特許第5793508号(P5793508)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5793508
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】複数の焦点面を用いた細胞特性決定
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/27 20060101AFI20150928BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20150928BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20150928BHJP
   G06T 1/00 20060101ALI20150928BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   G01N21/27 A
   G01N33/48 M
   C12Q1/04
   G06T1/00 295
   G01N33/483 C
【請求項の数】20
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-548239(P2012-548239)
(86)(22)【出願日】2011年1月12日
(65)【公表番号】特表2013-517460(P2013-517460A)
(43)【公表日】2013年5月16日
(86)【国際出願番号】US2011020952
(87)【国際公開番号】WO2011088091
(87)【国際公開日】20110721
【審査請求日】2012年7月27日
(31)【優先権主張番号】13/004,718
(32)【優先日】2011年1月11日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/294,416
(32)【優先日】2010年1月12日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】595154074
【氏名又は名称】バイオ−ラド ラボラトリーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ブレニマン、ジーン
(72)【発明者】
【氏名】グリフィン、マイケル
【審査官】 田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−020449(JP,A)
【文献】 特開2002−258163(JP,A)
【文献】 特開2008−116526(JP,A)
【文献】 特表2009−530621(JP,A)
【文献】 特表2001−512824(JP,A)
【文献】 特表2006−517663(JP,A)
【文献】 特開2010−276585(JP,A)
【文献】 特表2007−509314(JP,A)
【文献】 特開昭64−029765(JP,A)
【文献】 特表2004−532410(JP,A)
【文献】 特表2005−529311(JP,A)
【文献】 特表2000−509827(JP,A)
【文献】 特表2005−525550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/83
G01N 33/48−33/98
C12M 1/00− 3/10
C12Q 1/00− 3/00
JSTPlus(JDreamIII)
JMEDPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を特性決定する方法であって、
前記細胞を含む試料の一連のデジタル画像をカメラを使用して形成することであって、前記一連のデジタル画像は、前記試料に関して異なる焦点面でそれぞれ取得される、前記形成すること、
特別にプログラムされたコンピュータを用いて、前記一連のデジタル画像のうちの少なくとも2つにおいて複数の細胞を自動的に識別すること、
前記特別にプログラムされたコンピュータを用いて、前記少なくとも2つのデジタル画像を自動的に解析して、識別された前記複数の細胞の各々を生細胞または死細胞のいずれかとして分類することを備え、
前記少なくとも2つのデジタル画像を解析して、識別された前記複数の細胞の各々を生細胞または死細胞のいずれかとして分類することは、
前記少なくとも2つのデジタル画像のうちの第1のデジタル画像の解析に基づいて識別された前記複数の細胞のうちの少なくとも1つの細胞を生細胞として分類することが不可能であるかどうかを判定すること、
前記少なくとも2つのデジタル画像のうちの第2のデジタル画像において前記少なくとも1つの細胞を見つけること、
前記第1のデジタル画像の解析に基づいて識別された前記複数の細胞のうちの少なくとも1つの細胞を生細胞として分類することが不可能であると判定した場合、前記少なくとも2つのデジタル画像のうちの第2のデジタル画像の解析に基づいて前記少なくとも1つの細胞を生細胞として分類することが不可能であるかどうかを判定することを含む、方法。
【請求項2】
前記一連のデジタル画像のうちのどれがベストフォーカス面で撮影されたものであるかを、前記特別にプログラムされたコンピュータを用いて自動的に識別することをさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ベストフォーカス面で撮影されたものと識別されたデジタル画像において、前記特別にプログラムされたコンピュータを用いて、前記複数の細胞を自動的に計数することをさらに備える、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記一連のデジタル画像のうちのどれがベストフォーカス面で撮影されたものであるか識別することは、前記デジタル画像の各々についてコントラスト指標を評価することを備える、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記第2のデジタル画像において前記少なくとも1つの細胞を見つけることは、前記第2のデジタル画像内のオブジェクトのスコアを生成することを含み、
