特許第5793143号(P5793143)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5793143光学活性1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5793143
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】光学活性1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/16 20060101AFI20150928BHJP
   C07C 22/08 20060101ALI20150928BHJP
   C07B 53/00 20060101ALN20150928BHJP
【FI】
   C07C17/16
   C07C22/08
   !C07B53/00 C
【請求項の数】11
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-525419(P2012-525419)
(86)(22)【出願日】2011年7月21日
(86)【国際出願番号】JP2011066512
(87)【国際公開番号】WO2012011516
(87)【国際公開日】20120126
【審査請求日】2014年1月20日
(31)【優先権主張番号】特願2010-164726(P2010-164726)
(32)【優先日】2010年7月22日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-164725(P2010-164725)
(32)【優先日】2010年7月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000163006
【氏名又は名称】興和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】日下部 太一
(72)【発明者】
【氏名】松田 健之介
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 浩市
(72)【発明者】
【氏名】扇谷 忠明
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 公幸
【審査官】 天野 皓己
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/073777(WO,A1)
【文献】 特開2010−077116(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/062371(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/046681(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/152508(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/16
C07B 53/00
C07C 22/08
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学活性1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンの製造方法であって、臭素化剤として(a)ハロゲン化リン及び臭化水素の組み合わせ、(b)1,2−ジブロモ−1,1,2,2−テトラクロロエタン及び一般式(I):P(R1)(R2)(R3)(式中、R1、R2、及びR3はそれぞれ独立にC6-10アリール基、C6-10アリールオキシ基、C1-10アルキル基、C1-10アルコキシル基、C3-6シクロアルキル基、又はC3-6シクロアルコキシル基を示す)で表される有機リン化合物の組み合わせ、又は(c)N−ブロモコハク酸イミド及びジアルキルスルフィドの組み合わせのいずれかを用いて光学活性1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノールを臭素化する工程を含む方法であって、光学活性1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノールが(S)−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノールであり、かつ光学活性1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンが(R)−1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンである方法
【請求項2】
光学活性1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンの製造方法であって、臭素化剤として(a)ハロゲン化リン及び臭化水素の組み合わせ、(b)1,2−ジブロモ−1,1,2,2−テトラクロロエタン及び一般式(I):P(R1)(R2)(R3)(式中、R1、R2、及びR3はそれぞれ独立にC6-10アリール基、C6-10アリールオキシ基、C1-10アルキル基、C1-10アルコキシル基、C3-6シクロアルキル基、又はC3-6シクロアルコキシル基を示す)で表される有機リン化合物の組み合わせ、又は(c)N−ブロモコハク酸イミド及びジアルキルスルフィドの組み合わせのいずれかを用いて光学活性1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノールを臭素化する工程を含む方法であって、光学活性1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノールが(R)−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノールであり、かつ光学活性1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンが(S)−1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンである方法
【請求項3】
ハロゲン化リンが三臭化リンである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
臭化水素として臭化水素酸又は臭化水素の酢酸溶液を用いる請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
溶媒の非存在下又は存在下で行う請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
溶媒としてヘプタンを用いる請求項5に記載の方法。
【請求項7】
上記(b)又は(c)の組み合わせを用いて溶媒の存在下に臭素化を行う請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
溶媒が芳香族炭化水素類又はハロゲン化炭化水素類である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
溶媒がトルエン、ジクロロメタン、又は1,2−ジクロロエタンである請求項8に記載の方法。
【請求項10】
