(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の高圧ゲートでは、止水ゴムが全閉時の止水を良好に行うことができる。また、特許文献2に記載の高圧ゲートでは、止水ゴムの背面に圧力水を入れることによって、止水効率を向上しうる。
【0007】
ここで、高圧ゲートには、止水機能を担う主ゲート(
図1の符号7参照)と、主ゲートの上流側に設けられる修理用ゲート(副ゲート;
図1の符号9参照)とがある。副ゲートは、主ゲートを修理等する際、放水路に水が浸入しないように閉鎖するためのゲートであり、主ゲートの修理後には主ゲートを閉鎖しつつ、充水管(
図1の符号10参照)の充水バルブ(
図1の符号6参照)を開けることで、ダム湖から放水路内に水を補充する。この状態では扉体の前後両側から水圧がかかるので、副ゲートを開く際に扉体の前後に大きな圧力差が生じない。このため、副ゲートの開閉に要する力は比較的小さくなっている。
【0008】
一方、主ゲートは、通常副ゲートを開放した状態で開閉するので、主ゲートの閉鎖時には扉体の上流側のみに水が存在することになり、主ゲートの扉体には副ゲートの扉体に比べて非常に大きな水圧がかかる。このため、高圧ゲートを主ゲートとして用いる際には、水漏れを防ぐために止水ゴムをスキンプレートに圧着させた状態で扉体を上下させる必要があり、扉体の開閉に多大な力を要することになる。
【0009】
従って、特許文献1、2に記載の高圧ゲートを主ゲートとして用いる場合も、止水ゴムとスキンプレートとの摩擦力が大きくなり過ぎて、高圧ゲートを閉鎖状態から開放状態にする際に大きな力を要することになり、さらなる摩擦力の低減が求められる。しかし、単に止水ゴムとスキンプレートとの摩擦力を低減するだけでは、ゲート閉鎖時の水漏れが生じやすくなると考えられるので、実用化が可能な形で課題を解決するのは容易ではない。
【0010】
本発明は、上記の課題に鑑み、確実な止水と扉体の開閉に要する力の低減とを両立させることが可能な高圧ゲートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態に係る高圧ゲートは、ダム本体に設けられた放水路に設置され、主ゲートとして用いられる高圧ゲートであって、前記放水路内又は前記放水路の下流側開口端に配置された戸当りと、前記戸当りに当接して前記放水路を閉塞させるとともに、前記戸当りから移動して前記放水路を開放可能な扉体と、前記戸当り側又は前記扉体側に設置され、前記放水路の閉塞時に前記扉体又は前記戸当りと当接する低摩擦ゴムとを備えている。さらに、前記低摩擦ゴムは、一側方で前記戸当り又は前記扉体に固定された凸状部を有する水密ゴムと、少なくとも前記水密ゴムの前記凸状部上に設けられた超高分子量ポリエチレン膜とを有している。
【0012】
前記超高分子量ポリエチレン膜の膜厚は、0.1mm以上1.0mm以下であってもよい。
【0013】
前記超高分子量ポリエチレン膜の膜厚は、0.25mmを超えていてもよい。
【0014】
前記低摩擦ゴムにおける、前記扉体又は前記戸当りとの当接部分の曲率半径は、15mm以下であってもよい。
【0015】
上述の高圧ゲートは、高圧ラジアルゲートであってもよいし、高圧ローラーゲートであってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一実施形態に係る高圧ゲートによれば、超高分子量ポリエチレン膜を有する低摩擦ゴムが設けられていることにより、低摩擦ゴムと扉体又は戸当りとの摩擦力を大幅に低減することができるので、扉体の開閉に要するエネルギーを大幅に低減することができ、開閉装置を小型化することもできる。さらに、水密ゴムの凸状部が一側方で戸当り又は扉体に固定されていることで、凸状部が幾分変位可能であり、凸状部の両側方が固定されている場合に比べて水密性を向上させることができる。このように、本発明の一実施形態に係る高圧ゲートによれば、確実な止水と開閉に要する力の低減とがバランス良く実現されうる。
