特許第5792723号(P5792723)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5792723スパッタリング装置、成膜方法、および制御装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5792723
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】スパッタリング装置、成膜方法、および制御装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20150928BHJP
   H01F 41/18 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   C23C14/34 J
   C23C14/34 U
   H01F41/18
【請求項の数】25
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2012-521372(P2012-521372)
(86)(22)【出願日】2011年5月12日
(86)【国際出願番号】JP2011060924
(87)【国際公開番号】WO2011162036
(87)【国際公開日】20111229
【審査請求日】2012年9月27日
(31)【優先権主張番号】特願2010-144847(P2010-144847)
(32)【優先日】2010年6月25日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000227294
【氏名又は名称】キヤノンアネルバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100114915
【弁理士】
【氏名又は名称】三村 治彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120363
【弁理士】
【氏名又は名称】久保田 智樹
(74)【代理人】
【識別番号】100125139
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 洋
(72)【発明者】
【氏名】恒川 孝二
(72)【発明者】
【氏名】末永 真寛
(72)【発明者】
【氏名】金野 武郎
【審査官】 國方 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−246759(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/038421(WO,A1)
【文献】 特開2004−232006(JP,A)
【文献】 米国特許第06716322(US,B1)
【文献】 特開昭63−266062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
H01F 41/18
H01L 21/203,43/00−43/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を回転可能に保持するための基板ホルダと、
前記基板ホルダの斜向かいの位置に配置された少なくとも1つのスパッタリングターゲットをスパッタするためのカソードユニットと、
前記基板ホルダ上に保持された基板の回転位置を検出するための位置検出手段と、
前記位置検出手段の検出した回転位置に応じて、前記カソードユニットへの供給電力を調整する電力制御手段と、
前記位置検出手段の検出した回転位置に応じて、前記基板の回転角度を調整する回転制御手段とを備えたスパッタリング装置であって、
前記基板ホルダに、第1の方向に平行に揃って配列された複数の凹凸構造が形成された基板が配置された際、
前記電力制御手段は、前記凹凸構造の4つの側面のうち被処理面となる対向する2つの側面に平行であり且つ前記基板の面内方向に平行である前記第1の方向側に成膜対象の前記スパッタリングターゲットが位置する際の前記カソードユニットへの供給電力が、前記第1の方向と垂直であり且つ前記基板面内に平行である第2の方向側に前記成膜対象の前記スパッタリングターゲットが位置する際の前記カソードユニットへの供給電力よりも大きくなるように、前記カソードユニットへの供給電力を調整し、
前記回転制御手段は、前記第1の方向側に前記成膜対象の前記スパッタリングターゲットが位置する際の前記基板の回転速度が、前記第2の方向側に前記成膜対象の前記スパッタリングターゲットが位置する際の前記基板の回転速度よりも遅くなるように、前記基板の回転速度を制御する
ことを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項2】
前記電力制御手段は、前記基板の回転角の正弦波関数として前記供給電力を算出し、該正弦波関数に基づいて前記カソードユニットへの供給電力を制御する
ことを特徴とする請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項3】
前記電力制御手段は、前記基板が1回転する間に前記供給電力の正弦波が2周期進行するように前記供給電力を制御する
ことを特徴とする請求項2に記載のスパッタリング装置。
【請求項4】
前記電力制御手段は、成膜対象の前記スパッタリングターゲットの中心と前記基板ホルダの回転中心とを結ぶ線分を含み、かつ前記基板の前記凹凸構造が形成された面に対して垂直な平面に対して、前記被処理面となる側面が垂直となる時、前記供給電力が最小値をとり、前記被処理面となる側面が前記平面に対して垂直になる時から前記基板が90度回転する時、前記供給電力が最大値をとるように、前記供給電力を制御する
ことを特徴とする請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項5】
前記凹凸構造は、その断面が周期的な波形形状である波形凹凸構造であり、隣り合う波形凹凸構造の長手方向が略平行に揃っている
ことを特徴とする請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項6】
前記波形凹凸構造の波形が正弦波、矩形波、三角波、台形波の群から選ばれるいずれか1つまたは2つ以上の波形である
ことを特徴とする請求項5に記載のスパッタリング装置。
【請求項7】
前記電力制御手段は、前記成膜対象のスパッタリングターゲットの中心と前記基板ホルダの回転中心とを結ぶ線分を含み、かつ前記基板の前記凹凸構造が形成された面に対して垂直な平面に対して、前記波形凹凸構造の長手方向が垂直となる時、前記供給電力が最小値をとり、前記波形凹凸構造の長手方向が前記平面に対して垂直になる時から前記基板が90度回転する時、前記供給電力が最大値をとるように、前記供給電力を制御する
ことを特徴とする請求項5に記載のスパッタリング装置。
【請求項8】
前記カソードユニット及び前記スパッタリングターゲットは前記基板ホルダの回転軸周りに複数個配置され、
個々のカソードユニットに順次または交互に電圧を印加することによって、前記基板上に積層膜を成膜することを特徴とする請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項9】
前記カソードユニットは、多角柱構造のカソードユニットであり、該多角柱のカソードユニットの側面の各々にはスパッタリングターゲットが配置可能であり、
前記多角柱構造のカソードユニットを順次または交互に回転することによって、前記基板上に積層膜を成膜することを特徴とする請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項10】
前記カソードユニットは、多角柱構造のターゲットホルダであり、該多角柱構造のターゲットホルダの側面の各々にはターゲットが配置可能であり、
前記スパッタリングターゲットにイオンビームを照射するためのイオンビーム源が、前記多角柱構造のターゲットホルダの斜向かい、かつ前記基板ホルダとは別個の位置に配置されており、
前記多角柱構造のターゲットホルダを順次または交互に回転することによって、前記基板上に積層膜を成膜することを特徴とする請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項11】
スパッタリングによる成膜方法であって、
回転可能な基板ホルダ上に、第1の方向に平行に揃って配列された複数の凹凸構造が形成された基板を配置する工程と、
前記基板を回転しながら、カソードユニットに電力を供給することでプラズマを発生させ、前記基板の斜め向かいの位置に配置されたスパッタリングターゲットをスパッタして、前記凹凸構造の被処理面上に膜を形成する工程とを有し、
前記形成する工程は、
前記基板の回転位置を検出する工程と、
前記検出した回転位置に応じて、前記基板の回転速度及び前記電力を調整する工程とを有し、
前記調整する工程は、
前記基板上の前記凹凸構造の4つの側面のうち被処理面となる対向する2つの側面に平行であり且つ前記基板の面内方向に平行である前記第1の方向側に成膜対象のスパッタリングターゲットが位置する際の前記基板の回転速度が、前記第1の方向と垂直であり且つ前記基板面内に平行である第2の方向側に前記成膜対象のスパッタリングターゲットが位置する際の前記基板の回転速度よりも遅くなるように、前記基板の回転速度を制御し、
前記第1の方向側に前記成膜対象の前記スパッタリングターゲットが位置する際の前記カソードユニットに供給される電力が、前記第2の方向側に前記成膜対象の前記スパッタリングターゲットが位置する際の前記カソードユニットに供給される電力よりも大きくなるように、前記カソードユニットへの供給電力を調整する
ことを特徴とする成膜方法。
【請求項12】
前記基板の回転速度は、前記基板の回転角の正弦波関数として算出される
ことを特徴とする請求項11に記載の成膜方法。
【請求項13】
前記基板の回転速度は、前記基板が1回転する間に前記回転速度の正弦波が2周期進行するように制御される
ことを特徴とする請求項12に記載の成膜方法。
【請求項14】
前記基板の回転速度は、前記成膜対象のスパッタリングターゲットの中心と前記基板ホルダの回転中心とを結ぶ線分を含み、かつ前記基板の前記凹凸構造が形成された面に対して垂直な平面に対して、前記被処理面となる側面が垂直となる時、前記回転速度が最大値をとり、前記被処理面となる側面が前記平面に対して垂直になる時から前記基板が90度回転する時、前記回転速度が最小値をとるように、制御される
ことを特徴とする請求項11に記載の成膜方法。
【請求項15】
前記凹凸構造は、その断面が周期的な波形形状である波形凹凸構造であり、隣り合う波形凹凸構造の長手方向が略平行に揃っている
