特許第5792800号(P5792800)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5792800
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】架橋の触媒反応
(51)【国際特許分類】
   C08F 38/00 20060101AFI20150928BHJP
   C08G 83/00 20060101ALI20150928BHJP
   C08G 73/00 20060101ALI20150928BHJP
   C08G 59/68 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   C08F38/00
   C08G83/00
   C08G73/00
   C08G59/68
【請求項の数】16
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2013-509577(P2013-509577)
(86)(22)【出願日】2011年5月16日
(65)【公表番号】特表2013-526632(P2013-526632A)
(43)【公表日】2013年6月24日
(86)【国際出願番号】EP2011057864
(87)【国際公開番号】WO2011141578
(87)【国際公開日】20111117
【審査請求日】2014年2月7日
(31)【優先権主張番号】1050631-9
(32)【優先日】2010年6月18日
(33)【優先権主張国】SE
(31)【優先権主張番号】1050475-1
(32)【優先日】2010年5月14日
(33)【優先権主張国】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】512264611
【氏名又は名称】ネクサム ケミカル エイビー
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】ローゼンベリ ヤン−エリク
(72)【発明者】
【氏名】ラーゲル エリク
(72)【発明者】
【氏名】レメ ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ペルション ダーヴィド
【審査官】 中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−077192(JP,A)
【文献】 特開2005−060692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00−246/00
C08G 83/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
−C(O)−、−C(O)O−、−C(O)NH−、−C(O)NC1−5アルキル、
【化1】
−SO−、および−Phからなる群から選択される基と共役している炭素−炭素三重結合を含むオリゴマーもしくはポリマーの鎖伸長および/または架橋のための触媒としての、
環状脂肪族第三級アミン、非局在化芳香族電子の一部である1つの電子対および非局在化芳香族電子の一部ではない1つの電子対を有する芳香環内に少なくとも1つの窒素原子を含むヘテロアリール、または第三級求核性有機リン化合物の使用。
【請求項2】
前記オリゴマーまたはポリマーは、フェニルエチニル基、プロピノイル基、ならびに/またはフェニルエチニル基およびプロピノイル基を含む基を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記環状脂肪族第三級アミンまたは前記ヘテロアリールは、置換可能な水素原子を有する窒素原子を含まず、
前記ヘテロアリールは、炭素、窒素および共有結合で結合された水素原子のみを含むか、または、炭素、窒素、酸素および共有結合で結合された水素原子のみを含み、
前記ヘテロアリールは置換されていない、または前記ヘテロアリールは、独立に、−OC1−5アルキル、−N(C1−5アルキル)、およびC1−5アルキルからなる群から選択される1以上の基で置換されている、請求項1または請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記触媒は、前記ヘテロアリールであり、前記ヘテロアリールは単環式である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
前記ヘテロアリールは式(Xa)〜(Xj)のいずれか1つの化合物
【化2】
(式中、
A1は、NC1−5アルキル、または「O」(酸素)であり;
A2〜A6は、独立に、CH、CR10、および「N」(窒素)から選択され、A2〜A6のうちの少なくとも2つは、互いに独立に、CHまたはCR10であり;
「n」は0(ゼロ)〜3の整数であり;
R10は、1以上のR10が存在する場合、独立に、C1−5アルキル、OC1−5アルキル、N(C1−5アルキル)、およびフェニルから選択される)
である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
A1はNC1−5アルキルであり、整数「n」は0(ゼロ)または1である、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記ヘテロアリールは4−ジメチルアミノピリジン、または1−メチルイミダゾールである、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記触媒は前記第三級求核性有機リン化合物であり、
前記第三級求核性有機リン化合物は、式(XII)の化合物
PR151617(XII)
(式中、R15、R16、およびR17は、互いに独立に、C1−5アルキル、フェニル、OC1−5アルキル、およびOフェニルからなる群から選択される)
である、請求項1に記載の使用。
【請求項9】
前記第三級求核性有機リン化合物は、トリフェニルホスフィン(PPh)、トリブチルホスフィン(PBu)、トリメチルホスフィン(PMe)、フェニルジメチルホスフィン(PPhMe)、およびトリフェニルホスファイト(P(OPh))からなる群から選択される、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記使用は、式(I)または(II)の化合物
【化3】
(式中、
R1およびR2は、互いに独立に、水素またはC1−4アルキルであり;
R4およびR5は、互いに独立に、C1−5アルキルまたはOC1−5アルキルであり;
Aは、O、NC1−5アルキル、またはCHであり;
R6は、C1−5アルキルまたはOC1−5アルキルである)
の、共触媒としての使用をさらに含む、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
前記使用は、鎖伸長および/または架橋される三重結合の量に対して少なくとも5モルパーセントの前記触媒の使用を含む、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
前記オリゴマーまたは前記ポリマーは、オリゴイミドまたはポリイミド、ポリアミドまたはエポキシ樹脂である、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の使用。
【請求項13】
前記オリゴマーまたは前記ポリマーは、PEPA(フェニルエチニルフタル酸無水物)、EPA(エチニルフタル酸無水物)、5,5’−(エチン−1,2−ジイル)ビス(イソベンゾフラン−1,3−ジオン)、5−(プロパ−1−イン−1−イル)イソベンゾフラン−1,3−ジオン、および/または5−(3−フェニルプロパ−2−イノイル)イソベンゾフラン−1,3−ジオンの使用によって得ることができる、請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
前記オリゴマーまたは前記ポリマーは、式(IVa)および/または(IVb)の残基
【化4】
(式中、
R25は、水素、C1−5アルキル、またはフェニルであり、前記フェニルは、ハロゲン、C1−5−アルキル、および/またはトリフルオロメチルによって置換されていてもよく;
波線は、前記オリゴマーまたは前記ポリマーへの結合点を示す)
を含むオリゴマーまたはポリマー;
式(IVa1)、(IVa2)、(IVa3)、(IVb1)、(IVb2)または(IVb3)の残基
【化5】
(式中、
R25は、水素、C1−5アルキルまたはフェニルであり、前記フェニルは、ハロゲン、C1−5−アルキル、トリフルオロメチルによって置換されていてもよく;
波線は、前記オリゴマーまたはポリマーへの結合点を示す)
を含むオリゴマーまたはポリマー;
式(IV)の残基
【化6】
(式中、
波線は、前記オリゴマーもしくは前記ポリマーへの結合点を表し;
「Ar」はアリールまたはヘテロアリールであり;
R3は、「n」が2以上である場合、独立に、C1−4アルキル、OC1−4アルキル、ハロゲン、シアノ、ニトロ、C1−4フルオロアルキルからなる群から選択され;
置換基(複数可)R3は、「Ar」のいずれの置換可能な原子(複数可)に連結されていてもよく;
「n」は0(ゼロ)〜5の整数である);
式(IV1)、(IV2)または(IV3)の残基
【化7】
(式中、
波線は、前記オリゴマーもしくは前記ポリマーへの結合点を表し;
「Ar」は、アリールまたはヘテロアリールであり;
R3は、「n」が2以上である場合、独立に、C1−4アルキル、OC1−4アルキル、ハロゲン、シアノ、ニトロ、C1−4フルオロアルキルからなる群から選択され;
