(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。
なお、本発明は、以下の本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
図面中、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
また、本明細書において、「略」を付した用語は、当業者の技術常識の範囲内でその「略」を除いた用語の意味を示すものであり、「略」を除いた意味自体をも含むものとする。
【0014】
〔陽イオン交換膜〕
本実施形態の陽イオン交換膜は、イオン交換基を有する含フッ素系重合体を含む膜本体を有している。
前記膜本体は、イオン交換基としてカルボン酸基を有する含フッ素重合体を含む第一層(以下、単にカルボン酸層という場合もある)と、イオン交換基としてスルホン酸基を有する含フッ素重合体を含む第二層(以下、単にスルホン酸層という場合もある)とを少なくとも含んでおり、陽イオン交換膜の中立軸から、前記第二層の膜表面までの距離が5〜70μmである。
なお、前記第二層の膜表面とは、前記第一層形成面側とは反対側の表面を意味する。
【0015】
(陽イオン交換膜を構成する材料)
本実施形態の陽イオン交換膜を構成する膜本体は、陽イオンを選択的に透過する機能を有し、イオン交換基(カルボン酸基又はスルホン酸基)を有する含フッ素重合体を含むものであればよく、その構成や材料は特に限定されず、適宜好適なものを選択することができる。
ここでいうイオン交換基を有する含フッ素系重合体とは、イオン交換基又は加水分解によりイオン交換基となり得るイオン交換基前駆体を有する含フッ素系重合体である。
例えば、フッ素化炭化水素の主鎖からなり、加水分解等によりイオン交換基に変換可能な官能基をペンダント側鎖として有し、かつ溶融加工が可能な重合体が挙げられる。このような含フッ素系重合体について、以下に説明する。
【0016】
カルボン酸基を有する含フッ素重合体については、以下の第1群の単量体、及び第2群の単量体を共重合する、又は第2群の単量体を単独重合することによって、製造することができる。
【0017】
第1群の単量体としては、例えば、フッ化ビニル化合物が挙げられる。フッ化ビニル化合物としては、例えば、フッ化ビニル、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)等が挙げられる。特に、本実施形態に係るイオン交換膜をアルカリ電解用膜として用いる場合、フッ化ビニル化合物は、パーフルオロ単量体であることが好ましく、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)からなる群より選ばれるパーフルオロ単量体が好ましい。
【0018】
第2群の単量体としては、例えば、カルボン酸型イオン交換基に変換し得る官能基を有するビニル化合物が挙げられる。カルボン酸型イオン交換基に変換し得る官能基を有するビニル化合物としては、例えば、CF
2=CF(OCF
2CYF)
s−O(CZF)
t−COORで表される単量体等が挙げられる(ここで、sは0〜2の整数を表し、tは1〜12の整数を表し、Y及びZは、各々独立して、F又はCF
3を表し、Rは炭素数1〜3のアルキル基を表す。)。
これらの中でも、CF
2=CF(OCF
2CYF)
n−O(CF
2)
m−COORで表される化合物が好ましい。ここで、nは0〜2の整数を表し、mは1〜4の整数を表し、YはF又はCF
3を表し、RはCH
3、C
2H
5、又はC
3H
7を表す。
特に、本実施形態に係る陽イオン交換膜をアルカリ電解用陽イオン交換膜として用いる場合、第1群の単量体としてパーフルオロ単量体を少なくとも用いることが好ましいが、エステル基のアルキル基(上記R参照)は加水分解される時点で重合体から失われるため、前記アルキル基(R)は全ての水素原子がフッ素原子に置換されているパーフルオロアルキル基でなくてもよい。これらの中でも、例えば、下記に表す単量体がより好ましい;
CF
2=CFOCF
2−CF(CF
3)OCF
2COOCH
3、
CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)O(CF
2)
2COOCH
3、
CF
2=CF[OCF
2−CF(CF
3)]
2O(CF
2)
2COOCH
3、
CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)O(CF
2)
3COOCH
3、
CF
2=CFO(CF
2)
2COOCH
3、
CF
2=CFO(CF2)
3COOCH
3。
【0019】
スルホン酸基を有する含フッ素重合体については、前記第1群の単量体、及び下記第3群の単量体を共重合する、又は第3群の単量体を単独重合することによって、製造することができる。
【0020】
第3群の単量体としては、例えば、スルホン型イオン交換基に変換し得る官能基を有するビニル化合物が挙げられる。スルホン型イオン交換基に変換し得る官能基を有するビニル化合物としては、例えば、CF
2=CFO−X−CF
2−SO
2Fで表される単量体が好ましい(ここで、Xはパーフルオロ基を表す。)。これらの具体例としては、下記に表す単量体等が挙げられる。
CF
2=CFOCF
2CF
2SO
2F、
CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2SO
2F、
CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2CF
2SO
2F、
CF
2=CF(CF
2)
2SO
2F、
CF
2=CFO〔CF
2CF(CF
3)O〕
2CF
2CF
2SO
2F、
CF
2=CFOCF
2CF(CF
2OCF
3)OCF
2CF
2SO
2F。
これらの中でも、CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2CF
2SO
2F、及びCF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2SO
2Fがより好ましい。
【0021】
これら単量体から得られる共重合体は、フッ化エチレンの単独重合及び共重合に対して開発された重合法、特にテトラフルオロエチレンに対して用いられる一般的な重合方法によって製造することができる。例えば、非水性法においては、パーフルオロ炭化水素、クロロフルオロカーボン等の不活性溶媒を用い、パーフルオロカーボンパーオキサイドやアゾ化合物等のラジカル重合開始剤の存在下で、温度0〜200℃、圧力0.1〜20MPaの条件下で、重合反応を行うことができる。
【0022】
上記共重合体において、上記単量体の組み合わせの種類及びその割合は、得られる含フッ素系重合体に付与したい官能基の種類及び量等によって選択決定される。例えば、カルボン酸エステル官能基のみを含有する含フッ素系重合体とする場合、上記第1群及び第2群から各々少なくとも1種の単量体を選択して共重合させればよい。また、スルホニルフルオライド官能基のみを含有する重合体とする場合、上記第1群及び第3群の単量体から各々少なくとも1種の単量体を選択して共重合させればよい。更に、カルボン酸エステル官能基とスルホニルフルオライド官能基を有する含フッ素系重合体とする場合、上記第1群、第2群及び第3群の単量体から各々少なくとも1種の単量体を選択して共重合させればよい。この場合、上記第1群及び第2群よりなる共重合体と、上記第1群及び第3群よりなる共重合体とを別々に重合し、後に混合することによっても目的の含フッ素系重合体を得ることができる。また、各単量体の混合割合は、単位重合体当たりの官能基の量を増やす場合、上記第2群、第3群より選ばれる単量体の割合を増加させればよい。
【0023】
含フッ素系重合体の総イオン交換容量は特に限定されないが、乾燥樹脂として0.5〜2.0mg当量/gであることが好ましく、0.6〜1.5mg当量/gであることがより好ましい。ここで、総イオン交換容量とは、乾燥樹脂の単位重量あたりの交換基の当量のことをいい、中和滴定等によって測定することができる。
【0024】
上述したように膜本体は、カルボン酸基を有する含フッ素系重合体を含む第一層(カルボン酸層)と、スルホン酸基を有する含フッ素重合体を含む第二層(スルホン酸層)とを少なくとも備える。
スルホン酸基を有する含フッ素重合体を含む第二層(スルホン酸層)は電気抵抗が低い材料から構成され、膜強度の観点から膜厚が厚いことが好ましい。カルボン酸基を有する含フッ素系重合体を含む第一層(カルボン酸層)は、膜厚が薄くても高いアニオン排除性を有するものが好ましい。ここでいうアニオン排除性とは、陽イオン交換膜へのアニオンの浸入や透過を妨げようとする性質をいう。かかる層構造の膜本体とすることで、ナトリウムイオン等の陽イオンの選択的透過性を一層向上させることができる。
