【実施例】
【0132】
以下の実施例は本発明を例示するためのものである。しかし、本発明は、これら実施例に記載の具体的条件及び細部に限定されるものではないことを理解すべきである。
【0133】
実施例1
胎盤中のHb RNA及びタンパク質の検出
定量的RT-PCR、インサイチュハイブリダイゼーション及び免疫組織化学を行い、PE及びコントロール被検体の胎盤サンプル中のHbα、Hbβ及びHbγ mRNA並びにタンパク質発現
を分析した。
【0134】
サンプル収集
胎盤組織はLund University Hospitalの産婦人科で収集した。書面による同意を得て実施したサンプリングは、ヒト被検体における研究のための倫理委員会審査部(Ethical Committee Review Board)により承認された。10人の子癇前症妊婦、15人の正常妊婦、両側のノッチを有する5人の患者並びに両側のノッチ及び子癇前症を有する5人の患者からの胎盤組織を本研究に含めた。PEを有する患者の5人及びコントロールの5人からの胎盤床サンプル(下記参照)もまた収集した。子癇前症は、血圧>140/90mmHgかつ蛋白尿>0.3g/Lと定義した。本態性高血圧又は他の全身性疾患を有する患者は排除した。出産時に胎盤サンプルを収集し、直後に−80℃に凍結して保存した。
【0135】
組織サンプリング及び取扱い
胎盤サンプルは出産直後に収集した。胎盤の中央部から、肉眼により壊死部及び梗塞部を避けて10×10×10mm立方体の絨毛組織を取り出した。帝王切開を受けた女性から10×10×10mm立方体の子宮筋層組織を収集した。サンプルを直後にドライアイスで凍結し、RNA
を抽出するまで−80℃で保存した。この組織は、最大級のRNA完全性を確実にするために
、RNA抽出前にも凍結切片化の前にも解凍しなかった。
【0136】
RNA抽出
Trizol(登録商標)(Invitrogen)を製造業者の指示に従って用いて、凍結組織からトータルRNAを抽出した。0.8Mクエン酸ナトリウム及び1.2M塩化ナトリウムでの高塩沈降を実
施してプロテオグリカン及び多糖を除去した。6.7%ホルマリン及び1×MOPS緩衝液を用
いる変性1%アガロースゲル電気泳動によりRNA完全性を決定した。使用まで、サンプル
はRNAseを含まない水中に−80℃にて保存した。使用前に、サンプルをもう1回沈降させ
、70%エタノールで洗浄してTrizol残留物を除去した。
【0137】
リアルタイムPCR増幅
Applied Biosystemsの逆転写酵素をプロトコルに従って用いてcDNAを合成した。0.5mg
のトータルRNA、1×TaqMan RT緩衝液、5.5mM MgCl
2、500mM dNTP、2.5mMランダムヘキサマー、0.4U/ml RNase阻害剤及び1.25U/ml MultiScribe逆転写酵素を含有する50mlの反応
液を使用した。この反応液を25℃にて10分間、48℃にて30分間、最後に95℃にて5分間インキュベートした。分析までサンプルを−20℃で保存した。
【0138】
ABI PRISM(登録商標) 7000配列検出システム(Applied Biosystems)を用いるリアルタイムPCRにより遺伝子転写物をアッセイした。プライマー及びプローブはPrimer Express(登録商標)ソフトウェアプログラムを用いて設計したか、又はAssays on-Design/Demand(商
標)(Applied Biosystems)に注文した。混入ゲノムDNAの増幅を回避するために、プライマーを目的の遺伝子の異なるエキソンに標的化した。反応は、以下を含有する25mlの最終容量で行った:1×Universal PCR Master Mix(Applied Biosystems)、0.25mmol/lのプローブ、それぞれ0.9mmol/lのフォワード及びリバースプライマー及び1mlの10ng/ml DNAアリコート。熱サイクル条件は、50℃にて2分間のUNG活性化及び95℃にて10分間の最初の変性で開始した。次いで、40サイクルを行った:95℃にて15秒間、60℃にて1分間。テンプレートを含まない2つの陰性コントロールを増幅セットごとに含ませた。β-アクチンを参照として使用して、サンプルからのシグナルを規格化した。定量化は、テンプレートDNAの系列4倍希釈物(0.08〜80ng)を用いて較正曲線を作成することによって達成した。結果は、分母にβ-アクチンを用いた比として表す。
【0139】
インサイチュハイブリダイゼーション(ISHH)
ハイブリダイゼーションは、以前に[Hanssonら,2005]に記載されたように行った。ク
リオスタット切片を解凍して、シアリン処理したスライド上にマウントし、これを使用するまで−80℃にて保存した。新鮮な凍結組織を用いてmRNA検出を最大化した。以前に[Bradleyら,1992]に記載のように、切片を固定し、脱水し、脱脂し、ハイブリダイズさせた。80mlのハイブリダイゼーション緩衝液(20mM Tris-HCl(pH7.4)、1mM EDTA(pH8.0)、300mM NaCl、50%ホルムアミド、10%硫酸デキストラン、1×Denhardtの25mg/ml酵母tRNA、100mg/mlサケ精子DNA、250mg/mlトータル酵母RNA(画分XI、Sigma)、150mMジチオトレイトール(DTT)、0.15%チオ硫酸ナトリウム(NTS)及び0.15%硫酸ドデシルナトリウム(SDS))当たり2×106cpmの変性35S-cRNAプローブを用いて、20〜24時間、55℃でハイブリダイゼーションを行った。洗浄後、スライドをKodak Hyperfilm Biomax MRに2日間並置し、その後核トラック乳剤(nuclear track emulsion)(NTB-3,Kodak)で被覆した。スライドに4℃で3週間(Hbα2、Hbγ2)及び4週間(Hbβ)曝露し、その後Dektol(Kodak)で現像し、固定してギムザ染色で対比染色した。
【0140】
免疫組織化学
胎盤サンプルの14μm厚の新鮮凍結切片を、4%緩衝液化ホルムアルデヒド中に室温に
て10分間浸漬することにより固定した。次いで、ブロッキング溶液(Powerblock;Zymed)
中RTにて30分間切片をインキュベートした。PBS洗浄後、切片を1:500希釈の(ヒツジで惹
起させた)抗-ヒト胎児Hb抗体(Bethyl Laboratories)中に移した。1時間のRTインキュベ
ーション後、切片をリンスし、1:1000希釈の(ロバで惹起させた)抗-ヒツジCY3抗体(Jackson laboratories)中にRTにて1時間移した。次いで、切片をリンスし、0.1M Trisで覆ってLeica DMA 6000倒立蛍光顕微鏡下で観察した。Volocityソフトウェアを用いて写真を撮影した。
【0141】
結果
図4は、胎盤中のHbα、Hbγ及びHbβのリアルタイムPCR定量化を示す。全ての値をβ-アクチンの量に対して規格化し、散布図で表す。(A)胎盤中のHbα mRNA発現。PEとコン
トロールとの間(p=0.004)及びPE&ノッチ(ノッチを有するPE)とコントロールとの間(p=0.03)に有意な変化が見出された。(B)PEとコントロールとの間(p=0.003)及びPE&ノッチ
とコントロールとの間(p=0.03)の有意な変化を示すHbγ mRNA相対値。(C)Hbβは、コン
トロールに対してPE(p=0.02)及びコントロールに対してPE&ノッチ(p=0.04)で有意な過
剰発現を示した。
【0142】
要約すると、Hbα mRNAレベル(p=0.004)、Hbγ mRNAレベル(p=0.003)及びHbβ mRNA
レベル(p=0.02)は、コントロールに対してPEサンプルで有意に増大していることが見出
され(
図4A、B、C)、またコントロールと比較してノッチを有するPEからのサンプル中でも有意に増大していることが見出された(Hbα p=0.02、Hbγ p=0.03及びHbβ p=0.04)。(Hbβはアレイでは表さなかったが、Hbα及びHbγで変化が検出されたので調べた)。
【0143】
図5は、胎盤及び胎盤床サンプルのインサイチュハイブリダイゼーションの結果を示す。この図はヒト胎盤の画像を示し、胎盤の絨毛セクション(V)、その下方の胎盤床セクション(M)及びその間のらせん動脈(S)を示す。(A)代表的な子癇前症胎盤サンプル中のHbα mRNA発現の明視野画像。Hbα発現は特に血管中及び血管周辺で見られた。しかし、絨毛間スペースに散在する幾つかの細胞も見られた。(B)同じ切片の暗視野画像。(C)代表的なコントロール胎盤におけるHbα mRNA発現の暗視野画像。PE胎盤と比較して、コントロール胎盤は、絨毛間スペース中でより少ないHbα発現細胞を示す。(D)PE患者からの代表的な子宮筋層サンプルの明視野画像。Hbα発現はらせん動脈でのみ見られ、子宮筋層組織では発現は見られない。(E)暗視野での同じ子宮筋層切片。(F)コントロール胎盤からの子宮筋層サンプル。Hbα mRNA発現は、PE子宮筋層で見られた発現と同様である。
