【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 一般社団法人日本鉄道技術協会日本鉄道サイバネティクス協議会、「第48回鉄道サイバネ・シンポジウム」論文集(CD−ROM)、2011年11月1日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
行違い駅の上下それぞれの場内閉そく区間が場内信号機から出発信号機間として定義された単線における各閉そく区間の閉そく状態を記憶部に随時設定更新することで管理する閉そく管理システムであって、
確保に支障のある閉そく区間同士が設定された支障区間設定情報を参照して、列車の進行予定の閉そく区間及び当該閉そく区間に支障のある閉そく区間が解除状態であるかを判定し、肯定判定の場合に当該進行予定の閉そく区間を確保状態とすることで当該進行予定の閉そく区間を確保する確保手段と、
閉そく区間からの列車の進出が検出された場合に、当該閉そく区間を解除状態とする解除手段と、
行違い駅の場内閉そく区間への列車の到着が検出された場合に、当該場内閉そく区間の閉そく状態を、同方向列車による確保を禁止し、対向列車による確保を許可する仮解除状態とする仮解除手段と、
を備え、
前記確保手段は、
前記進行予定の閉そく区間に支障のある閉そく区間が対向方向の閉そく区間であり、且つ、仮解除状態である場合に、当該支障のある閉そく区間を解除状態とみなす手段と、
前記進行予定の閉そく区間に支障のある閉そく区間が同方向の閉そく区間であり、且つ、仮解除状態である場合に、当該支障のある閉そく区間を確保状態とみなす手段と、
を有する、
閉そく管理システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
単線では、上り方向の列車と下り方向の列車とのすれ違い(上下交換)のために行き違い駅が設置される。場内信号機から出発信号機までを閉そく区間として定義すると、この行違い駅では、上下列車の交換の際に問題が生じ得た。つまり、駅に到着している上下方向の列車それぞれは、出発にあたって、進路方向の閉そく区間の閉そくを確保する必要があるが、この進路方向の閉そく区間は、対向列車が在線している場内閉そく区間と競合しているために閉そくを確保できない。そのため、上下方向それぞれで閉そくが確保できない、いわゆるデッドロックの状態になり得た。
【0005】
また、単線では、列車制御システム全体の低廉化のために、各閉そく区間の在線状況を、各閉そく区間の確保/解除にそのまま利用する形態が考えられる。しかし、非在線の閉そく区間だからといって、必ずしも当該区間の閉そく確保が可能となる訳ではない。直前に閉そくを確保した対向列車が進行する可能性が有るからである。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、単線における上下方向の列車に考慮したシステムを実現可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための第1の形態は、
行違い駅の上下それぞれの場内閉そく区間が場内信号機から出発信号機間として定義された単線における各閉そく区間の閉そく状態を記憶部に随時設定更新することで管理する閉そく管理システム(例えば、
図1,
図8の中央管理装置10)であって、
確保に支障のある閉そく区間同士が設定された支障区間設定情報(例えば、
図13の支障区間組み合わせ情報123)を参照して、列車の進行予定の閉そく区間及び当該閉そく区間に支障のある閉そく区間が解除状態であるかを判定し、肯定判定の場合に当該進行予定の閉そく区間を確保状態とすることで当該進行予定の閉そく区間を確保する確保手段(例えば、
図8の閉そく管理部112)と、
閉そく区間からの列車の進出が検出された場合に、当該閉そく区間を解除状態とする解除手段(例えば、
図8の閉そく管理部112)と、
行違い駅の場内閉そく区間への列車の到着が検出された場合に、当該場内閉そく区間の閉そく状態を、同方向列車による確保を禁止し、対向列車による確保を許可する仮解除状態とする仮解除手段(例えば、
図8の閉そく管理部112)と、
を備え、
前記確保手段は、
前記進行予定の閉そく区間に支障のある閉そく区間が対向方向の閉そく区間であり、且つ、仮解除状態である場合に、当該支障のある閉そく区間を解除状態とみなす手段と、
前記進行予定の閉そく区間に支障のある閉そく区間が同方向の閉そく区間であり、且つ、仮解除状態である場合に、当該支障のある閉そく区間を確保状態とみなす手段と、
を有する、
閉そく管理システムである。
【0008】
また、他の形態として、
行違い駅の上下それぞれの場内閉そく区間が場内信号機から出発信号機間として定義された単線における各閉そく区間の閉そく状態を管理する閉そく管理方法(例えば、
図15の処理)であって、
確保に支障のある閉そく区間同士が設定された支障区間設定を参照して、列車の進行予定の閉そく区間及び当該閉そく区間に支障のある閉そく区間が解除状態であるかを判定し、肯定判定の場合に当該進行予定の閉そく区間を確保状態とする確保ステップ(例えば、
図15のステップD3)と、
閉そく区間からの列車の進出が検出された場合に、当該閉そく区間を解除状態とする解除ステップ(例えば、
図15のステップD25)と、
行違い駅の場内閉そく区間への列車の到着が検出された場合に、当該場内閉そく区間の閉そく状態を、同方向列車による確保を禁止し、対向列車による確保を許可する仮解除状態とする仮解除ステップ(例えば、
図15のステップD29)と、
を含み、
前記確保ステップは、
前記進行予定の閉そく区間に支障のある閉そく区間が対向方向の閉そく区間であり、且つ、仮解除状態である場合に、当該支障のある閉そく区間を解除状態とみなすステップと、
前記進行予定の閉そく区間に支障のある閉そく区間が同方向の閉そく区間であり、且つ、仮解除状態である場合に、当該支障のある閉そく区間を確保状態とみなすステップと、
を含む、
閉そく管理方法を構成しても良い。
【0009】
この第1の形態等によれば、単線の行違い駅の場内閉そく区間への列車の到着が検知された場合に、当該場内閉そく区間の閉そく状態が仮解除とされる。この仮解除状態は、同方向列車による閉そくの確保を禁止し、対向列車による閉そくの確保を許可する閉そく状態である。すなわち、行違い駅に列車が到着しているときに、場内閉そく区間の閉そくは仮解除状態となっており、列車と同方向については従来と同様に閉そくが確保されており、対向方向については閉そくが解除されているとみなすことができる。これにより、行違い駅において、上り列車と下り列車の行違い(上下交換)が可能となる。
【0010】
第2の形態は、
単線における各閉そく区間の列車の在線状況を記憶部に随時設定更新することで管理する列車在線管理システム(例えば、
図16,
図19の在線管理装置82)であって、
