【実施例】
【0116】
ここでは、承認されたプロトコルを用いて、OSCを健康な若い女性の組織から単離して、後の臨床処置に用いるためにin vitroで増殖することができることを証明する。以下の実施例は、例示を目的として記載するに過ぎず、本発明者らがその発明と考えるものの範囲を限定することを意図するわけではない。
【0117】
実施例1:OSC単離のためのFACSによるプロトコル
免疫磁気分離によってマウスOSCを単離するために、Zou et al.,Nat Cell Biol 2009 11:631−636によって用いられるVASA抗体は、ヒトVASAのCOOH−末端の最後の25アミノ酸に対するウサギポリクローナルである(DDX4)(ab13840;Abcam,Cambridge,MA)。この領域は、マウスVASA(MVH)の対応領域と96%の全体相同性を共有する。比較研究のために、ヒトVASAのNH
2−末端の最初の145アミノ酸に対するヤギポリクローナル抗体(AF2030;R&D Systems,Minneapolis,MN)を用いたが、これは、マウスVASAの対応領域と91%の全体相同性を共有する。
【0118】
いずれの抗体を用いた若い成体(生後2ヶ月)マウス卵巣の免疫蛍光分析も、予想通り、卵母細胞に制限されたVASA発現の同じパターンを示した(
図1a)。次いで、分散した若い成体マウス卵巣組織の免疫磁気分離のために、各抗体を用いた(Zou et al.,Nat Cell Biol 2009 11:631−636)。細胞の各調製のために、4匹のマウスからの卵巣をプールして、細かく刻んだ後、800U/mlコラゲナーゼ[IV型;カルシウム及びマグネシウムを除いたハンクス平衡塩類溶液中で調製される(HBSS)]と一緒に15分のインキュベーション、続いて、0.05%トリプシン−EDTAと一緒に10分のインキュベーションを含む2ステップ酵素消化により解離させた。消化は、細胞調製物における粘着性を最小限にするために、1μg/mlDNase−I(Sigma−Aldrich,St.Louis,MO)の存在下で実施し、10%ウシ胎児血清(FBS;Hyclone,ThermoFisher Scientific,Inc.,Waltham,MA)の添加により、トリプシンを中和した。卵巣分散質を、70μmナイロンメッシュを介して濾過した後、HBSS中に、1%正常ヤギ血清(EMD Milipore,Billerica,MA;VASA−COOHに対するab13840を用いた後の反応のために)又は1%正常ロバ血清(Sigma−Aldrich,St.Louis,MO;VASA−NH
2に対するAF2030を用いた後の反応のために)のいずれかを含む1%脂肪酸遊離ウシ血清アルブミン(BSA;Sigma−Aldrich,St.Louis,MO)から構成される溶液中で、氷上で20分間ブロックした。次に、COOH末端(ab13840)又はNH
2末端(AF2030)のいずれかを認識するVASA抗体の1:10希釈物と細胞を氷上で20分間反応させた。その後、細胞をHBSSで2回洗浄した後、ヤギ抗ウサギIgG結合マイクロビーズ(Miltenyi,Gladbach,Germany;ab13840検出)又はビオチン結合ロバ抗ヤギIgG(Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz、CA;AF2030検出)のいずれかの1:10希釈物と一緒に氷上で20分間インキュベートし、続いて、ストレプトアビジン結合マイクロビーズ(Miltenyi;Gladbach,Germany)と一緒にインキュベーションを行った。HBSS中でもう1回洗浄した後、製造業者の指定事項(Miltenyi,Gladbach,Germany)に従って、細胞調製物をMACSカラムにロードし、分離した。個々の卵母細胞と起こりうる抗体−ビーズ相互作用を視覚化する実験のために、妊馬血清ゴナドトロピン(PMSG、10IU;Sigma−Aldrich,St.Louis,MO)の注射、それから46〜48時間後のヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG、10IU;Sigma−Aldrich,St.Louis,MO)の注射により、成体雌マウスを過排卵させた。hCG注射から15〜16時間後、卵管から卵母細胞を採取し、ヒアルロニダーゼ(Irvine Scientific,Santa Ana,CA)を用いて、卵丘細胞を除去してから、BSAを添加したヒト卵管液(HTF;Irvine Scientific,Santa Ana,CA)で洗浄した。前述したように、分散した卵巣細胞又は単離した卵母細胞をブロックし、VASAに対して一次抗体と一緒にインキュベートした。HBSSで洗浄した後、2.5μmDynabeads(Invitrogen,Life Technologies Corp.,Carlsbad,CA)に結合した、種適性二次抗体と反応させた。Dynal MPC(登録商標)−S Magnetic Particle Concentrator(Dynal Life Technologies Corp.,Carlsbad,CA)を用いた分離のために、懸濁液を1.5mlエッペンドルフチューブに導入した。
【0119】
VASA−NH
2抗体を用いた場合には、ビーズ画分中に細胞は全く得られなかった;しかし、VASA−COOH抗体を用いた場合、磁気ビーズに結合した5〜8μmの細胞が観察された(
図1b)。これらの細胞の分析から、免疫磁気分離を用いて、Zou et al.,Nat Cell Biol 2009 11:631−636により以前単離されたOSCについて報告されたものと一致する生殖系遺伝子発現が明らかになった(
図2)。VASA−COOH抗体を用いて同時に評価した単離卵母細胞は、非免疫反応性洗浄液画分に常に検出された(
図1b)が、免疫磁気分離によって得られたVASA陽性細胞画分の別のマーカ分析から、Nobox、Zp3及びGdf9などの複数の卵母細胞特異的mRNAが明らかになった(
図2)。これらの知見から、卵母細胞は、個別の実体として分析すると、VASAの細胞表面発現を呈示しない(
図1b)が、卵母細胞は、分散卵巣組織からOSCを免疫磁気分離すると、やはり混入細胞型であることがわかる。この結果は、恐らく、ビーズの遠心分離ステップ中の卵母細胞の非特異的な物理的キャリーオーバー(carry−over)、又は原形質膜損傷(破損)卵母細胞中の細胞質VASAとCOOH抗体の反応性のいずれかを表していると考えられる。いずれの場合も、FACSの使用により緩和される。
【0120】
次に、各抗体と分散マウス卵巣細胞の反応性をFACSによって評価した。各実験のために、前述したように、卵巣組織(マウス:4つの卵巣をプール;ヒト:10×10×1mm厚さ、皮質のみ)を解離し、ブロックした後、一次抗体(VASA−COOHに対するab13840、又はVASA−NH
2に対するAF2030)と反応させた。HBSSで洗浄した後、Alexa Fluor 488(Invitrogen,Life Technologies Corp.,Carlsbad,CA;ab13840検出)に結合したヤギ抗ウサギIgG又はAlexa Fluor 488(Invitrogen,Life Technologies Corp.,Carlsbad,CA;AF2030)に結合したロバ抗ヤギIgGの1:500希釈物と一緒に、細胞を氷上で20分間インキュベートした後、HBSSで洗浄した。次に、標識細胞を再度濾過(35μm孔径)し、負の(非染色で、一次抗体なし)対照に対してゲーティングした、FACSAria IIサイトメーター(BD Biosciences,Becton Dickinson and Company,Franklin Lakes,NJ;Harvard Stem Cell Institute)を用いて、FACSによって単離した。死滅細胞排除のための選別の直前に、ヨウ化プロピジウムを細胞懸濁液に添加した。新しく単離したVASA陽性生存細胞を、遺伝子発現プロファイリング、奇形腫形成能の評価又はin vitro培養のために収集した。実験によっては、2%中性緩衝パラホルムアルデヒド(PFA)中に細胞を固定し、0.1%トリトン−X100で透過処理した後、VASA(AF2030)のNH
2末端に対する一次抗体と反応させ、Alexa Fluor 488に結合したロバ抗ヤギIgGとの反応後にFACSによる検出を行った。再選別実験の場合には、生存細胞をVASA−COOH抗体(ab13840)と反応させ、アロフィコシアニン(APC)(Jackson Immunoresearch Laboratories,Inc.,West Grove PA)に結合したヤギ抗ウサギIgGとの反応後、FACSによって選別した。得られたAPC陽性(VASA−COOH陽性)生存細胞をインタクトのままにしておくか、又は、固定及び透過処理した後、VASA−NH
