特許第5793539号(P5793539)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5793539合わせガラスからなる曲面の車両用フロントガラス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5793539
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】合わせガラスからなる曲面の車両用フロントガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/12 20060101AFI20150928BHJP
   B60J 1/02 20060101ALI20150928BHJP
   G02B 3/00 20060101ALI20150928BHJP
   G02B 27/01 20060101ALI20150928BHJP
   B60K 35/00 20060101ALN20150928BHJP
   G09F 9/00 20060101ALN20150928BHJP
【FI】
   C03C27/12 Z
   B60J1/02 M
   G02B3/00 Z
   G02B27/01
   !B60K35/00 A
   !G09F9/00 359
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-141316(P2013-141316)
(22)【出願日】2013年7月5日
(62)【分割の表示】特願2010-536334(P2010-536334)の分割
【原出願日】2008年7月18日
(65)【公開番号】特開2014-24752(P2014-24752A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2013年8月1日
(31)【優先権主張番号】102007059323.8
(32)【優先日】2007年12月7日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】102008008758.0
(32)【優先日】2008年2月12日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】500374146
【氏名又は名称】サン−ゴバン グラス フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミヒヤエル・ラブロツト
(72)【発明者】
【氏名】フオルクマー・オフエルマン
(72)【発明者】
【氏名】ジヤン−エドウアール・ドウ・サラン
【審査官】 吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−209210(JP,A)
【文献】 特表2004−536009(JP,A)
【文献】 国際公開第99/063389(WO,A1)
【文献】 実開平03−099732(JP,U)
【文献】 特開平07−195959(JP,A)
【文献】 米国特許第05013134(US,A)
【文献】 国際公開第02/103434(WO,A1)
【文献】 米国特許第06414796(US,B1)
【文献】 米国特許第05812332(US,A)
【文献】 特開2005−068006(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/12
B60J 1/00 − 1/02
B32B 17/06 − 17/10
G02B 27/01
G09F 9/00
G02B 3/00
B60K 35/00
E06B 3/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外面と内面とを備え、干渉二重像を防ぐまたは低減するために1つ以上の領域で外面と内面とが互いにくさび角を形成する、合わせガラスからなる車両用曲面フロントガラスであって、
外面と内面とが連続的に変化するくさび角を有し、
車両用曲面フロントガラスが、ヘッドアップディスプレイ(HUD)表示フィールドを有し、連続的に変化するくさび角が、HUD表示フィールドの領域では、二重像がHUD表示フィールドの垂直中心線上における全ての点で補償されるように、下縁から上縁に向かって連続的に変化する、車両用曲面フロントガラス。
【請求項2】
連続的に変化するくさび角がさらに、HUD表示フィールドの領域では、水平方向に連続的に変化する、請求項1に記載の車両用曲面フロントガラス。