【0017】
また、超高分子量ポリエチレン膜の膜厚が、0.1mm以上1.0mm以下であれば、超高分子量ポリエチレン膜が実用上十分な耐久性を有するようになり、超高分子量ポリエチレン膜が破損してゲート開閉時に要する力が急激に上昇するおそれを低減することが可能となる。また、超高分子量ポリエチレン膜を剥離しにくくすることもできる。
【0018】
また、超高分子量ポリエチレン膜の膜厚が0.25mmよりも大きければ、低摩擦ゴムを製造する際の運搬時、あるいは扉体の開閉時に超高分子量ポリエチレン膜に皺が入りにくくなるので、水密性の低下を効果的に防ぐことができる。
【0019】
また、低摩擦ゴムにおける、扉体又は戸当りとの当接部分の曲率半径が15mm以下であることにより、当該当接部分での低摩擦ゴムのシール圧を十分に高めることができるので、好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の各実施形態に係る高圧ゲートは、ダム本体に設けられた放水路内又は放水路の下流側開口端に配置され、主ゲートとして用いられる。高圧ゲートの種類としては、例えばラジアルゲートやローラーゲートが挙げられるが、これらに限定されない。以下、各実施形態に係る高圧ゲートについて説明する。
【0022】
(第1の実施形態)
−高圧ゲートの構成−
図1(a)は、本発明の第1の実施形態に係る高圧ゲートを備えたダムの構造を示す断面図であり、(b)は、当該ダムの正面図である。
図1(a)は、放水路5を通る縦方向断面を示しているが、同図では非常用放水路4の図示は省略されている。
【0023】
図1(a)、(b)に示すように、水3を堰き止めるダム本体1の下部には、上流側のダム湖から下流側へと貫通する放水路5が設けられ、ダム本体1の上部には、非常用放水路4が設けられている。放水路5は1本であってもよいが、複数本設けられていてもよい。また、ダム本体1には、ダム湖から放水路5の内部へと通じる充水管10と、充水管10の経路上に配置された充水バルブ6とが設けられている。充水管10は、上述のように、主ゲートの修理後、放水路5内に水3を導入するために設けられている。従って、平常時には、充水バルブ6が閉じられている。
【0024】
放水路5においては、主ゲートとして、例えば高圧ラジアルゲート7が設けられるとともに、高圧ラジアルゲート7よりも上流側に、修理用ゲート(副ゲート)として、一般的な形状の高圧ローラーゲート9が設けられている。高圧ラジアルゲート7は、トラニオンピン21aを回転軸として回転移動できるように設置されている。放水路5において、高圧ラジアルゲート7が設置された部分の上方には、放水路5を開放状態にする際に扉体を退避させるための空間11が形成されている。
【0025】
図2は、第1の実施形態に係る高圧ラジアルゲートにおける戸当りの構成を示す斜視図であって、
図1(a)に示す部分Aを拡大した図であり、
図3は、第1の実施形態に係る高圧ラジアルゲートにおける扉体の構成を示す斜視図である。また、
図4は、第1の実施形態に係る高圧ラジアルゲートにおける扉体の構成を示す斜視図であり、
図3とは異なる方向から見た図である。
【0026】
図2〜
図4に示すように、本実施形態に係る高圧ラジアルゲート7は、放水路5内に配置された戸当り15と、戸当り15に当接して放水路5を閉塞させるとともに、戸当り15から上方の空間11へと回転移動して放水路5を開放可能となっている扉体8とを有している。
【0027】
扉体8は、回転軸となるトラニオンピン21aと、トラニオンピン21aが通されたトラニオンハブ21bと、弧状の縦方向断面を有するスキンプレート(プレート部材)31と、トラニオンピン21a及びトラニオンハブ21bとスキンプレート31とを接続する脚部23とを有している。ここでの縦方向とは、通水方向に対して平行な上下方向を意味する。
【0028】
