(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5792823
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】超疎水性表面を有するPVDF膜
(51)【国際特許分類】
B01D 71/34 20060101AFI20150928BHJP
B01D 61/36 20060101ALI20150928BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20150928BHJP
C08J 9/28 20060101ALI20150928BHJP
H01M 2/16 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
B01D71/34
B01D61/36
B01D69/02
C08J9/28 101
C08J9/28CEW
H01M2/16 P
【請求項の数】14
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-539326(P2013-539326)
(86)(22)【出願日】2011年11月22日
(65)【公表番号】特表2014-504946(P2014-504946A)
(43)【公表日】2014年2月27日
(86)【国際出願番号】FR2011052730
(87)【国際公開番号】WO2012069760
(87)【国際公開日】20120531
【審査請求日】2014年6月12日
(31)【優先権主張番号】1059604
(32)【優先日】2010年11月22日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(73)【特許権者】
【識別番号】513127294
【氏名又は名称】ユニベルシテ・ドウ・モンペリエ・2・シアンス・エ・テクニク
(73)【特許権者】
【識別番号】502205846
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィク
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ドウラタニ,アンドレ
(72)【発明者】
【氏名】クムネール,ダミアン
(72)【発明者】
【氏名】ブイエ,ドウニ
(72)【発明者】
【氏名】ポシヤ−ボアテイエ,セリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】リー,チア−リン
(72)【発明者】
【氏名】ライ,イユイン−イー
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ダー−ミン
【審査官】
富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−290767(JP,A)
【文献】
特開2001−342265(JP,A)
【文献】
特開昭48−012871(JP,A)
【文献】
特表平07−506395(JP,A)
【文献】
特開2006−142275(JP,A)
【文献】
特開2001−348725(JP,A)
【文献】
特開平10−273617(JP,A)
【文献】
特開平02−006831(JP,A)
【文献】
MAO PENG ET AL,Porous Poly(Vinylidene Fluoride) Membrane with Highly Hydrophobic Surface,JOURNAL OF APPLIED POLYMER SCIENCE,2005年,Vol.98,p.1358-1363
【文献】
ZHENG Z ET AL,Superhydrophobicity of polyvinylidene fluoride membrane fabricated by chemical vapor deposition from solution,APPLIIED SURFACE SCIENCE,2009年,Vol.255,p.7263-7267
【文献】
GUGLIUZZA A ET AL,New performance of hydrophobic fluorinated porous membranes exhibiting particulate-like morphology,DESALINATION,2009年,Vol.240,p.14-20
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00−71/82
C08J 9/28
H01M 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
