(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5792833
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】可逆接着性熱界面材料
(51)【国際特許分類】
H01L 23/373 20060101AFI20150928BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20150928BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20150928BHJP
C09J 183/08 20060101ALI20150928BHJP
C09J 4/00 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
H01L23/36 M
H01L23/36 D
C09J201/00
C09J183/08
C09J4/00
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-548908(P2013-548908)
(86)(22)【出願日】2012年1月4日
(65)【公表番号】特表2014-509448(P2014-509448A)
(43)【公表日】2014年4月17日
(86)【国際出願番号】IB2012050035
(87)【国際公開番号】WO2012095757
(87)【国際公開日】20120719
【審査請求日】2014年8月12日
(31)【優先権主張番号】13/006,602
(32)【優先日】2011年1月14日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390009531
【氏名又は名称】インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MACHINES CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100108501
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 剛史
(74)【代理人】
【識別番号】100112690
【弁理士】
【氏名又は名称】太佐 種一
(72)【発明者】
【氏名】ボデイ、ディラン
(72)【発明者】
【氏名】クチンスキー、ジョセフ
(72)【発明者】
【氏名】マイアー、サード、ロバート
【審査官】
麻川 倫広
(56)【参考文献】
【文献】
特表2001−506805(JP,A)
【文献】
特表2008−517459(JP,A)
【文献】
特開2008−159619(JP,A)
【文献】
特開2009−135524(JP,A)
【文献】
特開2005−325348(JP,A)
【文献】
特開平09−017924(JP,A)
【文献】
特開平07−302868(JP,A)
【文献】
特開平10−248957(JP,A)
【文献】
特表2001−506412(JP,A)
【文献】
特開昭54−114800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G77/00−77/62
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
C09J 1/00−5/10
9/00−201/10
H01L23/29
23/34−23/36
23/373−23/427
23/44
23/467−23/473
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ官能化シロキサンポリマーとフラン部分との反応生成物を含むポリマー、及び
二重結合の両側に電子吸引基をもつ二置換アルケンを有する化合物を含む架橋剤
を含む熱可逆性接着剤と、
熱伝導性かつ非導電性の充填材と
を含む熱界面材料であって、
前記熱界面材料は、0.2W/m・K又はそれ以上の熱伝導率及び9×1011オーム・cm又はそれ以上の電気抵抗率を与えるのに有効な量の前記充填材を有する、
熱界面材料。
【請求項2】
前記フラン部分は、窒素、酸素又はイオウ含有基を通して前記アミノ官能化シロキサンポリマーに共有結合する、請求項1に記載の熱界面材料。
【請求項3】