図3に示す例では、2つのトラニオンハブ21bのそれぞれから上下2本の脚部23が延びている。また、トラニオンピン21aは、閉鎖時に水を受け止めるスキンプレート31よりも下流側に固定されている。スキンプレート31は、一般構造用鋼材、例えばステンレス鋼等の金属等で構成されている。スキンプレート31の上下の辺の長さは5m〜10m程度であり、左右の辺の長さは5m〜10m程度である。脚部23の長さは5m〜 10m程度である。
【0029】
扉体8はさらに、脚部23を補強する横主桁25と、横主桁25に支持されるとともに、スキンプレート31を裏側から支える複数の縦補助桁29と、上部桁33と、下部桁35と、複数の縦補助桁29のうち両側端に位置する縦補助桁29の側面に設置されたサイドローラ27とを有していてもよい。また、
図4に示すように、扉体8の円弧状部分(例えば上部桁33)には、油圧シリンダー41等の開閉装置が接続されている。
【0030】
戸当り15が設けられた放水路5の開口部(放水路5内で幅が広くなる部分での境界部分)は、扉体8の円弧面に合致した形状を有しており、戸当り15と扉体8とは、後述する低摩擦ゴム13を間に挟んで当接可能となっている。例えば、ダム本体1のうち、当該開口部を囲む部分にそれぞれ設置された、上部戸当り部材22、下部戸当り部材20、及び左右一対の側部戸当り部材18とを有している。
図2では一方の側部戸当り部材18のうち、下流側から見て右側の側部戸当り部材18のみを示しているが、開口部の左側にも右側の側部戸当り部材18と対称な形状の側部戸当り部材18が設けられている。下部戸当り部材20及び一対の側部戸当り部材18の内部には、必要に応じて空間(エアボックス17)が形成されていてもよい。
【0031】
なお、ここでは、上流側から見た放水路5の形状が四辺形である例を示しているが、放水路5の形状はこれに限られず、戸当り部材の形状も開口部の形状に応じて適宜変更可能である。放水路5の大きさはダムの設計によって任意に変更可能であるが、例えば上流側開口部が四辺形の場合、一辺は3.0m〜6.0m程度である。
【0032】
図5は、本実施形態の高圧ゲートにおける低摩擦ゴムの形状を示す断面図である。同図は、水密ゴムの厚み方向断面を示している。
【0033】
本実施形態の高圧ラジアルゲート7において、戸当り15側又は扉体8側には、放水路5の閉塞時に扉体8又は戸当り15と当接する低摩擦ゴム13が設けられている。低摩擦ゴム13は、凸状部14を有する水密ゴム12と、少なくとも凸状部14上に設けられた超高分子量ポリエチレン膜45とを有している。
【0034】
超高分子量ポリエチレン膜45は、例えば加硫接着等の方法により凸状部14の上面上に接着されている。超高分子量ポリエチレン膜45は、扉体8の閉鎖時に扉体8(具体的にはスキンプレート31)及び戸当り15のいずれか一方に当接する。
【0035】
図2及び
図5に示す例では、低摩擦ゴム13は、戸当り15側、すなわちダム本体1のうち開口部の周辺部分上、あるいは上部戸当り部材22上又は下部戸当り部材20上に設けられている。水密ゴム12は、例えば天然ゴム等で構成されている。ここで、低摩擦ゴム13は、上部低摩擦ゴム13a、下部低摩擦ゴム13c、及び一対の側部低摩擦ゴム13bが一体として設けられ、額縁状の平面形状を有している。この場合、低摩擦ゴム13のうちの超高分子量ポリエチレン膜45の平面形状も額縁状となる。なお、超高分子量ポリエチレン膜45は凸状部14の上面全体を覆っていなくてもよく、例えば、凸状部14の稜線が延びる方向に互いに所定の間隔を空けて複数の超高分子量ポリエチレン膜45が設けられていてもよい。
【0036】
また、扉体8が閉鎖された状態、すなわち扉体8と戸当り15とが完全に当接した状態において、低摩擦ゴム13が全体として放水路5を囲むように(四方水密状態を確保できるように)配置されていれば、低摩擦ゴム13の各部分は別個に設けられていてもよい。例えば、上部低摩擦ゴム13a、側部低摩擦ゴム13b及び下部低摩擦ゴム13cが扉体8側に設けられていてもよい。あるいは、下部低摩擦ゴム13cが戸当り15側に設けられ、上部低摩擦ゴム13a及び側部低摩擦ゴム13bが扉体8側に設けられていてもよい。