【請求項3】
連続的に変化するくさび角が、中間フィルムに組み込まれる、請求項1または2に記載の車両用曲面フロントガラス。
【請求項4】
連続的に変化するくさび角を決定する際に、個々のガラス板の変形によって生じる厚さ変化が考慮される、請求項1から3のいずれか一項に記載の車両用曲面フロントガラス。
【請求項5】
前記車両用曲面フロントガラスが、連続的に変化するくさび角が反射時の二重像を防ぐヘッドアップディスプレイ(HUD)表示フィールドを有し、HUD表示フィールドの外側では、連続的に変化するくさび角が、透過時に現れる二重像を防ぐ、請求項1から4のいずれか一項に記載の車両用曲面フロントガラス。
【請求項6】
車両用曲面フロントガラスが、下縁および上縁を有し、垂直方向に湾曲し、連続的に変化するくさび角が、フロントガラスの下縁から上縁に向かって連続的に変化する、請求項1から5のいずれか一項に記載の車両用曲面フロントガラス。
【請求項7】
くさび角が、フロントガラスの下縁から上縁に向かって連続的に減少する、請求項6に記載の車両用曲面フロントガラス。
【請求項8】
連続的に変化するくさび角が、水平方向の曲率が高い領域では、水平方向に連続的に変化する、請求項1から7のいずれか一項に記載の車両用曲面フロントガラス。
【請求項9】
反射時に干渉する二重像の補正に必要な補正くさび角が、反射時に現れる二重像を防ぐために式を使用して計算される、請求項1から8のいずれか一項に記載の車両用曲面フロントガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合わせガラスからなる曲面の車両用フロントガラスに関する。その外面と内面とは、少なくとも優先領域において干渉二重像を防止または低減するために互いにくさび角を形成する。
【背景技術】
【0002】
車両の運転手にとっては、ゴースト像とも呼ばれる二重像は非常に厄介である場合がある。原則として、2つの異なるタイプの二重像、すなわち、一方では特定のコントラスト条件下で透過時に生じる二重像とヘッドアップディスプレイを使用する際に見える二重像との間には違いがある。
【0003】
曲面フロントガラスを透過する際に生じる二重像は、一般に、夜間運転のときに、対向車のヘッドライト像または他の強い光源から現れる。二重像は、光の入射ビームの一部、いわゆる二次ビームが一次ビームに対してある角度をなしてフロントガラスから出るときに、フロントガラスの表面における複数の反射の結果として生じる。一次ビームと二次ビームとの間の角度が、二重像の角度と見なされる。二次ビームの強度は非常に低く、通常は一次ビームの強度の1%未満であるので、二次ビームは暗い環境で拾われる場合、すなわち夜間または暗いトンネルの中を運転するときだけ目に見える。
【0004】
特に、ヘッドアップディスプレイ(HUD)によって生じる二重像が厄介である。HUDでは、運転手にとって重要なデータを含む画像が、運転手側のダッシュボードの上部に配置された光学装置によってフロントガラス上に投影される。画像は運転手の方に向かってフロントガラス上に反射され、運転手は車両の前にあるかのように見える虚像を見ることになる。しかしながら、運転手は2つの別々の像、すなわち、1つはフロントガラスの内面に反射されることで生じる像と、フロントガラスの外面に反射されることで生じる、いわゆるゴースト像の別の像とを見る。
【0005】
透過時に見える二重像は、いわゆるくさび誤差のあるガラス板や曲面のガラス板で生じる。フロントガラスの製造に使用される今日のフロートガラス板は、以前に使用されていたガラス板とは違ってくさび誤差はほとんどないので、二重像は実質的には曲面のガラス板の場合にのみ透過時に見られる。しかしながら、フロントガラスの形状およびそれぞれの設置傾斜角度に従って、二重像は目立たないが厄介な大きさを占める可能性がある。
【0006】
J.P.Acloque「Doppelbilder als storender optischer Fehler der Windschutzscheibe[Double image as interfering optical errors in windshields]」(Z.Glastechn.Ber.193(1970)PP.193−198)によれば、二重像の角度は、以下の式に従って曲率半径と光線の入射角とに応じて計算されることが可能である:
【0007】
【数1】
ここで、ηは二重像の角度であり、
nはガラスの屈折率であり、
tはガラス板の厚さであり、
