(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記電界変成器が、1/4λg’の奇数倍の大きさの幅で、且つ、前記加熱室の終端部側の面が前記マイクロ波の定在波の節の位置となるように設置されていることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波加熱装置。
前記電界変成器が、1/4λg’の奇数倍の大きさの幅で、且つ、前記加熱室の終端部側の面が前記マイクロ波の定在波の節の位置となるように設置されていることを特徴とする請求項5に記載のマイクロ波加熱装置。
前記搬送部材は、第1部材及び第2部材からなる一対の部材を含んで構成され、前記被加熱体の一方の面が前記第1部材に接触し、他方の面が前記第2部材に接触した状態で、前記第1部材及び前記第2部材の双方が同一の速度で移動することで、前記被加熱体が前記搬送部材に挟まれた状態で前記開口部を前記非平行方向の向きに通過することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のマイクロ波加熱装置。
前記搬送部材は、第1部材及び第2部材からなる一対の部材を含んで構成され、前記被加熱体の面のうちトナーが付着している側の面が前記第1部材に接触し、他方の面が前記第2部材に接触した状態で、前記第2部材は移動せずに前記第1部材が移動することで、前記被加熱体が前記搬送部材に挟まれた状態で前記開口部を前記非平行方向の向きに通過することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のマイクロ波加熱装置。
前記搬送部材の前記第1部材及び前記第2部材をベルト状に構成し、前記第1部材を循環移動させる第1送りローラと、前記第2部材を循環させる第2送りローラを互いに対向して備え、
前記第1送りローラ及び前記第2送りローラのうち、一方のローラ周面をクラウン形状とし、他方のローラ周面を逆クラウン形状としたことを特徴とする請求項7に記載のマイクロ波加熱装置。
【発明を実施するための形態】
【0041】
〔第1実施形態〕
本発明のマイクロ波加熱装置の第1実施形態について説明する。
【0042】
[全体構成]
図1は、本発明に係るマイクロ波加熱装置の模式的構成図であり、一の側面から見た状態を示している。
図1に示されるマイクロ波加熱装置1は、マグネトロン等で構成されるマイクロ波発生部3と、マイクロ波によって加熱対象物を加熱させるための加熱室5の間の位置に、整合器7を設けている。また、本実施形態においては、マイクロ波発生部3と整合器7の間にアイソレータ4を設けている。アイソレータ4は、整合器7からマイクロ波発生部3側の方向にマイクロ波が反射した場合に、当該反射されたマイクロ波の電力を熱エネルギーに変換して、マイクロ波発生部3を安定的に動作させるための保護機器である。ただし、本発明の装置において、アイソレータ4は常に必要な構成というわけではない。
【0043】
また、
図1に示すように、加熱室5の最も下流側は導体(短絡板)によって終端されている(5a)。なお、この終端部5aも加熱室5と同じ金属材料で構成されているものとして構わない。
【0044】
マイクロ波発生部3から整合器7までの間、及び整合器7から加熱室5までの間は、いずれも導電性材料(金属など)の筒状の枠体で連結されており、発生したマイクロ波を閉じ込めることができる構成となっている。ただし、加熱室5には後述のスリット6(「開口部」に対応)が設けられている。
【0045】
本実施形態では、
図23A及び
図23Bで示した従来構成と同様に、加熱室5内に用紙(「被加熱体」に相当)を通過させるためのスリット6を備えている。そして、この用紙が、
図1の紙面上奥から手前に向かって矢印d1の向きに通過する。すなわち、加熱室5は、
図1の紙面奥側の側面にも、スリット6に対向する位置に同様のスリットが設けられている。そして、奥側の側面に設けられたスリットより加熱室5内に進入してきた用紙が、加熱室5内において加熱された後、手前側の側面に設けられたスリット6より加熱室5の外へと排出される。この用紙には面上にトナー粒子が付着しており、加熱室5内において加熱されることで、付着されたトナーが用紙に定着される。
【0046】
[加熱室及び搬送部材の構成]
本実施形態では、後述するように、用紙をスリット6に沿って移動させるための搬送部材が設けられている。この搬送部材は、加熱室5の周囲を循環して移動するように構成されている。搬送部材の構造については、
図2を参照して後述される。
【0047】
図2は、搬送部材及び加熱室の構成を示す模式的な斜視図である。なお、
図2では説明の都合上、加熱室5の前段に位置する整合器7などの図示を省略している。また、
図2では、スリット6が設けられている箇所で加熱室5を切断した断面構造を示している。また、
図3Aは、
図2をZ方向から見たときの模式的な平面図を示している。
【0048】
加熱室5は、スリット6及びマイクロ波導入口8を所定の面上に設けた状態で、金属などの導体で周囲を覆われた筒形状を有している。つまり、加熱室5は、マイクロ波発生部3から見て最も下流側に位置する、マイクロ波導入口8と対向する面において、導体により短絡されている。加熱室5の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、銀、金などの純度の高い非磁性金属(透磁率が真空の透磁率とほぼ等しい金属)、導電率が高い合金、前記の金属や合金を表皮深さの数倍の厚みを持たせた一層若しくは多層のめっき又は箔又は表面処理(導電性塗料の塗装を含む)を施した金属、真鍮等の合金、又は樹脂が利用可能である。
【0049】
加熱室5は、マイクロ波発生部3側の側面には、マイクロ波を内部に導くための開口部であるマイクロ波導入口8が設けられている。マイクロ波発生部3より出力されたマイクロ波は、矢印d2の向きにマイクロ波導入口8より加熱室5内へと導かれる。以下では、用紙10の進行方向d1の向きをY、マイクロ波の進入方向d2の向きをZ、Y及びZに垂直な上下方向をXと規定する。加熱室5は、Y方向に垂直な面上にスリット6を設け、Z方向に垂直な面にマイクロ波導入口8を設ける。
【0050】
マイクロ波導入口8は、X方向の寸法をaとし、Y方向の寸法をbとする、ほぼ長方形状を有している。
【0051】
なお、本実施形態では、加熱室5内を伝搬するマイクロ波は、基本モード(H10モード、又はTE10モード)であるものとする。
【0052】
ここで、加熱室5の詳細について説明する。加熱室5は、X方向に所定の間隔(例えば5mm程度)を有したスリット6が設けられている。このスリット6内を、搬送部材43、搬送部材53及び用紙10が通過する。スリット6のスリット幅は、これら搬送部材43、搬送部材53、及び用紙10が通過できる範囲で、なるべく狭く形成されるのが好ましい。
【0053】
なお、
図2では、あたかも加熱室5が、スリット6を隔てて上段の5Aと下段の5Bの2つの部品から構成されているように図示されている。しかし、