【0037】
低摩擦ゴム13は、いわゆる「P型ゴム」である。低摩擦ゴム13における水密ゴム12は、一側方で戸当り15に固定された凸状部14を有している。つまり、凸状部14は、凸状部14から一側方に延びた固定部16がボルト等の固定部材19によって固定されることによって、戸当り15上に固定されている。この凸状部14の頂部は曲面になっており、低摩擦ゴム13の幅方向(短手方向)及び厚み方向に平行な方向での当該頂部の断面の曲率半径は、扉体8と当接していない状態において15mm以下であることが好ましい。凸状部14の頂部の曲率半径が12mm以下であると、さらに水密性が向上するのでより好ましい。なお、固定部16の厚みは例えば25mm程度である。
【0038】
また、超高分子量ポリエチレン膜45は、0.1mm以上1mm以下の膜厚を有していることが好ましい。超高分子量ポリエチレン膜45の膜厚が0.1mm未満であると扉体8を摺動させた時に砂等によって破損しやすくなり、超高分子量ポリエチレン膜45の膜厚が1mmを超えると超高分子量ポリエチレン膜45が水密ゴム12から剥離しやすくなる。
【0039】
さらに、超高分子量ポリエチレン膜45の膜厚が、0.25mmより大きければより好ましい。これにより、扉体8を摺動させた時に超高分子量ポリエチレン膜45に皺が入りにくくなり、ひいては超高分子量ポリエチレン膜45をより破損しにくくすることができる。
【0040】
以上の構成を有する高圧ラジアルゲート7では、油圧シリンダー41によって扉体8のスキンプレート31側が上方又は下方に回転移動させることで、貯水量や天候に応じて放水路5を閉鎖又は開放し、放流量を調節することもできる。
【0041】
−高圧ゲートの効果−
本実施形態の高圧ラジアルゲート7によれば、放水路5の閉鎖時に低摩擦ゴム13が放水路5を囲む四方水密構造をとるので、三方水密構造を有する河川用のラジアルゲートに比べてより高い水密性を確保することができる。低摩擦ゴム13が額縁状であれば、低摩擦ゴム13(特に水密ゴム)の各部分に切れ目がないので、より高い水密性を確保することができる。
【0042】
本実施形態の高圧ラジアルゲート7では、水密ゴム12の凸状部14上に超高分子量ポリエチレン膜45が設けられている。超高分子量ポリエチレン膜45は、耐摩耗性に優れ、自己潤滑性を有しているので、低摩擦ゴム13の扉体8との当接面に超高分子量ポリエチレン膜45が設けられていることにより、扉体8を摺動させる際の摩擦力を大幅に低減することができる。そのため、本実施形態の高圧ラジアルゲート7では、扉体8の開閉装置を小型化することができ、省エネルギー化を図ることもできる。
【0043】
スキンプレート31がステンレス鋼板で構成されている場合、天然ゴム製の水密ゴムとスキンプレート31とのすべり摩擦係数が、濡れた状態で0.7であるのに対し、本実施形態の低摩擦ゴム13とスキンプレート31とのすべり摩擦係数は、濡れた状態で0.1程度まで低下する。また、本願発明者らが独自に行った試験結果により、扉体8に加わる水圧が大きくなるほど低摩擦ゴム13とスキンプレート31とのすべり摩擦係数が小さくなることが分かっている。
【0044】
超高分子量ポリエチレン膜45を使用した場合には、上述の効果が得られるが、高圧ゲートの扉体8には河川ゲートやダムの上部に設置されるラジアルゲートに比べて非常に大きな圧力が加わるので、摩擦力の低下により水漏れが生じるおそれが出てくる。また、水密ゴム12に加わる圧力も大きくなるため、扉体8を開閉する際、超高分子量ポリエチレン膜45に皺が寄ったり、傷が入りやすくなったりして長期信頼性が低下するおそれが出てくる。このため、従来高圧ゲートに超高分子量ポリエチレン膜が用いられる例はほとんどなかった。さらに、ラジアルゲートのスキンプレート31は断面が円弧となる曲面であるので、これに対応した形状の水密ゴム上に、皺やたわみを発生させずに超高分子量ポリエチレン膜を貼り付けるのは難しい。