は入射光線位置におけるガラス板の曲率半径であり、
φはガラス板の垂線に対する光線の入射角である。
【0008】
平面ガラス板を使用すると、ガラス表面によって形成されるくさび角δにおける二重像の角度ηは以下の数によって決まるので、
【数2】
上記の2式が等しいと設定することで、以下の式に従って、所与の曲率半径Rと所与の入射角φを有する二重像を除去するのに必要なくさび角δを計算することができる。
【数3】
【0009】
独国特許出願公開第19535053A1号明細書および独国特許出願公開第19611483A1号明細書から、合わせガラスからなるフロントガラスの製造にくさび形断面を有する接着フィルムが使用されることから、曲面ガラス板における干渉二重像を低減するためには物理的関係を使用することが知られている。くさび角は、平均入射角とフロントガラスの平均曲率半径とに基づいて計算される。本明細書で提案される方法を使用して、フロントガラス全体における二重像の角度の合計が少なくとも20%、特に少なくとも60%低減されることが求められる。接着フィルムのより厚い領域は上面に位置し、フロントガラスの曲率の増加に伴ってくさび角の大きい接着フィルムが使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】独国特許出願公開第19535053号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第19611483号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】J.P.Acloque「Doppelbilder als storender optischer Fehler der Windschutzscheibe[Double image as interfering optical errors in windshields]」(Z.Glastechn.Ber.193(1970)PP.193−198)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
比較的単純な曲面のフロントガラスでは、これらの知られている技術を使用して、すなわち、一定のくさび角を有する接着フィルムを使用して十分な結果が得られる。しかしながら、上方領域および場合によっては両側の領域がより曲率の大きな曲面である、いわゆるパノラマのフロントガラスでは、この方法では二重像を十分に低減できない。したがって、少なくとも複雑な曲面ガラス板では、透過時に運転手をかなり悩ませる可能性のある二重像がまだ見えてしまうことになる。
【0013】
また、HUDに関しては、例えば、欧州特許第0420228B1号明細書から、ゴースト像を低減するために、2枚のガラス板の間にくさび形断面の中間フィルム層を配置することが知られている。このようにして、フロントガラスの2つの表面は互いに平行ではなく、小さな角度をなして、内側のガラス表面と外側のガラス表面とから反射された2つの像が互いに重なる、理想的には、完全に互いを覆うようにすることができる。また、最適なくさび角は、ここでは、フロントガラスの厚さの他に、ガラスの屈折率、観察者の位置、HUD画像ソースの位置によって決まり、個々の場合で、HUDの表示フィールドの領域における光線の入射角およびフロントガラスの曲率半径では最適なくさび角は一定値であると推測されることが可能である。前記特許で示されている数式によれば、くさび角は知られている物理法則に従って計算されることが可能である。
【0014】
平面フロントガラスでは、このようなくさび形断面を有する中間層を使用することでゴースト像は大幅に除去されることが可能である。しかしながら、通常は、フロントガラスは、垂直方向および水平方向に湾曲している。当然、曲面のフロントガラスでは、ゴースト像の影響は、垂直方向の曲率によってすでにある程度低減されており、くさび形の中間層を使用することでさらに改善される。しかしながら、中間層のために選択されたくさび角はHUDの表示フィールド領域の1つの点または線の反射像だけを完全に覆うだけなので、干渉二重像は完全には除去されない。
【0015】