【0025】
カルボン酸基を有する含フッ素系重合体を含む第一層(カルボン酸層)に用いる重合体としては、例えば、上記した含フッ素系重合体のうち、CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)O(CF
2)
2COOCH
3が好ましい。
スルホン酸基を有する含フッ素重合体を含む第二層(スルホン酸層)に用いる重合体としては、例えば、上記した含フッ素系重合体のうち、CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2SO
2Fが好ましい。
【0026】
(陽イオン交換膜の層構成)
さらに、本実施形態の陽イオン交換膜は、スルホン酸基を有する含フッ素重合体を含む第二層は、弾性率の異なるA層とB層とを有していることが好ましい。これにより、機械強度を高く維持しながら電圧を低減できる。
弾性率は、後述する実施例で記載されている方法により測定できる。
【0027】
(陽イオン交換膜における中立軸の位置関係)
本実施形態の陽イオン交換膜は、当該陽イオン交換膜の中立軸から、前記第二層(スルホン酸層)の膜表面までの距離が5〜70μmである。
<中立軸>
本実施形態の陽イオン交換膜において、中立軸とは、陽イオン交換膜の積層方向に切った断面において、積層膜を谷又は山として、陽イオン交換膜を折り曲げた際に、圧縮応力も引張応力も生じない軸を言い、各層の弾性率と厚みにより決定される。
そのため、陽イオン交換膜の膜本体内部に後述する強化芯材や連通孔を有していても、中立軸の決定に対しては影響しない。
具体的に、本実施形態の陽イオン交換膜において第一層側を内側(谷)に、第二層側を外側(山)に折り曲げた際、中立軸では応力がゼロとなる。この中立軸から第二層側の膜表面までの距離を5〜70μmとすることにより、陽イオン交換膜の折り曲げに対する機械的強度が飛躍的に向上する。
【0028】
本実施形態の陽イオン交換膜における中立軸の求め方について、
図1及び
図2を参照して説明する。
図1は、陽イオン交換膜の概略断面模式図である。
図1において陽イオン交換膜10は、第一層(カルボン酸層)11と第二層(スルホン酸層)12とが積層されており、
図1中、破線Nは、上記により定まる中立軸である。
図1に示すように陽イオン交換膜10を積層方向に切った線Mと中立軸Nとの交点を中心点Oとし、さらに互いに共通する線分Pを一辺とする、二つの相似形の三角形に分ける。この二つの三角形のうち、中立軸の上方向すなわち第一層11形成側にある方の三角形における、第一層11の膜表面部における長さをαとし、第一層11と第二層12との境界部における長さをβとする。また、中立軸Nの下方向すなわち第二層12形成側にある三角形における、第二層12の膜表面部における長さをγとする。
上記のように線Mと線Pを二辺とする二つの三角形を抽出すると、
図2に示すようになる。
第一層(カルボン酸層)11の弾性率をe
1、厚みをD
1とし、第二層(スルホン酸層)12の弾性率をe
2、厚みをD
2とし、線形弾性体の圧縮及び引張であると仮定したときに、中立軸Nにおいて応力がゼロとなることから、中立軸Nを境界として下記式(1)で表わされるつり合いの式が成り立つ。
式(1):S1×e
1+S2×e
2=S3×e
2
ここで、S1は
図2に示す長さα、βの上底と下底を有する台形の面積、S2は長さβの底辺を有する三角形の面積、S3は長さγの底辺を有する三角形の面積を示し、それぞれ、以下の式で表わされる。
S1=(α+β)×D
1/2
S2=β×(D
2−X)/2
S3=γ×X/2
上記式を式(1)に導入して整理すると、下記式(1−2)に示すようになる。
式(1−2):(α+β)×D
1×e
1+β×(D
2−X)×e
2=γ×X×e
2
また、線形圧縮及び引張であるため、相似関係があることから、以下の式(2)及び(3)が成り立つ。
式(2): α:β=(D
1+D
2−X):(D
2−X)
式(3): β:γ=(D
2−X):X
上記式(1−2)、式(2)及び式(3)から、式(i)に示すように、距離XをD
1、D
2、e
1、e
2で表わすことができる。
式(i):X=(2D
1D
2e
1+D
12e
1+D
22e
2)/2(D
1e
1+D
2e
2)
【0029】
また、本実施形態の陽イオン交換膜において、第二層(スルホン酸層)が、弾性率の異なるA層とB層とを有している場合、
図3を参照し、具体的な中立軸の求め方について説明する。
図3は、本実施形態の陽イオン交換膜20の他の一例の概略断面模式図である。
図3において陽イオン交換膜20は、第一層(カルボン酸層)21と第二層(スルホン酸層)22とが積層されており、第二層22は、弾性率の異なるA層22a、B層22bにより構成されている。
図3中、破線Nは、上記により定まる中立軸である。
図3に示すように陽イオン交換膜20を積層方向に切った線Mと中立軸Nとの交点を中心点Oとし、さらに互いに共通する線分Pを一辺とする、二つの相似形の三角形に分ける。この二つの三角形のうち、中立軸Nの上方向、すなわち第一層11形成側にある方の三角形における、第一層11の膜表面部における長さをαとし、第一層11と第二層12との境界部における長さをβとする。
また、中立軸Nの下方向すなわち第二層12形成側にある方の三角形における、A層22aとB層22bとの境界部における長さをγとし、B層22bの膜表面部における長さをδとする。
上記のように線Mと線Pを二辺とする二つの三角形を抽出すると、
図4に示すようになる。
第一層(カルボン酸層)21の弾性率をe
1、厚みをD
1とし、第二層のA層22aの弾性率をe
2A、厚みをD
2Aとし、第二層のB層22bの弾性率をe
2B、厚みをD
2Bとし、線形圧縮及び引張であると仮定したときに、中立軸Nにおいて応力がゼロとなることから、中立軸Nを境界として下記式(4)で表わされるつり合いの式が成り立つ。
式(4):S1×e
1+S2×e
2A=S3×e
2A+S4×e
2B
ここで、S1は、
図4に示す長さα、βの上底と下底を有する台形の面積、S2は長さβの底辺を有する三角形の面積、S3は長さγの底辺を有する三角形の面積を示し、S4は長さγ、δの上底と下底を有する台形の面積を示し、それぞれ以下の式で表される。
S1=(α+β)×D
1/2
S2=β×(D
2A+D
2B−X)/2
S3=γ×(X−D
2B)/2
S4=(γ+δ)×D
2B/2
上記式を式(4)に導入して整理すると、下記式(4−2)のようになる。
式(4−2):(α+β)D
1e
1+β(D
2A+D
2B−X)e
2A=γ(X−D
2B)e
2A+(γ+δ)D
2Be
2B
また、線形圧縮及び引張であるため、相似関係があることから、以下の式(5)〜(7)が成り立つ。
式(5): α:β=(D
1+D
2A+D
2B−X):(D
2A+D
2B−X)
式(6): β:γ=(D
2A+D
2B−X):(X−D
2B)
式(7): γ:δ=(X−D
2B):X
上記式(4−2)、式(5)〜(7)から、距離Xを式(ii)に示すように、D
1、D
2A、D
2B、e
1、e
2A、e
2Bで表わすことができる。
式(ii): X={D
1(D
1+2D
2A+2D
2B)e
1+D
2A(D
2A+2D
2B)e
2A+D
2B2e
2B}/2(D
1e
1+D
2Ae
2A+D
2Be
2B)
【0030】
この距離Xが70μm以下であることによって、陽イオン交換膜の折れ曲がりに対する強度が著しく向上する。
Xを70μm以下とすることにより、陽イオン交換膜を折り曲げた際に、第二層の膜表面における引張による現実の伸び(以下、引張伸度)が、第二層の膜表面において、引張により膜が破断してしまう限界の伸度(以下、破断伸度)よりも低くなる。それによって、膜を折り曲げても、膜表面において破断が生じない機械的強度が高い膜が得られる。
距離Xは、66μm以下であることが好ましく、65μmであることがより好ましい。
距離Xは、小さければ小さいほど、膜表面における引張による伸びが小さくなるため、より折れ曲がりに対する強度が向上するため、距離Xの下限については限定されないが、膜の製造の観点から、5μmである。好ましくは、10μmである。さらに、電解性能の観点から、より好ましくは、40μmである。
【0031】
本実施形態の陽イオン交換膜においては、
図3に示すように、第一層21、第二層のA層22a、第二層のB層22bの順に積層されており、第一層21の弾性率をe
1、第二層22のA層22aの弾性率をe