一般式(I)で表される有機リン化合物がトリフェニルホスフィンである請求項7ないし9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ジアルキルスルフィドがジメチルスルフィドである請求項7ないし9のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、農薬、及び工業製品などの製造原料として有用な光学活性な1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学活性な1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エチル基は医薬や農薬などに有用な化合物の構成単位として重要であり、この基を含む化合物の製造用原料として1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンは極めて有用な化合物である。たとえば、NK-1レセプター・アンタゴニストとして作用する化合物を製造するために1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンを原料として使用することが開示されている(非特許文献1及び2)。しかしながら、このような重要な用途があるにもかかわらず、1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンについてはラセミ体の製造方法しか知られておらず、光学活性化合物の製造方法については具体的な製造方法の報告例はない。
【0003】
ラセミ体の1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンは下記スキーム1に示す方法によって合成することができる(特許文献1)。この方法は、3,5−ビス(トリフルオロメチル)アセトフェノンをメタノール中で水素化ホウ素ナトリウムにより還元してアルコール化合物に変換し、このアルコール化合物をトルエン中で三臭化リンを用いて臭素化する工程を含んでいる。
【0004】
【化1】
【0005】
ラセミ体の1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンは下記スキーム2の方法によっても合成が可能である(非特許文献3)。この方法は、3',5’−ビス(トリフルオロメチル)アセトフェノンをメタノール中で水素化ホウ素ナトリウムにより還元してアルコール化合物とし、このアルコール化合物を臭化水素酸及び硫酸で処理して臭素化する工程を含んでいる。しかしながら、特許文献1及び非特許文献3には光学活性の1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンを製造する方法は具体的に示されていない。
【0006】
【化2】
【0007】
光学活性な1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノールは、ビス−3',5'−(トリフルオロメチル)フェニルアセトフェノンの不斉還元反応、またはビス−3,5−(トリフルオロメチル)ベンズアルデヒドの不斉メチル化反応によって、いずれか一方の鏡像体を高い光学純度で得ることができる。従って、出発原料として高い光学純度のアルコールを高い光学純度を維持したまま1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンへ変換することができれば、該製造方法は工業的に簡便で且つ効率のよい製造方法となる。しかしながら、光学活性アルコールを出発原料として、高い光学純度を維持したまま1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンを効率よく製造する方法は従来知られていない。
【0008】
一方、水酸基を臭素化する一般的な方法として、アルキルアルコールやベンジルアルコールをスルホン酸エステルなどの脱離基に変換し、臭化物イオンによる置換反応により臭素化を行う方法が知られている(非特許文献4)。また、光学活性な1−フェニルエタノールに対してジエチルエーテル中で過剰量のピリジン存在下に低温で三臭化リンを作用させると、高収率(転化率93.9%)で1−フェニルブロモエタンが得られることが報告されている(非特許文献5)。
【0009】
【化3】
【0010】
さらに、1,2−ジブロモ−1,1,2,2−テトラクロロエタン及びトリフェニルホスフィンを用いて水酸基をハロゲンに交換する方法(非特許文献6)、及びN−ブロモコハク酸イミド及びジメチルスルフィドを用いて水酸基をハロゲンに交換する方法も報告されている(非特許文献7)。しかしながら、これらの方法を光学活性1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノールに適用して、高い光学純度を維持したまま1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンを製造できることは従来知られていない。
【0011】
【化4】
【0012】
なお、光学活性な化合物の調製方法として、ラセミ体をキラルカラムクロマトグラフィーにより分割する方法が一般的に行われている。しかしながら、1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンは反応性が高いことから、ラセミ体を光学分割して光学活性体を供給する方法では目的物の分解やラセミ化を伴う可能性があり、光学活性体を安定に供給することができないことが予想される。前記の非特許文献2においても、1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンはラセミ体のまま原料として使用されており、得られたジアステレオマーの混合物を2段階の光学分割により分離して光学活性な目的物に導く方法が採用されている。
【0013】
【化5】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第2008/129951号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2007/044829号パンフレット
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc. 125, 2129-2135 (2003).
【非特許文献2】J. Org. Chem. 71, 7378-7390 (2006).
【非特許文献3】Tetrahedron Lett. 48, 8001-8004 (2007).
【非特許文献4】J. Org. Chem. 26, 3645-3649 (1961).
【非特許文献5】Indian J. Chem., Sec B, 44B, 557-562 (2005).
【非特許文献6】Synthesis Commun., 139−141 (1983)
【非特許文献7】Tetrahedron Lett., 42, 4339-4342 (1972)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の課題は 光学活性1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノールを原料として用いて、高い光学純度を維持しつつ光学活性1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンを効率的かつ高収率に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行い、上記非特許文献4の臭素化法を光学活性な(R)−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノールに適用したところ、一旦生じた所望のベンジルブロミドと反応系中に存在する臭化物イオンとの間で臭素の置換交換反応が起こり、得られた1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンはほぼ完全にラセミ化してしまうという結果を得た(比較例1参照)。また、(R)−1−[3、5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノールに対して上記非特許文献5と同様の条件下で臭素化反応を行ったところ、所望のベンジルブロミドは低収率でしか得られないという結果を得た(比較例2参照)。これらの臭素化条件では、反応系中に一旦生じた所望のベンジルブロミドと臭化物イオンが共存することになり、目的物が臭化物イオンとさらに反応してラセミ体が生成してしまうものと考えられた。