置換基(複数可)R3は、「Ar」のいずれの置換可能な原子(複数可)に連結されていてもよく;
「n」は0(ゼロ)〜5の整数である)
を含むオリゴマーまたはポリマーである、請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
式(IVa1)、(IVa2)または(IVa3)におけるR25がメチルであり、式(IV1)、(IV2)または(IV3)における「Ar」がフェニルである請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記オリゴマーまたは前記ポリマーは、芳香族二無水物の少なくとも1つの残基および芳香族ジアミンの少なくとも1つの残基を含むオリゴイミドまたはポリイミドであり、
前記芳香族ジアミンは、1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、または一般式(XXI)のジアミン
【化8】
(式中、
前記アミノ基は、前記ベンゼン残基の中のいずれかの置換可能な炭素原子に連結されており;
「L」は、直接の結合、または−O−、−S−、−C(O)−、−C(CH−、−C(CF−、−CH−、3−オキシフェノキシ基、4−オキシフェノキシ基、4’−オキシ−4−ビフェノキシ基、および4−[1−(4−オキシフェニル)−1−メチルエチル]フェノキシ基からなる群から選択される部分である)
であり;
前記芳香族二無水物は、ピロメリト酸二無水物または一般式(XX)の二無水物
【化9】
(式中、
「G」は、直接の結合、またはカルボニル基、メチレン基、スルホン基、スルフィド基、エーテル基、−C(O)−フェニレン−C(O)−基、イソプロピリデン基、ヘキサフルオロイソプロピリデン基、3−オキシフェノキシ基、4−オキシフェノキシ基、4’−オキシ−4−ビフェノキシ基、および4−[1−(4−オキシフェニル)−1−メチルエチル]フェノキシ基からなる群から選択される二価の基を表し;
「G」は、それぞれ、前記イソベンゾフラン−1,3−ジオン残基の中の4位または5位および4’位または5’位に連結されている)
である、請求項1から請求項15のいずれか1項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素−炭素三重結合を含むオリゴマーまたはポリマー(アセチレン性ポリマー)の鎖伸長および/または架橋のための触媒の使用に関する。さらに、本発明は、このような鎖伸長および/または架橋のための方法に関する。また本発明は、架橋反応のために使用される触媒組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーは、他の材料、例えば金属に対する置換材料として長い間使用されてきた。ポリマーは、軽量材料であるという長所を有し、ポリマーは成形が比較的容易である。しかしながら、ポリマーは、典型的には、金属と比較してより低い機械的強度しか有しない。さらに、ポリマーは耐熱性がより低い。
【0003】
耐久性のあるポリマーに対する必要性は、芳香族ポリイミドの開発につながった。ポリイミドはイミド結合を含むポリマーである。芳香族ポリイミドは、典型的には、芳香族カルボン酸二無水物モノマー、例えばピロメリト酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸無水物、2,2−ビス−[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]−プロパン二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物または3,3’,4,4’−テトラカルボキシビフェニル二無水物と、芳香族ジアミンモノマー、例えば4,4’−オキシジアニリン、1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、1,3−ビス−(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス−(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、メチレンジアニリンまたは3,4’−オキシジアニリンとの縮合によって合成される。
【0004】
ピロメリト酸二無水物および4,4’−オキシジアニリンの縮合によって得られるポリイミドは、とりわけ、商標Vespel(登録商標)およびMeldin(登録商標)として販売されている。それらは軽量で柔軟性のある材料であり、かつそれらは、熱および化学物質に対して良好な耐久性を有する。
【0005】
さらに、熱硬化したポリイミドは、特有の良好な特性、例えば磨耗および摩擦特性、良好な電気特性、耐放射線性、良好な極低温度安定性ならびに良好な難燃特性を有する。それゆえ、熱硬化したポリイミドは、フレキシブルケーブル用にエレクトロニクス産業で、磁石ワイヤー上の絶縁フィルムとして、および医療用チューブ用に、使用される。ポリイミド材料は、良好な温度特性が機能にとって必須だからである構造部として、高温または低温に曝露される応用例でも使用される。
【0006】
航空機および航空宇宙用途において使用するための、機械的特性を保ちながらポリイミドの加工性を改善する必要性は、架橋技術の導入につながった。ポリマー鎖は架橋されるので、ポリマー鎖は短くてもよく、一方で、機械的特性は維持されるかまたはさらに改善される。より短いポリマー鎖は、より加工しやすいという長所を有する。なぜなら、ポリマーの溶融物または溶液の粘度がより低いからである。
【0007】
このような架橋技術の例としては、ビスマレイミド類およびナジミド系PMR樹脂が挙げられる。これらは、250℃付近の温度で硬化を起こす。しかしながら、このような熱硬化したポリイミドは、200℃を超える温度での長期の曝露の際の酸化的分解に耐えないであろう。なぜなら、架橋部分が、オリゴイミド単位と比較して劣る熱安定性しか有しないからである。
【0008】
熱安定性を改善する試みとして、フェニルエチニル置換芳香族種を反応性部分として含有する熱硬化したポリイミドが開発された。
【0009】
特許文献1は、フェニルエチニル末端イミドオリゴマー(PETI)を開示する。このようなオリゴマーは、最初に二無水物(複数可)および過剰のジアミン(複数可)からアミノ末端アミド酸オリゴマーを調製し、その後、得られたアミノ末端アミド酸オリゴマーをフェニルエチニルフタル酸無水物(PEPA)で末端封鎖することにより調製されてもよい。このアミド酸オリゴマーは、その後、対応するイミドオリゴマーへと脱水される。
【0010】
加熱の際に、この三重結合は反応して、当該末端封鎖されたポリイミドを架橋し、これによりその耐熱性および機械的強度をさらに改善することになる。特許文献1に開示されているとおり、PETIを硬化するために少なくとも350℃への加熱が必要である。
【0011】
しかしながら、いくつかの応用例については、高い硬化温度は、問題と考えられる可能性がある。例えば、350℃未満の溶融温度を有するフレキシブルなポリイミドフィルムの特性(例えば、熱膨張係数)は、架橋によって改善する可能性がある。しかしながら、架橋を開始するために必要とされる高温(350℃を超える)は、加工を不可能にする可能性がある。
【0012】
硬化温度を低くしてもよい場合なら、溶液からフィルムが形成されてもよい。その後、乾燥工程の間に、フィルムを溶融させることなくフィルムを加熱することにより、硬化が開始されてもよい。
【0013】
PEPAの代替として、エチニルフタル酸無水物(EPA)も、ポリイミドにおける架橋剤として使用されてきた(非特許文献1)。EPAを含むポリイミドはいくらか低い温度で、すなわち約250℃で架橋されうるが、このイミドは他の欠点を有している。フェニルエチニル基をエチニル基に交換したことは、所望の硬化機構以外の反応経路、例えば鎖伸長、が有利になるということを暗示する。結果として、EPAは、低温硬化性末端封鎖剤としての、PEPAの置き換え物としての幅広い使用を見出していない。さらに、EPAの製造は保護基の化学を必要とし、これは、EPAの商業的潜在性を阻む。
【0014】
特許文献2は、上で論じた高い硬化温度という短所に対処し、硬化促進剤としての硫黄または有機硫黄誘導体の使用によって、PETIの硬化温度が低くなる可能性があるということを開示する。しかしながら、このような促進剤の導入は他の短所を抱える。特に、硬化は、架橋よりもむしろ鎖伸長を生じる。なぜなら、2つのエチニル基が1つの硫黄ラジカルと反応して、最終的にチオフェン構造を形成するからである。
【0015】
ポリイミドに対してフェニルエチニルに基づく架橋の概念を導入した後、その概念は、ポリイミド以外の他のポリマー、例えばポリ(アリーレンエーテル)でも採用されてきた(非特許文献2を参照)。アセチレン性ポリイミドと同様に、他のアセチレン性ポリマーも、架橋を開始するために高温を用いる必要性という問題を抱えている。
【0016】
すべて架橋性芳香族フッ素化プレポリマーに関する特許文献3、特許文献4、特許文献5、および特許文献6では、アニリンなどのアミン、すなわち求核性の第一級の、すなわち第三級ではないアミン、トリエチルアミン、アミノフェニルトリアルコキシシランおよびアミノプロピルトリアルコキシシラン、ならびにモリブデン、ニッケルなどを含有する有機金属化合物が、架橋性官能基としてエチニル基を含有するプレポリマーに対する触媒として使用されてもよい、ということが記載されている。しかしながら、上記の効果は、実験データによっては支持されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第5,567,800号明細書
