(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
カプセルまたは錠剤の形態にある一定量の亜鉛イオンを含む補給剤であって、前記補給剤は、治療用メタロプロテアーゼの活性に必要とされると判断された少なくとも1種の亜鉛イオンを含有し、前記補給剤は、患者の治療用メタロプロテアーゼによる治療の直前に設定される同補給剤の補充期間中に前記亜鉛イオンを1日あたりに供給するのに十分な量で前記患者に投与される、補給剤と、
前記亜鉛イオンを含む補給剤をとり、かつフィチン酸塩の摂取を低減するように患者に指示する使用説明書と、を含み、
前記治療用メタロプロテアーゼはクロストリジウム神経毒素である、処置前治療用メタロプロテアーゼ準備パック。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景は、本発明の範囲を限定することなく、ボツリヌス毒素のような致死性毒素の有用な医薬品への開発に関して記載する。「ボツリヌス中毒」という疾患用語は、半煮えのソーセージによって引き起こされた1800年代のドイツにおける致命的大流行に基づいて、ラテン語のソーセージという言葉、すなわちボツルス(botulus)に由来した。ボツリヌス中毒は、その後、1895年に初めて単離されたクロストリジウム・ボツリナム微生物(Clostridium botulinum organism)によって合成された毒素によるものであると判定された。C.ボツリナムは、一般に、植物の上、土壌中、水中、および動物の腸管内に見られる、グラム陽性胞子形成嫌気性桿菌である。ボツリヌス毒素は、1928年に初めて精製され、既知の最も有毒な物質の1つである。ボツリヌス毒素は、身体の4つの異なる部位、すなわち、アセチルコリン(Ach)を放出する、神経筋接合部、自律神経節、節後副交感神経の神経終末および節後交感神経の神経終末において麻痺を引き起こすように作用する。
【0003】
C.ブチリカム(C.butyricum)、C.バラティ(C.baratii)およびC.アルゲンチネンセ(C.argentinense)を含むいくつかの異なるクロストリジウム属の菌株は、薬理学的に類似したボツリヌス神経毒素(BTXまたはBoNTのいずれかに省略)の抗原的異型(antigenically distinct forms)を生成することが明らかにされている。現在、クロストリジウム属の細菌によって合成されたボツリヌス菌神経毒の8つの主要な抗原型、すなわち、A、B、C(C1およびC2)、D、E、FおよびGが知られている。抗原型の亜類型同士は、密接に関連していることもあるし、またはより遠いものであることもある。例えば、BoNT−A1およびA2は95%の相同性であるが、BoNT−A3およびA4は、BoNT−A1に対して、それぞれ81%および88%の相同性である。A型ボツリヌス毒素(BoNT−A)は最も強力な毒素であり、B型毒素およびF型毒素が後続する。現在まで商業的に利用されてきたのはこれらの種類である。
【0004】
BoNT−A(オクリヌム(Oculinum)、現在のBOTOX(登録商標)ブランド、アラーガン インコーポレイテッド(Allergan,Inc.))は、眼瞼痙攣(制御できない瞬目)、斜視(strabismus)(寄り目(crossed eyes))、メージ症候群(顔面下方の同時ジストアを伴う両側性眼瞼痙攣)および片側顔面痙攣の医学的処置のために1989年にFDAによって承認された。重篤な頚部および肩の収縮を引き起こす神経学的運動障害である頚部ジストニアを治療するための承認は、2000年12月に得られた。BOTOX(登録商標)は、2001年に腋窩多汗症(多汗)に対して英国で承認され、同年、BOTOX(登録商標)は、腋窩多汗症、限局性筋痙直および眉のラインにおけるしわの美容整形治療に対してカナダで承認された。2002年には、米国FDAが、中度から重度の眉間におけるしわ(眉間のしわ)の外観を一時的に改善するBOTOX(登録商標)化粧品の承認を発表した。2004年7月には、FDAは、原発性腋窩多汗症を治療するためにBOTOX(登録商標)を承認した。
【0005】
BoNT−Bも同様に臨床用に開発されてきており、現在いくつかの製品が市販されている(例えば、米国のMyoBloc(登録商標)および欧州のソルスティス・ニューロサイエンシズ(Solstice Neurosciences)のNeuroBloc(登録商標))。MyoBloc(登録商標)は頚部ジストニアの治療のために2000年にFDAによって承認された。BOTOX(登録商標)BoNT−Aは、所与の特定の治療に対してMyobloc(登録商標)BoNT−Bよりも50〜100倍強力であると考えられる。
【0006】
世界中の多数の様々な製造業者が、現在、Xeomin(登録商標)(メルツファーマ(Merz Pharma)、ドイツ)、Prosigne(登録商標)(ランチョウ インスティチュート フォー バイオロジカル プロダクツ(Lanzhou Inst.For Biol.Prod.)、中国)およびNeuronox(登録商標)(韓国におけるMeditoxin(登録商標)、メディ−トクス インコーポレイテッド(Medy−Tox,Inc.)、韓国)を含む様々なブランド名で、精製されたBoNT−Aを生産している。他の生物学的製品と同様に、新たなバッチに対する生物学的活性が判定されなければならない。これは、相当な毒性を有し、また正常な神経筋活動の回復が長期に及ぶボツリヌス毒素のような薬剤には特に重要である。筋肉内に送達されたボツリヌス毒素は、神経筋接合部において、シナプス前運動ニューロンからのアセチルコリンの放出を抑制することにより、筋肉麻痺を引き起こすように作用する。麻痺作用のピークは注射の4〜7日後に生じる。ボツリヌス毒素の投与後約2か月には、軸索が伸び始め、新たな神経終末芽が出現し、筋肉表面に向かって延びる。これらの新たな神経芽は運動神経ユニットを再構築し、筋肉麻痺は典型的には2〜4月以内に元に戻る。偶発的な過量投与の場合には抗毒素(antivenin)が使用可能であるほど、過剰投与は危険であり、回復は長引く。
【0007】
すべての市販のボツリヌス毒素の用量は生物活性の単位によって示される。ボツリヌス毒素の1単位は、マウスにおける算出された腹腔内半数致死量(LD
50)に相当する。非特許文献1を参照されたい。決して理想的ではないが、LD
50検定法はその高い感度により維持されてきた。効力試験(potency testing)に対する標準化されたアプローチが採用されておらず、またマウスLD
50検定法プロトコルにおける製造業者間の差は、異なる製品に対する単位当たりの活性において相当な変動をもたらしてきたという事実にもかかわらず、単位の定義は市販の毒素のすべての形態に適用される。例えば、Dysport(登録商標)ブランドのBoNT−A(イプセン ファーマシューティカルズ(Ipsen Pharmaceuticals)、フランス)のBOTOX(登録商標)に対する生物学的当量比(bio−equivalence ratio)は、眼瞼痙攣および片側顔面痙攣を有する患者における様々な研究によって、2.5:1〜4:1であると示唆されている。結果として、特定の適応症における推奨ボツリヌス毒素用量を連絡する場合、ラベル表示(labeling)に用いられている単位は、製品に特異的であり、交換可能ではないので、用いられる特定のブランドの毒素を規定することが重要であると考えられてきた。BoNTは大きく、比較的不安定な分子であるという事実により、さらに厄介な問題が生じる。製品の適切な再構成は重要であり、また保存可能期間はかなり限られている。