ことを特徴とする請求項11に記載の成膜方法。
【請求項16】
前記波形凹凸構造の波形が正弦波、矩形波、三角波、台形波の群から選ばれるいずれか1つまたは2つ以上の波形である
ことを特徴とする請求項15に記載の成膜方法。
【請求項17】
前記基板の回転速度は、前記成膜対象のスパッタリングターゲットの中心と前記基板ホルダの回転中心とを結ぶ線分を含み、かつ前記基板の前記凹凸構造が形成された面に対して垂直な平面に対して、前記波形凹凸構造の長手方向が垂直となる時、前記回転速度が最大値をとり、前記波形凹凸構造の長手方向が前記平面に対して垂直になる時から前記基板が90度回転する時、前記回転速度が最小値をとるように、制御される
ことを特徴とする請求項15に記載の成膜方法。
【請求項18】
前記形成する工程では、前記ターゲットホルダと一体にまたは別個に、前記スパッタリングターゲットをスパッタするためのカソードユニットを配置する
ことを特徴とする請求項11に記載の成膜方法。
【請求項19】
前記カソードユニット及び前記スパッタリングターゲットを前記基板ホルダの回転軸周りに複数個配置し、
個々のカソードユニットに順次または交互に電圧を印加することによって、前記基板上に積層膜を成膜する
ことを特徴とする請求項18に記載の成膜方法。
【請求項20】
前記カソードユニットは、多角柱構造のカソードユニットであり、該多角柱のカソードユニットの側面の各々にはスパッタリングターゲットが配置可能であり、
前記多角柱構造のカソードユニットを順次または交互に回転することによって、前記基板上に積層膜を成膜する
ことを特徴とする請求項18に記載の成膜方法。
【請求項21】
前記カソードユニットは、多角柱構造のターゲットホルダであり、該多角柱構造のターゲットホルダの側面の各々にはターゲットが配置可能であり、
前記スパッタリングターゲットにイオンビームを照射するためのイオンビーム源を、前記多角柱構造のターゲットホルダの斜向かい、かつ前記基板ホルダとは別個の位置に配置し、
前記多角柱構造のターゲットホルダを順次または交互に回転することによって、前記基板上に積層膜を成膜する
ことを特徴とする請求項18に記載の成膜方法。
【請求項22】
基板を回転可能に保持するための基板ホルダと、
前記基板ホルダの斜向かいの位置に配置された、少なくとも1つのスパッタリングターゲットを支持するためのターゲットホルダと、
前記スパッタリングターゲットをスパッタするためのカソードユニットと、
前記基板ホルダ上に保持された基板の回転位置を検出するための位置検出手段と、
前記カソードユニットへ供給する電力を調整する電力制御手段と、
前記基板ホルダの回転を制御する回転駆動手段とを備えたスパッタリング装置を制御するための制御装置であって、
前記スパッタリング装置に、請求項11乃至17のいずれか1項に記載の成膜方法を実行させるように構成されている
ことを特徴とする制御装置。
【請求項23】
基板を回転可能に保持するための基板ホルダと、
前記基板ホルダの斜め向かいの位置に配置された、少なくとも1つのスパッタリングターゲットを支持するためのターゲットホルダと、
前記基板ホルダ上に保持された基板の回転位置を検出するための位置検出手段と、
前記基板ホルダの回転を制御する回転駆動手段と、
前記カソードユニットへ供給電力を供給する電力供給源とを備えたスパッタリング装置を制御するための制御装置であって、
前記スパッタリング装置から前記回転位置に関する情報を取得する手段と、
前記基板ホルダに、第1の方向に平行に揃って配列された複数の凹凸構造が形成された基板が配置された際、前記取得された回転位置に関する情報に応じて、前記凹凸構造の4つの側面のうち被処理面となる対向する2つの側面に平行であり且つ前記基板の面内方向に平行である前記第1の方向側に成膜対象の前記スパッタリングターゲットが位置する際の前記カソードユニットへの供給電力が、前記第1の方向と垂直であり且つ前記基板面内に平行である第2の方向側に前記成膜対象の前記スパッタリングターゲットが位置する際の前記カソードユニットへの供給電力よりも大きくなるように、前記カソードユニットへの供給電力を制御するための第1の制御信号を生成する手段と、
前記生成された前記第1の制御信号を前記電力供給源に送信する手段と、
前記基板が配置された際、前記取得された回転位置に関する情報に応じて、前記第1の方向側に前記成膜対象の前記スパッタリングターゲットが位置する際の前記基板の回転速度が、前記第2の方向側に前記成膜対象の前記スパッタリングターゲットが位置する際の前記基板の回転速度よりも遅くなるように、前記回転駆動手段を制御するための第2の制御信号を生成する手段と、
前記生成された前記第2の制御信号を前記回転駆動手段に送信する手段と
を備えることを特徴とする制御装置。
【請求項24】
コンピュータを請求項22又は23に記載の制御装置として機能させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項25】
コンピュータにより読み出し可能なプログラムを格納した記憶媒体であって、請求項24に記載のコンピュータプログラムを格納したことを特徴とする記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス、電子デバイス、磁気デバイス、表示デバイス等の製造工程において凹凸構造を有する基板上に薄膜を成膜するスパッタリング装置、成膜方法、および制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
凹凸構造を有する基板上に均一に薄膜を成膜する方法としては化学的気相成長法(特許文献1参照)や原子層堆積法(特許文献2参照)のような基板上での化学反応を用いた方法が良く知られている。これらの方法は、底の深いトレンチやホールの底面および内壁面の被覆に用いられている。しかしながら、これら化学反応を用いた方法ではプロセス中の反応性ガスが膜中に混入することから純度の高い金属膜を必要とするアプリケーションには向いていない。さらに化学反応の元となる原料ガスの探索に開発時間を要するため、今のところ金属膜に対してはごく限られた材料しか実現できていない。そのため、多種多様な金属膜や合金膜の積層膜を成膜する用途には使用されていない。
【0003】
物理的気相成長法によってトレンチやホールの底面および内壁面の被覆を行う従来技術としては、遠隔低圧スパッタリング(特許文献3参照)やバイアススパッタリング(特許文献4参照)などが知られている。しかしながら、遠隔低圧スパッタリングやバイアススパッタリングでは基板面に対してターゲット面が略平行に対向して配置されているため、そもそも基板面内における膜厚の均一性が悪いという問題があった。
【0004】
スパッタリング法において、回転する基板の角度を適宜変更しながら成膜することによってホールの底面や内壁面への被覆性を改善するという例も知られているが(特許文献5参照)、基板面内における膜厚分布の改善という点では不十分である。回転する基板の角度を適宜変更しながら被覆性を改善し、さらに膜厚分布も改善する方法としては、特許文献6のイオンビームスパッタ堆積法の開示例にあるように、基板の直上にシェーパーと呼ばれるマスクを設けてスパッタ粒子の入射量を制御することが必要である。しかしながらマスクを用いた場合、経時的にマスクへ膜が堆積するためマスクからの膜剥がれに起因するパーティクル発生が問題となっていた。
【0005】
一方、平坦な面へ均一に薄膜を成膜する方法としては、特許文献7に開示された斜め入射回転成膜法が知られている。この方法では、基板の斜め上方にターゲットを支持するカソードユニットをオフセット配置し、基板をその処理面に沿って回転させながら、マグネトロンスパッタリングによりターゲット材料をスパッタリングする。
【0006】
さらに斜め入射回転成膜法では、磁性膜を磁場中で成膜した時に生じる膜厚分布の偏りを改善するために、基板の回転速度を制御する方法が開示されている(特許文献8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,877,087号明細書
【特許文献2】米国特許第6,699,783号明細書
【特許文献3】特開平7−292475号公報
【特許文献4】特開2004−107688号公報
【特許文献5】特開2009−41040号公報
【特許文献6】米国特許第6,716,322号明細書
【特許文献7】特開2000−265263号公報
【特許文献8】国際公開第WO2010/038421号
【発明の概要】
【0008】
従来の斜め入射回転成膜法で基板上の凹凸構造に成膜すると、凹凸の壁面または斜面部(以下、側面という)に堆積する薄膜の膜厚が基板面内でばらつくという問題があった。より具体的には、基板の斜め上方に配置されたターゲットとの位置関係により、基板の外側を向いた側面(以下第1の面とも言う)に付着した膜の膜厚と基板の中心側方向を向いた側面(以下第2の面とも言う)に付着した膜の膜厚とに差が生じるという問題があった。
【0009】
すなわち、上記斜め入射回転成膜法では、表面に凹凸構造を有さない平坦な基板に対しては有効な技術である。しかしながら、上記斜め入射回転成膜法を、メサ構造、V溝、トレンチ等の凹凸構造を有する基板に対するスパッタリングに適用すると、凹凸構造が有するある2面(特に、スパッタリングによる被処理面(例えば、凹凸構造の長手方向に沿って対向する2面))における、スパッタリングによる成膜の厚さが異なってしまう。
【0010】
具体的に図2図18及び図19を用いて説明する。図2は基板21の処理面上に凹凸構造として、底面及び上面が長方形を成した、いわゆるメサ構造211が形成された様子を示している。メサ構造211において、基板の外側を向いた第1の面を符号211a、基板の中心側を向いた第2の面を符号211bとする。図18及び図19は基板上のある凹凸構造に着目した時の凹凸構造とターゲットの位置関係を示した図である。図19図18の状態から基板が180°回転した状態を示している。図18の状態においては、面211aとターゲット400とが対向しており、スパッタリングにより形成される膜は主に面211aに成膜される。図19の状態においては、面211bがターゲット400と対向しており、スパッタリングによる形成される膜は主に面211bに成膜される。この時、図18におけるターゲット400と面211aの距離と、図19におけるターゲット400と面211bの距離は異なっていることが分かる。ターゲットと被処理面の距離が長ければ長い程、成膜量も少なくなる。よって図18及び図19の場合、面211aの膜厚が面211bよりも厚くなる。このため基板上に形成される凹凸構造が同一であっても、側面の向きによってその膜厚に差が生じてしまう。この事は基板上の略中央に位置する凹凸構造以外の、全ての凹凸構造について当てはまる。
