特許第5793072号(P5793072)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5793072
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】エナメル
(51)【国際特許分類】
   C09D 1/00 20060101AFI20150928BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20150928BHJP
   C09D 125/06 20060101ALI20150928BHJP
   C09D 105/00 20060101ALI20150928BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20150928BHJP
   C03C 8/18 20060101ALI20150928BHJP
   C09D 5/29 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   C09D1/00
   C09D7/12
   C09D125/06
   C09D105/00
   B22F1/00 L
   B22F1/00 M
   B22F1/00 K
   B22F1/00 R
   B22F1/00 S
   C03C8/18
   C09D5/29
【請求項の数】24
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2011-500022(P2011-500022)
(86)(22)【出願日】2009年3月10日
(65)【公表番号】特表2011-519379(P2011-519379A)
(43)【公表日】2011年7月7日
(86)【国際出願番号】CH2009000089
(87)【国際公開番号】WO2009114953
(87)【国際公開日】20090924
【審査請求日】2012年1月6日
(31)【優先権主張番号】08405083.0
(32)【優先日】2008年3月19日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599091346
【氏名又は名称】ロレックス・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】ROLEX SA
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】特許業務法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル・レイナー
(72)【発明者】
【氏名】オリヴィエ・プジョル
【審査官】 ▲吉▼澤 英一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−031039(JP,A)
【文献】 特開昭59−011368(JP,A)
【文献】 特開平11−228175(JP,A)
【文献】 特開2005−320183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00
B22F 1/00
C03C 8/18
C09D 5/29
C09D 7/12
C09D 105/00
C09D 125/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半透明または透明な着色エナメルにおいて、前記エナメルは、シリカと、金属酸化物と、金属ナノ粒子と、長石およびまたはカオリンを含み、前記ナノ粒子が被覆、機能化、またはグラフト化により互いに凝集する本来の傾向を喪失したナノ粒子であることを特徴とするエナメル。
【請求項2】
反射性の基材上に支持された層の形をなし、着色は光の反射によってもたらされることを特徴とする、請求項1に記載のエナメル。
【請求項3】
前記ナノ粒子が、その表面に配された電荷キャリアを用いた静電斥力の獲得のための機能化により、互いに凝集する能力を喪失していることを特徴とする、請求項1または2に記載のエナメル。
【請求項4】
前記電荷キャリアは、アラビアゴムであることを特徴とする、請求項3に記載のエナメル。
【請求項5】
前記ナノ粒子が、高い立体障害をともなった分子またはイオンを用いた機能化またはグラフト化によって、互いに凝集する能力を喪失していることを特徴とする、請求項1または2に記載のエナメル。
【請求項6】
前記高い立体障害をともなった分子またはイオンは、ポリスチレンであることを特徴とする、請求項5に記載のエナメル。
【請求項7】
前記ナノ粒子が、その表面に配された分子であって、カルボキシル基で改変されたポリスチレンおよび界面活性剤から選択される親水性の分子を用いた機能化により、互いに凝集する能力を喪失していることを特徴とする、請求項1または2に記載のエナメル。
【請求項8】
