特許第5792905号(P5792905)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5792905-炭化水素流を処理する方法及び装置 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5792905
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】炭化水素流を処理する方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20150928BHJP
   C22C 38/48 20060101ALI20150928BHJP
   C10G 75/00 20060101ALI20150928BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20150928BHJP
   C22C 38/58 20060101ALN20150928BHJP
【FI】
   C22C38/00 302Z
   C22C38/48
   C10G75/00
   C21D9/00 L
   !C22C38/58
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-533265(P2014-533265)
(86)(22)【出願日】2011年9月30日
(65)【公表番号】特表2014-535002(P2014-535002A)
(43)【公表日】2014年12月25日
(86)【国際出願番号】US2011054173
(87)【国際公開番号】WO2013048433
(87)【国際公開日】20130404
【審査請求日】2014年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】598055242
【氏名又は名称】ユーオーピー エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100133765
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 尚志
(72)【発明者】
【氏名】ウエン,シーシュエ
(72)【発明者】
【氏名】ムセク,マーク・ダブリュー
(72)【発明者】
【氏名】ブラッドレイ,スティーヴン・エイ
(72)【発明者】
【氏名】ティーメンズ,ベンジャミン・エル
(72)【発明者】
【氏名】アイゼンガ,ドナルド・エイ
【審査官】 守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−005506(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/044802(WO,A1)
【文献】 特開2006−131956(JP,A)
【文献】 特開2001−059141(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C10G 75/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素流を処理する方法であって、
炭化水素処理容器を通過させて炭化水素流を流動させること、
前記容器の内部表面の少なくとも一部分を所定の容器温度の400℃以上に、300時間以上、加熱すること、及び、
0.005〜0.020重量%の炭素、10〜13重量%のニッケル、15〜24重量%のクロム、0.20〜0.50重量%のニオブ、0.06〜0.10重量%の窒素、5%までの銅、及び1.0〜7重量%のモリブデンを含み、残部鉄及び不可避的不純物からなるオーステナイト系ステンレス鋼合金から形成された部分を少なくとも有する炭化水素処理容器を使用して、炭化水素処理容器の部分の鋭敏化及び塩化物応力腐食割れを制御することにより、内部表面の部分の鋭敏化と塩化物応力腐食割れを抑制すること、
を含む方法。
【請求項2】
前記所定の容器温度を、炭化水素処理容器内で565℃〜700℃の間に維持する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
塩化物濃度を炭化水素処理容器内で5ppm以上にし、塩化物が内部表面の部分に接触、その部分の塩化物応力腐食割れを抑制することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記所定の容器温度及び2ppm以上の塩化物濃度を炭化水素処理容器内で1,000時間よりも長く維持し、容器の内部表面の部分の鋭敏化及び塩化物応力腐食割れを少なくとも1,000時間、抑制することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
容器内で硫黄含有成分を流動させ、硫黄含有成分の一部分が酸素及び空気に容器内で相互作用してポリチオン酸を形成容器の内部表面の部分のポリチオン酸に起因する応力腐食割れを制御することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
炭化水素流の流動を間欠的に休止させること、容器温度を低下させること、及び、容器の内部表面の部分のポリチオン酸に起因する応力腐食割れを生じさせずに、炭化水素処理容器の内部の中和及びパージ無しに、酸素及び湿気を含む外部環境に炭化水素処理容器の内部を露出させること、をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
炭化水素処理容器の内部表面の、前記所定温度に維持されて1ppm以上の塩化物濃度に露出した変質領域を特定することと、変質領域の鋭敏化及び塩化物応力腐食割れを、ーステナイト系ステンレス鋼合金から形成された変質領域、及び別の材料から形成されたその他の領域を有する炭化水素処理容器を使用することによって制御することと、をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
容器の内部表面を溶接することをさらに含み、被溶接材料を、0.005〜0.020重量%の炭素、10〜13重量%のニッケル、15〜24重量%のクロム、0.20〜0.50重量%のニオブ、0.06〜0.10重量%の窒素、5%までの銅、及び1.0〜7重量%のモリブデンを含み、残部鉄及び不可避的不純物からなるステンレス鋼合金から形成して、被溶接材料の鋭敏化及び塩化物応力腐食割れを制御する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