【0144】
要約すると、インサイチュハイブリダイゼーションにより、PE及びコントロールサンプルの両方で絨毛間スペースを通じて散在する有核Hbα-及びHbγ-発現細胞が明らかになった。PE患者の胎盤は、コントロールサンプルより多いHb含有細胞(胎児Hb)を有しているようであり、細胞当たりのシグナルはコントロール中より強いようであった。調べたサンプルの幾つかでは、Hb-陽性細胞は血管の壁に結合し、幾つかの細胞は管腔中に遊離してい
た。多くの単一細胞が絨毛内スペースに見出された。形態、位置及び分布に基づけば、それらはトロホブラストではなかった。
【0145】
図6は、胎盤におけるHbγタンパク質発現代表的な画像である。タンパク質発現は赤い蛍光マーカーで示されている。PE胎盤には、脈管管腔(lu)内に強い発現が存在するが、Hbγは脈管内皮(矢印)中でも発現している。(A)しかし、正常血圧コントロールの胎盤は、脈管管腔内でHbγの発現を示さないが、(B)Hbγ(すなわち、遊離胎児ヘモグロビン)は脈管内皮(矢印)中で発現している。画像中のスケールバーは25μmである。
【0146】
要約すると、Hbγ-発現は、PE胎盤サンプル中で特に胎盤血管管腔内で検出されたが、
脈管壁の内皮細胞の近傍でも検出された。コントロール胎盤サンプルは、脈管内皮中でHbγ-発現を示したが、脈管管腔中では発現しなかった。
【0147】
考察
定量的RT-PCRは、PEにおいて、コントロールに対して増大したHbα及びHbγ mRNA発現
を示した。インサイチュハイブリダイゼーションは、PEからの胎盤サンプル中で、コントロール被検体からの胎盤サンプルに対して増加した数のHb発現細胞を示した。Hb発現細胞が管壁に結合して位置していたという事実は、細胞が管の中又は外へ移動中であることを示しているか、又は管壁にこれら細胞用の結合部位が存在することを示しているかのいずれかであろう。子宮筋層の管が胎盤の管(下記のような細胞に富んでいる)に対してHb mRNAを発現する有核細胞に乏しいという事実は、これら細胞が母体起源ではない可能性を示唆する。(胎児)Hbγ mRNAが胎盤のHb-陽性細胞に存在し、子宮筋層血管管腔にはHb発現細胞の数が少ないという本発明者らの知見は、PE胎盤中及び血液中で見られる増加したHb発現を担っているのは胎児細胞であることを示している。
【0148】
本発明者らが説明した胎児Hb産生細胞が、迅速に代謝回転する場合、高レベルのヘムを絨毛外スペース中及び胎盤血管中に放出し得る。確かに、本発明者らの免疫組織化学は、PE胎盤の血管管腔中に高レベルのヘモグロビンを示している。一方、コントロール胎盤は、血管中へのヘモグロビンの放出を示さなかった。更に悪いことに、PE胎盤の壊死及び血栓領域での溶血は、或る量の遊離ヘムを其処に加え得る。
【0149】
遊離ヘムは、反応性酸素種(ROS)の創出を通じて重篤な損傷を引き起こすことがある強
力なレドックス物質である。ヘムは、低比重リポタンパク質(LDL)を含む幾つかの脂質を
酸化し、内皮損傷を引き起こす細胞傷害性ペルオキシダーゼに転換する。更に、ヘムは、細胞膜を崩壊させ、膜タンパク質を酸化することによって細胞膜を直接損傷して、膜透過性の増大及び細胞溶解を導き得る。
【0150】
よって、多数のHb陽性細胞(すなわち、胎児細胞)の胎盤への浸潤は気がかりなサインである。これら細胞から放出されたヘムは、かなり有害でありPEに関連する胎盤の病理の多くを担っている可能性がある。
【0151】
まとめると、理論に拘束されることは望まないが、本発明者らの知見は、子癇前症の胎盤中の或る細胞亜集団でHb遺伝子が過剰発現することを示唆していると考えられる。灌流減少及びおそらくは局所低酸素症に応答した胎盤細胞による造血を刺激する物質の産生は、該細胞の形成、動員及び分布に寄与し得る。該細胞は、正常妊娠を有する被検体の胎盤に存在するようである一方で、PE患者の胎盤におけるその増大は懸案事項である。該細胞は、迅速に代謝回転し過剰にHb(及びヘム)を放出する場合には、脈管内皮を含む近接構造を損傷し得る。
【0152】
実施例2
母体血液中の胎児Hbの検出
定量的RT-PCRを実施して、PE被検体の血液サンプル中のHbγ mRNAを分析した。
リアルタイムPCR
QIAamp Viral RNAミニキット(Qiagen)を製造業者の指示に従って用いてRNAを抽出した
。簡潔には、3.6mlのAVL緩衝液を36μlのキャリア-RNA(Qiagen)と、試験管を10回転倒さ
せることにより混合した。1mlの血漿サンプルを1150gで10分間遠心した。900μlの血漿及び3.6μlの99%エタノールをAVL緩衝液溶液に加えた。約650μlのこの溶液をQIAampカ
ラムに加え、6000gで1分間遠心した。総血漿容量がカラムに加えられるまで、これを繰り返した。カラムをAW1緩衝液で1回洗浄し、次いで6000gで1分間遠心し、続いてAW2緩衝液で洗浄し、次いで20,000gで3分間遠心した。50μlのRNAseを含まない水でRNAを溶
出させた。
胎児Hb RNAをリアルタイムPCRで定量した。
【0153】
結果
図7は、リアルタイムPCRにより定量した、PEを有する女性から出産前に採取した母体
血漿中の胎児Hbγ mRNAレベルの散布図を示す。この図は、サンプル中のHbγ mRNAレベルの推定量を与えるCt値を左軸に示す。これは、母体の血液サンプル中のヘモグロビンγのタンパク質レベルを測定することが可能であるだけでなくmRNA量も測定することが可能であることを示す。
【0154】
実施例3
2D-ゲル電気泳動を用いた子癇前症胎盤のタンパク質発現プロファイリング
コントロール胎盤と比較してPE胎盤で異なって発現するタンパク質についてスクリーニングするために、本発明者らは、PEを有する女性(n=30)及び健常コントロール(n=30)から出産時に胎盤サンプルを収集した。プロテオミック技術(2次元ゲル電気泳動)を用いて
、本発明者らは、種々の胎盤サンプル中のヘモグロビンδ(Hbδ)発現レベルを比較した。
【0155】
患者及びサンプル収集
Lund University Hospitalの産婦人科に入院した60人の女性を含ませ、2群に割り振った;PE(n=30)及びコントロール(n=30)(表2)。PEは血圧>140/90mmHg及び蛋白尿>0.3g/l、又は妊娠第1三半期から20mmHgを上回る血圧上昇と定義した。胎盤を取り出した直後に10×10×10mm立方体の胎盤組織を収集した。サンプルを直ぐにドライアイス上で凍結させ、−80℃で保存した。他の全身疾患を有する患者は本研究から排除した。本研究は、ヒト被検体における研究のための倫理委員会審査部により承認され、全ての女性に対して書面によるインフォームドコンセントを得た。
【0156】
【表2】
【0157】
タンパク質抽出
Trizol(登録商標)(Invitrogen)を製造業者の指示に従って用いてタンパク質を抽出した。簡潔には、氷上のTrizol中で胎盤組織をホモジナイズし、次いで12000gにて10分間4℃で遠心分離した。クロロホルムを用いてタンパク質画分を分離し、2-プロパノールを用いて沈降させた。タンパク質ペレットを1.5mlの0.3M塩酸グアニジン中で3回及び1.5mlの75%エタノール中で1回洗浄した。ペレットを0.8M尿素及び2% chapsに溶解し、分光測光手順を用いてタンパク質濃度を測定した。使用まで、タンパク質を−20℃で保存した。
【0158】
タンパク質沈降
等電点電気泳動(IEF)の前に、サンプルをアセトンで沈降させてタンパク質分解性酵素
を不活化し、塩及び干渉物質を除去した。各胎盤から抽出したタンパク質(400μg)を、80%アセトンの最終濃度まで氷冷アセトンと混合した。サンプルを1時間−20℃にてインキュベートし、続いて9000×gで2分間遠心分離した。アセトンを除去し、タンパク質ペレットを風乾させた。
【0159】
二次元ゲル電気泳動