150°以上の水接触角を有する表面を含むポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜であって、
前記水接触角は、周囲温度(21±3℃)および周囲圧力条件下で測定され、
前記表面は、5μmから12μmの間の大きさを有する、相互連結した結晶性小塊を含む、前記PVDF膜。
【請求項2】
前記相互連結した結晶性小塊が、6μmから8μmの間の大きさを有する、請求項1に記載の膜。
【請求項3】
前記小塊が、1μm未満の小塊内孔径を有する多孔性構造を有する、請求項1又は2に記載の膜。
【請求項4】
前記小塊が、5μm未満の小塊間孔径を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の膜。
【請求項5】
70%より大きい孔体積、75%より大きい孔体積、または80%以上である孔体積を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の膜。
【請求項6】
特に繊維で補強され、5バールまでの加圧水にさらされると、それが元の状態のままである、請求項1から5のいずれか一項に記載の膜。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜を製造する方法であって、
a)ある量のPVDFを溶媒に少なくとも60℃の温度で溶解するステップであり、前記溶媒が、溶媒の重量に対して3重量%から5重量%の間の水を添加して使用されるステップ、
b)そうして得られたPVDF溶液を、固体の支持体の上に塗り広げ、前記支持体の表面上にフィルムを形成するステップ、
c)前記フィルムを、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールおよびn−ブタノールから選択されるアルコールを含有する第1の浴に1分以上の時間、浸漬し、または5分以上の時間、浸漬するステップ、次いで、
d)前記支持体を、水の第2の浴に浸漬するステップ
を含む方法。
【請求項8】
前記アルコールが、イソプロパノールである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記アルコールが、メタノールである、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記溶媒が、次に挙げるもの:ヘキサメチルホスホルアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、リン酸トリメチル、1,1,3,3−テトラメチル尿素から選択される、請求項7から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
PVDF膜が、前記支持体を周囲温度下で乾燥させることにより調製される、請求項7から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1から6のいずれか一項に記載の膜、または請求項7から11のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる膜の、水の蒸留のための使用。
【請求項13】
請求項1から6のいずれか一項に記載の膜、または請求項7から11のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる膜の、ろ過膜としての使用。
【請求項14】
請求項1から6のいずれか一項に記載の膜、または請求項7から11のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる膜の、リチウム電池における使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、疎水性固体表面の分野に関するものであり、より詳細には、超疎水性表面を有するポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜に関するものである。本発明はまた、これらの膜を調製するための方法に関するものでもあり、これらの工業的適用に関するものでもある。
【背景技術】
【0002】
用語「超疎水性」は、一滴の水が150°以上の接触角を形成する表面の特徴を意味すると解されている。超疎水性は、Cassieの法則に対応する既知の物理的特性である。定義上、接触角は、2つの接触界面によりこれらの見かけの交点で形成される二面角である。この場合、表面は、水に対して「非濡れ性である」と言う。この特性は、一般に、「ロータス効果」と呼ばれている。超疎水性表面は、かなりの粗さを有する。実際、それは、Lafuma A.およびQuere D.(2003)による刊行物、:「Superhydrophobic States」、Nature Materials、2(457−460)に示されている通り、超疎水性という特性を与える、表面のナノメートルサイズの粗さである。