2抗体(AF2030)とのインキュベーション、続いて、Alexa Fluor 488に結合したロバ抗ヤギIgGとのインキュベーションを行ってから、FACS分析を実施した。
【0121】
磁気ビーズ分離結果と一致して、生存VASA陽性細胞は、COOH抗体を用いた場合にしか得られなかった(
図1c)。しかし、FACSの前に卵巣細胞を透過処理すると、NH
2抗体を用いても、VASA陽性細胞集団が得られた(
図1c)。さらに、COOH抗体を用いたFACSによって単離した生存VASA陽性細胞を透過処理し、再選別した場合には、同じ細胞集団が、VASA−NH
2抗体によって認識された(
図1d)。このOSC単離方法の妥当性を確認する最後の手段として、プロトコルの各ステップでの細胞の画分を、生殖細胞についてのマーカ(Blimp1/Prdm1、Stella/Dppa3、Fragilis/Ifitm3、Tert、Vasa、Dazl)及び卵母細胞についてのマーカ(Nobox、Zp3、Gdf9)の組合せを用いた遺伝子発現分析によって評価した。FACSのための細胞を取得するために、卵巣組織を細かく刻み、コラゲナーゼ及びトリプシンで酵素的に消化し、70μmフィルターで濾過することにより、大きな組織凝集塊を除去した後、35μmフィルターで濾過することにより、細胞の最終画分を取得した。FACSによって得られたVASA陽性生存細胞画分を除いて、プロトコルの各ステップから得られた細胞の全ての画分が、全ての生殖細胞系及び卵母細胞マーカを発現した(
図1f)。FACSで選別したVASA陽性細胞画分は、全ての生殖細胞系マーカを発現したが、卵母細胞マーカは一切検出されなかった(
図1f)。従って、VASA−COOH抗体を用いた免疫磁気分離によってOSCを単離したときに観察された卵母細胞混入(
図2参照)とは異なり、FACSでこの同じ抗体を使用すれば、卵母細胞を含まない成体卵巣由来OSC画分を取得する優れた方法が提供される。
【0122】
実施例2:ヒト卵巣からのOSCの単離
書面でのインフォームドコンセントと共に、埼玉医療センター(Saitama Medical Center)で、性同一性障害を持つ年齢22〜33(28.5±4.0)歳の6人の女性患者から卵巣を外科手術で摘出した。外側の皮質層を注意深く取り出し、ガラス化した後、低温保存した(Kagawa et al.,Reprod.Biomed.2009 Online 18:568−577;
図12)。手短には、厚さ1mmの皮質断片を100mm
2(10×10mm)の切片に切断し、7.5%エチレングリコール(EG)及び7.5%ジメチルスルホキシド(DMSO)を含む平衡溶液中、26℃で25分間インキュベートし、20%EG、20%DMSO及び0.5Mショ糖を含むガラス化溶液中で、26℃で15分間インキュベートした後、液体窒素に浸漬した。実験分析のために、低温保存した卵巣組織を、Cryotissue Thawing Kit(Kitazato Biopharma、静岡県富士市、日本国)を用いて解凍してから、組織学、異種移植又はOSC単離のために直ちに処理した。COOH抗体を用いて、年齢が22〜33歳の全患者のヒト卵巣皮質組織生検から、直径5〜8μmの生存VASA陽性細胞もFACSにより一貫して単離したが、その収率(%)(選別した全生存細胞に対して1.7%±0.6%VASA陽性;平均±SEM、n=6)は、並行して処理した若い成体マウス卵巣からのOSCの収率(選別した全生存細胞に対して1.5%±0.2%VASA陽性;平均±SEM、n=15)と同等であった。この収率(%)は、FACSによって選別した生存単細胞の最終プール中のこれら細胞の出現率であり、これは、処理前の卵巣中に存在する細胞の総数の小部分を表している。卵巣当たりのOSCの出現率を推定するために、生後1.5〜2ヶ月のマウスの卵巣当たりのゲノムDNA量を決定し(1,7744.44±426.15μg;平均±SEM、n=10)、卵巣毎に選別した生存細胞の画分当たりのゲノムDNA量に分割した(16.41±4.01μg;平均±SEM、n=10)。細胞当たりのゲノムDNA量が同等であると想定して、全卵巣細胞プールのどれくらいが、処理後に得られた全生存選別細胞画分によって表されるかを決定した。この相関係数を用いて、卵巣当たりのOSCの出現率を0.014%±0.002%[0.00926X(1.5%±0.2%)]であると推定した。OSC収率に関して、この数は、複製によって変動したが、4つの卵巣のプールから最初に調製した分散質のFACS後に、成体卵巣当たり250〜わずかに1,000を超える生存VASA陽性細胞が、一貫して得られた。
【0123】
マウス及びヒト卵巣からの新たに単離したVASA陽性細胞の分析(
図3a、3b)により、類似した大きさ及び形態(
図3c、3d)、並びに初期生殖細胞のマーカが豊富なマッチした遺伝子発現プロフィールが明らかになった(Saitou et al.,Nature 2002 418:293−300;Ohinata et al.,Nature 2005 436:207−213;Dolci et al.,Cell Sci.2002 115:1643−1649)(Blimp1、Stella、Fragilis及びTert;
図3e)。これらの結果は、科学文献(Zou et al.,Nat Cell Biol 2009 11:631−636;Pacchiarotti et al.,Differentiation 2010 79:159−170)に報告されているマウスOSCの形態学及び遺伝子プロフィールと一致している。
【0124】
成体卵巣から得られたVASA陽性細胞に特有の特徴をさらに決定するために、in vivo奇形腫形成アッセイを用いて、マウスOSCを試験した。これは、近年の研究で、胚性幹細胞(ESC)及び人工多能性幹細胞(iPSC)の奇形腫形成能を有する成体マウスからのOct3/4−陽性幹細胞の単離が報告されている(Gong et al.,Fertil.Steril.2010 93:2594−2601)ことから、重要である。前述のように、合計100匹の若い成体雌マウスから卵巣を採取し、解離させた後、VASA−COOH陽性生存細胞の単離のためにFACSに付した。新しく単離したマウスOSCを、NOD/SCID雌マウスの後ろ臀部付近に皮下注射した(マウス当たり1×10
5細胞を注射)。対照として、マウス胚性幹細胞(mESCv6.5)を並行して対応齢の雌マウスに注射した(レシピエントマウス当たり1×10
5細胞を注射)。腫瘍形成について、6ヵ月までの間マウスをモニターした。
【0125】
予想通り、正の対照として用いたマウスESCを移植したマウスの100%が、3週間以内に奇形腫を形成した;しかし、成体マウス卵巣から単離したVASA陽性細胞を並行して移植したマウスには、移植から24週間後であっても奇形腫は観察されなかった(
図3f〜k)。従って、OSCは、多数の幹細胞及び原始胚細胞マーカを発現する(Zou et al.,Nat Cell Biol 2009 11:631−636;Pacchiarotti et al.,Differentiation 2010 79:159−170;また、
図1f及び
図3eも参照のこと)が、これらの細胞は、これまで記載されている他のタイプの多能性幹細胞とは明らかに異なる。
【0126】
実施例3:FACS精製マウスOSCからの卵母細胞の産生
レトロウイルス形質導入によりGFPを発現するように操作されたFACS精製マウスOSC(in vitroで活発に分裂する生殖細胞だけの培養物として樹立後)が、成体雌マウスの卵巣への移植後に卵母細胞を産生する能力を評価した。得られる結果が、卵巣への移植細胞の安定な組込みを表すものであり、また、移植前に誘導された生殖腺への損傷によって複雑化しないことを確実にするために、1×10
4GFP発現マウスOSCを、月齢2ヶ月の非化学療法条件付け野生型レシピエントの卵巣に注射し、分析まで5〜6ヵ月間マウスを維持した。月齢7〜8ヶ月の、移植マウスを、外性ゴナドトロピン(PMSG(10IU)の単回腹腔内注射、その46〜48時間後hCG(10IU))で排卵を誘導した後、それらの卵巣と、卵管に放出された全ての卵母細胞を採取した。排卵された卵丘−卵母細胞複合体を、0.4%BSA添加HTFに移して、GFP発現について直接蛍光顕微鏡検査によって評価した。最初にFACSにより精製したGFP発現マウスOSCを受けた雌の卵巣において、GFP陰性卵母細胞を含む卵胞と一緒に、GFP陽性卵母細胞を含む発生中の卵胞が容易に検出可能であった(
図4a)。
【0127】
卵管のフラッシング後、の中央に位置する卵母細胞を取り囲む拡張した卵丘細胞を含む複合体が観察され、これらは、GFP欠失及びGFP発現の両方を含んだ。これらの複合体と野生型雄由来の精子を混合すると、受精が起こり、着床前胚が発生した。体外受精(IVF)のために、精巣上体尾及び精管を成体野生型C57BL/6雄マウスから摘出し、BSA添加HTF培地に導入した。ピンセットで組織を穏やかに絞ることによって精子を取得し、37℃で1時間にわたり受精能を獲得させた後、卵丘−卵母細胞複合体(BSA添加HTF培地中1〜2×10