フィルムウェブの幅全体に端から端まで連続して伸びるくさび形の厚さプロファイルを有する中間フィルムの製造業者であれば、技術的な問題はない。しかしながら、製造されたフィルムウェブが保管や出荷のためにロールに巻かれると、ロールは次第に円錐形状をなし、その形状ではロールの取り扱いや輸送の点で問題を生じることになる。これらの問題を避けるために、欧州特許第0647329号明細書から、両端ではウェブ幅の少なくとも20%の幅にわたって均一な厚さプロファイルで、続いて、各々においてフィルムウェブの中心まで広がるくさび形の厚さプロファイルを有するフィルムウェブを製造することが知られている。中央領域のみがくさび形であるこれらのフィルムウェブは、その後、従来の円筒状コアに巻かれる。ウェブは、さらなる加工のために真ん中で切り離され、所望の形状に切断され、ウェブのくさび形部分がHUD表示ウィンドウが配置されるフロントガラスの下部領域にくるようにそれぞれのガラス板と組み合わされる。
【0016】
上方が平行平面で下方がくさび形断面であるそのような中間層を使用すると、完成した合わせガラス板において、遷移領域で、すなわち、平行平面断面とくさび形断面との間の境界に沿って、光学的歪みが発生する。これらの不利点を避けるために、欧州特許第1063205号明細書から、HUD表示フィールドを有するフロントガラスの製造のための中間フィルムが知られており、この中間フィルムは、曲線に応じて厚さが減少する断面プロファイルを含む。この知られている中間層は、HUD表示フィールドが位置するフロントガラスの下部領域にくさび形断面を有し、フロントガラスの上部領域は一定の厚さを有するが、厚さ変化は急ではなく、曲線に応じて減少する。したがって、この遷移領域に生じる光学的歪みは確実に低減されるが、曲線状に伸びる断面プロファイルはHUD表示フィールドの上方にあり、したがって、HUD表示フィールド自体で中間フィルムが一定のくさび角を維持するので、曲線状に伸びる断面プロファイルはゴースト像にさらに影響を与えることはない。
【0017】
自動車の開発は、ヘッドアップディスプレイを使用して、より多くのデータがますます運転手に利用可能になることを目指している。これは、一方では、ディスプレイの線幅がますます狭くなることを意味する。しかしながら、線幅が狭くなるとともに、ゴースト像の線は実像の線と区別して表示され、したがって、観察者によって別々に認識され、ゴースト像は特に厄介なものとして体験されることになる。他方では、より広いHUD表示フィールドが追加のデータのために必要とされ、その結果、ゴースト像の出現がHUD表示フィールドの上縁および下縁で多くなる。このような理由から、HUD画質において、ゴースト像をさらに最小限に抑えることに対する需要が増大する。
【0018】
本発明の目的は、曲面フロントガラスにおいて二重像のより広範囲の重なりを達成することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この目的は、2つのガラス表面が入射光線の各々の局所角度およびフロントガラスの各々の局所曲率半径に応じて連続的に変化するくさび角を有する本発明のフロントガラスによって達成される。
【0020】
結局は、ガラス表面により形成されるくさび角の変化(progression)のみが二重像およびその補正に関与するので、原理としては、必要とされるくさび角変化を合わせガラスの製造に使用される個々のガラス板の一方に組み込む、または両方のガラス板に組み込むことが可能である。しかしながら、本発明は、必要とされる連続的に変化するくさび角がフロントガラスの製造に使用される熱可塑性中間フィルムに組み込まれる場合には、経済的に製造可能である。
【0021】
比較的急な曲面のガラス板は、ガラスが領域的に伸張された結果、厚さのわずかな変化を伴うことが多い。したがって、連続的に変化するくさび角を決定するときに、個々のガラス板の変形によって引き起こされる厚さ変化を考慮に入れるのが望ましい。
【0022】
水平方向、例えば、側方端部領域でも比較的急な曲面で、そのために、これらの領域で透過時に厄介な二重像を発生させるような複雑な曲面のフロントガラスは、フロントガラスの表面が水平方向でも連続的に変化するくさび角を有する本発明の適切な改良形態に区別される。このようなフロントガラス向けに、複雑な厚さプロファイルの中間フィルムが、例えば、2枚の交差したくさび形フィルムを積み重ねることで、またはその後の中間フィルムの表面被覆によっても得られる。
【0023】
しかしながら、垂直方向および水平方向の両方向が比較的急な曲面であるガラス板の複雑な形状と共に、ビーム経路がもう一平面にはなく三次元になる場合の補正くさび角の変化の計算を考慮しなければならない。
【0024】