2A、第二層のB層22bの弾性率をe
2Bとしたときに、e
1が1000〜1550kgf/mm
2であり、e
2Aが650〜800kgf/mm
2であり、e
2Bが600〜750kgf/mm
2であることが好ましい。
e
1が1000kgf/mm
2より低いとイオン交換膜の電解性能、特に電流効率が損なわれることがある。一方、1550kgf/mm
2より大きいと、中立軸が第一層形成面側の膜表面に近づいてしまい、中立軸から第二層の膜表面までの距離を5〜70μmとするには、他の2層の構成が限定されてしまうことがある。
また、e
2Aが650mm
2、e
2Bが600kgf/mm
2より小さいと、中立軸が第一層形成面側の膜表面に近づいてしまい、中立軸から第二層の膜表面までの距離を5〜70μmとするには、他の2層の構成が限定されてしまうことがある。
e
2Aが800kgf/mm
2、e
2Bが750kgf/mm
2より大きいと電解電圧が増大することがある。
また、本実施形態の陽イオン交換膜においては、
図3に示すように、第一層21、第二層のA層22a、第二層のB層22bの順に積層されており、第一層21の厚みをD
1、第二層22のA層の厚みをD
2A、第二層22のB層の厚みをD
2Bとしたときに、D
1が10〜30μmであり、D
2Aが70〜130μmであり、D
2Bが15〜55μmであることが好ましい。
D
1が10μmより小さいと電流効率が低くなり、30μmより大きいと、中立軸が第一層形成面側の膜表面に近づいてしまい、中立軸から第二層の膜表面までの距離を5〜70μmとするには、他の2層の構成が限定されてしまうことがある。
D
2Aが70μm、D
2Bが15μmより小さいと、膜が薄くなってしまい、強度が低下することがある。D
2Aが130μm、D
2Bが55μmより大きいと、中立軸が第一層形成面側の膜表面に近づいてしまい、中立軸から第二層の膜表面までの距離を5〜70μmとするには、他の2層の構成が限定されてしまうことがある。
図1、
図3で説明したのは、本実施形態における二層構造、三層構造の陽イオン交換膜の例であるが、さらに多くの層を有する陽イオン交換膜であっても、上述のように、線形弾性体の圧縮及び引張であると仮定して、中立軸から第二層の膜表面までの距離Xを算出することができる。具体的には、各層ごとに台形、三角形の面積と弾性率の積を用いて、中立軸を境界とした等式を立て、各面積、相似関係をその等式に代入することで、中立軸から第二層の膜表面までの距離Xを算出することができる。
【0032】
(強化芯材)
本実施形態に係る陽イオン交換膜は、膜本体の内部に、陽イオン交換膜を構成する層の積層方向と略平行に配置された強化芯材を有することが好ましい。
強化芯材とは、陽イオン交換膜の強度や寸法安定性を強化する部材である。
強化芯材を膜本体の内部に配置させることにより、特に、陽イオン交換膜の伸縮を所望の範囲に制御することができる。かかる陽イオン交換膜は、電解時等において必要以上に伸縮せず、長期に亘り優れた寸法安定性を維持することができる。
【0033】
強化芯材の構成は、特に限定されず、例えば、「強化糸」と呼ばれる糸を紡糸して形成させてもよい。
ここでいう強化糸とは、強化芯材を構成する部材であって、陽イオン交換膜に所望の寸法安定性及び機械的強度を付与できるものであり、かつ、陽イオン交換膜中で安定に存在できる糸のことをいう。かかる強化糸を紡糸した強化芯材を用いることにより、一層優れた寸法安定性及び機械的強度を陽イオン交換膜に付与することができる。
【0034】
強化芯材及びこれに用いる強化糸の材料は、特に限定されないが、酸やアルカリ等に耐性を有する材料からなることが好ましく、長期の耐熱性及び耐薬品性を付与する観点から、フッ素系重合体を含むものがより好ましい。
フッ素系重合体としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、トリフルオロクロルエチレン−エチレン共重合体及びフッ化ビニリデン重合体(PVDF)等が挙げられる。これらの中でも、耐熱性及び耐薬品性の観点から、特にポリテトラフルオロエチレンが好ましい。
【0035】
強化芯材に用いられる強化糸の糸径は、特に限定されないが、20〜300デニールであることが好ましく、50〜250デニールであることがより好ましい。強化糸の織り密度(単位長さあたりの打ち込み本数)は、特に限定されないが、5〜50本/インチが好ましい。強化芯材の形態としては、特に限定されず、例えば、織布、不織布、編布等が用いられる。これらの中でも、織布であることが好ましい。織布の厚みは、特に限定されないが、30〜250μmであることが好ましく、30〜150μmであることがより好ましい。
【0036】
強化芯材は、モノフィラメントでもよいし、マルチフィラメントでもよい。また、これらのヤーン、スリットヤーン等が使用されることが好ましい。
【0037】
本実施形態の陽イオン交換膜を構成する膜本体における強化芯材の配置は、特に限定されず、陽イオン交換膜の大きさや形状、陽イオン交換膜に所望する物性及び使用環境等を考慮して適宜好適な配置とすることができる。
例えば、膜本体の所定の一方向に沿って強化芯材を配置してもよいが、寸法安定性の観点から、所定の第一の方向に沿って強化芯材を配置し、かつ第一の方向に対して略垂直である第二の方向に沿って別の強化芯材を配置することが好ましい。
膜本体の縦方向膜本体の内部において、略直行するように複数の強化芯材を配置することで、多方向において一層優れた寸法安定性及び機械的強度を付与することができる。例えば、膜本体の表面において縦方向に沿って配置された強化芯材(縦糸)と横方向に沿って配置された強化芯材(横糸)を織り込む配置が好ましい。縦糸と横糸を交互に浮き沈みさせて打ち込んで織った平織りや、2本の経糸を捩りながら横糸と織り込んだ絡み織り、2本又は数本ずつ引き揃えて配置した縦糸に同数の横糸を打ち込んで織った斜子織り(ななこおり)等とすることが、寸法安定性、機械的強度及び製造容易性の観点からより好ましい。
【0038】
特に、陽イオン交換膜のMD方向(Machine Direction方向)及びTD方向(Transverse Direction方向)の両方向に沿って強化芯材が配置されていることが好ましい。すなわち、MD方向とTD方向に平織りされていることが好ましい。ここで、MD方向とは、後述する陽イオン交換膜の製造工程において、膜本体や各種芯材(例えば、強化芯材、強化糸、後述する犠牲糸等)が搬送される方向(流れ方向)をいい、TD方向とは、MD方向と略垂直の方向をいう。そして、MD方向に沿って織られた糸をMD糸といい、TD方向に沿って織られた糸をTD糸という。通常、電解に用いる陽イオン交換膜は、矩形状であり、長手方向がMD方向となり、幅方向がTD方向となることが多い。MD糸である強化芯材とTD糸である強化芯材を織り込むことで、多方向において一層優れた寸法安定性及び機械的強度を付与することができる。
【0039】
強化芯材の配置間隔は、特に限定されず、陽イオン交換膜に所望する物性及び使用環境等を考慮して適宜好適な配置とすることができる。
強化芯材の開口率は、特に限定されず、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上90%以下である。開口率は、陽イオン交換膜としての電気化学的性質の観点から、30%以上が好ましく、陽イオン交換膜の機械的強度の観点から、90%以下が好ましい。
強化芯材の開口率とは、膜本体のいずれか一方の表面の面積(A)におけるイオン等の物質(電解液及びそれに含有される陽イオン(例えば、ナトリウムイオン))が通過できる表面の総面積(B)の割合(B/A)をいう。イオン等の物質が通過できる表面の総面積(B)とは、陽イオン交換膜において、陽イオンや電解液等が、陽イオン交換膜に含まれる強化芯材等によって遮断されない領域の総面積ということができる。
図5は、本実施形態に係る陽イオン交換膜を構成する強化芯材の開口率を説明するための概略図である。
図5は、陽イオン交換膜の一部を拡大し、その領域内に強化芯材31、32の配置のみを図示しているものであり、他の部材については図示を省略している。
縦方向に沿って配置された強化芯材31と横方向に配置された強化芯材32によって囲まれた領域であって、強化芯材の面積も含めた領域の面積(A)から強化芯材の総面積(C)を減じることにより、上述した領域の面積(A)におけるイオン等の物質が通過できる領域の総面積(B)を求めることができる。
すなわち、開口率は、下記式(I)により求めることができる。
開口率=(B)/(A)=((A)−(C))/(A)・・・(I)
【0040】
開口率の具体的な測定方法を説明する。