【0003】
ポリマー膜は、一般的に、相転換(phase inversion)法によって製造される。ポリマー溶液に非溶媒を入れることは、材料の連続マトリックスを構成する、ポリマーの多い相と、孔の元になる、ポリマーの少ない不連続相との間の分離を引き起こす。
【0004】
ゾルゲル法、プラズマ処理法、キャスト法、蒸気により誘起されるまたは溶液からの析出により誘起される相転換法などの種々の方法を使用して、疎水性の高い表面を作ることが知られている。
【0005】
蒸気誘起相転換(VIPS)法では、湿潤雰囲気中での蒸発のステップが、凝固浴への浸漬の前に行われる。この方法において、湿潤空気は、疎水性の高い階層構造の形成に重要な役割を果たす。このタイプの構造は、空気を捕捉することを可能にし、水と表面との緊密な接触を防ぐ。
【0006】
そのような構造は、先述のVIPS法を使用する、N.Zhaoら、Macromol.Rapid Commun.、2005、26、1075−1080によって得られた。この著者らは、湿潤雰囲気中で乾燥させることにより、超疎水性表面を有する、ポリカーボネート、すなわち半結晶性ポリマーのフィルムを形成することが可能であることを証明している。得られたモルフォロジーは、表面での、花状構造を有する小塊の形成を示す。
【0007】
しかし、この技術は、機械的に安定な超疎水性PVDF膜を製造することを可能にしない。
【0008】
疎水性の高いPVDF膜は、すでに記載されている。
【0009】
T.H.Youngら、Polymer:40(1999)5315−5333は、PVDFの溶液から以下の2つのモルフォロジーを得た:
−PVDF/DMFの水溶液からの析出により、非溶媒を速く入れることは、混合物が、非常に速く液体−液体脱混合(demixing)の領域になることを意味し、この場合、モルフォロジーは、多かれ少なかれマクロボイドを有するスポンジ状構造で支持された、高密度の表面スキン層でできている、従来の非対称膜のものであり;
−PVDF/DMFのオクタノール溶液からの析出により、非溶媒をゆっくり入れることは、混合物が、十分に長い時間、固体−液体脱混合の範囲(結晶化領域)にとどまることを意味し、それは、高密度の相互連結してない小塊のモルフォロジーをもたらす。
【0010】
Mao Pengら、J.Appl.Polym.Sci.:98(2005)1358−1363は、以下の3つの方法を使用して、20重量%のPVDFを含有するDMAc溶液からPVDF膜を調製した:
−水からなる凝固浴での析出による第1の方法(DMFを溶媒として用いたT.H.Youngによる研究においてすでに説明されている、従来の相分離)であり、85.2°±3.2°の水接触角をもつ、滑らかなフィルター的表面を有する非対称膜をもたらす第1の方法;
−凝固浴にDMAcを添加することによる第2の方法であり、DMAcの割合が65%と75%との間であるとき、表面が約140°±5°の水接触角を有する対称膜をもたらす(本文献の表1からのデータを参照のこと。)第2の方法。この方法により得られた膜は、高度に膨潤し、あまり機械的に安定でなく、それらの表面は、均一ではない(1362頁、右側欄、第1パラグラフに示されている。)。さらに、この方法は、多くの溶媒を消費するという欠点を有する;
−湿潤空気中でのVIPSによる析出による第3の方法であり、数百nmの大きさの高密度の球体の凝集により生じた、4ミクロンの各結晶性小塊からなる対称膜をもたらし、その表面が、一般には144°と149°との間の水接触角を有し、150.6°±0.4°の水接触角である例も有する第3の方法。
【0011】
C.Y.Kuoら、Desalination:233(2008)40−47は、PVDF/NMPの低級アルコール溶液、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノールおよびn−ブタノール溶液からの析出について研究した。アルコールの単独浴を使用した析出の結果、144°(メタノールについて)から、n−プロパノールについての148°までの範囲である水接触角を有する、疎水性の高い膜ができることが証明された。得られたモルフォロジーは、共連続である。二浴(まずアルコール中(2s)、次いで水中)を用いた析出の使用は、共連続モルフォロジーを有するものの接触角がより小さい(n−プロパノールについて136°)膜をもたらす。
【0012】
Q.Liら、Polym.Adv.Technol.DOI:10.1002/pat.1549(2009)は、疎水性の高いPVDF膜(最大水接触角136.6°)を調製するための他の3つのルートを記載している:
