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特許5793191自動車用電子パーキングブレーキシステム、及びその補助始動方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5793191
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】自動車用電子パーキングブレーキシステム、及びその補助始動方法
(51)【国際特許分類】
   B60T 7/12 20060101AFI20150928BHJP
【FI】
   B60T7/12 A
【請求項の数】12
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-523466(P2013-523466)
(86)(22)【出願日】2010年12月20日
(65)【公表番号】特表2013-533165(P2013-533165A)
(43)【公表日】2013年8月22日
(86)【国際出願番号】CN2010080003
(87)【国際公開番号】WO2012019408
(87)【国際公開日】20120216
【審査請求日】2013年3月26日
(31)【優先権主張番号】201010258952.5
(32)【優先日】2010年8月13日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】513032482
【氏名又は名称】ウーフゥー・ベスル・オートモーティヴ・セーフティー・システムズ・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100147500
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 雅啓
(74)【代理人】
【識別番号】100166235
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100179914
【弁理士】
【氏名又は名称】光永 和宏
(72)【発明者】
【氏名】リュウ、チャオヨン
(72)【発明者】
【氏名】ユアン、ヨンビン
(72)【発明者】
【氏名】ク、チンドン
(72)【発明者】
【氏名】チャン、シェン
(72)【発明者】
【氏名】リュウ、リピン
(72)【発明者】
【氏名】キョン、ユリン
【審査官】 谷口 耕之助
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−306301(JP,A)
【文献】 特開昭61−249858(JP,A)
【文献】 特表2005−529795(JP,A)
【文献】 特表2004−537457(JP,A)
【文献】 特開昭61−278454(JP,A)
【文献】 特表2010−524761(JP,A)
【文献】 特開2007−127155(JP,A)
【文献】 特開2010−058623(JP,A)
【文献】 特開2007−182141(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用電子パーキングブレーキシステムの補助始動方法であって、該電子パーキングブレーキシステムは該自動車の全てのセンサー信号及び検出信号を受信し、クラッチによって伝達されるトルクTが計算され、該クラッチによって伝達される該計算されたトルクTが前記自動車を始動するのに必要とされるトルクTよりも大きいときに、ブレーキを解除して、始動時の運転者を補助する、自動車用電子パーキングブレーキシステムの補助始動方法であり、
前記自動車から前記電子パーキングブレーキシステムによって受信される前記センサー信号が加速度信号を含むときに、後退信号も受信したか否かを検出し、
前記後退信号が受信されていない場合に、
前記加速度信号に従って、前記自動車の現在の位置と水平面との間の傾斜角αを計算し、該傾斜角αに従って、前記トルクTを選択し、
前記後退信号は後退灯回路を検出することによって得られる
ことを特徴とする、自動車用電子パーキングブレーキシステムの補助始動方法。
【請求項2】
前記自動車から前記電子パーキングブレーキシステムによって受信される前記センサー信号は、エンジン上の前記センサーから得られたエンジン回転速度信号と、前記エンジンによって出力される実効トルク信号とを含み、
前記クラッチによって伝達される前記トルクTは以下の式(1)を通じて計算され、
【数1】
ただし、T、すなわち、前記クラッチによって伝達される前記トルクは最終的な計算結果であり、
は、受信されたエンジントルク信号に対応する、前記エンジンによって出力される実効トルクであり、
、すなわち、前記エンジンの慣性モーメントは記憶ユニットに格納される定数であり、
α、すなわち、前記エンジンの角加速度は中間変数であり、
ω、すなわち、前記エンジンの角速度は中間変数であり、
は、受信された前記エンジン回転速度信号に対応する、前記エンジンの回転速度である、
ことを特徴とする、請求項1記載の自動車用電子パーキングブレーキシステムの補助始動方法。
【請求項3】
自動車用電子パーキングブレーキシステムの補助始動方法であって、該電子パーキングブレーキシステムは該自動車の全てのセンサー信号及び検出信号を受信し、前記自動車の始動傾向が検出されるときに、ブレーキを解除して、始動時の運転者を補助する、自動車用電子パーキングブレーキシステムの補助始動方法であり、
前記自動車から前記電子パーキングブレーキシステムによって受信される前記センサー信号は加速度信号を含み、
ステップ31’:前記電子パーキングブレーキシステムが、前記加速度信号を受信した後に、該加速度信号を車体座標系内のX軸、Y軸、Z軸方向におけるサブ加速度信号に分解するステップと、
ステップ32’:前記X軸、前記Y軸及び前記Z軸方向における前記サブ加速度信号に従って、車体の現在の姿勢データを得るステップと、
ステップ33’:前記車体の姿勢変化値を得るように、前記車体の前記現在の姿勢データを静止状態にある前記車体の姿勢データと比較するステップと、
ステップ34’:前記車体の前記姿勢変化値がしきい値に達するときに、前記自動車が始動する傾向にあると判断されるステップと、
