(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年、わが国において原子力発電所の炉心溶融事故が発生し、事故発生地点の近隣地域のみならず、事故発生地点から相当の距離を隔てた地域においても、放射性物質(粒子)が飛散し、土壌に降り積もる等して問題となっている。
【0007】
このような事故によって、放射性管理区域内や施設等に従事する専門の知識を持つ放射線技術者以外の一般市民も長期に渡り放射能と向き合わなければならなくなった。
【0008】
汚染物や土壌を除去する場合は、ゴム手袋やマスク等の防護具を装着することは当然である。しかしながら子供や高齢者、女性等、一般市民にとって、普段の生活を営む上で予期せず汚染された物質や表面を素手で触れてしまうことが十分考えられ、手の汚染状況の把握も困難である。汚染された物質や表面に触れた場合、速やかに手の皮膚表面に付着した放射性物質を洗浄(除染)する必要があるが、放射性物質は目に見えないことや慣れによって、放射性物質が手に付着してから時間が経過すれば表皮の皮溝や毛穴等に付着した放射性物質が汗や皮脂と交じり乾燥することで、除去が極めて困難となる。
【0009】
放射性物質及び放射線を取り扱う者は、IAEA(国際原子力機関)等によって、人体表面に使用できる酸化チタンペースト法やクエン酸と中性洗剤の併用、クエン酸ナトリウム水溶液、特許文献1に記載された除染剤等によって除染する方法が知られている。しかしながら、未だ完成された除染方法や除染剤が開発されておらず、十分な除染効果が期待できないのが現状である。また、その使用方法においても洗浄時間や回数制限等、それらの公知の除染方法や除染剤は、放射線管理区域内を想定した専門の従事者のみを対象としたものであって、特別な知識を持たずとも、広く一般の人が容易に用いることができるものではなかった。昨今の原発事故によって、一般市民を含む誰もが、より確実な除染効果を奏することのできる石鹸等の除染剤の製造が望まれている。
【0010】
特許文献2に記載された除染剤は、人体表面にも使用できるものではあるが、概ね主成分であるリモネンの配合量に比例して除染効果が高くなることから、汚染物に接触する頻度の極めて高い人体部位である手指に使用した場合、リモネンの含有量が15〜80%にも及ぶ大量のリモネンによってマニキュアやネールを侵して剥離させる虞がある。更には、リモネンの配合量を上記範囲の最大量配合したとしても皮膚表面の除染効果が必ずしも高いものではなかった。
【0011】
特許文献3に記載の除染方法によれば、メチレンクロライドを主成分としており、人体表面を対象としたものでなく皮膚に使用できるものではない。
【0012】
特許文献4に記載の除染方法によれば、アルカリ除染工程と酸除染工程の2工程を要し人体表面に使用できるものの、その装置は肥大化してしまい職場や家庭に容易に設置できるものではないという問題点がある。
【0013】
特許文献5に記載の除染方法によれば、クエン酸などの有機酸と水による除染液であり人体表面に使用できるものの、IAEA(国際原子力機関)等によって、古くから用いられている除染剤の一種であって、除染効果が高いものではないという問題点がある。
本発明は、前述の実情に鑑みて提案されるものであって、皮膚に傷損を与えることがなく、マニキュアやネールを侵して剥離させることもなく、かつ、除染効果の高い手指洗浄用除染石鹸を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前述の課題を解決し、前記目的を達成するため、本発明に係る手指洗浄用除染石鹸は、以下の構成のいずれかを有するものである。
【0015】
〔構成1〕
非イオン界面活性剤を
2重量
%、オレンジオイルを
10重量
%、合成ゼオライトを
10〜20重量
%、キレート剤を
6〜12重量
%、水を残部としてそれぞれの範囲量から任意の量の組み合わせによってなり、かつ、合計が100重量%である除染石鹸であって、非イオン界面活性剤は、水に溶けてもイオン性を示さない界面活性剤であり、親油基が炭素数12〜18の高級アルコールであり、オレンジオイルは、90〜94%のリモネンを含み、合成ゼオライトは、A型、X型、MFI型、モルデナイト型または、CHA(チャバサイト)型であって、差渡し径が0.22nm〜0.8nmの細孔を有し、粒子径が細孔の差渡し径以上、20μm 以下であり、キレート剤は、有機系であり水系分散剤であって、分子量が1000〜10000Mwの範囲にある高分子界面活性剤型分散剤であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
非イオン界面活性剤は、水に溶けてもイオン性を示さない界面活性剤であり、親油基が炭素数12〜18の高級アルコールであるものである。非イオン界面活性剤は、刺激性が低い点で、両イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤及び陰イオン界面活性剤よりも優れている上、他のイオン性界面活性剤より乳化力が高い。更には合成ゼオライトの持つイオン交換能を阻害しないと考えられる。
【0018】
