(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ガラス原料ガス噴出ノズルと、前記ガラス原料ガス噴出ノズルの外側に配されたシールガス噴出ノズルと、前記シールガス噴出ノズルの外側に配された燃焼ガスポートとを有し、
前記燃焼ガスポートには、複数の小口径の助燃ガス噴出ノズルが内包され、かつ、該助燃ガス噴出ノズルが前記シールガス噴出ノズルと離間するように配されており、
前記ガラス原料ガス、前記燃焼ガス及び前記助燃ガスからなる混合ガスの燃焼によりガラス微粒子を堆積させる燃焼バーナを用いて、回転するターゲット部材の軸方向に複数回トラバースさせて、該ターゲット部材の周囲にガラス微粒子堆積層を形成してガラス微粒子堆積体を得る光ファイバ用ガラス母材の製造方法であって、
前記ターゲット部材の周囲にガラス微粒子を堆積させる堆積モードから、ガラス微粒子を堆積させない非堆積モードに移行する場合、
前記シールガス噴出ノズルにシールガスに替えて燃焼ガスを流し種火を維持しながら、前記燃焼ガスポートにおいて、前記助燃ガスを前記助燃ガス噴出ノズル先端が赤熱しない程度の流速以上に維持した状態で、前記燃焼ガスポートの燃焼ガスをパージガスに切り替える工程αを備えること、を特徴とする光ファイバ用ガラス母材の製造方法。
前記工程αは、その後、前記助燃ガスを流量維持、流量減、もしくは停止、あるいは助燃ガスからパージガスに切り替えること、を特徴とする請求項1に記載の光ファイバ用ガラス母材の製造方法。
ガラス原料ガス噴出ノズルと、前記ガラス原料ガス噴出ノズルの外側に配されたシールガス噴出ノズルと、前記シールガス噴出ノズルの外側に配された燃焼ガスポートとを有し、
前記燃焼ガスポートには、複数の小口径の助燃ガス噴出ノズルが内包され、かつ、該助燃ガス噴出ノズルが前記シールガス噴出ノズルと離間するように配されており、
前記ガラス原料ガス、前記燃焼ガス及び前記助燃ガスからなる混合ガスの燃焼によりガラス微粒子を堆積させる燃焼バーナを用いて、回転するターゲット部材の軸方向に複数回トラバースさせて、該ターゲット部材の周囲にガラス微粒子堆積層を形成してガラス微粒子堆積体を得る光ファイバ用ガラス母材の製造方法であって、
前記ターゲット部材の周囲にガラス微粒子を堆積させない非堆積モードから、前記ターゲット部材の周囲にガラス微粒子を堆積させる堆積モードに移行する場合、
前記シールガス噴出ノズルに流した燃焼ガスで種火を維持しながら、
前記燃焼ガスポートにおいて、前記助燃ガスを前記助燃ガス噴出ノズル先端が赤熱しない程度の流速以上に維持した状態で、前記燃焼ガスポートのパージガスを燃焼ガスに切り替える工程βを備えること、を特徴とする光ファイバ用ガラス母材の製造方法。
前記工程βに先立って、前記助燃ガスを流量維持、流量増、もしくは開始、あるいはパージガスから助燃ガスに切り替えること、を特徴とする請求項3に記載の光ファイバ用ガラス母材の製造方法。
ガラス原料ガス噴出ノズル、前記ガラス原料ガス噴出ノズルの外側に配されたシールガス噴出ノズル、前記シールガス噴出ノズルの外側に配された燃焼ガスポートを有し、前記燃焼ガスポートには、複数の小口径の助燃ガス噴出ノズルが内包され、かつ、該助燃ガス噴出ノズルが前記シールガス噴出ノズルと離間するように配されており、前記ガラス原料ガス、前記燃焼ガス及び前記助燃ガスからなる混合ガスの燃焼によりガラス微粒子を堆積させる燃焼バーナと、
前記ターゲット部材の周囲にガラス微粒子を堆積させる堆積モードとガラス微粒子を堆積させない非堆積モードとの間を移行する際に、前記シールガス噴出ノズルのシールガスを燃焼ガスに切り替える又は燃焼ガスをシールガスに切り替えるためのガス切替機構と、
前記シールガス噴出ノズルに流した燃焼ガスで種火を維持しながら、前記燃焼ガスポートにおいて、前記助燃ガスを前記助燃ガス噴出ノズル先端が赤熱しない程度の流速以上に維持した状態で、前記燃焼ガスをパージガスに切り替えるガス切替機構と、を少なくとも備え、
回転するターゲット部材の軸方向に複数回トラバースさせて、該ターゲット部材の周囲にガラス微粒子堆積層を形成してガラス微粒子堆積体を得ることを特徴とする光ファイバ用ガラス母材の製造装置。
【背景技術】
【0002】
一般に外付け法と呼ばれる製造方法に基づく光ファイバ用ガラス母材の製造装置では、棒状の夕−ゲット部材の両端をガラス旋盤などで保持して回転させ、その周囲に、ガラス微粒子生成用燃焼バーナの火炎中で生成されたガラス微粒子を堆積させる。このターゲット部材は後に除去されるものであったり、あるいは後に光ファイバとされたときにコア部となる石英系のガラス棒であったりする。
【0003】
ガラス原料ガスを燃焼ガス及び助燃ガスとともにバーナの火炎中に導入することにより、火炎中で火炎加水分解反応等を生じさせてSiO
2 等のガラス微粒子を生成する。このガラス微粒子を前記のように回転するターゲット部材の周囲に堆積する。
ガラス微粒子生成用燃焼バーナをターゲット部材の軸方向にトラバースさせながら、この堆積工程を行うことによりターゲット部材の周囲にガラス微粒子堆積層を形成し、その堆積層が所定の重量となったとき堆積工程を終了する。
こうして形成されたターゲット部材とガラス微粒子堆積層との複合体であるガラス微粒子堆積体が、後に、高温の炉の中で加熱処理され、ガラス微粒子堆積層の部分が焼結されて透明ガラス化され、光ファイバ用ガラス母材が得られる。
【0004】
この光ファイバ用ガラス母材の製造装置において、複数のガラス微粒子生成用燃焼バーナを順次一方向にトラバースさせてガラス微粒子堆積を行うことがあるが、そのとき、一つのバーナは堆積開始点から終了点に至る期間のみガラス微粒子生成・堆積を行った後、他の、トラバースしながらガラス微粒子堆積しているバーナの障害とならないようにトラバース工程から外れた工程を経て堆積開始点にまで戻るように移動させる。この戻りの期間ではバーナの火炎は極力小さくする必要があるので、従来では燃焼ガス及び助燃ガスの流量をできるだけ下げるか、あるいは、燃焼ガスの流量を極力下げるとともに助燃ガスの弁を閉じてしまうようにしている。
