(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示はポリマー組成物を提供する。ポリマー組成物は、(i)ポリマー成分、(ii)電圧安定化剤、及び、(iii)場合により他の添加物を含む。
【0016】
ポリマー成分には、熱可塑性材料及び/又は熱硬化材料(例えば、シリコーンゴムなど)が含まれ得る。ポリマー成分は架橋されてもよく、又は、非架橋であってもよい。好適な熱可塑性物の限定されない例には、ポリウレタン、ポリオレフィン、ポリアセタール、ポリカーボネート、ビニルポリマー、ポリアミド、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、セルロース系樹脂、ポリエステル、ポリエーテル、フルオロポリマー、及び、それらのコポリマー(例えば、オレフィン−ビニルコポリマー、オレフィン−アリルコポリマー、並びに、ポリエーテル及びポリアミドのコポリマーなど)が含まれる。ビニルポリマーの例には、ポリビニルクロリド、ポリビニルアセタート、ビニルクロリド/ビニルアセタートコポリマー、ポリビニルアルコール及びポリビニルアセタールが含まれる。
【0017】
架橋されたポリマー成分を使用することが所望されるとき、架橋を下記の限定されない手順の1つ又はそれ以上によって達成することができる:フリーラジカル架橋(すなわち、ペルオキシド架橋);放射線架橋(電子加速器、ガンマ線、高エネルギー放射線(例えば、X線など)、マイクロ波など);熱架橋、及び/又は、水分硬化架橋(すなわち、シラングラフト)。
【0018】
一実施形態において、ポリマー成分はポリオレフィンである。好適なポリオレフィンの限定されない例が、1つ又はそれ以上のC
2〜C
20α−オレフィンを含有するホモポリマー及びコポリマーである。本開示の目的のために、エチレンはα−オレフィンと見なされる。好適なα−オレフィンの限定されない例には、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン及び1−オクテンが含まれる。好適なポリオレフィンの限定されない例には、エチレン系ポリマー、プロピレン系ポリマー及びそれらの組合せが含まれる。「エチレン系ポリマー」又は「ポリエチレン」及び同様な用語は、エチレンに由来するユニットを少なくとも50モルパーセント(mol%)含有するポリマーである。「プロピレン系ポリマー」又は「ポリプロピレン」及び同様な用語は、プロピレンに由来するユニットを少なくとも50モルパーセント含有するポリマーである。
【0019】
一実施形態において、ポリマー成分はエチレン系ポリマーである。エチレン系ポリマーはエチレンホモポリマー又はエチレン/α−オレフィンインターポリマーであり得る。α−オレフィン含有量が、インターポリマーの重量に基づいて、約5wt%又は約10wt%又は約15wt%又は約20wt%又は約25wt%から50wt%未満又は約45wt%未満又は約40wt%未満又は約35wt%未満までである。α−オレフィン含有量は、Randall(Rev. Macromol. Chem. Phys., C29 (2&3))に記載される手順を使用して
13C−核磁気共鳴(NMR)分光法によって測定される。一般に、インターポリマーのα−オレフィン含有量が大きいほど、密度は小さくなり、かつ、インターポリマーは非晶質になり、このことは、保護絶縁層のための望ましい物理的性質及び化学的性質になる。
【0020】
α−オレフィンは、C
3〜20の線状α−オレフィン又は分岐型α−オレフィン又は環状α−オレフィンである。好適なC
3〜20α−オレフィンの限定されない例には、プロペン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン及び1−オクタデセンが含まれる。α−オレフィンはまた、3−シクロヘキシル−1−プロペン(アリルシクロヘキサン)及びビニルシクロヘキサンなどのα−オレフィンをもたらす環状構造(例えば、シクロヘキサン又はシクロペンタンなど)を含有することができる。用語の古典的意味でのα−オレフィンではないが、本開示の目的のために、ある種の環状オレフィン(例えば、ノルボルネン及び関連オレフィン(特に5−エチリデン−2−ノルボルネン)など)はα−オレフィンであり、上記で記載されたα−オレフィンの一部又はすべての代わりに使用することができる。