特許第5793056号(P5793056)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5793056
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】化粧料
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/34 20060101AFI20150928BHJP
   A61K 8/67 20060101ALI20150928BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20150928BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   A61K8/34
   A61K8/67
   A61K8/02
   A61Q19/00
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2011-234493(P2011-234493)
(22)【出願日】2011年10月26日
(65)【公開番号】特開2013-91619(P2013-91619A)
(43)【公開日】2013年5月16日
【審査請求日】2014年5月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100150681
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 荘助
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100105061
【弁理士】
【氏名又は名称】児玉 喜博
(72)【発明者】
【氏名】前田 大介
【審査官】 手島 理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−212751(JP,A)
【文献】 特開2005−068026(JP,A)
【文献】 特開2004−149445(JP,A)
【文献】 特開2008−290971(JP,A)
【文献】 特開2008−230987(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00−8/99
A61Q 1/00−90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリン30〜90質量%含有する化粧料であって、
(A)トコフェリルリン酸エステルの塩、
(B)高級アルコール、
(C)水
を含有し、液晶を形成している化粧料。
【請求項2】
トコフェリルリン酸エステルの塩(A)がトコフェリルリン酸ナトリウムである請求項1に記載の化粧料。
【請求項3】
高級アルコール(B)がベヘニルアルコールである請求項1または2のいずれかに記載の化粧料。
【請求項4】
さらに、(D)水溶性高分子を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の化粧料。
【請求項5】
さらに、(E)モノグリセリン脂肪酸エステルを含有する請求項1〜4のいずれかに記載の化粧料。
【請求項6】
マッサージ化粧料またはパック化粧料である請求項1〜5に記載の化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリセリン系の化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
温感や曳糸性を出すために高濃度のグリセリンを含有した化粧料が知られている。このグリセリンのゲル化には、種々の方法が採用されている。たとえば、カルボキシビニルポリマーやアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体等の水膨潤性高分子とリン酸エステル系キレート剤を含有させる技術(特許文献1:特開2010−37269号公報)、モノグリセリン脂肪酸エステルとショ糖脂肪酸エステルを含有させる技術 (特許文献2:特開平6−72841号公報)、特定のアスパラギン酸フェニルアラニン環状ジペプタイド誘導体を含有させる技術(特許文献3:特開2001−247451号公報)、薄片状微細結晶から成る特定の大きさの塩基性炭酸マグネシウムを含有させる技術(特許文献4:特許第4700314号公報)等が提案されている。
しかしながら、従来のグリセリンをゲル化したゲル状組成物は、高温で分離しやすく長期の保存安定性に欠け、使用感の面でも馴染みが悪かったりべたついたりして満足できるものではなかった。また、界面活性剤を多く用いるものは、低刺激性を訴求する場合には問題となる恐れがあった。