前記フラン部分は、窒素含有基を通して前記アミノ官能化シロキサンポリマーに共有結合する、請求項2に記載の熱界面材料。
【請求項4】
前記充填材は、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、及びアルミナから成る群から選択される、請求項に1記載の熱界面材料。
【請求項5】
動作中に熱を発生するように構成された第1の要素と、
前記第1の要素が発生した熱を伝達して逃すように構成された第2の要素と、
前記第1の要素と前記第2の要素との間に配置された熱界面材料の層と
を備える電子組立体であって、
前記熱界面材料は、
アミノ官能化シロキサンポリマーとフラン部分との反応生成物を含むポリマー、及び
二重結合の両側に電子吸引基をもつ二置換アルケンを有する化合物を含む架橋剤
を含む熱可逆性接着剤と、
熱伝導性かつ非導電性の充填材と
を含み、
前記熱界面材料は、0.2W/m・K又はそれ以上の熱伝導率及び9×1011オーム・cm又はそれ以上の電気抵抗率を与えるのに有効な量の前記充填材を有する、
電子組立体。
【請求項6】
前記フラン部分は、窒素、酸素又はイオウ含有基を通して前記アミノ官能化シロキサンポリマーに共有結合する、請求項5に記載の電子組立体。
【請求項7】
前記フラン部分は、窒素含有基を通して前記アミノ官能化シロキサンポリマーに共有結合する、請求項6に記載の電子組立体。
【請求項8】
前記充填材は、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、及びアルミナから成る群から選択される、請求項5に記載の電子組立体。
【請求項9】
動作中に熱を発生するように構成された第1の要素と、前記第1の要素が発生した熱を伝達して逃がすように構成された第2の要素との間に熱界面を作成する方法であって、前記方法は、
前記第1の要素又は前記第2の要素のうちの少なくとも一方に熱界面材料を塗布して熱界面材料層を形成するステップであって、前記熱界面材料が、熱可逆性接着剤と、熱伝導性かつ非導電性の充填材とを含み、前記熱可逆性接着剤が、
アミノ官能化シロキサンポリマーとフラン部分との反応生成物を含むポリマーと、
二重結合の両側に電子吸引基をもつ二置換アルケンを有する化合物を含む架橋剤と
を含む、ステップと、
前記第1の要素と前記第2の要素との間に前記熱界面材料層を挟むことにより前記第1の要素と前記第2の要素とを可逆的に組み合わせるステップと
を含み、
前記熱界面材料が、0.2W/m・K又はそれ以上の熱伝導率及び9×1011オーム・cm又はそれ以上の電気抵抗率によって特徴付けられる、
方法。
【請求項10】
初回に、前記熱界面材料を、前記反応生成物と前記化合物の可逆架橋反応に影響を及ぼすのに十分な開始温度まで加熱することにより前記ポリマーを架橋させるステップと、
二回目に、前記熱界面材料を、前記ポリマーを実質的に未架橋状態に戻すのに十分な再加工温度まで加熱するステップと、
前記第1の要素を前記第2の要素から分離するステップと
をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可逆的な接着剤に向けられ、より具体的には、熱界面材料として用いるのに適した接着剤及びそれに関連した方法に向けられる。
【背景技術】
【0002】
高性能電子回路のパッケージングにおける急速な技術発展は、サイズを小型化すること及びより速い動作速度に焦点を合わせてきた。これはデバイス動作中の過剰な熱発生をもたらした。それに付随して、組み立てられた電子機器製品の高信頼の機能性能を維持するために効果的な熱放散法が必要とされている。一般に用いられる冷却方法としては、ヘリウム充填モジュール、はんだ熱界面、熱グリース、弾性シリコーンゲル、例えばAlN、BN、ZnOなどの熱伝導性充填材を有する熱可塑性ポリマー、そして最近では、相変化材料、及び伝導性接着剤が挙げられる。これらは、シリコン・デバイス・チップと高熱伝導性の金属製熱拡散板又はヒートシンクとの間に熱界面を設けて、動作中に高出力密度回路デバイスから熱が放散する経路を与える。
【0003】
