(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シートバックおよびシートクッションを含む車両用シートの該シートバックに設けられ、インフレータから供給されるガスを利用して前記車両用シートの乗員の側方へ膨張展開するエアバッグと、
前記車両用シートの側面に配置され、前記エアバッグの展開時に、前記シートバックから前記シートクッションの車両前方の方向に向かって設けられる引張り部材とを備え、
前記エアバッグが展開する時に、前記シートバックから前記シートクッション前方にかけて、前記車両用シートの側面に沿って延びる前記引張り部材の経路の途中で、膨張する前記エアバッグによって、当該経路の最短距離から遠回りする迂回部分が前記引張り部材に生じるように、前記エアバッグと前記引張り部材とが前記車両用シートに配置され、
前記迂回部分は、展開した前記エアバッグの縁部をまたいで前記経路の最短距離から遠回りする部分であることを特徴とする車両用乗員保護装置。
前記引張り部材は、一端部が、前記シートバックの上部に取り付けられ、他端部が、側面視で着座している成人乗員の腰部近傍から前記シートクッションの車両前方部分の間で取り付けられていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の車両用乗員保護装置。
前記引張り部材の前記他端部は、前記シートクッションの一方の側面から他方の側面方向に向かって延びて、該シートクッションの内部に取付けられていることを特徴とする請求項7に記載の車両用乗員保護装置。
前記引張り部材は、一端部が、前記シートバックの上部に取り付けられ、他端部が、側面視で着座している成人乗員の腰部近傍から前記シートクッションの車両前方部分の間で、且つ前記シートクッションより車両下方に位置する部分に、取り付けられていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の車両用乗員保護装置。
前記引張り部材は、前記エアバッグの展開時に、側面視で着座している成人乗員の腰部から大腿部の間に相当する部分を通って取り付けられていることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の車両用乗員保護装置。
前記引張り部材は、前記車両用シートの側面に前記シートバックからシートクッションにかけて取付けられ、前記エアバッグ展開時には、該車両用シートに着座する乗員から見て外側で、前記エアバッグと重なるように設けられる帯状部材であることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の車両用乗員保護装置。
前記引張り部材は、膨張展開する前記エアバッグによって、前記引張り部材の中間部が前記車両用シートから離脱したときに、膨張する該エアバッグによってたるみが除去され、該引張り部材に発生した張力により該エアバッグを前記シートバックに押し付けることが可能な長さを有することを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の車両用乗員保護装置。
前記エアバッグは、側面視において膨張展開時に成人乗員の少なくとも肩部を支えるように、前記シートバックの所定の位置に設けられ、または所定の形状を有することを特徴とする請求項1から14のいずれか1項に記載の車両用乗員保護装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
サイドドア付近で展開するサイドエアバッグは、乗員を受け止めてもサイドドアによって支持されるため、膨張展開した位置に留まり、衝撃を吸収可能である。しかし、特許文献1に記載のようなファーサイドで展開するエアバッグ装置は、サイドドアのような物体で支持されないため、膨張展開しても、乗員を受け止めた衝撃によって倒れ、衝撃吸収に支障が出る可能性がある。
【0007】
また近年、1人乗り用の電気自動車、いわゆる超小型EV(electric vehicle)が注目されている。この超小型EVは、例えば1つの車両用シートを備えた車両であり、側突時などに車両用シートの側方に移動する乗員を保護するエアバッグ装置が必要となる。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑み、側突時などに車両用シートの側方で乗員をより確実に受け止めて保護することが可能なエアバッグ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明にかかるエアバッグ装置の代表的な構成は、シートバックおよびシートクッションを含む車両用シートのシートバックに設けられ、インフレータから供給されるガスを利用して車両用シートの乗員の側方へ膨張展開するエアバッグと、車両用シートの側面に配置され、エアバッグの展開時に、シートバックからシートクッションの車両前方の方向に向かって設けられる引張り部材とを備え、エアバッグが展開する時に、シートバックからシートクッション前方にかけて、車両用シートの側面に沿って延びる引張り部材の経路の途中で、膨張するエアバッグによって、当該経路の最短距離から遠回りする迂回部分が引張り部材に生じるように、エアバッグと引張り部材とが車両用シートに配置されることを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、車両用シートの側面に沿って延びる引張り部材の経路は、膨張するエアバッグによって、シートバックからシートクッション前方にかけて最短距離から遠回りする経路となる。