Immobiline Dryストリップ(180×3×0.5mm、pH3〜10 NL、GE Healthcare Life Sciences)を、8M尿素、2% CHAPS、10mMジチオトレイトール(DTT)及び2% IPG 3-10緩衝液を含有する350μlの可溶化溶液中で、400又は800μgのサンプルと共に、室温にて一晩再水和させた。Multiphor IIを用いてIEF工程を20℃で行い、以下のスケジュールで泳動した:(1)150Vで1時間、(2)300Vで3時間、及び(3)3000Vで約60 000vhrに到達するまで。ストリップを、65mM DTT、6M尿素、30%(w/v)グリセロール、2%(w/v)ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)及び50mM Tris-HCl(pH8.8)を含有する溶液中で10分間平衡化した。第2の平衡工程も、259mMヨードアセトアミドで置換したDTTを除き同じ溶液中で10分間行った。第2次元の直前に、ストリップを電気泳動緩衝液(24mM Tris塩基、0.2Mグリシン及び0.1% SDS)中に浸漬した。ストリップを12.5%の均質なDuracryl Slabgel(240×190×1mm又は290×245×1mm)に適用した。ストリップの上に電気泳動緩衝液(60℃に維持)中1%アガロース溶液を載せた。Hoefer DALTゲル装置(Amersham Pharmacia Biotech, San Francisco, CA,米国)を使用して20℃にて80Vの低電圧で19時間、又は上記と同じ電気泳動緩衝液を用いるゲル装置を使用して20℃にて18mAで色素の先端がゲルの底に到達するまでのいずれかで電気泳動を行った。泳動時間は、約17時間であった。
【0160】
ゲル染色
ゲルを銀染色し、染色後、ゲルドライヤー(Slab gel Dryer SGD2000, Savant)を使用してゲルを乾燥させた。
【0161】
スポット分析
CanoScan 995OF(Canon)を使用してゲルを走査した。PDQUEST(バージョン7.1.0)二次元
ゲル分析システム(Bio-Rad discovery series, Bio-Rad Laboratories, Sundbyberg,ス
ウェーデン)を使用してスポット分析を行った。
【0162】
質量分析による同定
目的のスポットを0.5ml Milli-Q水で1時間洗浄し、続いて25mM重炭酸アンモニウム中40%アセトニトリル(ACN) 0.5mlで各30分間4回洗浄した。次いで、ゲル片をSpeedVacコンセントレータ中で乾燥させた後、一晩37℃にて25mM重炭酸アンモニウム中のトリプシン(配列決定等級,Promega)を用いてタンパク質を特徴的フラグメントに分解させた。20μl
の2%トリフルオロ酢酸(これはまたゲルからペプチドを抽出した)を添加して消化を終結させた。室温にて2時間後、C18 Ziptips(Millipore)を使用して消化緩衝液からペプチドを精製した。簡潔には、2×10μlのMilli-Q水中50% ACN、0.1% TFAを用いて固相を馴
化した。10μlの0.1% TFAでの2回の洗浄により有機溶媒を洗い流した。サンプルを数回吸引分配し、続いて0.1% TFAで2回洗浄して塩及び未結合物質を除去した。精製ペプチ
ドを(0.7μlのマトリックス、2,5-ジヒドロキシ安息香酸(30% CAN中3mg/ml)が添加された)サンプルターゲット(Anchorchip target, Bruker Daltonik)に直接溶出した。正帯電
イオンの質量スペクトルを、リフレクターモードで稼動したBruker Reflex III装置(Bruker Daltonik)に記録した。各サンプルから合計160〜210のシングルショットスペクトルを蓄積した。製造業者から提供されたXMASS 5.0及びMS Biotoolsソフトウェアパッケージをデータ処理に使用した。トリプシンからの公知の自己タンパク質分解産物を内部キャリブレーションに使用した。
【0163】
MS/MS分析
ペプチド抽出物の各々から、ステンレス鋼製MALDIターゲット上に直接0.5μlをスポッ
ト状に塗布し、乾燥させた。5mg/mlのα-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸、50%アセトニト
リル、0.1% TFA及び50mMクエン酸を含有する0.5μlのマトリックス溶液を添加し、乾燥
させた。4700 Proteomics Analyzer(Applied Biosystems, Framingham, CA,米国)マススペクトロメータをポジティブリフレクターモードで使用して、MALDI-TOF-MS及びMS/MSス
ペクトルを獲得した。m/z値が842.51及び2211.097の2つのトリプシン自己タンパク質分
解ペプチドを使用して、得られたMSスペクトルを内部較正した。NCBI非冗長データベースを検索するインハウスMascotサーチエンジン(Matrix Science, London,英国){Perkins,
1999 #132}と共にGPS Explorerソフトウェアを用いてタンパク質同定を行った。検索で指定したパラメータは以下のとおりであった:taxa、Mammalia;missed cleavages、1;peptide mass tolerance、±30ppm;fragment ion mass tolerance、±0.15Da;variable modifications、none。
【0164】
データベース検索
タンパク質同定のために、ProFoundペプチドマッピング(バージョン4.10.5, The Rockefeller University Edition)及びMascotソフトウェア(Matrix Science Ltd)を用いて、NCBIデータベース中のヒトタンパク質配列を検索した。
【0165】
ウェスタンブロット
製造業者の指示に従って12% Bis-Trisゲル(Invitrogen,米国)でウェスタンブロット
を行った。簡潔には、20μgのタンパク質を2.5mlのLDSサンプル緩衝液(Invitrogen,米国)と共にゲルにロードし、1×MOPSランニング緩衝液中で50分間200Vで泳動した。電気泳動後、ゲルを1時間30VでPDVFメンブレン(Bio-Rad,米国)上にブロットし、その後メンブレンを、0.1% Tween20(登録商標)(ICN Biomedichals Inc., Ohio,米国)及び2%脱脂粉乳(Bio-Rad,米国)を含有するTris緩衝化生理食塩水(TBS)と一晩4℃でインキュベートした。
【0166】
ブロットを一次マウスモノクローナルIgG1抗体(抗-ヒト-Hbγ(2%脱脂粉乳を含むTBS-T中1:8000希釈)(Nordic Biosite AB,スウェーデン)と1時間インキュベートし、その後
、メンブレンをTBS-T中で1回15分間及びTBS-T中で3×5分間洗浄した。洗浄後、ブロットをヤギ抗-マウスIgG1-HRP二次抗体(TBS-T中1:5000希釈)(SDS Santa Cruz Biotechnology,米国)と1時間インキュベートし、その後メンブレンを上記のように洗浄した。その後、メンブレンをEnhanced chemilumeniscence ECL+(GE Healthcare Biosciences,英国)に3分間曝露した。オートラジオグラフィックフィルム(Hyperfilm ECL, Amersham,米国)をブロットに1分間適用して、十分な露光を得た。
【0167】
RNA抽出
RNEasy(Qiagen)を製造業者の指示に従って用いて、上記と同じ患者の10のPE-サンプル
及び10のコントロール-サンプルからトータルRNAを抽出した。簡潔には、RNEeasy溶解緩
衝液(RLT緩衝液t及びβ-メルカプトエタノール)(Qiagen)中でTissueLyzerを用いて胎盤サンプルをホモジナイズした。70%エタノール中でサンプルを沈降させ、次いでRNEasyミニカラムを製造業者のプロトコルに従って用いて分離した。50μlのRNAseを含まないH
2O中
にサンプルを溶出させた。
【0168】
リアルタイムPCR(同上)
逆転写酵素を製造業者のプロトコル(Applied Biosystems)に従って用いてcDNAを合成した。簡潔には、50mlの反応ミックス(0.5mgのトータルRNA、1×TaqMan RT緩衝液、5.5mM MgCl
2、500mM dNTP、2.5mMランダムヘキサマー、0.4U/ml RNase阻害剤及び1.25U/ml MultiScribe逆転写酵素)を使用した。この反応液を25℃(10分間)、48℃(30分間)、最後に95℃(5分間)でインキュベートした。分析までサンプルを−20℃で保存した。
【0169】