【0005】
しかしながら、前記のように堆積終了点から堆積開始点までの戻りの工程において燃焼ガス及び助燃ガスの流量をできるだけ下げる場合には、ガラス微粒子生成用燃焼バーナのノズル近辺で炎が燃焼し、ノズル先端が赤熱してしまい、バーナの寿命が極端に短くなるという問題がある。
【0006】
このような問題に対し、例えば、帰還工程中は酸素を停止する方法(例えば、特許文献1参照)や、帰還工程中は酸素ノズルにパージガスを流す方法(例えば、特許文献2参照)などが提案されている。
また、酸素ノズル先端の劣化に関しては、例えば、水素に不活性ガスや窒素を混合する方法(例えば、特許文献3参照)や、ノズルの厚みを1mm以下に薄くし、流速を高くする方法(例えば、特許文献4参照)、酸素ガス用ノズルの周囲にシール層を設ける方法(例えば、特許文献5参照)などが提案されている。
なお、上述した文献において、酸素は「助燃ガス」に、水素は「燃焼ガス」に、不活性ガスや窒素は「パージガス」に、それぞれ相当する。
【0007】
しかしながら、前記の特許文献1、特許文献2に記載の方法においても、ガスの流量が変化、つまりガスの流速が低下する瞬間においては、一時的に高温になり、これを繰り返すことにより、ノズルが変形することがある。
また、特許文献3に記載の方法では、製造条件によっては少なからず堆積効率に影響を及ぼし好ましくない場合がある。
【0008】
特許文献4に記載の方法では、点火、消火、種火などの状況においては流速が減るため、ノズルが赤熱してしまう。また、ノズルの厚みをlmm以下にすると前記赤熱による変形の影響が著しくなり、結局寿命が短くなってしまう。
さらに、特許文献5に記載の方法では、ノズルの変形を避けられるが、シール層を設けることでバーナが大型化、複雑化して好ましくない。また、バーナの製作精度が落ちたり、バーナが大きくなりすぎて堆積効率が低下したりする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて考案されたものであり、ガラス微粒子生成用燃焼バーナを用いた光ファイバ用ガラス母材の製造方法において、堆積効率を低下させることなくノズル先端部の赤熱による劣化を抑制した、堆積モードと非堆積モード(種火状態)との間の移行を高頻度に繰り返す場合の劣化を抑制した、光ファイバ用ガラス母材の製造方法を提供することを第一の目的とする。
また、本発明は、ガラス微粒子生成用燃焼バーナを備えた光ファイバ用ガラス母材の製造装置において、シンプルな構成で、ノズル先端部の赤熱による劣化を抑制し、燃焼バーナの長寿命化を図ることが可能な、光ファイバ用ガラス母材の製造装置を提供することを第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1に記載の光ファイバ用ガラス母材の製造方法は、ガラス原料ガス噴出ノズルと、前記ガラス原料ガス噴出ノズルの外側に配されたシールガス噴出ノズルと、前記シールガス噴出ノズルの外側に配された燃焼ガスポートとを有し、前記燃焼ガスポートには、複数の小口径の助燃ガス噴出ノズルが内包され、かつ、該助燃ガス噴出ノズルが前記シールガス噴出ノズルと離間するように配されており、前記ガラス原料ガス、前記燃焼ガス及び前記助燃ガスからなる混合ガスの燃焼によりガラス微粒子を堆積させる燃焼バーナを用いて、回転するターゲット部材の軸方向に複数回トラバースさせて、該ターゲット部材の周囲にガラス微粒子堆積層を形成してガラス微粒子堆積体を得る光ファイバ用ガラス母材の製造方法であって、前記ターゲット部材の周囲にガラス微粒子を堆積させる堆積モードから、ガラス微粒子を堆積させない非堆積モードに移行する場合、前記シールガス噴出ノズルにシールガスに替えて燃焼ガスを流し種火を維持しながら、前記燃焼ガスポートにおいて、前記助燃ガスを前記
助燃ガス噴出ノズル先端が赤熱しない程度の流速以上に維持した状態で、前記燃焼ガスポートの燃焼ガスをパージガスに切り替える工程αを備えること、を特徴とする。
本発明の請求項2に記載の光ファイバ用ガラス母材の製造方法は、請求項1において、前記工程αは、その後、前記助燃ガスを流量維持、流量減、もしくは停止、あるいは助燃ガスからパージガスに切り替えること、を特徴とする。
本発明の請求項3に記載の光ファイバ用ガラス母材の製造方法は、ガラス原料ガス噴出ノズルと、前記ガラス原料ガス噴出ノズルの外側に配されたシールガス噴出ノズルと、前記シールガス噴出ノズルの外側に配された燃焼ガスポートとを有し、前記燃焼ガスポートには、複数の小口径の助燃ガス噴出ノズルが内包され、かつ、該助燃ガス噴出ノズルが前記シールガス噴出ノズルと離間するように配されており、前記ガラス原料ガス、前記燃焼ガス及び前記助燃ガスからなる混合ガスの燃焼によりガラス微粒子を堆積させる燃焼バーナを用いて、回転するターゲット部材の軸方向に複数回トラバースさせて、該ターゲット部材の周囲にガラス微粒子堆積層を形成してガラス微粒子堆積体を得る光ファイバ用ガラス母材の製造方法であって、前記ターゲット部材の周囲にガラス微粒子を堆積させない非堆積モードから、前記ターゲット部材の周囲にガラス微粒子を堆積させる堆積モードに移行する場合、前記シールガス噴出ノズルに流した燃焼ガスで種火を維持しながら、前記燃焼ガスポートにおいて、前記助燃ガスを前記
助燃ガス噴出ノズル先端が赤熱しない程度の流速以上に維持した状態で、前記燃焼ガスポートのパージガスを燃焼ガスに切り替える工程βを備えること、を特徴とする。
本発明の請求項4に記載の光ファイバ用ガラス母材の製造方法は、請求項3において、前記工程βに先立って、前記助燃ガスを流量維持、流量増、もしくは開始、あるいはパージガスから助燃ガスに切り替えること、を特徴とする。