合成ゼオライトは、差渡し径が0.22nm〜0.8nmの細孔を有し、粒子径が細孔の差渡し径以上、20μm以下である。天然ゼオライトを除けば、一般的な合成ゼオライトの実測による一次粒子のメジアン径は、数μm程度である。非特許文献1によれば、角質層の厚さは、部位によって異なり、手掌や足底では極めて厚い。そのほか手の甲(手背)、足の甲などの角質層は、比較的厚い部位に属するとされている。角層の厚さは、手背0.065mm,手掌0.090mm,示指尖0.126(0.196)mmとされている(10%ホルマリン固定,パラフィン包理,切片の厚さ16μ,成人男4,女2,小児1屍,100〜150標本を測定したもの。角層は、最厚部を測定したもの)。
【0019】
手の部位の角層厚の数値と本発明の範囲である細孔の差渡し径以上、20μm以下の合成ゼオライトの一次粒子径を比べると皮膚に傷損を与えることは考えにくい。また従来からゼオライトが放射線核種をイオン交換によって選択的に吸着することは知られているので、合成ゼオライトを除染剤や除染石けんとして使用するには、有効な材料である。すなわち本発明は、合成ゼオライトを用いることで、1次粒子径が数μ〜20μm程度という極めて微細な大きさを選択することができ、細孔を有することで圧縮強度が弱いことからも皮膚に傷損を与えることがなく、内部被爆を発生させる虞のない上、手指表面の皮溝や毛穴等に付着した放射性物質を容易、かつ効果的に除染を行うことができる手指洗浄用除染石鹸を提供することができるものである。
【0020】
オレンジオイルは、その成分の内、90〜94%のリモネンを含む。特許文献1によれば、二重結合のπ電子が放射性核種に何らかの働きをしているのではないかということで、単に皮脂油を分解して付着した放射性物質を除去し易くしているのかは、未だ明らかではない。しかし、概ね添加量に比例して除染効果が高くなるのは事実である。しかしながら、原発事故発生以前には、一部の放射性物質を扱う技術者のみを対象としてもよかったのであるが、一般市民も巻き込んだ現状では、リモネンを大量に使用することは、マニキュアやネールへの影響も考慮しなければならない。そこで、本発明では、オレンジオイルを15重量%以下の配合量とすることを特徴としている。
【0021】
キレート剤は、有機系であって、水系分散剤のうち、分子量が1000〜10000Mwの範囲にある高分子界面活性剤型分散剤である。数μ〜20μmの一次粒子径の合成ゼオライトは、シリカ/アルミノ比が高い疎水性の性質を持つ合成ゼオライトでも、乳化力の大きい界面活性剤や増粘剤だけでは、長時間に渡って分散状態を保てずに沈降する。その沈降度合いは、再分散性良好なソフトケーキというレベルでなく、水飴のように硬く締って、攪拌棒等が折れ曲がる程である。従って、水を溶媒とした場合、分散剤の併用は好ましく、陽イオンである放射性物質のキレート能も有する。
【0022】
従って、それらの成分を組み合わせることで、リモネンを90〜94%含むオレンジ油の配合量が、15重量%以下でも、特許文献1に記載された除染剤よりも除染効果が高く、マニキュアやネールを侵し剥離させることがない手指洗浄用除染石鹸を提供することができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0025】
〔本発明に係る手指洗浄用除染石鹸の組成〕
本発明に係る手指洗浄用除染石鹸は、非イオン界面活性剤を50重量%以下、オレンジオイルを15重量%以下、合成ゼオライトを50重量%以下、キレート剤を50重量%以下、水を残部としてそれぞれの範囲量から任意の量の組み合わせによってなり、かつ、合計が100重量%である手指洗浄用除染石鹸である。
【0026】
または、本発明に係る手指洗浄用除染石鹸は、非イオン界面活性剤を25重量%以下、オレンジオイルを15重量%以下、合成ゼオライトを25重量%以下、キレート剤を25重量%以下、水を残部としてそれぞれの範囲量から任意の量の組み合わせによってなり、かつ、合計が100重量%である手指洗浄用除染石鹸である。
【0027】
この除染石鹸は、手甲、手掌、手指の洗浄に用いることができ、これらに付着した放射性物質を除去(除染)するのに好適である。この手指洗浄用除染石鹸は、固体であってもよいし、液体であってもよい。
【0028】
この除染石鹸は、合成ゼオライトを含むことから、アルカリ領域での使用が好ましく、最終形態として好ましいPhは、7.0〜12.0。特に好ましくは8.0〜11.0である。
【0029】
非イオン界面活性剤は、水に溶けてもイオン性を示さない界面活性剤であり、親油基が炭素数12〜18の高級アルコールであるものである。非イオン界面活性剤は、刺激性が低い点で、両イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤及び陰イオン界面活性剤よりも優れている上、他のイオン性界面活性剤より乳化力が高い。更には合成ゼオライトの持つイオン交換能を阻害しないと考えられる。
【0030】
非イオン界面活性剤は、以下のものから、1種類のものを用いてもよいし、複数種類を混合してもよい。
【0031】
(1)ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンミリステルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル。
【0032】