熱グリースは、ダイの裏面とヒートシンクとの間に薄層として塗布される。熱グリースは低い熱抵抗を有し、かつ容易に再加工することができる。しかし、熱グリースはポンプアウト及び乾燥し易く、これが界面にボイドを生じさせる。これは、界面抵抗の増大により、デバイス性能を時間と共に低下させる。相変化材料(PCM)は、低融点ワックスである。例として、ワックス母材内に分散したグラファイト粒子を有するパラフィン・ワックス、及びアルキルメチルシリコーンなどのシリコーン・ベースの材料が挙げられ、これらは予め形成されたテープ又は界面全域に施される融解物として用いることができる。これらは、低い熱インピーダンスと、典型的には薄いボンド・ライン厚において5W/m°K程度の高い熱伝導率とをもたらす。しかし、これらの材料のプレカット膜は脆弱であり、そしてまた性能の劣化及びばらつき、層間剥離、しみ出し、及びガス放出の問題を有しており、さらに、PCMを所定位置に保持するためのクリップ又はネジなどの締結具を一般に必要とする。
【0004】
別の種類の熱界面材料としては、フリップチップ・モジュール組立体内のヒートシンク又は熱拡散板とシリコン・ダイの裏面との間の薄い接着界面として用いることができる伝導性接着剤がある。市販の伝導性接着剤は、典型的には、Ag充填及びセラミック充填された可撓性エポキシを含むエポキシをベースとする材料である。それらは中乃至高弾性率の接着剤である(室温にて>100,000psi)。そのような材料の硬化被膜は高い内在応力を有し、それが層間剥離による界面の完全性の破壊を引き起こすことがあることが一般に知られている。この結果、界面における接触抵抗の増大とそれに対応した熱放散効力の低下が生じる。また市販のAg充填接着剤には簡単で実際的な再加工法がない。従って、それらを接触表面から簡単に除去し又は再加工することができない。これらの接着剤の再加工不能性は、欠損修復ができないこと、構成要素の回収ができないこと、高価な半導体デバイス、ヒートシンク及び基板のリサイクル又は再利用ができないという深刻な欠点を露呈する。
【0005】
熱界面材料の望ましい性質としては、界面全域にわたり均一な厚さの、薄いボンド・ラインを形成する能力、低い熱インピーダンス、デバイス動作中の界面の完全性のための低応力かつ追従するシステム、T/H(温度/湿度)及びT/C(温度サイクリング)において安定な界面接触抵抗、TCR(抵抗の温度係数)の安定性、並びに、欠損修復及び高価なモジュール構成要素の再生のための再加工可能性が挙げられる。好ましい材料はまた、モジュール材料、特に高い熱伝導性を有する特別なタイプの熱放散板に何ら損傷を与えることなく再加工することができるように、接触表面から除去し易すいものであるべきである。
【0006】
製品歩留まりの損失を埋め合わせ、廃棄物を減らし、コスト削減をもたらすために、構成要素を再加工及び回収する能力は、高性能電子機器製品の製造においてますます重要になっている。硬化した熱伝導膜に対する再加工という選択肢は、潜在的に高価な高熱伝導性熱拡散材料、高感度構成部品、又は電圧変換モジュールの回収/再生及び再利用という主たる利益を提供する。さらに、再加工という選択肢は、熱界面接着剤と共に高い熱伝導性の冷却要素を使用することにより、熱放散能力の著しい向上を得るための費用効果の高い方法をもたらすことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の界面材料の使用における制約を考慮すると、高出力密度デバイスからの効率的な熱放散を伴う改善された熱界面材料(TIM)に対する需要がある。さらに、これらの材料の硬化堆積物/残留物をこの材料が付着した種々の構成要素の表面/界面から除去し及び/又は再加工するための実際的方法に対する需要がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの実施形態により、熱可逆性接着剤と熱伝導性かつ非導電性の充填材とを含む熱界面材料が提供される。熱可逆性接着剤は、複数の第1の官能基を含むポリマーと、複数の第2の官能基を含む架橋剤とを含み、ここで第1の官能基及び第2の官能基は、可逆架橋反応の相補反応物である。この熱界面材料は、0.2W/m・K又はそれ以上の熱伝導率及び9×10
11オーム・cm又はそれ以上の電気抵抗率を与えるのに有効な量の充填材を有する。
【0009】