ABI PRISM(登録商標) 7000配列検出システム(Applied Biosystems)を用いる定量的RT-PCRにより、獲得した遺伝子転写物を定量した。TF(アッセイID:Hs00169070_m1)及びHbδ(アッセイID:Hs00426283_m1)用のプライマー及びプローブは、Assays-on-Demand(商標)(Applied Biosystems)に注文した。混入ゲノムDNAの増幅を回避するために、プライマーは、少なくとも1つのエキソン境界をカバーした。反応は、以下の最終濃度を含有する25mlの最終容量で行った:1×Universal PCR Master Mix(Applied Biosystems)、0.25mmol/lのプローブ、それぞれ0.9mmol/lのフォワード及びリバースプライマー及び2.2mlのDNAアリコート。熱サイクルは、50℃にて2分間のUNG活性化及び95℃にて10分間の最初の変性で開始した。変性後、40サイクルを行った:95℃にて15秒間、60℃にて1分間。テンプレートを含まない2つの陰性コントロールを増幅セットごとに含ませた。β-アクチンを参照として使用して、サンプルからのシグナルを規格化した。定量化は、テンプレートDNAの4倍系列希釈物(0.08〜80ng)を用いて較正曲線を作成することによって達成した。結果は、分母にβ-アクチンを用いた比として表す。
【0170】
インサイチュハイブリダイゼーション(同上)
インサイチュハイブリダイゼーションは、18のPEサンプル及び19のコントロールサンプルについて行った。クリオスタット切片を解凍して、シアリン処理したスライド上にマウントし、これを使用するまで−80℃にて保存した。新鮮な凍結組織を用いてmRNA検出を最大化した。切片を固定し、脱水し、脱脂し、ハイブリダイズさせた。80mlのハイブリダイゼーション緩衝液(20mM Tris-HCl(pH7.4)、1mM EDTA(pH8.0)、300mM NaCl、50%ホルム
アミド、10%硫酸デキストラン、1×Denhardtの25mg/ml酵母tRNA、100mg/mlサケ精子DNA、250mg/mlトータル酵母RNA(画分XI、Sigma)、150mM DTT、0.15%チオ硫酸ナトリウム(NTS)及び0.15% SDS)当たり2×106cpmの変性35S-cRNAプローブを用いて、20〜24時間、55℃でハイブリダイゼーションを行った。洗浄後、スライドをKodak Hyperfilm Biomax MRに2日間並置し、その後核トラック乳剤(nuclear track emulsion)(NTB,Kodak)で被覆した。スライドに4℃で4週間曝露し、その後Dektol(Kodak)で現像し、固定してギムザ染色で対比染色した。
【0171】
結果
抽出した胎盤タンパク質を2D-PAGEにより分離し、PEを有する患者と健常コントロール
との間のタンパク質発現の差を調べた。第1の実験設定では、400μgのサンプルをIPG-ストリップにロードし、Hoefer DALTゲル装置を用いて第2次元目を泳動した。唯一のスポ
ットが2群間で有意に異なって提示された。このスポットを同定するために、800μgのサンプルをゲルにロードし、2つのPE及び2つのコントロールサンプルの合計4つのサンプルを泳動した。定性分析のために、第2次元目を泳動した。その際、PEサンプル中に、2
つ目の異なって発現するスポットを裸眼で検出した(
図8)。この目的の2つのタンパク質スポットをゲルから打ち抜き、酵素消化し、MALDI-TOF MSを用いて同定した。第1のタンパク質をトランスフェリンと、第2のタンパク質をヘモグロビンと同定した。
【0172】
MALDIデータを用いてヘモグロビンのサブクラスを確証することはできなかった。した
がって、このスポットを更に、MS-MS分析を用いる配列分析に供した。MS-MSデータは、得られた配列がヘモグロビンのδ鎖(Hbδ)に属することを示した。タンパク質分析と一致して、リアルタイムPCRもまた、PE胎盤中で、Hbδの遺伝子発現がコントロールに対して有
意に増加したことを示した(p=0.04)(
図9)。
【0173】
インサイチュハイブリダイゼーションにより、絨毛内スペースの全体にわたるHbδ mRNAを発現する単一細胞が示された。Hbδ mRNA発現細胞は胎盤血管中及び胎盤血管の周囲に特に見られた。PE胎盤は、管の外に散在しているHbδ mRNA発現細胞がコントロールより多いようであった。トロホブラスト細胞中にはシグナルは検出されなかった。Hbδ発現細胞の細胞形態は、陽性細胞上に被さった銀粒子によって隠されていた(
図10)。
【0174】
考察
本発明者らの現在の知見は、本明細書において、PE中のHbδ-タンパク質及び対応する
遺伝子の増加した発現を証明することによって胎盤の造血を支持している。
胎盤では、増加したレベルのHbδ mRNAがタンパク質に翻訳される。本発明者らは本明
細書中で、このタンパク質がPE胎盤中に蓄積されることを示した。しかし、産生されるHb鎖がポルフィリン環及びFeイオンを有する機能的なHb分子に編成されるかは確かではない
。鉄の輸送及び細胞取り込みはトランスフェリン(TF)により促進される。本発明者らの2D-ゲルにより、PE胎盤は細胞内TFが欠乏していることが示される。PE胎盤中でのTFタンパク質の欠乏は、Hbδ発現細胞集団中への鉄輸送の損傷を反映している可能性がある。よって、Hb産生細胞は鉄供給を欠損し、PE胎盤中でのHb鎖及び/又は機能不全Hb分子の蓄積を導いている可能性がある。
【0175】
興味深いことに、インサイチュハイブリダイゼーションはHbδのmRNA発現を示したにもかかわらず、コントロール胎盤ではヘモグロビンは蓄積しなかった。健常胎盤は、PE胎盤とは対照的に、タンパク質分解の調節によるか、又は単に造血の髄外部位であることによるかのいずれかでHbの産生を調節できる可能性がある。欠損Hb合成は赤芽球の欠損を導き、次いでこれらは耐性が減少し、容易に崩壊し、より多い遊離Hbを導き得る。
【0176】
実施例4
HLA-DPA1 RNA発現の検出
定量的RT-PCRを行って、HLA-DPA1 RNA発現を分析した。
サンプル収集;組織サンプリング及び取扱い;RNA抽出;及びリアルタイムPCR増幅は、必要な改変を加えて実施例1に記載のように行った。
【0177】
結果
主要組織適合性複合体クラスII、DPα1(HLA-DPA1)は、他の全ての群と比較してノッチを有する群で有意にアップレギュレートされた(ノッチを有さないPEに対してはp=0.01、ノッチを有するPEに対してはp=0.02、コントロールに対してはp=0.01)(
図4Dを参照)。
【0178】
考察
ノッチを有すると診断された女性は、妊娠後期にPEを発症するリスクがより高い。しかし、ノッチを有する全ての女性がPEを発症するわけではないという事実は、ノッチを有する女性が保護遺伝子を発現するか有害遺伝子を抑制する可能性を示唆する。マイクロアレイ及びqPCRの両方が、他の全ての群に対するノッチ群におけるHLA-DPA1の発現増大を示した。HLA-DPA1は、そのメンバーが適応免疫応答の一部として外来抗原の提示を担うクラスII主要組織適合性複合体(MHC)ファミリーの一部である。クラスI MHC分子(HLAタイプG
及びE)のみがトロホブラスト細胞で発現する。これらは、胎児-母体境界で、母体免疫応答を変化させ、母体の免疫応答から胎児を保護すると考えられている。よって、MHCクラ
スII分子であるHLA-DPA1は、トロホブラストにより製造されない可能性がある。代わりに、それは、胎盤中の胎児細胞の存在に対する母体の反応であり得る。
【0179】
胎児細胞は、妊娠の間に母体循環に進入することが知られており、そのレベルは正常妊娠の過程で増加する。このことは、胎盤障壁を横切る母体系への胎児細胞の連続的な流れを示唆する。PEでは、母体循環中の胎児細胞の数が、正常血圧妊婦に対して増加している。上記のように、ノッチ群におけるHLA-DPA1の発現増大は、母体免疫系が胎盤中の「外来」抗原(具体的には、その中の胎児細胞)に対して反応している可能性を示唆している。よって、HLA-DPA1は、破壊のために細胞を同定し、タグ化することにより、胎児細胞が母体系へ進入することを予防する免疫学的障壁の構築に寄与している可能性がある。本発明者らの実験で観察されたHb-発現細胞が胎児起源であれば、HLA-DPA1はまたこれら細胞が胎盤中に漏れ出ることを予防し、そうすることによりヘモグロビン及び遊離ヘムの過剰産生から胎盤を保護している可能性がある。
【0180】
実施例5
血漿及び尿中のヘモグロビン及びα
1-ミクログロブリン濃度、α
1-ミクログロブリンによる抗酸化及びインビトロ胎盤灌流
材料及び方法
ヘモグロビン