【特許文献2】米国特許第6,344,523号明細書
【特許文献3】欧州特許第2 025 698号明細書
【特許文献4】欧州特許第1 995 635号明細書
【特許文献5】欧州特許第1 669 389号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2004/0147710号明細書
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Hergenrother,P.M.、「Acetylene−terminated Imide Oligomers and Polymers Therefrom」、Polymer Preprints,Am.Chem.Soc、1980年、第21巻、第1号、81−83頁
【非特許文献2】J.W.Connellら、「Oligomers and Polymers Containing Phenylethynyl Groups」、Polymer Reviews、2000年、第40巻、第2および3号、207−230頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
このように、当該技術分野で、アセチレン性のオリゴマーまたはポリマーの架橋が開始される温度を下げる方策についてのニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
その結果として、本発明は、環状脂肪族第三級アミン、芳香環内に少なくとも1つの窒素原子を含むヘテロアリールであって、この窒素原子が非局在化芳香族電子の一部である1つの電子対および非局在化芳香族電子の一部ではない1つの電子対を有するヘテロアリール、または第三級求核性有機リン化合物を、炭素−炭素三重結合を含むオリゴマーもしくはポリマーの鎖伸長および/または架橋のための触媒として使用することにより、上記の当該技術分野の不備および短所のうちの1以上を、単独にまたはいずれかの組み合わせで、軽減、緩和、解消または回避しようとする。このような触媒の使用によって、鎖伸長および/または架橋が開始される温度が下げられる可能性がある。
【0021】
さらなる態様は、環状脂肪族第三級アミン、ヘテロアリール、または第三級求核性有機リン化合物と、任意に、共触媒とを含み、この共触媒は、式(I)または(II)の化合物
【化1】
(式中、
R1およびR2は、互いに独立に、水素またはC1−4アルキルであり;
R4およびR5は、互いに独立に、C1−5アルキルまたはOC1−5アルキルであり;
Aは、O、NC1−5アルキル、またはCH2であり;
R6は、C1−5アルキルまたはOC1−5アルキルである)
である共触媒と、炭素−炭素三重結合を含むオリゴマーまたはポリマーと、任意に、溶媒とを含む組成物に関する。
【0022】
別の態様は、炭素−炭素三重結合を含むオリゴマーもしくはポリマーを鎖伸長および/または架橋する方法であって、
上で開示された組成物を準備する工程と、
鎖伸長および/または架橋を開始するためにこの組成物を加熱して、鎖伸長および/または架橋されたポリマーを得る工程と
を含む方法に関する。
【0023】
本発明のさらなる有利な特徴は、従属請求項に明記されている。加えて、本発明の有利な特徴は、本願明細書に開示される実施形態で詳述される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
定義:
本願および本発明に関しては、以下の定義が適用される。
【0025】
本願明細書で使用する場合、「ハロ」または「ハロゲン」は、フルオロ、クロロ、ブロモ、およびヨードを指す。
【0026】
本願明細書で使用する場合、単独で、または接尾辞もしくは接頭辞として使用される「アルキル」は、1〜12個の炭素原子を有する分枝状および直鎖の両方の飽和脂肪族炭化水素基を包含することが意図されており、炭素原子の特定数が与えられている場合には、その特定数が意図されている。例えば「C1−6アルキル」は、1個、2個、3個、4個、5個または6個の炭素原子を有するアルキルを表す。アルキル基を表す特定数が整数0(ゼロ)であるとき、水素原子が、そのアルキル基の位置における置換基として意図されている。例えば、「N(C0アルキル)」は「NH2」(アミノ)と等価である。
【0027】
本願明細書で使用する場合、単独で、または接尾辞もしくは接頭辞として使用される「アルキレニル」または「アルキレン」は、1〜12個の炭素原子を有する直鎖飽和脂肪族炭化水素基を包含することが意図されており、炭素原子の特定数が与えられている場合には、その特定数が意図されている。例えば「C1−6アルキレニル」、「C1−6アルキレン」は、1個、2個、3個、4個、5個または6個の炭素原子を有するアルキレニルまたはアルキレンを表す。アルキレニル基またはアルキレン基を表す特定数が整数0(ゼロ)であるとき、そのアルキレニル基またはアルキレン基が置換している基をつなぐための結合が意図されている。例えば、「NH(C0アルキレン)NH」は「NHNH」(ヒドラジノ)と等価である。本願明細書で使用する場合、アルキレン基またはアルキレニル基によってつながれた基は、そのアルキレン基またはアルキレニル基の最初の炭素および最後の炭素に結合されていることが意図されている。メチレンの場合は、最初の炭素および最後の炭素は同じである。例えば、「HN(C2アルキレン)NH」、「HN(C3アルキレン)NH」、「N(C4アルキレン)」、「N(C5アルキレン)」および「N(C2アルキレン)NH」は、それぞれ、1,2−ジアミノエタン、1,3−ジアミノプロパン、ピロリジニル、ピペリジニルおよびピペラジニルと等価である。
【0028】
アルキルの例としては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、sec−ブチル、t−ブチル、ペンチル、およびヘキシルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
アルキレンまたはアルキレニルの例としては、メチレン、エチレン、プロピレン、およびブチレンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
本願明細書で使用する場合、単独で、または接尾辞もしくは接頭辞として使用される「フルオロアルキル」および「フルオロアルキレン」は、対応するアルキル基およびアルキレン基の炭素のうちのいずれかに結合した水素(複数可)のうちの1個、2個、または3個がフルオロによって置き換えられている基を指す。
【0031】
フルオロアルキルの例としては、トリフルオロメチル、ジフルオロメチル、フルオロメチル、2,2,2−トリフルオロエチル、2−フルオロエチルおよび3−フルオロプロピルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
フルオロアルキレンの例としては、ジフルオロメチレン、フルオロメチレン、2,2−ジフルオロブチレンおよび2,2,3−トリフルオロブチレンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
本願明細書で使用する場合、用語「アリール」は、5〜14個の炭素原子から構成される少なくとも1つの芳香環を含む環構造を指す。5個、6個、7個および8個の炭素原子を含有する環構造は、単環式芳香族基、例えばフェニルであろう。8個、9個、10個、11個、12個、13個、または14個の炭素原子を含有する環構造は、多環式、例えばナフチルであろう。この芳香環は、1以上の環位置で置換されていてもよい。用語「アリール」は、2個以上の炭素が2つの隣り合う環に共通である2以上の環式環(これらの環は「縮合環」である)を有する多環式環系であって、それら環のうちの少なくとも1つが芳香族であり、例えば、この他の環式環はシクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、および/またはアリールであってもよいものも包含する。
【0034】
用語「オルト(ortho)」、「メタ(meta)」および「パラ(para)」は、それぞれ1,2−、1,3−および1,4−二置換ベンゼンに当てはまる。例えば、化合物名1,2−ジメチルベンゼンおよびオルト−ジメチルベンゼンは同義である。
【0035】
本願明細書で使用する場合、「ヘテロアリール」は、芳香族性(例えば6個の非局在化電子)を有する少なくとも1つの環または芳香族性(例えば4n+2個の非局在化電子。ここで「n」は整数である)を具える少なくとも2つの共役環を有し、かつ約14個までの炭素原子を含み、かつ少なくとも1つのヘテロ原子の環員(例えば硫黄、酸素、または窒素)を有する芳香族複素環を指す。ヘテロアリール基は、単環式および二環式(例えば、2つの縮合環を有する)の系を包含する。
【0036】
本願明細書で使用する場合、用語「置換可能な」は、水素が共有結合で結合されていてもよく、かつその水素の代わりに別の置換基が存在してもよい原子を指す。置換可能な原子の非限定的な例としては、ピリジンの炭素原子が挙げられる。ピリジンの窒素原子は、この定義によれば、置換可能ではない。
【0037】
実施形態
本発明者らは、脂肪族脂肪族第三級アミン、例えば環状脂肪族第三級アミン、芳香環の一部である少なくとも1つの窒素を含む求核性ヘテロアリールであって、この窒素が非局在化芳香族電子の一部である1つの電子対および非局在化芳香族電子の一部ではない1つの電子対を有し、これにより求核性である求核性ヘテロアリール、または第三級、すなわち三置換の、求核性有機リン化合物、例えば有機ホスフィン、例えばトリフェニルホスフィン、有機ホスファイト、例えばトリフェニルホスファイト、有機ホスフィナイト、および有機ホスフォナイトを、炭素−炭素三重結合を含むオリゴマーまたはポリマーを含む組成物に加えることで、当該オリゴマーまたはポリマーの鎖伸長および/または架橋が開始される温度が下がるということを明らかにした。