本発明の請求項5に記載の光ファイバ用ガラス母材の製造装置は、ガラス原料ガス噴出ノズル、前記ガラス原料ガス噴出ノズルの外側に配されたシールガス噴出ノズル、前記シールガス噴出ノズルの外側に配された燃焼ガスポートを有し、前記燃焼ガスポートには、複数の小口径の助燃ガス噴出ノズルが内包され、かつ、該助燃ガス噴出ノズルが前記シールガス噴出ノズルと離間するように配されており、前記ガラス原料ガス、前記燃焼ガス及び前記助燃ガスからなる混合ガスの燃焼によりガラス微粒子を堆積させる燃焼バーナと、前記ターゲット部材の周囲にガラス微粒子を堆積させる堆積モードとガラス微粒子を堆積させない非堆積モードとの間を移行する際に、前記シールガス噴出ノズルのシールガスを燃焼ガスに切り替える又は燃焼ガスをシールガスに切り替えるためのガス切替機構と、前記シールガス噴出ノズルに流した燃焼ガスで種火を維持しながら、前記燃焼ガスポートにおいて、前記助燃ガスを前記
助燃ガス噴出ノズル先端が赤熱しない程度の流速以上に維持した状態で、前記燃焼ガスをパージガスに切り替えるガス切替機構と、を少なくとも備え、回転するターゲット部材の軸方向に複数回トラバースさせて、該ターゲット部材の周囲にガラス微粒子堆積層を形成してガラス微粒子堆積体を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光ファイバ用ガラス母材の製造方法(請求項1)では、ターゲット部材の周囲にガラス微粒子を堆積させる堆積モードから、ガラス微粒子を堆積させない非堆積モードに移行する場合、前記シールガス噴出ノズルにシールガスに替えて燃焼ガスを流し種火を維持しながら、前記燃焼ガスポートにおいて、前記助燃ガスを前記
助燃ガス噴出ノズル先端が赤
熱しない程度の流速以上に維持した状態で、前記燃焼ガスポートの燃焼ガスをパージガスに切り替える工程αを備えている。
堆積モードから非堆積モードヘ移行するに際し、前記燃焼ガスポートにおいて、助燃ガスを前記
助燃ガス噴出ノズル先端が赤熱しない程度の流速以上に維持することで、燃焼ガスの流速がある程度遅くなっても赤熱しない。前記燃焼ガスポートの燃焼ガスをパージガスに切り替えた状態では、燃焼は起きないため、
助燃ガス噴出ノズル先端も高温にならない。つまり、
助燃ガス噴出ノズル先端が高温になる機会を与えない。その際、助燃ガスを流量維持、流量減、若しくは停止、あるいは助燃ガスからパージガスに切り替えれば、
助燃ガス噴出ノズル先端が高温になる機会を与えないので、より好ましい。
特に非堆積モードにおいて
、助燃ガス噴出ノズルと、燃焼ガスを流すシールガス噴出ノズルとが離間して配されていることで、
助燃ガス噴出ノズル先端の赤熱を防止することができる。
また、前記シールガス噴出ノズルに流した燃焼ガスで種火を維持しているので、後に非堆積モードから堆積モードに移行する際に、確実にかつ迅速に着火できるため、効率を低下させない。
その結果、本発明では、堆積効率を低下させることなく
助燃ガス噴出ノズル先端部の赤熱による劣化を抑制した、特に堆積モードから非堆積モード(種火状態)への移行を高頻度に繰り返す場合の劣化を抑制した、光ファイバ用ガラス母材の製造方法を提供することができる。
なお、上述した工程αの後に、「消火状態」を設けて、工程αの「種火状態」から「消火状態」へ移行させてもよい。
【0013】
本発明の光ファイバ用ガラス母材の製造方法(請求項3)では、前記ターゲット部材の周囲にガラス微粒子を堆積させない非堆積モードから、前記ターゲット部材の周囲にガラス微粒子を堆積させる堆積モードに移行する場合、前記シールガス噴出ノズルに流した燃焼ガスで種火を維持しながら、前記燃焼ガスポートにおいて、前記助燃ガスを前記
助燃ガス噴出ノズル先端が赤熱しない程度の流速以上に維持した状態で、前記燃焼ガスポートのパージガスを燃焼ガスに切り替える工程βを備えている。
前記燃焼ポートの燃焼ガスをパージガスに切り替えてある状態では、燃焼は発生しないため、
助燃ガス噴出ノズル先端も高温状態になることは無い。非堆積モードから堆積モードヘ移行するに際し、前記燃焼ポートにおいて、助燃ガスを前記
助燃ガス噴出ノズル先端が赤熱しない程度の流速以上に維持することで、燃焼ガスの流速がある程度遅いときも赤熱しない。つまり、
助燃ガス噴出ノズル先端が高温になる機会を与えない。先だって、助燃ガスを流量維持、流量増、若しくは開始、あるいはパージガスから助燃ガスに切り替えれば、
助燃ガス噴出ノズル先端が高温にある機会を与えないので、より好ましい。
また、前記シールガス噴出ノズルに流した燃焼ガスで種火を維持しているので、非堆積モードから堆積モードに移行する際に、確実にかつ迅速に着火できるため、効率を低下させることもない。
その結果、本発明では、堆積効率を低下させることなく
助燃ガス噴出ノズル先端部の赤熱による劣化を抑制した、特に非堆積モード(種火状態)から堆積モードヘの移行を高頻度に繰り返す場合の劣化を抑制した、光ファイバ用ガラス母材の製造方法を提供することができる。
なお、上述した工程βの手前に、「消火状態」を設けて、この「消火状態」から工程βの「種火状態」へ移行させてもよい。
【0014】
本発明の光ファイバ用ガラス母材の製造装置(請求項5)では、堆積モード及び非堆積モードの2つのモード間を移行する際に、前記シールガス噴出ノズルのシールガスを燃焼ガスに切り替える又は燃焼ガスをシールガスに切り替えるためのガス切替機構と、前記シールガス噴出ノズルに流した燃焼ガスで種火を維持しながら、燃焼ガスポートにおいて、助燃ガスを
助燃ガス噴出ノズル先端が赤熱しない程度の流速以上に維持した状態で、前記燃焼ガスポートの燃焼ガスをパージガスに切り替える又はパージガスを燃焼ガスに切り替えるガス切替機構を備えている。
たとえば、堆積モードから非堆積モードに移行するに際し、前記燃焼ガスポートにおいて、助燃ガスを前記
助燃ガス噴出ノズル先端が赤
熱しない程度の流速以上に維持することで、燃焼ガスの流速がある程度遅くなっても赤
熱しない。前記燃焼ガスをパージガスに切り替えた状態では、燃焼は起きないため、
助燃ガス噴出ノズル先端も高温にならない。その後に助燃ガスを停止またはパージガスに切り替えることで、
