(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5792869
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】スピントルク発振器を使用した接触検知を備えるハードディスクドライブ
(51)【国際特許分類】
G11B 5/02 20060101AFI20150928BHJP
G11B 21/21 20060101ALI20150928BHJP
G11B 5/31 20060101ALI20150928BHJP
G11B 5/39 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
G11B5/02 U
G11B21/21 E
G11B21/21 M
G11B21/21 N
G11B21/21 F
G11B5/02 R
G11B5/31 A
G11B5/39
【請求項の数】15
【外国語出願】
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-105235(P2014-105235)
(22)【出願日】2014年5月21日
(65)【公開番号】特開2014-229339(P2014-229339A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2014年6月4日
(31)【優先権主張番号】13/899,334
(32)【優先日】2013年5月21日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503116280
【氏名又は名称】エイチジーエスティーネザーランドビーブイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西田 靖孝
(72)【発明者】
【氏名】椎本 正人
(72)【発明者】
【氏名】片田 裕之
(72)【発明者】
【氏名】田河 育也
(72)【発明者】
【氏名】徐 鈞国
【審査官】
堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−048002(JP,A)
【文献】
特開2012−089225(JP,A)
【文献】
特開2012−109007(JP,A)
【文献】
特開2009−123281(JP,A)
【文献】
特開2006−190374(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/02
G11B 5/31
G11B 5/39
G11B 21/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピントルク発振器(STO)素子を備える読み取り/書き込みヘッドを備えるヘッドスライダと、
スピンドル上に回転可能に装着された磁気記録ディスクと、
前記ヘッドスライダを移動させて前記磁気記録ディスクの一部にアクセスするように構成されたボイスコイルモータと、
前記STO素子の抵抗をモニターするように構成された電子部品と、
を備え、
前記電子部品は、前記ヘッドスライダと前記磁気記録ディスクとの間の接触事象を、前記STO素子の前記抵抗に基づいて検知するようにさらに構成され、
前記電子部品は、前記ヘッドスライダと前記磁気記録ディスクとの間の接触事象を、前記STO素子の前記抵抗に基づいて、かつ読み取り動作が行われているか、それとも書き込み動作が行われているかに応じて異なる基準に基づいて検知するようにさらに構成される、
ハードディスクドライブ。
【請求項2】
前記電子部品は、第1の電子部品であって、かつ前記STO素子の抵抗値を出力するようにさらに構成され、
前記ハードディスクドライブは、前記電子部品から出力される前記抵抗値を受け取って、前記ヘッドスライダと前記磁気記録ディスクとの間の間隔を前記抵抗値に基づいて推定するように構成された第2の電子部品をさらに備える、
請求項1に記載のハードディスクドライブ。
【請求項3】
前記第2の電子部品は、前記ヘッドスライダと前記磁気記録ディスクとの間の間隔を、読み取り動作が行われているか、それとも書き込み動作が行なわれているかに対応する基準に基づいて推定するようにさらに構成される、