前記スコアは、前記オブジェクトが前記少なくとも1つの細胞である尤度を示す、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記スコアは、前記オブジェクトのサイズに関する成分を含む、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記スコアは、前記オブジェクトの位置に関する成分を含む、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記スコアは、第1と第2のデジタル画像の撮影の合間でのオブジェクトの浮動に関する成分を含む、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記第2のデジタル画像において前記少なくとも1つの細胞を見つけることは、
第1のデジタル画像で前記少なくとも1つの細胞を含んでいる領域に対応する、前記少なくとも2つのデジタル画像のうち第2のデジタル画像の領域内に見つかる各オブジェクトについて、それぞれのオブジェクトが前記少なくとも1つの細胞である尤度を示す個別のスコアを生成すること、
最高スコアを持つオブジェクトを、前記少なくとも1つの細胞として選択することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも2つのデジタル画像を解析して、識別された前記複数の細胞の各々を生細胞または死細胞のいずれかとして分類することは、
第1のデジタル画像の解析に基づいて前記複数の細胞のうちの少なくとも1つの細胞を生細胞として分類することは不可能であると判定すること、
前記少なくとも2つのデジタル画像のうちの1つの解析によって前記少なくとも1つの細胞が生細胞であることが示されるか、または、解析するデジタル画像の所定の最大数に達するまで、他の焦点位置で撮影されたデジタル画像を次々と解析すること、
前記少なくとも1つの細胞が生細胞として識別された場合には、前記少なくとも1つの細胞を生細胞と分類し、一方、前記少なくとも1つの細胞が生細胞であると判断されることなく、解析するデジタル画像の前記所定の最大数に達した場合には、前記少なくとも1つの細胞を死細胞と分類することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
細胞群を解析するためのシステムであって、
電子イメージセンサと、
前記電子イメージセンサ上に前記細胞群を含む試料の像を形成する光学系と、
前記光学系の焦点位置を調整する機構と、
前記電子イメージセンサに接続されたコンピュータとを備え、
前記コンピュータは、
前記試料内の異なる焦点面でそれぞれ取得された、前記試料の一連のデジタル画像を形成し、
前記一連のデジタル画像のうちの少なくとも2つにおいて複数の細胞を自動的に識別し、
前記少なくとも2つのデジタル画像を自動的に解析して、識別された前記複数の細胞の各々を生細胞または死細胞のいずれかとして分類するように、前記システムを制御し、
前記少なくとも2つのデジタル画像を自動的に解析して、識別された前記複数の細胞の各々を生細胞または死細胞のいずれかとして分類することは、
前記少なくとも2つのデジタル画像のうちの第1のデジタル画像の解析に基づいて識別された前記複数の細胞のうちの少なくとも1つの細胞を生細胞として分類することが不可能であるかどうかを判定すること、
前記少なくとも2つのデジタル画像のうちの第2のデジタル画像において前記少なくとも1つの細胞を見つけること、
前記第1のデジタル画像の解析に基づいて識別された前記複数の細胞のうちの少なくとも1つの細胞を生細胞として分類することが不可能であると判定した場合、前記少なくとも2つのデジタル画像のうちの第2のデジタル画像の解析に基づいて前記少なくとも1つの細胞を生細胞として分類することが不可能であるかどうかを判定することを含む、システム。
【請求項12】
前記コンピュータは、さらに、前記一連のデジタル画像のうちのどれがベストフォーカス面で撮影されたものであるかを識別するように、前記システムを制御する、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記コンピュータは、さらに、前記ベストフォーカス面で撮影されたものと識別されたデジタル画像に写っている複数の細胞を計数するように、前記システムを制御する、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記コンピュータは、前記一連のデジタル画像のうちのどれがベストフォーカス面で撮影されたものであるか識別するために、コントラスト指標を計算する、請求項12に記載のシステム。
【請求項15】
前記コンピュータは、さらに、
前記第2のデジタル画像内のオブジェクトのスコアであって、前記オブジェクトが前記少なくとも1つの細胞である尤度を示すスコアを生成し、
前記スコアに少なくとも部分的に基づいて、前記第2のデジタル画像において前記少なくとも1つの細胞を見つけるように、前記システムを制御する、請求項11に記載のシステム。
【請求項16】
前記スコアは、前記オブジェクトのサイズに関する成分を含む、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記スコアは、前記オブジェクトの位置に関する成分を含む、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記スコアは、第1と第2のデジタル画像の撮影の合間でのオブジェクトの浮動に関する成分を含む、請求項16に記載のシステム。
【請求項19】
前記コンピュータは、さらに、
第1のデジタル画像で前記少なくとも1つの細胞を含んでいる領域に対応する、前記少なくとも2つのデジタル画像のうち第2のデジタル画像の領域内に見つかる各オブジェクトについて、それぞれのオブジェクトが前記少なくとも1つの細胞である尤度を示す個別のスコアを生成し、