図2は、スリット6が設けられている領域における加熱室5の断面を図面上に図示したものであって、スリット6が設けられていない領域においては、加熱室5は一体構造となっている。つまり、加熱室5に関して、図示されている領域よりも更にZ方向(紙面奥側)、或いは−Z方向(紙面手前側)だけ進めた箇所においては、スリット6は設けられていないものとしてよい。
【0054】
また、スリット6のZ方向の幅は、搬送部材43、搬送部材53、及び用紙10のZ方向の幅よりも長く設定されている。
【0055】
搬送部材43及び搬送部材53は、薄い平帯形状(ベルト状)を示す、耐熱性を有する低誘電損失材料で構成されている。材料としては、ポリイミド樹脂、PFAを始めとするフッ素樹脂などが利用可能である。搬送部材43及び53は、目標加熱温度(トナーの溶融温度)である150℃程度の耐熱性を有しているのが好ましく、200℃の耐熱性を有しているのがより好ましい。
【0056】
本実施形態では、搬送部材43は、送りローラ45、46、47及び48によって四隅が支持されると共に、この送りローラの回転駆動によってZ方向に見て反時計回りに循環移動するように構成される。一方、搬送部材53は、送りローラ55、56、57及び58によって四隅が支持されると共に、この送りローラの回転駆動によってZ方向に見て時計回りに循環移動するように構成される。両搬送部材の移動速度は同一となるように設定されている。なお、図示していないが、加熱装置1は、これらの送りローラ45〜48、55〜58の回転を駆動するための駆動部を備えている。
【0057】
送りローラ46及び47間、並びに送りローラ55及び58間において、両搬送部材43及び53は同一の速度でY方向に移動する。なお、
図3Bに示すように送りローラ46を金属製とし逆クラウン形状とすると共に、送りローラ55をゴム製としてクラウン形状を与えると、搬送部材43、53が搬送方向と直交する方向へのずれ(いわゆるベルトの「より」)を防止することができる。
図3Bは
図3A内の3B−3B線断面をY方向から見たときの模式図である。送りローラ46,55に代えて、送りローラ47に逆クラウン形状を付与し、送りローラ58にクラウン形状を付与するようにしてもよい。また、クラウン形状にする送りローラと逆クラウン形状にする送りローラを入れ替えても構わない。なお、ここでいう「クラウン形状」とは端に対して中央が凸になった形状を指し、「逆クラウン形状」とは端に対して中央が凹になった形状を指している。
【0058】
搬送部材43と搬送部材53が対向する箇所においては、両搬送部材の表面が接触しているか、ほとんど接触しているに近い状態である。つまり、送りローラ46及び47間に位置する搬送部材43の表面と、送りローラ55及び58間に位置する搬送部材53の表面とは、X方向にほとんど空間を有さない状態である。
【0059】
用紙10が加熱室5に向けて移動し、搬送部材43及び53に接近すると、両搬送部材43及び53がこの用紙10を巻き込んでY方向に用紙10を移動させる。つまり、用紙10は、上面を搬送部材43に、下面を搬送部材53に挟まれた状態でY方向に移動する。そして、このままスリット6を介して加熱室5内へと導かれ、加熱処理が施される。その後、用紙10は、加熱室5の外部へと取り出された後、搬送部材43及び53から離脱する。
【0060】
すなわち、用紙10が加熱室5内を通過する際は、上下の面が共に耐熱性の搬送部材(43,53)によって挟まれており、この搬送部材を介して用紙10が加熱される構成となっている。
【0061】
図4は、加熱室5をマイクロ波の進入方向(d2,Z)から見たときの管内電界分布を示す概念図である。なお、
図4には、加熱室5内に存在する定在波Wの電界強度を概念的に図示している。
【0062】
図4に示されるように、定在波Wのパワーの大小は、加熱室5内の位置に応じて変化する。スリット6は、X方向において最もパワーが大きくなる位置に設けられるのが望ましい。
【0063】
[整合器]
図5は、本実施形態における整合器7の模式的構成図である。本実施形態の整合器7としては、マイクロ波の進入方向d2(Z方向)に平行な2面にそれぞれT字分岐型の突出部を設けた、いわゆるE−H整合器を採用している。すなわち、整合器7は、金属等の導体で周囲を覆われた筒形状の導波管に対し、用紙の進行方向d1及びマイクロ波進入方向d2に平行な側面P1上に第1T分岐路16を、d1に垂直な側面P2上に第2T分岐路17をそれぞれ設けた構成となっている。整合器7の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、銀、金等の純度の高い非磁性金属(透磁率が真空の透磁率とほぼ等しい金属)、導電率が高い合金の他、前記の金属や合金を表皮深さの数倍の厚みを持たせた一層若しくは多層のめっき又は箔又は表面処理(導電性塗料の塗装を含む)を施した金属、真鍮等の合金、又は樹脂が利用可能である。
【0064】
本実施形態のように、マイクロ波発生部3と加熱室5の間にE−H整合器で構成された整合器7を設けたことで、加熱室5内に形成される定在波のパワーを著しく大きくする効果が得られる。より詳細には、入射されたマイクロ波が加熱室5の終端部5aで反射された後、E−H整合器7において当該反射波が加熱室5側に再反射される。これらの反射が幾度となく繰り返されることで、加熱室5内に生じる定在波の電界を大きくすることが可能となる。これにより、マイクロ波発生部3から出力されるマイクロ波のエネルギーを極めて大きくすることなく、トナーを完全に定着させるのに必要な時間を短縮することができた。詳細な結果は実施例にて後述される。
【0065】
[実施例]
以下、本実施形態における実施例及び比較例を説明する。なお後述する第2実施形態以下においても、同様の装置を共通して利用した。
【0066】
・マイクロ波発生部3: マイクロデバイス社(現マイクロ電子社)製の製品を利用した。また発生条件として、出力エネルギーを400Wとし、出力周波数を2.45GHzとした。
・アイソレータ4: マイクロデバイス社(現マイクロ電子社)製の製品を利用した。
・加熱室5: アルミニウム製の導波管にスリット6を設けたものを利用した。
・用紙10: 「中性紙」と称される市販のPPC用紙を利用した。
【0067】
(実施例1−1)
整合器7としてE−H整合器(マイクロデバイス社(現マイクロ電子社)製の製品)を利用し、加熱室5の寸法をa=109.2mm、b=54.6mmとした。なお、下記実施例及び比較例においてE−H整合器を用いる場合には、同じE−H整合器を利用した。
【0068】
(実施例1−2)
整合器7としてE−H整合器を利用し、加熱室5の寸法をa=109.2mm、b=54.6mmとし、電界変成器15として高密度ポリエチレン(誘電率ε
r=2.3)を用いた。より具体的には、加熱室5内において、幅25mmの大きさの高密度ポリエチレンを、終端部5aからの距離が500mmとなる位置から上流側に向けて挿入した。
【0069】
(実施例1−3)
加熱室5の寸法をa=70mm、b=54.6mmとしたほかは実施例1−1と同じ条件とした。ただし、E−H整合器の寸法と加熱室5の寸法が異なるため、整合器7と加熱室5の間をテーパー形状の導波管で接続した。
【0070】
(実施例1−4)
加熱室5の寸法をa=70mm、b=54.6mmとしたほかは実施例1−2と同じ条件とした。ただし、実施例1−3と同様の理由により、整合器7と加熱室5の間をテーパー形状の導波管で接続した。