列車の進行予定の閉そく区間を確保し、確保した閉そく区間を列車の第1の在線情報(例えば、
図21の線区在線情報722)に基づいて解除する閉そく管理システム(例えば、
図16,
図21の閉そく管理装置70)と通信可能に構成されてなり、
前記閉そく管理システムによって確保された閉そく区間を仮在線状態に設定する仮在線設定手段(例えば、
図19の在線情報作成部811)と、
閉そく区間への列車の進入が検出された場合に、当該閉そく区間を在線状態に設定する在線設定手段(例えば、
図19の在線情報作成部811)と、
閉そく区間からの列車の進出が検出された場合に、当該閉そく区間を非在線状態に設定する非在線設定手段(例えば、
図19の在線情報作成部811)と、
前記在線状態の閉そく区間及び前記仮在線状態の閉そく区間を在線、前記非在線状態の閉そく区間を非在線として前記第1の在線情報を生成し、前記閉そく管理システムに提供する在線情報提供手段(例えば、
図19の在線情報作成部811)と、
を備えた列車在線管理システムである。
【0011】
また、他の形態として、
単線における各閉そく区間の列車の在線状況を管理する列車在線管理方法(例えば、
図24の処理)であって、
列車の進行予定の閉そく区間を確保し、確保した閉そく区間を列車の第1の在線情報に基づいて解除する閉そく管理システムによって確保された閉そく区間を仮在線状態に設定する仮在線設定ステップ(例えば、
図24のステップE3)と、
閉そく区間への列車の進入が検出された場合に、当該閉そく区間を在線状態に設定する在線設定ステップ(例えば、
図24のステップE11)と、
閉そく区間からの列車の進出が検出された場合に、当該閉そく区間を非在線状態に設定する非在線設定ステップ(例えば、
図24のステップE15)と、
前記在線状態の閉そく区間及び前記仮在線状態の閉そく区間を在線、前記非在線状態の閉そく区間を非在線として前記第1の在線情報を生成し、前記閉そく管理システムに提供する在線情報提供ステップ(例えば、
図24のステップE17)と、
を含む列車在線管理方法を構成しても良い。
【0012】
この第2の形態等によれば、単線における各閉そく区間の列車の在線状況の管理として、閉そくが確保された閉そく区間が仮在線状態に設定される。そして、この仮在線状態の閉そく区間を在線として第1の在線情報が生成され、閉そく管理システムに提供される。閉そく管理システムでは、この第1の在線情報に基づいて閉そくを解除する。仮在線は、実際には列車が存在していない状態ではあるが、閉そくが確保されている、つまり、間もなく在線となることが予測される状態である。このように、閉そくが確保された区間を在線として扱うことで、列車の位置検知に異常が発生したとしても、閉そく区間の不正解除を回避することが可能となる。
【0013】
また、第3の形態として、第2の形態の列車在線管理システムであって、
列車の第2の在線情報に基づいて信号機の現示を制御する信号制御装置(例えば、
図16の信号制御装置84)と通信可能に構成されてなり、
前記在線状態の閉そく区間を在線、前記仮在線状態の閉そく区間及び前記非在線状態の閉そく区間を非在線として前記第2の在線情報(例えば、
図19の信号制御用在線情報824)を生成し、前記信号制御装置に提供する信号制御用在線情報提供手段(例えば、
図19の在線情報作成部811)、
を更に備えた列車在線管理システムを構成しても良い。
【0014】
この第3の形態によれば、仮在線状態の閉そく区間を非在線として第2の在線情報が生成され、信号制御装置に提供される。信号制御装置では、この第2の在線情報に基づいて信号機の現示を制御する。信号機の現示の制御は、実際の在線状態に基づいて行うことが望ましいため、従来の在線状態に相当する第2の在線情報を、信号制御装置に提供することができる。
【0015】
また、第4の形態として、
第2の形態の列車在線管理システムと通信可能に構成された第1の形態の閉そく管理システムであって、
前記確保手段によって確保された閉そく区間を前記列車在線管理システムに通知する確保区間通知手段を更に備え、
前記解除手段は、前記列車在線管理システムから提供される第1の在線情報に基づいて、列車が進出した閉そく区間を検出して、当該閉そく区間を解除状態とする、
閉そく管理システムを構成しても良い。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。但し、本発明の適用可能な実施形態がこれに限定されるものではない。
【0018】
[第1実施形態:閉そく仮解除]
先ず、第1実施形態を説明する。
<全体構成>
図1は、第1実施形態における列車制御システムの構成図である。この列車制御システムは、閑散線区等の単線区間に適用されるシステムであり、中央司令所に設置された中央管理装置10と、各駅に設置された駅装置20と、列車30に搭載される車上装置40と、線路に沿って設置されたICタグ50とを備えて構成される。中央管理装置10と各駅装置20とは、インターネットや専用回線網等の所定の通信網Nを介して通信可能に接続されている。
【0019】
中央管理装置10は、線区全体の情報を中央で統括的に管理する。具体的には、駅装置20を介して車上装置40から取得した位置情報(ICタグ検知情報)をもとに、線区全体における列車の在線管理を行う。また、在線情報をもとに、車上装置40からの要求に応じて閉そく確保を行う。また、対象線区内の各駅に設置された各機器(転てつ器や信号機など)に相互関係を持たせて列車進路を鎖錠(進路構成)する集中連動制御を行う。
【0020】
駅装置20は、中央管理装置10からの制御信号に従って、駅構内に設置された転てつ器や信号機等を制御したり、これらの機器の制御状態を中央管理装置10に送信する。また、駅装置20は、設置駅に設置された無線基地局(不図示)の通信エリア内(通信圏内)に位置する車上装置40と無線通信が可能であり、この車上装置40と中央管理装置10との間の通信を仲介する。無線基地局の通信エリアは、駅構内を含むように構成されている。
【0021】
車上装置40は、無線通信機能を有しており、駅に設置された無線基地局の通信エリア内に位置している場合、該無線基地局を介した無線通信が可能である。また、車上装置40は、ICタグ50から受信した情報に基づいて自列車の位置を検出するとともに、受信したICタグ50に関する情報(ICタグ検知情報)を、駅装置20を介して中央管理装置10に送信する。また、駅装置20を介して中央管理装置10に閉そく確保を要求し、これに応答して閉そく確保が通知されると、この閉そくが確保された区間の走行制御を行う。
【0022】
