(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
JIS K 7210に準拠して、温度190℃、荷重5kgの条件下で測定した前記樹脂組成物のメルトフローレートが0.5〜2g/10minであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の防蟻電線
【背景技術】
【0002】
従来より、地中などに埋設する電線・ケーブルとして、シースにナイロンを被覆することにより防蟻性を付与したものが一般に用いられている(特許文献1)。
【0003】
特にナイロン12は硬度が高く、防蟻性においても優れた素材であるが、吸湿性が高いため乾燥処理が必要であり、処理後すぐ使用する必要がある。また押出し温度範囲が狭く、しかも押出機に樹脂がこびりつき易く除去に手間取る等、押出被覆時の作業性に劣り、材料のロスも大きいという問題がある。さらにこれを用いた電線・ケーブルは、屈曲性及び表面の滑り性が不十分であるために、敷設時の作業性に劣るという問題がある。
【0004】
これに関し、例えば特許文献2では、ポリプロピレン樹脂に超高分子量のシリコーンポリマーを20重量%以上の高濃度で分散させた樹脂からなる防蟻層を設けた電線・ケーブルが提案されている。しかし、この防蟻層を構成する樹脂は防蟻性が十分ではなく、またシリコーンポリマーを高濃度で使用するために価格的に不利であるという問題を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、ナイロン12を用いた場合と同程度以上の防蟻性を有しつつ、防蟻層の押出被覆時の作業性とともに、曲げ易さ及び滑り易さが改善され、敷設時の作業性をより向上させた防蟻電線・ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の防蟻電線は導体の外周に1又は2以上の層が形成されてなる電線であって、上記の課題を解決するために、
上記層の最外層が防蟻層であり、この防蟻層が、高密度ポリエチレン樹脂に
高分子量ケイ素化合物を1〜3質量%含有する樹脂組成物により形成され、
ショアD硬度が60〜70であり、対ボール圧子摩擦係数測定法による静摩擦係数が0.2以下であるものとする。
【0008】
上記本発明の防蟻電線において、
高分子量ケイ素化合物としてはジメチルポリシロキサン及び/又はジメチルポリシロキサンのアルキル変性物を用いることができる。
【0009】
上記防蟻層は、
防蟻電線の厚さは0.5〜2.0mmであることが好ましい。また、対ボール圧子摩擦係数測定法による静摩擦係数が
0.08であることが好ましい。
【0010】
上記樹脂組成物は、JIS K 7210に準拠して、温度190℃、荷重5kgの条件下で測定したメルトフローレートが0.5〜2g/10minであることが好ましい。
【0011】
上記本発明の防蟻電線にさらにシース層を設けることにより、本発明の防蟻ケーブルとなすことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の防蟻電線・ケーブルは防蟻性が優れ、また高密度ポリエチレンをベース樹脂にしたことにより、ナイロンを使用した場合と比較して被覆層の押出作業性が向上したものとなる。また、高密度ポリエチレンは、ナイロンやポリプロピレンに比べて電線・ケーブルの可とう性が優れ、かつ滑剤の微量添加により滑り性もよくなるので、敷設性もより優れたものとなる。さらにベース樹脂のコストがナイロン使用の場合と比べて低く、添加する滑剤の使用量も少なくて済むので、コスト的にも有利である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図を用いてより具体的に説明する。
【0015】
図1は、本発明の防蟻電線・ケーブルの一実施形態を示すものであり、
図1中、符号1は防蟻電線を示す。この防蟻電線1は、銅、アルミニウム等からなる導体2上に、ポリエチレン樹脂、架橋ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等からなる絶縁層3が設けられ、この絶縁層3上に高密度ポリエチレン樹脂をベース樹脂とする防蟻層4が設けられてなるものである。