陽イオン交換膜(コーティング等を塗る前の陽イオン交換膜)の表面画像を撮影し、強化芯材が存在しない部分の面積から、上記(B)が求められる。そして、陽イオン交換膜の表面画像の面積から上記(A)を求め、上記(B)を上記(A)で除することによって、開口率が求められる。
【0041】
これら強化芯材の中でも、耐薬品性及び耐熱性の観点からは、PTFEを含む強化芯材であることが好ましく、強度の観点から、テープヤーン糸又は高配向モノフィラメントが好ましい。具体的には、PTFEからなる高強度多孔質シートをテープ状にスリットしたテープヤーン、又はPTFEからなる高度に配向したモノフィラメントの50〜300デニールを使用し、かつ、織り密度が10〜50本/インチである平織りであり、その厚みが50〜100μmの範囲である強化芯材であることがより好ましい。かかる強化芯材含むイオン交換膜の開口率は、60%以上であることがさらに好ましい。
【0042】
強化糸の形状としては、丸糸、テープ状糸等が挙げられる。好ましくは、テープ状糸である。
【0043】
(連通孔)
本実施形態の陽イオン交換膜は、連通孔を有することが好ましい。
連通孔とは、電解の際に発生する陽イオンや電解液の流路となり得る孔をいう。
また、連通孔とは、膜本体内部に形成されている管状の孔であり、後述する犠牲芯材(又は犠牲糸)が溶出することで形成される。連通孔の形状や径等は、犠牲芯材(犠牲糸)の形状や径を選択することによって制御することができる。
陽イオン交換膜に連通孔を形成することで、電解の際に発生するアルカリイオンや電解液の移動性を確保できる。連通孔の形状は特に限定されないが、後述する製法によれば、連通孔の形成に用いられる犠牲糸の形状とすることができる。
陽イオン交換膜の積層方向の断面において、連通孔は、強化芯材の位置を基準として陽極側(スルホン酸層側)と陰極側(カルボン酸層側)とを交互に通過するように形成されることが好ましい。かかる構造とすることで、連通孔の空間を流れる電解液及びそれに含有される陽イオン(例えば、ナトリウムイオン)を、膜本体の陽極側と陰極側との間で移送させることができる。その結果、電解の際に陽イオンの流れに対する遮蔽が緩和されるため、陽イオン交換膜の電気抵抗を更に低くすることができる。
【0044】
連通孔は、本実施形態の陽イオン交換膜を構成する膜本体の所定の一方向のみに沿って形成されていてもよいが、より安定した電解性能を発揮するという観点から、膜本体の縦方向と横方向との両方向に形成されていることが好ましい。
【0045】
(コーティング層)
本実施形態の陽イオン交換膜は、電解時に陰極側表面及び陽極側表面にガスが付着することを防止する観点から、前記いずれか一方の表面の少なくとも一部を被覆するコーティング層を更に有することが好ましい。
コーティング層を構成する材料としては、特に限定されないが、ガス付着防止の観点から、無機物を含むことが好ましい。無機物としては、例えば、酸化ジルコニウム、酸化チタン等が挙げられる。コーティング層を膜本体に形成する方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、無機酸化物の微細粒子をバインダーポリマー溶液に分散した液を、スプレー等により塗布する方法が挙げられる。
例えば、無機酸化物の微細粒子をバインダーポリマー溶液に分散させた液を、スプレー等により塗布する方法(スプレー法)が挙げられる。バインダーポリマーとしては、例えば、スルホン型イオン交換基に変換し得る官能基を有するビニル化合物等が挙げられる。塗布条件については、特に限定されず、例えば、30〜90℃でスプレーを用いることとすることができる。スプレー法以外の方法としては、例えば、ロールコート等が挙げられる。
【0046】
コーティング層の平均厚みは、ガス付着防止と厚みによる電気抵抗増加の観点から、1〜10μmであることが好ましい。
【0047】
(凸部)
図示はしないが、本実施形態の陽イオン交換膜は、膜本体の表面に、断面視において、高さが20μm以上である凸部が形成されていることが好ましい。
特に、
図1、
図3に示す第二層(スルホン酸層)12、22が、凸部を有することによって、電解の際に電解液が十分に膜本体に供給されることから、不純物による影響をより低減することができる。
通常、電解電圧を下げる目的で、陽イオン交換膜は陽極と密着した状態で使用される。一方、陽イオン交換膜と陽極とが密着すると、電解液(塩水等)の供給がされづらくなる傾向にある。そこで、陽イオン交換膜の表面に凸部を形成することにより、陽イオン交換膜と陽極との密着を抑制することができるため、電解液の供給をスムーズに行うことができる。その結果、陽イオン交換膜中に金属イオンやその他の不純物等が蓄積されることを防止できる。
【0048】
凸部の配置密度は、特に限定されないが、電解液を膜に十分に供給する観点から、20〜1500個/cm
2であることが好ましく、50〜1200個/cm
2であることがより好ましい。
凸部の形状は、特に限定されないが、円錐状、多角錐状、円錐台状、多角錐台状、半球状、ドーム状からなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。なおここで言う半球状とは、ドーム状等とよばれる形状も包含する。
【0049】
上述した凸部の高さ、形状及び配置密度は、以下の方法によりそれぞれ測定・確認することができる。
まず、陽イオン交換膜の1000μm四方の範囲の膜表面において、高さが一番低い点を基準とする。そして、その基準点から高さが20μm以上である部分を凸部とする。
高さの測定方法としては、KEYENCE社製「カラー3Dレーザー顕微鏡(VK−9710)」を用いて行う。具体的には、乾燥状態の陽イオン交換膜から、任意に10cm×10cmの箇所を切り出し、平滑な板と陽イオン交換膜の陽極側を両面テープで固定し、陽イオン交換膜の陰極側を測定レンズに向けるよう測定ステージにセットする。各10cm×10cmの膜において、1000μm四方の測定範囲で、陽イオン交換膜表面における形状を観測し、高さが一番低い点を基準とし、そこからの高さを測定することで凸部を観測することができる。
また、凸部の配置密度については、任意に10cm×10cmの膜を3箇所切り出して、その各10cm×10cmの膜において、1000μm四方の測定範囲で9箇所測定した値を平均した値である。
【0050】
〔陽イオン交換膜の製造方法〕
本実施形態に係る陽イオン交換膜の好適な製造方法としては、以下の(1)〜(5)の工程を有する方法が挙げられる。
(1)イオン交換基(カルボン酸基、スルホン酸基)、又は、加水分解によりイオン交換基となり得るイオン交換基前駆体を有する含フッ素重合体を製造する工程。
(2)必要に応じて、複数の強化芯材と、酸又はアルカリに溶解する性質を有し、連通孔を形成する犠牲糸と、を少なくとも織り込むことにより、隣接する強化芯材同士の間に犠牲糸が配置された補強材を得る工程。
(3)イオン交換基、又は、加水分解によりイオン交換基となり得るイオン交換基前駆体を有する含フッ素重合体をフィルム化する工程と、
(4)前記フィルムに必要に応じて前記補強材を埋め込んで、前記補強材が内部に配置された膜本体を得る工程。
(5)前記(4)工程で得られた膜本体を加水分解して、イオン交換基前駆体にイオン交換基を導入する工程(加水分解工程)。
【0051】
本実施形態の陽イオン交換膜は、中立軸から前記第二層(スルホン酸層)の膜表面までの距離が5〜70μmである点に特徴を有している。
中立軸の位置は、陽イオン交換膜を構成する各層の厚みと弾性率を調整することによって、上記範囲に制御することができる。
具体的には、(1)工程で含フッ素重合体のイオン交換容量と、(5)工程で加水分解の温度を調整することにより各層の弾性率を制御することができ、(3)工程でフィルム化する際の温度と速度(時間)を調整することにより各層の厚みを制御することができる。
【0052】
以下、各工程についてより詳細に説明する。
【0053】
(1)工程:含フッ素系重合体の製造工程
本実施形態において、含フッ素重合体のイオン交換容量を制御するためには、各層を形成する含フッ素重合体の製造において、原料の単量体の混合比を調整すればよい。それによって、各層の含水率及び弾性率を特定の範囲にすることができる。
第一層を形成するカルボン酸基を有する含フッ素重合体は、前記第一群の単量体と、前記第二群の単量体とを、以下の質量比で共重合して製造される。
前記第一群の単量体:前記第二群の単量体=4:1〜14:1
より好ましくは、6:1〜12:1である。ここで、前記第一群の単量体の質量比を大きくすると、イオン交換容量が小さくとなり、第一層の弾性率が高くとなる。逆に前記第一群の単量体の質量比を小さくすると、イオン交換容量が大きくとなり、第一層の弾性率が低くなる。