【0011】
この傾向は、ターゲットを基板の斜め上方に配置(オフセット配置)する限り、ターゲットをいずれの場所に配置しても言えることである。さらには、基板の斜め上方に配置したターゲットの数を複数にしても言えることである。何故ならば、仮にターゲットを基板の中心軸に対して対称の位置に追加して配置したとしても、ターゲット、面211a及び面211bの位置関係は変わらない。つまりどのターゲットに対しても面211aとターゲットが対向した場合の距離は短く、対して面211bとターゲットが対向した場合の距離は長くなるからである。
【0012】
そこで本発明は上記事情に鑑みて、凹凸構造が形成された基板に対しても、該凹凸構造の側面部に付着する膜の膜厚を、該凹凸構造において均一にできるスパッタリング装置、成膜方法、および制御装置を提供することを目的とする。
【0013】
本発明は、このような目的を達成するために、基板を回転可能に保持するための基板ホルダと、前記基板ホルダの斜向かいの位置に配置された、少なくとも1つのスパッタリングターゲットを支持するためのターゲットホルダと、前記基板ホルダ上に保持された基板の回転位置を検出するための位置検出手段と、前記位置検出手段の検出した回転位置に応じて、前記基板の回転速度を調整する回転制御手段とを備えたスパッタリング装置であって、前記基板ホルダに少なくとも1つの凹凸構造が形成された基板が配置された際、前記回転制御手段は、前記凹凸構造の被処理面となる側面に平行であり且つ前記基板の面内方向に平行である第1の方向側に成膜対象のスパッタリングターゲットが位置する際の前記基板の回転速度が、前記第1の方向と垂直であり且つ前記基板面内に平行である第2の方向側に前記成膜対象のスパッタリングターゲットが位置する際の前記基板の回転速度よりも遅くなるように、前記基板の回転速度を制御することを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、基板を非連続的に回転可能に保持するための基板ホルダと、前記基板ホルダの斜向かいの位置に配置された、少なくとも1つのスパッタリングターゲットを支持するためのターゲットホルダと、前記基板ホルダ上に保持された基板の回転位置を検出するための位置検出手段と、前記位置検出手段の検出した回転位置に応じて、前記基板の回転停止時間を調整する回転制御手段とを備えたスパッタリング装置であって、前記基板ホルダに少なくとも1つの凹凸構造が形成された基板が配置された際、前記回転制御手段は、前記凹凸構造の被処理面となる側面に平行であり且つ前記基板の面内方向に平行である第1の方向側に成膜対象のスパッタリングターゲットが位置する際の前記基板の回転停止時間が、前記第1の方向と垂直であり且つ前記基板面内に平行である第2の方向側に前記成膜対象のスパッタリングターゲットが位置する際の前記基板の回転停止時間よりも長くなるように、前記基板の回転停止時間を制御することを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、基板を回転可能に保持するための基板ホルダと、前記基板ホルダの斜向かいの位置に配置された少なくとも1つのスパッタリングターゲットをスパッタするためのカソードユニットと、前記基板ホルダ上に保持された基板の回転位置を検出するための位置検出手段と、前記位置検出手段の検出した回転位置に応じて、前記カソードユニットへの供給電力を調整する電力制御手段とを備えたスパッタリング装置であって、前記基板ホルダに少なくとも1つの凹凸構造が形成された基板が配置された際、前記電力制御手段は、前記凹凸構造の被処理面となる側面に平行であり且つ前記基板の面内方向に平行である第1の方向側に成膜対象の前記スパッタリングターゲットが位置する際の前記カソードユニットへの供給電力が、前記第1の方向と垂直であり且つ前記基板面内に平行である第2の方向側に前記成膜対象の前記スパッタリングターゲットが位置する際の前記カソードユニットへの供給電力よりも大きくなるように、前記カソードユニットへの供給電力を調整することを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、スパッタリングによる成膜方法であって、回転可能な基板ホルダ上に、少なくとも1つの凹凸構造が形成された基板を配置する工程と、前記基板を回転しながら、前記基板の斜向かいの位置に配置されたスパッタリングターゲットをスパッタして、前記凹凸構造の被処理面上に膜を形成する工程とを有し、前記形成する工程は、前記基板上の前記凹凸構造の被処理面となる側面に平行であり且つ前記基板の面内方向に平行である第1の方向側に成膜対象のスパッタリングターゲットが位置する際には前記被処理面となる側面への成膜量が相対的に多くなり、かつ前記第1の方向と垂直であり且つ前記基板面内に平行である第2の方向側に前記成膜対象のスパッタリングターゲットが位置する際には前記被処理面となる側面への成膜量が相対的に少なくなるように、前記膜を形成することを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、スパッタリングによる成膜方法であって、回転可能な基板ホルダ上に、少なくとも1つの凹凸構造が形成された基板を配置する工程と、前記基板を回転しながら、前記基板の斜向かいの位置に配置されたスパッタリングターゲットをスパッタして、前記凹凸構造の被処理面上に膜を形成する工程とを有し、前記形成する工程は、前記基板の回転位置を検出する工程と、前記検出した回転位置に応じて、前記基板の回転速度を調整する工程とを有し、前記調整する工程は、前記基板上の前記凹凸構造の被処理面となる側面に平行であり且つ前記基板の面内方向に平行である第1の方向側に成膜対象のスパッタリングターゲットが位置する際の前記基板の回転速度が、前記第1の方向と垂直であり且つ前記基板面内に平行である第2の方向側に前記成膜対象のスパッタリングターゲットが位置する際の前記基板の回転速度よりも遅くなるように、前記基板の回転速度を制御することを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、スパッタリングによる成膜方法であって、回転可能な基板ホルダ上に、少なくとも1つの凹凸構造が形成された基板を配置する工程と、前記基板を非連続的に回転しながら、前記基板の斜向かいの位置に配置されたスパッタリングターゲットをスパッタして、前記凹凸構造の被処理面上に膜を形成する工程とを有し、前記形成する工程は、前記基板の回転位置を検出する工程と、前記検出した回転位置に応じて、前記基板の回転停止時間を調整する工程とを有し、前記調整する工程は、前記基板上の前記凹凸構造の被処理面となる側面に平行であり且つ前記基板の面内方向に平行である第1の方向側に成膜対象のスパッタリングターゲットが位置する際の前記基板の回転停止時間が、前記第1の方向と垂直であり且つ前記基板面内に平行である第2の方向側に前記成膜対象のスパッタリングターゲットが位置する際の前記基板の回転停止時間よりも長くなるように、前記基板の回転停止時間を制御することを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、スパッタリングによる成膜方法であって、回転可能な基板ホルダ上に、少なくとも1つの凹凸構造が形成された基板を配置する工程と、前記基板を回転しながら、カソードユニットに電力を供給することでプラズマを発生させ、前記基板の斜め向かいの位置に配置されたスパッタリングターゲットをスパッタして、前記凹凸構造の被処理面上に膜を形成する工程とを有し、前記形成する工程は、前記基板の回転位置を検出する工程と、前記検出した回転位置に応じて、前記電力を調整する工程とを有し、前記調整する工程は、前記基板上の前記凹凸構造の被処理面となる側面に平行であり且つ前記基板の面内方向に平行である第1の方向側に成膜対象のスパッタリングターゲットが位置する際の前記カソードユニットに供給される電力が、前記第1の方向と垂直であり且つ前記基板面内に平行である第2の方向側に前記成膜対象のスパッタリングターゲットが位置する際の前記カソードユニットに供給される電力よりも大きくなるように、前記カソードユニットへの供給電力を調整することを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、基板を回転可能に保持するための基板ホルダと、前記基板ホルダの斜向かいの位置に配置された、少なくとも1つのスパッタリングターゲットを支持するためのターゲットホルダと、前記基板ホルダ上に保持された基板の回転位置を検出するための位置検出手段と、前記基板ホルダの回転を制御する回転駆動手段とを備えたスパッタリング装置を制御するための制御装置であって、前記位置検出手段から前記回転位置に関する情報を取得する手段と、前記基板ホルダに少なくとも1つの凹凸構造が形成された基板が配置された際、前記取得された回転位置に関する情報に応じて、前記凹凸構造の被処理面となる側面に平行であり且つ前記基板の面内方向に平行である第1の方向側に成膜対象のスパッタリングターゲットが位置する際の前記基板の回転速度が、前記第1の方向と垂直であり且つ前記基板面内に平行である第2の方向側に前記成膜対象のスパッタリングターゲットが位置する際の前記基板の回転速度よりも遅くなるように、前記回転駆動手段を制御するための制御信号を生成する手段と、前記生成された制御信号を前記回転駆動手段に送信する手段とを備えることを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、基板を非連続的に回転可能に保持するための基板ホルダと、前記基板ホルダの斜向かいの位置に配置された、少なくとも1つのスパッタリングターゲットを支持するためのターゲットホルダと、前記基板ホルダ上に保持された基板の回転位置を検出するための位置検出手段と、前記位置検出手段の検出した回転位置に応じて、前記基板の回転停止時間を調整する回転駆動手段とを備えたスパッタリング装置を制御するための制御装置であって、前記位置検出手段から前記回転位置に関する情報を取得する手段と、前記基板ホルダに少なくとも1つの凹凸構造が形成された基板が配置された際、前記取得された回転位置に関する情報に応じて、前記凹凸構造の被処理面となる側面に平行であり且つ前記基板の面内方向に平行である第1の方向側に成膜対象のスパッタリングターゲットが位置する際の前記基板の回転停止時間が、前記第1の方向と垂直であり且つ前記基板面内に平行である第2の方向側に前記成膜対象のスパッタリングターゲットが位置する際の前記基板の回転停止時間よりも長くなるように、前記基板の回転停止時間を制御するための制御信号を生成する手段と、前記生成された制御信号を前記回転駆動手段に送信する手段とを備えることを特徴とする。
