特許第5793013号(P5793013)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5793013
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】交流電動機のステータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/18 20060101AFI20150928BHJP
【FI】
   H02K1/18 C
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-154883(P2011-154883)
(22)【出願日】2011年7月13日
(65)【公開番号】特開2013-21871(P2013-21871A)
(43)【公開日】2013年1月31日
【審査請求日】2014年2月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】由良 元澄
【審査官】 服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−253025(JP,A)
【文献】 特開2011−087374(JP,A)
【文献】 特開2001−161048(JP,A)
【文献】 特開2004−260988(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のティースに3相交流で駆動される3相巻線を巻回して成る交流電動機のステータであって、
当該ステータは、ヨーク部分において分割され、前記ティースを一個ずつ有する2種類の鉄芯ブロックである第一の鉄芯ブロックおよび第二の鉄芯ブロックによって構成され、
第一の鉄芯ブロックはヨーク部分において半径方向外側に向けて広がるテーパ形状を有し、第二の鉄芯ブロックはヨーク部分において半径方向外側に細くなるテーパ形状を有し、第一の鉄芯ブロックと第二の鉄芯ブロックは、冷却用スリーブの内周に一個ずつ交互に配置され、
前記テーパ形状は、径方向に対して斜交する傾きを持った2つの平行な直線部分に段差を設けた形状であって、当該段差部分が前記第一の鉄芯ブロックと前記第二の鉄芯ブロックとで噛み合うことによって、それぞれの鉄芯ブロックを径方向に拘束するとともに、前記第二の鉄芯ブロックを半径方向内側から外側に押しつけることによって、前記冷却用スリーブの内周面に前記第一の鉄芯ブロックを密着させ、かつ前記第一の鉄芯ブロックのテーパ形状の部分と前記第二の鉄芯ブロックのテーパ形状の部分を密着させて組み立てられたことを特徴とする交流電動機のステータ。
【請求項2】
前記ティースは6×N個(Nは自然数)であって、前記3相巻線は前記ティースの一個ずつに対して一巻線ずつ巻回されることによって、前記3相巻線の各相巻線はそれぞれ前記第一の鉄芯ブロックと前記第二の鉄芯ブロックの同数に巻回されることを特徴とする請求項1に記載の交流電動機のステータ。
【請求項3】
円筒または円環形状のヨーク部分と、ヨーク部分の内周面に立設され、周方向に配列され、巻線が巻回された複数のティースを有するステータコアと、
ステータコアを取り囲む円筒または円環形状の外周スリーブと、
を含む電動機のステータであって、
ステータコアは、それぞれが一個のティースを含む複数の鉄芯ブロックに、ヨーク部分において分割され、
複数の鉄芯ブロックは、当該鉄芯ブロックのヨーク部が半径方向外側に向けて周方向の幅が広がるテーパ形状を有する第一の鉄芯ブロックと、当該鉄芯ブロックのヨーク部が半径方向外側に向けて幅が狭まるテーパ形状を有する第二の鉄芯ブロックとを含み、
第一の鉄芯ブロックと第二の鉄芯ブロックは、隣接する鉄芯ブロックの前記テーパ形状を形成しているテーパ面を密着した状態で、外周スリーブの内周に沿って交互に配列され、
第一の鉄芯ブロックおよび第二の鉄芯ブロックのテーパ面には、当該テーパ面を半径方向において内周側と外周側に分ける段差が形成され、
第一の鉄芯ブロックのテーパ面は、前記段差により、前記外周側が低く、前記内周側が高くされ、第二の鉄芯ブロックのテーパ面は、前記段差により、前記外周側が高く、前記内周側が低くされ、