【0045】
しかしながら、本実施形態の高圧ラジアルゲート7では、水密ゴム12上に膜厚が0.1mm以上1mm以下の超高分子量ポリエチレン膜45が設けられているので、超高分子量ポリエチレン膜45が少なくとも実際の使用に耐えるだけの耐久性を有し、超高分子量ポリエチレン膜45が破損してゲート開閉時に要する力が急激に上昇するおそれを低減することが可能となっている。
【0046】
なお、超高分子量ポリエチレン膜45が薄い場合、低摩擦ゴム13の製造前における超高分子量ポリエチレン膜45の搬送中、あるいは高圧ラジアルゲート7の設置後における扉体8の開閉時、コーナー部分に微細な皺が入りやすい。超高分子量ポリエチレン膜45に皺が入ると、低摩擦ゴム13の水密性が低下する可能性がある。
【0047】
これに対し、超高分子量ポリエチレン膜45の膜厚を0.25mmよりも大きくすることで、皺等を生じさせることなく水密ゴム12上に超高分子量ポリエチレン膜45を設けることができるとともに、ゲート開閉時に超高分子量ポリエチレン膜45に皺が寄るのを効果的に抑えることができる。このため、低摩擦ゴム13の水密性をより向上させることができる。
【0048】
さらに、この構成によれば、超高分子量ポリエチレン膜45に十分な強度を持たせることができるので、超高分子量ポリエチレン膜45の破損をより確実に防ぐことができ、高圧ラジアルゲート7の長期的な信頼性を向上させることができる。
【0049】
また、低摩擦ゴム13における扉体8又は戸当り15との当接部分(及び凸状部14)の曲率半径が15mm以下となっている。同じ圧力で扉体8を押し付けた場合、当接部分の曲率半径が小さい方が当接部分の面積を小さくすることができるので、シール圧を高めることができる。従って、上記構成によれば、当接部分の曲率半径が15mmより大きい場合に比べて当該当接部分におけるシール圧を大きくすることができる。このため、本実施形態の高圧ラジアルゲート7によれば、高い水圧下でも水漏れを生じることなくゲートの閉鎖を行うことが可能となる。
【0050】
また、低摩擦ゴム13における扉体8又は戸当り15との当接部分(及び凸状部14)の曲率半径を12mm以下とすることにより、さらに水密性を向上させることができるので、超高分子量ポリエチレン膜45を設けて扉体8を開閉する際の摩擦力を低減した場合であっても放水路5の閉鎖時の水漏れを効果的に抑えることが可能となる。
【0051】
また、本実施形態の高圧ラジアルゲート7では、低摩擦ゴム13の各部(上部低摩擦ゴム13a、側部低摩擦ゴム13b及び下部低摩擦ゴム13c)が凸状部14の一側方のみで固定されているので、凸状部14は幾分か変位可能である。そのため、この構成によれば、低摩擦ゴム13が凸状部14の両側方で固定されている場合に比べて水密性を向上させることができる。
【0052】
以上の構成を有することで、本実施形態の高圧ラジアルゲート7では、放水路5の閉鎖時には高い水密性を保持しつつ、扉体8の移動に必要なエネルギーを低減し、開閉装置の小型化を図ることも可能となる。
【0053】
なお、多少水密性が低下しても放水路5の閉鎖時に水漏れがしない場合等には、凸状部14の両側方で戸当たり15又は扉体8(スキンプレート31)上に固定された、いわゆるケーソンタイプの水密ゴムを用いてもよい。
【0054】
−低摩擦ゴムの試験−
以下では、本願発明者らが行った低摩擦ゴムについての効果確認試験について説明する。
【0055】
<摩擦係数の比較試験>
本願発明者らは、実際の高圧ゲートでの使用条件を再現できる試験装置を用いて、水の存在下、被検体ゴムと扉体とを当接させた状態で扉体を摺動させ、扉体の摺動に要する力(すなわち、扉体の開閉力)を測定した。また、測定された開閉力から、被検体ゴムと扉体との間のすべり摩擦係数を算出した。初期押付量(初期状態における被検体ゴムの厚み方向変形量)は2mmとした。