必要とされるくさび角の変化とその結果得られる中間フィルムの厚さプロファイルとは、各ガラス板の形状に対して別個に計算されなければならない。便宜上フロントガラスの垂直中心線に沿ったフロントガラスの形状およびフロントガラスの設置傾斜角度が、透過時に発生する二重像の除去に必要な補正くさび角の計算の基準となる。この中心線に従って、フロントガラスの下縁から順に、これらの位置で各々の場合に必要な補正くさび角は、上述した式(3)を使用して決定される。これらの計算は、フロントガラスの上縁まで継続される。このようにして、ガラス板の高さ全体にわたって完全なくさび角の変化が決定される。このように決定されたくさび角変化から、熱や圧力を使用して個々のガラス板と互いに接着される熱可塑性中間層の厚さプロファイルが計算される。この厚さプロファイルは、ガラス板の接着後、完成した合わせガラス板に移される。
【0025】
二重像の角度と対応する局所補正くさび角を計算するために、二重像の角度を決定するためのTest Specification ECE R43 Annex 3で推奨されるような配置が選択され得る。この配置によって、運転手の頭が垂直に下縁位置から上縁位置まで動くときに、二重像の角度が決定される。すなわち、運転手の視野方向は、常に水平に保たれる。しかしながら、好ましくは二重像の角度は運転手の一定の中央位置(目の位置)から計算されるような配置が選択されるが、その配置では、フロントガラスを通した運転手の視角は変化する。この配置は、検査規格で示されている配置よりもより実践に対応していることがわかった。
【0026】
本発明の厚さプロファイルは、フィルムの押出時に適切なスロットノズルを使用することで得られる、または適切な温度プロファイルで加熱されたフィルムを選択的に伸張しても得られる。しかしながら、その後のフィルムの被覆によって所望の厚さプロファイルを生成することも可能である。これらの方法は、例えば、押出時に適切なスロットノズルを使用して一方向の厚さプロファイルを、またその後の適切なフィルムの伸張によって他方向の厚さプロファイルを生成することで組み合わされてもよい。
【0027】
HUD装置の表示フィールドに現れる二重像を除去するために、フロントガラスはHUD表示フィールドの領域のみに本発明のくさびプロファイルを有する必要がある。すなわち、フロントガラスの外面と内面とが、この表示フィールドで垂直方向に、HUD表示フィールドの下縁からHUD表示フィールドの上縁まで連続的に変化し、HUDフィールドの垂直中心線上のどの点においても二重像を補正するくさび角を有する。
【0028】
このように連続的に変化するくさび角によって、HUD表示フィールドの領域では、フロントガラスの厚さは線形変化ではなく精密に計算された曲線変化となる。像の完全に重ねるために必要なくさび角変化は、HUD表示フィールドの高さ全体にわたって決定されることが可能である。
【0029】
垂直方向曲率(横断方向曲率)と設置傾斜角度との結果で、透過時に二重像を形成しやすいフロントガラスで、さらにHUD表示フィールドを有するフロントガラスに対して、本発明の改良形態では、反射時の二重像の発生が抑えられるように、詳細に後述する式を使用してHUD表示フィールドにおけるくさび角変化が計算され、ガラス板の残りの表面では、HUD表示フィールドの外側で透過時の二重像の発生が抑えられるように、上述のJ.P.Acloqueの式を使用して、くさび角変化が決定される。
【0030】
横断方向曲率が非常に小さいフロントガラスでは、二重像が形成される危険性はほんのわずかであるので、HUD表示フィールドの外側で透過時に二重像を補正するくさび角は、実質的には0である。しかしながら、HUD表示フィールドに必要とされるくさび角変化を有するフィルムは、通常は製造上の都合からHUD表示フィールドの外側でもくさび角を有するので、過剰補正のために、HUD表示フィールドの外側の領域で、くさび角を持たないフィルム、すなわち平行な表面では現れない二重像が、透過時に発生する影響が出る場合がある。この影響は、接着フィルムを適切に成形することによって防ぐことができる。
【0031】
以下では、本発明は、各々の場合に、例示的な実施形態および図面を参照して詳細に説明されている。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】透過時に二重像を形成してしまうビームの進行(progression)を示す簡略図である。
図2】特定のフロントガラスの形状で、目の位置から見たフロントガラスの高さ全体にわたる二重像の角度の変化を示す図である。
図3】フロントガラスの高さ全体にわたる計算された補正くさび角の変化を示す図である。