前記界面活性剤は、ドデシル硫酸ナトリウムであることを特徴とする、請求項7に記載のエナメル。
【請求項9】
前記金属ナノ粒子が、貴金属、鉄、クロム、銅、コバルト、マンガンもしくはそれらの合金を含む群から選ばれたその他の金属のナノ粒子であることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載のエナメル。
【請求項10】
前記貴金属は、金、銀、又は、白金であることを特徴とする、請求項9に記載のエナメル。
【請求項11】
前記金属酸化物は、酸化スズであることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載のエナメル。
【請求項12】
スリップを調製すること、前記スリップ内で、またはその後の焼成中に互いに凝集する能力を喪失しているナノ粒子をそこに加えること、次いで前記スリップを乾燥させ、そうして得られた生エナメルを焼成することを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載のエナメルの製造方法。
【請求項13】
請求項1から11のいずれか一項に記載のエナメルの宝石製造または宝飾品製造における利用。
【請求項14】
シリカと、金属酸化物と、金属ナノ粒子と、長石およびまたはカオリンを含み、表面の被覆、機能化、またはグラフト化により互いに凝集する本来の傾向を喪失した金属ナノ粒子を含むエナメルの、時計製造における利用。
【請求項15】
反射性の基材上に支持された層の形をなし、着色は光の反射によってもたらされることを特徴とする、請求項14に記載の利用。
【請求項16】
前記ナノ粒子が、その表面に配された電荷キャリアを用いた静電斥力の獲得のための機能化により、互いに凝集する能力を喪失していることを特徴とする、請求項14または15に記載の利用。
【請求項17】
前記電荷キャリアは、アラビアゴムであることを特徴とする、請求項16に記載の利用。
【請求項18】
前記機能化またはグラフト化が、高い立体障害をともなった分子またはイオンを用いて行われることを特徴とする、請求項14または15に記載の利用。
【請求項19】
前記高い立体障害をともなった分子またはイオンは、ポリスチレンであることを特徴とする、請求項18に記載の利用。
【請求項20】
前記機能化が、その表面に配された分子であって、カルボキシル基で改変されたポリスチレンおよび界面活性剤から選択される親水性の分子を用いて行われることを特徴とする、請求項14または15に記載の利用。
【請求項21】
前記界面活性剤は、ドデシル硫酸ナトリウムであることを特徴とする、請求項20に記載の利用。
【請求項22】
前記金属ナノ粒子が、貴金属、鉄、クロム、銅、コバルト、マンガンもしくはそれらの合金を含む群から選ばれたその他の金属のナノ粒子であることを特徴とする、請求項14から21のいずれか一項に記載の利用。
【請求項23】
前記貴金属は、金、銀、又は、白金であることを特徴とする、請求項22に記載の利用。
【請求項24】
前記金属酸化物は、酸化スズであることを特徴とする、請求項14から23のいずれか一項に記載の利用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透明または半透明の着色エナメルに関する。このエナメルは、光を反射する基材の上に設けた層の形をなすことができ、その際、「色」効果は基本的に表面反射、複合的な内部反射および分散によってもたらされる。
【背景技術】
【0002】
周知のごとく、エナメルは、ベースフリットを出発原料とし、溶融温度を下げることを可能にする様々なフラックスが製造過程で加えられることによって得られるガラス質化合物である。エナメルは、通常、金属などの基材上に被着されて、そこに絵柄を作り出すが、金属小胞内の「空所中」に定着させ、エナメルの透明性を生かして特定の効果を持たせることもできる。この場合は「プリカジュール」エナメル技法と呼ばれる。また、金属粒子を用いることによってエナメルに色彩が得られることも知られている。ベースフリットの組成により、透明、半透明および不透明のエナメルがある。
【0003】
最後に、ガラス中のコロイド状金粒子は、透かして見たときに深く濃い赤の着色を与えることが知られている。有名な例にムラーノガラスがあるが、その製造の秘密は今日まできわめてよく守られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2008/014623号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ムラーノ様の着色、すなわち、深く濃い着色を、ガラスにおいてではなく、エナメルにおいて得ることを目的とする。構成成分を高温で融解させることによって得られるガラスとは異なり、エナメルは、「スリップ」と呼ばれる水溶液の形で塗布され、そのスリップは、乾燥後、ガラスの溶融温度をかなり顕著に下回る温度で「焼成」される。
【0006】
