(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5792897
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】運転支援システムを有する自動車
(51)【国際特許分類】
B60R 21/00 20060101AFI20150928BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20150928BHJP
B60R 22/46 20060101ALI20150928BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
B60R21/00 627
G08G1/16 C
B60R22/46
B60T7/12 C
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-515092(P2014-515092)
(86)(22)【出願日】2012年6月14日
(65)【公表番号】特表2014-520025(P2014-520025A)
(43)【公表日】2014年8月21日
(86)【国際出願番号】EP2012002501
(87)【国際公開番号】WO2012175176
(87)【国際公開日】20121227
【審査請求日】2014年2月17日
(31)【優先権主張番号】102011104925.1
(32)【優先日】2011年6月18日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】598051819
【氏名又は名称】ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
(74)【代理人】
【識別番号】100101856
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 日出夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111143
【弁理士】
【氏名又は名称】安達 枝里
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルナー・ベルンツェン
(72)【発明者】
【氏名】ヒクメット・パルカ
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク・ロイター
【審査官】
粟倉 裕二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−149900(JP,A)
【文献】
特開2004−203387(JP,A)
【文献】
特開2010−079472(JP,A)
【文献】
特開2009−174900(JP,A)
【文献】
特開2007−248059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/00
B60R 22/00−48
B60T 7/12
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境パラメータ(U)に基づいて衝突危険性が検知されると自動車の自発的な減速を実施可能な運転支援ユニット(1)を有する自動車であって、前記運転支援ユニット(1)が、前記環境パラメータ(U)を検出するための少なくとも1つの検出ユニット(1.1)と、ブレーキユニット(1.4)とを備え、
前記運転支援ユニット(1)は、前記自動車が少なくとも1つのリバーシブルなシートベルトプリテンショナを備えている場合にのみ自発的なフルブレーキをかけることができるように設計されており、
前記運転支援ユニット(1)は、リバーシブルなシートベルトプリテンショナの駆動ユニット(1.6)の動作をチェックする手段を備えることを特徴とする自動車。
【請求項2】
少なくとも1つの環境パラメータ(U)を検出する前記検出ユニット(1.1)が、レーダーセンサ、ライダーセンサ、及び/又は光学カメラユニットを含むことを特徴とする請求項1記載の自動車。
【請求項3】
検出された少なくとも1つの環境パラメータ(U)に基づいて衝突危険性が検知され、衝突危険性が検知されると自動車の自発的な減速がされる、自動車用運転支援ユニット(1)の動作方法であって、
作動される自発的な減速に応じて、リバーシブルなシートベルトプリテンショナの駆動ユニット(1.6)の動作がチェックされ、前記駆動ユニット(1.6)のチェックが正の結果を示した場合にのみ自動車の自発的なフルブレーキが実行されることを特徴とする方法。
【請求項4】