【0016】
この防蟻層4は、高密度ポリエチレン樹脂をベース樹脂とし、滑剤を1〜3質量%の割合で含有する樹脂組成物(以下、これを「防蟻性樹脂組成物」ともいう。)からなるものである。
【0017】
上記防蟻性樹脂組成物に用いる高密度ポリエチレン樹脂は、繰り返し単位のエチレンが分岐をほとんどもたずに直鎖状に結合してなる熱可塑性樹脂であり、一般に、HDPE、PE−HD等と略称されているものである。分岐の程度は、エチレン単位1000個当たり通常1〜5個であり、密度は、通常0.942g/cm
3以上であり、0.95〜1.15cm
3であることが好ましい。また、メルトフローレート(JIS K 7210、190℃、荷重2.16kg、以下「MFR」と略記する)は、0.05〜1.0g/10minであることが好ましく、0.1〜0.6g/10minであることがより好ましい。高密度ポリエチレン樹脂は市販されているものを適宜利用することができ、好ましい具体例としては、株式会社プライムポリマー製 ハイゼックス(登録商標)、日本ポリエチレン株式会社製 ノバテック(登録商標)等が挙げられる。
【0018】
上記高密度ポリエチレン樹脂の含有量は、防蟻性樹脂組成物中97〜99質量%であるのが好ましい。
【0019】
本発明では、防蟻層4の摩擦係数を軽減するために、防蟻樹脂組成物に滑剤を添加する。滑剤としては、脂肪酸アミド系滑剤、フッ素系滑剤、シリコン系滑剤を使用することができる。
【0020】
脂肪酸アミド系滑剤の例としては、エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド等を挙げることができる。脂肪酸アミド系滑剤は市販されているものを適宜利用することができ、好ましい具体例としては、花王株式会社製 脂肪酸アマイドシリーズ等が挙げられる。
【0021】
フッ素系滑剤の例としては、パーフルオロアルキルカルボン酸のカリウム塩、パーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノール等のフッ素系界面活性剤、パーフルオロアルキルアクリル変性樹脂等を挙げることができる。フッ素系滑剤は市販されているものを適宜利用することができ、好ましい具体例としては、住友スリーエム株式会社製ダイナマー(登録商標)シリーズ等が挙げられる。
【0022】
シリコン系滑剤としては、ポリ(オルガノ)シロキサン(シリコーン)等の有機ケイ素化合物が用いられ、具体例としては、主鎖が疎水基のジメチルシロキサン、側鎖が親水基のポリアルキレンオキサイドのペンダント型、分子片末端は疎水基のジメチルシロキサン、もう一方が親水基のポリアルキレンオキサイドの末端変性型、疎水基のジメチルシロキサン単位と親水基のポリアルキレンオキサイド単位が交互に繰り返されたブロックコポリマー型等の界面活性剤、シラノール変性シリコーンオイル、アルコキシ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、アルコール変性シリコーンオイル等の反応性シリコーンオイル、或いはこれらのエマルジョン等を挙げることができる。シリコン系滑剤は、市販されているものを適宜利用することができ、例えばモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製TSF4300、437、4440、4441*、4445、4446を好適に使用することができる。
【0023】
上記シリコン系滑剤の中でも、分子量100〜1,000,000の高分子量ケイ素化合物を好適に使用することができる。高分子量ケイ素化合物の好ましい具体例としては、ジメチルポリシロキサン、ジメチルポリシロキサンのアルキル変性物が挙げられる。高分子量ケイ素化合物は、市販されているものを適宜利用することができ、例えば東レ・ダウコーニング株式会社製 BY27シリーズ、ダウコーニング社製 MB50シリーズを好適に使用することができる。
【0024】
上記滑剤を用いる場合、その含有量は、防蟻性樹脂組成物中1〜3質量%の範囲内が好ましく、1〜2質量%であることがより好ましい。含有量が1質量%未満であると防蟻性及び滑り性が不十分となり、3質量%を超えると防蟻性及び滑り性向上が頭打ちとなるためコスト的に不利になる。