本発明の別の実施形態により、動作中に熱を発生するように構成された第1の要素と、第1の要素が発生した熱を伝達して逃がすように構成された第2の要素と、第1の要素と第2の要素との間に配置された熱界面材料の層とを含む電子組立体が提供される。熱界面材料は、熱可逆性接着剤と熱伝導性かつ非導電性の充填材とを含む。熱可逆性接着剤は、複数の第1の官能基を含むポリマーと、複数の第2の官能基を含む架橋剤とを含み、ここで第1の官能基及び第2の官能基は、可逆架橋反応の相補反応物である。この熱界面材料は、0.2W/m・K又はそれ以上の熱伝導率及び9×10
11オーム・cm又はそれ以上の電気抵抗率を与えるのに有効な量の充填材を有する。
【0010】
本発明のさらに別の実施形態により、動作中に熱を発生するように構成された第1の要素と、第1の要素が発生した熱を伝達して逃がすように構成された第2の要素との間に熱界面を作成する方法が提供される。本方法は、第1の要素又は第2の要素のうちの少なくとも一方に熱界面材料を塗布して熱界面材料の層を形成することと、第1の要素と第2の要素との間に熱界面材料層を挟むことにより第1の要素と第2の要素とを可逆的に組み合わせることとを含む。熱界面材料は、熱可逆性接着剤と熱伝導性かつ非導電性の充填材とを含む。熱可逆性接着剤は、複数の第1の官能基を含むポリマーと、複数の第2の官能基を含む架橋剤とを含み、ここで第1の官能基及び第2の官能基は、可逆架橋反応の相補反応物である。この熱界面材料は、0.2W/m・K又はそれ以上の熱伝導率及び9×10
11オーム・cm又はそれ以上の電気抵抗率を与えるのに有効な量の充填材を有する。
【0011】
本明細書に組み込まれ、その一部分を構成する添付の図面は、本発明の実施形態を示し、上記の本発明の一般的説明及び以下に与えられる詳細な説明とともに本発明を説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の1つの実施形態による、熱界面材料(TIM)層によって接続された電気部品及びヒートシンクの断面図を示す。
【
図2】本発明の別の実施形態による、電気部品、熱拡散板及びヒートシンクが2つのTIM層によって接続された場合の、電気部品、熱拡散板及びヒートシンクの断面図を示す。
【
図3】本発明の別の実施形態による、TIM層によって接続された単一集積回路チップ・モジュール及びヒートシンクの断面図を示す。
【
図4】本発明のさらに別の実施形態による、単一集積回路チップ・モジュール、保護カバー及びヒートシンクが2つのTIM層で接続された場合の、単一集積回路チップ・モジュール、保護カバー及びヒートシンクの断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態は、動作中に熱を発生するように構成された第1の要素と、第1の要素が発生した熱を伝達して逃がすように構成された第2の要素と、第1の要素と第2の要素との間に配置された熱界面材料の層とを含む電子組立体に関する。
図1に示すように、電子チップ・モジュール10は、電子チップ12、ヒートシンク14、及び、電子チップ12とヒートシンク14との間に配置され、それら両方に密着した熱界面材料層16を含む。
図1に示す構成は、当技術分野ではTIM1として知られる。
図2を参照すると、電子チップ・モジュール20の別の構成は、電子チップ22、熱拡散板24、及びヒートシンク26を含む。第1の熱界面材料層28は、電子チップ22と熱拡散板24との間に配置され、それら両方に密着し、第2の熱界面材料層29は、熱拡散板24とヒートシンク26との間に配置され、それら両方に密着する。
図2に示す構成は、当技術分野ではTIM2として知られる。
【0014】
より具体的には、本発明の実施形態は、集積回路又はマイクロ電子組立体内の電子チップ又はシリコン・デバイスとヒートシンク/熱拡散板との間の熱界面として用いるのに適した、熱伝導性であり非導電性である充填材と熱可逆性接着剤との組合せを含む熱界面材料に関する。より具体的には、本発明は、改善された機能的性能を有する熱界面材料、並びに、デバイス・チップ又はチップ・キャリアに何ら損傷を与えることなくヒートシンク組立体の構成要素の回収、リサイクル又は再利用を可能にするための、熱界面材料を再加工する方法に向けられる。
【0015】
本発明の実施形態によれば、熱界面材料(TIM)は、熱可逆性接着剤及び充填材を含み、この充填材は熱伝導性かつ非導電性である。本明細書で用いる場合、「非導電性」及び「電気絶縁性」は交換可能に用いることができ、本発明のTIMを組み込んだ集積回路(IC)デバイスの通常の動作条件下でTIMがICとヒートシンクとの間で電気を伝えないことを意味する。従って、本発明の実施形態のTIM組成物は、所望される高い熱伝導率を有利に達成する一方で、必要とされる電気絶縁特性を保持する。