同様に、スチレン及びその関連オレフィン(例えば、α−メチルスチレンなど)は本開示の目的のためのα−オレフィンである。好適なエチレン系ポリマーの限定されない例には、下記のコポリマーが含まれる:エチレン/プロピレン、エチレン/ブテン、エチレン/1−ヘキセン、エチレン/1−オクテン、エチレン/スチレン、エチレン−ビニルアセタート、エチレン−ビニルプロピオナート、エチレン−ビニルイソブチラート、エチレン−ビニルアルコール、エチレンメチルアクリラート、エチレン−エチルアクリラート、エチレン−エチルメタクリラート、エチレン/ブチルアクリラートコポリマー(EBA)、エチレン−アリルベンゼン、エチレン−アリルエーテル及びエチレン−アクロレイン;エチレン−プロピレン(EPR)ゴム又はエチレン−プロピレン−ジエン(EPDM)ゴム;天然ゴム;ブチルゴムなどが含まれる。
【0021】
好適なターポリマーの限定されない例には、エチレン/プロピレン/1−オクテン、エチレン/プロピレン/ブテン、エチレン/ブテン/1−オクテン、エチレン/プロピレン/ジエンモノマー(EPDM)及びエチレン/ブテン/スチレンが含まれる。コポリマー/インターポリマーはランダム型又はブロック型が可能である。
【0022】
エチレン系ポリマーは、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)及び/又は超低密度ポリエチレン(VLDPE)が可能である。本開示の実施において使用されるエチレン系ポリマーは単独で使用することができ、或いは、1つ又はそれ以上の他のエチレン系ポリマーとの組合せで使用することができ、例えば、「互いに異なる」2つ以上のエチレン系ポリマーのブレンド物で使用することができる。但し、この場合、「互いに異なる」により、これらのエチレン系ポリマーが、少なくとも1つの特性(例えば、モノマー/コモノマーの組成及び含有量、メルトインデックス、融解温度、分岐度、触媒的調製方法など)として普通でないことが意味される。エチレン系ポリマーが2つ以上のエチレン系ポリマーのブレンド物であるならば、これらのエチレン系ポリマーは、どのようなプロセスであれ、リアクター内プロセス又はリアクター後プロセスによってブレンドすることができる。リアクターには、同じ触媒を装荷することができ、しかし、リアクターを異なる条件(例えば、異なる反応物濃度、温度、圧力など)で運転することができ、又は、リアクターを同じ条件で運転することができ、しかし、リアクターには、異なる触媒を装荷することができる。
【0023】
高圧プロセスにより作製されるエチレン系ポリマーの例には、低密度ポリエチレン(LDPE)、エチレンビニルアセタートコポリマー(EVA)、エチレンエチルアクリラートコポリマー(EEA)及びエチレンシランアクリラートターポリマーが含まれる(しかし、これらに限定されない)。
【0024】
エチレン系ポリマーの限定されない例には、超低密度ポリエチレン(VLDPE)(例えば、The Dow Chemical Companyによって作製されるFLEXOMER(登録商標)エチレン/1−ヘキセンポリエチレン)、均一に分岐した線状エチレン/α−オレフィンコポリマー(例えば、Mitsui Petrochemicals Company LimitedによるTAFMER(登録商標)、及び、Exxon Chemical CompanyによるEXACT(登録商標))、均一に分岐した実質的線状エチレン/α−オレフィンポリマー(例えば、The Dow Chemical Companyから入手可能なAFFINITY(登録商標)ポリエチレン及びENGAGE(登録商標)ポリエチレン)、及び、エチレンブロックコポリマー(例えば、The Dow Chemical Companyから入手可能なINFUSE(登録商標)ポリエチレン)が含まれる。実質的線状エチレンコポリマーが、米国特許第5,272,236号、同第5,278,272号及び同第5,986,028号に記載される。
【0025】
電圧安定化剤
