(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(i)数平均分子量が5000以上で、末端基がヒドロキシル基であり、酸成分の少なくとも一種類がコハク酸類である脂肪族ポリエステルプレポリマーをその融点以上の溶融状態にしたものに、該脂肪族ポリエステルプレポリマーのヒドロキシル基の1/10〜2当量相当のジイソシアネートを定量的に圧入する工程、
(ii)定量かつ連続的に(i)で得られたジイソシアネートを含有する脂肪族ポリエステルプレポリマーをスタティックミキサーで混合した後、スタティックミキサーから流出させ、増粘用反応槽に供給する工程、
(iii)増粘用反応槽において、脂肪族ポリエステルプレポリマーとジイソシアネートを反応させる工程を含み、
前記(i)工程でジイソシアネートは前記溶融状態の脂肪族ポリエステルプレポリマー中へ気相部と接触することなく注入される、高分子量化された脂肪族ポリエステルの製造方法。
前記スタティックミキサーと前記増粘用反応槽の間に混合槽をさらに設け、前記(ii)のスタティックミキサーから流出した脂肪族ポリエステルプレポリマーを、該混合槽に流入させ、さらに攪拌しながら該混合槽から流出させ、増粘用反応槽に供給する工程を含む、請求項1に記載の高分子量化された脂肪族ポリエステルの製造方法。
前記(ii)の混合槽は、上部に前記ジイソシアネートを含有する脂肪族ポリエステルプレポリマーの流入口、底部に脂肪族ポリエステルプレポリマーとジイソシアネートの混合物を流出する流出口、かつ1以上の仕切板および撹拌翼を有する、請求項2に記載の高分子量化された脂肪族ポリエステルの製造方法。
脂肪族ポリエステル中の多価アルコール成分の少なくともひとつがエチレングリコールである、請求項1〜9のいずれかに記載の高分子量化された脂肪族ポリエステルの製造方法。
脂肪族ポリエステル中の多価アルコール成分の少なくともひとつが1,4−ブタンジオールである、請求項1〜9のいずれかに記載の高分子量化された脂肪族ポリエステルの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明では、数平均分子量が5000以上で、末端基がヒドロキシル基であり、酸成分の少なくとも一種類がコハク酸類である脂肪族ポリエステルプレポリマーに、その融点以上の溶融状態において、ヒドロキシル基の1/10〜2当量相当のイソシアネート基を有するジイソシアナートを圧入して添加することにより、高分子量の脂肪族ポリエステルを連続して、安定的に工業的に製造する方法である。
本発明で使用するコハク酸類は、コハク酸もしくはその誘導体(ジエステル、モノエステル、無水物など)である。具体例としては、コハク酸;コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチルなどのコハク酸エステル;無水コハク酸などが挙げられる。これらの中でも、コハク酸、コハク酸ジメチル、無水コハク酸が好ましい。コハク酸またはその誘導体は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0013】
上記酸成分として、その一部をコハク酸類以外のジカルボン酸類で置換してもよい。具体的には、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、アゼライン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸、ダイマー酸等の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基を有するジカルボン酸;アジピン酸ジメチル、マロン酸ジメチルなどの前記ジカルボン酸のエステル;無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水アジピン酸等の酸無水物;リンゴ酸、酒石酸、クエン酸などのオキシカルボン酸などが挙げられる。これらの中でも、アジピン酸またはアジピン酸ジメチル等のアジピン酸誘導体が好ましい。