【0022】
さらに、本発明は、基板を回転可能に保持するための基板ホルダと、前記基板ホルダの斜向かいの位置に配置された、少なくとも1つのスパッタリングターゲットを支持するためのターゲットホルダと、前記基板ホルダ上に保持された基板の回転位置を検出するための位置検出手段と、前記カソードユニットへ供給電力を供給する電力供給源とを備えたスパッタリング装置を制御するための制御装置であって、前記スパッタリング装置から前記回転位置に関する情報を取得する手段と、前記基板ホルダに少なくとも1つの凹凸構造が形成された基板が配置された際、前記取得された回転位置に関する情報に応じて、前記凹凸構造の被処理面となる側面に平行であり且つ前記基板の面内方向に平行である第1の方向側に成膜対象の前記スパッタリングターゲットが位置する際の前記カソードユニットへの供給電力が、前記第1の方向と垂直であり且つ前記基板面内に平行である第2の方向側に前記成膜対象の前記スパッタリングターゲットが位置する際の前記カソードユニットへの供給電力よりも大きくなるように、前記カソードユニットへの供給電力を制御するための制御信号を生成する手段と、前記生成された制御信号を前記電力供給源に送信する手段とを備えることを特徴とする。
【0023】
本発明によれば、ターゲットを基板の斜め上方に配置する構成において、基板に凹凸構造が形成されていても、該凹凸構造の個々における、該凹凸構造の、対向する2つの被処理面(例えば、長手方向に沿って形成された対向する2つの側面(斜面や壁面))間の膜厚のバラツキを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係るスパッタリング装置を模式的に示す概略断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る基板に凹凸構造としてのメサ構造が形成されている様子を示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る基板ホルダとカソードユニットとの配置関係を模式的に示す平面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る制御装置を示すブロック図である。
図5】本発明の一実施形態に係る、ターゲットと基板との位置関係および基板の位相を説明するための図である。
図6】本発明の一実施形態に係るスパッタリング方法における基板ホルダの回転速度の制御マップを示す説明図である。
図7A】本発明の一実施形態に係るメサ構造が形成された基板の説明図である。
図7B図7AのA−A’線断面図である。
図8】本発明の一実施形態に係る基板の回転角θと基板の回転速度yとの関係を示す図である。
図9A】本発明の一実施形態に係るトレンチ構造が形成された基板の説明図である。
図9B図9AのB−B’線断面図である。
図10A】本発明の一実施形態に係る波形凹凸構造が形成された基板の説明図である。
図10B図10AのC−C’線断面図である。
図11A】本発明の一実施形態に係る波形凹凸構造の断面波形の例を示す図である。
図11B】本発明の一実施形態に係る波形凹凸構造の断面波形の例を示す図である。
図11C】本発明の一実施形態に係る波形凹凸構造の断面波形の例を示す図である。
図11D】本発明の一実施形態に係る波形凹凸構造の断面波形の例を示す図である。
図12】本発明の一実施形態に係る、基板上に形成されたメサ構造の一例としてのTMR素子を示す図である。
図13A】本発明の一実施形態に係る、基板回転の回転速度を制御する場合の、連続で基板(基板ホルダ)を回転する場合についての説明図である。
図13B】本発明の一実施形態に係る、基板回転の回転速度を制御する場合の、非連続で基板(基板ホルダ)を回転する場合についての説明図である。
図14】本発明の一実施形態に係る制御装置を示すブロック図である。
図15A】本発明の一実施形態に係る、カソードへの投入電力を制御する場合の、連続で基板(基板ホルダ)を回転する場合についての説明図である。
図15B】本発明の一実施形態に係る、カソードへの投入電力を制御する場合の、非連続で基板(基板ホルダ)を回転する場合についての説明図である。
図16】本発明の一実施形態に係るスパッタリング装置を模式的に示す概略断面図である。
図17】本発明の一実施形態に係るスパッタリング装置を模式的に示す概略断面図である。
図18】基板上の凹凸構造とスパッタリングターゲットとの位置関係を模式的に示した図である。
図19】基板上の凹凸構造とスパッタリングターゲットとの位置関係を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。なお、以下で説明する図面で、同機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略することもある。
【0026】
(第1の実施形態)
図1から図3を参照して、本実施形態に係るスパッタリング装置について説明する。図1は本実施形態のスパッタリング装置を模式的に示す概略断面図である。また、図2は本実施形態に係る処理面に凹凸構造が集積された基板の一例を模式的に示す平面図および凹凸構造の拡大図である。さらに、図3は基板ホルダとカソードユニットとの配置関係を模式的に示す平面図である。なお、図1図3のAOB断面に相当する。
【0027】
図1に示すように、本実施形態のスパッタリング装置1は、真空チャンバ(以下、単に“チャンバ”とも呼ぶ)10を備えており、該真空チャンバ10には真空シール用Oリング15を介して上蓋14が備えられている。真空チャンバ10には内部を真空排気するための真空ポンプ11が設けられている。この真空チャンバ10は、処理する基板21を搬入するためのゲートバルブ(不図示)を介して隣接する真空搬送チャンバ(不図示)に接続されている。
【0028】
このチャンバ10にはガス注入口12が開口され、このガス注入口12にはチャンバ10の内部に反応性のスパッタリングガスを導入するガス導入系13が接続されている。ガス導入系13には、例えば、マスフローコントローラなどの自動流量制御器(不図示)を介して、ガスボンベ(不図示)が接続され、ガス注入口12から反応性ガスが所定の流量で導入される。このガス導入系13は、チャンバ10内で反応性スパッタリングを行う際に、チャンバ10内に反応性ガスを供給する。
【0029】
チャンバ10内の処理空間の下部には、その上面に基板21を支持することが可能な基板ホルダ22が設けられている。処理対象である基板21は、通常、隣接する真空搬送チャンバ(不図示)に備えられたハンドリング・ロボットにより、ゲートバルブ(不図示)を通じて基板ホルダ22上に運ばれる。基板ホルダ22は、円板状の載置台(ステージ)であって、例えば、その上面に静電吸着により基板21を吸着支持するように構成されている。この基板ホルダ22は、真空用回転導入機16を介して回転駆動機構60に接続されて、真空を維持しながらその中心軸周りに回転可能に構成されている。従って、基板ホルダ22は、載置面に吸着支持する基板21を処理面に沿って回転することができる。真空用回転導入機16としては磁性流体を用いるが、これに限定されるものではない。
【0030】
また、基板ホルダ22には、位置検出手段としての位置センサ23が設けられており、基板21の回転位置を検出することができる。本実施形態では、位置センサ23として、ロータリーエンコーダを用いている。なお、本実施形態では、位置センサ23として、例えば、上述のロータリーエンコーダのように、回転する基板21の回転位置を検出できるものであればいずれの構成を用いても良い。
【0031】
なお、本実施形態では、位置センサ23等のセンサによって基板21や基板ホルダ22の回転位置を直接検出することによって基板ホルダ22に保持された基板21の回転位置を検出しているが、基板21の回転位置を検出できればいずれの構成を用いても良い。例えば、基板ホルダ22の回転速度や回転時間から計算により求めるなど、基板21の回転位置を間接的に求めても良い。
【0032】
基板21は、基板ホルダ22の載置面上に水平状態を保って保持されている。基板21の材料としては、例えば、円板状のシリコンウェハを用いるが、これに限定されるものではない。
【0033】
図2は上述した通り、メサ構造211が多数形成された処理基板である。各メサ構造211の長手方向は平行に揃って規則正しく配列されている。また、本実施形態では、該長手方向に沿った側面211a、211bがメサ構造211の、スパッタリングに対する被処理面(均一性良く成膜を行いたい所望の面)となる。すなわち、メサ構造211が有する複数の側面のうち対向する2つの側面である側面211a、211bが被処理面である。図2から分かるように、側面211aが、メサ構造211の基板21の外側の面であり、側面211bが、メサ構造211の基板21の中心側の面である。また本実施形態では、ノッチ又はオリフラ212とメサ構造211の長手方向の面が向き合う様に、メサ構造が設けられている。
【0034】
また、チャンバ10内の上記処理空間の基板ホルダ22の斜め上方には(基板ホルダ22の斜向かいの位置には)、複数のカソードユニット40が配置されている。このカソードユニット40は、スパッタリングターゲット400(以下、ターゲットと記述する)を支持可能に構成されている。すなわち、一つの基板ホルダ22に対して複数のカソードユニット40が設けられ、各カソードユニット40は上蓋14に傾斜した状態で取り付けられている。
【0035】
図1および図3に示すように、本実施形態では、上蓋14に5基のカソードユニット40(40a〜40e)が設けられているが、カソードユニット40の数はこれに限定されない。また、カソードユニット40を1つ設けても良い。すなわち、ターゲットを支持するためのカソードユニットを、真空チャンバ10において少なくとも1つ設ければよい。各カソードユニット40は、基板ホルダ22上の基板21の処理面に対して傾斜すると共に、基板21の中心軸から面方向へ等間隔を隔ててずらしてオフセット配置されている。具体的には、各カソードユニット40のカソード中心軸は、基板ホルダ22の回転軸とは外れて位置し、回転軸から所定の距離を隔てた同心円上に等間隔で配置されている。このように同一のチャンバ10内に複数のカソードユニット40を設けることにより、一つのチャンバ10内で異なる複数の材料からなる積層膜の成膜が可能である。
【0036】
なお、基板径やターゲット径は特に限定されないが、基板中心とカソード中心をオフセット配置させ、本実施形態のように基板21を回転させる場合には、ターゲット径が基板径より小さくても均一性に優れた成膜が可能である。