【0016】
接着剤成分の熱可逆特性は、複数の第1の官能基を含むポリマーと、複数の第2の官能基を含む架橋剤と用いることによって達成され、ここで第1の官能基及び第2の官能基は可逆架橋反応の相補反応物であり、これが接着剤の可逆的熱硬化を可能にする。1つの例示的な可逆架橋反応としては、それに限定されないが、ジエン官能化ポリマーと、1より大きい官能性を有するジエノフィル官能化架橋剤との間のディールス−アルダー付加環化反応が挙げられる。逆に、相補的な可逆架橋反応としては、ジエノフィル官能化ポリマーと、1より大きい官能性を有するジエン官能化架橋剤との間のディールス−アルダー付加環化反応が挙げられる。
【0017】
ポリマーの種類は特に限定されない。適切なポリマーとしては、アクリル、エポキシ、フルオロポリマー、イミド、メタクリレート、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリブタジエン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、シロキサン及びこれらの組合せが挙げられる。本発明の実施形態によれば、ポリマーは、複数の第1の官能基がポリマーの骨格に共有結合することを可能にする官能性を含む。第1の官能基は、ポリマー骨格に化学結合を介して直接に結合することができ、又は二価有機架橋基を介して結合することができる。適切な化学結合の例として、それらに限定されないが、アミン、アミド、エステル、エーテル又はスルフィド結合が挙げられる。適切な架橋基としては、それらに限定されないが、置換又は非置換のアルキル、アリール、アルケニル、又はシクロアルキル基が挙げられる。これらの架橋基は、窒素、酸素又はイオウなどの複素原子を含むことができる。従って、第1の官能基は、窒素含有基を通してポリマーに共有結合することができる。
【0018】
本発明の1つの実施形態によれば、第1の官能基は、2つの環内二重結合を有する5員環のようなジエン部分である。例示的なジエン部分としては、フラン、ピロール、又はチオフェンが挙げられる。一例において、ジエン部分はフランである。別の例によれば、フランは2位においてポリマーに共有結合し、それゆえ3、4及び5位は非置換である。
【0019】
従って、本発明の別の実施形態によれば、複数の第1の官能基を有するポリマーは、アミノ官能化シロキサンポリマーとアミン反応性フラン部分との反応生成物から得ることができる。フラン部分のアミン反応性部分は、例えば、イソシアネート、ハロゲン化アシル、及びハロゲン化アルキルなどの反応基を含む。従って、一例は、スキーム1に示すように、アミノプロピルメチルシロキサン−ジメチルシロキサン共重合体(1)を含み、これはペンシルバニア州モリスビル(Morrisville)所在のGelest,Inc.から市販されており(製品コードAMS−132、AMS−152又はAMS−162)、2−(イソシアナトメチル)フラン(2)のようなイソシアネート官能化フラン部分と反応して、尿素結合により共有結合した複数のフラン部分を有するフラン化ポリマー(3)与えることができ、ここで式(1)及び(3)の中のm対nの比は、約0.01から約100までの範囲である。
【化1】
【0020】
熱可逆性接着剤のベースとなるポリマーの分子量は広範囲に変化させることができる。例えば、ポリマーは、少なくとも350から約30,000までの範囲の数平均分子量を有することができる、
【0021】
本発明の別の実施形態によれば、第2の官能基は、ジエノフィル部分である。ディールス−アルダー付加物が、架橋した接着剤が再加工可能となるような熱的安定性を有する限り、ディールス−アルダー付加物を生じるジエノフィルの詳細な性質は重要ではない。通常、再加工可能な架橋性樹脂が再加工可能になる最低の温度は、用いられるICデバイスに関する最高温度要件に依存する。通常、再加工は約100℃から約250℃までの温度で行われる。例えば、再加工温度は約200℃とすることができる。
【0022】