【0014】
上記コハク酸類以外のジカルボン酸成分の使用量は、酸成分としてのジカルボン酸全体の0〜35モル%程度、好ましくは0〜25モル%程度である。
【0015】
本発明の製造方法で使用する脂肪族ポリエステルを製造するための、多価アルコールとして、グリコールを用いる。例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール等の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基を有する脂肪族グリコール類;1,2−グリコールに対応するエポキシド;トリメチロールプロパンなどの3価以上のアルコール;ジエポキシド類などが挙げられる。これらの中でも、エチレングリコールおよび1,4−ブタンジオールが好ましく、1,4−ブタンジオールが更に好ましい。
【0016】
用いるグリコール成分の量は、所望するポリエステルの物性によっても異なるが、一般には、ジカルボン酸成分1モルに対して、1.02〜1.5モル、好ましくは1.03〜1.2モルである。1.02モルより少ないと、末端基がヒドロキシル基の脂肪族ポリエステルプレポリマーの含有量が少なくなる。
【0017】
脂肪族ポリエステル形成は、通常、触媒の存在下で行われる。触媒は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。触媒としては、エステル交換反応に用いられる広範な触媒を使用できる。例えば、該触媒として、硫酸、p−トルエンスルホン酸、リン酸などのプロトン酸またはその誘導体、または、Li、Mg、Ca、Ba、La、Ce、Ti、Zr、Hf、V、Mn、Fe、Co、Ir、Ni、Zn、Ge、Snなどの金属を含む金属化合物、例えば、有機酸塩、金属アルコキシド、金属錯体(アセチルアセトナートなど)等の有機金属化合物;金属酸化物、金属水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、塩化物などの無機金属化合物が例示される。これらの金属化合物触媒の中でも、チタン化合物、特に、チタンテトラエトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシドなどのチタンアルコキシド等の有機チタン化合物が好ましい。これらの金属化合物触媒の使用量は、酸成分の合計量100モルに対して、0.005〜1モル程度、好ましくは0.01〜0.3モル程度である。
【0018】
また本発明の方法では、触媒として、上記の金属化合物触媒(例えば、有機チタン化合物)とともに、有機または無機のリン化合物を併用することもできる。上記金属化合物と有機または無機のリン化合物とを併用すると、短い重合時間で高分子量のポリマーが得られる。
【0019】
有機または無機のリン化合物には、例えば次のものがあげられる。
(a)リン酸およびその有機エステル類:入手可能な市販品としては、リン酸、アルキルまたはアリール酸性ホスフェート類(アルキル基またはアリール基がメチル、イソプロピル、ブチル、オクチル、フェニル、ナフチル基など)などがある。
(b)ホスホン酸およびその有機エステル類:入手可能な市販品としては、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、フェニルホスホン酸やナフチルホスホン酸等のアリールホスホン酸、ジブチルブチルホスホネートなどがある。前記アリールホスホン酸の芳香環には、例えば、アルキル基(メチル基などのC1−4アルキル基等)、ハロゲン原子(フッ素、塩素原子等)、アルコキシ基(メトキシ基などのC1−4アルコキシ基等)、ニトロ基等の置換基が結合していてもよい。
(c)亜リン酸およびその有機エステル類:例えば、ジブチル水素ホスファイト、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、トリスイソデシルホスファイトなどが挙げられる。
【0020】
