(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5792804
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】油性ボールペンインク組成物(Inkcompositionforoil−basedballpointpen)
(51)【国際特許分類】
C09D 11/18 20060101AFI20150928BHJP
B43K 7/02 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
C09D11/18
B43K7/02 A
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-512538(P2013-512538)
(86)(22)【出願日】2011年5月25日
(65)【公表番号】特表2013-530274(P2013-530274A)
(43)【公表日】2013年7月25日
(86)【国際出願番号】KR2011003835
(87)【国際公開番号】WO2011149268
(87)【国際公開日】20111201
【審査請求日】2014年4月11日
(31)【優先権主張番号】10-2010-0049205
(32)【優先日】2010年5月26日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】511125205
【氏名又は名称】スハン、コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】SUHAN CORPORATION
(73)【特許権者】
【識別番号】000156134
【氏名又は名称】株式会社壽
(74)【代理人】
【識別番号】100137095
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100173532
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 彰文
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】チュン、ドゥー ヤン
(72)【発明者】
【氏名】イ、スン スク
【審査官】
仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−204534(JP,A)
【文献】
国際公開第2004/072196(WO,A1)
【文献】
特開2001−279154(JP,A)
【文献】
特開2004−137324(JP,A)
【文献】
特開2001−271019(JP,A)
【文献】
特開平11−100539(JP,A)
【文献】
特開2000−212497(JP,A)
【文献】
特開2001−152069(JP,A)
【文献】
特開2001−098204(JP,A)
【文献】
国際公開第01/074956(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
i) 着色剤25〜40重量%、
ii) ポリビニルブチラール(PVB)樹脂およびポリビニルピロリドン(PVP)樹脂からなるバインダー樹脂3.5〜5重量%、
iii) 主溶剤45〜61.5重量%、および
iv) 補助溶剤10〜15重量%を含み、
前記バインダー樹脂は、前記PVB樹脂3〜4重量%および前記PVP樹脂0.5〜1重量%からなり、
前記主溶剤は、フェノキシエタノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-ブタンジオール、へキシレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、またはこれらの混合物であり、前記補助溶剤は、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、またはこれらの混合物である、
油性ボールペンインク組成物。
【請求項2】
防錆剤、防黴剤、界面活性剤、円滑剤および湿潤剤からなる群から選択される1つ以上の添加剤が前記インク組成物100重量%に対し1〜3重量%さらに含まれる、請求項1に記載の油性ボールペンインク組成物。
【請求項3】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルが前記円滑剤として含まれる、請求項2に記載の油性ボールペンインク組成物。
【請求項4】
粘度が300〜3,000mPa・sである、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の油性ボールペンインク組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の前記インク組成物が充填されている油性ボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油性ボールペンインク組成物に関する。より具体的には300〜3,000 mPa・s (cps)の低粘度で滑らかな筆感を有し、低温でも筆記可能で安定性に優れ、インクのリークのない油性ボールペンインク組成物およびそのインク組成物を用いた油性ボールペンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の油性ボールペンインクは、その粘度が10,000〜25,000mPa・s程度の高粘度である。このように従来の油性ボールペンインクは、粘度が高いことから筆感が重く、粘度が高ければ高いほど外部温度によるインクの物理的な性質、即ち粘度の変化が激しく、例えば寒い環境では筆記時にインクが円滑に流れない問題があった。
【0003】