請求項2に記載のハードディスクドライブ。
【請求項4】
前記ヘッドスライダは、埋め込み接触センサ(ECS)素子をさらに備え、
前記第1の電子部品は、前記ECS素子の抵抗をモニターして出力するようにさらに構成され、
前記第2の電子部品は、前記ヘッドスライダと前記磁気記録ディスクとの間の間隔を、前記STO素子の前記抵抗および前記ECS素子の前記抵抗に基づいて推定するようにさらに構成される、
請求項2に記載のハードディスクドライブ。
【請求項5】
前記電子部品は、読み取り動作が行われているか、それとも書き込み動作が行なわれているかに基づいて前記STO素子に異なる電流を印加するようにさらに構成される、
請求項1に記載のハードディスクドライブ。
【請求項6】
前記STO素子は、前記読み取り/書き込みヘッドの書き込み主磁極と磁気シールドとの間に配置される、
請求項1に記載のハードディスクドライブ。
【請求項7】
ハードディスクドライブ内で使用されるように構成された電子部品であって、
1つ以上の命令シーケンスを実行するように構成され、
前記1つ以上の命令シーケンスは、実行された時に、前記ハードディスクドライブの読み取り/書き込みヘッドに配置されたスピントルク発振器(STO)素子の抵抗をモニターすることを遂行させ、
前記1つ以上の命令シーケンスは、実行された時に、ヘッドスライダと磁気記録ディスクとの間の接触事象を、前記STO素子の前記抵抗に基づいて検知することを遂行させ、
前記1つ以上の命令シーケンスは、実行された時に、ヘッドスライダと磁気記録ディスクとの間の接触事象を、前記STO素子の前記抵抗に基づいて、かつ読み取り動作が行われているか、それとも書き込み動作が行なわれているかに応じて異なる基準に基づいて検知することを遂行させる、
電子部品。
【請求項8】
前記1つ以上の命令シーケンスは、実行された時に、読み取り動作が行われているか、それとも書き込み動作が行なわれているかに基づいて前記STO素子へ異なる電流を印加することを遂行させる、
請求項7に記載の電子部品。
【請求項9】
ハードディスクドライブ内で使用されるように構成された電子部品であって、
1つ以上の命令シーケンスを実行するように構成され、
前記1つ以上の命令シーケンスは、実行された時に、前記ハードディスクドライブの読み取り/書き込みヘッドに位置決めされたスピントルク発振器(STO)素子の抵抗をモニターするように構成される電子部品から出力される抵抗値を受け取ることと、前記ハードディスクドライブのヘッドスライダと磁気記録ディスクとの間の間隔を、前記抵抗値に基づいて推定することと、を遂行させる、
電子部品。
【請求項10】
前記1つ以上の命令シーケンスは、実行された時に、前記ヘッドスライダと前記磁気記録ディスクとの間の間隔を、読み取り動作が行われているか、それとも書き込み動作が行なわれているかに対応する基準に基づいて、推定することを遂行させる、
請求項9に記載の電子部品。
【請求項11】
埋め込みスピントルク発振器(STO)を有するヘッドスライダを備えるハードディスクドライブ内の浮上量を感知する方法であって、
前記STO素子の抵抗をモニターすることと、
前記ハードディスクドライブの前記ヘッドスライダと磁気記録ディスクとの間の接触事象を、前記STO素子の前記抵抗に基づいて検知することと、
を含み、
前記検知することは、読み取動作が行われているか、それとも書き込み動作が行なわれているかに応じて異なる基準に基づいて検知することをさらに含む、
方法。
【請求項12】
前記ヘッドスライダと磁気記録ディスクとの間の間隔を、前記STOの前記抵抗に基づいて推定することをさらに含む、
請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記推定することは、前記ヘッドスライダと前記磁気記録ディスクとの間の間隔を、読み取り動作が行われているか、それとも書き込み動作が行なわれているかに対応する基準に基づいて推定することをさらに含む、
請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記基準は、読み取り動作及び書き込み動作にそれぞれ関連する前記STO素子の温度に基づく、
請求項1に記載のハードディスクドライブ。
【請求項15】
