(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施形態について図面を参照して説明する。なお、異なる図面において同一の符号を付した要素は、同一または相応する要素を示すものとする。
【0021】
<1.実施形態>
[1−1.通信システムの構成]
図1は、本実施形態に係る通信システム1の構成図である。
【0022】
図1に示されるように、通信システム1は、第1通信装置10と第2通信装置20とを有している。通信システム1における第1通信装置10および第2通信装置20はそれぞれ、電力線30に接続されている。そして、第1通信装置10および第2通信装置20は、電力線30を伝送路とした電力線通信(PLC:power line communication)によって、互いに通信可能に構成されている。
【0023】
また、通信装置10,20間の電力線通信は、周波数軸上で互いに直交する複数のサブキャリアを合成して得られるOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)信号を用いて行われる。
【0024】
なお、以下では、第1通信装置10は送信装置として機能し、第2通信装置20は受信装置として機能する場合を例示するが、これに限定されるものではない。すなわち、第1通信装置10は、少なくとも送信機能を有しており、当該送信機能に加えて受信機能を有していてもよい。同様に、第2通信装置20は、少なくとも受信機能を有しており、当該受信機能に加えて送信機能を有していてもよい。
【0025】
以下では、通信システム1を構成する第1通信装置10および第2通信装置20それぞれの構成について、この順序で説明する。
図2は、第1通信装置10および第2通信装置20の機能構成を示すブロック図である。
【0026】
図2に示されるように、第1通信装置(送信装置)10は、結合部101、送信処理部102、受信処理部103、同期処理部104、および通信制御部105を備えている。
【0027】
結合部101は、電力線30に接続され、送信処理部102から入力されるOFDM信号を電力線通信を行うための通信信号(PLC信号)に変換し、当該PLC信号を電力線30に出力する機能を有している。また、結合部101は、電力線30からPLC信号を取り出し、当該PLC信号を受信信号として受信処理部103に出力する機能を有している。
【0028】
送信処理部102は、ゼロクロス検出部121と付属情報生成部122と変調部123とを有し、通信制御部105から送信データを取得し、当該送信データを変調して、送信データを含むOFDM信号を生成する。
【0029】
具体的には、ゼロクロス検出部(検出手段)121は、商用の交流電圧波形の振幅がゼロになるタイミング(「ゼロクロスタイミング」とも称する)を検出し、検出したゼロクロスタイミングに同期して検出信号を出力する。
【0030】
付属情報生成部(生成手段)122は、ゼロクロス検出部121から出力される検出信号に基づいて、ゼロクロス間隔を示す付属情報(「指標情報」または「マーカー情報」とも称する)を生成する。付属情報は、クロック発生部106から出力されるクロック信号をカウントして得られるカウント値(カウント数)で表される。すなわち、付属情報生成部122は、ゼロクロスタイミングを示す検出信号が入力されてから次の検出信号が入力されるまでの間、クロック信号のクロック数をカウントし、得られるカウント値をゼロクロス間隔を示す付属情報として出力する。
【0031】
変調部123は、通信制御部105から入力される送信データと付属情報生成部122から入力される付属情報とに基づいてOFDMシンボルを生成し、当該OFDMシンボルに逆高速フーリエ変換を施して、OFDM信号を生成する。生成されたOFDM信号は、結合部101に出力される。
【0032】
受信処理部103は、結合部101から入力される受信信号を復調して、受信データを生成する機能を有している。受信処理部103で生成された受信データは、通信制御部105に出力される。
【0033】
同期処理部104は、通信制御部105と協働して、周波数同期、およびシンボルタイミング同期(シンボル同期)等の各種同期処理を行う。同期処理の詳細は、後述する。
【0034】