【0071】
(実施例1−5)
整合器7としてアイリス(マイクロデバイス社(現マイクロ電子社)製の製品)を利用した他は実施例1−1と同一の条件とした。
【0072】
(比較例1−1)
整合器を設置しない他は、実施例1−1と同一の条件とした。
【0073】
上記各条件の下、加熱室5のスリット6に、所定領域にトナーを載せた用紙10をセットし、トナー定着に要する時間を計測すると共に、当該計測された時間に対し前記所定領域の面積とA4(ISO215 A series)用紙の面積の比率を乗じることで、A4用紙にトナーを定着させる時間を測定した。結果を下記表1に示す。
【0074】
なお、上記実施例1−1〜1−5及び比較例1−1においては、用紙を搬送部材43及び53で挟み込まず、単に用紙10をスリット6から加熱室5内を通過された場合について測定したものである。
【0076】
整合器を設置しなかった場合、120(秒)経過後においても、A4用紙にトナーを定着させることは困難であった。これに対し、整合器7を設置した実施例1−1〜1−5においては、いずれも120秒を遥かに下回る時間でトナーが定着している。これにより、整合器7を設置することで、加熱室5内に形成される定在波のパワーを著しく大きくする効果が得られていることが分かる。
【0077】
更に、実施例1−1〜1−5に関し、
図2及び
図3Aのように、用紙を搬送部材43及び53で挟み込んで加熱室5内を通過された場合について、同様の測定を行った。この結果、いずれの実施例についても30%〜60%程度の定着時間の短縮化が図られた。この理由につき、以下で説明する。
【0078】
図6は、搬送部材の有無による加熱程度の相違を説明するための図である。(a)は搬送部材を設けなかった場合、(b)は
図2のように搬送部材を設けた場合を示している。いずれの図においても、用紙10は紙面上右向きに移動するものとしている。また、下段の図は、用紙10の移動と共に紙面温度がどのように変化しているのかを模式的にグラフ化したものである。
【0079】
図6(a)のように、搬送部材を設けない場合、用紙10が加熱室5内の空洞部5bを通過する間、用紙10の表面は空洞部5bの空間内に曝されることとなる。用紙10やその表面に付着しているトナーには水分が含まれており、用紙10が加熱されるとこの水分が水蒸気となって空洞部5b内の空間へと逃げてしまう。このときに奪われる気化熱により、本来用紙10が温度T1に到達するまで加熱されるべきであるのに、実際には温度T2にまでしか上昇しないということが生じてしまう。
【0080】
これに対し、
図6(b)のように、用紙10を搬送部材(43,53)で挟み込んだ場合、用紙10が加熱されて用紙10やトナーに含まれる水分が水蒸気となっても、搬送部材に遮られて空洞部5b内に逃げ出すということがない。このため、
図6(a)の構成よりも、更に加熱効率を高めることが可能となる。
【0081】
[搬送部材の固定方法に関する別形態]
図2及び
図3Aでは、搬送部材43及び53の四隅をそれぞれ送りローラにて固定する構成とした。しかし、搬送部材の固定方法は、この形式に限られるものではない。以下、搬送部材の固定方法に関する別の実施形態につき、説明する。
【0082】
図7A〜
図7Eは搬送部材及び加熱室の別実施形態の構成を示す模式的平面図である。
【0083】
図7Aに示すように、搬送部材43を加熱室5の上面に、搬送部材53を加熱室5の下面にそれぞれ沿わせることで、送りローラを上下それぞれ2つずつ減らすことが可能である。つまり、搬送部材43は、送りローラ46及び47が回転することで紙面上反時計回りに循環移動し、搬送部材53は、送りローラ55及び58が回転することで、紙面上時計回りに循環移動する。
【0084】
無論、搬送部材43を時計回りに循環させ、搬送部材53を反時計回りに循環させる構成としても構わない。
図2及び
図3Aの構成においても同様である。
【0085】
なお、
図7A〜
図7Eにおいて、用紙10上に付着している定着前状態のトナーを50、定着後のトナーを51の符号で付している。
【0086】
図7Bのように、
図7Aにおいて、搬送部材43及び53を移動させるために設けられた送りローラのうちの一つを、固定ガイドで置き換えることも可能である。つまり、搬送部材43は、加熱室5の上面、送りローラ46及び固定ガイド36の周囲を、送りローラ46の回転に連れて循環移動する構成である。同様に、搬送部材53は、加熱室5の下面、送りローラ55及び固定ガイド37の周囲を、送りローラ55の回転に連れて循環移動する構成である。
図3Aや
図7Aの構成と比較して、送りローラの数を減らすことができ、製造コストを抑えることが可能となる。
【0087】
なお、固定ガイド36及び37の形状は任意であり、
図7Bに示すようなR形状を有した構成に限定されるものではない。
【0088】
図3A、
図7A及び
図7Bの構成では、搬送部材43及び53の双方を循環移動させる構成とした。しかし、用紙10の面のうち、トナーが付着する側に位置する搬送部材のみを移動させ、他方の面に接触する部材は移動させない構成としても構わない。
【0089】
図7Cでは、用紙10の上面にトナー50が付着している場合を図示している。この構成に置いて、トナー50が付着している用紙10の面を挟む位置に形成される搬送部材43は、
図3A、
図7A及び
図7Bの構成と同様に、送りローラの回転に連れて循環移動する。これに対し、トナー50が付着していていない面については移動式の搬送部材53を設けず、固定された部材53aを設けておく。なお、部材53aは搬送部材53と同一の材料で構成されているものとしてよい。
【0090】
この構成においても、加熱室5内を通過する用紙10は、搬送部材43及び部材53aによって挟まれており、加熱時に水蒸気が空間に放散されることがない。そして、用紙10のトナー付着面は、移動する搬送部材43と接触する構成であり、固定された部材53aに接触するのはトナーが付着していない側の面である。これにより、万一部材53aと用紙10の面が、用紙10の移動方向にこすれたとしても、トナー自体が紙面上でこすれて正しい位置にトナーが定着しなくなるといった事態は生じない。
【0091】
また、
図7Dは、
図7Cの構成において、更に送りローラ47を固定ガイド36に置き換えたときの構成を示している。さらに、
図7Eに示す別構成例は、固定された部材53bを備える構成である。この固定された部材53bは、加熱室5の外を巻きまわす必要もないため、固定された部材53bの端部を1対のローラ91、91で張力が加わるように巻きつけて、固定された部材53bを支持している。スリット91aは固定された部材53bの端部を挿入して巻きつけ作業を容易とするために設けられている。
【0092】
〔第2実施形態〕
本発明のマイクロ波加熱装置の第2実施形態について説明する。なお、以下の各実施形態では、第1実施形態と異なる箇所のみを説明する。
【0093】
[電界変成器の構造]
図8は、第2実施形態に係るマイクロ波加熱装置の概念的構成図である。なお、以下においては、d2方向に関し、終端部5a側を「下流」、マイクロ波発生部3側を「上流」と称することがある。
【0094】