ポリマー成分に加えて、ポリマー組成物はまた、電圧安定化剤(又はVSA)を含む。「電圧安定化剤」は、本明細書中で使用される場合、電場にさらされるとき、ポリマー材に対する損傷を低下させる化合物である。VSAは、電子を捕捉又は不活性化して、絶縁材における電気トリーイングを阻害することができるか、又は、そうでない場合には、(欠陥部又は混入物の近くでの)大きい局在化された電場の効果的な遮蔽を提供し、それにより、ポリオレフィンに損傷を与え得る注入された電子のエネルギー及び/又は頻度を低下させることができると考えられている。VSAをポリマー成分とブレンドすることにより、トリーイングが阻害されるか、又は、そうでない場合には、トリーイングが妨げられる。特定の理論によって何らとらわれないが、VSAが、トリー開始点であるポリマー成分中の欠陥部を満たし、及び/又は、取り囲むと考えられる。欠陥部には、ポリマー成分に存在する空隙部及び/又は不純物が含まれる。
【0026】
一実施形態において、ポリマー組成物は、(i)ポリオレフィン、(ii)ジフェノキシベンゼンである電圧安定化剤、及び、(iii)場合により使用される添加物を含む。ジフェノキシベンゼンは下記の構造(I)を有する。
【化3】
【0027】
R
1〜R
14は同じ又は異なる。R
1〜R
14のそれぞれが、水素、C
1〜C
20ヒドロカルビル基、置換されたC
1〜C
20基、及び、それらの組合せから選択される。ヒドロカルビル基は置換されてもよく、又は、非置換であってもよい。
【0028】
本明細書中で使用される場合、用語「ヒドロカルビル」又は用語「炭化水素」は、水素原子及び炭素原子のみを含有する置換基であり、これには、分岐又は非分岐の、飽和又は不飽和の環状化学種、多環式化学種、縮合型化学種又は非環式化学種、及び、それらの組合せが含まれる。ヒドロカルビル基の限定されない例には、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルカジエニル基、シクロアルケニル基、シクロアルカジエニル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアリール基及びアルキニル基が含まれる。
【0029】
本明細書中で使用される場合、用語「置換されたヒドロカルビル」又は用語「置換された炭化水素」は、1つ又はそれ以上の非ヒドロカルビル置換基により置換されるヒドロカルビル基である。非ヒドロカルビル置換基の限定されない一例がヘテロ原子である。本明細書中で使用される場合、「ヘテロ原子」は、炭素又は水素とは異なる原子である。ヘテロ原子は、周期表のIV族、V族、VI族及びVII族に由来する炭素以外の原子が可能である。ヘテロ原子の限定されない例には、ハロゲン(F、Cl、Br、I)、N、O、P、B、S及びSiが含まれる。置換されたヒドロカルビル基にはまた、ハロヒドロカルビル基及びケイ素含有ヒドロカルビル基が含まれる。本明細書中で使用される場合、用語「ハロヒドロカルビル」基は、1つ又はそれ以上のハロゲン原子により置換されるヒドロカルビル基である。
【0030】
一実施形態において、ポリオレフィンはポリエチレンである。
【0031】
一実施形態において、ポリオレフィンは架橋ポリエチレンである。
【0032】
一実施形態において、R
1〜R
14の少なくとも1つがC
1〜C
20ヒドロカルビル基である。
【0033】
一実施形態において、R
1〜R
14のそれぞれが水素である。
【0034】
一実施形態において、ポリマー組成物は、約0.1wt%又は約0.2wt%から約3wt%又は約1wt%までのジフェノキシベンゼンを含有する。重量パーセントはポリマー組成物の総重量に基づく。
【0035】
本開示は、(i)ポリマー組成物、及び、(ii)ベンズアニリドであるVSA、及び、(iii)場合により使用される添加物から構成される別のポリマー組成物を提供する。ポリマー成分は、上記で開示されるようなポリマー成分であれば、どのようなものであってもよい。
【0036】
一実施形態において、ポリマー組成物はポリオレフィンを含み、かつ、VSAが、下記の構造(II)を有するベンズアニリドである。
【化4】
【0037】
R
1〜R
10は同じ又は異なる。R
1〜R
10のそれぞれが、水素、C
1〜C
20ヒドロカルビル基、置換されたC
1〜C
20ヒドロカルビル基、及び、それらの組合せから選択される。ヒドロカルビル基は置換されてもよく、又は、非置換であってもよい。
【0038】
一実施形態において、ポリオレフィンはポリエチレンである。
【0039】
一実施形態において、ポリオレフィンは架橋ポリエチレンである。
【0040】
一実施形態において、R
1〜R