前記推定することは、前記間隔を前記STOの温度変化に基づいて推定することをさらに含む、
請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は一般に、磁気記録に関し、より具体的にはハードディスクドライブ内のスライダ浮上量の検知に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(HDD)は、保護筐体に収容され、かつデジタル的に符号化されたデータを、磁気面を有する1つ以上の円形のディスク(ディスクをプラッタと称してもまたよい)に記憶する、不揮発性の記憶装置である。HDDの動作中、各磁気記録ディスクはスピンドルシステムによって急速に回転される。アクチュエータによってディスクの特定の個所の上方に位置決めされる読み取り/書き込みヘッドを使用して、データを磁気記録ディスクに対して読み書きする。
【0003】
読み取り/書き込みヘッドは磁場を使用して、磁気記録ディスクの表面に対してデータの読み取りおよびデータの書き込みを行う。磁気双極子磁場が磁極から離れるにつれ急速に減少するので、スライダ内に収容される読み取り/書き込みヘッドと磁気記録ディスクの表面との間の距離を厳しく制御する必要がある。アクチュエータは、磁気記録ディスクが回転する間、スライダにかかるサスペンションの力およびスライダ空気軸受面(ABS)の空気力学特性にある程度依存して、読み取り/書き込みヘッドと磁気記録ディスクの表面との間に適切な距離(「浮上量」)をもたらす。そのためスライダは、磁気記録ディスクの表面の上に「浮上」するといわれる。
【0004】
面密度(ディスク表面の一定のエリア上に格納することができる情報ビット量の尺度)を大きくすることは、ハードディスクドライブデザインの進化において常に存在する難題の1つであり、磁気ヘッドと磁気記録ディスクとの間の間隔を小さくするために必要な開発および様々な手段が実行されてきた。このため現代のヘッドスライダは、ディスクにますます近接して浮上し、正確に浮上量を検知することは、ますます重要である。
【0005】
精密な浮上量間隔には接触の認識が重要であるので、いくつかの実例では、ヘッドスライダの機械的振動が、スライダとディスクとの間の接触を検知するために使用される。さらに精密な接触検知を行うために、専用の接触センサ(時には「埋め込み接触センサ」すなわち「ECS」、および「抵抗温度検出器」すなわち「RTD」とも称する)が提案されており、ヘッドスライダの構成に組み込まれ、接触センサの温度変化が、接触および/または接触に近い状態の指標として使用される。ECS素子は、ECS素子の抵抗に基づいて、スライダとディスクとの物理的接触を感知する。ECS素子の抵抗は、例えば素子両端の電圧の量であり、そのような物理的接触によって引き起こされた温度変化の影響を受ける。
【0006】
しかしながら、このように抵抗変化をモニターするためには、接触センサに電流を印加する必要がある。従って、そのような接触検知システムを使用するためには、サスペンション上に追加的な電線が必要になり、スライダ上に追加的な電気接触パッドが必要になる。その結果、接触検知システムを含まない磁気ヘッドスライダと比較して、デザインがより複雑で、より費用がかかるものになってしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の実施形態は、MAMRに基づいたスピントルク発振器(STO)を使用してヘッド−ディスク接触検知および浮上量感知を行う、構造的に効率のよい磁気ヘッドスライダデザインを対象とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
STO素子は、ECSのみに使用される抵抗素子とは異なり、読み取り動作が行われているか、または書き込み動作が行われているかによって大きく温度変化する。すなわち、STO素子は、書き込みをアシストするという主要な機能があるので、浮上量の感知を目的とする抵抗変化のモニタリングに必要とされるよりも相対的に大きな電流が、書き込み動作中に印加される。さらに、読み取り動作中に、予期しないデータ消去を回避するために、書き込み動作に対するよりも小さな電流をSTOに印加しなければならない。従って、一実施形態によれば、接触検知技法および間隔推定技法は、読み取り動作と書き込み動作との間の名目上の温度差、つまり異なる基準を考慮する。