【0018】
本発明者らはさらに研究を行ったところ、臭素化剤としてa)ハロゲン化リンと臭化物との組み合わせを用いる手法、b)溶媒の存在下にて、1,2−ジブロモ−1,1,2,2−テトラクロロエタンとトリフェニルホスフィンなどの有機リン化合物との組み合わせを用いる手法、又はc)溶媒の存在下にて、N−ブロモコハク酸イミド及びジアルキルスルフィドの組み合わせを用いる手法のいずれかの手法で、光学活性1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノールを臭素化することにより、高い光学純度を維持したまま所望の光学活性1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンを製造できることを見出した。
【0019】
すなわち、本発明により、光学活性1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンの製造方法であって、臭素化剤としてa)ハロゲン化リン及び臭化水素の組み合わせ、b)1,2−ジブロモ−1,1,2,2−テトラクロロエタン及び一般式(I):P(R1)(R2)(R3)(式中、R1、R2、及びR3はそれぞれ独立にC6-10アリール基、C6-10アリールオキシ基、C1-10アルキル基、C1-10アルコキシル基、C3-6シクロアルキル基、又はC3-6シクロアルコキシル基を示す)で表される有機リン化合物の組み合わせ、又はc)N−ブロモコハク酸イミド及びジアルキルスルフィドの組み合わせのいずれかを用いて光学活性1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノールを臭素化する工程を含む方法が提供される。
【0020】
上記方法の好ましい態様によれば、光学活性1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノールが(S)−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノールであり、かつ光学活性1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンが(R)−1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンである上記の方法;光学活性1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノールが(R)−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノールであり、かつ光学活性1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンが(S)−1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンである上記の方法が提供される。
【0021】
上記(a)の組み合わせを用いる手法の好ましい態様によれば、ハロゲン化リンが三臭化リンである上記の方法;臭化水素として臭化水素酸を用いる上記の方法;臭化水素として臭化水素の酢酸溶液を用いる上記の方法;三臭化リンを光学活性1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノールに対して0.4〜0.6当量の範囲で用いる上記の方法;臭化水素を光学活性1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノールに対して0.8〜1.2当量の範囲で用いる上記の方法;溶媒の非存在下で行う上記の方法;溶媒としてヘプタンを用いる上記の方法;反応温度が10〜15℃である上記の方法が提供される。
【0022】
上記(b)の組み合わせを用いる手法の好ましい態様によれば、反応を溶媒の存在下に行う上記の方法;一般式(I)で表される有機リン化合物がトリフェニルホスフィンである上記の方法;1,2−ジブロモ−1,1,2,2−テトラクロロエタンを光学活性1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノールに対して1.0〜1.2当量の範囲で用いる上記の方法;トリフェニルホスフィンを光学活性1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノールに対して1.0〜1.2当量の範囲で用いる上記の方法;溶媒が芳香族炭化水素類又はハロゲン化炭化水素類である上記の方法;溶媒がトルエン、ジクロロメタン、又は1,2−ジクロロエタンである上記の方法;及び反応温度が0〜30℃である上記の方法が提供される。
【0023】
上記(c)の組み合わせを用いる手法の好ましい態様によれば、反応を溶媒の存在下に行う上記の方法;ジアルキルスルフィドがジメチルスルフィドである上記の方法;N−ブロモコハク酸イミドを光学活性1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノールに対して1.4〜1.6当量の範囲で用いる上記の方法;ジメチルスルフィドを光学活性1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノールに対して1.7〜1.9当量の範囲で用いる上記の方法;溶媒がハロゲン化炭化水素類である上記の方法;溶媒がジクロロメタンである上記の方法;反応温度が0〜30℃である上記の方法が提供される。
【0024】
別の観点からは、本発明により光学活性1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンが提供される。また、本発明により上記の製造方法で得ることができる光学活性1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンが提供される。好ましくは、該光学活性1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンの光学純度は97.0%ee〜99.5%eeである。
【発明の効果】
【0025】