このような高粘度の油性ボールペンインクの問題点を改善しようと、従来には低分子量樹脂と高分子量樹脂とを併用して粘度の調整を試みたものの、低分子量樹脂の使用によるインクのリークおよび高速筆記時の線切れといった問題点があらわれた。
【0004】
そのため、優れた筆感を有しながらインクのリークおよび高速筆記時の線切れのない、低粘度の油性ボールペンインクへの要求があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、低粘度で滑らかな筆感を有し、低温でも筆記可能で安定性に優れ、インクのリークのない油性ボールペンインク組成物およびそのインク組成物を用いた油性ボールペンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記本発明の目的を達成するために研究を重ねてきた結果、以下に記載された点などを特徴とする油性ボールペンインク組成物が従来の技術問題点を解決できることを確認し、本発明を完成するに至ったのである。
【0007】
即ち、本発明の油性ボールペンインク組成物は、
i) 着色剤、
ii) ポリビニルブチラール(PVB(Polyvinylbutyral))樹脂およびポリビニルピロリドン(PVP(Polyvinylpyrrolidone))樹脂を含有するバインダー樹脂、
iii) 高沸点の主溶剤および低沸点の補助溶剤を含み、インクの粘度が300〜3,000mPa・sである。
【0008】
本発明のインク組成物においてバインダー樹脂は、分子量が15,000〜35,000であるPVB樹脂と、分子量が20,000〜80,000であるPVP樹脂とを混合して使用する。
【0009】
PVB樹脂はインクに粘性を与える役割をし、好ましい含有量は3〜4重量%である。PVB樹脂の含有量が、3重量%未満であればインクの粘度が低くなりインクのリークが生じ、4重量%超であれば粘度の上昇によって筆感が悪くなり、インクの長期的な保存安定性(筆記具の保存性)が悪くなる問題がある。
【0010】
PVP樹脂は、インクに粘り気を与え、筆記時の線切れを防ぐ役割をし、好ましい含有量は0.5〜1重量%である。PVP樹脂の含有量が、0.5重量%未満であれば高い温度でインクがボールペンからリークし、1重量%超であれば筆記具の保存性が悪くなる。
【0011】
このように、本発明ではPVB樹脂とPVP樹脂とを混用して使用することにより、低粘度(従来インクの1/10〜1/20)インク組成物のインクのリークを防止し、滑らかな筆感と筆記時の線切れを補完する効果が得られる。
【0012】
本発明のインク組成物において、溶剤は55〜80重量%含まれ、主溶剤と補助溶剤とを混合して使用する。
【0013】
主溶剤としては、高沸点の特性を持つもので、例えばフェノキシエタノール(244℃)、ベンジルアルコール(205℃)、エチレングリコール(197℃)、ジエチレングリコール(244℃)、1,3-ブタンジオール(207℃)、へキシレングリコール(197℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(194℃)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(190℃)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(243℃)、またはこれらの混合物を使用することができる。主溶剤は、着色剤およびバインダー樹脂の溶解性が高く、温度の高い地域や条件でもインク内の溶剤の乾燥を防止し、インクの安定性を維持する作用をする。主溶剤は、45〜61.5重量%使用されるのが好ましい。主溶剤が45重量%未満であれば、ボールペン内のインクが気化され固体化が起こり、粘度が維持されず筆記具の保存性が悪くなる。主溶剤が61.5重量%超であれば、ボールペン使用時にリークが生じる。
【0014】
補助溶剤としては、低沸点の特性を持つもので、例えばプロピレングリコールモノメチルエーテル(120℃)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(132℃)、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、またはこれらの混合物を使用することができる。補助溶剤は、相対的に主溶剤より常温で素早く乾燥される特性を持ち、筆記後のインク乾燥の遅延性を改善し、ボールペンのチップ先でも主溶剤より素早く乾燥されインクのリークを防止する役割をする。補助溶剤は、10〜15重量%使用されるのが好ましい。補助溶剤が、10重量%未満であればインクの乾燥性が悪くなりボールペン使用時に汚れが生じ、15重量%超であれば筆記具の保存性が悪くなる。
【0015】
インク組成物において、主溶剤として低沸点(蒸気圧の高い)溶剤を使用する場合、相対的に高い温度の地域や条件で、インク内の溶剤の乾燥がインクチューブの裏およびインクチューブ(PP)の通気性によっても生じる。その結果、インクの安定性に深刻な悪影響(インクの固体化および変質の発生)を及ぼす。しかしながら、本発明では主溶剤として高沸点の溶剤を使用し、このような問題点を解決することができる。また、本発明のインク組成物においては、低沸点の補助溶剤を一緒に使用し、一般的なポールペンで生じる筆記後のインク乾燥の遅延性を改善している。また、チップ先でも補助溶剤が主溶剤より素早く乾燥されて、インクのリークを改善することができる。さらに、筆記後の乾燥時間を短くし、筆記線による汚れを防止することができる。
【0016】
本発明のインク組成物に使用される着色剤は、染料または顔料、またはこれらの混合物でありうる。着色剤は、全体インク組成物に対して25〜40重量%で添加されることができる。
【0017】