適切なジエノフィル部分としては、二重結合の両側に電子吸引基をもつ二置換アルケンを有する化合物が挙げられる。適切な電子吸引基としては、例えば、エステル、アミド又はケト基が含まれる。ジエノフィルはまた、5又は6員環に含まれるブタ−2−エン−1,4−ジオン部分を含む化合物を含む。例えば、第2の官能基は、マレイミド(即ち、5員環)部分とすることができる。他の適切なジエノフィルの例としては、ビス(トリアゾリンジオン)、ビス(フタラジンジオン)、キノン、ビス(トリシアノエチレン)、ビス(アゾジカルボキシレート)、ジアクリレート、マレイン酸又はフマル酸ポリエステル、アセチレンジカルボン酸ポリエステルが挙げられる。
【0023】
1つの実施形態によれば、ディールス−アルダー付加物を生じ得る複数のジエノフィルを分子構造中に含む架橋剤が使用される。2つ又はそれ以上のジエノフィルを1つ又は複数の架橋基によって互いに結合させることができる。例えば、3つのジエノフィルを、三価架橋基によって互いに結合させることができる。しかし、2つのジエノフィルが二価架橋基によって互いに結合された架橋剤を用いることで十分である。
【0024】
架橋剤の架橋基の分子量及び化学的性質は広範囲に変えることができる。架橋剤のそのようなバリエーションにより、広範囲の機械的性質をカバーする再成形可能な架橋樹脂がもたらされることが見いだされた。架橋基は、ブチル基又はヘキシル基などのように架橋内に炭素原子のみを含むものであってもよいが、架橋内に酸素、ケイ素又は窒素原子などの複素原子を含むことも可能である。架橋基は、柔軟であっても剛直であってもよい。例えば、架橋剤は、ビス(マレイミド)アルカン、例えば1,4−ビス(マレイミド)ブタン(4)とすることができる。
【化2】
【0025】
本発明の一態様によれば、熱可逆性接着剤は、フラン化ポリマー(3)と架橋剤(4)とを組み合せて均質混合物を形成することによって形成される。都合の良いことに、この混合物は室温では硬化しない(即ち、架橋が起らない)が、なぜなら架橋ディールス−アルダー付加環化反応は、典型的には、室温より十分に高い例えば約90℃又はそれ以上の開始温度を有するからである。他の熱硬化性材料と同様に、この特性は熱可逆性接着剤を充填材と混合してTIM材料を形成することを可能にし、これを未架橋状態でヒートシンクと電子チップとの間に塗布して挟むことができる。TIM(及びヒートシンク/電子チップ)を開始温度以上の温度に加熱することでディールス−アルダー付加物の形成が誘導され、架橋ポリマーが生じる。例えば、フラン化ポリマー(3)及び架橋剤(4)を含む組成物を開始温度より高温に加熱すると架橋ポリマー(5)が生じる。代替的に、TIMは、以下で詳述するように解重合又は再加工温度より高い温度で塗布することができる。
【化3】
【0026】
熱可逆性接着剤成分内に存在するディールス−アルダー付加物の量は、ポリマー内のフラン基の量及び組成物中に存在する架橋剤の量に依存する。当業者であれば、ディールス−アルダー付加物がフラン及びジエノフィルに解重合する温度より低い温度でTIMが粘弾性材料となるようにするためには、特定の最少量のディールス−アルダー付加物が存在することが必要であることを理解するであろう。さらに、この最少量もまた、接着剤のベースとなるポリマーの分子量及び種類の関数であることが理解されるであろう。分子量が小さいポリマーほど、より多量のディールス−アルダー付加物を必要とすることになる。逆に、より高い官能性を有する架橋剤を用いるときにはディールス−アルダー付加物の数は少なくてもよい。
【0027】
さらに、ジエンとジエノフィルとの間の相対的な化学量論が熱可逆性接着剤の最終的性質に影響する。任意の所与のフラン化ポリマーに対して、架橋剤のモルパーセントは、ポリマー混合物中のフラン部分のモル数に対して約50%又はそれ以下とする。例えば、架橋剤のモルパーセントは、約25モルパーセント又はそれ以下、約15モルパーセント又はそれ以下、又は約10モルパーセント又はそれ以下とすることができる。
【0028】
充填材の材料は、高度に熱伝導性であり、かつ非導電性の任意の材料とすることができる。充填材はまた、プラスチック、ゴム、セラミック、電気的に絶縁された金属、ガラス、及び同様の材料から選択することができる。充填材は、エポキシ、シリコーン、シリコーン−ポリエステル共重合体、又はエラストマーとすることができる。充填材は、充填材を通じた熱伝達を促進するように、熱伝導性を高める他の材料の粒子を含むこともでき、この材料は電気的に絶縁された金属又はセラミック材料とすることができるがこれらに限定されない。充填材は、特に、酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、誘電体で被覆された銅、陽極酸化アルミニウム又はこれらの任意の組合せから選択することができる。一例において、充填材は、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、アルミナ、及びこれらの組合せから成る群から選択される。