本発明の方法によれば、医薬、農薬、及び工業製品などの製造原料として有用な光学活性1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンを光学活性1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノールから煩雑な操作を伴うことなく原料の光学純度をそのまま保ちつつ一工程で高収率で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の方法は、光学活性1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンの製造方法であって、臭素化剤としてa)ハロゲン化リン及び臭化水素の組み合わせ、b)1,2−ジブロモ−1,1,2,2−テトラクロロエタン及び一般式(I):P(R1)(R2)(R3)(式中、R1、R2、及びR3はそれぞれ独立にC6-10アリール基、C6-10アリールオキシ基、C1-10アルキル基、C1-10アルコキシル基、C3-6シクロアルキル基、又はC3-6シクロアルコキシル基を示す)で表される有機リン化合物の組み合わせ、又はc)N−ブロモコハク酸イミド及びジアルキルスルフィドの組み合わせのいずれかを用いて光学活性1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノールを臭素化する工程を含むことを特徴としている。上記(b)又は(c)の組み合わせによる臭素化剤を用いる場合には、反応を溶媒の存在下で行うことが好ましい。
【0027】
本発明の方法において原料として用いる光学活性1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノールは、ビス−3,5−(トリフルオロメチル)フェニルメチルケトンの不斉還元反応、またはビス−3,5−(トリフルオロメチル)ベンズアルデヒドの不斉メチル化反応などの公知の方法により製造することができ、いずれか一方の鏡像体を高い光学純度で得ることができる。
【0028】
上記(a)の組み合わせを用いる手法について以下詳しく説明する。
ハロゲン化リンとしては三臭化リン、五臭化リン、オキシ臭化リンなどの臭化リンを用いることができるが、臭化リンのほか、三塩化リン、五塩化リン、オキシ塩化リンなどを用いてもよい。2種以上のハロゲン化リンを組み合わせて用いてもよい。これらのうち臭化リンが好ましく、三臭化リンが特に好ましい。臭化水素としては、臭化水素酸のほか、臭化水素の酢酸溶液、例えば30%酢酸溶液などを用いることができる。ハロゲン化リン及び臭化水素の組み合わせとしては三臭化リンと臭化水素の酢酸溶液との組み合わせが好ましい。
【0029】
三臭化リンなどのハロゲン化リンは原料アルコールに対して例えば0.5〜2.0当量の範囲で使用することができるが、好ましくは0.4〜0.6当量を用いるのがよい。臭化水素は原料アルコールに対して例えば0.7〜3.0当量の範囲で使用することができるが、好ましくは0.8〜1.2当量を用いるのがよい。
【0030】
上記反応は溶媒の存在下又は非存在下で行うことができる。溶媒の存在下で反応を行う場合、使用する溶媒の種類は反応に関与しないものであれば特に制限はない。溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン等の芳香族炭化水素類;n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−デカン等の脂肪族炭化水素類;ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム及び四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類等が挙げられる。好ましくは、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタンを用いることができ、n−ヘプタンをより好ましく用いることができる。これらの溶媒は単独又は組み合わせて使用することもでき、溶媒の使用量は特に制限されない。
【0031】
反応温度は特に限定されないが、通常は−50〜150℃の範囲で行えばよく、−20〜80℃がより好ましく、0〜15℃が特に好ましい。反応時間は、通常5分〜48時間が好ましく、30分〜36時間がより好ましく、12〜24時間が特に好ましい。
【0032】
反応終了後、通常の後処理操作を行うことにより、粗生成物を得ることができる。得られた粗生成物は、必要に応じて、活性炭処理、蒸留、カラムクロマトグラフィー等の精製操作を行うことにより、光学活性1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンを高い化学純度及び光学純度で得ることができる。光学活性1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンの光学純度としては、例えば95%ee以上、好ましくは96%ee以上であるが、特に限定されることはない。
【0033】
なお、上記(a)の組み合わせを用いる方法で用いる三臭化リンなどのハロゲン化リン及び臭化水素酸などの臭化水素は一般的な臭素化反応に用いられており、カイニン酸、クエン酸ペントキシベリン、ホスフェストロール、及びメシル酸ベタヒスチン等の製造(第13改正日本薬局方解説書、1996年、廣川書店)にも用いられているように工業的規模での生産にも適した汎用試薬であることから、本発明の方法は工業的な応用に適した方法である。
【0034】
上記(b)の組み合わせを用いる手法について以下詳しく説明する。
一般式(I)で表される有機リン化合物において、C6-10アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アズレニル基等が挙げられる。C6-10アリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基、アズレニルオキシ基等が挙げられる。C1-10アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。C1-10アルコキシル基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、s−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基、ペントキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基等が挙げられる。C3-6シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。C3-6シクロアルコキシル基としては、例えば、シクロプロポキシ基、シクロブトキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0035】
一般式(I)で表される有機リン化合物としては、R1、R2、及びR3がC6-10アリール基であることが好ましく、R1、R2、及びR3がフェニル基である場合、すなわちトリフェニルホスフィンがより好ましい。
【0036】
1,2−ジブロモ−1,1,2,2−テトラクロロエタンは原料アルコールに対して例えば1.0〜3.0当量の範囲で使用することができるが、好ましくは1.0〜1.2当量を用いるのがよい。一般式(I)で表される有機リン化合物、例えばトリフェニルホスフィンは原料アルコールに対して例えば1.0〜3.0当量の範囲で使用することができるが、好ましくは1.0〜1.2当量を用いるのがよい。
【0037】
上記反応は、好ましくは溶媒の存在下で行うことができる。溶媒の存在下で反応を行う場合、使用する溶媒の種類は反応に関与しないものであれば特に制限はない。溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、及びニトロベンゼン等の芳香族炭化水素類;n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、及びn−デカン等の脂肪族炭化水素類;ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、及び四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類等が挙げられる。これらのうち、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、又は1,2−ジクロロエタンが好ましく、トルエン、ジクロロメタン、又は1,2−ジクロロエタンがより好ましい。これらの溶媒は単独又は組み合わせて使用することもでき、溶媒の使用量は特に制限されない。