【0025】
上記防蟻性樹脂組成物は、良好な押出し作業性を得る観点から、MFR(JIS K 7210、190℃、荷重5kg)が0.5〜2g/10minであることが好ましい。
【0026】
上記防蟻性樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、必要に応じて各種の添加剤、たとえばカーボンブラック等の着色剤(耐候性付与剤)、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤などを配合することもできる。
【0027】
上記防蟻性樹脂組成物を用いて公知の方法に従い、防蟻層4を形成する。防蟻層の硬度はショアD硬度で60〜70であることが好ましい。60未満であると防蟻性及び滑り性が不十分となるおそれがあり、70を超えると電線またはケーブルの可とう性が低下する。また、上記防蟻層4の静摩擦係数は0.2μs以下であることが好ましい。0.2μsを超えると敷設作業性が低下する。
【0028】
この防蟻層4の厚さは、通常は0.5〜2.0mmの範囲であり、0.6〜1.0mmであることが好ましい。防蟻層の厚さが0.5mm未満では、薄過ぎて十分な防蟻性を発揮することが困難となり、また電線やケーブルを屈曲させた際にその屈曲部分にクラックが発生し易くなるおそれが生じる。一方、厚さが2.0mmを超えると、電線やケーブルの屈曲に支障を生じるおそれが生じ、また防蟻性効果の向上が頭打ちとなるためコスト的に不利となる。
【0029】
上記防蟻層4を形成するには、絶縁層3上に、通常の押出被覆法によって、上記高密度ポリエチレン樹脂からなる防蟻性樹脂組成物の被覆を所定の厚さに形成する方法が好適に用いられる。それ以外に、上記防蟻性樹脂組成物により形成した一軸延伸テープを絶縁層3上に所定回数巻回したのち加熱収縮させて形成する方法や、上記組成物により形成した二軸延伸フィルムを絶縁層3上に縦添えし、加熱して収縮させて密着させる方法等も用いることができる。
【0030】
次に、
図2,3を用いて、本発明の防蟻電線・ケーブルの別の実施形態を説明する。
【0031】
図2中、符号10は一括シース型防蟻ケーブルを示す。この防蟻ケーブル10は、導体2上に絶縁層3が設けられた絶縁線心11が複数本(本例では3本)互いに撚り合わされ、この撚り合わされた撚線12の外側にシース層13を介して防蟻層4が設けられた構成となっている。
【0032】
このシース層13は、上記撚線12の外側に合成樹脂等の被覆材料を押出被覆するなどの方法によって形成される。そして、この場合の被覆材料としては、ポリエチレン樹脂、架橋ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、架橋ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂などが用いられる。また、シース層13は、撚線12の外側に合成樹脂製のシートあるいはテープで押さえ巻きすることによっても形成できる。そして、このシース層13の膜厚は、シース層13を形成する材料の種類、シース層13の成形法、ケーブル10に要求される機械的強度やケーブルサイズにより異なるが、通常、2.0〜4.0mm程度の範囲で定められる。
【0033】
本発明の防蟻ケーブルは、
図3に示すような単心防蟻ケーブル20となすこともできる。この防蟻ケーブル20は、導体2上に絶縁層3が設けられ、さらにシース層5が設けられて、最外層に防蟻層4が形成された構成を有する。防蟻ケーブル20の各層の材料、物性、厚さ、形成方法等は、上記
図1及び
図2に示した実施形態について説明したのと同様である。この防蟻ケーブル20は、複数本(例えば3本)を互いに撚り合わせて用いることもできる。
【0034】
なお、上記各実施形態では防蟻層4を最外層として設けているが、導体の外周に2以上の層が設けられる場合、防蟻層は最外層に限定されず、いずれの層とすることもできる。例えば、導体上に防蟻層を直接形成して、その上に絶縁層を設けることもできる。また、難燃性が要求される場合には、防蟻層の上にシース層を設けた構成とすることもできる。
【実施例】