【0056】
被検体ゴムとしては、
図5に示す本実施形態の低摩擦ゴム13と、低摩擦ゴム13と同じ形状で、超高分子量ポリエチレン膜45が設けられていない水密ゴムとを用いてそれぞれ測定を行った。なお、低摩擦ゴム13において、超高分子量ポリエチレン膜45の膜厚は0.25mmとし、凸状部14の曲率半径は18mmとした。ここで用いられる低摩擦ゴム13と水密ゴムとは、以後の試験でも共通に用いられた。
【0057】
図6は、本試験の結果を示す図である。同図に示すように、低摩擦ゴム13を用いた場合には、水密ゴムを用いた場合に比べ、水圧が0(N/mm
2)の条件ですべり摩擦係数が約1/5、水圧が1(N/mm
2)の条件では約1/6〜1/5程度になることが確認できた。1(N/mm
2)の水圧は、水深100mでの水圧に相当することから、実際の高圧ゲートにおいても低摩擦ゴムを用いることで、扉体の開閉時に要する力を大幅に低減できるものと考えられる。
【0058】
なお、水圧が0(N/mm
2)の条件での水密ゴムと扉体との間のすべり摩擦係数は「ダム・堰施設技術基準」に記載された値(0.7)とほぼ一致していた。
【0059】
<扉体摺動試験>
「摩擦係数の比較試験」で用いられた試験装置を用い、扉体と被検体ゴム(低摩擦ゴム13又は水密ゴム)とを当接させた状態で、扉体を水平方向に移動させた。ただし、水圧を1.0(N/mm
2)とした。扉体を摺動させる際、扉体のリップ部(扉体端部の傾いた部分)94に当接する低摩擦ゴム及び水密ゴムをそれぞれ写真撮影して両ゴムの変形挙動を確認した。
【0060】
図7(a)は、被検体ゴムとして水密ゴムを用いた場合のリップ部94付近を示す写真図であり、(b)は、被検体ゴムとして低摩擦ゴム13を用いた場合のリップ部94を示す写真図である。
【0061】
図7(a)に示すように、水密ゴムを単独で用いた場合、リップ部94を通過する際に水密ゴムに多数の皺90が入ることが確認できた。これに対し、
図7(b)に示すように、低摩擦ゴム13を用いた場合には、目立った皺は確認されなかった。水密ゴムに皺が入ると水密性が低下する恐れがあるが、低摩擦ゴム13を用いれば、扉体との間のすべり摩擦係数を大幅に低減できるだけでなく、皺の発生による水密性の低下が抑えられるものと考えられた。
【0062】
なお、ここで用いられた低摩擦ゴム13における超高分子量ポリエチレン膜45の膜厚は0.25mmであるが、超高分子量ポリエチレン膜45の膜厚を0.25mmより厚くすることで、低摩擦ゴム13に微細な皺が入るのをより確実に防ぐことができると考えられる。
【0063】
<水密性試験>
上述の試験装置を用いて、水密板上に設けられた被検体ゴムを扉体に当接させた状態で、被検体ゴムによる止水状況を確認した。被検体ゴムの押付量を2mm、5mm、7mm、10mmとし、それぞれの場合で水圧を0(N/mm
2)から1(N/mm
2)まで変化させて試験を行った。
【0064】
この結果、水密ゴムを用いた場合、押付量を2mm、5mm、7mm、10mmのいずれにしても、0(N/mm
2)〜1(N/mm
2)の範囲で水漏れは見られなかった。これに対し、低摩擦ゴム13を用いた場合は、押付量を2mm、5mm、7mm、10mmのいずれにしても、水圧が0(N/mm
2)〜0.1(N/mm
2)の範囲で少量の水がにじみ出た。ただし、押付量を大きくするのに従って、にじみ出る水の量は少なくなった。漏水は主に低摩擦ゴム13のコーナー部で生じることが確認された。
【0065】
低摩擦ゴム13は、超高分子量ポリエチレン膜45を表面に有することで、扉体との間の摩擦係数を大幅に低減できる反面、その水密性が若干低下していると考えられる。このため、凸状部14の頂部の曲率半径を15mm以下にすることで、低摩擦ゴム13の全周にわたって漏水を大幅に低減することができた。さらに、凸状部14の頂部の曲率半径を12mm以下にすることで、全周にわたる漏水を解消することができた。