ヘモグロビンはSigmaより購入した。オキシヘモグロビン-Aは本発明者らの研究室で以下のとおり調製した。50mlのヒト血液からの赤血球を遠心分離(1200×g,10分)により単離し、10容量のリン酸緩衝化食塩水(PBS,10mMリン酸,pH7.4;120mM NaCl及び3mM KCl)で4回洗浄した。次いで、氷上で低張性緩衝液(20容量のH
2O:1容量のPBS)中に再懸濁することにより血液細胞を溶解させた。遠心分離(14000×g,20分)によりサイトゾルから
膜を分離し、上清を4℃で15mM Tris-HCl(pH8.0)に対して3回透析した。200mlのDEAE-Sephandex A-50(Amersham Biosciences AB, Uppsala,スウェーデン)をカラムに詰め、透析した上清をゲルに適用し、15mM Tris-HCl(pH8.0)及び15mM Tris-HCl(pH8.0)+0.2M NaClからなるグラジエントにより分離した。画分を収集し、280nm、577nm及び630nmで吸光度を測定してオキシヘモグロビン-Aを同定してその濃度を決定したオキシヘモグロビンFは同じプロトコルに従ってヒト臍帯血から調製した。
【0181】
タンパク質及び抗体
[Kwasekら,2007]に記載のとおりに、組換えヒトα
1-ミクログロブリン(α
1m)をE.coliで発現させ、精製し、リフォールディングさせた。ウサギ抗-マウスイムノグロブリン、
ウサギ抗-ヘモグロビン及びブタ抗-ウサギイムノグロブリン-アルカリホスファターゼ(ALP)はDako(デンマーク)から購入した。マウスモノクローナル抗-ヘモグロビンγ鎖抗体は、Santa Cruz Biotechnologies Inc(カタログ番号sc-21756)から購入した。ウサギ抗-ヒトα
1m及びヤギ抗-ウサギイムノグロブリンはそれぞれ[Elbashirら,1990、Bjorckら,1977]に記載のように調製した。ヒトα
1mに対するモノクローナルマウス抗体(BN11.10)は、[Babiker-Mohamedら,1991]に記載のように調製した。
【0182】
ヨウ素での標識
クロマリン-T法[Greenwoodら,1963]を用いて、タンパク質を
125I(Bio-Nuclear AB, Stockholm,スウェーデン)で標識した。Sephadex G-25 カラム(PD-10,GE Healthcare)でのゲル濾過により、標識タンパク質を遊離ヨウ素から分離した。比活性は、α
1mについては約0.3MBq/μgタンパク質であり、イムノグロブリンについては0.5MBq/μgタンパク質であった。
【0183】
患者及びサンプリング
胎盤及び血液サンプルは、Lund University Hospitalに入院した女性から収集した(30
のコントロール、30のPE)。サンプリングは、書面による同意を得て実施し、スウェーデ
ン倫理委員会審査部により承認された。子癇前症は、140/90mmHgを上回る血圧かつ0.3g/Lを上回る蛋白尿と定義した{Milne、2005 #89}。両側にノッチを有する患者のみをPEな
しでノッチを有する群としてサンプリングした。
【0184】
10×10×10mm立方体の絨毛組織を出産後に取り出し、直後にドライアイス上に置いた。サンプルは、使用まで−80℃で保存した。この組織は、最大級のRNA完全性を確実にするた
めに、RNA抽出前にも凍結切片化の前にも解凍しなかった。血液サンプルは出産前に収集
し、使用までPaxgene Blood RNAシステム(Qiagen, Valencia,米国)を用いて−20℃に保
存した。これら群の種々のパラメータを表2(段落0156)に記載する。加えて、タンザニア研究の10人の患者及び10人のコントロール被検体からのサンプルを実施例5で調べた(表
1参照、段落0062及び0063)。
【0185】
ELISA
競合酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を固相ラジオイムノアッセイ(SPRIA)について記載したように使用し、[Nilsonら,1986]に記載のような緩衝液、洗浄手順及びインキュベーション時間を用いてヘモグロビン-A濃度を測定した。ヘモグロビン(Sigma)を4μg/mlで被覆し、プレートを洗浄し、ウサギ抗-ヘモグロビンと標準オキシヘモグロビン-A又は未知のサンプルのいずれかとの混合物とインキュベートし、洗浄し、ブタ-抗-ウサギIgG-ALP(Dako)とインキュベートし、洗浄し、最後に基質とインキュベートした。各工程の適切な希釈物及び試薬を別々に力価測定した。吸光度は415nmで読み取った(Bio-Rad Model 550、マイクロプレートリーダー)。全てのインキュベーション工程に使用した容量は、100μlであった。全ての実験を3連で行った。
【0186】
RIA
[Plesnerら,1975;Akerstrom,1985]に記載のようなラジオイムノアッセイ(RIA)によ
りα
1m濃度を決定した。簡潔には、ヒトα
1mに対するヤギ抗血清(0.2ml、1:6000希釈)を
125I-標識α
1m(0.1ml、約0.05pg/ml)及び未知のサンプル又は標準α
1m-濃度(0.2ml)と混
合した。希釈は0.1Mリン酸ナトリウム(pH7.5)+0.1% BSA(RIA緩衝液)で行った。室温に
て一晩インキュベート後、0.3mlのウシ血清及び1.6mlのRIA-緩衝液中15%ポリエチレングリコールを添加することにより抗体結合α
1mを沈降させ、1500×Gで40分間遠心分離し、ペレットの
125I-活性をWallac Wizard 1470 γカウンター(Perkin Elmer Life Sciences)で分析した。
【0187】
Hb-F濃度の決定
Montage Albumin Depleteキット(カタログ番号LSKAD0024;Millipore)を用いて血漿ア
ルブミンを除去した後に、ヘモグロビンFの血漿濃度をウェスタンブロッティングにより決定した。簡潔には、10のカラムからのビーズを1つのバッチ中にプールし、PBSで洗浄
し、50の同じアリコートに分けた。遠心分離後、各アリコートの上清を廃棄し、40μlの
血漿(PBSで1:1希釈)を加え、RTにて1時間2回インキュベートした。チューブを遠心分離し、上清を残し、ビーズを1mlの0.1Mグリシン-HCl(pH2.3)及び1mlの0.1M Tris-HCl(pH8)で続けて洗浄した。遠心分離及び上清の除去後、血漿を加え、再びRTにて1時間インキュベートした。遠心分離及びペレットの廃棄後、このようにアルブミンを除去した血漿10μlをSDS-PAGE(T=13.5%;C=3.3%)により分離し、600×希釈したマウス抗-ヒトHb-F/γ-鎖で、続いてウサギ抗-マウスIg(1μg/ml)及び
125I-標識ヤギ抗-ウサギIgGで下記のとおりにブロットした。Image Gauge V4.0ソフトウェア(Fuji, Tokyo,日本)及び標準ヘモグロビンF(15及び75ng/ウェル)を用いる陽性バンドの濃度測定によりヘモグロビンFの定量化を達成した。同じプロトコールを使用したがMontage Albumin Depleteキットを用いる工程を省略して、ヘモグロビンFの尿濃度を決定した。
【0188】
ウェスタンブロッティング
SDS-PAGE(T=12%、C=3.3%)を[Laemmli,1970]に記載のとおりに行った。高分子量標準(Rainbow markers, Amersham Biosciences, Buckinghamshire,英国)を用い、還元条件下でゲルを電気泳動した。分離したタンパク質を、[Matsudaira,1987]に記載のようにポリビニリデンジフルオリド(PVDF)メンブレン(Immobilon, Millipore, Bedford, MA,米国)に移した。次いで、メンブレンを適切な抗体とインキュベートし、Westerら[1997]により以前に記載されたように
125I-標識二次ヤギ抗-ウサギイムノグロブリンを用いてウェスタンブロットを行い、Fuji FLA 3000 phosphoimaging system(Fujifilm Sweden AB, Stockholm,スウェーデン)を用いてメンブレン上に現像した。
【0189】
α
1m-分子の胎盤組織抽出及び調製
[Berggardら,1999]に記載のように、α