図4】補正くさび角に対応する中間フィルムの厚さプロファイルの進行を示す図である。
図5】ヘッドアップディスプレイと共にゴースト像を形成してしまうビーム経路を示す概略図である。
図6図5と同じビーム経路であるが、HUD表示フィールドに本発明のフロントガラスの形状を使用した場合のビーム経路を示す図である。
図7】本発明に従った、HUD表示フィールドの領域におけるガラスの内面と外面との間のくさび角の変化を示す図である。
図8】所望のくさび角変化が中間フィルムの厚さプロファイルによってのみ得られる場合のHUD表示フィールドの領域における中間フィルムの厚さプロファイルの進行を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は、ビームが曲面フロントガラス1を通過するのに伴って、運転手の目2で、透過時に二重像を発生させてしまうときの基本ビームの進行を示す図である。ガラス板1の2つの表面上で2重に偏向された後に一次ビームP’として運転手の目2に入る一次光線Pは、光源3から発せられる。しかしながら、目は強い光源3を一次ビームP’の延長上の一次像3’として見る。ガラス板1内部では、一次ビームPのほんの一部がガラス表面で二回反射され、ガラス板から二次ビームSとして出る。運転手の目2は、二次ビームSの延長上の二重像3’’を見る。光源3から発する一次ビームがガラス板1にぶつかる領域では、ガラス板1は曲率半径Rの曲率を有する。一次ビームP’と二次ビームSとによってなされる角度は、いわゆる二重画像の角度ηである。
【0034】
以下の説明では、本発明のくさび角変化の決定の計算は、開発車両向けに設計された特定のフロントガラスの型に対して実行される。
【0035】
計算は、フロントガラスの中央で運転手の目で作られた二重像の角度ηが、実際の設置角度や平均の目の位置を考慮して、上述の式(1)に従って垂直断面に沿って計算されるように進められる。
【0036】
以下の表1では、フロントガラスの垂直中心線上の点は、その各々の点において二重像の角度の計算が行われるが、ボンネットの端部MKからのmm単位の距離で画定される。これらの測定点では、各々の場合に以下の値、つまり、一方では、曲面のガラス板上の接線の垂線によって決まる傾斜角度φと、他方では、ガラス板の曲率半径Rとが決められる。これらのデータから、上述の式(1)を使用して、まず、二重像の角度ηが計算され、その後、式(3)を使用して、この位置で二重像を補正するのに必要なくさび角δが計算される。この計算の式では、ガラスの屈折率は1.52であり、フロントガラスの厚さtは4.96mmであると推定される。フィルムの厚さは、くさび角のために計算された値を使用して決められる。
【表1】
【0037】
従来の標準的なフィルムでは、フロントガラスの穿刺抵抗の理由から厚さは0.76mmであるので、本発明の中間層と併せたフィルムの厚さは最も薄い点において、同じように0.76mmの値である。厚さはフロントガラスの上縁の1.399mmまで連続的に増加する。
【0038】
このように二重像の角η、補正くさび角δ、フィルムの厚さのために計算された値は、図2から図4で対応表の形式で示されている。図2は、ボンネット端部MKからの距離の増加に伴う二重像の角度ηの変化(角度の分で)を示しているが、図3は、同様にボンネット端部MKからの距離の増加に伴う補正くさび角δの変化をmradで示している。最後に、図4は、個々のガラス板が熱や圧力を使用して中間フィルムで互いに接着されるときに、ガラスの表面間に必要とされるような一定に変化するくさび角となる中間フィルムの厚さプロファイルを示す。
【0039】
図4では、実線の曲線は、表に対応した本発明の中間フィルムの厚さプロファイルを示す。一方、破線の曲線は、一定のくさび角を有する先行技術に対応する中間フィルムの厚さプロファイルの線形変化を示す。本発明の厚さプロファイルは、明らかに線形の厚さプロファイルとは異なることが明らかに認められる。
【0040】
ガラス板を曲げるプロセスのとき、すなわち、二次元から三次元形状へ遷移するときに、曲げの程度に応じて、ガラス板は一部の領域でわずかに膨張し、このことは必然的に厚さ変化に関係する。これらの厚さ変化は、球状に湾曲したガラス板の場合、局所的により強い熱を受けた領域では数μmになる可能性がある。したがって、フロントガラスの形状に応じていずれかの方向のくさび角変化に影響を与えるようなこれらの必然的な厚さ変化が、くさび角変化の最終決定のために考慮されなければならない。接着プロセス時、すなわち、二次元形状から三次元形状に遷移するときに生じる中間フィルムのわずかな膨張が、くさび角変化の決定の際に考慮されなければならない。