【0009】
発明の実施形態の概要の段落で議論する実施形態は、本明細書で議論する実施形態のすべてを提案、説明、または教示することを意図したものではない。それゆえ、本発明の実施形態は、この段落で議論したものに追加的なまたはそれらとは異なる特徴を含み得る。
【0010】
本発明の実施形態を、添付の図面に限定ではなく一例として示し、その図面では、同様の参照符号は同様の要素を指す。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態によるHDDの平面図である。
【
図2】本発明の一実施形態によるHDD内の電気的な回線経路を示す。
【
図3】専用の接触センサを有する従来の磁気記録(MR)ヘッドの横断面図を示すブロック図である。
【
図4】本発明の一実施形態によるマイクロ波アシスト磁気記録(MAMR)ヘッドの横断面図を示すブロック図である。
【
図5】本発明の一実施形態による浮上量を感知するためのマイクロ波アシスト磁気記録(MAMR)ヘッドの使用を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書では、例えばハードディスクドライブ(HDD)内で使用される、ヘッド−ディスク接触検知およびヘッドスライダ浮上量感知のためのスピントルク発振器(STO)を使用する手法について説明する。以下の説明では、説明のために多くの特定の詳細を示して、ここで説明する本発明の実施形態の十分な理解を促す。しかしながら、ここで説明する本発明の実施形態を、これらの特定の詳細を用いずに実施し得ることは明らかである。他の例では、ここで説明する本発明の実施形態を不必要に曖昧にすることを避けるために、周知の構造および装置をブロック図の形態で示す。
【0013】
本発明の例示的実施形態の物理的説明
本発明の実施形態は、ハードディスクドライブ(HDD)用の磁気読み取り/書き込みヘッドを製造および使用することにおいて用いられてもよい。本発明の一実施形態によれば、HDD100の平面図が
図1に示される。
図1に、磁気読み取り/記録ヘッド110aを含むスライダ110bなどのHDDの構成部品の機能的な配置を示す。スライダ110bおよびヘッド110aは総称して、ヘッドスライダと呼ばれることもある。HDD100は、ヘッドスライダ、ヘッドスライダに取り付けられたリードサスペンション110cと、リードサスペンション110cに取り付けられたロードビーム110dとを含む少なくとも1つのヘッドジンバルアセンブリ(HGA)110を含む。HDD100はまた、スピンドル124に回転可能に装着された少なくとも1つの磁気記録ディスク120と、スピンドル124に取り付けられてディスク120を回転させる駆動モータ(図示せず)とを含む。ヘッド110aは、HDD100のディスク120に記憶された情報をそれぞれ読み書きする読み取り素子および書き込み素子を含む。ディスク120または複数の(図示せず)ディスクは、ディスククランプ128によってスピンドル124に固定されてもよい。
【0014】
HDD100はさらに、HGA110に取り付けられたアーム132と、キャリッジ134と、キャリッジ134に取り付けられたボイスコイル140を含む電機子136を含むボイスコイルモータ(VCM)と、ボイスコイル磁石(図示せず)を含む固定子144とを含む。VCMの電機子136は、キャリッジ134に取り付けられており、かつアーム132およびHGA110を動かして、ピボット軸受アセンブリ152を間に介在させてピボットシャフト148に装着されているディスク120の各部分にアクセスするように構成されている。複数のディスクまたはプラッタ(当該技術分野でディスクはプラッタと称することもある)を有するHDDの場合、キャリッジ134は、櫛の外観を呈するアームの連動アレイを保持するように配置されるので、「Eブロック」または櫛と呼ばれる。
【0015】
さらに