【0003】
トコフェロールのリン酸エステル(トコフェリルリン酸エステル)の塩は、水に溶解性を示すことから使い勝手のよいトコフェロール原料として種々の医薬品や化粧品に配合されている(特許文献5:特許第3035742号公報、特許文献6:特許第3186763号公報)。しかし、乳化系に配合すると乳化ミセルの凝集が発生し、沈殿が生じる事が指摘されている。トコフェリルリン酸エステル塩を配合した製剤に、多価アルコールとリン酸水素二カリウムなどのリン酸塩を併用することでトコフェリルリン酸エステル塩の安定化(定量分析値の安定化)を図る方法が提案されている(特許文献7:特許第3950216号公報)。またトコフェリルリン酸のナトリウム塩(トコフェリルリン酸ナトリウム)はアニオン性の両親媒性物質であり、界面活性機能を有することが知られている(非特許文献1:坂 貞徳ほか、2006年6月20日発行、日本化粧品技術者会誌140頁、2006年)。このトコフェリルリン酸ナトリウムの界面活性能を利用して乳化組成物を調製する試みがなされている(特許文献8:特開平9−309813号公報、非特許文献1:坂 貞徳ほか、2006年6月20日発行、日本化粧品技術者会誌140頁、2006年)。また、出願人もトコフェリルリン酸塩の界面活性能に着目して、界面活性剤を配合せずに乳化粒子径を2μm以下にまでミセル化して安定性をよくした組成物の技術を特願2011−072309に提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−37269号公報
【特許文献2】特開平6−72841号公報
【特許文献3】特開2001−247451号公報
【特許文献4】特許第4700314号公報
【特許文献5】特許第3035742号公報
【特許文献6】特許第3186763号公報
【特許文献7】特許第3950216号公報
【特許文献8】特開平9−309813号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】坂 貞徳ほか、2006年6月20日発行、日本化粧品技術者会誌140頁、2006年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
グリセリンを高含有する化粧料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の主な構成は、次のとおりである。
(1)グリセリン30〜90質量%含有する化粧料であって、
(A)トコフェリルリン酸エステルの塩、
(B)高級アルコール、
(C)水
を含有し、液晶を形成している化粧料。
(2)トコフェリルリン酸エステルの塩(A)がトコフェリルリン酸ナトリウムである(1)に記載の化粧料。
(3)高級アルコール(B)がベヘニルアルコールである(1)または(2)のいずれかに記載の化粧料。
(4)さらに、(D)水溶性高分子を含有する(1)〜(3)のいずれかに記載の化粧料。
(5)さらに、(E)モノグリセリン脂肪酸エステルを含有する(1)〜(4)のいずれかに記載の化粧料。
(6)マッサージ化粧料またはパック化粧料である(1)〜(5)に記載の化粧料。
【発明の効果】
【0008】
本発明の構成をとることにより、グリセリンを30〜90質量%と高配合した、肌馴染みが良く、べたつかない優れた使用感の、高温でも分離せず安定な化粧料が得られる。本発明の化粧料は細胞毒性が低く、安全性が高い(皮膚刺激性が低い)。本発明品は、肌馴染みが良く低刺激性であることから、特に皮膚をマッサージして外的刺激を加える恐れのあるマッサージ化粧料やパック化粧料に好適である。また、グリセリンが30〜90質量%と高配合されていることから、温感パック化粧料としても好適である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明のグリセリンを高含有する化粧料の構成成分について説明する。
必須成分
〔グリセリン〕
本発明で用いられるグリセリンは化粧料として汎用されているグリセリンを使用する。グリセリンの配合量が多い組成物は、皮膚に塗布すると、皮膚の水分と反応して水和熱が発生し、温熱感が得られる。グリセリンは、30〜90質量%配合することが好ましい。
【0010】
〔トコフェリルリン酸エステルの塩(A)〕
本発明で用いるトコフェリルリン酸エステルの塩類は特に限定されない。ナトリウム塩、ジナトリウム塩、カリウム塩、ジカリウム塩等の金属塩が好ましい。特に好ましくはトコフェリルリン酸ナトリウムである。