助燃ガス噴出ノズル先端が高温になる機会を与えない。これにより本発明の光ファイバ用ガラス母材の製造装置では、燃焼バーナの
助燃ガス噴出ノズル先端の赤熱が防止されたものとなる。また、同様の作用・効果が、非堆積モードから堆積モードに移行する際にも発揮される。
特に非堆積モードにおいて
、助燃ガス噴出ノズルと、燃焼ガスを流すシールガス噴出ノズルとが離間して配されていることで、
助燃ガス噴出ノズル先端の赤熱を防止することができる。
また、シールガス噴出ノズルに流した燃焼ガスで種火を維持しているので、非堆積モードから堆積モードに移行する際に、確実にかつ迅速に着火できるため、効率を低下させることもない。
その結果、本発明によれば、ガラス微粒子生成用燃焼バーナを備えた光ファイバ用ガラス母材の製造装置において、シンプルな構成で、
助燃ガス噴出ノズル先端部の赤熱による劣化を抑制し、燃焼バーナの長寿命化を図ることが可能な、光ファイバ用ガラス母材の製造装置を提供することができる。
特に本発明では、種火用ノズルを別に設けるのではなく、シールガス噴出用に設けられたノズルを種火用に利用するため、ノズル数の増加によるバーナの複雑化、大型化をすることなく、バーナの劣化を防止することができる。
なお、本発明における「パージガス」とは、特定のガスに代替して用いられるガスであって、相対的に反応性の低いガスを意味する。具体的には、例えば、窒素ガス、及び、ヘリウムやネオン、アルゴンなどの不活性ガスが、パージガスとして挙げられる。
また、本発明における「シールガス」とは、ノズルから噴出したガス同士の接触を遅らせ、反応の開始を所望の時間遅らせることで、反応生成物やエネルギーがノズル先端に悪影響を及ぼすのを防止するために流すガスである。具体的には、本発明ではガラス原料ガスが噴出後ただちに酸水素火炎と接触して生成したガラス微粒子がノズル先端に堆積してしまうのを防止する。ガスとしては反応性の低い、アルゴンなどの不活性ガスや窒素ガスなどが好適である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0017】
図1及び
図2は本発明に係る光ファイバ用ガラス母材の製造方法に用いられる製造装置系の一例を示した各概略説明図である。
図1及び
図2において、1はターゲット部材で、これはチャンバ2内に収納され、その両端がガラス旋盤などで回転自在に支持されている。なお、このターゲット部材1は、後の工程で除去されたりあるいは光ファイバ用ガラス母材のコアとなる棒材からなる。
前記チャンバ2は火炎及びガラス微粒子流の整流を行うとともに、ガラス微粒子堆積層を保護するものである。
チャンバ2の一方(
図1中、右下側)には、内部のターゲット部材1の軸方向に沿って、関口部2aが設けてあり、また、反対側の他方(
図1中、左上側)には、燃焼ガスなどが排気される排気部2bが設けてある。
このチャンバ2の開口部2aには、ガラス微粒子合成用の燃焼バーナ3が配置してあり、これらの燃焼バーナ3は、外部のトラバース手段(図示省略)により、図中の区間(X1→X2→X3→X4→X1)をトラバースして循環するようになっている。
【0018】
以下では、燃焼バーナ3が、多重管構造を備えた場合(例えば
図3)を例に挙げて詳細に述べるが、本発明に係る光ファイバ用ガラス母材の製造方法は、この構成に限定されるものではない。
【0019】
ここで、
図3は、このような製造装置において用いられる、前記燃焼バーナ3のノズル部分の一例を先端側から見た図である。
この燃焼バーナ3A(3)は、中心に配されたガラス原料ガス噴出ノズル31、及び前記ガラス原料ガス噴出ノズル31の外側に配されたシールガス噴出ノズル32、シールガス噴出ノズル32の外側に配されており、複数の小口径の助燃ガス噴出ノズル34が内包され、かつ、シールガス噴出ノズル32と離間するように配された燃焼ガスポート33を有する。
図3に示した燃焼ガスポート33は、シールガス噴出ノズル32の外側にあって、同心形状(特に、同心円状)に配された構成例であり、αを対称軸として、全てがレイアウトされている。すなわち、前記燃焼ガスポート33は、前記ガラス原料ガス噴出ノズル31に対して同心円状に配置された、複数の小口径の助燃ガス噴出ノズル34を備えている。
【0020】
このようなノズル構造を有する燃焼バーナ3には、各種ガス供給源(図示略)から各種ガス供給配管を介して燃焼ガス(ここではH
2 ガス)、助燃ガス(O
2 ガス)、ガラス原料ガス(SiCl
4 )、シールガス(Arガスなど)及びパージガス(N
2 ガス)が供給される。
具体的に、ガラス原料ガス噴出ノズル31には、ガラス原料ガス(SiCl
4 )が供給される。なお、ガラス原料ガス噴出ノズル31にガラス原料ガスと一緒に助燃ガス及び/又は燃焼ガスを供給してもよい。これにより種火の吹き消えを防止することができる。特に助燃ガスを流す場合は、原料ノズル先端が赤熱しない程度の流速以上に流せば、原料ノズルの劣化も防止できるため望ましい。
【0021】
図2の左側に示すように、燃焼バーナ3に対して、上述した各ガスが適宜導入される。例えば、燃焼バーナ3が
図3に示す構成とした場合には、シールガス噴出ノズル32には、シールガス(Arガスなど)または燃焼ガス(H
2 ガス)が供給される。
また、燃焼ガスポート33には燃焼ガス(H
2 ガス)またはパージガス(N
2 ガス)が供給される。
シールガス噴出ノズルに接続されるシールガス供給配管は、例えばシールガス用の配管と燃焼ガス用の配管が並行して接続され、それぞれの配管ごとに配置された弁の開閉によって、シールガスと燃焼ガスが切り替えられ、その流量が制御されるようになっている。配管構造については、3方弁などを利用した構造でもよく、シールガスと燃焼ガスが切り替えられる機能を有していればよい。
燃焼ガスポート33に接続される燃焼ガス供給配管は、例えばパージガス用の配管が付加されており、それぞれに配置された弁の開閉によって、燃焼ガスとパージガスを切り替えられるとともに、その流量が制御されるようになっている。配管構造については、3方弁などを利用した構造でもよく、燃焼ガスとパージガスが切り替えられる機能を有していればよい。