触媒として金属化合物触媒と有機または無機のリン化合物とを併用する場合の有機または無機のリン化合物の使用量は、金属化合物触媒(例えば、有機チタン化合物)100モルに対して、1〜100モル、好ましくは5〜33モルである。
【0021】
本発明に使用されるジイソシアナートの種類に特に制限はないが、市販のものがそのまま用いられる。
それらの例としては、例えば2,4−トリレンジイソシアナート、2、4−トリレンジイソシアナートと2、6−トリレンジイソシアナートとの混合体、ジフェニルメタンジイソシアナート、P,P´−ジフェニルジイソシアナート、1,6−ナフチレンジイソシアナート、キシリレンジイソシアナート、水素化キシリレンジイソアナート、イソホロンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナートである。
【0022】
次に、
図1を参照して本発明の実施形態を説明する。ここで、
図1は本発明の製造方法のスキームの一例である。
本明細書では、コハク酸類を含む酸成分をエステル化槽3に供給する計量ホッパー1、グリコール成分をエステル化槽3に供給するグリコール貯槽タンク2、酸成分とグリコール成分とを混合しエステル化するエステル化槽3、エステル化槽3で形成された脂肪族ポリエステルプレポリマーをエステル交換反応で脱グリコール化するエステル交換反応槽4、ジイソシアネート貯槽タンク5、脂肪族ポリエステルプレポリマーとジイソシアネートを混合するスタティックミキサー6、脂肪族ポリエステルプレポリマーとジイソシアネートをさらに混合する任意の混合槽7、混合された脂肪族ポリエステルプレポリマーとジイソシアネートを反応させて高分子量化脂肪族ポリエステルを得るための増粘用反応槽8、最終的に得られた高分子量化脂肪族ポリエステルをペレット化するペレタイザー9として記載する。
また、グリコール貯槽タンク2とエステル化槽3は配管10aで接続され、エステル化槽3とエステル交換反応槽4は配管10bで接続され、エステル交換反応槽4とスタティックミキサー6は配管10cで接続され、ジイソシアネート貯槽タンク5は配管10dを介して配管10cに接続され、スタティックミキサー6と混合槽7は配管10eで接続され、混合槽7と増粘用反応槽8は配管10fで接続され、増粘用反応槽8とペレタイザー9は配管10gで接続される。
【0023】
コハク酸類を含む酸成分は計量ホッパー1からエステル化槽3に供給される。コハク酸類以外の酸成分を使用するときは、予めコハク酸類との混合物を調製して計量ホッパー1よりエステル化槽3に供給することもでき、また、別の計量ホッパーを使用して、コハク酸類とは別個にエステル化槽3に供給することができる。
また、触媒は触媒を供給するためのタンク(図示せず)からエステル化槽3に添加される。なお、各反応で使用する触媒を一括してエステル化槽3に添加してもよく、エステル交換反応槽4で必要な触媒を添加してもよい。
【0024】
グリコールは配管10aを通じてエステル化槽3に供給される。この配管10aにはポンプ11aが設けられており、さらに、グリコールの供給量を計量するための計量計が設置され、ポンプの供給を自動停止することが可能である。ここで使用するポンプとしては、渦巻きポンプ、タービンポンプ、プロペラポンプ等が挙げられる。
また、配管10aはグリコールの結晶化を予防するために温度をグリコールの融点以上に設定してある。グリコールの種類によりその温度は異なるが、一般に30℃〜50℃に維持しておくことが望ましい。
【0025】
エステル化槽3では、反応を効率的に行うために原料を攪拌しながら反応させることが好ましい。そのため、エステル化槽3では攪拌翼が設けられていることが好ましく、例えば、垂直回転軸を有する攪拌翼(例えば、パドル翼、タービン翼等)を備えた縦型攪拌槽などが使用される。
【0026】