【0038】
反応温度は特に限定されないが、通常は−50〜150℃の範囲で行えばよく、−20〜80℃がより好ましく、0〜30℃が特に好ましい。反応時間は、通常5分〜48時間が好ましく、30分〜36時間がより好ましく、1〜12時間が特に好ましい。
【0039】
反応終了後、通常の後処理操作を行うことにより、粗生成物を得ることができる。得られた粗生成物は、必要に応じて、活性炭処理、蒸留、カラムクロマトグラフィー等の精製操作を行うことにより、光学活性1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンを高い化学純度及び光学純度で得ることができる。光学活性1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンの光学純度としては、例えば95%ee以上、好ましくは96%ee以上であるが、特に限定されることはない。
【0040】
上記(c)の組み合わせを用いる手法について以下詳しく説明する。
ジアルキルスルフィドにおける2個のアルキル基は同一でも異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。アルキル基としては上記のC1-10アルキル基、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。好ましくは2個のアルキル基としてメチル基を用いることができる。
【0041】
N−ブロモコハク酸イミドは原料アルコールに対して例えば1.0〜3.0当量の範囲で使用することができるが、好ましくは1.0〜1.8当量、より好ましくは1.4〜1.6当量を用いるのがよい。ジアルキルスルフィド、例えばジメチルスルフィドは原料アルコールに対して例えば1.0〜3.0当量の範囲で使用することができるが、好ましくは1.5〜2.0当量、より好ましくは1.7〜1.9当量を用いるのがよい。
【0042】
上記反応は、好ましくは溶媒の存在下で行うことができる。溶媒の存在下で反応を行う場合、使用する溶媒の種類は反応に関与しないものであれば特に制限はない。溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、及びニトロベンゼン等の芳香族炭化水素類;n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、及びn−デカン等の脂肪族炭化水素類;ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、及び四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類等が挙げられる。これらのうち、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、又は1,2−ジクロロエタンが好ましく、トルエン、ジクロロメタン、又は1,2−ジクロロエタンがより好ましい。これらの溶媒は単独又は組み合わせて使用することもでき、溶媒の使用量は特に制限されない。
【0043】
反応温度は特に限定されないが、通常は−50〜150℃の範囲で行えばよく、−20〜80℃がより好ましく、0〜30℃が特に好ましい。反応時間は、通常5分〜48時間が好ましく、30分〜36時間がより好ましく、1〜12時間が特に好ましい。
【0044】
反応終了後、通常の後処理操作を行うことにより、粗生成物を得ることができる。得られた粗生成物は、必要に応じて、活性炭処理、蒸留、カラムクロマトグラフィー等の精製操作を行うことにより、光学活性1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンを高い化学純度及び光学純度で得ることができる。光学活性1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンの光学純度としては、例えば95%ee以上、好ましくは96%ee以上であるが、特に限定されることはない。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0046】
以下の例1に示した1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンの絶対配置は、例1−4及び1−5に示すように、絶対配置既知の市販されているα−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エチルアミンに導き、比旋光度の符号を比較することで決定した。また、所望の1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンの光学純度はキラルHPLC分析(CHIRALPAK(登録商標)AS−RH;移動相:エタノール/水=60/40;流速:0.5mL/min;カラム温度:25℃;検出波長:220nm;保持時間:第一ピーク/(R)21.8min、第二ピーク/(S)26.0min)により決定した。
【0047】
(S)−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノールとしては光学純度99.5%及び98%の(S)−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノールを用い、生成物については光学純度(%ee)のほか、光学純度が維持された相対的割合を示すための数値「転化率(%)」を記載した。転化率(%)=生成物の%ee/原料アルコールの%eeである。
【0048】
例1−1
アルゴン雰囲気下、(S)−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノール(1.0g, 3.87mmol、>99.5%ee)に水浴上、20℃以下で三臭化リン(0.52g,1.94mmol)を滴下し、19〜22℃で30分撹拌した。反応液を冷却し、0℃以下で臭化水素(30%酢酸溶液)(0.76mL,3.87mmol)を滴下し、13〜15℃で18時間撹拌した。反応液を氷水に注加し、n−ヘキサン(15mL×2)で抽出した。有機層を合わせ、飽和重曹水(15mL×1)で洗浄、次いで飽和食塩水(15mL×1)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた粗体をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル8g、展開溶媒:n−ヘキサン)で精製することにより1.06gの(R)−1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンを無色油状物として得た。
収率:85%
キラルHPLC分析:光学純度96.8%ee(第一ピーク)、転化率97.3%
[α]D25 +56.6(c=1.18,CHCl3
1H-NMR (CDCl3):δ 2.08 (3H, d, J = 7.1 Hz), 5.21 (1H, q, J = 7.1 Hz), 7.81 (1H, s), 7.87 (2H, s).
