特許第5792904号(P5792904)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5792904
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】離型フィルム
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/68 20060101AFI20150928BHJP
   H01L 21/56 20060101ALI20150928BHJP
   B29C 59/04 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   B29C33/68
   H01L21/56 R
   B29C59/04 Z
【請求項の数】2
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-532151(P2014-532151)
(86)(22)【出願日】2014年6月17日
(86)【国際出願番号】JP2014065957
(87)【国際公開番号】WO2014203872
(87)【国際公開日】20141224
【審査請求日】2015年3月2日
(31)【優先権主張番号】特願2013-127846(P2013-127846)
(32)【優先日】2013年6月18日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇都 航平
【審査官】 ▲吉▼澤 雅博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−230320(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/020543(WO,A1)
【文献】 特開2002−067240(JP,A)
【文献】 特開2008−246882(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/68
B29C 59/04
H01L 21/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンテレフタレート樹脂を含有する層を少なくとも1層有する単層構造又は多層構造の支持層と、離型層とを有する離型フィルムであって、
前記支持層は、無延伸樹脂層であり、
前記離型フィルムの少なくとも前記離型層側の表面が梨地加工されており、かつ、梨地加工された表面の十点平均粗さRzが3.0以上である
ことを特徴とする離型フィルム。
【請求項2】
離型フィルムの梨地加工された表面の十点平均粗さRzが15.0以下であることを特徴とする請求項1記載の離型フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離型性に優れ、高温の成型条件でも樹脂の流れ出しを抑制し、製品外観の不良を抑制することができる離型フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製品の製造においては、金型を用いて半導体チップを樹脂で封止し、成型品とする半導体モールド工程が行われる。この半導体モールド工程において、金型内面を離型フィルムで被覆した状態で樹脂成型を行うことにより、生産性を向上させ、樹脂による金型の汚染を防ぐことが行われている。従来、半導体モールド工程用離型フィルムとして一般的にフッ素系フィルムが使用されてきたが、コスト面での問題、熱収縮によるシワ発生、廃棄時にはフッ素系ガスが発生するため焼却処理できないという環境面での問題等を抱えており、基材としてフッ素系フィルムを使用しない新たな離型フィルムが求められている。
【0003】
特許文献1には、離型層(A層)と成形時の加熱に対する耐熱性を担う層(B層)との少なくとも2層を含む半導体パッケージ用離型シートが記載され、B層が無延伸のナイロン6樹脂からなることが記載されている。しかしながら、ナイロン6樹脂は吸湿性が高いため長期保管に適さないという欠点があった。
【0004】
吸湿性の比較的低い樹脂として、例えば、ポリエステル樹脂が挙げられる。特許文献2には、延伸ポリエステル樹脂フィルムからなる基材フィルムの少なくとも片面に、フッ素樹脂からなるフィルムが積層されてなる積層フィルムが記載されている。
しかしながら、特許文献2に記載されるような延伸ポリエステル樹脂フィルムを支持層とする離型フィルムを用いると、成型が行われる高温条件で所定量の樹脂を注入したとき、金型の外側に樹脂が溢れ出すことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−79567号公報