ICタグ50は、レール間の枕木方向中央位置に設置され、列車が通過する際に、列車の車両下部(車体下部や台車下部であっても良い)の枕木方向中央下部に設けられたタグリーダによって、当該ICタグ50に記憶されたタグ情報(タグIDを含む)が読み取られる(受信される)ように構成されている。このICタグ50は、RFID(Radio Frequency IDentification)の一種であり、列車車両に設置されたタグリーダ440との間で、非接触式の近距離無線通信を行う小型の近距離無線通信装置である。本実施形態では、電源を内蔵せずに、電磁誘導作用を用いて外部からの電波を電力に変換して作動する、いわゆるパッシブ型のICタグ(パッシブタグ)とする。また、タグリーダは、後述のように、列車在線を判断するため、車両の先頭及び最後尾の二箇所に設けられている。
【0023】
なお、ICタグ50は、屋外に設置されるため、風雨による影響を考慮して防水構造を有する防護ケースに封入される。また、タグリーダについても同様に、軌道に敷かれるバラストの飛散などによる衝撃を受けることを想定し、防護ケースに封入される。
【0024】
<線路構成>
図2は、線路の概略構成を説明する図である。第1実施形態における線区は単線であり、各駅を行違い駅として説明する。すなわち、各駅に、上り線ホームと下り線ホームとが設けられており、駅構内で上下方向の列車の行き違いが可能となっている。各駅には、上下方向それぞれに、駅構内への列車の進入を規制する場内信号機60−1や、駅構内からの列車の進出を規制する出発信号機60−2が設置されている。また、線区全体に対して、上下方向それぞれに、列車の在線地点の検知単位である複数の閉そく区間が設定されている。具体的には、出発信号機60−2から次駅の場内信号機60−1までの区間である駅間閉そく区間と、場内信号機60−1から当該駅の出発信号機60−2までの区間である場内閉そく区間との2種類である。単線であるため、駅間閉そく区間は、上下方向で同一の区間(両端点が同一の区間)とはならない。
【0025】
また、ICタグ50は、閉そく区間を基準に設置され、その設置位置に応じて、列車の検知や列車に対する指示といった何らかの目的が割り当てられている。すなわち、各閉そく区間の始端部及び終端部には、当該閉そく区間への列車30の進入或いは進出の検知を目的としたICタグ50−1,50−2が設置されている。進入に該当するか進出に該当するかは、単線であるため、進行方向によって異なる。また、場内閉そく区間には、予め定められた所定の列車停止位置に、当該位置への列車30の到達の検知(場内到達検知)を目的としたICタグ50−3が設置されている。また、駅間閉そく区間には、場内信号機60−1の手前(外方)に、次駅への進入を要求する指示(場内進入要求指示)を目的としてICタグ50−4が設置されている。
【0026】
<進入・進出検知>
ICタグ50を用いた列車の閉そく区間の進入・進出検知について説明する。
図3は、ICタグ50による列車の進入・進出検知を説明する図である。
図3では、閉そく区間A1に在線している列車30が、次の閉そく区間A2に進入する場合を示している。
【0027】
先ず、
図3(a)に示すように、列車30の先頭に設けられているタグリーダ(先頭側タグリーダ)441によってICタグ50−2を検知すると、閉そく区間A1から進出しようとしていることを判断する。
【0028】
次いで、
図3(b)に示すように、先頭側タグリーダ441によってICタグ50−1を検知すると、閉そく区間A2への進入を判断する。これにより、閉そく区間A2は在線となる。またこのとき、先頭側タグリーダ441のICタグ50の検知順(ICタグ50−2→ICタグ50−1)によって、列車30の進行方向を判断(確認)することもできる。
【0029】
続いて、
図3(c)に示すように、列車30の最後尾に設けられているタグリーダ(最後尾側タグリーダ)442によってICタグ50−2が検知されると、閉そく区間A1を進出しようとしていることを判断する。
【0030】
そして、
図3(d)に示すように、最後尾側タグリーダ442によってICタグ50−1が検知されると、閉そく区間A1を完全に進出したと判断する。これにより、閉そく区間A1は非在線となる。
【0031】
<閉そく状態>
第1実施形態において、閉そく区間の閉そく状態は、従来の「確保」及び「解除」の2種類に加えて、「仮解除」の計3種類がある。仮解除は、場内閉そく区間のみに適用される閉そく状態である。また、この仮解除は、同方向の列車に対しては確保として扱い、対向方向の列車に対しては解除として扱う閉そく状態である。
【0032】
図4は、閉そくの仮解除を説明する図である。
図4では、上り列車30aがA駅に到着する場合を示している。
図4(a)に示すように、区間A1に在線している上り列車30aは、次の区間A2の閉そくを確保した後、区間A2に進入する。このとき、上り列車30aの区間A1の完全進出によって、区間A1の閉そくは解除される。
【0033】
そして、
図4(b)に示すように、上り列車30aがA駅の所定の停止位置に到達すると、場内閉そく区間である区間A2の閉そくが仮解除される。なお、列車の所定位置の到達は、所定のICタグ50−3の検知によって判断される。すなわち、
図4に示す例では、閉そくが仮解除された区間A2は、同一方向である上り方向の列車にとっては閉そくが確保された区間とみなし、対向方向である下り方向の列車にとっては閉そくが解除された区間とみなす。
【0034】
<閉そく確保の手順>
これらの3つの閉そく状態を用いた閉そく確保の手順の説明に先立ち、比較のため、従来の2つの閉そく状態を用いた閉そく確保の手順について説明する。
【0035】
図5は、従来の閉そく状態による閉そく確保の手順を説明する図である。
図5では、上り列車30aと下り列車30bとがA駅にてすれ違う場合を示している先ず、
図5(a)に示すように、上り列車30aがA駅に到達する。すなわち、上り列車30aは、区間A2の閉そくを確保した後、区間A2に進入する。このとき、上り列車30aが区間A1から完全に進出した時点で、区間A1の閉そくが解除される。
【0036】
その後、
図5(b)に示すように、下り列車30bがA駅に到達する。すなわち、下り列車30bは、区間B2の閉そくを確保した後、区間B2に進入する。このとき、下り列車30bが区間B3から完全に進出した時点で、区間B3の閉そくが解除される。
【0037】
続いて、上り列車30a及び下り列車30bがともにA駅を出発しようとする。すなわち、上り列車30aは、次の区間A3の閉そくを確保しようとするが、この区間A3と一部が重複している区間B2に下り列車30bが在線しているため、閉そくを確保できない。つまり、下り列車30bがA駅から出発して区間B2から完全に進出するまで、上り列車30aは区間A3の閉そくを確保できない。
【0038】
一方、下り列車30bは、次の区間B1の閉そくを確保しようとするが、この区間B1と一部が重複している区間A2に上り列車30aが在線しているため、閉そくを確保できない。つまり、上り列車30aがA駅を出発して区間A2から完全に進出するまで、下り列車30bは区間B1の閉そくを確保できない。
