特許第5793231号(P5793231)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5793231
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】ヨウ素酸イオン吸着剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/06 20060101AFI20150928BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20150928BHJP
   C01F 17/00 20060101ALI20150928BHJP
   C01B 7/14 20060101ALI20150928BHJP
   G21F 9/12 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   B01J20/06 A
   B01J20/30
   C01F17/00 A
   C01B7/14
   G21F9/12 501B
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-180790(P2014-180790)
(22)【出願日】2014年9月5日
【審査請求日】2015年2月17日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076532
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 修
(74)【代理人】
【識別番号】100101292
【弁理士】
【氏名又は名称】松嶋 善之
(74)【代理人】
【識別番号】100107205
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100112818
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 昭久
(74)【代理人】
【識別番号】100155206
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 源一
(72)【発明者】
【氏名】宮部 慎介
(72)【発明者】
【氏名】木ノ瀬 豊
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 清
(72)【発明者】
【氏名】小指 健太
(72)【発明者】
【氏名】徳武 茉里
【審査官】 松本 直子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−187931(JP,A)
【文献】 特開2013−117524(JP,A)
【文献】 特開2007−283168(JP,A)
【文献】 特開2007−098365(JP,A)
【文献】 特開2008−024912(JP,A)
【文献】 特開2014−213233(JP,A)
【文献】 特開2012−250198(JP,A)
【文献】 特開平11−084084(JP,A)
【文献】 米国特許第05619545(US,A)
【文献】 小松崎優子他,N37 多核種汚染水のワンスルー浄化のための吸着剤の開発(2)セリア担持活性炭のアンチモン・ヨウ素酸イオン吸着特性,日本原子力学会「2013年秋の大会」予稿集(CD−ROM),日本原子力学会,2013年,648頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00− 20/34
G21F 9/12
C02F 1/28
C02F 1/42
C01B 7/14
C01F 17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化セリウム(IV)を含むヨウ素酸イオンの吸着剤であって、
前記の水酸化セリウム(IV)は、熱重量分析において200℃から600℃まで温度上昇したときの重量減少率が4.0%以上10.0%以下であり、且つ前記の水酸化セリウム(IV)は、赤外吸収スペクトル分析したときに、3270cm-1以上3330cm-1以下、1590cm-1以上1650cm-1以下及び1410cm-1以上1480cm-1以下の各範囲に吸収ピークが観察される、ヨウ素酸イオン吸着剤。
【請求項2】
前記の水酸化セリウム(IV)が粉体又はこれを粒状化させてなる粒状体である、請求項に記載のヨウ素酸イオン吸着剤。