最高スコアを持つオブジェクトを、前記少なくとも1つの細胞として選択するように、前記システムを制御する、請求項11に記載のシステム。
【請求項20】
前記コンピュータは、さらに、
第1のデジタル画像の解析に基づいて前記複数の細胞のうちの少なくとも1つの細胞を生細胞として分類することは不可能であると判定し、
前記少なくとも2つのデジタル画像のうちの1つの解析によって前記少なくとも1つの細胞が生細胞であることが示されるか、または、解析するデジタル画像の所定の最大数に達するまで、他の焦点位置で撮影されたデジタル画像を次々と解析し、
前記少なくとも1つの細胞が生細胞として識別された場合には、前記少なくとも1つの細胞を生細胞と分類し、一方、前記少なくとも1つの細胞が生細胞であると判断されることなく、解析するデジタル画像の前記所定の最大数に達した場合には、前記少なくとも1つの細胞を死細胞と分類するように、前記システムを制御する、請求項11に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
サイトメトリーは、生体細胞の計数および特性決定に関わる専門技術である。多くの場合、目的の細胞は液体中に懸濁される。解析される試料の中には多数の細胞が存在し得るので、自動化された計数および特性決定技術が望ましい。
【0002】
サイトメトリーを実施するためのシステムとして、カメラまたは他の撮像部品装置を使用して試料のデジタル画像を撮り、そしてコンピュータを用いてそのデジタル画像を解析することで、デジタル画像に写っている細胞を識別、計数、および特性決定するものがある。画像ベースのサイトメトリーを実施するためのシステムの1つが、“設置面積が小さく高さが制限された自動細胞計数器(Automated Cell Counter with Small Footprint and Limited Height)”という名称で2009年8月31日に出願された同時係属中の特許文献1に記載されており、その開示の全体は、すべての目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国仮特許出願第61/238534号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
細胞の特性決定の1つの形態は、試料中の生細胞と死細胞の識別である。個々の細胞が生細胞であるか死細胞であるかを判定する精度を向上するための技術が、非常に望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様によれば、細胞の特性決定の方法は、細胞を含む試料の一連のデジタル画像を、カメラを使用して形成することを含む。それぞれのデジタル画像は、試料に関して異なる焦点面で取得される。この方法は、さらに、特別にプログラムされたコンピュータを用いて、一連のデジタル画像のうちの少なくとも2つにおいて細胞を自動的に識別すること、試料の中の細胞を生細胞または死細胞のいずれかとして分類するために、特別にプログラムされたコンピュータを用いて、2つのデジタル画像を自動的に解析することを含む。一部の実施形態において、この方法は、さらに、デジタル画像のうちのどれがベストフォーカス面で撮影されたものであるかを、特別にプログラムされたコンピュータを用いて自動的に識別することを含む。この方法は、さらに、ベストフォーカス面で撮影されたものと識別されたデジタル画像において、特別にプログラムされたコンピュータを用いて、細胞を自動的に計数することを含んでもよい。一部の実施形態では、デジタル画像のうちのどれがベストフォーカス面で撮影されたものであるかを識別することは、デジタル画像の各々についてコントラスト指標を評価することを含む。一部の実施形態では、2つのデジタル画像を解析して試料の中の細胞を生細胞または死細胞のいずれかとして分類することは、それら2つのデジタル画像のうち第1の画像の解析に基づいてその細胞を生細胞として分類することは不可能であると判定すること、第2のデジタル画像においてその細胞を見つけること、2つのデジタル画像のうち第2の画像の解析に基づいてその細胞を生細胞として分類すること、をさらに含む。第2のデジタル画像においてその細胞を見つけることは、第2のデジタル画像内のオブジェクトのスコアを生成することを含んでもよく、そのスコアは、該オブジェクトがその細胞である尤度を示すものである。スコアは、そのオブジェクトのサイズに関する成分を含んでもよい。スコアは、そのオブジェクトの位置に関する成分を含んでもよい。スコアは、第1と第2のデジタル画像の撮影の合間でのオブジェクトの浮動に関する成分を含んでもよい。一部の実施形態では、第2のデジタル画像においてその細胞を見つけることは、第1のデジタル画像でその細胞を含んでいる領域に対応する、デジタル画像のうち第2の画像の領域内に見つかる各オブジェクトについて、それぞれのオブジェクトがその細胞である尤度を示す個別のスコアを生成すること、最高スコアを持つオブジェクトを、その細胞として選択することを含む。一部の実施形態では、試料の中の細胞を生細胞または死細胞のいずれかとして分類するために2つのデジタル画像を解析することは、第1のデジタル画像の解析に基づいてその細胞を生細胞として分類することは不可能であると判定すること、画像のうちの1つの解析によってその細胞が生細胞であることが示されるか、または、解析する画像の所定の最大数に達するまで、他の焦点位置で撮影された画像を次々と解析すること、その細胞が生細胞として識別された場合には、その細胞を生細胞と分類し、一方、その細胞が生細胞であると判断されることなく、解析する画像の所定の最大数に達した場合には、その細胞を死細胞と分類することをさらに含む。
【0006】