本実施形態は、第1実施形態と比較して、整合器7より下流側(終端部5a側)に更に電界変成器15を備えた点が異なる。
【0095】
電界変成器15は、誘電率の高い材料で構成されており、本実施形態では高密度ポリエチレン(UHMW)を利用しているが、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂材料、石英、その他の高誘電率材料を利用することができる。また、できるだけ加熱されにくい材料で構成されるのが好ましい。加工容易性並びにコスト面の観点から、実用的には高密度ポリエチレンを用いるのが好適である。
【0096】
電界変成器15は、電界変成器15と同じ誘電体内に形成される定在波の波長(以下において「誘電体内波長」という。)をλg’としたときに、マイクロ波の進入方向d2の向きの幅として、λg’/4の奇数倍(λg’/4,3λg’/4,……)の長さを有する構成である。なお、この電界変成器15の幅をλg’/4の奇数倍とすることで、その挿入効果を最も高めることができるものであるが、後述する関係式を満たすように電界変成器15の幅を設定することで、電界変成器15の挿入効果を得ることができる。
【0097】
なお、マイクロ波発生部3から発生するマイクロ波波長をλ、電界変成器15の誘電率をε’、遮断波長をλc,誘電体内波長をλg’とすると、下記数1が成立する。この関係式により、誘電体内波長λg’を算出することができる。
【0099】
図9に示すように、本実施形態では、この電界変成器15を固定的に設置する。より具体的には、加熱室5内に形成される定在波の節となる位置20に電界変成器15を設置する。更に具体的には、電界変成器15の終端部5a側(下流側)の面が節となる位置20となるように設置する。
【0100】
電界変成器15は、空気よりも誘電率が高いため、当該電界変成器15内を通過する定在波の波長が短くなる。これにより、電界変成器15よりも下流側(終端部5a側)の定在波W’の電界を更に高めることができる。特に電界変成器15の幅Lを下記関係式の範囲内で設定した場合に定在波W’の電界を顕著に高める効果が得られる。なお、下記関係式においてNは自然数である。
【0101】
(関係式)
(4N−3)λg’/8 < L < (4N−1)λg’/8
【0102】
これらの結果は、後述する実施例によって明らかとなる。
【0103】
加熱室5内にマイクロ波の定在波を生じさせる構成においては、終端部5aからのマイクロ波発生部3に向かう方向の距離に応じて電界強度の強い部分(腹)と弱い部分(節)が生じてしまう。そこで、
図9に示すように、特に定在波の節の位置に電界変成器15を設置することで、電界変成器15より下流側の定在波W’の電界強度が高められ、トナーの定着性を更に向上させることが可能となる。
【0104】
つまり、電界変成器15よりも下流側にスリット6を設け、この位置において用紙10を通過させることで、パワーが増大された定在波W’に基づく加熱処理が施されるため、トナー定着時間を短縮化することができる。
【0105】
電界変成器15の設置により、その下流側の電界を高める効果が得られる点については、以下の理論によっても裏付けられる。
【0106】
[理論説明]
長方形導波管の負荷端を
図10Aに示すように、インピーダンスZ
rで終端した場合を想定する。TE
10モードを考え、負荷端における入射電界及び反射電界の振幅をそれぞれE
i,Erで表した場合、導波管のZ軸の各点のE
y及びH
xは以下の数2で表される。なお、
図2におけるa方向がX軸、b方向がY軸、d2方向がZ軸にそれぞれ対応しており、E
yとは電界のY軸成分、H
xとは磁界のX軸成分に相当する。
【0108】
なお、数2において、Z
01は特性インピーダンス、γ
1は伝搬定数である。
【0109】
ここで、
図10Bに示すように、領域Iを大気とし、領域IIにインピーダンスZ
Rとして終端部cで短絡された誘電体が満たされている状況を想定する。領域Iでの入射電界をE
i1、反射電界をE
r1、領域IIでの入射電界をE
i2、反射電界をE
r2とすると、上記数1及びz=0における境界条件より、以下の数3が成立する。
【0111】
ここで、
図10Bにおいて終端部c面は短絡されているため、以下の数4が成立する。なお、領域IIの先頭位置(マイクロ波発生側)のZ座標を0とし、領域IIのZ軸方向の幅をdとしている。
【0113】
上記数4をE
i2について解くと、数5が成立する。
【0115】
上記数5において、損失を無視してその絶対値を取ると、数6が成立する。
【0117】
数6において、β
1gは領域I内における管内波長λ
1gの複素成分(位相定数)、β
2gは領域II内における管内波長λ
2gの複素成分(位相定数)である。また、Kは定数である。
【0118】
数6により、β
2gdがπ/2の奇数倍の場合、領域IIの電界強度は入射電界に等しく、β
2gdがπ/2の偶数倍の場合、領域IIの電界強度は入射電界の1/Kになっている。よって、誘電率が異なる領域の境界面が電界の腹に当たる場合には、その両側での電界強度は等しくなり、節に当たる場合にはそれぞれの領域での位相定数β
gの比に反比例することが分かる。
【0119】
よって、
図10Cのように、基準面aの下流側にλ
2g/4の厚みを有する誘電体で導波管を満たし(領域II)、更にその下流側(領域III)のλ
1g/4の距離の位置に短絡面cを置くと、数7が成立する。なお、E
I, E
II, E
IIIは、それぞれ領域I, II, IIIにおける電界強度を示す。
【0121】
これに、|E
I|=|E
II|の条件を考慮すると、下記数8が成立する。
【0123】
数8により、領域IIIの電界強度は領域Iの電界強度のK倍となることが分かる。つまり、λ
2g/4の厚みを有する誘電体、すなわち電界変成器15を挿入することで、その上流側の電界強度が増幅されて下流側に伝搬することが分かる。
【0124】
なお、領域Iを大気、領域IIを誘電率ε
rの誘電体とすると、定数Kは以下の数9により規定される。
【0126】
[実施例]
図11は、本実施形態における加熱室
5内の電界強度を示すグラフである。横軸は加熱室5内におけるマイクロ波進入方向(Z軸方向)の位置を、縦軸は電界強度をそれぞれ示している。
図11によれば、電界変成器15よりも下流側において、電界強度が大きく上昇していることが分かる。なお、
図11及び以下の
図12A〜
図12Fにおいて、縦軸が示す電界強度は所定の値を基準としたときの相対値(無次元値)である。
【0127】
図12A〜
図12Fは、本実施形態において、電界変成器15の幅を変化させたときの加熱室5内の電界強度を示すグラフである。なお、本実施例では、短絡板の直前に同一幅の誘電体を挿入しているが、これは実験条件を揃えるために行ったものであり、本実施例が示す効果に影響を及ぼすものではない。また、グラフによっては定在波の谷の位置における電界強度の大きさに多少のばらつきがあるが、これは計算誤差の範囲内である。
【0128】
また、
図12Gは、電界変成器15の幅を変化させたときの、電界変成器15の上流側と下流側における電界強度の大きさの比の変化を示すグラフであり、
図12Hはこれを表にしたものである。
【0130】