【0037】
各カソードユニット40におけるカソードの裏面側には、複数の永久磁石(カソード側磁石)を配置したマグネトロンが備えられ、ターゲットの表面側に磁界を形成するようになっている。
【0038】
各カソードユニット40のカソード表面側には、それぞれ板状のターゲットが取り付けられる。すなわち、各ターゲットは、カソードよりも処理空間側に設けられ、各ターゲットは斜め下方へ臨んで配置されている。ターゲット材料は、基板上に成膜する膜の種類によって異なる。なお、本実施形態では、5基のカソードユニット40が配置されているので、例えば、材料成分の異なる5種類のターゲットが取り付けられるが、これに限定されない。
【0039】
各カソードユニット40には、カソードに電圧を印加する放電用電源70が電気的に接続されている。放電用の電力は、高周波電力、DC電力、高周波電力とDC電力との重畳のいずれであっても構わない。また、複数のカソードユニット40に電圧を選択的に印加するが、各カソードユニット40に個別の放電用電源を接続してもよい。あるいは、共通電源として選択的に電力供給を行うスイッチ等の切り替え機構を備えるように放電用電源70を構成しても構わない。すなわち、各カソードユニット40に順次または交互に電圧を印加することによって、基板21上に積層膜を成膜することができる。
【0040】
さらに、各カソードユニッ40のケーシングには、カソード近傍に放電用の処理ガス(放電用ガス)を供給する放電用ガス導入系41が接続されている。放電用ガスとしては、例えば、ArやKrなどの不活性ガスが使用される。各カソードは基板ホルダ21との間でプラズマ放電を発生し、各カソードユニット40に取り付けられたターゲットをスパッタリング可能である。
【0041】
また、各カソードユニット40の前方には、一部のカソードと基板ホルダ22との間を選択的に遮断するシャッタ45が設けられている。このシャッタ45を選択的に開放することにより複数のカソードユニット40の中から目的のターゲットを選択してスパッタリングを実行することができ、スパッタされている他のターゲットからのコンタミネーションを防止することができる。
【0042】
次に、図4を参照して、本実施形態のスパッタリング装置1に備えられ、上述の各構成要素を制御する制御装置50について説明する。図4は本実施形態における制御装置を示すブロック図である。
【0043】
図4に示すように、本実施形態の制御装置50は、例えば、一般的なコンピュータと各種のドライバを備える。すなわち、制御装置50は、種々の演算、制御、判別などの処理動作を実行するCPU(不図示)と、このCPUによって実行される様々な制御プログラムなどを格納するROMとを有する。また、制御装置50は、上記CPUの処理動作中のデータや入力データなどを一時的に格納するRAM、およびフラッシュメモリやSRAM等の不揮発性メモリなどを有する。このような構成において、制御装置50は、上記ROMに格納された所定のプログラム又は上位装置の指令に従って成膜処理動作を実行する。具体的には、制御装置50は、放電用電源70、シャッタ45の駆動部、放電用ガス導入系41、不活性ガス導入系13、排気ポンプ11、および基板ホルダ22の回転駆動機構60などに指令を出力する。その指令に従って放電時間、放電電力、ターゲットの選択、プロセス圧力、および基板ホルダ22の回転などの各種プロセス条件がコントロールされる。また、チャンバ10内の圧力を計測する圧力計や、基板の回転位置を検出する位置検出手段としての位置センサ23などのセンサの出力値も取得可能であり、装置の状態に応じた制御も可能である。
【0044】
また、制御装置50は、位置センサ23の検出した回転位置に応じて、基板21の回転速度を調整する回転制御手段としてホルダ回転制御部51を備える。ホルダ回転制御部51は、目標速度算出部51aと、駆動信号生成部51bと、を備え、基板21の回転位置と放電中のカソードユニット40との位置関係に基づいて、基板の回転位置に応じて基板ホルダ22の回転部の回転を制御して基板21の回転速度を制御する機能を有する。
【0045】
制御装置50は、位置センサ23から、基板21の回転位置に関する情報を受信するように構成されている。制御装置50が上記回転位置に関する情報を受信すると、目標速度算出部51aは、基板21の回転位置を検知する位置センサ23から出力される基板21の現在の回転位置の値に基づいて、当該位置における目標回転速度を算出する。この目標回転速度の値は、例えば、基板21の回転位置と、目標回転速度と、の対応関係を予めマップとして保持しておくことで、演算可能である。駆動信号生成部51bは、目標速度算出部51aにより算出された目標回転速度に基づき、当該目標回転速度とするための駆動信号を生成し、回転駆動機構60に出力する。制御装置50は、駆動信号生成部51bにて生成された上記駆動信号を回転駆動機構60に送信するように構成されている。
【0046】
なお、図4の例では、回転駆動機構60は、基板ホルダ22を駆動するモータなどのホルダ回転駆動部61と、目標値と位置センサ23から出力される実値(回転位置や回転速度)との偏差に基づきホルダ回転駆動部61の操作値を決定するフィードバック制御部62と、を備え、サーボ機構により基板ホルダ22を駆動する。しかし、フィードバック制御は本発明の必須の構成ではなく、モータもDCモータ、ACモータのいずれであってもよい。回転駆動機構60は、制御装置50から受信した駆動信号に基づいて、ホルダ回転駆動部61を駆動し、基板ホルダ22を回転させる。
【0047】
次に、本実施形態のスパッタリング装置1の作用と共に、この装置1を用いて実施するスパッタリング方法について説明する。
【0048】
本実施形態に係るスパッタリング装置1を用いたスパッタリング方法は、まず、基板ホルダ22上に処理対象である基板(ウェハ)21を設置する。基板21は、例えば、隣接する真空搬送チャンバ(不図示)に備えられたハンドリング・ロボットにより、ゲートバルブ(不図示)を通じてチャンバ10内の真空度を維持したまま基板ホルダ22上に運ばれる。
【0049】
次に、チャンバ10の内部に放電用ガス導入系41からAr等の放電用ガスを導入する。反応性スパッタリングを行う場合には、チャンバ10の内部に反応性ガス導入系13から反応性ガスを導入する。
【0050】
5基のカソードユニット40には、例えば、それぞれ材料成分の異なる5種類のターゲットを取り付ける。各ターゲットは、例えば、円板状を呈し、全て同じサイズに形成されている。前述したように、カソードの傾斜角は本実施形態の適用においては特に限定されないが、基板21の処理面の法線に対するカソード中心軸の角度φが0°を超えて45°以下の角度を成すようにカソードユニット40を配置することが好ましい。より好ましくは、上記角度φを5°以上35°以下に設定すると、優れた面内均一性が得られる。
【0051】
この状態で、まず、第1のカソードユニット40aのターゲット表面に、不図示の電源から放電用電力を供給して、基板ホルダ22との間でプラズマ放電を発生させて、第1ターゲットをスパッタリングし、基板21上に第1層を成膜する。
【0052】
その成膜の際、第1のカソードユニット40aの放電中に、位置センサ23が基板21の回転位置を検出すると共に、該検出された回転位置に応じたホルダ回転制御部51の制御により、位置センサ23が検出した回転位置に応じて、基板21の回転速度を調整する。
【0053】
その後、順次電源を切り替え、第2カソードユニット40bから第5カソードユニット40eについても、同様にして成膜操作を行う。
【0054】
以下に、基板の回転速度の制御についてさらに詳しく説明する。図5は本実施形態のターゲットと基板の位置関係および基板の位相を説明するための図である。また、図6は、本実施形態に係る装置を用いたスパッタリング方法における基板の回転速度の制御マップを示す説明図である。
【0055】
図5を用いて本実施形態におけるターゲットと基板の位置関係を説明する。基板21は回転可能な基板ホルダ22の上に載置され、基板21の斜め上方に、ターゲット400がその法線が基板の法線に対して30°傾斜するように配置される。さらにターゲット400の法線は基板の中心と交差する必要はなく、また基板面と交差する必要もない。円板状のターゲット400の中心から基板面を含む平面までの距離をT/S距離と定義し、本実施形態では距離T/Sを240mmとしている。
【0056】
次に、本実施形態における基板の回転位相について説明する。図5に示すように、基板の回転位相(回転角)θは、ターゲットに最も近い位置を90°、最も遠い位置を270°と定義し、回転角θが90°の位置から時計回りに90°回転した点を0°、該90°の位置から反時計回りに90°回転した点を180°と定義している。便宜的に基板回転の始点を、基板21のノッチまたはオリフラ212が180°の位置にある時としているが、これに限定するものではない。また図2で示したように、本実施形態における基板21はノッチまたはオリフラ212がメサ構造211の長手方向の面が向き合う様に設けられている。そのためノッチまたはオリフラ212が90°と270°の位置にある時、長手方向の面とターゲットが対向する状態となる。
【0057】
本実施形態に係る装置を用いたスパッタリング方法の一例では、図5図6、および下記式(1)に示すように、基板の回転位相θに対し、基板の回転速度yが正弦波となるように、回転速度を制御する。
【0058】
y=Asin(2(θ−α))+B ・・・(1)
A=a・B ・・・(2)
【0059】
すなわち、本発明の回転制御手段としてのホルダ回転制御部51は、上記式(1)に基づいて、基板21の回転角θの2倍周期正弦波関数として回転速度を算出する。ここで、Aは回転速度の振幅であり、式(2)に示すように、基準速度Bに変動率aを乗じたものである。αは位相差であり、変動率aと位相差αを変えることによって、メサ構造の側面の膜厚分布を最適化することができる。なお、基板の回転位相θの範囲は0°≦θ<360°である。
【0060】
図6の例では、基準速度Bを30rpmに設定し、変動率aを0.3とし、位相差αを45°とした時の基板回転位相θに対する基板回転速度yを示している。この場合、基板21のノッチまたはオリフラ212が0°および180°の位置にある時に基板回転数(回転速度)が最も遅くなり、90°および270°の位置にある時に最も速くなることを意味する。
【0061】
逆に基板21のノッチまたはオリフラ212が0°および180°の位置にある時に基板回転数が最も速くなり、90°および270°の位置にある時に最も遅くなるようにするためには、位相差αを−45°または45°に設定すれば良い。この場合は、例えば、図2に示すメサ構造211の長手方向と直交する方向に沿った2つの対向する側面が被処理面となる。