図1を参照すると、本発明の一実施形態によれば、電気信号(例えば、VCMのボイスコイル140への電流、ヘッド110aに対する書き込み信号およびヘッド110aからの読み取り信号)は、可撓性の相互接続ケーブル156(「フレックスケーブル」)により与えられる。フレックスケーブル156とヘッド110aとの間の相互接続は、読み取り信号用内蔵前置増幅器だけでなく他の読み取りチャネル電子部品および書き込みチャネル電子部品もまた有してもよいアーム電子回路(AE)モジュール160により設けられてもよい。図示のようにAEモジュール160をキャリッジ134に取り付けてもよい。フレックスケーブル156は、電気的コネクタブロック164に連結され、HDDハウジング168によって設けられた(図示しない)電気フィードスルーを通して電気通信を提供する。HDDハウジング168は、鋳造品とも称すが、HDDハウジングが鋳造されているかどうかに依存して、(図示しない)HDDカバーとともに、HDD100の情報記憶部品用の封止保護筐体を提供する。
【0016】
さらに
図1を参照すると、本発明の一実施形態によれば、ディスクコントローラおよびデジタル信号プロセッサ(DSP)などのサーボ電子機器回路などを含む(図示しない)他の電子部品は、電気信号を駆動モータ、VCMのボイスコイル140、およびHGA110のヘッド110aに提供する。駆動モータに提供される電気信号は、駆動モータが回転できるようにしてスピンドル124にトルクをもたらし、次いでそれは、ディスククランプ128によってスピンドル124に固定されているディスク120に伝達される。その結果、ディスク120は方向172に回転する。回転するディスク120は、空気軸受の機能を果たすエアクッションを生成し、その上にスライダ110bの空気軸受面(ABS)が乗るため、スライダ110bは、情報が記録されるディスク120の薄い磁気記録媒体と接触することなくディスク120の表面の上方を浮上する。
【0017】
VCMのボイスコイル140に提供される電気信号は、HGA110のヘッド110aが、情報が記録されるトラック176にアクセスできるようにする。それゆえ、VCMの電機子136は円弧180状に振り動いて、それにより、アーム132によって電機子136に取り付けられたHGA110は、ディスク120上の種々のトラックにアクセスできる。情報はディスク120上の複数の積層型トラック(図示せず)に記憶され、それらトラックは、例えば、セクター184のようにディスク120上でセクター状に配置される。それに応じて、各トラックは、例えばセクター化トラック部分188のような複数のセクター化トラック部分で構成される。各セクター化トラック部分188は、記録されたデータと、サーボバースト信号パターン、例えば、ABCD−サーボバースト信号パターン、トラック176を特定する情報、およびエラー訂正コード情報を含むヘッダーとで構成される。トラック176へのアクセスでは、HGA110のヘッド110aの読み取り素子は、位置エラー信号(PES)をサーボ電子機器回路に提供するサーボバースト信号パターンを読み取り、そのサーボ電子回路は、VCMのボイスコイル140に提供された電気信号を制御し、ヘッド110aがトラック176に追従できるようにする。トラック176を見つけて特定のセクター化トラック部分188を識別すると、ヘッド110aは、外部エージェント、例えば、コンピュータシステムのマイクロプロセッサからディスク制御装置が受信した命令に依存して、トラック176からデータを読み取るかまたはデータをトラック176に書き込むかのいずれかを行う。
【0018】
図2は、本発明の一実施形態によるHDD内の電気回線経路の一例を示す。
図2は、筐体201を含むハードディスクドライブ(HDD)200を図示しており、筐体201は、1つ以上の磁気プラッタまたはディスク120と、埋め込み接触センサ(ECS)素子203と、読み取り素子204と、書き込み素子205と、アクチュエータアーム132と、HGA110と、伝送路インターコネクト208と、(AE160などの)集積回路(IC)210と、可撓性の相互接続ケーブルと、ディスク筐体コネクタ214とを含む。
【0019】