つまり、引張り部材は、車両用シートの乗員の側方へ膨張展開するエアバッグによって、車両用シートの側方に押され、例えばエアバッグの表面に沿うことで上記の迂回部分が生じる。引張り部材は、エアバッグの展開に伴って迂回部分が生じることで、たるみが取られ、シートバックから車両前方の方向に向けて張られる。したがって、引張り部材は、乗員の例えば大腿部や腰部を車両用シートの側方から支持する。その結果、上記構成では、側突等により車両用シートの側方に移動する乗員を、エアバッグおよびそれを支持する引張り部材で受け止めることとなる。
【0011】
本発明によれば、エアバッグ単体で乗員を受け止める場合に比較して、エアバッグが倒れることなく適切に衝撃吸収するため、乗員をより確実に保護可能である。
【0012】
上記の引張り部材は、展開したエアバッグにより張力を付与されるとよい。この場合、引張り部材は、膨張展開するエアバッグにより引っ張られ、たるみが取られる。そして、展開したエアバッグにより張力を付与された引張り部材は、展開したエアバッグを車両用シートの側方から支持し、エアバッグをシートバックに押し付けてエアバッグの動きを規制する。なお上記構成では、引張り部材が支持すべきエアバッグにより張力を付与されるので、例えば適宜のアクチュエータを用いて引張り部材を引き込み、引張り部材に張力を与えるなどの機構が不要となり、構成を簡素化できる。
【0013】
上記の引張り部材は、一端部が、シートバックの上部に取り付けられ、他端部が、側面視で着座している成人乗員の腰部近傍からシートクッションの車両前方部分の間で取り付けられているとよい。これにより、引張り部材は、エアバッグが展開したとき一端部と他端部との間で、成人乗員の腰部から例えば大腿部までの間の領域を、エアバックを介して車両用シートの側方から支持できる。また、本願での成人乗員とは、一般的な平均的な体格の成人男性および女性、並びに小柄な成人女性までを含む。これら成人乗員の体格は、各国で自動車の安全規格(前面衝突用ダミーAF05,AM50や、側突用ダミーSID−IIs,ES−2など)によって定められており、本願において乗員の肩部、頭部といった場所は、これらのダミーの各部位の位置を示している。なお、引張り部材は、車両用シートの側面に沿って延びていて、一端部および他端部はエアバッグの外部に設けられている。このため、上記構成では、引張り部材をエアバッグの内部に設ける必要がないので、エアバッグ装置の設置などが容易となり、さらに構成を簡素化できる。
【0014】
上記の引張り部材の他端部は、シートクッションの一方の側面から他方の側面方向に向かって延びて、シートクッションの内部に取付けられているとよい。
【0015】
上記の構成によれば、シートクッションに着座している成人乗員が、側突等によりシートクッションの一方の側面側に移動する際、引張り部材は、シートクッションの一方の側面から他端部に至る範囲の一部が成人乗員の太腿に直接当たることとなる。このため、成人乗員の移動により引張り部材の一部が太腿によって押さえ込まれ、引張り部材に付与される張力が増すことになる。その結果、引張り部材は、膨張展開したエアバッグを車両用シートの側方からより確実に支持可能となり、乗員をより確実に保護できる。
【0016】
上記の引張り部材は、一端部が、シートバックの上部に取り付けられ、他端部が、側面視で着座している成人乗員の腰部近傍からシートクッションの車両前方部分の間で、且つシートクッションより車両下方に位置する部分に、取り付けられているとよい。なお、引張り部材の他端部が取り付けられる、シートクッションより車両下方に位置する部分とは、シートクッション下のレールや、車両の床面などが挙げられる。これにより、引張り部材は、エアバッグが展開したとき、シートバックの上部に取り付けられた一端部と、シートクッションより車両下方の位置の部分に取り付けられた他端部との間で、成人乗員の腰部から例えば大腿部までの間の領域を、エアバックを介して車両用シートの側方から支持できる。
【0017】
上記の引張り部材は、エアバッグの展開時に、側面視で着座している成人乗員の腰部から大腿部の間に相当する部分を通って取り付けられているとよい。これにより、引張り部材は、エアバッグが展開したとき、一端部と他端部との間で成人乗員の腰部から大腿部に至る領域を車両用シートの側方から支持し、乗員をより確実に受け止めることができる。