【0008】
ボツリヌス毒素は、ヒトにおいて、時間とともに毒素の効果の低下をもたらす抗体の形成を引き起こすことができる。非特許文献2を参照されたい。抗体産生は、累積投与量、投与量当たりの抗原負荷(antigenic load)、および注入の時間間隔の関数であると考えられる。したがって、最小の治療量を連続注入の最大の間隔で与えることが示唆された。特定の疾患の治療におけるBoNTの使用の重要性を考慮して、抗原型Aおよび抗原型Bに免疫的に耐性となっている患者におけるBoNT−Fの使用が調査中である。
【0009】
ボツリヌス毒素は大多数の患者に有効であるが、治療効果は、人によってだけでなく、同じ人に対しても治療毎に、検出可能な抗体形成とは無関係に広く変化し得る。さらに、いくつかの集団は、毒素に対して乏しい応答性または非応答性を示す可能性が高いことが確認されている。例えば、65歳以上の患者の30%以下が、ボツリヌス毒素の有効性の低下を示し得る。患者の治療に対する応答の不良の理由は、可能な説明として効力における元の製造業者の差、患者に毒素に特異的な抗体ができている可能性、並びに生成物が再構成の間に分解してしまったか、または撹拌されてしまった可能性が挙げられることを考えると、見極めるのが困難であり得る。しかしながら、特定の患者集団内における効果の低下は、別の因子の可能性も示唆している。
【0010】
非常に大量のボツリヌス毒素投与の用量依存性遠隔拡散によると推定される患者の死亡の報告が、ここ数年に表面化しており、そのため所望の治療成果を達成するのに必要な毒素の用量を低減し得る方法は有用であろう。
【0011】
前記より、治療における最大の患者応答性を保証し、かつ効力のより厳密な標準化を提供する能力は、重要な治療上および安全性の進歩を表わすであろうことは明らかである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の様々な実施形態の製造および使用について以下において詳細に検討するが、本発明は、多種多様な特定の状況において用いることができる多くの応用可能な発明概念を提供することが理解されるべきである。本願において検討される特定の実施形態は、単に本発明を製造および使用する特定の方法の実例に過ぎず、本発明の範囲を定めるものではない。
【0027】
特定の個人におけるボツリヌス毒素作用の変動は、これまで、毒素の異なる供給源またはロット、不適当な再構成または保存、注射技術のばらつき、局所麻酔剤および/または冷却剤の使用、および抗体媒介性の耐性に起因していた。本願の発明者は、ボツリヌス毒素耐性が、利用可能な亜鉛の不足に原因があるかもしれないと考え、この注目すべき仮説を証明した。この発見は、結果として生じる非常に改善された治療成果および安全域を有する、多くの人におけるボツリヌス毒素耐性に対する救済策を提供する。前記発見は、破傷風およびライム毒素のような他の酵素を含む、金属イオンの利用能に基づいてインビボにおいて活性である他の投与された化合物に対する個人の応答性を高めること、並びに、創傷治癒、熱傷の回復、免疫低下および男性のインポテンスのような患者が増大した全身亜鉛濃度から恩恵を受け得る状態に拡張することができる。また、異なる製造業者からの製品を使用する際に、より大きな確実性および安全域を提供する毒素効力検定を標準化するための方法が提供される。
【0028】
本明細書において用いられる「治療用メタロペプチダーゼ」という用語は、部分的または完全に活性化するために金属イオンを必要とする、治療目的のために投与されるペプチダーゼを指す。例としては、亜鉛依存性メタロプロテアーゼ神経毒素のボツリヌス毒素および破傷風毒素が挙げられ、それらの双方は神経伝達物質の放出を阻害する。
【0029】
本明細書において用いられる「クロストリジウム毒素」という用語は、クロストリジウム・テタニ、クロストリジウム・ボツリナム、クロストリジウム・ブチリカムおよびクロストリジウム・バラティ、並びに他の微生物の属および種におけるものを含む組み換えによって作られたクロストリジウム神経毒素を含むがこれらに限定されない、クロストリジウム種によって自然に産生された単離された亜鉛メタロプロテアーゼ神経毒素を指す。「ボツリヌス毒素」という用語は、クロストリジウム種によって自然に産生されたか、組み換えによって作られたかに関わらず、ボツリヌス毒素抗原型A、B、C、E、FおよびG、並びにそれらの亜型を指す。また、単離されたボツリヌス毒素鎖(重鎖または軽鎖)も、クロストリジウム種から単離されたか、組み換えによって生成されたかに関わらず、「ボツリヌス毒素」として含まれる。「ボツリヌス毒素」という用語はまた、新規な組み換えキメラも含む。例えば、新規な組み換えキメラは、BoNT−AとBoNT−Eとの間で生成されており、これらの型のうちの特定のものは天然型に対して増強された活性を有する。例えば、ワン、ジェイ.(Wang,J.)ら、「Novel chimeras of botulinum neurotoxins A and E unveil contributions from the binding,translocation,and protease domains to their functional characteristics」、J.Biol.Chem.283、(2008年)第16993〜17002頁を参照されたい。
【0030】
本明細書において用いる場合、「毒素注入(toxin injection)」という用語は、治療効果が所望される部位における毒素の導入を指し、また、局所的な毒素の適用、全身投与された毒素の部位特異的な放出、またはナノシステム送達媒体を含むが、これらに限定されない他の毒素送達システムの概念も包含するものとする。
【0031】
ボツリヌス毒素は、毒素の型の間で高度なアミノ酸配列相同性を有する約150kDaの重量の比較的不活性の単一ポリペプチド鎖として、クロストリジウム細菌において自然に産生される。前記単一ポリペプチドは続いて、およそ100kDaの重鎖(HC)と、50kDaの軽鎖(LC)とに切断される。HC鎖およびLC鎖は、最終的にジスルフィド結合によって一緒に結合して、ヘテロダイマーを形成する。ボツリヌス毒素HCは、神経筋の活動に関わるニューロンへの毒素結合および同ニューロン内への移行(translocation)に関与する。いったんニューロンの内部に入ると、前記毒素のLC部分は、神経筋接合部におけるアセチルコリンの放出に関わる様々なSNARE(可溶性N−エチルマレイミド感受性因子付着タンパク質受容体(Soluble N−ethylmaleimide−sensitive factor Attachment protein Receptor))のタンパク質分解的切断により、神経伝達物質の放出を阻害し、よってニューロン刺激に応答した筋収縮を阻害する。LCタンパク質分解活性は、LCのΝ−末端に位置し、亜鉛依存性エンドペプチダーゼとして機能する。
【0032】
神経筋接合部では、BoNT作用の機構は、様々なSNAREタンパク質の不活性化による、結合、内在化および神経伝達物質放出の阻害の3つの工程を伴う。3つのSNAREタンパク質、すなわち、シンタキシン1、SNAP−25、およびシナプトブレビン(別名:小胞結合膜タンパク質またはVAMP)が、シナプス小胞をシナプス前膜に合体させるように作用する準安定性「トランス」SNARE複合体を共に形成する。
【0033】