【特許文献2】特開2006−49850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記現状に鑑み、離型性に優れ、高温の成型条件でも樹脂の流れ出しを抑制し、製品外観の不良を抑制することができる離型フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂を含有する層を少なくとも1層有する単層構造又は多層構造の支持層と、離型層とを有する離型フィルムである。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者は、金型の外側への樹脂の溢れ出し(以下、単に「樹脂の流れ出し」ともいう。)を抑制するために、高温の成型条件における離型フィルムの柔軟性を高め、金型に対する追従性を改善することを検討した。その結果、支持層と離型層とを有する離型フィルムにおいて、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)を含有する層(以下、「PBT層」ともいう。)を少なくとも1層有する単層構造又は多層構造の支持層を用いることにより、離型性に優れるだけでなく、高温の成型条件でも樹脂の流れ出しを抑制することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明の離型フィルムは、PBT層を少なくとも1層有する単層構造又は多層構造の支持層を有する。
上記支持層がPBT層を有することにより、本発明の離型フィルムは、高温の成型条件における柔軟性が高くなり、金型に対して充分な追従性を発現することができることから、樹脂の流れ出しを抑制し、製品外観の不良を抑制することができる。また、PBT層を用いることにより、本発明の離型フィルムは、フッ素系フィルムを用いた場合に比べて焼却処理する際の環境負荷が軽減され、経済的にも有利である。更に、PBTは低分子量成分が少ない樹脂であることから、熱プレスに伴う低分子量成分のブリードアウトによる金型等の汚染を抑制することができる。
【0010】
本明細書においてポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)は、1,4−ブタンジオール(ジオール成分)と、テレフタル酸又はテレフタル酸ジメチル(酸成分)との重縮合反応によって得られるポリブチレンテレフタレートのほか、上記ジオール成分及び/又は上記酸成分にそれぞれコモノマーを添加し、重縮合反応によって得られる変性ポリブチレンテレフタレートであってもよい。
上記ジオール成分のコモノマーとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。上記酸成分のコモノマーとしてはイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸等が挙げられる。ジオール成分のコモノマーおよび酸成分のコモノマーはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、上記ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)は、ポリブチレンテレフタレートとポリアルキレングリコールとの共重合体等のPBTエラストマー(ハードセグメントとソフトセグメントの共重合物)も用いることができる。
上記PBT層は、上記ポリブチレンテレフタレート、変性ポリブチレンテレフタレート、PBTエラストマーのそれぞれを単独で含有してもよく、これらの2種以上を組み合わせて含有してもよい。
【0011】
上記PBTは、示差走査熱量計を用いて測定した融点が200℃以上であることが好ましい。融点が200℃以上のポリブチレンテレフタレート樹脂を用いることにより、200℃未満の通常の熱プレス条件では溶融したり破壊されたりすることがなく、優れた離型性を発揮することができる。上記融点は220℃以上であることがより好ましい。
なお、示差走査熱量計として、例えば、DSC 2920(TAインスツルメント社製)等が挙げられる。
【0012】
上記PBT層中におけるPBTの含有量の好ましい下限は60重量%、より好ましくは70重量%、更に好ましくは80重量%である。PBT層がPBTを60重量%以上含有することにより、高温の成型条件でも樹脂の流れ出しを抑制し、製品外観の不良を抑制するという本願発明の優れた効果を確実に発揮することができる。上記ポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量の上限は特に限定されず、100重量%がポリブチレンテレフタレート樹脂であってもよい。
【0013】
上記PBT層は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記ポリブチレンテレフタレート樹脂以外の熱可塑性樹脂又はゴム成分を含有してもよい。
上記熱可塑性樹脂は特に限定されず、例えば、ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスルフォン、ポリエステル等が挙げられる。
上記ゴム成分は特に限定されず、例えば、天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリブタジエン、ポリイソプレン、アクリルニトリル−ブタジエン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体(EPM、EPDM)、ポリクロロプレン、ブチルゴム、アクリルゴム、シリコンゴム、ウレタンゴム等が挙げられる。
