特許第5793448号(P5793448)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5793448
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】光学機能シート用ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20150928BHJP
   B29C 55/02 20060101ALI20150928BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20150928BHJP
   B29K 67/00 20060101ALN20150928BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20150928BHJP
【FI】
   C08J5/18CFD
   B29C55/02
   G02B1/04
   B29K67:00
   B29L7:00
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-39435(P2012-39435)
(22)【出願日】2012年2月25日
(65)【公開番号】特開2013-173853(P2013-173853A)
(43)【公開日】2013年9月5日
【審査請求日】2014年12月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006172
【氏名又は名称】三菱樹脂株式会社
(72)【発明者】
【氏名】新庄 加苗
【審査官】 岸 進
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−161924(JP,A)
【文献】 特開2007−161937(JP,A)
【文献】 特開昭57−082018(JP,A)
【文献】 特開平05−169015(JP,A)
【文献】 特開2009−280645(JP,A)
【文献】 特開2009−282146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00− 5/02
C08J 5/12− 5/22
C08J 7/04− 7/06
B29C55/00−55/30
B29C61/00−61/10
G02B 1/04
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
95℃におけるフィルム長手方向の収縮応力が0MPaより大きく、かつ、100℃におけるフィルム長手方向の収縮応力が0.3〜1.5MPaの範囲であることを特徴とする光学機能シート用ポリエステルフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学機能シート用として好適に用いられる光学用ポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、急激に数量が伸びている液晶ディスプレイ装置は、光源からの光を視認側に集光し、かつ均一な面光源とする役割を果すバックライトユニットと、印加電圧を表示画素毎に調整し赤・緑・青の光を制御された光量表示させる液晶セル層ユニットの大きく分けて2つのユニットによって構成されている。
【0003】
このうち、バックライトユニットは赤・緑・青の波長領域に発光特性を有する蛍光体を用いた冷陰極管や、LEDと言った光源を視認側から見て側面に配置し、光を視認側に効率よく導く役割を有する導光板、視認側に導かれた光をディスプレイ面内に均一に分散する拡散フィルム、ディスプレイの側面側に向いている光を視認側に集光し、ディスプレイの輝度を向上させるプリズムフィルム、また、拡散、集光機能を1枚に集約した複合フィルム等によって構成される。
【0004】
一般的な液晶ディスプレイでは、導光板の上に通常、下拡散フィルムと呼称される拡散フィルムを1枚配置し、その上に2枚のプリズムフィルムをそれぞれ集光方向が縦横方向および左右方向となるよう配置し、さらにその上に通常、上拡散フィルムと呼称される拡散フィルムを1枚配置することでバックライトユニットが構成されている。
【0005】
このうち集光機能を有する、プリズムフィルムや複合フィルムの製造方法には、一般的に、ポリエステルフィルム等の透明シート状基材の上に活性エネルギー線硬化性組成物によりプリズム、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ等のレンズ層等の光学樹脂層を形成する方法が広く用いられている(特許文献1など)。また、特許文献2には、活性エネルギー線硬化性組成物と連続透明シート(例えば、PETシート、ポリカーボネートシート)を用い、これを円筒金型で賦形し、硬化することにより、連続的に光学シートを生産する方法が開示されている。
【0006】
しかし、活性エネルギー線硬化性組成物を硬化させる際に、透明シート用基材と光学樹脂層の間に応力歪みが発生し、できあがった光学フィルムがたわんだり、カールしたりして平面性が悪くなり、ディスプレイに組み上げたときに、全面に均一な明るさが得られないことが問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平1−35737号公報