LCエンドペプチダーゼのSNAREタンパク質ターゲットは、BoNT抗原型のいくつかの間で異なる。SNAP−25は、神経伝達物質含有小胞の融合に必要とされるシナプトソーム結合シナプス前膜タンパク質(synaptosome−associated presynaptic membrane protein)であり、BoNT−AおよびEのターゲットである。VAMPは、BoNTs B、D、FおよびGのターゲットである。BoNT−C1のタンパク質分解ターゲットはシンタキシン膜タンパク質である。
【0034】
破傷風神経毒素(TeNT)もまたクロストリジウム属の細菌によって産生され、BoNTと同様に、3つのドメインから成る150kDaのタンパク質である。しかしながら、TeNTは、運動ニューロンシナプス前膜に結合した後に、脊髄内に、内在化され(internalized)、逆行性軸索輸送(transported retroaxonally)される。次に、TeNTは運動性ニューロン細胞体から運び去られ、シナプス前神経終末によって内在化される。ここで、TeNTはVAMP/シナプトブレビンを切断することにより作用し、それにより抑制性伝達物質であるグリシンの放出を阻止する。運動性ニューロン上へのシナプス伝達は主に抑制性である。それゆえ、この抑制の阻止は影響を受けた運動性ニューロンの活動亢進を生じ、よって神経支配のある筋の無秩序な収縮(テタニー)により痙攣性麻痺を生じる。まだ臨床的に利用可能ではないが、TeNTは、CNSの神経疾患の治療に潜在的に有用なものとして提案されている。
【0035】
先に述べたように、クロストリジウム神経毒素は亜鉛依存性メタロプロテアーゼである。活性時、BoNTは分子当たり1つのZn
2+(2価の亜鉛カチオン)を含有する。亜鉛は、細胞への進入の前または後に、ボツリヌス毒素LCに結合され得るが、エンドペプチダーゼ活性には重要である。インビトロの研究は、亜鉛の毒素部位からの自発的な喪失は比較的遅いが、溶液中においてより長い時間によって増大され得ることを示している。エンドペプチダーゼが結合した亜鉛の喪失によって不活性になる場合、外からの亜鉛の添加は毒素を再活性化させることができる。
【0036】
[メタロプロテアーゼの活性に必要とされる適切なレベルの金属イオンを提供する食事補給] 1960年代の初めまで、ヒトにおける亜鉛欠乏は生じないと考えられていた。その後、亜鉛は必須微量元素であり、亜鉛欠乏が一般的なことが分かってきた。亜鉛は数百の酵素の触媒活性に必要とされることが比較的最近判明し、細胞は、細胞代謝においてその重要性を示すZn
2+利用能に対する厳重な規制機構を有する。細胞内亜鉛(Zn
2+)は、必要な場合にZn
2+を引き離して放出することにより自由Zn
2+の濃度を制御するように作用するメタロチオネイン−1(MT−1)群(family)のタンパク質のような亜鉛結合タンパク質によって恒常状態にある。しかしながら、Zn
2+の結合および放出、Zn
2+の細胞分布、並びにZn
2+の恒常性調節の動態はよく分かっていない。
【0037】
臨床的に関連のある亜鉛欠乏は、発育遅延、食欲不振、および免疫機能の低下、並びに体重減少、創傷治癒の遅延、味覚異常および精神的無気力をもたらす。主に発展途上国において見られる重症例では、亜鉛欠乏は、脱毛、下痢、性的成熟遅延、インポテンス、男性における性腺機能低下、並びに眼病変および皮膚病変を引き起こす。明らかな亜鉛欠乏は先進国においては稀であるが、シリアルが食事のまさに大部分を構成する開発途上国においては、亜鉛欠乏は一般的である。
【0038】
開発途上国において明らかな症状を有する患者に関する研究に基づいて、シリアル中のフィチン酸塩が亜鉛、鉄および他の2価カチオンの吸収を著しく阻害することが分かった。ほとんどイノシトール6リン酸およびイノシトール5リン酸であるフィチン酸塩(phytates)は、全粒粉パンおよび繊維、全粒小麦製品、シリアル、大豆、オート麦、豆果(ピーナッツとエンドウを含む)、トウモロコシ、米、並びに繊維が豊富であるとうたわれている多くの食品に豊富に見られる。これらの炭素環式多価アルコールのリン酸基は、亜鉛と強固かつ不溶性の錯体を形成し、その吸収を阻害する。
【0039】
無症状の亜鉛欠乏は発見するのが困難である。亜鉛の栄養状態の実験室測定は、それが様々な金属タンパク質および他の亜鉛結合タンパク質、並びに核酸の成分として身体全体にわたって分布しているためにより困難である。体内における亜鉛の濃度の測定は困難であり、また、亜鉛の血中濃度または血漿中濃度および尿中排泄速度は、細胞内または組織内亜鉛濃度とあまり相関しない。マレ ダブリュ(Maret W)、サンドステッド エイチエイチ.(Sandstead HH.)、「Zinc requirements and the risks and benefits of zinc supplementation.」、J Trace Elem Med Biol 20(2006年)第3〜18頁を参照されたい。更に、亜鉛欠乏の臨床上の影響は、異常な検査所見がない状態で存在し得る。したがって、亜鉛欠乏の臨床的評価について、亜鉛補給の必要性を判定する場合には、不適当なカロリー摂取、習慣性の飲酒および消化器疾患のような危険因子が亜鉛欠乏の症状と共に考慮される(表1)。
【0040】
特別な亜鉛貯蔵システムが欠如しているために、定常状態レベルを維持するためには、亜鉛の毎日の経口摂取が必要とされる。食餌性亜鉛はほとんど小腸を介して吸収される。高含有量の吸収可能な亜鉛を有する食品の増大した摂取は、明白な亜鉛欠乏を改善することができる。毎日の亜鉛の喪失は、成人の健康な男性については約0.63mg/日であり、成人の健康な女性については0.44mg/日であると算定されている。米国の調査は、米国における亜鉛の平均摂取は、成人男性で14mg/日、成人女性で9mg/日であることを示している。経口亜鉛の1日あたりの推奨摂取量(Recommended Daily Allowance)は、成人(妊娠または授乳中でない)女性については8mg/日であり、成人男性では11mg/日である。その一方で、亜鉛の1日の摂取量(DV)は1日に15mgである。消費者が全食事との関係において製品の栄養分を比較するのを助けるために、アメリカ食品薬品局によってDVが示された。亜鉛のDVは、成人および4歳以上の子供に対して15mgである。亜鉛の許容上限摂取量(UL)はUSDAによって40mg/日に設定されている。長期にわたる50〜150mg/日の投与で胃腸障害が報告されている。亜鉛の徴吐量(emetic dose)は225〜450mgの亜鉛であると推定される。重要なことに、たった0.26グラムのフィチン酸塩が最高50mgまでの経口亜鉛の吸収を阻害し得、また医療管理下においては、患者は200mg/日を超える亜鉛補給を与えられてもよい。
【0041】
亜鉛は、食物のタンパク質含有量と高度に相関しているが、タンパク質が豊富な植物性食物よりも動物性タンパク質中により多く存在する。例えば、七面鳥(140グラムで4.34mgの亜鉛を含有)および鶏肉(140グラムで2.88mgの亜鉛を含有)は亜鉛の程よい供給源であるが、120グラムの一切れの豆腐はわずか0.77mgの亜鉛を含有しているのみである。動物性タンパク質中の亜鉛の含有量は広く変化する。例えば、6個の中位のカキは、77mgの亜鉛、すなわちRDAの500%以上を提供する。対照的に、3オンスの牛すね肉は8.9mgの亜鉛を提供する。
【0042】