【0014】
上記PBT層は、本発明の効果を損なわない範囲で、安定剤、繊維、無機充填剤、難燃剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、無機物、高級脂肪酸塩等の添加剤を含有してもよい。
【0015】
上記安定剤は特に限定されず、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、熱安定剤等が挙げられる。上記ヒンダードフェノール系酸化防止剤は特に限定されず、例えば、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、3,9−ビス{2−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニロキシ〕−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン等が挙げられる。上記熱安定剤は特に限定されず、例えば、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリラウリルホスファイト、2−t−ブチル−α−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−p−クメニルビス(p−ノニルフェニル)ホスファイト、ジミリスチル3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスチリルテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ジトリデシル3,3’−チオジプロピオネート等が挙げられる。
【0016】
上記繊維は、無機繊維であってもよく、有機繊維であってもよい。上記無機繊維は特に限定されず、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、アモルファス繊維、シリコン−チタン−炭素系繊維等が挙げられる。上記有機繊維は特に限定されず、例えば、アラミド繊維等が挙げられる。
【0017】
上記無機充填剤は特に限定されず、例えば、炭酸カルシウム、酸化チタン、マイカ、タルク等が挙げられる。
上記難燃剤は特に限定されず、例えば、ヘキサブロモシクロドデカン、トリス−(2,3−ジクロロプロピル)ホスフェート、ペンタブロモフェニルアリルエーテル等が挙げられる。
上記紫外線吸収剤は特に限定されず、例えば、p−t−ブチルフェニルサリシレート、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシベンゾフェノン、2,4,5−トリヒドロキシブチロフェノン等が挙げられる。
上記帯電防止剤は特に限定されず、例えば、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)アルキルアミン、アルキルアリルスルホネート、アルキルスルファネート等が挙げられる。
上記無機物は特に限定されず、例えば、硫酸バリウム、アルミナ、酸化珪素等が挙げられる。
上記高級脂肪酸塩は特に限定されず、例えば、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸バリウム、パルミチン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0018】
本発明の離型フィルム支持層は、複数層のフィルムである場合、中間層を有していてもよい。この場合、ポリブチレンテレフタレート樹脂を含有する層は、離型層と反対側の最外層にあることが好ましい。
上記中間層は、ポリオレフィン系樹脂を含有することが好ましい。
上記ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体等が挙げられる。これらのポリエチレン樹脂は単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
上記中間層は、上記表層と同様に、繊維、無機充填剤、難燃剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、無機物、高級脂肪酸塩等の添加剤を含有してもよい。
【0019】
上記支持層は、無延伸樹脂層であってもよいし、延伸樹脂層であってもよいが、特に高温の成型条件における柔軟性が高く、金型に対する追従性が高いことから、無延伸樹脂層であることが好ましい。また、上記支持層が延伸樹脂層である場合、その延伸倍率は3倍以下であることが好ましく、2倍以下であることがより好ましく、1.5倍以下であることが更に好ましい。
なお、本明細書中、無延伸樹脂層であるとは、押出し機によりダイから押出された原反シートに対し、延伸装置による熱延伸処理が施されていないことを意味する。
【0020】
上記離型フィルムは、片面又は両面が梨地加工されていることが好ましい。なお、片面が梨地加工されている場合、離型層側が梨地加工されていることが好ましい。本明細書において梨地加工とは、離型フィルム表面に微細な凹凸を形成することを意味する。