【0049】
例1−2
アルゴン雰囲気下、(R)−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノール(1.0g, 3.87mmol、>99.5%ee)に水浴上、20℃以下で三臭化リン(0.52g,1.94mmol)を滴下し、19〜22℃で30分撹拌した。反応液を冷却し、0℃以下で臭化水素(30%酢酸溶液)(0.76mL,3.87mmol)を滴下し、13〜15℃で18時間撹拌した。反応液を氷水に注加し、n−ヘキサン(15mL×2)で抽出した。有機層を合わせ、飽和重曹水(15mL×1)で洗浄、次いで飽和食塩水(15mL×1)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた粗体をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル8g、展開溶媒:n−ヘキサン)で精製することにより1.13gの(S)−1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンを無色油状物として得た。
収率:91%
キラルHPLC分析:光学純度96.3%ee(第二ピーク)、転化率>96.8%
[α]D25 −55.6(c=1.23,CHCl3
1H-NMRスペクトルは例1−1に示したものと同じであった。
【0050】
例1−3
アルゴン雰囲気下(S)−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノール(1.0g, 3.87mmol、>99.5%ee)のヘプタン懸濁液(2mL)に0〜5℃で三臭化リン(0.52g,1.94mmol)を滴下し、0〜5℃で30分撹拌した。反応液に0〜5℃で臭化水素(30%酢酸溶液)(0.76mL,3.87mmol)を滴下し、10℃で17時間撹拌した。反応液を氷水に注加し、n−ヘキサン(15mL×2)で抽出した。有機層を合わせ、飽和重曹水洗浄(15mL×1)、飽和食塩水洗浄(15mL×1)し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮し得られた粗体をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル8g、展開溶媒:n−ヘキサン)で精製することにより1.12gの(R)−1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンを無色油状物として得た。
収率:90%
キラルHPLC分析:光学純度97.7%ee(第二ピーク)、転化率>98.2%
1H-NMRスペクトルは例1−1に示したものと同じであった。
【0051】
例1−4
例1−1で得られた1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタン(第一ピーク:96.8%ee,102mg, 0.32mmol)のジメチルホルムアミド溶液(1mL)にアジ化ナトリウム(62.0mg,0.95mmol)を加え−18〜−15℃にて3時間撹拌した。反応溶液を酢酸エチル/ヘキサン(1:1)で希釈し、有機層を水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて乾燥後、減圧濃縮することで118.8mgの1−アジド−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンの粗生成物を得た。
1H-NMR (CDCl3):δ 1.61 (3H, d, J = 6.8 Hz), 4.79 (1H, q, J = 6.8 Hz), 7.78 (2H, s), 7.84 (1H, s).
【0052】
例1−5
例1−4で得られた1−アジド−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンの粗生成物にパラジウム−フィブロイン(18mg)とメタノール(6mL)を加え水素で置換し、室温で撹拌した。1時間撹拌後、セライトろ過、濃縮して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=50:1〜5:1)にて精製し、58.9mgのα−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エチルアミンを無色油状物として得た。
収率:74%(2工程)
[α]D25 −15.4(c=1.01,CHCl3
1H-NMR (CDCl3):δ 1.42 (3H, d, J = 6.8 Hz), 1.58 (2H, br-s), 4.30 (1H, q, J = 6.8 Hz), 7.75 (1H, s), 7.85 (2H, s).
標品:(S)−α−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エチルアミン
セントラル硝子社製
Lot.0102000
光学純度:99%ee
[α]D25 −15.9(c=1.15,CHCl3
【0053】
市販されている標品のアミンと比旋光度の符号を比較することにより、例1−5で得られたα−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エチルアミンはS体であることが判明した。すなわち、当該アミンはアジ化物イオンの求核置換反応を経て1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンから得られていることから、例1−1で得られた1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンはR体(キラルHPLC分析:第一ピーク)であることを確認した。
【0054】
例1−1及び1−2と同様にして表1に示す条件で三臭化リンを用いた臭素化反応を行った。単離収率、光学純度(%ee)、及び転化率(生成物の%ee / 原料の%ee)を表1に示す。
【0055】
【表1】
注)DCM:ジクロロメタン、Pyr:ピリジン
【0056】
表1に示された結果から明らかなように、特にNo.1〜3及びNo.22の反応条件において極めて高収率で、かつ高い光学純度を保ったまま目的物を得ることができた。
【0057】
以下の例2に示した1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンの絶対配置は、例2−5及び2−6に示すように、絶対配置既知の市販されているα−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エチルアミンに導き、比旋光度の符号を比較することで決定した。また、所望の1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンの光学純度はキラルHPLC分析(CHIRALPAK(登録商標)AS−RH;移動相:エタノール/水=60/40;流速:0.5mL/min;カラム温度:25℃;検出波長:220nm;保持時間:第一ピーク/(R)21.8min、第二ピーク/(S)26.0min)により決定した。