炭化水素流を処理する装置であって、
その中を通過する炭化水素流の流動を入れる炭化水素処理容器、及び
0.005〜0.020重量%の炭素、10〜13重量%のニッケル、15〜24重量%のクロム、0.20〜0.50重量%のニオブ、0.06〜0.10重量%の窒素、5%までの銅、及び1.0〜7重量%のモリブデンを含み、残部鉄及び不可避的不純物からなるオーステナイト系ステンレス鋼合金から形成された、炭化水素処理容器の内面部分、を含み、前記容器の内部表面の少なくとも一部分を所定の容器温度の400℃以上に、300時間以上、加熱したとき、炭化水素処理容器の内部表面の部分の鋭敏化及び塩化物応力腐食割れを抑制する、装置。
【請求項10】
炭化水素処理容器が、稼働期間中にその内面部分に接触する2ppm以上の塩化物をその内部に含み、炭化水素流の内面部分が、塩化物に露出した後の塩化物応力腐食割れを抑制する、請求項9に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、炭化水素流を処理すること、より具体的には、炭化水素流を処理する方法と装置である。
【背景技術】
【0002】
石油精製は、炭化水素、例えば原油又はその他の天然の源に存在するもの等を、処理及び/又は転換する一つ又は複数の異なる工程を組み込んで、具体的用途に有益な特定の炭化水素製造物を製造するのが典型的である。
【0003】
これらの水素化処理操作を行い、原油及びその他の炭化水素を処理し、使用可能な製造物を形成するために、石油精製には、所望の最終製造物を調製する一つ又は複数の具体的な処理工程又は転換工程の実行を目的に設計された、一つ又は複数の複合施設又は設備群が含まれるのが典型的である。この点で、複合施設はそれぞれ、相互接続された多様なユニット又は容器を有していることもあり、それらには、とりわけ、タンク、加熱炉、蒸留塔、反応器、熱交換器、ポンプ、パイプ、付属部品、及び弁が含まれる。
【0004】
炭化水素処理の稼働は、その多くのタイプが、高い温度及び/又は圧力並びに多様で過酷な化学的環境内等の、比較的過酷な稼働条件下で実行されている。加えて、炭化水素及び石油化学製造物への非常に大きな需要があるため、多様な石油精製複合施設を通過する炭化水素流の容積流量は、相当なものであり、工程設備の停止時間の量は、生産量の損失を避けるためには少ないのが望ましい。
【0005】
高温炭化水素処理の稼働は概して、炭化水素流を工程温度へ加熱すること、及び、炭化水素流を、精製複合施設を形成する一つ又は複数の炭化水素処理容器を通過させて流動させることを含む。供給物及び所望の製造物に応じて、特定の工程技術が使用されており、それらには、ガス及び液体、具体的な成分を製造物の流れから除去する吸着剤、及び/若しくは反応速度を制御する触媒を含む、他の材料並びに/又は反応物の存在中で、炭化水素流を流動させることが含まれることもある。このように、炭化水素流を処理して、例えば、炭化水素流中の一つ又は複数の成分を改質したり、一つ又は複数の成分を他の材料(例えば、ガス)と容器内で反応させたり、炭化水素流から成分を除去して、これらの成分を、時にはさらなる工程で、潜在的製造物としたり、又は廃棄したりすることができる。
【0006】
従来、オーステナイト系ステンレス鋼は、上に列挙した石油精製容器を製造するために使用されており、その理由は、これらのタイプの合金が、多様で過酷な環境に有用であることにある。8%のニッケルを、18%のクロムを含むステンレス鋼に添加することで、微細構造及び性質が著しく変化する。この合金は、固化して冷えると、オーステナイトと呼ばれる面心立方構造を形成し、この構造は非磁性である。オーステナイト系ステンレス鋼は、極低温でも高度に延性であり、非常に優れた溶接性及びその他の製造特性を有している。
【0007】
オーステナイト系ステンレス鋼を含め多くの金属は、応力腐食割れ(SCC)として知られる、高度に局所的な形態の腐食にさらされる可能性がある。SCCはしばしば、見かけ上延性の材料中で分岐する割れの形態をとることがあり、ほとんど又はまったく前兆なしに生じる可能性がある。低圧力容器では、応力腐食割れの最初の兆候は通常、漏れであるが、応力腐食割れに起因して高圧力容器が破壊に至る故障の例がある。応力腐食割れは、腐食媒質に露出した材料の表面が引張応力下にあって、腐食媒質が特異的にその金属の応力腐食割れを引き起こす場合に生じる。引張応力は、印加された負荷、配管(piping)系及び圧力容器の内圧、又はそれ以前の溶接若しくは曲げに由来する残留応力の結果であることもある。
【0008】
オーステナイト系ステンレス鋼は、例えば、熱塩化物溶液、熱苛性ソーダ、及び熱硫化物又はポリチオン酸塩中で応力腐食割れを受ける可能性がある。特に、応力腐食割れは、精製工程中に添加される又は原材料に存在する硫黄含有量が少量であってもそれに起因して、精製複合施設の容器内で生じることが見出されている。ポリチオン酸応力腐食割れの危険性は概して、370〜815℃の温度範囲で増加する。
【0009】
ポリチオン酸応力腐食割れが、オーステナイト系ステンレス鋼で生じるには、典型的には、まず鋼が鋭敏化を経て、それと同時に又は引き続いて、ポリチオン酸等の腐食物質にさらされる必要がある。例えば、石油精製複合施設の製造に従来から使用されているタイプ304及び316等の非安定化グレードのオーステナイト系ステンレス鋼はすべて、鋭敏化、及びポリチオン酸に起因するポリチオン酸応力腐食割れを示している。安定化グレードの、タイプ321及び347等でさえも、鋭敏化、及びポリチオン酸SCCを示す可能性がある。典型的には、オーステナイト系ステンレス鋼内のクロムは、酸素と反応して酸化クロムの不動態膜を形成し、これが材料を腐食から保護している。不動態化金属は、それ以上の酸化又は錆びつきに対して耐性をもつことができる。しかし高温では、ステンレス合金に依存して、通常370〜815℃の範囲のどこかで、クロムを豊富に含む炭化物が結晶粒界に析出する。クロムが析出すると、結晶粒界近傍のクロム含有量が枯渇してクロム空乏領域が形成され、これらの領域では腐食性環境における腐食及び/又は割れ耐性が劇的に低下する。PTA−SCCには、金属表面上での硫化物スケールの形成、鋭敏化した微細構造、引張応力、湿気、及び酸素の組み合わせが必要である。
【0010】