【0062】
本実施形態では、メサ構造211の側面211a、211bがメサ構造211の被処理面となる。従って、ホルダ回転制御部51は、回転角θが0°および180°になるとき、すなわち、成膜対象のターゲット400の中心と基板ホルダ22の回転中心とを結ぶ線分を含み、かつ基板ホルダ22の基板支持面(基板21の基板処理面)に対して垂直な平面Aに対して、メサ構造211の長手方向が平行となる場合(以降、“第1の回転状態”とも呼ぶ)に、回転速度が最も遅くなるように駆動信号を生成している。一方、ホルダ回転制御部51は、回転角θが90°および270°になるとき、すなわち、上記平面Aに対して、メサ構造211の長手方向が垂直となる場合(以降、“第2の回転状態”とも呼ぶ)に、回転速度が最も速くなるように駆動信号を生成している。
【0063】
本実施形態において、基板21上のあるメサ構造211に着目する。第2の回転状態のうち、回転角θが90°であり、基板21の外側の面である側面211aがターゲット400と対向する場合、基板21の中心側の面である側面211bがターゲット400から隠れることになる。このとき側面211bへの成膜も多少はあるが、側面211aへの成膜が支配的になる。一方、第2の回転状態のうち、回転角θが270°の場合、第2の面である側面211bがターゲット400と対向し、第1の面である側面211aがターゲット400から隠れることになる。このとき側面211aへの成膜も多少はあるが、側面211bへの成膜が支配的になる。
【0064】
この時、回転角θ=90°の場合の成膜が支配的になる側面211aとターゲット400との第1の距離が、回転角θ=270°の場合の成膜が支配になる側面211bとターゲット400との第2の距離よりも短くなる。従って、ターゲット400からのスパッタ粒子の放出量が一定の場合、回転角θ=90°のときに側面211aに形成される膜厚は、回転角θ=270°のときに側面211bに形成される膜厚よりも厚くなる。この事について、回転角θ=0°のときに基板ホルダ22の中心を通り回転角θの90°→270°のラインに配置されたメサ構造以外のメサ構造について同様のことが言える。
【0065】
従って、本実施形態では、第2の回転状態における基板21の回転速度をなるべく速くするように基板ホルダ22の回転を制御することにより、側面211aと側面211bとの膜厚のバラツキの大きな原因となる第2の回転状態での成膜をなるべく少なくするようにしている。
【0066】
一方、第1の回転状態の場合、メサ構造211の長手方向が上記平面Aに対して平行となっている。この時、側面211a及び側面211bと平行であり且つ基板21の面内方向に平行である方向側にターゲット400が位置することになる。従って、側面211aおよび側面211bは、ターゲット400に対して同様に臨むことになる。よって、側面211aとターゲット400との間の距離および側面211bとターゲット400との間の距離をほぼ同一にすることができ、側面211aおよび側面211bとの間の膜厚のバラツキを低減して成膜を行うことができる。このように、第1の回転状態での成膜をなるべく多くすることにより側面211aと側面211bとの間でより膜厚の均一性に優れた成膜を行うことが出来る。本実施形態では、第1の回転状態における基板21の回転速度をなるべく遅くするように基板ホルダ22の回転を制御している。
【0067】
このとき、4つの外壁面を有するメサ構造211を有する基板21を1回転する間に、第1の状態および第2の状態は2回ずつ現れる。従って、ホルダ回転制御部51は、基板ホルダ22が1回転する間に、極大値と極小値が2回ずつ生じる正弦波関数(回転速度の正弦波が2周期進行する正弦波関数)、すなわち、式(1)および図6に示すような回転角θと基板の回転速度(基板ホルダ22の回転速度)yとの関係式に従って基板ホルダ22の回転を制御することが好ましい。
【0068】
本実施形態では、図6に示す制御マップを制御装置50が有するROMといったメモリに予め格納しておけば良い。このように、本実施形態では、上記制御マップを予めメモリに格納しておく。よって、目標速度算出部51aは、位置センサ23から基板21の回転位置に関する情報を受信すると、上記メモリに格納された図6に示す制御マップを参照し、現在の基板21の回転角θに対応する回転速度を抽出し、目標回転速度を取得し、該取得された目標回転速度を駆動信号生成部51bに出力する。従って、回転角θが0°、180°といった第1の回転状態のときには基板21の回転速度を最も遅く制御でき、かつ回転角θが90°、270°といった第2の回転状態のときには基板21の回転速度を最も速く制御することができる。
【0069】
本実施形態では、このように、第2の回転状態よりも第1の回転状態での成膜を支配的にすることにより、あるメサ構造において、第1の面(側面211a)と第2の面(側面211b)との間の膜厚の不均一要因となる成膜の影響を小さくし、上記第1の面と第2の面との間で膜厚がより均一となるような成膜の影響を大きくすることができる。
【0070】
このように、本実施形態で重要なことは、第1の面と第2の面とにおける膜厚のバラツキの原因となる、第2の回転状態での成膜よりも、第1の回転状態での成膜を支配的にすることである。従って、ホルダ回転制御部51が、第1の回転状態における基板21の回転速度を、第2の回転状態における基板21の回転速度よりも小さくなるように基板ホルダ22の回転を制御しさえすれば、第1の回転状態での成膜を第2の回転状態での成膜よりも支配的にすることができ、本発明の効果を得ることができる。
【0071】
なお、上述においては、基板21に形成された凹凸構造としてメサ構造211について説明したが、上記凹凸構造は基板21の処理面に形成されたトレンチ構造、V溝であっても良い。このようなトレンチ構造、V溝としては、例えば、開口部が長方形を成して掘られ、長手方向が平行であるトレンチ構造、V溝等が挙げられる。また、トレンチ構造の一例としては、開口部から底面に向って間口が狭まっている逆台形構造であっても良い。
【0072】
このように、凹凸構造としてトレンチ構造やV溝を用いる場合は、ホルダ回転制御部51は、被処理面となる2つの互いに対向する内壁面(例えば、トレンチ構造やV溝の長手方向に平行な2つの内壁面)に平行な方向が、上記平面Aと平行となるときに、基板ホルダ22の回転が相対的に遅くなるように(好ましくは、回転速度が最小値となるように)基板ホルダ22の回転を制御する。また、ホルダ回転制御部51は、上記平面Aに対して、トレンチ構造やV溝の4つの内壁面のうち、被処理面となる2つの互いに対向する内壁面が垂直となるときに、基板ホルダ22の回転が相対的に早くなるように(好ましくは、回転速度が最大値となるように)基板ホルダ22の回転を制御する。
【0073】
このように、本実施形態では、凹凸構造がメサ構造、トレンチ構造、V溝、後述の波形凹凸構造に依らず凹状または凸状の構造を有する場合、ホルダ回転制御部51は、基板21の凹凸構造の側面に平行であり、且つ基板処理面の面内方向に平行である方向(以下第1の方向とも言う)に成膜対象のターゲット400が位置する際(上述した第1の回転状態に相当)には基板21の回転速度が相対的に遅くなるように回転駆動機構60を制御する。逆に、第1の方向に対して垂直であり、且つ基板処理面の面内方向に平行である方向(以下第2の方向とも呼ぶ)側に成膜対象のターゲット400が位置する際(上述した第2の回転状態に相当)には基板21の回転速度が相対的に速くなるように回転駆動機構60を制御している。
【0074】
従って、基板の斜め上方にターゲットを配置し、基板を回転させながら成膜を行う場合において、凹凸構造の第1の面と第2の面とにおける膜厚のバラツキに大きく寄与する状況での成膜の割合を少なく、かつ上記第1の面と第2の面とにおける膜厚のバラツキにあまり寄与しない状況での成膜の割合を多くすることができる。よって、第1の面に成膜された膜厚と第2の面に成膜された膜厚との均一性を向上させることができる。
【0075】
次に本実施形態の実施例について図面を用いて説明する。
【0076】
(実施例1)
本実施形態に係るスパッタリング装置1を用いて基板上に凹凸構造がある場合の膜厚分布を調べた。なお膜厚分布は、基板面内の膜厚の最大値と最小値から次式によって求めた。
(最大値−最小値)/(最大値+最小値)×100(%) ・・・(3)
図7Aは本実施形態の効果を検証するのに用いたメサ構造付きの基板の概略図を示している。また図7Bは、図7Aに示すメサ構造211のA−A’線断面図である。直径200mmのシリコン(Si)基板である基板21の中心と、中心からノッチ212a方向を含む4方向に75mmだけ離れた点に、底面寸法が4×2μmの長方形を成したメサ構造211が形成されている。各メサ構造211は、長方形の長手方向が基板中心とノッチ212aを含む直線に対して垂直になるように配置されている。このようなメサ構造211において長手方向に沿った2つ側面のうち、ノッチ側側面(側面212a)とその逆側側面(側面212b)にそれぞれ均一に薄膜を成膜することを目的とする。なお、本実施例ではノッチ側側面および逆側側面の基板の処理面21aに対する傾斜角はともに35°のものを用いた。
【0077】
本実施形態の効果を確認するために、以下に説明するA、B、Cの3つの条件について比較した。
条件A.基板21の回転速度(基板ホルダ22)を30rpm一定とした場合。つまり、前述の式(1)および式(2)において、a=0、B=30とした場合。
条件B.基板21(基板ホルダ22)が1回転する間に正弦波の周期が1周期だけ進行する場合。具体的には、式(1)を
y=Asin(θ−α)+B ・・・(4)
のように変形する。変動率aおよび基準回転速度Bは、それぞれ、0.1、30とし、このとき式(2)より、A=3となる。αは最適値の90°とした。
条件C.基板21(基板ホルダ22)が1回転する間に正弦波の周期が2周期進行する場合(本実施形態)において、上記条件Bと同様にa=0.1、B=30、A=3とした。αは最適値の45°とした。その他の成膜条件では、スパッタリングターゲットとして直径164mmのCuターゲットを用い、基板の法線に対するターゲットの法線の傾斜角を30°、T/S距離を240mm、ターゲットに供給する電力を直流200W、導入するArガス流量を30sccmとした。このような条件で、直径200mmの基板上にCu薄膜を25nm堆積させた。
【0078】