10の少なくとも1つがC
1〜C
20ヒドロカルビル基である。
【0041】
一実施形態において、R
1〜R
10のそれぞれが水素である。
【0042】
一実施形態において、ポリマー組成物は、約0.1wt%から約3wt%までのベンズアニリドを含有する。重量パーセントはポリマー組成物の総重量に基づく。
【0043】
前記VSAは予想外にも、電気的絶縁破壊強さを、本発明のポリマー組成物を含有する絶縁層において改善する。電気的絶縁破壊強さにおける改善が、本明細書中下記に記載される実施例1及び実施例2において示される増大した絶縁破壊電圧において認めることができる。
【0044】
その上、本発明のVSAは、ポリオレフィンマトリックスにおける良好な溶解性、及び、低い遊走傾向を示す。本発明のVSAはまた、ポリオレフィン組成物の他の成分に関して効果的に利用することができ、また、架橋剤との適合性を有する。
【0045】
添加物
前記ポリマー組成物のどれもが、場合により、1つ又はそれ以上の添加物を含有することができる。好適な添加物の限定されない例には、酸化防止剤、安定剤、加工助剤、スコーチ防止剤及び/又は架橋ブースター(booster)が含まれる。酸化防止剤として、立体的ヒンダードフェノール又は立体的セミヒンダードフェノール、芳香族アミン、脂肪族の立体的ヒンダードアミン、有機ホスファート、チオ化合物及びそれらの混合物を挙げることができる。典型的な架橋ブースターには、ビニル基又はアリル基を有する化合物、例えば、トリアリルシアヌラート、トリアリルイソシアヌラート、及び、ジクリラート、トリアクリラート又はテトラアクリラートが含まれ得る。さらなる添加物として、難燃剤、酸掃去剤、無機フィラー、水トリー遅延剤(water-tree retardant)及び他の電圧安定剤を挙げることができる。
【0046】
「スコーチ防止剤」は、本明細書中で使用される場合、ポリマー組成物の押出し時におけるスコーチの形成を、当該化合物の非存在下で押し出される同じポリマー組成物と比較したとき、使用される典型的な押出し温度において低下させる化合物である。スコーチ防止特性の他に、スコーチ防止剤は、ブースティング(boosting)のようなさらなる効果、すなわち、架橋性能を架橋工程時において高めることを同時にもたらすことができる。
【0047】
ポリマー組成物は、本明細書中に開示される2つ以上の実施形態を含むことができる。
【0048】
被覆された導体
本開示は、本発明のポリマー組成物を含有する物品を提供する。一実施形態において、物品は、導体と、導体上の被覆物とを含む。これにより、被覆された導体が形成される。導体は単独のケーブル又は一緒に束ねられる複数のケーブル(すなわち、ケーブルコア又はコア)であり得る。被覆された導体は、柔軟、半剛体状又は剛体状であり得る。好適な被覆された導体の限定されない例には、柔軟な配線、例えば、家庭用電化製品のための柔軟な配線、電力ケーブル、携帯電話及び/又はコンピューターのための給電ワイヤ、コンピューターのデータ用コード、電源コード、電化製品配線材、並びに、家庭用電化製品の補助コードなどが含まれる。
【0049】
被覆物が導体上に位置する。被覆物は1つ又はそれ以上の内側層(例えば、絶縁層及び/又は半導電層など)であり得る。被覆物はまた、外側層(これはまた、「ジャケット」又は「シース」として示される)を含むことができる。被覆物は、本明細書中に開示されるような本発明のポリマー組成物のいずれかを含む。本明細書中で使用される場合、「上の(on)」は、被覆物と導体との間における直接的な接触又は間接的な接触を包含する。「直接的な接触」は、介在層及び/又は介在物が被覆物と導体との間に位置することなく、被覆物が導体に直に接触する形態である。「間接的な接触」は、介在層及び/又は介在構造物若しくは介在物が導体と被覆物との間に位置する形態である。被覆物は導体の全体又は一部を覆うことができ、或いは、他の場合には、導体を取り囲むことができ、又は包み込むことができる。被覆物は、導体を取り囲む唯一の構成成分であってもよい。代替において、被覆物は、金属導体を包み込む多層ジャケット又は多層シースの1層であってもよい。
【0050】
一実施形態において、被覆された導体は、本発明のポリマー組成物を含有する絶縁層を含む。
【0051】
一実施形態において、被覆された導体は、1kVを超える電圧、又は、6kVを超える電圧、又は、36kVを超える電圧で機能する電力ケーブルである。