を通じて、前記自動車が始動する傾向にあることが検出される
ことを特徴とする、自動車用電子パーキングブレーキシステムの補助始動方法。
【請求項4】
エンジン回転速度がエンジンアイドリング速度よりも速く、アクセルペダル及びクラッチペダルが同時に押下されるときにも、ブレーキを解除して、始動時の運転者を補助することをさらに含む、自動車用電子パーキングブレーキシステムの補助始動方法であり、
前記自動車から前記電子パーキングブレーキシステムによって受信される前記センサー信号は、前記クラッチペダル上のクラッチ位置スイッチによって送信されるクラッチペダル信号と、前記アクセルペダルによって送信されるアクセルペダル信号とを含み、
前記電子パーキングブレーキシステムが前記クラッチペダル信号を受信したとき前記クラッチペダルが押下されたと判断され、前記アクセルペダル信号に変化があるとき前記アクセルペダルが押下されたと判断される
ことを特徴とする、請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の自動車用電子パーキングブレーキシステムの補助始動方法。
【請求項5】
動輪の検出された回転速度又は回転角度が、回転速度又は回転角度の所定のしきい値よりも高いときにも、ブレーキを解除して、始動時の運転者を補助することをさらに含む、請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の自動車用電子パーキングブレーキシステムの補助始動方法。
【請求項6】
ブレーキングが前記パーキングブレーキシステムによって完了されていた場合、前記電子パーキングブレーキシステムが該ブレーキングを解除し、
前記ブレーキングが前記自動車のESPシステムによって完了されていた場合、前記電子パーキングブレーキシステムはブレーキングパイプライン圧力を解除するためのコマンドを前記ESPシステムに送信し、該ESPシステムがブレーキングを解除する
ようにして、前記ブレーキが解除される
ことを特徴とする、請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の自動車用電子パーキングブレーキシステムの補助始動方法。
【請求項7】
EPBコントローラー及び作動機構を備える自動車用電子パーキングブレーキシステムであって、前記EPBコントローラーは主制御モジュール及びCANインターフェースモジュールを備え、前記主制御モジュールは主制御ユニットと、記憶ユニットと、1つ又は複数の計算ユニットとを含み、
前記CANインターフェースモジュールは、車体CANバスと前記主制御ユニットとの間で信号又はコマンドを送信するように設計され、
前記主制御ユニットは、受信されたセンサー信号又は検出信号に従って、該センサー信号又は該検出信号のタイプを判断するとともに、計算を行うための対応する計算ユニットを選択し、
前記主制御ユニットは、該計算ユニットによって得られた計算結果、又は前記主制御ユニットによって受信された前記センサー信号若しくは前記検出信号に従って、現在の自動車がブレーキを解除するための条件を満たすか否かを判断し、
前記主制御ユニットは、該ブレーキを解除するための前記条件が満たされた場合には、前記パーキングブレーキシステムによって完了されたブレーキングを操作して、それにより解除するように前記作動機構を制御するか、又は前記CANインターフェースモジュールを通じて、前記ESPシステムによって完了された前記ブレーキングを解除するように、前記車体CANバスを経由して前記自動車の前記ESPシステムにブレーキングパイプライン圧力を解除するためのコマンドを送信し、
前記主制御ユニットによって送信された前記センサー信号又は前記検出信号、並びに前記記憶ユニット内の関連パラメーターに従って、前記1つ又は複数の計算ユニットが計算を行い、前記計算結果が前記主制御ユニットに与えられ、前記ブレーキを解除するための条件が満たされたか否かが判断される、
EPBコントローラー及び作動機構を備える自動車用電子パーキングブレーキシステムであり、
前記1つ又は複数の計算ユニットのうちの1つは車体姿勢計算ユニットであり、該車体姿勢計算ユニットは、自動車の始動時にホイールがロックアップしている場合に、受信された加速度信号を車体座標系内のX軸、Y軸及びZ軸方向におけるサブ加速度信号に分解し、前記X軸、Y軸及びZ軸におけるサブ加速度信号に従って、前記車体の現在の姿勢データを得ることが可能であり、
前記記憶ユニットは、前記自動車が静止状態にあるときの車体姿勢データと、車体姿勢変化値のしきい値とを格納し、
前記主制御ユニットは、前記現在の姿勢データを前記静止状態の車体姿勢データと比較し、
前記車体姿勢変化値が前記しきい値に達するとき、現在の自動車が前記ブレーキを解除するための条件を満たすと判断される
ことを特徴とする、EPBコントローラー及び作動機構を備える自動車用電子パーキングブレーキシステム。
【請求項8】
前記EPBコントローラーは加速度検知回路も備え、前記加速度検知回路を用いて、前記自動車の加速度を検出し、検出された加速度信号を前記主制御ユニットに送信することを特徴とする、請求項記載の自動車用電子パーキングブレーキシステム。
【請求項9】
前記EPBコントローラーは電気的レベル整合回路も備え、該電気的レベル整合回路は、前記自動車の後退灯回路と接続され、前記後退灯回路から送信された後退信号の電気的レベルを前記主制御ユニットへの許容可能な電気的レベルに合わせて、該許容可能な電気的レベルを前記主制御ユニットに送信するために用いられる
ことを特徴とする、請求項7又は請求項8に記載の自動車用電子パーキングブレーキシステム。
【請求項10】
前記1つ又は複数の計算ユニットのうちの1つはトルク計算ユニットであり、前記トルク計算ユニットは以下の式(1)を通じて、前記クラッチによって伝達されるトルクTを計算するために用いられ、
【数2】
ただし、Tは、受信されたエンジントルク信号に対応する、前記エンジンによって出力される実効トルクであり、
、すなわち、前記エンジンの慣性モーメントは前記記憶ユニットに格納される定数であり、
α、すなわち、前記エンジンの角加速度は中間変数であり、
ω、すなわち、前記エンジンの角速度は中間変数であり、