【特許文献2】特開平5−169015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その解決課題は、高度な光学特性を持ち、かつ、レンズ層賦形後のフィルムの平面性を保つことができる光学フィルム用ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、特定の構成を有するポリエステルフィルムによれば、優れたフィルム特性を損なうことなく、光学フィルム用ポリエステルフィルムに特に好適であるポリエステルフィルムを提供できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は、95℃におけるフィルム長手方向の収縮応力が0MPaより大きく、かつ、100℃におけるフィルム長手方向の収縮応力が0.3〜1.5MPaの範囲であることを特徴とする光学機能シート用ポリエステルフィルムに存する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高度な光学特性を持ち、かつ、レンズ層賦形後のフィルムの平面性を保つことができる光学フィルム用ポリエステルフィルムを提供することができ、その工業的価値は高い。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で言うポリエステルフィルムとは、押出口金から溶融押出される、いわゆる押出法により押出した溶融ポリエステルシートを冷却した後、必要に応じ、延伸、熱処理を施したフィルムである。
【0013】
本発明のフィルムを構成するポリエステルとは、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られるものである。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。代表的なポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(PEN)等が例示される。また、用いるポリエステルは、ホモポリエステルであっても共重合ポリエステルであってもよい。共重合ポリエステルの場合は、30モル%以下の第三成分を含有した共重合体であればよい。
かかる共重合ポリエステルのジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸およびオキシカルボン酸(例えば、P−オキシ安息香酸など)等から選ばれる一種または二種以上が挙げられ、グリコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等から選ばれる一種または二種以上が挙げられる。
【0014】
本発明におけるポリエステルは、従来公知の方法で、例えばジカルボン酸とジオールの反応で直接低重合度ポリエステルを得る方法や、ジカルボン酸の低級アルキルエステルとジオールとを従来公知のエステル交換触媒で反応させた後、重合触媒の存在下で重合反応を行う方法で得ることができる。重合触媒としては、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物等公知の触媒を使用してよいが、好ましくはアンチモン化合物の量を零またはアンチモンとして100ppm以下にすることによりフィルムのくすみを低減したものが好ましい。
【0015】
なお、本発明で用いるポリエステルは、溶融重合後これをチップ化し、加熱減圧下または窒素等不活性気流中に必要に応じてさらに固相重合を施してもよい。得られるポリエステルの固有粘度は0.40dl/g以上であることが好ましく、0.40〜0.90dl/gであることが好ましい。
【0016】
本発明で得られるポリエステルフィルムには、本発明の要旨を損なわない範囲で、耐候剤、耐光剤、帯電防止剤、潤滑剤、遮光剤、抗酸化剤、蛍光増白剤、マット化剤、熱安定剤、および染料、顔料などの着色剤などを配合してもよい。
【0017】
本発明のポリエステルフィルムは、95℃におけるフィルム長手方向の収縮応力が0MPaより大きく、かつ、100℃におけるフィルム長手方向の収縮応力が0.3〜1.5MPaの範囲である必要がある。95℃におけるフィルム長手方向の収縮応力が0MPa、もしくは100℃におけるフィルム長手方向の収縮応力が0.3MPa未満、もしくは100℃におけるフィルム長手方向の収縮応力が1.5MPaを超えると、光学樹脂層を硬化させる際に基材となるポリエステルフィルムとの間に応力歪みが発生し、できあがりの光学フィルムの平面性が悪くなる。
【0018】
本発明のフィルムの総厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲で有れば特に限定されるものではないが、通常4〜500μm、好ましくは25〜350μmの範囲である。
【0019】
次に本発明のフィルムの製造方法に関して具体的に説明するが、本発明の要旨を満足する限り、本発明は以下の例示に特に限定されるものではない。
【0020】
まず、本発明で使用するポリエステルの製造方法の好ましい例について説明する。ここではポリエステルとしてポリエチレンテレフタレートを用いた例を示すが、使用するポリエステルにより製造条件は異なる。常法に従って、テレフタル酸とエチレングリコールからエステル化し、または、テレフタル酸ジメチルとエチレングリコールをエステル交換反応を行い、その生成物を重合槽に移送し、減圧しながら温度を上昇させ、最終的に真空下で280℃に加熱して重合反応を進め、ポリエステルを得る。
【0021】
例えば上記のようにして得、公知の手法により乾燥したポリエステルチップを共押出法により、溶融押出装置に供給し、それぞれのポリマーの融点以上である温度に加熱し溶融する。次いで、溶融したポリマーをダイから押出し、回転冷却ドラム上でガラス転移温度以下の温度になるように急冷固化し、実質的に非晶状態の未配向シートを得る。この場合、シートの平面性を向上させるため、シートと回転冷却ドラムとの密着性を高めることが好ましく、本発明においては静電印加密着法および/または液体塗布密着法が好ましく採用される。本発明においては、このようにして得られたシートを2軸方向に延伸してフィルム化する。延伸条件について具体的に述べると、前記未延伸シートを好ましくは縦方向に70〜145℃で2〜6倍に延伸し、縦1軸延伸フィルムとした後、横方向に90〜160℃で2〜6倍延伸を行い、150〜240℃で1〜600秒間熱処理を行うことが好ましい。さらにこの際、熱処理の最高温度ゾーンおよび/または熱処理出口のクーリングゾーンにおいて、縦方向および/または横方向に0.1〜20%弛緩する方法が好ましい。また、必要に応じて再縦延伸、再横延伸を付加することも可能である。さらに、前記の未延伸シートを面積倍率が10〜40倍になるように同時二軸延伸を行うことも可能である。