トコフェリルリン酸ナトリウムは、白色から微黄色の粉末状で、室温で水に容易に溶解する。ビタミンEは脂溶性ビタミンとして有用なビタミンであり、ビタミンCなどの水溶性抗酸化化合物と協同して紫外線などにより惹起される酸化ストレスから皮膚を守る働きを持つ。トコフェリルリン酸ナトリウムは、ビタミンEそれ自体が化学的に不安定なことから誘導体化したものである。トコフェリルリン酸ナトリウムは、皮膚内の脱リン酸化酵素によりビタミンEに変換され、抗酸化作用や抗炎症作用を発揮して肌荒れを改善するので、その美容効果を期待して化粧料などの皮膚外用剤に配合される。酸化防止作用も有するので酸化防止剤としても配合される。トコフェリルリン酸ナトリウムは、親水性と親油性の両方の性質を有する両親媒性のビタミンE誘導体であり、皮膚への浸透性が高い。本発明に於いて、トコフェリルリン酸塩は、トコフェリルリン酸エステル塩と高級アルコールと水が液晶を形成し、化粧料を安定化する。
そして、副次的に、前述の美容効果も発揮する。
市販されているものとして昭和電工株式会社製の「ビタミンEリン酸ナトリウム」を例示する。トコフェリルリン酸エステルの塩類の配合量は特に限定されないが0.05〜3質量%が好ましい。より好ましくは0.1〜2質量%である。0.05質量%に満たないと液晶が形成され難く、3質量%を超えると液晶の形成を阻害し、化粧料が不安定化する恐れがある。
【0011】
〔高級アルコール(B)〕
本発明の(B)成分である高級アルコールは、トコフェリルリン酸塩と水とともに液晶を形成する。高級アルコールは高温安定性の向上に寄与する。液晶を形成する高級アルコールとしてはステアリルアルコール、セトステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、アラキルアルコール、水添ナタネアルコール等が挙げられる。ベヘニルアルコールを配合することが好ましい。高級アルコールは、組成物に1〜7質量%配合することが好ましい。より好ましくは1〜5質量%配合することが好ましい。1質量%に満たないと液晶が十分に形成されないのでグリセリンを高配合した化粧料の安定性の向上に寄与しない恐れがある。7質量%を超えるとべたついて使用感が損なわれる恐れがある。
ベヘニルアルコールの市販品としては、日油株式会社製のNAA−422や、日光ケミカルズ株式会社製のNIKKOL ベヘニルアルコール 65やNIKKOL ベヘニルアルコール 80を入手して用いることができる。
【0012】
〔水(C)〕
本発明の化粧料を作成するために水は必須である。トコフェリルリン酸塩と高級アルコールと水を組み合わせることで、液晶を形成する。水は、1〜65質量%、好ましくは1〜15質量%、より好ましくは5〜10質量%配合することが好ましい。本発明の化粧料を温熱パック化粧料とするときには、水の配合量が15質量%を超えると、グリセリンと水とが過剰に反応して水和熱が発生するため、使用時に水和熱は発生せず十分な温熱感が得られなくなる恐れがある。
【0013】
本発明に於いて、トコフェリルリン酸塩(A)と高級アルコール(B)の配合比率は好ましくは1:5〜1:2である。トコフェリルリン酸塩(A)よりも高級アルコール(B)の配合量を多くした方が、強固な液晶が形成され、高温安定性が高まるので好ましい。
【0014】
〔水溶性高分子(D)〕
水溶性高分子は、前述した基本構成成分グリセリンと、(A),(B),(C)で得られる液晶が分散した液晶分散化粧料を増粘させ、長期保存における安定性を高める。本発明で用いられる水溶性高分子は、組成物(化粧料)を増粘させ、高温保管における化粧料の安定性を高める。本発明の化粧料を後述の実施例に示すように5000〜60000mPa・s(B型粘度計、4号ローター、12rpm 、30秒、25℃)の粘度とする場合には水溶性高分子を配合することが好ましい。また、本発明の化粧料をマッサージ化粧料やパック化粧料とする場合には、水溶性高分子を配合することにより、マッサージ中の肌上でのノビを良くし、膜厚感を向上させるなど、使用感を改善するので好ましい。高分子の持つ特有の粘性は、高級アルコールの持つ固有のべたつきや指止まり感(塗布時の指すべりの悪さ)を改善して肌上でのノビを良くするので好ましい。