【0039】
すなわち、A駅に停車中の上り列車30a及び下り列車30bは、互いの在線によって次の区間の閉そくを確保できないデッドロックの状態となり、A駅から出発できない。
【0040】
この事態は、場内閉そく区間が、上りホームと下りホームとの分岐部分を含むように定義されているためである。すなわち、この分岐部分において、当該駅に進入する方向の場内閉そく区間の始端部分と、その対向方向(当該駅から進出する方向)の駅間閉そく区間の始端部分とが重複している。このため、駅に列車が停車している状態では、当該列車(在線列車)によって当該方向の場内閉そく区間の閉そくが確保されているため、当該区間と一部が重複している対向方向の閉そく区間(駅間閉そく区間)の閉そくが確保できない(閉そくの確保に支障が生じる)。
【0041】
しかし、本実施形態の駅は行き違い駅であるため、場内には対向方向の列車が同時に存在できる。つまり、双方向の場内閉そく区間同士は重複していないため、場内に対向方向の列車が停車している状態(在線)であっても、場内閉そく区間の閉そくを確保でき、駅に進入することができる。
【0042】
そして、同一の駅に双方向の列車が停車していると、互いに対向方向の列車によって次の閉そく区間(駅間閉そく区間)の閉そくが確保できず、出発することができなくなる。例えば、
図5では、上り方向の区間A2(場内閉そく区間)、及び、下り方向の区間B1(駅間閉そく区間)が、互いに支障区間となる組み合わせであり、また、上り方向の区間A3(駅間閉そく区間)、及び、下り方向の区間B2(場内閉そく区間)が、互いに支障区間となる組み合わせである。
【0043】
そこで、第1実施形態のように、場内閉そく区間について、閉そくの仮解除を追加することで、このような事態を回避できる。
図6は、第1実施形態の閉そく状態を用いた閉そく確保の手順を説明する図である。
図6では、従来の場合(
図5参照)と同様に、B駅において、上り列車30aと下り列車30bとがすれ違う場合を示している。
【0044】
図6(a)に示すように、先ず、上り列車30aがA駅に向かう。すなわち、上り列車30aは、区間A2の閉そくを確保した後、区間A2に進入してA駅に到達する。このとき、上り列車30aが区間A1から完全進出した時点で、区間A1の閉そくが解除される。また、上り列車30aがA駅に到着した時点で、区間A2の閉そくが仮解除される。
【0045】
続いて、
図6(b)に示すように、下り列車30bがA駅に向かう。すなわち、下り列車30bは、次の区間B2の閉そくを確保した後、区間B2に進入してA駅に到達する。このとき、下り列車30bが区間B3を完全に進出した時点で、区間B3の閉そくが解除される。また、下り列車30bがA駅に到着した時点で、区間B2の閉そくが仮解除される。
【0046】
その後、
図6(c)に示すように、上り列車30a、及び、下り列車30bは、ともに、A駅を出発しようとする。このとき、上り列車30aは、次の区間A3の閉そくを確保する必要がある。区間A3と重複する対向方向(下り方向)の区間B2,B3のうち、区間B2の閉そくは仮解除され、区間B3の閉そくは解除されている。従って、上り列車30aは、区間A3の閉そくを確保することができる。
【0047】
一方、下り列車30bは、次の区間B1の閉そくを確保する必要がある。区間B1と重複する対向方向(上り方向)の区間A1,A2のうち、区間A1の閉そくは解除され、区間A2の閉そくは仮解除されている。従って、下り列車30bは、区間B1の閉そくを確保することができる。
【0048】
このように、場内閉そく区間については、列車が場内の所定位置に到達している場合には、当該場内閉そく区間の閉そくを仮解除する。場内閉そく区間は、対向方向の駅間閉そく区間と重複する分岐部分と、対向方向の何れの閉そく区間とも重複しないホーム部分とからなる。列車がホーム部分にいることが確認されているならば、分岐部分には列車がいないといえる。このため、場内閉そく区間のうちの分岐部分のみの閉そくを“解除”されているとみなすことで、対向方向の列車は、この分岐部分において重複する対向方向の駅間閉そく区間の閉そくを確保することが可能となる。但し、場内閉そく区間には列車が在線しているため、同方向の列車に対しては、従来と同様に閉そくが確保されているとみなす。
【0049】
<車上装置の構成>
図7は、車上装置40の内部構成図である。車上装置40は、車上処理部410と、車上記憶部420と、無線通信部430と、タグリーダ440とを備えている。
【0050】
車上処理部410は、例えばCPU等の演算装置で実現され、車上記憶部420に記憶されたプログラムやデータ、無線通信部430やタグリーダ440を介した受信データ等に基づいて、車上装置40の全体制御を行う。第1実施形態では、車上処理部410は、ICタグ照合部411と、進入・進出判断部412と、走行制御部413とを有している。
【0051】
ICタグ照合部411は、タグリーダ440によって読み取られたタグIDをもとに、通過予定ICタグ情報423を参照して、ここまでのICタグ50の検知順序が、通過予定ICタグ情報423で定められたICタグ50の予定通過順序に一致するか否かを判断する。詳細には、先頭側タグリーダ441及び最後尾側タグリーダ442それぞれについて、ICタグ50の検知順が、予定通過順序に一致するかを判断する。
【0052】
ここで、通過予定ICタグ情報423は、中央管理装置10から受信した情報であり、現在閉そくが確保されている区間に設置されているICタグ50を、当該列車が通過する順序と対応付けた情報である。また、ICタグ照合部411は、読み取られたタグIDを含むICタグ検知情報を生成し、駅装置20を介して中央管理装置10に送信する。
【0053】
ここで、ICタグ照合部411によって、検知したと判断されたICタグ50については、そのタグIDや読み取り時刻等と対応付けて、検知ICタグ情報424として蓄積記憶される。
【0054】
進入・進出判断部412は、タグリーダ440によって読み取られたタグIDをもとに、通過予定ICタグ情報423を参照して、自列車の閉そく区間の進入・進出を判断する(
図3参照)。
【0055】
走行制御部413は、場内進入要求指示が割り当てられたICタグ50を検知した場合に、場内進入要求を駅装置20を介して中央管理装置10に送信する。また、駅からの出発時に、出発要求を駅装置20を介して中央管理装置10に送信する。そして、これらの要求に応答して送信されてくる閉そく確保通知を受信すると、閉そくが確保された区間への進入を可能として走行を制御する。
【0056】