【0058】
(S)−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノールとしては光学純度99.5%及び98%の(S)−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノールを用い、生成物については光学純度(%ee)のほか、光学純度が維持された相対的割合を示すための数値「転化率(%)」を記載した。転化率(%)=生成物の%ee/原料アルコールの%eeである。
【0059】
例2−1
アルゴン雰囲気下、1,2−ジブロモ−1,1,2,2−テトラクロロエタン(7.57g,23.2mmol)をトルエン(12.5mL)に溶解し、0℃にてトリフェニルホスフィン(6.1g,23.2mmol)を加え30分間撹拌した。(S)−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノール(5.0g,19.4mmol, >99.5%ee)のトルエン溶液(12.5mL)を0℃で10分以上かけて滴下した後、室温まで昇温し、同温にて1時間撹拌した。反応液にn−ヘキサン(25mL)を加え、セライトろ過した。ろ液を水、飽和重曹水、飽和食塩水で順次洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧留去した。得られた残渣を減圧蒸留(56oC,0.7mmHg)することで、5.52gの(R)−1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンを無色油状物として得た。
収率:89%
キラルHPLC分析:光学純度>99.5%ee(第一ピーク),転化率>99.5%
[α]D25 +59.1(c=1.03,CHCl3
1H-NMR (CDCl3):δ 2.08 (3H, d, J = 7.1 Hz), 5.21 (1H, q, J = 7.1 Hz), 7.81 (1H, s), 7.87 (2H, s).
【0060】
例2−2
アルゴン雰囲気下、1,2−ジブロモ−1,1,2,2−テトラクロロエタン(7.57g,23.2mmol)をトルエン(12.5mL)に溶解し、0℃にてトリフェニルホスフィン(6.1g,23.2mmol)を加え30分間撹拌した。(R)−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノール(5.0g,19.4mmol,>99.5%ee)のトルエン溶液(12.5mL)を0℃で10分以上かけて滴下した後、室温まで昇温し、同温にて1時間撹拌した。反応液にn−ヘキサン(25mL)を加え、セライトろ過した。ろ液を水、飽和重曹水、飽和食塩水で順次洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧留去した。得られた残渣を減圧蒸留(56oC,0.7mmHg)することで、5.45gの(S)−1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンを無色油状物として得た。
収率:88%
キラルHPLC分析:光学純度99.0%ee(第二ピーク),転化率>99.5%
1H-NMRスペクトルは例2−1に示したものと同じであった。
【0061】
例2−3
アルゴン雰囲気下、N-ブロモコハク酸イミド(206mg,1.16mmol)の無水ジクロロメタン(3.8mL)懸濁液に、氷冷下にてジメチルスルフィド(105μL,1.40mmoL)を3分間かけて滴下した。−20℃にて、(S)−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノール(200mg,0.78mmol、>99.5%ee)の無水ジクロロメタン(2mL)溶液を滴下し、室温にて9時間攪拌した。反応液にn−ヘキサンを加え、有機層を水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて乾燥後、減圧濃縮し得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n−ヘキサン)で精製し、144 mgの(R)−1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンを無色油状物として得た。
収率:58%
キラルHPLC分析:光学純度>99.5%ee(第一ピーク),転化率>99.5%
1H-NMRスペクトルは例2−1に示したものと同じであった。
【0062】
例2−4
アルゴン雰囲気下、N-ブロモコハク酸イミド(103mg,0.58mmol)の無水ジクロロメタン(2.0mL)懸濁液に、氷冷下にてジメチルスルフィド(53μL,0.70mmoL)を3分間かけて滴下した。−20℃にて、(R)−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノール(100mg,0.39mmol、>99.5%ee)の無水ジクロロメタン(1mL)溶液を滴下し、室温にて6時間攪拌した。反応液にn−ヘキサンを加え、有機層を水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて乾燥後、減圧濃縮し得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n−ヘキサン)で精製し、82mgの(S)−1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンを無色油状物として得た。
収率:66%
キラルHPLC分析:光学純度>99.5%ee(第二ピーク),転化率>99.5%
1H-NMRスペクトルは例2−1に示したものと同じであった。
【0063】
例2−5
例2−1で得られた1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタン(第一ピーク:>99.5%ee,106mg, 0.33mmol)のジメチルホルムアミド溶液(1mL)にアジ化ナトリウム(64.4mg,0.99mmol)を加え−18〜−15℃にて4時間撹拌した。反応溶液を酢酸エチル/ヘキサン(1:1)で希釈し、有機層を水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて乾燥後、減圧濃縮することで111.5mgの1−アジド−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンの粗生成物を得た。
1H-NMR (CDCl3):δ 1.61 (3H, d, J = 6.8 Hz), 4.79 (1H, q, J = 6.8 Hz), 7.78 (2H, s), 7.84 (1H, s).