電気信号は、読み取り素子204、書き込み素子205およびECS素子203と、集積回路210との間で、伝送路インターコネクト208を通して通信される。集積回路210は、書き込み中に電気信号が書き込み素子205を駆動することができるように条件付けを行い、読み取り中に読み取り素子204からの電気信号を増幅する。さらにIC210は、ECS203に対する信号の遣り取りを処理する。これらの信号は、一般的には浮上量の制御および管理に関連するヘッド−ディスク間隔信号および他の浮上量信号、具体的にはIVCシステムに関連する信号として使用され得る。信号は、IC210と、ディスク筐体コネクタ214との間でフレックスケーブル156を通して通信される。ディスク筐体コネクタ214は、ディスク筐体201の外部にある回路配線によって信号を伝える。他の実施形態では、IC210は、例えばフレックスケーブル156上またはハードディスクドライブ内のプリント回路基板(PCB)上など、
図2で図示されている以外の箇所に位置する。IC210は、時には前置増幅器(「プリアンプ」)と称することもあり、あるいは前置増幅器(「プリアンプ」)を含んでもよい。
【0020】
図3は、専用接触センサを有する従来の磁気記録(MR)ヘッドの横断面図を示すブロック図である。
図3は、MRヘッド300を、ディスク310のような記録媒体との関係において説明する。MRヘッド300は、リーダー320と、ライター330とを備える。さらにMRヘッド300は、ヒーター340と、埋め込み接触センサ(ECS)350とを備える。
【0021】
リーダー320は、2つの軟磁性シールド323と324との間に位置する読み取りセンサ322を備える。ヒーター340は通常、熱による浮上量制御(TFC)に使用される。ヒーター340に電流を印加することによって、周囲のスライダ材が、熱に応じて膨張することで、スライダがディスク310の方へ膨らんで浮上量が減少する。特に読み取り動作中に、ヒーターは、リーダー320を磁気ディスク310に近づけて、磁気ディスク310から読み取られたリードバック信号の強度を高める。
【0022】
ECS350は、スライダABSの、通常はライター330の近傍に位置する、金属製ストリップである。ECSの抵抗は、温度変化に応じて変化するので、ディスク310との摩擦熱によりスライダの温度が急上昇するとき、ディスク−スライダ接触を検知するために用いることができる。
【0023】
ライター330は、主磁極332と、ライターコイル334と、磁気シールド336と、リターン磁極338とを備える。主磁極332は、ABS(空気軸受面)で露出し、ディスク310に面してディスク310内の磁性粒子の磁化の方向を反転させることによって記録ビットを形成する。ライターコイル334は、主磁極332を励磁させるためのものである。すなわち、コイル334を通って流れる電気が、主磁極332の先端から放射する磁場を生成する。リターン磁極338は、磁束がディスク310からライター構造まで戻って磁気回路を完成するための手段を提供するために位置決めされる。磁気シールド336は、主磁極332から放射する磁束が集中しやすいように主磁極332とリターン磁極338との間に位置決めされる。
【0024】
書き込みのために、電気パルスが様々なパターンの正電流および負電流とともにライター330のコイル334に送られる。コイル334中を流れる電流は、主磁極332とディスク310との間のギャップを横切って磁場を誘導し、次に記録媒体上の狭い領域を磁化する。主磁極332からディスク表面に対して垂直な方向に強力な高密度の磁界が放射され、ディスク310の硬磁性最上層が磁化される。次に、生じた磁束はディスク310の軟磁性下層を通過してリターン磁極338に戻り、そこで磁束は十分に拡散して弱まるため、その磁束がリターン磁極338に戻る途中で硬磁性最上層を通過して戻るときに、主磁極332によって記録された信号を消去することはない。
【0025】
マイクロ波アシスト磁気記録
「MAMR」とは「マイクロ波アシスト磁気記録」のことである。MAMRを用いることで、ヘッドスライダは媒体中の電子を励磁させるマイクロ波フィールドを放射して、データビット書き込みのプロセスを容易にし、かつ支援するエネルギーを構築する。MAMRプロセスは、既存のヘッドスライダに組み込まれた磁性薄膜積層によって生成された局部的な高周波磁場を使用するものと思われる。そのような薄膜積層を実装する技法の1つは、スピントルク発振器(STO)を使用する。STO素子は、書き込み磁極へ補助磁束を注入して、書き込み磁極の磁化の切り替えを容易にする。書き込み磁極では、STOへの電流がSTO内の自由強磁性層の磁化の回転を誘導することで、STOは補助磁束を生成する。