【0022】
助燃ガス噴出ノズル34には、助燃ガス(O
2 ガス)が供給される。さらに、助燃ガスからパージガスに切り替えられる機構を有していてもよい。
【0023】
そして、具体的には後述するが、本発明の光ファイバ用ガラス母材の製造装置では、前記ターゲット部材の周囲にガラス微粒子を堆積させる堆積モードから、ガラス微粒子を堆積させない非堆積モードに移行するに際し、シールガス噴出ノズル32にシールガスに替えて流した燃焼ガスで種火を維持しながら、前記燃焼ガスポート33において、前記助燃ガスを前記ノズル先端が赤熱しない程度の流速以上に維持した状態で、前記燃焼ガスをパージガスに切り替え、その後、前記助燃ガスを流量維持、流量減、若しくは停止、あるいは助燃ガスからパージガスに切り替えるガス切替機構を備えている。このガス切替機構は、非堆積モードから堆積モードに移行する際にも、助燃ガスやパージガスに対して機能するものである。
【0024】
このような装置系を用いて、回転するターゲット部材の軸方向に一方向から複数回トラバースさせて、該ターゲット部材1の周囲にガラス微粒子堆積層5を形成してガラス微粒子堆積体を得る。
具体的には、まず、ターゲット部材1を回転させると共に、このターゲット部材1の外周に対峙した前記燃焼バーナ3を燃焼させながら、
図1中X1点の堆積開始位置から
図1中X2点の堆積終了位置にかけてトラバースさせる。
このX1→X2の区間が、燃焼バーナ3の堆積工程(堆積モード)で、このとき、バーナに弁6が開くとともに弁7が閉じて、燃焼ガス、助燃ガス、ガラス原料ガス、不活性ガスが供給され、火炎加水分解反応によって火炎4中でガラス微粒子の生成が行われ、火炎4中で生じたガラス微粒子は、ターゲット部材1の外周に付着し、ガラス微粒子堆積層5として次第に堆積されていく。
【0025】
燃焼バーナ3が堆積終了位置のX2点に到達し堆積工程が終了すると、燃焼バーナ3は、前記外部のトラバース手段の駆動により、X2点からX3点、X4点を経由して堆積開始位置のX1点に至る帰還工程(非堆積モード)に入る。
燃焼バーナ3は、位置X2から後退してターゲット部材1およびチャンバ2の関口部2aから退避して位置X3にまで下がり、他のバーナに接触しないようにして
図1中左側へX3点→X4点と移動する。そして、
図1中左端X4点に到達するとX1点方向へと上昇してチャンバ5内に入り、再びX1→X2へと移動していく。
【0026】
このトラバースの循環を複数回繰り返すことにより、ガラス微粒子堆積層5は、次第に堆積、成長して、所望の径のガラス微粒子堆積体が得られる。
なお、本発明は上述した「循環方式」に限定されるものではなく、「往復方式」としても構わない。ここで、「往復方式」の一例としては、X1→X2は上記循環方式と同じであり、X2まで到達した後は、種火にしてそのままX1に向けてトラバースし、X1まで到達した後は、堆積モードの火炎に変更してから、再びX1→X2の動作を行うものが挙げられる。その際、ターゲット部材とバーナとは相対的に移動すればよい。すなわち、何れか一方を固定し他方を移動させてもよいし、両方を移動させても構わない。
また、「往復方式」の他の一例としては、堆積モード(X1−X2)をなす領域の両側にそれぞれ非堆積モード(X2−X3、X4−X1)をなす領域を配置する構成が挙げられる。この構成とした場合は、バーナを、たとえば「X1→X2→X3→X2→X1→X4→X1→X2→X3→X2・・・」という手順で移動させる。この構成は、特に2本以上のバーナが1ユニットを構成し、このユニット単位で駆動する場合に有効となる。すなわち、この構成によれば、ユニット中のバーナを別々のタイミングで非堆積モードに移行させることができる。
このような動作を繰り返し行う方式を、本発明では「往復方式」と定義する。
このようにして形成された多孔質体からなるガラス微粒子堆積体をチャンバ2中から取り出し、その後、高温の加熱炉中で熱処理すれば、透明ガラス化して、目的とする光ファイバ用ガラス母材が得られる。
【0027】
そして、特に本発明の光ファイバ用ガラス母材の製造方法は、上述したような燃焼バーナ3のトラバースの循環において、前記ターゲット部材の周囲にガラス微粒子を堆積させる堆積モード(X1→X2の区間)から、ガラス微粒子を堆積させない非堆積モード(帰還モード、X2→X3→X4→X1の区間)に移行するに際し、前記シールガス噴出ノズル32にシールガスに替えて流した燃焼ガスで種火を維持しながら、前記燃焼ガスポート33において、前記助燃ガスを前記ノズル先端が赤熱しない程度の流速以上に維持した状態で、前記燃焼ガスをパージガスに切り替え、その後、前記助燃ガスを停止またはパージガスに切り替える工程αを備えること、を特徴とする。
【0028】
本発明において、燃焼バーナ3のトラバースの循環において、燃焼バーナ3に供給される各種ガスの流量について、模式的に
図4にまとめて示す。
図4(a)〜(d)の横軸は共通の時間軸であり、時刻T1と時刻T2の間は第一堆積モード(図には「堆積中」と記載)を、時刻T2と時刻T3の間は非堆積モード(図には「非堆積中」と記載)を、時刻T3と時刻T4の間は第二堆積モード(図には「堆積中」と記載)を、それぞれ表している。ここで、時刻T2は
図1においてX2の位置に、時刻T3は
図1においてX1の位置に、相当する。
【0029】
また、
図4に示した各グラフにおける縦軸は、(a)の場合、燃焼ガスポート33に供給される燃焼ガス(H
2 ガス)及びパージガス(N
2 ガス)の流量を、(b)の場合、シールガス噴出ノズル32に供給されるシールガス(Arガス)及び燃焼ガス(H
2 ガス)の流量を、(c)の場合、助燃ガス噴出ノズル34に供給される助燃ガス(O
2 ガス)の流量を、(d)の場合、ガラス原料ガス噴出ノズル31に供給されるガラス原料ガス(SiCl
4 )の流量を、それぞれ示している。
【0030】