別の態様によれば、細胞を解析するためのシステムは、電子イメージセンサと、この電子イメージセンサ上に細胞を含む試料の像を形成する光学系と、この光学系の焦点位置を調整するための機構と、電子イメージセンサに接続されたコンピュータと、を備える。このコンピュータは、2つのデジタル画像を自動的に解析して、試料の異なる焦点面でそれぞれ取得された、試料の一連のデジタル画像を形成し、デジタル画像のうちの少なくとも2つにおいて細胞を自動的に識別し、試料の中の細胞を生細胞または死細胞のいずれかとして分類するように、当該システムを制御する。一部の実施形態では、コンピュータは、さらに、デジタル画像のうちのどれがベストフォーカス面で撮影されたものであるかを識別するように、当該システムを制御する。一部の実施形態では、コンピュータは、さらに、ベストフォーカス面で撮影されたものと識別されたデジタル画像に写っている細胞を計数するように、当該システムを制御する。コンピュータは、デジタル画像のうちのどれがベストフォーカス面で撮影されたものであるかを識別するために、コントラスト指標を計算してもよい。一部の実施形態では、コンピュータは、さらに、2つのデジタル画像のうち第1の画像の解析に基づいて上記細胞を生細胞として分類することは不可能であると判定し、第2のデジタル画像においてその細胞を見つけて、2つのデジタル画像のうち第2の画像の解析に基づいてその細胞を生細胞として分類するように、当該システムを制御する。一部の実施形態では、コンピュータは、さらに、第2のデジタル画像内のオブジェクトのスコアであって、該オブジェクトが上記細胞である尤度を示すスコアを生成し、そのスコアに少なくとも部分的に基づいて、第2のデジタル画像においてその細胞を見つけるように、当該システムを制御する。スコアは、そのオブジェクトのサイズに関する成分を含んでもよい。スコアは、そのオブジェクトの位置に関する成分を含んでもよい。スコアは、第1と第2のデジタル画像の撮影の合間でのオブジェクトの浮動に関する成分を含んでもよい。一部の実施形態では、コンピュータは、さらに、第1のデジタル画像で上記細胞を含んでいる領域に対応する、デジタル画像のうち第2の画像の領域内に見つかる各オブジェクトについて、それぞれのオブジェクトがその細胞である尤度を示す個別のスコアを生成し、最高スコアを持つオブジェクトを、その細胞として選択するように、当該システムを制御する。一部の実施形態では、コンピュータは、さらに、第1のデジタル画像の解析に基づいて上記細胞を生細胞として分類することは不可能であると判定し、画像のうちの1つの解析によってその細胞が生細胞であることが示されるか、または、解析する画像の所定の最大数に達するまで、他の焦点位置で撮影された画像を次々と解析し、その細胞が生細胞として識別された場合には、その細胞を生細胞と分類し、一方、その細胞が生細胞であると判断されることなく、解析する画像の所定の最大数に達した場合には、その細胞を死細胞と分類するように、当該システムを制御する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】イメージングサイトメトリー・システムの一例の概略図である。
図2】本発明の実施形態よる、細胞の特性決定を実施するための別のシステムを示している。
図3】本発明の一例の実施形態による画像例の3つの細胞を示すほんの一部分を示している。
図4】本発明の実施形態による、トリパンブルー色素で処理した生細胞と死細胞の理想化した比較を示している。
図5】試料の断面を、本発明の実施形態による図2のシステムで取得される9つのデジタル画像の焦点面を含めて示している。
図6】試料測定の一例の結果を示している。
図7】本発明の実施形態による逐次解析手法を示している。
図8A】本発明の実施形態による、細胞の浮動を考慮する手法を示している。
図8B】本発明の実施形態による、細胞の浮動を考慮する手法を示している。
図8C】本発明の実施形態による、細胞の浮動を考慮する手法を示している。
図8D】本発明の実施形態による、細胞の浮動を考慮する手法を示している。
図8E】本発明の実施形態による、細胞の浮動を考慮する手法を示している。
図8F】本発明の実施形態による、細胞の浮動を考慮する手法を示している。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、イメージングサイトメトリー・システム100の一例の概略図である。システム100では、細胞が懸濁された液体の試料が、試料スライド11に担持されている。好ましくは、細胞がシステム内の垂直位置の狭い範囲内にあるように、試料は透明板の間に拘束されている。例えば、試料は、0.100ミリメートルの深さの試料室に拘束してもよい、他の深さの試料室を使用することもできる。LEDボード12は、試料を照らす光源として機能する。試料に届く照明の特性を向上させるため、LEDボード12と試料スライド11との間にコリメートレンズ13が配置されている。試料と電子イメージセンサ15との間に光学系14を配置し、これによりセンサ15上に試料の像を結像させる。光学系14は、例えば、ある距離をおいて離隔された2つのレンズ16および17を有し、レンズ16、17の間に絞り18を備える。様々に異なる数の光学素子を備える他の様々な光学系が可能である。センサ15の直下に、像面平坦化レンズ19が配置されている。
【0009】
センサ15は、好ましくは、ピクセルと呼ばれる多数の感光部位を有する、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)タイプのイメージセンサである。例えば、センサ15は、米国カリフォルニア州サンタクララのオムニビジョン(OmniVision)社から入手可能なモデルOV5620またはOV5632のカラーイメージャであってよい。適当なセンサは、他のメーカからも入手可能であり、他の種類のセンサを用いてもよい。このように、光学系14およびセンサ15は、試料のデジタル画像を撮るためのカメラの一部を成している。
【0010】
試料は狭い高さ範囲にあるように拘束されるが、それでもシステム100は、オートフォーカス機能を備えている。例えば、システムの焦点を調整するために、試料スライド11の高さは自動調節可能であってよい。
【0011】