上記条件A、B、Cに対する、基板21の回転位相θに対する基板回転速度yのグラフを図8に示す。図8において、符号81は上記条件Aに対するプロットであり、符号82は上記条件Bに対するプロットであり、符号83は上記条件Cに対するプロットである。条件Cにおいて、αが45°というのは、式(1)より基板の回転位相に対する位相差は2αであるから、実質的には90°の位相差となる。この時、基板回転位相θが90°および270°の位置にある時に基板回転数(回転速度)が最大値33rpmをとり、0°および180°の位置にある時に最小値27rpmをとる。すなわち、メサ構造211の目的の側面211a、211bが延在する方向であるメサ構造211の長手方向が、ターゲットの中心と基板ホルダ22の回転中心とを結ぶ線分を含み、かつ基板処理面に対して垂直な平面に対して、垂直となるとき回転速度が最大となる。また、側面211a、211bの双方に平行な方向が、該平面に対して平行となるとき回転速度が最小となる。
【0079】
表1は、上記条件A〜Cにより成膜した場合の、基板21上にある5つのメサ構造211のノッチ側側面(側面211b)と逆側側面(側面211a)の膜厚の最大値と最小値および式(3)から求められる膜厚分布の測定結果を一覧表にしたものである。
基板回転制御を行わない条件Aの場合、±3.3%の分布であった。それに対して、基板が1回転する間に正弦波の周期が1周期だけ進行するような基板回転制御を行った条件Bの場合では、位相差αが90°の時に最適値を得たが、条件Aの場合と全く同じ膜厚分布となった。これらに対して、本実施形態を適用した条件Cの場合、位相差αは最適値が45°の時に最適値を得ることができ、その時の膜厚分布は±2.7%であった。回転制御しない条件Aおよび従来の回転制御方法を用いた条件Bと比較して、最も膜厚分布の良い値が得られた。
【0080】
【表1】
【0081】
(実施例2)
実施例1の条件Cにおいて、位相差αを最適値の45°に固定したまま、変動率aを0.1から0.7まで試した。膜厚分布の測定結果を表2に示す。本実施例に対してはa=0.5で膜厚分布が最も良くなることがわかった。
【0082】
【表2】
【0083】
(実施例3)
実施例1及び2において基板の処理面側の凹凸構造が、図9A、9Bに示すようにトレンチ構造111であっても本実施形態の2倍周期正弦波関数を用いて基板回転数を制御することによってトレンチ構造111内における膜厚分布の改善効果が期待できる。
【0084】
図9A、9Bにおいて、内壁面111aが基板21の外側の第1の面であり、内壁面111bが基板21の中心側の第2の面であり、これら2つの面を被処理面とする。本実施例では、ホルダ回転制御部51は、上記平面Aに対して、トレンチ構造111の長手方向が平行になるとき、回転ホルダ22の回転速度が相対的に小さく(好ましくは、最小値)なるように、回転駆動機構60を制御して、基板ホルダ22の回転を制御する。さらには、ホルダ回転制御部51は、上記平面Aに対して、トレンチ構造111の長手方向bが垂直になるとき、回転ホルダ22の回転速度が相対的に大きく(好ましくは、最大値)なるように、回転駆動機構60を制御して、基板ホルダ22の回転を制御する。
【0085】
(実施例4)
本実施例では、基板21の処理面側の凹凸構造が、図10A、10Bに示すように、基板21の基板処理面123の全面または一部分がその断面が周期的に波形となる凹凸構造(以下、“波形凹凸構造”とも呼ぶ)を成している。本実施例では、図10A、10Bに示すように、各波形凹凸構造の稜線121および谷線122が略平行に揃っている時、本実施形態の2倍周期正弦波関数を用いて基板回転数(回転速度)を制御することによって基板面内における膜厚分布の改善効果が期待できる。なお、図10A、10Bにおいて、符号124は、基板21の裏面である。
【0086】
(実施例5)
実施例4において、波形凹凸構造の断面波形が図11A〜11Dに示すような正弦波形、矩形波形、三角波形または台形波形の群から選ばれる1つまたは2つ以上の波形であっても、本実施形態の2倍周期正弦波関数を用いて基板回転数を制御することによって基板面内における膜厚分布の改善効果が期待できる。
【0087】
実施例4及び5においては、ホルダ回転制御部51は、上記平面Aに対して、波形凹凸構造の稜線および谷線が平行になるとき、回転ホルダ22の回転速度が相対的に小さく(好ましくは、最小値)なるように、回転駆動機構60を制御して、基板ホルダ22の回転を制御する。さらには、ホルダ回転制御部51は、上記平面Aに対して上記稜線および谷線が垂直になるとき、回転ホルダ22の回転速度が相対的に大きく(好ましくは、最大値)なるように、回転駆動機構60を制御して、基板ホルダ22の回転を制御する。
【0088】
(実施例6)
図12は本実施形態に係る基板21上のメサ構造の例としてハードディスクドライブ(HDD)用磁気ヘッドに用いられるTMR素子131を示す説明図である。ここで、TMR素子とは、磁気効果素子(TMR(Tunneling Magneto resistance:トンネル磁気抵抗効果)素子)である。
【0089】
図12に示すように、TMR素子131の基本層構成は、磁化固定層、トンネルバリア層及び磁化自由層を有する磁気トンネルジャンクション部分(MTJ部分)を含む。例えば、磁化固定層は強磁性材料、トンネルバリア層は金属酸化物(酸化マグネシウム、アルミナなど)絶縁材料、および磁化自由層は強磁性材料からなっている。上記TMR素子131は、基板21上に形成された下部電極132上に形成されている。
【0090】
TMR素子131は、トンネルバリア層の両側の強磁性層の間に所要電圧を印加して一定電流を流した状態において、外部磁場を掛け、上記両側の強磁性層の磁化の向きが平行で同じであるとき(「平行状態」という)、TMR素子の電気抵抗は最小になる。また、上記両側の強磁性層の磁化の向きが平行で反対であるとき(「反平行状態」という)、TMR素子131の電気抵抗は最大になるという特性を有する。これら両側の強磁性層のうち、磁化固定層は磁化を固定するとともに、磁化自由層は書き込み用の外部磁場の印加により磁化方向が反転可能な状態に形成される。なお、磁化固定層としては、例えば、Co、Fe、Niなどの強磁性材料を主成分として含み、これらに適宜Bなどの材料を添加したものを用いることができる。
【0091】
前述のTMR素子131はスパッタリングなどの成膜方法によって平坦な基板面上に成膜され、イオンミリング法や反応性エッチング法などによりメサ形状に加工される。その後、スパッタリングなどの成膜方法によって側壁面(図2においては、メサ構造211の側面211a、側面211b)に絶縁膜133、金属膜134、磁性膜135、金属膜136が成膜される。この時、側壁面に成膜すべき上述の各膜の膜厚はメサ形状の両側壁面で均一であることが望ましい。さらに基板面上の全面に規則配列したメサ構造としてのTMR素子間においてもその膜厚が均一であることが望ましい。そこで本実施形態のスパッタリング装置および成膜方法を用いることによって前述の膜厚の均一性を向上させることができる。
【0092】
(第2の実施形態)
上述のように、第1の実施形態では、ターゲットから放出されるスパッタ粒子の放出量を一定に保ちつつ、基板(基板ホルダ)の回転速度を、第1の回転状態と第2の回転状態とで異なるように制御している。しかしながら、該基板(基板ホルダ)の回転方式を、連続回転としても良いし、非連続パルス回転としても良い。本実施形態では、該非連続パルス回転の形態について説明する。
【0093】
図13Aは、第1の実施形態に係る、基板回転の回転速度を制御する場合の、連続で基板(基板ホルダ)を回転する場合についての説明図である。図13Bは、本実施形態に係る、基板回転の回転速度を制御する場合の、非連続で基板(基板ホルダ)を回転する場合についての説明図である。
【0094】
基板21(基板ホルダ22)の回転を連続的に行う場合は、ホルダ回転制御部51は、図13Aに示すように、式(1)に従って基板21が一回転(1周期)する間に該基板21の回転速度を2周期変調させるように、基板21の回転速度(角速度ω)を連続的に変化させるように駆動信号を生成する。すなわち、ホルダ回転制御部51は、基板21が連続的に回転するように基板ホルダ22の回転を制御する。なお、図13Aにおいて、fは、ターゲットからのスパッタ粒子の基準放出量であり、ωは基準角速度である。
【0095】
一方、基板21(基板ホルダ22)の回転を非連続的(クロック状)に行う場合は、ホルダ回転制御部51は、回転停止時間sを図13Bに示すように制御する。すなわち、ホルダ回転制御部51は、例えば、基板21が所定の複数の回転角ではその回転を停止し、それ以外の回転角では一定の角速度(回転速度)で基板ホルダ22の回転部が回転するように該基板ホルダ22の回転を制御する。このような制御により、基板21が非連続的に回転するように基板21の回転速度は制御される。なお、ホルダ回転制御部51は、基板ホルダ22の回転部の回転速度は上述のように一定であって良いし、変化させても良い。ここで、縦軸に回転速度(角速度ω)を、横軸に時間tをとる場合の、角速度が0になっている時間を、“回転停止時間s”と呼ぶことにする。すなわち、回転停止時間sとは、基板ホルダ22を非連続に回転させる場合の、基板ホルダ22の回転を停止している時間を指す。sは、基準回転停止時間である。
【0096】
本実施形態では、上記平面Aに対して、凹凸構造の被処理面が平行になる場合を長くし、該被処理面が垂直になる場合を短くすることが本質である。上述のように、本実施形態では、基板21(基板ホルダ22)を一回転させる間に、第1の回転状態と第2の回転状態とは2回ずつ現れる。よって、本実施形態では、基板21(基板ホルダ22)を1回転(1周期)する間に、基板21(基板ホルダ22)の停止時間を正弦的に2周期変調させる。従って、凹凸構造の側面に平行であり且つ基板処理面の面内方向に平行である方向側にターゲットが位置する場合では回転停止時間を相対的に長く(好ましくは最も長く)、上記方向側に垂直であり且つ基板処理面の面内方向に平行である方向側にターゲットが位置する場合では回転停止時間を相対的に短く(好ましくは最も短く)することが出来る。
【0097】
図2に示すメサ構造211の側面211a、211bが被処理面である場合は、回転角θ=0°、180°の時に側面211a、211bが基板処理面の面内方向に延在する方向側にターゲットが位置することになる。また、回転角θ=90°、270°の時に上記延在方向側と基板21の回転に沿って垂直方向側にターゲットが位置することになる。よって、ホルダ回転制御部51は、図13Bに示すように、回転角θ=0°、180°のときに回転停止時間sが相対的に長くなり、回転角θ=90°、270°のときに回転停止時間sが相対的に短くなるように、駆動信号を生成すれば良い。