6精子/ml)と4〜5時間にわたって混合した。次に、授精した卵母細胞を洗浄して精子を洗い流してから、新鮮な培地に移した。授精から4〜5時間後、卵母細胞(受精及び非受精)を50μl液滴のKSOM−AA培地(Irvine Scientific,Santa Ana,CA)に移し、液滴を鉱油で被覆することにより、着床前胚発生をさらに支持した。合計144時間にわたり、24時間毎に光学及び蛍光顕微鏡検査を実施して、孵化胚盤胞期まで胚発生をモニターした(Selesniemi et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 2011 108:12319〜12324)。卵管からの排卵した卵母細胞の回収時に採取した卵巣組織を固定し、既に詳述されている(Lee et al.,J.Clin.Oncol.2007 25:3198−3204)ように、MOM(商標)キット(Vector Laboratories, Burlingame,CA)と共に、GFPに対するマウスモノクローナル抗体(sc9996;Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz、CA)を用いて、GFP発現の免疫組織化学的検出のために、処理した。非移植野生型雌マウス及びTgOG2トランスジーン雌マウスからの卵巣を、それぞれ、GFP検出のための負及び正の対照として用いた。
【0128】
受精GFP陽性卵から得られた着床前胚は、孵化胚盤胞期までGFP発現を保持した(
図4b〜d)。5〜6ヵ月早くGFP発現OSCを移植した5匹の成体野生型雌マウスから、合計31個の卵丘−卵母細胞複合体を卵管から採取したが、そのうちの23個は、受精に成功し、胚を発生した。各卵母細胞の周りに卵丘細胞が存在するために、排卵したGFP陽性卵母細胞に対するGFP陰性細胞の数を正確に決定することができなかった。しかし、体外受精(IVF)後に発生した23の胚の評価により、8つがGFP陽性であり、試験した5匹の全てが、受精して、GFP陽性胚を発生する少なくとも1つの卵を放出したことがわかった。これらの知見から、VASA−COOH抗体に基づくFACSによって単離若しくは精製されたOSCが、既に報告されている免疫電磁分離によって単離されたそれらの対応物(Zou et al.,Nat Cell Biol 2009 11:631−636)と同様に、in vivoで機能性卵母細胞を産生することがわかる。しかし、本発明者らのデータは、以前報告されている(Zou et al.,Nat Cell Biol 2009 11:631−636)ように、OSCが成体卵巣組織に移植されて、機能性卵母細胞を産生するのに、移植前の化学療法条件付けは必要ないことも示している。
【0129】
実施例4:候補ヒトOSCのin vitroでの特性決定
マウスOSCのin vitro増殖のために以前記載された(Zou et al.,Nat Cell Biol 2009 11:631−636)パラメータを用いて、支持細胞として有糸分裂不活性マウス胎児性線維芽細胞(MEF)を含む規定培地に、成体マウス及びヒト卵巣由来VASA陽性細胞を導入した。手短には、以下:10%FBS(Hyclone,ThermoFisher Scientific,Inc.,Waltham,MA)、1mMピルビン酸ナトリウム、1mM非必須アミノ酸、1X濃縮ペニシリン−ストレプトマイシン−グルタミン(Invitrogen,Life Technologies Corp.,Carlsbad,CA)、0.1m Mβ−メルカプトエタノール(Sigma,St.Louis,MO)、1X濃縮N−2補充物(R&D Systems,Minneapolis,MN)、白血病阻害因子(LIF;10
3単位/ml;EMD Millipore,Inc.,Billerica,MA)、10ng/ml組換えヒト上皮増殖因子(rhEGF;Invitrogen,Life Technologies Corp.,Carlsbad,CA)、1ng/ml塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF;Invitrogen,Life Technologies Corp.,Carlsbad,CA)、及び40ng/ml神経膠細胞由来の神経栄養因子 (GDNF;R&D Systems,Minneapolis,MN)を添加したMEMα(Invitrogen,Life Technologies Corp.,Carlsbad,CA)において細胞を培養した。培養物は、隔日40〜80μlの新しい培地を添加することにより新しくし、2週間毎に細胞を新鮮なMEFSに移しかえた。増殖を評価するために、MEFを含まないOSC培養物を10μM BrdU(Sigma−Aldrich,St.Louis,MO)で48時間処理した後、記載されている(Zou et al.,Nat Cell Biol 2009 11:631−636)ように、BrdU組込み(有糸分裂活性細胞)及びVASA発現(生殖細胞)の二重免疫蛍光による検出のために、2%PFA中に固定した。一次抗体が省かれるか、又は正常ウサギ血清の同等希釈物で置換された場合、シグナルは全く検出されなかった(示していない)。
【0130】
新しく単離したOSCをクローン系として樹立することができ、MEFに接種していないヒトOSCのコロニー形成効率は、0.18%〜0.40%の範囲であった。コロニー形成効率の正確な評価は、初期支持細胞としてMEFを用いて実施することはできなかったが、これは、マウス及びヒトOSCのin vitroでの樹立を非常に容易にする。10〜12週(マウス)又は4〜8週(ヒト)の培養後、活発に分裂する生殖細胞コロニーが容易に明らかになった(
図5)。いったん樹立して、増殖すると、細胞は、増殖能力を喪失することなく、MEFの非存在下で生殖細胞だけの培養物として再樹立させることができた。MEF非含有培地でのVASA発現及びブロモデオキシウリジン(BrdU)組込みの二重分析によって、多数の二重陽性細胞が明らかになり(
図6a〜d)、成体マウス及びヒト卵巣由来のVASA陽性細胞が活発に分裂していることを証明している。この段階で、マウス細胞は、培養物分割比1:6〜1:8で、4〜5日毎に、培養飽和密度での継代を必要とした(推定倍加時間14時間;
図6e)。マウスOSC増殖の速度は、並行して維持したヒト生殖細胞の速度より約2〜3倍高く、ヒト細胞の場合、培養物分割比1:3〜1:4で、7日毎に、培養飽和密度での継代を必要とした。VASAの細胞表面発現は、数ヵ月の増殖後も、95%を超える細胞の表面で検出可能であった(
図6f)。VASA−COOH抗体を用いたFACSによって検出されなかった残りの細胞は、マウス及びヒトOSCによって自然に産生された大きな(直径35〜50μm)球形の細胞であり、これらは、VASAの細胞質発現を呈示しており、実施例5に詳しく説明する。
【0131】
培養した細胞の遺伝子発現分析により、初期生殖細胞系マーカの維持が証明された(
図6g)。複数の卵母細胞特異的マーカもこれらの培養物中に検出された。SuperScript(登録商標)VILO(商標)cDNA合成キット (Invitrogen,Life Technologies Corp.,Carlsbad,CA)及びPlatinum Taqポリメラーゼ(Invitrogen,Life Technologies Corp.,Carlsbad,CA)を用いて、RT−PCRにより、mRNAのレベルを評価した。同一性を確認するために、全ての産物を配列決定した。対応する遺伝子のGenBankアクセッション番号と共に、フォワード及びリバースプライマーの配列を表1(マウス)及び表2(ヒト)に記載する。
【0132】
【表1】
【0133】
【表2】
【0134】