図1は、金属性導体12、内側シールド層14、絶縁層16、外側シールド層18、巻かれたワイヤ又は導電性バンドの金属性スクリーン20、及び、最外層を、シース22とともに含む絶縁された電力ケーブル10を示す。
【0052】
一実施形態において、内側シールド層14及び/又は絶縁層16及び/又は外側シールド層18は、ポリエチレン及び構造(I)のジフェノキシベンゼンを含有するポリマー組成物から構成される。
【0053】
別の実施形態において、内側シールド層14及び/又は絶縁層16及び/又は外側シールド層18は、ポリエチレン及び構造(II)のベンズアニリドを含有するポリマー組成物を含有する。
【0054】
本発明の被覆された金属導体は、本明細書中に開示される2つ以上の実施形態を含むことができる。
【0055】
定義
本明細書中における元素周期表に対するすべての参照は、CRC Press,Inc.が2003年に発行し、著作権を有する元素周期表を参照しなければならない。同様に、族(1つ又はそれ以上)に対する参照はどれも、族を番号表記するためのIUPAC方式を使用してこの元素周期表に反映される当該族(1つ又はそれ以上)に対するものでなければならない。反することが述べられる場合、文脈から暗黙的である場合、又は、当分野において慣例的である場合を除き、すべての部及びパーセントが重量に基づく。米国特許実務の目的のために、どのような特許、特許出願又は刊行物であれ、本明細書中で参照される特許、特許出願又は刊行物の内容は本明細書により、とりわけ、合成技術、定義(但し、本明細書中に提供されるどのような定義とも矛盾しない程度に)、及び、当分野における一般的知識に関しては、それらの全体において参照によって組み込まれる(或いは、それらの同等な米国版が参照によって同様に組み込まれる)。
【0056】
本明細書中に列挙される数値範囲はどれも、少なくとも2単位の隔たりが、下限値(どのような下限値であれ)と、上限値(どのような上限値であれ)との間にあるならば、1単位の増分で、下限値から上限値までのすべての値を含む。一例として、成分の量、或いは、組成的性質又は物理的性質(例えば、ブレンド成分の量、軟化温度、メルトインデックスなど)の値が1〜100の間であると述べられるならば、すべての個々の値(例えば、1、2、3など)及びすべての部分範囲(例えば、1〜20、55〜70、197〜100など)が本明細書において明示的に列挙されることが意図される。1未満である値については、1単位は、適する場合には、0.0001、0.001、0.01又は0.1であると見なされる。これらは、具体的に意図されることの例にすぎず、列挙される最下限値と、列挙される最上限値との間の数値のすべての可能な組合せが本出願において明示的に述べられると見なされなければならない。別の言い方をすれば、本明細書中に列挙される数値範囲はどれも、述べられた範囲に含まれるどのような値又は部分範囲をも含む。様々な数値範囲が、本明細書中で議論されるように列挙されている(参照メルトインデックス、メルトフローレイト及び他の性質)。
【0057】
用語「アルキル」は、本明細書中で使用される場合、分岐又は非分岐の飽和した炭化水素基を示す。好適なアルキル基の限定されない例には、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、t−ブチル、i−ブチル(又は2−メチルプロピル)などが含まれる。アルキルは1個〜20個の炭素原子を有する。
【0058】
用語「アリール」又は用語「アリール基」は、本明細書中で使用される場合、芳香族炭化水素化合物に由来する置換基である。アリール基は合計で6個〜20個の環原子を有し、かつ、孤立しているか、又は縮合している1つ又はそれ以上の環を有し、かつ、アルキル基及び/又はハロ基により置換され得る。芳香族環には、とりわけ、フェニル、ナフチル、アントラセニル及びビフェニルが含まれ得る。
【0059】
用語「アリールアルキル」又は用語「アリールアルキル基」は、本明細書中で使用される場合、脂肪族構造及び芳香族構造の両方を含有する化合物である。用語「アリールアルキル基」には、「アラルキル基」(少なくとも1つのアリール基によって置換されるアルキル基)及び/又は「アルキルアリール基」(少なくとも1つのアルキル基によって置換されるアリール基)が含まれる。