【0098】
(第3の実施形態)
第1及び第2の実施形態では、基板ホルダ22の回転速度を制御する形態について説明したが、本実施形態では、カソードユニット40への投入電力(投入パワー)を制御することによって、基板へのスパッタ粒子の飛来量を制御し、凹凸構造における被処理面間の膜厚の均一化を図る。
【0099】
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、基板ホルダ22が回転する場合において、凹凸構造の側面に平行であり且つ基板処理面の面内方向に平行である方向側にターゲットが位置する場合の成膜の割合を相対的に多くし、上記方向側と基板の回転に沿って垂直方向側にターゲットが位置する場合の成膜の割合を相対的に少なくすることが大きな特徴である。
【0100】
図14は、本実施形態に係る制御装置50のブロック図である。本実施形態では、制御装置50は、位置センサ23の検出した回転位置に応じて、カソードユニット40へのパワー(電力)を調整する電力制御手段としてのカソードパワー制御部141を備える。カソードパワー制御部141は、目標パワー算出部141aと、出力信号生成部141bと、を備え、基板21の回転位置と放電中のカソードユニット40との位置関係に基づいて、基板の回転位置に応じてカソードユニット40へのパワー(電力)を制御する機能を有する。
【0101】
制御装置50は、位置センサ23から、基板ホルダ22の回転位置に関する情報を受信するように構成されている。制御装置50が上記回転位置に関する情報を受信すると、目標パワー算出部141aは、基板ホルダ22の回転位置を検知する位置センサ23から入力する基板ホルダ22の現在の回転位置の値に基づいて、当該位置における目標パワー(目標電力)を算出する。この目標パワーの値は、例えば、基板ホルダ22の回転位置と、目標パワーと、の対応関係を予めマップとして制御装置50が備えるメモリ等に保持しておくことで、演算可能である。出力信号生成部141bは、目標パワー算出部141aにより算出された目標パワーに基づき、当該目標パワーとするための出力信号を生成し、放電用電源70に出力する。制御装置50は、出力信号生成部141bにて生成された上記出力信号を放電用電源70に送信するように構成されている。
【0102】
なお、図14の例では、放電用電源70は、カソードユニット40に放電用パワー(放電用電力)を供給するパワー出力部71と、目標値と位置センサ23から出力される実値(回転位置や回転速度)との偏差に基づきパワー出力部71の操作値を決定するフィードバック制御部72と、を備える。しかし、フィードバック制御は本発明の必須の構成ではない。
【0103】
以下、凹凸構造として図2に示すメサ構造211を用い、側面211a、211bがメサ構造211の、スパッタリングに対する被処理面である場合を例に挙げて、本実施形態の処理を説明する。なお、本実施形態では、基板ホルダ22の回転速度を一定とする。
【0104】
本実施形態では、回転ホルダ22が一定の回転速度で回転している場合において、上記第1の回転状態での基板21(基板ホルダ22)へのスパッタ粒子の飛来量を、上記第2の回転状態での基板21へのスパッタ粒子の飛来量を多くするように、カソードユニット40へと供給される放電用パワーを制御する。従って、メサ構造212の被処理面である側面211a、211bがカソードに対向する際においては、該側面211a、211bに到達するスパッタ粒子の量が少なくなるので、側面211aと側面211bとに形成される膜の厚さのバラツキを抑えることができる。一方、側面211a、211bがカソードに対向する位置から90°回転する場合においては、該側面211a、211bに到達するスパッタ粒子の量が多くなるので、側面211aおよび側面211bがターゲットに対して同様に臨む場合の成膜の割合を多くすることができる。よって、側面211aの膜厚と側面211bの膜厚とを不均一にする要因となる成膜を低減し、側面211aおよび側面211bの膜厚の均一化に大きく寄与する成膜を支配的にすることができ、側面211aおよび側面211bの間の膜厚のバラツキを低減することができる。
【0105】
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、基板ホルダの回転方式は、連続回転であっても良いし、非連続パルス回転であっても良い。
【0106】
図15Aは、本実施形態に係る、カソードへの投入電力を制御する場合の、連続で基板(基板ホルダ)を回転する場合についての説明図である。図15Bは、本実施形態に係る、カソードへの投入電力を制御する場合の、非連続で基板(基板ホルダ)を回転する場合についての説明図である。
【0107】
本実施形態では、カソードパワー制御部141は、式(1)と同様の2倍周期正弦波関数を用いて、基板21の回転角θに応じた放電用パワーを算出することができる。すなわち、カソードパワー制御部141は、基板21(基板ホルダ22)が1回転(1周期)する間に、カソードユニット40への投入パワー(投入電力)を2周期変調させるように、カソードユニット40への投入パワーを連続的に変化させるように出力信号を生成する。例えば、カソードパワー制御部141は、図15A、15Bに示すように、第1の回転状態である回転角θ=0°、180°のときに成膜対象となるカソードユニットへと供給されるパワー(電力)を最大値にすることによりスパッタ粒子放出量fが最大になり、第2の回転状態である回転角θ=90°、270°のときに上記パワーを最小値にすることによりスパッタ粒子放出量fが最小になるように、放電用電源70を制御すれば良い。
【0108】
このように本実施形態では、カソードパワー制御部141は、第1の回転状態における成膜対象のカソードユニットへの供給電力を、第2の回転状態における成膜対象のカソードユニットへの供給電力よりも大きくなるように、放電用電源70を制御して、成膜対象のカソードユニットへと供給される電力を制御する。
【0109】
なお、本発明の一実施形態では、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【0110】
例えば、図16に示すスパッタリング装置100は、図1に示すスパッタリング装置1において複数のカソードユニット40を六角柱形状を成した1つのカソードユニット101に置き換えている。カソードユニット101は、柱軸101a周りに回転可能に構成されており、カソードユニット101の各側面にターゲット102を1つずつ配置可能である。カソードユニット101は、上記各側面に配置された各ターゲット102に対して個々に電圧を印加可能に構成されている。このような構成において、スパッタリング装置100は、柱軸101aまわりに回転することによって所望のターゲットを選択することができる。それに応じて、放電用ガス導入系41を真空チャンバ10の側面のカソードユニット101の近傍に移動させている。スパッタリング装置100は、カソードユニット101を順次または交互に回転することによって、基板21上に積層膜を成膜することができる。
【0111】
また、図17に示すスパッタリング装置は、図16に示すスパッタリング装置100における六角柱形状を成したカソードユニット101からカソード機能を取り除いた、単なる多角柱構造のターゲットホルダ201を備える。さらに、図17に示すスパッタリング装置では、ターゲットホルダ201を設けることによってカソードユニットを無くし、その代わりにイオンビーム源202を真空チャンバ10の底面に配置している。イオンビーム源202から加速されたイオンビームは六角柱形状を成したターゲットホルダ201の側面に配置されたターゲット102に入射してターゲット表面をスパッタする。それによって、ターゲット表面から飛び出したスパッタ粒子が基板ホルダ22上の基板21に堆積する。六角柱形状を成したターゲットホルダを柱軸まわりに回転させることによって所望のターゲットを選択することができる。この時、放電用ガス導入系41はイオンビーム源に配置し、放電用ガスがイオンビーム源202の中に導入されるよう考慮されている。スパッタリング装置200は、ターゲットホルダ201を順次または交互に回転することによって、基板21に積層膜を成膜することができる。
【0112】
なお、イオンビーム源202の配置位置は、真空チャンバ10の底面に限らず、スパッタリングターゲット(すなわち、ターゲットホルダ201のスパッタリングターゲット支持面)の斜向かい、かつ基板ホルダ22とは別個に位置であればいずれの場所に配置しても良い。
【0113】
本発明の一実施形態は、例示したHDD用磁気ヘッドのみならず、HDD用磁気記録媒体、磁気センサ、薄膜太陽電池、発行素子、圧電素子、半導体の配線形成など、多方面に利用可能である。
【0114】
(その他の実施形態)
本発明の一実施形態では、第1の実施形態の基板の回転速度を制御する形態と、第2の実施形態のカソードユニットへの投入パワーを制御する形態との双方を行っても良い。この場合は、制御装置50が、ホルダ回転制御部51およびカソードパワー制御部141の双方を含むように制御装置50を構成すれば良い。
【0115】
また本発明の一実施形態では、制御装置50は、スパッタリング装置が備える基板ホルダの回転駆動機構や放電用電源を制御することができれば、該スパッタリング装置に内蔵されても良いし、LAN等によるローカルな接続、または、インターネットといったWANによる接続を介して、スパッタリング装置と別個に設けても良い。
【0116】
また、前述した実施形態の機能を実現するように前述した実施形態の構成を動作させるプログラムを記憶媒体に記憶させ、該記憶媒体に記憶されたプログラムをコードとして読み出し、コンピュータにおいて実行する処理方法も上述の実施形態の範疇に含まれる。即ちコンピュータ読み取り可能な記憶媒体も実施例の範囲に含まれる。また、前述のコンピュータプログラムが記憶された記憶媒体はもちろんそのコンピュータプログラム自体も上述の実施形態に含まれる。
【0117】
かかる記憶媒体としてはたとえばフロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、磁気テープ、不揮発性メモリカード、ROMを用いることができる。
【0118】
また前述の記憶媒体に記憶されたプログラム単体で処理を実行しているものに限らず、他のソフトウエア、拡張ボードの機能と共同して、OS上で動作し前述の実施形態の動作を実行するものも前述した実施形態の範疇に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図11C
図11D
図12
図13A
図13B
図14
図15A
図15B
図16
図17
図18
図19