図1は、「D.V. Beggs and R.W. Howe, "Effects of welding and Thermal Stabilization on the Stabilization and Polythionic Acid Stress corrosion Cracking of Heat and Corrosion-Resistant Alloys", NACE Conference 1993, Paper no. 541」から複製したものであり、従来のオーステナイト系ステンレス鋼が鋭敏化を示すことが見出された温度及び時間を図示する。この図からわかるように、オーステナイト系ステンレス鋼の鋭敏化に関するピーク温度及び時間は、一般的に、すべて565〜650℃の範囲内の温度で生じるものの、材料に特異的である。特に、タイプ347のステンレス鋼は、565℃で鋭敏化のピークを示す(すなわち、この温度においては、さらに高温又は低温の場合よりも速やかな鋭敏化を示す)が、この温度では、この高い温度に維持して1,000時間後まで鋭敏化しない。タイプ347のステンレス鋼は、図1に示す他のステンレス鋼と比較した場合に、鋭敏化にさらに長時間耐えられることから、精製工程設備でしばしば使用される。図1に例示するとおり、各ステンレス合金は、鋭敏化の範囲、すなわち、それらの合金が鋭敏化を示す、時間/温度図上の面積が異なる。
【0011】
オーステナイト系ステンレス鋼が応力腐食割れを経ているのが典型的に観察される一つの具体的に過酷な環境は、通常は塩化物の形態でハロゲン化物を含んでいる環境である。塩化物が、水相、及び引張応力とともに存在すると、その結果としてオーステナイト系ステンレス鋼の塩化物応力腐食割れ(「塩化物SCC」)が生じる。このタイプの割れは、大部分が結晶粒内であり、時間、酸素、及び塩化物の濃度に依存する。塩化物に起因する応力腐食割れは、塩化物、酸素の存在中で引張応力を受けているオーステナイト系ステンレス鋼の領域で通常は観察される。概して、塩化物SCCは、高濃度の塩化物が存在する場所で生じるであろうが、しかし高い温度では、もっと低濃度でも生じることがある。加えて、高温であることによって、具体的な塩化物濃度で塩化物SCCが生じるのに要する時間量が減少することもあると同時に、しばしば低温度であることによって、表面への塩化物の凝縮が生じ、表面上の塩化物の濃度が増加する。このように、塩化物SCCは、多くの温度範囲で問題を生じる可能性がある。例えば、塩化物SCCは、例えば材料表面上若しくは加熱表面上の孔食若しくは隙間腐食によって塩化物濃度が蓄積する場所で、又は、材料表面上の環境凝縮物中に塩化物が存在する場所で、生じる可能性がある。塩化物は、不動態膜を貫通することができ、それによって、材料への腐食性の侵食が生じる。塩化物SCCが問題となる具体的な一つの領域は、容器の表面上で塩素が凝縮して高濃度となる凝縮器中である。
【0012】
鋭敏化ステンレス鋼が特に影響を受けやすい、別のタイプの過酷な腐食性環境は、空気中の湿気により硫化物スケールが分解して形成されるポリチオン酸(PTA)を含むものである。多くの石油精製複合施設及び/又は工程における還元環境又は供給流での、稼働の高い温度並びに硫黄(S)及び硫化水素(HS)の存在に起因して、硫化鉄スケールがステンレス鋼の表面に形成される可能性がある。設備の停止の時点で、もし鋭敏化ステンレス鋼が、まわりの環境からの湿気と酸素に露出すると、ポリチオン酸応力腐食割れ(PTA−SCC)の結果としてこの金属が割れる可能性が潜在的に存在する。換言すると、硫黄及び硫化水素は、周囲環境からの酸素及び湿気と反応し、ポリチオン酸を形成するであろう。加圧されること、又は、例えば、製造時の溶接に由来する残留応力を有することによって容器が引張応力下に置かれる場合には、鋭敏化により形成されたクロム空乏領域の存在に起因して、PTAがこれらの領域を侵食し、腐食、そして最終的にはPTA−SCCが生じる可能性がある。
【0013】
商業的には、高い温度で工程を実行する複合精製施設の設備の内側面は通常、タイプ304及び347のオーステナイト系ステンレス鋼から作られ、硫黄又はHSを含む還元環境、例えば、水素化処理及び水素化分解を行う反応器、加熱器及び熱交換器、環化脱水素二量化を通じて液化天然ガス(LPG)を芳香族化合物に転換する複合施設、並びに接触脱水素化してパラフィンから軽質オレフィンを製造する工程等において特に使用される。最も広範に使用されているステンレス鋼はおそらく、時にはT304又は単純に304とも呼ばれることもあるタイプ304であり、その理由は費用である。タイプ304のステンレス鋼は、18〜20%のクロムと8〜10%のニッケルを含むオーステナイト系の鋼である。高温のHS、硫黄、及び塩化物SCC、並びに、これらの工程に存在する高温の水素浸食の問題に起因して、この、及びその他の特色あるオーステナイト系ステンレス鋼が、これらの応用において使用されてきた。
【0014】
いくつかの例では、保護被膜を塗布して、ステンレス鋼容器の外側を断熱ジャケット中での塩化物への露出から保護している。他の応用では、溶接後の熱処理を使用して、鋼合金中の残留応力を解放することができる。石油精製設備中のPTA−SCC及び塩化物SCCの危険性は、従来は主に、PTAの形成及び/若しくは塩化物の存在を防止する、又は、空気への露出に先立って環境中のPTAを中和する、のどちらかの既知の工程により対処されてきた。
【0015】
塩化物SCCの影響を低減させるためには、オーステナイト系ステンレス鋼の設備に接触することになる工程材料又は供給物中の塩化物の量を最小限にする予防措置をとるのが典型的である。例えば、具体的な工程では、塩化物の多い供給物を用いてもよい。加えて、この系で使用する、あらゆる洗浄用、パージ用、又は中和用の薬剤の塩化物含有量を低レベルに抑制する予防措置がとられている。
【0016】
PTAの形成を防止するのは、液相の水、又は酸素のどちらかを除去すれば達成することができ、それは、これらが、硫化物スケールと反応してPTAを形成する原因となる成分であるからである。一手法は、オーステナイト系ステンレス鋼の設備の温度を水の露点以上に維持して、結露を避けることである。別の手法は、系を減圧して設備を開き空気に露出させる場合に、停止又は始動手順の際には必ず、乾燥窒素パージを用いて設備をパージすることであり、それは、相当量の酸素が系に入る可能性があるのが、概してこの時しかないからである。
【0017】