Blimp1、Stella及びFragilisのmRNA分析を拡張するために、これら3つの伝統的原始生殖細胞系マーカの免疫蛍光分析を実施した(Saitou et al.,Nature 2002 418:293−300;Ohinata et al.,Nature 2005 436:207−213)。培養したOSCの分析のために、細胞を1X濃縮リン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄し、20℃にて45分間2%PFA中で固定し、PBS−T(0.01%トリトン−X100を含むPBS)で3回洗浄した後、ブロッキングバッファー(2%正常ヤギ血清及び2%BSAを含むPBS)中で、20℃にて1時間インキュベートした。次に、細胞を以下の一次抗体のうち1つの1:100希釈物と一緒に20℃で1時間インキュベートした:BLIMP1に対するビオチン化マウスモノクローナル(ab81961、Abcam,Cambridge,MA)、STELLAに対するウサギポリクローナル(ab19878、Abcam,Cambridge,MA)又はFRAGILSに対するウサギポリクローナル(マウス:ab15592、ヒト:ab74699、Abcam,Cambridge,MA)。細胞を洗浄して、ローダミン−ファロイジン(Invitrogen,Life Technologies Corp.,Carlsbad,CA)の存在下で、ストレプトアビジン結合Alexa Fluor 488(Invitrogen,Life Technologies Corp.,Carlsbad,CA;BLIMP1検出)、又はAlexa Fluor 488(STELLA and FRAGILIS検出)に結合したヤギ抗ウサギIgGの1:500希釈物と一緒に20℃で30分間インキュベートした。細胞を洗浄して、4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール二塩酸塩(DAPI;Sigma−Aldrich,St.Louis,MO)と一緒にインキュベートし、さらに3回洗浄した後、画像化した。一次抗体を省くか、又は代わりに正常血清を用いた場合、シグナルは全く検出されなかった(図示していない)。
【0135】
マウス及びヒトOSCによりin vitroで産生される卵母細胞の評価のために、個々の卵母細胞を培養物上澄みから収集して、洗浄し、37℃にて0.5%BSA含有の2%PFAで45分間固定し、洗浄した後、0.5%BSAと、5%正常ヤギ血清(VASA若しくはLHX8検出)又は1%正常ロバ血清(c−KIT検出)のいずれかを含むPBS中で、20℃にて1時間ブロックした。ブロック後、卵母細胞を以下の一次抗体のうち1つの1:100希釈物(0.5%BSA含有PBS中)と一緒に20℃で2時間インキュベートした:c−KITに対するヤギポリクローナル(sc1494、Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz、CA)、VASAに対するラビットポリクローナル(ab13840、Abcam,Cambridge,MA)又はLHX8に対するウサギポリクローナル(ab41519、Abcam,Cambridge,MA)。次に、細胞を洗浄して、Alexa Fluor 568(Invitrogen,Life Technologies Corp.,Carlsbad,CA;VASA検出)若しくはAlexa Fluor 488(LHX8検出)に結合したヤギ抗ウサギIgGの1:250希釈物、又はAlexa Fluor 488に結合したロバ抗ヤギIgGの1:250希釈物(c−KIT検出)と一緒にインキュベートした。細胞を洗浄して、DAPIと一緒にインキュベートし、さらに3回洗浄した後、画像化した。一次抗体を省くか、又は代わりに正常の血清を用いた場合、シグナルは全く検出されなかった。
【0136】
これら後出の実験では、VASA、c−KITの卵母細胞特異的発現、また、ヒト卵巣については、卵巣組織切片中におけるLHX8の発現の検出を正の対照として用いた。マウス及びヒト卵巣組織を4%PFA中に固定し、パラフィン包埋して、スライス(6μm)した後、0.01Mクエン酸ナトリウムバッファー(pH6.0)を用いて、高温抗原賦活化処理を実施した。冷却後、切片を洗浄して、1%正常ヤギ血清(VASA−COOH若しくはLHX8検出)又は1%正常ロバ血清(VASA−NH
2若しくはc−KIT検出)のいずれかを含むTNKバッファー(リン酸緩衝食塩水中の0.1Mトリス−HCl、0.55M NaCl、0.1 mM KCL、0.5%BSA、及び0.1%トリトン−X100)を用いて、20℃で1時間ブロックした。次いで、切片を一次抗体の1:100希釈物(1%正常血清含有のTNKバッファー)と一緒に4℃で一晩インキュベートし、PBSで洗浄した後、Alexa Fluor 568に結合したヤギ抗ウサギIgG(ヒト卵巣におけるVASA−COOH検出)、Alexa Fluor 488に結合したヤギ抗ウサギIgG(マウス卵巣におけるVASA−COOH若しくはLHX8の検出)又はAlexa Fluor 488に結合したロバ抗ヤギIgG(c−KIT又はVASA−NH
2検出)の1:500希釈物と一緒に、20℃で30分間インキュベートした。PBSで洗浄した後、DAPIを含むVectashield(Vector Labs)を用いて、切片をカバーガラスで覆った。一次抗体を省くか、又は代わりに正常の血清を用いた場合、シグナルは全く検出されなかった。
【0137】
3つのタンパク質は全て、in vitroで維持するマウス(
図6h)及びヒト(
図6i)OSCにおいて容易に、かつ均質に検出された。特に、これらの細胞でのFRAGILISの検出は、このタンパク質を用いて、免疫磁気ビーズ分離によりマウス卵巣からOSCを単離することもできると報告する近年の研究と一致している(Zou et al.,Stem Cells Dev. 2011 doi:10.1089/scd.2011.0091)。
【0138】
実施例5:候補ヒトOSCのin vitroでの卵形成能
他者(Pacchiarotti et al.,Differentiation 2010 79:159−170)の結果と一致して、in vitroで培養したマウスOSCは、大きな(直径35〜50μm)球形の細胞を自然に産生したが、これは、形態学(
図7a)及び遺伝子発現分析(
図7b、c)によって、卵母細胞に類似していた。マウスOSCからのin vitro卵形成のピークレベルは、各継代から24〜48時間以内に観察され(
図7d)、その後、次第に減少して、OSCが培養飽和密度に達する毎に、ほぼ検出不能レベルまで降下する。成体ヒト卵巣から単離して、in vitroで維持したVASA陽性細胞の並行分析から、これらの細胞は、マウスOSCと同様に、形態学(
図7f)及び遺伝子発現(
図7c、g)分析の両方から推定されるように、卵母細胞を自然に産生したことが明らかになった。ヒトOSCからのin vitro卵形成の動態は、卵母細胞形成のピークレベルが各継代から72時間後に観察された点で、マウスOSCとはやや異なっていた(
図7e)。広く認められている多数の卵母細胞マーカ(Vasa、c−Kit、Nobox、Lhx8、Gdf9、Zp1、Zp2、Zp3;(Suzumori et al.,Mech.Dev.2002 111:137−141;Rajkovic et al.,Science 2004 305:1157−1159;Pangas et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 2006 103:8090−8095;Elvin et al.,Mol.Endocrinol.1999 13:1035−1048;Zheng et al.,Semin.Reprod.Med.2007 25:243−251)の検出に加えて、マウス及びヒトOSC由来の卵母細胞は、複糸期特異的マーカMsy2も発現した(
図7c)。MSY2は、アフリカツメガエル(Xenopus)FRGY2の哺乳動物相同体であり、これは、両性において減数分裂進行及び配偶子形成に必須の生殖細胞特異的核酸結合Yボックスタンパク質である(Gu et al.,Biol.Reprod.1998 59:1266−1274;Yang et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 2005 102:5755−5760)。正の対照として成体ヒト卵巣皮質組織を用いた、市販の抗体の実証試験から、成体ヒト卵巣に存在する未熟の卵母細胞と特異的に反応する卵母細胞マーカ(VASA、c−KIT、MSY2、LHX8;
図8)に対する4つの抗体をみいだしたが;これらのタンパク質の4つ全ても、ヒトOSCによってin vitroで産生される卵母細胞に検出された(
図7g)。
【0139】
ヒトOSCからin vitroで新しく形成された卵母細胞における、減数分裂マーカMSY2をコードするmRNAの存在によって、本発明者らは、これらの培養物における減数分裂開始の見込みについて探ることにした。継代から72時間後の結合(非卵母細胞生殖系)細胞の免疫蛍光分析によって、減数分裂特異的DNAリコンビナーゼの点状核局在を含む細胞、DMC1と、減数分裂組換えタンパク質である、シナプトネマ構造タンパク質3(SYCP3)をみいだした(
図7h)。いずれのタンパク質も、生殖細胞に特異的であり、減数分裂組換えのために必要である(Page et al.,Annu.Rev.Cell Dev.Biol.2004 20:525−558;Yuan et al.,Science 2002 296:1115−1118;Kagawa et al.,FEBS J.2010 277:590−598)。