図2は、本発明の実施形態による、細胞の特性決定を実施するための別のシステム200を示している。システム200は、試料スライド11を保持しており、そしてこれは、特性決定される細胞を含む試料を保持している。カメラ201は、試料のデジタル画像を撮るように位置決めされている。本開示の目的の場合には、デジタル画像は、カメラ201の視野内の位置における輝度、色、またはその両方を表す数値の順序配列である。また、このような配列を有しているデジタルファイルも、たとえそのファイルが圧縮または符号化されていても、デジタル画像であるとみなされる。例えば、JPEG(Joint Photographic Experts Group)ファイル形式で保存されたデジタル画像は、デジタル画像であるとみなされる。
【0012】
デジタル画像の中のデジタル値配列を構成する要素は“ピクセル”と呼ばれる。例えば、ピクセルは、カメラの視野内の特定のシーン位置の輝度を表す1つのみの数値を含んでもよく、あるいは、ピクセルは、そのシーン位置の輝度および色または他のパラメータを示す3つ以上の数値の組を含んでもよい。カメラ201は、例えば、CMOSセンサ、電荷結合素子(CCD)センサなどの電子イメージセンサ、または、感光部位の順序配列を有する他の種類のセンサを備えている。それらの感光部位も、やはり“ピクセル”と呼ばれ、それらは、多くの場合、そのカメラで撮ったデジタル画像のピクセルに対応している。ピクセルという言葉の意味は、一般に、その使用の文脈から明らかとなる。
【0013】
システム200では、試料スライド11は、スライドステージ202に載置されて、LEDボード12と同様のものとすることができる光源203によって下から照らされる。システム200は、公称設定において、試料スライド11により保持される試料にカメラ201の焦点が合っていることが好ましい。加えて、システム200は、焦点調整機能を備えている。システム200の一例では、ステッピングモータ204の制御により、歯車列205およびリードスクリュー206を介して、試料ステージ202をその公称位置から昇降させることが可能である。他の様々な方式を用いて焦点調整を行うことができる。例えば、カメラ201を、スライドステージ202に対して移動させることができ、あるいは、カメラ201のレンズ素子または他の構成部品を移動させることができる。システムによって提供される可動域は、好ましくは、特性決定される試料の寸法に適合するように選択される。一例の実施形態では、ステッピングモータ204はマイクロステップのものであり、システムの機械的部品は、可能なスライドステージ202位置の公称分解能が約2〜5マイクロメートルの間であって、スライドステージ202の総移動距離が約200マイクロメートルを超えるように選択される。
【0014】
システムは、コンピュータ208を備えた電子制御装置207によって制御される。制御装置207は、さらに、電力変換インタフェース回路、入出力機能、および他の必要な支援ハードウェアを含んでもよい。コンピュータ208は、プロセッサとメモリとを備えてもよく、このメモリとしては、RAM、ROM、EPROM、フラッシュメモリ、磁気ディスク記憶装置、光ディスク記憶装置、テープ記憶装置などの揮発性もしくは不揮発性メモリ、またはこれらのいずれかもしくは他の種類のメモリを任意に組み合わせたものを挙げることができる。メモリは、本発明の実施形態の手順を実行するようにコンピュータを特別にプログラムする命令を保持することができる。
【0015】
制御装置207は、カメラ201とやり取りして、試料のデジタル画像を取得し、得られたデジタル画像を解析する。例えば、図3は、3つの細胞301、302、および303を示す例示的画像のほんの一部分を示している。当然のことながら、図3は、わずか数ピクセルにわたる領域を示すものであり、カメラ201で撮影される完全なデジタル画像は、数千ピクセルにわたってもよく、図3に示す3つの細胞よりもずっと多くの数の細胞を含んでいてもよい。完全なデジタル画像は、数千の細胞を含んでもよく、実施形態によっては、4000個ほどの細胞を含み得る。典型的には、細胞自体は、直径が約8〜50ミクロンであってもよく、完全なデジタル画像で撮像される総面積は、数平方ミリメートルであってもよい。例示的な実施形態では、撮像される面積は、およそ2×2ミリメートル(約4mm)であり、カメラ201の光学系は、この面積がカメラ201のセンサをほぼ埋め尽くすように投影されるように構成されている。例示的な実施形態では、カメラ201は、2592ピクセルの各々が1944行を有するセンサを備え、各センサピクセルは、試料のおよそ1×1マイクロメートルの視野に対応する。他のセンササイズおよび解像度を用いてもよい。
【0016】
試料の中の生細胞と死細胞を見分けるため、生細胞が死細胞とは異なって見えるように、細胞に標識を付けることができる。例えば、トリパンブルー色素で試料を処理することができる。この色素は死細胞には容易に取り込まれるが、生細胞ではその膜によって色素の取り込みが妨げられる傾向にあり、従って、生細胞は、その中心が死細胞よりも明るく見えることになる。図4は、トリパンブルー色素で処理した生細胞と死細胞の理想化した比較を示している。
【0017】
本発明の実施形態により細胞を解析する第1のステップとして、システム200は、異なる焦点位置で一連のデジタル画像を取得して保存する。この一連のデジタル画像を、画像の“スタック”と呼ぶ。システム200では、試料がカメラ201の焦点から外れるように試料ステージ202を移動させてデジタル画像を撮り、その後、試料が焦点により近くなるようにステージ202を移動させて別のデジタル画像を撮るといったようにして、ベストフォーカス面を通り、さらにそれを越えて試料を移動させてよい。例示的実施形態では、約28マイクロメートル離れた9つの焦点位置でデジタル画像が撮影されるが、それより多数または少数の画像を使用してもよく、また、用いる焦点位置は28マイクロメートルとは異なる間隔であってもよいことは、分かるであろう。本開示の目的において、「画像が特定の焦点位置“で取得”される」とは、システムがその焦点位置に焦点を合わせるように設定された状態でその画像を取り込むことを指す。また、本開示において、“焦点面”と“焦点位置”という用語は、ほぼ同義に使用されるものであり、当然のことながら、これらの用語は、例えば結像収差によって焦点位置が完全な平面ではないシステムを包含する。他の実施形態では、カメラのベストフォーカス面に対して試料を移動させるのではなく、カメラを試料に対して移動させて焦点を合わせ直すことで、焦点位置を動かしてもよい。図5は、試料の断面を、本発明の実施形態によるシステムで取得される9つのデジタル画像の焦点面を含めて示している。焦点面には、FP0〜FP8のラベルが付いている。また、試料を垂直方向に拘束している透明部材502、503の間で懸濁されるいくつかの細胞501を、さらに示している。