一方で、複合施設若しくは容器内で形成された又は形成される可能性のあるPTAは、アンモニア性窒素によるパージ又はソーダ灰水溶液により中和してもよい。アンモニア性窒素によるパージを使用する場合では、特別な手順を使用してアンモニア性窒素を形成し、この窒素を加圧して系に吹き込む。一方で、ソーダ灰溶液による中和ステップでは、系を空気に露出するのに先立って、配管(piping)又は関連する設備の部品を溶液で完全に満たし、最低2時間、設備を浸すことが含まれる。これらの工程はそれぞれ、パージ又は中和のステップを実行するためにさらなる材料と具体的な設備のさらなる停止時間が必要となるので、時間がかかり、石油精製複合施設の稼働中には実用的でない。加えて、窒素、アンモニア性窒素、又はソーダ灰の存在に起因して、これらの材料が存在する場合には、設備で作業する点検作業員を保護する特別な予防措置をとる必要がある。また、これらの化学物質がなければ、特別な操作や廃棄物処分の必要性が減少する。痕跡量レベルでこれらの化学物質が残留していることはしばしばあるが、もしそうなら、反応器内の触媒が汚染される可能性がある。
【0018】
加えて、TP321及びTP347のような、化学的に安定化したオーステナイト系ステンレス鋼が、高温腐食に対するそれらの耐性という理由から、硫黄及び塩化物を含む流れを処理する反応器に使用されてきた。しかしながら、そのようなオーステナイト系ステンレス鋼もまた、ポリチオン酸へ露出する結果、PTA−SCCの影響を受けやすいが、これはまさに、そうしたステンレス鋼が鋭敏化する温度での時間に関する問題であって、その温度での時間が、多くの炭化水素処理工程の稼働条件の範囲内に収まるからである。同様に、これらの材料は、充分な時間と温度での塩化物への露出を通じて、塩化物SCCの影響を受けやすい。TP321とTP347は概して、石油精製工業において上述の方法に従う応用で使用されるものの、溶接後の熱処理、並びに精製複合施設の停止及び始動中での特別な手順が必要なことから、これらを実行するのにある程度の時間量を必要とするので、費用だけでなく製造時間も影響を受ける。
【0019】
従って、内部環境をパージ又は中和してポリチオン酸の形成を回避する、高価で時間がかかる不便な追加ステップを回避し、炭化水素処理容器内の塩化物の存在、並びにPTA−SCC及び塩化物SCCの発生を低減させつつ、炭化水素流を処理する改良された工程の必要性は、止まることがない。
【発明の概要】
【0020】
一手法では、炭化水素流を処理する方法が提供される。その方法は、炭化水素流を、炭化水素処理容器を通過させて流動させることを含む。加えて、その方法は、容器の内部表面の少なくとも一部分を所定の容器温度の565℃以上に、1,000時間以上、加熱することを含む。この点で、容器は、内部表面の部分の鋭敏化が通常生じる可能性のある温度と時間で加熱される。方法は、0.005〜0.020重量%の炭素、10〜30重量%のニッケル、15〜24重量%のクロム、0.20〜0.50重量%のニオブ、5%までの銅、及び0.06〜0.10重量%の窒素を含む新規オーステナイト系ステンレス鋼合金から形成された少なくとも一部分を有する炭化水素処理容器を使用して、内部表面の部分の鋭敏化を抑制することによって、炭化水素処理容器の部分に生じる鋭敏化及び塩化物応力腐食割れを制御することを、さらに含む。意外なことに、炭化水素処理容器の内部表面の部分の鋭敏化は、従来のオーステナイト系ステンレス鋼で形成された炭化水素処理容器にとっては鋭敏化を生じる可能性のある温度と時間で、その部分が加熱された場合でも、低減又は抑制されることが見出された。
【0021】
別の手法では、炭化水素流を処理する装置が提供される。装置は、通過する炭化水素流の流動を入れる炭化水素処理容器を含む。装置はまた、0.005〜0.020重量%の炭素、10〜30重量%のニッケル、15〜24重量%のクロム、0.20〜0.50重量%のニオブ、0.06〜0.10重量%の窒素、5%未満の銅、及び1.0〜7重量%のモリブデンを含む新規オーステナイト系ステンレス鋼合金から形成された炭化水素処理容器の内面部分を含み、炭化水素処理容器の内部表面の部分の鋭敏化と塩化物応力腐食割れを抑制する。このように、炭化水素処理容器の内面の部分は、鋭敏化が典型的に生じる所定温度以上に上昇した場合であっても、鋭敏化、及び塩化物応力腐食割れを抑制する。加えて、塩化物が、炭化水素処理容器内に存在して、塩化物応力腐食割れが通常予測される所定濃度以上の濃度で内部表面部分に接触している場合であっても、内面部分は、塩化物応力腐食割れを抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、従来のオーステナイト系ステンレス鋼の鋭敏化の範囲を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
定義
「容器」という用語は、あらゆるタイプの入れ物、タンク、反応器、パイプ、塔、カラム、交換器、又は、石油精製複合施設内の他の構造体若しくは装置を意味し、この構造体若しくは装置は、石油精製複合施設の稼働中に、炭化水素流体を保持する、又は、連続的に若しくはバッチ処理で若しくは間欠的に炭化水素流を通過させて流動させる。
【0024】
「炭化水素処理容器」という用語は、石油精製複合施設内の容器を意味する。
「維持すること(maintaining)」という用語は、材料の流動が、指示された時間の間、維持されているが、しかし保守又は点検のために中断されていてもよいことを意味する。本明細書で使用されているとおり、炭化水素の流動は、定常的な又は予想外の保守、点検、又は修理のために中断されることがあっても、維持される。
【0025】
「内部表面」という用語は、容器内部壁、及び、間仕切り、管(tube)、内装設備等のその他容器内のあらゆる構造体の両方を含む炭化水素処理容器内に露出したあらゆる表面を意味する。
【0026】
詳細な説明
一つ又は複数の異なる炭化水素を含む、並びに、他の成分及び/又は不純物を含むこともある炭化水素供給流を処理する工程が提供され、工程は、炭化水素処理容器を通過させて炭化水素流を流動させることを含む。炭化水素処理容器は、炭化水素供給流の一つ若しくは複数の成分を転換若しくは処理して所望の製造物を形成する一つ若しくは複数の具体的なタイプの炭化水素転換工程又は処理工程を実行することが可能な、さらに大きな石油精製複合施設の一部として、含まれていてもよい。工程は、炭化水素流を、それを処理するための炭化水素処理容器内に流動させることを含む。稼働中には、炭化水素流及び/又は容器に熱を印加する。熱の炭化水素流への印加は、それが炭化水素処理容器内にある時、又は入る前でもよく、これにより、その温度が工程温度に上昇する。このように、炭化水素処理容器もまた、その中の炭化水素流の加熱、又は炭化水素流から容器壁への伝熱のいずれかにより、所定の容器温度に加熱してもよい。温度、圧力、空間速度等の、具体的な工程パラメーター又は稼働条件は典型的には、工程特異的であり、具体的な工程の、具体的な反応又は処理のステップを促進するために選択される。