【0038】
従って、一実施形態は、炭素−炭素三重結合を含むオリゴマーもしくはポリマーの鎖伸長および/または架橋を触媒するための、環状脂肪族第三級アミン、芳香環の一部である少なくとも1つの窒素を含む求核性ヘテロアリールであって、この窒素が非局在化芳香族電子の一部である1つの電子対および非局在化芳香族電子の一部ではない1つの電子対を有し、これにより求核性である求核性ヘテロアリール、または第三級、すなわち三置換の、求核性有機リン化合物、例えば有機ホスフィン、例えばトリフェニルホスフィン、有機ホスフェート、例えばトリフェニルホスファイト、有機ホスフィナイト、および有機ホスフォナイトの使用に関する。
【0039】
PEPAなどの化合物の残基を含むオリゴマーおよびポリマーなどの、炭素−炭素三重結合を含むオリゴマーおよびポリマーは、それらを加熱することにより、架橋されうる。何らかの理論に結び付けられるわけではないが、エチニル部分を含む化合物の混合物の加熱の際に、これらの部分は、いずれは反応し始めるであろうと考えられる。別々の分子の2つのエチニル部分の反応により、鎖が伸長された生成物が与えられることになり、他方、別々の分子の3つのエチニル部分の反応により、3本の「腕」を持つベンゼン部分が与えられると考えられる。その後、そのような「腕」上に存在する2つまたは3つのエチニル部分は反応して、架橋生成物を形成する可能性がある。鎖伸長、しかしとりわけ架橋、は、当該技術分野で示されているとおり、エチニル部分を含むオリゴマーまたはポリマーの特性を改善するであろう。エチニル部分を含むオリゴマーまたはポリマーの、熱によって開始される鎖伸長、しかしとりわけ架橋は、硬化(curing)と呼ばれることが多い。
【0040】
鎖伸長および/または架橋される対象の炭素−炭素三重結合を含むオリゴマーまたはポリマーは、典型的には、フェニルエテニル基(すなわち−≡−Ph)として、例えば、PEPA残基、EPA残基、5,5’−(エチン−1,2−ジイル)ビス(イソベンゾフラン−1,3−ジオン)の残基もしくは5−(プロパ−1−イン−1−イル)イソベンゾフラン−1,3−ジオンの残基として、またはプロピノイル基(すなわち−≡−C(O)−)として、例えば、5−(3−フェニルプロパ−2−イノイル)イソベンゾフラン−1,3−ジオンの残基として存在してもよい。
【0041】
従って、一実施形態によれば、鎖伸長および/または架橋される対象の炭素−炭素三重結合を含むオリゴマーまたはポリマーは、フェニルエテニル基(すなわち−≡−Ph)を含んでもよい。さらに、この鎖伸長および/または架橋される対象の炭素−炭素三重結合を含むオリゴマーまたはポリマーは、プロピノイル基(すなわち−≡−C(O)−)を含んでもよい。さらには、このオリゴマーまたはポリマーは、フェニルエテニル基およびプロピノイル基を含む基、すなわちPh−≡−C(O)−基を含んでもよい。
【0042】
非局在化芳香族電子の一部である1つの電子対および非局在化芳香族電子の一部ではない1つの電子対を有する窒素原子は、置換可能ではないと呼ばれることもある。なぜなら、そのような窒素原子は、別の基に置換されていてもよい水素原子を有しないからである。
【0043】
何らかの理論に結び付けられるわけではないが、この触媒反応は三重結合への可逆的求核的付加に起因する可能性があると想定される。従って、オリゴマーもしくはポリマー内の三重結合が−C(O)−、−C(O)O−、−C(O)NH−、−C(O)NC1−5アルキル、
【化2】
SO−、−Phなどの基との共役によって活性化される場合は好ましい。一例として、この三重結合は、一般式R20−≡−C(O)−Ph−の残基(式中、フェニル基はさらに置換されていてもよく、かつ鎖伸長および/または架橋される対象のオリゴマーまたはポリマーへと共有結合で結合されており、R20は水素、C1−C5アルキルまたはフェニルであってもよく、このフェニル基はさらに置換されていてもよい)の一部であってもよい。
【0044】
さらに、この三重結合はフェニルエテニル基の一部であってもよい。フェニルエテニル基をオリゴマーおよびポリマーに導入するための化合物の例は当該技術分野で公知であり、とりわけ、PEPA、EPAおよび5,5’−(エチン−1,2−ジイル)ビス(イソベンゾフラン−1,3−ジオン)が挙げられる。
【0045】
置換可能な水素原子を保有する窒素原子は、活性化された三重結合に不可逆的に付加する可能性があるので、当該脂肪族第三級アミンまたはヘテロアリール内に置換可能な水素原子を保有する窒素原子が存在しない場合が好ましく、すなわち、存在するさらなる窒素原子のいずれもが第三級であることが好ましい。一実施形態によれば、当該ヘテロアリールは、少なくとも1つの置換可能ではない窒素原子を含むが、置換可能な窒素原子を含まない。
【0046】
一実施形態によれば、求核性ヘテロアリールの好ましい例は、4−ジC1−5アルキルアミノピリジン、例えば4−ジメチルアミノピリジン、および1−C1−5アルキルイミダゾール、例えば1−メチルイミダゾールである。求核性ヘテロアリールのさらなる例は、ベンゾイミダゾール、トリアゾール、ピラゾール、ベンゾピラゾールおよびテトラゾールを含む。加えて、求核性ヘテロアリールの他の例としては、ピリジン、テトラジン、トリアジン、オキサゾール、イソオキサゾールが挙げられる。求核性ヘテロアリールのさらなる例は、キノリン、イソキノリン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、2,4−ルチジン、および2,6−ルチジンを含む。
【0047】
一実施形態によれば、環状脂肪族第三級アミンの例としては、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンが挙げられる。
【0048】
当該求核性ヘテロアリールの対応するプロトン化された求核性ヘテロアリールは、少なくとも6、例えば少なくとも7または少なくとも9のpΚを有してもよい。より高いpΚはより求核性の化合物を示す。
【0049】
求核性を高めるために、この求核性ヘテロアリールは、一実施形態によれば、−OC1−5アルキル、例えばメトキシ、および−N(C1−5アルキル)、例えばジメチルアミノなどの電子供与性基で置換されていてもよい。一例として、プロトン化された4−ジメチルアミノピリジンのpΚは約9.5であるのに対して、プロトン化されたピリジンのpΚは約5.1である。さらに、この求核性ヘテロアリールは、C1−5アルキルで置換されていてもよい。
【0050】
一実施形態によれば、求核性ヘテロアリールは非置換である。
【0051】
一実施形態によれば、当該求核性ヘテロアリールは、炭素、窒素、任意に酸素、および共有結合で結合された水素原子のみを含む。しかしながら、使用される求核性ヘテロアリールは、プロトン化された塩、例えばHCl塩として添加されてもよい。
【0052】
この求核性ヘテロアリールはアミノ基を含んでもよいが、これらの基は、存在する場合、これまでに開示されたように、典型的には第三級である。さらには、この求核性ヘテロアリールは単環式であってもよい。
【0053】
一実施形態によれば、当該脂肪族第三級アミンは、炭素、窒素および共有結合で結合された水素原子のみを含む。しかしながら、使用される脂肪族第三級アミンは、プロトン化された塩、例えばHCl塩として加えられてもよい。さらには、複数の窒素原子がこの脂肪族第三級アミンの中に存在する場合、そのさらなる窒素(複数可)も好ましくは第三級である。複数の第三級窒素原子を含む第三級アミンの例は1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンである。
【0054】
一実施形態によれば、当該脂肪族第三級アミンは直鎖状の脂肪族第三級アミンであってもよく、一般式NR10R11R12(式中、R10〜R12は、互いに独立に、C1−C5アルキルから選択される)によって表されてもよい。
【0055】
しかしながら、直鎖状の脂肪族第三級アミンは、炭素−炭素三重結合を含むオリゴマーもしくはポリマーの鎖伸長および/または架橋を触媒することにおいては有効性がより低いことが示された。従って、当該触媒は、好ましくは、環状脂肪族第三級アミン、第三級求核性有機リン化合物、または芳香環の一部である少なくとも1つの窒素を含む求核性ヘテロアリールであって、この窒素が非局在化芳香族電子の一部である1つの電子対および非局在化芳香族電子の一部ではない1つの電子対を有する求核性ヘテロアリール、である。
【0056】
一実施形態によれば、このヘテロアリールは、式(Xa〜Xj)の化合物、
【化3】
(式中、
A1はNC1−5アルキル、または「O」(酸素)であり、例えばNC1−5アルキルであり;
A2〜A6は、独立に、CH、CR10、および「N」(窒素)から選択され、A2〜A6のうちの少なくとも2つは、互いに独立に、CHまたはCR10であり;
「n」は0(ゼロ)〜3の整数、例えば0(ゼロ)または1であり;
R10は、(Xa)、(Xb)および(Xe)〜(Xg)のいずれの置換可能な原子に結合されていてもよく;
R10は、複数のR10が存在する場合、独立に、C1−5アルキル、例えばメチル、OC1−5アルキル、例えばメトキシ、N(C1−5アルキル)、例えばジメチルアミノ、およびアリール、例えばフェニルから選択される)
であってもよい。
【0057】
