(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5792927
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】酸化チタン電極の合成方法
(51)【国際特許分類】
C25B 11/10 20060101AFI20150928BHJP
C25D 11/26 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
C25B11/10 Z
C25D11/26 302
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2009-214414(P2009-214414)
(22)【出願日】2009年9月16日
(65)【公開番号】特開2010-159483(P2010-159483A)
(43)【公開日】2010年7月22日
【審査請求日】2012年7月17日
【審判番号】不服2014-7997(P2014-7997/J1)
【審判請求日】2014年4月30日
(31)【優先権主張番号】特願2008-314946(P2008-314946)
(32)【優先日】2008年12月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000224798
【氏名又は名称】DOWAホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】306024148
【氏名又は名称】公立大学法人秋田県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100062982
【弁理士】
【氏名又は名称】澤木 誠一
(74)【代理人】
【識別番号】100102749
【弁理士】
【氏名又は名称】澤木 紀一
(72)【発明者】
【氏名】菊地 英治
(72)【発明者】
【氏名】岡田 敬志
(72)【発明者】
【氏名】川上 智
(72)【発明者】
【氏名】藤田 浩示
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 亮栄
【合議体】
【審判長】
鈴木 正紀
【審判官】
木村 孔一
【審判官】
小川 進
(56)【参考文献】
【文献】
特許第2979087(JP,C1)
【文献】
特開平9−85099(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B1/00-15/08
C02F1/46-1/48
C25D11/00-11/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延した後に冷間圧延した金属チタンを、pHが5〜9である中性電解液中で10Vを超え30V以下の電圧を印加し電解酸化して、表面に酸化チタン層を形成させることを特徴とする酸化チタン電極の合成方法。
【請求項2】
上記金属チタンを対極とし、電極間に10Vを超え30V以下の電圧を印加し1時間以上電解酸化を行うことを特徴とする請求項1記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化チタン電極の合成方法に係り、更に詳細には、表面が酸化チタンで覆われた酸化チタン電極の合成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、セレン酸イオン、テルル酸イオン、亜セレン酸イオン、亜テルル酸イオン等の酸素酸イオンは、酸化チタンカソードを用いた電解によって分子状セレンないし金属テルル等の0価の元素まで還元し析出できることが知られている(特許文献1参照)。この電解では、電極の面積が大きいほど有利である。
【特許文献1】特許第2979087号公報
【0003】
酸化チタンカソードを合成するための手法は多くあるが、大面積の電極を安価に合成する手法は限られている。その中でも金属チタン電極を適当な電解液中で電解酸化することで表面に酸化物半導体層を形成する方法は古くから知られており、真空設備や加熱設備などを必要とせず、安価に大面積の電極を得ることができる優れた方法である。しかし、酸素酸イオンの電解還元に対して十分な活性と耐久性を有する電極の合成条件は確立されていなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属チタンの電解酸化により合成される酸化チタンカソードの酸化チタン層は、50〜100 Vないしそれ以上の高電圧をかけて電解酸化しない限り、X線回折で確認することが困難な程度の厚さになっていた。このため、得られるカソードでは、セレン酸イオン等の電解還元に対する活性は十分であるが、数回から十回程度の使用で表面の酸化チタン層が消滅して活性を失ってしまうという問題があった。高電圧電解を行うことで、酸化チタン層を厚くすることは可能であるが、電解電流は電極の面積に比例して大きくなるため、大面積の電極を作製しようとすると、大容量かつ高電圧印可の可能な電源が必要となる。また、電解液として高濃度、あるいは酸性の溶液を使用するため、大型の電極を形成しようとすると、電解液の調製及び廃棄の費用が大きくなる。いずれの面からも、コスト的に大型化は難しかった。