亜鉛補給を行っているが、高吸収性(well absorbed)の無機形態が少ないか、または亜鉛を利用不可能にするフィチン酸塩と組み合わせている人を含めて、多くの人が無症状の亜鉛欠乏の危険性を有する。本願の発明者は、驚いたことに、比較的多量の高吸収形態の亜鉛の事前投与が、以前は応答に乏しかった人においてボツリヌス毒素に対する応答性を有効にするということを見出した。そのとき明らかに、そのような患者は、おそらく以前はボツリヌス毒素LC亜鉛依存性エンドペプチダーゼの結合および活性化に利用可能な亜鉛が機能的に不足していた。しかしながら、これらの人の誰も亜鉛不足の明白な兆候を示していなかった。
【0043】
ボツリヌス毒素の効果に対する最大の応答性に関係する亜鉛不足の危険性が高い人が患者集団の大きな割合を含む可能性がある(表1参照)。本状況において亜鉛不足の危険性が潜在的に高い患者は、全粒粉パンおよび繊維、全粒小麦製品、シリアル、大豆、オート麦、豆果(ピーナッツおよびエンドウを含む)、豆、トウモロコシおよび米に見られるフィチン酸塩(フィチン酸の塩)の豊富な食事を取る人々を含む。また危険性があるのは、牛肉、七面鳥、鶏肉またはカキが少ない食事を取る人(すなわち菜食主義者)、またはこれらの高亜鉛食品を、フィチン酸またはリン酸塩の多い食物および他の化合物を含む亜鉛を利用不可能にする食物および化合物と共に摂取する人である。
【0044】
多数の食品および飲料が防腐剤としてリン酸塩またはフィチン酸を含有している。フィチン酸(式C
6H
6(OPO(OH)
2)
6を有するミオ−イノシトール−1,2,3,4,5,6−ヘキサキスホスファート)は、ブラン(bran)および種子を含む多くの植物組織中におけるリンの主な貯蔵形態である。フィチン酸は非常に反応性に富み、Ca
2+、Fe
2+/3+、Mg
2+、Mn
2+、Cu
2+およびZn
2+のような無機物、並びに炭水化物およびタンパク質と複合体を容易に形成する。2価カチオンをキレートする能力により、フィチン酸は、硬水を処理し、ワインから鉄および銅を除去し、動植物油中において微量金属汚染物質を不活性化するために用いられる化合物の1つである。防腐剤E391はフィチン酸である。
【0045】
本明細書において「亜鉛補給剤」とは、固形、ゲル、リポソームおよび液体の形態を含む経口投与用の無機亜鉛または有機亜鉛またはそれらの組み合わせの1つ以上の形態を意味する。無機亜鉛という用語は、亜鉛の2価カチオンZn
2+および無機塩類を指す。限定しない例としては、塩化亜鉛(ZnCl
2)、四塩基性塩化亜鉛(Zn
5Cl
2(OH)
8)、酸化亜鉛(ZnO)、硫酸亜鉛(ZnSO
4)および四塩基性塩化亜鉛(Zn
5Cl
2(OH)
8)が挙げられる。元素亜鉛の割合はこれらの形態中において変化する。例えば、硫酸亜鉛の約23%が元素亜鉛から成る。したがって、220mgの硫酸亜鉛は50mgの元素亜鉛を含有する。
【0046】
本明細書において「有機亜鉛」という用語は、有機亜鉛複合体、並びに亜鉛タンパク化合物、有機分子および化合物を有する亜鉛キレートおよび塩、および亜鉛ヒスチジン、亜鉛メチオニン(ZnMet)、亜鉛リジン(ZnLys)複合体などを含む亜鉛アミノ酸複合体を指す。さらに限定しない例としては、酢酸亜鉛(Zn(O
2CCH
3)
2)、アスコルビン酸亜鉛(C
12H
14ZnO
12)、アスパラギン酸亜鉛(C
8H
10N
2O
8Zn
2H)、酪酸亜鉛(Zn(C
4H
7O
2))、炭酸亜鉛(ZnCO
3)、クエン酸亜鉛(Zn
3(C
6H
5O
7)
2)、グルコン酸亜鉛(Zn(C
12H
22O
14))、グリシン酸亜鉛(C
4H
8N
2O
4Zn)、ヒスチジン酸亜鉛(C
12H
16N
6O
4Zn)、ケトグルタル酸亜鉛(C
5H
4O
5Zn)、乳酸亜鉛(Zn(C
3H
5O
3)
2)、リンゴ酸亜鉛(C
4H
4O
5Zn)、ピコリン酸亜鉛(C
12H
8N
2O
4Zn)、プロパン酸亜鉛(zinc propanoate)(C
6H
10O
4Zn)、ステアリン酸亜鉛(C
36H
70O
4Zn)およびコハク亜鉛(C
4H
4O
4Zn)が挙げられる。無機亜鉛塩と同様に、元素亜鉛の割合はこれらの形態中において変化する。例えば、アルギン酸亜鉛では、300mgが30mgの元素亜鉛を供給する。
【0047】
酸化亜鉛および炭酸亜鉛のような亜鉛の特定の形態は、水溶液中において本質的に不溶性であり、一般に吸収されにくいと考えられてきた。硫酸亜鉛および酢酸亜鉛の容易に吸収される形態にある50mgの亜鉛の単回投与は、成人において悪心及び嘔吐を引き起こすが、同一用量の酸化亜鉛は、おそらく吸収の差に基づいて、少数の割合の人でしかそのような症状を引き起こさない。アレン エルエイチ.(Allen LH.)、「Zinc and Micronutrient Supplements For Children」、Am J CLin Nutr 68(Suppl)(1998年)第4955頁を参照されたい。したがって、本発明の目的のための食餌性亜鉛の適切な用量の検討は、吸収の相対速度の検討を含む。
【0048】
本明細書において「フィターゼ」という用語はフィチン酸およびその塩(フィチン酸塩)からのリンの放出を触媒することができるヒドロラーゼ酵素を指す。フィターゼは、植物供給源を含む多数の供給源から、一般的には発芽種子および微生物から、入手可能である。フィターゼは、バシラス・サチリスおよびシュードモナス種のような細菌、並びに酵母および糸状菌に由来すると記載されてきた。黒色アスペルギルスからのフィターゼ遺伝子のクローニングおよび発現がとりわけ記載されている。欧州特許第EP0420358号を参照されたい。フィターゼは、フィチン酸分子におけるそれらの作用の位置特異性に応じて様々な種類に分類される。したがって、例えば、3−フィターゼ(ミオ−イノシトールヘキサホスファート 3−ホスホヒドロラーゼ(EC 3.1.3.8))は、最初に3位においてエステル結合を加水分解する。6−フィターゼ(ミオイノシトールヘキサホスファート 6−ホスホヒドロラーゼ(EC 3.1.3.26))は、最初に6位においてエステル結合を加水分解する。例外はあるが、植物フィターゼは一般に6−フィターゼである。微生物フィターゼは主に3−フィターゼである。
【0049】
頻繁な長期アルコール摂取は、亜鉛吸収の低下および尿中排泄の増大に関連する。機能性亜鉛欠乏の他の潜在的危険因子は、鉄、ビタミンA、銅およびカルシウム補助食品を含む、亜鉛吸収を妨げる栄養補助食品をとる人、カゼインを含む乳製品を頻繁に摂取する人、感染もしくは熱傷を有するか、または最近手術を受けた人、何らかの慢性病を有する人、頻繁な下痢または何らかの吸収不良症候群を有する人、妊婦および/または25歳未満もしくは70歳を超える人を含む。
【0050】
本状況における機能性亜鉛欠乏に対する危険因子が非常に一般的であるならば、十分な亜鉛がボツリヌス毒素への結合および活性化に利用可能になることを保証する最も好都合な方法のうちの1つは、ボツリヌス毒素の投与前、投与と同時、または投与直後における経口補給剤の投与によって、亜鉛貯蔵を増大させることである。本発明の一態様では、経口補給剤およびそれらの使用説明書が提供される。一実施形態において、前記経口補給剤は、1日あたり10〜400mg元素亜鉛を提供するのに十分な亜鉛を含有する。投与される亜鉛の量は選択した亜鉛の形態の相対的な吸収に応じて変化し、吸収のよい形態は、催吐作用を避けるために低用量で与えられる。10mgのレベルの亜鉛は本質的に亜鉛のRDAレベルである。とりわけ、10〜400mgの元素亜鉛の範囲の下限において、摂取された亜鉛のフィチン酸キレート化を防止するために、0.8〜10,000単位のレベルのフィターゼの同時投与が、好ましくは、経口摂取のために亜鉛経口摂取時に(すなわち2、3時間内に)に提供される。一実施形態において、すべての栄養源からの亜鉛の利用能を最大化にするために、フィターゼが各亜鉛経口摂取と共に経口摂取用に提供されるだけでなく、さらなるフィターゼ補給剤が毎食と共に摂取される。一実施形態において、1日当たり0.8〜10,000単位のフィターゼと共に、30〜100mgの元素亜鉛を供給する高亜鉛補充投与が提供される。