【0018】
上記の引張り部材は、車両用シートの側面にシートバックからシートクッションにかけて取付けられ、エアバッグ展開時には、車両用シートに着座する乗員から見て外側で、エアバッグと重なるように設けられる帯状部材であるとよい。このように、帯状部材である引張り部材は、乗員から見て外側でエアバッグと重なるように設けられるので、エアバッグを車両用シートの側方から支持できる。また、帯状部材は、エアバッグ膨張展開前は、車両用シートの側面に取付けられているため、乗員の邪魔になることもない。
【0019】
上記の引張り部材は、膨張展開するエアバッグによって、引張り部材の中間部が車両用シートから離脱したときに、膨張するエアバッグによってたるみが除去され、引張り部材に発生した張力によりエアバッグをシートバックに押し付けることが可能な長さを有するとよい。これにより、引張り部材は、膨張展開したエアバッグに押されて張力を与えられ、エアバッグをシートバックに押し付けることができる。なお、引張り部材の中間部とは、一端部および他端部以外の部分である。
【0020】
上記のエアバッグ装置は、エアバッグの車両用シートに着座する乗員から見た外側に、引張り部材を案内するガイド部をさらに備えるとよい。これにより、エアバッグが引張り部材をすり抜けて膨張展開することが防止される。よって、引張り部材は、膨張展開したエアバッグを車両用シートの側方からより確実に支持可能である。
【0021】
上記の引張り部材の一端部は、シートバックの第1取付点に取付けられていて、エアバッグは、膨張展開時に第1取付点よりも車両上下方向の高さが高い位置となる縁部を有するとよい。これにより、引張り部材は、エアバッグの膨張展開時に、第1取付点よりも高い位置にあるエアバッグの縁部によって折り返されるので、折り返された分、たるみが取られ、より迅速に張力が与えられる。
【0022】
上記の引張り部材の迂回部分は、第1取付点よりも車両上下方向の高さが高い位置に存在する部分であるとよい。これにより、引張り部材の経路は、膨張するエアバッグによって迂回した経路になる。一例として、引張り部材は、膨張するエアバッグにより、エアバッグの表面に沿って迂回し、迂回した分、たるみが取られ、エアバッグを挟み込んだ形状となる。その結果、引張り部材は、膨張するエアバッグから張力が与えられる。
【0023】
上記のエアバッグは、膨張展開時に引張り部材と接触する領域に補強構造を有し、補強構造は、補強縫製または補強布により形成されるとよい。これにより、エアバッグは、膨張展開時に引張り部材と接触する領域が補強されるので、引張り部材との摩擦に耐えることができる。よって、エアバッグは、膨張展開時に引張り部材との接触により変形せず、全体として、引張り部材によって車両用シートの側方から確実に支持される。
【0024】
上記のエアバッグは、側面視において膨張展開時に成人乗員の少なくとも肩部を支えるように、シートバックの所定の位置に設けられ、または所定の形状を有するとよい。これにより、エアバッグが乗員の肩部を拘束するので、頭部の移動を制限できる。
【0025】
上記のエアバッグは、側面視において膨張展開時に成人乗員の頭部を覆うよう、シートバックの所定の位置に設けられ、または所定の形状を有するとよい。これにより、エアバッグが乗員の肩部を拘束するだけでなく、頭部も覆うことで、頭部の移動を制限し、頭部が例えば車室内の硬い物体に衝突することを防止できる。
【0026】
上記のエアバッグ装置は、引張り部材の少なくとも他端部を回転自在に車両用シートに取付ける回転用固定具をさらに備えるとよい。ここで、引張り部材は、エアバッグが膨張展開すると、一端部から他端部まで差し渡される方向が変化する。しかし上記の回転用固定具によれば、引張り部材は、少なくとも他端部が回転するので、捩じれることなく方向を変えることができ、エアバッグ膨張展開前と同様の幅広な状態で、安定してエアバッグを支持可能である。
【0027】
上記の車両用シートは、車幅方向に複数設けられ、エアバッグは、車両用シートの車幅方向の車両中央側の側面に埋設され、引っ張り部材は、エアバッグの車両中央側を通るように設けられるとよい。これにより、車両用シートの車両中央側で膨張展開したエアバッグは、引張り部材により車両中央側から支持される。したがって、側突等により車両中央側に移動する乗員を、エアバッグおよびそれを支持する引張り部材で受け止めることができる。
【0028】
上記の車両用シートは、車幅方向に複数設けられ、引張り部材の他端部は、シートクッションの車両の中央側の側面から車両外側の側面方向に向かって延びて、シートクッションの内部に取付けられているとよい。これにより、車両用シートが車幅方向に複数設けられた車両において、引張り部材のうちシートクッションの車両中央側の側面から他端部に至る範囲の一部が、側突等により車両中央側に移動する成人乗員の太腿に直接当たることとなる。このため、引張り部材は、その一部が太腿によって押さえ込まれることで張力が増す。その結果、引張り部材は、膨張展開したエアバッグを車両中央側からより確実に支持可能となり、乗員をより確実に保護できる。