さらに付言すれば、ガラスは基本的にシリカまたは酸化ケイ素によって構成されるが、エナメルは、一般に、シリカのほか、長石、カオリン、金属酸化物を含む。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明は、厳密には、エナメルに深く濃い色を与えるように着色する金属ナノ粒子を含む半透明または透明エナメルに関する。着色は基本的に光の反射によって与えられるものであり、とりわけ、エナメルが基材上に複数の層として被着されるときに得られる。
【0008】
本発明によれば、ナノ粒子は互いに凝結し、合体し、または凝集する本来の傾向を喪失した状態にあり、スリップにおいても、完成後のエナメルにおいてもコロイド安定性を保ち、互いに孤立し、個々に分離した状態を維持する。
【0009】
実際、ナノ粒子が凝集したり、沈殿したりすれば、色がくすんだり、褐色がかったりすることになり、さらには赤い色調が完全に失われて、求める深く濃い赤色とは明らかにまるで異なるものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
エナメルの調製時またはエナメル焼成の熱処理時に凝集する能力を金属ナノ粒子から取り去る第1の手段は、特に特許文献1などに記載(ただし、エナメルではなく、セラミックに関する記述であるが)されているように、スリップ内に存在する他の構成成分に対して不活性な物質、例えば結晶質シリカによってナノ粒子を被覆することである。
【0011】
互いに凝集または集合する金属ナノ粒子の能力をなくす第2の手段は、その表面を機能化することである。
【0012】
そのためには、例えば、ナノ粒子の表面に配した電荷キャリアを利用してナノ粒子が互いに反発し、均一な懸濁状態を保つようにする、静電斥力による方法など、いくつかの方法を用いることができる。コロイド理論からは、すでに表面に存在する官能基のイオン化や特異的イオン吸着を含め、いくつかの解決法が提案される。そこで、例えばアラビアゴムをナノ粒子合成の際や水溶液に加えることが可能であり、それによって懸濁液は安定化する。
【0013】
物理的な、もう1つの方法は、互いにもはや嵌合しあえないような立体障害を持ち、そのために凝集または沈殿現象を引き起こし得ない分子またはイオンなどの実体を、例えばグラフト化またはここでもやはり静電的な結合によってナノ粒子表面に展開することにある。ナノ粒子の表面に吸着して、ナノ粒子が互いに接近することのないようにするポリスチレンは、こうした実体の好例である。
【0014】
さらに別の方法は、例えば、分子などの実体をやはり吸着させることによって、ナノ粒子の表面を親水性にするというもので、こうして親水性になったナノ粒子は、溶液の水と結合する一方でナノ粒子同士が互いに遠ざかる傾向を持つようになり、スリップの乾燥またはエナメルの焼成の際に結合することができない。親水性物質としては、カルボキシル基で改変したポリスチレン型の物質や、ドデシル硫酸ナトリウムのような界面活性剤を用いるのが有利である。
【0015】
本発明によれば、金属ナノ粒子は、金、銀、白金のような貴金属、または、例えば、鉄、クロム、銅、コバルト、マンガンもしくはそれらの合金などその他の金属からなるものでよい。金属ナノ粒子は、また、例えば酸化スズのような金属酸化物からなるものでもよい。
【0016】
本発明によるエナメルの決定的な利点は、ますます厳しくなる環境および公衆衛生に関する基準を考えたとき、着色のために、エナメルの伝統的な顔料を加える必要がなくなることにある。そのため、可視光スペクトル全体にわたるあらゆる色彩および色調を、鉛、スズ、セレン、セリウムまたはカドミウムの塩のような有毒な塩を用いることなしに得ることができる。
【0017】
通常、金からは赤い着色が得られるが、例えばクロムを使った場合、それ以外はすべて同じにして、得られる色は緑になる。もっとも、色の件に関しては、ナノ粒子の大きさ、その濃度および形状がもたらす影響について、発明者らの意見は一致していない。
【0018】
本発明は、また、下地、金属表面または光を反射するその他の表面、例えば白色エナメルの下地に被着することができる層状エナメルにも関する。その場合、深く濃い「色彩」効果は、下地に反射する光の拡散によって増幅される。この場合、モアレ効果、または「蝶の羽」もしくは「ホログラム」効果(すなわち、光の入射角が変わったときの虹色効果、変色効果または幻像出現効果)が得られるように、複数のエナメル層によって構成される最終絵柄を作り出すことができること、とりわけ、典型的には1μm未満と、エナメル層がきわめて薄いときにそれが可能であることに留意する必要がある。
【産業上の利用可能性】
【0021】
ここに説明した内容が、装飾、とりわけ陶器や金属製品への装飾にかかわる様々な分野、特に宝飾および宝石の分野に適用されるものであることは理解されたであろう。
【0022】
本発明は、時計製造の分野でも、腕時計のケースや文字盤のエナメルによる装飾用に有利な用途を見出すであろう。