エステル化槽3に、所定量の酸成分、グリコール成分、触媒を供給した後、窒素ガス雰囲気下でエステル反応を行う。反応時の温度は、一般に、140℃〜250℃で、好ましくは145〜245℃である。140℃よりも低い温度では反応速度が遅く実用性に乏しい。また、250℃を超える温度では生成したポリマーが熱分解する恐れがある。反応圧力は、通常、常圧であるが、反応時間を短縮するため、反応の後半で系内を減圧、例えば、5mmHg〜100mmHg(665Pa〜13300Pa)にすることもできる。反応時間は、特に限定されないが、一般には6〜12時間である。
このようにして、エステル化槽3で得られる脂肪族ポリエステルプレポリマーは、数平均分子量が500〜5,000程度である。
【0027】
エステル化槽3で得られた脂肪族ポリエステルプレポリマーは、配管10bを介して速やかにエステル交換反応槽4に移送される。必要に応じて触媒を添加し、エステル交換反応を行う。この工程では、主に脂肪族ポリエステルプレポリマー同士のエステル交換反応(脱グリコール縮合反応)により高分子量化が進行して、数平均分子量が5000以上で、末端基がヒドロキシル基の脂肪族ポリエステルプレポリマーが生成する。
ここでのエステル交換反応における温度は、200〜250℃、好ましくは210〜240℃である。重合温度が低すぎると反応時間が長くなり、生産効率が低下しやすい。また、重合温度が高すぎるとポリマーが着色したり、分解生成物が生じやすくなったりする。脱グリコール縮合反応を進行させるためには、系内を減圧にする必要がある。反応終了時の最終到達圧力は0.1mmHg〜5.0mmHg(13Pa〜666Pa)であり、反応時間は、5〜10時間程度である。
なお、本発明におけるエステル化反応及びエステル交換反応は溶媒を用いない塊状重合であるが、必要により溶媒を使用してもよい。
【0028】
エステル交換反応槽4としては、上記のエステル化槽3のようなポリエステルプレポリマーを製造する際に通常使用する重合装置や、高粘度用重合装置を利用できる。このような重合装置として、例えば、垂直回転軸を有する攪拌翼(例えば、ダブルヘリカルリボン翼、ねじり格子翼等)を備えた縦型攪拌槽などが挙げられる。
【0029】
数平均分子量が5000以上で、末端基がヒドロキシル基の脂肪族ポリエステルプレポリマーは配管10cを介してスタティックミキサー6に移送される。通常、エステル交換反応を経て得られる脂肪族ポリエステルプレポリマーは数平均分子量で5000〜30,000、好ましくは10,000〜20,000である。
ここでの脂肪族ポリエステルプレポリマーは粘度が高いため、ジイソシアネートと混合するためには温度を上げて溶融状態にする必要がある。しかしながら、溶融状態下の脂肪族ポリエステルプレポリマーとジイソシアネートを単純に混合すると、ジイソシアネートが気化して混合槽のヘッドスペースに偏在し、所定の割合で均一に混合することができない。また、気相部の混合槽壁面にジイソシアネートが付着し、ジイソシアネートが反応に寄与しないため、十分な高分子量化が不可能になる。
そのため、配管10cにジイソシアネートが圧入できる注入口を設け、ポンプを用いて定量的にジイソシアネートを気相部なしに脂肪族ポリエステルプレポリマーの内部へ直接注入することでジイソシアネートの気化を抑えることができる。
あるいは別の実施態様として、スタティックミキサー6にジイソシアネートが圧入できる注入口を設け、そこからジイソシアネートを注入してもよい(図示せず)。この時の注入口はスタティックミキサーの中心部から、上流側(配管10c側)に設けられることが望ましい。
【0030】
配管10cにはポンプ11bが備えられる。このポンプは高温、高粘度の脂肪族ポリエステルプレポリマーを移送するためのものであり、そして定量的にかつ連続的に配管10cを移送させる定量ポンプであることを要する。ここで使用する定量ポンプは、容積ポンプが好ましく、高粘度でも使用可能な回転式ポンプが好ましい。具体的には、回転式ポンプとして、ギアポンプ、ねじポンプ、ベーンポンプが挙げられる。これらの中でも定量性が高く、高粘度流体を移送するのに最も適しているギアポンプが好ましい。
定量性をより高めるため、定量ポンプをサーボモーター駆動にして流量制御してもよい。