【請求項3】
請求項1に記載のヨウ素酸イオン吸着剤の製造方法であって、
3価のセリウム塩を酸化して4価のセリウム塩とし、得られた4価のセリウム塩の水溶液を中和後のpHが6.5以上9.5以下となるように中和して前記の水酸化セリウム(IV)を得る、ヨウ素酸イオン吸着剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨウ素酸イオンの吸着性に優れた吸着剤及びその製造方法に関するものであり、原子力発電所の事故により発生した汚染水の処理に有用なヨウ素酸イオン吸着剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力施設から排出される放射性ヨウ素は、ヨウ素(I2)、ヨウ化水素酸(HI)及びヨウ化メチル(CH3I)の3種類と言われている。
【0003】
これらの放射性ヨウ素の除去方法としては、次の方法が用いられている。
(1)ヨウ素含有気体又は液体を、銀ゼオライトに接触させてヨウ化銀として捕集する方法(下記非特許文献1)。
(2)ヨウ化カリウムを添着した添着活性炭を大量に使用して、放射性ヨウ素(ヨウ素131)を非放射性ヨウ素と同位体交換することによって捕集する方法(下記特許文献1)。
(3)ヨウ素含有気体又は液体を、アミノ基を有するイオン交換性繊維に接触させて、除去する方法(下記特許文献2)。
(4)不溶性のシクロデキストリン又はその誘導体を有効成分としてヨウ素を吸着する方法(下記特許文献3)。
【0004】
また、セレンやホウ素、ヒ素等の吸着剤としてセリウム化合物を用いる技術が知られている(下記特許文献4〜6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−254446号公報
【特許文献2】国際公開第2012/147937号パンフレット
【特許文献3】特開2008−93545号公報
【特許文献4】特開2013−78711号公報
【特許文献5】特開2008−259942号公報
【特許文献6】国際公開第2011/052008号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】革新的実用原子力技術開発費補助事業 平成15年度成果報告書概要版 「放射性ヨウ素の処理処分に関する技術開発」 平成16年3月 独立行政法人 物質材料研究機構
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
最近、ヨウ素、ヨウ化水素酸、ヨウ化メチルの他に、ヨウ素酸(IO3)イオンの除去が問題になっている。これは、原発汚染水の処理工程において、次亜塩素酸ソーダが使用されているため、汚染水中のヨウ素イオンが次亜塩素酸ソーダにより酸化されてヨウ素酸イオンが生成することに起因しているものと推定される。
従来の放射性ヨウ素の吸着剤に係る非特許文献1及び特許文献1〜3においては、ヨウ素酸の吸着について検討しておらず、ヨウ素酸の吸着剤としては不十分である。また、特許文献4〜6に記載のセリウム化合物を用いた吸着剤についても、ヨウ素酸の吸着に関するものではなく、セリウム化合物においてヨウ素酸の吸着性能を高めることについて何ら検討していない。
【0008】
したがって、本発明はヨウ素酸イオンの吸着性能が優れるヨウ素酸イオンの吸着剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定条件の熱重量分析における熱重量減少率が特定値である水酸化セリウム(IV)が、ヨウ素酸イオンの吸着性能に優れていることを見出した。
【0010】
すなわち本発明は、水酸化セリウム(IV)を含むヨウ素酸イオンの吸着剤であって、
前記の水酸化セリウム(IV)は、熱重量分析において200℃から600℃まで温度上昇したときの重量減少率が4%以上10%以下である、ヨウ素酸イオン吸着剤を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、3価のセリウム塩を酸化して4価のセリウム塩とし、得られた4価のセリウム塩の水溶液を中和して前記の水酸化セリウム(IV)を得る、ヨウ素酸イオン吸着剤の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ヨウ素酸イオンの吸着除去特性に優れた吸着剤を提供できるとともに、該吸着剤として有効な水酸化セリウムを工業的に有利な方法で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施例1で製造した水酸化セリウムを赤外吸収スペクトル分析して得られたチャートである。