前記リバーシブルなシートベルトプリテンショナの動作は、作動される自動車の減速値が所定の最大値以下である場合のみチェックされることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
衝突危険性が検知されると、自発的な減速が開始される前に警報がドライバーに発されることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ドライバーへの前記警報は、光、音響又は触覚警報信号として発されることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は請求項1の前段に記載の運転支援ユニットを備える自動車、及び請求項4の前段に記載の運転支援ユニットの動作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
適宜の検出装置を用いて自動車の周囲環境に関する情報を含む環境パラメータが検出される運転支援ユニットが先行技術から公知である。それによって例えば路面の障害物を検知することができる。衝突を避けるため、検出された環境パラメータが例えば自動車のヨー角及び/又は自動車の速度などの現在の走行パラメータと比較され、衝突の危険性が評価される。自動車に衝突の危険性がある場合は、自動車の衝撃を回避し、又は少なくとも衝撃の苛酷さを軽減するために運転支援ユニットから自動車の減速が自発的に開始される。
【0003】
特許文献1から、衝突が切迫している場合にインターバルリミットが割当てられた回避経路が判定される、自動車の衝突を回避する方法及び装置が公知である。インターバルリミットに達すると、ドライバーに警報が発され、回避操作が開始される。
【0004】
更に特許文献2は、自動車の適応速度制御のための装置及び方法を開示している。特に、自動車の衝突危険性を軽減するため、検知された危険状態に応じて自動的にステアリング干渉し、且つ/又はブレーキをかけることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】独国特許出願公開第10 2009 020 649 A1号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第101 02 772 A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような先行技術に基づいて、本発明の目的は、運転支援ユニットを有する改良された自動車、及び運転支援ユニットの改良された動作方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の好ましい実施形態は従属請求項の主題である。
【0008】
自動車は、環境パラメータを検出する少なくとも1つの検出ユニットとブレーキユニットとを含む運転支援ユニットを備えている。運転支援ユニットは、環境パラメータから衝突危険性が検知されると自動車の自発的な減速を行うように設計されている。本発明によれば運転支援ユニットは、自動車が少なくとも1つのリバーシブルなシートベルトプリテンショナを備えている場合にのみ自発的なフルブレーキをかけるように設計されている。
【0009】
運転支援ユニットは自発的に自動車にブレーキをかけることができる。しかし自発的に開始される減速はドライバー又は車両の乗員にとって不意に起こり、不都合な時点で開始されるため、ドライバー又は車両の乗員の着座位置は衝突状況に最適に適応していない。更に、ドライバー又は車両の乗員の上体は通常、自動車のブレーキ工程中に慣性による前方移動がシートベルトで抑えられる前に走行方向前方に移動する。自発的に開始される減速中に上体が前方移動することにより、上体が膨張可能なエアバッグの領域に飛び出るため、衝突時に車両の乗員やドライバーが負傷する危険性が明らかに高まる。したがって、エアバッグの膨張時に負傷することがあってはならない。更に、上体が前方に傾くことで、ドライバー又は車両の乗員の上体が膨張したエアバッグに当たると特に喉や頚部への負荷が増す。このように高まる負傷の危険性を低減するため、減速が自発的に開始される際に自動車の最大減速は最大値に制限される。自動車に作用する減速力が自動車のブレーキユニットの設計により制限されるような自動車のフルブレーキは、自動車にリバーシブルなシートベルトプリテンショナが備えられている場合にのみ可能であるように運転支援ユニットは設計されている。その際、リバーシブルなシートベルトプリテンショナは、自発的に開始される減速の前にシートベルトの引き締めによってドライバー又は車両の乗員の着座位置を予め固定できることにより、自動車事故の場合に負傷の危険性を低下するように制御可能である。
【0010】