【0026】
接触検知のためのスピントルク発振器の使用
MAMRを用いるとしても、ハードディスクドライブ(HDD)の記憶密度を増加させるためにヘッド−ディスク間隔を狭くすることが有利である。しかしながら、MAMRヘッド内で書き込みを助けるSTOを用いると、ヘッド構造および電気回路配線はさらに複雑になる。また、接触検知ならびに浮上量の感知および制御専用に個別のセンサ(例えば埋め込み接触センサ、すなわちECS)を使用することにより、電気接触パッドの数も増加する。このため、磁気ヘッドスライダ内でSTO構造およびECS構造の両方を使用するので、ヘッドスライダ構造が複雑化されて、コストも増加する。さらに、通常のECSの位置はライターの位置と一致しないので、書き込みプロセスによって誘導された熱によってライター付近が少しでも突起すると、ECSによる浮上量感知の精度が低下する。
【0027】
図4は、本発明の一実施形態によるマイクロ波アシスト磁気記録(MAMR)ヘッドの横断面図を示すブロック図である。
図4のMAMRヘッド400は、埋め込み接触センサ(例えば
図3のECS350など)がない点を除き、大部分は
図3のMRヘッド300に類似している。このため、MAMRヘッド400は、リーダー420と、ライター430と、任意選択のヒーター440とを備える。
図3のMRヘッド300の素子の説明は、
図4のMAMRヘッド400の類似する番号が付された各素子に適用されるので、簡潔のために、ここでは繰り返さない。
【0028】
MRヘッド300とは対照的に、MAMRヘッド400はスピントルク発振器(STO)素子402を含む。以前に議論したように、MAMRの目的のために、例えばSTO素子402のようなSTO素子は、主磁極432に補助磁束を注入して、主磁極432の磁化の切り替えを促進する。
【0029】
実施形態によれば、ヘッドと媒体との接触検知および間隔推定は、STO素子402の抵抗変化に基づいて行なわれる。ECS専用の抵抗素子とは異なり、STO素子402は、読み取り動作が行われているのか、それとも書き込み動作が行なわれているのかによって、大きく温度変化する。すなわち、STO素子402は、書き込みをアシストするという主要な機能があるので、接触検知および浮上量の感知を目的とする抵抗変化のモニタリングに必要とされるよりも相対的に大きな電流が、書き込み動作中に印加される。さらに、読み取り動作中に、予期しないデータ消去を回避するために、書き込み動作に対するよりも小さな電流をSTO素子402に印加しなければならない。従って、一実施形態によれば、接触検知技法および間隔推定技法は、読み取り動作と書き込み動作との間の名目上の温度差、つまり異なる基準を考慮する。
【0030】
専用の接触センサ(例えば
図3のECS350)およびSTO素子402のようなSTO素子の両者が使用されるシナリオと比較して、本明細書に記載の実施形態を用いれば、ヘッド構造自体が簡略化され、電線および電気パッドが少なくなるので、ヘッド構造および関連する電気部品が簡略化される。その結果、磁気記録システムのコスト低減が可能になる。
【0031】
図4に示されるように、STO素子402は、主磁極432と磁気シールド436との間に位置し、主磁極432および磁気フィールド436は、書き込み動作にとって重要な構成部品である。このため、MAMRヘッド400内のSTO素子402の位置に基づき、書き込み性能対して最も敏感なヘッド−ディスク間隔は、ライター430から遠隔した抵抗素子からの外挿によるのではなく、直接検知または直接推定が可能になる。これにより面密度を増加することができる。
【0032】
図5は、本発明の一実施形態による、マイクロ波アシスト磁気記録(MAMR)ヘッドを使用した浮上量の感知を示すブロック図である。
図5は、電線506(例えば、
図2の伝送路インターコネクト208も参照されたい)を介してプリアンプ504(例えば、
図2の集積回路210も参照されたい)と電気的に連結された、磁気ヘッドスライダ502(例えば、
図1のスライダ110bも参照されたい)を示す。
【0033】
ヘッドスライダ502上の電気パッドは、サスペンション(例えば、