図2図2は、実施例2で製造した水酸化セリウムを赤外吸収スペクトル分析して得られたチャートである。
図3図3は、比較例1で製造した水酸化セリウムを赤外吸収スペクトル分析して得られたチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のヨウ素酸イオン吸着剤について、その好ましい実施形態に基づき説明する。
【0015】
本発明のヨウ素酸イオン吸着剤(以下、単に本発明の吸着剤ともいう)は、水酸化セリウム(IV)を含有している。本発明のヨウ素酸イオン吸着剤で用いる水酸化セリウム(IV)は、粉体であっても、該粉体を粒状化してなる粒状体であってもよく、それらの混合物であってもよい。ここでいう粉体ないし粒状体は粒度が20μm以上1000μm以下であることが好ましい。本発明で用いる水酸化セリウム(IV)の粒度がこの範囲であることは、水酸化セリウム(IV)がJIS Z8801に規定する公称目開き1000μmの篩を全通し、前記の公称目開き20μmの篩を通らないことを確認すればよい。
【0016】
本発明の吸着剤は、熱重量分析したときに、200℃から600℃まで温度上昇したときの重量減少率が特定範囲である水酸化セリウム(IV)を用いることに特徴の一つを有する。
【0017】
本発明者らは、水酸化セリウム(IV)によるヨウ素酸イオンの吸着性能を高めるために、水酸化セリウム(IV)における、イオン交換に寄与できるOH基の量が重要であると考えた。この理由は以下の通りである。
水酸化セリウム(IV)によるアニオンの吸着メカニズムは、水酸化セリウム(IV)のOH基と水中のアニオンとが一定の条件で反応するイオン交換反応と考えられている。本発明者らは、ヨウ素酸イオン(IO3-イオン)の吸着についても同様であり、IO3-イオンは、以下の化学反応式に示される水酸化セリウムのOH基とのイオン交換反応により、水酸化セリウムの表面に吸着されると推定している。
【0018】
【化1】
【0019】
つまり水酸化セリウム(IV)をヨウ素酸を含む水等と接触させると、非化学量論的な化合物Ce(OH)4-xが生成し、これとヨウ素酸イオンが反応してCe(OH)4-x(IO3xで表される化合物が生成し、この化合物が水酸化セリウム表面に固定化されると考えられる。そのため、吸着剤に用いる水酸化セリウム(IV)において、イオン交換に寄与できるOH基の量が多いほど、吸着能が向上することとなる。
【0020】
本発明者らは、水酸化セリウム(IV)におけるイオン交換に寄与できるOH基の量が、熱重量分析における重量減少率と高い相関関係にあると考え、重量減少率と、水酸化セリウム(IV)によるヨウ素イオン吸着性能との関係を鋭意研究した。その結果、水酸化セリウム(IV)の粉体又は粒状体の200℃から600℃まで温度上昇したときの重量減少率が4.0%以上であると、高いヨウ素酸の吸着性能が得られることを知見した。また、本発明で用いる水酸化セリウム(IV)の粉体又は粒状体の前記の重量減少率は、10.0%以下であり、これにより本発明の吸着剤はイオン交換可能なOH基を特定の範囲内で制御した吸着剤であり、安定した吸着性能を保持するという利点を有する。これらの観点から、前記の重量減少率は、4.0%以上10.0%以下であることが好ましく、4.0%以上8.0%以下であることがより好ましい。水酸化セリウム(IV)の重量減少率を前記の範囲とするためには、後述する好ましい製造方法により、水酸化セリウム(IV)を製造すればよい。前記の重量減少率は、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0021】
本発明で用いる水酸化セリウム(IV)のみならず、本発明の吸着剤そのものを熱重量分析したときも、200℃から600℃まで温度上昇したときの重量減少率は、通常、前記の各範囲内となる。
【0022】