【0029】
上記の車両用シートは、車幅方向に1つのみ設けられ、引張り部材の他端部は、シートクッションの車両の車幅方向の一方の側面から他方の側面方向に向かって延びて、シートクッションの内部に取付けられているとよい。これにより、車両用シートが車幅方向に1つのみ設けられた車両(例えば1人乗り用の電気自動車、いわゆる超小型EV)において、引張り部材のうちシートクッションの車幅方向の一方の側面から他端部に至る範囲の一部が、側突等により車幅方向の一方の側面の側に移動する成人乗員の太腿に直接当たることとなる。このため、引張り部材は、その一部が太腿によって押さえ込まれることで張力が増す。その結果、引張り部材は、膨張展開したエアバッグを車幅方向の一方の側面の側からより確実に支持可能となり、乗員をより確実に保護できる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、側突時などに車両用シートの側方で乗員をより確実に受け止めて保護することが可能なエアバッグ装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0034】
図1は、本発明の実施形態におけるエアバッグ装置100が適用される車両110の一部を示す図である。エアバッグ装置100は、例えば図中点線で示すように、車両用シート120の車両中央側の側面に埋設されている。車両用シート120は、車両110内の左側前部座席(例えば、助手席)であり、シートバック122と、乗員が着座するシートクッション124とを有する。
【0035】
車両用シート120の車両外側には、サイドドア130が位置していて、車両中央側には、車両用シート120Aが配置されている。車両用シート120Aは、右側前部座席(例えば、運転席)であり、シートバック122Aおよびシートクッション124Aを有している。なお、上記エアバッグ装置100は、車両用シート120Aの車両中央側の側面に埋設してもよい。
【0036】
以下、車両用シート120に埋設されたエアバッグ装置100について説明する。
図2は、
図1のエアバッグ装置100が収容された状態を例示する図である。なお、
図2では、紙面手前側が車両中央側、紙面奥側が車両外側となる。
【0037】
エアバッグ装置100は、
図2に示すように、シートバック122に埋設されたエアバッグ140と、シートバック122からシートクッション124にかけて取付けられたベルト(あるいはテザー)などの帯状部材150とを備える。なお、エアバッグ140および帯状部材150は、
図2では車両用シート120の車両中央側の側面にて視認されるように示しているが、エアバッグ140の膨張展開に伴って開裂する適宜のカバーにより覆われていてもよい。
【0038】
エアバッグ140は、
図2に示すように、両端142a、142bが縫製などにより車両中央側の表面に取付けられたガイド部142を有する。ガイド部142は、埋設されたエアバッグ140と帯状部材150とが側面視において重なるように、帯状部材150を案内する。帯状部材150は、ガイド部142に案内されながら、エアバッグ140の車両中央側の表面を通っている。
【0039】
帯状部材150は、
図2に示すように、上端部(一端部)152がスルーアンカー154を介して第1取付点156にて固定され、下端部(他端部)158がスルーアンカー160を介して第2取付点162にて回転自在に固定されている。ここでは、固定具としてスルーアンカー154、160を用いたが、これに限られず、いわゆるDリングであれば適宜の固定具を用いてよい。
【0040】
また、第1取付点156は、シートバック122内のシートフレーム164に設定されている。第2取付点162は、第1取付点156よりも車両前側に位置していて、例えばシートクッション124内の適宜のフレームに設定されている。
【0041】
以下、
図3および
図4を参照して、エアバッグ装置100が膨張展開した状態について説明する。
図3は、
図2のエアバッグ装置100が膨張展開した状態を例示する図である。
図3(a)は、膨張展開したエアバッグ装置100を車両中央側から見た状態を示している。
図3(b)は、
図3(a)のエアバッグ140を透過して示している。
図4は、
図3のエアバッグ装置100を車両前側から見た状態を例示する図である。なお、図中では、乗員を模したダミー166を示している。また、
図4では、側突に伴う横方向の衝撃(矢印A参照)を車両110が受けて、ダミー166が慣性によって車両中央側に向かう横方向の衝撃(矢印B参照)を受けて車両中央側に移動する状態を示している。つまり、側突に伴うダミー166の動線軸は、これら矢印A、Bで示される横方向(すなわち車幅方向)となる。
【0042】