【0140】
継代から72時間後のヒトOSC培養物の染色体DNA量解析を決定した。培養したマウス(継代から48時間後)又はヒト(継代から72時間後)OSCをトリプシン処理によって収集して、洗浄し、氷冷PBS中に再懸濁させてから、血球計で計数した。氷冷の70%エタノール中で1時間の固定後、細胞を氷冷PBSで洗浄して、0.2mg/ml RNase−Aと一緒に37℃で1時間インキュベートした。次に、ヨウ化プロピジウムを添加(10μg/ml最終)し、BD Biosciences FACSAria IIサイトメーターを用いて、倍数性状態を決定した。対照体細胞系として、ヒト胎児腎線維芽細胞(HEK293、Invitrogen,Life Technologies Corp.,Carlsbad,CA)を用いて、上記の実験を繰り返した。この分析によって、予想した二倍体(2n)細胞集団の存在が明らかになった;しかし、細胞の4n及び1n集団に一致するピークが検出され、後者は、半数体状態に達した生殖細胞を示している(West et al.,Stem Cells Dev. 2011 20:1079−1088)(
図7i)。対照として同時に分析した胎児腎線維芽細胞の活発に分裂する培養物では、細胞の2n及び4n集団(
図9a)しか検出されなかった。マウスOSC培養物のFACSによる染色体分析でも、同等の結果が観察された(
図9b)。
【0141】
実施例6:ヒトOSCは、in vivoでヒト卵巣皮質組織に卵母細胞を産生する
候補ヒトOSCからの推定卵形成のin vitro観察を確認し、拡張するために、2つの最終実験において、成体ヒト卵巣から単離したVASA陽性細胞に、GFP発現ベクター(GFP−hOSC)で安定に形質導入することにより、細胞追跡を容易にした。細胞追跡実験のために、レトロウイルスを用いて、ヒトOSCに形質導入して、GFP(GFP−hOSC)の安定な発現を有する細胞を取得した。手短には、1μgのpBabe−GfpベクターDNA(Addgeneプラスミドリポジトリ#10668)を、製造業者のプロトコル(Lipofectamine、Invitrogen,Life Technologies Corp.,Carlsbad,CA)に従い、Platinum−Aレトロウイルスパッケージング細胞系(Cell Biolabs,Inc.,San Diego,CA)にトランスフェクトした。トランスフェクションから48時間後にウイルス上澄みを回収した。ヒトOSCの形質導入は、新鮮なウイルス上澄みを用いて実施したが、これは、ポリブレン(5μg/ml;Sigma−Aldrich,St.Louis,MO)の存在によって促進した。48時間後、ウイルスを除去し、新鮮なOSC培地と交換した。最初の1週間の増殖後、GFPの発現を有するヒトOSCを精製又は単離し、精製又は単離した細胞をさらに2週間増殖させた後、2回目のFACS精製又は選別を行うことにより、ヒト卵巣組織再凝集又は異種移植実験のためのGFP−hOSCを取得した。
【0142】
最初の実験では、次に、分散させた成体ヒト卵巣皮質組織と一緒に、約1×10
5GFP−hOSCを再凝集させた。前述のように、ヒト卵巣皮質を解離して、洗浄した後、35μg/mlフィトヘマグルチニン(PHA;Sigma,St.Louis,MO)及び1×10
5GFP−hOSCと一緒に37℃で10分間インキュベートした。細胞混合物を遠心分離(9,300xg、20℃で1分間)によりペレット化して、組織凝集体を形成し、これを、1mlのOSC培地を含む6ウェル培養皿内のMillicell 0.4μm培養プレートインサート(EMD Millipore,Inc.,Billerica,MA)に塗布した。37℃の5%CO
2−95%空気中で凝集体をインキュベートし、24、48及び72時間後、生存細胞GFP画像化を実施した。
【0143】
予想通り、再凝集した組織全体に、多数のGFP陽性細胞が観察された(
図10a)。次に、凝集体を培養物に導入し、直接(生存細胞)GFP蛍光によって24〜72時間後に評価した。24時間以内に、複数の非常に大きな(≧50μm)単細胞が凝集体中に観察され、それらの多くは、卵胞に似た緊密な構造で、より小さなGFP陰性細胞によって囲まれており;これらの構造は、72時間を通じて検出可能であった(
図10b、c)。これらの知見から、GFPを発現するヒトOSCは、卵母細胞を自然に産生し、これらは、成体ヒト卵巣分散質中に存在する体細胞(前顆粒膜/顆粒膜)によって取り囲まれることがわかった。
【0144】
次に、GFP−hOSCを成体ヒト卵巣皮質組織生検に注射した後、これをNOD/SCID雌マウスに異種移植した(n=合計40移植片)。35ゲージ斜端針を備える10μl NanoFil注射器(World Precision Instruments,Sarasota,FL)を用いて、卵巣皮質組織切片(2×2×1mm)に個別に約1.3×10
3個のGFP−hOSCを注射した。レシピエントNOD/SCID雌マウスを麻酔し、ほぼ記載されている(Weissman et al.,Biol.Reprod.1999 60:1462−1467;Matikainen et al.,Nature Genet.2001 28:355−360)通りに、ヒト卵巣皮質組織の皮下挿入のために背側脇腹に沿って小さな切開を施した。移植から7又は14日後に異種移植片を取り出し、4%PFA中に固定し、パラフィン包埋した後、GFPに対するマウスモノクローナル抗体(sc9996;Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz、CA)を用いた免疫組織化学的分析のために、順次切断した(6μm)(Lee et al.,J.Clin.Oncol.2007 25:3198−3204)。手短には、0.01Mクエン酸ナトリウムバッファー(pH6.0)を用いて、高温抗原賦活化処理を実施した。冷却後、メタノール中の3%過酸化水素と一緒に切片を10分間インキュベートすることにより、内生ペルオキシダーゼ活性をブロックし、洗浄した後、製造業者のプロトコル(Vector Laboratories,Burlingame,CA)に従い、ストレプトアビジン−ビオチンプレブロック溶液中でインキュベートした。次に、1%正常ヤギ血清を含むTNKバッファーを用いて、切片を20℃で1時間ブロックした後、1%正常ヤギ血清含有のTNKバッファー中に調製したGFP抗体の1:100希釈物と一緒に4℃で一晩インキュベートした。次に、切片を洗浄し、ヤギ抗マウスビオチン化二次抗体の1:500希釈物と一緒に20℃で30分間インキュベートした後、洗浄し、Vectastain ABC試薬(Lab Vision,ThermoFisher Scientific,Inc.,Waltham,MA)と20℃で30分間反応させた後、ジアミノベンジジン(DAKO Glostrup,Denmark)を用いたGFP陽性細胞の検出を行った。細胞及び組織構造を視覚化するために、切片をヘマトキシリンで軽く対比染色した。負の対照(ビヒクル注射を受けた異種移植組織に対する完全免疫組織化学的染色)も並行して常に実施したが、陽性シグナルは示さなかった。これらの観察結果を確認及び拡張するために、免疫分析の説明で既に詳述したように、DAPI対比染色を用いて、異種移植したヒト卵巣組織におけるGFPと、MSY2(複糸期卵母細胞特異的マーカ)又はLHX8(初期卵母細胞転写因子)のいずれかの二重免疫蛍光による検出を実施した。
【0145】
GFP発現の評価のために、7又は14日後に移植片を収集した。ヒト卵巣移植片は全て、容易に認められる始原及び一次卵胞を含んでおり、その中心にGFP陽性卵母細胞が位置していた。恐らく、GFP−hOSC注射の前に組織中に存在していたこれらの卵胞の間、及び往々にしてこれらに隣接して、GFP陽性卵母細胞を含む他の未成熟卵胞が散在していた(
図10d、f)。GFP−hOSCを注射した3つのランダムに選択したヒト卵巣組織生検の連続した切片組織形態計測的分析から、マウスへの異種移植から7日後に、移植片当たり15〜21個のGFP陽性卵母細胞の存在が明らかになった(
図11)。対照として、GFP−hOSC注射前のヒト卵巣皮質組織(
図10e)又はNOD/SCIDマウスへの移植前に模擬注射(GFP−hOSCを含まないビヒクル)を受けた異種移植片(
図10g)には、GFP陽性卵母細胞は全く検出されなかった。複糸期卵母細胞特異的マーカMSY2(Gu et al.,Biol.Reprod. 1998 59:1266−1274;Yang et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 2005 102:5755−5760)又は初期卵母細胞転写因子LHX8(Pangas et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 2006 103:8090−8095)のいずれかを用いた二重免疫蛍光に基づくGFPの検出によって、GFP−hOSCを注射した異種移植片全体に散在する多数の二重陽性細胞が認められた(