前述の作用を有する高分子であれば、天然高分子、半合成高分子、合成高分子のいずれを用いてもよい。たとえば、天然高分子としては、トラガントガム、カラヤガム、キサンタンガム、グアガム、カチオン化グアガム、アニオン化グアガム、タラガム、アラビアガム、タマリンドガム、ジュランガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、クインスシード、デキストラン、等が例示できる。半合成高分子としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カチオン化セルロース、アルギン酸プロピレングリコールエステル、アルギン酸ナトリウム、ベントナイト等が例示できる。合成高分子としては、カルボキシビニルポリマー、(アクリル酸ヒドロキシエチル/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマー、アンモニウムアクリロイルジメチルタウレート/VPコポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ジアルキルポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンジオレイン酸メチルグルコシド、ポリエチレングリコール、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、合成スメクタイト、等が例示できる。中でもカルボキシビニルポリマーやキサンタンガム、(アクリル酸ヒドロキシエチル/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマー、アンモニウムアクリロイルジメチルタウレート/VPコポリマーを用いることが好ましい。これらは既知物質であり、多くのものが市販されている。例えば、カルボキシビニルポリマーは、和光純薬工業(株)製のハイビスワコー103、ハイビスワコー104、ハイビスワコー105、NOVEON社製カーボポール934、カーボポール940、カーボポール941、カーボポール980を入手して用いることができる。例えば、キサンタンガムは、大日本住友製薬(株)製のエコーガムを入手して用いることができる。(アクリル酸ヒドロキシエチル/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマーは、SEPICC社製のSEPINOV EMT10を入手して用いることができる。アンモニウムアクリロイルジメチルタウレート/VPコポリマーは、クラリアント社(Clariant)製のアリストフレックス(Aristoflex)AVC(商品名)を入手して用いることができる。これらは一種もしくは二種以上を組み合わせて含有させることができる。
水溶性高分子は、化粧料に0.01〜1質量%配合することが好ましい。0.01質量%に満たないと、粘度に影響しない場合があり、保存安定性が改善されない恐れがある。ノビの改善効果、適度な膜厚感も得にくくなる。1質量%を超えて配合すると、高分子特有のべたつきやぬるつきなどが生じて使用感が低下する恐れがある。本発明に於いては、カルボキシビニルポリマーが粘性および使用感の観点から特に好ましい。
【0015】
〔モノグリセリン脂肪酸エステル(E)〕
本発明の基本構成に、さらにモノグリセリン脂肪酸エステルを添加すると、モノグリセリン脂肪酸エステルが組成物中で結晶を形成することで、組成物のクリーミングを防止し、より高温での温度安定性が向上する。モノグリセリン脂肪酸エステルとしては、モノカプリル酸グリセリル、モノカプリン酸グリセリル、モノラウリン酸グリセリル、モノミリスチン酸グリセリル、モノパルミチン酸グリセリル、モノステアリン酸グリセリル、モノイソステアリン酸グリセリル、モノベヘン酸グリセリル、モノオレイン酸グリセリル、モノエルカ酸グリセリル等が例示できる。モノステアリン酸グリセリルを用いることが好ましい。モノステアリン酸グリセリルの市販品としては、日本エマルジョン株式会社製のEMALEX GMS−BやEMALEX GMS−F、日光ケミカルズ株式会社製のMGS−ASE、MGS−AV、MGS−BVを入手して用いることができる。モノグリセリン脂肪酸エステルは、化粧料に0〜5質量%配合することが好ましい。より好ましくは高級アルコールとの合計量で1〜10質量%配合することが好ましい。モノグリセリン脂肪酸エステルと高級アルコールの合計量が10質量%を超えるとノビが悪くなり使用感が損なわれる恐れがある。
【0016】
任意成分
本発明の化粧料には、目的に応じて任意成分として発明の効果を損なわない範囲で、化粧料に通常用いられる成分、例えば、油性成分、多価アルコール、酸化防止剤、紫外線吸収剤、保湿剤、香料、保香剤、防腐剤、pH調整剤、血行促進剤、冷感剤、制汗剤、殺菌剤、皮膚賦活剤その他の美容成分、薬効成分などを配合することができる。
【0017】