図12Aでは電界変成器15を挿入していないため、当然に電界変成器15の前後で電界強度が変化するということはない(電界強度=4.2のままである)。
【0131】
電界変成器15の幅を6mm(これは0.06λg’に相当する)とした
図12Bでは、電界変成器15の上流側において電界強度=4.2であったのが、下流側において電界強度=5.3となっており、電界変成器15の前後で電界強度は1.26倍となっている。
【0132】
電界変成器15の幅を13mm(これは0.13λg’に相当する)
図12Cでは、電界変成器15の上流側において電界強度=3.8であったのが、下流側において電界強度=6.8となっており、電界変成器15の前後で電界強度は1.79倍となっている。
【0133】
電界変成器15の幅を25mm(これは0.25λg’に相当する)
図12Dでは、電界変成器15の上流側において電界強度=3.4であったのが、下流側において電界強度=6.2となっており、電界変成器15の前後で電界強度は1.82倍となっている。
【0134】
電界変成器15の幅を37mm(これは0.37λg’に相当する)
図12Eでは、電界変成器15の上流側において電界強度=3.5であったのが、下流側において電界強度=6.0となっており、電界変成器15の前後で電界強度は1.7倍となっている。
【0135】
電界変成器15の幅を44mm(これは0.44λg’に相当する)
図12Fでは、電界変成器15の上流側において電界強度=4.2であったのが、下流側において電界強度=4.5となっており、電界変成器15の前後で電界強度は1.1倍となっている。
【0136】
なお、グラフ上には示していないが、電界変成器15の幅を50mm(これは0.50λg’に相当する)とした場合、電界変成器15の上流側端点と下流側端点が共に定在波の谷の位置となるため、電界変成器15の下流側と上流側で電界強度は変化しない。
【0137】
以上の結果によれば、電界変成器15の幅Lを、上述した関係式、すなわち自然数Nを用いて (4N−3)λg’/8 < L < (4N−1)λg’/8 を満たすように設定することで、電界変成器15の下流側の定在波の電界強度を大きくする効果が得られることが分かる。これにより、加熱室5内の電界強度が高められ、トナー定着に要する時間を大きく短縮する効果が得られる。
【0138】
よって、上述した関係式を満たすような幅Lを有する電界変成器15を備えた上で、第1実施形態で説明したように、用紙10を搬送部材43及び53で挟み込んで加熱室5内を通過させることで、トナーの定着時間の更なる短縮化を図ることができる。
【0139】
〔第3実施形態〕
本発明のマイクロ波加熱装置の第3実施形態について説明する。
【0140】
[加熱室及び搬送部材の構成]
本実施形態では、第1実施形態と異なり、加熱室5内がY方向において3列の空間に分けられている(
図13及び
図14参照)。
図13は模式的斜視図、
図14は加熱室5をZ方向に見たときの模式的平面図である。
図14に示すように、加熱室5が3空間11,12,13に分けられている。なお、本実施形態では3列の空間で構成しているが、本発明を実現するに際し、この空間数は3に限られるものではない。
【0141】
その他の構成については第1実施形態と同一である。
【0142】
図15は、本実施形態における加熱室5を上から見たときの模式的平面図である。なお、加熱室5は、金属等の導体で周囲を覆われた筒形状を有しているが、ここでは説明の便宜上、加熱室5の内部を一部透過させて図示している。また、
図15では、搬送部材43及び53の図示を省略している。
【0143】
上述したように、加熱室5の側面にはスリット6が設けられており、用紙10がこのスリット6を介して加熱室5の内部をY方向(矢印d1の向き)に通過可能に構成されている。そして、マイクロ波発生部3より発生されたマイクロ波が、図面左側よりZ方向(矢印d2の向き)に加熱室5内に進入可能な構成である。
【0144】
加熱室5には、マイクロ波の進入方向と同方向に、導電性材料で構成された仕切板21,22(「障壁部」に対応)が設けられており(ここでは金属製とする)、これによって空間11,12,13の3空間に隔てられている。ただし、この仕切板21,22は、用紙10をd1方向に通過させることができる程度の隙間(又はスリット)を有している。そして、この隙間を除いては、なるべく加熱室5の内壁に接近させ、隣接する空間同士を連絡する通路が存在しないように構成されるのが好ましい。
【0145】
更に、本実施形態においては、各空間に進入する定在波の位相を相互にずらすべく、移相器を挿入している。より具体的には、空間11内に移相器31を、空間12内に移相器32を挿入し、空間13内には移相器を挿入していない。ここでは、移相器31は、d2方向に関し、移相器32の2倍の長さを有する構成である。
【0146】
移相器31及び32は、誘電率の高い材料で構成されており、それぞれは各空間内を前記の長さにわたって遮蔽するように挿入されている。ここでは、材料として高密度ポリエチレン(UHMW)を利用しているが、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂材料、石英、その他の高誘電率材料を利用することができる。また、できるだけ加熱されにくい材料で構成されるのが好ましい。加工容易性並びにコスト面の観点から、実用的には高密度ポリエチレンを用いるのが好適である。
【0147】
更に、空間12及び13においては、終端部にインピーダンス調整器33及び34が挿入される。ここでは、インピーダンス調整器33及び34として、移相器31及び32と同じ材料を採用している。
【0148】
インピーダンス調整器33及び34として、移相器31及び32と同じ材料を利用する場合、空間12内に挿入するインピーダンス調整器33については、同空間12内に挿入する移相器32とd2方向に関し同じ長さとする。また、空間13内に挿入するインピーダンス調整器34については、空間11に挿入する移相器31とd2方向に関し同じ長さとする。これにより、加熱室5の入口から終端部を見たときに、各空間11,12,13のインピーダンスを簡単に等しくすることができる。
【0149】
なお、以下では、Z方向の長さのことを単に「幅」と称することがある。
【0150】
図16は、
図15の構成においてマイクロ波が進入してきたときに、各空間11,12,13内に形成される定在波の状態を概念的に図示したものである。ただし、移相器31の幅をλg’とし、移相器32の幅をλg’/2としている。ここで、λg’とは、移相器31及び32と同じ誘電体内に形成される定在波の波長(以下において「誘電体内波長」という。)を指している。
【0151】
図16に示すように、各空間11,12内には、終端部5aの位置に下流側の端面(第1面)が来るように移相器31及び32が挿入されている。この条件で移相器を挿入したことで、空間11においては、移相器31の上流側の端面(第2面)の位置61に定在波W1の節が現れる。同様に、空間12においては、移相器32の上流側の端面(第2面)の位置71に定在波W2の節が現れる。なお、移相器が挿入されていない空間13においては、終端部5aが配置されている位置81に定在波W3の節が現れる。なお、