は、受信されたエンジン回転速度信号に対応する、前記エンジンの回転速度である、
ことを特徴とする、請求項から請求項までのいずれか一項に記載の自動車用電子パーキングブレーキシステム。
【請求項11】
前記作動機構は、制動モーターと、該制動モーターに接続される減速機構とを備え、
前記制動モーターは前記主制御ユニットからコマンドを受信し、該コマンドに従って対応する動作を実施し、前記減速機構はパーキングブレーキに接続される
ことを特徴とする、請求項から請求項10までのいずれか一項に記載の自動車用電子パーキングブレーキシステム。
【請求項12】
前記車体CANバスから前記CANインターフェースモジュールによって受信される全てのセンサー信号又は検出信号は、
クラッチペダル信号及びアクセルペダル信号、又は
加速度信号、又は
エンジン回転速度信号及びスロットル位置信号、又は
動輪の車輪速度若しくは回転角度信号を含む
ことを特徴とする、請求項から請求項11までのいずれか一項に記載の自動車用電子パーキングブレーキシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車用ブレーキシステムの製造の技術分野に関し、詳細には、自動車用電子パーキングブレーキシステム及びその補助始動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
道路条件及び交通条件に応じて、運転者は自動車に取り付けられた一連の特殊なデバイスを用いて、自動車の走行方向と反対の方向に路面によって自動車の車輪に一定の外力が強制的に加えられるようにし、それにより、自動車に或る程度まで強制ブレーキを生じさせることができる。
自動車を制動するためのそのような制御可能な外力は制動力と呼ばれ、制動力を生成するために用いられる一連の特殊なデバイスはブレーキシステムと呼ばれる。
機能の点から、ブレーキングシステムは2つのタイプ、すなわち、サービスブレーキシステム及びパーキングブレーキシステムに分類される。サービスブレーキシステムは、走行中の自動車を減速、更には停止できるように設計された一連のデバイスを指しており、自動車のための主ブレーキシステムとしての役割を果たす。パーキングブレーキシステムは、駐車中に自動車の停止状態を維持するように設計されたデバイスを指しており、自動車のための補助ブレーキシステムとしての役割を果たす。
【0003】
制動エネルギー源が異なることによって、パーキングブレーキシステムも2つのタイプ、すなわち、従来の機械式パーキングブレーキシステム及び電子パーキングブレーキシステムに分けられる。
機械式パーキングブレーキシステムの応用形態では、運転者によってパーキングブレーキプルロッドが操作され、パーキングブレーキプルロッドがブレーキドラムを広げるように駆動するか、又はブレーキングキャリパーピストンを完全なパーキングまで動かすように駆動する。
そのような場合、制動力は完全に運転者によって生じる。運転者が異なると、異なる力が加えられる場合があるので、生じる制動力が不十分となり得る可能性が非常に高く、その結果、滑り出す危険性がある。
【0004】
機械式パーキングブレーキシステムは動作上、数多くの不都合を有する場合があり、主に以下のことを含む。自動車の始動時に、運転者はステアリング、並びにアクセルペダル及びクラッチを制御するよう要求されるだけでなく、パーキングブレーキプルロッドを解除するよう要求される。その結果、始動操作が非常に複雑になる。そのような複雑な操作は特に坂道における始動時に生じる。そのような場合、運転者は、パーキングブレーキプルロッドを解除するタイミングを選択することも要求される。パーキングブレーキプルロッドの解除が早すぎる場合には、坂道に沿って滑り落ちるという危険が生じることになり、解除が遅すぎる場合には、エンジンのフレームアウトが生じることになる。
【0005】
従来の機械式パーキングブレーキシステムにおける上記の技術的問題を克服するために、従来技術において、自動車において利用される電気パーキングブレーキ(略してEPB:Electrical Parking Brake)システムが開発された。
【0006】
EPBシステムはモーターを通じて制動力を加えるように設計される。パーキングの過程において、運転者は単にパーキングボタンを押すことだけを要求され、EPBシステムのコントローラーがモーターの回転を、それゆえ、完全なパーキングを制御することになる。コントローラーは常に最大の押圧を加えることができる。さらに、EPBシステムは、自動パーキング/自動解除の機能を実現し、運転者の操作を簡単にし、運転中の安全性及び快適度を確保するように、車両の他の制御モジュール(エンジンコントローラー、ABS/ESPコントローラー及び車体コントローラー等)と通信することもできる。
【0007】
しかしながら、解除の過程において生じる場合がある潜在的な安全上の問題を考慮する必要があるので、EPBシステムにおいて自動解除を実現するための条件を判断するのは難しい。解除が早すぎる結果として坂道を滑り落ちることも、自動解除が遅すぎることに起因してエンジンにフレームアウトが生じること/更にはトランスミッションシステムが故障することも許されない。自動解除が実行可能であるか否かを判断するために、エンジンの動力が車輪に伝達されたか否か、及びそのような動力が、坂道を滑り落ちないようにするのを確実にするのに十分であるか否かを知ることが重要である。
【0008】
上記の技術的問題を解決するために、ドイツ国のLucus Automobile社が2つの中国特許出願、すなわち、「A parking brake and a control method thereof」(特許文献1)及び「A method for operating the braking device of vehicle」(特許文献2)を次々に開示した。一方、中国のZhejiang Asia-Pacific Mechanical & Electronic社は「Control Method of Automobile Electric Control Parking and Start Assisting By Manual Transmission And System Thereof」(特許文献3)を開示した。この特許出願によって公表された技術的解決策では、パーキングの自動解除制御を実現するために、クラッチ位置センサー及びギア位置センサー(位置スイッチ等)のような幾つかのセンサーを追加する必要がある。クラッチ位置検出器(clutch position transducer:クラッチ位置変換器)及びギア位置センサーの組み合わせられた情報を通じて、エンジンの動力が車輪に伝達されたか否かを判断することが可能である。しかしながら、このシステムは、実際に応用する際に数多くの技術的問題を伴う。