第一の鉄芯ブロックが外周スリーブに密着した状態で固着され、第一および第二の鉄芯ブロックが、各々の対向するテーパ面の前記段差が噛み合った状態で固着され、前記段差が噛み合うことにより第二の鉄芯ブロックの脱落が防止されている、
電動機のステータ。
【請求項4】
請求項3に記載の電動機のステータであって、
当該電動機は3相交流電動機であり、一個のティースに一つの巻線が巻回される集中巻きの構成を有し、
ティースの数が、6の倍数個である、
電動機のステータ。
【請求項5】
請求項3または4に記載の電動機のステータを製造する方法であって、
第一の鉄芯ブロックと第二の鉄芯ブロックを外周スリーブの内周に1個ずつ交互に配置するステップと、
第二の鉄芯ブロックをステータの半径方向外側に向けて押圧して、隣接する第一の鉄芯ブロックおよび第二の鉄芯ブロックのテーパ面同士、および第一の鉄芯ブロックと外周スリーブを密着させ、固着させるステップと、
を有する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転テーブルの駆動等に利用される交流電動機の改良に関する。特に交流電動機の製造設備のコストを低減できるステータ構造を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、工作機械の回転テーブル等を駆動する方式としては、減速機を使用せずに低速大トルクのダイレクトドライブモータを使用する方式が注目されている。このダイレクトドライブモータを使用すると、減速機によるバックラッシュがないため位置決め精度を向上することができ、また、減速機による回転速度制約が緩和されるため位置決め動作を高速化することができる。
【0003】
しかしながら、このようなダイレクトドライブモータは、大トルクを実現するためにモータサイズが大きくなる。このため、ステータコアを製造する時に必要な電磁鋼板のプレス金型も大型化して費用が高いという課題がある。
【0004】
また、ダイレクトドライブモータは、機械内部に直結構造で組み込まれるために形状をできるだけ小型化したいという強い要求があり、機種毎に最適化した設計が要求される。しかも機械の周辺機構の都合に合わせた多種多様な形状要求があり、標準化設計が困難である。その結果、多品種少量の生産となるため、プレス金型費の投資償却が困難になるという課題がある。
【0005】
このような事情から、ステータ鉄芯の製作に使用するプレス金型を小型化して費用を安価にするため、分割コアによってステータを構成する技術がある。例えば、下記特許文献1に示されるように、ステータ鉄芯をヨーク部分で分割した形状で電磁鋼板をプレス加工によって所要枚数だけ打抜き加工し、この電磁鋼板を積層することによって鉄芯ブロックを構成する。この鉄芯ブロックに対して巻線を施したものを円周状に並べて固定することによって、電動機のステータを構成する。
【0006】
図2は、このような分割コアによって構成したステータの構造例である。複数個の鉄芯ブロック1が、冷却スリーブ2の内周面に環状に配置されて一周のステータコアを構成している。冷却スリーブ2の外周には冷却液の流路が形成されていて、図示せぬハウジングに冷却スリーブ2を納め、冷却液流路に冷却液を通流することによって電動機を冷却している。また、鉄芯ブロック1は、隣同士の鉄芯ブロックと接するヨーク部3と、図示せぬロータに向かい合うティース部4からなり、ティース部4には巻線5が巻回されている。
【0007】
しかしながら、このような分割コアを用いてステータコアを構成した場合、複数の鉄芯ブロック間には隙間が生じる可能性がある。すなわち、鉄芯ブロックは電磁鋼板をプレス打ち抜きで切断加工して形成されているので、切断面にはバリが発生したり、塑性変形による寸法誤差が発生する。一般的な具体事例では一片が100mm程度の形状をプレス打ち抜きする場合に、0.02mm程度の形状寸法のばらつきが生じる。このばらつきを許容するために一つ一つの鉄芯ブロックは0.02mm程度、小さく設計する必要があり、図2のように複数の鉄芯ブロック1を冷却スリーブ2の内周に密着させると、個々のブロック間には隙間が生じる。この隙間は電磁鋼板に対して透磁率が著しく低いために磁束の通過を妨げ、結果として電動機の出力トルクが低下したり、出力トルクの脈動(トルクリップル)が大きくなるなどの問題が生じる。
【0008】