【0031】
配管10cを脂肪族ポリエステルプレポリマーが移送される速度は、装置のスケール、配管10cの口径等により影響されるが、一般に、後段の混合槽での平均滞留時間が2〜10分に相当する速度の範囲で一定の速度で維持される。この速度より早いとジイソシアネートと脂肪族ポリエステルプレポリマーの混合が不十分になる場合があり、遅すぎると反応が進行して重合物の粘度が上がり混合槽からの排出が困難になる。
なお、この速度は、主にポンプ(11b)の回転数により調整する。
【0032】
溶融状態の脂肪族ポリエステルプレポリマーは、配管10cにおいて充満された状態で移送される。つまり、配管10cはほとんど空隙がない状態で脂肪族ポリエステルプレポリマーにより満たされる。配管10cにおける空隙率は5%未満、好ましくは2%未満、更に好ましくは1%未満である。ジイソシアネートは脂肪族ポリエステルプレポリマー中へ配管10cの空隙部(気相部)と接触することなく注入されることが望ましい。空隙率が多いと配管10dから圧入されたジイソシアネートが気化してその空間に留まり、後の混合工程で効率よく、ジイソシアネートと脂肪族ポリエステルプレポリマーが混合されなくなる。
また、スタティックミキサー6に注入口を設けて、そこからジイソシアネートが注入される場合、上記同様、スタティックミキサー6は溶融状態の脂肪族ポリエステルプレポリマーにより満たされる。スタティックミキサー6における空隙率は5%未満、好ましくは2%未満、更に好ましくは1%未満である。ジイソシアネートは脂肪族ポリエステルプレポリマー中へスタティックミキサー6の空隙部(気相部)と接触することなく注入されることが望ましい。
【0033】
ジイソシアネート貯槽タンク5は配管10dを介し、配管10c又はスタティックミキサー6に設けられた注入口で連結される。配管10dには定量ポンプ11cが設けられており、ジイソシアネートが定量的、連続的に脂肪族ポリエステルプレポリマーに供給される。使用する定量ポンプとして、無脈動定量ポンプが望ましく、この場合は、少量輸送の低粘度流体に適した往復動式ポンプが好ましく、ダイヤフラムポンプ、ピストンポンプ、プランジャーポンプが挙げられる。流量を安定させ、精度を高めるために、多連のプランジャーポンプを使用することも好ましい。さらに、定量性をより高めるため、定量ポンプをサーボモーター駆動にして流量制御してもよい。
なお、無脈動ポンプとは、複数のポンプを並列配置し、複数のポンプの流量の総和が一定となる、すなわち流量が無脈動となるポンプを言い、現在多岐にわたり使用されている。
【0034】
ジイソシアネートを、脂肪族ポリエステルプレポリマーのヒドロキシル基の1/10〜2当量相当で定量的に圧入する。この時、常温下、ポンプを用いて配管10dのジイソシアネートに0.5〜1MPaの圧力を与える。
【0035】
配管10cでジイソシアネートを圧入する場合、ジイソシアネートが圧入された脂肪族ポリエステルプレポリマーが、配管10cを通じてスタティックミキサー6の注入口より定量的、連続的に供給される。スタティックミキサー6でジイソシアネートを圧入する場合、ジイソシアネートの圧入及びスタティックミキサーへの流入が同時に行われることになる。
【0036】
本発明で使用するスタティックミキサーとは、流体を配管内に通過させることにより混合分散を行う駆動部を持たない静止型混合器のことをいい、混合エレメントと称される翼が一列に管又は流路中に並べられたものである。
スタティックミキサー6として、混合エレメント形状は、スパイラルタイプとステータタイプの2種類が上げられるが、ジイソシアネートが圧入された脂肪族ポリエステルプレポリマーが高粘度であるため、スパイラルタイプが望ましい。脂肪族ポリエステルプレポリマーがスタティックミキサーを通過するときは、温度が160℃〜200℃、速度が5.0〜27cm/secであることが、良好な混合を得るために望ましい。
また、脂肪族ポリエステルプレポリマーが数百ポイズ程度の中粘性の流体であることから、良好な混合を得るためのエレメント数は6以上が必要であり、好ましくは、12以上である。