通信制御部105は、第1通信装置10における各種処理動作を制御する。具体的には、通信制御部105は、送信データを生成して送信処理部102の変調部123へ出力する。そして、ゼロクロス検出部121からの検出信号に基づいて特定されるゼロクロスタイミングで、送信信号を出力するように結合部101を制御する。このように、結合部101は、通信制御部105と協働して送信手段として機能する。またさらに、通信制御部105は、受信処理部103で復調された受信データを取得し、当該受信データに基づいて所定の処理を行う。
【0035】
次に、第2通信装置20(受信装置)の構成について詳述する。第2通信装置20は、第1通信装置10と同様の構成を有しているため、ここでは、受信装置としての特徴部分(受信処理部203の構成)をより詳細に説明する。
【0036】
図2に示されるように、第2通信装置20は、結合部201、送信処理部202、受信処理部203、同期処理部204、および通信制御部205を備えている。
【0037】
結合部201は、上述の結合部101と同様の機能を有している。すなわち、結合部201は、電力線30に接続され、送信処理部202から入力されるOFDM信号をPLC信号に変換し、当該PLC信号を電力線30に出力する機能を有している。また、結合部201は、電力線30からPLC信号を取り出し、当該PLC信号を受信信号として受信処理部203に出力する機能を有している。
【0038】
送信処理部202は、上述の送信処理部102と同様、通信制御部205から送信データを取得し、当該送信データを変調して、送信データを含むOFDM信号を生成する。
【0039】
受信処理部(受信処理手段)203は、FFT部230と伝送路推定部231と等化処理部232と復調部233とを有し、結合部201から入力される受信信号を復調して、受信データを生成する機能を有している。
【0040】
具体的には、FFT部230は、受信信号に高速フーリエ変換を施して、時間領域の信号を周波数領域の信号に変換する、いわゆるマルチキャリア復調処理を実行する。FFT部230から出力されるマルチキャリア復調処理後の受信信号は、伝送路推定部231および等化処理部232に入力される。
【0041】
伝送路推定部(伝送路推定手段)231は、受信信号に含まれるパイロット信号を用いて、パイロット信号を伝送したサブキャリアの伝送路特性(パイロット信号の伝送路特性)を算出する。そして、伝送路推定部231は、パイロット信号の伝送路特性を用いて補間処理を実行することによって、パイロット信号以外の他の信号を伝送したサブキャリアの伝送路特性を推定する。このような伝送路推定処理によって得られたパイロット信号以外の他の信号の伝送路特性(「推定伝送路特性」とも称する)は、等化処理部232に出力される。
【0042】
等化処理部(等化処理手段)232は、受信信号を、当該受信信号に対応する推定伝送路特性で除算する等化処理を行う。等化処理部232から出力される等化処理後の受信信号は、復調部233に出力される。
【0043】
復調部233は、等化処理後の受信信号にデマッピング処理等のサブキャリア復調処理を施し、復調された受信データを通信制御部205に出力する。なお、本実施形態では、復調処理は、マルチキャリア復調処理およびサブキャリア復調処理の少なくとも1つを含む概念として用いる。
【0044】
同期処理部(同期処理手段)204は、通信制御部205と協働して、キャリア周波数の誤差を調整する周波数同期、および第2通信装置20に到来したOFDM信号を検出して、OFDMシンボルとマルチキャリア復調処理とのタイミングの同期をとるシンボルタイミング同期等の各種同期処理を行い、同期情報を取得する。
【0045】
通信制御部205は、第2通信装置20における各種処理動作を制御する。例えば、通信制御部205は、送信データを生成して送信処理部202へ出力する。また、例えば、通信制御部205は、受信処理部203で復調された受信データを取得し、当該受信データに基づいて所定の処理を行う。
【0046】
[1−2.電力線通信の通信態様]
次に、上述のような構成を有する通信装置10,20間で行われる電力線通信の通信態様について説明する。
図3は、通信システム1における送信信号の伝送タイミングを示す図である。
図4は、通信システム1における通信態様を示す図である。