1.EPBシステムは自動車上のギア位置センサー及びクラッチ位置検出器に頼らなければならず、そうでない場合には、クラッチ位置情報及びギア位置情報を得ることもできなければ、動力が車輪に伝達されたか否かを知ることもできない。
2.クラッチ位置センサー及びギア位置センサーを更に取り付けるために、クラッチ操作デバイス及び変速操作機構を設計し直す必要がある。
3.コストが上昇する。
4.クラッチを使う際に摩擦円板が徐々にすり減ることになり、その係合点も絶えず変化しているので、クラッチ位置センサーの誤差は徐々に大きくなる。結果として、EPBシステムは、運転者の運転意図を判断する際に容易く間違えることになる。それゆえ、自動パーキングが解除されるとき、依然として誤判断及び誤操作が生じることになる。誤操作が生じると、坂道を滑り落ちる条件、又はエンジンフレームアウトの条件が生じることになる。さらに、長期にわたって、クラッチの耐用寿命も著しく低減されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】中国特許出願第200480038712.7号
【特許文献2】中国特許出願第200580003615.9号
【特許文献3】中国特許出願第200910097642.7号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来技術が十分でないことから、本発明の技術的目的は、自動車用電子パーキングブレーキシステム、及びその補助始動方法を提供することである。自動車の元の構造に基づいて、本発明は、いかなる変更も加える必要なく自動車の自動解除及び補助始動を実現することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の技術的問題に対処するために、本発明は、自動車用電子パーキングブレーキシステムの補助始動方法であって、該電子パーキングブレーキシステムは該自動車の全てのセンサー信号及び検出信号を受信し、以下の条件、すなわち、
条件(1):クラッチによって伝達されるトルクTが計算され、該クラッチによって伝達される該計算されたトルクTが前記自動車を始動するのに必要とされるトルクTよりも大きい、
条件(2):エンジン回転速度がエンジンアイドリング速度よりも速く、アクセルペダル及びクラッチペダルが同時に押下される、
条件(3):前記自動車の始動傾向が検出される、
条件(4):前記検出されたエンジン回転速度がスロットル開放データに従って計算された第1の所定のしきい値よりも低い、及び
条件(5):動輪の検出された回転速度又は回転角度が回転速度又は回転角度の所定のしきい値よりも高い、
のうちのいずれか1つが満たされるときに、ブレーキを解除して、始動時の運転者を補助(assist)する、自動車用電子パーキングブレーキシステムの補助始動方法を提供する。
【0012】
本発明はまた、EPBコントローラー及び作動機構を備える自動車用電子パーキングブレーキシステムであって、前記EPBコントローラーは主制御モジュール及びCANインターフェースモジュールを備え、前記主制御モジュールは主制御ユニットと、記憶ユニットと、1つ又は複数の計算ユニットとを含み、
前記CANインターフェースモジュールは、車体CANバスと前記主制御ユニットとの間で信号又はコマンドを送信するように設計され、
前記主制御ユニットは、受信されたセンサー信号又は検出信号に従って、該センサー信号又は該検出信号のタイプを判断するとともに、計算を行うための対応する計算ユニットを選択し、
前記主制御ユニットは、該計算ユニットによって得られた計算結果、又は前記主制御ユニットによって受信された前記センサー信号若しくは前記検出信号に従って、現在の自動車がブレーキを解除するための条件を満たすか否かを判断し、
前記主制御ユニットは、該ブレーキを解除するための前記条件が満たされた場合には、前記パーキングブレーキシステムによって完了されたブレーキングを操作して、それにより解除するように前記作動機構を制御するか、又は前記CANインターフェースモジュールを通じて、ESPシステムによって完了された前記ブレーキングを解除するように、前記車体CANバスを経由して前記自動車の前記ESPシステムにブレーキングパイプライン圧力を解除するためのコマンドを送信し、
前記主制御ユニットによって送信された前記センサー信号又は前記検出信号、並びに前記記憶ユニット内の関連パラメーターに従って、前記計算ユニットのうちの1つ又は複数が計算を行い、前記計算結果が前記主制御ユニットに与えられ、前記ブレーキを解除するための条件が満たされたか否かが判断される、
EPBコントローラー及び作動機構を備える自動車用電子パーキングブレーキシステムを提供する。
【0013】
本発明によって提供される上記の技術的解決策を通じて、以下の技術的問題を効果的に克服することが可能である:自動車においてギア位置センサー及びクラッチセンサーを用いることなく、EPBシステムは、信号「動力が車輪に伝達されたか否か」を得ることはできない;クラッチ位置センサー及びギア位置センサーが更に取り付けられた後に、コストが上昇する;クラッチ位置センサーの大きな誤差の結果としてEPBによって誤判断がなされる場合がある;クラッチの寿命が著しく低減される。
さらに、本発明は以下の利点も有する。
1.システムコストが低い。本システムはクラッチセンサー及びギア位置センサーを更に必要とすることはなく、構造的な変更も加える必要がないので、結果として製造コストが削減される。
2.大抵の場合に、本発明はクラッチペダル信号及びアクセルペダル信号を用いて、運転者の運転意図を自動的に確認することができるので、クラッチを繋ぐ前にパーキングブレーキを解除することができ、クラッチの耐用寿命が延長され、パーキング解除にかかる対応する時間が短縮される。