−PVDFのTEP/DMAc混合溶液から、60分の蒸発のステップが、60%の相対湿度中で適用され、その後、水中で析出させる。相互連結の弱い、カール状のレタスの葉型のモルフォロジーが得られる;
−エタノール中での析出により、膜の大部分において、同じモルフォロジーが得られるが、表面で、粗く高密度の層が得られる;
−二浴(より高いまたは低い割合の溶媒から構成される第1の浴、その後に、水の第2の浴)での析出は、機械的強さを失うことなく、表面の多孔性を増大させることを可能にする。しかし、モルフォロジーは、最大水接触角が136.6°である、「カール状のレタス」のもののままである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Lafuma A.およびQuere D.(2003):「Superhydrophobic States」、Nature Materials、2(457−460)
【非特許文献2】N.Zhaoら、Macromol.Rapid Commun.、2005、26、1075−1080
【非特許文献3】T.H.Youngら、Polymer:40(1999)5315−5333
【非特許文献4】Mao Pengら、J.Appl.Polym.Sci.:98(2005)1358−1363
【非特許文献5】C.Y.Kuoら、Desalination:233(2008)40−47
【非特許文献6】Q.Liら、Polym.Adv.Technol.DOI:10.1002/pat.1549(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、超疎水性PVDF膜を調製することである。これらの膜は、多孔性であり、階層化された表面モルフォロジーを有する。マイクロメートル規模およびナノメートル規模の、二重レベルの組織と組み合わされた膜の空隙は、空気を捕捉することができ、ロータス効果という名称でも知られる、超疎水性表面特性を生じさせることを可能にする。これは、ロータスの葉およびイトアメトンボ(ヒドロメトラ・スタグノラム(Hydrometra stagnorum)の足といった自然界で見られる構造から発想を得た手法(生体模倣)である。上述したVIPS法を使用することにより、機械的に安定であり、工業的適用に適しているPVDF膜を調製することは、これまで可能ではなかった。正確に言うと、この場合、結晶性小塊は、相互連結していない。したがって、階層構造の結晶性小塊を有するPVDF膜であって、表面がナノメートル規模(100nmから600nm)の多孔性構造を有し、その小塊が相互連結している(「ナノ構造モルフォロジー」とも呼ばれる構造)PVDF膜を調製することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的のために、第1の態様によれば、本発明の一主題は、ナノメートル規模の多孔性構造、およびマイクロメーターサイズの相互連結した結晶性小塊を含んだ超疎水性表面を含む、PVDF膜である。特徴として、前記超疎水性表面は、150°以上の水接触角を有する。水接触角は、周囲温度(21±3℃)および周囲圧力条件下で、8μLの水滴を置くことにより測定される。示す値は、少なくとも4つの独立した測定値の平均である。
【0016】
第2の態様によれば、本発明は、アルコール−水の二浴系からの析出操作を含む、本発明による超疎水性PVDF膜を調製する方法に関する。
【0017】
本発明およびそれが提供する利点は、以下の詳細な説明および添付した図面を考慮すると、よりよく理解される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図6】イソプロパノール−水の二浴でのPVDFの析出により得られた本発明の超疎水性膜の、走査電子顕微鏡(SEM)によって得られた画像である。
【
図7】VIPS法、ならびに、メタノール−水、エタノール−水、n−プロパノール−水、イソプロパノール−水、1−ブタノール−水、1−オクタノール−水および1−デカノール−水それぞれの二浴でのPVDFの析出によって調製し、SEMを使用して観察した各膜の構造を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
超疎水性PVDF膜は、それらの多数の性質、すなわち、超疎水性、耐熱性、耐化学性、耐UV線性などに起因して、大規模に用いられる。PVDFは、結晶相およびアモルファス相を含有する半結晶性ポリマーである。このポリマーから製造された膜に、結晶相が優れた熱安定性を与えるのに対して、アモルファス相は柔軟性を与える。ある種の特性がさらに向上したPVDF膜を有することが望ましい。ここ数年にわたり開発されているルートは、優れた機械的特性を保持しながら、PVDF膜の超疎水性特性を高めることを目的とし、そのことは、PVDF膜を、膜蒸留、ろ過およびLiイオン電池などのある種の工業的適用にさらに適したものにする。