このような鉄芯ブロック間の隙間によって生じる弊害を軽減するために、例えば下記特許文献2に示されるように分割された鉄芯ブロックを組み立てる際に、電磁力を作用させて鉄芯ブロック同志に磁気吸引力を発生させるという技術がある。この方法によれば、鉄芯ブロック同志が吸引しあった状態で組み立てられるので分割された鉄芯間の隙間を小さくして組み立てることができる。
【0009】
しかしながら、この磁気吸引力を働かせる組み立て方法においては、ステータコアの外径寸法が正確にできないという問題が生じる。すなわち、個々の鉄芯ブロックは前述のように加工誤差による寸法ばらつきを考慮して小さく設計されるので、複数の鉄芯ブロックを組み合わせた場合にステータコアの外径寸法は小さくなる。このようにステータコアの外径寸法が小さくなると、冷却用スリーブとステータコアが密着しなくなるため熱伝導率が下がり、結果として巻線の温度上昇が大きくなる。
【0010】
また一方、鉄芯ブロック間の隙間によって生じる弊害を軽減するために、下記特許文献3にはテーパによってティースとヨークを密着させる技術が示されている。この技術によるステータコアの構成例を図3に示す。鉄芯ブロックをティース部4とヨーク部3に分けて構成し、ティース部4がヨーク部分3に接触する部分をテーパ形状として、ティース部4をヨーク部3に押しつけることによってテーパ部を密着させる技術が示されている。この技術によればティース部からヨーク部に通過する磁束について、隙間の小さい鉄芯間を通ることができるので電動機の特性を向上させることができる。
【0011】
しかしながら、この構成例では一つのティースから隣り合うティースまでの磁束の経路において、鉄芯ブロックの境界となる接触部が2ヶ所に存在し、図2に示すステータコアに比べて境界数が2倍となる。この接触部における隙間は、組立時にティース部4を内側から外側に押しつけることによって小さくすることができるが、前述のように電磁鋼板の切断面にはバリがあるために完全に隙間をゼロにすることはできない。このため、特許文献3に示される構成例でも、ステータコアを分割しない電動機に比較して出力トルクが低下したり、出力トルクの脈動が大きくなるなどの問題が生じる。
【0012】
なお、上記のように一つのティースから隣り合うティースまでの磁束の経路において、鉄芯ブロックの境界数が2倍となる問題は、特許文献2に示される技術においても同様である。
【0013】
また、同様に下記特許文献4にはティース部分とテーパ形状の小さなヨーク部分とからなる第一の鉄芯ブロックと、ティース部分と大きなヨーク部分からなる第二の鉄芯ブロックからなる分割コアを組み合わせたステータコアが示されている。そして、第一の鉄芯ブロックを中心方向からはめ込むことによってテーパ形状が第二の鉄芯ブロックに密着し、分割コア間の隙間を解消する効果がある。
【0014】
しかしながら、この構成例においては第二の鉄芯ブロックを円筒形状に配置して、その形状を押さえ冶具で保持しながら第一の鉄芯ブロックを中心方向からはめ込み、テーパ形状部を密着させながらこれらの鉄芯ブロックを溶接して固定するという煩雑な作業工程によって組み立てる必要がある。また、長期間の使用後に溶接固定部が万一、外れた場合には第一の鉄芯ブロックは内径方向に飛び出す可能性があり、このときロータと接触して回転軸がロック(固着)してしまう可能性がある。このような故障が電動機の回転中に発生すると、回転軸に過大な負の加速度が発生し、駆動される機械構造に大きな衝撃を与えるので危険である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2003−134701号公報
【特許文献2】特開2005−333697号公報
【特許文献3】特開2004−56906号公報
【特許文献4】特開2002−209348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、複数の分割コアによって構成される交流電動機のステータコアにおいて、分割コアの加工寸法誤差によって分割コア間に隙間が生じるという課題を解決し、出力トルクの向上やトルクリップルの低減を図ることを目的とする。または、このステータコアの外周に外周スリーブを装着する場合に、分割コアの加工寸法誤差によってステータコアと外周スリーブが密着しなくなるという課題を解決し、冷却効率の向上を図ることを目的とする。
【0017】