【0037】
本発明において、スタティックミキサーで脂肪族ポリエステルプレポリマーを混合した後、増粘用反応槽8に直接移送して反応させることができるが、混合槽7を設けて、更なる混合工程を設けることができる。
混合槽7を用いる場合は、スタティックミキサーで混合された脂肪族ポリエステルプレポリマーが配管10eを通じて混合槽7の注入口より定量的、連続的に供給される。
混合槽7として縦型混合機を用いることができ、これは攪拌軸に攪拌翼を備える。攪拌翼として、プロペラ型、パドル型、タービン型、リボン型、特殊パドル型などが挙げられる。これらの撹拌機は2種以上組み合わせてもよい。
【0038】
さらに、混合槽7の一実施形態を
図3に基づき説明する。
図3における混合槽7は上部に原料の流入口7a、底部に混合物の流出口7b、攪拌軸7c、仕切板7d、攪拌翼7e、7fおよび窒素注入口7gを備える。
流入口7aは配管10eと接続され、ジイソシアネートが圧入された脂肪族ポリエステルプレポリマーが、破線矢印で示されるように、ここから流入される。流入された原料は高粘度の液体であり、底部へ攪拌されながら移送される。高分子量化脂肪族ポリエステルを高品質で得るには原料が十分に均一化されることが重要である。そのため、仕切板7dを設けて適度な滞留時間を保ちながら、攪拌翼による攪拌が十分に行われるようにする。なお、7d(仕切板)は7c(撹拌軸)に固定されている。
【0039】
仕切板7dの上下には攪拌翼が備えられる。
図3では7eおよび7f攪拌翼に該当する。攪拌翼7eは水平面に対して90°の角度にある攪拌翼であり、7fは水平面に対して45°もしくは135°に傾けた攪拌翼を表す。攪拌翼は1以上設けることができ、
図3に示すような多段翼で使用する方がより効率的に攪拌できるため好ましい。
【0040】
スタティックミキサー6および混合槽7内で、ジイソシアネートと脂肪族ポリエステルプレポリマーは一定速度で移送されることが重要である。
流入された原料は、スタティックミキサー6および混合槽7のスケール等によるが、一般にスタティックミキサー6内に5〜30秒、混合槽7内に2〜10分滞留した後流出される。
【0041】
なお、窒素流入口7gから注入される窒素は、混合槽内の重合物の排出を促す目的で使用する。この時の窒素による加圧により混合槽内の圧力を0.15MPa〜0.5MPa、望ましくは0.2〜0.4MPaとなるように調節する。
また、撹拌翼回転数は50〜200rpmとなるように調整する。
【0042】
スタティックミキサー6および任意の混合槽7で均一に混合された混合物は、配管を通って増粘用反応槽8に移送される。増粘用反応槽は、エステル交換反応槽4で使用可能な重合装置や、高粘度用重合装置を利用できる。このような重合装置として、例えば、垂直回転軸を有する攪拌翼(例えば、ダブルヘリカルリボン翼、ねじり格子翼等)を備えた縦型攪拌槽などが挙げられる。なお、増粘用反応槽7では攪拌せずに反応させることも可能であるが、その場合には、攪拌槽の攪拌翼を回転させずに用いるか、攪拌翼の無い反応槽を用いればよい。
【0043】
増粘用反応槽8での反応温度は130〜210℃、好ましくは160〜200℃である。反応温度が低すぎるとプレポリマーが結晶化し、流動性がなくなり攪拌できなくなる。温度が高すぎると、反応速度が速くなりすぎて、十分な攪拌ができなくなる。また、ここでは、常圧下、上記温度条件下で、一般に2〜10時間、好ましくは3〜8時間反応させる。
【0044】
なお、上記反応終了後に、必要に応じて、結晶核剤、顔料、染料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、滑剤、帯電防止剤、充填剤、強化剤、難燃剤、可塑剤、他のポリマー等を添加してもよい。
【0045】
上記の方法で製造された高分子量化された脂肪族ポリエステルは、配管10gを通ってペレタイザー9に移送され、そこで所望の形状(例えば、ペレット状)に裁断される。