第二層を形成するスルホン酸基を有する含フッ素重合体は、前記第三群の単量体を重合して製造するか、又は前記第一群の単量体と、前記第三群の単量体とを、以下の質量比で共重合して製造される。
前記第一群の単量体:前記第三群の単量体=3:1〜9:1
より好ましくは、5:1〜7:1である。ここで、前記第一群の単量体の質量比を大きくすると、イオン交換容量が小さくとなり、第一層の弾性率が高くとなる。逆に前記第一群の単量体の質量比を小さくすると、イオン交換容量が大きくとなり、第一層の弾性率が低くなる。
【0054】
(2)工程:補強材を得る工程
補強材とは、強化糸を織った織布等である。補強材が膜内に埋め込まれることで、上述した強化芯材を形成する。
連通孔を有する陽イオン交換膜とするときには、犠牲糸も一緒に織り込む。この場合の犠牲糸の混織量は、好ましくは補強材全体の10〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%である。あるいは、20〜50デニールの太さを有し、モノフィラメント又はマルチフィラメントからなるポリビニルアルコール等も好ましい。なお、(2)工程において、強化芯材や犠牲糸等の配置を調整することで、連通孔の配置を制御することができる。
【0055】
(3)工程:フィルム化工程
(3)工程では、前記(1)工程で得られた含フッ素重合体を、押出し機を用いてフィルム化する。
フィルムは単層構造でもよいし、上記したようにスルホン酸層とカルボン酸層の2層構造でもよいし、3層以上の多層構造であってもよい。
フィルム化する方法としては以下のものが挙げられる。
第一層を形成するカルボン酸基を有する含フッ素重合体、第二層を形成するスルホン酸基を有する含フッ素重合体をそれぞれ別々にフィルム化する方法。
第一層を形成するカルボン酸基を有する含フッ素重合体と、第二層を形成するスルホン酸基を有する含フッ素重合体とを共押出しにより、複合フィルムとする方法。
第一層を形成するカルボン酸基を有する含フッ素重合体、第二層のA層を形成するスルホン酸基を有する含フッ素重合体、第二層のB層を形成するスルホン酸基を有する含フッ素重合体をそれぞれ別々にフィルム化する方法。
第一層を形成するカルボン酸基を有する含フッ素重合体と、第二層のA層を形成するスルホン酸基を有する含フッ素重合体とを共押出しにより、複合フィルムとし、第二層のB層を形成するスルホン酸基を有する含フッ素重合体を単独でフィルム化する方法。
また、2つの層を共押出して複合フィルムとすることは、界面の接着強度を高めることに寄与している。
フィルム化する際の温度と時間を適宜調整することによって、各フィルムの厚みを制御することができる。
【0056】
(4)工程:膜本体を得る工程
(4)工程では、(2)工程で得た補強材と、(3)工程で得られたフィルムとを積層して、補強材が内在する膜本体、すなわち複合膜を得る。具体的には以下の通りである。
(i)加熱源及び真空源を有し、その表面に多数の細孔を有する平板またはドラム上に透気性を有する耐熱性の離型紙を介して、補強材、第二層フィルム、第一層フィルムの順に積層して、各ポリマーが溶融する温度下で減圧により各層間の空気を除去しながら一体化する方法。
(ii)加熱源及び真空源を有し、その表面に多数の細孔を有する平板またはドラム上に透気性を有する耐熱性の離型紙を介して、補強材、第二層/第一層複合フィルムの順に積層して、各ポリマーが溶融する温度下で減圧により各層間の空気を除去しながら一体化する方法。
(iii)加熱源及び真空源を有し、その表面に多数の細孔を有する平板またはドラム上に透気性を有する耐熱性の離型紙を介して、第二層のB層フィルム、補強材、第二層のA層フィルム、第一層フィルムの順に積層して、各ポリマーが溶融する温度下で減圧により各層間の空気を除去しながら一体化する方法。
(iv)加熱源及び真空源を有し、その表面に多数の細孔を有する平板またはドラム上に透気性を有する耐熱性の離型紙を介して、第二層のB層フィルム、補強材、第二層のA層/第一層複合フィルムの順に積層して、各ポリマーが溶融する温度下で減圧により各層間の空気を除去しながら一体化する方法。
【0057】
複数層を共押出しすることは、界面の接着強度を高める効果が得られる。
減圧下で一体化する方法は、加圧プレス法に比べて、補強材上の第二層のB層の厚みが大きくなる特徴を有している。さらに、補強材が膜の内面に固定されているため、膜の機械的強度が十分に保持できる。
なお、ここで説明した積層のバリエーションは一例であり、所望する膜本体の層構成や物性等を考慮して、適宜好適な積層パターン(例えば、各層の組合せ等)を選択した上で、共押出しすることができる。
【0058】
なお、陽イオン交換膜の電気的性能をさらに高める目的で、第一層と第二層との間に、カルボン酸エステル官能基とスルホニルフルオライド官能基の両方を含有する第三層をさらに介在させることや、第二層の代わりにカルボン酸エステル官能基とスルホニルフルオライド官能基の両方を含有する層を用いることも可能である。この場合、カルボン酸エステル官能基とスルホニルフルオライド官能基の両方を含有する層を形成する方法としては、カルボン酸エステル官能基を含有する重合体と、スルホニルフルオライド官能基を含有する重合体と、を別々に製造した後に混合する方法でもよいし、カルボン酸エステル官能基を含有する単量体とスルホニルフルオライド官能基を含有する単量体の両者を共重合したものを使用する方法でもよい。
第三層をイオン交換膜の構成とする場合には、第一層と第三層との共押出し複合フィルムを成形し、第二層はこれとは別に単独でフィルム化し、前述の方法で積層してもよいし、第一層/第三層/第二層の3層を一度に共押し出しで複合フィルム化してもよい。
【0059】
また、本実施形態に係る陽イオン交換膜において、膜本体の表面に凸部を形成する方法としては、特に限定されず、樹脂表面に凸部を形成する公知の方法を採用することができる。
当該凸部は、樹脂のみからなることが好ましい。
本実施形態において膜本体の表面に凸部形成する方法としては、具体的には、膜本体の表面にエンボス加工を施す方法が挙げられる。例えば、前記した各種複合フィルムと補強材等とを一体化する際に、予めエンボス加工した離型紙を用いることによって、上記の凸部を形成させることができる。
【0060】
(5)工程:加水分解する工程
(5)工程では、上述した(4)工程で得られた膜本体を加水分解して、イオン交換基前駆体にイオン交換基を導入する。
加水分解の温度によっても陽イオン交換膜の第一層と第二層の弾性率を制御することができる。温度を高くすると、弾性率は低くなり、逆に温度を低くすると、弾性率は高くなる。
加水分解温度としては、40℃〜100℃の範囲が好ましい。
具体的な加水分解の方法としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、水酸化カリウム(KOH)を含む水溶液で加水分解した後、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液で処理して,対イオンがNaイオンである陽イオン交換膜が得られる。
また、この加水分解により、膜本体に犠牲糸が含まれている場合、酸又はアルカリで溶解除去することで、膜本体に連通孔を形成させることができる。
【0061】
(5)工程で用いる酸又はアルカリは、その種類は特に限定されない。酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸が挙げられる。アルカリとしては、例えば、水酸化カリウムや水酸化ナトリウムが挙げられる。
【0062】
ここで、犠牲糸を溶出させることで連通孔を形成する方法についてより詳細に説明する。
図6(a)、(b)は、本実施形態における陽イオン交換膜の連通孔を形成する方法を説明するための模式図である。
図6(a)では、強化芯材52と犠牲糸504a(これにより形成される連通孔504)のみを図示しており、膜本体等の他の部材については、図示を省略している。まず、強化芯材52と犠牲糸504aを編み込み補強材とする。そして、前記(5)工程において犠牲糸504aが溶出することで連通孔504及び開孔部(図示せず)が形成される。
【0063】
上記方法によれば、陽イオン交換膜の膜本体内部において強化芯材52、連通孔504を如何なる配置とするのかに応じて、強化芯材52と犠牲糸504aの編み込み方を調整すればよいため、簡便である。
図6(a)では、紙面において縦方向と横方向の両方向に沿って強化芯材52と犠牲糸504aを編り込んだ平織りの補強材を例示しているが、必要に応じて補強材における強化芯材52と犠牲糸504aの配置を変更することができる。
【0064】