本発明で用いられる水酸化セリウム(IV)は、赤外吸収スペクトル分析において、3270cm-1以上3330cm-1以下の範囲にヒドロキシル基の伸縮振動に帰属する吸収ピークが観察され、更に、1590cm-1以上1650cm-1以下の範囲及び1410cm-1以上1480cm-1以下の範囲にヒドロキシル基の変角振動に帰属する吸収ピークが観察されることを別の特徴とする。ヨウ素酸イオンの吸着能力の高い水酸化セリウムはこの分析において、3300cm-1付近にヒドロキシル基の伸縮振動に帰属する吸収ピーク並びに、1620cm-1付近及び1470cm-1付近にヒドロキシル基の変角振動に帰属する吸収ピークが明確に認められる。これに対して吸着能力の低い水酸化セリウム(IV)はこれらの吸収ピークが小さい。好ましくは、本発明で用いられる水酸化セリウム(IV)の粉体又は粒状体は、赤外吸収スペクトル分析において、3280cm-1以上3325cm-1以下、特に3290cm-1以上3320cm-1以下の範囲にヒドロキシル基の伸縮振動に帰属する吸収ピークが観察されることが好ましく、1600cm-1以上1640cm-1以下、特に1610cm-1以上1630cm-1以下の範囲にヒドロキシル基の変角振動に帰属する吸収ピークが見られることが好ましく、1420cm-1以上1475cm-1以下、特に1430cm-1以上1470cm-1以下の範囲にヒドロキシル基の変角振動に帰属する吸収ピークが見られることが好ましい。前記の各範囲のピークを有する水酸化セリウム(IV)を得るためには、後述する好ましい製造方法により、水酸化セリウム(IV)を製造すればよい。赤外吸収スペクトルは、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0023】
通常、本発明で用いる水酸化セリウム(IV)のみならず、本発明の吸着剤そのものを赤外吸収スペクトル分析したときも、前記で挙げた各範囲に吸収ピークが観察される。
【0024】
本発明の吸着剤は、前記の水酸化セリウム(IV)を、そのまま用いたものであってもよいし、或いは、水酸化セリウム(IV)に各種の成形加工を施したものであってもよい。このような成形加工の例としては、例えば水酸化セリウム(IV)の粉体又は粒状体を顆粒状に成型するための造粒加工や、水酸化セリウム(IV)の粉体又は粒状体をスラリー化して塩化カルシウム等の硬化剤を含む液中に滴下して水酸化セリウム(IV)をカプセル化する方法、樹脂芯材の表面に水酸化セリウム(IV)の粉体又は粒状体を添着被覆処理する方法、天然繊維又は合成繊維で形成されたシート状基材の表面及び/又は内部に水酸化セリウム(IV)の粉体又は粒状体を付着させて固定化してシート状にする方法などを挙げることができる。造粒加工の方法としては、公知の方法が挙げられ、例えば攪拌混合造粒、転動造粒、押し出し造粒、破砕造粒、流動層造粒、噴霧乾燥造粒(スプレードライ)、圧縮造粒等を挙げることができる。造粒の過程において必要に応じバインダーや溶媒を添加、混合してもよい。特に水酸化セリウム(IV)の粒径が小さい場合、これをそのまま吸着塔に充填して通水すると、水酸化セリウム(IV)の粒子が吸着塔内で詰まる場合があるため、上記各種成形加工を施すことによって、吸着塔内で使用しやすい形態とすることが好ましい。
【0025】
前記のバインダーとしては有機及び無機のいずれであってもよく、有機の結合剤としては例えばポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、デンプン、コーンスターチ、糖蜜、乳糖、ゼラチン、デキストリン、アラビアゴム、アルギン酸、ポリアクリル酸、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。無機のバインダーの例としては、アルミナゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル、炭酸ジルコニウムアンモニウム、シリカゾル、水ガラス、シリカ・アルミナゾル等が挙げられる。溶媒としては水性溶媒や有機溶媒等各種のものを用いることができる。また前記の成形加工において、顆粒等の成形品に磁性粒子を含有させると、吸着剤をヨウ素酸イオンを含む水から磁気分離で回収可能なものとすることが出来る。磁性粒子としては、例えば鉄、ニッケル、コバルト等の金属又はこれらを主成分とする磁性合金の粉末、四三酸化鉄、三二酸化鉄、コバルト添加酸化鉄、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト等の金属酸化物系磁性体の粉末が挙げられる。
【0026】