エアバッグ装置100は、上記エアバッグ140および帯状部材150に加えて、
図3(b)に示すインフレータ168を備えている。以下、側突時でのエアバッグ装置100の動作について説明する。
【0043】
まず、エアバッグ140は、インフレータ168から供給されるガスを利用して、車両用シート120の車両中央側に膨張展開する。このとき、帯状部材150は、車両中央側に膨張展開するエアバッグ140によって押される。これに伴い、車両用シート120の車両中央側の側面を覆う適宜のカバーが開裂し、帯状部材150の上端部152および下端部158以外が、車両用シート120から離脱する。
【0044】
また、膨張展開したエアバッグ140の縁部(上縁部144)は、
図3(b)に示すように、帯状部材150の上端部152がスルーアンカー154を介してシートバック122に取付けられた第1取付点156よりも、車両上下方向の高さが高い位置にある。その結果、帯状部材150は、
図3(b)に示すように、エアバッグ140の上縁部144に接触した頂部170にて折り返される。頂部170にて折り返される帯状部材150は、上端部152から頂部170を経由して下端部158に至るまでの間に、膨張展開したエアバッグ140の表面に沿って迂回し、エアバッグ140を挟み込んだ形状となる。
【0045】
なお
図3(b)および
図4では、第1取付点156の車両上下方向の高さを、点線Lにて示している。ここで、エアバッグ140の膨張展開時に、点線Lよりも高い位置にある帯状部材150の範囲を迂回部分171とする。迂回部分171は、
図3(b)に例示するように、上端部152から頂部170を経由して図中網点で示した範囲となる。
【0046】
ところで、帯状部材150は、
図2に示したように、車両用シート120の側面に沿って、シートバック122の第1取付点156からシートクッション124の第2取付点162に至る長さを有している。そのため、帯状部材150は、単に車両用シート120から離脱するのでは、たるみを含んでいて、張力を得ることができない。しかし、上記したように、帯状部材150は、車両中央側に膨張展開したエアバッグ140により頂部170にて折り返され、エアバッグ140の表面に沿うことにより、迂回部分171が生じて、たるみが取られる。
【0047】
言い換えると、帯状部材150は、シートバック122からシートクッション124前方にかけて、車両用シート120の側面に沿って延びている。そして、エアバッグ140の展開時に、帯状部材150は、シートバック122からシートクッション124の車両前方の方向に向かう経路の途中で、膨張するエアバッグ140によって、経路の最短距離から遠回りする迂回部分171を生じる。迂回部分171が生じて、たるみが取られた結果、帯状部材150は、膨張展開するエアバッグ140からより迅速に張力を受けて、エアバッグ140をシートバック122に押し付けて支持することが可能となる。
【0048】
このように、帯状部材150は、展開したエアバッグ140によって引っ張られて、たるみが取られることで、張力を付与される引張り部材と言える。なお、引張り部材としては、展開したエアバッグ140により付与される部材であれば、ベルトなどの帯状部材150に限らず、紐状のもの、あるいはもっと幅広で面積の大きな布状のものなどでもよく、さらに、密に織り込まれた生地からなるものばかりでなく、網目状の形状を有するものでもよい。
【0049】
また、帯状部材150の下端部158は、上記したように、第1取付点156よりも車両前側に位置する第2取付点162にて、スルーアンカー160により回転自在に固定されている。ここで、帯状部材150は、エアバッグ140の膨張展開によって上端部152および下端部158以外(すなわち、中間部)が車両用シート120から離脱するため、差し渡される方向が変化する。しかし、帯状部材150の下端部158をスルーアンカー160にて回転自在に固定することで、帯状部材150は、捩じれることなく方向を変えられる。そのため、帯状部材150は、膨張展開前と同様の幅広な状態で、安定してエアバッグ140を支持できる。
【0050】
一例として、帯状部材150は、
図3(b)に示すように、頂部170から下端部158に至るまで車両前側に向かって捩れることなく、幅広な状態で斜め下方に延びている。このとき、帯状部材150は、ダミー166の例えば腰部から大腿部の間に相当する部分に側面視で重なっている。
【0051】
さらに、エアバッグ140の車両中央側の表面に取付けられた上記ガイド部142が帯状部材150を案内することで、エアバッグ140が帯状部材150をすり抜けて膨張展開することが防止される。言い換えると、帯状部材150の張力が作用する、エアバッグ140の表面上の点がバラつくことを防止できるので、乗員保護性能が安定する。
【0052】
また、エアバッグ140は、
図3(a)および