車上記憶部420は、ROMやRAM、ハードディスク等の記憶装置で実現され、車上処理部410が車上装置40を統合的に制御するためのシステムプログラムや、各種機能を実現するためのプログラムやデータ等を記憶している。また、車上処理部410の作業領域として用いられ、車上装置40が実行した演算結果や、無線通信部430やタグリーダ440による受信データ等が一時的に格納される。第1実施形態では、車上記憶部420には、車上制御プログラム421と、車上装置ID422と、通過予定ICタグ情報423と、検知ICタグ情報424と、進行方向425とが記憶される。
【0057】
無線通信部430は、駅に設置された無線基地局の通信エリア内に位置する場合に、当該無線基地局を介した駅装置20との無線通信を行う。
【0058】
タグリーダ440は、ICタグ50と非接触式の近距離無線通信を行って、ICタグ50に記憶されているタグID(タグ情報)を読み取り、読み取ったタグIDを車上処理部410に出力する。また、このタグリーダ440は、列車車両の先頭に設けられた先頭側タグリーダ441と、最後尾に設けられた最後尾側タグリーダ442とを含んでおり、それぞれが読み取ったタグIDを出力する。
【0059】
図8は、中央管理装置10の機能構成図である。中央管理装置10は、中央処理部110と、中央記憶部120と、通信部130とを有している。
【0060】
中央処理部110は、例えばCPU等の演算装置で実現され、中央記憶部120に記憶されたプログラムやデータ、通信部130を介した受信データ等に基づいて、中央管理装置10の全体制御を行う。第1実施形態では、中央処理部110は、在線管理部111と、閉そく管理部112とを有している。
【0061】
在線管理部111は、各車上装置40から受信したICタグ検知情報に基づいて、各列車の在線位置を閉そく区間単位で管理する。具体的には、ICタグ検知情報に含まれるタグIDをもとに、ICタグ定義情報124を参照して、該当する列車の閉そく区間の進入・進出を判断する(
図3参照)。そして、閉そく区間からの完全な進出を判断すると、進出した閉そく区間の在線状態を非在線に更新する。また、閉そく区間への進入を判断すると、進入した閉そく区間の在線状態を、該当する列車による在線に更新する。
【0062】
在線管理部111によって管理される各閉そく区間の在線状態は、在線状態情報125として記憶されている。
図9は、在線状態情報125のデータ構成の一例を示す図である。在線状態情報125は、上り方向及び下り方向のそれぞれについて、閉そく区間125aと、列車の在線有無を示す在線状態125bと、在線列車ID125cとを対応付けて格納している。
【0063】
ICタグ定義情報124は、線区全体に設置されているICタグ50を定義した情報である。
図10は、ICタグ定義情報124のデータ構成の一例を示す図である。ICタグ定義情報124は、上り方向及び下り方向のそれぞれについて、閉そく区間124aと、当該区間に設置されているICタグ50のうち、当該方向を進行方向とする列車を対象とするICタグそれぞれのタグID124b、設置位置124c、及び、目的124dとを対応付けて格納している。
【0064】
閉そく管理部112は、車上装置40から受信したICタグ検知情報をもとに、線区全体における各閉そく区間の閉そく状態を管理する。具体的には、受信したICタグ検知情報に含まれているタグIDをもとに、ICタグ定義情報124を参照して、該当する列車の閉そく区間への進入・進出を判断する。そして、閉そく区間からの完全な進出を判断すると、進出した閉そく区間の閉そくを解除する。
【0065】
また、閉そく管理部112は、ICタグ定義情報124を参照して、受信したICタグ検知情報に含まれているタグIDをもとに検知されたICタグ50を判断し、場内到着検知が割り当てられたICタグ50が検知された場合には、該当する列車が場内の所定位置に停止したと判断して、該当する閉そく区間の閉そくを仮解除する。
【0066】
また、閉そく管理部112は、各車上装置40からの閉そく確保要求に応答して、閉そく確保処理を行う。具体的には、車上装置40から出発要求を受信すると、該当する列車の在線駅からその次の駅までの駅間閉そく区間を走行予定区間とする。列車の在線駅は、在線状態情報125から取得できる。
【0067】
次いで、閉そく状態情報126を参照し、この走行予定区間(駅間閉そく区間)の閉そくが確保可能か否かを判断する。すなわち、駅間閉そく区間の閉そくが解除されており、且つ、進行方向が対向方向の区間であってこの駅間閉そく区間と重複する閉そく区間の閉そくが解除或いは仮解除となっている場合に、閉そく確保が可能と判断する。
【0068】
そして、閉そく確保が可能ならば、走行予定区間(駅間閉そく区間)を、当該列車によって閉そくが確保されたものとする。続いて、走行予定区間(駅間閉そく区間)に設置されているICタグ50を判断し、ICタグ定義情報124にて定められているこれらのICタグ50に関する情報(設置位置や対象方向、目的)を抽出し、該当する列車の進行方向を考慮して判断した通過順序と対応付けて、通過予定ICタグ情報を生成する。そして、生成した通過予定ICタグ情報を、閉そく確保の完了通知とともに、当該車上装置40に送信(応答)する。
【0069】
また、車上装置40から場内進入要求を受信すると、該当する列車の在線区間の次駅の場内閉そく区間を走行予定区間とする。次いで、同様に、閉そく状態情報126を参照して、走行予定区間(場内閉そく区間)の閉そくが確保可能か否かを判断し、確保可能ならば、この走行予定区間を当該列車によって閉そくが確保されたものとする。続いて、ICタグ定義情報124を参照して、走行予定区間(場内閉そく区間)に設置されているICタグ50について通過予定ICタグ情報を生成し、閉そく確保の完了通知とともに、当該車上装置40に送信(応答)する。
【0070】
閉そく管理部112によって管理される各閉そく区間の閉そく状態は、閉そく状態情報126として記憶されている。
図11は、閉そく状態情報126のデータ構成の一例を示す図である。閉そく状態情報126は、上り方向及び下り方向それぞれについて、閉そく区間126aと、閉そく状態126bと、閉そく確保列車ID126cとを対応付けて格納している。
【0071】
中央記憶部120は、ROMやRAM、ハードディスク等の記憶装置で実現され、中央処理部110が中央管理装置10を統合的に制御するためのシステムプログラムや、各種機能を実現するためのプログラムやデータ等を記憶しているとともに、中央処理部110の作業領域として用いられ、中央管理装置10が実行した演算結果や、通信部130による受信データ等が一時的に格納される。第1実施形態では、中央記憶部120には、中央制御プログラム121と、区間定義情報122と、支障区間組み合わせ情報123と、ICタグ定義情報124と、在線状態情報125と、閉そく状態情報126とが記憶される。
【0072】
区間定義情報122は、対象線区に設定された閉そく区間を定義した情報である。