【0060】
用語「ブレンド物」又は用語「ポリマーブレンド物」は、本明細書中で使用される場合、2つ以上のポリマーのブレンド物である。そのようなブレンド物は、(分子レベルで相分離しない)混和性であってもよく、又は混和性でなくてもよい。そのようなブレンド物は相分離してもよく、又は、相分離しなくてもよい。そのようなブレンド物は、当分野では公知である透過型電子顕微鏡観察、光散乱、X線散乱及び他の方法から求められるような1つ又はそれ以上のドメイン形態を含有してもよく、又は含有しなくてもよい。
【0061】
絶縁体の「絶縁破壊電圧」は、絶縁体の一部が電気的に伝導性になることを生じさせる最小電圧である。
【0062】
「ケーブル」及び同様な用語は、保護絶縁物、すなわち、ジャケット又はシースの内部にある少なくとも1つのワイヤ又は光ファイバーである。典型的には、ケーブルは、典型的には共通の保護絶縁物(ジャケット又はシース)の中に一緒に束ねられる2つ以上のワイヤ又は光ファイバーである。ジャケットの内側の個々のワイヤ又はファイバーはむき出しであり得るか、或いは、被覆又は絶縁され得る。組合せケーブルは電気ワイヤ及び光ファイバーの両方を含有し得る。ケーブルなどは、低電圧適用、中電圧適用及び高電圧適用のために設計することができる。典型的なケーブル設計が、米国特許第5,246,783号、同第6,496,629号及び同第6,714,707号に例示される。
【0063】
用語「組成物」は、本明細書中で使用される場合、組成物を構成する材料の混合物、同様にまた、組成物の材料から形成される反応生成物及び分解生成物を含む。
【0064】
「組成物」及び同様な用語は、2つ以上の成分の混合物又はブレンド物を意味する。
【0065】
用語「含む(comprising)」及びその派生形は、何らかのさらなる成分、工程又は手順が本明細書中に開示されるか否かによらず、何らかのさらなる成分、工程又は手順の存在を除外することが意図されない。何らかの疑念を避けるために、用語「含む(comprising)」の使用により本明細書中において主張されるすべての組成物は、反することが述べられる場合を除き、何らかのさらなる添加物、補助物又は化合物を、それらがポリマーであれ、又は、そうでないものであれ、含むことができる。対照的に、用語「から本質的になる(consisting essentially of)」は、その後に続く列挙がどのようなものであれ、その後に続く列挙の範囲から、何らかの他の成分、工程又は手順を、操作性にとって不可欠でないものを除いて除外する。用語「からなる(consisting of)」は、どのような成分、工程又は手順であれ、具体的に示されない、又は、具体的に列挙されない成分、工程又は手順を除外する。用語「又は、若しくは、或いは(or)」は、別途述べられる場合を除き、列挙された要素を個々に、同様にまた、任意の組合せで示す。
【0066】
「導体」は、エネルギーを任意の電圧(DC、AC又は一過性)で移動させるための細長い形状の要素(ワイヤ、ケーブル、ファイバー)である。導体は典型的には、少なくとも1つの金属ワイヤ又は少なくとも1つの金属ケーブル(例えば、アルミニウム又は銅など)であり、しかし、光ファイバーを含むことができる。
【0067】
「架橋(された)」、「硬化(した)」及び同様な用語は、ポリマーが物品に形状化される前又は形状化された後において、ポリマーが、架橋を誘導した処理に供されたか、又はさらされ、かつ、90重量パーセント以下のキシレン抽出分又はデカリン抽出分(すなわち、10重量パーセント以上のゲル含有量)を有することを意味する。
【0068】
「絶縁層」は、10
10ohm−cmを超える体積抵抗率、又は、10
12ohm−cmを超える体積抵抗率を有する層である。
【0069】
「層」は、本明細書中で使用される場合、導体を取り囲む、ポリマーに基づく層であり、例えば、電気絶縁層、半導電層、シース、保護層、水阻止層、又は、組み合わせられた機能を果たす層(例えば、導電性フィラーが加えられた保護層)である。
【0070】
用語「中電圧」は一般には、6kV〜約36kVの間の電圧を意味し、これに対して、「高電圧」は、36kVを超える電圧を意味し、「超高電圧」は一般には、220kVを超える電圧を意味する。当業者は、これらの一般的な電圧範囲が合衆国国外では異なり得ることを理解する。