本発明のヨウ素酸イオン吸着剤は、水酸化セリウム(IV)の含有量は、例えば、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましい。特に、前記の水酸化セリウム(IV)を成形加工せずに吸着剤として用いる場合、例えば下記の製造方法で製造した水酸化セリウム(IV)をそのまま吸着剤として用いる場合等には、水酸化セリウム(IV)の含有量が90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、98質量%以上であることが特に好ましく、99質量%以上であることがとりわけ好ましい。本発明において水酸化セリウム(IV)の含有量がこの程度に高いと、吸着剤の性能を十分に高められるため好ましい。吸着剤における水酸化セリウム(IV)の含有量は、蛍光X線回析装置を用いた定量分析により、具体的には後述の実施例に記載の方法により測定することができる。但し、本発明の吸着剤は、例えば、バインダーを用いて水酸化セリウム(IV)を顆粒状としたり、担体に水酸化セリウム(IV)を担持させる形態とする等の成形加工を行うことで、前記の好ましい範囲、特に90質量%以上という範囲よりも水酸化セリウム(IV)含有量が小さくても差支えない。
【0027】
本発明のヨウ素酸イオン吸着剤は、200μm以上1000μm以下の粒度を有する粒状体からなることが好ましい。200μm以上1000μm以下の粒度を有する粒状体からなるとは、具体的には、JIS Z8801規格による目開きが212μmの篩と、前記の目開きが1mmの篩とを用いたときに、本発明のヨウ素酸イオン吸着剤の99質量%以上が目開き1mmの篩を通り且つ99質量%以上が目開き212μmの篩を通らないことが好ましい。このように、本発明のヨウ素酸イオン吸着剤中に200μm未満の粒径のものが少ない場合、吸着剤を吸着塔に充填して通水すると、粉体が吸着塔内で詰まりにくいため好ましい。また、本発明のヨウ素酸イオン吸着剤中に1000μm超の粒径のものが少ない場合、吸着剤の吸着能力が高く、全体の吸着性能が高くすることができるため、好ましい。特に、本発明のヨウ素酸イオン吸着剤は、300μm以上600μm以下の粒度を有する粒状体からなることが好ましい。具体的には、本発明のヨウ素酸イオン吸着剤は、JIS Z8801規格による目開きが300μmの篩と、目開きが600μmの篩とを用いたときに、99質量%以上が前記の600μmの篩を通り且つ99質量%以上が前記の300μmの篩を通らないことが好ましい。特に、本発明の吸着剤が、水酸化セリウムの粒状体からなり、この水酸化セリウムの粒状体が前記の粒度範囲を有する場合、水酸化セリウムを高含有量で含有しつつ、吸着塔にそのまま充填して使用しやすいため好ましい。
【0028】
続いて、本発明のヨウ素酸イオン吸着剤の好ましい製造方法について説明する。
本発明のヨウ素酸イオン吸着剤の好ましい製造方法は、3価のセリウム塩を酸化して4価のセリウム塩とし、得られた4価のセリウム塩の水溶液を中和して前記の水酸化セリウム(IV)の粉体を得るものである。
【0029】
3価のセリウム塩としては、硝酸セリウム(III)、塩化セリウム(III)、硫酸セリウム(III)、酢酸セリウム(III)などを用いることが出来る。硝酸セリウム(III)が、各種のセリウム化合物の製造や精製の出発材料であるため入手しやすい点から好ましい。
【0030】
3価のセリウム塩を湿式酸化する工程は、3価のセリウム塩を溶解した水溶液に、酸化剤を添加して行う。酸化剤としては過酸化水素、過酸化ナトリウムなどが挙げられる。過酸化水素が安価で一般的な点から好適に用いられる。3価のセリウム塩を溶解した水溶液の濃度は、0.25mol/L以上0.8mol/L以下であることが好ましく、0.3mol/L以上0.6mol/L以下であることがより好ましい。酸化剤の添加量は、出発原料である3価のセリウム塩を酸化するのに十分な量であれば足りるが、3価のセリウム塩1モルに対して、1.0モル以上2.0モル以下であることが好ましい。この工程により4価のセリウム塩を含む水溶液が得られる。
【0031】
酸化後の水溶液に中和剤を添加して、4価のセリウム塩から水酸化セリウム(IV)を得る。中和剤としては、アルカリが挙げられ、その具体例としては、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを用いることが出来る。中和後のpHを6.5以上9.5以下の範囲とすることが好ましい。
【0032】
前記の酸化反応及び中和反応のそれぞれにおいて、反応を均一に進行させるために、酸化剤、中和剤を添加した後、一定時間反応液を撹拌することが好ましい。
【0033】