図5は、ヘッダ信号の詳細を示す図であり、
図5では、ヘッダ信号に含まれるダミーデータ信号が周波数軸上でも表されている。
図6は、データ信号の詳細を示す図であり、
図6では、ヘッダ信号に含まれるダミーデータ信号が周波数軸上でも表されている。
図7は、比較例に係る通信システムの通信態様を示す図である。
【0047】
通信装置10,20間で行われる電力線通信は、電力線30に接続された電気機器によって生じる家電ノイズの影響を避けるため、特定の期間において行われる。
【0048】
具体的には、
図3に示されるように、家電ノイズKNの影響は、商用の交流電圧波形の振幅がピークとなるピーク付近で大きくなるため、通信装置10,20間で行われる電力線通信は、交流電圧波形の振幅がゼロになる、いわゆるゼロクロス付近ZRの特定期間(「ゼロクロス期間」とも称する)で行われる。
【0049】
このように、通信システム1では、家電ノイズの影響を避けるために、商用の交流電圧波形の振幅がゼロになるゼロクロス点を含むゼロクロス期間において電力線通信を行うように構成されている。なお、ここでは、商用の交流電圧波形の振幅がゼロになるタイミングを「ゼロクロスタイミング」とも称する。
【0050】
そして、
図4に示されるように、送信(伝送)を行う最初のゼロクロスタイミング(初期ゼロクロスタイミング)では、第1通信装置10は、ヘッダ信号HSを送信信号として送信する。
【0051】
図5に示されるように、ヘッダ信号HSは、プリアンブル部PBとダミーデータ部DDとで構成されている。
【0052】
プリアンブル部PBの信号(プリアンブル信号)PBSは、同一のOFDMシンボルに基づいて生成された繰り返しのOFDM信号によって構成される。当該プリアンブル信号PBSは、受信装置において、周波数同期およびシンボルタイミング同期等の各種同期処理に用いられる。
【0053】
一方、ダミーデータ部DDの信号(ダミー信号)は、ダミーデータ信号DDSとガード・インターバル(GI:Guard Interval)GISとで構成されている。ダミーデータ信号DDSは、変調部123内で生成される1のOFDMシンボルに基づいて生成される信号であり、伝送路推定に用いられるパイロット信号と、ゼロクロス間隔を示す付属情報とを含んでいる。
【0054】
OFDMシンボル単位の当該ダミーデータ信号DDSを周波数軸上で表すと、
図5の様になり、
図5には、OFDM信号を構成する複数のサブキャリアにおいて、分散して配置される複数のパイロット信号PSと、隣接する数サブキャリアに渡って配置される付属情報QFとが示されている。なお、
図5では、ダミーデータ信号DDSにパイロット信号PSと付属情報とが含まれている態様を例示しているが、パイロット信号PSおよび付属情報に加えて他の情報を含んでいてもよい。また、ダミーデータ信号DDSにおける、パイロット信号PSおよび付属情報QFをOFDM信号を構成する複数のサブキャリアに割り当てる際のサブキャリアへの割り当て態様は、
図5の態様に限定されず、他の態様であってもよい。
【0055】
また、
図4に示されるように、ヘッダ信号送信後の各ゼロクロスタイミングでは、第1通信装置10は、ヘッダ信号HSを送信することなく、データ信号DSを送信信号として送信する。
【0056】
一度のゼロクロスタイミングで送信されるデータ信号DSは、1のOFDMシンボル或いは、複数のOFDMシンボルに基づいて生成される。
図6では、一度のゼロクロスタイミングで送信されるデータ信号DSとして、連続した複数のOFDMシンボルに基づいて生成される信号が示されている。
【0057】
OFDMシンボル単位の各データ信号は、送信装置から受信装置に伝送される実データ信号(伝送実データ信号)DSRと、ガード・インターバルGISとで構成されている。
【0058】
各データ信号における実データ信号DSRは、変調部123内で生成される1のOFDMシンボルに基づいて生成される信号であり、パイロット信号と、ゼロクロス間隔を示す付属情報と、実際のデータ(「実データ」とも称する)とを含んでいる。
【0059】
OFDMシンボル単位の実データ信号DSRを周波数軸上で表すと、
図6の様になり、