【0035】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、以下において配合割合等は、特にことわらない限り質量基準とする。
【0036】
[実施例1]
断面積60mm
2の銅導体上に架橋ポリエチレンからなる絶縁体を被覆してなる外径約25mmの絶縁線心に軟銅テープ、押えテープを施し、次いで、この押えテープ上にポリ塩化ビニル組成物を押出被覆して厚さ約3mmのシース層を形成し、さらにその上に、高密度ポリエチレン樹脂97.5%(株式会社プライムポリマー製 ハイゼックス(登録商標)5000H)、高分子量ケイ素化合物1.5%(ダウコーニング社製 MB50−314)、及びカーボンブラック1.0%からなる防蟻性樹脂組成物(硬度:65、MFR(JIS K 7210、190℃、荷重5kg):1.0g/10min、静摩擦係数:0.08μs)を押出被覆して、厚さ0.8mmの防蟻層を形成した(最終外径約34mm)。
【0037】
[比較例1]
防蟻層をナイロン12(ダイセル・エボニック株式会社製 ダイアミド(登録商標)L1940)99.0%、カーボンブラック1%からなる樹脂組成物で形成した以外は、実施例1と同様にして防蟻ケーブルを製造した。
【0038】
[比較例2]
防蟻層を、高密度ポリエチレン樹脂99.0%、カーボンブラック1.0%からなる防蟻性樹脂組成物で形成した以外は、実施例1と同様にして防蟻ケーブルを製造した。
【0039】
上記実施例及び比較例で得られたケーブルの、防蟻層の防蟻性、押出被覆作業性及び物性評価試験の結果を表1に併せ示す。
【0040】
防蟻性の評価は、直径80mm×高さ60mmのアクリル製円筒の底に硬質石膏を5mmの深さに流し込んで塞ぎ、石膏の上に高さ1mm×長さ30mmのアクリル三角柱を3本置いて試験体(2cm×2cmの正方形)を1個載せたものを、底に湿った脱脂綿を置いた蓋付きプラスチック容器内に5個並べて、各円筒内にイエシロアリ(職蟻150頭、兵蟻15頭)を放し、28±1℃の暗所に21日間(2012年8月20日〜9月10日)放置して、供試前後の試料の質量減少率を求めた。質量減少率が小さいほど、防蟻性に優れることを示す。なお、蟻死亡率は試験が正常に行われたことを示すデータである。参考比較例として60℃で2日間加熱乾燥させたスギ材(大きさ:1cm×1cm×2cm)について同様の試験を行った結果をともに示す。また、実施例1及び比較例1については、供試前と供試後の試料の表面写真を、
図4及び
図5としてそれぞれ示す。(a)が供試前、(b)が供試後である。
【0041】
また物性評価試験は、上記ケーブルとは別に試験片を作成し、以下の方法により実施した。
【0042】
硬度:JIS K 7215に準拠して測定した。
曲げ弾性率:ASTM D790に準拠して測定した。
静摩擦係数:HEIDON型表面性測定器(東洋精機(株)製、TYPE:14DR)を用いて、以下の条件でボール圧子を水平な試験片上に置いて、試験片に水平かつ直線方向に摺動させ、試験片の対ボール圧子静摩擦力を測定し(本測定法を「対ボール圧子摩擦係数測定法」というものとする)、5回の測定値の平均値を求めて、下記式に従い静摩擦係数を求めた。
相手材:φ10mmボール圧子(S45炭素鋼)
試験片:100mm幅×150mm長×(1±0.2mm)厚のプレスシート
測定荷重:100gf、測定速度:600mm/min
静摩擦係
数=静摩擦力(gf)/測定荷重(g)
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示した結果からも分かるように、本発明の防蟻電線・ケーブルは、防蟻層に高密度ポリエチレンのみを用いた比較例2と比較して防蟻性が顕著に優れ、従来のナイロン12を用いた比較例1と同等以上の防蟻性を有するものとなる。また、電線・ケーブルの曲げ易さや滑り性の向上により、敷設性もより優れたものとなる。さらに、高密度ポリエチレンをベース樹脂にしたことにより、ナイロン12を使用した場合と比較して押出被覆作業性も向上する。
【0045】
また、
図4として示した実施例1の供試後(b)の各試料は、白アリによる食害を受けた周囲の白く見える部分が、
図5として示した比較例1の供試後(b)の各試料よりも少なく、これらの写真からも、実施例1で形成した防蟻層の防蟻性の高さが分かる。