【0029】
充填材はいずれかの特定の形態に特に限定されず、この点で、充填材は不規則な形状の粒子、球状、針状、板状の形態、又はこれらの組合せとすることができる。
【0030】
充填材の一例は、COMBAT(登録商標)の名称で製造されている等級PH325(ニューヨーク州アマースト、14228−2027所在のSaint−Gobain Adraneed Nitiride Products製)の工業用窒化ホウ素粉末である。この窒化ホウ素粉末は、TIM組成物の熱伝導性を向上させるが、化学的に不活性である。
【0031】
TIM組成物内で用いられる充填材の量は、目的とする用途のための熱伝導性の所望のレベル又は必要なレベルに応じて変えることができる。しかし、充填材は、0.2W/m・K又はそれ以上の熱伝導率及び9×10
11オーム・cm又はそれ以上の電気抵抗率を与えるのに有効な量で存在する。従って、充填材は、組成物の全重量に基づく重量で約5%から約70%迄の範囲の量でTIM内に存在することができる。例えば、充填材は、約15%から約60%迄、約5%から約15%迄、約25%から約60%迄、又は約40%から約70%迄の範囲の量で存在することができる。
【0032】
本発明の一態様によれば、TIMは、熱可逆性接着剤と、熱伝導性かつ非導電性の充填材とを組み合せることによって形成される。上で詳述したように、熱可逆性接着剤は、複数の第1の官能基を含むポリマーと、複数の第2の官能基を含む架橋剤とを含み、ここで第1の官能基及び第2の官能基は可逆架橋反応の相補反応物である。得られるTIMは電気絶縁性であり、9×10
11オーム・cm又はそれ以上の電気抵抗率を有する。従って、電気抵抗率は、10
12オーム・cm又はそれ以上、10
13オーム・cm又はそれ以上、10
15オーム・cm又はそれ以上とすることができる。さらに、得られるTIMは、高度に熱伝導性であり、0.2W/m・Kに等しいか又はそれ以上の熱伝導率を有する。従って、熱伝導率は、0.2W/m・K又はそれ以上、1W/m・K又はそれ以上、3W/m・K又はそれ以上、又は6W/m・K又はそれ以上とすることができる。
【0033】
TIMの接着強度は、
図1の電子チップ12とヒートシンク14との間の接合、又は
図2の電子チップ22と熱拡散板24とヒートシンク26との間の接合を、組立てプロセス中、並びに構成要素の通常動作中に十分に維持するものであるべきである。例えば、TIMを熱硬化させた後の接着強度は、約25℃において1.0MPaと20.0MPaの間にすることができる。しかし、再加工温度におけるTIMの接着強度は実質的にもっと小さくなるべきである。実際には、所与の再加工温度におけるこの接着強度の限界は経験的に決定され、構成要素が耐えられる最大引張荷重として構成要素製造者が指定する荷重に基づく。例えば、再加工温度において、接着強度は、25℃における接着強度の約50%又はそれ以下とすべきである。再加工接合強度は、25℃における接着強度の約25%から約10%までとすることができる。
【0034】
上記の全てに基づいて、本発明の1つの実施形態は、動作中に熱を発生するように構成された第1の要素と、第1の要素が発生した熱を伝達して逃がすように構成された第2の要素とを可逆的に接着する方法を含む。従って、本方法は、第1の要素又は第2の要素のうちの少なくとも一方に熱界面材料を塗布して熱界面材料層を形成することと、第1の要素と第2の要素との間に熱界面材料層を挟むことにより第1の要素と第2の要素とを可逆的に組み合わせることとを含む。
図1に示す簡略化した実施形態は、本発明の熱界面材料層16によって互いに接着されたチップ12及びヒートシンク14のTIM1構成を示す。同様に、
図2に示す簡略化した実施形態は、本発明の熱界面材料の第1の層28及び第2の層29によって互いに接着されたチップ22、熱拡散板24及びヒートシンク26を有するTIM2構成を示す。
【0035】