図3(b)に示すように、ダミー166の肩部、胸部、さらに腹部の一部と側面視で重なっている。つまり、エアバッグ140は、側面視において膨張展開時に成人乗員の少なくとも肩部を支えるように、シートバック122の所定の位置に設けられ、または所定の形状を有している。これにより、エアバッグ140が乗員の肩部を拘束することになり、頭部の移動を制限できる。ここで、所定の位置とは、例えば、シートバック122の上端に可能な限り接近した位置であってよい。また、所定形状とは、図示のように、膨張展開時でのエアバッグ140の上縁部144が、ダミー166の肩部よりも高くなるように、車両前側に向かって上方に傾斜する形状であってよい。
【0053】
したがって、エアバッグ装置100では、
図3(a)および
図4に示すように、膨張展開したエアバッグ140に押されて張力を与えられた帯状部材150が、膨張展開したエアバッグ140を車両中央側から支持し、エアバッグ140をシートバック122に押し付けてエアバッグ140の動きを規制する。さらに、帯状部材150は、
図3(a)に示すように、頂部170から下端部158に至る箇所で乗員の例えば腰部から大腿部に至る部位などを車両中央側から支持する。したがって、エアバッグ装置100では、側突等により車両中央側に移動する乗員を、エアバッグ140およびそれを支持する帯状部材150で受け止めることとなる。よって、エアバッグ装置100によれば、エアバッグ140単体で乗員を受け止める場合に比べて、エアバッグ140が倒れることなく適切に衝撃吸収するため、乗員をより確実に保護できる。
【0054】
また、帯状部材150は、エアバッグ140膨張展開前は、車両用シート120の車両中央側の側面に取り付けられているため、シートバック122のリクライニングあるいは乗降の際、乗員の邪魔になることがない。
【0055】
さらに、エアバッグ140について説明する。
図5は、
図3のエアバッグ装置100のエアバッグ140を例示する図である。図中では、膨張展開した状態のエアバッグ140を示している。
図5(a)は、エアバッグ140に補強縫製部146を形成した状態を示している。
図5(b)は、エアバッグ140に別体の補強布148を取付けた状態を示している。
【0056】
図5(a)に示すエアバッグ140は、車両中央側の表面に両端142a、142bが縫製された上記ガイド部142に加えて、膨張展開時に上記帯状部材150と接触する領域に補強縫製部146を有する。
【0057】
補強縫製部146を有するエアバッグ140では、膨張展開時に帯状部材150と接触する領域が補強される。つまり、エアバッグ140は、補強縫製部146により形成された補強構造によって、帯状部材150との摩擦に耐えることが可能となる。
【0058】
図5(b)に示すエアバッグ140は、上記ガイド部142に加えて、膨張展開時に上記帯状部材150と接触する領域だけでなく、この領域の周囲も覆う別体の補強布148を有する。なお、ここでのガイド部142の両端142a、142bは、補強布148と重なったエアバッグ140の車両中央側の表面に縫製されている。
【0059】
補強布148を有するエアバッグ140では、膨張展開時に帯状部材150と接触する領域だけでなく、その領域の周囲も補強される。つまり、エアバッグ140は、別体の補強布148により形成された補強構造によって、帯状部材150との摩擦に十分に耐えることが可能となる。
【0060】
その結果、エアバッグ140は、補強縫製146または別体の補強布148などで形成される補強構造を有することで、膨張展開時に帯状部材150との接触により変形せず、全体として、帯状部材150によって車両中央側から確実に支持されることになる。また、帯状部材150においては、
図3(b)に示すように、エアバッグ140と接触する箇所に縫製部分172などを形成して、エアバッグ140の膨張展開時にエアバッグ140との位置ずれを防止するようにしてもよい。
【0061】
図6は、他のエアバッグ装置100Aが膨張展開した状態を例示する図である。なお、図中では、上記エアバッグ装置100に示す部材と同一部材には同一符号を付し、説明を適宜省略する。
【0062】
エアバッグ装置100Aは、エアバッグ140Aが、側面視において膨張展開時にダミー166の頭部を覆っている点で、上記エアバッグ装置100と異なる。
【0063】
エアバッグ装置100では、上記したように、エアバッグ140が、ダミー166の肩部、胸部、腹部の一部と側面視で重なっている。これに対して、エアバッグ装置100Aでは、エアバッグ140Aの形状をエアバッグ140よりも大きくし、あるいはシートバック122に埋設するエアバッグ140Aの位置を変更している。具体的には、例えば、シートバック122の上端に可能な限り接近した位置にエアバッグ140Aを埋設している。また、例えば、エアバッグ140Aの形状は、図示のように、膨張展開時の縁部(上縁部144A)が車両前側に向かって上方に傾斜し、車両前側の縁が車両後側の縁よりも長い形状としてよい。このようにすれば、エアバッグ140Aによって、ダミー166の肩部、胸部、腹部の一部に加えて、頭部も覆うことができる。よって、エアバッグ装置100Aでは、エアバッグ140Aが乗員の肩部を拘束するだけでなく、頭部も覆うことで、頭部の移動を制限し、頭部が例えば車室内の硬い物体に衝突することを防止できるので、乗員保護性能をより向上させることが可能である。