【0071】
用語「ポリマー」は、同じタイプ又は異なるタイプのモノマーを重合することによって調製される巨大分子化合物である。「ポリマー」には、ホモポリマー、コポリマー、ターポリマー及びインターポリマーなどが含まれる。用語「インターポリマー」は、少なくとも2つのタイプのモノマー又はコモノマーの重合によって調製されるポリマーである。インターポリマーには、コポリマー(これは通常、2つの異なるタイプのモノマー又はコモノマーから調製されるポリマーを示す)、ターポリマー(これは通常、3つの異なるタイプのモノマー又はコモノマーから調製されるポリマーを示す)、及び、テトラポリマー(これは通常、4つの異なるタイプのモノマー又はコモノマーから調製されるポリマーを示す)などが含まれるが、これらに限定されない。
【0072】
「シールド層」は半導電性又は抵抗性であり得る。半導電性特性を有するシールド層は、90℃で測定されるとき、1000Ω−m未満又は500Ω−m未満の体積抵抗率値を有する。抵抗性特性を有するシールド層は、半導電性シールド層よりも大きい体積抵抗率値を有する。抵抗性特性を有するシールド層は典型的には、約10を超える誘電率を有する。
【0073】
試験方法
メルトインデックス(MI)が、エチレン系ポリマーについては、2.16kgの重りを用いて、190℃で、ASTM D1238−01の試験方法に従って測定される。
【0074】
限定によってではなく、例として、本開示の実施例が提供される。
【実施例】
【0075】
1.サンプル調製
ポリエチレンホモポリマー(0.92g/cc;MI 2.0g/10分)をBrabender混合ボールにおいて溶融流動化し、その後、電圧安定化剤を、十分な取り込みを保証するために目標のミックス温度及び30rpmで5分間、前記ポリエチレンに溶融配合する。ポリマー組成物を混合ボールから取り出し、厚さが0.25インチであるスラブに圧縮成形する。圧縮成形を、300psi〜500psiの圧力及び140℃の温度を3分間使用して達成し、その後、圧力を、サンプルを140℃でさらに3分間維持しながら2000psi超に増大する。その後、この高い圧力を、サンプルが冷える間、維持する。
【0076】
1インチ平方の試料片をスラブから打抜き、主軸の1つに沿って0.5インチの深さにまで事前に穴開けする。スチール製ニードル(60°の円錐、3ミクロンの先端半径)を、事前に穴開けされた穴に挿入し、高温での挿入を完了させるためにジグに取り付ける。ジグ全体を、105℃で1時間、循環式エアーオーブンにおいて状態調節し、その後、105℃のオーブンに入れたままにしながら、ニードルを、軟化させたポリマーの中に5分毎におよそ1mmの速度で進める。ニードルを、およそ1.9mmのポイント・ツー・プレーン(point-to-plane)距離をもたらす停止点にまで進める。
【0077】
一連の試料片を6kV(60Hz)の印加電圧への30分間の電圧付加に供し、その後、30分毎の1kVの印加電圧における増大を18kVの最大試験電圧に至るまで行う。それぞれの試料片についての絶縁破壊電圧を、近似されたワイブル破損分布の尺度パラメーターとしての特性電圧の評価のために記録する。
【0078】
実施例1は、140℃のミックス温度により調製される、(2wt%のアントラセンとモル等価な)2.9wt%のジフェノキシベンゼン(Sigma Aldrichから入手可能)を含有するLDPEである。
【0079】
実施例2は、190℃のミックス温度により調製される、(2wt%のアントラセンとモル等価な)2.2wt%のベンズアニリド(Sigma Aldrichから入手可能)を含有するLDPEである。
【0080】
比較サンプルAは、140℃の温度で混合される、電圧安定化剤を何ら含まないLDPEである。
【0081】
比較サンプルBは、225℃で配合される、電圧安定化剤を何ら含まないLDPEである。
【0082】
比較サンプルCは、225℃の温度で混合される、2wt%のアントラセンを含有するLDPEである。
【0083】
(比較サンプルA)
比較サンプルAの一連の18個の試料片が2−パラメーターのワイブル破損分布に対して近似される。データは、不良な相関(0.75のr
∧2)をもたらす著しい非線形性を示す。3−パラメーターのワイブル破損分布が、破損分布を記述するためにより良好に合うことが見出され(0.88のr