図4(a)において、符号a1は時刻T2付近でガスの流れを遮断したことを、符号a2はガス流量がゼロに達したことを、符号a3はガスの流れを復帰させたことを、符号a4は時刻T3付近でガスの流れが回復したことを、各々示している。
図4(b)に示すとおり、非堆積モードに入る際、燃焼ガスポート33の燃焼ガスを遮断するより前にシールガスを燃焼ガスに切り替え、種火を準備しておく。種火用の燃焼ガスは種火が非堆積中に自然に消えてしまわない程度の最低流量でよい。
特に
図4(a)における「a1→a2」の変化は、燃焼ガスポート33に供給される燃焼ガスが停止し、代わって燃焼ガスポート33に「a2」でパージガスが流れ始めたことを意味する。
図4(c)に示す助燃ガスポート34における「c1」は、
図4(a)の「a2」とほぼ同じ時刻に相当する。ゆえに、
図4(c)における「c1→c2」の変化、つまり助燃ガスの流量が減少しても、パージガスの効果によりノズル34の先端が赤熱することはない。
【0031】
助燃ガスの動きで注意すべき点は、「c1」から流量を減少、または停止、あるいはパージガスに切り替え始めるタイミングが、「a2」のタイミング以降に設定される点である。つまり、ポート33にパージガスが流れていることが大切である。
図4(c)に示すとおり、非堆積中における、助燃ガス噴出ノズル34に供給される助燃ガスの流量は、堆積中のレベルz1と同等に制御するか、あるいはレベルz1より低めのレベルz2となるように制御する。また、図示しないが、助燃ガスを完全に停止、あるいはパージガスに切り替えてもよい。
【0032】
図4(d)に示すとおり、ガラス原料ガス噴出ノズル31に供給されるガラス原料ガスの流量は、時刻T2を跨ぐように減少(d1→d2)させ、時刻T3を跨ぐように増加(d3→d4)させる。
図4(d)は、時刻T2、T3において、ガラス原料ガスの流量を、堆積中の流量に比べて半減させた例である。すなわち、この増減プロファイルは、堆積モードと非堆積モードの切換のタイミングと、燃焼ガスの切換のタイミングを意図的に「ずらす」ことを意味する。
この2つのタイミングを、同時とした場合には、異なる2種類のガスが瞬発的に混在した状態を作り、3次元的に乱れた不安定な状況となりやすく、制御性を欠いた状況に陥りやすい。これに対して、
図4(d)に示すように、2つのタイミングを意図的にずらした場合には、燃焼ガスの切換を順に操作することになるので、火炎状態の安定が確保されやすく、ひいては制御性が向上する。すなわち、燃焼ガスの高温部が安定して、ノズル先端から離れた位置に発生する状態を維持できるので、ノズル先端も高温にならない。つまり、ノズル先端が高温になる機会を与えないことから、より好ましい。
【0033】
本発明では、以下の原理を利用している。
(1)燃焼ガスポート33において助燃ガスノズルの先端が赤熱するのは、燃焼ガス及び助燃ガスの流速が低すぎるときである。
燃焼ガス及び助燃ガスの流速が低いと、燃焼ガスと助燃ガスがノズル先端付近で燃焼するため、ノズル先端が高温になる。よって、燃焼ガス又は助燃ガスの流速を早くしておけばよい。
【0034】
図3に示すようなノズル構造を有するマルチノズル式バーナを用いて、燃焼ガス(H2 ガス)と助燃ガス(O2 ガス)との平均流速をそれぞれ変化させて燃焼させた。
図5は、そのときの、助燃ガスノズル先端の赤熱状態を目視確認した結果を示す図である。
図5から、O2 ガスの流速を一定とした場合、H2 ガスの流速が遅くなると赤熱状態が生じることがわかる。また、O2 ガスの流速が速い場合には、H2 ガスの流速がある程度遅くなっても赤
熱しないこともわかる。
この結果、マルチノズル式バーナにおいては、酸素流速が例えば6[m/sec]以上であれば、赤熱は観察されず、バーナの寿命も短くなるという問題が解消されることがわかった。なお、この実験結果はあくまでも一例であり、本発明はこの数値に拘束されるものではない。
【0035】
(2)さらに、助燃ガスまたは燃焼ガスが不活性ガスに置き換わった状態では、燃焼は起きないため、助燃ガスノズル先端も高温にならない。
助燃ガスのパージガスは助燃性の低いガス、燃焼ガスのパージガスは燃焼性の低いガスであればよいが、例えば不活性ガスや窒素ガスなどが取扱やすさの点から好適である。
図3に示すようなノズル構造の燃焼バーナ3において、シールガス噴出ノズル32に燃焼ガスを流して種火の状態にした。一方、燃焼ガスポート33において、助燃ガスノズル周りの燃焼ガスポート33に窒素を流した状態で、助燃ガスノズルに助燃ガスを流速0〜8m/secで変えて流し、酸素ノズル先端の赤熱状態を目視確認した結果ところ、ノズルが赤熱することはなかった。また、助燃ガスノズルに窒素を流速0〜8m/secまで変えて流したところ、やはりノズルが赤熱することはなかった。
【0036】
(3)燃焼ガスのみの火炎は吹き消えしやすいが、助燃ガスを伴った火炎は吹き消えしにくい。
【0037】
つまり、本発明では、(1)を維持した状態で、(2)の状態にシフトし、後に助燃ガスの流速を落とすことで、ノズル先端が高温になる機会を与えない。(1)から(2)での燃焼ガス流速の低下、その後の助燃ガス流速の低下のいずれにおいてもノズル先端は高温にならない。
【0038】
すなわち、本発明では、堆積モードから非堆積モードに移行するに際し、前記燃焼ガスポート33において、助燃ガスを前記ノズル先端が赤熱しない程度の流速以上に維持することで、燃焼ガスの流速がある程度遅くなっても赤熱しない。前記燃焼ガスをパージガスに切り替えた状態では、燃焼は起きないため、ノズル先端も高温にならない。その後に助燃ガスを停止またはパージガスに切り替えることで、ノズル先端が高温になる機会を与えない。燃焼ガス流速の低下、その後の助燃ガス流速の低下のいずれにおいてもノズル先端は高温にならない。
特に非堆積モードにおいて、助燃ガスを流す助燃ガス噴出ノズルと、燃焼ガスを流すシールガス噴出ノズルとが離間して配されていることで、ノズル先端の赤熱を防止することができる。
【0039】