図12に、区間定義情報122のデータ構成の一例を示す。区間定義情報122は、上り方向及び下り方向のそれぞれについて、閉そく区間122aと、当該区間の開始位置(始端)122b及び終了位置(終端)122cを対応付けて格納している。
【0073】
支障区間組み合わせ情報123は、互いに閉そく確保に支障が生じる閉そく区間の組み合わせを定めた情報である。
図13に、支障区間組み合わせ情報123のデータ構成の一例を示す。支障区間組み合わせ情報123は、互いに支障区間となる上り方向の閉そく区間123aと、下り方向の閉そく区間123bとの組み合わせを格納している。
【0074】
<処理の流れ>
図14は、車上装置40が実行する処理のフローチャートである。先ず、自列車が駅に停車中であるとする。そして、出発時刻が近づくと、車上処理部410は、乗務員の操作に従って中央管理装置10に出発要求を送信する(ステップC1)。そして、この要求に応答して送信される通過予定ICタグ情報を受信する(ステップC3)。その後、出発信号機60−2が「青(進行現示)」となると(ステップC5:YES)、乗務員の運転操作に従って走行を開始して駅を出発する(ステップC7)。
【0075】
走行中、ICタグ50を検知したならば(ステップC9:YES)、ICタグ照合部411が、検知したICタグ50から読み取ったタグIDをもとに、通過予定ICタグ情報423を照査して、ICタグの通過順序が正しいかを確認する(ステップC11)。また、読み取ったタグIDを含むICタグ検知情報を生成し、中央管理装置10に送信する(ステップC13)。
【0076】
また、場内進入要求指示が割り当てられているICタグ50を検知したならば(ステップC15:YES)、車上処理部410は、中央管理装置10に場内進入要求を送信する(ステップC17)。そして、この要求に応答して送信される通過予定ICタグ情報を受信する(ステップC19)。その後、場内信号機60−1が「青(進行現示)」となると(ステップC21:YES)、乗務員の運転操作に従って走行を開始して場内閉そく区間に進入する(ステップC23)。
【0077】
走行中は、同様に、ICタグ50を検知したならば(ステップC25:YES)、ICタグ照合部411が、検知したICタグ50から読み取ったタグIDをもとに、通過予定ICタグ情報423を照査して、ICタグ50の通過順序が正しいかを確認する(ステップC27)。また、読み取ったタグIDを含むICタグ検知情報を生成し、中央管理装置10に送信する(ステップC29)。そして、場内到着検知が割り当てられているICタグ50を検知し、更に、場内への完全停止を判断すると(ステップC31:YES)、ステップC1に戻る。
【0078】
図15は、中央管理装置10における処理のフローチャートである。車上装置40から出発要求を受信したならば(ステップD1:YES)、閉そく管理部112が、該当する列車の在線駅から次の駅までの駅間閉そく区間を走行予定区間とし、閉そくを確保する閉そく確保処理を行う(ステップD3)。すなわち、走行予定区間(駅間閉そく区間)の閉そくの確保が可能か否かを判断し、可能ならば、この走行予定区間(駅間閉そく区間)を、当該列車によって閉そくが確保されたものとする。次いで、走行予定区間(駅間閉そく区間)に設置されているICタグ50を該当する列車の通過順序と対応付けて、通過予定ICタグ情報を生成し、生成した通過予定ICタグ情報を、閉そく確保の完了通知とともに、当該車上装置40に送信(応答)する(ステップD5)。
【0079】
また、車上装置40から場内進入要求を受信したならば(ステップD7:YES)、閉そく管理部112は、該当する列車の在線区間の次駅の場内閉そく区間を走行予定区間とし、閉そくを確保する閉そく確保処理を行う(ステップD9)。すなわち、走行予定区間(場内閉そく区間)の閉そくの確保が可能か否かを判断し、可能ならば、この走行予定区間(場内閉そく区間)を、当該列車によって閉そくが確保されたものとする。次いで、走行予定区間(場内閉そく区間)に設置されているICタグ50を該当する列車の通過順序と対応付けて通過予定ICタグ情報を生成し、生成した通過予定ICタグ情報を、閉そく確保の完了通知とともに、当該車上装置に送信(応答)する(ステップD11)。
【0080】
また、車上装置40からICタグ検知情報を受信したならば(ステップD13:YES)、在線管理部111は、このICタグ検知情報に含まれるタグIDをもとに検知したICタグ50を特定し、該当する列車の閉そく区間の進出・進入を判断する(ステップD15)。その結果、閉そく区間への進入を判断したならば(ステップD17:YES)、進入した区間を当該列車による在線とする(ステップD19)。また、閉そく区間からの進出を判断したならば(ステップD21:YES)、進出した区間を非在線とするとともに(ステップD23)、閉そく管理部112が、当該区間の閉そくを解除する(ステップD25)。
【0081】
また、場内到着検知が割り当てられたICタグ50を検知したならば(ステップD27:YES)、閉そく管理部112が、該当する区間(当該列車の在線区間)の閉そくを仮解除する(ステップD29)。以上の処理を行うと、ステップD1に戻り、同様の処理を繰り返す。
【0082】
<作用効果>
このように、第1実施形態によれば、単線の行違い駅において、場内の所定位置への列車の到達を検知すると、この到達位置の場内閉そく区間の閉そくが仮解除される。仮解除は、同方向については閉そく確保とみなし、対向方向については閉そく解除とみなす閉そく状態である。これにより、同一の駅に在線している上下列車それぞれは、進行予定の次の閉そく区間(駅間閉そく区間)が互いに競合しているにも関わらず、閉そくを確保することが可能となる。
【0083】
[第2実施形態:仮在線]
次に、第2実施形態を説明する。なお、以下の説明において、上述の実施形態と同一の構成要素については同符号を付し、説明を簡略或いは省略する。
【0084】
<全体構成>
図16は、第2実施形態における列車制御システムの構成図である。この列車制御システムは、第1実施形態と同様に単線区間に適用されるシステムであり、閉そく管理装置70と、各駅に設置された駅設備システム80と、列車30に搭載される車上装置40と、線路に沿って設置されたICタグ50とを備えて構成される。駅設備システム80は、在線管理装置82と、信号制御装置84とを含んでいる。また、閉そく管理装置70と各在線管理装置82とは、通信網Nを介して通信可能に接続されている。
【0085】
閉そく管理装置70は、各駅に設置された在線管理装置82から受信した在線情報(閉そく管理用在線情報)をもとに、線区全体の閉そくの管理を行う。
【0086】