∧2)、この場合、オフセットt0=8.8kVである。11.7kVの3−パラメーター・ワイブル特性電圧が、
図2に示されるように、比較サンプルAについて求められ、この場合、90%信頼区間が10.7kVから13.7kVにまで及ぶ。
【0084】
(比較サンプルB)
ミックス温度に対する性能の何らかの影響を明らかにするための手段として、比較サンプルBは、上昇したミックス温度(比較サンプルAにおいて使用される140℃と比較して、225℃)により調製される11個の試料片の評価を含む。
図2に示されるように、3−パラメーターのワイブル分布(r
∧2=0.77)は、t0=8.5kVのオフセットとともに10.2kVの特性電圧(9.6kV〜11.4kVの90%信頼区間)をもたらす。この特性電圧は、上昇したミックス温度によってわずかに低下しているようであるが、差は統計学的に有意でない。しかしながら、このことは、比較サンプルAにより、特性電圧に対する潜在的改善を求めるための控え目なベースラインが、140℃〜225℃の間の温度で配合されたどの材料についても表されることをまさに示唆する。
【0085】
(比較サンプルC)
比較サンプルCは、225℃のミックス温度を使用して調製されている、2wt%のアントラセンを含有するLDPEである。8個の試料片を評価して、16.3kVの特性電圧(15.3kVから17.2kVにまで及ぶ90%信頼区間)を明らかにした。この特性電圧は比較例A及び比較例Bの特性電圧を十分に超えている。アントラセンは公知の電圧安定化剤であるので、この性能は予想と一致している。
【0086】
(実施例1)
実施例1の一連の7個の試料片が評価される。それにもかかわらず、7個中4個の試料片が、18kVの最大印加電圧を終える全試験プログラムに耐えた(LDPEサンプルはどれもが、18kVを終える全プログラムに耐えられなかった)。類似する3−パラメーター・ワイブル分布に対して近似されるとき(3つの破損は、言うまでもなく、完全な一致を達成する)、ほぼ47kVの特性電圧が推定される。より妥当な2−パラメーターモデル(r
∧2=0.94)を使用する場合、実施例1についての特性電圧が23.9kV(16.4kV〜51.3kVの90%信頼区間)であることが推定される。
【0087】
実施例1の下方信頼限界(16.4kV)を比較サンプルAの上方信頼限界(13.7kV)と比較することにより、本発明の組成物の電圧安定性質が示される。
【0088】
(実施例2)
実施例2は、190℃のミックス温度により調製される、(2wt%のアントラセンとモル等価な)2.2wt%のベンズアニリド(Sigma Aldrichから入手可能)を含有するLDPEである。8個の試料片が評価される。3つが18kVの最大電圧段階に耐えた。3−パラメーター・ワイブル分布(r
∧2=0.92)は29kVの特性電圧及びt0=9.8kVのオフセットをもたらし、この場合、90%信頼区間が13.5kVから77kVにまで及ぶ。
【0089】
比較サンプルA及び比較サンプルBに対する実施例2の改善された特性電圧性能が明らかである。実施例2と比較サンプルAとの控え目の比較により、90%信頼区間の間におけるわずかな重なりが示されるが、統計学的に有意な隔たりが、得られたデータによる90%信頼水準をちょうど下回るところで存在するであろうことが明らかである。
【0090】
有意な重なりが実施例2及び比較サンプルCの破損分布の間に存在するが、比較サンプルCからの試料片はどれも(8個中0個)が、18kVの最大試験電圧を終えるニードル試験の全継続期間に耐えられなかったことに留意しなければならない。しかしながら、実施例2の3個(8個中3個)が、18kVの最大試験電圧の間中、試験プロトコルに耐えた。
【0091】
比較サンプルAからの試料片はどれも(18個中0個)が、18kVの最大試験電圧の間中、試験プロトコルに耐えられなかった。
【0092】
従って、本発明の組成物、すなわち、実施例2は、比較サンプルA及び比較サンプルBの絶縁破壊強さを上回る増大した絶縁破壊強さをもたらすと結論することができる。
【0093】
本開示は、本明細書中に含まれる実施形態及び例示に限定されるのではなく、そのような実施形態の一部、及び、下記の請求項の範囲に含まれるような種々の実施形態の要素の様々な組合せを含むそのような実施形態の改変された形態を包含することが特に意図される。