図6には、OFDM信号を構成する複数のサブキャリアにおいて、分散して配置される複数のパイロット信号PSと、パイロット信号PSを乗せるサブキャリア以外の他のサブキャリアに乗せる付属情報QFおよび実データDFが示されている。なお、実データ信号DSRにおける、パイロット信号PS、付属情報QFおよび実データDFをOFDM信号を構成する複数のサブキャリアに割り当てる際のサブキャリアへの割り当て態様は、
図6の態様に限定されず、他の態様であってもよい。
【0060】
このように、通信システム1では、伝送を行う最初のゼロクロスタイミングで、各種同期処理用のプリアンブル部を有するヘッダ信号HSが伝送され、ヘッダ信号HS送信後のゼロクロスタイミングでは、各種同期処理用のプリアンブル部を有さないデータ信号DSが伝送される。これによれば、
図7に示されるように、ゼロクロスタイミングごとにプリアンブル部PB1を有した送信信号(プリアンブル信号を含む送信信号)ESを伝送する場合に比べて、プリアンブル信号を伝送する替わりに実データを伝送することができるので、伝送効率を向上させることが可能になる。
【0061】
例えば、商用電源の周波数を60Hz(商用電源の1周期を約16ms)とすると、1のゼロクロスタイミングで通信に利用できる期間は、約4msとなる。また、FFTポイント数を128、FFTのサンプリングクロック数を1.2MHzとすると、サブキャリアのスペーシング周波数は、約10KHzとなり、1のOFDMシンボルあたりの期間が100μsとなる。ここで、プリアンブル信号の伝送に要するOFDMシンボル数を「10」とすると、プリアンブル信号の送信期間は1msとなる。
【0062】
このように、1のゼロクロスタイミングで通信に利用できる約4msの送信期間のうち、プリアンブル信号の送信期間は1msであるから、当該プリアンブル信号の送信期間において、プリアンブル信号に代えて実データを伝送可能になると伝送効率は約20%改善することになる。なお、ここで用いた、プリアンブル信号の伝送に要するOFDMシンボル数(「10」)は、平均的な値であり、規格または方式に応じて変化しうる。
【0063】
また、ゼロクロスタイミングごとにプリアンブル信号を含む送信信号を送信していた、従来のゼロクロス付近における電力線通信では、十分な伝送容量を確保できないため、従来のゼロクロス付近における電力線通信が実装されるケースは少なかった。このため、実際は、家電ノイズの影響を防ぐためのノイズ除去用フィルタを設けて、商用の交流電圧波形の振幅がピークとなるピーク付近においても通信を行う場合が多かった。
【0064】
しかし、本通信システム1によれば、伝送効率の向上により、ゼロクロスタイミングでの電力線通信で、十分な伝送容量を確保できるので、商用の交流電圧波形の振幅がピークとなるピーク付近で通信を行う必要性がなくなる。すなわち、本通信システム1の方式を採用すれば、通信装置において家電ノイズの影響を防ぐためのノイズ除去用フィルタ等のノイズ対策用の回路が不要になるので、通信装置の低価格化、および小型化を図ることが可能になる。
【0065】
また、通信システム1で採用されている電力線通信は、電力線30を伝送路とした有線通信であるため、マルチパスの影響がない。このため、最初に受信されるヘッダ信号HSのプリアンブル信号PBSを用いて行われた周波数同期情報(詳細には、キャリア周波数の誤差情報)を用いれば、ヘッダ信号HS受信後の各ゼロクロスタイミングで受信されるデータ信号DSに対して、新たに周波数同期処理を実行することなくキャリア周波数の誤差を取り除くことができる。すなわち、各ゼロクロスタイミングで受信されるデータ信号DSに対しては、新たに周波数同期処理を実行することなくマルチキャリア復調処理を行うことが可能になる。
【0066】
またさらに、通信システム1では、ゼロクロスタイミングごとに送信信号が送信される。このため、受信装置において、ヘッダ信号HSに含まれるプリアンブル信号PBSを用いてシンボルタイミング同期が確立された後は、各ゼロクロスタイミングで伝送される送信信号(データ信号DS)それぞれについては、新たにシンボルタイミング同期処理を実行することなくマルチキャリア復調処理を行うことができる。
【0067】