在線管理装置82は、設置駅に設置された無線基地局(不図示)の通信エリア内に位置する車上装置40との無線通信が可能であり、車上装置40と閉そく管理装置70との通信を仲介する。そして、在線管理装置82は、車上装置40から受信したICタグ50の検知情報をもとに、設置駅の駅構内を含む対象範囲における列車の在線管理を行い、対象範囲の在線情報を、信号制御装置84及び閉そく管理装置70へ送信する。対象範囲が限定されるが、各駅の在線管理装置82が列車在線管理システムに相当する。線区全体を対象とする列車在線管理システムは、全駅の在線管理装置82で構成されることとなる。
【0087】
信号制御装置84は、在線管理装置82から受信した在線情報(信号制御用在線情報)をもとに、設置駅の駅構内を含む対象範囲における信号制御(信号機60の現示制御等)を行う。
【0088】
<在線状態>
第2実施形態において、在線管理装置82において管理される閉そく区間の在線状態は、従来の在線及び非在線の2種類に加えて、仮在線の計3種類がある。仮在線は、列車は在線していない(非在線である)けれども、閉そくが確保されており、間もなく在線となり得る在線状態である。この仮在線は、閉そく管理装置70による閉そく管理においては在線として扱われ、信号制御装置84による信号制御においては非在線として扱われる。
【0089】
図17は、仮在線を説明する図である。
図17では、区間A1に在線している列車30が、信号機60の手前まで走行する場合を示している。先ず、
図17(a)に示すように、区間A2〜A4の閉そくが確保される。また、区間A1の在線状態は在線であり、閉そくが確保されている区間A2〜A4の在線状態は仮在線となっている。
【0090】
次いで、
図17(b)に示すように、列車30が次の区間A2に進入すると、この区間A2の在線状態が在線となる。また、進出した区間A1の在線状態は非在線となるとともに、閉そくが解除される。
【0091】
続いて、
図17(c)に示すように、列車30がその次の区間A3に進入すると、この区間A3の在線状態が在線となる。また、進出した区間A2の在線状態は非在線となるとともに、閉そくが解除される。
【0092】
このように、在線管理装置82における在線管理では、閉そく管理装置70によって閉そくが確保された区間の在線状態が仮在線とされる。そして、仮在線の閉そく区間は、列車の進入によって在線となり、その後、当該列車の進出によって非在線となる。但し、この仮在線は、在線管理装置82のみが内部で管理している在線状態であり、閉そく管理装置70における閉そく管理、及び、信号制御装置84における信号制御で用いられる在線状態は、従来と同様に在線及び非在線の2種類である。
【0093】
図18は、在線管理装置82から、閉そく管理装置70及び信号制御装置84それぞれに送信される在線情報を説明する図である。
図18に示すように、列車が区間A2に在線し、次の区間A3の閉そくが確保されているとする。すなわち、区間A1の在線状態は非在線、区間A2の在線状態は在線、区間A3の在線状態は仮在線である。
【0094】
そして、閉そく管理装置70に対して送信する閉そく管理用在線情報823は、仮在線を在線とした在線情報となる。すなわち、
図18に示す例では、区間A1の在線状態は非在線であり、区間A2,A3の在線状態は在線である。また、当該駅に設置された信号制御装置84に対して送信する信号制御用在線情報824は、仮在線を非在線とした在線情報となる。すなわち、
図18に示す例では、区間A1,A3の在線状態は非在線であり、区間A2の在線状態は在線である。
【0095】
<機能構成>
図19は、在線管理装置82の機能構成を示すブロック図である。在線管理装置82は、駅処理部810と、駅記憶部820と、通信部830と、無線通信部840とを備えて構成される。
【0096】
駅処理部810は、例えばCPU等の演算装置で実現され、駅記憶部820に記憶されたプログラムやデータ、通信部830や無線通信部840を介した受信データ等に基づいて、在線管理装置82の全体制御を行う。第2実施形態では、駅処理部810は、在線情報作成部811を有する。
【0097】
在線情報作成部811は、車上装置40から受信したICタグ検知情報をもとに、設置駅の駅構内を含む対象範囲における各列車の位置を、閉そく区間単位で管理する。具体的には、ICタグ検知情報に含まれるタグIDをもとに、ICタグ定義情報124を参照して、該当する列車の閉そく区間の進入・進出を判断する。そして、閉そく区間への進入を判断すると、当該閉そく区間の在線状態を在線とする。また、閉そく区間からの完全な進出を判断すると、当該区間の在線状態を非在線とする。
【0098】
また、閉そく管理装置70から、閉そく確保通知を受信すると、閉そくが確保された区間の在線状態を仮在線とする。なお、ここで受信する閉そく確保通知は、当該在線管理装置82を介して、車上装置40から閉そく管理装置70に対してなされた閉そく確保要求に対する応答である。
【0099】
ここで、在線情報作成部811によって管理される対象範囲の在線状態は、駅在線情報822として記憶される。
図20は、駅在線情報822のデータ構成の一例を示す図である。駅在線情報822は、上り方向及び下り方向のそれぞれについて、設置駅の対象範囲の閉そく区間822aと、在線状態822bと、在線列車ID822cとを対応付けて格納している。
【0100】
そして、この駅在線情報822をもとに閉そく管理用在線情報823を生成し、閉そく管理装置70に対して送信する。すなわち、各閉そく区間の在線状態について、非在線を非在線とし、在線及び仮在線を在線とすることで、閉そく管理用在線情報823を生成する。
【0101】
また、駅在線情報822をもとに信号制御用在線情報824を生成し、当該駅に設置された信号制御装置84に対して送信する。すなわち、各閉そく区間の在線状態について、非在線及び仮在線を非在線とし、在線を在線とすることで、信号制御用在線情報824を生成する。
【0102】
閉そく管理用在線情報823、及び、信号制御用在線情報824は、駅在線情報822と同様のデータ構成となっており、対象範囲の閉そく区間それぞれについて、在線状態と、在線列車IDとを対応付けて格納している。
【0103】
駅記憶部820は。ROMやRAM、ハードディスク等の記憶装置で実現され、駅処理部810が在線管理装置82を統合的に制御するためのシステムプログラムや、各種機能を実現するためのプログラムやデータ等を記憶しているとともに、駅処理部810の作業領域として用いられ、駅処理部810が実行した演算結果や、通信部830や無線通信部840による受信データ等が一時的に格納される。第2実施形態では、駅記憶部820には、在線管理プログラム821と、駅在線情報822と、閉そく管理用在線情報823と、信号制御用在線情報824とが記憶される。
【0104】
図21は、閉そく管理装置70の機能構成を示すブロック図である。閉そく管理装置70は、閉そく処理部710と、閉そく記憶部720と、通信部730とを備えている。
【0105】
閉そく処理部710は、在線管理部711と、閉そく管理部712とを有している。