【0064】
また、エアバッグ140Aが膨張展開したときの上縁部144Aは、上記上縁部144よりも高い位置になる。このため、帯状部材150は、上記頂部170よりも高い位置となる頂部170Aにて折り返され、たるみが十分に取られて張力が与えられる。したがって、エアバッグ装置100Aでは、膨張展開したエアバッグ140Aを帯状部材150によって車両中央側からより確実に支持できる。
【0065】
上記各実施形態では、エアバッグ装置100、100Aに対して、車両用シート120に着座する乗員を想定したが、これに限らず、車両用シート120Aに着座する乗員が車両中央側に投げ出されたとしても、エアバッグ140、140Aおよび帯状部材150にてその乗員を保護することが可能である。
【0066】
また、エアバッグ140および帯状部材150は、車両用シート120の車両中央側の側面にて、エアバッグ140の膨張展開に伴って開裂する適宜のカバーにより覆われているとしたが、これに限られない。一例として、車両用シート120の側面と帯状部材150とをマジックテープ(登録商標)などを用いて互いに固定し、エアバッグ140の膨張展開に伴って互いの固定が解除され、帯状部材150が離脱するようにしてもよい。つまり、エアバッグ140および帯状部材150は、車両用シート120内に必ずしも隠す(埋設)必要はなく、外部から視認されるように単に設けてもよい。
【0067】
さらに、帯状部材150はエアバッグ140の上縁部144にて折り返されることで張力を与えられるとしたが、これに限らず、上端部152から下端部158に至るまでの間に、エアバッグ140の表面に沿って迂回して、たるみが取られるのであれば、上縁部144にて折り返されなくとも張力を与えることは可能となる。言い換えると、帯状部材150は、膨張展開するエアバッグ140に押されて車両用シート120から離脱したときに、膨張するエアバッグ140によってたるみが除去され、帯状部材150に発生した張力によりエアバッグ140をシートバック122に押し付けることが可能な長さを有すればよい。
【0068】
また、帯状部材150の下端部158は、シートクッション124内の適宜のフレームに設定された第2取付点162で固定されているとしたが、これに限定されない。すなわち、第2取付点162が第1取付点156よりも車両前側に位置していて、帯状部材150がエアバッグ140の膨張展開時に乗員の少なくとも大腿部と側面視において重なるのであれば、第2取付点162は、シートクッション124の車両下方に位置するレールあるいは車両床面に適宜設定してもよい。
【0069】
図7は、他のエアバッグ装置100Bが収容された状態および膨張展開した状態を例示する図である。なお、図中では、上記エアバッグ装置100に示す部材と同一部材には同一符号を付し、説明を適宜省略する。
図7(a)は、エアバッグ装置100Bが車両用シート120の車両中央側の側面に埋設された状態を例示している。
図7(b)は、ダミー166が着座した状態でエアバッグ装置100Bが膨張展開した状態を例示する図である。
【0070】
図7(a)に例示するように、膨張展開前のエアバッグ装置100Bでは、帯状部材150の下端部158がシートクッション124の一方(車両中央側)の側面125a付近ではなく、他方(車両外側)の側面125bまで延びている。そして下端部158は、車両外側の側面125b付近にてシートクッション124内の適宜のフレームに固定されている。この点で、エアバッグ装置100Bは、上記エアバッグ装置100と異なる。
【0071】
帯状部材150は、
図7(a)に示すように、シートクッション124の車両中央側の側面125aから車両外側の側面125bに向けて延長され下端部158に至るように、シートクッション124に埋設されている。帯状部材150のうち、シートクッション124の車両中央側の側面125aから下端部158に至るまでの範囲の一部159は、
図7(b)に示すように、着座しているダミー166の太腿に相当する部分167の下側を通っている。なお、帯状部材150の上記範囲の一部159は、エアバッグ140の膨張展開に伴って開裂する適宜のカバーにより覆われている。
【0072】
以下、
図7(b)、
図8および
図9を参照して、エアバッグ装置100Bが膨張展開した状態での帯状部材150の挙動を説明する。
図8は、
図7のエアバッグ装置100Bが膨張展開した状態(ダミー166が着座していないとき)を車両前側から見た様子を例示する図である。
図9は、
図7のエアバッグ装置100Bが膨張展開した状態(ダミー166が着座しているとき)を車両前側から見た様子を例示する図である。