【0041】
わずかな幾何学的偏差であっても、二重像に大きな影響を与える可能性がある。しかしながら、通常は、自動車工学のプロトタイプ段階で、さらにくさび角のプロファイルを正確に所与の状態に適合させることが可能である。
【0042】
上述の例示的な実施形態は、曲面のフロントガラスにおいて透過時に見られる二重像の除去に関して説明したが、以下では、図5から図8を参照して、HUD表示フィールドにおいて発生する二重像の除去に関する例示的な実施形態を説明する。
【0043】
図5図6では、フロントガラス11は、その内面12と外面13とだけが描かれている。それは、繰り返して言うが、これらの2つの表面だけが反射像に関係するためである。フロントガラスの厚さは、値tである。光源14から発する光線Rはガラス板の内面12にぶつかり、この点では、傾斜角θで、円の中心を16とした曲率半径Rを有する。光線は、このガラス表面から同じ角度θで観察者の目15に向かって光線Rとして反射される。観察者の目15は、光源14をフロントガラス11の前方の外側で虚像18として見る。同時に、光源14から発する光線R’は、ガラス板の屈折率に対応する角度(ケイ酸塩ガラスの屈折率と中間フィルムの屈折率とは全く同じであるため、均一な合わせガラス板の屈折率と推測することができる)でガラス板11を貫通し、ガラスの内面で再び反射光線R’として反射された後に観察者の目15に到達する。観察者の目15は、この反射像を光線R’の延長線上で二重像17として見る。
【0044】
図6は、ガラスの外面13をくさび角αにより位置13’に角度再位置決めすることによって、ガラスの外面上で反射される光線が内面12で反射された光線Rと一致するようにシフトされることができ、二重像が完全に虚像18と重なる様子を示す図である。
【0045】
これらの図面からわかるように、くさび角αは、傾斜角θと、この点におけるフロントガラスの局所曲率半径Rと、フロントガラスからの光源の距離Rと、厚さtと、フロントガラスの屈折率とによって決まる。図面内で示されている以下のパラメータは、ゴースト像と虚像とを完全に重ねる最適なくさび角の計算のための式でも現れる:
観察者と虚像との距離
観察者とゴースト像との距離
θ 二次ビームの入射角
θ ガラスの内面を出る二次ビームの角度
η 一次ビームの反射点を通る垂線と二次ビームがガラス板を貫通する点を通る垂線との間の角度
η 一次ビームの反射点における垂線とガラスの外面での二次ビームの反射点における垂線との間の角度
η 一次ビームの反射点における垂線と二次ビームがガラスの内面を出る点における垂線との間の角度
φ 水平線とガラス板内部の二次ビームとの間の角度
φ 水平線とガラスの外面で反射されたガラス板内部の二次ビームとの間の角度
【0046】
この場合、「一次ビーム」はガラスの内面12で反射された光線を指し、「二次ビーム」はガラスの外面13で反射された光線を指すが、これらの光線は始点が同じであり、観察者に同時に見られる。
【0047】
図5で示されている光ビーム経路の虚像は、以下に式に従う一次ビームおよび二次ビームの屈折の法則を使用して決定される:
sin(θ+η)=n・sin(φ+η)およびsin(θ+η)=n・sin(φ+η
【0048】
2枚のそれぞれのガラス板の境界面および中間PVB層は、およそ同じ屈折率n=1.52であるため、ここでの反射は無視される。
【0049】
一次ビームおよび二次ビームの垂直軸上への投影によって、以下の式が得られる。
【0050】
(R+R)sinθ=(Rtanθ+Rtanθ)cosθ+t(tanφ+tanφ
【0051】
くさび角は、主軸との交点を中心としてガラスの外面を回転させることによって得られる。角度αの回転は、その後、角度2αの反射ビームの回転に影響を与える。これは以下の式になる。
【0052】
2α=φ−φ+2η
【0053】
角度ηの決定には、厳密には小角度にのみ有効な近似式が必要である。
【0054】
【数4】
【0055】
【数5】
【0056】
【数6】
【0057】
この式のセットは、数値的に、例えば、入れ子区間によって解くことができる。二重像の除去のための最適なくさび角α=α(R,R,t,θ,n)は、観察者15の距離Rと無関係である。
【0058】
以下で説明する例示的な実施形態では、実際の曲面フロントガラスおよび実際の設置位置の対応するデータが使用された。フロントガラスの厚さは4.46mmで、屈折率は1.52である。約225mmの高さのHUD表示フィールドに関して、HUD表示フィールドの垂直中央線上の11の異なる位置で計算される必要なパラメータと共に計算が行われた。個々のデータおよび必要とされるくさび角の値は、表2に示されている。