【0027】
一手法では、工程は、所定量の時間、維持される。この点において、工程は、設備の点検若しくは置き換え、検査、又はその他の理由のために、間欠的に停止してもよいことに注意されたい。換言すれば、周期的及び/又は間欠的な停止以外、工程は、本手法に従って所定量の時間、維持され、それには、炭化水素処理容器を通過させて炭化水素流を流動させること、並びに容器が所定温度に維持されるように炭化水素流及び容器を加熱することが含まれる。
【0028】
一手法では、工程は、ハロゲン化物応力腐食割れ、そしてより具体的には、所定の容器温度に加熱された容器の内部表面の一部分の塩化物SCCを制御することを含む。工程は、その稼働中に塩化物が容器内に存在する場合であっても、内部表面部分の塩化物SCCを制御することを含んでいてもよい。一形態では、内部表面部分の塩化物SCCを制御することは、新規モリブデン含有の、新規オーステナイト系ステンレス鋼から形成された内部表面の部分を使用することによって達成される。
【0029】
一手法では、工程は、所定の容器温度に加熱された容器の内部表面の一部分の鋭敏化を制御することを含む。鋭敏化の制御には、発生する鋭敏化の量を抑制又は低減させることが含まれ、炭化水素処理容器の内部表面の部分の材料内でクロム炭化物が析出する程度を抑制又は低減させることを伴うこともある。炭化水素処理容器が所定の容器温度に所定量の時間、従来のオーステナイト系ステンレス鋼の鋭敏化の範囲で鋭敏化が典型的に観察されている点にまで加熱されている場合であっても、クロム炭化物の析出は制御される。炭化水素処理容器の内部表面でのクロム炭化物の析出の制御を、新規オーステナイト系ステンレス鋼から形成された炭化水素処理容器の内部表面の少なくとも一部分を加熱することによって達成してもよい。
【0030】
一手法では、炭化水素処理容器の内部表面は、所定の容器温度以上に、その中を通過する炭化水素流の流動によって加熱してもよく、この場合、炭化水素流は、容器に入る前に所定温度まで加熱され、炭化水素流から内部表面に熱が伝達する。別の手法では、炭化水素処理容器の内部表面は、その中を通過して流動する炭化水素流の温度を工程温度に上昇させるため、加熱炉、熱交換器、又は他の加熱設備を使用して、容器又は内装設備又は構造体に熱を印加することにより、所定の容器温度以上に加熱してもよい。
【0031】
炭化水素処理容器を、所定の容器温度に加熱して、所定の容器温度で所定量の時間、維持してもよい。新規オーステナイト系ステンレス鋼で形成された炭化水素処理容器を、高温の炭化水素処理工程の通常の稼働条件内に収まる所定の時間及び温度に加熱することによって、炭化水素処理容器の鋭敏化は生じないことが見いだされた。意外なことに、鋭敏化は、工程を維持する所定の容器温度、及び所定の時間が、炭化水素処理容器の製造に従来使用されてきたオーステナイト系ステンレス鋼の鋭敏化の範囲内又は近傍に収まる場合であっても、低減又は抑制された。理論に拘束されるわけではないが、新規オーステナイト系ステンレス鋼のより低い炭素含有量が、結晶粒界に沿った合金内クロム炭化物の析出の程度を低減又は抑制すると考えられている。このことが今度は、クロム空乏領域の形成、及び、その結果生じる、石油精製複合施設の製造に使用されるオーステナイト系ステンレス鋼に典型的に存在する鋭敏化を、低減又は抑制する。さらに、ニオブの添加が、炭素、及び材料中に存在してクロム炭化物の形成と析出を抑制する窒素と相互作用すると考えられている。また、これ以外には炭素含有量が低いことに起因して生じることもある炭化水素処理容器の強度の喪失は、新規オーステナイト系ステンレス鋼に窒素を添加することによって、抑制される。
【0032】
塩化物イオンが炭化水素処理容器内に存在してもよく、塩化物イオンが新規オーステナイト系ステンレス鋼に接触して、塩化物SCCを制御してもよい。この目的のために、塩化物SCCを生じるのに典型的には充分な可能性のある塩化物レベルが、炭化水素処理容器内に存在してもよいが、しかし、新規オーステナイト系ステンレス鋼から形成された内部表面の部分を使用することによって、塩化物SCCは抑制される。新規オーステナイト系ステンレス鋼内にモリブデンが含有されていることで、材料上の不動態クロム酸化物膜が安定化することにより、塩化物を含む環境での材料の不動態が促進されると考えられる。モリブデンは、不動態膜を、もしそれが劣化していれば修復することさえ行うと考えられる。この点において、新規オーステナイト系ステンレス鋼は、容器の内部表面の部分の孔食及び隙間腐食に対する耐性を増加させる。孔は通常、塩化物応力腐食割れの開始位置であるので、モリブデンはまた、塩化物応力腐食割れに対する耐性を増加させる。
【0033】
さらに、窒素もまた、鋼を強化することに加えて、孔食及び塩化物SCCに対する耐性に関してモリブデンと同様な機能を有していると考えられ、その理由は、クロム−モリブデン相の形成を抑制することにある。酸性環境では、金属の腐食は概して、同時に生じる金属溶解反応及び水素発生反応を含む。二つの反応の両方又はいずれかを抑制すると、腐食が低減されるであろう。本新規オーステナイト系ステンレス鋼のモリブデンは、大部分の有機酸等、大部分の還元性酸における水素発生を顕著に抑制し、従って、有機酸に対する金属の耐性を増加させる。
【0034】
さらなる具体的事項に転じると、一つ又は複数の具体的な炭化水素転換工程又は処理工程を実行する石油精製複合施設、及びそこでの具体的な炭化水素処理容器は、本明細書に従えば、炭化水素流を輸送及び保持する設備、並びに複合施設及び/又は容器において生じる工程を促進する設備を含む。所与の複合施設内の具体的な設備は、とりわけ、供給物及び所望の製造物、実行される工程、並びに、稼働温度、圧力、及び空間速度を含む稼働条件に依存するであろう。
【0035】