図16において、供給されるマイクロ波が各空間11,12,13に分配される先端部を「分波部41」として記載している。
【0152】
これにより、空間11,12,13それぞれに存在する定在波W1,W2,W3の位相を相互にずらすことが可能となり、各定在波W1,W2,W3の腹の位置を相互にd2方向にずらすことができる。よって、用紙10がd1方向に加熱室5内を通過すると、空間11,12,13のいずれかを通過する過程においては高エネルギー領域を通過することとなる。これによって、用紙10への加熱むらを抑制することが可能となる。
【0153】
なお、空間11,12,13内に形成される定在波W1,W2,W3の位相のずらし方としては、加熱室5内に形成される定在波の管内波長λgの1/6ずつ位相をずらした場合に、最もエネルギー効率を高めることができる(
図17参照)。つまり、下記数10を実現するように移相器31,32の材料及び幅を決定すればよい。
【0155】
なお、数10において、λg/6という数値は、加熱室を3空間に分割したためであって、一般的にN分割する場合、最もエネルギー効率を高めるには管内波長λg/(2N)ずつ位相をずらせばよい。
【0156】
このとき、空間11内に形成される定在波W1の節(61,62,63,64,65,66)、空間12内に形成される定在波W2の節(71,72,73,74,75,76)、及び空間13内に形成される定在波W3の節(81,82,83,84,85,86)、はそれぞれ均等に位置をずらすことができる。これにより、例えば、空間11内において節62が形成される位置を用紙10が通過して、加熱が不十分であったとしても、引き続き空間12,13を通過したとき、かかる空間内では当該位置は定在波の節に該当しないため、十分な加熱が可能な状態となる。
図17に示すように各定在波W1,W2,W3につき、均等に位相をずらすことで、用紙10がd1方向に通過した際、d2方向の位置に関する加熱むらを解消することが可能となる。つまり、上記数
10の条件に従って位相をずらすことで、加熱室5内に最も高効率のエネルギー状態を実現させることができる。
【0157】
ただし、本発明の効果を実現するに際しては、この数10の条件を厳密に成立さなければならないというものではない。少なくとも、各空間11,12,13において定在波の位相のずれを生じさせることで、位相ずれが存在しない場合と比較して加熱むらを解消させる効果が得られる。この点については、実験結果に基づいて後述される。
【0158】
次に、インピーダンス調整器33及び34について説明する。移相器31及び32は、前述したように、各空間11,12,13内の定在波W1,W2,W3の位相を相互にずらす目的で挿入されたものである。これに対し、インピーダンス調整器33,34は、マイクロ波発生部3から発生したマイクロ波を、各空間11,12,13に対して等しく(ほぼ等しく)分散して入力させるために、各空間内のインピーダンスを等しく(ほぼ等しく)する目的で挿入されている。
【0159】
各空間11,12,13に対してほぼ同等のエネルギー量を保持したマイクロ波を分散して入力させるためには、各空間内のインピーダンスをほぼ等しくすることが必要となる。この点につき、実施例及び比較例を参照しながら詳細に説明する。
【0160】
[実施例及び比較例]
(比較例3−1)
図18Aは、加熱室5を単純に仕切板21,22によって空間11,12,13の3空間に分けたときの模式的構成図を示している。この状態でd2方向にマイクロ波を進入させたときの、各空間内に存在する定在波の電界分布を
図18B,
図18Cに示す。
図18Bは、比較例3−1における定在波の電界分布状態につき、等高線によって表示した図であり、
図18Cは、比較例3−1における位置と電界強度の関係をグラフによって示した図である。
【0161】
なお、以下の比較例及び実施例においては、第1実施形態と同じ装置を共通して利用した。
【0162】
図18Bによれば、各空間11,12,13内にはほぼ同等の等高線が形成されており、ほぼ同じパワーでマイクロ波が分散して入力されていることが理解できる。つまり、加熱室5内に金属製の仕切板21,22を設けることで、進入するマイクロ波を各空間に対して分散させる効果が得られることが分かる。
【0163】
一方、
図18Cによれば、各空間内に形成される定在波W1,W2,W3の、d2方向の位置における電界強度についても同等であることが分かる。つまり、各定在波W1,W2,W3の定在波の節の位置は全てほぼ同じであり、腹の位置も全てほぼ同じである。従って、加熱室5をこのような構成とした状況で加熱しても、節の位置と腹の位置とで電界強度が異なるため、加熱むらが生じることが分かる。なお、今回の実験では、定在波W3の位置別の電界強度が定在波W1とほとんど同じ値となったため、グラフ上ではW3とW1が重なって表示されている。
【0164】
(比較例3−2)
上述したように、加熱むらをなるべく解消させるには、各空間で形成される定在波の節の位置を相互にずらすことが重要となる。このため、比較例3−2においては、単純に各空間の終端部の位置をずらすことで、各空間に形成される定在波の位相をずらすことを試みている。
【0165】
図19Aは、比較例3−2における模式的構成図であり、具体的には、空間11内においては、終端部5aから前方に向かって幅λg/3の金属板35aを、空間12内においては、終端部5aから前方に向かって幅λg/6の金属板35bを挿入している。空間13内においては金属板を挿入せず、終端部5aにおいてマイクロ波が終端するように構成した。
【0166】
d2方向にマイクロ波が進入したとき、終端部として導電性の短絡板を設ける構成としておくと、かかる終端部の位置において定在波の節が形成される。そこで、空間11においては終端部5aの位置から幅λg/3の金属板35aを挿入しておくことで、空間11内に形成される定在波については、終端部5aからλg/3前方の位置に節が来るように設計できる。同様に、空間12においては終端部5aの位置から幅λg/6の金属板35bを挿入しておくことで、空間12内に形成される定在波については、終端部5aからλg/6前方の位置に節が来るように設計できる。よって、このような構成とすることで、各空間内に形成される定在波の位相を相互にずらすことができれば、加熱むらを解消することが可能となる。
【0167】
図19Aの構成で、d2方向にマイクロ波を進入させたときの、各空間内に存在する定在波の電界分布を
図19B,
図19Cに示す。
図19Bは、比較例3−2における定在波の電界分布状態につき、等高線によって表示した図であり、
図19Cは、比較例3−2における位置と電界強度の関係をグラフによって示した図である。
【0168】
なお、
図19Bなどに示す等高線図は、実際はカラー図面であり、スペクトル分布のような色合いで構成されている。すなわち、電界強度が低いほど紫や青色で表示されており、電界強度が高いほど、赤や橙色で表示されている。そして、本願明細書に添付したモノクロの図面においては、電界強度が高い赤色の線が「黒っぽく」表示されており、それ以外の色の線は「白っぽく」表示されている。つまり、白の線で囲まれた領域内に黒っぽい線が多く示されている箇所については、電界強度が非常に高いことを表している。