上述した(1)工程〜(5)工程を経た後、得られた陽イオン交換膜の表面に、コーティング層を形成してもよい。
コーティング層は、特に限定されず、公知の方法により形成できる。
例えば、無機酸化物の微細粒子をバインダーポリマー溶液に分散させた液を、スプレー等により塗布する方法(スプレー法)が挙げられる。
無機酸化物としては酸化ジルコニウムが挙げられ、バインダーポリマーとしては、例えば、スルホン型イオン交換基に変換し得る官能基を有するビニル化合物等が挙げられる。
塗布条件については、特に限定されず、例えば、60℃でスプレーを用いることとすることができる。スプレー法以外の方法としては、例えば、ロールコート等が挙げられる。
【0065】
〔電解槽〕
本実施形態の陽イオン交換膜は、これを用いて電解槽として使用することができる。
図7は、本実施形態に係る電解槽の一実施形態の模式図である。
本実施形態の電解槽100は、陽極200と、陰極300と、陽極200と陰極300の間に配置された陽イオン交換膜10(20)を少なくとも備える。
ここでは、上記した陽イオン交換膜10(20)を備えた電解槽100を一例として説明しているが、これに限定されるものではなく、本実施形態の効果の範囲内で種々構成を変形して実施することができる。かかる電解槽100は、種々の電解に使用できるが、以下、代表例として、塩化アルカリ水溶液の電解に使用する場合について説明する。
【0066】
電解条件は、特に限定されず、公知の条件で行うことができる。
例えば、陽極室に2.5〜5.5規定(N)の塩化アルカリ水溶液を供給し、陰極室は水又は希釈した水酸化アルカリ水溶液を供給し、電解温度が50〜120℃、電流密度が5〜100A/dm
2の条件で電解することができる。
【0067】
本実施形態に係る電解槽100の構成は、特に限定されず、例えば、単極式でも複極式でもよい。電解槽100を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、陽極室の材料としては、塩化アルカリ及び塩素に耐性があるチタン等が好ましく、陰極室の材料としては、水酸化アルカリ及び水素に耐性があるニッケル等が好ましい。電極の配置は、陽イオン交換膜10(20)と陽極200との間に適当な間隔を設けて配置してもよいが、陽極200と陽イオン交換膜10(20)が接触して配置されていても、何ら問題なく使用できる。また、陰極は一般的には陽イオン交換膜と適当な間隔を設けて配置されているが、この間隔がない接触型の電解槽(ゼロギャップ式電解槽)であっても、何ら問題なく使用できる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の単位において、特に断りがない限り、質量基準に基づくものとする。
【0069】
〔厚みの求め方〕
後述する実施例及び比較例において作製した陽イオン交換膜の断面を顕微鏡(OLYMPUS BH−2)で観測し、厚みを測定した。
また、陽イオン交換膜が複合フィルムの場合、顕微鏡で各層の境界を観測し、各層の厚みを測定した。
【0070】
〔弾性率の求め方〕
陽イオン交換膜を構成する第一層、第二層のA層、第二層のB層に用いる含フッ素重合体をそれぞれ単層で押出しして、100μmのフィルムを得た。
そのフィルムを、ジメチルスルホキシド(DMSO)、水酸化カリウム(KOH)を含む水溶液に1時間浸漬して加水分解した。
その後、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液に1時間浸漬した後に水洗し、対イオンがNaイオンである単層の陽イオン交換膜を得た。
なお、この加水分解時の温度等の条件は、各実施例及び比較例で陽イオン交換膜を製造する際の条件と同じ条件で行った。
この陽イオン交換膜をMD方向、TD方向に対して45°方向に10mmの幅で切断したサンプルを作り、引張試験器(TENSILON RTC−1210)にチャック間距離50mmで装着して、引張速度100mmでサンプルを引っ張った。
引張試験の応力−ひずみ(伸度)曲線のひずみ(伸度)が5%での応力から弾性率を求めた。
【0071】
〔折り曲げ耐性評価〕
陽イオン交換膜の折れ曲げによる強度低下の度合い(折り曲げ耐性)は、以下の方法により評価した。
なお、折り曲げ耐性は、折り曲げる前の陽イオン交換膜の引張伸度に対する折り曲げた後のイオン交換膜の引張伸度の割合(引張伸度割合)を算出して評価した。
引張伸度は、次の方法で測定した。
陽イオン交換膜に埋め込まれた強化糸に対して45度となる方向に沿って幅1cmのサンプルを切り出した。具体的には、略正方形に織り込まれた強化糸の格子の対角線に整合させて切り出した。そして、チャック間距離50mm、引張速度100mm/分の条件で、JIS K6732に準じて、サンプルの引張伸度を測定した。
陽イオン交換膜の折り曲げは、次の方法で行った。
陽イオン交換膜の第一層(カルボン酸層)側の表面を内側にして、すなわち谷折にして400g/cmの荷重を掛けて折り曲げた。陽イオン交換膜のMD糸に対して垂直方向に折り線が入るように、陽イオン交換膜を折り曲げて評価した。
折り曲げを行った後の陽イオン交換膜の引張伸度を測定し、折り曲げ前の引張伸度に対する割合を求め、折り曲げ耐性とした。
【0072】
〔実施例1〕
強化芯材として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製であり、150デニールのテープヤーンに900回/mの撚りを掛けて糸状にしたものを用いた(以下、PTFE糸という。)。
経糸の犠牲糸として、30デニール、6フィラメントのポリエチレンテレフタレート(PET)を200回/mの撚りを掛けた糸を用いた(以下、PET糸という。)。また緯糸の犠牲糸として、35デニール、8フィラメントのポリエチレンテレフタレート(PET)を撚りは掛けずに用いた。
まず、PTFE糸が15本/インチ、犠牲糸が隣接するPTFE糸間に4本配置するように平織りして織布を得た。厚さ63μmの織布を得た。この織布を補強材とした。
次に、CF
2=CF
2とCF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2COOCH
3との共重合体で乾燥樹脂のポリマーA(イオン交換容量が0.80mg当量/g)、CF
2=CF
2とCF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2SO
2Fとの共重合体で乾燥樹脂のポリマーB(イオン交換容量が0.98mg当量/g)を作製した。
これらのポリマーA及びBを使用し、共押出しTダイ法にて、2層複合フィルムXを作製した。フィルムXは、ポリマーA層の厚みが13μm、ポリマーB層の厚みが74μmであるものとした。
また別途、CF
2=CF
2とCF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2SO
2Fとの共重合体で単層押出して乾燥樹脂のポリマーCを作製した(イオン交換容量が1.05mg当量/g)。このポリマーCを単層押し出ししてフィルムYを作製した。フィルムYの厚みは20μmとした。
続いて、内部に加熱源及び真空源を有し、その表面に微細孔を有するドラム上に、離型紙、フィルムY、補強材及び複合フィルムXの順に積層し、ドラム温度225℃、減圧度0.067MPaの条件で2分間加熱減圧した後、離型紙を取り除くことで複合膜を得た。
得られた複合膜を、90℃のジメチルスルホキシド(DMSO)30質量%、水酸化カリウム(KOH)15質量%を含む水溶液に1時間浸漬することでケン化した後に、90℃の0.5NのNaOHに1時間浸漬して、イオン交換基の対イオンをNaに置換し、続いて水洗した。さらに60℃で乾燥した。
さらに、ポリマーCをケン化した後に、塩酸で酸型にしたポリマーの5質量%の水/エタノール(50v%/50v%)溶液に、平均粒径0.04μmの酸化ジルコニウムを20質量%加え、分散させた懸濁液を調合し、懸濁液スプレー法で、上記の複合膜の両面に噴霧し、0.35mg/cm
2の酸化ジルコニウムのコーティングを複合膜の表面に形成させ、陽イオン交換膜を得た。
得られた陽イオン交換膜の、折り曲げ耐性は96.5%であり非常に高い結果であった。
次に弾性率の測定を行った。各層の100μmの単層フィルムを加水分解する条件は、以下の通りである。
・90℃のジメチルスルホキシド(DMSO)30質量%、水酸化カリウム(KOH)15質量%を含む水溶液に1時間浸漬した。
・90℃の0.5NのNaOHに1時間浸漬して、イオン交換基の対イオンをNaに置換し、続いて水洗した。
引張試験器(TENSILON RTC−1210)を用いて、これら単層膜の弾性率を測定したところ、イオン交換容量が0.80mg当量/gである乾燥樹脂のポリマーAからなる単層膜の弾性率は1519kgf/cm