上記離型フィルムの片面又は両面が梨地加工されていることで、梨地形状が成型品表面に賦型されるため、樹脂の流れ模様(フローマーク)が見えにくくなり、成型品の外観の悪化を抑制することができる。
なお、離型層の厚さは非常に薄いため、上記離型フィルムは、支持層の片面又は両面が梨地加工されていてもよい。支持層の離型層側が梨地加工されている場合でも、離型層自体に梨地加工されている場合と同様に微細な凹凸を形成できる。
【0021】
上記離型フィルムは、梨地加工された表面の十点平均粗さRzが3.0以上であることが好ましい。上記十点平均粗さRzが3.0未満であると、樹脂の流れ模様(フローマーク)により成型品の外観が悪化することがある。上記十点平均粗さRzは5.0以上であることがより好ましい。
また、上記十点平均粗さRzの上限は特に限定されないが、15.0以下であることが好ましい。上記十点平均粗さRzが15.0を超えると、離型フィルムの離型性が低下してしまうことがある。上記十点平均粗さRzは15.0以下であることがより好ましい。
【0022】
本明細書中、梨地加工されていること、及び、梨地加工された表面の十点平均粗さは、表面粗さ計を用いて測定することで確認することができる。なお、表面の十点平均粗さとは、基準長さLにおいて最も高い山頂から高さが5番目までの山頂の標高をそれぞれYp1、Yp2、Yp3、Yp4及びYp5、最も深い谷底から深さが5番目までの谷底の標高をそれぞれYv1、Yv2、Yv3、Yv4及びYv5としたとき、下記式(1)によって求められる値(単位:μm)を意味し、値が大きいほど表面が全体として粗く、値が小さいほど表面が全体として平滑であることを意味する。なお、表面粗さ計として、例えば、Perthometer M1(Mahr社製)等が挙げられる。
【0023】
【数1】
【0024】
上記離型フィルムに梨地加工する方法は特に限定されないが、製膜した上記離型フィルムを、エンボス形状を有するロールで加熱・加圧することにより加工する方法が好ましい。
【0025】
上記支持層の厚さは特に限定されないが、好ましい下限は10μm、好ましい上限は200μmである。上記支持層の厚さが10μm未満であると、強度が損なわれ、熱プレス時又は剥離時に離型フィルムが破壊することがある。上記支持層の厚さが200μmを超えると、高温の成型条件における離型フィルムの柔軟性が低下し、金型に対する追従性が低下して、樹脂の流れ出しを抑制できないことがある。上記支持層の厚さのより好ましい下限は30μm、より好ましい上限は100μmである。
【0026】
本発明の離型フィルムは、離型層を有する。
上記離型層は、離型性を発現することができれば特に限定されないが、離型剤を塗布し、必要に応じて熱硬化又は紫外線硬化させることで形成された層が好ましい。上記離型剤として、例えば、フッ素系、アミノアルキド系等の熱硬化タイプの離型剤、ウレタンアクリレート系等の紫外線硬化タイプの離型剤等が挙げられる。なかでも、モールド樹脂に対して特に優れた離型性を発揮することから、フッ素系離型剤が好ましい。
【0027】
上記フッ素系離型剤は特に限定されず、例えば、MR W−6823−AL、MR W−6833−AL、MR W−6846−AL、MR W−6881−AL、MR F−6441−AL、MR F−6711−AL、MR F−6758−AL、MR F−6811−AL、MR EF−6521−AL、MR K−6714−AL、MR X−6712−AL(以上、AGCセイケミカル社製)、フリリース 600、フリリース 360、フリリース 390、フリリース 1200、フリリース 1300、フリリース 1900、フリリース 351、フリリース 380、フリリース 450、フリリース 11F、フリリース 50GA、フリリース 20、フリリース 22、フリリース 23、フリリース 26、フリリース 800、フリリース 410、フリリース 430、FRX−AS24、フリリース 44、フリリース PH206、フリリース PH300、FRX−AZ15(以上、ネオス社製)、GW−200、GW−201、GW−250、GW−251、GW−280、GF−500、GF−501、GF−550、GF−350、MS−600、GA−3000、GA−7500、GA−7550、GA−7550B、GA−7550C、FB−961、FB−962(以上、ダイキン工業社製)等が挙げられる。
上記アミノアルキド系離型剤は限定されず、例えば、テスファイン303、テスファイン305、テスファイン314、テスファイン319、TA31−209E(以上、日立化成社製)等が挙げられる。
上記ウレタンアクリレート系離型剤は特に限定されず、例えば、TA37−400A、TA37−400B、TA37−400C、TA37−401A、TA37−401B、TA37−401C(以上、日立化成社製)等が挙げられる。
【0028】
上記離型層の厚さは特に限定されないが、好ましい下限は0.1μm、好ましい上限は10μmである。上記離型層の厚さが0.1μm未満であると、上記離型層の離型性が充分に発揮されないことがある。上記離型層の厚さが10μmを超えると、高コストとなってしまう上、離型剤の種類によっては塗工工程での乾燥不良等の不具合が生じることがある。上記離型層の厚さのより好ましい下限は0.3μm、より好ましい上限は5μmである。