以上の工程により水酸化セリウム(IV)を含有するスラリーが得られる。得られたスラリーは常法により濾過して固形物を得、得られた固形物を洗浄し、乾燥する。この乾燥は、50℃以上110℃以下で、2時間以上48時間以下で行うことが好ましい。これにより、水酸化セリウム(IV)の乾燥品が得られる。
【0034】
前記で得られた水酸化セリウム(IV)の乾燥品は通常は脆い塊状と粉状の混ざったものである。この乾燥品はこのまま水酸化セリウム(IV)の粉体として用いることができ、また、粉砕や分級等を施して粉体とすることができる。この場合の粉砕としては、例えば乾式粉砕が挙げられ、ジェットミルやボールミル、ハンマーミル、パルベライザーなどを用いることができる。
【0035】
次に、前記で得られた水酸化セリウム(IV)の乾燥品から粒状体を得る好ましい方法を説明する。
この方法は、前記の乾燥品を湿式粉砕してスラリーを得、該スラリーをろ過等で固液分離して固形物を得、次いで該固形物を乾燥して乾燥物を得、次いで該固形物を粉砕し、次いで粉砕物を分級する。湿式粉砕における粉砕粒度としては、平均粒子径で0.5μm以上5μm以下の範囲が好ましい。平均粒子径が0.5μm以上であることは、湿式粉砕後の固液分離で濾過を行った際に濾過の時間が短くなり効率を向上できるため好ましい。また平均粒子径が5μm以下であると、固液分離した固形物を乾燥して得られる乾燥物(乾燥ケーキ)が硬くなりやすく、その後の粉砕及び分級工程で、好適な粒状品が得やすいため好ましい。この観点から平均粒子径は0.6μm以上2.0μm以下であることがより好ましい。前記の平均粒子径は例えば、日機装(株)社製のレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置であるマイクロトラック(例えば、マイクロトラックMT3000II)により測定できる。測定の際には、イオン交換水にヘキサメタリン酸ソーダを0.3%溶解させた溶液をマイクロトラックの試料循環器のチャンバーに入れる。このチャンバーに乾燥させた粒子を、装置が表示する適正濃度となるまで添加して分散させる。
【0036】
湿式粉砕機としては、湿式粉砕可能な粉砕機であれば特に限定はされないが、例えば粉砕媒体を使用する粉砕機が用いられ、具体例としては、ビーズミル、アトライタ(登録商標)、サンドグラインダーなどが挙げられる。粉砕媒体としては球状(ボール)、円筒形等種々のものが使用可能であるが、球状のものが好ましい。粉砕媒体の材質としては、ガラス、アルミナ、ジルコニア等を挙げることができる。粉砕媒体の直径としては0.5mm以上5mm以下が好ましく、1mm以上3mm以下がより好ましい。湿式粉砕における分散媒は、水のほか、水と極性有機溶媒との混合溶媒等を用いることができる。極性有機溶媒としては、アルコールが好ましく、例えばメタノールやエタノール等が挙げられる。更に、湿式粉砕に供する水酸化セリウム(IV)及び分散媒の量比は水酸化セリウム(IV)100質量部に対して分散媒を150質量部以上200質量部以下とすることが好ましく、165質量部以上185質量部以下とすることがより好ましい。また、湿式粉砕に供する水酸化セリウム(IV)及び粉砕媒体の量比は、水酸化セリウム(IV)100質量部に対して粉砕媒体を130容量部以上170容量部以下とすることが好ましく、140容量部以上160容量部以下とすることがより好ましい。この水酸化セリウム(IV)と粉砕媒体との量比における質量部とはg基準の量であり、容量部とはml基準の量である。
【0037】
湿式粉砕後の固液分離は濾過により行うことが好ましく、またフィルタープレスや遠心分離機など、分離した水酸化セリウム(IV)がブロック状で得られる分離設備により行うことが好ましい。また、固液分離により得られた固形物の乾燥は箱型乾燥機等で行うことができる。乾燥温度は100℃以上120℃以下が好ましい。乾燥温度を120℃以下とすることは、水酸化セリウム(IV)のイオン交換可能なヒドロキシル基が減少するのを防止しやすい観点から好ましい。乾燥した水酸化セリウムの粉砕は、例えばローラーミル等で幅0.5mm以上2.0mm以下のスリットを通過させる方法が好ましい。粉砕物は、上述した理由から、200μm以上1000μm以下の粒度に分級することが好ましく、300μm以上600μm以下の粒度に分級することがより好ましい。
【0038】
以上の製造方法で得られた水酸化セリウム(IV)の粉体又は粒状体は、その高いヨウ素酸吸着性能を生かして、放射性物質吸着材を充填してなる吸着容器及び吸着塔を有する水処理システムの吸着剤として好適に使用することが出来る。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。特に断らない限り「%」は「質量%」を表す。実施例及び比較例で使用した評価装置は以下のとおりである。