【0064】
例2−6
例2−5で得られた1−アジド−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンの粗生成物にパラジウム−フィブロイン(18mg)とメタノール(6mL)を加え水素で置換し、室温で撹拌した。1時間撹拌後、セライトろ過、濃縮して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=50:1〜5:1)にて精製し、77.6mgのα−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エチルアミンを無色油状物として得た。
収率:91%(2工程)
[α]D25 −15.9(c=1.31,CHCl3
1H-NMR (CDCl3):δ 1.42 (3H, d, J = 6.8 Hz), 1.58 (2H, br-s), 4.30 (1H, q, J = 6.8 Hz), 7.75 (1H, s), 7.85 (2H, s).
標品:(S)−α−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エチルアミン
セントラル硝子社製
Lot.0102000
光学純度:99%
[α]D25 −15.9(c=1.15,CHCl3
【0065】
市販されている標品のアミンと比旋光度の符号を比較することにより、例2−6で得られたα−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エチルアミンはS体であることが判明した。すなわち、当該アミンはアジ化物イオンの求核置換反応を経て1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンから得られていることから、例2−1で得られた1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンはR体(キラルHPLC分析:第一ピーク)であることを確認した。
【0066】
例2−1及び2−2と同様にして、表2に示す条件で臭素化条件で反応を行った。単離収率、光学純度(%ee)、及び転化率(生成物の%ee / 原料の%ee)を表2に示す。
【0067】
【表2-1】
【表2-2】
注)DCM:ジクロロメタン、1,2-DCE:1,2-ジクロロエタン、NBS:N-ブロモコハク酸イミド、THF:テトラヒドロフラン、DMF:N,N-ジメチルホルムアミド、TMSCl:塩化トリメチルシリル、PyHBr3:ピリジニウムトリブロミド、HMDS:1,1,1,2,2,2-ヘキサメチルジシラン、DEAD:ジエチルアゾジカルボキシレート
【0068】
表2に示された結果から明らかなように、特にNo.1〜4の反応条件において極めて高収率で、かつ高い光学純度を保ったまま目的物を得ることができた。
【0069】
例3(比較例)
日本国特許第3938651号を参考に、(R)−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノール(光学純度>99.5%ee, 1.6g, 6.20mmol)のジクロロメタン(20mL)溶液に氷冷攪拌下、塩化メタンスルホニル(0.58mL,7.44mmol)、トリエチルアミン(1.30mL,9.3mmol)、ジメチルアミノピリジン(76mg,0.62mmol)を加え、同温にて30分間攪拌した。反応液に同温にて1N塩酸とクロロホルムを加え有機層を分取した。水層をクロロホルム(20mL×3)で抽出し、有機層を合わせ飽和食塩水にて洗浄後、無水硫酸ナトリウムにて乾燥し、減圧濃縮し、無色油状物として(R)−メタンスルホン酸 1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エチルエステル(2.23g)を得た。次に得られた(R)−メタンスルホン酸 1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エチル エステル(2.23 g)のN,N−ジメチルホルムアミド(20mL)溶液に臭化ナトリウム(1.26g,12.25mmoL)を加え、50℃にて1時間攪拌した。反応液に室温にて水(30mL)を加え、ヘキサン(30mL×3)で抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて乾燥後、減圧濃縮して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=10:1)にて精製し、1.85gの1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンを無色油状物として得た。比旋光度より、得られた1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンがラセミ化していることを確認した。
収率:93 %(2工程)
[α]D25 −0.19(c=1.01,CHCl3
1H-NMRスペクトルは例1−1に示したものと同じであった。
【0070】
例4(比較例)
(R)−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタノール(光学純度>99.5%ee,100mg,0.39mmol)の脱水ジエチルエーテル(1.0mL)溶液にアルゴン雰囲気下、脱水ピリジン(69.4mg,0.89mmol)を加えた。−15〜−20℃にて三臭化リン(117.2mg, 0.43mmol)の脱水ジエチルエーテル(0.5mL)溶液をゆっくり滴下し、同温にて2時間攪拌した後、−5℃で48時間静置させた後、氷冷下、反応液に冷却水 (3mL)を加え室温で15分攪拌した後、ジエチルエーテル (10mL)で抽出した。有機層を減圧濃縮し得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル3.0g, 展開溶媒:n−ヘキサン)で精製し、17.6 mgの1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンを無色油状物として得た。
収率:14%
1H-NMRスペクトルは例1−1に示したものと同じであった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の方法は、医薬、農薬、及び工業製品などの製造原料として有用な光学活性1−ブロモ−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エタンを工業的に応用可能な条件で効率的かつ高収率に製造することができる。