【0020】
疎水性の高いPVDF膜を調製するためにこれまで使用された技術は、例えば、エレクトロスピニングにより、蒸気により、または凝固により誘起される相分離に基づいている。そのうちの最後の方法の本質は、PVDF溶液に非溶媒を添加することにより相を分離することにある。上述した既知の方法は、疎水性の高いPVDF膜を製造することを可能にするが、それは、150℃以上の水接触角を有する超疎水性表面であると定義される、超疎水性の条件に達しない。
【0021】
したがって、本発明は、超疎水性PVDF膜およびこれらの膜を製造する方法を提案する。
【0022】
本発明のPVDF膜は、二重レベルの組織、すなわち、マイクロメートル規模の小塊間空隙およびナノメートル規模の小塊内空隙ならびに相互連結した結晶性小塊を有する階層化構造を含んだ、超疎水性表面を含む。前記超疎水性表面は、150℃以上の水接触角を有する。走査電子顕微鏡画像は、前記小塊が、5ミクロンから12ミクロンの間の大きさを有し、好ましくは6ミクロンから8ミクロンの間の大きさを有することを示す。これらの小塊は、5ミクロン未満の小塊間空隙を有するのに対して、小塊内の孔は、サブミクロン(数百ナノメートル)の大きさを有し、そのことは、スポンジに似たモルフォロジーをもたらす。画像はまた、小塊が共に連結していることを示し、そのことは、集合体全体に機械的強さを与える。さらに、本発明のPVDF膜は、70%より大きい孔体積を有し、好ましくは75%より大きい孔体積を有し、有利には80%以上である孔体積を有する。
【0023】
本発明のPVDF膜の構造は、相互連結タイプのものである。このタイプの構造は、相分離が、球体の小塊の形態の分散相を生じさせる核生成および成長による相分離と違って、スピノーダル分解により起きた場合に得られる。「相」という概念は、安定で再現可能な特性を有する「均質」物質の一部であると定義することができる。言い換えれば、相の特性は、もっぱら、熱力学変数の関数であり、時間とは無関係である。
【0024】
本発明の超疎水性PVDF膜は、
−マイクロメーターサイズの(結晶性小塊)、および
−ナノメートルサイズの(多孔性モルフォロジーのスポンジ様小塊)
である階層構造の存在を特徴とし、それは、超疎水性特性の元になる。このタイプの構造は、空気を捕捉し、水と表面との緊密な接触を防ぎ、そのことは、非常に高い接触角につながる。
【0025】
有利には、膜は、少なくとも5バールまでの範囲の圧力に対して抵抗性を有し、その優れた機械的強さを明示する。補強された(特に、繊維で補強された)膜は、加圧水にさらされ、それが、元の状態のままであることが確認される。
【0026】
第2の態様によれば、本発明は、アルコール−水の二浴系からの析出操作を含む、本発明の超疎水性PVDF膜を調製する方法に関する。
【0027】
本発明の方法は、以下のステップ、すなわち、
a)ある量のPVDFを溶媒に少なくとも60℃の温度で溶解するステップであり、前記溶媒が、純粋な状態で使用される、または溶媒の重量に対して3重量%から5重量%の間の水を添加して使用されるステップ、
b)そうして得られたPVDF溶液を、固体の支持体の上に塗り広げ、前記支持体の表面上にフィルムを形成するステップ、
c)前記フィルムを、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールおよびn−ブタノールから選択されるアルコールを含有する第1の浴に1分以上の時間、浸漬し、好ましくは5分以上の時間、浸漬するステップ、次いで、
d)前記支持体を、水の第2の浴に浸漬するステップ
を含む。
【0028】
最初に、PVDFは、例えば、次に挙げるもの、すなわち、HMPA、DMAc、NMP、DMF、DMSO、TMP、TMUから選択される溶媒に溶解される。得られた均一溶液は、ガラスプレート上に垂らされ、次いで、ブレードを使用して広げられる。次いで、ガラスプレートは、低分子量のアルコール、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノールもしくはイソプロパノール、またはより高い分子量のアルコール、例えば、n−ブタノール、n−オクタノールもしくはn−デカノールを含有する、第1の凝固浴に浸漬される。次いで、前記プレートは、水の第2の浴に浸漬され、次いで、乾燥される。
【0029】
ナノメートル規模の粗い構造および相互連結した結晶性小塊を含んだ超疎水性表面を含む膜は、アルコールが、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールまたはn−ブタノールであったときに得られている。非溶媒がイソプロパノールのときのPVDFの析出を例証する添付の
図6に示す通り、小塊は、相互連結し、「スポンジ」のモルフォロジーを有する。