【0059】
【表2】
【0060】
図7では、計算されたくさび角変化は、HUD表示フィールドの位置に応じて示されている。HUDフィールドの下縁からの距離mmを示す横軸のデータおよびmradで示される関連するくさび角の全ての値は、HUD表示フィールドの垂直中央線を参照する。くさび角は、HUD表示フィールドの領域で表示フィールドの下縁の0.482mradから上縁の0.370mradへと直線的に減少する。熱可塑性フィルムを製造するときには、このようなくさび角変化は押出機ノズルの対応する構造を使用して実現されることが可能である。
【0061】
このくさび角変化が熱可塑性の中間層の厚さプロファイルにどのように影響するかは、厚さプロファイルの対応する変化によって判断される。表3は、HUD表示フィールド内の個々の位置におけるフィルムの厚さの値を示している。
【0062】
【表3】
【0063】
計算は、HUD表示フィールドがフロントガラスの下縁から300mmの距離を始点とし、この下端領域のくさび角は一定で、HUD表示フィールドの下縁の値に対応することを前提としている。これらの仮定では、フロントガラスの下縁のフィルムの厚さは標準の厚さの0.76mmに対応する。HUD表示フィールドの上方および下方では、この例では、同様に一定のくさび角であり、そのためにフィルムの厚さはこれらの領域では直線的に増加すると推測される。
【0064】
しかしながら、透過時の二重像がHUD表示フィールドの外側で適切に補正されない場合、特に、フロントガラスの上部領域で、上述の計算方法に従ってくさび角変化を連続的に変化させて、透過時の二重像が形成される危険性をかなり避けることができる。
【0065】
HUD表示フィールドからガラス板の上部領域への遷移領域にさまざまなくさび角が現れる場合、特定の遷移領域内の曲面の遷移に合わせて、光学干渉を防ぐことができる。HUD表示領域でHUD機能が低減されないように、遷移領域はHUD表示フィールドの外側に位置しなければならない。
【0066】
図8では、曲線20は、表3に対応する中間フィルムの厚さプロファイルを示す。一方、曲線21は、一定のくさび角を有する中間フィルムの厚さプロファイルの線形変化を示す。曲線20は、225mmの高いHUD表示フィールドの上下では線形である、すなわち、一定のくさび角を有するが、HUD表示フィールドの領域では明らかに直線からそれる曲線状変化をする。
【0067】
この場合でも、曲げプロセスのときに必然的に生じるガラス板の厚さ変化および、同様に接着プロセスのときに生じる中間フィルムのわずかな膨張も最終のくさび角変化の決定の際に考慮されなければならない。
【0068】
小さな幾何学的偏差でも、HUD表示フィールドの光学特性に大きな影響を与える可能性がある。しかしながら、通常は、自動車工学のプロトタイプの段階で、くさび角プロファイルを正確に所与の状態に適合させることが可能である。
【0069】
要するに、夜間運転のときに透過時に合わせガラスからなる曲面のフロントガラスで生じる干渉二重像やヘッドアップディスプレイによって反射時に生じる干渉二重像は、くさび形の熱可塑性中間フィルムによって低減されることが可能である。二重像の補正に必要なくさび角プロファイルは、ガラス板形状と設置状態に応じて局所的に決定される。車両がヘッドアップディスプレイシステムを有する場合、くさび角変化は、HUD表示フィールドで、反射時の二重像が妨げられるように決定されることが可能である。しかしながら、HUD表示フィールドの外側では、透過時の二重像を補正するくさび角変化が選択される。特異的に適合されたくさび角プロファイルによって、一定のくさび角を有するフィルムの場合よりも、二重像をより適切に補正することができる。
【0070】
したがって、本明細書で示されているのは、合わせガラスからなる車両用曲面フロントガラスとそれに関する方法である。フロントガラスおよび方法は、特定の実施形態やその応用形態を使用して説明されてきたが、当業者によって、本開示の精神や範囲から逸脱せずに多数の変更や変形が可能であることは理解されたい。したがって、請求項の範囲内では、本開示は本明細書で具体的に説明した方法でなく、それ以外の方法で実行されてもよいことは理解されたい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8