2.本システムは良好な適応性を有する。本システムが自動車バスに接続されるべきであることを除いて、いなかる周辺構成要素も追加する必要はない。このシステムは、コントローラーのアルゴリズムに僅かな変更を加えた後にのみインストールし、使用することができ、クラッチ制御機構及び変速機構を設計し直す必要はない。
3.クラッチセンサーを備える電子パーキングシステムでは、クラッチの磨滅とともに、クラッチセンサーにおいて定期的に較正を行う必要があり、較正をしなければ、誤判断が生じることになる。しかしながら、本発明はクラッチセンサーを設けられないので、クラッチにおいて定期的に較正を行う必要はない。
4.自動車の始動時に、運転者は、単にクラッチ及びアクセルペダルを制御することによって始動を完了することができ、パーキングブレーキバーを操作する必要はない。結果として、運転者の操作が簡略化される。さらに、坂道における始動時に、坂道を滑り落ちるという現象、又はエンジンのフレームアウトは生じない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の自動車用電子パーキングブレーキシステムの一実施形態を示す構造図である。
図2】本発明の自動車用電子パーキングブレーキシステムが自動車の関連する部分と接続されることを示す接続図である。
図3】自動車用電子パーキングブレーキシステムの補助始動方法の一実施形態を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に示されるように、自動車用電子パーキングブレーキシステム(Electronic Parking Brake system)が提供される。図2は、本発明の自動車用電子パーキングブレーキシステムが自動車の関連する部分と接続されることを示す接続図である。
図2とともに図1に示されるように、自動車用電子パーキングブレーキシステムはEPBコントローラー1及び作動機構2を備えている。EPBコントローラー1は、コントローラーエリアネットワーク(Controller Area Network)(略してCAN)インターフェースモジュール11及び主制御モジュール12を備えている。主制御モジュール12は、主制御ユニット121と、記憶ユニット122と、1つ又は複数の計算ユニット123とを備えている。
【0016】
図2を参照すると、車体CANバスが、エンジンコントローラー4、アンチロックブレーキシステム(Anti-lock Brake System)(略してABS)/横滑り防止装置(Electronic Stability Program)(略してESP)コントローラー5及び車体コントローラーにそれぞれ接続されている。
エンジンコントローラー4は、エンジン回転速度センサー、エンジントルクセンサー、スロットル位置センサー及びアクセルペダルセンサーにそれぞれ接続され、エンジン回転速度信号41、エンジントルク信号42、スロットル位置信号43及びアクセルペダル信号44をそれぞれ得る。
ESP/ABSコントローラー5は、車輪速度センサー及びブレーキ信号センサーにそれぞれ接続され、車輪速度信号51及びブレーキ信号52をそれぞれ得る。
他の回路又はシステム(ESPシステム又はエアバッグ(safety gasbag)等)内に配置される加速度センサーは、車体CANバス3からEPBコントローラー1に加速度信号を直接送信する。さらに、加速度信号は、EPBコントローラー1内の加速度検知回路13から得ることもできる。図2に示されるように、加速度検知回路13を用いて、自動車の加速度を検出し、検出された加速度信号を主制御ユニット121に送信する。


【0017】
車体コントローラー6は、後退灯のオン/オフを制御し、かつ車体CANバスを通じて後退信号61を送信する後退灯回路に接続される。さらに、EPBコントローラーは、電気的レベル整合回路14も備えており、電気的レベル整合回路を用いて、後退灯回路から送信される後退信号61の電気的レベルを主制御ユニット121への許容可能な電気的レベルに合わせ、この許容可能な電気的レベルを主制御ユニット121に送信する。
【0018】
EPBコントローラー1内のCANインターフェースモジュール11は、車体CANバス3と主制御ユニット12との間で信号又はコマンドを送信することができる。CANインターフェースモジュール11は、車体CANバス3から全てのセンサー信号又は検出信号を受信し、これらの信号を主制御ユニット12に送信することができる。
【0019】
主制御ユニット121は、受信されたセンサー信号又は検出信号に従って、センサー信号又は検出信号のタイプを判断し、計算を行うための対応する計算ユニット123を選択する。
主制御ユニットは、計算ユニット123によって得られた計算結果、又は主制御ユニット121によって受信されたセンサー信号若しくは検出信号に従って、現在の自動車がブレーキを解除するための条件を満たすか否かを判断する。
主制御ユニットは、
ブレーキを解除するための条件が満たされた場合には、
パーキングブレーキシステムによって完了されたブレーキングを操作して、それにより解除するように作動機構2を制御するか、又は
CANインターフェースモジュール11を通じて、ESPシステムによって完了されたブレーキングを解除するように、車体CANバス3を経由して自動車のESPシステムにブレーキングパイプライン圧力を解除するためのコマンドを送信する。
図2に示されるように、CANインターフェースモジュール11は車体CANバス3を通じてABS/ESPコントローラー5にコマンドを送信し、ABS/ESPコントローラー5は運転ブレーキパイプライン圧力信号53を送信する。
【0020】
主制御ユニット121によって送信されたセンサー信号又は検出信号と、記憶ユニット122内の関連するパラメーターとに従って、1つ又は複数の計算ユニットが計算を行い、始動時に運転者を補助(assist)するように、計算結果が主制御ユニットに与えられ、ブレーキを解除するための条件が満たされたか否かが判断される。
計算ユニット123を用いて、異なる種類のデータを計算することができる。本発明では、計算ユニット123は、トルク計算ユニット、傾斜角計算ユニット、サブ加速度計算ユニット及び車体姿勢計算ユニット等とすることができる。計算ユニットに関する具体的な説明が後に与えられる。