【0169】
図19B及び
図19Cによれば、空間12については電界強度が高いものの、空間11,13については電界強度が低いことが分かる。
図19Cによれば、確かに各空間内に形成される定在波W1,W2,W3は、相互に位相がずれており、各定在波の節の位置をずらすことができている。しかし、定在波間において電界強度に差があるため、このような構成で加熱しても、位置に応じた加熱むらが生じてしまう。例えば、d2方向に関し、空間12内において定在波W2の腹が形成されている位置の近傍と、空間11内において定在波W1の腹が形成されている位置の近傍とでは、加熱程度に大きな差が生じてしまう。
【0170】
つまり、比較例3−2に示すように、各空間内に形成される定在波の位相をずらすべく、単に終端位置をd2方向に変化させた場合には、各空間内に形成される定在波のエネルギー量に差異が生じてしまうことが分かる。比較例3−2の構成としても、加熱むらを解消する効果はほとんど期待できない。
【0171】
(実施例3−1)
上述したように、加熱むらをなるべく解消させるには、各空間で形成される定在波の節の位置を相互にずらすことが重要となる。しかしながら、比較例3−2のように、節の位置をずらすべく各空間の終端部の位置をd2方向にずらすと、各空間内に形成される定在波の電界強度に差異が出ることが分かる。
【0172】
比較例3−2のように、各空間内に形成される定在波につき、電界強度に差異が生じるのは、加熱室入口から終端部5aを見た時の、各空間のインピーダンスが異なることに起因する。つまり、終端部に金属板35a,35bを挿入した結果、各空間11,12,13のインピーダンスに差異が生じてしまい、この結果として各空間内の定在波の電界強度に差異が生じたといえる。
【0173】
そこで、本発明では、各空間内のインピーダンスをできるだけ等しくしながら、且つ、各空間内に形成される定在波が相互に位相差を有する状況を実現すべく、
図15〜
図17を参照して説明したような構成を採用した。この構成につき、「実施例3−1」として、実験結果を参照しながら説明する。
【0174】
図20Aは、実施例3−1の模式的構成図を示している。
図15〜
図17を参照して既に説明したように、実施例3−1においては、空間11内においては、終端部5aから上流側に向かって幅λg’の移相器31を挿入している。また、空間12内においては、終端部5aから上流側に向かって幅λg’/2の移相器32を挿入している。この移相器31,32は、
誘電率の高い材料の一つである高密度ポリエチレンで構成されている。
【0175】
更に、実施例3−1では、空間12内において、入口近傍から下流側に向かって幅λg’/2のインピーダンス調整器33を挿入しており、空間13内において、入口近傍から下流側に向かって幅λg’のインピーダンス調整器34を挿入している。このインピーダンス調整器33,34は、移相器31,32と同一の材料で構成されている。つまり、移相器32とインピーダンス調整器33は、本実施例では完全に同一の部材で構成され、移相器31とインピーダンス調整器34は、本実施例では完全に同一の部材で構成される。
【0176】
この状態でd2方向にマイクロ波を進入させたときの、各空間内に存在する定在波の電界分布を
図20B,
図20Cに示す。
図20Bは、実施例3−1における定在波の電界分布状態につき、等高線によって表示した図であり、
図20Cは、実施例3−1における位置と電界強度の関係をグラフによって示した図である。
【0177】
図20B及び
図20Cによれば、各空間共にほぼ同等の電界強度を示しており、且つ、定在波の節の位置をd2方向に相互にずらせていることが分かる。よって、このような構成の下で、用紙10をd1方向に通過させた場合、d2方向にわたってほぼ均一に加熱することができる。
【0178】
ところで、実施例3−1において、定在波の位相を相互にずらすために高誘電体で構成した移相器31,32を導入しているのは、位相を相互にずらす目的に加えてインピーダンス調整を簡易にする目的でもある。すなわち、比較例3−2(
図19A参照)で示したように、終端部に幅の異なる金属板を導入した場合においても、定在波の位相を相互に異ならせることは可能である。ただし、比較例3−2の場合には、各空間のインピーダンスに差異が生じた結果、定在波の電界強度に差異が生じ、加熱むらを生み出す別の要因となった。従って、
図19Aの構成の下で各空間のインピーダンスをほぼ等しくすることができれば、実施例3−1と同等の効果が期待できる。この場合、金属板を導入した状態における各空間のインピーダンスを計算し、これらのインピーダンスをほぼ均衡させるべくインピーダンス調整器を導入するという方法を採用することができる。
【0179】
しかし、実施例3−1のように、金属板に代えて高誘電体の移相器を採用することで、インピーダンス調整を非常に簡易に行うことができる。なぜなら、既に説明したように、移相器31,32と、インピーダンス調整器33,34とはそれぞれ同一の材料で構成することができ、更にこの場合、移相器31とインピーダンス調整器34、移相器32とインピーダンス調整器33は、同じ材料で同じ寸法の部材を採用することができるためである。つまり、実施例3−1であれば、幅λg’で、一の空間を密閉可能な高さと奥行(d1方向の長さ)を有する高密度ポリエチレンを2個、幅λg’/2で、一の空間を密閉可能な高さと奥行(d1方向の長さ)を有する高密度ポリエチレンを2個、それぞれ準備するのみで、加熱むらを解消できる。
【0180】
そして、
図17を参照して上述したように、更に上記数10を満たすように加熱室5の材料や寸法、移相器31,32の材料を選択することで、加熱むらを解消する効果を著しく高めることができる。
【0181】
なお、
図20Aでは、加熱室5のほぼ入口近傍にインピーダンス調整器33,34を挿入したが、少なくとも被加熱体(例えば用紙10)を通過させたときに、当該被加熱体の上流側端面よりも更に上流側にインピーダンス調整器33,34が挿入されていればよい。
【0182】
以上のように、加熱室を複数列に分けると共に、移相器及びインピーダンス調整器を導入することで、各空間内の定在波の電界強度をほぼ同一にしつつ、各空間内における定在波の節の位置を相互にずらすことで、用紙10に対する加熱むらを解消する効果を著しく高めることができる。よって、このように構成された加熱室5内を、第1実施形態で説明した方法で用紙10を搬送部材にて挟み込みながら移動させることで、トナー定着時間の短縮化と加熱むらの解消を図ることができる。
【0183】
〔第4実施形態〕
本実施形態は、第3実施形態と比較して、整合器7より下流側(終端部5a側)に更に電界変成器15を備えた点が異なる。より詳細には、各空間11,12,13のそれぞれに電界変成器15を備える構成である。つまり、全体の模式的構造図としては、第2実施形態の
図8と同様である。
【0184】
この電界変成器15は第2実施形態で説明したものと同じ材料で構成されている。つまり、電界変成器15として高密度ポリエチレンを採用したとき、電界変成器15、移相器31,32、及びインピーダンス調整器33,34は全て同一の材料で実現できることとなる。
【0185】