【0051】
[投与されたメタロプロテアーゼの効果を増大化する他の同時調製(Co−Preparation)法] 本願の発明者は、毒素の投与前の亜鉛補充の期間によってボツリヌス毒素に対する応答性が劇的に改善され得ることを示した。この発見は、通常の西洋風の食事を取り、亜鉛不足の明らかな兆候を有さない人においてさえ、利用可能な亜鉛は、少なくとも、活性について亜鉛依存性である外から加えられたメタロプロテアーゼの活性に関係するように限られていることを示す。一実施形態において、亜鉛は、クロストリジウム神経毒素で処理される組織に局所的に投与される。一態様において、亜鉛溶液は、毒素注入の前後に、すなわち、毒素注入または毒素の局所的投与の前、最中、および/または後に、毒素注入の部位に注入される。他の態様において、亜鉛は、毒素注入の前後に、すなわち、毒素注入の前、最中、および/または後に、毒素注入の部位に局所的に塗布される浸透性クリームで投与される。他の態様において、亜鉛はナノ送達システムの使用によって投与される。他の態様において、亜鉛は、リポソーム懸濁液またはナノ送達システムを含む任意の形態の舌下投与、鼻内噴霧、点眼剤、浣腸剤、「強制空気」、経皮的投与、または直腸投与によって投与される。さらなる態様において、亜鉛溶液は治療用毒素を再構成するために用いられ得る。より大きな面積または近づきにくい場所を治療する場合、または亜鉛療法をより正確に投薬する場合には、静脈内注射または筋肉内注射による亜鉛補充がこれに代わって用いられてもよい。
【0052】
[クロストリジウム神経毒素再構成溶液] エチレンジアミンテトラアセタート(EDTA)のような可溶性キレート化剤によるインビトロでの置換による軽鎖(LC)からのZn
2+の除去は、無細胞(cell free)または破壊細胞(broken cell)製剤の酵素活性を完全に消失させる。しかしながら、その結合した亜鉛を奪われた毒素は、おそらく内在化した毒素が利用可能な細胞質Zn
2+に結合することができるので、無傷神経筋接合部に対する活性を保持することができる。シンプソン エルエル(Simpson LL)ら、「The Role of Zinc Binding in the Biological Activity of Botulinum Toxin」、J Biol Chem 276(29)(2001年)第27034〜41頁を参照されたい。キレート化剤で前処理された組織は亜鉛を奪われた毒素に活性を回復させるその能力を失うが、その組織にモル過剰のZn
2+(20uM)を添加することにより、亜鉛欠失毒素の活性を急速に回復するであろう。同文献。
【0053】
複数の研究で、亜鉛がボツリヌス毒素の凍結乾燥において凍結防止作用または凍結許容作用(cryopermissive effect)を提供しないということが示されている。米国出願第US2005/0214326号明細書として公開されたアラーガン(Allergan)の特許出願第10/976,529号および国際公開番号第WO2007/041664号として公開された国際出願第PCT/US2006/038913号を参照されたい。米国出願第2005/0214326号明細書として公開されたアラーガンの米国特許出願第10/976,529号において、凍結乾燥溶液への亜鉛の添加は、いくらかの効力の増大および抗微生物活性の増強を提供すると主張した。しかしながら、さらなる独立した研究で、BoNT−AのLCが精製および保存の間に自己触媒的分解(autocatalytic fragmentation)を受け、この分解は塩化亜鉛のほかに、他の二価金属の塩化物によっても高められることが分かっている。これに基づき、毒素はいかなる金属も有さない中性またはそれ以上のpHの低濃度で冷凍して保管されることが推奨されてきた。アフマッド エスエイ(Ahmed SA)ら、「Factors Affecting Autocatalysis of Botulinum A Neurotoxin Light Chain」、Protein J.23(7)(2004年)、第445〜51頁。
【0054】
いずれにしても、現在、市販のBoNT医薬組成物は、凍結乾燥前に、または再構成溶液への添加物として、付加的なZn
2+を欠いている。例えば、アラーガン(カリフォルニア州アーヴィン)から入手可能なBOTOX(登録商標)ブランドのBoNT−Aは、一連の酸沈殿による培養から、活性高分子量毒素タンパク質および関連するヘマグルチニンタンパク質から成る結晶性複合体に精製された精製BoNT−Aから成る。前記結晶性複合体は、生理食塩水およびヒト血清アルブミン(HSA)を含有する溶液中に再溶解され、真空乾燥の前に無菌ろ過される(0.2ミクロン)。BOTOX(登録商標)は、筋肉内注射の前に、無菌の防腐剤を含まない0.9%塩化ナトリウム(生理食塩水)によって再構成される。他の市販のBoNT医薬組成物としては、Dysport(登録商標)(イプセン リミテッド(Ipsen Ltd.)、英国バークシャー)ブランドのBoNT−Aヘマグルチニン複合体が挙げられる。前記複合体は、HSAおよびラクトースと共に粉末に乾燥されており、使用前に生理食塩水によって再構成される。MyoBloc(登録商標)ブランドのBoNT−Bは、0.05%HSA、0.01Mコハク酸ナトリウムおよび0.1M塩化ナトリウム中におけるヘマグルチニンと非ヘマグルチニンタンパク質との複合体にある5,000Uのボツリヌス毒素タイプBの、約pH5.6での注射溶液の単回使用バイアルなどで提供される。したがって、BoNTの活性は、どのような亜鉛が精製および保存にわたって分子に結合し続けるかにも、活性に対する宿主組織中のZn
2+にも依存するに違いない。
【0055】
本明細書において示す結果は、ほとんどの被験者において、治療前の亜鉛補充が、治療の効果および効果の持続期間の改善、時として劇的な改善、をもたらした。これは、最大活性に対して毒素分子に結合したZn
2+が十分に存在しないことを示しており、さらに、正常人の組織は、分子に結合した十分なZn
2+の不足を補償するのに十分に利用可能なZn
2+が不足していることを示す。したがって、本明細書に示す一実施形態では、毒素に結合した亜鉛または組織に残留する利用可能な亜鉛のいずれかにおける不足を克服することにより、注入された毒素の最大の応答性を可能にするために十分なZn
2+を含むBoNT再構成溶液が提供される。本明細書に開示される発見を考慮すると、送達用の再構成溶液中に提供されるべきZn
2+の理想濃度(ideal level)は、経験的に決定することができる。一実施形態では、送達溶液に添加されるべき亜鉛の濃度および形態を決定するためにマウス神経毒素効力検定が用いられる。一実施形態において、前記マウスは、送達製剤中に供給されるべき所望濃度のZn
2+の試験の前のクリアリング期間中は亜鉛欠乏食で飼育される。マウスを試験前に比較的亜鉛欠乏状態にすることによって、送達溶液中に存在するZn