【0030】
1−オクタノールまたは1−デカノールでの第1の浴の後に得られた膜は、高密度の小塊を有する。小塊が高密度であるほど、それらは、空気を捕捉することができなくなり、したがって、表面の疎水性が低くなる。
【0031】
これらのモルフォロジーの形成は、S−L(結晶化)機構およびL−L(析出)機構の混合に働きかけることを可能にする、三元状態図における組成経路の制御によって説明される。
【0032】
すべての形状の「スポンジ」小塊を含めた共連続構造における多孔性小塊から高密度の小塊の孔径、空隙率およびモルフォロジーは、ポリマー濃度、温度、および議論されているアルコール(
図7)に働きかけることにより得ることができる。
【0033】
L−L相の分離と結晶化との間の競合は、分離手順の間、FTIR(フーリエ変換赤外分光)顕微鏡法を使用して分析された。この方法によれば、PVDFに対して異なる溶媒力を有する凝固剤に働きかけることによって、PVDF膜の表面が、高密度の小塊になるために、共連続モルフォロジーからスポンジ様小塊のモルフォロジーまで様々であり得ることを示すことが可能となった。メタノールおよびイソプロパノールなどの低分子量のアルコールの使用は、それぞれ、共連続構造およびスポンジ様小塊を有する膜をもたらすのに対して、n−オクタノールなどのより高い分子量のアルコールを使用する凝固は、高密度の小塊を含有する混合構造をもたらす。
【0034】
FTIR顕微鏡法の使用は、凝固反応の過程における結晶化手順を研究することを可能にした。低分子量のアルコールが非溶媒として使用される場合、L−L(析出)機構が、結晶化の機構より優位になる。結晶化は、連続的に起こり続けるが、ポリマーの多い相のみが、小塊を形成することができる。結晶化が、L−L脱混合の間に起こった場合、膜は、非常に多孔性である表面を有する小塊(スポンジ状の小塊)から形成される。
【0035】
高分子量のアルコールが非溶媒として使用された場合、L−L分離曲線は、非溶媒へとシフトされる。結晶化は、L−L脱混合より優勢であった。したがって、結晶化がL−L分離相の前に起こる場合に、ポリマー鎖は、高密度の小塊を形成し得る。
【0036】
本発明はまた、水の蒸留、ろ過およびLiイオン電池のための、本明細書で説明した膜の適用に関する。
【実施例】
【0037】
これより、本発明を、例示の目的で非限定的に示す以下の実施例を用いて説明する。
【0038】
[実施例1]
20重量%のPVDFの均一溶液を、PVDFをNMPまたはDMAcに60℃で溶解することにより調製する。得られた溶液を、ガラスプレートの上に垂らし、次いで、ブレードギャップを250μmに固定したブレードを使用して広げる。次いで、ガラスプレートを、湿潤空気にさらし(VIPS法)、相分離を生じさせる(比較例1a)、または、低分子量のアルコール、例えば、メタノール(例1b)、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール(例1c)、1−オクタノール(比較例1e)、および水(比較例1f)を含有する第1の凝固浴に、25℃で10分間浸漬する。次いで、前記プレートを、水からなる第2の浴に浸漬し(ガラスプレートを水またはエタノールに浸漬するVIPSの場合を除く)、次いで、これを周囲温度下で乾燥させる。
【0039】
そうして得られた膜を、走査電子顕微鏡を使用して観察した。さらに、膜を、特に繊維で補強したときの、5バールの圧力に対するこれらの抵抗性を測定した。最後に、水接触角を、周囲温度(21±3℃)および周囲圧力条件下で、8μLの水滴を置くことにより測定する。示す値は、少なくとも4つの独立した測定値の平均である。表1は、形成した膜の特徴をまとめたものである。走査電子顕微鏡により得られた、これらの膜サンプルの画像を
図1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
結晶が、液体−液体脱混合より優勢である場合、高密度の球体の存在が得られる(VIPS法、例1aのケース)。液体−液体脱混合が、結晶化前に開始する場合、多孔性構造を有する小塊が得られる(低級アルコールでの凝固、例1b、1cおよび1dのケース)。ブタノールなどのより重いアルコールの使用は、多孔性小塊に入った高密度の小塊を有する中間的構造をもたらす(例1e)。市販のPVDF膜の場合に通常見られる共連続構造は、凝固を水の単独浴で行った場合に得られる(例1f)。
【0042】
これらの結果は、第1の凝固浴としての軽アルコールの使用が、超疎水性表面を有する膜を得ることを可能にし、その相互連結した多孔性小塊の構造が、ろ過へ適用するのに十分な5バールの機械的抵抗性を保証することを示す。高密度の小塊の存在は、たとえ少量であっても、膜の構造を弱める。
【0043】
[実施例2]
第1の浴での凝固時間の影響