電界変成器15は、電界変成器15と同じ誘電体内に形成される定在波の波長をλgzとしたときに、マイクロ波の進入方向d2の向きの幅として、λgz/4の奇数倍(λgz/4,3λgz/4,……)の長さを有する構成である。なお、この電界変成器15の幅をλgz/4の奇数倍とすることで、その挿入効果を最も高めることができるものであるが、後述する関係式を満たすように電界変成器15の幅を設定することで、電界変成器15の挿入効果を得ることができる。
【0186】
なお、前述のように、電界変成器15を移相器31及び32と同じ材料で構成した場合、電界変成器15内の定在波の波長λgzは、移相器31及び32内の定在波の波長(誘電体内波長)λg’に一致する。以下では、符号の煩雑化を避けるべく、λgz=λg’として説明する。
【0187】
なお、マイクロ波発生部3から発生するマイクロ波波長をλ、電界変成器15の誘電率をε’、遮断波長をλc,誘電体内波長をλg’とすると、第2実施形態で上述した数1が成立する。この関係式により、誘電体内波長λg’を算出することができる。
【0188】
図8に示すように、本実施形態では、この電界変成器15を固定的に設置する。より具体的には、加熱室5内(の各空間11,12,13内)に形成される定在波の節となる位置20に電界変成器15を設置する。更に具体的には、電界変成器15の終端部5a側(下流側)の面が節となる位置20となるように設置する。
【0189】
第3実施形態及び本実施形態のように、加熱室5内にマイクロ波の定在波を生じさせる構成においては、終端部5aからのマイクロ波発生部3に向かう方向の距離に応じて電界強度の強い部分(腹)と弱い部分(節)が生じてしまう。そこで、
図8に示すように、特に定在波の節の位置に電界変成器15を設置することで、電界変成器15より下流側の定在波W’の電界強度が高められ、トナーの定着性を向上させることが可能となる。
【0190】
つまり、電界変成器15よりも下流側にスリット6を設け、この位置において用紙10を通過させることで、パワーが増大された定在波W’に基づく加熱処理が施されるため、トナー定着時間を短縮化することができる。
【0191】
[実施例及び比較例]
(比較例4−1)
図21Aは、比較例4−1の概念的構成図であり、比較例3−1の構成に、高密度ポリエチレンで構成される電界変成器15(15a、15b,15c)を各空間11,12,13内に挿入した状態を示している。電界変成器15の幅をλg’/4としている。
【0192】
この状態でd2方向にマイクロ波を進入させたときの、各空間内に存在する定在波の電界分布を
図21B,
図21Cに示す。
図21Bは、比較例4−1における定在波の電界分布状態につき、等高線によって表示した図であり、
図21Cは、比較例4−1における位置と電界強度の関係をグラフによって示した図である。
【0193】
比較例3−1(
図18C)と比較例4−1(
図21C)を比べると、電界変成器15を導入することで、各空間内に形成される定在波の電界強度を大きく上昇させる効果が得られることが分かる。ただし、比較例4−1については、比較例3−1と同様、単に空間を3つに分けたに過ぎないため、各空間11,12,13に形成される定在波W1,W2,W3は、位相のずれが生じておらず、d2方向における節の位置は各定在波ともにほぼ同じである。従って、この状態で加熱を行っても加熱むらは生じてしまう。
【0194】
(実施例4−1)
図22Aは、実施例4−1の概念的構成図であり、実施例3−1の構成に、高密度ポリエチレンで構成される電界変成器15(15a、15b,15c)を各空間11,12,13内に挿入した状態を示している。なお、電界変成器15の幅はλg’/4としている。ここでは、移相器31,32、インピーダンス調整器33,34、及び電界変成器15a、15b,15cを全て同一材料である高密度ポリエチレンで構成している。
【0195】
この状態でd2方向にマイクロ波を進入させたときの、各空間内に存在する定在波の電界分布を
図22B,
図22Cに示す。
図22Bは、実施例4−1における定在波の電界分布状態につき、等高線によって表示した図であり、
図22Cは、実施例4−1における位置と電界強度の関係をグラフによって示した図である。
【0196】
図22B及び
図22Cによれば、実施例3−1のときと同様、各空間共にほぼ同等の電界強度を示しており、且つ、定在波の節の位置をd2方向に相互にずらせていることが分かる。よって、このような構成の下で、紙10をd1方向に通過させた場合、d2方向にわたってほぼ均一に加熱することができる。
【0197】
そして、実施例3−1(
図20C)と実施例4−1(
図22C)を比べると、やはり電界変成器15を導入することで、各空間内に形成される定在波の電界強度を大きく上昇させる効果が得られていることが分かる。つまり、実施例2の構成とすることで、各空間11,12,13内に形成される各定在波W1,W2,W3相互の節のd2方向の位置をずらしながら、更に電界強度を上昇させることが可能となる。これにより、実施例3−1と比べて加熱効率を更に向上させることが可能となる。つまり、加熱室5を複数列に分け、各空間の前段に電界変成器を導入した状態で、第1実施形態で説明した方法で用紙10を搬送部材にて挟み込みながら加熱室5内を移動させることで、トナー定着時間の更なる短縮化と加熱むらの解消を図ることができる。
【0198】
〔別実施形態〕
〈1〉上記実施形態3及び4において、金属製の仕切板21,22によって加熱室5内を3空間11,12,13に分ける旨の説明を行ったが、空間を分けることができていればよく、必ずしも「板」によって仕切ることが要求されるというものではない。すなわち、長手方向(d2方向)に沿って予め複数の空間が設けられている導波管を用いる構成も可能である。
【0199】
なお、これらの実施形態では、整合器7を加熱室5の上流側に備えた構成について説明したが、整合器7を備えない構成としても構わない。
【0200】
〈2〉上記各実施形態では、用紙へのトナー定着にマイクロ波を利用する実施形態を説明したが、短い時間の間に急激に加熱を行うことを要求される他の一般的な用途(例えば、セラミックスの仮焼や焼結、高温を必要とする化学反応の他、トナーを金属粉末として配線(導電)パターンを製作する用途)に利用することが可能である。
【0201】
〈3〉第4実施形態では、3空間に分かれている領域において、各空間11,12,13内に電界変成器15を夫々挿入する態様とした。しかし、例えば、加熱室5において、入口付近においては空間が分断されておらず、入口から所定距離Dだけ下流側に進んだところから仕切板21,22が設けられることで3空間が形成される構成が想定される。かかる構成においては、d2方向に関して3空間に分断されない入口から距離Dまでの所定の領域に電界変成器15を挿入するものとしても構わない。
【0202】
〈4〉上記第3及び第4実施形態では、移相器を挿入しない一の空間を設けることで、位相のずれを実現したが、全ての空間内に移相器を設けて位相のずれを実現しても構わない。また、同様に、インピーダンス調整器を挿入しない一の空間を設けることで、インピーダンスの調整を行ったが、全ての空間内にインピーダンス調整器を設けてインピーダンス調整を行っても構わない。