【0021】
車体CANバスからCANインターフェースモジュールによって受信される全てのセンサー信号又は検出信号は、クラッチペダル信号及びアクセルペダル信号、又は加速度信号、又はエンジン回転速度信号及びスロットル位置信号、又は動輪の車輪速度若しくは回転角信号を含む。
CANインターフェースモジュールはまた、これらの信号をEPBコントローラー1内の主制御ユニット121に送信する。主制御ユニット121は、計算ユニットと協調して、得られた自動車データを処理し、自動車がギアと係合しているか否か、及びクラッチが繋がれ始めているか否かを判断する。このために、クラッチ位置センサー及びギア位置センサーを追加する必要はない。
自動車がギアと係合し、クラッチが繋がれ始めているとき、エンジンの動力は徐々に動輪に伝達されることになる。ブレーキを解除するための開始条件が満たされるとき、運転ブレーキを解除し補助始動(assistant starting)の目的を果たすように、EPBコントローラー1は作動機構2を制御してパーキングブレーキを解除するか、又は車体CANバス3を通じて、ブレーキパイプライン圧力を解除するためのコマンドをESP/ABSコントローラー5に送信する。
【0022】
本発明はまた、
上記自動車用電子パーキングブレーキシステムの補助始動方法であって、電子パーキングブレーキシステムは自動車の全てのセンサー信号及び検出信号を受信し、
以下の条件、すなわち
条件(1):クラッチによって伝達されるトルクTが計算され、クラッチによって伝達される計算されたトルクTが自動車を始動するのに必要とされるトルクTよりも大きい、
条件(2):エンジン回転速度がエンジンアイドリング速度よりも速く、アクセルペダル及びクラッチペダルが同時に押下される、
条件(3):自動車の始動傾向が検出される、
条件(4):検出されたエンジン回転速度がスロットル開放データに従って計算された第1の所定のしきい値よりも低い、及び、
条件(5):動輪の検出された回転速度又は回転角度が回転速度又は回転角度の所定のしきい値よりも高い、
のうちのいずれか1つが満たされるときに、ブレーキが解除され、始動時の運転者を補助する、自動車用電子パーキングブレーキシステムの補助始動方法を提供する。
【0023】
具体的には、図1及び図2に示される構造図を参照すると、上記の条件のいずれかが満たされたときにブレーキがいかに解除されるかに関する詳細な説明が与えられる。
【0024】
条件(1)に関して、最も簡単な実現モードは以下の通りである。図1に示されるブロック図において、計算ユニットのうちの1つはトルク計算ユニットであり、主制御ユニット121によって受信される信号は、エンジン回転速度信号41及びエンジントルク信号42を含む。
式(1)、及びエンジンの慣性モーメントのような記憶ユニット122に格納される幾つかの定数に従って、クラッチによって現在伝達されているトルクTを計算することが可能である。
【数1】
ただし、T、すなわち、クラッチによって伝達されるトルクは最終的な計算結果であり、
は、受信されたエンジントルク信号42に対応する、エンジンによって出力される実効トルクであり、
、すなわち、エンジンの慣性モーメントは、記憶ユニット122に格納される定数であり、
α、すなわち、エンジンの角加速度は、中間変数であり、
ω、すなわち、エンジンの角速度は、中間変数であり、
は、受信されたエンジン回転速度信号41に対応する、エンジンの回転速度である。
【0025】
記憶ユニット122は、表1に示されるように、始動するために必要とされるトルクT、自動車の型式、自動車が位置する地面の傾斜(自動車の現在の位置と水平面との間の傾斜角αがパラメーターとして用いられる)及び後退信号等の対応する表を格納する。この表において与えられるトルクTは、種々の種類の条件下で坂道を滑り落ちないようにするのを保証するのに十分であり、その値は一連の試験を通じて得られた値である。
この対応する表を通じて、主制御モジュール121は、現在の条件に従って始動するのに必要とされるトルクTを選択することができる。主制御モジュールは、トルク計算ユニットによって得られた計算結果と、始動するのに必要とされる選択されたトルクTとを比較する。トルク計算ユニットによって得られたトルクTが始動するのに必要とされるトルクTよりも大きいとき、現在の自動車がブレーキを解除するための条件を満たすと判断される。
【0026】
【表1】
【0027】
自動車の型式が一定であると、始動するのに必要とされるトルクTを選択するときに型式を無視することができる。しかしながら、自動車が位置する路面の傾斜及び運転方向(すなわち、逆進又は前進方向)が始動するのに必要とされるトルクTの選択に大きな影響を及ぼす。始動するのに必要とされるトルクTは、傾斜の値、及び運転方向、すなわち逆進運転及び前進運転によって異なる。それゆえ、図3に示されるように、本発明の一実施形態では、これら2つの条件が考慮に入れられる。条件(1)が満たされるか否かに応じて、ブレーキが解除されて補助始動されるか否かが判断される。
【0028】
ステップ100:作動機構によってパーキングが完了されたか否かを判断する。完了された場合には、ステップS110を実施する。完了されていない場合には、このフローを中止する。本実施形態は、パーキングブレーキシステムによって完了されたブレーキングのみを記述することに留意されたい。当然、本実施形態は、ESPシステムによって完了されたブレーキングも記述することができる。それらの方法は類似であるので、本明細書では繰返し説明されない。
【0029】
ステップS110:自動車が坂道において始動しているか否かを判断する。具体的な判断方法は以下の通りであり、加速度信号が受信されるか否かを検出し、ブレーキングの過程において加速度信号を依然として受信することができる場合には、この自動車が坂道に停止していることが示される。自動車が坂道において始動している場合には、ステップS120に進む。そうでない場合には、ステップS111に進む。
【0030】
ステップS111:エンジンの回転速度に変化があるか否かを判断する。変化がある場合にはステップS112を実施し、変化がない場合には、終了する。