具体的には、受信装置は、プリアンブル信号PBSを用いてシンボルタイミング同期を確立すると、当該シンボルタイミング同期によって得られたシンボルタイミング同期情報(詳細には、シンボル同期タイミング)を保持する。そして、受信装置は、商用電源の既知の周波数に基づいて特定される既知のゼロクロス間隔を自装置内で計測し、当該ゼロクロス間隔と保持したシンボル同期タイミングとを用いて、各ゼロクロスタイミングで伝送される各送信信号のシンボル同期タイミングを特定し、マルチキャリア復調処理を行う。
【0068】
なお、送信信号は、送信信号における時系列上の特定位置とゼロクロスタイミングとが一定の関係を有した状態で送信される。具体的には、送信信号は、送信信号の先頭位置(ガード・インターバルGISの開始位置)とゼロクロスタイミングとが一致するように送信される。或いは、送信信号は、送信信号におけるガード・インターバルGISの中心位置とゼロクロスタイミングとが一致するように送信される。これにより、隣接したゼロクロスタイミングで送信される各送信信号における特定位置間の距離は、ゼロクロス間隔に等しくなるので、受信装置は、各ゼロクロスタイミングで送信される送信信号の受信タイミングを、ゼロクロス間隔を用いて特定可能となる。
【0069】
このように、通信システム1では、伝送を開始する際の最初の送信信号(ヘッダ信号HS)に含まれるプリアンブル信号PBSを用いて、シンボルタイミング同期が確立される。シンボルタイミング同期確立後は、シンボル同期タイミングを保持し、当該シンボル同期タイミングを用いることによって、ヘッダ信号HSに含まれるダミー信号に対して、新たなシンボルタイミング同期を行うことなくマルチキャリア復調処理を行うことが可能になる。また、データ信号DSに対しては、保持したシンボル同期タイミングと、ゼロクロス間隔とを用いることによって、新たなシンボルタイミング同期を行うことなくマルチキャリア復調処理を行うことが可能になる。
【0070】
またさらに、通信システム1では、上述のように、既知のゼロクロス間隔を用いてマルチキャリア復調処理を行ってもよいが、付属情報QFを用いて特定されたゼロクロス間隔を用いて、マルチキャリア復調処理を行ってもよい。付属情報QFを用いて特定されたゼロクロス間隔を用いて、マルチキャリア復調処理を行うことによれば、商用電源の電源周期の変動を考慮したゼロクロス間隔を用いて、マルチキャリア復調処理を行うことになるので、マルチキャリア復調処理をさらに精度良く行うことができる。
【0071】
[1−3.付属情報を用いたゼロクロス間隔の特定動作]
以下では、付属情報QFを用いて特定したゼロクロス間隔を用いて、マルチキャリア復調処理を行うときの通信システム1の動作について説明する。
図8は、通信システム1の動作を示すフローチャートである。なお、
図8では、左側に送信装置としての第1通信装置10の動作、右側に受信装置としての第2通信装置20の動作がそれぞれ記載されている。
図9は、第1通信装置10の動作概要を示す図であり、
図10は、第2通信装置20の動作概要を示す図である。
【0072】
図8に示されるように、通信システム1を構成する送信装置(ここでは、第1通信装置10)では、まず、ステップSP11において、ゼロクロス間隔の測定が行われる。当該ゼロクロス間隔の測定は、ゼロクロス検出部121および付属情報生成部122の協働により実行される。
【0073】
具体的には、付属情報生成部122は、ゼロクロスの検出に応じてゼロクロス検出部121から入力される検出信号に基づいて、ゼロクロス間隔を生成する。上述のように、生成されたゼロクロス間隔は、隣接した2つのゼロクロスタイミング間における、クロック信号のクロック数をカウントしたカウント値として表される。
【0074】
このようなゼロクロス間隔の検出は、
図9に示されるように、送信信号を送信するための送信動作が実行(開始)される前においては、ゼロクロスタイミング間ごとに繰り返し行われる。
【0075】
そして、ゼロクロスタイミング間ごとに取得されるカウント値、換言すれば各ゼロクロス間隔を示すカウント値に対しては、付属情報生成部122において平均処理が施される。平均化されたカウント値(平均カウント値)は、送信信号を送信する前のゼロクロス間隔を示す付属情報QFとなる。
【0076】
次のステップSP12において、送信信号を送信するための送信動作の実行(開始)が検出されると、動作工程はステップSP13に移行される。