【0018】
9つのデジタル画像の各々について、コンピュータ208またはシステム内の他の回路のいずれかにより、コントラスト指標を計算することができる。例えば、カメラ201のセンサが、周知のベイヤー・モザイクパターンにピクセルが配列されたカラーセンサである場合、コントラスト指標は、隣接する緑のピクセルで記録された強度の差の平均であってもよい。一般に、画像が高コントラストであるほど、画像の取得に使用されたシステムの焦点がより良く合っていることを示している。
【0019】
測定されたコントラストが最も高いデジタル画像が、ベストフォーカス面で撮影されたものとして指定される。このデジタル画像を用いると、細胞の最も正確な計数を達成できることが、本発明の実施形態に関する研究によって示されている。このデジタル画像において、周知の画像処理技術を用いて個々の細胞が識別される。例えば、試料中の細胞は比較的疎らであるため、デジタル画像の強度ヒストグラムは、デジタル画像の背景を表す強度値でピークを示す傾向がある。細胞は、生死にかかわらず、背景よりも遥かに暗いピクセルを含むので、デジタル画像において暗いピクセルからなる連続領域を見つけることによって、個々の細胞を特定することができる。また生細胞は、背景レベルよりも遥かに明るいピクセルを含み得る。
【0020】
本発明の実施形態によると、細胞計数プロセスは、以下のステップを含んでもよい。
1)局在傾向を含む、強度の範囲および分布を特定する。これにより、画像を閾値処理する範囲が決定され、画像における強度シフトが補正される。
【0021】
2)画像を閾値処理して、暗ピクセル、明ピクセル、および背景ピクセルに分ける。
3)暗ピクセルと明ピクセルが接している所をたどることにより、オブジェクトを形成する。
【0022】
4)近接するオブジェクト(主に、他のオブジェクトとつながっているが背景ピクセルによって分離されているオブジェクト、すなわち、オブジェクトの明るい中心部を暗ピクセルで囲むことができるが、背景に分類されたピクセルによって分断されているようなオブジェクト)を併合する。
【0023】
5)オブジェクトをクリーンアップする。埋め込まれている背景ピクセルを回収し、外縁部から明ピクセルを除去し、エッジを平滑化し、(円の当てはめに用いられる)境界マークを追加する。
【0024】
オブジェクトのリストが構築されたら、様々なフィルタリング手法を適用することにより、誤った細胞の識別を取り除いてもよい。例えば、細胞について予想されるものとは異なる大きさや形状を有する暗い連続領域を、細胞とみなされるものから取り除いてもよい。識別された細胞とその位置のリストは、後の処理で使用するために保存される。
【0025】
識別された細胞は、その後解析することができ、これにより、それらを生細胞と分類することができるか、死細胞と分類することができるかが判断される。例えば、各細胞を解析して、背景値よりも遥かに暗いピクセル数に対する、背景値より遥かに明るいピクセル数の比率が、所定の閾値を超えているかどうかを調べることができる。ベストフォーカス面で撮影したデジタル画像が、必ずしも細胞の生死を判断するのに最良のものではないことも、本発明の実施形態に関する研究によって示されている。死細胞は、デジタル画像のスタックのすべてのデジタル画像において、死んでいるものとして写る傾向があるが、一方、生細胞は、一部のデジタル画像では生きているものとして写り、他の画像では死んでいるものとして写ることがある。
【0026】
図6は、例示的測定結果を示しており、異なる焦点位置で撮影された画像を個々に解析した場合に、それらによって、総細胞数および生細胞と識別された細胞数について異なる結果が得られる様子を示している。図6において、曲線601は、異なる焦点位置で撮影された9つの画像のそれぞれにおいて自動的に計数された細胞の総数を示している。本例では、画像5が、ベストフォーカス面で撮影されたものとして指定された。図示のように、ベストフォーカスで撮影された画像において、最大数の細胞が識別された。このことは、ベストフォーカスの画像を細胞計数に用いた結果は正確な計数であることを示している。なぜなら細胞計数の誤差は、計数過多よりは計数不足による誤差である傾向があるからである。
【0027】
曲線602は、それぞれの画像を単独で解析した場合に、それぞれの画像において生細胞と特性決定される細胞の数を示している。同様に、曲線603は、それぞれの画像を単独で解析した場合に、死細胞と特性決定される細胞の数を示している。図示のように、画像8では、ほぼすべての細胞が死細胞と特徴付けられることになり、これは、生細胞の相当な計数不足であろう。ベストフォーカス面においてでさえ、生細胞は計数不足である。画像2〜4は、さらに多くの生細胞を示している。上記説明と同様に、生細胞を解析する際の誤差も、計数不足による誤差である傾向があるので、画像2〜4は、より正確に生細胞を特徴付けているとみられる。どの1つの画像も単独で、総細胞計数と生細胞の解析の両方について正確とはならない。また、どの1つの画像も単独で、細胞の生死状態を正確に示しているとは認められない。
【0028】
本発明の実施形態によると、生細胞と死細胞の分類の精度を向上させるため、デジタル画像のスタック内の他のデジタル画像を利用して分類に役立てる。