【0005】
本発明は、このような従来技術が有する問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、酸素酸イオンの電解に十分な活性と高い耐久性を有する電解還元用酸化チタン電極、及び片面面積が1m
2 以上のような大型の酸化チタンカソードでも安価に合成できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、圧延加工で成形された金属チタン板ないし、該金属チタン板を二次加工した金属チタンを用い、中性電解液中で電解酸化してその表面に酸化チタン層を形成することにより上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の酸素酸イオンの電解還元用酸化チタン電極の合成方法は、熱間圧延した後に冷間圧延した金属チタンをpHが5〜9である中性電解液中で10Vを超え30V以下の電圧を印加し電解酸化して、表面に酸化チタン層を形成させることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の上記合成方法の好適形態は、上記金属チタンを対極とし、電極間に10Vを超え30V以下の電圧を印加し1時間以上電解酸化を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、圧延加工された金属チタンを用い、中性電解液中で電解酸化を行い、その表面に酸化チタン層を形成することとしたため、酸素酸イオンの電解に十分な活性と高い耐久性を有する電解還元用酸化チタン電極、及び片面面積が1m
2 以上のような大型の酸化チタン電極でも安価に合成できる方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】実施例4及び比較例1、2で得られた電極のX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の酸素酸イオンの電解還元用酸化チタン電極の合成方法の一例について説明する。
【0012】
かかる酸化チタン電極は、金属チタンを厚さ3 mm程度まで熱間圧延し、その後、厚さ1〜2mmまで冷間圧延加工して成型し、その表面に酸化チタン層を形成させて得られる。ここで、金属チタンの熱間圧延は、代表的には、変形抵抗を示す800〜900℃で行うことができ、水素吸収を防ぐため加熱を過剰酸素雰囲気下で行うことがよい。冷間圧延加工の条件は一般の金属冷間圧延加工と同条件でよい。あるいは、電極として適当な厚さまで、熱間圧延のみで圧延加工した金属チタン板でも良い。
【0013】
また、酸化チタン層は、金属チタンを中性電解液中で電解して形成する。このときの電解酸化は、対極との間で10Vを超える電圧、好ましくは25V以上、より好ましくは30Vの電圧を印加して行うことがよい。更に、電解酸化の実施期間は1時間以上、望ましくは2時間とすることが好ましい。なお、これより高い電圧の印加や長時間の電解を行っても、電極の活性や耐久性の向上はみられない。電解液としては、例えば、濃度0.01〜1mol/l程度の中性塩水溶液を用いることができる。中性塩には、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどを使用できる。また、ここでいう「中性」はpH5〜9の範囲であることを意味する。
【0014】
このような合成方法により十分な活性と高い耐久性を有する電極が得られる。また、安価に合成でき、使用した電解液も無害であるので、電解酸化終了後、下水等にそのまま放流でき、廃液処理のコストもかからず、環境負荷も小さい。
【0015】
次に、酸素酸イオンの電解還元用電解槽について説明する。
かかる電解槽は、槽と、この槽内に互いに離間して順次に対向配置したアノード及び、圧延加工された金属チタンの表面に酸化チタン層を形成させた酸素酸イオンの電解還元用酸化チタンカソードと、上記アノードとカソード間に電圧を印加するための電源と、上記アノードとカソード間に満たした酸素酸イオンを含む電解液とよりなる。
【0016】