(2)ポリオキシアルキレン誘導体として、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール。
【0033】
(3)ソルビタン脂肪酸エステルとして、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンジステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート。
【0034】
(4)ソルビタン脂肪酸エステルとして、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート。
【0035】
(5)ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとして、ポリオキシエチレンソルビタンモノヤシ、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリイソステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノヤシ。
【0036】
(6)ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとして、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート。
【0037】
(7)ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステルとして、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット。
【0038】
(8)グリセリン脂肪酸エステルとして、グリセロールモノステアレート、グリセロールモノオレエート、自己乳化型グリセロールモノステアレート。
【0039】
(9)グリセリン脂肪酸エステルとして、分子蒸留モノグリセライドステアリン系、分子蒸留モノグリセライド植物性ステアリン系、分子蒸留モノグリセライド、植物性オレイン系、中純度モノグリセライド、ステアリン・オレイン系、中純度モノグリセライド、植物性オレイン・ステアリン系、中純度モノグリセライド、自己乳化型ステアリン系。
【0040】
(10)ポリオキシエチレン脂肪酸エステルとして、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ポリエチレングリコールモノオレエート。
【0041】
(11)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油。
【0042】
(12)ポリオキシエチレンアルキルアミン。
【0043】
(13)アルキルアルカノールアミド。
【0044】
また、反応性界面活性剤として、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルを含んでもよい。
【0045】
オレンジオイルは、90〜94%のリモネンを含むものであり、例えば、CAS.NO:8008−57−9の天然精油を用いることができる。オレンジオイルは、1種類のものを用いてもよいし、複数種類を混合してもよい。
【0046】
合成ゼオライトは、A型、X型、MFI型、CHA(チャバサイト)型、モルデナイト型であって、例えば、結晶性アルミノケイ酸塩、または、結晶性チタンケイ酸塩である。合成ゼオライトの組成の一例を、以下に示す。
【0047】
Me
2/xO・Al
2O
3・mSiO
2・nH
2O(Me:X価の陽イオン)
Me
2/xO・Ti
2O
3・mSiO
2・nH
2O(Me:X価の陽イオン)
M
2/nO・Al
2O
3・xSiO
2・yH
2O(M:金属カチオン、n:原子価)
M
2/nO・Ti
2O
3・xSiO
2・yH
2O(M:金属カチオン、n:原子価)
Na
2O・Al
2O
3・2SiO
2・4.5H
2O
(Na
2O,MgO,CaO)・Al
2O
3・4-6SiO
2・H
2O
Na
2O,SiO
2,TiO
2 + その他の酸化物
この合成ゼオライトは、差渡し径が0.22nm〜0.8nmの細孔を有し、粒子径が細孔の差渡し径以上、20μm以下である。細孔の形状は、必ずしも円形でなくてもよく、差渡し径の範囲は、細孔における差渡し径の最小値と最大値の範囲を示す。合成ゼオライトは、1種類のものを用いてもよいし、複数種類を混合してもよい。
【0048】
そして、この除染石鹸は、他には、乳化安定剤、スキンコンディショナー、防腐剤、着色料、香料などを含有してもよい。
【0049】
〔合成ゼオライトの形状について〕
本発明に係る手指洗浄用除染石鹸は、皮膚に傷損を与えることなく、身体表面に対する確実な除染効果を奏するものである。皮膚を傷つけないためには、ゼオライトの形状は、球状であることが望ましいのは当然である。球状ゼオライトの製造方法については、特開昭54−62992号公報、特開昭63−166434号公報、特開平6−64916号公報などに記載されている。
【0050】
しかしながら、球状の合成ゼオライトを石鹸に混合して使用する場合には、原料としての球状ゼオライトは、その他の界面活性剤等との攪拌混合において、その形状が保たれる保証はない。
【0051】