図10h)。予想したように、GFP−hOSC注射前の卵巣組織又はGFP−hOSC注射を受けなかった異種移植片には、GFP陽性卵母細胞は全く検出されなかった(図示していない;
図10e、g参照);しかし、これらの卵母細胞は、LHX8及びMSY2に対しては一貫して陽性であった(
図10h;
図8)。
【0146】
実施例7:オートロガス生殖細胞系ミトコンドリアエネルギー移動(「AUGMENT」へのOSCの使用
図13は、体外受精(IVF)前又は体外受精中の同じ被検者から得た卵母細胞に移入することができる卵形成細胞質又はミトコンドリア画分の誘導化のための雌性生殖細胞のオートロガス供給源としてのOSCの使用の概観を表す。その結果起こったAUGMENT後の卵におけるミトコンドリアDNAコピー数及びATP生産能力の増大によって、卵母細胞が、受精及び胚発生の成功に必要なエネルギー駆動イベントのためのATPの十分な蓄積を有することが確実になる。AUGMENTにより卵母細胞に供給される追加のミトコンドリアは、卵母細胞を産生するために身体によって用いられる天然の前駆細胞に由来する。さらに、追加ミトコンドリアは、胚発生に必要なミトコンドリアの最小閾値数がほぼ4倍増大した場合でも、健全な胚形成が進行することを示すデータ(Wai et al.,Biology of Reproduction 2010 83:52−62、
図6参照)によれば、卵母細胞に有害な影響をもたらすことはない。異種卵細胞質移入の有益な作用については、Cohen et al.,Mol Hum Reprod 1998 4:269−80(その方法は、胚/子孫に、生殖細胞系遺伝子操作及びミトコンドリアのヘテロプラスミーをもたらすために、ヒトには適していない)によって早期に報告されており、このことは、卵母細胞が、追加のミトコンドリアによって利益を被ることを示している。
【0147】
AUGMENTのための臨床プロトコルの一例は以下の通りである。標準的IVFの開始前に、月経周期の1〜7日の間に、被検者に腹腔鏡検査を実施して、1卵巣から卵巣上皮(卵巣皮質生検)の3つ以下の切片(各々約3×3×1mm)を採取する。この施術の間に、腹部内に2〜3つの切開を施し、装置を挿入して、滅菌手法を用いて、卵巣から組織を採取する。採取した組織を滅菌溶液に導入して、GTP準拠試験施設に氷上で輸送し、そこで、AUGMENT/ICSIの実施時まで低温保存した。組織は、酵素的解離の実施時まで凍結状態に維持した。これは、ミトコンドリアを精製又は単離するオートロガスOSCの供給源として用いられる。
【0148】
次に、OSCを単離して、OSCからミトコンドリアを回収する。卵巣皮質生検組織を解凍した後、組織を細かく刻んで、組換えコラゲナーゼ及び組換えDNase1を含む溶液に導入した後、単細胞懸濁液に均質化する。懸濁液をセルストレイナーに通過させて、単細胞の溶液を調製する。単細胞懸濁液を抗VISA抗体と一緒にインキュベートする。次に、標識細胞を蛍光活性化細胞選別(FACS)によって単離する。OSCのアリコートを凍結するために標準的徐冷低温保存法を用いる。
【0149】
被検者に、ベースライン評価、GnRHアンタゴニスト下方制御及びゴナドトロピン刺激などの標準的IVFプロトコルを実施する。hCG投与から34〜38時間以内に卵母細胞を回収し、卵母細胞を質及び成熟状態について評価する。成熟卵母細胞をICSIによって授精させる。
【0150】
卵母細胞の採取日に、当該被検者の凍結OSCバイアルを標準的方法で解凍する。OSCを処理して、ミトコンドリアペレットを取得する(Frezza et al.Nature Protocols 2007 2:287−295 or Perez et al.,Cell Death and Differentiation 2007 3:524−33.Epub 2006 Oct 13)か、又は以下の実施例9(ここでは、FACSによる方法を用いて、組織中の全ミトコンドリア集団を単離する)に記載のように、また任意選択で、活発に呼吸するミトコンドリア集団をさらに単離する、あるいは、組織中の全ミトコンドリアに対する活性ミトコンドリアの比率を定量する。ミトコンドリア調製物の評価及び活性を評価し、記録する。ミトコンドリア機能のアッセイ例を実施例8に記載する。ミトコンドリアペレットを、卵母細胞の質を改善するミトコンドリア活性の標準化濃度まで、媒質中に再懸濁させる。ミトコンドリアを含むこの媒質を、送達しようとする精子を含むマイクロインジェクション針に吸引する。ミトコンドリアと精子の両方を一緒に、ICSIによって卵母細胞に送達する。あるいは、ミトコンドリア又はその調製物を使用まで凍結する。
【0151】
受精及び胚培養後に、典型的には、最大3つのグレード1又はグレード2(SART格付けシステム(50))胚を、胚発生の評価に基づき、3又は5日後、超音波誘導下で移入してもよい。βhCG試験によって妊娠が確認されたら、被検者は、後に約6及び20週の妊娠期間で検査を受ける。
【0152】
実施例8:ヒト卵巣間質細胞に対するヒトOSC中のミトコンドリアパラメータの評価
同じ患者から得られた培養ヒト卵巣体細胞及び培養ヒトOSCに、ミトコンドリア染色を実施した。ミトコンドリア塊を示す非酸化依存性Mito Tracker Green FM(Invitrogen,Life Technologies Corp.,Carlsbad,CA;M7514))ミトコンドリア追跡用プローブと一緒に、細胞を37℃で45分間インキュベートして、新鮮な培地で2回洗浄した後、生存細胞蛍光画像化を行った。両細胞型を並行して処理した。
図14では、分布パターンがヒトOSCにおける核周辺局在化を示しており、これは、他のヒト幹細胞型と一致している。
【0153】
生物が老化するにつれて、細胞のmtDNAに、共通欠失突然変異(ミトコンドリアゲノムのヌクレオチド8470〜13447の欠失)の蓄積が起こる。PCRプライマーは、この欠失を補うように設計されている。この欠失突然変異が存在しない場合(mtDNAゲノムがインタクトであることを意味する)、PCRアンプリコンは5080bpとなる。欠失が存在すれば、103bp断片が増幅される。個々の細胞又は細胞集団内のミトコンドリアの間に不均質性が存在する場合には、いずれの産物も増幅しない。これは、欠失(小さなバンドによって示される)が、大きな5kb産物よりはるかに効率的に増幅するために起こる。小さな産物は、対数及びプラトー期により速く到達し、これにより、PCR混合物中の利用可能な試薬を用いてしまい、効率の低い5kb産物の増幅用にほとんど又は全く残さない。
図15に示すPCR分析から、ヒトOSCは突然変異の蓄積を保有していないが、患者に一致する卵巣体細胞は保有することがわかる。
【0154】
体細胞内のミトコンドリア集団が、突然変異に関して異種である(欠失を保有するミトコンドリアもあれば、保有しないものもある)ことを確認するために、欠失領域内の1配列を特異的にターゲティングする第2組のPCRプライマーを用いて、卵巣体細胞におけるミトコンドリアの統合性を評価した。191bp産物の増幅によって、この領域が、これら細胞のミトコンドリアの少なくともいくつかにおいて、インタクトであること、並びに体細胞ミトコンドリアの集団全体は、欠失突然変異に関して異種であるが、ヒトOSCは、突然変異がほぼないことがわかった。
【0155】
ミトコンドリアDNA分析のためのプライマー配列(5’から3’)は、以下の配列:TTACACTATTCCTCATCACCCAAC(配列番号64)(フォワード)及びTGTGAGGAAAGGTATTCCTGCT(配列番号65)(リバース)を有する、5080bp(インタクト)又は103bp(欠失突然変異体)のためのアンプリコン1と、以下の配列:CCTACCCCTCACAATCATGG(配列番号66)(フォワード)及びATCGGGTGATGATAGCCAAG(配列番号67)(リバース)を有する、191bp(内部、欠失配列)のためのアンプリコン2を含む。
【0156】
図16は、ATPアッセイ(ATP Bioluminescence Assay Kit HS II,Roche Applied Science,Mannheim,Germany)の結果を示す。左のパネルは、ATPの希釈後の標準曲線を示す(モル比対化学発光)。図に示すように、アッセイは、ATPのレベルの検出において感受性が高い。右のパネルは、培養したヒトOSCから単離したミトコンドリアからのATPの量を示す。約100,000、10,000、1,000及び100個の細胞を溶解して、分析に用いており、値及び検出能は、mM〜fMの範囲内であった。100個という少ないOSCを含むサンプルが、6.00E−08Mもの多量のATPを生産した(約600pモル/細胞)。卵巣体細胞の卵細胞と比較して、OSCは、約100倍少ないミトコンドリアで、より多くの、又は同等の量のATP/細胞を生産する。