【0077】
ステップSP13では、付属情報生成部122によって付属情報QFの出力が行われる。
【0078】
ステップSP14では、送信処理部102によって付属情報QFを含む送信信号が生成される。最初の当該ステップSP14で生成される送信信号は、ヘッダ信号HSであり、付属情報QFはヘッダ信号HS内のダミーデータ信号DDSに組み込まれることになる(
図9参照)。当該ヘッダ信号HSは、次のステップSP15において、送信動作開始後の最初のゼロクロスタイミングT1で受信装置に送信される。
【0079】
ステップSP15の動作工程が終了すると、動作工程は、ステップSP11に移行され、ステップSP11〜ステップSP15の各工程が実行される。すなわち、ステップSP15の動作工程終了後に実行されるステップSP11〜ステップSP15では、次のゼロクロスタイミングT2で送信する付属情報QFが生成され、当該付属情報QFを組み込んだデータ信号DSがゼロクロスタイミングT2で送信される。
【0080】
以後、一連の送信動作では、ステップSP11〜ステップSP15の各工程が繰り返し実行され、送信装置からは、付属情報QFを含む送信信号(データ信号DS)がゼロクロスタイミングT3,T4ごとに送信されることになる。
【0081】
なお、ヘッダ信号HSが送信される最初のゼロクロスタイミングT1よりも後のゼロクロスタイミングで送信される付属情報QFは、過去のゼロクロス間隔のカウント値を平均したものでもよく、直近のゼロクロス間隔のみのカウント値であってもよい。
【0082】
一方、通信システム1を構成する受信装置(ここでは、第2通信装置20)では、ステップSP21において、ヘッダ信号HSが受信されると、動作工程は、ステップSP22へと移行される。
【0083】
ステップSP22では、ヘッダ信号HSに含まれるプリアンブル信号PBSを用いて周波数同期およびシンボルタイミング同期が行われる。これらの同期確立後、ヘッダ信号HSに含まれるダミー信号に対して復調処理が施される。
【0084】
そして、ステップSP23では、通信制御部205によって、復調処理後の受信データから付属情報が取得される。
【0085】
次のステップSP24では、通信制御部205によって、付属情報に基づいて次の送信信号の受信タイミングが特定される。
【0086】
具体的には、通信制御部205は、受信データから取得された付属情報によって与えられるカウント値を、ヘッダ信号HSを受信してから次のデータ信号DSを受信するまでのゼロクロス間隔として用いる。
【0087】
そして、受信装置は、クロック信号を生成するクロック発生部(不図示)を有し、ゼロクロス間隔を実際に把握するために、当該クロック信号を用いる。すなわち、付属情報によって与えられたカウント値分のクロックを、受信装置において生成されたクロック信号を用いてカウントすることによって、次の送信信号の受信タイミングを特定する。
【0088】
なお、受信装置は、付属情報を取得するために復調処理等を行うため、ヘッダ信号HSを受信してからゼロクロス間隔を特定するまで所定時間を要する。このため、実際に受信タイミングを特定する際には、受信装置は、ゼロクロス間隔の特定に要した所定時間分の遅延量を、特定されたゼロクロス間隔から差し引くことによって得られる値分のクロック数をカウントすることになる。より詳細には、
図10に示されるように、ゼロクロス間隔ZKの特定に所定時間分の遅延量RMを要したとすると、受信装置は、ゼロクロス間隔ZKから遅延量RMを差し引いて得られる値HK分のクロック数を、クロック信号を用いてカウントすることによって、次の送信信号の受信タイミングを特定する。このように、ゼロクロス間隔の特定に要する遅延量を考慮して次の送信信号の受信タイミングを特定する処理は、データ信号DSの受信処理においても同様に実行される。
【0089】
また、送信信号は、送信信号におけるガード・インターバルGISの中心位置とゼロクロスタイミングとが一致するように送信されることが好ましい。例えば、
図10に示されるように、ヘッダ信号HSについては、ヘッダ信号HSのガード・インターバルGISの中心位置とゼロクロスタイミングT10とが一致するように送信される。また、データ信号DSについては、データ信号DSのガード・インターバルGISの中心位置とゼロクロスタイミングT20とが一致するように送信される。