さらにまたは、複数の分割コアを組み立てる作業が煩雑であるという課題を解決し、組立てが容易な電動機のステータを実現する。または、各々の分割コアの結合が万一、回転中に外れた場合でも回転軸がロックすることなく安全性を確保できるステータ構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明に係るステータは、ヨーク部分において分割され、ティースを一個ずつ有する2種類の分割コア、すなわち第一の鉄芯ブロックおよび第二の鉄芯ブロックによって構成されたステータであって、
第一の鉄芯ブロックはヨーク部分において半径方向外側に向けて広がるテーパ形状を有し、第二の鉄芯ブロックはヨーク部分において半径方向外側に向けて細くなるテーパ形状を有し、第一の鉄芯ブロックと第二の鉄芯ブロックは、冷却用スリーブの内周に一個ずつ交互に配置され、
前記テーパ形状は、傾きが平行な2つの直線部分に段差を設けた形状であって、当該段差部分が前記第一の鉄芯ブロックと前記第二の鉄芯ブロックとで噛み合うことによって、それぞれの鉄芯ブロックを径方向に拘束するとともに、
前記第二の鉄芯ブロックを半径方向内側から外側に押しつけることによって、前記冷却用スリーブの内周面に前記第一の鉄芯ブロックを密着させ、かつ前記第一の鉄芯ブロックのテーパ形状部と前記第二の鉄芯ブロックのテーパ形状部を密着させて組み立てられたことを特徴とする。
【0019】
また、請求項2に記載の発明に係るステータは、前記ティースは6×N個(Nは自然数)であって、前記3相巻線は前記ティースの一個ずつに対して一巻線ずつ巻回されることによって、前記3相巻線の各相巻線はそれぞれ前記第一の鉄芯ブロックと前記第二の鉄芯ブロックの同数に巻回されることを特徴とする。
【0020】
本発明に係る他の態様の電動機のステータは、ステータコアと、ステータコアを取り囲む円筒または円環形状の外周スリーブとを含み、ステータコアは、円筒または円環形状のヨーク部分と、ヨーク部分の内周面に立設され、周方向に配列され、巻線が巻回された複数のティースを有するステータコアと、を有する。ステータコアは、更に、それぞれが一個のティースを含む複数の鉄芯ブロックに、ヨーク部分において分割されている。複数の鉄芯ブロックは、ヨーク部分が半径方向外側に向けて周方向の幅が広がるテーパ形状を有する第一の鉄芯ブロックと、ヨーク部分が半径方向外側に向けて幅が狭まるテーパ形状を有する第二の鉄芯ブロックとを含む。第一の鉄芯ブロックと第二の鉄芯ブロックは、隣接する鉄芯ブロックのテーパ形状を形成しているテーパ面を密着した状態で、外周スリーブの内周に沿って交互に配列される。第一の鉄芯ブロックおよび第二の鉄芯ブロックのテーパ面には、当該テーパ面を半径方向において内周側と外周側に分ける段差が形成されている。第一の鉄芯ブロックのテーパ面は、前記段差により、前記外周側が低く、前記内周側が高くされ、一方、第二の鉄芯ブロックのテーパ面は、前記段差により、前記外周側が高く、前記内周側が低くされる。第一の鉄芯ブロックが外周スリーブに密着した状態で固着され、また、隣接する第一および第二の鉄芯ブロックが、各々の対向するテーパ面の段差が噛み合った状態で固着され、これにより第二の鉄芯ブロックの脱落が防止される。
【0021】
さらに、当該電動機は3相交流電動機であって、一個のティースに一つの巻線が巻回される集中巻きの構成を有するものとでき、ティースの数を6の倍数個とすることができる。
【0022】
さらに、上記他の態様の電動機のステータを製造する方法の発明が提供される。この製造方法の発明は、第一の鉄芯ブロックと第二の鉄芯ブロックを外周スリーブの内周に1個ずつ交互に配置するステップと、第二の鉄芯ブロックをステータの半径方向外側に向けて押圧して、隣接する第一の鉄芯ブロックと第二の鉄芯ブロックのテーパ面同士、および第一の鉄心ブロックと外周スリーブを密着させ、固着させるステップと、を有する。
【発明の効果】
【0023】
請求項1に記載の発明によれば、ヨーク部分において半径方向外側に細くなるテーパ形状を有する第二の鉄芯ブロックを半径方向内側から外側に押しつけることによって、ヨーク部分において外径方向に広がるテーパ形状を有する第一の鉄芯ブロックと第二の鉄芯ブロックをそれぞれのテーパ形状部において密着させることができる。この結果、第一の鉄芯ブロックと第二の鉄芯ブロックの境界部分の磁気特性の劣化を抑える効果がある。