自動車の運転支援ユニットを動作させる方法では、検出された少なくとも1つの環境パラメータにより衝突危険性が検知される。衝突危険性が検知されると、自動車の自発的な減速が作動される。本発明によれば、作動される自発的な減速に応じてリバーシブルなシートベルトプリテンショナの駆動ユニットの機能がチェックされる。自動車の自発的な減速は、乗員保護ユニットの機能チェックが負の結果を生じた場合には、特定の設計に応じた自動車の最大減速値以下の最大値に制限される。シートベルトプリテンショナの駆動ユニットのチェックの結果が正である場合は、自動車の最大減速値は制限されず、又、実際の危険状況において必要な場合には自動車の自発的なフルブレーキが開始される。
【0011】
運転支援ユニットから自発的に開始される自動車の減速を最大値に制限することで、質量慣性による望ましくない、危険の可能性がある乗員の前方傾斜を軽減する必要がある。その際、乗員保護ユニットのエアバッグが作動され、膨張する衝突の時点で乗員の姿勢を保つことが特に決定的に重要である。衝突の時点で乗員の上体が前方に傾き過ぎると、エアバッグが膨張した場合に乗員が負傷する危険性が高まる。特に乗員の頚部が前方に移動すると高い負荷を受けるが、これは衝突の時点で乗員の体が基本的に正規の着座位置に固定されていれば起らない。
【0012】
衝突の危険性が検知されると、自発的に自動車の減速が開始される。開始された減速の数値、すなわち自動車に作用する負の加速力が所定の最大値を超えると、着座位置を固定するために適する乗員保護ユニットが動作し、完全に機能しているかどうかが判定される。特に乗員保護ユニットはリバーシブルなシートベルトプリテンショナを含むことができる。乗員保護ユニットが動作し、完全に機能している場合は、乗員が安全な着座位置に固定されているものと想定されるため、自発的な減速の最大値までの制限は解除される。それによって、自動車に作用する加速力が設計に応じてのみ制限される自発的なフルブレーキを開始することができる。乗員保護ユニットが完全に機能していないかまたは作動していない場合は、そのチェックは負の結果となる。それに応じて、自発的に開始される自動車の減速は、乗員の高い負傷危険性を避けるために最大値以下に制限される。
【0013】
以下に図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】運転支援ユニットを動作する方法の構成の概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、自動車の運転支援ユニット1の動作方法を概略的に示している。特にレーダーセンサ、ライダーセンサ、及び/又は光学カメラユニットを含む検出ユニット1.1は、自動車の周囲の少なくとも1つの環境パラメータUを検出する。その際、例えば自動車の推測された走行経路上、又はその近傍にある可能性のある障害物までの距離と相対速度とが検出される。
【0016】
環境パラメータUは評価のために検出ユニット1.1の第1の制御ユニット1.2に送られる。第1の制御ユニット1.2は好ましくは環境パラメータUを評価するための少なくとも1つのグラフィックプロセッサを含んでいる。環境パラメータUの評価が自動車の重大な衝突危険性を示すと、対応する第1の制御信号St1または第2の制御信号が自動車のブレーキユニット1.4の第2の制御ユニット1.3に伝送される。
【0017】
本発明の好ましい実施形態では、衝突危険性を低減するため、さらにドライバが感知できる警報信号が発され、直面する衝突危険性にドライバーが適切に反応することができるようにしている。発される警報信号は光、音響又は触覚信号として実現できる。したがって、例えば光警報信号は車両内で自動車のインストルメントパネル上のドライバーの視角内に表示される。触覚警報信号はハンドルの振動によって実現されることもできる。変化する危険状況へのドライバーの反応が存在しない場合にのみ、自動車の自発的な減速を開始するための第1または第2の制御信号St1、St2が第2の制御ユニット1.3に伝送される。
【0018】
好ましくは、第2の制御ユニット1.3は、例えば自動車のスピン又は自動車のホイールのブロックを避けるために、適宜の電子的ルーチンを用いて自動車のブレーキを監視し、必要に応じて修正する既存の適応運転支援ユニット(例えば電子安定性制御)の一部である。
【0019】
第1又は第2の制御信号St1は、自動車の自発的なブレーキを開始する。深刻な危険状況に応じて、様々な強さの減速を開始することができる。したがって、重大さが低い状況では、自動車の減速値が所定の最大値以下に留まる部分的な制動が第1の制御信号St1によって開始される。それによって更にドライバーが危険状況に反応するチャンスが得られる。第1の制御信号St1によって作動される部分制動は即座に実行される。対応する第3の制御信号St3がブレーキユニット1.4に送られる。