【0031】
ステップS112:主制御ユニット121が受信されたエンジンの回転速度信号及びトルク信号をトルク計算ユニットに送信し、トルク計算ユニットは式(1)に従って計算を行う。
【0032】
ステップS113:始動するのに必要とされるトルクTの具体的なデータを選択し、式(1)に従ってトルク計算ユニットによって計算されたTが、始動によって必要とされるトルクTよりも大きいか否かを比較する。大きい場合には、始動するための条件が満たされたと判断してステップS114を実施し、そうでない場合には、終了する。
【0033】
ステップS114:パーキングを解除する。
【0034】
ステップS120:後退信号が受信されたか否かを判断する。具体的には、後退灯回路から送信された信号が受信されたか否かに応じて、後退信号が受信されたか否かを判断する。受信された場合には、ステップS111に進み、ステップS111からS114までのフローを実施し、そうでない場合には、ステップS121に進む。
【0035】
ステップS121:エンジンの回転速度に変化があるか否かを判断する。変化がある場合にはステップS112を実施し、変化がない場合には、終了する。
【0036】
ステップS122:受信された加速度信号を主制御ユニット121が傾斜角計算ユニットに送信する。傾斜角計算ユニットが、その加速度信号に従って、自動車の現在の位置と水平面との間の傾斜角αを計算する。その傾斜角αに従って、始動するのに必要とされるトルクTの具体的なデータを選択する。傾斜角αは三角関数を通じて計算することができる。
【0037】
ステップS123:受信されたエンジンの回転速度信号及びトルク信号を主制御ユニット121がトルク計算ユニットに送信し、トルク計算ユニットはクラッチによって伝達されたトルクTを式(1)に従って計算する。
【0038】
ステップS124:始動するのに必要とされるトルクTの具体的なデータを選択し、式(1)に従ってトルク計算ユニットによって計算されたTが、始動によって必要とされるトルクTよりも大きいか否かを比較する。大きい場合には、始動するための条件が満たされたと判断してステップS114を実施し、そうでない場合には、終了する。
【0039】
ステップS125:パーキングを解除する。
【0040】
さらに、EPBコントローラー1が車体CANバス3を通じてエンジン回転速度信号を受信したとき、エンジン回転速度がエンジンアイドリング速度よりも大きい場合には、クラッチペダル信号45及びアクセルペダル信号44も同時に受信する。条件(2)が満たされた場合には、ブレーキングを解除して始動時の運転者を補助する。
【0041】
エンジンの動作過程において、主制御モジュールが、クラッチペダル及びアクセルペダルが同時に押下されることを検出する場合には、主制御モジュールは、運転者が始動するつもりであると考え、その際、ブレーキングを解除することが可能である。クラッチペダルにスイッチが設けられる。クラッチペダルが押下されるとき、このスイッチは切替信号を送信する。主制御モジュールが切替信号を受信するとき、クラッチペダルが押下されたと判断することが可能である。自動車が始動された後に、アクセルペダルは常に電気信号を出力する。アクセルペダルが押下されるとき、電気信号は変化することになる。主制御モジュールが電気信号の任意の変化を検出する場合には、アクセルペダルが押下されたと判断することができる。
【0042】
この制御方式に基づいてブレーキの解除を制御することによって、大部分の動作条件下で運転者の意図を正確に判断することが可能である。さらに、クラッチの係合前にブレーキを解除することが可能であるので、クラッチ摩擦円板の滑り摩耗が低減され、同時にクラッチの耐用寿命が延長される。
【0043】
上記の方法に加えて、本発明の電子パーキングブレーキシステムは、自動車から全てのセンサー信号を受信する。電子パーキングブレーキシステムは、自動車が始動する傾向にあることを検出すると、ブレーキを解除して、始動時の運転者を補助する。具体的には、電子パーキングブレーキシステムは、車体加速度又は車体姿勢の変化に従って、自動車が始動する傾向にあるか否かを判断する。
【0044】
EPBコントローラー1は、車両上の他の電子コントローラーモジュール(ESPシステム等)によって送信された車体加速度信号を受信するか、又はその内部集積加速度検知回路13を通じて車体加速度信号を入手する。
【0045】
車両が静止しており、始動していないとき、主制御ユニット121は、車体座標軸に沿って車両の加速度情報を記録する。始動時に、パーキングブレーキは解除されていないが、車両はギアと係合しているので、クラッチの係合過程において、エンジンの動力が前輪に伝達される。車輪駆動力が徐々に増加していく過程では、車両の特定のサスペンション構造、後輪のロックアップ時であるので、車体座標のX軸及びZ軸において或る特定の加速度が生成されることになる。
車両が異なると、異なる加速度しきい値が設定される。X軸加速度がしきい値に達すると、電子パーキングブレーキシステムはブレーキを解除する(すなわち、前進方向における加速度がしきい値に達すると、ブレーキが解除される)。
具体的には、図1に示されるような計算ユニットのうちの1つがサブ加速度計算ユニットであり、そのサブ加速度計算ユニットが、得られた加速度情報を車体座標内のX軸及びZ軸上のサブ加速度信号に分解するために用いられる。主制御ユニット121は、サブ加速度計算ユニットによって得られるようなX軸上のサブ加速度信号を、記憶ユニットに格納されたしきい値と比較する。しきい値に達した場合には、車両が始動する傾向にあると判断することが可能である。
【0046】
さらに、図1に示されるように、1つ又は複数の計算ユニットのうちの1つが車体姿勢計算ユニットであり、車体姿勢計算ユニットは、受信された加速度信号を、車体座標系内のX軸、Y軸及びZ軸方向におけるサブ加速度信号に分解する。X軸、Y軸及びZ軸におけるサブ加速度信号に従って、車体の現在の姿勢データを得ることが可能である。主制御ユニット121は、現在の姿勢データを静止状態にある車体姿勢データと比較する。車体姿勢変化値がしきい値に達すると、この車両が、始動するための条件を満たすと判断される。車体座標系における傾斜角のようなかなり多数の種類の姿勢データが存在する場合があり、傾斜角は具体的には、車体座標系内の3つの座標軸の傾斜角を指している。これら3つの傾斜角のための具体的な計算方法は、傾斜角αのための計算方法と同じである。