20重量%のPVDFの均一溶液を、PVDFをNMPに60℃で溶解することにより調製する。得られた溶液を、ガラスプレートの上に垂らし、次いで、ブレードギャップを250μmに固定したブレードを使用して広げる。次いで、ガラスプレートを、メタノールを含有する第1の凝固浴に、25℃で異なる時間の間浸漬する。次いで、前記プレートを、水からなる第2の浴に浸漬し、次いで、これを周囲温度下で乾燥させる。表2は、形成した膜の水接触角を示す。
【0044】
【表2】
【0045】
これらの結果は、アルコール浴での凝固時間の増加が、液体−液体脱混合機構を遅らせること、および、共連続モルフォロジーから、連結した小塊のモルフォロジーに変わることを可能にすることを示す。このモルフォロジーの変化は、メタノールの場合、15秒から60秒の間の浸漬時間から開始する、超疎水性になる水接触角の増大を伴う(例2a−2d)。走査電子顕微鏡により得られた、これらの膜サンプルに対応する画像を
図2に示す。
【0046】
[実施例3]
キャスト溶液中の水の割合の影響
20重量%のPVDFの均一溶液を、異なる量(最高6重量%まで)の水を入れたNMPにPVDFを80℃で溶解することにより調製する。得られた溶液を、ガラスプレートの上に垂らし、次いで、ブレードギャップを250μmに固定したブレードを使用して広げる。次いで、ガラスプレートを、イソプロパノールなどの低分子量アルコールを含有する第1の凝固浴に、25℃で10分間浸漬する。次いで、前記プレートを、水からなる第2の浴に浸漬し、次いで、これを周囲温度下で乾燥させる。
【0047】
表3は、形成した膜の水接触角を示す。走査電子顕微鏡により得られた、これらの膜サンプルに対応する画像を
図3に示す。これらの結果は、数パーセントの水をポリマー溶液に添加することが、得られた多孔性小塊モルフォロジーを変えることなく、実施例3に従って調製した膜の水接触角を調整することを可能にすることを示す。キャスト溶液への水の添加の値が3%から5%の間である場合に、超疎水性膜が得られることが表3で分かる(例3c、3dおよび3e)。
【0048】
【表3】
【0049】
[実施例4]
溶解温度の影響
20重量%のPVDFの均一溶液を、PVDFを32℃から110℃の間の温度でNMPに溶解することにより調製する。得られた溶液を、ガラスプレートの上に垂らし、次いで、ブレードギャップを250μmに固定したブレードを使用して広げる。次いで、ガラスプレートをメタノール、エタノールまたはイソプロパノールなどの低分子量アルコールを含有する第1の凝固浴に、25℃で10分間浸漬する。次いで、前記プレートを、水からなる第2の浴に浸漬し、次いで、それを周囲温度下で乾燥させる。表4は、形成した膜の水接触角を示す。走査電子顕微鏡により得られた、これらの膜サンプルに対応する画像を
図4に示す。
【0050】
【表4】
【0051】
表4から得られた結果は、PVDFの溶解温度が、得られる膜のモルフォロジーに影響を及ぼすことを示す。このように、共連続モルフォロジーは、エタノールまたはイソプロパノールにおいて、50℃未満で得られる。先の実施例で見たような、超疎水性膜を得るのに必須である多孔性構造を有する、連結した小塊のモルフォロジーを得るために、その値を超える温度が必要である。
【0052】
[実施例5]
ポリマー濃度の孔径への影響
異なる濃度のPVDFの均一溶液を、4%の水を入れたNMPまたはDMAcに60℃から120℃の間の温度でPVDFを溶解することにより調製する。得られた溶液を、ガラスプレートの上に垂らし、次いで、ブレードギャップを250μmに固定したブレードを使用して広げる。次いで、ガラスプレートを、イソプロパノールなどの低分子量アルコールを含有する第1の凝固浴に、10分間浸漬する。次いで、前記プレートを、水からなる第2の浴に浸漬し、次いで、これを周囲温度下で乾燥させる。
【0053】
表5は、実施例5に従って調製した膜の水接触角を示す。走査電子顕微鏡により得られた、これらの膜サンプルに対応する画像を
図5に示す。
【0054】
【表5】
【0055】
表5にまとめた結果は、連結した多孔性小塊のモルフォロジーを有する超疎水性膜が、異なる溶媒、異なる組成および異なる温度を使用して、本発明で提案した方法によって調製できることを示す。これらのパラメーターは、4ミクロンから0.25ミクロンに及ぶ範囲にある、(膜への水の最小侵入圧力によって決定される)最大の小塊間孔の大きさを調整することを可能にする。
【0056】
略語
PVDF−ポリフッ化ビニリデン
DMF−ジメチルホルムアミド
NMP−N−メチルピロリドン
TEP−リン酸トリエチル
DMAc−N,N−ジメチルアセトアミド
HMPA−ヘキサメチルホスホルアミド
DMSO−ジメチルスルホキシド
TMP−リン酸トリメチル
TMU−1,1,3,3−テトラメチル尿素