式(Xj)の化合物では、A4がCR10である場合が好ましい。整数「n」が0(ゼロ)とは異なる、例えば1である式(Xa)の化合物では、2位の炭素、すなわち1位にあるNと3位にあるA1との間の炭素が置換されていることが好ましい。
【0058】
一実施形態によれば、当該ヘテロアリールは、式(Xa)、(Xc)、または(Xj)の化合物であってもよい。式(Xi)の化合物では、A2、A3、A5およびA6は、すべてCHであってもよい。さらには、式(Xa)および(Xc)中のA1は、NC1−5アルキルであってもよい。
【0059】
一例として:
式Xaの化合物は1−メチルイミダゾールであってもよく;
式Xbの化合物は1−メチルピラゾールであってもよく;
式Xcの化合物は1−メチルベンゾイミダゾールであってもよく;
式Xdの化合物は1−メチルベンゾピラゾールであってもよく;
式Xeの化合物は2−メチル−1,2,3−トリアゾールであってもよく;
式Xfの化合物は1−メチル−1,2,4−トリアゾールであってもよく;
式Xgの化合物はオキサジアゾールであってもよく;
式Xhの化合物は2−メチルテトラゾールであってもよく;
式Xiの化合物は1−メチルテトラゾールであってもよく;
式Xjの化合物は4−ジメチルアミノピリジンであってもよい。
【0060】
一実施形態によれば、当該第三級求核性有機リン化合物は、式(XII)の化合物
PR151617(XII)
(式中、
R15、R16、およびR17は、互いに独立に、C1−5アルキル、アリール、例えばフェニル、OC1−5アルキル、およびOアリール、例えばフェノキシからなる群から選択される。このアリールおよびOアリールは置換されていてもよい)
であってもよい。
【0061】
第三級の、求核性有機リン化合物の例としては、とりわけ、トリフェニルホスフィン(PPh)、トリブチルホスフィン(PBu)、トリメチルホスフィン(PMe)、フェニルジメチルホスフィン(PPhMe)、トリフェニルホスファイト(P(OPh))、フェニルジフェニルホスフォナイト(PPh(OPh))、フェニルジフェニルホスフィナイト(PPhOPh)が挙げられる。
【0062】
さらには、式(I)または(II)の化合物、
【化4】
(式中、
R1およびR2は、互いに独立に、水素またはC1−4アルキル、例えばメチルであり;
R4およびR5は、互いに独立に、C1−5アルキル、例えばメチルもしくはエチル、またはOC1−5アルキル、例えばメトキシまたはエトキシであり;
Aは、O、NC1−5アルキル、例えばNMe、またはCH2であり;
R6は、C1−5アルキル、例えばメチルもしくはエチル、またはOC1−5アルキル、例えばメトキシまたはエトキシである)
の添加は、鎖伸長などの他の反応よりも、架橋を促進することが見出された。従って、このような化合物は、脂肪族第三級アミン、第三級求核性有機リン化合物または求核性ヘテロアリールの存在下で、架橋のための共触媒と考えられてもよい。
【0063】
式(I)の共触媒の例としては、アセチルアセトン(2,4−ペンタンジオン)、ジメチルアセチルアセトン、およびマロン酸ジエチルが挙げられる。式(II)の共触媒の例としては、2−アセチルブチロラクトンおよび2−アセチル−シクロペンタノンが挙げられる。
【0064】
式(I)の共触媒は対称的であってもよい。さらには、R1は水素であってもよい。同様に、R2も水素であってもよい。
【0065】
一実施形態によれば、共触媒は式(I)または(II)の化合物、例えば式(I)の化合物である。
【0066】
従って、一実施形態は、炭素−炭素三重結合を含むオリゴマーもしくはポリマーの鎖伸長および/または架橋のための触媒としての、本願明細書に開示される脂肪族第三級アミン、例えば1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、第三級求核性有機リン化合物、例えばトリフェニルホスフィンおよびトリフェニルホスファイト、または本願明細書に開示される求核性ヘテロアリール、例えば4−ジメチルアミノピリジンおよび1−メチルイミダゾールの使用に関する。この炭素−炭素三重結合は、基、例えば、フェニルエテニル基(すなわち−≡−Ph)、例えば、PEPA残基、EPA残基または5−(プロパ−1−イン−1−イル)イソベンゾフラン−1,3−ジオンの残基、およびプロピノイル基(すなわち−≡−C(O)−)、例えば、5−(3−フェニルプロパ−2−イノイル)イソベンゾフラン−1,3−ジオンの残基の一部であってもよい。
【0067】
このような使用は、任意に、本願明細書に開示される式(I)または(II)の共触媒の使用も包含する。
【0068】
このような使用は、典型的には、存在する三重結合の量に対して、少なくとも5モルパーセント、例えば少なくとも10、25、または50モルパーセント、の当該脂肪族第三級アミン、第三級求核性有機リン化合物または求核性ヘテロアリールの使用を含む。
【0069】
さらに、当該脂肪族第三級アミン、第三級求核性有機リン化合物、または求核性ヘテロアリールと、存在する場合の、共触媒との間のモル比は、約5:1〜約1:5、例えば約2:1〜約1:5または約1:1〜約1:3であってもよい。
【0070】
一実施形態によれば、鎖伸長および/または架橋のために使用されるべき触媒混合物は、本願明細書に開示されるとおり、脂肪族第三級アミン、第三級求核性有機リン化合物または求核性ヘテロアリール、共触媒、および任意に溶媒を含んでもよい。これらの成分は、約1〜5:1〜5:1〜10、例えば約1:1:2(脂肪族第三級アミン/第三級求核性有機リン化合物/求核性ヘテロアリール:共触媒:溶媒)のモル比で存在してもよい。
【0071】
このような触媒混合物の中に含まれるべき溶媒の例としては、γ−ブチロラクトン、N−メチルピロリドン、メタ−クレゾール、ジメチルアセトアミドおよびテトラヒドロフランが挙げられる。種々の溶媒の態様は、本願明細書中にこのあと記載される。
【0072】
一実施形態では、当該共触媒は溶媒としても作用してもよい。従って、別個の溶媒が必要である可能性はない可能性がある。同様に、当該触媒も、溶媒として作用してもよい。
【0073】
当該脂肪族第三級アミン、第三級求核性有機リン化合物、または求核性ヘテロアリール、および共触媒は、それぞれ、約150〜220℃の沸点を有してもよい。
【0074】
この脂肪族第三級アミン、第三級求核性有機リン化合物、または求核性ヘテロアリールおよび共触媒は、鎖伸長および/もしくは架橋の最中に、ならびに/または鎖伸長および/もしくは架橋の後に、蒸発されでもよい。同様に、存在するいずれの溶媒も、鎖伸長および/もしくは架橋の最中に、ならびに/または鎖伸長および/もしくは架橋の後に、蒸発されでもよい。
【0075】
ポリマー合成において一般に使用される溶媒であるγ−ブチロラクトン、N−メチルピロリドン、およびメタ−クレゾールは、各々、200℃をわずかに超える沸点を有するので、当該脂肪族第三級アミンまたは求核性ヘテロアリール、および(使用される場合)共触媒が、各々、約220℃未満の沸点を有する場合が好ましい。
【0076】
さらには、より低い沸点を有する溶媒、例えばジメチルアセトアミドおよびテトラヒドロフランも、使用されてもよい。
【0077】
オリゴマーもしくはポリマー、例えば炭素−炭素三重結合を含むオリゴイミドおよびポリイミド、の鎖伸長ならびに/または架橋のために有用な他の溶媒としては、シクロペンタノンおよびオルト−ジクロロベンゼンが挙げられる。
【0078】
一実施形態によれば、溶媒は、非プロトン性溶媒、例えばジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドまたはN−メチルピロリドンであってもよい。溶媒および溶媒の混合物のさらなる例は、クレゾール、クレゾール/トルエン、N−メチルピロリドン/オルト−ジクロロベンゼン、安息香酸、およびニトロベンゼンを含む。溶媒のなおさらなる例は、
フェノール溶媒、例えばフェノール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、および3,5−キシレノール;
非プロトン性アミド溶媒、例えばΝ,Ν−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジン、N−メチルカプロラクタム、およびヘキサメチルホスホロトリアミド;
エーテル溶媒、例えば1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、1,2−ビス(2−メトキシエトキシ)エタン、テトラヒドロフラン、ビス[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]エーテル、1,4−ジオキサン、およびジフェニルエーテル;
第三級アミン溶媒、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、およびトリブチルアミン;ならびに
他の溶媒、例えばジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホラン、ジフェニルスルホン、テトラメチル尿素、アニソール、イソホロン、および水
を含む。
【0079】
当該脂肪族第三級アミン、第三級求核性有機リン化合物、または求核性ヘテロアリール、共触媒および存在するあらゆる溶媒の沸点は、鎖伸長および/または架橋が起こった後の蒸発を容易にするために、できるだけ低くあるべきである。他方で、低沸点は、当該脂肪族第三級アミン、第三級求核性有機リン化合物、もしくは求核性ヘテロアリール、共触媒および/または存在するあらゆる溶媒は、鎖伸長および/または架橋が起こる前に、蒸発するであろうということを含意する可能性がある。従って、当該脂肪族第三級アミンもしくは求核性ヘテロアリール、共触媒および/または存在するあらゆる溶媒の沸点は、一実施形態によれば、150℃よりも高くてもよい。