染料としては、一般的に、染料インク組成物に用いられる直接染料、酸性染料、塩基性染料、媒染染料および酸性媒染染料、酒精溶性(spirit)染料、アゾ染料、硫化染料および硫化建染(vat)染料、建染染料、分散染料、油溶性染料、食用染料、金属複合塩染料、または通常の染料インク組成物に用いられる無機または有機染料を使用することができる。インクの添加量は、インク組成物に対して20〜30重量%である。
【0018】
本発明において、顔料は、通常のボールペンインク組成物用の無機または有機顔料が用いられることができる。顔料は、使用有機溶剤に対して低い溶解性を持つものが好ましく、分散後の平均粒子の大きさは30乃至700nmが好ましい。添加顔料の量は、必要に応じ、全体インク組成物に対して5〜10重量%使用することができる。顔料は、単独または2つ以上を配合して使用することができる。必要であれば、無機顔料を使用する染料または分散剤を分散安定性に悪影響を及ぼさない程度の量で添加することができる。また、スチレン、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリルニトリルおよびオレフィン系モノマーを重合して得られる樹脂エマルジョン、インク内で膨潤して不定形となる中空(hollow)樹脂エマルジョン、そして着色剤としてエマルジョン自身を着色して得られる着色樹脂粒子からなる有機多色顔料などが挙げられる。顔料の添加量は、インク組成物に対して5〜10重量%である。
【0019】
本発明は、必要であれば、防錆剤、防黴剤、界面活性剤、円滑剤、インクのリーク防止剤または湿潤剤など、インクに悪影響を及ぼさず相溶することができる物質を添加物として含有することができる。特に、ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、円滑剤として適合である。ジベンジリエンソルビトール類は、インクのリーク防止剤として最適である。本発明のインク組成物における添加剤は、1〜3重量%含まれる。
【発明の効果】
【0020】
本発明による油性ボールペンインク組成物は、300〜3,000mPa・sの低粘度で軽くて滑らかな筆感を有し、外部の温度変化(高くなったり、低くなったり)によるインク流れの変化がほぼない。また、筆記安定性が高く、特に低温でも筆記が可能であり、使用されるチップの材質や構造によってもインクのリークが生じない。特に、蒸気圧の低い溶剤を主溶剤として使用し、インク内の溶剤の揮発を減少させ、インクの固体化や変質による品質の低下を防止することができる。さらに、バインダー樹脂として低分子量の樹脂を完全に排除し、高分子量の樹脂2種のみを混合して粘度調節および低粘度インクによるインクのリークを防ぎ、高速筆記時の線切れを防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施例を記載するが、下記の実施例は本発明の好ましい実施例であり、本発明は実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0022】
「インク組成物の製造」
表1に表示された実施例1〜4および比較例1〜6の組成に従い、それらを撹拌機で撹拌してインク組成物を得る。具体的には、溶剤を秤量した後にバインダー樹脂および界面活性剤を注入し、70〜75℃で4hr溶解した後、染料を秤量注入し、70〜75℃で15hr以上溶解させる。その後、顕微鏡で検査して合格(不溶分がなければ)であれば、顔料を注入して3hr以上分散(50℃以下を維持)させる。その後、顕微鏡検査で合格(不溶分がなく、インク内の顔料がよく分散されている)であれば、インク組成物の製造は完了される。
【0023】
「品質評価方法および基準」
上記のように製造されたインク組成物をボールペン(プラスチック管や金属管および金属チップを使用)に充填した後、試験を行う。
【0024】
(a)筆感:消費者の水準で、手書き時の滑らかな状態および筆圧に対する応答で相対比較を行う。軽い筆感は◎、普通の筆感は○、重い筆感は△で示す。
【0025】
(b)筆記保存性、インクのリークおよび高速筆記時の線切れ:高温高湿(50℃、80%および60℃、80%)の条件でボールペンを上、平、下の方向に4ヶ月以上を放置し、15日毎にインクの変質およびリーク状態(チップ先)を手書きおよび機械(荷重200g/筆角70±5度/筆記速度8m/min)での筆記検査を行う。保存性に優れ、インクのリーク発生が少ない場合は◎、普通の場合は○、不良の場合は△で示す。また、高速筆記時の線切れは機械筆記検査の結果で確認することができ、線切れがなければ◎、一部あれば○、多くあれば△で示す。
【0026】
(c)筆記の乾燥性:紙上に筆記してから5〜10秒後に線を擦り、線のにじみや汚れ状態を比較する。線のにじみと汚れが少ない場合は◎、普通の場合は○、不良の場合は△で示す。
【0027】
(d)インクの溜り:(b)条件で筆記初期時から終期(0〜1000mm以上)までチップ先に発生するインクの溜りの数で判断する。インクの溜りの数が少ない場合は◎、普通の場合は○、多い場合は△で示す。
【0028】
【表1】
【0029】
実施例1〜4のインクは、粘度が1,000〜2,000mPa・s程度で、筆感や乾燥性、筆記保存性に優れていた。また、筆記時にインクの溜りが生じず、インクのリークと高速筆記時の線切れが防止された。
【0030】
比較例1のインクは、粘度が12,000〜15,000mPa・s程度で従来のインクと類似し、安定性が劣っていた。その他に、筆感や乾燥性、インクの溜り、リーク性も悪かった。比較例2および3のインクは、比較例1と類似していた。比較例4のインクの粘度は、2,000mPa・sの低粘度であるが、補助溶剤の未使用により乾燥性、インクの溜り、リーク性が悪かった。また、比較例5のインクの粘度は、2,000mPa・sの低粘度であるが、補助溶剤の量が多くて筆記保存性能が悪かった。また、比較例6のインクの粘度は、12,000mPa・sで、粘度が高くて安定性が悪く、主溶剤の未使用により安定性が一層悪かった。