油性成分としては、エステル油、炭化水素類、高級脂肪酸、高級アルコール、シリコ−ン油などが例示できる。エステル油としては、例えば、エチルヘキサン酸セチル、ジイソノナン酸1,3−ブチレングリコール、ジ2−エチルヘキサン酸1,3−ブチレングリコール、ジイソノナン酸ジプロピレングリコール、ジ2−エチルヘキサン酸ジプロピレングリコール、イソノナン酸イソノニル、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、パルミチン酸エチルヘキシル、ネオペンタン酸イソステアリル、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル等が挙げられる。炭化水素類としては、例えば、流動パラフィン、スクワレン、スクワラン、マイクロクリスタリンワックス等が挙げられる。高級脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)等が挙げられる。シリコ−ン油として、例えば、鎖状ポリシロキサンのジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等、環状ポリシロキサンのデカメチルシクロペンタシロキサン、シクロペンタシロキサン等が挙げられる。
スクワラン、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリルが好ましい。
【0018】
また、必要に応じて本発明の必須成分であるグリセリン以外の多価アルコールを配合することができる。多価アルコールとしては、ジグリセリン、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ペンチレングリコール、ソルビトール等が例示できる。本発明はグリセリンを安定に高配合した化粧料の技術であり、多価アルコールの総量に対してグリセリンが占める割合は90%以上にすることが好ましい。
【0019】
本発明の化粧料は、従来の技術と異なり界面活性剤を含まなくても調製することができる。しかし、本発明の特徴を損なわない範囲で、任意成分として界面活性剤を配合しても構わない。しかし、皮膚刺激のより低い化粧料や皮膚外用剤を求める場合や、環境を配慮した界面活性剤を使用したい場合には、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ポリオキシエチレン鎖の付いた非イオン性界面活性剤を含まない方が好ましい。
【0020】
本発明の化粧料は、美容液、乳液、ジェル、クリーム、パック、マッサージ料、日焼け止め料、アンダーメイクアップ等の化粧料として使用することができる。本発明の効果を最も発揮した製剤は、マッサージ化粧料またはパック化粧料である。
【0021】
本発明の組成物をマッサージ化粧料またはパック化粧料とする場合には、粘度を30000〜70000mPa・s(B型粘度計、4号ローター、12rpm 、30秒)、より好ましくは、40000〜60000mPa・sにすることが好ましい。この範囲であれば、皮膚に伸ばしたりする時に使い勝手がよいものが得られる。
【実施例】
【0022】
以下に実施例を挙げて、本発明の特徴と効果をさらに詳細に説明する。
【0023】
表1、表2に示す組成にて実施例1〜12、比較例1〜5の化粧料(マッサージパック化粧料)を調製した。
調製方法
(A)トコフェリルリン酸エステルの塩と(C)水を80℃で均一に混合し水相とする。
グリセリンと(B)高級アルコールと油性成分を80℃で均一に混合し油相とする。
油相に水相を添加して混合し、水で冷却しながら室温まで撹拌を続けて化粧料を調製する。
(D)さらに水溶性高分子を配合する場合には、混合前に水相に添加する。カルボキシビニルポリマーなど中和が必要な水溶性高分子を用いる場合にはアルカリ成分を添加して中和する。
(E)さらにモノグリセリン脂肪酸エステルを配合する場合には、混合前に油相に添加する。
尚、(A)トコフェリルリン酸エステルの塩が分散した状態のグリセリンと(B)高級アルコールを含む油相(80℃)の中に、(C)水相(80℃)を添加して混合し、水で冷却しながら室温まで撹拌を続けても、本発明の化粧料を調製することができる。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
液晶形成の確認(偏光顕微鏡観察)、粘度の測定、安定性の評価、使用感の評価、安全性の評価(細胞毒性試験)
実施例と比較例の化粧料を、下記に示す方法により測定、評価した。
【0027】
<液晶形成の確認>
調製した組成物について、偏光顕微鏡にて観察し、液晶を形成しているときに観察される特有の像である「マルタ十字架」(福島正二著、セチルルコールの物理化学、第68頁、図6.2)の有無を確認し下記基準で判断した。
(基準)
◎:「マルタ十字架」が観察でき、菱形の粒子は観察されない
○:「マルタ十字架」が観察できるが、菱形の粒子がごく一部観察される