2、イオン交換容量が0.98mg当量/gである乾燥樹脂のポリマーBからなる単層膜の弾性率は698kgf/cm
2、イオン交換容量が1.05mg当量/gである乾燥樹脂のポリマーCからなる単層膜の弾性率は674kgf/cm
2であった。
これらの弾性率と各層の厚みから求められた中立軸の第二層側の膜表面からの距離は59μmであった。
【0073】
〔実施例2〕
CF
2=CF
2とCF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2COOCH
3との共重合体で乾燥樹脂のポリマーA(イオン交換容量が0.92mg当量/g)、実施例1と同じポリマーBを作製した。これらのポリマーA及びBを使用し、共押出しTダイ法にて、ポリマーA層の厚みが25μm、ポリマーB層の厚みが74μmである、2層複合フィルムXを得た。
また別途、実施例1と同じフィルムYを得た。
続いて、実施例1と同様にして、複合膜を得た。
得られた複合膜を、75℃のジメチルスルホキシド(DMSO)30質量%、水酸化カリウム(KOH)15質量%を含む水溶液に1時間浸漬することでケン化した後に、90℃の0.5NのNaOHに1時間浸漬して、イオン交換基のついイオンをNaに置換し、続いて水洗した。さらに60℃で乾燥した。
さらに、実施例1と同様にして、酸化ジルコニウムのコーティングを複合膜の表面に形成させ、陽イオン交換膜を得た。
得られた陽イオン交換膜の折り曲げ耐性は、93.5%であり非常に高い結果であった。
次に弾性率の測定を行った。各層の100μmの単層フィルムを加水分解する条件は、以下の通りである。
・75℃のジメチルスルホキシド(DMSO)30質量%、水酸化カリウム(KOH)15質量%を含む水溶液に1時間浸漬した。
・90℃の0.5NのNaOHに1時間浸漬して、イオン交換基のついイオンをNaに置換し、続いて水洗した。
引張試験器(TENSILON RTC−1210)を用いて、これら単層膜の弾性率を測定したところ、イオン交換容量が0.92mg当量/gである乾燥樹脂のポリマーAからなる単層膜の弾性率は1131kgf/cm
2、イオン交換容量が0.98mg当量/gである乾燥樹脂のポリマーBからなる単層膜の弾性率は789kgf/cm
2、イオン交換容量が1.05mg当量/gである乾燥樹脂のポリマーCの単層膜の弾性率は701kgf/cm
2であった。
これらの弾性率と各層の厚みから求められた中立軸の第二層側の膜表面からの距離は65μmであった。
【0074】
〔実施例3〕
強化芯材として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製であり、100デニールのテープヤーンに900回/mの撚りを掛けて糸状にしたものを用いた(以下、PTFE糸という。)。経糸の犠牲糸として、35デニール、8フィラメントのポリエチレンテレフタレート(PET)を200回/mの撚りを掛けた糸を用いた(以下、PET糸という。)。また緯糸の犠牲糸として、35デニール、8フィラメントのポリエチレンテレフタレート(PET)を200回/mの撚りを掛けた糸を用いた。まず、PTFE糸が24本/インチ、犠牲糸が隣接するPTFE糸間に2本配置するように平織りして織布を得た。この織布を補強材とした。
実施例2と同じポリマーA、実施例1と同じポリマーBを用いた。これらのポリマーA及びBを使用し、共押出しTダイ法にて、ポリマーA層の厚みが25μm、ポリマーB層の厚みが74μmである、2層複合フィルムXを得た。
また別途、実施例1と同じフィルムYを得た。
続いて、実施例1と同様にして、複合膜を作製した。
得られた複合膜を、80℃のジメチルスルホキシド(DMSO)30質量%、水酸化カリウム(KOH)15質量%を含む水溶液に1時間浸漬することでケン化した後に、90℃の0.5NのNaOHに1時間浸漬して、イオン交換基のついイオンをNaに置換し、続いて水洗した。さらに60℃で乾燥した。
さらに、実施例1と同様にして、酸化ジルコニウムのコーティングを複合膜の表面に形成させ、陽イオン交換膜を得た。
得られた陽イオン交換膜の折り曲げ耐性は、100%であり非常に高い結果であった。
次に弾性率の測定を行った。
各層の100μmの単層フィルムを加水分解する条件は、以下の通りである。
・80℃のジメチルスルホキシド(DMSO)30質量%、水酸化カリウム(KOH)15質量%を含む水溶液に1時間浸漬した。
・90℃の0.5NのNaOHに1時間浸漬して、イオン交換基のついイオンをNaに置換し、続いて水洗した。
引張試験器(TENSILON RTC−1210)を用いて、これら単層膜の弾性率を測定したところ、イオン交換容量が0.92mg当量/gである乾燥樹脂のポリマーAからなる単層膜の弾性率は1101kgf/cm
2、イオン交換容量が0.98mg当量/gである乾燥樹脂のポリマーBからなる単層膜の弾性率は764kgf/cm
2、イオン交換容量が1.05mg当量/gである乾燥樹脂のポリマーCからなる単層膜の弾性率は676kgf/cm
2であった。
これらの弾性率と各層の厚みから求められた中立軸の第二層側の膜表面からの距離は65μmであった。
【0075】
〔実施例4〕
実施例3と同様にして、強化芯材と犠牲糸を用いて織布を得、この織布を補強材とした。
CF
2=CF
2とCF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2COOCH
3との共重合体で乾燥樹脂のポリマーA(イオン交換容量が0.84mg当量/g)、実施例1と同じポリマーBを作製した。
これらのポリマーA及びBを使用し、共押出しTダイ法にて、ポリマーA層の厚みが18μm、ポリマーB層の厚みが74μmである、2層複合フィルムXを得た。
また別途、実施例1と同じフィルムYを得た。
続いて、フィルムX、フィルムY、補強材を用いて、実施例1と同様にして、複合膜を得た。
得られた複合膜を、80℃のジメチルスルホキシド(DMSO)30質量%、水酸化カリウム(KOH)15質量%を含む水溶液に1時間浸漬することでケン化した後に、90℃の0.5NのNaOHに1時間浸漬して、イオン交換基のついイオンをNaに置換し、続いて水洗した。さらに60℃で乾燥した。
さらに、実施例1と同様にして、酸化ジルコニウムのコーティングを複合膜の表面に形成させ、陽イオン交換膜を得た。
得られた陽イオン交換膜の折り曲げ耐性は、100%であり非常に高い結果であった。
次に弾性率の測定を行った。各層の100μmの単層フィルムを加水分解する条件は、以下の通りである。
・80℃のジメチルスルホキシド(DMSO)30wt%、水酸化カリウム(KOH)15wt%を含む水溶液に1時間浸漬した。
・90℃の0.5NのNaOHに1時間浸漬して、イオン交換基のついイオンをNaに置換し、続いて水洗した。
引張試験器(TENSILON RTC−1210)を用いて、これら単層膜の弾性率を測定したところ、イオン交換容量が0.84mg当量/gである乾燥樹脂のポリマーAからなる単層膜の弾性率は1388kgf/cm
2、イオン交換容量が0.98mg当量/gである乾燥樹脂のポリマーBからなる単層膜の弾性率は764kgf/cm
2、イオン交換容量が1.05mg当量/gである乾燥樹脂のポリマーCからなる単層膜の弾性率は676kgf/cm
2であった。
これらの弾性率と各層の厚みから求められた中立軸の第二層側の膜表面からの距離は62μmであった。
【0076】
〔実施例5〕
実施例3と同様にして、強化芯材と犠牲糸を用いて織布を得、この織布を補強材とした。
実施例4と同じポリマーA、CF
2=CF
2とCF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2SO
2Fとの共重合体で乾燥樹脂のポリマーB(イオン交換容量が1.01mg当量/g)を作製した。
これらのポリマーA及びBを使用し、共押出しTダイ法にて、ポリマーA層の厚みが15μm、ポリマーB層の厚みが74μmである、2層複合フィルムXを得た。
また別途、実施例1と同じフィルムYを得た。
続いて、フィルムX、フィルムY、補強材を用いて、実施例1と同様にして複合膜を得た。
得られた複合膜を、85℃のジメチルスルホキシド(DMSO)30質量%、水酸化カリウム(KOH)15質量%を含む水溶液に1時間浸漬することでケン化した後に、90℃の0.5NのNaOHに1時間浸漬して、イオン交換基のついイオンをNaに置換し、続いて水洗した。さらに60℃で乾燥した。
さらに、イオン交換容量が1.05mg当量/gのポリマーCをケン化した後に、塩酸で酸型にしたポリマーの5質量%の水/エタノール(50v%/50v%)溶液に、平均粒径1.0μmの酸化ジルコニウムを20質量%加え、分散させた懸濁液を調合した。懸濁液をスプレー法で、膜の両面に噴霧し、0.50mg/cm