【0080】
水による加熱を用いる場合などのいくつかの応用例では、100℃未満の沸点を持つ触媒、共触媒および溶媒が使用されてもよい。このような応用例では、すべての応用例におけるように、触媒および触媒の量は、好ましくは、溶媒の沸点よりも低い温度で鎖伸長および/または架橋をもたらすように選択されるべきである。
【0081】
別の実施形態は、少なくとも1つの炭素−炭素三重結合を含むオリゴマーもしくはポリマーを鎖伸長および/または架橋する方法に関する。このような方法では、脂肪族第三級アミン、第三級求核性求核性有機リン化合物、または求核性ヘテロアリールなどの触媒は、炭素−炭素三重結合を含むオリゴマーまたはポリマーと混合されてもよい。必ずしもではないが、典型的には、それらは溶媒の中で混合される。さらには、共触媒もこの混合物に加えられてもよい。さらには、さらなるオリゴマーまたはポリマー、例えばオリゴイミドまたはポリイミド、充填剤、強化材、色素、および可塑剤がこの混合物に加えられてもよい。触媒および炭素−炭素三重結合を含むオリゴマーもしくはポリマーを混合した後に、鎖伸長および/または架橋を開始するために、この混合物は加熱されてもよい。しかしながら、鎖伸長および/もしくは架橋を開始する前に、または鎖伸長および/もしくは架橋を開始するのと平行して、この混合物を物品、例えばフィルム、へと形作ることも実施されてもよい。このような形作りは、当該技術分野の方法に従って行ってよい。
【0082】
一例として、鎖伸長および/または架橋の触媒反応は、フィルム、例えばオリゴイミドまたはポリイミドフィルムの流延成形(キャスティング)において使用されてもよい。フィルムの流延成形は、典型的には、溶媒の使用を伴い、この溶媒にオリゴマーまたはポリマーが溶解される。ポリマーフィルムは、フィルムの流延成形またはスピンキャスト(spin casting)によって得られてもよい。形作りのさらなる例は、印刷、例えばインクジェット印刷またはスクリーン印刷である。
【0083】
従って、少なくとも1つの炭素−炭素三重結合を含むオリゴマーもしくはポリマーを鎖伸長および/または架橋する方法は、
本願明細書に開示される脂肪族第三級アミン、第三級求核性有機リン化合物、もしくは求核性ヘテロアリール、任意に、本願明細書に開示される共触媒、炭素−炭素三重結合を含むオリゴマーもしくはポリマー、任意に、少なくとも1つのさらなるポリマー、例えばオリゴイミドもしくはポリイミド、充填剤、強化材、色素、可塑剤および/または本願明細書に開示されるものなどの溶媒とを含む組成物を準備する工程と;
鎖伸長および/または架橋を開始するためにこの組成物を加熱して、鎖伸長および/または架橋されたポリマーを得る工程と;
任意に、鎖伸長および/もしくは架橋の最中に、または鎖伸長および/もしくは架橋の後に、当該脂肪族第三級アミンもしくは求核性ヘテロアリール、存在する場合は、共触媒、および/または、存在する場合は、溶媒を蒸発させる工程と
を含んでもよい。
【0084】
一実施形態によれば、当該組成物は、約220℃未満の温度で鎖伸長および/または架橋される。このような低温で鎖伸長および/または架橋する可能性は、当該オリゴマーもしくはポリマーの酸化および/または分解を防止するためには、有利である可能性がある。
【0085】
後述の実施例から明らかなように、鎖伸長および/または架橋が開始される温度は、種々のパラメータによって影響を受ける。これらとしては、用いられる触媒、共触媒および溶媒のタイプが挙げられる。さらに、このパラメータとしては、使用される触媒および共触媒の量も挙げられる。従って、この鎖伸長および/または架橋の温度は、こうして、これらのパラメータを変えることにより調整される可能性がある。
【0086】
加熱は、オリゴマーもしくはポリマー組成物の形作り、例えば押出、流延成形もしくは成形の際に、および/またはそれらの後に、行われてもよい。さらに、三重結合の鎖伸長および/または架橋反応を誘導する熱は、外部から提供されてもよいし、またはその場で発生されてもよい。
【0087】
熱を増大させること、および/または周囲の圧力を下げることにより、脂肪族第三級アミンもしくは求核性ヘテロアリール、存在するいずれの共触媒および/またはいずれの溶媒も、鎖伸長および/もしくは架橋の最中に、ならびに/または鎖伸長および/もしくは架橋の後に、少なくとも部分的に蒸発される可能性がある。
【0088】
一実施形態では、鎖伸長および/または架橋される対象の炭素−炭素三重結合を含むオリゴマーもしくはポリマーは、PEPA(フェニルエチニルフタル酸無水物)、EPA(エチニルフタル酸無水物)、5,5’−(エチン−1,2−ジイル)ビス(イソベンゾフラン−1,3−ジオン)(エチニルビスフタル酸無水物;EBPA)および/または5−(プロパ−1−イン−1−イル)イソベンゾフラン−1,3−ジオン(メチルエチニルフタル酸無水物;MEPA)の使用によって得ることができる。
【0089】
PEPA、EPA、MEPAおよび/またはEBPAの使用によって得ることができるポリマーまたはオリゴマーは、オリゴイミドまたはポリイミドであってもよい。さらには、ポリアミドも、PEPA、EPA、MEPAおよび/またはEBPAの使用によって得られうる。PEPA、EPA、MEPAおよび/またはEBPAの使用によってポリ(ブチレンテレフタレート)およびポリ(エチレンテレフタレート)などのポリ(アルキレンフタレート)が得られる可能性があるということも想定される。
【0090】
さらには、アセチレン性エポキシ樹脂も、PEPA、EPA、MEPAおよび/またはEBPAの使用によって得られる可能性がある。炭素−炭素三重結合を介した鎖伸長および/または架橋を触媒することに加えて、エポキシが固まること(hardening)も、本願明細書に開示される触媒によって触媒される可能性がある。
【0091】
一実施形態では、鎖伸長および/または架橋される対象の炭素−炭素三重結合を含むオリゴマーもしくはポリマーは、PETA(フェニルエチニルトリメリット酸無水物)とも表される5−(3−フェニルプロパ−2−イノイル)イソベンゾフラン−1,3−ジオンの、単量体として、または末端封鎖剤としての使用によって得ることができる。PETAは、下記の構造を有する。
【化5】
【0092】
PETAの、末端封鎖剤としての使用によって得ることができるポリマーまたはオリゴマーは、オリゴイミドまたはポリイミドであってもよい。さらには、ポリアミドも、PETAの使用によって末端封鎖されうる。
【0093】
PEPAと同様に、他のアセチレン性オリゴマーまたはポリマーも、PETAの使用によって得られる可能性がある。PETAの使用によってアセチレン性ポリマーとして得られうるポリマーは、ポリ(アルキレンフタレート)、例えばポリ(ブチレンテレフタレート)およびポリ(エチレンテレフタレート)、フェノール−アルデヒド樹脂およびエポキシ樹脂を含む。
【0094】
さらに、鎖伸長および/または架橋される対象の炭素−炭素三重結合を含むオリゴマーもしくはポリマーは、式(IV)の残基、
【化6】
(式中、
波線は、当該オリゴマーもしくはポリマーへの結合点を表し;
「Ar」は、アリール、例えばフェニル、またはヘテロアリールであり;
R3は、「n」が2以上である場合、独立に、C1−4アルキル、OC1−4アルキル、ハロゲン、シアノ、ニトロ、C1−4フルオロアルキルからなる群から選択され;
置換基(複数可)R3は、「Ar」のいずれの置換可能な原子(複数可)に連結されていてもよく;
「n」は0(ゼロ)〜5の整数である)
を含むオリゴマーまたはポリマーであってもよい。
【0095】
このようなオリゴマーまたはポリマーでは、Arはフェニルであってもよい。さらに、整数「n」は0(ゼロ)であってもよい。
【0096】
さらに、鎖伸長および/または架橋される対象の炭素−炭素三重結合を含むオリゴマーもしくはポリマーは、式(IV1)、(IV2)または(IV3)の残基、
【化7】
(式中、
波線は、当該オリゴマーもしくはポリマーへの結合点を表し;
「Ar」は、アリール、例えばフェニル、またはヘテロアリールであり;
R3は、「n」が2以上である場合、独立に、C1−4アルキル、OC1−4アルキル、ハロゲン、シアノ、ニトロ、C1−4フルオロアルキルからなる群から選択され;
置換基(複数可)R3は、「Ar」のいずれの置換可能な原子(複数可)に連結されていてもよく;および
「n」は0(ゼロ)〜5の整数である)
を含むオリゴマーまたはポリマーであってもよい。
【0097】
このようなオリゴマーまたはポリマーでは、Arはフェニルであってもよい。さらに、整数「n」は0(ゼロ)であってもよい。
【0098】
加えて、鎖伸長および/または架橋される対象の炭素−炭素三重結合を含むオリゴマーもしくはポリマーは、式(IVa)または(IVb)の残基
【化8】
(式中、
R25は、水素、C1−5アルキル、例えばメチル、またはフェニルであり、このフェニルは、ハロゲン、C1−5−アルキル、トリフルオロメチルによって置換されていてもよく;
波線は当該オリゴマーもしくはポリマーへの結合点を示す)
を含むオリゴマーまたはポリマーであってもよい。
【0099】
さらには、鎖伸長および/または架橋される対象の炭素−炭素三重結合を含むオリゴマーもしくはポリマーは、式(IVa1)、(IVa2)、(IVa3)、(IVb1)、(IVb2)または(IVb3)の残基、
【化9】
(式中、
R25は、水素、C1−5アルキル、例えばメチル、またはフェニルであり、このフェニルは、ハロゲン、C1−5−アルキル、トリフルオロメチルによって置換されていてもよく;
波線は当該オリゴマーもしくはポリマーへの結合点を示す)