【0073】
図8に示すように、側突に伴う横方向の衝撃(矢印A参照)を車両110が受けると、帯状部材150は、膨張展開したエアバッグ140に押されて張力を与えられ、帯状部材150を覆う適宜のカバーが開裂する。そして、帯状部材150は、シートクッション124の車両外側の側面125b付近に位置する下端部158からエアバック140に向かって斜め上方に張った状態になる。
【0074】
つぎに、
図7(b)および
図9に例示するように、シートクッション124に着座しているダミー166が側突等により車両中央側に移動する場合(矢印B参照)について説明する。この場合には、引張り部材150は、シートクッション124の車両中央側の側面125aから他端部158に至る範囲の一部159がダミー166の太腿に相当する部分167に直接当たることとなる。
【0075】
ダミー166が着座していない
図8の状態と比較すると、ダミー166が着座していれば、
図9のように、引張り部材150の一部159が太腿に相当する部分167によって押さえ込まれる。したがって、それだけ、引張り部材150に付与される張力が増すことになる。さらに、側突等により車両中央側にダミー166が移動するほど、引張り部材150がダミー166によって押さえ込まれる一部159の長さが長くなるから、その分だけ、引張り部材150の張力がさらに増すこととなる。したがって、エアバッグ装置100Bによれば、張力が増した引張り部材150によって、膨張展開したエアバッグ140を車両中央側からより確実に支持可能となり、乗員をより確実に保護できる。
【0076】
また、上記実施形態では、エアバッグ装置100、100A、100Bを、2つの車両用シート120、120Aを備えた車両110に適用した場合を説明したが、これに限定されない。一例として、エアバッグ装置100、100A、100Bを、1人乗り用の電気自動車、いわゆる超小型EVに適用してもよい。
【0077】
超小型EVは、1つの車両用シート(例えば車両用シート120)を備えた車両である。このような車両では、エアバッグ装置100、100A、100Bのエアバッグ140、140Aは車両用シート120の「車両中央側」ではなく、車両用シート120の「乗員の側方」へ膨張展開することになる。
【0078】
また、上記の車両では、帯状部材150は、車両用シート120の「車両中央側」ではなく、車両用シート120の「側面」に配置され、エアバッグ140、140Aの展開時には、車両用シート120に着座する乗員から見て外側で、エアバック140、140Aと重なるように設けられる。そして、展開したエアバッグ140、140Aにより張力を付与された帯状部材150は、展開したエアバッグ140、140Aを車両用シート120の側方から支持できる。なお、ガイド部142は、エアバッグ140、140Aの、車両用シート120に着座する乗員から見た外側に、帯状部材150を案内する。
【0079】
ここで、上記の車両において、
図7(a)に示した側面125aは、シートクッション124の車両の車幅方向の一方の側面となり、また、側面125bは、シートクッション124の車両の車幅方向の他方の側面となる。このため、上記の車両に帯状部材150を適用した場合、帯状部材150は、
図7(a)に示すように、シートクッション124の車両の車幅方向の一方の側面125aから他方の側面125bに向けて延長され下端部158に至るように、シートクッション124に埋設されることになる。そして、帯状部材150のうち、シートクッション124の車両の車幅方向の一方の側面125aから下端部158に至るまでの範囲の一部159は、
図7(b)に示すように、着座しているダミー166の太腿に相当する部分167の下側を通っている。
【0080】
よって、帯状部材150の一部159が、側突等により車幅方向の一方の側面125aの側に移動するダミー166の太腿に直接当たることとなる。このため、帯状部材150は、
図9に例示したように、その一部159が太腿に相当する部分167よって押さえ込まれることで張力が増す。その結果、帯状部材150は、膨張展開したエアバッグ140、140Aを車幅方向の一方の側面125aの側からより確実に支持可能となる。
【0081】
したがって、1つの車両用シート120を備えた超小型EVなどの車両にエアバッグ装置100、100A、100Bを適用した場合であっても、側突等により車両用シート120の側方に移動する乗員を、エアバッグ140、140Aおよびそれを支持する帯状部材150で受け止めて、保護することが可能となる。
【0082】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0083】
また、上記実施形態においては本発明にかかるエアバッグ装置100を自動車に適用した例を説明したが、自動車以外にも航空機や船舶などに適用することも可能であり、同様の作用効果を得ることができる。