2+の寄与を分離することができる。本発明の一実施形態において、BoNTは、Zn
2+を添加せずに凍結乾燥され、最大活性のために十分な追加Zn
2+を含有する再構成溶液が提供される。一実施形態において、Zn
2+は再構成溶液中、10〜400μMの濃度で存在する。
【0056】
一実施形態において等張生理食塩水、すなわち、無菌水溶液(保存または非保存)中、約0.9%または0.155MのNaClを含有し、さらに約10〜約50μMまたは約0.000065g〜約0.00032g/100mLの元素亜鉛の濃度で元素Zn
2+を含む再構成溶液が提供される。この元素亜鉛の量は、例えば、約0.000136g〜約0.00068g/100mLのZnCl
2によって提供され得る。
【0057】
[クロストリジウム神経毒素の効力検定] ボツリヌス毒素に対するバイアル当たりの効力の現在容認された検定法は、腹腔内マウス致死量(MLD
50)検定法である。効力とは、再構成後のボツリヌス毒素の回復効力(recovered potency)または凍結乾燥前のボツリヌス毒素の効力を指し得る。ボツリヌス毒素の1単位(U)は、腹腔内注射により、検定の開始時にそれぞれ17〜22グラムの体重を有する雌のスイスヴェーバーマウスの群の50%を死亡させるボツリヌス毒素の量として定義される。前記検定法のさらなる詳細は、国際出願公開第WO2007/041664号として公開された国際出願第PCT/US2006/038913号内に提供されており、該特許文献は参照により本明細書に援用される。
【0058】
注入用A型ボツリヌス毒素(BoNT/A)に関する欧州薬局方(Ph Eur)モノグラフ(01/2005:2113)は、それらの検証に従う、マウスLD
50検定法に代わる代替の非致死かつエクスビボの方法の使用を支持した(セカーディア、ディ.(Secardia, D.)およびダース、アール.ジー.(Das, R.G.)、「Alternatives to the LD
50 assay for botulinum toxin potency testing:Strategies and progress towards refinement,reduction and replacement」、AATEX 14,Special Issue,581−585.Proc.6th World Congress on Alternatives&Animal Use in the Life Sciences.2007年8月21〜25日、日本)。提案された代替効力検定は、マウス弛緩性麻痺検定法(マウス内蔵下垂検定法(mouse abdominal ptosis assay)としても知られる))を含む。前記検定法は、BoNT/Aの活性を、毒素がマウスの左鼠径大腿領域に皮下注射された後に見られる腹部膨隆(abdominal bulging)の程度に関連づける。麻痺の大きさは用量依存的である。致死未満量のBoNTしか注射されないので、前記検定法はLD
50検定法よりも10倍感度が高いと考えられる。前記検定法は全身毒性ではなく、局所的な筋肉効果を評価するので、麻痺のエンドポイントは毒素の臨床使用により類似している。弛緩性麻痺検定法は致死試験よりも迅速であり、代表的なLD
50検定法の72〜96時間と比較して、24〜48時間で結果を与える。
【0059】
代替のエクスビボの検定法も提案されており、摘出された神経/筋肉試料の電気刺激に対する攣縮反応の大きさを測定する。毒素の効力は、攣縮応答の大きさの減少を測定する。検定法の通常の終点は、大きさにおいて50%の減少が観察されるまでの時間である。該エクスビボのモデルは2時間内に結果を提供することができる。
【0060】
LD
50検定法はその高い感度により維持されてきたが、該検定法は標準化されておらず、ラベル表示に用いられる単位は製品に特異的であり、交換可能でない。標準化された試験が存在しないことは、極度の毒性および過量投与からの遅い回復を考えると、安全性の問題である。本願の発明者は、亜鉛の経口投与は、亜鉛欠乏のいかなる徴候も示さない多数の患者においてボツリヌス菌応答性の相当な改善を生じることを突き止めた。この注目すべき発見は、ボツリヌス菌効力検定法に拡張され、該試験システムにおいて最大の応答性を提供する。一態様において、腹腔内LD
50検定法、マウス弛緩性麻痺検定法、またはエクスビボの攣縮応答検定法を行う前の一定期間の間、マウスには標準的食餌が提供される。
【0061】
典型的な研究用グレードのげっ歯類飼料は14〜20%のタンパク質および50〜70%以上の炭水化物を含有する。飼料中において最も高い比率の成分がフィチン酸塩を多く含む、またはさもなければ亜鉛吸収を阻害する。これらはカゼイン、コーンスターチ、大豆ミール、セルロースを含み、さらにトウモロコシ油および/または大豆油を含み得る。ミネラル混合物が飼料に添加されるが、これは標準化されておらず、異なる標準飼料間では10倍まで変化し得る。
【0062】
様々な報告された研究において、固形飼料(chow)のkg当たり25〜55mgの亜鉛を含有する食餌が適当であると考えられ、一方、kg当たり<1〜5mgの亜鉛を含有する食餌は不足していると考えられた。他の報告書では、亜鉛値は百万分率(ppm)で与えられており、亜鉛が不足している飼料および亜鉛が適当である飼料は、それぞれ、1.5ppmおよび70〜75ppmの亜鉛を含有した。主要なタンパク質源が卵白またはカゼインである場合、10mg/kgの亜鉛を含有する飼料が適当であり得るが、大豆のような高フィチン酸塩タンパク質源が用いられる場合には少なくとも20mg/kgは必要とされるだろうことが指摘されている。マウスは、亜鉛毒性に対して比較的耐性を有し、14か月以内の間、水1L当たり500mgのZnによって有意な作用を示さないことが報告されている。
【0063】
動物におけるクロストリジウム神経毒素効力試験を標準化し、動物組織を用いる方法の一実施形態において、効力試験に用いられる動物は、試験前に少なくとも1週間にわたって、利用可能な亜鉛を最大化するように設計された規定飼料で飼育される。一実施形態において、前記飼料はフィチン酸塩が少なく、亜鉛を多く含む。低フィチン酸塩飼料が与えられる一実施形態において、亜鉛濃度は少なくとも推奨亜鉛濃度を2倍超過する。一実施形態において、少なくとも推奨濃度を2倍超過する亜鉛濃度に加えて、フィターゼが飼料に添加される。一実施形態において、前記規定飼料は、効力分析前の少なくとも1週間にわたって異なる飼料を与えられた動物の群におけるクロストリジウム神経毒素の同一のロットの効力の比較によって選択される。毒素の作用に最も大きな感度を提供する飼料が選択され、すべての将来の効力試験のための必須規定飼料として標準化される。
【0064】
以下の実施例は、開示の完全性のため、本発明の方法および組成物を例示するため、並びに前記組成物の特定の特性を示すために含まれている。これらの実施例は、この開示の範囲または教示を制限するようには全く意図されていない。
【実施例1】
【0065】
食餌性亜鉛補給によるボツリヌス毒素耐性の回復
本願の発明者は、各個人における利用可能な細胞内亜鉛貯蔵の差が、一部の患者におけるボツリヌス菌応答性の欠如を説明し得ると推論した。前記仮説の初期調査では、亜鉛の補給は食料供給源によって行われた。安全性、低コスト、入手し易さ、および一般的了解に基づいて、生物学的に利用可能なZn