【0024】
また、第二の鉄芯ブロックを半径方向内側から外側に押しつけることによって、第一の鉄芯ブロックを冷却用スリーブの内面に密着させることができ、熱伝導が良好となり冷却効率が向上する効果がある。
【0025】
さらにまた、前記テーパ形状を傾きが平行な2つの直線部分に段差を設けた形状とすることによって、この段差部分が第一の鉄芯ブロックと第二の鉄芯ブロックとで互いに噛み合うので、冷却用スリーブの内周に、これらの鉄芯ブロックを挿入するだけで円筒形状の状態を保持することができ、組立作業を容易とする効果がある。
【0026】
さらに前記段差部分は、第一の鉄芯ブロックと第二の鉄芯ブロックの接着等による固定が万一、外れた場合でも第二の鉄芯ブロックが内径方向に飛び出すことを拘束できるため、回転中に回転軸がロックする等の危険を防止する効果がある。
【0027】
請求項2に記載の発明によれば、上記2種類の鉄芯ブロックの合計数は6の倍数であるので、3相巻線の1相分の巻線が巻回される第一の鉄芯ブロックの数と第二の鉄芯ブロックの数は同じとなる。このため1相分のトルクは、第一の鉄芯ブロックが発生するトルクと第二の鉄芯ブロックが発生するトルクを平均化した結果となるので、電動機全体で発生するトルクの脈動を抑制する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の一実施形態による交流電動機のステータの、鉄芯部分の断面図である。
図2】本発明の背景技術である分割コアを使用して構成された交流電動機のステータを示す断面図である。
図3】従来技術による交流電動機のステータコアの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の一実施形態を図1に従いながら説明する。鉄芯ブロック1a、1bは、それぞれヨーク部3a,3bとティース部4a,4bから成る2種類の分割コアであり、これらは外周スリーブ2の内周に納められてステータコアを構成している。外周スリーブ2は、ステータコアの熱を外部に放熱し、ステータコアを冷却する機能を有する。以下、外周スリーブを冷却スリーブと記す。ステータコアは、略円筒または円環のヨーク部分と、ヨーク部分の内周面に立設され、周方向に配列された複数のティースを有する。冷却スリーブ2は、ステータコアの外側を取り囲み、略円筒または円環形状を有する。鉄芯ブロック1aはヨーク部3aにおいて半径方向外側に広がるテーパ形状を有している。言い換えれば、鉄芯ブロック1aのヨーク部3aは、半径方向外側に向かって周方向の幅が広がるテーパ形状を有している。また、鉄芯ブロック1bはヨーク部3bにおいて半径方向外側に細くなるテーパ形状を有している。言い換えれば、鉄芯ブロック1bのヨーク部3bは、半径方向外側に向かって周方向の幅が狭まるテーパ形状を有している。
【0030】
これらの鉄芯ブロック1a、1bは互いに前述のテーパ形状を形成するテーパ面(ヨーク部3a,3bの周方向端面)で接触しており、鉄芯ブロック1bを半径方向内側から外側に押しつけることによって、それぞれのテーパ形状の部分、あるいはテーパ面を密着させること、および鉄心ブロック1aを冷却スリーブ2の内周面に密着させることができる。この密着させた状態で、例えば接着剤を用いて隣接する鉄心ブロック1a,1b同士および鉄心ブロック1aと冷却スリーブ2を固着させる。鉄芯ブロック1aと冷却スリーブ2が密着することにより、これら相互の熱抵抗を下げることができる。この結果、巻線5の銅損による発熱および電磁鋼板で発生した鉄損による発熱を効果的に冷却スリーブ2に伝達することができる。なお、鉄芯ブロック1aと冷却スリーブ2の内周面およびテーパ形状の部分の接触部つまりテーパ面は、例えば嫌気性の接着剤を使用して固着させることが好ましい。
【0031】
このように、鉄芯ブロック1aと鉄芯ブロック1bが接触するテーパ形状の部分を密着させることによって、その境界部分を通過する磁束に対する磁気抵抗を小さくすることができる。この結果、分割されたコアを使用せず一体で形成したステータコアを用いる交流電動機に対する出力トルクの減少を小さく抑えることができる。また、境界部分の磁気抵抗によって発生する出力トルクのトルクリップルを小さく抑えることができる。
【0032】