1mを含有する分子を胎盤組織から精製した。出産後3時間以内に採取した約200gの見かけ上正常期のヒト胎盤を、200mlの50mM Tris-HCl(pH8.0)、0.25Mスクロース、2mM EDTA、ペプスタチン1mg/l、アンチパイン5mg/l、及びロイペプチン10mg/l中でPotter-Elvehjem装置及びタイトフィットのテフロン(登録商標)ペストルを使用してホモジネートした。ホモジネートを10,000Gで10分間遠心分離した。ホモジナイゼーション緩衝液中への1:1懸濁及び10,000Gで10分間の再遠心分離を繰り返すことにより、このペレットを洗浄した。上清を100,000Gで90分間遠心分離した。胎盤膜及び膜結合タンパク質を含有するこのペレットを、0.5%(w/v) Nonidet P-40(BDH Chemicals)も含有する40mlのホモジナイゼーション緩衝液中に溶解させ、20,000Gで30分間遠心分離して微粒子物質を除去した。全ての工程を氷上又は4℃で行った。Affigel Hz(20mg/ml)に製造業者の指示(Bio-Rad Laboratories, Richmond, CA,米国)に従って固定化したモノクローナルマウス抗-α
1m(BN11.10)を用いて免疫吸着アフィニティークロマトグラフィーを行った。
【0190】
インビトロ胎盤灌流
今日まで、PEの妥当な動物モデルは存在しない。遊離ヘモグロビンの効果を調べるため、本発明者らは、Henning Schneider(Greifswald,ドイツ)と共同でデュアル胎盤灌流モデルを構築している。デュアル-胎盤灌流は、胎盤血流をインビトロで研究するための十分に確立したモデルである[Schneiderら,1985]。最近、このモデルは、キサンチン及びキサンチンオキシダーゼでROS形成を誘導することによりPEを模擬するために使用された[Di Santoら,2007]。本発明者らのごく最近のデータは、キサンチンを灌流した胎盤がPE胎盤と類似する遺伝子プロフィールを有することを示している。
【0191】
ヒト胎盤に酸素化媒体を人工的に灌流させる。蠕動ポンプを用いて母体循環及び胎児循環の両方(したがって「デュアル」)を灌流する。2つの別々の回路からの媒体を漏れについてモニターする。上記の技術で媒体及び胎盤組織を分析する。
【0192】
実施例5.1
ヘモグロビン-Aは子癇前症の血漿中で上昇する
結果
結果を
図11〜12に示す。30人の子癇前症を有する患者及び30人のコントロール妊婦の血漿中の総ヘモグロビン濃度のELISAによる決定は、子癇前症群におけるほぼ2倍の増加を
示した。患者群の平均値±SDは3.01±0.39ug/mlであり、コントロール群では4.44±1.0であった。この差は有意である(P<0.05)。
【0193】
実施例5.2
ヘモグロビン-Fは子癇前症の血漿及び尿中で上昇する
血漿及び尿中の胎児ヘモグロビンは、ウェスタンブロッティングで、抗-γ鎖と反応す
る15kDa-バンドとして観察された。
図13は、2人の患者(PE1及びPE2)及び2人のコントロール被検体(コントロール1及び2)の血漿に適用したウェスタンブロッティング法の例を示す。この方法の検出限界は、血漿中では約5μg/ml、尿中では1ug/mlであった。Hb-Fの濃度を濃度測定により推定した。表1は、PE群及びコントロール群からの血漿サンプル及び尿サンプル中のHb-Fの頻度を示す。9人の患者の血漿中でバンドが見られた一方、陽性であったコントロール個体はいなかった。よって、9人の患者女性が血漿中5μg/mlより多い胎児ヘモグロビンを有しており、コントロール女性はそのような多い胎児ヘモグロビンを有していなかった。コントロール女性の血漿濃度(すなわち、正常血漿濃度)がTurpeinenら[1992]の研究により示唆されているように0.04ug/mlであると仮定すると、本発明者らの結果は、PEを有する患者の20%において胎児ヘモグロビンが125倍増加していることを示している。8人の患者及び2人のコントロールの尿がバンドを含んでいた(表3)。これら2人のコントロール個体は、マラリア感染の発生率が高いタンザニア人女性に見出された。67kDaの弱い陽性バンド(アルブミンを示す可能性が最も高い)は、全てのサンプルで等しい強度で見られた。
【0194】
【表3】
【0195】
実施例5.3
血漿ヘモグロビン-A及びFの時間依存性
子癇前症の可能性のある初期病原因子は、例えば灌流揺らぎ(faltering perfusion)、
異常着床又は飢餓による、低酸素症である。低酸素症は、胎児及び成人の両方の造血幹細胞及び始原細胞でのHb-F発現をアップレギュレートし得る[Narayanら,2005]。これは、
胎盤の物理的障壁に対する傷害と共に、ステージ1と2との間で胎児細胞及び遊離Hb-Fの母体循環中への漏れを導き得る(
図15を参照)。この疾患が進行するにつれて、数は増加し、このことは増加した遊離胎児ヘモグロビンレベルとしてモニターすることができる。母体の脈管壁が遊離胎児ヘモグロビンにより損傷を受けると、母体の血液細胞もまた死に始める。これは遊離母体ヘモグロビンレベルの増加を導き、この疾患の負のスパイラルを更に駆動する。この仮説は、Hb-Fが総Hbに先行することである。
【0196】
実施例5.4
α
1mは子癇前症の血漿及び尿中で上昇する
小さな血漿及び組織タンパク質α
1-ミクログロブリン(α
1m)がヘム-結合体[Allhornら
,2002;Larssonら,2004]及びラジカルスカベンジャー[Akerstromら,2007]であり、α
1mが遊離ヘモグロビンと混合されると、C末端テトラペプチドLIPRのタンパク質分解的除去によりヘム分解形態t-α
1mが誘導される[Allhornら,2002]。遊離ヘモグロビン及び反応性酸素種は、肝臓細胞及び血液細胞におけるα
1mの増大した産生を引き起こす[Allhornら,2002]。したがって、α
1mは、細胞及び組織成分に対するヘム誘導性及びヘモグロビン誘導性の損傷から保護することができる可能性のあるヘムアンタゴニストかつヘモグロビンアンタゴニストである。
【0197】
この仮説に合わせて、本発明者らは、α
1mの濃度が子癇前症を有する患者の血漿及び尿中で、コントロール妊婦と比較して上昇することを見出した(血漿及び尿の両方でP<0.01の有意性)(
図15)。患者の平均血漿α
1m濃度(±SD)は19.1(±5.5)ug/mlであり、コントロールでは16.1(±3.7)μg/mlであった。患者の平均尿α
1m濃度(±SD)は9.4(±5.5)μg/mlでありコントロールでは5.3(±4.6)μg/mlであった。これら結果は、1)身体が子癇前症の侵襲に対してα
1m産生増加によって応答し、そのために血漿濃度が上昇すること、及び2)α
1mが増加したヘモグロビン、ヘム、鉄及び/又はROSにより細胞中でアップレギュレートされるので、ヘモグロビン、ヘム、鉄及び/又はROSがその侵襲の成分であることを示唆している。したがって、α
1mは子癇前症侵襲に対する身体の防御反応である可能性が最も高い。結果的に、α
1m濃度の更により高いレベル(例えば32μg/ml(正常濃度の2倍))への増加は抗-子癇前症効果を有するはずであり、したがってα
1mはこの疾患の治療のための潜在的薬物である。
【0198】
実施例5.5
α
1mは抗酸化及びヘム結合により細胞成分及び組織成分を保護する
α
1mの抗酸化特性を
図16及び17で説明する。第1に、細胞外に与えたα
1mは、細胞サイトゾル及びサイトゾルタンパク質チオール基のレドックス電荷を減少させ、ヘム及びROS
によるこれら成分の酸化を阻害することができることが示された。細胞外に与えたα
1mはまた、ヘムにより誘導される細胞溶解(すなわち、細胞死)を阻害する(
図16)。コラーゲン及び低比重リポタンパク質(LDL)の酸化的改変は、多くの疾患の病因に関与し、子癇前症
におけるHb-誘導性酸化の標的でもあり得る。α
1mはコラーゲン、LDL、膜脂質及び全細胞のヘム-及びROS-誘導性酸化を阻害した。α
1mはまた、コラーゲン及びLDL上の予め形成された酸化産物を除去した(
図17)。これら作用の可能性のある機序は、酸化剤を還元するα
1mのレダクターゼ特性、酸化改変、又はその両方であり得る。
【0199】
α
1mの細胞保護効果の機序を調べるために、本発明者らは、一連の実験を行ってタンパク質と細胞結合ヘムとの間の相互作用を分析しようと試みた。第1に、細胞を10μMのヘ
ムと30分間インキュベートし、過剰なヘムを洗い流し、α
1m又はコントロールタンパク質を2又は10μMの濃度に与え、2時間インキュベートした。培養培地を残し、細胞を洗浄
して可溶化させ、培地及び可溶化細胞の両方を質量分析(
図18A)により、及び視覚的に(
図18B)分析した。ヘムは、細胞の強い茶色の着色部として観察され、代表的吸光スペクトルは400nm付近の明確でないピークを有した。α