2+の食事供給源として七面鳥肉が選択された。患者が消費するように指示された七面鳥肉の量は、40mgの1日量、すなわち推奨される1日の摂取量の約2.5倍を提供するように算定された。多くのこれらの患者は、ボツリヌス毒素に対して応答が乏しく、そのため眼瞼痙攣の症状の制御を達成するのが病歴的に困難であったと考えられた。結果は、亜鉛補給は、補給がない状態の同一患者において効果がなかったのと同一のボツリヌス毒素供給源および用量を用いて、眼瞼痙攣の著しく有効な治療をもたらすことを示した。
【0066】
結果は、驚いたことに、相当数の患者において投与されたボツリヌス毒素の有効性を低減するのに十分な亜鉛欠乏が生じていることを示唆した。明白な耐性を有さないそれらの患者においてさえ、計画された注射の前の一定期間にわたる経口投与によって亜鉛濃度を増大させることにより、すべての患者において標準的な効果(normalative advantage)が提供されることが予想される。具体的には、ボツリヌス毒素LCエンドペプチダーゼの結合および活性化に利用可能な細胞内亜鉛を提供する亜鉛補給剤を投与することによって、可能な限り高いZn
2+依存応答が得られ得る。以前は投与されたボツリヌス毒素に無反応であった多くの患者において、より低い用量が、信頼できる応答を有して、投与され得る。ボツリヌス毒素による治療前の一定期間にわたって多量の高亜鉛含有動物性タンパク質を取ることは、ボツリヌス毒素応答性を標準化し、増大させるのに有効であり得るが、この解決策は不都合であり、標準化を欠き、長い目でみた場合、ほとんどの人の食事の好みに適合しない。
【0067】
したがって、本願において提供される進歩の一態様において、経口亜鉛補給剤が投与され、これは亜鉛貯蔵の所望の正規化および増大を供給する。本発明の一態様において、1つ以上の形態の無機亜鉛および/または有機亜鉛は、錠剤またはカプセル形態に調剤される。一態様において、経口摂取用の亜鉛の用量は、1日当たり約10〜400mgの元素亜鉛の範囲にある。他の実施態様において、亜鉛の用量は、1日当たり約30〜50mgの元素亜鉛の範囲にある。一実施形態において、亜鉛の用量は1日あたり約50mgの元素亜鉛である。本発明の一実施形態において、亜鉛補給剤および補給剤を摂取するための使用説明書を含む投与パック(dose pack)が、計画された処置の前に患者に提供される。前記使用説明書中に提供されるように、患者はボツリヌス毒素の投与の数日前に亜鉛補給を開始するように指示される。一実施形態において、患者は、治療の日だけでなく毒素治療の前の3〜4日間にわたって亜鉛補給を増大するように指示される。一態様において、前記使用説明書は、亜鉛補充期間中にフィチン酸塩が多く含む食物を避けるように指示する。
【実施例2】
【0068】
フィターゼ投与による増大した亜鉛の吸収を含む亜鉛補給
亜鉛吸収の阻害におけるフィチン酸塩の役割を考慮して、本発明の一態様では、亜鉛の経口吸収は、フィチン酸(イノシトールヘキサキスホスファート)を加水分解し、亜鉛の経口吸収を高めるフィターゼの経口投与によって、増大される。フィターゼは、現在、カルシウム、マグネシウム、鉄および亜鉛のような2価カチオンの吸収を増大させるように設計された栄養補助食品として栄養補助食品市場において入手可能である。これらの2価カチオンは、トウモロコシ、トウモロコシ副産物、豆果、大豆および穀物のような植物性食物中に存在する植物フィチン酸と不溶性の複合体を形成して、それらを利用不可能にする。フィターゼは、フィチン酸(イノシトールヘキサキスホスファート)からリン酸塩を利用可能にする目的で動物飼料への添加物として用いられている。動物飼料へのフィターゼの添加は、低フィチン酸塩の食餌においてさえ、有利であることが開示されている。例えば、アスペルギルスからのフィターゼを含有する低フィチン酸塩飼料組成物を開示している国際出願公開第WO9949740号を参照されたい。「Phytase Combinations」と題された国際出願公開第WO9830681号は、異なる位置特異性を有する少なくとも2種のフィターゼの組み合わせが、フィチン酸塩のリン(phytate phosphorous)の放出においてより有効であることを開示している。
【0069】
現在、シリアルからのものと、微生物供給源からのものとの2種類の食餌性フィターゼが入手可能である。微生物供給源としては、黒色アスペルギルス(Finase(登録商標)、アルコ リミテッド(Alko Ltd.)、フィンランド)のような真菌類の発酵、並びに細菌の発酵が挙げられる。フィターゼ活性は、所定の温度およびpHにおいて、毎分あたりの、フィチン酸から設定量の無機リン酸(inorganic phosphate)を遊離させるのに必要とされる酵素の量を測定する多くの異なる検定法によって判定可能である。微生物フィターゼは広範囲のpH活性を有しており、小麦フィターゼと比較して、人体研究において鉄吸収の増大をもたらすことが示されている。1つのそのような研究において、20,000フィターゼ単位(PU)の投与は鉄の吸収を14〜26%増大した。サンドバーグ エイ−エス(Sandberg A−S)ら、「Dietary Aspergillus niger Phytase Increase Iron Absorption in Humans」、The Journal of Nutrition 126(1996年)、第476頁を参照されたい。したがって、一態様において、1つ以上の形態の亜鉛と少なくとも1種の微生物フィターゼとを含有する栄養補助食品が提供される。亜鉛およびフィターゼの投与は、患者に、後に投与されるボツリヌス毒素に対する最大の応答性のために準備をさせる。
【0070】
上述のように、亜鉛およびフィターゼの組み合わせはまた、ボツリヌス毒素LCエンドペプチダーゼの改善された結合および活性化以外の用途のために、全身の亜鉛濃度を安全かつ効果的に迅速に増大させるために用いられてもよい。例えば、創傷治癒、熱傷回復、免疫低下および男性のインポテンスのような状態を含むがこれらに限定されない医学的に必要な場合に全身亜鉛濃度を増大させることが望ましいことがある。
【0071】
高亜鉛食物の摂取によって提供される食餌性亜鉛補給の明らかに肯定的な結果をさらに試験するため、並びにフィターゼの添加が亜鉛吸収によい効果を与えるか否かを試験するために、プラセボと比較して2つの異なる補給剤で、試験補給の4日間の後の患者におけるボツリヌス毒素に対する反応性を比較するさらなる試験を開始した。被験物質およびプラセボの各々は、識別なしで被験者に様々に提供された。したがって、患者は補給剤の性質を知らされていなかった。プラセボ(P)はカプセル形態のラクツロースであった。2つの試験試料は、グルコン酸亜鉛の形態にある10mgの亜鉛の通常RDA用量であるZ
10と、3,000のPHUフィターゼ(真菌類黒色アスペルギルスから誘導)と共に、50mgのクエン酸亜鉛の形態にある亜鉛を提供する比較的高い亜鉛補充用量であるZ
50pとであった。ボツリヌス毒素に対する感度の異なる2つのパラメーター、すなわち持続時間(D)および効果(E)を記録した。経験上、異なる患者は一般的には異なる効果持続時間を経験するので、持続時間は患者の効果の「通常の」持続時間からの増加率または減少率として示された。毒素治療は、一部の患者については典型的には1か月間にわたって持続し、他の患者には3か月間等にわたって持続する。そこで、その毒素が通常90日間にわたって持続し、持続時間に変化が観察されなかった患者は、0、すなわち通常の持続時間から変化なし、として評点をつけた。毒素効果をさらに4週(28日)間にわたって経験した患者は28/90の持続期間の増大を有すると算出され、その比は+0.31に等しく、通常より31%長い効果を表わす。逆に、−0.25のような負のスコアは、通常より25%短い効果に等しい。効果(E)は、個々の患者の通常の快適さの感知および所望の効果からの偏差として示された。例えば、0は通常の効果から変化なし、−1は通常よりもやや効果が低い、−2は通常よりもかなり効果が低い、+1は通常よりもやや効果が高い、+2は通常よりもかなり効果が高い、+3はその患者がかつて得た最高の効果である。正確さを保証するために、患者は、感知した治療の有効性の習慣的な記録を保持した。