【0040】
<評価装置>
・熱重量分析(TG−DTA分析):メトラー・トレド社製熱重量測定装置 TGA/DSC1を用い、30mgの試料を、30℃から1000℃まで昇温速度5℃/minで温度上昇したときの200℃における試料の重量と600℃における試料の重量を測定し、下記計算式より重量減少率を算出した。
重量減少率(%)=(A−B)/A×100
(A:200℃における試料重量、B:600℃における試料重量)
・赤外吸収スペクトル分析:サーモフィッシャーサイエンティフィック社製NICOLET6700により、分解能:4cm-1、積算数:256回、測定波数領域:400cm-1〜4000cm-1の条件にて測定した。ATR法により測定し、ATR補正及びスペクトルのスムージング処理を行った。
・水酸化セリウム(IV)含有量:蛍光X線分析装置として、リガク社製ZSX100eを用いた。測定条件は、管球:Rh(4kW)、雰囲気:真空、分析窓材:Be(厚み30μm)、測定モード:SQX分析(EZスキャン)、測定径:30mmφとして、全元素測定を行った。測定結果よりCO2成分を除去し、更に全成分から全不純物(セリウム化合物以外の成分、例えばAl23、SiO2、P25、CaO、SO3、ZrO2、Nd23、Au2O、Cl、F)を引いた量を求め、水酸化セリウム(IV)の量とした。測定用の試料は、吸着剤をアルミリング等の適当な容器に入れ、ダイスで挟みこんでからプレス機で10MPaの圧力をかけてペレット化することにより得た。
・ヨウ素酸の吸着試験におけるヨウ素濃度:イオンクロマトグラフ測定装置(DIONEX社製ICS−1600)により測定した。
【0041】
<実施例1>
硝酸セリウム(III)6水和物86.8g(0.2モル)を1Lビーカーに秤量して、イオン交換水500mlに溶解した。ここに35%過酸化水素水19.4g(0.2モル)を添加して1時間撹拌した。得られた混合物に、アンモニア水(6モル/L)を添加することにより、該混合物のpHを9.0とし、一昼夜撹拌を継続して、反応スラリーを得た。得られた反応スラリーをろ過して固形物を得、この固形物を洗浄した後、50℃で24時間乾燥して水酸化セリウム(IV)の乾燥品を得た。得られた水酸化セリウム(IV)について測定した前記重量減少率は4.3%であった。水酸化セリウム乾燥品をペイントシェーカーで以下の粉砕条件により湿式粉砕して、平均粒子径1.0μmの粉砕スラリーを得た。この平均粒子径は、前記の方法により測定したものである(以下の実施例2以降も同様)。このスラリーをブフナーロートを用いることにより、濾過して固形物を得た。この固形物を箱型乾燥機により105℃で乾燥して乾燥物を得た。次いで該乾燥物を乳鉢により粉砕して粉砕物を得た。その後、該粉砕物を、前記の公称目開き600μmの篩に通し、この篩を通った粒子を、前記の公称目開き300μmの篩で分級した。300μmの篩を通らない粒子を、粒状の水酸化セリウム(IV)として用いた。得られた粒状水酸化セリウムをTG−DTA分析したところ、前記の重量減少率は4.3%であった。また得られた粒状水酸化セリウムについて赤外吸収スペクトル分析を行った。得られたチャートを図1に示す。図1より、3270cm-1以上3330cm-1以下にヒドロキシル基の伸縮振動に帰属する吸収ピークが明確に認められ、また、1590cm-1以上1650cm-1以下及び1410cm-1以上1480cm-1以下の各範囲にヒドロキシル基の変角振動に帰属する吸収ピークが明確に認められた。この粒状の水酸化セリウム(IV)を実施例1の吸着剤とした。該吸着剤中の水酸化セリウム(IV)含有量を蛍光X線分析装置で測定したところ、98.8質量%であった。
【0042】
<ペイントシェーカーの粉砕条件>
水酸化セリウム乾燥品 35g
イオン交換水 50g
2mmφガラスビーズ 60g(40ml)
分散時間 20分
【0043】
<実施例2>