また、高分子量化された脂肪族ポリエステルは高粘度であるため、配管10gにはポンプ11dが備えられる。ポンプ11dは、上記ポンプ11bと同様なポンプが使用可能である。
【0046】
本発明の製造法により得られる高分子量脂肪族ポリエステルは、射出成形、中空成形、押出成形などの慣用の成形法により、フィルムやシート、繊維、発泡体、その他の成形品に成形することができる。また、本発明の製造法により得られる高分子量脂肪族ポリエステルは生分解性を有しているため、ゴミ袋、農業用フィルム、化粧品や洗剤等の容器、釣り糸、漁網、ロープ、手術糸、食品包装材料、医療用容器などの用途に好適である。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
分子量測定は次のGPC測定により行った。
Shodex GPC SYSTEM−11(昭和電工社製)
溶離液:CF
3COONa 5mM/HFIP(ヘキサフロロイソプロパノール)
サンプルカラム:HFIP−800PおよびHFIP−80M×2本
リファレンスカラム:HFIP−800R×2本
ポリマー溶液:0.1wt%HFIPsol.、200μl
カラム温度:40℃ 流量 1.0ml/分 圧力 30kg/cm
2
検出器:Shodex RI
分子量スタンダード:PMMA(Shodex STANFARD M−75)
MFR(メルトフローレート)測定は、JIS−K−7210に準拠し、温度190℃、荷重2.16kgにて行った。
【0048】
Gel・FE(ゲル化、フィッシュアイ)の測定については、インフレーション成形により成形温度180℃で厚さ30μmのフィルムを成形し、50cm×50cmに切り出す。切り出したフィルムの中央30cm×30cm角の中のGel、FE(0.2mm以上)を目視により数える。0.2mm〜0.5mmのGel、FE10個分を0.5mm以上のGel、FE1個分と評価し、以下の式から5段階の評価とする。
Ns=(N×25)/T
T:フィルム厚み(μm)、N:0.5mm以上のGel、FEの数
評価1: Ns<1
2: 1≦Ns<3
3: 3≦Ns<10
4:10≦Ns<20
5:20≦Ns
【0049】
異物測定については、樹脂ペレット200g中の異物(黒点など)を目視により探索し、その大きさと数によりA〜Eランクに評価する。
A:0.1mm以下10個以下、0.1〜0.5mm5個以下、0.5mm以上1個以下
B:0.1mm以下20個以下、0.1〜0.5mm10個以下、0.5mm以上2個以下
C:0.1mm以下30個以下、0.1〜0.5mm20個以下、0.5mm以上3個以下
D:0.1mm以下31個以上、0.1〜0.5mm50個以下、0.5mm以上3個以下
E:0.1mm以下31個以上、0.1〜0.5mm51個以上、0.5mm以上4個以上
【0050】
[実施例1]
図1に示す製造フロー(混合槽7を除く。)に従って脂肪族ポリエステルを製造した。
(エステル化反応)
窒素雰囲気下、パドル翼を備えたジャケット付き縦型攪拌槽(エステル化槽3)に、1,4−ブタンジオール3589kg(39.8×10
3mol:グリコール過剰率104.4%)をグリコール貯槽タンク2から渦巻きポンプを使用して供給し、また計量ホッパー1からコハク酸4500kg(38.1×10
3mol)を、触媒供給用タンクからチタンテトライソプロポキシド810gを供給し、一括仕込みした。常圧下、145〜225℃の温度にて攪拌し、エステル化反応を行った。エステル化反応にしたがって生成する水を留出し、その留出液の量が1390kgを超えたところで、60mmHg(8000Pa)まで減圧し、1時間保持して、エステル化反応工程を終了し、反応液をリボン翼を備えたジャケット付き縦型攪拌槽(エステル交換反応槽4)に移送した。移送された反応液を225〜240℃の温度にて攪拌し、最終的に2mmHg(267Pa)以下にまで減圧し、10時間経過したところで、冷却を開始し、190℃に達した時点で減圧を解除し、窒素雰囲気下とした。その後、イルガノックス1010(BASF製:ヒンダードフェノール系酸化防止剤)を3.28kg添加し、さらに180℃まで冷却して亜燐酸を1.05kg添加して脱グリコール反応(エステル交換反応)を行った。GPC測定による平均分子量は10,600であった。