また、シールガス噴出ノズル32に流した燃焼ガスで種火を維持しているので、後に非堆積モードから堆積モードに移行する際(工程β)に、確実にかつ迅速に着火できるため、効率を低下させない。
その結果、本発明では、堆積効率を低下させることなくノズル先端部の赤熱による劣化を抑制した、特に堆積モードから非堆積モード(種火状態)への移行を高頻度に繰り返す場合の劣化を抑制することができる。
【0040】
なお、前記工程αの後に、シールガス噴出ノズル32の燃焼ガスを停止し、消火する工程を備えてもよい。
その場合、シールガス噴出ノズル32の燃焼ガスを停止することで、迅速かつ自然に消火することができる。
【0041】
そして、燃焼バーナ3が堆積開始位置X1に帰還し、非堆積モードから堆積モードに移行するに際し、前記シールガス噴出ノズル32に前記燃焼ガスを供給して着火した後、前記燃焼ガスポート33において、前記助燃ガスを前記ノズル先端が赤熱しない程度の流速以上で流すとともに、前記燃焼ガスの供給を開始して燃焼を開始する(工程β)。
すなわち、燃焼ガスポート33にパージガスを流した状態で、シールガス噴出ノズル32から流出させた燃焼ガスに着火させる。より具体的には、燃焼ガスポート33にパージガスを、シールガス噴出ノズル32には燃焼ガスを、各々流しながら、燃焼ガスに着火させる。その際、助燃ガスを一定流量以上に増加させてから、燃焼ガスポート33のパージガスを燃焼ガスに切り替える。
【0042】
本実施形態では、燃焼バーナ3において、燃焼ガスを流すことのできるシールガス噴出ノズル32と助燃ガスノズルを内包する燃焼ガスポート33が隣接して配されている。
シールガス噴出ノズル32と燃焼ガスポート33が隣接していれば、シールガス噴出ノズル32の燃焼ガスで種火を維持しておけば、隣接する燃焼ガスポート33に燃焼ガスを流し始めることで、確実に自然に着火(引火)できる。すなわち、着火に失敗する可能性を低下させるためには、シールガス噴出ノズル32と燃焼ガスポート33が隣接している方が好ましい。
【0043】
図3に示したノズル構造の燃焼バーナ3において、シールガス噴出ノズル32において燃焼ガスを種火の状態にし、燃焼ガスポード33の助燃ガスノズルに助燃ガス(O2 ガス)を6[m/sec]で流し、燃焼ガスポート33に不活性ガス(N2 ガス)を流した状態で、燃焼ガス(H2 ガス)に切り替えたところ、問題なく着火した。
シールガス噴出ノズル32と燃焼ガスポート33が隣接していない構造の燃焼バーナ3を用いて同様の方法を試みたところ、着火に失敗することがあった。
【0044】
上述したとおり、本発明によれば、堆積モードから非堆積モードヘ移行(消火)の際に、火力を小さくしてもノズルが高温になり変形することがないので、バーナのノズル赤熱による劣化が防止され、長寿命化が可能となる。
堆積モードにおいては、燃焼反応を阻害する不活性ガスなどを、堆積にとって最適な流量だけ流すことができるため、堆積率の低下を招かない。
また、種火で火炎を維持しているので、非堆積モードから堆積モードに移行(着火)する際に、再度着火するための手段が不要であるとともに、確実にかつ迅速に着火できるため、効率を低下させない。
【0045】
また、バーナの構造も酸素ノズル周りのシール層などが必要なく、ガス系も燃焼ガスおよびパージガスとの切り替え機能のみの追加なので、バーナやガス系の構造が複雑とならない。これによりバーナ品質(精度)の低下などによる使用開始時からの初期的なトラブルを防止できる。また、シンプルな構造ゆえ、堆積効率を低下させることもない。
その結果、本発明では、堆積効率を低下させることなくノズル先端部の赤熱による劣化を抑制した、特に堆積モード→非堆積モード(種火状態)→堆積モードの移行を高頻度に繰り返す場合の劣化を効果的に抑制することができる。
【0046】
そして、本発明の光ファイバ用ガラス母材の製造装置では、上述したような構造の燃焼バーナ3を備えるとともに、堆積モードから非堆積モードに移行する際に、シールガス噴出ノズル32のシールガスを燃焼ガスに切り替える又は燃焼ガスをシールガスに切り替えるためのガス機構と、前記シールガス噴出ノズル32に流した燃焼ガスで種火を維持しながら、前記燃焼ガスポート33において、前記助燃ガスを前記ノズル先端が赤熱しない程度の流速以上に維持した状態で、前記燃焼ガスをパージガスに切り替え、その後、前記助燃ガスを停止またはパージガスに切り替えるガス切替機構を備えているので、シンプルな構成で、ノズル先端部の赤熱による劣化を抑制し、燃焼バーナ3の長寿命化を図ることが可能である。
【0047】
なお、前記実施形態では、燃焼バーナ3のノズル構造において、1つのガラス原料ガス噴出ノズルの外側に1つのシールガス噴出ノズルを有する場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば
図6に示す燃焼バーナ3B(3)のように、複数のガラス原料ガス噴出ノズル31の外側にシールガス噴出ノズル32が配された構造であってもよい。さらに
図6の構造ではシールガス噴出ノズル32がガラス原料ガス噴出ノズル31を一括して内包する構造であるが、個々のガラス原料ガス噴出ノズル31のそれぞれの外側にシールガス噴出ノズル32を配した構造であってもよい。
図6に示した燃焼ガスポート33は、シールガス噴出ノズル32の外側に配された構成例であり、βを対称軸として、全てがレイアウトされている。すなわち、前記燃焼ガスポート33は、前記ガラス原料ガス噴出ノズル31に対して同心形状に配置されている。
【0048】
また、前記実施形態では、燃焼ガスポート33を1つ備えた場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、燃焼ガスポート33を2つ以上備えていてもよい。例えば
図7に示す燃焼バーナ3C(3)のように、燃焼ガスポート33(33a,33b)を2つ備えた構造としてもよい。この場合、シールガス噴出ノズルに維持された種火からの着火は、燃焼ガスポート33a→燃焼ガスポート33bのようにシールガス噴出ノズルに近いポートの順に着火するとよい。