【0047】
上記の方法に加えて、本発明の電子パーキングブレーキシステムは自動車から全てのセンサー信号を受信する。エンジンの回転速度が第1の所定のしきい値未満であるとき、ブレーキが解除され、始動時の運転者を補助する。
【0048】
モーターのスロットルの開放が或る特定のものであるとき、エンジンのガソリン注入量は基本的に一定のままであるとともに、出力も一定のままである。以下の式(2)から観察されるように、エンジン出力が一定であるとき、トルクは回転速度に反比例する。自動車がギアと係合したとき、クラッチが徐々に係合される過程において、エンジンの回転抵抗(rotary resistance)が徐々に増加する;エンジンの回転速度を維持するために、エンジンは出力トルクを高めるように要求される。スロットル開放が変化していないとき、エンジントルクが増加すると、エンジン回転速度は徐々に減少することになる。この特性に従って、本発明では、検出されたスロットル開放データを通じて、回転速度しきい値、すなわち、前述の第1のしきい値を計算することができる。エンジンの回転速度がしきい値未満であるときに、クラッチが係合しており、始動のための条件が満たされ、ブレーキを解除することが可能であると判断される。
【数2】
ただし、Pはエンジンの出力であり、
Tはエンジンの出力トルクであり、
はエンジンの回転速度である。
【0049】
上記の方法に加えて、本発明の電子パーキングブレーキシステムは、自動車から全てのセンサー信号を受信する。電子パーキングブレーキシステムは、車輪速度信号又は回転角信号の値が所定のしきい値よりも大きいことを検出すると、ブレーキングを解除して始動時の運転者を補助する。そのしきい値は一定のプリセット値であり、車両型式、及び車輪速度センサーの精度に関連する。
【0050】
自動車がギアと係合したとき、クラッチの係合過程において、モーターの動力が動輪に伝達される。駆動力が始動のために必要とされる値に達すると、動輪が回転を引き起こすことになる。車輪速度センサーは、動輪の回転方向及び速度を検出し、車輪速度又は回転角信号の値を出力することができる。動輪の回転方向に従って、運転者によって現在係合されているのが、前進ギア位置であるか、又は逆進ギア位置であるかを判断することが可能である。車輪速度又は回転角の値に従って、始動するための条件が満たされたか否かを判断することが可能である。始動するための条件が満たされると、ブレーキングが解除される。
【0051】
電子パーキングブレーキシステムのEPBコントローラー1は、ブレーキングを解除するための2つの方法を有する:
ブレーキングがパーキングブレーキシステムによって完了され、条件(1)〜(5)のいずれかが満たされるとき、EPBコントローラー1は、ブレーキングを回転及び解除するように作動機構2内のモーターを制御する。
ブレーキングが自動車のESPシステムによって完了され、条件(1)〜(5)のいずれかが満たされると、CANインターフェースモジュール11を通じて、EPBコントローラー1は、ブレーキングを解除するように、車体CANバスを経由して自動車のESPシステムにブレーキングパイプライン圧力を解除するためのコマンドを送信する。
【0052】
ここで、作動機構2はモーター及びギアダウン機構を備えており、ギアダウン機構は、パーキング及びパーキング解除動作を完了するように、モーターの出力トルクを拡大し、その出力トルクを、機械的接続を通じてパーキングブレーキに加える。
【0053】
電子パーキングブレーキシステムでは、自動パーキングを実現するための条件を判断するのが容易である。エンジン速度が0であるとき、パーキングを実現することが可能であり、いずれの問題も生じる可能性はない。
しかしながら、自動解除を実現するための条件を判断するのは、解除時に潜在的な安全上の問題が考慮されるべきであるので、比較的難しい。解除が早すぎる結果として坂道を滑り落ちることも、自動解除が遅すぎることに起因してエンジンにフレームアウトが生じること/更にはトランスミッションシステムが故障することも許されない。
自動解除が実行可能であるか否かを判断するために、動力が車輪に伝達されているか否か、及びそのような動力が、坂道を滑り落ちる事故が生じないのを確実にするのに十分であるか否かを知る必要がある。
動力が車輪に伝達されたか否かを判断するために、クラッチ位置センサー及びギア位置センサーを更に取り付けて、クラッチ位置信号及びギア位置信号を得る必要がある。結果として、製造コストが増加するだけでなく、それに加えて、クラッチ位置センサー及びギア位置センサーを増やすためにクラッチ制御機構及び変速制御機構を設計し直す必要もある。さらに、クラッチの使用時に、摩擦円板が徐々にすり減り、その係合点が絶えず変更され、クラッチ位置センサーの誤差が徐々に大きくなるので、電子パーキングブレーキシステムは、運転者の運転意図を判断する際に容易く間違える場合があり、それにより、坂道を滑り落ちる場合があるか、又はエンジンのフレームアウトが生じる場合がある。クラッチの耐用寿命は長期にわたって著しく低減される。
しかしながら、本発明によって提供されるような自動車用電子パーキングブレーキシステム及びその補助始動方法の応用形態では、クラッチ位置センサー及びギア位置センサーを更に取り付ける必要はない。自動車において入手可能な全てのセンサー信号及び検出信号に従って、そのシステムはブレーキを自動的に解除することができるか否かを正確に判断することができ、既存の自動車を変更する必要はなく、低コストで正確な判断をもたらすことができる。
【0054】
最終的には、以下のように述べられなければならない。上記の実施形態は、本発明の制限するのではなく、単に説明するために用いられる。本発明の詳細な説明は好ましい実施形態を参照しながら提供されるが、この分野の当業者は、本発明の原理及び範囲を逸脱することなく、本発明に変更を加えること、又は同等物による代用を行うことができることを理解されたい。これらの変更及び同等物による代用は、本発明の特許請求の範囲に含まれるべきである。
図1
図2
図3