【0051】
(増粘反応工程)
前記エステル交換反応工程で得られた脂肪族ポリエステルプレポリマーを、180℃の温度にてギアポンプ(ポンプ11b)により、一定流量(3250kg/h)(総量6500kg)でスタティックミキサー6(ノリタケカンパニー製:2 1/2(4)−N10ES−532−2(WN))へ移送した。この時、配管10cは脂肪族ポリエステルプレポリマーで充満されており、配管中に空隙はない状態であった。その配管中に無脈動定量ポンプ(ポンプ11c)によりヘキサメチレンジイソシアネートを35.15kg/h(OH/NCO=1/0.68:総量70.3kg)で圧入し、スタティックミキサー6に移送した。スタティックミキサーにて混合を行い、増粘用反応槽8へ移送し、回転可能な限りヘリカルリボン翼で攪拌しながらさらに混合増粘反応を180℃で7時間実施した。
反応終了後ギアポンプにより押出機に移送しペレタイザー9によってペレタイズを実施し、高分子量脂肪族ポリエステルのペレットを得た。
この一連の重合操作を反応装置の分解、清掃を行うことなく、10回繰り返したときのMFRとGel、FEの実績値を表1に示す。
【0052】
[実施例2]
攪拌翼の無い増粘用反応槽8を用いて、当該反応槽内における反応を攪拌せずに行ったこと以外は実施例1と同様にして、高分子量脂肪族ポリエステルのペレットを得た。
[実施例3]
スタティックミキサー6から移送した脂肪族ポリエステルプレポリマーをさらに混合槽7に移送して混合攪拌を行った以外は実施例1と同様にして高分子量脂肪族ポリエステルのペレットを得た。混合槽7は3個の仕切板、4個の攪拌翼を備える。この時の攪拌翼の回転速度は100rpmであった。この場合の混合槽7を溶液が追加する時間は3分であった。
[実施例4]
攪拌翼の無い増粘用反応槽8を用いて、当該反応槽内における反応を攪拌せずに行った以外は実施例3と同様にして、高分子量脂肪族ポリエステルのペレットを得た。
【0053】
[比較例1]
比較例1の製造工程の概略を
図2に示す。エステル交換反応までは実施例1と同じである。比較例1では、スタティックミキサー6および混合槽7が存在せず、またジイソシアネート貯槽タンク5が配管10dを介して直接増粘用反応槽8に連絡している。
【0054】
比較例1では、エステル化反応工程とエステル交換反応を実施例1と同様に終了し、
図2に示されたフローにしたがって、得られた脂肪族ポリエステルプレポリマーを増粘用反応槽8に移送した(移送速度:3,000kg/hr、総量:6500kg)。移送完了後、所定量(70.3kg)のヘキサメチレンジイソシアネートを増粘槽の上部(気相部)から注入し、ヘリカルリボン翼により混合攪拌を実施し、180℃で8時間保持した後、ペレタイザー9によってペレタイズを実施し、高分子量脂肪族ポリエステルを得た。
なお、ここではジイソシアネート貯層タンク5にジイソシアネートを計量した後仕込み、これを窒素加圧して圧送した。(窒素の圧力を調整して移送できるため、ここではポンプを使用しなくても定量的にジイソシアネートを移送できる。)
この重合操作を10回繰り返したときのMFRとGel、FEの実績値を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
MFRの値は1g/10分を目標値とする。実施例は分散も少なく10回の平均値も比較的目標値に近い値となっているが、比較例では、分散が大きく、目標値から大きくずれている。特に、混合槽7を用いた実施例3,4では、標準偏差も小さく、MFRが十分制御されたものが得られていることが分かる。
さらに比較例では、Gel、FEおよび異物が重合回数を重ねるごとに悪くなっていく傾向にあり、このことからも連続で製造した場合、品質を保つことが難しいことがわかる。