前述のように、組立てられたモジュール10、20を可逆架橋反応の開始温度まで加熱して熱可逆性接着剤を硬化することができる。代替的に、熱可逆性接着剤と熱伝導性かつ非導電性の充填材とを含む熱界面材料を再加工温度近傍の温度で第1の要素及び/又は第2の要素に塗布することができ、これは冷却すると架橋状態に戻る。
【0036】
さらに、マイクロエレクトロニクス製造プロセスは、組み立てられた構成要素の分解を必要とすることが多い。その典型的は理由としては、診断テストを行うこと、半導体デバイスを交換又は修復すること、又は、実際の製品リリースに先立って製品の性能及び信頼性を評価するために用いられた試験機又は早期ユーザのハードウェアから電気的に良好な基板を回収することが挙げられる。従って、
図1のヒートシンク14から接着したチップ12を取り外すために、組立てられたモジュール10を再加工温度又はそれ以上に加熱することができ、その温度において可逆接着剤は実質的に未架橋の状態に戻り、TIMの接着強度が減少してチップ12をヒートシンク14から取り外すことが可能になる。従って、組立てられたモジュールを約200℃又はそれ以上の温度、例えば約250℃に加熱して、チップ12とヒートシンク14との容易な分離を促進することができる。
【0037】
図3は、アンダーフィル・ポリマー36で封入されたはんだ接合35を通して単一チップ34が取り付けられたセラミック・チップ・キャリア又は基板32を有する、典型的な単一チップ・モジュール30のより詳細な例を示す。機能中のデバイスからの熱放散のために本発明の熱界面材料層38(TIM)がチップ34の裏面上に施され、金属ヒートシンク40が、チップ34からヒートシンク40へ熱を伝導して逃すための熱界面としてのTIM38によってチップ34に接合される。ヒートシンク40は、さらに締結具44を用いてベース42に取付けることができる。
【0038】
図4は、
図3と同様に従来の単一チップ・モジュール50を示すが、接着剤接合部53により基板54に取付けられた保護キャップ52、及び、ヒートシンク56がTIM層58により保護キャップ52に取付けられたことをさらに示す。保護キャップ52は、別のTIM層62を介してチップ60にも接触する。2つのTIM層58、62が本発明の可逆接着性熱界面材料を含んでもよく、又は、1つのTIM層を伝導性シリコーンポリマーなどの従来の材料とすることができ、第2のTIM層を本明細書で開示するTIMの1つとすることができる。
【0039】
従って、
図3及び
図4に示すように、組立てられたモジュール30、50は、典型的な熱硬化型接着剤組成物の接着又は接合強度に打ち勝つのに必要な力のもとでは壊れることがある複数の接合部、接続部、又は構成要素を有することができる。しかし、本発明の実施形態の熱界面材料は、組立てられたモジュールをそれらの通常の動作条件下でそれらの固定位置に維持するのに望ましい接着強度をもたらし、その一方で必要なときに接合強度を実質的に小さくする機構を提供する。従って、この材料が接着される種々の構成要素の表面/界面に対する実際的な再加工方法が提供される。さらに、これらの改良された熱界面材料(TIM)は、必要とされる電気絶縁を維持すると同時に、高出力密度デバイスからの効率的な熱放散をもたらす。
【0040】
本発明をその1つ又は複数の実施形態の説明によって例証し、これら実施形態をかなり詳しく説明したが、これらは、添付の特許請求の範囲をそのような細部に制限するか又はいかようにも限定することを意図したものではない。当業者には、さらなる利点及び修正が容易に明らかとなるであろう。従って、本発明はその広い態様において、図示し説明した特定の細部、代表的な製品及び/又は方法並びに実施例に限定されない。本明細書で説明した例示的な実施形態の種々の特徴は、任意の組合せで用いることができる。従って、本発明の一般的な概念の範囲から逸脱することなく、それら細部から逸脱することができる。
【符号の説明】
【0041】
10、20:電子チップ・モジュール(組立てられたモジュール)
12、22:電子チップ
14、26、40、56:ヒートシンク
16、28、29、38、58、62:熱界面材料(TIM)層
24:熱拡散板
30、50:単一チップ・モジュール(組立てられたモジュール)
32、54:基板
34、60:単一チップ
35:はんだ接合
36:アンダーフィル・ポリマー
42:ベース
44:締結具
52:保護キャップ
53:接着剤接合部