【0029】
本発明の離型フィルムは、離型フィルムの170℃における弾性率の好ましい下限が20MPa、好ましい上限が150MPaである。離型フィルムの170℃における弾性率が20MPa未満であると、金型への吸着時又は熱プレス時に離型フィルムにシワが発生し、このシワが成型品に転写したり、熱プレス時に離型フィルムに破れが発生したりしてしまうことがある。離型フィルムの170℃における弾性率が150MPaを超えると、高温の成型条件における離型フィルムの柔軟性が低下し、金型に対する追従性が低下して、樹脂の流れ出しを抑制できないことがある。離型フィルムの170℃における弾性率のより好ましい下限は40MPa、より好ましい上限は70MPaである。
なお、本明細書中、170℃における弾性率は、万能試験機(例えば、島津製作所社製のAUTOGRAPH AGS−X等)を使用することにより測定することができる。
【0030】
本発明の離型フィルムを製造する方法は特に限定されないが、製膜した上記支持層に離型剤を塗布し、必要に応じて熱硬化又は紫外線硬化させた後、エンボス形状を有するロールで加熱・加圧することにより加工する方法が好ましい。
上記支持層を製膜する方法は、例えば、水冷式又は空冷式共押出インフレーション法、共押出Tダイ法で製膜する方法等が挙げられる。なかでも、上記支持層が多層である場合には、各層の厚み制御に優れることから、共押出Tダイ法で製膜する方法が好ましい。
【0031】
本発明の離型フィルムは、半導体モールド工程において、金型内面を被覆することで、生産性を向上させ、樹脂による金型の汚染を防ぐために用いられることが好ましい。
ただし、本発明の離型フィルムの用途は上記用途に限定されず、例えば、プリプレグ又は耐熱フィルムを介して基板に銅張積層板又は銅箔を熱プレスし、プリント配線基板、フレキシブルプリント基板又は多層プリント配線板を製造する際に、熱プレス板と、得られたプリント配線基板、フレキシブルプリント基板又は多層プリント配線板との接着を防ぐために用いられてもよいし、熱硬化性接着剤を介して、銅回路を形成した基板にカバーレイフィルムを熱プレスにより接着し、フレキシブルプリント基板を製造する際に、熱プレス板と上記カバーレイフィルムとの接着、又は、上記カバーレイフィルム同士の接着を防ぐために用いられてもよい。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、離型性に優れ、高温の成型条件でも樹脂の流れ出しを抑制し、製品外観の不良を抑制することができる離型フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
ポリブチレンテレフタレート(PBT)75重量部と、PBTエラストマー(ポリブチレンテレフタレートとポリテトラメチレングリコールとの共重合物)25重量部の混合樹脂を押出機(ジーエムエンジニアリング社製、GM30−28(スクリュー径30mm、L/D28))を用いてTダイ幅400mmにて押出し、支持層を形成した。
得られた支持層に熱硬化タイプのフッ素系離型剤を塗布し、熱硬化させることで厚さ0.3μmの離型層を形成した。
更に、エンボス形状を有するロールにより、両面が梨地加工(離型層の表面十点平均粗さRz=12μm)された厚さ50μmの離型フィルムを得た。
なお、170℃における弾性率を、AUTOGRAPH AGS−X(島津製作所社製)を用いて測定した。
【0035】
実施例5〜12、比較例5〜7
表1、2のように、梨地加工の有無、Rz値、離型層の離型剤を変更したこと以外は実施例1と同様にして離型フィルムを得た。
【0036】
(比較例1)
市販の厚さ50μmの両面に凹凸加工が施されたフッ素系離型フィルム(テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、無延伸、旭硝子社製「アフレックス」)を離型フィルムとして用いた。
【0037】
(比較例2)
市販の厚さ50μmの両面に凹凸加工が施されたフッ素系離型フィルム(ETFE、無延伸、旭硝子社製「アフレックス」)を支持層として、該支持層に(HMDI)とオクタデカンジオールを含有するウレタンアクリレートからなる離型剤を塗布し、熱硬化させることで厚さ0.3μmの離型層を形成して、離型フィルムを得た。
【0038】
(比較例3)
市販の厚さ38μmの片面に凹凸加工が施されたポリエチレンテレフタレートフィルム(PET、東レ社製「ルミラー38F99」)を支持層として、該支持層に(HMDI)とオクタデカンジオールを含有するウレタンアクリレートからなる離型剤を塗布し、熱硬化させることで厚さ3μmの離型層を形成して、離型フィルムを得た。
【0039】
(比較例4)
ポリブチレンテレフタレート(PBT)を押出機(ジーエムエンジニアリング社製、GM30−28(スクリュー径30mm、L/D28))を用いてTダイ幅400mmにて押出して、厚さ50μmの離型フィルムを得た。
【0040】
<評価>
実施例及び比較例で得られた離型フィルムについて下記の評価を行った。結果を表1、2に示した。
【0041】
(1)離型性