硝酸セリウム(III)6水和物86.8g(0.2モル)の代わりに、塩化セリウム(III)7水和物74.5g(0.2モル)を用いた以外は、実施例1と同様にして、粒状の水酸化セリウム(IV)(粒度300〜600μm)を得た。得られた粒状水酸化セリウムをTG−DTA分析したところ、前記の重量減少率は4.7%であった。またこの粒状水酸化セリウムについて実施例1と同様にして赤外吸収スペクトル分析を行った。得られたチャートを図2に示す。図2より、3270cm-1以上3330cm-1以下にヒドロキシル基の伸縮振動に帰属する吸収ピークが明確に認められ、また、1590cm-1以上1650cm-1以下及び1410cm-1以上1480cm-1以下の各範囲にヒドロキシル基の変角振動に帰属する吸収ピークが明確に認められた。この粒状の水酸化セリウム(IV)を実施例2の吸着剤とした。該吸着剤中の水酸化セリウム(IV)含有量を蛍光X線分析装置で測定したところ、98.6質量%であった。
【0044】
<比較例1> (4価のセリウム塩を原料とした場合)
硝酸セリウムアンモニウムと炭酸ソーダとの以下の反応式による反応により、水酸化セリウム(IV)のスラリーを合成した。
(NH42Ce(NO3)6 + 2Na2CO3 + 2H2
→ Ce(OH)4 + 2CO2 + 4NaNO3 + 2NH4NO3
得られた水酸化セリウムスラリーをろ過して固形物を得、この固形物を洗浄し、乾燥した後、サンドグラインダーにより以下の粉砕条件で湿式粉砕した。粉砕後の粒度は0.82μmであった。このスラリーについて、実施例1と同様にして固液分離、乾燥、粉砕、分級を行い、粒状の水酸化セリウム(IV)(粒度300〜600μm)を得た。この粒状水酸化セリウムをTG−DTA分析したところ、前記の重量減少率は3.5%であった。またこの粒状水酸化セリウムを赤外吸収スペクトル分析して得られたチャートを図3に示す。図3より、3270cm-1以上3330cm-1以下におけるヒドロキシル基の伸縮振動に帰属する吸収ピーク、及び1590cm-1以上1650cm-1以下におけるヒドロキシル基の変角振動に帰属する吸収ピークは明確に認められるものの、1410cm-1以上1480cm-1以下の範囲におけるヒドロキシル基の変角振動に帰属する吸収ピークは認められなかった。また、この粒状の水酸化セリウム(IV)を比較例1の吸着剤とした。該吸着剤中の水酸化セリウム(IV)含有量を蛍光X線分析装置で測定したところ、98.6質量%であった。
<サンドグラインダーの粉砕条件>
2mmφアルミナビーズ 300ml
水酸化セリウム 200g
イオン交換水 350g
粉砕時間 2時間
【0045】
実施例1及び2並びに比較例1で得られた粒状水酸化セリウム(IV)を使用して、以下の<吸着試験方法>により、ヨウ素酸の吸着試験を行った。
【0046】
<吸着試験方法>
試薬としてヨウ素酸(HIO3)0.176gをイオン交換水1000mlに溶解して、ヨウ素酸のヨウ素換算濃度が100ppmである試験液を調整した。この試験液100mlと粒状水酸化セリウム(IV)0.5gとを100mlポリプロピレン製容器に入れて密栓したものを2セット用意した。密栓後の2個のポリ容器は、いずれも10回倒立させた後に静置した。静置1時間後にポリ容器1個を10回倒立させた後、内部の試験液をろ過し、得られたろ液中のヨウ素酸量としてヨウ素濃度を測定した。静置24時間後にもうひとつのポリ容器を10回倒立させた後、内部の試験液をろ過し、同様に、得られたろ液のヨウ素濃度を測定した。試験前の100ppmと、得られたヨウ素濃度とから、ヨウ素酸の除去率を求めた。また、下記式により、分配係数Kdを求めた。これらの結果を表1に示す。
【0047】
【数1】
【0048】
【表1】
【0049】
表1から明らかな通り、実施例1及び2で製造された、200℃から600℃まで温度上昇したときの重量減少率が4%以上10%以下の水酸化セリウム(IV)は、ヨウ素酸の除去率が大きく、ヨウ素酸イオンの吸着剤として好適な性能を有することが判る。これに対し、比較例1で製造された、200℃から600℃まで温度上昇したときの重量減少率が4%未満である水酸化セリウム(IV)は、ヨウ素酸の除去率に劣ることが判る。
【要約】
【課題】ヨウ素酸イオンの吸着性能が優れるヨウ素酸イオンの吸着剤を提供する。
【解決手段】本発明のヨウ素酸イオン吸着剤は、水酸化セリウム(IV)を含むヨウ素酸イオンの吸着剤であって、前記の水酸化セリウム(IV)は、熱重量分析において200℃から600℃まで温度上昇したときの重量減少率が4.0%以上10.0%以下である。前記の水酸化セリウム(IV)は、赤外吸収スペクトル分析したときに、3270cm-1以上3330cm-1以下、1590cm-1以上1650cm-1以下及び1410cm-1以上1480cm-1以下の各範囲に吸収ピークが観察されることが好ましい。
【選択図】図1
図1
図2
図3