【0157】
実施例9:ミトコンドリアのFACSによる単離
本実施例に記載するように、FACSによる方法は、組織内の全ミトコンドリア集団を単離するのに用いることができる。さらに、ミトコンドリア単離のためのFACSによる方法は、機能性(例えば、活発に呼吸する)ミトコンドリア集団だけを単離するために、又は組織、細胞、溶解細胞若しくはそれらから得た画分における全ミトコンドリアに対する機能性ミトコンドリアの比率を定量するために、2つの異なる蛍光色素(ミトコンドリア膜電位(MMP)依存性及びMMP非依存性)を用いて、二重標識を用いることもできる。
【0158】
ミトコンドリア塊を示す非酸化依存性Mito Tracker Green FM(Invitrogen,Life Technologies Corp.,Carlsbad,CA;M7514)ミトコンドリア追跡用プローブを、以下に記載するように作製し、使用した。Mito Tracker原液(無水ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させた1〜5mg/ml)を25〜500nMの使用濃度に達するまで、無血清増殖培地に希釈した。新しく単離又は解凍したOSCを5分間の300xgの遠心分離によりペレット化した。上澄みを吸引して、細胞ペレットを200μlの希釈Mito Tracker原液中に再懸濁させた。細胞を37℃で45分インキュベートし、予熱(37℃)した無血清増殖培地で洗浄した後、5分間の300xgの遠心分離によりペレット化した(あるいは、目的のプローブとのインキュベーション前に、細胞を溶解させてもよい)。上澄みを吸引して、細胞ペレットを100μlのミトコンドリア溶解バッファー中に再懸濁させた後、急速な浸透圧刺激を用いた機械的透過処理による溶解のために、FACSソートチューブに移した。溶解後に、細胞を氷上で15〜30分平衡させ、200μlの(最小量)氷冷PBS中でインキュベートした後、ボルテクスした。
図19に示すように、3つの異なる集団:残留M7514陽性細胞(細胞MT+)、高蛍光ミトコンドリア(機能性、Mito MT高)、及び低発現ミトコンドリア(非機能性、Mito MT低)が観察された。溶解後の非機能性ミトコンドリアに対する機能性ミトコンドリアの比は、約1:1であった(1552ミトコンドリア;743は、機能性としてゲーティングし、716は、非機能性としてゲーティングし、残りはゲーティングしなかった;ミトコンドリアの各集団についてのゲートは、
図19に強調表示している)。
【0159】
従って、機能性ミトコンドリアを選別及び回収し、残る非溶解細胞及び非機能性ミトコンドリアを大きさ及び蛍光強度に基づいて排除した。複数のプローブ又はJC−1プローブ(赤色スペクトル;Invitrogen,Life Technologies Corp.,Carlsbad,CA;T3168)を用いた二重標識は、非機能性ミトコンドリアから機能性ミトコンドリアをさらに識別する上で役立ちうる。二重標識に用いるためのプローブとしては、限定するものではないが、低酸化状態ミトトラッカー(mitotracker)プローブ(例えば、Mito Tracker Red CM−H2XRos(Invitrogen,Life Technologies Corp.,Carlsbad,CA;M7513)、Mito Tracker Orange CM−H2TMRos(Invitrogen,Life Technologies Corp.,Carlsbad,CA;M7511)、並びに蓄積依存性プローブ:JC−1(赤色スペクトル;Life Technologies Corp.,Carlsbad,CA;T3168)、Mito Tracker Deep Red FM(Invitrogen,Life Technologies Corp.,Carlsbad,CA;M22426)及びJC−1(緑色スペクトル;Invitrogen,Life Technologies Corp.,Carlsbad,CA;T3168)が挙げられる。
【0160】
実施例10:分画遠心分離法を用いたミトコンドリアの単離
本実施例に記載するように、組織中に存在するミトコンドリアを単離及び/又は分画するために、分画遠心分離法を用いることができる。任意の組織又は細胞からミトコンドリアを単離する場合の基本的ステップは、以下の通りである:(i)機械及び/又は化学的手段により細胞を破砕するステップ、(ii)低速で分画遠心分離を実施することにより、残屑及び極めて大きな細胞小器官(SPIN1)を除去するステップ、並びに(iii)より高速で分画遠心分離を実施することにより、ミトコンドリア(SPIN2)を単離して、回収するステップ。
【0161】
組織を計量し、1.5mlの市販の洗浄バッファー(Wash Buffer)(MitoSciences,Abcam,plc,Cambridge,UK)で2回洗浄する。組織を細かく刻み、予冷したダウンス型(Dounce)ホモジナイザーに導入する。2.0mlまでの市販の単離バッファー(Isolation Buffer)(MitoSciences,Abcam,plc,Cambridge,UK)を添加する。ダウンス型(Dounce)ホモジナイザーを用いて細胞を破砕し(10〜40行程)、ホモジネートをエッペンドルフ(Eppendorf)チューブに移す。各チューブを単離バッファーで2.0mlまで充填する。4℃で、ホモジネートを1,000gで10分間遠心分離する。上澄みを保存し、新しいチューブに移し、これらチューブを各々、単離バッファーで2.0mlまで充填する。4℃で、チューブを12,000gで15分間遠心分離する。ペレットを保存する。所望であれば、質について上澄みを分析する。10μlの市販のプロテアーゼ阻害剤カクテル(MitoSciences,Abcam,plc,Cambridge,UK)を添加した1.0mlの単離バッファーに再懸濁させることにより、ペレットを2回洗浄する。4℃で、チューブを12,000gで15分間遠心分離する。洗浄後、ペレットを合わせて、プロテアーゼ阻害剤カクテルを添加した500μlの単離バッファーに再懸濁させる。所望であれば、使用までアリコートを−80℃で保存する。
【0162】
一手法では、市販の抗体、例えば、MSA06、MSA03、及びMSA04(MitoSciences,Abcam,plc,Cambridge,UK)を用いて、上澄み画分中のものに対する単離ミトコンドリア中のシトクロムc、ポリン、若しくはシクロフィリンDをウェスタンブロットスクリーニングすることにより、ミトコンドリアの統合性を試験する。別の手法では、例えば、市販のOXPHOS複合体検出(Complexes Detection)カクテル(MitoSciences,Abcam,plc,Cambridge,UK)を用いて、ミトコンドリアのサンプルをウェスタンブロットによりプロービングして、ミトコンドリア複合体の成分を検出する。
【0163】
実施例11:ショ糖密度勾配分離法を用いたミトコンドリアの単離
このプロトコルは、市販されている以下の試薬:n−ドデシル−β−D−マルトピラノシド(ラウリルマルトシド;MS910;MitoSciences,Abcam,plc,Cambridge,UK)、リン酸緩衝食塩水(PBS)、ショ糖溶液15、20、25、27.5、30及び35%、再蒸留水、プロテアーゼ阻害剤カクテル(MitoSciences,Abcam,plc,Cambridge,UK)、及び13×51mmポリアロマー遠心分離管(Beckman 326819;Beckman−Coulter,Inc.,Brea,CA)を使用する。
【0164】
ショ糖密度勾配分離法は、ミトコンドリアのために最適化されたタンパク質細分画方法である。この方法は、サンプルを少なくとも10の画分に分離する。可溶化した全細胞をはるかに複雑性の低い画分に分離することができるが、すでに単離したミトコンドリアを分析する場合には、これらの画分はさらに単純化される。ショ糖密度勾配分離法は、5mg/mlタンパク質で0.5mlまでの初期サンプル量のために設計されている。従って、2.5mg以下の全タンパク質を用いる必要がある。これより大きい量の場合には、複数の勾配を調製するか、又はより大きなスケールの勾配を作ることができる。
【0165】
サンプルを非イオン性界面活性剤中で可溶化させる。このタンパク質濃度で、ミトコンドリアは、20mM n−ドデシル−β−D−マルトピラノシド(1%w/vラウリルマルトシド)により完全に可溶化することがわかっている。この可溶化の工程で重要なのは、事前に膜包埋したマルチサブユニットOXPHOS複合体をインタクトに維持しながら、膜を破砕することであり、これは、本明細書に記載するショ糖密度勾配分離法に必要なステップである。1つの重要な例外は、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ酵素(PDH)である。5mg/mlミトコンドリアのタンパク質濃度で、PDHを単離するために、必要な界面活性剤の濃度は、わずか10mM(0.5%)ラウリルマルトシドである。また、PDH酵素もまた、より低い速度で遠心分離すべきであり、PDH複合体には、16,000gの遠心力が最大である。