【0090】
これによれば、ガード・インターバルGISの中心を基準にして(起算点として)、ゼロクロス間隔分のクロック数をカウントすることになるため、送信装置におけるクロック信号と受信装置におけるクロック信号とが同期していないことによる誤差(非同期による誤差)を考慮する必要性がなくなる。なお、送信装置および受信装置におけるクロック信号のクロック間隔は、短いほどゼロクロス間隔の特定制度は高くなるが、ガード・インターバルGIS期間内に数クロック分のクロックが存在するクロック間隔でもよい。
【0091】
図8に戻って、ステップSP25において、データ信号DSが受信されると、動作工程は、ステップSP26に移行される。
【0092】
ステップSP26では、付属情報に基づいて特定されたゼロクロス間隔と、ステップSP22においてシンボルタイミング同期処理で得られた情報(すなわち、シンボル同期タイミング)とを用いて、受信されたデータ信号DSにマルチキャリア復調処理が施される。マルチキャリア復調処理後のデータ信号には、等化処理およびサブキャリア復調処理が施され、受信データが生成される。
【0093】
ステップSP26の動作工程が終了すると、動作工程は、ステップSP23に移行され、受信データから新たな付属情報が取得される。以後、新たな付属情報に基づいてゼロクロス間隔が特定され(ステップSP24)、次のデータ信号DSが受信されると(ステップSP25)、上記新たな付属情報に基づいて特定されたゼロクロス間隔を用いてサブキャリア復調処理が実行されることになる。
【0094】
このように、ゼロクロスタイミングごとに順次に取得されるデータ信号DSそれぞれに対して、ステップSP23〜ステップSP26の各工程が繰り返し実行される。これにより、ゼロクロスタイミングごとに取得される各データ信号DSに対しては、最新の付属情報に基づいて特定されたゼロクロス間隔を用いたマルチキャリア復調処理が実行されることになる。
【0095】
以上のように、送信装置は、ゼロクロス間隔を示す付属情報をヘッダ信号HSおよびデータ信号DSに組み込んで受信装置に送信する。受信装置は、ヘッダ信号HSおよびデータ信号DSに組み込まれた付属情報からゼロクロス間隔を取得し、当該ゼロクロス間隔およびシンボル同期タイミングを用いて次のデータ信号DSのシンボル同期タイミングを特定して、データ信号DSに対するマルチキャリア復調処理を実行する。
【0096】
ゼロクロス間隔は、電力線30に接続された各電気機器の誘導性負荷、或いは容量性負荷の影響により、変動する可能性がある。しかし、上述のように、送信装置において実際に検出されたゼロクロス間隔を受信装置に伝送し、実際に検出されたゼロクロス間隔を用いてマルチキャリア復調処理を実行することによれば、ゼロクロス間隔の変動に追従して精度良くシンボル同期タイミングを特定することができ、ひいてはマルチキャリア復調処理を精度良く実行することが可能になる。
【0097】
<2.変形例>
以上、通信システム1の実施形態について説明したが、当該実施形態は、下記のように変形することができる。
【0098】
例えば、上記実施形態では、ヘッダ信号HSに加えてデータ信号DSにも、パイロット信号PSを含め、データ信号DSを受信した際にも伝送路推定処理を実行していたが、これに限定されない。
図11は、変形例に係る等化処理の概要を示す図である。
【0099】
具体的には、上述のように、通信システム1で採用されている電力線通信は、電力線30を伝送路とした有線通信であるため、マルチパスの影響がない。このため通信システム1における電力線通信では、無線通信の場合とは異なり、伝送路品質が比較的損なわれない可能性が高い。
【0100】
そこで、データ信号DSに関しては、ヘッダ信号HSを用いた伝送路推定処理によって得られた推定伝送路特性を用いて、等化処理を行うようにして、データ信号DSに含めるパイロット信号を減らす、或いは無くすようにしてもよい。具体的には、受信装置は、ヘッダ信号HSを用いた伝送路推定処理によって得られた推定伝送路特性を保持する。そして、データ信号DSに対して等化処理を行う際には、保持した推定伝送路特性に含まれる位相に関する伝送路推定情報(位相推定情報)を用いて、データ信号DSに含まれる各データシンボルの位相を補正する等化処理を行う。