△:「マルタ十字架」が観察できるが、菱形の粒子も観察される
×:「マルタ十字架」が全く観察できない

尚、菱形の粒子は高級アルコールなどが結晶化したものと考えられ、実験中の何等かの影響により生じたものと思われるが、「マルタ十字架」が観察できたという観点から「◎、○、△」はすべて「液晶が形成した」と判断した。
【0028】
<粘度の測定>
(試作翌日の粘度)
得られた化粧料を直径約3cmのガラス容器に充填し25℃に保存して、調製翌日の粘度を、No.4ローターを備えたB型粘度計を使用し、測定温度25℃、ローター回転速度12rpm、測定開始後30秒後の条件で確認した。

(保管温度における粘度)
得られた化粧料を直径約3cmのガラス容器に充填し、25℃、40℃、50℃に7日間、30日間保存して、各温度の保管庫から取り出した直後の粘度を、No.4ローターを備えたB型粘度計を使用し、測定温度25℃、ローター回転速度12rpm、測定開始後30秒後の条件で確認した。尚、偏光顕微鏡観察により液晶の形成が確認できなかった化粧料についても参考までに粘度の測定は行った。保管途中で分離などしたものについては、測定していない。表中で記号(−)は測定していないことを示す。
【0029】
<安定性の評価>
得られた組成物を、それぞれ直径約3cmのガラス容器に充填し、25℃、40℃、50℃に30日間保存して、液晶組成物の安定性を以下の基準により目視と偏光顕微鏡により評価した。
(各温度での目視判定基準)
○:外観に異常がない
×:完全に分離している、または析出している

尚、表中の安定性の評価は、25℃、40℃、50℃のすべての保管温度において、○の評価になった場合にのみ○と記入した。

(50℃で30日間保存した組成物の偏光顕微鏡による観察の判定基準)
○:マルタ十字架が残存している
×:マルタ十字架が消失している

尚、調製翌日の偏光顕微鏡観察で、「マルタ十字架」が全く観察できなかったものについては、30日後も偏光顕微鏡観察は行わなかった。表中では(−)と記載した。
【0030】
<使用感の評価>
本発明の化粧料を、市販のマッサージパック化粧料を対照として各評価項目(馴染みの良さ、べたつきのなさ、マッサージのしやすさ)について、官能評価に優れたパネル(10名)がブラインドにより評価した。
〈使用感(馴染みの良さ)〉
○;良い (7名以上が肌の上で馴染みがよいと答えた)
△;普通 (4〜6名が肌の上で馴染みがよいと答えた)
×;悪い (肌の上で馴染みがよいと答えたのが3名以下であった。)

(使用感(べたつきのなさ))
○;良い (7名以上がべたつかないと答えた)
△;普通 (4〜6名がべたつかないと答えた)
×;悪い (べたつかないと答えたのが3名以下であった。)

〈使用感(マッサージのしやすさ)〉
○;良い (7名以上が肌の上でノビが良くマッサージしやすいと答えた)
△;普通 (4〜6名が肌の上でノビが良くマッサージしやすいと答えた)
×;悪い (肌の上でノビが良くマッサージしやすいと答えたのが3名以下であった。)
【0031】
<安全性の評価(細胞毒性試験)>
正常ヒト線維芽細胞(新生児由来)を96wellプレートに播種し、COインキュベーター内で培養した。コンフルエントの状態で培地を被験物質に置換し、細胞に曝露させた。COインキュベーター内で24時間曝露後、生細胞がMTT(3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetrazolium bromide)を吸収分解した際の生成物が発する青紫色の強度から細胞生存率を求めるMTTアッセイ法を用いて、細胞生存率からEC50(細胞が50%死滅する濃度)を求め細胞毒性を評価した。EC50値は、数値が高いほど細胞毒性が低いことを示。皮膚刺激性などの関係性が高いことから、皮膚への安全性を評価する指標となる。
【0032】
結果1
表1の組成の、実施例1〜10の化粧料(マッサージパック化粧料)は、すべて液晶の形成が確認された。形成された液晶は、50℃で30日間保管後も残存していた。目視による安定性の評価でも、25℃、40℃、50℃のいずれの保管温度に於いても分離や析出等がなく安定性が良好であった。実施例1〜10の化粧料(マッサージパック化粧料)は、使用感(馴染みの良さ、べたつきのなさ、マッサージのしやすさ)について優れていた。本発明品の馴染みの良さは、液晶が形成されたことによると考えられる。
【0033】
これに対して、トコフェリルリン酸塩(トコフェリルリン酸ナトリウム)、高級アルコール(ベヘニルアルコール)のいずれか一方の成分しか含まない比較例1〜4の組成では、液晶が形成されなかった。比較例4はベヘニルアルコールと思われる結晶の粒が析出した。
【0034】
結果2