【0022】
本発明のポリエステルフィルムは、本発明の効果を損なわない範囲であれば、コーティング層や、プリズム・拡散・レンズ層等の光学機能層と、ポリエステルフィルムとの密着性を高めるために、アンカーコート層を設けることもできる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例中「部」とあるのは「重量部」を示す。また、本発明で用いた測定法は次のとおりである。
【0024】
(1)ポリエステルの極限粘度の測定
ポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒100mlを加えて溶解させ、30℃で測定した。
【0025】
(2)平均粒径
島津製作所製遠心沈降式粒度分布測定装置(SA−CP3型)を用いて測定した等価球形分布における積算体積分率50%の粒径を平均粒径とした。
【0026】
(3)フィルム長手方向の収縮応力
インテスコ(株)製微少定荷重伸び試験機を用いて、所定温度における長手方向の収縮応力を測定した。但し、サンプルサイズは幅10mmで、チャック間距離(長手方向)は200mmとし、初期荷重は室温下で0.13MPaをかけ、昇温速度は4℃/分とした。
【0027】
(4)フィルムヘーズおよび全光線透過率
JIS−K7105に準じ、日本電色工業社製積分球式濁度計NDH−20Dにより、フィルムのヘーズ、および、全光線透過率を測定した。
【0028】
(5)レンズ層加工後のカール高さ
ポリエステルフィルムの片側表面に円筒金型を用いてレンズ層を賦形し、レンズ層加工後のフィルムを、300mm角に打ち抜く。続いて、打ち抜いた加工後のフィルムのレンズ層を上にして平滑なガラス板の上に静置し、四隅のフィルムの浮きを、JIS一級に準拠した隙間ゲージ、または定規で測定し、最大値をレンズ層加工後のカール高さとした。
【0029】
(6)レンズ層加工後のフィルム外観
(5)で得られた、300mm角に打ち抜いたレンズ層加工後のフィルムを、バックライトユニットの導光板の上に置いて点灯状態とし30分後のフィルム外観を、下記の基準で判定した。
○:フィルム全体のたわみやうねりがなく、導光板からの浮きがない状態
×:フィルム全体のたわみ、または、うねりがあり、導光板からの浮きがある状態
上記判定基準中、○のものが実使用上問題なく使用できるレベルである。
【0030】
実施例および比較例で用いた原料は以下のようにして準備した。
<ポリエステル(a)の製造方法>
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし、触媒として酢酸マグネシウム・四水塩0.09重量部を反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応混合物にエチルアシッドフォスフェート0.04部を添加した後、三酸化アンチモン0.03部を加えて、4時間重縮合反応を行った。すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度0.65に相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させた。得られたポリエステル(a)の極限粘度は0.65であった。
【0031】
<ポリエステル(b)の製造方法>
ポリエステル(a)の製造方法において、エチルアシッドフォスフェート0.04部を添加後、エチレングリコールに分散させた平均粒径3μmの不定形シリカ粒子を0.3部、三酸化アンチモン0.03部を加えて、ポリエステル(a)の製造方法と同様の方法を用いてポリエステル(b)を得た。得られたポリエステル(b)は、極限粘度0.63であった。
【0032】
<水性塗布剤の調整>
水性塗布剤は下記I、II、III、IVの化合物を各々47/20/30/3の重量比で混合した混合物である。
I:テレフタル酸/イソフタル酸/5−ソジウムスルホイソフタル酸/エチレングリコール/1.4−ブタンジオール/ジエチレングリコールを各々28/20/2/35/10/5のモル比で反応させたポリエステル水分散体。
ii:メチルメタクリレート/エチルアクリレート/アクリロニトリル/N−メチロールメタアクリルアミドを各々45/45/5/5のモル比で重合された重合物水分散体(乳化剤:アニオン系界面活性剤)
III:メラミン系架橋剤(ヘキサメトキシメチルメラミン)
IV:平均粒径0.06μmの酸化ケイ素の水分散体
【0033】
実施例1〜3、比較例1、2:
前述のポリエステル(a)をA層、ポリエステル(a)および(b)を85:15でブレンドしたものをB層の原料として、2台のベント式二軸押出機に各々を供給し、それぞれ285℃で溶融し、A層を最外層とする、2種3層(A/B/A)の層構成で共押出して口金から押出し静電印加密着法を用いて表面温度を40℃に設定した冷却ロール上で冷却固化して未延伸シートを得た。次いで、ロール周速差を利用して縦方向に延伸した後、水性塗布剤を塗布した後テンターに導き、横方向に延伸し、230℃で熱処理を行った後、横方向に7%弛緩し、厚さ75μmの積層ポリエステルフィルムを得た。延伸条件、および結果を表1に示す。
【0034】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のフィルムは、例えば、光学用ポリエステルフィルムに好適に利用することができる。