設備は、一つ又は複数の炭化水素処理容器を含んでいてもよく、これらの容器が、施設を通過する炭化水素流の流動を容易にし、その内部に炭化水素流を含み、及び/又は複合施設内で遂行される具体的な工程を促進してもよい。炭化水素処理容器は、例えば、炭化水素流、並びに若しくは、再循環流、処理ガス、及び触媒等の他の材料の流れを輸送する配管(tubing)又は配管(piping)を含んでいてもよい。配管(piping)は典型的には、内部を通過する炭化水素流又は他の材料の流動を方向付ける内部表面と壁厚とを有するパイプ壁をもつ中空パイプの形態である。パイプを一つに接続するフランジ、及び、パイプの断面を一つに溶接する溶接部等の、さらなる構造体又は不連続部もまた、提供される。ノズル及び/又は弁もまた、複合施設を通過する炭化水素流若しくは他の材料の流動を制御する、施設内の配管(piping)又は他の容器と一体になっていてもよい。
【0036】
多くの炭化水素処理工程が、炭化水素流の温度を所定の工程温度に上昇させる具体的な設備を含む。例えば、複合施設内の炭化水素処理容器は、互いに隣接した流れを走らせて相互に熱を伝達させる配管(tubing)を有するコンバインドフィード熱交換器(combined feed heat exchanger)を含んでいることもある。例えば、熱交換器は、反応器から出る廃液等の熱い流れを、さらに低温の流れ、例えば反応器に入る供給流に隣接させて走らせる配管(piping)又は他の構造体を含んでいてもよく、これにより供給流の温度が工程温度に増大する。加えて、複合施設は、炭化水素供給流を加熱する、加熱炉を備えた加熱管(heating tube)等の加熱要素を含んでいてもよく、炭化水素供給流は、加熱管を通じた伝熱により、その温度が工程温度に上昇する。
【0037】
石油精製複合施設はまた、典型的には、一つ又は複数の処理ステップを実行する一つ又は複数の反応器を含むであろう。例えば、複合施設内の炭化水素処理容器は、炭化水素流の少なくとも一つの成分を転換又は処理する具体的な化学反応を容易にする反応器を含んでいてもよい。この目的のため、反応器は、化学反応を促進する触媒、及び/又は、炭化水素流と反応する、若しくは炭化水素流の成分を処理若しくは転換する炭化水素流の化学反応を促進する、ガス等の別の材料を含んでいてもよい。具体的な成分を炭化水素流から選択的に除去する等、炭化水素流をその他の方法で処理する反応器もまた、提供されてもよい。例えば、反応器は、炭化水素流の具体的な成分を選択的に吸収する吸収剤を含んでいてもよく、これによりその成分は、炭化水素流から除去されて、廃棄される、又は販売若しくはさらなる工程用の製造物として捕捉される。
【0038】
内装の設備及び構造体もまた、多様な理由から、典型的には設備内に含まれる。例えば、反応器内部は、間仕切り、フランジ、フローインタラプター(flow interrupter)又はディレクター(director)、並びに、具体的な炭化水素処理工程を容易にする他の構造体及び設備を含んでいてもよい。複合施設の炭化水素処理容器内で炭化水素流又は他の材料の流動を方向付ける設備を提供してもよい。例えば、容器内での、例えば、触媒、吸着剤、及び/又は反応材料(例えば、水素ガス)等の他の材料への炭化水素流の露出を最大限にするために、特定のパターンで炭化水素流を方向付ける設備を提供してもよい。間仕切り、又は炭化水素流が中を通過する触媒を保持する充填床材料等の、容器内で材料を保持又は移動させる内装設備もまた、提供してもよい。
【0039】
加えて、特定の炭化水素処理工程を実行する具体的な複合施設は、さらなる設備及び/又は工程特異的な設備若しくは構造体を含んでいてもよい。本明細書で使用される、炭化水素処理容器という用語は、上述のあらゆる設備及び構造体並びに具体的な石油精製複合施設内のあらゆるその他の設備又は構造体を含むことが意図されている。本明細書で使用される炭化水素処理容器の内側面は、炭化水素処理容器内に露出した内装設備の表面だけでなく、その容器の壁及びその容器のその他すべての構造体の内面を含むことも意図されている。
【0040】
一手法によれば、工程は、炭化水素処理容器を通過させて炭化水素流を流動させることを含む。炭化水素流は、炭化水素処理容器を通過して連続的に流動してもよく、又炭化水素流は、炭化水素処理容器を通過して間欠的に又はバッチ処理で流動してもよい。炭化水素流の処理は、炭化水素処理容器内で生じてもよく、又は炭化水素処理容器から上流又は下流にある、炭化水素処理複合施設内の別々の容器内で生じてもよい。
【0041】
一手法では、炭化水素処理複合施設の稼働、及び具体的な炭化水素処理工程は、所定の期間、維持される。炭化水素処理容器の稼働を維持することは、それを通過する炭化水素流又は他の材料の流動を維持すること、及び容器の温度を所定温度に維持することを含む。本明細書で使用されるとおり、炭化水素処理工程、複合施設、又は容器の稼働を維持することは、所定期間、維持される稼働を含むが、ただし、その稼働は、炭化水素処理工程に典型的であるとおり、設備の点検又は検査のために間欠的に又は周期的に中断又は停止してもよい。本明細書で使用される所定温度は、既知の温度を必ずしも指しているわけではなく、近似的な温度、又は温度の既知の範囲内に収まる温度を含んでいてもよい。
【0042】
一手法では、工程は、炭化水素処理容器又は複合施設の300時間以上の稼働を、その期間中での工程の間欠的な停止も含め,容器の内部表面の鋭敏化を生じることなく、維持することを含む。別の手法では、工程は、容器の内部表面の鋭敏化を生じることなく、1,000時間以上の所定量の時間、維持することを含む。さらに別の手法では、所定期間は、容器の内部表面の鋭敏化を生じることなく、5,000時間以上である。さらに別の手法では、所定期間は、容器の内部表面の鋭敏化を生じることなく、10,000時間である。本明細書に記載されているとおり、炭化水素処理容器内の内側面に生じる鋭敏化の量が、所定量の時間内にその設備のポリチオン酸応力腐食割れを引き起こすには不十分である場合には、鋭敏化が生じるとは考えられていないことに留意すべきである。
【0043】
