア弁28について予め設定されているところの弁開閉均衡状態におけるサーボ圧PSRVと励磁電流IRとの相互関係に従って、フィードフォワード成分IR-FFが決定される。具体的には、目標サーボ圧P*SRVに依拠して認定された第2パイロット圧PPLT2と大気圧PRSVとに基づいて決定される。続くS122において、実際に供給される励磁電流IRの基礎となる基礎励磁電流R0が、次式に基づいて決定される。
R0=IR-FF+ΔIR
つまり、決定されたフィードフォワード成分IR-FFに上記シフト量ΔIRを加えることによって、基礎励磁電流IR0が決定されるのである。
【0130】
基礎励磁電流IR0の決定の後、S123,S124において、フィードバック制御の場合と同様に、ブレーキ力増加過程,ブレーキ力維持過程,ブレーキ力減少過程のいずれであるかが判断される。ブレーキ力減少過程,ブレーキ力維持過程にあると判断された場合には、S125において、フィードバック制御の場合と同様に、供給する励磁電流IRが上記基礎励磁電流IR0に決定される。一方、ブレーキ力増加過程にあると判断された場合も、フィードバック制御の場合と同様、S126において、励磁電流IRが、基礎励磁電流IR0に上記マージン電流IMAGを加えた値に決定される。励磁電流励IRの決定後、S127において、その励磁電流IRについての指令が発せられる。
【0131】
なお、上記減圧弁フィードフォワード制御も、減圧弁フィードバック制御と同様、ブレーキ力維持過程とブレーキ力減少過程とにおいて、基礎励磁電流IR0が減圧リニア弁28に供給されている。そのことに鑑みて厳密に言えば、ブレーキ力維持過程,ブレーキ力減少過程のみ、フィードフォワード制御が行われていると考えることができる。
【0132】
(f)制御装置の機能構成
上記ブレーキ制御プログラムに従った処理を行う当該システムの制御装置であるブレーキECU30は、その制御機能に鑑みれば、図18のブロック図に示すような機能構成を有していると考えることができる。具体的に言えば、i)高圧源装置22の制御を司る高圧源制御部160、ii)励磁電流IA,IRをフィードフォワード成分とフィードバック成分とに基づいて決定し、その決定された励磁電流IA,IRを増圧リニア弁26,減圧リニア弁28に供給するフィードバック制御部162、iii)励磁電流IA,IRをフィードフォワード成分に基づいて決定し、その決定された励磁電流IA,IRを増圧リニア弁26,減圧リニア弁28に供給するフィードフォワード制御部164、iv)フィードフォワード制御による励磁電流IA,IRの決定に際し、その励磁電流IA,IRをシフトさせる励磁電流シフト部166、v)サーボ圧センサ134に失陥が発生した場合に、増圧リニア弁26,減圧リニア弁28に供給する励磁電流IA,IRに関する制御実行する機能部を、フィードバック制御部からフィードフォワード制御部に切換える制御切換部168を有していると考えることができる。
【0133】
上記ブレーキ制御プログラムに従う処理との関係で、より詳しく言えば、高圧源制御部160は、図4に示す高圧源制御ルーチンの実行によって機能する機能部と考えることができ、フィードバック制御部162は、図5に示す通常ブレーキ力制御ルーチンにおけるS24,S25、つまり、図6図7に示す増圧弁フィードバック制御サブルーチン,減弁フィードバック制御サブルーチンの実行によって機能する機能部と、フィードフォワード制御部164は、図11に示すサーボ圧センサ失陥時ブレーキ力制御ルーチンにおけるS57,S58、つまり、図16図17に示す増圧弁フィードフォワード制御サブルーチン,減圧弁フィードフォワード制御サブルーチンの実行によって機能する機能部と、それぞれ考えることができる。また、励磁電流シフト部166は、図11に示すサーボ圧センサ失陥時ブレーキ力制御ルーチンにおけるS52〜S56、つまり、図12図15に示す初期シフト量決定サブルーチン,第1〜第3シフト量変更サブルーチンの実行によって機能する機能部と考えることができ、制御切換部168は、図3に示すメインフローのS6、つまり、通常時ブレーキ力制御からサーボ圧センサ失陥時制御に切換える処理の実行によって機能する機能部と考えることができる。
【0134】
≪変形例≫
以下に、請求可能発明が適用できる上記実施例の変形例について、説明する。
【0135】