【0101】
またさらに、通信システム1は、ゼロクロスタイミングごとにデータ信号DSを送信する構成であるため、ゼロクロスタイミングごとに送信された各データ信号DSは、連続したOFDMシンボルに基づいて生成された信号ではない。このため、上記のように、位相推定情報を用いてデータ信号DSに含まれる各データシンボルの位相を補正するだけでは、ヘッダ信号HSの取得タイミングから等化処理対象のデータ信号DSの取得タイミングまでの位相ズレが生じてしまうため、各データシンボルの位相に関する伝送路特性の影響を十分に除去することができない。
【0102】
そこで、本変形例における等化処理では、位相推定情報に加えて、ゼロクロス間の時間的なズレ情報を有する付属情報をも用いてデータシンボルの位相を補正する。
【0103】
具体的には、
図11に示されるように、本変形例における等化処理TPでは、ヘッダ信号HSを用いた伝送路推定処理EPによって得られる位相推定情報HFに加えて、受信装置において取得済みの付属情報QFをも用いてデータシンボルの位相が補正される。等化処理TPでは、下記の式(1)で示される処理が実行され、データシンボルの位相に関する伝送路特性の影響が除去されることになる。
【0105】
なお、式(1)において、Ds’(t)は等化処理後のデータシンボル、Ds(t)は等化処理前のデータシンボル、f(t)は位相推定情報HF、p(t)は受信装置において取得済みの付属情報から得られる、ヘッダ信号HSの取得タイミングから等化処理対象のデータ信号DSの取得タイミングまでの時間情報、Nは標本数をそれぞれ示している。なお、式(1)では、便宜上、式(1)を構成する各要素を時間領域の関数として表しているため、式(1)は、等化処理前のデータシンボル「Ds(t)」と、位相に関する推定伝送路特性との畳み込み演算によって、等化処理後のデータシンボル「Ds’(t)」を求める構成となっている。
【0106】
このように、データ信号DSに関する等化処理をヘッダ信号HSを用いた伝送路推定処理によって得られた推定伝送路特性と付属情報とを用いて行うことによれば、当該データ信号DSを用いた伝送路推定処理が不要となる。これによれば、データ信号DSに含めるパイロット信号を減らす、或いは無くすことができるので、パイロット信号PSを減らした分、実データを伝送するための伝送容量を増やすことができる。すなわち、実データの伝送効率を高めることができる。
【0107】
また、位相推定情報HFに加えて、受信装置において取得済みの付属情報QFをも用いてデータシンボルの位相を補正することによれば、データシンボルの位相補正に関する精度を向上させることができる。
【0108】
また、次のような動作態様を通信システム1に付加してもよい。
【0109】
具体的には、第1通信装置10において、付属情報生成部122で生成される付属情報QFを通信制御部105に入力するようにし、通信制御部105は、付属情報QFを用いてゼロクロス間隔を監視する。そして、第1通信装置10は、ゼロクロス間隔の状況に応じて、種々の動作を実行する。動作の一例としては、例えば、ゼロクロス間隔の変動が大きくなった場合、通信動作の中止を知らせるステータス情報を付属情報QFに含めて、送信してもよい。
【0110】
また、第2通信装置20において、送信信号の受信エラーを検出した場合、そのエラー情報を第1通信装置10に送信して、受信できなかった送信信号を再送させる態様としてもよい。
【0111】
また、上記実施形態では、ヘッダ信号HSおよびデータ信号DSに付属情報QFを常に組み込む態様を例示したが、これに限定されない。
【0112】
具体的には、第1通信装置10において、付属情報生成部122で生成される付属情報QFを通信制御部105に入力するようにし、通信制御部105は、付属情報QFを用いてゼロクロス間隔を監視する。そして、第1通信装置10は、ゼロクロス間隔の変動が大きくなったときに付属情報QFをヘッダ信号HS或いはデータ信号DSに組み込む態様としてもよい。
【0113】
これによれば、ヘッダ信号HSおよびデータ信号DSに付属情報QFを常に組み込む場合に比べて、付属情報QFを伝送する替わりに実データを伝送できる可能性も生じうるので、伝送効率をさらに向上させることが可能になる。