【0066】
図8(a)は、超高分子量ポリエチレン膜45の膜厚を0.25mmとした場合の低摩擦ゴム13のコーナー部を示す写真図であり、(b)は、超高分子量ポリエチレン膜45の膜厚を0.5mmとした場合の低摩擦ゴム13のコーナー部を示す写真図である。
【0067】
図8(a)に示すように、本試験で用いられた低摩擦ゴム13のコーナー部において、超高分子量ポリエチレン膜45には、幅方向(コーナー部の内側から外側に向かう方向)に延びる微細な皺48が見られた。このことから、この皺48がコーナー部における水密性を低下させたものと推定された。
【0068】
そこで、本願発明者らが超高分子量ポリエチレン膜45の膜厚を0.5mmにしたところ、
図8(b)に示すように、低摩擦ゴム13のコーナー部に皺は生じなかった。この結果から、低摩擦ゴム13における超高分子量ポリエチレン膜45の膜厚を0.25mmより大きくすることで、コーナー部での皺の発生を抑え、水漏れの発生をより確実に抑えることができると考えられた。
【0069】
<圧縮移動試験>
扉体の開閉を繰り返した場合の、超高分子量ポリエチレン膜の摩耗状況を調べる目的で、低摩擦ゴム13を圧縮した状態でスキンプレートを摺動させる試験を行った。本試験では、圧縮移動試験機を用い、
図5に示す形状の低摩擦ゴム13に対し、想定される水流方向に対して水平方向及び直角方向にそれぞれスキンプレートを摺動させ、試験前後での超高分子量ポリエチレン膜45の膜厚変化を調べた。スキンプレートの合計摺動回数は、10年間の実使用に相当する25000回とした。また、超高分子量ポリエチレン膜45の膜厚は0.25mmとした。
【0070】
この結果、圧縮移動試験後での超高分子量ポリエチレン膜45の膜厚減少量は膜厚全体の約1.6%程度であり、摺動による超高分子量ポリエチレン膜45の摩耗量は微小であることが確認された。このことから、低摩擦ゴム13は、十分な耐久性を有していることが分かる。
【0071】
−第1の実施形態の変形例−
図9は、第1の実施形態の変形例に係る高圧ラジアルゲートを備えたダムの構造を示す断面図である。同図に示す高圧ラジアルゲート61は、引張りラジアルゲートであり、扉体62の回転軸となるトラニオンピン21aが、放水路5内において、スキンプレート64よりも上流側に固定されている。
図1に示す第1の実施形態の高圧ラジアルゲート7では、放水路5の閉鎖時に扉体8(具体的にはスキンプレート31)の円弧面が上流側に向いているが、本変形例に係る高圧ラジアルゲート61では、扉体62(具体的にはスキンプレート64)の円弧面が下流側に向いている。
【0072】
本変形例に係る高圧ラジアルゲート61では、第1の実施形態の高圧ラジアルゲート7と同様に、放水路5の閉鎖時に四方水密構造をとる低摩擦ゴム(図示せず)が設けられ、低摩擦ゴムの戸当りとの当接面、及び低摩擦ゴムの扉体62(具体的にはスキンプレート64)との当接面のいずれか一方には、超高分子量ポリエチレン膜が形成されている。超高分子量ポリエチレン膜の膜厚は、0.1mm以上1mm以下であれば好ましく、0.25mmを超え、1mm以下であれば皺の発生がより効果的に防がれるとともに、超高分子量ポリエチレン膜の剥離も生じにくくなるので、より好ましい。
【0073】
本実施形態の高圧ラジアルゲート61では、スキンプレート64がその背面側から水圧によって押され、戸当りに押し付けられる。このため、扉体62の開閉時には、スキンプレート64だけでなく水密ゴムにも非常に大きい圧力が加わる。
【0074】