を含むオリゴマーまたはポリマーであってもよい。
【0100】
別の実施形態は、本願明細書に開示される脂肪族第三級アミン、第三級求核性求核性有機リン化合物、または求核性ヘテロアリールと、任意に、本願明細書に開示される共触媒と、任意に、本願明細書に開示される溶媒と、炭素−炭素三重結合を含むオリゴマーまたはポリマー、例えば、式(IV)、(IV1)、(IV2)、(IV3)、(IVa)、(IVa1)、(IVa2)、(IVa3)、(IVb)、(IVb1)、(IVb2)、または(IVb3)の残基を含むオリゴマーまたはポリマー、例えば式(IV)、(IVa)または(IVb)、例えば、式(IV)の残基を含むオリゴマーまたはポリマーとを含む組成物に関する。
【0101】
別の実施形態によれば当該組成物は、少なくとも1つのさらなるポリマー、例えばオリゴイミドもしくはポリイミド、充填剤、強化材、色素、可塑剤および/または溶媒、例えばN−メチルピロリドンをさらに含んでもよい。
【0102】
式(IV)、(IVa)または(IVb)の残基を含むオリゴマーまたはポリマーは、オリゴイミドまたはポリイミドであってもよい。典型的には、このようなオリゴイミドまたはポリイミドは、芳香族二無水物の少なくとも1つの残基および芳香族ジアミンの少なくとも1つの残基を含む。
【0103】
一実施形態によれば、当該芳香族ジアミンは、1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、または一般式(XXI)のジアミン
【化10】
(式中、アミノ基は、ベンゼン残基の中のいずれの置換可能な炭素原子に、すなわちそれぞれ2位、3位または4位、および2’位、3’位、または4’位に連結されていてもよく;「L」は、直接の結合、または−O−、−S−、−C(O)−、−C(CH−、−C(CF−、−CH−、3−オキシフェノキシ基、4−オキシフェノキシ基、4’−オキシ−4−ビフェノキシ基、および4−[1−(4−オキシフェニル)−1−メチルエチル]フェノキシ基からなる群から選択される部分である)
であってもよい。
【0104】
好ましくは、アミノ基は、それぞれのベンゼン残基の3位または4位に連結されている。対称性ジアミン、例えば、一般式(XXI)の3,3’−および4,4’−置換ジアミン、ならびに非対称性ジアミン、例えば、一般式(XXI)の3,4’−、または4,3’−置換ジアミン、が等しく可能である。
【0105】
当該技術分野で周知のように、屈曲し回転が妨げられた構造を有し、その結果、高いTgだけでなく改善された加工性および高い溶融流動性ならびに有機溶媒に対する樹脂の溶解性を生じるポリイミドを調製するために非対称性の芳香族ジアミンおよび二無水物が使用されてもよい。
【0106】
一実施形態によれば、当該芳香族二無水物は、ピロメリト酸二無水物または一般式(XX)の二無水物
【化11】
(式中、「G」は、直接の結合、またはカルボニル基、メチレン基、スルホン基、スルフィド基、エーテル基、−C(O)−フェニレン−C(O)基、イソプロピリデン基、ヘキサフルオロイソプロピリデン基、3−オキシフェノキシ基、4−オキシフェノキシ基、4’−オキシ−4−ビフェノキシ基、および4−[1−(4−オキシフェニル)−1−メチルエチル]フェノキシ基からなる群から選択される二価基を表し;「G」は、当該イソベンゾフラン−1,3−ジオン残基の中の、それぞれ4位または5位および4’位または5’位に連結されていてもよい)
であってもよい。
【0107】
対称性芳香族二無水物および非対称性芳香族二無水物が等しく可能である。
【0108】
一実施形態によれば、式(IV)、(IVa)または(IVb)の残基を含むオリゴマーまたはポリマーは、ピロメリト酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸無水物、2,2−ビス−[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]−プロパン二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−テトラカルボキシビフェニル二無水物、4,4’,5,5’−スルホニルジフタル酸無水物、および5,5’−(ペルフルオロプロパン−2,2−ジイル)ビス(イソベンゾフラン−1,3−ジオン)からなる群から選択される芳香族二無水物の少なくとも1つの残基、ならびに4,4’−オキシジアニリン、1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、1,3−ビス−(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス−(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、メチレンジアニリン、および3,4’−オキシジアニリンからなる群から選択される芳香族ジアミンの少なくとも1つの残基をさらに含んでもよい。
【0109】
炭素−炭素三重結合を含むオリゴイミドまたはポリイミドは、約1,000〜20,000、例えば約2,500〜10,000の数平均分子量を有してもよい。数平均分子量、および重量平均分子量は、多角度光散乱(MALS)検出および屈折率(RI)検出の組み合わせの使用によって、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)またはサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用いて決定されてもよい。
【0110】
炭素−炭素三重結合を含むオリゴイミドは、一実施形態によれば、約1,000〜10,000、例えば約2,500〜7,5000の重量平均分子量を有してもよい。さらに、炭素−炭素三重結合を含むポリイミドは、一実施形態によれば、約1,000〜200,000、例えば約25,000〜100,000の重量平均分子量を有してもよい。
【0111】
一実施形態によれば、式(IV)中のArはフェニルである。さらに、整数「n」は0(ゼロ)であってもよい。
【0112】
Virginia Polytechnic Institute and State UniversityのDebra Lynn Dunsonによる学位論文「Synthesis and characterization of thermosetting polyimide oligomers for microelectronics packaging」(2000年)は、PEPAで末端封鎖されたオリゴイミドおよびポリイミドの調製のための指針を提供する。同様の手順を用いて、本願明細書に開示される他の架橋剤の残基、例えば、EPA、EBPA、MEPAおよびPETAを含むオリゴイミドおよびポリイミドを調製してもよい。さらに、この学位論文は、ポリイミドフィルムの流延成形および硬化の方法についての指針を提供する。従って、Virginia Polytechnic Institute and State UniversityのDebra Lynn Dunsonによる学位論文「Synthesis and characterization of thermosetting polyimide oligomers for microelectronics packaging」(2000年)は、参照により本願明細書に援用したものとする。
【0113】
別の実施形態は、本願明細書に開示される方法によって鎖伸長および/または架橋された式(IV)の残基を含むオリゴマーまたはポリマー、例えばオリゴイミドもしくはポリイミド、を含む物品に関する。典型的には、そのようなオリゴイミドまたはポリイミドを含む物品の例としては、電子機器用のフレキシブルフィルム、ワイヤー絶縁部(wire isolation)、ワイヤーコーティング、ワイヤーエナメル、インク、および耐力構造要素が挙げられる。
【0114】
さらなる詳述がなくとも、当業者は、上記の記載を使用して、本発明をその最大の範囲まで利用できると考えられる。それゆえ、本願明細書に記載される好ましい特定の実施形態は、単に説明のためのものであり、いかなる点においても、当該記載の他の部分を限定するものではないと解釈されるべきである。さらに、本発明は特定の実施形態を参照して上に記載されてきたが、本発明は、本願明細書中に示された特定の形態に限定されることは意図されていない。むしろ、本発明は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定され、上記の特定のもの以外の他の実施形態は、例えば上記のものとは異なる実施形態は、これらの添付の特許請求の範囲の中で等しく可能である。
【0115】
特許請求の範囲では、用語「含む(comprises/comprising)」は、他の要素または工程の存在を排除しない。加えて、個々の特徴は異なる請求項に含まれていてもよいが、これらは、可能であれば、有利に組み合わされてもよく、異なる請求項に含まれる事項は、特徴の組み合わせが実行可能ではなくかつ/または有利ではないということを暗示するわけではない。
【0116】
加えて、単数の参照語句は複数を排除しない。用語「1つの(a)」、「1つの(an)」、「第1の」、「第2の」などは複数を排除しない。
【実施例】
【0117】
以下の例は、単なる例であり、本発明の範囲を限定するとは決して解釈されるべきではない。むしろ、本発明は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0118】
略語
4,4−ODA 4,4’−オキシジアニリン
AA アセチルアセトアセトナート
ABL アセチルブチロラクトン