一手法では、工程は、炭化水素流を転換する高温工程を含む。この手法では、炭化水素流は、その処理の間、高い工程温度に加熱される。この点において、炭化水素処理容器の内部表面の少なくとも一部分は、例えば、中を通過して流動する炭化水素流を加熱するための容器の直接加熱により、又は、容器を通過して流動するすでに加熱された炭化水素流から容器の内側面への伝熱を通して、容器温度に加熱される。一手法では、容器の内側面の少なくとも一部分は、所定の容器温度に加熱される。別の手法では、この容器又は炭化水素処理複合施設内の複数の炭化水素処理容器の、内側面の一部若しくはすべては、400℃以上の所定温度に加熱される。別の手法では、所定の容器温度は550℃である。さらに別の手法では、所定の容器温度は、565℃以上である。さらに別の手法では、所定の最高の容器温度は700℃以下である。このように、工程の最中には、容器は、炭化水素処理工程及び複合施設の典型的な稼働パラメーターの範囲内にある温度の範囲内で加熱される。所定温度はまた、同様なオーステナイト系ステンレス鋼の鋭敏化が、図1における鋭敏化の範囲によって示されるとおり、通常生じる範囲内にありながら、その鋭敏化を抑制又は低減させる。比較的高い所定温度はまた、充分に高い濃度で系に塩化物が存在する場合に塩化物SCCが典型的に観察される温度である。本明細書で使用されるとおり、所定温度という用語は、一定の又は既知の温度を必ずしもさすものでなく、例えば、平均温度、メジアン温度、温度範囲等を含んでいてもよい。
【0044】
一手法では、工程は、炭化水素処理容器の内部表面の少なくとも一部分の鋭敏化を、新規オーステナイト系ステンレス鋼から形成された内部表面の一部分を使用することにより制御することを含む。新規オーステナイト系ステンレス鋼は、0.005〜0.020重量%の炭素、1.00重量%までのケイ素、2.00重量%までのマンガン、9.0〜13.0重量%のニッケル、17.0〜19.0重量%のクロム、0.20〜0.50重量%のニオブ、及び0.06〜0.10重量%の窒素を含む組成を有する。新規オーステナイト系ステンレス鋼の残りの組成は、鉄を含んでおり、一つ又は複数のさらなる成分を含んでいてもよい。以下の表1に、新規オーステナイト系ステンレス鋼(NASS)、及び炭化水素処理容器を形成するのに従来使用されてきたその他のオーステナイト系ステンレス鋼の組成を示す。
【0045】
【表1】
【0046】
炭化水素処理容器の内部表面の少なくとも一部分は、新規オーステナイト系ステンレス鋼で形成される。内部表面は、容器の壁を含んでいてもよく、又は容器内の他の構造体又は装置の表面を含んでいてもよい。例えば、容器が管(tube)又はパイプである場合には、内部表面は、管(tube)又はパイプの壁の内側面、すなわち炭化水素に接触する表面、及び、炭化水素処理容器内に露出したあらゆるフランジ又は溶接部の表面を含んでいてもよい。同様に、容器が反応器又は他の構造体を含む場合には、容器の内部表面は、反応器内装設備の表面、及び反応器内で高温及び他の材料にさらされる反応器内の構造体の表面だけでなく、容器の壁の内部表面を含んでいてもよい。
【0047】
一形態では、工程は、炭化水素処理容器の内部表面の一つ又は複数の、PTA−SCC及び/又は塩化物SCC変質領域を特定すること、及び、新規オーステナイト系ステンレス鋼合金から形成されたこれらの変質領域を使用することを含む。工程はまた、炭化水素処理容器の内部表面の別の、非PTA及び/又は塩化物SCC変質部分を特定すること、及び、例えば、従来のタイプ304又は347のステンレス鋼を含む別の材料から形成された非変質部分を使用することも含んでいてよい。このように、新規オーステナイト系ステンレス鋼を、鋭敏化の結果としてPTA−SCCが生じると特定された、及び/又は塩化物SCCが生じると特定された領域に組み込んでもよく、且つ、例えば、熱への露出を制限し、湿度、酸素、塩素又は硫化水素への露出を制限して、PTA及び/又は塩化物SCCが起こりえないようにしたおかげで、顕著な危険性が生じるとは特定されなかったその他の領域には組み込まなくてもよい。この様に、容器を形成するのに使用する特殊な新規オーステナイト系ステンレス鋼の量を削減することにより、製造費用を削減してもよい。それから、塩化物SCCが問題になるとは特定されていない容器の他の領域で、より安価な材料を使用してもよい。
【0048】
別の手法では、工程は、炭化水素処理容器のすべての内部表面を新規オーステナイト系ステンレス鋼から形成することを含んでいてもよい。さらに別の手法では、炭化水素処理複合施設内の複数の炭化水素処理容器の内部表面を、新規オーステナイト系ステンレス鋼で形成していてもよい。上述の手法では、複合施設又は具体的な容器内に新規オーステナイト系ステンレス鋼を組み込むことにより、鋭敏化及び塩化物SCCが低減されることもある。この点において、系内の硫化水素が酸素又は湿気と相互作用するに任せて、塩化物レベルが系内で所定のレベルを超えているとしても、内部表面は、ポリチオン酸及び塩素に起因する腐食、並びに結果として生じるSCCに耐性をもつこともある。
【0049】
複合施設容器内の、又は炭化水素処理容器を一つに結合する溶接部は、材料の溶接中に典型的に生じる残留応力に起因して、PTA−SCCに特に敏感である可能性のあることが見出されている。従来から、局所応力を低減させることを目的に溶接場所におけるこれらの残留応力を解放するには、溶接後の熱処理が必要であり、さもないと、この局所応力は、発生したPTA−SCCを促進させる可能性がある。意外なことに、オーステナイト系ステンレス鋼合金を用いて容器の少なくとも内部表面を形成することにより、溶接後の熱処理ステップを回避してもよく、従って、時間と資源が節約され、複合施設の製造費用が削減されることが見出された。
【0050】
別の手法によれば、容器の内部表面を、新規オーステナイト系ステンレス鋼から形成してもよく、それには、この材料から形成された全厚の容器壁を使用してもよい。この点において、鋭敏化及び塩化物SCCは、容器壁の全厚にわたって抑制又は低減される。別の手法によれば、工程は、新規オーステナイト系ステンレス鋼から形成された、炭化水素処理容器の内部表面を使用すること、及び第2の材料から形成された、容器壁の外部分を使用することを含む。この目的のため、新規オーステナイト系ステンレス鋼のコーティングを、容器壁又は内装設備の内部表面に塗布してもよい。別の例では、新規オーステナイト系ステンレス鋼合金から形成された肉盛り(welding overlay)又は金属被覆(cladding)を、第2の材料の内部表面に使用して、新規オーステナイト系ステンレス鋼で形成された内部表面を得てもよい。別の例では新規オーステナイト系ステンレス鋼から形成されたシートを、溶接又は容器壁に板材を付着させる他の既知の方法により、第2の材料で形成された外殻の内面に付着させてもよい。新規オーステナイト系ステンレス鋼から形成された、容器の内部表面を使用すると同時に、第2の材料から形成された、容器壁の外面を使用するその他の方法もまた、本明細書で意図している。新規オーステナイト系ステンレス鋼から変質領域を形成することに関する上述の考察と同様に、新規オーステナイト系ステンレス鋼から容器壁の内部表面を形成すると同時に、第2の材料から壁の外部分を形成することにより、安価な材料を使用して製造費用を削減してもよい。加えて、第2の材料を選択して、優れた強度、又は、容器の外部分を変質させる他の環境や条件に対する耐性等の他の有益な性質を得てもよい。