上記カソードは、メッシュ状、エキスパンド状、らせん構造または複数の細孔を設けた構造を有するものでも良い。カソードとアノードの組み合わせ枚数としては、例えば、2枚/1枚、10枚/11枚などが挙げられるが、これに限るものではない。
【0017】
上記電解槽および電極以外に、直流整流器、電流計、通電にかかる制御装置、被処理液を搬送するポンプおよび貯留タンク、その他安全装置等が備えられる。電流は、直流、パルス波形等によって通電制御しても良い。
【実施例】
【0018】
以下図面を参照して本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
(実施例1)
(酸化チタン電極の合成方法)
図1において、1は槽、2はアノード、3はカソード、4は直流電源を示す。
【0020】
圧延加工された幅360mm、高さ460mm、厚さ2.0mmの金属チタン板をアノード2として用い、これと同じ形状の金属チタン上に白金を含むペーストを塗布してから焼成して表面に緻密な白金層を形成させた白金塗布焼成電極をカソード3として用い、両電極2と3を槽1内に組み込み、両電極2と3間に枠(図示せず)を挟んで両側から締め付け、電極2と3の間の空間を形成した。この空間内に電解液として中性塩硫酸ナトリウムを水道水に溶かした0.1mol/lの濃度の溶液を満たした。pHは6〜8の範囲となるように調整した。
【0021】
アノード2とカソード3間に直流電源4を接続し、電流リミット10A、電圧リミット15Vに設定して2時間の電解を行った。初め、電流が電源容量の上限まで流れ、電圧は設定電圧に達しなかった。酸化チタン層の形成により電圧が上昇し、1時間で15Vの設定電圧に達した。この状態で1時間電解を継続した後、電解を停止し、電極を引き出し、水洗して乾燥することで酸化チタン電極を得た。
【0022】
図2に、得られた電極に形成された酸化チタン層についてX線回折した時の回折図を示す。横軸は角度、縦軸は強度を示す。
【0023】
得られた電極は、Cu−kα線を用いたX線回折で、25度付近に明瞭な酸化チタンのピークを生じていた。
【0024】
(実施例2〜5)
電極間電圧をそれぞれ20V、25V、30V、50Vに変更した以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して、酸化チタン電極を得た。
【0025】
図2に示すように、10Vを超える電圧を加えて得られた電極では、Cu−kα線を用いたX線回折で、25度付近に明瞭な酸化チタンのピークを生じ、ピークは電圧の増加と共に大きくなっていた。
【0026】
(比較例1)
0.2 mmまで冷間圧延により加工した金属チタン板を用い、希硝酸中でpH0〜0.2の範囲となるように調整し、電極間電圧を10Vとした以外は、実施例1と同様の操作により電極を得た。
【0027】
図2に示すように、得られた電極は、X線回折ではピークを確認できない程度の酸化チタン膜しか形成されていなかった。
【0028】
(比較例2)
0.2 mmまで冷間圧延により加工した、実施例1で用いた金属チタン板と同一形状とした電極を形成した。この金属チタン板には、電解酸化による酸化チタン層形成を行わなかった。但し、空気中で保存したため極薄い酸化チタン層が空気酸化により形成されており、セレン酸イオンの還元に若干の活性を有すると考えられる。なお、
図3に実施例4及び比較例1,2で得られた電極のX線回折の結果を示す。
【0029】
図1に示すように、電解槽としては、槽1を機械的強度と耐食性を有する塩化ビニールで構成し、この槽1内に互いに10mm間隔で白金電極のアノード2及び酸化チタン電極のカソード3を順次に対向配置させた。白金電極のアノード2及び酸化チタン電極のカソード3の間には直流電源4を接続し、両極が浸るようにセレン酸イオン水溶液(セレン濃度で100mg/dm
3 )を満たした。また槽1内の底部には、適当な間隔で開口を有する散気管6設け、窒素ガス5を導入可能な構成とした。
【0030】
この電解槽を用い、0.25mA/cm
2 の電流密度で30分電解したところ、電流効率(全電流の内、セレン酸イオンの還元に使用された電流の割合)は50〜60%であった。上記条件の電解を5回、10回繰り返しても、電流効率、すなわち活性に変化はなく、十分な耐久性を示した。
【0031】
酸化チタン電極に変えて比較例1,2で得た電極を用い、セレン酸イオン水溶液の電解還元を行った。
その結果、酸化チタン層の消失により、繰り返すにつれ電流効率は低下する結果となった。
【0032】
【表1】
【0033】
以上のように、本発明の範囲に含まれる酸化チタン電極を用いる場合には、酸化チタン層の消耗・消失により徐々に電解還元性能が低下することが顕著に抑制されることがわかる。
【符号の説明】
【0034】
1 電解槽
2 アノード
3 カソード
4 直流電源
5 窒素ガス
6 散気管