【0166】
PBS中5mg/mlタンパク質のミトコンドリア膜懸濁液に、ラウリルマルトシドを1%の最終濃度まで添加する。これを十分に混合し、30分氷上でインキュベートする。次に、混合物を72,000gで30分間遠心分離する。小サンプル量には、Beckman Optimaベンチトップ超遠心機(Beckman−Coulter,Inc.,Brea,CA)が推奨される。しかし、最低でも、最大速度(例えば、約16,000g)のベンチトップ微量高速遠心機で十分なはずである。遠心分離後、上澄みを回収し、ペレットを廃棄する。プロテアーゼ阻害剤カクテルをサンプルに添加して、これを遠心分離の実施まで氷上に維持する。ミトコンドリアが非常に豊富なサンプルでは、複合体III及びIV中のシトクロムが、上澄みに褐色の色を与えうるが、これは、後の分離の有効性を確認する際に有用である。
【0167】
順次密度を下げてショ糖溶液を次々と重ねることにより、不連続ショ糖密度勾配を調製する。15〜35%のショ糖溶液を含む不連続勾配の調製及び遠心分離を以下に説明する。この勾配は、ミトコンドリアOXPHOS複合体(密度200kDa〜1000kDa)の良好な分離をもたらす。しかし、この設定は、特定の複合体の分離又はより大きな量の材料の分離のために変更することができる。
【0168】
次第に密度を下げてショ糖溶液を次々と重ねることにより、勾配を調製する;そのために、適用する第1の溶液は、35%ショ糖溶液である。溶液の一様な適用によって、最も再現性の高い勾配が得られる。この適用を補助するために、Beckmanポリアロマー管をチューブスタンドにまっすぐに立てる。次に、Rainin Pipetman200μlピぺットの先端を、Rainin Pipetman1000μlピぺットの先端に配置する。ぴったりと合わせた両先端をクランプスタンドで固定し、200μlピぺットの先端の末端を管の内壁と接触させる。次に、ショ糖溶液を1000μlピぺットの先端内に導入し、ゆっくりとしかも着実に管内に供給するが、その際、35%溶液(0.25ml)から開始する。
【0169】
35%溶液を管内に排出したら、30%溶液(0.5ml)を管内の35%溶液の上にロードする。この手順を27.5%(0.75ml)、25%(1.0ml)、20%(1.0ml)及び15%(1.0ml)溶液でそれぞれ続ける。管の上部に、0.5mlの可溶化ミトコンドリアのサンプルを添加する十分なスペースを残しておく。
【0170】
ショ糖密度勾配が注ぎ込まれたら、それぞれのショ糖層を肉眼で見ることができる。勾配の上部にサンプルを導入した後、非常に注意深く管をロータに装着し、遠心分離を開始する。全ての遠心分離工程で、均衡のとれたロータが要求され、従って、厳密に同じ質量を含むもう1つの管が得られる。実際には、これは、2つの勾配を調製しなければならないことを意味するが、第2の勾配は、実験サンプルを含む必要はなく、0.5mlのタンパク質サンプルの代わりに、0.5mlの水を含んでよい。
【0171】
ポリアロマー管は、スイングバケットSW50.1型ロータ(Beckman−Coulter,Inc.,Brea,CA)において37,500rpm(相対遠心力平均132,000xg)で、加速プロフィール7及び減速プロフィール7を用いて、4℃で16時間30分にわたり遠心分離する必要がある。実施直後に、ショ糖層を乱さないように細心の注意を払いながら、管をロータから取り外さなければならない。ミトコンドリアを豊富に含むサンプルを分離すると、異なる色のタンパク質層が観察される。最も一般的には、これらは、管の底部から約10mm地点の複合体III(500kDa:褐色)と、管の底部から25mm地点の複合体IV(200kDa:緑色)である。また、それ以外のバンドが観察される場合もある。これらは、別のOXPHOS複合体である。
【0172】
画分の回収のために、クランプスタンドを用いて、管を一定かつまっすぐに維持する。細い針を用いて、管の最も底部に小さな孔をあける。この孔は、ショ糖溶液を毎秒約1滴を滴下させるのにちょうどの大きさである。あけた孔から、等量の画分をエッペンドルフチューブ中に回収する。合計10×0.5mlの画分が適切であるが、これより多い画分(従って、量はこれより小さい)も可能である(例えば、20×0.25mlの画分)。画分は、分析まで−80℃で保存する。本明細書に記載した方法(例えば、実施例9、10)又は当分野で公知の方法のいずれかを用いて、ミトコンドリアの統合性を決定するために、回収した画分を分析する。
【0173】
実施例12:OCSは、ミトコンドリア活性の増大を呈示する
低ミトコンドリア活性は、精原細胞、初期胚、内部細胞塊細胞及び胚性幹細胞にみとめられていることから、「幹細胞性」の特徴であると報告されている。Ramalho−Santos et al.,Hum Reprod Update.2009 (5):553−72を参照されたい。OSCは、本質的に雄性精原幹細胞(精原細胞)の雌性同等物であるが、OSCは、多産のミトコンドリア活性を有することがわかっている。
【0174】
OSC溶解後、ATP(pモル)のミトコンドリア生産を10、15、20及び30分後に測定し、試験した各サンプルにおける総mtDNA量(fg)に対して標準化する(ATP Bioluminescence Assay Kit HS II,Roche Applied Science,Mannheim,Germany)。
図20に示すように、埼玉医療センター(Saitama Medical Center)で、性転換手術のために、性同一性障害を持つ年齢22〜33(28.5±4.0)歳の女性患者から得られた成人卵巣由来の卵原幹細胞(OSC)は、骨髄由来のヒト間葉系幹細胞(hMSC、PromoCell GmbH、Heidelberg,Germanyから入手)、成人卵巣体細胞(用いたOSCに一致する被検者)、ヒト胚性幹細胞(ESC)、及びIMR90胎児肺線維芽細胞由来のヒト人工多能性幹細胞(iPSC)よりもはるかに高いレベルのATPを生産した。
【0175】
ATP(pモル)のミトコンドリア生産を、試験した各サンプルにおける合計mtDNA量(fg)に対して標準化した。
図21に示すように、成人卵巣由来の卵原幹細胞(OSC)は、10分で骨髄由来のヒト間葉系幹細胞(MSC)の6倍超のATPを、また、10分で成人卵巣体細胞(用いたOSCに一致する被検者)、ヒト胚性幹細胞(ESC)、及びIMR90胎児肺線維芽細胞由来のヒト人工多能性幹細胞(iPSC)の10倍を超えるATPを生産した。
図21は、hOSC、hMSC、Soma、hESC、及びhiPSCについて、それぞれ、10分で生産された1.03E−09、1.46E−10、1.76E−11、4.56E−12、9.10E−11pモルATPを示す。標準誤差(同じ順序で)は、1.15E−10、4.56E−11、2.28E−12、1.72E−13及び7.99E−12である。
【0176】
欠失分析によって、hMSCにおける共通4977−bp欠失の存在が明らかになった(
図22)。突然変異を有することがわかっているヒト卵巣体細胞を、サンプルなしの対照(ve)と一緒に正の対照として含ませた。産物のインタクトな部分は、いずれのサンプルでも検出されなかった。比較すると、共通4977−bp欠失は、ヒトOSCにおいて検出不可能である(
図15)。
【0177】
他の実施形態
以上の説明から、本発明を様々な用途及び条件に合わせるために、本明細書に記載した本発明に、改変及び変更を実施しうることは明らかであろう。このような実施形態も、以下の特許請求の範囲に含まれる。
【0178】
ある変数のいずれかの定義における要素を列挙した記載は、単一の要素として、又は列挙された要素のあらゆる組合せ(若しくは部分的組合せ)としてのその変数の定義を含む。本明細書における実施形態の記載は、いずれかの単一実施形態として、又はいずれか他の実施形態又はその一部との組合せとしてのその実施形態を含む。
【0179】
本出願は、2011年6月29日に出願された米国仮特許出願第61/502,840号明細書及び2012年2月17日に出願された米国仮特許出願第61/600,529号明細書に関連しうる主題を含む。尚、これらの文献は、その全開示内容を参照として本明細書に組み込むものとする。本明細書に記載するあらゆる特許及び刊行物は、あたかも各々の独立した特許及び刊行物が、参照として本明細書に組み込まれることを明示的かつ個別に示されているのと同じ程度まで、本明細書に組み込むものとする。