【0051】
さらに具体的な事項に転じると、炭化水素流は、容器を通過して流動するので、一手法によれば、例えば炭化水素流中の汚染物質として、又は容器内のコークス化を抑制するために炭化水素処理容器に添加されたHSとして、硫黄が容器内に存在する。稼働中に、硫黄は、硫化鉄スケール層を容器の内部表面に形成する可能性がある。容器の内部表面上の硫化鉄スケールの形成は、もし系が、従来からなされているとおり、適切な中和又はパージをせずに大気に開放されると、酸素及び湿度と相互作用してポリチオン酸を形成する。ポリチオン酸は、PTA−SCCの原因となる。
【0052】
この点において、一手法では、炭化水素処理複合施設又は容器を、炭化水素処理複合施設の維持工程のための所定時間中、又は所定時間の後のどちらかに一時的に停止させる。工程は、炭化水素処理複合施設又は容器を大気に開放することを含む。炭化水素処理複合施設を大気に開放して、例えば点検又は検査してもよい。上述したとおり、一手法では、炭化水素処理複合施設又はその容器を、炭化水素処理容器を中和又はパージせずに外部環境に開放して、容器の内部を外部環境にさらすようにする。この点において、酸素及び湿気が容器に入り、硫黄、硫化水素、及び又は硫化鉄スケールと、容器内で相互作用して、ポリチオン酸が形成するに任される。換言すれば、複合施設の停止及び始動手順中に、容器内でポリチオン酸の形成を抑制するステップを踏むことがなく、その結果、ポリチオン酸が形成される。
【0053】
しかし意外なことに、新規オーステナイト系ステンレス鋼合金で容器の内部表面を形成することにより、容器内に存在するポリチオン酸が、所定量の時間内ではポリチオン酸の応力腐食割れを生じないであろうことが見出された。新規オーステナイト系ステンレス鋼が実際、鋭敏化に免疫性を持つこともあると考えられる。理論に拘束されるわけではないが、このステンレス合金の鋭敏化は、容器内に存在する高温稼働条件で生じないため、鋭敏化の結果として典型的に存在するクロム空乏領域の発生が最小限となり、これにより、クロムの保護層は概して損なわれないので、ポリチオン酸はステンレス合金を腐食させることができないようになると考えられる。このように、工程は、ポリチオン酸の形成を低減又は抑制するステップを踏むことなしに炭化水素処理複合施設又は容器を外部環境に露出させ、ポリチオン酸による容器の内部表面の腐食を制御することを含む。
【0054】
新規オーステナイト系ステンレス鋼合金内で生じる鋭敏化の量は、ASTM A262 6節 エッチ構造の分類(ASTM A262, Section 6 Classification of Etch Structures)、及びASTM A362 実践C 腐食速度硝酸試験(ASTM A262 Practice C Corrosion Rate Nitric acid Test)に従って測定することができる。鋭敏化の程度は、ASTM G108 電気化学的再活性化率測定試験(ASTM G108 Electrochemical Reactivation (EPR) test)により定量化してもよい。単位coulombs/cmで規格化された電荷(Pa)に基づき、鋭敏化の程度を決定することができる(304/304Lについては以下の抜粋を見られたい)。一手法では、新規オーステナイト系ステンレス鋼合金のPa値は、0.4以下であることもあり、これは、内部表面部分のほんのわずかな鋭敏化のみが所定期間内に生じるであろうことを示している。別の手法では、新規オーステナイト系ステンレス鋼合金のPa値は、0.10以下であり、これは、所定期間の後に鋭敏化が生じないであろうことを示している。別の手法では、Pa値は、0.05以下であることもある。さらに別の手法では、Pa値は0.01以下であることもある。
【0055】
別の手法では、炭化水素流は容器を通過して流動するので、塩化物が、容器内に存在する。容器内の塩化物の濃度は、塩化物SCCを典型的に生じる量以上であることもある。一手法では、塩化物は、容器内に0〜50ppmの間の濃度で存在している。別の手法では、塩化物は、1〜15ppmの間の濃度で存在している。さらに別の手法では、塩化物は、5〜15ppmの濃度で存在している。さらに別の手法では、塩化物は、5〜10ppmの濃度で存在している。新規オーステナイト系ステンレス鋼にはモリブデンが存在することに起因して、容器内の比較的高濃度の塩化物は、その内部部分の顕著な塩化物SCCを引き起こさないと考えられる。
【0056】
以下の表2は、本発明の炭化水素処理工程の具体的な例を提供する。本発明を、これらの例によって拘束することは意図していない。表2は、各工程について硫黄源及び工程温度を提供する。各例では、工程は、これ以前に記載したとおり、所定量の時間、維持され、所定量の時間、間欠的に停止又は休止してもよい。表はまた、硫化水素が炭化水素流に存在するか、又は工程に注入されるかのいずれかであることを示している。
【0057】
【表2】
【0058】
本発明の好ましい実施形態が本明細書に記載され、それらの実施形態には、本発明人の知る、本発明を実行する最良の形態が含まれる。例示された実施形態は、例示のためのみのものであることを理解すべきであり、本発明の範囲を限定すると解釈すべきでない。
【0059】
さらなる詳述がなくとも、当業者は、上の記載を用いて本発明をその最大限度まで使用できると考えられる。従って、上の好ましい特定の実施形態は、例示するためだけのものであり、残りの開示を、いかなる形であれまったく制限するものではないと解釈されるべきである。
【0060】
上において、別途指示がない限り、すべての温度は、セルシウス度で記載され、すべての部(part)およびパーセンテージは、重量に基づいている。圧力は、容器の排出口、具体的には、複数の排出口を有する容器の蒸気排出口において与えられる。
【0061】
上の記載から、当業者は、本発明の基本的特徴を容易に確かめることができ、その精神と範囲を逸脱することなく、本発明の多様な変更と改良を行って、多様な用途及び条件に適合させることができる。
図1