1mを加えると、ヘムは細胞からほぼ完全に
除去され、代わりに培地中に見出された。コントロールリポカリン(lipocalin)AGPは細胞結合ヘムに効果を有さなかった。本発明者らは、子癇前症における遊離ヘムのレベルは少なくとも局所的には10μM以上に達し得、遊離ヘムの毒性効果により影響される細胞とし
ては血管を裏打ちする内皮細胞が挙げられると予測した。
【0200】
上記の幾つかの場合で記載したように、ヘモグロビン及びヘムの自己酸化により賛成した遊離ヘモグロビン、遊離ヘム及びROSによる酸化的侵襲は、子癇前症の進行の主要な病
原因子を構成すると考えられる。コラーゲン並びに内皮細胞の膜及びサイトゾルは、当然のことながら、酸化的侵襲の重要な標的である。本実施例の結果によれば、おそらく、α
1mはインビボでも遊離ヘモグロビン、ヘム及びROSによる損傷を阻害及び修復することができ、したがって子癇前症における治療薬として作用することができる。
【0201】
実施例5.6
ヘモグロビンのインビトロ灌流は胎盤漏れ及びα
1m-アップレギュレーションを誘導する
インビトロ胎盤灌流モデルを使用して、2つの別々の循環系、胎児側及び母体側で子癇前症を研究した。両方の循環系をまずリンスした。次いで、胎盤を、胎児側ではHb-A溶液(2mg/ml)で120分間、母体側では緩衝液のみで120分間灌流し(「第1灌流」)、そして両
側で緩衝液のみで120分間灌流した(「第2灌流」)。両方の循環から定期的に小さなアリ
コートを採取し、Hb-A、Hb-F及びα
1mの濃度を測定した。
図19(左側)に示すように、Hb-Aは、第1灌流の間に母体側に迅速に出現し、第2灌流の間により少ない程度になった。これは、Hb-Aの漏れ若しくは胎盤組織中の内因性産生又はその両方の結果であり得る。α
1mはまた、両方の灌流期間の間に母体側に出現した(
図19(右側))。このことは、α
1mが、ヘモグロビン灌流の結果、胎盤組織で産生されることを示唆する。最後に、Hb-Fは、おそらくは胎盤における産生及び母体の循環中への漏の結果として、第1灌流(120分)の終わり
に母体循環中に出現した。
【0202】
よって、インビトロ灌流モデルは、胎盤の障壁機能に対する胎児循環中の遊離ヘモグロビンの効果、α
1mの保護効果及び組織の保護的細胞応答を研究するために使用することができる。
【0203】
実施例5.7
互いに結合したα
1m及びヘモグロビンからなる胎盤中の新たな分子
2つの分子を溶液中で混合するとα
1mがヘモグロビンからヘム基を「盗む」ことができることは以前に示された[Allhornら,2002;Larssonら,2004]。これをインビボで達成するために、ヘモグロビン及びα
1m分子は互い必需であるべきである。このようなα
1m-ヘ
モグロビン分子の証拠は、α
1m-含有分子種の単離に続く抗-Hbブロッティングでの分析後に、胎盤抽出物中で観察された(
図20)。43-kDaタンパク質バンドは、α
1m及びHb-Aの両方に対する抗体と反応した。このバンドは、Maldi-MSペプチドマッピングにより、α
1m並びにα-及びβ-の両方のグロビン鎖を含有することが示された(示さず)。この分子のサイズは、該分子がα
1mからなる一方の鎖及びHbα又はHbγのいずれかであり得る別の1つの鎖から構成されることを示唆している。このバンドは、メルカプトエタノールの添加後には観察できなくなった。このことは、これら鎖がジスルフィド結合により一緒に保持されていることを示している。
【0204】
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【0212】
項目(本発明の具体的実施形態)
1.以下の工程:
(a)妊娠雌性哺乳動物から生物学的サンプルを得る工程;
(b)前記生物学的サンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルを測定するか又は遊離胎児ヘモグロビンのレベル及び総遊離ヘモグロビンのレベルを測定する工程;及び
(c)サンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルを参照値と比較するか又はサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルと総遊離ヘモグロビンのレベルとの間の比を参照値と比較して、前記妊娠雌性体が子癇前症を有するか否か又は子癇前症を発症するリスクが増大しているか否かを決定する工程
を含んでなる子癇前症を診断するため又は子癇前症診断を補助するための方法。
【0213】
2.前記参照値が、コントロール群からのサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベル又は遊離胎児ヘモグロビンのレベルと総遊離ヘモグロビンのレベルとの間の比であり、ここで、参照値より高いサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベル又は比が、前記妊娠雌性体が子癇前症を有するか又は子癇前症を発症するリスクが増大していることを示す項目1に記載の方法。
【0214】
3.生物学的サンプルが血液である項目1又は2に記載の方法。
4.生物学的サンプルが尿である項目1又は2に記載の方法。
5.生物学的サンプルが胎盤組織である項目1又は2に記載の方法。
6.遊離胎児ヘモグロビンのレベルが、サンプル中のヘモグロビンγ鎖(Hbγ)のレベルを測定することにより測定される項目1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【0215】
7.遊離胎児ヘモグロビンレベルが免疫学的アッセイを使用して測定される項目1〜6のいずれか1項に記載の方法。
8.免疫学的アッセイがELISAである項目7に記載の方法。
9.遊離胎児ヘモグロビンレベルが遊離胎児ヘモグロビンRNAを測定することにより決定
される項目1〜6のいずれか1項に記載の方法。
10.遊離胎児ヘモグロビンRNAがリアルタイムPCRを使用して測定される項目9に記載の方法。
11.前記哺乳動物がヒトである項目1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【0216】
12.(a)妊娠雌性哺乳動物から単離した第1の生物学的サンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルを測定するか又は遊離胎児ヘモグロビンのレベル及び総遊離ヘモグロビンのレベルを測定すること;
(b)前記妊娠雌性哺乳動物からその後に単離した第2の生物学的サンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルを測定するか又は遊離胎児ヘモグロビンのレベル及び総遊離ヘモグロビンのレベルを測定すること;及び
(c)工程(a)及び(b)で測定した値を比較すること
を含んでなり、ここで、第1のサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンレベルに対する第2のサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンレベルの増加又は第1のサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルと総遊離ヘモグロビンのレベルとの間の比に対する第2のサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルと総遊離ヘモグロビンのレベルとの間の比の増加が、子癇前症の進行を示し;第1のサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンレベルに対する第2のサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンレベルの減少又は第1のサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルと総遊離ヘモグロビンのレベルとの間の比に対する第2のサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルと総遊離ヘモグロビンのレベルとの間の比の減少が子癇前症の退行を示す、子癇前症の進行又は退行をモニターする方法。
【0217】
13.以下の工程:
(a)治療前の妊娠雌性哺乳動物から得た第1の生物学的サンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルを測定するか又は遊離胎児ヘモグロビンのレベル及び総遊離ヘモグロビンのレベルを測定する工程;