2の酸化ジルコニウムのコーティングを膜表面に形成させ、陽イオン交換膜を得た。
得られた膜の折り曲げ耐性は、折り曲げ耐性は、100%であり非常に高い値であった。
次に弾性率の測定を行った。各層の100μmの単層フィルムを加水分解する条件は、以下の通りである。
・85℃のジメチルスルホキシド(DMSO)30質量%、水酸化カリウム(KOH)15質量%を含む水溶液に1時間浸漬した。
・90℃の0.5NのNaOHに1時間浸漬して、イオン交換基のついイオンをNaに置換し、続いて水洗した。
引張試験器(TENSILON RTC−1210)を用いて、これら単層膜の弾性率を測定したところ、イオン交換容量が0.84mg当量/gである乾燥樹脂のポリマーAからなる単層膜の弾性率は1358kgf/cm
2、イオン交換容量が1.01mg当量/gである乾燥樹脂のポリマーBからなる単層膜の弾性率は689kgf/cm
2、イオン交換容量が1.05mg当量/gである乾燥樹脂のポリマーCからなる単層膜の弾性率は651kgf/cm
2であった。
これらの弾性率と各層の厚みから求められた中立軸の第二層側の膜表面からの距離は62μmであった。
【0077】
〔比較例1〕
実施例3と同様にして、強化芯材と犠牲糸を用いて織布を得、この織布を補強材とした。
実施例2と同じポリマーA、CF
2=CF
2とCF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2SO
2Fとの共重合体で乾燥樹脂のポリマーB(イオン交換容量が1.10mg当量/g)を作製した。
これらのポリマーA及びBを使用し、共押出しTダイ法にて、ポリマーA層の厚みが25μm、ポリマーB層の厚みが89μmである、2層複合フィルムXを得た。
また別途、CF
2=CF
2とCF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2SO
2Fとの共重合体で乾燥樹脂のポリマーC(イオン交換容量が1.10mg当量/g)を作製した。このポリマーCを単層押出して20μmのフィルムYを得た。
続いて、フィルムX、フィルムY、補強材を用いて、実施例1と同様にして、複合膜を得た。
得られた複合膜を、70℃のジメチルスルホキシド(DMSO)5質量%、水酸化カリウム(KOH)30質量%を含む水溶液に1時間浸漬することでケン化した後に、70℃の0.5NのNaOHに1時間浸漬して、イオン交換基のついイオンをNaに置換し、続いて水洗した。さらに60℃で乾燥した。
さらに、実施例1と同様にして、酸化ジルコニウムのコーティングを複合膜の表面に形成させ、陽イオン交換膜を得た。
得られた陽イオン交換膜の、折り曲げ耐性は、23.5%と低い結果であった。
次に弾性率の測定を行った。各層の100μmの単層フィルムを加水分解する条件は、以下の通りである。
・70℃のジメチルスルホキシド(DMSO)5質量%、水酸化カリウム(KOH)30質量%を含む水溶液に1時間浸漬した。
・70℃の0.5NのNaOHに1時間浸漬して、イオン交換基のついイオンをNaに置換し、続いて水洗した。
引張試験器(TENSILON RTC−1210)を用いてこれら単層膜の弾性率を測定したところ、イオン交換容量が0.92mg当量/gである乾燥樹脂のポリマーAからなる単層膜の弾性率は1615kgf/cm
2、フィルムXとフィルムYに用いたイオン交換容量が1.10mg当量/gである乾燥樹脂のポリマーB及びCからなる単層膜の弾性率は1020kgf/cm
2であった。
これらの弾性率と各層の厚みから求められた中立軸の第二層側の膜表面からの距離は73μmであった。
【0078】
〔比較例2〕
実施例3と同様にして、強化芯材と犠牲糸を用いて織布を得、この織布を補強材とした。
実施例4と同じポリマーA、CF
2=CF
2とCF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2SO
2Fとの共重合体で乾燥樹脂のポリマーB(イオン交換容量が1.05mg当量/g)を作製した。
これらのポリマーA及びBを使用し、共押出しTダイ法にて、ポリマーA層の厚みが20μm、ポリマーB層の厚みが86μmである、2層複合フィルムXを得た。
また別途、比較例1と同じフィルムYを得た。
続いて、フィルムX、フィルムY、補強材を用いて、実施例1と同様にして、複合膜を得た。
得られた複合膜を、75℃のジメチルスルホキシド(DMSO)30質量%、水酸化カリウム(KOH)15質量%を含む水溶液に1時間浸漬することでケン化した後に、90℃の0.5NのNaOHに1時間浸漬して、イオン交換基の対イオンをNaに置換し、続いて水洗した。さらに60℃で乾燥した。
さらに、実施例1と同様にして、酸化ジルコニウムのコーティングを複合膜の表面に形成させ、陽イオン交換膜を得た。
得られた陽イオン交換膜の、折り曲げ耐性は、35.4%と低い結果であった。
次に弾性率の測定を行った。各層の100μmの単層フィルムを加水分解する条件は、以下の通りである。
・80℃のジメチルスルホキシド(DMSO)30質量%、水酸化カリウム(KOH)15質量%を含む水溶液に1時間浸漬した。
・75℃の0.5NのNaOHに1時間浸漬して、イオン交換基のついイオンをNaに置換し、続いて水洗した。
引張試験器(TENSILON RTC−1210)を用いて、これら単層膜の弾性率を測定したところ、イオン交換容量が0.84mg当量/gである乾燥樹脂のポリマーAからなる単層膜の弾性率は1419kgf/cm
2、イオン交換容量が1.05mg当量/gである乾燥樹脂のポリマーBからなる単層膜の弾性率は701kgf/cm
2、イオン交換容量が1.10mg当量/gである乾燥樹脂のポリマーCの単層膜の弾性率は656kgf/cm
2であった。
これらの弾性率と各層の厚みから求められた中立軸の第二層側の膜表面からの距離は72μmであった。
【0079】
〔比較例3〕
実施例3と同様にして、強化芯材と犠牲糸を用いて織布を得、この織布を補強材とした。
実施例4と同じポリマーA、CF
2=CF
2とCF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2SO
2Fとの共重合体で乾燥樹脂のポリマーB(イオン交換容量が1.05mg当量/g)を作製した。
これらのポリマーA及びBを使用し、共押出しTダイ法にて、ポリマーA層の厚みが30μm、ポリマーB層の厚みが76μmである、2層複合フィルムXを得た。
また別途、比較例1と同じフィルムYを得た。
続いて、フィルムX、フィルムY、補強材を用いて、実施例1と同様にして、複合膜を得た。
得られた複合膜を、75℃のジメチルスルホキシド(DMSO)30wt%、水酸化カリウム(KOH)15質量%を含む水溶液に1時間浸漬することでケン化した後に、90℃の0.5NのNaOHに1時間浸漬して、イオン交換基のついイオンをNaに置換し、続いて水洗した。さらに60℃で乾燥した。
さらに、実施例1と同様にして、酸化ジルコニウムのコーティングを複合膜の表面に形成させ、陽イオン交換膜を得た。
得られた陽イオン交換膜の、折り曲げ耐性は、22.2%と低い結果であった。
次に弾性率の測定を行った。各層の100μmの単層フィルムを加水分解する条件は、以下の通りである。
・80℃のジメチルスルホキシド(DMSO)30質量%、水酸化カリウム(KOH)15質量%を含む水溶液に1時間浸漬した。
・75℃の0.5NのNaOHに1時間浸漬して、イオン交換基のついイオンをNaに置換し、続いて水洗した。
これら単層膜の弾性率を引張試験器により測定したところ、イオン交換容量が0.84mg当量/gである乾燥樹脂のポリマーAからなる単層膜の弾性率は1419kgf/cm
2、イオン交換容量が1.05mg当量/gである乾燥樹脂のポリマーBからなる単層膜の弾性率は701kgf/cm
2、フィルムYで用いたイオン交換容量が1.10mg当量/gである乾燥樹脂のポリマーCの単層膜の弾性率は656kgf/cm
2であった。
これらの弾性率と各層の厚みから求められた中立軸の第二層側の膜表面からの距離は74μmであった。
【0080】
実施例1〜5及び比較例1〜3の結果において、距離X(中立軸の第二層側の膜表面からの距離)と、折り曲げ耐性評価の結果のグラフを
図8に示す。
図8に示すように、距離Xが70μmを超える比較例1〜3においては折り曲げ耐性が極めて低いが、距離Xが70μm以下である実施例1〜5では、折り曲げ耐性が極めて高いことが分かった。
すなわち、陽イオン交換膜の中立軸から第二層の膜表面までの距離が5〜70μmとしたことにより、折り曲げ等に対する機械的強度に優れた陽イオン交換膜が得られることが分かった。