【0106】
在線管理部711は、各駅に設置された在線管理装置82から受信した閉そく管理用在線情報823をもとに、線区全体の在線情報である線区在線情報722によって、線区全体の列車在線を閉そく区間単位で管理する。在線管理部711が受信する閉そく管理用在線情報823は、送信元の在線管理装置82の対象範囲のみの情報である。このため、線区在線情報722のうち、受信した閉そく管理用在線情報823に該当する区間の在線状態を更新する。
【0107】
図22は、線区在線情報722のデータ構成の一例を示す図である。線区在線情報722は、上り方向及び下り方向それぞれについて、閉そく区間722aと、在線状態722bと、在線列車ID722cとを対応付けて格納している。
【0108】
閉そく管理部712は、線区全体における閉そく状態を管理する。具体的には、車上装置40からの閉そく確保要求に応答して、走行予定区間の閉そくを確保する閉そく確保処理を行う。
【0109】
すなわち、出発要求を受信すると、該当する列車の在線駅から次駅までの駅間閉そく区間を走行予定区間とし、閉そく状態情報723を参照して、この走行予定区間の閉そくの確保が可能か否かを判断する。可能ならば、当該列車によって閉そくが確保されたものとする。次いで、ICタグ定義情報124を参照して、走行予定区間に設置されているICタグ50を、当該列車の通過順序と対応付けた通過予定ICタグ情報を生成し、閉そく確保通知とともに、当該車上装置40に送信(応答)する。
【0110】
また、場内進入要求を受信すると、該当する列車の在線区間の次駅の場内閉そく区間を走行予定区間とし、同様に、当該列車による閉そくの確保を行って、通過予定ICタグ情報を、閉そく確保通知とともに、当該車上装置40に送信(応答)する。
【0111】
また、閉そく管理部712は、線区在線情報722を参照して、閉そく区間の在線状態が在線から非在線に変化すると、当該区間から列車が進出したと判断して、当該区間の閉そくを解除する。
【0112】
閉そく管理部712によって管理されている線区全体の閉そく状態は、閉そく状態情報723として記憶される。
図23は、閉そく状態情報723のデータ構成の一例を示す図である。閉そく状態情報723は、上り方向及び下り方向それぞれについて、閉そく区間723aと、閉そく状態723bと、閉そくを確保している列車ID723cとを対応付けて格納している。
【0113】
閉そく記憶部720には、閉そく管理プログラム721と、区間定義情報122と、ICタグ定義情報124と、線区在線情報722と、閉そく状態情報723とが記憶される。
【0114】
<処理の流れ>
図24は、在線管理装置82における処理のフローチャートである。閉そく管理装置70から閉そく確保通知を受信したならば(ステップE1:YES)、在線情報作成部811が、閉そくが確保された区間の閉そく状態を仮在線とする(ステップE3)。
【0115】
また、車上装置40からICタグ検知情報を受信したならば(ステップE5:YES)、在線情報作成部811は、このICタグ検知情報に含まれるタグIDをもとに、検知したICタグ50を特定し、該当する列車の閉そく区間への進入・進出を判断する(ステップE7)。その結果、閉そく区間への進入を判断したならば(ステップE9:YES)、進入した区間を、当該列車による在線とする(ステップE11)。また、閉そく区間からの進出を判断したならば(ステップE13:YES)、進出した区間を非在線とする(ステップE15)。
【0116】
その後、各閉そく区間の在線状態について、在線及び仮在線を在線とするとともに、非在線を在線として、閉そく管理用在線情報823を作成し、閉そく管理装置70に送信する(ステップE17)。
【0117】
また、各閉そく区間の在線状態について、在線を在線とするとともに、非在線及び仮在線を非在線として、信号制御用在線情報824を作成し、信号制御装置84に送信する(ステップE19)。以上の処理を行うと、ステップE1に戻り、同様の処理を繰り返す。
【0118】
図25は、閉そく管理装置70における処理のフローチャートである。車上装置40から出発要求を受信したならば(ステップF1:YES)、閉そく管理部712が、該当する列車の在線駅から次駅までの駅間閉そく区間を走行予定区間とし、閉そくを確保する閉そく確保処理を行う(ステップF3)。次いで、閉そくを確保した走行予定区間の通過予定ICタグ情報を生成し、閉そく確保の完了通知とともに、当該車上装置40に送信(応答)する(ステップF5)。
【0119】
また、車上装置40から場内進入要求を受信したならば(ステップF7:YES)、閉そく管理部712が、該当する列車の在線区間の次駅の場内閉そく区間を走行予定区間とし、閉そくを確保する閉そく確保処理を行う(ステップF9)。次いで、閉そくを確保した走行予定区間の通過予定ICタグ情報を生成し、閉そく確保の完了通知とともに、当該車上装置40に送信(応答)する(ステップF11)。
【0120】
また、在線管理装置82から、閉そく管理用在線情報823を受信したならば(ステップF13:YES)、在線管理部711が、受信した閉そく管理用在線情報823を用いて線区在線情報722を更新する(ステップF15)。続いて、閉そく管理部712が、更新後の線区在線情報722を参照して、在線状態が在線から非在線に変化した区間について、列車が進出したと判断して閉そくを解除する(ステップF17)。以上の処理を行うと、ステップF1に戻り、同様の処理を繰り返す。
【0121】
<作用効果>
このように、第2実施形態によれば、在線管理装置82における列車の在線管理では、従来の在線及び非在線の2種類に加えて、仮在線の計3種類が用いられる。すなわち、閉そく管理装置70によって閉そくが確保された区間が仮在線とされる。仮在線は、実際には列車が存在していないけれども、閉そくが確保されていることから、間もなく在線となる状態である。そして、在線管理装置82から閉そく管理装置70に送信される閉そく管理用在線情報823、仮在線を在線とした在線情報であり、信号制御装置84に送信される信号制御用在線情報824は、仮在線を非在線とした在線情報である。
【0122】
[変形例]
以上、本発明を適用した2つの実施形態につて説明したが、本発明の適用可能な実施形態はこの2つの実施形態に限定されるものではない。
【0123】
例えば、第1実施形態と第2実施形態とを組み合わせた形態を構成しても良い。
具体的には、第2実施形態における、閉そく管理装置70を、第1実施形態における中央管理装置10と置き換えるように構成する。この場合、中央管理装置10は、各駅の在線管理装置82から送信されてくる閉そく管理用在線情報823をもとに線区全体の在線管理を行い、この線区全体の在線情報に基づいて線区全体の閉そくの管理を行う。これにより、第1の実施形態及び第2の実施形態の双方の作用効果を奏する構成が実現できる。