(b)治療後の同じ妊娠哺乳動物からの第2の生物学的サンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルを測定するか又は遊離胎児ヘモグロビンのレベル及び総遊離ヘモグロビンのレベルを測定する工程;及び
(c)(a)で決定したレベルを(b)で決定したレベルと比較する工程
を含んでなり、ここで、第1のサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンレベルに対する第2のサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンレベルの減少又は第1のサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルと総遊離ヘモグロビンのレベルとの間の比に対する第2のサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルと総遊離ヘモグロビンのレベルとの間の比の減少が、前記治療が子癇前症の治療に対して効果的であることを示す、子癇前症ついての治療の効力を評価する方法。
【0218】
14.妊娠雌性哺乳動物の生物学的サンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルを測定する手段及び前記検出手段を使用するための指示書を含んでなる、項目1〜11のいずれか1項に記載の方法に従う、子癇前症の診断又は該診断の補助のためのアッセイキット。
15.遊離胎児ヘモグロビンのレベルがヘモグロビンγ鎖(Hbγ)のレベルを測定することにより測定される項目14に記載のアッセイキット。
16.総遊離ヘモグロビンのレベルを検出するための手段を更に含んでなる項目14又は
15に記載のアッセイキット。
【0219】
17.以下の工程:
(a)妊娠雌性哺乳動物から生物学的サンプルを得る工程;
(b)前記生物学的サンプル中の遊離ヘモグロビンのレベルを測定するか又は遊離ヘモグロビンサブユニットのレベル及び総遊離ヘモグロビンのレベルを測定する工程;及び
(c)サンプル中の遊離ヘモグロビンのレベルを参照値と比較するか又はサンプル中の遊離ヘモグロビンサブユニットのレベルと総遊離ヘモグロビンのレベルとの間の比を参照値と比較して、前記妊娠雌性体が子癇前症を有するか否か又は子癇前症を発症するリスクが増大しているか否かを決定する工程
を含んでなる子癇前症を診断するため又は子癇前症診断を補助するための方法
【0220】
18.前記参照値が、コントロール群からのサンプル中の遊離ヘモグロビンのレベル又は遊離ヘモグロビンサブユニットのレベルと総遊離ヘモグロビンのレベルとの間の比であり、ここで、参照値より高いサンプル中の遊離ヘモグロビンのレベル又は比が、前記妊娠雌性体が子癇前症を有するか又は子癇前症を発症するリスクが増大していることを示す、項目17に記載の方法。
【0221】
19.生物学的サンプルが血液である項目17又は18に記載の方法。
20.生物学的サンプルが尿である項目17又は18に記載の方法。
21.生物学的サンプルが胎盤組織である項目17又は18に記載の方法。
【0222】
22.遊離ヘモグロビンのレベルが、サンプル中のヘモグロビンα鎖(Hbα)、ヘモグロビンβ鎖(Hbβ)、ヘモグロビンδ鎖(Hbδ)、ヘモグロビンγ鎖(Hbγ)及び/又は総遊離ヘモ
グロビンのレベルを測定することにより測定される項目17〜21のいずれか1項に記載の方法。
23.遊離ヘモグロビンレベルが免疫学的アッセイを使用して測定される項目17〜22のいずれか1項に記載の方法。
【0223】
24.免疫学的アッセイがELISAである項目23に記載の方法。
25.遊離ヘモグロビンレベルが遊離ヘモグロビンRNAを測定することにより決定される
項目17〜22のいずれか1項に記載の方法。
26.遊離ヘモグロビンRNAがリアルタイムPCRを使用して測定される項目25に記載の方法。
27.前記哺乳動物がヒトである項目17〜26のいずれか1項に記載の方法。
【0224】
28.(a)妊娠雌性哺乳動物から単離した第1の生物学的サンプル中の遊離ヘモグロビンのレベルを測定すること;
(b)前記妊娠雌性哺乳動物からその後に単離した第2の生物学的サンプル中の遊離ヘモグロビンのレベルを測定すること
を含んでなり、ここで、第1のサンプル中の遊離ヘモグロビンレベルに対する第2のサンプル中の遊離ヘモグロビンレベルの増加が、子癇前症の進行を示し;第1のサンプル中の遊離ヘモグロビンレベルに対する第2のサンプル中の遊離ヘモグロビンレベルの減少が子癇前症の退行を示す、子癇前症の進行又は退行をモニターする方法。
【0225】
29.遊離ヘモグロビンのレベルが、ヘモグロビンα鎖(Hbα)、ヘモグロビンβ鎖(Hbβ)、ヘモグロビンδ鎖(Hbδ)、ヘモグロビンγ鎖(Hbγ)及び/又は総遊離ヘモグロビンのレベルを測定することにより測定される項目28に記載の方法。
【0226】
30.以下の工程:
(a)治療前の妊娠雌性哺乳動物から得た第1の生物学的サンプル中の遊離ヘモグロビンのレベルを測定する工程;
(b)治療後の同じ妊娠哺乳動物からの第2の生物学的サンプル中の遊離ヘモグロビンのレベルを測定する工程;及び
(c)(a)で決定したレベルを(b)で決定したレベルと比較する工程
を含んでなり、ここで、第1のサンプル中の遊離ヘモグロビンレベルに対する第2のサンプル中の遊離ヘモグロビンレベルの減少が、前記治療が子癇前症の治療に対して効果的であることを示す、子癇前症ついての治療の効力を評価する方法。
【0227】
31.遊離ヘモグロビンのレベルが、ヘモグロビンα鎖(Hbα)、ヘモグロビンβ鎖(Hbβ)、ヘモグロビンδ鎖(Hbδ)、ヘモグロビンγ鎖(Hbγ)及び/又は総遊離ヘモグロビンのレベルを測定することにより測定される項目30に記載の方法。
【0228】
32.妊娠雌性哺乳動物の生物学的サンプル中の遊離ヘモグロビンのレベルを測定する手段及び前記検出手段を使用するための指示書を含んでなる、項目17〜27のいずれか1項に記載の方法に従う、子癇前症の診断又は該診断の補助のためのアッセイキット。
33.遊離ヘモグロビンのレベルが、ヘモグロビンα鎖(Hbα)、ヘモグロビンβ鎖(Hbβ)、ヘモグロビンδ鎖(Hbδ)、ヘモグロビンγ鎖(Hbγ)及び/又は総遊離ヘモグロビンのレ
ベルを測定することにより測定される項目32に記載のアッセイキット。
【0229】
34.ヘモグロビン結合剤及び/又はヘム結合剤;ヘモグロビン分解及び/又はヘム分解を刺激する薬剤;及び胎盤の造血を阻害する薬剤からなる群より選択される少なくとも1つのメンバーを含んでなる組成物の、子癇前症の治療又は予防のための医薬調製物の製造のための使用。
35.前記ヘモグロビン結合剤及び/又はヘム結合剤がα1-ミクログロブリンである項目34に記載の使用。
36.前記ヘモグロビン結合剤及び/又はヘム結合剤がヘモグロビン及び/又はヘムに対して特異的な抗体である項目34に記載の物質の使用。
【0230】
37.治療又は予防を必要とする対象に、ヘモグロビン結合剤及び/又はヘム結合剤;ヘ
モグロビン分解及び/又はヘム分解を刺激する薬剤;及び胎盤の造血を阻害する薬剤から
なる群より選択される少なくとも1つのメンバーを含んでなる有効量の医薬調製物を投与することを含んでなる子癇前症の治療又は予防方法。
38.前記ヘモグロビン結合剤及び/又はヘム結合剤がα1-ミクログロブリンである項目37に記載の方法。
39.前記ヘモグロビン結合剤及び/又はヘム結合剤がヘモグロビン及び/又はヘムに対して特異的な抗体である項目37に記載の方法。
【0231】
40.以下の工程:
(a)妊娠雌性哺乳動物から生物学的サンプルを得る工程;
(b)前記生物学的サンプル中のヒト白血球抗原DPA1(HLA-DPA1)のレベルを測定する工程;及び
(c)サンプル中のHLA-DPA1のレベルを参照値と比較する
を含んでなる子癇前症の予後のための方法。
41.工程(a)〜(c)が、前記妊娠雌性体が子癇前症を発症するリスクが増大しているか否か又は重篤形態の子癇前症を発症するリスクが増大しているか否かを決定するために行う項目40に記載の方法。
【0232】
42.HLA-DPA1の発現又は高発現がHLA-DPA1の無発現より良好な予後を示す項目40又は41に記載の方法。
42.妊娠雌性哺乳動物の生物学的サンプル中のHLA-DPA1のレベルを検出するための手段及び前記検出手段を使用するための指示書を含んでなる項目40〜42のいずれか1項に記載の方法に従う、子癇前症の予後又は該予後を補助するためのアッセイキット。