【0072】
44人の患者の試験の結果を
図1に表の形で示す。これらの患者はすべて以前に治療されており、ボツリヌス毒素応答性の先に記録された履歴を有した。患者のうちの23人は治療が難しい眼瞼痙攣患者(BH)であると見なされた。これは、それらの患者が、a)>50単位/セッションのBotox(登録商標)ブランドのBoNT−Aまたは別のボツリヌス毒素均等物を日常的に必要とし、b)カスタマイズされた注入量およびパターンからの最大の応答にもかかわらず、患者報告の次善の結果を日常的に有し、c)注入量およびパターンを変更していないにもかかわらず、治療間における毒素効果のある程度のばらつきを報告していたことを意味する。さらなる7人の患者はBoNT−A治療に常に応答した眼瞼痙攣患者であった(BC)。4人の患者は片側顔面痙攣患者であり(H)、一方、10人の患者はしわのための美容治療を受けた(C)。投与した3つのBoNTタイプを
図1の「T」の欄に、(「B」)BoNT−A(Botox(登録商標))、(「M」)BoNT−B(Myobloc(登録商標))、および(「D」)BoNT−A(Dysport(登録商標))として示す。患者は、改良ランダム化二重盲検プラセボ対照クロスオーバー試験的研究(modified randomized,double−blind,placebo−controlled,crossover pilot study)で治療された。
【0073】
研究の被験者は、第三者によって4つの治療グループのうちの1つに不均等に無作為化され、治療する医師および患者は双方とも、提供される注入前補給剤(pre−injection supplements)について知らされていなかった。23人(52%、Aグループ)は、Z
50p単独(50mgのクエン酸亜鉛+3,000単位のフィターゼ)で注入前補給を受け、6人(14%、Bグループ)は、クロスオーバーデザインで異なる時間にP(ラクツロースプラセボ)およびZ
50pの双方によって注入前補給を受け、4人(9%、Cグループ)は、クロスオーバーデザインで異なる時間にZ
10(10mgのグルコン酸亜鉛)およびZ
50pによって注入前補給を受け、11人(25%、Dグループ)は、トリプルクロスオーバーデザインで別々の時間に、P、Z
10およびZ
50pによって注入前補給による研究を受けた。
【0074】
ここで
図2を参照すると、患者における毒素の効果の持続時間(D)に関して、治療用ボツリヌス毒素の投与前の4日間にわたる亜鉛および亜鉛+フィターゼの補給の試験の結果を示すグラフ200が示されている。
図2の縦軸202は患者における毒素の作用の持続時間の変化率を表わしている。横軸204は、それぞれ、プラセボ(P)206、10mgのグルコン酸亜鉛(Z
10)210、またはフィターゼに加えて50mgのクエン酸亜鉛(Z
50p)214のいずれかを受ける患者集団を表す様々なバーを示している。信頼区間バー208/212/216は、平均値から95%の信頼区間を表わしている。
図1および
図2に見られるように、プラセボ(P)206または亜鉛のRDAに近い10mgのグルコン酸亜鉛(Z
10)210のいずれかを受ける患者に対する注入前補給による、ボツリヌス毒素治療の持続時間(D)における通常の患者に特異的な治療持続時間からの有意な変化(p>0.05)は見られなかった。
【0075】
ここで
図3を参照すると、毒素治療の有効性における患者の主観的に感知された変化(E)に関して、治療用ボツリヌス毒素の投与前の4日間の亜鉛および亜鉛+フィターゼの補給の試験の結果を示すグラフ300が示されている。
図3の縦軸302は患者における毒素の有効性の感知された変化(E)を表わしている。横軸304は、それぞれ、プラセボ(P)306、10mgのグルコン酸亜鉛(Z
10)310、またはフィターゼに加えて50mgのクエン酸亜鉛(Z
50p)314のいずれかを受ける患者集団を表す様々なバーを示している。信頼区間バー308/312/316は、平均値から95%の信頼区間を表わしている。
図1および
図3に見られるように、プラセボ(P)306または亜鉛のRDAに近い10mgのグルコン酸亜鉛(Z
10)310のいずれかを受ける患者においては、患者に特異的な通常の応答性からの効果における有意な変化(p>0.05)は観察されなかった。
【0076】
対照的に、ボツリヌス菌注射前の4日間にわたってZ
50p(クエン酸亜鉛50mg+3,000単位のフィターゼ補給剤)214を与えられた44人の患者のうちの41人(93%)において、23.6%の効果持続時間(D)における患者特異的平均増加が観察された(p<0.05、
図1および
図2参照)。さらに、ボツリヌス菌注射前の4日間にわたってZ
50p(クエン酸亜鉛50mg+3,000単位のフィターゼ補給剤)314を与えられた44人の患者のうちの38人(86%)において、ボツリヌス毒素治療の効果(E)が有意に増大されることが分かった(p<0.05は
図1および
図3参照)。事実上すべての患者が、持続時間(D)、効果(E)または双方における改善を示した。ほとんどの場合、持続時間(D)および効果(E)の双方が著しく改善された。実際、有益な効果の低下が報告された高亜鉛補充およびフィターゼ(Z
50p)を与えられた3人の眼瞼痙攣患者においては、明白な毒素の過剰摂取が観察され、患者が眼を閉じることを困難にした。したがって、これらの3人の患者の間でさえ、毒素効果の増大があった。とりわけ、前記結果(および後の実験)は、患者が治療前に亜鉛を補給(loaded)されている場合には、低減された用量のBoNTが、多くの患者において適切な応答性を有して、投与され得ることを示唆した(示した)。投与前の亜鉛補充により、最大の応答性が患者集団にわたって標準化され得、個々の応答性における1つの重要な変数を排除することができる。低い有効用量は、治療に干渉する抗体の後の発現を低減し得る。眼瞼痙攣患者は、読む、運転する、着替える、TVを視る、働く、買い物をするなどのために機能するように彼らの眼を開けておくことができるか否かを日常的に強く認識しているので、このデータは非常に信頼できるように思われる。
【0077】
本願に引用された刊行物、特許および特許出願はすべて、それらの全体が本願において述べられたかのように、参照により本願に援用される。本発明は実例となる実施形態に関して説明されているが、この説明は限定的な意味で解釈されるようには意図されない。前記説明の参照により、当業者には、本発明の様々な変更および実例となる実施形態の組み合わせ、並びに他の実施形態が明らかになるであろう。従って、添付の特許請求の範囲はそのような変更および改良を包含することが意図される。
【0078】
本願は2010年6月23日出願の米国特許出願第12/821,370号および2009年6月24日出願の米国特許仮出願第61/219,932号に対して優先権を主張する。上記出願は各々、参照により余すところなく本願に援用される。