分類における第1のステップでは、ベストフォーカスで撮影した画像で識別された各細胞を解析することで、それを生細胞と分類することができるかどうかが確認される。生細胞であると確認された場合には、細胞は生細胞と分類され、その細胞に関してさらなる解析を行う必要はない。一方、細胞を生細胞と分類することができない場合には、スタック内の他のデジタル画像を使用して、さらなる解析が行われる。デジタル画像のうちの別のものにおいて、その細胞を見出し、再び解析することで、それを生細胞と分類することができるかどうか、その第2のデジタル画像に基づいて確認する。(ここで、“第2の”とは、解析される2番目の画像を意味し、撮影された2番目の画像でなくてもよい。)生細胞であると確認された場合には、分類が行われ、その細胞に関するさらなる解析は必要ない。細胞が生細胞であることが未だ判明しない場合は、その細胞をスタック内のさらに別の画像において見出してもよく、このプロセスは、細胞が生細胞として識別されるまで繰り返されるか、または解析する画像の所定の最大数に達するまで繰り返されるか、いずれかである。例えば、システムは、ベストフォーカス面で撮影された画像と、それに続きカメラからより遠い位置で撮影された多くて3つの画像とに限って、調べてもよい。システムは、スタックの画像をすべて調べてもよいが、焦点移動行程の最端で撮影した画像における細胞は、焦点から大きく外れている場合があり、これによって、個々の細胞の特定が信頼性に欠けたものになることがある。
【0029】
図7は、このような逐次解析手法を示している。本例では、FP4で撮影した画像が、ベストフォーカス面で撮影されたものとして指定されており、その画像を使用して細胞が計数される。デジタル画像のこの部分に写っている3つの細胞は、細胞701を含めて、すべて死んでいるように見える。細胞701は、この第1のステップでは生細胞と分類されなかったので、FP3で撮影されたデジタル画像を用いて第2の解析が行われる。この第2の解析でもまだ細胞701が生細胞と分類されないと、プロセスは、FP1で撮影された画像の解析によって細胞701が確かに生細胞であることが最終的に示されるまで続いていく。図7にはFP0で撮影された画像を示しているが、これは、細胞701に関しては、最終的に細胞701の状態がFP1で撮影された画像の解析によって判定されたので、解析される必要がない。一方、細胞702は、すべての画像において死んでいるように見えており、従って、死細胞と分類されることになる。
【0030】
このプロセスは、識別された細胞のリストにあるすべての細胞について実行してもよく、システムは、解析に基づいて統計をレポートすることができる。例えば、システムは、識別された細胞の総数、識別された生細胞の総数、識別された死細胞の総数、死細胞数に対する生細胞数の比率、試料中の細胞の濃度(例えば、1マイクロリットル当たりの細胞数で測定される)、試料中の生細胞の濃度、またはこれらの任意の組み合わせをレポートすることができる。他の統計を同様にレポートすることもできることは、当業者であれば分かるであろう。
【0031】
また、デジタル画像のスタックを撮影する間に細胞が移動し得ることも観測されている。上記の分類プロセスは、少なくとも一部の細胞については、スタック内の複数の画像で同じ細胞を見つけることに依存するので、複数の画像で特定の細胞を見つけることの信頼性を向上させるために、細胞の浮動を考慮することが望ましい。
【0032】
例えば、図8Aは、ベストフォーカス面で撮影されたデジタル画像の一部分801を示しており、2つの細胞AおよびBを含んでいる。この画像部分は、“領域”と呼ばれることがあり、細胞Aを分類する目的で、ベストフォーカスで撮影された画像における細胞Aの位置に中心が置かれている。領域のサイズは、領域内での細胞の浮動に対応できるように十分大きく、しかし計算効率のために十分小さく、選択される。一例の実施形態では、領域801は、一辺が60〜150ピクセルとすることができる。図8Bは、後の画像から抽出された同じ領域を示しており、後のこの画像に上記の細胞計数手順を適用することで、オブジェクト1および2が識別されている。オブジェクト1および2は、プロセスのこの段階では、そのどちらが細胞Aであり得るのか分かっていないので、細胞ではなく“オブジェクト”と呼ばれる。例えば、図8Bにおいて、オブジェクト1は、図8Aで細胞Aが写っていたのとほぼ同じ位置に写っているので、ロバスト性に劣るシステムでは、これを細胞Aであると仮定することがあり、細胞Aの誤った分類に至る可能性がある。
【0033】
本発明の実施形態によれば、細胞の浮動を考慮するため、第2の画像において、細胞Aの元の位置の近辺にある各オブジェクトを評価し、オブジェクトが細胞Aである尤度を示すスコアを割り当てる。スコアは、そのオブジェクトのサイズと位置、さらには他のオブジェクトの位置に関連する複数の成分を含むことができる。このような検証に基づく複合スコアが、領域内の各オブジェクトに対して生成され、最高スコアを持つものが目的の細胞(本例では、細胞A)であるとみなされる。
【0034】
例えば、オブジェクト1とオブジェクト2の両方のサイズを、細胞Aのサイズと比較してもよい。一例の実施形態では、次の式に従って、各オブジェクトにサイズ・スコアを割り当てる。
【0035】
サイズ・スコア=100−abs(細胞Aのサイズ−オブジェクトのサイズ)/オブジェクトのサイズ
この例示的な式によると、細胞Aと同じサイズのオブジェクトには、100点のサイズ・スコアが付けられ、細胞Aより大きいか、または小さいオブジェクトには、それより低いスコアが付けられることになる。サイズの比較を反映する他の式を用いてもよい。第2の画像の領域にオブジェクトが1つのみしか写っていない場合であっても、非常に低いサイズ・スコアを用いて、そのオブジェクトは目的の細胞ではないと判断することができる。
【0036】
オブジェクト1および2には、さらに、細胞Aの元の位置への近接度に基づいてスコアを付けてもよい。一例の実施形態では、次の式に従って、各オブジェクトに位置スコアを割り当てる。
【0037】