図1のリードサスペンション110cも参照されたい)上で、(電線506を保持する)可撓性のケーブルを介してプリアンプ504に接続される。プリアンプ504は、読み取りセンサ420と、コイル434と、ヒーター440と、STO素子402とに電流を印加する機能を有する(
図4)。さらに、実施形態によれば、プリアンプ504の接触検知ブロック508は、いくつかの基準に従って、STO素子402の抵抗をリアルタイムで測定する機能と、STO素子402内の抵抗の変化を検知する機能と、STO素子402内の抵抗の変化に基づいた接触検知結果を出力する機能とを有する。例えば、プリアンプ504は、接触事象がSTO素子402の急激な抵抗の増加に基づいて生じたと判定してもよい。
【0034】
この実施形態では、ヘッド−ディスクの接触事象は、STO素子402内の迅速な抵抗変化を、少なくとも2つのそれぞれの閾値(
図5Aで閾値1および閾値2として図示される)に基づいて検知することにより判定される。それぞれの閾値は、読み取り/書き込みヘッドが書き込みモードで動作しているか、それとも読み取りモードで動作しているかを示す書き込みゲート505の該当するステータスに対応している。議論したように、接触検知および浮上量感知を目的とした抵抗変化のモニタリング中よりも大きな電流が、書き込み動作中にSTO素子402に印加され、さらに読み取り動作中に、書き込み動作に対するよりも小さな電流もSTO素子402に印加されなければならない。従って、一実施形態によれば、接触検知技法および間隔推定技法(それらは温度がSTO素子402の抵抗に与える影響に基づいている)は、読み取り動作と書き込み動作との間で用いられる名目上の印加電流差に対応する名目上の温度差に基づいて、異なる閾値基準を考慮する。
【0035】
他の実施形態によれば、
図4に関連して説明されているものと同一の設計の磁気ヘッドスライダ502が用いられる。プリアンプ504は、前述の実施形態と同様の機能を有し、要求に応じてSTO素子402の抵抗変化を継続的に出力する付加的な機能を有する。システム・オン・チップ(SoC:system on chip)510のプロセッサは、プリアンプ504から受けとるSTO素子402の抵抗変化に基づいてヘッドとディスクとの間の間隔変化を推定することができる。ディスクへの熱の放散によるスライダの冷却は、ヘッド−ディスクインターフェース(HDI)間隔に依存するので、スライダとディスクとの間で間隔が変化すると、STO素子402内で温度変化が生じる。この温度変化は、STO素子402の抵抗の変動として識別可能である。STO素子402の抵抗変化に基づいて、SoC510は、ヘッド−ディスク間隔に対応する変化を計算する機能を有する。例えば、SoC510は、接触事象を示す傾向がより強い、急激な抵抗の増加と比較して、相対的に小さいSTO素子402の抵抗の増加に基づいて、ヘッド−ディスク間隔が変化したと判定してもよい。
【0036】
ヘッド−ディスク間隔を継続的に推定するために、STO素子402に印加された電流(「STO電流」)は、STO電流が書き込み動作中にのみ印加される通常のMAMRの使用とは対照的に、読み取り動作中であっても印加される。読み取り動作中に印加されたSTO電流は、十分に小さいので予期しないデータの消去を回避することができる。このためSTO電流は、読み取り動作に対するのと書き込み動作に対するのとで異なる。従って、名目上のSTO温度はそれぞれの動作に対して異なり、間隔変化による温度変化も同様に異なる。読み取り動作中および書き込み動作中の両方の間隔変化を一貫して推定するために、それぞれの動作に対して異なる間隔推定のための計算が行われる。
【0037】
上述の明細書では、本発明の実施形態を、実施構成ごとに異なり得る数多くの特定の詳細を参照しながら説明した。従って、本発明が何であるか、および本出人が何を本発明であると意図するかを示す、唯一かつ排他的なものは、本出願から発生する特定の形式の請求項の組であり、この特定の形式において以後のあらゆる補正を含むこのような請求項が発生する。本明細書に明確に示す、このような請求項に含まれる用語のあらゆる定義は、請求項で使用される用語の意味を規定するものとする。従って、請求項に明確に列挙していない限定、要素、特性、特徴、利点、または属性が、このような請求項を決して限定すべきではない。従って本明細書と図面は、限定的な意味ではなく例示的な意味でとらえるべきである。