表2は、高級アルコール(ベヘニルアルコール)と水と共に用いると液晶を形成することが公知の界面活性剤(ステアロイルメチルタウリンナトリウム)を、本発明の(A)成分に置き換えた組成で試作したものを比較例とし、得られた化粧料の安定性と細胞毒性試験の結果を本発明の実施例と比較した結果を示す表である。
実施例11、12の化粧料は、液晶が形成され、形成された液晶が50℃で30日保管後も維持していた。また、目視評価での安定性も優れていた。そして、実施例11、12の化粧料は、比較例5の界面活性剤(ステアロイルメチルタウリンナトリウム)を用いた液晶を含む化粧料よりも細胞毒性が低く、安全性が高い(皮膚刺激性が低い)ことが確認できた。また、実施例11、12の化粧料について、使用感の試験を行ったところ、使用感(馴染みの良さ、べたつきのなさ、マッサージのしやすさ)のいずれの項目でも高い評価が得られた。
【0035】
液晶形成の組み合わせ確認試験
次に、表3の組成(確認試験例1〜10)により、本発明の化粧料に於いて、液晶を形成している構成成分の組み合わせについて試験(確認試験)を行った。結果を表3に示す。
【0036】
【表3】
【0037】
結果3
表3の確認試験例1〜11により、(A)トコフェリルリン酸塩(トコフェリルリン酸ナトリウム)、(B)高級アルコール(ベヘニルアルコール)および(C)水の3成分により、液晶が形成されていることが確認できた。特に、(A)トコフェリルリン酸ナトリウムと(B)ベヘニルアルコールの配合比率が1:5〜2:5の時に、より多くの液晶が形成されることが観察された。
【0038】
本発明の構成をとることにより、グリセリンを高配合した、馴染みが良く、べたつかない、優れた使用感の化粧料が得られた。本発明の化粧料は高温でも分離せず安定であった。
本発明の化粧料は細胞毒性が低く、安全性が高い(皮膚刺激性が低い)。本発明の化粧料は、低刺激性で肌馴染みも良いことから、特に皮膚をマッサージして外的刺激を加える恐れのあるマッサージ化粧料やパック化粧料に好適である。また、グリセリンが高配合できることから、温感パックとして有用である。
【0039】
処方例1 マサージパック化粧料
成分 配合量(質量%)
1.トコフェリルリン酸ナトリウム 0.2
2.ベヘニルアルコール 1
3.精製水 7.9
4.カルボキシビニルポリマー 0.2
5.スクワラン 4
6.水酸化カリウム10%水溶液 0.2
7.グリセリン 80
8.ペンチレングリコール 1.5
9.1,3−ブチレングリコール

(製法)
1、3、4を混合し80℃に加熱して溶解し、6を添加してpHを中和し、水相とする。2、5、7、8、9を80℃に加熱して溶解し、油相とする。油相に水相を添加し、手撹拌で乳化させ、その後撹拌しながら室温まで冷却する。
【0040】
処方例2 マッサージパック化粧料
成分 配合量(質量%)
1.トコフェリルリン酸ナトリウム 1
2.ベヘニルアルコール 5
3.精製水 7.1
4.カルボキシビニルポリマー 0.2
5.水酸化カリウム10%水溶液 0.2
6.グリセリン 80
7.ペンチレングリコール 1.5
8.1,3−ブチレングリコール 5

(製法)
1、3、4を混合し80℃に加熱して溶解し、5を添加してpHを中和し、水相とする。2、6、7、8を80℃に加熱して溶解し、油相とする。油相に水相を添加して、手撹拌で乳化させ、その後撹拌しながら室温まで冷却する。
【0041】
処方例3 マッサージパック化粧料
成分 配合量(質量%)
1.トコフェリルリン酸ナトリウム 1
2.ベヘニルアルコール 5
3.精製水 5.3
4.キサンタンガム 0.2
5.モノステアリン酸グリセリル(自己乳化型) 2
6.グリセリン 80
7.ペンチレングリコール 1.5
8.1,3−ブチレングリコール 5

(製法)
1、3、4を混合し80℃に加熱して溶解し水相とする。2、5、6、7、8を80℃に加熱して溶解し、油相とする。油相に水相を添加して、手撹拌で乳化させ、その後撹拌しながら室温まで冷却する。
【0042】
処方例4 マッサージパック化粧料
成分 配合量(質量%)
1.トコフェリルリン酸ナトリウム 1
2.ベヘニルアルコール 5
3.精製水 55.3
4.カルボキシビニルポリマー 0.1
5.モノステアリン酸グリセリル(自己乳化型) 2
6.水酸化カリウム10%水溶液 0.1
7.グリセリン 30
8.ペンチレングリコール 1.5
9.1,3−ブチレングリコール 5

(製法)
1、2、3、4を混合し80℃に加熱して溶解し、6を添加してpHを中和し、水相とする。5、7、8、9を80℃に加熱して溶解し、油相とする。油相に水相を添加して、手撹拌で乳化させ、その後撹拌しながら室温まで冷却する。