BPDA 3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
DEM マロン酸ジエチル
DMAA ジメチルアセチルアセトアセトナート
DMAP ジメチルアミノピリジン
EPA エチニルフタル酸無水物
MI N−メチルイミダゾール
NMP N−メチル−2−ピロリドン
o−DCB オルト−ジクロロベンゼン
PETA フェニルエチニルトリメリット酸無水物(5−(3−フェニルプロパ−2−イノイル)イソベンゾフラン−1,3−ジオン)
PEPA フェニルエチニルフタル酸無水物
PETI フェニルエチニル末端イミドオリゴマー
【0119】
5−(3−フェニルプロパ−2−イノイル)イソベンゾフラン−1,3−ジオン
(フェニルエチニルトリメリット酸無水物;PETA)
0.16gの酢酸パラジウム(0.78mmol)を、300mlのトルエン、54.6mlのトリエチルアミン(0.39mol)、43mlのフェニルアセチレン(0.39mol)および75gの無水トリメリット酸塩化物(0.36mol)の混合物に加えた。この混合物を室温で1.5時間撹拌し、その後、16.5mlのトリエチルアミン(0.12mol)を加えた。この混合物をさらに1時間撹拌し、その後、得られた固体を濾別した。この固体を150mlのトルエンで洗浄し、次いで750mlの酢酸エチルの中に懸濁させた。この混合物を30分間還流させ、その後、この混合物をシリカゲル床上で濾過した。濾液を真空下で濃縮し、形成した沈殿物を濾別し、トルエンで洗浄した。この固体を真空下で乾燥し、39gのPETA(0.14mol)を得た。H NMR(400MHz,CDCl): δ 8.84(q,1H,J=1.4Hz),8.74(dd,1H,J=7.8Hz),8.22(dd,1H,J=8.0Hz),7.77(m,1H) 7.59(m,2H),7.51(m,2H)。
【0120】
分析に先立って、2% 硫酸を含有するメタノールの中で生成物を加水分解し、2つの位置異性体を得た。これらの位置異性体を、デガッサー、バイナリポンプ、オートサンプラー、254nmで動作する単波長UV検出器、および1つの、シングルイオンモニタリングで動作するエレクトロスプレーイオン化源を具えるシングル四重極質量検出器から構成されるAgilent 1100システムで実施したLC/UV/MSによって分析した。移動相は0.1% 酢酸を含むHO:メタノール(50/50)であり、分離カラム(150mm×2mm)には、3μmの平均直径を有するオクタデシルコーティングされたシリカ粒子が充填されていた。PETAの加水分解によって得た2つの位置異性体は、それぞれ2.64および2.93の保持因子を有していた。両方の異性体は、m/z:277、309および331のイオンを形成することが判明した。
【0121】
5−(プロパ−1−イン−1−イル)イソベンゾフラン−1,3−ジオン(MEPA)
ブロモフタル酸無水物(50.0g、0.22mol)、トリエチルアミン(33.8mL、0.24mol)およびトルエン(220mL)を、ガラス反応器の中で、窒素(g)雰囲気で、室温で混合した。ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムクロリド(0.77g、0.001mol)、CuI(0.42g、0.002mol)およびトリフェニルホスフィン(0.87g、0.003mol)を加え、温度を50℃に上げた。プロピン(18.0g、0.45mol)を、ガス注入口を通して、3時間にわたってゆっくり加えた。この反応混合物を、ガラスフィルター漏斗に通して濾過し、溶液を乾固するまで濃縮し、粗製固体生成物(40.1g、98%)を得た。生成物をトルエンから再結晶し、淡黄色固体(24.7g、60%)を得た。
【0122】
MEPAの融点
109〜110℃(DSCを用いて決定した)
【0123】
MEPAのH−NMR
1H NMR(400MHz、d−DMSO):δ = 2.15(s,3H),7.94−8.05(m,3H)。
【0124】
メタノール分解したMEPAのHPLC−MS
およそ3mgのMEPAを、1mg/mLの濃度で無水MeOHに溶解させた。この溶液を30分間超音波処理した。200μLのMEPA溶液を、300μLのMeOH:HOAc(100:0.1)、(A)、および300μLのHO:MeOH:HOAc(95:5:0.1)、(Bと混合した。得られた混合物をLC/UV/MSに注入した(注入量2μL)。分離を、Dr.Maisch Reprosphere C18 AQカラム(100×2.1mm;dp 3μm)で実施した。移動相は40% Aおよび60% Bから構成されており、流量は0.100mL/分であった。UV検出は254nmで実施し、MSは正イオン走査モード m/z 190〜260で動作した。メチルエチニルフタル酸(MH 205およびMNa 227)に対応するR 15.6分を持つ1つのピーク、ならびにそれぞれ、メチルエチニルフタル酸モノメチルエステル(MH−HO 201およびMNa 241)の2つの位置異性体に対応するR 26.7および29.4を持つ2つのピークが認められた。
【0125】
PETAで末端封鎖されたm−フェニレンジアミン
PETA(1.0g、3.6mmol)、m−フェニレンジアミン(1.9mmol)および酢酸(8mL)をガラス反応器の中で混合し、60℃に一晩加熱した。この反応混合物を室温まで冷却し、沈殿を濾別した。この固体生成物をヘプタン(10mL)で処理し、濾過し、乾燥して、PETAで末端封鎖されたp−フェニレンジアミンを、黄色がかった/褐色の生成物(1.1g、1.8mmol)として、93%で得た。
【0126】
PETAで末端封鎖されたフェニレンジアミンを得るために上に記載したのと同じ手順を、それぞれEPAおよびPEPAで末端封鎖された対応するフェニレンジアミンについても、同様に使用した。
【0127】
実施例1〜26
EPA、PEPAまたはPETAで末端封鎖されたm−フェニレンジアミンを、触媒および/または共触媒および/または溶媒の不存在下で、ならびに存在下で、10℃/分のランプでTA instrument DSC Q2000を使用する示差走査熱量測定(DSC)によって分析した。この反応は温度依存性および時間依存性があるので、等温的に、またはより速いもしくはより遅い温度勾配を用いてこの実験を行うと、当該触媒反応および生成物の安定性について異なる閾値を生じる可能性がある。
【0128】
結果を下記の表1に要約する。表1に与えられるmol%は、m−フェニレンジアミンではなく、PETA残基に対するもの、すなわち、存在する三重結合に対するものであることに留意されたい。
【0129】
【表1】
【0130】
表1中のそれぞれ実施例5、7〜8、10〜15、17〜20、および22〜26と比較して、実施例4、6および9から明らかなように、触媒の存在により、鎖伸長および/または架橋が開始される温度は顕著に下がった。
【0131】
さらには、実施例13および14と比較して実施例15から明らかなように、共触媒の存在により、鎖伸長および/または架橋が開始される温度は顕著に下がった。
【0132】
それぞれ実施例15、17、21および22から明らかなように、触媒および/または共触媒の存在だけではなく、溶媒も、鎖伸長および/または架橋が開始される温度に影響を及ぼす可能性がある。
【0133】
実施例11から明らかなように、求核性ヘテロアリールだけではなく、脂肪族第三級アミンも、触媒として作用する可能性がある。しかしながら、実施例15と比較して実施例11から明らかなように、脂肪族第三級アミンは有効性がより低い触媒である。
【0134】
実施例9と比較して実施例10から、および実施例8と比較して実施例6から明らかなように、求核性ヘテロアリールだけではなく、第三級求核性有機リン化合物も触媒として作用する可能性がある。
【0135】
実施例22〜26から明らかなように、鎖伸長および/または架橋が開始される温度は、存在する触媒の量および共触媒の任意の存在による。
【0136】
実施例27〜29
PETAで末端封鎖されたm−フェニレンジアミンを、室温でジクロロメタン(1.5g/20ml)に溶解させた。実施例27では、さらなる添加剤を加えなかったのに対し、実施例28では、25重量%の1−メチルイミダゾールを加え、実施例29では、25重量%のピペリジン、求核性の第三級ではないアミン、を加えた。
【0137】
室温で18時間後、当該溶液を、20℃/分のランプでTA instrument TGA Q50を使用して、熱重量分析法によって分析した。この反応は温度依存性および時間依存性があるので、等温的に、またはより速いもしくはより遅い温度勾配を用いてこの実験を行うと、当該生成物の安定性について異なる閾値を生じる可能性がある。
【0138】
これらの溶液を、Bruecker 400MHz NMR分光計を使用しても分析した。
【0139】
下記の表2は、実施例27〜29を要約する。
【0140】
【表2】
【0141】
上記の表2から明らかなように、触媒の使用は、不溶性沈殿物の形成および色の変化を生じ、この色の変化は、硬化反応、すなわち鎖伸長および/または架橋を示す。第三級ではないアミンの使用も、色を発生させるが、沈殿物は形成されなかった。
【0142】
上記の表2からさらに明らかなように、第三級ではないアミンの使用は、550℃ではるかに低い残留重量を生じ、これは、ポリマー構造の不存在を示す。
【0143】
実施例28において、H−NMRによって観察した低下した強度は、不溶性高分子物質の沈殿によって説明される可能性がある。さらに、実施例29で観察された芳香族プロトンシフトの変化は、架橋剤と求核性の、第三級ではないアミンとの間の反応によって説明される可能性がある。