しかしながら、本変形例に係る高圧ラジアルゲート61では、水密ゴム上に超高分子量ポリエチレン膜が配置されていることで、低摩擦ゴムと戸当り又は扉体との摩擦力が大きく低減されるとともに、戸当り又はスキンプレート64が湾曲部分を含んでいる場合であっても、超高分子量ポリエチレン膜に皺が発生しにくくなっている。また、超高分子量ポリエチレン膜が損傷しにくくなっているとともに、当該超高分子量ポリエチレン膜の剥離が生じにくくなっている。
【0075】
さらに、水密ゴムがいわゆるP型であり、凸状部の曲率半径が15mm以下となっていることにより、扉体62開閉時の摩擦力を大幅に低減しつつも放水路5の閉鎖時の水漏れを効果的に低減することができる。
【0076】
(第2の実施形態)
図10は、本発明の第2の実施形態に係る高圧ゲートを備えたダムの構造を示す断面図である。また、
図11(a)、(b)は、本実施形態の高圧ゲートである高圧ローラーゲートの構成を示す平面図及びXIb-XIb線における断面図である。なお、同図における平面図は、主ゲートである高圧ローラゲートを上流側(放水路5側)から見た図である。
図11(a)では、固定部材69の図示は省略している。
【0077】
図10及び
図11(a)、(b)に示すように、放水路5の下流側開口端に主ゲートとして第2の高圧ローラーゲート63が設けられていてもよい。この第2の高圧ローラーゲート63は、扉体(スキンプレート71)と、放水路5の開口部の両側方に設けられたローラー67と、放水路5の開口部の両側方から上方に向かって延び、ローラー67を滑走させるレール(図示せず)とを備えている。
【0078】
第2の高圧ローラーゲート63の扉体のサイズは、副ゲートである上流側の高圧ローラーゲート9と同様に、例えば縦5m〜10m、横5m〜10m程度である。
【0079】
第2の高圧ローラーゲート63において扉体の上部には巻き上げ用のワイヤ等が接続されており、閉塞状態から放水路5を開放する際には、ワイヤに接続された巻き上げ機を用いて扉体を上方に移動させる。また、放水路5を閉じる際には、扉体の自重を利用して扉体を下方に摺動させ、戸当りに当接させる。
【0080】
本実施形態の第2の高圧ローラーゲート63において、例えば扉体(スキンプレート71)の裏面上には低摩擦ゴム65が設けられている。低摩擦ゴム65は、凸状部を有する水密ゴムと、水密ゴムの凸状部上に設けられた超高分子量ポリエチレン膜とを有している。この構成によっても、水密ゴム上に超高分子量ポリエチレン膜が配置されていることで、低摩擦ゴムと戸当り又は扉体との摩擦力が大きく低減される。
【0081】
特に、超高分子量ポリエチレン膜の膜厚は、上述の実施形態等と同様に、0.1mm以上1.0mm以下であることにより、実際の使用に十分な耐久性を持たせることができるとともに、水密ゴム上から剥離しにくくすることができる。さらに、超高分子量ポリエチレン膜の膜厚が、0.25mmを超え、1.0mm以下であれば、上述の効果に加え、皺の発生をより効果的に防ぐことが可能であり、より破損しにくくなるので、高圧ゲートとしての長期的な信頼性を向上させることが可能となる。
【0082】
また、水密ゴムの凸状部が一側方で固定部材69により扉体の裏面上に固定されており、凸状部の曲率半径が15mm以下となっていることにより、扉体62開閉時に生じる摩擦力を大幅に低減しつつも放水路5の閉鎖時の水漏れを効果的に低減することができる。
【0083】
以上で説明した第1の実施形態とその変形例、及び第2の実施形態に係る高圧ゲートは、本発明に係る高圧ゲートの一例であって、各部材のサイズ、形状、膜厚、材質等は本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、放水路5の本数、大きさ等も種々変更可能である。例えば、第2の実施形態の第2の高圧ローラーゲート63において、超高分子量ポリエチレン膜を有する低摩擦ゴム65は、一部又は全体が戸当り側に設けられていてもよい。あるいは、第1及び第2の実施形態に係る高圧ゲートにおいて、超高分子量ポリエチレン膜が水密ゴムの凸状部の全体を覆っておらず、凸状部の一部だけを覆うことで、水密性の向上を図ってもよい。