上記実施例のシステムでは、高圧源装置22からの作動液がレギュレータ24によって調圧されてマスタシリンダ装置16に供給され、その作動液の圧力によってマスタシリンダ装置16において作動液が加圧され、その加圧された作動液がブレーキ装置12に供給されるように構成されていた。このような構成に代え、例えば、レギュレータ24から調圧されて供給された作動液が、直接的にブレーキ装置に供給されるように構成されていてもよい。また、例えば、レギュレータ24を備えず、増圧リニア弁26,減圧リニア弁28によって高圧源装置22からの作動液の圧力を調整し、その調整された圧力の作動液が、直接的にマスタシリンダ装置16に供給されるように構成されていてもよい。そのような構成の場合には、その調整された圧力である調整圧をブレーキ力指標として採用することができる。さらに、例えば、増圧リニア弁26,減圧リニア弁28によって高圧源装置22からの作動液の圧力を調整し、その調整された圧力の作動液が、直接的にブレーキ装置12に供給されるように構成されていてもよい。そのような構成の場合にも、その調整された圧力である調整圧をブレーキ力指標として採用することができる。また、上記実施例のシステムにおいて、マスタシリンダ装置16からブレーキ装置12に供給される作動液の圧力であるマスタ圧を検出するマスタ圧センサを設け、そのマスタ圧をブレーキ力指標として採用することも可能である。
【0136】
上記実施例のシステムでは、常閉型の増圧リニア弁26,常開型の減圧リニア弁28が採用されているが、増圧リニア弁26として、常開型のリニア弁を、また、減圧リニア弁28として、常閉型のリニア弁を採用することも可能である。この場合、ブレーキ力を担保するための励磁電流IA,IRについてのシフトは、励磁電流IA,IRを減少させる向きのシフトとなる場合もあり得る。
【0137】
上記実施例のシステムでは、増圧リニア弁26に関して、ブレーキ力増加過程,ブレーキ力維持過程においてだけ、フィードバック制御の手法,フィードフォワード制御の手法に従って決定された励磁電流IA(基礎励磁電流IA0)がそのまま供給され、減圧リニア弁28に関して、ブレーキ力維持過程,ブレーキ力減少過程においてだけ、フィードバック制御の手法,フィードフォワード制御の手法に従って決定された励磁電流IR(基礎励磁電流IR0)が供給されていた。そのような供給形態に代え、ブレーキ力増加過程,ブレーキ力維持過程,ブレーキ力減少過程のすべてについて、フィードバック制御の手法,フィードフォワード制御の手法に従って決定された励磁電流IA,IRが供給される供給形態であってもよく、逆に、それらの過程の内の任意の1つまたは2つの過程にのみフィードバック制御の手法,フィードフォワード制御の手法に従って決定された励磁電流IA,IRが供給される供給形態であってもよい。
【0138】
上記実施例のシステムでは、フィードフォワード制御に関して、増圧リニア弁26,減圧リニア弁28の両方に、ブレーキ力を担保するための励磁電流IA,IRのシフトが行われていた。このような形態に代え、増圧リニア弁26,減圧リニア弁28の一方だけに、ブレーキ力を担保するための励磁電流IA,IRのシフトが行われるような形態であってもよい。
【符号の説明】
【0139】
12:ブレーキ装置 14:ブレーキペダル〔ブレーキ操作部材〕 16:マスタシリンダ装置 20:リザーバ〔低圧源〕 22:高圧源装置 24:レギュレータ〔調圧器〕 26:電磁式増圧リニア弁 28:電磁式減圧リニア弁 30:ブレーキ電子制御ユニット〔制御装置〕 134:サーボ圧センサ〔ブレーキ力指標検出器〕 140:先端〔弁子〕 142:プランジャ 144:弁座 146:スプリング〔弾性付勢機構〕 148:コイル〔電磁コイル〕 160:高圧源制御部 162:フィードバック制御部 164:フィードフォワード制御部 166:励磁電流シフト部 168:制御切換部 R9:第2パイロット室 PACC:高圧源圧 PPLT2:第2パイロット圧 PAJT:調整圧 PRSV:大気圧 PSRV:サーボ圧〔ブレーキ力指標〕 P*SRV:目標サーボ圧〔目標ブレーキ力指標〕 FΔP-A,FΔP-R:差圧作用力 FK-A,FK-R:弾性付勢力 FE-A,FE-R:電磁作用力 IA,IR:励磁電流 IA-FF,IR-FF:フィードフォワード成分 IA-FB,IR-FB:フィードバック成分 ΔIA,ΔIR:シフト量
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図16
図17
図18