図7に示した燃焼ガスポート33a、33bは、シールガス噴出ノズル32の外側に配された構成例であり、γを対称軸として、全てがレイアウトされている。すなわち、前記燃焼ガスポート33a、33bは、前記ガラス原料ガス噴出ノズル31に対して同心形状(同心円状)に配置されている。
【0049】
また、前記実施形態では、1本のガラス微粒子合成用の燃焼バーナ3が配置された場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば
図8に示すように、複数のガラス微粒子合成用の燃焼バーナ3a、3b、3c(3)が配置されていてもよい。
【0050】
また、前記実施形態では、チャンバ2の開口部2aに燃焼バーナ3を配置してトラバースさせる構成であったが、チャンバ2の構造は、これに限定されるものではなく、大きな開口部2aではなく、単に燃焼バーナ3の出入りできるスリット(間隙)を有するチャンバなどであってもよい。
【実施例】
【0051】
以下、本発明について行った実施例及び比較例について説明する。
<実施例1>
図3に示したようなノズル構造の燃焼バーナを用いて、回転するターゲット部材の軸方向に一方向から複数回トラバースさせて、該ターゲット部材の周囲にガラス微粒子堆積層を形成してガラス微粒子堆積体を得る光ファイバ用ガラス母材を製造した。
【0052】
このとき、前記ターゲット部材の周囲にガラス微粒子を堆積させる堆積モードから、ガラス微粒子を堆積させない非堆積モードに移行するに際しては、シールガス噴出ノズルに流した燃焼ガスで種火を維持しながら、前記燃焼ガスポートにおいて、前記助燃ガスを前記ノズル先端が赤熱しない程度の流速以上に維持した状態で、前記燃焼ガスをパージガスに切り替える工程αとともに、非堆積モードから堆積モードに移行するに際しては、シールガス噴出ノズルに流した燃焼ガスで種火を維持しながら、前記燃焼ガスポートにおいて、前記助燃ガスを前記ノズル先端が赤熱しない程度の流速以上に維持した状態で、パージガスを燃焼ガスに切り替える工程βを、交互に複数回行った。前記非堆積モード中では、前記燃焼ガスポートにパージガスが流れている間、前記助燃ガスを停止した。
上記の方法により光ファイバ用ガラス母材を100本製造した。
【0053】
上述した工程αあるいは工程β中、ノズル先端の状態を目視で観察した。
その結果、工程中、何時もノズルの赤熱は目視観察されず、ノズルの変形も観察されながた。なお、種火時の燃焼ガス(H
2 ガス)量は10slmであった。
【0054】
<実施例2>
種火時の燃焼ガス(H
2 ガス)量を7slmとしたこと以外は、実施例1と同様にして光ファイバ用ガラス母材を100本製造した。
その結果3本目の母材製造中に種火が消えたが、種火中に助燃ガス(O
2 ガス)を4slm流したところ、100本の光ファイバ用ガラス母材を製造しても種火は消えることはなかった。
【0055】
<実施例3>
実施例1と同様にして光ファイバ用ガラス母材を製造する場合において、消火時に、シールガス噴出ノズルの燃焼ガスを停止する方法により、消火した。
この消火したときのノズル先端の状態を目視で観察した結果、ノズルの赤熱は観察されなかった。
【0056】
<実施例4>
実施例1と同様にして光ファイバ用ガラス母材を製造する場合において、非堆積モードから堆積モードに移行するに際し、シールガス噴出ノズルに流した燃焼ガスを供給して着火した後、燃焼ガスポートにおいて、前記助燃ガスを前記ノズル先端が赤
熱しない程度の流速以上で流すとともに、前記燃焼ガスの供給を開始して燃焼を開始する方法により、着火した。
この着火したときのノズル先端の状態を目視で観察した結果、ノズルの赤熱は観察されなかった。
【0057】
<比較例1>
図3に示したようなノズル構造の燃焼バーナを用いて、光ファイバ用ガラス母材を製造した。ただし、堆積モードから非堆積モードに移行するに際し、シールガス噴出ノズルにはシールガスを流したまま、助燃ガス(O
2 ガス)をパージガスに切り替え、ついで燃焼ガスの流量を30%に減少させた。非堆積モードから堆積モードに移行する際は、逆の操作を行った。この方法により光ファイバ用ガラス母材を100本製造した。
工程中、ノズル先端の状態を目視で観察した。その結果、種火にするとき、種火から戻すときのいずれにおいても赤熱が観察された。また、100本の製造でノズルが変形し、堆積効率が20%低下した。
【0058】
<比較例2>
比較例1と同様にして光ファイバ用ガラス母材を製造する場合において、助然ガス(O
2 ガス)、燃焼ガス(H
2 ガス)の順に消火した。
この消火したときのノズル先端の状態を目視で観察した結果、ノズルの赤熱が観察された。
【0059】
<比較例3>
比較例1と同様にして光ファイバ用ガラス母材を製造する場合において、非堆積モードから堆積モードに移行するに際し、燃焼ガス(H
2 ガス)、助然ガス(O
2 ガス)の順に着火した。
この着火したときのノズル先端の状態を目視で観察した結果、ノズルの赤熱が観察された。
【0060】
以上の結果より、実施例1と比較例1から、堆積モードから非堆積モードヘの移行時、あるいは非堆積モードから堆積モードヘの移行時に、本発明に係る方法を用いることにより、ノズル先端が高温になる機会を与えず、ノズル先端部の赤熱による劣化を抑制できることが確認された。
また、実施例3と比較例2から、消火時に燃焼ガスポートの燃焼ガスを停止することで、迅速かつ自然に消火することができることが確認された。
また、実施例4と比較例3から、1つの燃焼ガスポートで種火を維持しておけば、隣接する他方の燃焼ガスポートに燃焼ガスを流し始めることで、確実に自然に着火(引火)できることが確認された。
【0061】
以上、本発明の光ファイバ用ガラス母材の製造装置及び製造方法について説明してきたが、本発明は前記の例に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。