したがって、本発明に係る手指洗浄用除染石鹸においては、合成ゼオライトは、差渡し径が0.22nm〜0.8nmの細孔を有し、粒子径が細孔の差渡し径以上、20μm以下であることを特徴としており、非特許文献1に記載されている指尖、手甲、手掌の角質層の厚みと本発明が特徴とする合成ゼオライトの一次粒子径(20μm以下)を比べれば、合成ゼオライトの粒子形状は、特に限定されるものではない。
【0052】
キレート剤は、キレート能を発揮する性質の他に、分散能も必要であってゼオライトとの組み合わせから、水に溶かした場合に中性〜アルカリ性を示すものが好ましい。両方の性能が満たせるものとして、有機系であり水系分散剤であって、分子量が1000〜10000Mwの範囲にある高分子界面活性剤型分散剤が挙げられる。例えば、アミノカルボン酸、カルボン酸系共重合体(アンモニウム塩)、カルボン酸系共重合体(ナトリウム塩)、スルホン酸系共重合体(ナトリウム塩)、ポリカルボン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸アンモニウム、等が挙げられる。これらは、1種類のものを用いてもよいし、複数種類を混合してもよい。
【実施例】
【0053】
前述した本発明に係る手指洗浄用除染石鹸を作成し、除染効果を確認した。その結果を以下の〔表1〕に示す。
【表1】
【0054】
〔表1〕に示すように、試験番号31〜34については、被験者A、Bともに、十分な除染効果があることが確認された。
【0055】
〔試料について〕
試験番号1〜2の泥土は、東北地方の高線量地域にて道路側溝の泥土を表面1cmの深さで採取し、満遍なく混合したものである。
【0056】
試験番号5〜8のリモネンは、D−リモネンである。
【0057】
試験番号11〜12、19〜26、29〜34の合成ゼオライトは、MFI型合成ゼオライトであり、平均粒径(d50%:μm)が4.0μmのものである。
【0058】
試験番号5以降において、分散剤(キレート剤)として、ポリアクリル酸ナトリウム水溶液(分子量(Mw)6000)を用いた。
【0059】
試験番号5以降において、非イオン界面活性剤として、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(HLB:12.7)を用いた。
【0060】
試験番号5以降において、水は、精製水を用いた。
【0061】
試験番号5以降において、各試料の比率は重量%であり、100部になるように残部を水とした。
【0062】
各試験番号において、洗浄直前に容器を振とうし、均一に分散した。
【0063】
〔測定機器〕
放射線サーベイメータ(日立アロカ社製、GMサーベイメータ「TGS−146B」)を用いた。
【0064】
〔試験条件〕
まず、混合した泥土を300gづつ量り取り、泥土が弾かなくなるまで手の皮膚に擦り込んだ。そして、ストップウォッチにて計測して1時間放置した後、水道水にて、擦らずに泥土を洗い流し、次に、各種洗浄液にて、1分間両手を擦り合わせて洗浄した。各種洗浄液は、5gづつ量り取って使用した。
【0065】
バックグラウンドの測定は、洗浄液の異なる試料ごとに、表面汚染測定の15分前に計測を開始した。
【0066】
〔評価条件〕
除染前後の放射能量(cpm)の比によって除染率を計算することができる。しかし、検出限界を下回ったため、より明確な表面汚染密度(Bq/cm
2)によって求めた。
【0067】
各試料における除染効果は、除染前後の値により評価すべきであるが、測定を行う同一室内への汚染物の持ち込みは以後の計測に影響を及ぼす可能性が高いため、除染後のみについて計測し、評価した。
【0068】
〔被験者〕
被験者Aは、48歳の男性である。被験者Bは、42歳の女性である。
【0069】
〔測定条件〕
表面汚染及びバックグラウンド測定は、各試料ともに同一条件で行った。
【0070】
線源からプローブまでの距離は、0.5cmである。時定数は、30である。測定時間は、90秒とした。測定回数は、10回である。
【0071】
表面汚染密度(Bq/cm
2)は、以下の式によって求めた。
【数1】
【0072】
β線最大エネルギー(MeV)と機器効率(%/2π)との関係を示すエネルギー特性(JIS−Z4329)を、
図1に示す。
【0073】
〔表面汚染密度(Bq/cm
2)の算出条件〕
総計数率n(m
−1)は、10回の平均とした。また、バックグラウンド計数率n
B(m
−1)も、10回の平均とした。β線機器効率ε
i(%)は、セシウム137のβ線最大エネルギーを514として、JIS−Z4329のデータより、45とした。放射線測定器の有効窓面積W(cm
2)は、19.6とした。放射線表面汚染の線源効率ε
Sは、0.5とした。結果の数値については、小数点第4位を四捨五入した。
【0074】
検出限界計数は以下の式より算出した。
【数2】
【0075】
GMサーベイメータ「TGS−146B」は、時定数で動作するので、上記Tsのかわりに、2τs、Tbのかわりに、2τbを挿入した。
【0076】
τs:試料を測定した時の時定数(sec)
τb:バックグラウンドを測定した時の時定数(sec)
〔検出限界計数の算出条件〕
バックグラウンドの標準偏差は3とした。測定回数は10回とした。バックグラウンド計数率(s
−1)は、10回の平均とし、cpmの値を60秒で割った。結果の数値については、小数点第4位を四捨五入した。