なお、鉄芯ブロック1bを半径方向内側から外側に押しつけたとしても、鉄芯ブロック1bは冷却スリーブ2の内面に密着することはできない。本実施形態においては、鉄芯ブロック1aおよび1bの形状寸法にばらつきがあっても確実に前述のテーパ形状の部分が密着するように、冷却スリーブ2の内径を鉄芯ブロックの寸法誤差に比べて十分に小さく設計している。具体的には、個々の鉄芯ブロックが円周方向に0.02mmだけ小さいことを想定する場合は、例えば12個の鉄芯ブロックでステータを構成するとき、冷却スリーブ2の内径円周が0.02×12=0.24mmだけ小さくなるように設計する。このような寸法で設計された冷却スリーブに、全てが正しい寸法で加工された鉄芯ブロックを納める時、鉄芯ブロック1bはテーパによって半径方向内側に押し出され、その結果、鉄芯ブロック1bは冷却スリーブ2の内面に密着しない。
【0033】
鉄芯ブロック1bが冷却スリーブ2の内面に密着しないことは、熱抵抗の観点から好ましくない。しかしながら、鉄芯ブロック1bが冷却スリーブ2に接触する部分の面積は鉄芯ブロック1aの接触面積に比べて小さく、このため鉄芯ブロック1bで発生する発熱の多くはテーパ形状の部分を介して鉄芯ブロック1aに伝達し、冷却スリーブ2に放熱される。この結果、鉄芯ブロック1bの熱抵抗は実用上十分に低くすることができる。なお、鉄芯ブロック1bと冷却スリーブ2の内面間に生じる隙間には、例えば熱伝導性エポキシ樹脂を充填することが、熱伝導率の観点および機械的強度の観点において好ましい。
【0034】
また、鉄芯ブロック1bが半径方向内側に押し出される結果、鉄芯ブロック1aと鉄芯ブロック1bではロータとの距離が異なる。このため、鉄芯ブロック1aと1bではロータとの磁気抵抗が異なり、それぞれの発生するトルクに差異が生じる。しかしながら、本実施形態においては鉄芯ブロック1aと1bの総数が6の倍数とすることにより、ステータコア全体では上記のトルク差異が平均化されるようにしている。すなわち、6N個(Nは自然数)の鉄芯ブロックの各々に3相巻線を1相ずつ巻回している結果、3相の各相が巻回される鉄芯ブロック1aと鉄芯ブロック1bの数は必ず同数となる。この結果、ステータ全体における鉄芯ブロック1aの発生トルクと、鉄芯ブロック1bの発生トルクは平均されて電動機全体では均一なトルクを発生することができる。
【0035】
このように複数の鉄芯ブロックを組合せて電動機のステータコアを構成する場合、その組立工程の作業性や、鉄芯ブロックの接合部の接着が万一、外れた場合の安全性に考慮する必要がある。このため、本発明においては、図1に示すように鉄芯ブロック1a、1bのテーパ形状の部分、またはテーパ面に段差6を設けている。テーパ形状は、ステータの軸線直交断面において傾きが平行な2つの直線部分に段差を設けた形状であり、隣接する鉄芯ブロック1a、1bのそれぞれの段差が噛み合うことによって、それぞれの鉄芯ブロックを径方向に拘束する。これによりテーパ形状の部分の接着固定がされていなくても鉄芯ブロック1bが半径方向内側に抜けてしまう心配がない。段差6はまた、鉄芯ブロック1a,1bのテーパ面を内周側と外周側に分けるように設けられてよい。さらに、段差6は、ステータの中心軸線と平行に延びるように設けられてよい。段差6により、鉄芯ブロック1aのテーパ面は、前記外周側が低く、前記内周側が高くされる。テーパ面の、段差6より外周側の部分と内周側の部分は、互いに平行な面とすることができる。また、段差6により鉄芯ブロック1bのテーパ面は、前記外周側が高く、前記内周側が低くされる。テーパ面の、段差6より外周側の部分と内周側の部分は、互いに平行な面とすることができる。段差6により、隣接する鉄芯ブロック1a、1bが噛み合っているため、鉄芯ブロック1bが両側の鉄芯ブロック1aに支持され、電動機の回転中に万一、鉄芯ブロック1bを固着している接着が外れたとしても鉄芯ブロック1bのティース4がロータに接触することがなく、回転軸がロックして機械に過大な衝撃が生じることがない。また、段差6を設けたことによって、本実施形態の電動機のステータコア組立においては、冷却スリーブ2の内面に鉄芯ブロック1a、1bを順に挿入するだけで、鉄芯ブロック自体が環状の形状を保持できるので、作業が簡便である。
【符号の説明】
【0036】
1a 鉄芯ブロック、1b 鉄芯ブロック、2 冷却スリーブ、3a,3b ヨーク部、4a,4b ティース部、5 巻線、6 段差。
図1
図2
図3