位置スコア=(100−abs(オブジェクトX*100)/領域の幅)+100−abs(オブジェクトY*100/領域の高さ)
この例示的な式によると、細胞Aの元の位置に近いオブジェクトには、細胞Aの元の位置から遠いオブジェクトよりも高い位置スコアが割り当てられることになる。同様に、他の式を考案してもよい。
【0038】
後の画像の領域に1つよりも多くのオブジェクトが見つけられる場合には、各オブジェクトについて、追加の“近傍浮動”スコア成分を、そのオブジェクトと他のオブジェクトの集団的浮動挙動に基づいて計算してもよい。例えば、オブジェクト1が細胞Aであると(誤って)仮定すると、図8Aと8Bの2つの画像の撮影の合間に、それは僅かに上と左に浮動したことになる。領域内の他のオブジェクトは、ほぼ同じ浮動挙動を示すであろうと仮定すると、オブジェクト2も同様に、僅かに上と左に浮動したことになる。この仮説は、後の画像におけるオブジェクト2の位置から僅かに下かつ右にあるオブジェクトを元の画像で探すことにより、つまり、オブジェクト1が細胞Aであるならばオブジェクト2が元々あったはずの場所を探すことにより、検証される。これを、図8Cおよび8Dに示している。オブジェクト2が、矢印802で示すように、オブジェクト1に仮定された浮動と同様に浮動したと仮定すると、ベストフォーカスの画像において、破線の円2’によって示す位置にオブジェクト2が見つかることが予想される。ベストフォーカスの画像では、位置2’に細胞は見つからないので、オブジェクト1の近傍浮動スコアは非常に低いか、またはゼロである。オブジェクト1が細胞Aであるという仮説は、近傍浮動評価によっては全く支持されなかった。
【0039】
次に、オブジェクト2が、2つの画像の撮影の合間に浮動した細胞Aであり得るかどうかを確認するための検証を行う。上述のように、オブジェクト2は、細胞Aと同じサイズであるので、そのサイズ・スコアは高くなる。本例では、オブジェクト2は、その浮動スコアも高くなり、複合スコアは、オブジェクト1よりもオブジェクト2が細胞Aである可能性が遥かに高いことを決定的に示すことになる。オブジェクト2の浮動スコアは、図8Eおよび8Fに示すようにして求められる。オブジェクト2が本当に細胞Aであるならば、フレームの合間に、ベクトル803で示すように下と右に大きく浮動したことになる。領域内の他のオブジェクトの挙動が同様であるとすると、オブジェクト1も、フレームの合間に下と右に大きく浮動したオブジェクトであるはずである。それが本当であれば、ベストフォーカスの画像において、後の画像におけるオブジェクト1の位置の上方かつ左の位置に、つまり、オブジェクト2が細胞Aであるならばオブジェクト1が元々あったはずの場所に、オブジェクト1と類似したオブジェクトが見つかるはずである。ベストフォーカスの画像においてベクトル803の向きを逆にして指し示される、円1’で示す場所を見ると、予想される位置の極めて近くに、実際にオブジェクトが見つかる。これは、細胞Aに仮定された浮動が、領域内の他のオブジェクトに見られる浮動と一致していることを示しており、これによって、オブジェクト2が細胞Aであるということが一層支持される。
【0040】
一例の実施形態では、オブジェクト2の浮動スコアは、次の式に従って計算される。
近傍浮動スコア=(100−abs(B中心X−1’中心X))+(100−abs(B中心Y−1’中心Y))
この式を用いると、ベストフォーカスの画像において予想される位置に正確にオブジェクトが見つかる場合には、200点の近傍浮動スコアとなる。浮動スコアについて、他の式を考案することもできる。第2の画像に2つよりも多くのオブジェクトが写っている場合には、複数の近隣オブジェクトの挙動を反映する累積的近傍浮動スコアを計算することができる。例えば、上記の例のように領域内にオブジェクトが2つのみ写っている場合には、3つのスコア成分の式の例に従って得られる最大可能累積スコアは500点となる。一方、領域内に3つのオブジェクトが写っている場合には、サイズ検証による100点と、位置検証による200点と、近傍浮動検証による各近隣オブジェクトの200点とで、最大可能累積スコアは700点となり得る。領域内に多数のオブジェクトが写っている場合には、複合スコアの累積的近傍浮動スコア成分を、他の成分より優位としてもよい。あるいは、近傍浮動スコアを平均して、平均近傍浮動スコアを計算することができる。スコア成分について、他の様々な重み付けおよび組み合わせが可能であり、また、他のスコアリング手法の使用が可能であることが想定される。
【0041】
本例では、オブジェクト2は、複合スコアがオブジェクト1より高くなるので、オブジェクト2が細胞Aであるとみなされる。領域内にさらに多くのオブジェクトが見つかる場合には、それらについても同様にスコア付けが行われることになり、最高スコアを持つオブジェクトが目的の細胞であるとみなされる。
【0042】
後の画像において細胞Aが識別されたら、それを解析して、それを生細胞と特性決定することができるか、死細胞と特性決定することができるかを調べることができる。それが生細胞であると判定されない場合には、図8B、8D、および8Fの画像を基本イメージとして用いて、(先ほど細胞Aと識別された)オブジェクト2の位置を細胞Aの目標位置として、さらに後の画像についてプロセスを繰り返すことができる。
【0043】
上記の本発明の実施形態では、複数の取得可能な画像を計算効率的な方法で活用することで、正確な総細胞数と、それらの細胞の生細胞または死細胞としての正確な特性決定を得る。特定の細胞を解析するのに必要な数の画像のみが解析される。また、この方法は、低コストで、比較的低解像度の結像光学系およびセンサを使用して、正確な細胞計数および特性決定を実施することを可能にする。このシステムは、異なる焦点設定で撮影される複数の画像を用いることによって、試料の傾き、像面湾曲、または試料全体での焦点の不均一を引き起こす傾向のある他の作用に対する耐性も備えている。
図1
図3
図5
図2
図4
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F