離型フィルムの離型層側とエポキシ接着シートとを重ね、170℃、220kNで2分間熱プレスした後、試験速度500mm/分で180°剥離試験を行った。下記の基準で評価した。
◎:剥離力が0gf/cm(自然剥離)
〇:剥離力が0gf/cmを超えるが3.0gf/cm未満
×:剥離力が3.0gf/cm以上
【0042】
(2)追従性(樹脂の流れ出し)
銅貼積層板(CCLともいう)上にφ=1mmの穴を空けたカバーレイフィルム(エポキシ接着剤層を有するもの)を載せ、更に、離型フィルムを積層して170℃、220kNで2分間熱プレスした。このとき、穴部に流れ出したエポキシ接着剤の距離を光学顕微鏡にて観察しながら測定した。下記の基準で評価した。
◎:流れ出したエポキシ接着剤の距離が60μm未満
〇:流れ出したエポキシ接着剤の距離が60μm以上70μm未満
×:流れ出したエポキシ接着剤の距離が70μm以上
【0043】
(3)熱収縮率
離型フィルムを170℃で30分間加熱処理し、下記式により熱収縮率(MD方向)を計算した。
ΔL=[(L1−L0)/L0]×100
ΔL:熱収縮率(加熱寸法変化率)(%)
L1:加熱後寸法(mm)
L0:加熱前寸法(mm)
下記の基準で評価した。
〇:−1%≦ΔL≦1%
×:上記範囲外
【0044】
(4)成型品外観
離型フィルムを用いて、モールド成型装置による成型加工を行った。得られた成型品を目視にて確認し、下記の基準で評価した。
◎:外観不良が無く、適度なつや消し効果が得られる
〇:表面にフローマークやシワによる外観不良が無い
△:シワによる外観不良は見られないが、表面にフローマークが見られる
×:シワ発生による顕著な外観不良が見られる
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
(実施例13)
ポリブチレンテレフタレート(PBT)を押出機(ジーエムエンジニアリング社製、GM30−28(スクリュー径30mm、L/D28))を用いてTダイ幅400mmにて押出し、支持層を形成した。
得られた支持層に熱硬化タイプのフッ素系離型剤を塗布し、熱硬化させることで厚さ0.3μmの離型層を形成した。
更に、エンボス形状を有するロールで加熱・加圧することにより両面が梨地加工(離型層の表面十点平均粗さRz=12μm)された厚さ50μmの離型フィルムを得た。
なお、170℃における弾性率を、AUTOGRAPH AGS−X(島津製作所社製)を用いて測定した。
【0048】
実施例17〜24、比較例8〜10
表3、4のように、梨地加工の有無、Rz値、離型層の離型剤を変更したこと以外は実施例1と同様にして離型フィルムを得た。
【0049】
<評価>
実施例及び比較例で得られた離型フィルムについて上記と同様の評価を行った。結果を表3、4に示した。
【0050】
【表3】
【0051】
【表4】
【0052】
比較例11
ポリブチレンテレフタレート(PBT)75重量部と、PBTエラストマー(ポリブチレンテレフタレートとポリテトラメチレングリコールの共重合物)25重量部の混合樹脂を押出機(ジーエムエンジニアリング社製、GM30−28(スクリュー径30mm、L/D28))を用いてTダイ幅400mmにて押出し、支持層を形成した。
得られた支持層に熱硬化タイプのフッ素系離型剤を塗布し、熱硬化させることで厚さ0.3μmの離型層を形成した。
更に、エンボス形状を有するロールで加熱・加圧することにより両面が梨地加工(離型層の表面十点平均粗さRz=12μm)された厚さ50μmの離型フィルムを得た。
なお、170℃における弾性率を、AUTOGRAPH AGS−X(島津製作所社製)を用いて測定した。
【0053】
実施例28〜35、比較例12、13
表5のように、梨地加工の有無、Rz値、離型層の離型剤を変更したこと以外は実施例1と同様にして離型フィルムを得た。
【0054】
<評価>
実施例及び比較例で得られた離型フィルムについて上記と同様の評価を行った。結果を表5に示した。
【0055】
【表5】
【0056】
比較例14
ポリブチレンテレフタレート(PBT)を押出機(ジーエムエンジニアリング社製、GM30−28(スクリュー径30mm、L/D28))を用いてTダイ幅400mmにて押出し、縦延伸機と横延伸機を用いた2軸延伸により3倍に延伸して、支持層を形成した。
得られた支持層に熱硬化タイプのフッ素系離型剤を塗布し、熱硬化させることで厚さ0.3μmの離型層を形成した。
更に、エンボス形状を有するロールで加熱・加圧することにより、3倍延伸、かつ、両面が梨地加工(離型層の表面十点平均粗さRz=12μm)された離型フィルムを得た。
【0057】
比較例15〜17
表6のように、延伸処理の有無、梨地加工の有無、Rz値、離型層の離型剤を変更したこと以外は実施例1と同様にして離型フィルムを得た。
【0058】
<評価>
実施例及び比較例で得られた離型フィルムについて上記と同様の評価を行った。結果を表6に示した。
【0059】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、離型性に優れ、高温の成型条件でも樹脂の流れ出しを抑制し、製品外観の不良を抑制することができる離型フィルムを提供することができる。