【0020】
深刻な危険状況があり、又は危険状況に対するドライバーの適切な反応がない場合は、第2の制御信号St2が第2の制御ユニット1.3に伝送される。それによって、自動車の減速が所定の最大値を超える自動車のフルブレーキが開始される。その際、質量慣性により車両の乗員及び/又はドライバーの上体に力が作用するため、それぞれの上体の前方移動が安全ベルトによって抑止され姿勢が保たれる前に、走行方向への危険な前方傾斜が生じる。
【0021】
上体のこのような前方傾斜は車両の衝突時の負傷危険性を高める。特に、エアバッグが作動すると、喉及び頚部に過負荷がかかる。この負傷危険性を低減するため、ブレーキがかかる前に、特に上体が自動車シートの背もたれに接触する通常の着座位置に車両の乗員又はドライバーを固定するための、機能的でリバーシブルなシートベルトプリテンショナが作動する。
【0022】
しかし、例えば乗員保護ユニットのシートベルトプリテンショナが故障のために機能しないこともある。これは例えば、電気系統の電圧低下、シートベルトプリテンショナの駆動ユニット1.6の機械的故障、乗員保護ユニットの第3の制御ユニット1.5の電子的故障、又はインターフェース内の通信エラーによる機能不良によることがある。
【0023】
したがって、シートベルトプリテンショナの動作をチェックするために、第2の制御信号St2の受信時に第2の制御ユニット1.3によるクエリーがなされる。さらに、第4の制御信号St4が乗員保護ユニットの第3の制御ユニット1.5に伝送され、これが対応する乗員保護ユニット、特にリバーシブルなシートベルトプリテンショナの駆動ユニット1.6への第5の制御信号St5の形態での照会を開始する。
【0024】
乗員保護ユニットの駆動ユニット1.6によって、安全ベルトは特に空気圧式又は電動式に引き締められるため、乗員の上体の前方移動を大幅に避けることができる。駆動ユニット1.6によって安全ベルトをリバーシブルに引き締めることができる。ベルトの引き締めを行うため、例えば駆動ユニットの機械的ばね又はばねアセンブリを作動させることもできる。
【0025】
例えば、対応するエンジン速度、電力消費、又は駆動ユニット1.6の軸回転などを照会してシートベルトプリテンショナの動作をチェックすることができる。対応する第6の制御信号St6は駆動ユニット1.6から第3の制御ユニット1.5に送られる。乗員保護装置の動作は、第6の制御信号St6を評価することによって判定される。
【0026】
シートベルトプリテンショナが作動すると、車両の乗員がそれぞれの着座位置に安全に固定されており、フルブレーキをかけた場合に危険な前方傾斜を回避できるものと想定される。次いで第7の制御信号St7がブレーキユニット1.4の第2の制御ユニット1.3に伝送される。第2の制御ユニット1.3は、ブレーキユニット1.4に送られる第8の制御信号St8によって、自動車の最大減速は設計に応じてのみ制限され、所定の最大値によっては制限されない自発的なフルブレーキを開始する。
【0027】
しかし、シートベルトプリテンショナの駆動ユニット1.6が機能しないか、正常に機能しないことが第3の制御ユニット1.5によって確認されると、ドライバー及び/又は車両の乗員の負傷危険性が高まるため、自発的なフルブレーキは作動されない。第3の制御ユニット1.5により作動される自動車の制動の最大減速は、所定の最大値に制限される状態に留まる。
【0028】
運転支援ユニットの動作方法は、自動車の衝突及び/又はフルブレーキ時に車両の乗員が負傷する危険性を低減する。特に、本明細書に記載の方法によって、運転支援ユニットにより開始される自発的なフルブレーキの前にシートベルトプリテンショナの動作及び/又は機能の完全性がチェックされる。通常、このようなシートベルトプリテンショナは、機械的な最大ライフサイクルを有しており、それが過ぎるとシートベルトプリテンショナの機能が電子的にブロックされる。したがって、フルブレーキの前に乗員保護ユニット又はシートベルトプリテンショナの動作をチェックして、乗員のいずれかの負傷危険性を最小限にすることが有利である。
【0029】
記載した「リバーシブルなシートベルトプリテンショナ」は「リバーシブルなベルト引き締め」を達成する。一般に、リバーシブルなベルト引き締めはアクティブバックル又はその他の構成部品でも行うことができる。優先されるのは機能であって構成部品ではない。したがって、「リバーシブルなシートベルトプリテンショナ」があるかどうかの照会は、リバーシブルなベルト引き締めの機能を満たす部品が存在するかどうかの照会であると理解されたい。